特許第6800960号(P6800960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800960
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】炭窒化物マトリクス上の電極触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20201207BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20201207BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20201207BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20201207BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20201207BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20201207BHJP
   H01M 8/18 20060101ALN20201207BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20201207BHJP
【FI】
   B01J37/02 101E
   B01J37/08
   B01J35/08 B
   B01J27/24 M
   H01M4/88 K
   H01M4/90 Z
   H01M4/88 Z
   !H01M8/18
   !H01M8/10 101
【請求項の数】36
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-514836(P2018-514836)
(86)(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公表番号】特表2018-529516(P2018-529516A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】IB2016055728
(87)【国際公開番号】WO2017055981
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年4月5日
(31)【優先権主張番号】102015000055603
(32)【優先日】2015年9月28日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507315519
【氏名又は名称】ブレトン・エセ・ペ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィート ディ ノート
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ ネグロ
(72)【発明者】
【氏名】ケティ ベッツ
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ ベルターシ
(72)【発明者】
【氏名】グレイム ナウン
(72)【発明者】
【氏名】ルカ トンチェッリ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ ゼッジョ
(72)【発明者】
【氏名】ファビオ バッセット
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07687428(US,B1)
【文献】 特開2013−188644(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/157033(WO,A2)
【文献】 米国特許第08691716(US,B2)
【文献】 特開平05−129023(JP,A)
【文献】 特開2013−038032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 8/10
H01M 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒を作製するための方法であって、(i)前駆体を調製するステップと、(ii)前記前駆体を導電性支持体粒子の表面上に吸着して、コア−シェルシステムを得て、前記導電性支持体粒子が1つまたは複数の金属元素であるステップと、(iii)こうして得られた前記コア−シェルシステムに熱処理を適用して、コア−シェル電極触媒を得るステップと、(iv)こうして得られた前記コア−シェル電極触媒を活性化するステップとを含み、前記コア−シェル電極触媒が、電気化学的および/または熱的に活性化されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記電気化学的に活性化されることが、電気化学電位を印加するステップによって達成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気化学電位を増加および減少する少なくとも1回のサイクルが適用されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気化学電位を増加および減少する少なくとも1回のサイクルが、10から100サイクルで、適用されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記電気化学電位が、RHEに対して−1から2Vに線形増加し、RHEに対して2から−1Vに線形減少することを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記電気化学電位が、RHEに対して0.05から1.2Vに線形増加し、かつ、RHEに対して1.2から0.05Vに線形減少することを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
前記電気化学電位が、酸性または塩基性水溶液に印加されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記電気化学電位が、酸性または塩基性水溶液に、0から3のpHでまたは11から14のpHで、印加されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記酸性水溶液が、過塩素酸、硝酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸またはこれらの混合物を含有すること、および前記塩基性水溶液が、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムまたはこれらの混合物を含有することを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
不活性ガスが、前記酸性または塩基性水溶液中でバブリングされることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物が、前記酸性または塩基性水溶液中でバブリングされることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
前記不活性ガスが、水素のような還元ガス、または酸素、塩素もしくはこれらの混合物のような酸化ガスと共にバブリングされることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記電気化学電位が、10から90℃の温度で印加されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記熱的に活性化されることが、前記コア−シェル電極触媒を、極性液体で、最初に処理するステップと、その後乾燥するステップと、次いで400から1000℃の温度に加熱するステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記熱的に活性化されることが、前記コア−シェル電極触媒を、水溶液で、最初に処理するステップと、その後乾燥するステップと、次いで400から1000℃の温度に加熱するステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記熱的に活性化されることが、前記コア−シェル電極触媒を、極性液体で、最初に処理するステップと、その後乾燥するステップと、次いで850から900℃の温度に加熱するステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶液が、
(a)フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、過塩素酸、ギ酸、酢酸またはこれらの混合物のような少なくとも1つの酸;または水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、アンモニア、アミンまたはこれらの混合物のような少なくとも1つの塩基;および
(b)水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、ヒドラジンもしくはこれらの混合物のような少なくとも還元剤;または過酸化水素のような少なくとも酸化剤
を含有することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記乾燥するステップが、50から70℃で18から30時間、実施されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記乾燥するステップが、60℃で24時間、実施されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記前駆体がゾル−ゲル反応を通して調製され、前記ゾル−ゲル反応が、溶液Aを生成するステップであって、溶液Aが、水、有機架橋剤およびCl-、Br-、I-、NO3-およびClO4-から選択される良好な脱離基によって配位された遷移金属を含有する少なく
とも1つの錯体を含む、ステップと、溶液Bを生成するステップであって、溶液Bが、水および少なくとも1つのシアノメタレートを含む、ステップと、溶液Aおよび溶液Bを混合するステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記溶液Bが、有機架橋剤を更に含むことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記前駆体がゾル−ゲル反応を通して調製され、前記ゾル−ゲル反応が、溶液Aを生成するステップであって、溶液Aが、水、極性有機溶媒および少なくとも良好な脱離基によって配位された遷移金属を含有する少なくとも1つの錯体を含む、ステップと、溶液Bを生成するステップであって、溶液Bが、極性有機溶媒および窒素を含有する機能性基を保有する有機架橋剤を含む、ステップと、溶液Cを生成するステップであって、溶液Cが、水、極性有機溶媒および良好な脱離基によって配位された遷移金属を含有する少なくとも1つの錯体を含み、前記良好な脱離基が、Cl-、Br-、I-、NO3-およびClO4-から選択される、ステップと、溶液Aおよび溶液Bを混合するステップと、次いで、こうして得られた溶液を溶液Cと混合するステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記錯体が、HAuCl4、H2IrCl6、H2PtCl6、Li2PdCl4、(NH42IrCl6、(NH42OsCl6、(NH42PdCl4、(NH42PdCl6、(NH42PtCl4、(NH42PtCl6、(NH43RhCl6、(NH42RuCl6、KAuCl4、KPt(NH3)Cl3、K2PdCl4、K2PtCl4、K2PdCl6、K2PtCl6、K2ReCl6、K2RhCl6、K22IrCl6、K22OsCl6、K3IrCl6、K33RuCl6、Na2IrCl6、NaOsCl6、Na2PdCl4、Na2PtCl6、Na3RhCl6、CrCl3、IrCl3、FeCl3、NiCl2、OsCl3、PdCl2、PtCl2、PtCl4、RhCl3、RuCl3、ReCl5、SnCl4、VCl3、VCl4、WCl4、WCl6およびZrCl4から選択されることを特徴とする、請求項20または22に記載の方法。
【請求項24】
前記シアノメタレートが、KAg(CN)2、KAu(CN)2、K2Ni(CN)4、K2Pd(CN)4、K2Pt(CN)4、K3Co(CN)6、K3Cr(CN)6、K3Fe(CN)6、K3Mn(CN)6、K2Pt(CN)6およびK4Ru(CN)6から選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記有機架橋剤が、ブドウ糖、果糖およびガラクトースのような単糖;ショ糖、乳糖および麦芽糖のような二糖;ポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコール;またはこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記極性有機溶媒が、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドまたはこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記有機架橋剤が、窒素を含有する機能性基を付与されたもの、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾールまたはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記1つまたは複数の金属元素が、金、銅、ニッケル、亜鉛またはこれらの合金から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記導電性支持体粒子が、炭素またはグラフェンを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記導電性支持体粒子が、ナノ粒子、ナノシートまたはナノワイヤの形状を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
熱処理(iii)が、50から450℃の温度での第1のステップと、300から1250℃の温度での少なくとも第2のステップとを含み、第2のステップの温度が第1のステップの温度よりも高いことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記第1のステップが2から24時間続き、前記第2のステップが2から8時間続くことを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記加熱するステップが、不活性雰囲気中または真空下で実施されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記加熱するステップが、10-2から10-4barで実施されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記加熱するステップが、10-3barで実施されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記不活性雰囲気が、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物の雰囲気であることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好適な触媒活性部位に配位する、良好な電気伝導性を特徴とする炭窒化物マトリクス(CN)を含む電極触媒に関する。本発明の好ましい態様では、前述の炭窒化物マトリクスは、電極触媒の活性部位がその上に位置する、ナノ粒子またはナノ粒子の凝集体に配位する。本発明の好ましい形態では、炭窒化物マトリクスは、良好な電気伝導性を有する好適なコアを包含する。電極触媒は、好適な前駆体の熱分解が関与するプロセスを通して得られ、本発明の一態様では、調製プロセスは、特定のさらなるステップを必要とする。好ましい一態様では、ステップは、以下のうちの1つまたは複数を含む:化学処理、電気化学処理、さらなる熱分解プロセス。
【背景技術】
【0002】
典型的な電気化学変換および電気エネルギー貯蔵システム、例えば、一次および二次電池、燃料電池(FC)、電気分解装置(EL)、レドックスフロー電池(RFB)は、同じ基本構造を共有し、これは(a)実際の酸化還元(レドックス)プロセスが起こる2つの電極構成と、これを分離する(b)好適な電解質であって、イオン種(ただし電子ではない)の選択的移動を可能にし、試薬の混合を防ぐ電解質とからなる。
【0003】
電極構成は、エネルギー変換動作および貯蔵デバイスの動作において重要な役割を果たし、以下の主な機能を行う:(a)デバイスと外部負荷との間の電気的接触の創出、(b)電解質と各電極構成との間の境界面へ、およびそこからの電子の輸送、(c)デバイスの動作に関与するレドックスプロセスが効率よく行われ得る、好適な環境の創出。開放デバイス(例えば、FC、ELおよびRFB)の場合、電極構成は、外部環境と、電解質と電極構成との間の境界面との間の、試薬および反応生成物の容易な移動も可能にする必要がある。
【0004】
一般に、エネルギーの変換および貯蔵のための実用的なシステムの作動電位差は、特定のデバイスによって実施される電気化学プロセスに基づいて予想される、理論上の電位には相当しない。ほとんどの場合、この不一致は、3つの主な要因、すなわち:(a)電極構成の電気化学反応の動力学に帰すことができる損失、(b)抵抗損失、(c)電極コンパートメント中の試薬および生成物の輸送に帰すことができる損失に帰すことができる。これらの損失の絶対および相対量は、主に:(a)問題のデバイスによって使用される具体的な電気化学プロセス、(b)デバイスに含まれる機能的構成要素、(c)機能的条件、e(d)システムを通る電子の流れに依存する。
【0005】
多くの場合、電極構成中で生じる電気化学反応の動力学は、極めて遅い。その結果、それらは高い過電圧を生成し、このようなデバイスの効率は大いに低下する。例えば:(a)T<250℃での酸素還元反応(ORR)、(b)T>250℃での酸素発生反応(OER)(典型的には、低温で作動するELで生じる)、ならびに(c)T<250℃でのアルコールおよび他の有機小分子の電極酸化(典型的には、低温で作動する特定のFCで生じる)。損失を最小にし、実用化の要件と一致する性能レベルを達成するために、好適な電極触媒(EC)によって、上述の電気化学プロセスの動力学を加速する必要がある。
【0006】
ECにより、触媒材料の表面に位置する活性部位で生じる、目的の電気化学プロセスのターンオーバーを増加させることができる。ECは、目的の電気化学プロセスに関与するレドックス種と相互作用する。一般に、ECは、高い電気伝導性および大きな表面積によって物質的に特徴付けられ、電解質と良好なイオン接触を確立することが可能である。
【0007】
T<250℃で作動するFCの各電極構成は、通常、好適な電極触媒層で被覆された炭素をベースとする多孔性システム(例えば、カーボン紙または炭素織物)で構成される。炭素をベースとする多孔性システムは、以下の通りに製造される多層構造によって、しばしば特徴付けられる。試薬が、比較的大きな細孔によって特徴付けられる層(「マクロ孔層」)を通って、多孔性システムに入る。次いで、試薬は、非常に小さな細孔によって特徴付けられる、別の層(「ミクロ孔層」)によって、電極構成の全領域にわたって、均質に分布する。多孔性システムは、疎水性を調整するために、好適な処理(例えば、Teflon(登録商標)または類似のパーフルオロ化高分子での含浸)にかけられてもよい。これにより、(a)気体試薬を用いる電極構成におけるフラッディングを防ぐこと、および(b)液体試薬の吸収を促進することも可能になる。最後に、電極触媒層が、マイクロ孔層に適用される。電極触媒層は、ECおよび好適な結合配位子(または「配位子」)を含み、添加剤が、システムの親水性を規則化し、および/または電解質へ/からのイオンの輸送を容易にするために、添加されてもよい。
【0008】
T<250℃で作動する、FCにおいて用いられる最先端のECは、一般に金属、金属合金または高い電気伝導性および大きな表面積によって特徴付けられる活性炭コア上の酸化物のナノ粒子、例えばVulcan XC−72Rからなる。活性部位は、金属またはナノ粒子の表面上に位置し、その化学組成は用途に従って調整される。酸性電解質を有するFC、例えば、プロトン交換膜を有する燃料電池(PEMFC)、プロトン交換膜を有する高温燃料電池(HT−PEMFC)、およびリン酸燃料電池(PAFC)に最も好適なECは、他の金属と合金を形成して、特定の電気化学プロセスについてECの性能を改善する、および/または不純物への耐性を改善することができる、白金族金属(PGM)を含むナノ粒子を含む。例えば、(a)痕跡量のCOと共に夾雑した水素の電極酸化を促進するようにデザインされたアノードECは、Pt−Ru合金ナノ粒子を含み、(b)有機小分子(例えば、メタノール、ギ酸、エタノール)の電極酸化のためのアノードECでは、RuおよびRhと合金化されたPGMのナノ粒子が使用され、(c)酸素還元反応(ORR)のためのカソードECでは、第1遷移系列からの1つまたは複数の金属(例えば、Cr、Fe、CoおよびNi)と合金化されたPGMのナノ粒子が使用される。他方では、アニオン交換膜燃料電池(AEMFC)における適用のためのORR電極触媒では、PGMは必要とされず、代わりに、通常、Au、AgもしくはNi、または酸化金属のナノ粒子の表面上に存在する活性部位に依存する。
【0009】
電気分解装置(EL)の電極構成の主な特徴は、燃料電池の特徴と比較的類似している。しかしながら、ELでは、一般に、作動電位(通常、非常に高い)により炭素担持電極触媒を含む電極構成の採用が妨げられる。これらは採用してしまうと速い劣化を受けることになる。ELの電極構成は、一般に、NiおよびTiをベースとするメッシュ/フォームで構成され、ECは、非カーボン−ナノ粒子担持PGMをベースとする。
【0010】
変換および貯蔵システムの継続時間に関する仕様は、特定の用途に依存する。一般に、移動/携帯デバイスは、数千時間作動できる必要があり、一方、固定式システムは、数万時間のオーダーの耐久性を有す必要がある。エネルギーの変換および貯蔵のための典型システムは、連続的なまたは一定の負荷下では稼働しない。実際に、それらは、開始/停止サイクルから、および電極電位が急に増加する外部負荷の突然の変化からのストレスに耐えられる必要がある。後者は、エネルギー変換および貯蔵システムに含まれる全ての機能的構成要素、特に言及すると電極構成およびECの劣化を促進する。
【0011】
ECの劣化は、活性部位を担持するナノ粒子の焼結/凝集を通して生じ、その結果、ECの特定の活性領域が減少し、電気化学プロセスのターンオーバー頻度が減少する。担持ECでは、コアの劣化によって引き起こされる、材料の電気抵抗の増加により、性能はさらに低下し得る。この問題は、炭素をベースとするコアを含むEC、および酸化環境(例えば、FCのカソードコンパートメント中)において作動するECの両方に、特に関連する。
【0012】
高い電気化学性能を有する長継続時間のECは、好適な前駆体を熱分解に供することによって創出することができ、ここで、このような前駆体は、コアを含んでも、含まなくてもよい。ここで参照のために示す特許文献1は、ECを製造するための方法であって、単一の金属または複数の金属のいずれかで構成される炭窒化物をベースとする、制御された金属組成を有する材料の合成からなるステップを含み、合成ステップが、前駆体の調製、前駆体への好適な熱処理の適用、ECの活性化を想定する、方法に関する。
【0013】
前駆体がゾル−ゲル型反応によって調製される事象では、ステップは、(i)水および有機溶媒の両方を、有機結合剤およびハロゲン化物により配位された遷移金属を含有する少なくとも1つの錯体と共に含み得る溶液Aの調製と、(ii)水、有機結合剤および少なくとも1つのシアノメタレート錯体を含有する溶液Bの調製と、溶液AおよびBの混合とを含む。いずれも参照のために本明細書に組み込まれる、論文、非特許文献1および特許文献2には、金属の活性部位が炭窒化物マトリクス中に包み込まれ、これが次に、好適な電気伝導性のナノ粒子(コア)、例えば活性炭または金属ナノ粉末上に担持される、「コア−シェル」型のECが記載されている。コア−シェルECは、非特許文献2にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第8691716号明細書
【特許文献2】国際公開第2009157033号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Di Noto et al.Electrochimica Acta 55(2010)7564−7574
【非特許文献2】Di Noto et al.,ECS Meeting Abstracts(2014)# 1499
【非特許文献3】N.Ramaswamy et al.,Adv.Phys.Chem.2012(2012),Article# 491604
【非特許文献4】D.van der Vliet et al.,J.Electroanal.Chem.647(2010)29−34
【非特許文献5】Jia X.Wang et al.,Faraday Discuss.140(2008)347−362
【非特許文献6】T.J.Schmidt,H.A.Gasteiger,Handbook of Fuel Cells − Fundamentals,Technology and Applications(Eds:W.Vielstich,A.Lamm,H.A.Gasteiger),Vol.2,John Wiley,Hoboken,NJ 2003,pp.316−333
【非特許文献7】H.A.Gasteiger et al.,Appl.Catal.B−Environ.56(2005)9−35
【非特許文献8】V.Di Noto et al.,J.Power Sources 178(2008)561−574
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、良好な電子伝導性によって特徴付けられる、その中に触媒活性部位が包埋された炭窒化物マトリクスを含む電極触媒に関し、これをここから「EC」と称する。先行技術において一般に使用されるECは、コア−シェルモルホロジーに従って活性炭コア上に担持された炭窒化物マトリクス(シェル)中に包埋された、貴金属、例えば白金またはその合金のナノ粒子で構成される。機能性は、貴金属ナノ粒子の表面上に存在する活性電極触媒部位によって保証される。高い電気伝導性によって特徴付けられる活性炭担体(コア)により、活性部位を効率よく分散することが可能になり、炭窒化物マトリクスの金属ナノ粒子に結合した活性部位と外部回路との間の良好な電気的接触が確実になる。一般に、従来技術における電極触媒の調製のために使用される手順により、カーボンコア上に単純に吸着された金属ナノ粒子が生成される。そこにはナノ粒子とコアとの間の「強い」共有結合が存在しない。本発明に記載の材料は、ECのコアを特徴付ける機能性基との強い共有結合を形成する炭窒化物マトリクスを含むために、従来技術のものとは根本的に異なる。このような構造は必ずではないが、一般に、金属、合金、酸化物またはその他のナノ粒子である。この意味で、炭窒化物マトリクスは、「配位構造」によって活性部位をもたらすナノ粒子を「配位し」、後者は、マトリクス中に存在する窒素原子で主に構成される。活性部位とマトリクスとの間の強い共有結合の存在は、効率的に、長い間機能することが可能なECを得るために、極めて重要である。デバイス内(例えば、燃料電池内)で、作動条件において、従来技術によるECが稼働するとき、それは、様々な劣化プロセスを受ける。主な劣化プロセスは、以下の通りである:(1)金属ナノ粒子(活性部位を保持する)の排除、および(2)これらのナノ粒子の凝集。これらのプロセスは、ナノ粒子とコアとの間の相互作用の弱さによって促進される。本発明に記載の材料の場合のように、相互作用が強ければ、上記の劣化プロセスは阻害され、炭窒化物マトリクスをベースとするECは、より長い稼働時間によって特徴付けられるはずである。
【0017】
本発明の好ましい記載では、このような炭窒化物マトリクス(良好な電気伝導性によって特徴付けられる)は、大きな比表面積によって特徴付けられる好適な担体を包含する。好ましい担体としては、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、グラフェンシートならびに関連材料:(a)1つまたは複数の金属元素、および/または(b)酸化ケイ素、および/または(c)酸化チタンを含む、ナノ粒子/ナノシート/ナノワイヤが挙げられる。
【0018】
本発明の好ましい記載では、前記ECが、高い電気伝導性によって特徴付けられる好適な巨視的担体に適用され、ECおよび巨視的担体として公知の前述の2つの構成要素は、良好な電気的接触を有するようになる。好ましい巨視的担体としては、カーボン紙、炭素織物、炭素布および1つまたは複数の金属元素を含有する布/ワイヤ/フォームが挙げられる。今現在、結果として得られるシステムは、「電極構成」と称される。
【0019】
本発明により、電極構成とエネルギー変換および貯蔵デバイスの電解質との間の境界面の特性の変更が可能になる。本発明の好ましい一態様では、この境界面は、このようなエネルギー変換および貯蔵デバイスが機能するのに関与する特定の電気化学プロセスの動力学を選択的に促進することが可能である。
【0020】
本発明のさらに好ましい態様では、このような炭窒化物マトリクス(良好な電気伝導性によって特徴付けられる)は、所望の濃度のヘテロ原子、例えば、炭素、酸素、窒素、硫黄、リン、ヒ素、アンチモンおよびテルル、またはこれらの混合物を含み、ヘテロ原子の濃度は、ECの質量に対して、好ましくは、0より高く20重量%以下であり、最も推奨される範囲は、0.1から2%である。
【0021】
本発明のなおさらに好ましい態様では、前記炭窒化物マトリクス(良好な電気伝導性によって特徴付けられる)は、所望の化学組成、粒径、形状および分布を有する、1つまたは複数の種類のナノ粒子および/またはナノ粒子の凝集体に配位する。目的の電気化学プロセス(例えば、酸素還元反応)のための、本発明の活性部位は必ずではないが、通常、炭窒化物マトリクスによって「配位された」ナノ粒子の表面上に位置する。電極触媒機能性は、ナノ粒子の化学組成に依存するが、それらのサイズ、それらの形状(例えば、球状のナノ粒子の電極触媒活性は、特定のプロセス内で、立方体状のナノ粒子の電極触媒活性とは、たとえその両方が同じサイズであっても、異なる)、およびそれらの分散の程度(「粒子分布」)にも依存する。原理的には、異なる特徴(例えば、異なるサイズ)を有する、異なる種類のナノ粒子を含む電極触媒を合成することが有用であり得る。ナノ粒子は、互いに凝集して、極めて高い電極触媒活性を有するスポンジ様構造を形成することもできる。炭窒化物マトリクスは、活性部位と外部回路との間の電子の容易な輸送を確実にし、これによって、抵抗損失を最小にするように高い電気伝導性を有するべきである。「最良の」ナノ粒子のサイズは、特定の電気化学プロセスに依存する。一般に、サイズが3から50nm、好ましくは、3から15nmの間に入る範囲である場合に、最良の結果が得られる。
【0022】
本発明のなおさらに好ましい態様では、前記ナノ粒および/またはナノ粒子の凝集体は1つまたは複数の金属種を含む。
【0023】
本発明のなおさらに好ましい態様では、前記ナノ粒子および/またはナノ粒子の凝集体は、1つまたは複数の遷移金属元素を、水素、酸素、窒素、炭素、ホウ素、硫黄、リン、ケイ素、ヒ素、セレン、テルルおよびアンチモンから選択される、1つまたは複数の元素と共に含む。
【0024】
本発明のさらに好ましい態様では、前記ナノ粒子および/またはナノ粒子の凝集体の化学組成を制御して、前記ナノ粒子/ナノ粒子の凝集体が、前述のナノ粒子/ナノ粒子の凝集体のコアと同じ化学組成を有するようにも、有さないようにもできる。
【0025】
本発明は、前述のECの調製のために採用した手順を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本特許において特許請求する電極触媒の典型的な構造の図である。
図2】ハイブリッド無機−有機前駆体についての2つの典型的な調製スキームの図である。
図3】回転ディスク電極(RDE)上の層として堆積された電極触媒の酸素還元反応(ORR)についての電気化学性能の比較の図である;(a)実施例1で記述の通りに得られた「RDE層」、(b)実施例2に記載の通りに得られたRDE層。電解質:0.1M HClO4、掃引速度:20mV・秒-1、T=25℃、RDE回転速度=1600rpm。
図4】RDE層のORR性能の比較の図である。(a)および(b)実施例3に記載の通りに得られたRDE層、(c)実施例4に記載の通りに得られたRDE層。電解質:0.1M HClO4。掃引速度:20mV・秒-1、T=25℃、RDE回転速度=1600rpm。
図5】実施例5および実施例6に記載の通りに得られたRDE層のORR性能の比較の図である。掃引速度:20mV・秒-1、T=25℃、RDE回転速度=1600rpm。(a)電解質:0.1M HClO4、(b)電解質:0.1M KOH。
図6】触媒が気体拡散電極(GDE)上に堆積された、膜電極構造体(MEA)の性能の比較の図である。(a)実施例1に記載の通りに得られたGDEを保有するMEA、(b)実施例2に記載の通りに得られたGDEを保有するMEA。H2流速(アノード):1分当たり800mL(sccm)、O2流速(カソード)=500sccm、試薬流れ温度=85℃、試薬流れは相対湿度100%、試薬流れ圧力=65psig、セル温度=85℃。
図7】GDEを保有するMEAの性能の比較の図である。(a)および(b)実施例3に記載の通りに得られたGDEを保有するMEA、(c)実施例4に記載の通りに得られたGDEを保有するMEA。H2流速(アノード)=800sccm、O2流速(カソード)=500sccm、試薬流れ温度=85℃、試薬流れは相対湿度100%、試薬流れ圧力=65psig、セル温度=85℃。
図8】実施例1に記載の電気化学活性化プロセスの適用後のPtNi−CNl 900/Niのモルホロジーの発生の図である。(a)電気化学活性化プロセスの前、(b)電気化学活性化プロセスの後、(c)電気化学活性化プロセスの後のモルホロジーの詳細な図。
図9】実施例3に記載の電気化学活性化プロセスの適用後のPtNi−CNl 900/(Cu50+C50)のモルホロジーの発生の図である。(a)電気化学活性化プロセスの前、(b)電気化学活性化プロセスの後、(c)電気化学活性化プロセスの後のモルホロジーの詳細な図。
図10】実施例4に記載の電気化学活性化プロセスの適用後のPtNi−CNh 900/(Cu50)のモルホロジーの発生の図である。(a)電気化学活性化プロセスの前、(b)電気化学活性化プロセスの後、(c)電気化学活性化プロセスの後のモルホロジーの詳細な図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のなおさらに好ましい態様では、ハイブリッド無機−有機前駆体は、所望の金属の原子の、好適な分子または高分子架橋剤との配位によって得られる。配位は、炭素、水素、窒素、硫黄、リン、ヒ素、アンチモンおよびテルルを含む、好適なヘテロ原子によって行われる。好ましくは、配位は、分子または高分子架橋剤によって保持される窒素および/または酸素のヘテロ原子によって行われる。図2は、ハイブリッド無機−有機前駆体についての2つの典型的な調製スキームを示す。
【0028】
本発明によって特許請求される電極触媒調製において使用される前駆体は、以下の基本的な特徴を有する。
1.三次元架橋構造によって特徴付けられる高分子システムである。
2.2つの必須要素:(a)1つまたは複数の、「金属原子が好適な配位子によって配位されている化合物」、および(b)分子種のもの(例えば、サッカロース)または高分子種のもの(例えば、ポリアクリロニトリル、PAN)であり得る「有機架橋剤」からなる。
3.各「有機架橋剤」は、上で言及した「金属原子が好適な配位子によって配位されている化合物」と、少なくとも2つの強い共有結合を形成することができる。これは、有機架橋剤が、本発明による触媒の、架橋された前駆体の一部になることを意味する。
4.最後に、前駆体中に含まれる金属原子は、強い共有結合を通して架橋剤に化学的に結合している。前駆体中に含まれる各金属原子は、酸素または窒素原子によって前駆体に連結していることが好ましい。言い換えると、前駆体内で、金属原子は、前駆体中に含まれる酸素または窒素原子によって「キレート化」されていることが好ましい。
【0029】
このような前駆体は、図2に模式的に示すように、ならびにその両方が参照により本明細書に組み込まれる、特許文献2および非特許文献1の両方に開示されるように、2つの別個の合成プロトコルを通して得ることができる。
【0030】
プロトコル1により、HIO−PN種の前駆体、すなわちハイブリッド無機−有機ポリマーネットワークが生成される。この合成プロトコルでは、高分子架橋剤(例えば、ポリアクリロニトリル)が、好適な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド)中に溶解される。HIO−PN前駆体を得るために、架橋剤および所望の金属原子を含有する化合物は、同じ溶媒中に溶解される必要がある。このように、架橋剤および所望の金属原子を含有する化合物は、密に接触することになり、したがって互いに化学反応して、強い共有結合を形成することができる。一般に、架橋剤は、水に不溶であるが、好適な有機溶媒には可溶であり、逆に、金属原子を含む典型的な無機化合物(通常、硫酸塩、硝酸塩または金属塩化物をベースとする)は、ほぼ例外なく水溶性である。さらに、HIO−PN前駆体の調製は、通常、図2の右手側の概略図に示される、4つの他のステップを含む。
1)好適な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、図2のBを参照)中への架橋剤(例えば、ポリアクリロニトリル)の溶解
2)架橋剤について使用したのと同じ溶媒に可溶である、金属原子を含む化合物の調製(例えば、アセトニトリル−配位パラジウムまたはニッケル錯体の調製;これらの錯体は、ジメチルホルムアミドに可溶である;図2のAおよびCを参照)
3)ステップ(1)で得られた配位子を含有する溶液への、ステップ(2)で得られた化合物の添加、これに続く架橋プロセスから、HIO−PN型の前駆体が形成される。
4)例えば、蒸発によって、溶媒を除去する。あるいは、前駆体が不溶である第2の溶媒(通常、水)を添加することによって、HIO−PN前駆体を沈殿させることが可能であり、次いで、得られた固体生成物(前駆体)を、ろ過し、適宜洗浄する。
【0031】
プロトコル2により、Z−IOPE種(ゼオライト無機−有機ポリマー電解質)の前駆体が生成される。この合成プロトコルでは、2つの溶液を一緒に混合することによって、Z−IOPE前駆体が得られる。第1の溶液(図2のA)は、良好な脱離基(通常、塩化物)によって配位された金属原子の1つまたは複数の錯体および選択された分子架橋剤を含む。これらの金属原子は、高い分極率によって特徴付けられる軟質元素に属している必要があり、例えば、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Biである。架橋剤は高濃度のヒドロキシル基を有している必要があり、サッカロースが典型例である。第2の溶液(図2のB)は、シアノ、チオシアノまたはイソシアノ配位子によって配位された金属原子の1つまたは複数の錯体(例えばK2[Ni(CN)4]またはK3[Co(CN)6])ならびに選択された分子架橋剤を含む。
【0032】
2つの溶液AおよびBは、この時点で混合される必要がある。図2のA+Bから得られた反応混合物は単相であるはずである。一般に、AおよびBの両方に使用される溶媒は水についてのものであり、使用される架橋剤(サッカロースまたはポリエチレングリコール)は水に可溶であり、金属錯体は水に可溶である。試薬混合物(溶媒、所望の架橋剤および様々な金属錯体を含む)には、一連の複雑な化学平衡状態が発現する。導入された全ての金属を含む、シアノ/イソシアノ/チオシアノ基によって相互接続された、「アニオン錯体」、すなわち、負荷電錯体が、直ちに形成される。溶媒、架橋剤および錯体によって形成されるシステムは、「ゾル」として知られている。これらの錯体は、その後、選択された架橋剤の分子を介して架橋プロセスを受ける。試薬混合物(「ゾル」)の粘度は、十分に増加し、「ゾル−ゲル」転移が起こり、ゲルが生成される。架橋プロセスの後に、溶媒の漸進的な除去が続き、ゲルは可塑性の機械的特性を有する材料になる。この材料が、Z−IOPE前駆体である。
【0033】
本発明のなおさらに好ましい態様では、ハイブリッド無機−有機前駆体は、2つの試薬溶液を混合することによって得られる。第1の試薬溶液は、(a)水、高い誘電率を有する1つもしくは複数の溶媒、またはこれらの任意の組合せ、(b)高濃度の−OH基によって特徴付けられる、1つまたは複数の分子または高分子架橋剤(例えば、単糖、例えば、例えば、ブドウ糖、果糖およびガラクトース、二糖、例えば、サッカロース、乳糖および麦芽糖、ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールおよびその他)、ならびに(c)良好な脱離基(例えば、Cl-、Br-、I-、NO3-、ClO4-)によって配位された1つまたは複数の軟質金属種(例えば、Ru、Rh、Ag、Pd、Cd、In、Sn、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi)で構成される。後者の試薬溶液は、同じ溶媒および分子/高分子架橋剤を含有し、これは、二座配位子、例えば、シアノ、チオシアノまたはイソシアノの族によって配位された、1つまたは複数の遷移金属種または主族の種も含む。
【0034】
本発明のなおさらに好ましい態様では、ハイブリッド無機−有機前駆体は、1つまたは複数の試薬溶液を混合することによって得られる。試薬溶液は、(a)好適な溶媒、例えば、水、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドまたはこれらの任意の組合せ、および(b)このような溶媒に可溶である高分子(例えば、ポリアクリロニトリルまたはポリベンズイミダゾールファミリーに属す高分子のうちの1つ)で構成される。他の試薬溶液は、(a)上述の通りの好適な溶媒、ならびに(b)配位子、例えば、ハロゲン化物、アセトニトリルおよび硝酸塩によって配位された1つまたは複数の金属錯体を含む。
【0035】
本発明の好ましい一形態では、1つまたは複数の試薬溶液は、1つまたは複数の好適な担体も含む。好ましい担体は、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、グラフェンシートまたは類似の材料、1つまたは複数の金属元素を含むナノ粒子/ナノシート/ナノワイヤを含む。後者の群では、好ましい担体としては、金、銅、ニッケルおよび亜鉛またはこれらの合金のナノ粒子が挙げられる。他の担体としては、酸化ケイ素および酸化チタンのナノ粒子/ナノシート/ナノフォームが挙げられる。
【0036】
好ましくは、前述の担体の表面は、分子/高分子架橋剤として使用される種と同じ機能性基で機能化される。優先的には、表面上に存在する基は、以下の通りである:ヒドロキシル、ケトン、エーテル、カルボキシル、アミノ、アミド、シアノ、イソシアノおよびチオシアノ。
【0037】
好ましくは、全ての試薬溶液を混合することによって得られた混合物を、(例えば、撹拌またはチップ超音波処理によって)激しく均質化する。その後、本発明の一形態では、混合物の温度を制御し、典型的な温度は25℃から180℃の範囲の値である。好ましくは、混合物の温度は、12〜96時間、より好ましくは、72時間、一定に保たれる。
【0038】
前述の無機−有機前駆体は、前述の混合物から、試薬混合物に元々含まれていた溶媒を除去することによって得られる。本発明の好ましい形態では、溶媒は、25℃から190℃の範囲の温度で24時間、開放空気中での蒸発によって除去される。
【0039】
担体を含んでも、含まなくてもよい、先に言及した有機−無機ハイブリッド前駆体は、熱分解プロセスを受ける。好ましくは、熱分解プロセスは、ヘリウムもしくはアルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物の不活性雰囲気中、10mbar未満の圧力でまたは1barの圧力で、真空下で実施される。好ましくは、熱分解プロセスは、1つ超のステップを含み、それらの各々は、昇温で実施される。好ましくは、第1のステップは、100から400℃の間の温度で2から24時間の継続時間、実施される。好ましくは、第2のおよび後続のステップは、400から1000℃の間の温度で2から8時間の継続時間、実施される。本発明のなおさらなる態様では、熱処理は、不活性ガス、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素または二酸化炭素を、還元ガス、例えば、水素と混合することによって得られる還元雰囲気下で、実施され得る。
【0040】
本発明のなおさらに好ましい態様では、熱分解プロセスの生成物は、室温および室圧で、反応副生成物を除去することが可能な好適な液体による処理を受ける。より好ましくは、液体は水である。
【0041】
本発明のさらなる実施形態では、このような液体は、熱分解プロセスの生成物と反応して、「エッチング」プロセスを起こすことが可能な溶質を含む。好ましい溶質は、(a)酸、例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸およびヨウ化水素酸、(b)酸、例えば、硫酸および過塩素酸、(c)酸、例えば、ギ酸および酢酸、(d)塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム、(e)塩基、例えば、アンモニアおよびアミン、(f)還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、ヒドラジン、ならびに(g)酸化剤、例えば、過酸化水素である。
【0042】
本発明のなおさらなる形態では、前述の追加の処理および熱分解およびエッチングステップが実施され、各々が、それ自体の実験パラメータのセット(例えば、温度、圧力および液相の組成)によって特徴付けられる。
【0043】
前述の熱分解プロセス、ならびに実施される場合、エッチングおよび熱分解処理からなる後続のさらなるステップの生成物は、ECである。
【0044】
本発明の特定の形態では、ECは、高い電気伝導性によって特徴付けられる巨視的担体にわたって分散し得、これによって「電極構成」が生成される。好ましくは、高い電気伝導性によって特徴付けられる巨視的担体は、多孔性である。極めて好ましくは、高い電気伝導性によって特徴付けられる巨視的担体は、以下のシステム:(a)単/多重カーボン紙、炭素布または炭素織物、および(b)金属原子またはそれらの合金でできたメッシュまたはフォームからなる。
【0045】
好ましくは、ECと高い電気伝導性によって特徴付けられる巨視的担体との間の近密な接触を達成するために、結合剤が添加される。より好ましくは、結合剤は、最終エネルギー変換および貯蔵デバイスの電解質によって供給されるイオンの輸送を促進することが可能な高分子システムであり、プロトンを交換することが可能なパーフルオロ化高分子、例えば、Nafion(登録商標)、Hyflon−Ion(登録商標)、Aquivion(登録商標)およびポリベンズイミダゾールファミリーの高分子(例えば、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール])を含む。
【0046】
本発明の一態様では、ECまたは電極構成は、好適な電解質中への浸漬による、電気化学処理にかけられる。好ましくは、電解質は、強塩基または強酸を溶解する水からなる。より好ましくは、強塩基は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム、またはこれらの混合物を含む。なおより好ましくは、強酸は、過塩素酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、またはこれらの混合物を含む。
【0047】
本発明の好ましい一形態では、好適な気体が、電気化学処理の間に、電解質中に吹き込まれる。好ましくは、気体には、不活性種、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物が含まれる。好ましくは、気体には、還元剤、例えば、水素が含まれる。好ましくは、気体には、酸化剤、例えば、酸素、塩素またはこれらの混合物が含まれる。好ましくは、気体には、その全てが酸化または還元剤である、不活性種と混合された、1つまたは複数の種が含まれる。
【0048】
本発明の一形態では、このような電気化学処理が実施される温度は、10および90℃の範囲内に制御される。
【0049】
本発明の好ましい形態では、電気化学処理は、制御された電気化学電位を、ポテンショスタット/ガルバノスタットによって、外部から印加するステップにある。2つの種類の時間関連電位プロファイル:ポテンショスタティック(定電位)およびポテンショダイナミック(電位が、経時的に線形的に変化する)が存在する。好ましくは、ポテンショスタティックプロファイルは、継続時間が1から3600秒の間であり、一方、ポテンショダイナミックプロファイルは、1から200mV/秒の範囲の走査速度を有する。好ましくは、電気化学処理は、NHEに対して−1から2Vの間で実施される。
【0050】
本発明のなおさらなる態様では、1つ超の電気化学処理が実施され、各々は、それ自体のパラメータによって特徴付けられ、これらは先のステップにおけるのと同じであっても、なくてもよい。
【0051】
「電気化学処理」は、制御された電気化学電位(固定または経時的に可変のいずれであってもよい)を、ECまたは電極構成に印加するステップにある。電気化学処理の間、ECまたは電極構成は、適切な「電解液」(すなわち、イオン伝導が可能)に浸漬される。一般に、電解液は水性である。以下の実験パラメータが制御される。
・溶液のpH値。
・溶液の化学組成、解離したイオン種の存在に特に注意する。
・電気化学溶液中に吹き込まれる気体の化学組成。
・温度。
【0052】
電気化学処理の主な目的は、EC中に存在する特定の化学種の選択的除去を行うことである。例えば、実施例1に記載の通りに得られるECを取りあげる。熱分解処理、水で洗浄するステップ、および過酸化水素処理の後に、PtNi CNl−600/NiおよびPtNi CNl−900/Ni ECが得られる。これらのECは、炭窒化物マトリクスの薄層(数ナノメートル厚)中に包み込まれたニッケルコアで形成される。いずれのECにおいても、白金とニッケルとの間の化学量論係数は、1:100である。白金は、炭窒化物シェルとニッケルコアとの間の境界面付近に主に存在する。
【0053】
PtNi CNl−600/Ni電極触媒中には、2つの金属相:(1)コアのニッケル粒子、(2)1:1の白金対ニッケル比を有する合金が存在する。一方、PtNi CNl−900/Ni電極触媒は、コアのニッケル粒子と会合し得る、ただ1つの金属相を特徴とする。後者の材料では、白金原子は、ニッケルコア中に分散し、熱分解処理の間、それらは拡散作用によって浸透され、別個の相を形成しない。
【0054】
このようにして得られるEC(例えば、PtNi−CNl−600/NiおよびPtNi−CNl−900/Ni)は、活性炭と共に摩砕されて、良好な電気伝導性および多孔性によって特徴付けられる混合物を生成する。この混合物は、その後(1)RDE層(回転ディスク電極法を使用して「ex situ」特徴付けを行うため)、および(2)気体拡散電極(GDE)に適用される電極触媒層の製造のために使用され、これによって個々の燃料電池プロトタイプにおいて使用される電極構成が得られる。
【0055】
この時点で、得られたRDE層および電極触媒層は、酸性環境中で酸素還元反応を促進することができない。したがって、ECの電気化学活性化からなる適切な処理を進める必要がある。
【0056】
PtNi−CNl−600/NiおよびPtNi−CNl−900/Niのために提案される電気化学活性化処理には、電気化学電位の印加が関与し、これは、RHE(可逆的水素電極)に対して0.05から1.2Vにまず線形増加し、次いでRHEに対して1.2から0.05Vに線形減少する。電位の変化速度は、両方のステップにおいて同じであり、0.1V秒-1である。印加電位の増加および減少のこのサイクルは、サイクリックボルタンメトリー実験に従って数回繰り返される。この操作のおかげで、白金原子の表面濃度は増加し、後者は次いで、酸性環境中での酸素還元反応に有効な活性部位を形成し続ける。
【0057】
この電気化学活性化を受けたRDEおよび電極触媒層は、25℃で温度維持された、0.1M HClO4を含む水を含有する電解液に浸漬される。結果として、PtNi−CNl−600/NiおよびPtNi−CNl−900/Niについて提案される、電気化学活性化の間に使用される電解液のpHは1となり、電解液は、0.1M ClO4-アニオンを含み、これは後者が金属の表面上に吸着しないためである。
【0058】
特定数の電位変化サイクルの後、電解液およびそこに吹き込まれる気体の両方が変化する(純酸素から窒素に、およびその逆)。
【0059】
PtNi−CNl 600/NiおよびPtNi−CNl 900/Ni中に存在するニッケル原子は、電位がRHEに対して0.05から1.2Vの範囲であるとき、ニッケル金属原子(酸化数=0)から開始して、pH1、非配位アニオン(アニオン、例えば過塩素酸)を含有する25℃の水溶液の存在中で、ニッケルカチオン(酸化数=+2)に酸化される。これらのニッケルカチオンは、電気化学活性化処理の間に、ECから徐々に除去され、電解質溶液に溶解し、後者が置き換えられたとき、電極触媒によって排出されたニッケルは、システムから完全に除去される。酸化雰囲気の存在は、気体酸素の存在によって保証され、酸化プロセスを促進し、これらのプロセスは、次いで不活性雰囲気を形成する窒素の存在によって、減速する。
【0060】
同時に、活性化処理は、システム中の白金原子の存在にほとんど影響しない。事実、先の段落に記載の環境条件で、白金は酸化プロセスを受けず、金属白金の形態(酸化数=0)のままであり、これは、電解質溶液に溶解せず、代わりに、CNl 600/NiおよびPtNi−CNl 900/Ni電極触媒中に残る。
【0061】
その結果、提案される電気化学活性処理により、PtNi−CNl 600/NiおよびPtNi−CNl 900/Ni EC中に存在するNi原子の大部分が除去される。白金原子は、濃縮され、自然に再配置されて、スポンジモルホロジーによって特徴付けられる単離されたナノ粒子またはナノ粒子の凝集体が創出される。炭窒化物マトリクスは、提案される電気化学処理によって引き起こされる劣化を受けず、これは、ナノ粒子またはナノ粒子の凝集体に配位し、活性部位(ナノ粒子の表面上またはナノ粒子の凝集体中に存在する)と外部回路との間の良好な電気的接触を確実にし続ける。得られるナノ粒子またはナノ粒子の凝集体の表面積は大きく、すなわち、白金1グラム当たり数十平方メートルのオーダーである。
【0062】
提案される電気化学活性化は、EC中に元々存在するニッケル原子の100%を除去するわけではないことが、特記されるべきである。電気化学活性化プロセスの終了時、PtNi−CNl 600/NiおよびPtNi−CNl 900/Niは、およそ4:1のPt/Ni原子比によって特徴付けられるPt−Ni合金ナノ粒子と会合する異なる相を特徴とする。電気化学活性化処理によって得られるPt/Ni合金のナノ粒子の表面上の活性部位は、酸性環境において実施される酸素酸化反応において生じるものよりも高く、純白金ナノ粒子(比較例を参照)の表面上の類似の活性部位よりも優位に高い、電極触媒活性を有する。
【0063】
結論として、提案される電気化学処理により、酸性環境中での酸素還元反応に関して、明らかな活性を示さないシステム(すなわち、PtNi−CNl 600/NiおよびPtNi−CNl 900/Ni)が、(a)大きな表面積、(b)酸素還元反応での活性よりも本質的に高い活性を保証する化学組成を有する活性化ECに変化する。これらの性質は、燃料電池プロトタイプが動作条件において稼働する、ORRに関する優れた性能(いずれも、「ex situ」で決定される)に由来する(図3および図6を参照)。
【0064】
異なる化学組成を有するシステムは、活性化ECの性能を最適にするために、異なる電気化学活性化処理を必要とする。例えば、パラジウムを含有するシステム(実施例2を参照)の場合、電気化学活性化処理の間に使用される最大電位はRHEに対して0.8Vであり、より高い電位が使用される場合、パラジウムは酸化し、電解質溶液中に溶解し、結果として、こうして活性化されたECの性能は低下する。しかしながら、銅コアを含有するシステム(実施例3および4を参照)の場合、電気化学活性化処理の間に使用される最小電位は、RHEに対して0.5Vであり、より低い電位に達すると、酸化された銅が活性部位中に再析し、これによって活性が低下する。銅コアを含有するシステムの場合、また、電気化学活性化処理はRHEに対して0.9V以上に達さず、より高い電位に達すると、白金ナノ粒子が凝集し、これによって、電極触媒活性領域が減少する。
【0065】
電解液が、EC中に存在する化学種と反応し得る配位イオン(例えば、塩素)を含む場合、特定の化学種が溶解できる電位を変化させることが可能である。
【0066】
原理的には、これにより、電気化学活性化処理の生成物の特徴のより良好な管理を可能にすることができる。結果として、本発明の記載および特許請求の範囲は、電気化学活性化プロセスの実行の間に変化し得る、全ての異なる実験パラメータを考慮する。
【0067】
本発明は、以下の順序で実施される、4つの主なステップを通した電極触媒の調製を記載する。
1.前駆体の調製:前駆体は、適切な担体(コアとも呼ばれる)を含み得る
2.前駆体の熱分解処理、これは2つ以上の段階を含む
3.生成物の化学処理
3a.こうして得られた生成物の熱分解からなる、さらなるプロセス
4.生成物の電気化学活性化処理
ステップ1および2は、ECを得るために必須である。一般に、ステップ3および4は任意選択であり、「合成後処理」と称される。本発明の記載では、合成後処理は、具体的な順序に従って実施される:始めに、任意選択で追加の熱分解プロセスを交える、1つまたは複数の化学処理を実施し;電気化学活性化処理を、合成プロトコルの終了時に実施する。
【0068】
したがって、本発明は、何より先に、電極触媒を作製するための方法であって、(i)前駆体を調製するステップと、(ii)前駆体を導電性支持体粒子の表面上に吸着して、コア−シェルシステムを得るステップと、(iii)こうして得られた前記コア−シェルシステムに熱処理を適用して、コア−シェル電極触媒を得るステップと、(iv)こうして得られた前記コア−シェル電極触媒を活性化するステップとを含む方法に関する。
【0069】
本発明の一態様によると、コア−シェル電極触媒が、電気化学的および/または熱的に活性化され得る。
【0070】
特に、電気化学活性化は、電位を増加および減少する少なくとも1回のサイクル、好ましくは、10から100サイクルで構成され得る、電気化学電位を印加するステップによって実施される。本発明のさらなる態様によると、電気化学電位は、RHEに対して−1から2Vに線形増加し、RHEに対して2から−1Vに線形減少し、好ましくは、RHEに対して0.05から1.2Vに線形増加し、RHEに対して1.2から0.05Vに線形減少する。好ましくは、電気化学電位は制御されたシステムの温度が、10から90℃の範囲内に保たれている間に印加される。
【0071】
本発明のなおさらなる態様によると、電気化学電位は、酸性または塩基性水溶液に、好ましくは、0から3のpHで、または11から14のpHで、印加される。酸性水溶液は、過塩素酸、硝酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸またはこれらの混合物を含有してもよく、塩基性水溶液は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムまたはこれらの混合物を含有してもよい。
【0072】
本発明のなおさらなる態様によると、不活性ガス、好ましくは、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物が酸性または塩基性水溶液中にバブリングされ得る。特に、不活性ガスは、還元ガス、例えば、水素、または酸化ガス例えば、酸素、塩素もしくはこれらの混合物と共にバブリングされ得る。
【0073】
本発明のなおさらなる態様によると、熱的活性化には、コア−シェル電極触媒を極性液体、好ましくは、水溶液で最初に処理するステップと、その後乾燥するステップと、次いで、400から1000℃、好ましくは、850から950℃の温度に加熱するステップとを含み得る。乾燥するステップは、50から70℃で18から30時間、好ましくは、60℃で24時間、実施され得る。より詳細には、水溶液は、少なくとも1つの酸、例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、過塩素酸、ギ酸、酢酸またはこれらの混合物、少なくとも1つの塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、アンモニア、アミンまたはこれらの混合物、および少なくとも1つの還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、ヒドラジンもしくはこれらの混合物、または少なくとも1つの酸化剤、例えば、過酸化水素を含有し得る。
【0074】
本発明のなおさらなる態様(事例a)によると、前駆体は、溶液Aを生成するステップであって、溶液Aが、水、有機架橋剤および良好な脱離基によって配位された遷移金属を含有する少なくとも1つの錯体を含む、ステップと、溶液Bを生成するステップであって、溶液Bが、水、少なくとも1つのシアノメタレート、チオシアノメタレートまたはイソイアノメタレート、および場合によって有機架橋剤を含む、ステップと、溶液Aおよび溶液Bを混合するステップとを含むゾル−ゲル反応を通して調製され得る。
【0075】
本発明のなおさらなる態様(事例b)によると、前駆体は、溶液Aを生成するステップであって、溶液Aが、水、極性有機溶媒および少なくとも良好な脱離基によって配位された遷移金属を含有する少なくとも1つの錯体を含む、ステップと、溶液Bを生成するステップであって、溶液Bが、極性有機溶媒および窒素を含有する機能性基を保有する有機架橋剤を含む、ステップと、溶液Cを生成するステップであって、溶液Cが、水、極性有機溶媒および少なくとも1つの良好な脱離基によって配位された遷移金属を含有する少なくとも1つの錯体を含む、ステップと、溶液Aおよび溶液Bを混合するステップと、次いで、結果として得られた溶液を溶液Cと混合するステップとを含むゾル−ゲル反応を通して調製され得る。
【0076】
良好な脱離基は、好ましくは、CI-、Br-、NO3-およびClO4-のうちから選択される。一方、錯体は、好ましくは、HAuCl4、H2IrCl6、H2PtCl6、Li2PdCl4、(NH42IrCl6、(NH42OsCl6、(NH42PdCl6、(NH42PtCl4、(NH42PtCl6、(NH43RhCl6、(NH42RhCl6、KAuCl4、K2PtCl4、K2PtCl6、K2RhCl6、K22OsCl6、K3IrCl6、K33RuCl6、Na2Ircl6、NaOsCl6、Na2PdCl4、Na2RhCl6、CrCl3、IrCl3、FeCl3、NiCl2、OsCl3、PdCl2、PtCl2、PtCl4、RhCl3、ReCl5、SnCl4、VCl3、VCl4、WCl6およびZrCl4から選択される。シアノメタレートは、好ましくは、KAg(CN)2、KAu(CN)2、K2Ni(CN)4、K2Pd(CN)4、K2Pt(CN)4、K3Co(CN)6、K3Cr(CN)6、K3Fe(CN)6、K3Mn(CN)6、K2Pt(CN)6およびK4Ru(CN)6から選択される。極性有機溶媒は、好ましくは、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドまたはこれらの混合物から選択される。
【0077】
「事例a」において、有機架橋剤は、好ましくは、単糖、例えば、ブドウ糖、果糖およびガラクトース、二糖、例えば、サッカロース、乳糖および麦芽糖、ならびにポリマーが豊富な水酸化物(polymer−rich hydroxides)、例えば、ポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコール、またはこれらの混合物から選択される。「事例b」において、有機架橋剤は、窒素を含有する機能性基を付与されたもの、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾールまたはこれらの混合物である。
【0078】
本発明のなおさらなる態様によると、導電性担体粒子は、炭素またはグラフェン、酸化ケイ素または酸化チタン、金、銅、ニッケル、亜鉛、またはこれらの合金でできていてよい。特に、これらは、3から50nm、好ましくは、3から15nmの範囲のサイズを有する導電性担体粒子で構成され得る。このような、担体は、ナノ粒子、ナノシート、またはナノワイヤの形状を有し得る。
【0079】
本発明のなおさらなる態様によると、熱処理(iii)は、50から450℃の温度での第1のステップおよび300から1250℃の温度での少なくとも第2のステップを含む。第1のステップは2から24時間続き得、第2のステップは2から8時間続き得る。加熱するステップは、不活性雰囲気中または真空下で、好ましくは、10-2から10-4bar、より好ましくは、約10-3barで実施され得、好ましくは、雰囲気は、不活性種、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素またはこれらの混合物からなる雰囲気である。
【0080】
本発明は、上に記載の方法によって得ることができる電極触媒、ならびにそれらを含有する燃料電池または電気分解装置にも関する。
【0081】
以下の実施例は、本発明の非限定的な例示として提供される。
【実施例1】
【0082】
Niコア上のPtをベースとする電極触媒の調製
以下「A」と称する第1の試薬溶液を、K2PtCl4 400mgを最小量のmilli−Q水(およそ2mL)中に溶解し、サッカロース533mgを最小量のMilli−Q水(およそ1mL)中に溶解することによって得、次いで、結果として得られた溶液を「A」に添加する。50nmのサイズのニッケルナノ粒子2158mgを、「A」に添加し、結果として得られた懸濁液を、超音波プローブを用いて行う超音波処理によって均質化する。
【0083】
「B」と称する第2の試薬溶液を、K2PtCl4を使用しないことを除いて、「A」とまったく同じ方法で得る。代わりに、K2Ni(CN)4 332mgを、およそ30%の水和度で溶解する。
【0084】
「A」を、1滴ずつ、撹拌下に保たれた「B」に添加する。生成物を、24時間、撹拌下に保つ。その後、撹拌を停止し、生成物を48時間やすませる。最後に、60℃で24時間、空気中への蒸発によって、水を除去する。固体生成物がこうして得られ、これを以下、「C」と表す。
【0085】
Cを、以下に記載の通り、10-3barの動的真空下で、3段階の熱分解プロセスにかける:第1の段階は、120℃で8時間行い、第2の段階は300℃で2時間行い、第3の段階は600℃で2時間行う。
【0086】
熱分解プロセスの生成物を、乳鉢中で摩砕し、15分の継続時間、Milli−Q水での処理にかけ、処理後、液相を、遠心分離によって生成物から除去する。このプロセスを、2回以上繰り返す。
【0087】
得られた生成物を、15分の継続時間、10重量%の濃度の酸素飽和水でのさらなる処理にかける。このような処理後、液相を除去し、固相を乾燥し、これによって「PtNi−CNl 600/Ni」と呼ぶ固体生成物を生成する。
【0088】
真空下での熱分解プロセスの第3のステップが、900℃で2時間で得られることを唯一の違いとして、上記のものとまったく同様に、別の生成物を調製することができる。最終生成物を、「CNl PtNi−900/Ni」と呼ぶ。
【0089】
PtNi−CNl 600/Niを、重量比4:1で、Vulcan XC−72R活性炭と共に乳鉢中で摩砕して、黒色粉末を生成する。
【0090】
このような黒色粉末を、回転ディスク電極(RDE)への適用のための電極のためのインクの調製のために使用して、RDE層を生成する。このようなインクは、論文、非特許文献3に記載の手順に従って調製する。前述のインクによって得られるRDE層中へのPt付加量は15μg・cm-2である。
【0091】
前述の黒色粉末を、気体拡散電極(GDE)への適用のための電極のためのインクの調製のためにも使用する。このインクは、前述の黒色粉末を、Milli−Q水100μLおよびイソプロピルアルコール2mLを含む溶液に懸濁することによって調製し、溶液は、5重量%の分散率のNafion(登録商標)(プロトンを交換することが可能なパーフルオロ化高分子)も含む。
【0092】
結果として得られたインクを、超音波プローブを用いて行う超音波処理によって均質化し、GDE全体に分布させ、揮発性溶媒を、赤外線灯を用いて除去し、したがって、乾燥されたインクで被覆された電極(GDE)が結果として得られる。電極へのPt付加量は、0.1mg・cm-2であり、電極中のNafion(登録商標)と前述の黒色粉末との間の重量比は、0.15である。
【0093】
前述のRDE層で被覆されたRDEを、1600rpmで回転させ、25℃で温度維持された0.1M HClO4溶液中に浸漬する。予備処理ステップにおいて、純酸素を、1atmの圧力および10〜40sccm、好ましくは、20sccmの流速で、0.1M HClO4溶液中、およそ15分間、バブリングする。その後、RDEを、100mV・秒-1で、RHEに対して0.05から1.2Vに25回サイクルさせ、このような処理の間、純酸素を溶液中にバブリングする。前述のサイクルの終了時に、溶液を除去し、次いで、新しい0.1M HClO4溶液で置き換える。
【0094】
窒素を0.1M HClO4溶液中にバブリングすることを唯一の違いとして、予備処理ステップおよびサイクルさせるステップを繰り返す。
【0095】
2つの先の予備処理ステップおよびサイクルさせるステップを合計3回以上繰り返す。
【0096】
上記のものとまったく同じ予備処理ステップおよびサイクルさせるステップを含む手順を、電極層で被覆されたGDE上で実施する。
【0097】
PtNi−CNl 900/Niを、PtNi−CNl 600/Niについて既に記載のものと同じ手順に従って使用して、RDE層およびGDEを調製する。
【0098】
PtNi−CNl 900/Niを含有するRDEおよびGDE層を、PtNi−CNl 600/Niについて採用したのと同じ条件および同じサイクルにかける。
【実施例2】
【0099】
Niコア上のPtをベースとする電極触媒の調製
第1の試薬溶液(以下「A」と表す)を、K2PdCl4 555mgを最小量のmilli−Q水(およそ2mL)中に溶解し、サッカロース640mgを最小量のMilli−Q水(およそ1mL)に溶解することによって得、次いで、結果として得られた溶液を「A」に添加する。50nmのサイズのニッケルナノ粒子2592mgを、Aに添加し、結果として得られた懸濁液を、超音波プローブを用いた超音波処理によって均質化する。
【0100】
第2の試薬溶液(「B」と表す)を、K2PdCl4を溶解しないことを除いて、「A」とまったく同じ方法で得る。代わりに、K2Ni(CN)4 585mgを、およそ30%の水和度で、K3Co(CN)6 595mgと共に溶解する。
【0101】
Aを、1滴ずつBに添加し、この間Bを撹拌下に保つ。生成物を、数秒間撹拌し、次いで、撹拌を停止し、生成物を、空気中、室温で48時間やすませる。次いで、60℃で24時間、空気中への蒸発によって、水を除去する。固体生成物がこうして得られ、これを以下、「C」と表す。
【0102】
ECの調製のための全ての後続のステップは、実施例1におけるのとまったく同じである。「PdCoNi−CNl 600/Ni」および「PdCoNi−CNl 900/Ni」と表す、2つの生成物が得られる。PdCoNi−CNl 600/NiおよびPdCoNi−CNl 900/Niを得るために採用する第3の熱処理ステップは、継続時間が2時間であり、PdCoNi−CNl 600/NiおよびPdCoNi−CNl 900/Niについて、それぞれ、−600℃および900℃で、10-3barの動的真空で行う。
【0103】
PdCoNi−CNl 600/NiおよびPdCoNi−CNl 900/Niの各々を使用して、RDE層およびGDEを、実施例1で既に記載のものとまったく同じ方法で、得る。RDEおよびGDEを、サイクルをRHEに対して0.3から0.8Vの間で行ったことを唯一の違いとして、実施例1に記載のものと同じ予備処理ステップおよびサイクルさせるステップにかける。
【実施例3】
【0104】
架橋剤としてサッカロースを採用した、Cuコア上のPtをベースとする電極触媒の調製
第1の試薬溶液(「A」と表す)を、K2PtCl4 400mgを最小量のmilli−Q水(およそ2mL)中に溶解し、サッカロース533mgを、最小量のMilli−Q水(およそ1mL)に溶解することによって得、次いで、結果として得られた溶液を「A」に添加する。50nmの粒子サイズの銅ナノ粒子2171mgを、Aに添加し、結果として得られた懸濁液を、超音波プローブを用いた超音波処理によって均質化する。
【0105】
第2の試薬溶液(「B」と表す)を、K2PtCl4を溶解しないことを除いて、「A」とまったく同じ方法で得る。K2Ni(CN)4 332mgを、およそ30%の水和度で溶解する。
【0106】
「A」を、1滴ずつ、撹拌下に保たれた「B」に添加する。生成物を、24時間、撹拌下に保つ。その後、撹拌を停止し、生成物を、空気中、室温で48時間やすませる。次いで、60℃で24時間、蒸発によって、水を除去する。固体生成物がこうして得られ、これを「C」と表す。ECの調製のための全ての後続のステップは、実施例1のステップとまったく同じであり、唯一の違いは、それらに過酸化水素処理を実施しないことである。こうして、以下、「PtNiCNl600/(Cu50)」および「PtNi−CNl900/(Cu50)」と表す、2つの生成物が得られる。第3のステップにおいて、熱処理を採用し、これは、継続時間が2時間であり、PtNi−CNl900/(Cu50)およびPtNi−CNl600/(Cu50)それぞれについて、600℃および900℃で実施する。
【0107】
PtNi−CNl 600/(Cu50)およびPtNi−CNl 900/(Cu50)の各々を使用して、RDE層およびGDEを、実施例1で上記のものとまったく同じ方法で、得る。RDE層およびGDEを、サイクルをRHEに対して0.5から0.9Vの間で行ったことを唯一の違いとして、実施例1に記載のものと同じ予備処理ステップおよびサイクルさせるステップにかける。ちょうど、(PtNi−CNl 600/(Cu50)およびPtNi−CNl 900/(Cu50)についての上記のように、2つ以上のECが得られる。唯一の違いは、各試薬溶液AおよびB中に、さらなるVulcan XC−72R 533mgを添加することである。「PtNi−CNl 600/(Cu50+C50)」および「PtNi−CNl 900/(Cu50+C50)」と表す、2つの電極触媒が結果として得られる。
【0108】
PtNi−CNl 600/(Cu50+Cu50)およびPtNi−CNl 900/(Cu50+Cu50)の各々を使用して、RDE層およびGDEを、実施例1で上記のものとまったく同じ方法で、得る。唯一の違いは、Vulcan XC−72Rを添加しないことである。RDE層およびGDEを、サイクルをRHEに対して0.5から0.9Vの間で行ったことを唯一の違いとして、実施例1に記載のものと同じ予備処理ステップおよび同じサイクルさせるステップにかける。
【実施例4】
【0109】
架橋剤としてポリベンズイミダゾールを採用した、Cuコア上のPtをベースとする電極触媒の調製
第1の試薬溶液(「A」と表す)を、K2PtCl4 1112mgを最小量のmilli−Q水(およそ4mL)中に溶解することによって得、アセトニトリル25mLをAに添加し、溶液を、加熱プレート上でおよそ5mlに濃縮する。アセトニトリルの添加および蒸発プロセスを、3回繰り返す。
【0110】
第2の試薬溶液(以下、「C」と表す)を、K2PtCl4を溶解しないことを除いて、「A」とまったく同じ方法で、得る。Ni(NO322O 785mgを最小量のmilli−Q水に溶解する。アセトニトリル25mLをCに添加し、溶液を加熱プレート上でおよそ5mlに濃縮する。Aと同様に、アセトニトリルの添加および蒸発プロセスを3回繰り返す。
【0111】
第3の試薬溶液(以下、「B」と表す)を、26重量%のPBIで作製された市販のペースト7692mgを、T=100℃で、ジメチルアセトアミド50mL中に溶解することによって得る。次いで、50nmの粒径を有する銅ナノ粒子8140mgを、Bに添加し、結果として得られた懸濁液を、超音波プローブを用いた超音波処理によって均質化する。
【0112】
「A」を、1滴ずつ、撹拌下に保たれた「B」に添加する。その後、「C」を、1滴ずつ、撹拌下に保たれた、「A」と「B」とをブレンドすることによって得られた懸濁液に添加する。結果として得られた懸濁液を、超音波プローブを用いた超音波処理によって激しく均質化する。生成物を24時間、撹拌下に保つ。その後、撹拌を停止し、生成物を48時間やすませる。最後に、次いで、180℃で16時間、蒸発によって、ジメチルアセトアミドを除去する。固体生成物がこうして得られ、これを「D」と表す。
【0113】
ECの調製のための、全ての以下のステップは、実施例3に記載のステップとまったく同じであり、2つの生成物が得られ、「PtNi−CNh 600/(Cu50)」および「PtNi−CNh 900/(Cu50)」と表す。第3のステップにおいて、継続時間が2時間であり、それぞれ600℃および900℃で実施する熱処理を採用して、PtNi−CNh 600/(Cu50)およびPtNi−CNh 900/(Cu50)を得る。
【0114】
PtNi−CNh 600/(Cu50)およびPtNi−CNh 900/(Cu50)の各々を使用して、RDE層およびGDEを、実施例1で上記のものとまったく同じ方法で、得る。RDE層およびGDEを、サイクルさせるステップをRHEに対して0.5から0.9Vの間で行ったことを唯一の違いとして、実施例1に記載のものと同じ予備処理ステップおよびサイクルさせるステップにかける。
【実施例5】
【0115】
架橋剤としてサッカロースを採用した、Vulcan XC−72Rナノ粒子コアを有し、白金族金属(PGM)を有さない、Snをベースとする電極触媒およびFeをベースとする電極触媒の調製
第1の試薬溶液(「A」と表す)を、Sn(CH32Cl2 864mgを最小量のmilli−Q水(およそ4mL)中に溶解し、サッカロース2694mgを最小量のmilli−Q水(およそ4mL)中に溶解することによって得、次いで、結果として得られた溶液を「A」に添加する。次いで、Vulcan XC−72R 2753mgをAに添加し、結果として得られた懸濁液を、超音波プローブを用いた超音波処理によって均質化する。
【0116】
第2の試薬溶液(以下、「B」と表す)を、Sn(CH32Cl2を溶解しないことを唯一の違いとして、「A」とまったく同じ方法で得る。K4Fe(CN)63H2O 1628mgを代わりに溶解する。
【0117】
「A」を、1滴ずつ、撹拌下に保たれた「B」に添加する。生成物を数秒間撹拌し、その後、撹拌を停止し、生成物を48時間やすませる。次いで、60℃で24時間、蒸発によって、水を除去する。固体生成物が得られ、これを以下、「C」と表す。
【0118】
Cを、以下に記載の通り、10-3barの動的真空下で、3段階の熱分解プロセスにかける:第1の段階は、120℃で実施し、継続時間が8時間であり、第2の段階は300℃で実施し、継続時間が2時間であり、第3の段階は900℃で実施し、継続時間が2時間である。
【0119】
熱分解プロセスの生成物を、乳鉢中で摩砕し、15分の継続時間、Milli−Q水での処理にかけ、処理後、液相を、遠心分離によって生成物から除去する。このプロセスを、2回以上繰り返す。Milli−Q水中での処理の生成物を、2時間、Milli−Q水中、10重量%のフッ化水素酸で作製された溶液でのさらなる処理にかける。次いで、生成物を水で洗浄し、換気ストーブ中、60℃で24時間乾燥し、次いで、900℃で2時間、10-3barの動的真空下で処理する。電極触媒が得られ、これをFe2Sn−CNl 900/(C50)と表す。
【0120】
Fe2Sn−CNl 900/(C50)を使用して、電極触媒の総濃度が300μg・cm-2であることを唯一の違いとして、実施例1で上記のものと同じ手順に従って、RDE層を調製する。Vulcan XC−72Rは、Fe2Sn−CNl 900/(C50)に添加しない。
【0121】
前述の層で被覆されたRDEを、1600rpmで回転し、25℃で温度維持された0.1M HClO4溶液に浸漬する。1回の予備処理ステップにおいて、純酸素を、0.1M HClO4溶液中に、1atmの圧力、10〜40sccm、好ましくは、20sccmの流速で、およそ15分間バブリングする。その後、RDEを100mV・秒-1で、RHEに対して0.05から1.2Vに25回サイクルさせ、前述のサイクルさせるステップの間、純酸素を溶液中にバブリングする。前述のステップの終了時に、溶液を除去し、次いで、新しい0.1M HClO4溶液で置き換える。
【0122】
0.1M HClO4溶液中に窒素をバブリングすることを唯一の違いとして、先の予備処理ステップおよびサイクルさせるステップを繰り返す。
【0123】
先の酸素予備処理ステップおよびサイクルさせるステップを繰り返す。
【0124】
先の記載のものとまったく同一である、さらなるRDE層を調製する。前述のRDE層で被覆されたRDEを、1600rpmで回転し、25℃で温度維持された0.1M KOH溶液に浸漬する。1回の予備処理ステップにおいて、純酸素を、0.1M KOH溶液中に、1atmの圧力、10〜40sccm、好ましくは、20sccmの流速で、およそ15分間バブリングする。次いで、RDEを100mV・秒-1で、RHEに対して0.05から1.2Vに25回サイクルさせ、前述のサイクルさせるステップの間、純酸素をバブリングする。前述のサイクルさせるステップの終了時に、溶液を除去し、次いで、新しい0.1M KOH溶液で置き換える。0.1M KOH溶液中に窒素をバブリングすることを唯一の違いとして、先の予備処理ステップを繰り返す。
【0125】
0.1M KOH溶液中に純酸素をバブリングすることを唯一の違いとして、先の予備処理ステップを繰り返す。
【実施例6】
【0126】
架橋剤としてサッカロースを採用した、Vulcan XC−72Rナノ粒子コアを有し、白金族金属(PGM)を有さない、Feをベースとする電極触媒の調製
第1の試薬溶液(「A」と表す)を、FeCl3 498mgを最小量のmilli−Q水(およそ1mL)中に溶解し、サッカロース1805mgを最小量のmilli−Q水(およそ2mL)中に溶解することによって得、次いで、結果として得られた溶液をAに添加する。Vulcan XC−72R 1862mgをAに添加し、結果として得られた懸濁液を、超音波プローブを用いた超音波処理によって均質化する。
【0127】
第2の試薬溶液(以下、「B」と表す)を、FeCl3を溶解しないことを除いて、「A」とまったく同じ方法で得る。K4Fe(CN)63H2O 2525mgを代わりに溶解する。
【0128】
サンプル、RDE層およびGDE層の調製のための以下のステップは、実施例5で既に記載のステップとまったく同じである。サンプルを、「FeFe2−CNl 900/(C50)」と呼ぶ。
【実施例7】
【0129】
(比較)
実施例1〜6に記載のRDEおよびGDE層は、以下のように、酸素還元反応(ORR)におけるそれらの性能を決定することによって特徴付けられる。
【0130】
RDE上に堆積される各RDE層を、25℃で温度維持された好適な電解質中に浸漬する。RDEを、1600rpmで回転し、電解質を通してバブリングする1barの純酸素で、20mV・秒-1でサイクルさせる。サイクルさせるステップを、ボルタモグラムが安定になるまで続け、次いで、電位を増加させながら走査を記録する。抵抗補正を以下の参考文献に記載の手順に従って行う:非特許文献4。
【0131】
次いで、測定を1barの純窒素で実施することを唯一の違いとして、手順を、RDE層上で繰り返す。
【0132】
ORRに帰すことができる電流を、以下の参考文献に記載の通り、1barの純酸素により得られたデータから1barの窒素により得られたデータを減算することによって得る:非特許文献5。
【0133】
ORRの反応電流を、以下の参考文献に記載の通り、ORRに帰すことができる電流から得る:非特許文献6。
【0134】
実施例1〜6に記載の通りに得られたRDE層を、電解質として0.1M HClO4溶液を使用して、酸性環境中で特徴付ける。この場合、サイクルさせるステップを0.05から1.1Vで実施する。
【0135】
実施例5〜6に記載の通りに得られたRDE層を、電解質として0.1M KOH溶液を使用して、アルカリ性環境中で特徴付ける。この場合、サイクルをHg/HgOに対して−0.95から0.11Vで実施する。
【0136】
酸性環境中での、ORR中のPGMを含むRDE層(実施例1〜4)の性能を、以下の参考文献に基づいて、RHEに対して0.9Vで決定した反応電流を比較することによって測定する:非特許文献7。
【0137】
全ての他の場合において、ORR性能を、電極電位を100μAのORR反応電流と比較することによって評価する。
【0138】
RDE層が示すORRの比較を、表1に示す実施例1〜4に記載の通りに得る。
【0139】
【表1】
【0140】
実施例5〜6に記載の通りに得られたRDE層のORR性能の比較を、表2に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
PGMを含む電極層で被覆された各GDE(実施例1〜4)を使用して、膜電極構造体(MEA)を製造する。
【0143】
各MEAは、以下の構成要素を含む:
(1)Pt/Cと表す、20重量%のPtおよびNafion(登録商標)で構成された、参照の市販のECを含む炭素電極層で被覆された多重カーボン紙を含む、アノード電極。Pt濃度は、0.4mg・cm-2であり、Nafion/C重量比は0.6である。
(2)以下の論文に記載の通りに処理された、Nafion 117(商標)プロトン伝導膜(およそ180μmの厚さによって特徴付けられ、このような膜は、プロトンを交換することが可能なパーフルオロ化高分子からなる):非特許文献8。
(3)実施例1〜4に記載の通りに得られたGDE。(a)重量比1:1で、Vulcan XC−72Rに分散させた、10重量&のPtを有する、参照の市販のPt/C EC、(b)Pt濃度は0.1mg・cm-2であり、Nafion/C重量比率は0.6である、Nafion(登録商標)イオノマーを含む層電極で被覆した追加のGDEを調製した。構成要素(l)〜(3)を、ホットプレスによって合わせる。
【0144】
各MEAを、以下の通り、作動条件下で試験する。アノードでのH2流速:800sccm、アノードでのO2流速:500sccm、試薬ガス流れ温度:85℃、両方の試薬ガス流れの相対湿度は100%であり、試薬流れ圧力は65psigであり、セル温度は85℃である。
【0145】
実施例1〜4に記載の通りに得られたGDEを保有するMEAの性能を、1kWの電力を得るために必要な、カソードに存在するPGMの量に基づいて評価する。各MEAについて、表3に、最小値および0.7Vのセル電位で決定した値の両方を示す。
【0146】
【表3】
【0147】
現時点では、ここに記載のECおよび電極構成は本発明の好ましい態様であると思われるが、当業者であれば、他のおよびさらなる態様が、本発明の精神から遠く離れることなく、達成され得ることを理解する。これらのさらなる修正例および変更例の全てが以下に示す特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
図1
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図10