特許第6800970号(P6800970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イタルファルマコ ソシエタ ペル アチオニの特許一覧

特許6800970物理的および化学的に安定なギビノスタットの経口懸濁液
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800970
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】物理的および化学的に安定なギビノスタットの経口懸濁液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/27 20060101AFI20201207BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20201207BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20201207BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   A61K31/27
   A61K9/107
   A61K47/26
   A61K47/10
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61K47/36
   A61P31/18
   A61P43/00 111
   A61P25/00
   A61P29/00
   A61P35/00
   A61P21/02
   A61P19/02
   A61P7/02
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-522990(P2018-522990)
(86)(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公表番号】特表2019-501116(P2019-501116A)
(43)【公表日】2019年1月17日
(86)【国際出願番号】IB2016056496
(87)【国際公開番号】WO2017077436
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年5月20日
(31)【優先権主張番号】102015000068150
(32)【優先日】2015年11月3日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】591279294
【氏名又は名称】イタルファルマコ ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】ITALFARMACO SOCIETA PER AZIONI
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ コロンボ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルタ アルティコ
(72)【発明者】
【氏名】パオロ マスカーニ
(72)【発明者】
【氏名】マリア ヴァルメン モンツァーニ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア プッチアンティ
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−512869(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/113013(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 7/00
A61P 19/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩、少なくとも一の湿潤剤、少なくとも一の密度付与剤、少なくとも一の緩衝剤、および少なくとも一の懸濁化剤を含み、前記湿潤剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポロキサマー、またはそれらの混合物であり、前記密度付与剤がスクロース、ソルビトールまたはそれらの混合物であり、前記緩衝剤がリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液または酒石酸緩衝液であり、前記懸濁化剤がトラガカントガムまたはキサンタンガムである、水性懸濁液。
【請求項2】
ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩が、0.1% w/vから20% w/vまで、好ましくは0.2%から10% w/vまで、より好ましくは0.3%から5% w/vまでの量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の懸濁液。
【請求項3】
ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩が、200μm未満、好ましくは100μmから1μmまで、より好ましくは50μmから5μmまでの平均粒子径を有する粒子の形態で存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の懸濁液。
【請求項4】
記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが、ポリソルベート20およびポリソルベート80から選択され、より好ましくはポリソルベート20であることを特徴とする、請求項に記載の懸濁液。
【請求項5】
前記少なくとも一の湿潤剤が、0.00025% w/vから2% w/vまで、好ましくは0.0005%から0.5% w/vまで、より好ましくは0.001%から0.2% w/vまでの量で存在することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項6】
前記少なくとも一の密度付与剤が、5% w/vから70% w/vまで、好ましくは10%から60% w/vまで、より好ましくは20%から50% w/vまでの量で存在することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項7】
記緩衝剤が、酒石酸緩衝液であることを特徴とする、請求項1に記載の懸濁液。
【請求項8】
前記少なくとも一の緩衝剤が、0.05% w/vから5% w/vまで、好ましくは0.1%から2.5% w/vまで、より好ましくは0.5%から2% w/vまでの量で存在することを特徴とする、請求項に記載の懸濁液。
【請求項9】
前記少なくとも一の懸濁化剤が、0.01% w/vから5% w/vまで、好ましくは0.05%から2% w/vまでの量で存在することを特徴とする、請求項に記載の懸濁液。
【請求項10】
記懸濁化剤が、トラガカントガムであることを特徴とする、請求項1に記載の懸濁液。
【請求項11】
経性および精神性疾患、癌、炎症性疾患、HIV/AIDS、または脊髄性筋萎縮症疾患治療用の、請求項1〜10のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項12】
身型若年性特発性関節炎、真性多血症、本態性血小板血症、白血病、骨髄腫、骨髄繊維症、ドゥシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィーおよび他の形態の筋ジストロフィーからなる群から選択される疾患治療用の、請求項11に記載の懸濁液。
【請求項13】
哺乳類、特にヒトに投与されることを特徴とする、請求項11または12に記載の疾患治療用懸濁液。
【請求項14】
経口投与されることを特徴とする、請求項13に記載の疾患治療用懸濁液。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の懸濁液を調製するための方法であって、
a)水、少なくとも一の密度付与剤、および少なくとも一の懸濁化剤を含む分散ビヒクルを準備するステップと;
b)少なくとも一の湿潤剤を含む水性溶液中にギビノスタットを前分散させるステップと;
c)懸濁液を得るために、前記前分散液を前記分散ビヒクルに添加するステップと;を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与に適した、ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩および/またはその誘導体の物理的および化学的に安定な製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)はヒストン上のε−N−アセチルリシンアミノ酸からアセチル基を除去する酵素の一種である。これは、DNAがヒストンのまわりに巻き、DNAの発現がアセチル化および脱アセチル化によって制御されるので、重要である。
【0003】
HDAC阻害剤(HDACi)は、アセチル化に関係する非ヒストンタンパク質に作用する。HDACiはこれらの分子のアセチル化度を変えることができ、したがって、それらの活性を増強または抑制する。HDACiは、例えばバルプロ酸などの、気分安定薬および抗てんかん薬として、精神科および神経科において使用されてきた長い歴史を有する。最近では、それらは抗腫瘍薬および抗炎症薬として研究されている。
【0004】
腫瘍細胞において、HDACiは細胞増殖を阻害し、細胞死および分化を誘導する(非特許文献1)。
【0005】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、免疫担当細胞側のサイトカインおよび他の炎症促進性因子の産生を調節することもまた可能であり、in vivoにおいて、抗炎症特性を示した(非特許文献2、非特許文献3)
【0006】
現在臨床試験段階にあるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の一部は、それらのほかの類似体と共に、以下の特許文献:特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11および特許文献12に記載されている。これらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0007】
最近、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(ゾリンザ、ボリノスタット)が皮膚T細胞性リンパ腫の治療のために承認された。ゾリンザはカプセルの形態であり、経口投与される。
【0008】
ギビノスタット(当初はITF2357と呼ばれていた)は特許文献13(無水形態)および特許文献14(一水和物結晶形)に記載されており、どちらも参照により本明細書に組み込まれる。特許文献15は、ギビノスタットの筋ジストロフィー治療用途を記載している。ギビノスタットは経口活性ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤である。
【0009】
リポ多糖(LPS)刺激培養ヒト抹消血単核細胞(PBMC)において、ITF2357は、10から22nMまでの濃度で腫瘍壊死因子α(TNFα)の放出を、12nMの濃度で細胞内インターロイキンIL−1βの放出を、12.5から25nMまでの濃度でIL−1βの分泌を、および25nMの濃度でインターフェロン−γ(IFNγ)の産生を、50%減少させた。マウスに対する1.0から10mg/kgまでのITF2357の経口投与は、LPS誘導血漿TNFαおよびIFNγを50%以上減少させた(非特許文献4)。
【0010】
ギビノスタットは多数のフェーズIIの臨床試験中であり(再発白血病および骨髄腫を含む)、欧州連合において、全身型若年性特発性関節炎および真性多血症の治療用の、最近はドゥシェンヌ型筋ジストロフィーの治療用の、稀少疾患用薬(オーファンドラッグ)の承認を受けた。それは単独で、あるいは他の薬剤と組み合わせて使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2004/092115号
【特許文献2】国際公開第2005/019174号
【特許文献3】国際公開第2003/076422号
【特許文献4】国際公開第2006/010750号
【特許文献5】国際公開第2006/003068号
【特許文献6】国際公開第2002/030879号
【特許文献7】国際公開第2002/022577号
【特許文献8】国際公開第1993/007148号
【特許文献9】国際公開第2008/033747号
【特許文献10】国際公開第2004/069823号
【特許文献11】欧州特許出願公開第0847992号
【特許文献12】国際公開第2004/071400号
【特許文献13】国際公開第97/43251号
【特許文献14】国際公開第2004/065355号
【特許文献15】国際公開第2013/114413号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Gaofeng Bi and Guosheng Jiang in Cellular & Molecular Immunology 3,285−290(2006)
【非特許文献2】Frederic Blanchard and Celine Chipoy in Drug Discovery Today 10,197−204(2005)
【非特許文献3】IM Adcock in British Journal of Pharmacology 150,829−831(2007)
【非特許文献4】Flavio Leoni et al.in Molecular Medicine 11,1−15(2005)
【非特許文献5】Handbook of Pharmaceutical Excipients,sixth edition(2009)
【非特許文献6】Handbook of pharmaceutical salts,P.Stahl,C.Wermuth,WILEY−VCH,127−133,2008
【非特許文献7】“Pharmaceutical Dosage Forms,Disperse Systems”,Volume 1,edited by H.A.Lieberman,M.M.Rieger,and G.S.Banker,1988 by Marcel Dekker,New York and Basel
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
固形投与製剤は、薬物の経口投与のための最も一般的な形態である。それらが提供する多数の利点にも関わらず、多くの患者は、嚥下困難のために、錠剤、カプセル、粉末などの、いくつかの現在使用されている投与形態の服用が困難であると訴えている。これは高齢者および小児患者に特に当てはまる。加えて、化学療法の治療を受けている患者は吐き気を催し嘔吐することがあり、これは従来の錠剤およびカプセルの投与を困難にする。
【0014】
特許文献1、特許文献2および特許文献3は、以下の任意の経路:経口投与、全身投与(例えば、経皮、経鼻または直腸)、または非経口投与、好ましくは経口または非経口経路により、医薬組成物として投与され得るヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を記載している。しかし、経口懸濁液製剤の特定の製剤態様は扱われておらず、そのような製剤のいかなる製造の説明も提供されていない。
【0015】
特に、先行技術において、ギビノスタットの経口懸濁液製剤の特定の製剤態様は報告されておらず、そのような製剤のいかなる製造の説明も提供されていない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語、表記および他の学術用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されている意味を有することが意図される。場合によっては、明瞭にするために、および/またはただちに参照できるように、一般的に意味が理解されている用語が本明細書で定義されている;したがって、本明細書にそのような定義が含まれていることが、当技術分野において一般に理解されている定義を超えて実質的な相違を表すと解釈されるべきではない。
【0017】
本明細書の枠組み内および後述の特許請求の範囲において、他に指示される場合を除き、数量(amounts)、分量(quantities)、百分率等を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語が前にあるものとして理解されるべきである。また、数量的要素の全ての範囲は、以下に具体的に示される数値に加えて、最大および最小の数値の全ての可能な組み合わせ、およびそれらの全ての可能な中間的範囲を含む。
【0018】
本明細書中の「生理学的に許容可能な賦形剤」という用語は、それ自体のいかなる薬理効果もなく、哺乳類、好ましくはヒトに投与された場合に不利な反応を起こさない物質を意味する。生理学的に許容可能な賦形剤は当技術分野において周知であり、例えば非特許文献5に開示されており、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0019】
本明細書中の「薬学的に許容可能な塩または誘導体」という用語は、塩化または誘導体化される化合物の生物学的有効性および特性を有し、哺乳類、好ましくはヒトに投与された場合に不利な反応を起こさないような塩または誘導体を意味する。薬学的に許容可能な塩は無機塩または有機塩でもよい;薬学的に許容可能な塩の例は、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、およびパラ−トルエンスルホン酸塩を含むが、これらに制限されるものではない。薬学的に許容可能な塩に関するさらなる情報は、非特許文献6から入手でき、参照によって本明細書に組み込まれる。薬学的に許容可能な誘導体は、エステル、エーテルおよびN−オキサイドを含む。
【0020】
「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含有する(containing)」という用語は、非限定的な用語(すなわち、「含むが、これに制限されない」)と解釈されるべきであり、「から本質的になる(consist essentially of、consisting essentially of)、「からなる(consist of、consisting of)」としての用語も支持すると見なされるべきである。
【0021】
「から本質的になる(consist essentially of、consisting essentially of)」という用語は、半限定的な用語として解釈されるべきであり、本発明の基礎的かつ新規な特徴に重大な影響を及ぼす他の成分を含まないことを意味する(したがって任意の賦形剤は含んでもよい)。
【0022】
「からなる(consists of、consisting of)」という用語は、限定的な用語として解釈されるべきである。
【0023】
本発明の目的のために、「w/v」という表記は、懸濁液全体(毎100mL)の体積に対する、言及された化合物の重さ(g)を示すことを意図する。
【0024】
本発明の目的のために、「湿潤剤(wetting agent)」という用語は、例えば、固体粒子と液体キャリアの間の界面張力および接触角を減らすことにより、疎水性材料の好適な濡れを促進する物質を示すことを意図し、例えば非特許文献7において開示されている。
【0025】
本発明の目的のために、「懸濁化剤(suspending agent)」という用語は、粘度を与え、および/または保護コロイドとして作用する結果、安定な分散液を与え、例えば非特許文献7において開示されているように、粒子の沈降および凝集を抑制する物質を示すことを意図する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明者らは驚くべきことに、ある特定の賦形剤を用いることによって、ITF2357の経口投与可能な液体懸濁液が得られ、それは物理的に安定、化学的に安定であり、口内で口当たりがよく、したがって患者の服薬順守(コンプライアンス)を改善することを見出した。
【0027】
懸濁液は分散された二相系であり、その中で、第一の相(「内」相)、すなわち固体粒子は、液体ビヒクルなどの第二の相(「連続」または「外」相)に分散されている。それ自体は、当然ながら熱力学的に不安定であり、例えば凝集、沈降、結晶成長、およびケーキングを経ることにより、エネルギー的により安定な状態に戻ろうとする。懸濁液は、液体または半固体の媒体に分散された固体粒子を含む。懸濁液が熱力学的に不安定であるので、分散された粒子は、表面積を減らすために凝集および/または沈降する傾向にある。
【0028】
懸濁粒子の粒子径は沈降速度に影響し、特に粒子径の減少は、ストークスの式:
【0029】
【数1】
【0030】
により説明されるように、懸濁粒子の沈降速度の低下をもたらす。ここで、Vは沈降の速度(cm/s)であり、dは粒子の直径(cm)であり、ρ1およびρ2は懸濁粒子および媒体またはビヒクルの密度であり、gは重力加速度であり、ηは媒体またはビヒクルの粘度である。粉砕およびふるい分けなどの工程は、粒径の低減を達成すること可能にする。
【0031】
分散粒子の沈降を最低限にし、沈降粒子のケーキングを防ぐために、いわゆる「凝集制御(controlled flocculation)」アプローチが最も一般的に用いられている。凝集懸濁液において、粒子はお互いにゆるく結合して綿状沈殿物(または綿状の塊)を形成し、それは網状構造にまとまっている。凝集粒子はしたがって、弱く結合している。そのため、それらは凝結物(cake)を形成せず、容易に再分散される。「凝集剤(Flocculating agents)」、例えば電解質、界面活性剤およびポリマーは、綿状沈殿物をもたらすことができる。
【0032】
医薬懸濁液を製剤化する際に考慮されなれければならないさらなる主要因は、以下のものである:
・ 粒子は低い界面張力を有しなければならず、外相により容易に湿潤化されなければならない。これは通常、界面活性剤を用いることにより達成される。
・ 媒体の粘度が大きいほど、沈降は遅くなる(ストークスの式により)。
【0033】
それにも関わらず、どの賦形剤が懸濁液の安定化に成功するかは予測できるものではなく、賦形剤の選択は懸濁液の物理的および化学的安定性に極めて重要である。
【0034】
発明者らは、驚くべきことに、ある特定の賦形剤を用いることにより、ギビノスタットの経口投与可能な水性懸濁液が得られ、それが物理的および化学的に安定であることを見出した。これは、医薬製剤の工業的生産および流通に不可欠な要求である。
【0035】
より具体的に、第一の態様によれば、本発明は、ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩および/またはその誘導体、少なくとも一の湿潤剤および/または少なくとも一の密度付与剤を含む、水性懸濁液に関する。
【0036】
本発明の組成物は、化学的に安定であり、口当たりがよいという利点を有する。錠剤またはカプセルに関して、嚥下困難が生じる場合に、本発明の組成物は患者の服薬順守(コンプライアンス)を促進させる。
【0037】
本発明の第二の態様は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤に応答するあらゆる疾患の治療用の、ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩および/またはその誘導体の前記懸濁液に関する。
【0038】
本発明の第三の態様は、ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩および/またはその誘導体の前記懸濁液の調製方法に関する。
【0039】
精製水に対するITF2357の溶解度は約2.5mg/mLである。予想されるように、ITF2357はpH依存性溶解度プロファイルを示し、アルカリ条件では最も低い溶解度を示す。例えば、pH2、4.5、6および8のリン酸緩衝液におけるITF2357の溶解度は、それぞれ約1.13、2.88、0.77および0.05mg/mLである。したがって、例えば0.02から0.3% w/vまでの濃度を有する、経口投与を目的とした、ITF2357の水溶液を調製することが技術的に可能である。しかし、ギビノスタットの低い溶解度のために、有効な薬物投与量の投与を可能にするためには、多量の経口溶液製剤が投与される必要があり、これは患者の服薬順守(コンプライアンス)の問題を引き起こす。さらに、固体状態での極めて良好な安定性にも関わらず、溶液中ではITF2357の化学的安定性は著しく低下する。例えば、ITF2357の溶液は、水および2、4.5、6および8のpH値のリン酸緩衝液において、わずか6日間、40℃で保存した場合に、約6.3%、0.8%、0.5%および2.1%の分解を示した。
【0040】
好ましい実施形態において、本発明による懸濁液は、少なくとも一の緩衝剤をさらに含む。
【0041】
好ましくは、ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩および/またはその誘導体は、0.1% w/vから20% w/vまでの量で含まれる。好ましい実施形態において、ギビノスタットは0.2%から10% w/vまで、より好ましくは0.3%から5% w/vまでの量で存在する。
【0042】
本発明による懸濁液は、広範囲のギビノスタット濃度に適しているという利点を有する。これは、異なる投与量および投与計画を有する医者に、治療を個別化(パーソナライズ)することを可能にし、したがって患者の服薬順守(コンプライアンス)を改善する。
【0043】
好ましくは、ギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩および/またはその誘導体の平均粒子径は、200μm(ミクロン)未満である。より好ましい実施形態において、平均粒子径は100μmから1μmまでであり、より好ましくは50μmから5μmまでである。
【0044】
本発明の好ましい実施形態によれば、湿潤剤は少なくとも一の界面活性剤であり、好ましくは、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤およびそれらの組み合わせから選択される。
【0045】
界面活性剤の量は、懸濁液の質にとって極めて重要である:過剰な界面活性剤は泡や解膠系を生じることがあり、そのどちらも望ましくない;少なすぎる界面活性剤は、固体粒子を適切に湿潤化しないことがあり、結果として凝塊(aggregation)や集塊(clumps)をもたらす。
【0046】
好ましくは、湿潤剤は、0.00025%から2% w/vまで、好ましくは0.0005%から0.5% w/vまで、より好ましくは0.001%から0.2% w/vまでの量で存在する。
【0047】
本発明に好適な界面活性剤は、カルボキシレート、天然乳化剤(例えばリン脂質)、硫酸エステル(例えばアルキルサルフェート)、スルホネート、非イオン性エーテル(例えば脂肪族アルコールエトキシレート、プロポキシル化アルコール、エトキシル化/プロポキシル化ブロックポリマー)から選択されてもよい。
【0048】
好ましくは、界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えばポリソルベート)、ポリオキシエチレン脂肪酸(例えばポリオキシエチレンステアレート)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(またはエトキシル化脂肪族アルコール)、またはポロキサマーに属する、非イオン性界面活性剤の群から選択される。
【0049】
一実施形態によれば、非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの群から選択され、前記非イオン性界面活性剤は好ましくは以下から選択される。
・ 0.00025%から2% w/vまで、好ましくは0.0005%から0.5% w/vまで、より好ましくは0.001%から0.2% w/vまでの量の、ポリソルベート20、PEG(20)ソルビタンモノラウレート、またはTween20としても知られる、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート;
・ 0.00025%から2% w/vまで、好ましくは0.0005%から0.5% w/vまで、より好ましくは0.001%から0.2% w/vまでの量の、ポリソルベート80、PEG(20)ソルビタンモノオレエート、またはTween80としても知られる、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート。
【0050】
好ましくは、本発明の懸濁液は、懸濁化剤をさらに含む。
【0051】
懸濁化剤は、科学文献に示されるような、あらゆる薬学的に許容可能な粘度付与剤であってもよい。それらは、天然、半合成、または合成起源のものであってもよい。好ましい懸濁化剤は、無機粘土、キサンタンガム、寒天(agar−agar)、アルギネート、トラガカントガム、グアーガム、および他の天然ガム、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒプロメロース(hypromellose)、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム)、カルボマー、マルトデキストリン、ポビドン、微結晶セルロース、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0052】
好ましくは、トラガカントガムである。
【0053】
これらの懸濁化剤は、単独でまたは組み合わせて、懸濁粒子の沈降を遅らせるために十分に高い粘度だが、同時に、液体投与量の分注を困難にするほどに高すぎない粘度を得るために、十分な量で加えられる。好ましくは、懸濁化剤は、0.01%から5% w/vまで、好ましくは0.05%から2.0% w/vまでの量で存在する。
【0054】
懸濁化剤は一般的に、塑性流動性、または擬塑性流動性、またはチキソトロピー流動性またはそれらの組み合わせの流動性を示す。それらは静止状態で相対的に高い粘度を有し、したがって沈降が遅れるために、物理的安定に寄与し、さらに相対的に高いせん断速度(例えば攪拌時)において容易に流動し、したがってボトルまたはバイアル容器から分注することを容易にする。これらの系の粘度は、懸濁化剤の量および物質グレード、および適用されるせん断速度によって、典型的には約10ミリパスカル秒(mPa・s)から約3,000mPa sec.まで、変化してもよい。しかし、穏やかな手動攪拌における系の再懸濁の容易さ、および長期間保存してもケーキングしない効果が、絶対的な粘度よりもより重要である。
【0055】
本発明の懸濁液は、防腐剤をさらに含んでもよい。
【0056】
防腐剤は、薬学的に許容可能ないかなる抗菌剤であってもよい。好ましくは、防腐剤は、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、および/またはそれらのナトリウム塩、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、およびそれらの混合物を含む群から選択される。
【0057】
特に好ましい実施形態において、防腐剤は安息香酸ナトリウムである。
【0058】
防腐剤は、許容可能な抗菌力を得るために十分な量で添加される。好ましくは、0.05%から2% w/vまでの量である。
【0059】
特に好ましい実施形態において、本発明の懸濁液は、少なくとも一の密度付与剤/甘味剤を含む。そのような密度付与剤は、糖(例えば、スクロース、フルクトース、マルトース)、およびポリオールまたは糖アルコールとも呼ばれる、多価アルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ズルシトール)から選択される。
【0060】
好ましくは、スクロース、ソルビトールまたはそれらの混合物である。より好ましくは、ソルビトールである。
【0061】
これらの賦形剤は2つの機能を有する。第一に、それらは媒体(すなわち、懸濁液の外相または連続相)の密度を増加させ、それにより、ストークスの式:
【0062】
【数2】
【0063】
に従って懸濁粒子の沈降速度を遅らせる。固体粒子は通常、純水(1g/mL)よりも高い真密度を有する。上記方程式にしたがって、系の媒体の密度(ρ2)が高くなるにつれて、沈降速度(V)が低下する。第二に、それらの甘味および食感の良さのために、それらの賦形剤は口当たりを改善する。
【0064】
本発明の組成物、例えば、40% w/vのソルビトールまたは40% w/vのスクロース(実施例2)を含む、本発明の組成物は、驚くべきことに、ギビノスタットの高い化学的安定性を示すという利点を有する。
【0065】
好ましくは、本発明による懸濁液において、密度付与剤は、5% w/vから70% w/vまで、好ましくは10% w/vから60% w/vまで、より好ましくは 20% w/vから50% w/vまでの量で存在する。
【0066】
さらに好ましい実施形態において、本発明の懸濁液は、薬学的に使用される少なくとも一の緩衝剤をさらに含み、当該緩衝剤は無機緩衝剤または有機緩衝剤、好ましくは、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液および酢酸緩衝液を含む群から選択される。これらの緩衝剤は、懸濁液のpHを4から7までのpH値に緩衝するために適し、その中でギビノスタットは最小の溶解度および/または最大の安定性を示す。そして、前記pH値は、好ましくは4から6.5までであり、より好ましくは4.5から6までである。
【0067】
本発明の懸濁液に用いられる緩衝剤は、好ましくは、酒石酸またはクエン酸緩衝液であり、より好ましくは酒石酸緩衝液である。酒石酸またはクエン酸緩衝液は、酒石酸またはクエン酸、および水酸化ナトリウム、若しくは水酸化カリウムまたはそれらの混合物からその場で(in situ)作ることができる。あるいは、酒石酸ナトリウム若しくはクエン酸ナトリウム、または酒石酸カリウム若しくはクエン酸カリウム、あるいはそれらの混合物として直接添加してその場で作ることもできる。
【0068】
発明者らは、驚くべきことに、実施例3に示されるように、同じpHにおけるギビノスタットの溶解度が、用いた緩衝剤の種類によって大きく影響されることを実際に見出し、同じpHでは、ギビノスタットは酒石酸緩衝液においてより溶解しなかった。低い薬物溶解度は、一般的により優れた化学的安定性および口当たりをもたらすという利点を有する。
【0069】
好ましくは、本発明による懸濁液において、緩衝剤は、0.05% w/vから5% w/vまで、好ましくは0.1%から2.5% w/vまで、より好ましくは0.5% w/vから2% w/vまでの量で存在する。
【0070】
本発明のより好ましい実施形態は、少なくとも一の密度付与剤および緩衝剤、好ましくはソルビトールまたはスクロース、および酒石酸緩衝液を上述の様態および量で含む、ギビノスタットの安定な懸濁液に関する。
【0071】
発明者らは、驚くべきことに、製剤中に密度付与剤(例えば、ソルビトールまたはスクロース)などの、ある特定の賦形剤を含ませた場合に、それらは有効成分の溶解度に影響するだけでなく、化学的安定性に有益な効果を有することを見出した。
【0072】
発明者らは、驚くべきことに、製剤中に緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液および酢酸緩衝液)などの、特定の賦形剤を製剤に含ませた場合に、同じpHの製剤において、ギビノスタットの溶解度が著しく影響されることを見出した。驚くべきことに、酒石酸緩衝液を製剤に含ませた場合に、ギビノスタットは著しく溶解性が低くなる。
【0073】
後記する、実施例1、6および9は、ソルビトールおよび酒石酸緩衝液を含むギビノスタットの懸濁液が、いかに安定であり、かつ口当たりがよいのかを示す。
【0074】
本発明の懸濁液は、少なくとも一の以下の賦形剤を、当業者に既知の量で、さらに含
でもよい:
・ 香味料;
・ 「人工」甘味料(例えば、サッカリン、アスパルテーム);
・ 湿潤剤/保湿剤(moistener)、例えば、グリセロール、ポリエチレングリコールまたはプロピレングリコール;
・ 消泡剤(例えば、ジメチコンエマルジョン)。
【0075】
別の態様において、本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤に応答する疾患、好ましくは、精神性および神経性疾患(気分障害、てんかん、アルツハイマー病など)、癌(皮膚T細胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、すい臓癌、多発性骨髄腫、子宮頸癌および卵巣癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、白血病、骨髄腫、リンパ腫など)、炎症性疾患、HIV/AIDS、脊髄性筋萎縮症の疾患治療用の、上述の水性懸濁液に関する。
【0076】
好ましくは、ギビノスタットに応答する疾患、より好ましくは、全身型若年性特発性関節炎、真性多血症、本態性血小板血症、白血病、骨髄腫、骨髄繊維症、ドゥシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィーおよび他の形態の筋ジストロフィーを含む群から選択される疾患治療用である。
【0077】
好ましい実施形態において、本発明による懸濁液は、哺乳類、特にヒトに投与され、成人対象者および「小児科集団」の両方を対象とする。本明細書において、「小児科集団」という用語は、出生から18歳までの集団部分を意味する。
【0078】
好ましくは、本発明による懸濁液は、経口投与される。
【0079】
本発明による懸濁液は、先行技術におけるいかなる既知の方法に従って調製されてもよい。したがって、本発明は、本発明のギビノスタットの懸濁液のいかなる製造方法も含む。特定の実施形態において、本発明による懸濁液は以下のステップに従って調製されてもよい。
【0080】
A)分散ビヒクルの調製
【0081】
(a)適切な容器(例えば、攪拌機を備えたジャケット付きステンレススチールタンク)に、使用可能な総量の約50〜90%の精製水を加える。
【0082】
(b)固体、または適切な濃度にあらかじめ調製した水溶液のいずれかとして、所定量の密度付与剤を加える。均質な溶液が得られるように、十分な攪拌を維持する。
【0083】
(c)攪拌下で所定量の懸濁化剤(存在する場合)を加え、水和するのに十分な時間、すなわち、均一に分散/溶解して、必要な粘度を提供するコロイド分散液/溶液を得るために必要な時間を当該材料に与える。このステップは、水和プロセスを促進するために、好ましくは加熱下に(例えば、40〜90℃)行われる。さらに、湿潤剤(例えば、グリセロール)を、懸濁化剤の分散を促進するために用いることもできる。緊密で均質な湿潤剤および懸濁化剤の混合物が最初に調製され、それは次に水性ビヒクルに添加される。これは、「固い」高分子量ポリマーと、湿潤剤(高親水性および水溶性)との緊密な混合物が、親水性の表面を水性ビヒクルに曝すため、水和プロセスを促進する。
【0084】
(d)ビヒクルを室温にする(必要な場合)。
【0085】
代替的実施形態によれば、(b)相および(c)相の添加順は、逆にすることもできる(すなわち、懸濁化剤の水和は精製水のみで行うこともでき、そして、密度付与剤が、水和した懸濁化剤のコロイド溶液/分散液に添加される)。
【0086】
(e)所定量の防腐剤系(存在する場合)を加え、完全に溶解するまで攪拌を続ける。
【0087】
(f)所定量の甘味料および香味料(存在する場合)を加え、完全に溶解するまで攪拌を続ける。
【0088】
(g)あらかじめ調製した、緩衝剤系(存在する場合)を含む水溶液を加え、完全に溶解するまで攪拌を続ける。
【0089】
代替的実施形態によれば:
− (e)相、(f)相および(g)相の添加順は変えることもできる;
− 緩衝剤系の個々の成分を固体として加え、攪拌下で溶解させることもできる;
− 防腐剤系(存在する場合)は、ステップ(a)、(b)または(c)において溶解させることもできる;
− 甘味料および香味料(存在する場合)は、後記する、後のステップ(i)で加えることもできる。
【0090】
B)ギビノスタットの前分散(湿潤)
【0091】
(h)適切な容器に、使用可能な総量の約3〜20%の精製水を加え、攪拌下で消泡剤(存在する場合)を分散させ、次に攪拌下で湿潤剤を添加し、溶解または完全に分散するまで攪拌を続ける;次に、所定量のギビノスタットおよび/またはその薬学的に許容可能な塩および/またはその誘導体を添加し、均質になるまで攪拌し、だまのないスラリーを得る。
【0092】
C)最終バルク懸濁液の調製
【0093】
(i)激しく攪拌しながら、ギビノスタットの前分散液を分散ビヒクルに加え、均質な分散液が得られるまで攪拌を続ける;
【0094】
(j)pHを検査し、必要であれば、酒石酸または水酸化ナトリウムで4〜7の範囲に、好ましくは、4から6.5まで、より好ましくは4.5から6までに、調節する。
【0095】
(k)最終体積まで精製水を適量加え、攪拌する;
【0096】
(l)適切なホモジナイザー(例えば、コロイドミル、ピストン型、ultraturrax型など)を用いて最終懸濁液を均質化(ホモジナイズ)する;
【0097】
(m)所定体積の懸濁液を、個別の一次容器(例えば、ガラスまたはプラスチックボトル)に分配し、ふたをする。
【0098】
代替的実施形態によれば、完全なビヒクル(すなわち、ギビノスタットを除く全ての成分を含む水性ビヒクル)を調製でき、次に、攪拌下で有効成分をビヒクルにゆっくりと添加する。
【0099】
本発明の実施可能な医薬懸濁液は、添付の実施例において示されているが、それらは単なる説明を意図したものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0100】
本発明による懸濁液は、ultraturrax型のホモジナイザーを用い、上述の通りに調製した。
【0101】
懸濁液の物理的安定性は、以下の手法により評価した:外観(目視検査);光学顕微鏡法(粒径分布を決定し、結晶成長が起きたかどうかを評価);再懸濁性(手振り)。ギビノスタット懸濁液の化学的安定性は、特異性および安定性を示す、HPLC法を用いて評価した。
【0102】
[実施例1]
経口懸濁液−ギビノスタット10mg/mLまたは1% w/v、pH6
【0103】
【表1】
【0104】
製造方法
(a)使用可能な総量の約50〜90%の精製水を、攪拌機を備えた適切なジャケット付きステンレススチールタンク内に入れ、約70℃〜90℃まで加温する。「液体ソルビトール」(70%溶液として商業的に入手可能)として、所定量のソルビトールを加え、溶液が約70℃〜90℃の温度になるまで適切な攪拌を維持する。
【0105】
(b)70℃〜90℃の温度を維持したまま、攪拌下で、所定量のグリセロールにあらかじめ緊密に分散させたトラガカントガムを加える。均質な系が得られるまで、ガムを水和させる。
【0106】
(c)攪拌下、水和したビヒクルを室温(20℃〜30℃)まで冷ます。
【0107】
(d)攪拌下、所定量の安息香酸ナトリウムをタンクに加え、次に所定量のサッカリンナトリウムを加え、攪拌を続ける。
【0108】
(e)別の適切な容器に、所定量の酒石酸および水酸化ナトリウムの精製水の溶液を調製し、次に、攪拌下で、この溶液をタンクに加える。
【0109】
(f)最後に、攪拌下で、所定量の香味料を加える。ビヒクルのpHを確認し、必要な場合は、あらかじめ精製水に溶解した追加の酒石酸および/または水酸化ナトリウムを用いてビヒクルのpHを調節する。
【0110】
(g)別の適切な容器に、ギビノスタットの前分散液を調製する:使用可能な総量の約3〜20%の精製水に、攪拌下で所定量のポリソルベート20を加え、溶解するまで攪拌し、次に、攪拌下で、所定量のギビノスタットを加える。均質で、だまのないスラリーが得られるまで、攪拌を続ける。
【0111】
(h)激しく攪拌しながら、ギビノスタットの前分散液をビヒクルに加え、均質な分散が得られるまで攪拌を続ける。
【0112】
(i)懸濁液のpHを確認し、必要な場合は、あらかじめ精製水に溶解した追加の酒石酸および/または水酸化ナトリウムを用いて懸濁液のpHを調節する。
【0113】
(j)最終体積まで精製水を適量加え、攪拌する。
【0114】
(k)高せん断ホモジナイザーを用いて最終懸濁液を均質化(ホモジナイズ)する。最終的に懸濁液を再循環させることにより、および/または適切な保管容器に懸濁液を移すことにより、全ての懸濁液をホモジナイザーに通過させる。
【0115】
(l)最終バルク懸濁液を攪拌下で維持しながら、適切な充填機(例えば120mL/ボトルの充填体積)を用いて、ガラスまたはプラスチックボトル、例えば、150mL公称容量のアンバーPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルに分配し、不正開封防止機能を備えた小児用安全スクリューキャップ、例えば、LDPE(低密度ポリエチレン)製閉栓器を備えたHDPE(高密度ポリエチレン)またはPP(ポリエチレン)製キャップで、ボトルを密閉する。
【0116】
安定性:この製剤は、40℃/75%RH(相対湿度)における6ヶ月の保存後でさえも、化学的および物理的に極めて安定であることが証明された。すなわち、表1に示すように、HPLC試験では有意な変化はなく、理論値から±5%以内を維持し;類縁物質は無視できる程度の増加であり、1%の限度値より下を維持し;pHは無視できる程度の低下であり、理論値から±0.5単位以内を維持し;外観および再懸濁性は事実上変化せず、光学顕微鏡検査はいかなる粒子の成長も示さなかった。
【0117】
【表2】
【0118】
この製剤は、実験室スケール(スケール≦5L)および工業スケール(スケール≧100L)の両方で調製することができ、したがって、本発明の懸濁液は工業化できることを示す。
【0119】
実施例1に記載した組成および調製方法に従って、0.1%から20% w/vのギビノスタットを含む、物理的および化学的に安定なギビノスタット懸濁液を調製することができた。活性成分を完全に湿潤化させるために、必要に応じ、ポリソルベート20の量を約0.00025%から約2% w/vまでの範囲で増やしても減らしてもよい。
【0120】
[実施例2]
製剤開発研究の間に、例えばソルビトールおよびスクロースなどの、「糖アルコール」およびサッカライドの群から選択される、異なる密度付与剤を使用した。
【0121】
ソルビトールもまた糖アルコールである。そのIUPAC名は(2S,3R,4R,5R)−ヘキサン−1,2,3,4,5,6−ヘキソールである。分子式はC6H14O6である。化学構造式を以下に記載する。
【0122】
【化1】
【0123】
ソルビトールは水に非常に溶けやすい(溶解度は約2.2g/mL)。
【0124】
スクロースは、サッカロースとも呼ばれ、白色、無臭で甘味を有する結晶性粉末である。それは、グルコースの分子とフルクトースの分子がお互いにグリコシド結合で結合した二糖である。分子式はC12H22O11である。化学構造式を以下に記載する。
【0125】
【化2】
【0126】
これは水に非常に溶けやすい(20℃の水0.5部に1部が溶解する)。
【0127】
したがって、それらはシロップおよび経口懸濁液において、甘味料および密度付与剤として一般的に使用されている。
【0128】
ギビノスタットの溶解度を、リン酸緩衝液、湿潤剤としてのTween20、およびソルビトールまたはスクロースのいずれか(40% w/v)を含む、pH6の水性ビヒクルで試験した。この目的のために、確実に飽和するために十分な量のギビノスタットを、別々のバイアル中で、それぞれのビヒクル15mLと混合した。これらのバイアルは25℃±1℃で少なくとも24時間、平衡を得るために振とうした。次に、ろ過により、余分な固体から飽和溶液を分離し、ろ液中のギビノスタット(ITF2357)をUV−Vis分光分析技術により定量した。溶解度の値は表2にまとめた。
【0129】
【表3】
【0130】
驚くべきことに、ITF2357の溶解度は、ソルビトールの濃度が増加すると低下する。多価アルコールは、薬物の溶解度を上げるためにしばしば用いられ、この効果は濃度依存的、すなわち、多価アルコールの量が多くなるほど、溶解効果は高くなるため、この結果は予想外であった。
【0131】
さらに驚くべきことに、スクロースは、ソルビトールと比較して、より著しい溶解効果を及ぼす。
【0132】
ソルビトールまたはスクロースのいずれか(40% w/v)を含む、1%(w/v)ITF2357懸濁液について、化学的安定性加速試験を実施した。表3に示すように、HPLC総不純物(%)として示す結果もまた、驚くべきものであった。
【0133】
【表4】
【0134】
発明者らは、驚くべきことに、密度付与剤(例えば、ソルビトールまたはスクロース)などの、ある特定の賦形剤が製剤に含まれる場合に、有効成分の溶解度に影響を与えるだけでなく、化学的安定性に有益な効果も有することを見出した。
【0135】
[実施例3]
処方設計の間に、無機(リン酸)緩衝液および有機(酢酸および酒石酸)緩衝液の群から選択される、異なる緩衝液におけるITF2357の溶解度を測定した。表4に、pH4.5の異なる緩衝液における、ITF2357飽和溶液について測定した溶解度の値を示す。
【0136】
【表5】
【0137】
驚くべきことに、同じpHにおいて、溶解度は緩衝液の種類に大きく影響された。ギビノスタットは、酒石酸緩衝液において、より溶解しない結果となった。一般的な有機緩衝液は錯化共溶解効果(complexing co−solubilizing effect)を発揮することができる一方、この特定の場合には、酒石酸緩衝液はそのような効果を発揮しないだけでなく、反対にITF2357の溶解性を制限しているために、この結果は非常に驚くべきものである。
【0138】
実施例1に記載する組成、したがって、40% w/vのソルビトールおよび酒石酸緩衝液を含む懸濁ビヒクル中で、異なるpH(酒石酸または水酸化ナトリウムで調節した4から7までのpH範囲)で測定した、ITF2357の溶解度を表5に示す。
【0139】
【表6】
【0140】
驚くべきことに、本発明による製剤における、緩衝剤(特に酒石酸緩衝液)、湿潤剤および密度付与剤(特にソルビトール)などの、特定の賦形剤の使用は、ギビノスタットの溶解度を低下させる。
【0141】
低い薬物溶解性は、一般的に良好な化学的安定性および嗜好性につながるため、これは優れた利点を表す。
【0142】
[実施例4]
経口懸濁液−ギビノスタット10mg/mLまたは1.0%(w/v)
【0143】
成分 分量(mg)
ギビノスタット 10
メチルパラベン 1.35
プロピルパラベン 0.15
スクロース 400
グリセロール 25
トラガカントガム 3.0
ポリソルベート80 0.063
精製水 適量 1mLまで
【0144】
安定性:この製剤は40℃で少なくとも1週間安定であることが証明された。
【0145】
実施例4に記載した組成に従って、0.2%から10% w/vのギビノスタットを含む、物理的および化学的に安定なギビノスタット懸濁液を調製することができた。活性成分を完全に湿潤化させるために、必要に応じ、ポリソルベート80の量を約0.0005%から約1% w/vまでの範囲で増やしても減らしてもよい。
【0146】
[実施例5]
経口懸濁液−ギビノスタット10mg/mLまたは1.0%(w/v)
【0147】
成分 分量(mg)
ギビノスタット 10
メチルパラベン 1.35
プロピルパラベン 0.15
スクロース 400
グリセロール 25
トラガカントガム 3.0
ポリソルベート20 0.063
精製水 適量 1mLまで
【0148】
安定性:この製剤は40℃で少なくとも1週間安定であることが証明された。
【0149】
実施例に記載した組成に従って、0.2%から10% w/vのギビノスタットを含む、物理的および化学的に安定なギビノスタット懸濁液を調製することができた。活性成分を完全に湿潤化させるために、必要に応じ、ポリソルベート20の量を約0.0005%から約1% w/vまでの範囲で増やしても減らしてもよい。
【0150】
[実施例6]
経口懸濁液−ギビノスタット10mg/mLまたは1% w/v、pH5
【0151】
成分 分量(mg) 分量(% w/v)
ギビノスタット 10 1
安息香酸ナトリウム 4.4 0.44
香味料 2 0.2
サッカリンナトリウム 1 0.1
ソルビトール 400 40
グリセロール 25 2.5
トラガカントガム 3.0 0.3
ポリソルベート20 0.016 0.0016
酒石酸 6.5(*) 0.65(*)
水酸化ナトリウム 3.25(*) 0.325(*)
精製水 q.s. 1mLまで q.s. 100mLまで
q.s.=適量
(*)酒石酸緩衝液。必要であれば、追加の酒石酸および/または水酸化ナトリウムを用いて、製造中にpHを5に調節する。
【0152】
製造方法:実施例1に記載する方法
【0153】
安定性:この製剤は、40℃/75%RH(相対湿度)における6ヶ月の保存後でさえも、化学的および物理的に極めて安定であることが証明された。すなわち、表6に示すように、HPLC試験では有意な変化はなく、理論値から±5%以内を維持し;類縁物質は無視できる程度の増加であり、1%の限度値より下を維持し;pHは無視できる程度の低下であり、理論値から±0.5単位以内を維持し;外観および再懸濁性は事実上変化せず、光学顕微鏡検査はいかなる粒子の成長も示さなかった。
【0154】
【表7】
【0155】
この製剤は、実験室スケール(スケール≦5L)および工業スケール(スケール≧100L)の両方で調製することができ、したがって、本発明の懸濁液は工業化できることを示す。
【0156】
実施例6に記載した組成および調製方法に従って、0.3%から5% w/vのギビノスタットを含む、物理的および化学的に安定なギビノスタット懸濁液を調製することができた。活性成分を完全に湿潤化させるために、必要に応じ、ポリソルベート20の量を約0.0005%から約0.5% w/vまでの範囲で増やしても減らしてもよい。
【0157】
[実施例7]
経口懸濁液−ギビノスタット10mg/mLまたは1% w/v、pH4.5
【0158】
成分 分量(mg) 分量(% w/v)
ギビノスタット 10 1
安息香酸ナトリウム 4.4 0.44
香味料 2 0.2
サッカリンナトリウム 1 0.1
ソルビトール 400 40
グリセロール 25 2.5
トラガカントガム 3.0 0.3
ポリソルベート20 0.016 0.0016
酒石酸 6.5(*) 0.65(*)
水酸化ナトリウム 3.25(*) 0.325(*)
精製水 q.s. 1mLまで q.s. 100mLまで
q.s.=適量
(*)酒石酸緩衝液。必要であれば、追加の酒石酸および/または水酸化ナトリウムを用いて、製造中にpHを4.5に調節する。
【0159】
製造方法:実施例1に記載する方法
【0160】
安定性:この製剤は、55℃における1ヶ月の保存後でさえも、化学的および物理的に極めて安定であることが証明された。すなわち、HPLC試験では有意な変化はなく;pHは有意に変化せず;外観および再懸濁性は事実上変化しなかった。
【0161】
[実施例8]
経口懸濁液−ギビノスタット10mg/mLまたは1% w/v、pH5.5
【0162】
成分 分量(mg) 分量(% w/v)
ギビノスタット 10 1
安息香酸ナトリウム 4.4 0.44
香味料 2 0.2
サッカリンナトリウム 1 0.1
ソルビトール 400 40
グリセロール 25 2.5
トラガカントガム 3.0 0.3
ポリソルベート20 0.016 0.0016
酒石酸 6.5(*) 0.65(*)
水酸化ナトリウム 3.25(*) 0.325(*)
精製水 q.s. 1mLまで q.s. 100mLまで
q.s.=適量
(*)酒石酸緩衝液。必要であれば、追加の酒石酸および/または水酸化ナトリウムを用いて、製造中にpHを5.5に調節する。
【0163】
製造方法:実施例1に記載する方法
【0164】
安定性:この製剤は、55℃における1ヶ月の保存後でさえも、化学的および物理的に極めて安定であることが証明された。すなわち、HPLC試験では有意な変化はなく;pHは有意に変化せず;外観および再懸濁性は事実上変化しなかった。
【0165】
[実施例9]
本発明によるギビノスタット懸濁液の、ギビノスタット溶液と比較しての嗜好性の評価
【0166】
本発明によるギビノスタット懸濁液(実施例1および実施例6の組成物、この嗜好性調査のために製剤AおよびBと呼ぶ)の嗜好性を、以下の組成物と比較して評価した:
【0167】
・製剤AおよびBと同様の組成を有しているが、酒石酸緩衝液がリン酸緩衝液と置き換えられている、本発明による懸濁液(この嗜好性調査のために製剤CおよびDと呼ぶ)。
【0168】
・製剤AおよびBと同様の組成を有しているが、ソルビトールが、甘味強度を埋め合わせるような添加量(ソルビトールはスクロースの約0.6倍の甘味強度を有し、サッカリンナトリウムはスクロースの約450倍の甘味強度を有するので、40% w/v濃度のソルビトールの甘味強度は、0.055% w/vの濃度のサッカリンナトリウムの添加により埋め合わされた)のサッカリンナトリウムと入れ替えられている、本発明による懸濁液(この嗜好性調査のために製剤EおよびFと呼ぶ)。
【0169】
・pH5および6のリン酸緩衝液のギビノスタット比較溶液であって、製剤EおよびFに存在するのと同じ濃度のサッカリンナトリウムを含み(したがって、前述の製剤と同等の甘味強度を有する)、約2mg/mL(0.2% w/v)の溶液として製剤化できる、およそギビノスタット最大濃度で調製した比較溶液(この嗜好性調査のために製剤GおよびHと呼ぶ)。
【0170】
以下の手順に従い、それぞれの製剤の試料を、三人の調査員(本明細書では「パネリスト」と呼ぶ)により盲検で評価した:
【0171】
・試料は、同じ黒いガラスボトル中に、無記名で(ボトルは、準備された製剤に対応するアルファベット文字のみで識別され、したがってパネリストは味をみる必要がある試料を知ることはできない)、独立した調査員により用意された;
【0172】
・それぞれのパネリストは、5mLのそれぞれの製剤をランダムに受け取る。投与された量の試料は、口内で約5秒間保ち、および口の中でごろごろさせ、次に口から吐き出された。パネリストは、試料を吐き出した後、少なくとも5分間は天然水で口をすすぐことを許されなかった;
【0173】
・一の味覚試験と次の試験の間は、少なくとも2時間の洗浄期間が保たれた;
【0174】
・1日あたり最高で4試料まで、それぞれのパネリストによって試験および評価された;
【0175】
・一般的な「口の感覚」に基づいて、投与後すぐにパネリストに初期評価が要求され、具体的には、以下について、彼らの意見を示すよう求められた:
○甘味/苦味の知覚(以下の任意の尺度を用いた:0=とても甘い、1=甘い、2=わずかに甘い、3=わずかに甘いとわずかに苦いの間で区別できない、4=わずかに苦い、5=苦い、6=とても苦い)
○快適性の感覚(以下の任意の尺度を用いた:0=とても良い、1=良い、2=許容可能、3=許容可能と良くはないの間で区別できない、4=良くはない、5=悪い、6=とても悪い)
【0176】
・2回目の評価は、後味に関して、一般的な「口の感覚」に基づき、投与から5分後にパネリストに要求された(以下の任意の尺度を用いた:0=とても甘い、1=甘い、2=わずかに甘い、3=わずかに甘いとわずかに苦いの間で区別できない、4=わずかに苦い、5=苦い、6=とても苦い)
【0177】
結果は次のように要約できる:
−実施例1および6の組成を有するギビノスタット懸濁液1% w/v(製剤AおよびB)
○甘味/苦味の知覚:1から2の評価(甘い、またはわずかに甘い)
○快適性:1から2の評価(良い、または許容可能)
○後味:2から3の評価(わずかに甘い、またはわずかに甘いとわずかに苦いの間で区別できない)
【0178】
−実施例1および6の組成を有するが、酒石酸緩衝液がリン酸緩衝液に置き換えられた、ギビノスタット懸濁液1% w/v(製剤CおよびD)
○甘味/苦味の知覚:2から3の評価(わずかに甘い、またはわずかに甘いとわずかに苦いの間で区別できない)
○快適性:2から3の評価(許容可能、または許容可能と良くはないの間で区別できない)
○後味:3から4の評価(わずかに甘いとわずかに苦いの間で区別できない、またはわずかに苦い)
【0179】
−実施例1および6の組成を有するが、ソルビトールが、甘味強度を埋め合わせるような添加量のサッカリンナトリウムと置き換えられている、ギビノスタット懸濁液1% w/v(製剤EおよびF)
○甘味/苦味の知覚:2から3の評価(わずかに甘い、またはわずかに甘いとわずかに苦いの間で区別できない)
○快適性:2から3の評価(許容可能、または許容可能と良くはないの間で区別できない)
○後味:3から4の評価(わずかに甘いとわずかに苦いの間で区別できない、またはわずかに苦い)
【0180】
−ギビノスタット溶液0.2% w/v(製剤GおよびH)
○甘味/苦味の知覚:4から5の評価(わずかに苦い、または苦い)
○快適性:4から5の評価(良くはない、または悪い)
○後味:5から6の評価(苦い、またはとても苦い)
【0181】
本発明の懸濁液を溶液(GおよびH)と比較した場合、溶液(GおよびH)は同じ甘味強度を有し、有効成分をより低い濃度で含む、という事実があるにも関わらず、本発明による懸濁液について、全ての場合に好ましい嗜好性特性を示した。
【0182】
特に、ソルビトールおよび酒石酸緩衝液を共に含む懸濁液(AおよびB)は、上述のような極めて優れた安定性だけでなく、非常に好ましい嗜好性特性を有する。
【0183】
したがって、本発明の懸濁液は、物理的および化学的に安定であり、口当たりがよく、これは当該技術分野における著しい改善を示す。特に、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤応答性のあらゆる疾患、特にギビノスタット応答性のあらゆる疾患の治療のために、液体投与形態でギビノスタットの経口投与を行う際に、カプセルまたは錠剤などの固形医薬形態の嚥下に問題を有する全ての患者(例えば、高齢者、小児科患者、または化学療法計画を受ける患者が挙げられるが、これらの者に限らない)において著しい改善を示す。