【実施例1】
【0026】
図2は、実施例1による診断装置のブロック図である。
【0027】
本実施例における診断装置は
図2に示すように、ケーブル2を介して電源1に電気的に接続された診断対象となる回転機3の状態を診断するものであって、電流計測部4と、変換部5と、計測ビット数入力部6と、積算部7と、蓄積部8と、診断部9とを有している。診断装置はプロセッサおよびメモリを有し、プロセッサがメモリを利用して、上記各部の動作を規定するスフトウェアプログラムを実行するものであってもよい。
【0028】
電源1からは三相交流電圧が出力されている。三相交流電圧の出力は、モータの回転数やトルクが所望の値となるようにインバータのスイッチング素子を動作させるタイミングを調整し制御されている場合と、商用電源を直接接続する場合の二種類が考えられる。
【0029】
電流計測部4は取得部と言ってもよい。電流計測部4は、ケーブル2に取り付けられた電流センサ10a,10bを介して、ケーブル2を流れる三相交流の複数相における同時刻の物理データとなる電流データの瞬時値を取得する。この際、電流計測部4は、任意の間隔で任意の期間、複数の相間の時刻の同期性を保って電流データの瞬時値を取得することになる。
【0030】
変換部5は、電流計測部4にて取得された瞬時値を、計測ビット数入力部6にて設定された設定ビット数Aで離散化する。
【0031】
積算部7は、変換部5の離散化による離散値から、行と列がそれぞれ相に対応する2
A(2のA乗)×2
A(2のA乗)のサイズを有し、行と列の各成分が、各相の電流データの瞬時値の離散値の組み合わせの出現密度を表す行列を生成することで、各相の電流データの瞬時値の離散値の組み合わせ毎の組み合わせの出現密度を求める。
【0032】
蓄積部8は、積算部7で求められた、組み合わせ毎の出現密度を示す出現密度データを蓄積する。
【0033】
診断部9は、蓄積部8に蓄積された出現密度データに基づいて、回転機3や回転機3に接続された電力変換装置等の周辺機器の状態を診断する。
【0034】
以下に、上記のように構成された診断装置による回転機3の状態を診断する診断方法について説明する。
【0035】
まず、電流計測部4において、ケーブル2に取り付けられた電流センサ10a,10bを介して、ケーブル2を流れる三相交流のうちの二相における電流データを取得する。その際、電流計測部4は、任意の間隔で任意の期間、複数の相間の時刻の同期性を保って電流データの瞬時値を取得することになるが、電流計測部4で取得する電流センサ10a,10bの電流データは必ずしも一定のサンプリング間隔である必要も無く、また、必ずしも連続した計測である必要は無い。また、電流センサ10aを介した電流データの取得と電流センサ10bを介した電流データの取得との間隔が、あるばらつきを許容した一定であることが好ましい。リアルタイム処理に優れる計測装置を適用することで、あるばらつきを許容した一定のデータ取得間隔とすることができる。そのような計測装置として、例えばマイコンを用いた計測装置を用いることができる。
【0036】
また、電流センサ10aを介した電流データの取得と電流センサ10bを介した電流データの取得との間隔を一定とすることで、連続した計測である必要が無くなる。例えば、マイコンのメモリに一定量のデータを蓄積した後に、蓄積したデータを記憶装置に格納し、その後、マイコンのメモリをクリアしてデータ蓄積を再開するといった電流計測部4の設計が可能となり、汎用の電流センサやメモリを利用したシステムとすることが可能となる。
【0037】
次に、変換部5において、電流計測部4にて取得された瞬時値を、計測ビット数入力部6にて設定された設定ビット数Aで離散化し、積算部7において、変換部5の離散化による離散値から、二相の電流データの瞬時値の離散値の組み合わせ毎の該組み合わせの出現密度を求め、この組み合わせ毎の出現密度を示す出現密度データが蓄積部8に蓄積されることになる。この際、変換部5において、二相の電流データの瞬時値を所定のビット数Aで離散化し、積算部7において、行と列がそれぞれ相に対応する2
A(2のA乗)×2
A(2のA乗)のサイズを有し、行と列の各成分が、各相の電流データの瞬時値の離散値の組み合わせの出現密度を表す行列を生成することで出願密度を求めれば、各相の電流データのデータ量を2
A×2
Aのサイズに圧縮することができる。
【0038】
ここで、回転機3に対する制御パターンが変化せず回転機3が一定の基本波周波数で動作している場合において理想的な正弦波電流が回転機3に流れている場合における離散化によるデータ量について説明する。なお、データロガーの計測ビット数は8bitとした。
【0039】
図3は、
図2に示した変換部5における離散化により、蓄積部8に蓄積されるデータ量を示す図である。
【0040】
サンプリング速度200Hzで200秒間、二相の電流を計測した場合のデータ量を1とする。
【0041】
手法1として、電流計測部4にて取得された電流データとなる波形を、変化部5において計測ビット数入力部6で設定されたビット数8で離散化し、積算部7において、28×28のサイズの行列の各行列要素に8bit、つまり1から257で離散化された電流値の出現密度を求めた。例えば、200秒間の計測時間において、電流センサ10aの離散化された電流値が257、電流センサ10bの離散化された電流値が257である条件の回数を、計測点数の40000点で割った値を求めた。200秒間の計測は連続している必要はなく、回転機3に対する制御パターンが変化せず、回転機3が一定の基本波周波数で動作していれば、何度かに分割して計測することができる。これにより、メモリ量の少ない低速な計測端末でも診断に必要なデータを取得することができる。
【0042】
この場合、データ量は0.81となり、19%のデータ量の削減を実現できた。これにより、メモリ量の少ない低速な計測端末でも診断に必要なデータを取得することができる。本実施例では、行列の各行列要素に計測点数で割った値を格納したが、出現回数を保存し、それとは別に、出現回数を保存したファイルと紐付けた形で計測点数を保存しても良い。また、計測を何度かに分ける場合においては特に、出現回数と計測点数を別々に保存することで、積算による誤差蓄積を低減することができる。
【0043】
また手法2として、予め28×28のサイズの行列を用意するのではなく、(電流センサ10aの離散化された電流値1、電流センサ10aの離散化された電流値1、出現回数)、(電流センサ10aの離散化された電流値1、電流センサ10aの離散化された電流値2、出現回数)、・・・の形式でデータを保存した。手法2においては、最終的に得られるデータが、手法1の行列要素の値が0の成分を除いたデータとなり、空白のセルを用意する必要が無くなるため、蓄積部8には、行列のうちゼロ以外の数値が格納された成分の値のみが蓄積されることとなり、蓄積するデータ量をさらに低減することができる。なお、0の成分を除くタイミングは特に限定されない。
【0044】
データの蓄積方法としては、(電流センサ10aの離散化された電流値1、電流センサ10aの離散化された電流値1、出現回数)、(電流センサ10aの離散化された電流値1、電流センサ10aの離散化された電流値2、出現回数)、・・・の形式でデータを蓄積してもよいし、一旦、手法1の行列を構築した後に、(電流センサ10aの離散化された電流値1、電流センサ10aの離散化された電流値1、出現回数)、(電流センサ10aの離散化された電流値1、電流センサ10aの離散化された電流値2、出現回数)、・・・の形式に変換してもよい。
【0045】
その後、診断部9において、蓄積部8に蓄積された出現密度データに基づいて、回転機3の状態を診断する。
【0046】
ここで、回転機3に対する制御パターンが変化せず回転機3が一定の基本波周波数で動作している場合において何らかの原因で特定の周波数にスペクトルが発生した場合における診断部9の診断方法について説明する。
【0047】
図4は、U相電流の基本波周波数50Hzから1Hz離れた周波数にスペクトルが現れた場合の電流波形を示す図であり、
図5は、
図4に示した電流波形によって生じるうねり波形を示す図である。
【0048】
例えば、軸受劣化において劣化により基本波周波数の側帯波が発生し、それにより、
図4に示すように、U相電流の基本波周波数50Hzから1Hz離れた周波数に何らかの原因でスペクトルが現れた場合、
図5に示すように、U相電流は1Hz周期のうねりを有する波形として現れる。
【0049】
図1に示した診断装置において、この波形から精度良く50Hzと51Hzの成分を分離するには、ケーブル2に流れる電流を周波数200Hzで計測した場合、少なくとも200秒間、20000点のデータを連続的に計測する必要がある。さらに、側帯波の出現する頻度は劣化進行に伴い増加し、劣化初期では頻度が低いため、長時間のデータ計測が必要となる。したがって、精度良く分離するためには特殊かつ高価な計測装置を適用する必要があった。
【0050】
一方、
図2に示した診断装置においては、電流計測部4において、二相以上の電流値を、任意の間隔で任意の期間、相間の時刻同期性を保って取得し、変換部5において、二相以上の電流データを計測ビット数入力部6にて設定されたビット数で相毎に離散化し、積算部7において、離散化された電流データの出現回数または出現密度を、各行列要素に有する行列に変換することで求め、その後、診断部9において、蓄積部8に出願密度データとして蓄積されたデータを比較し、その変化より回転機3または回転機3に接続された電力変換装置等の周辺機器の状態を診断することで、サンプリング速度、データ量を上げずとも、回転機3の診断を可能としている。
【0051】
また、高周波の情報を取得するためには、電力変換装置のスイッチングのタイミングと非同期で計測することが望ましい。
【0052】
なお、サンプリング速度を遅くする場合は、電流計測部4において、ケーブル2を流れる電流を電流センサ10a,10bを介して基本波周波数とは非同期で計測することが望ましい。具体的には、基本波の整数倍の周期を有するサンプリング速度では、常にある特定位相のみの値を取得するため、ある特定位相にのみ変化が現れる劣化の場合に失報の虞がある。従って、サンプリング速度が基本波の周期の整数倍とは異なる周波数であることが望ましい。その結果、高いサンプリング速度でデータを取得した場合と同様の行列を取得することができる。
【0053】
図6は、正常状態のU相の電流波形を示す図であり、
図7は、正常状態のW相の電流波形を示す図である。また、
図8は、側帯波が発生した場合におけるU相の電流波形を示す図であり、
図9は、側帯波が発生した場合におけるW相の電流波形を示す図である。なお、サンプリング速度は200Hzでデータ計測時間100秒の内、1秒間のデータを拡大して示している。
【0054】
うねりのない正常状態の50Hzの正弦波においては、U相の電流波形は
図6に示すようになり、W相の電流波形は
図7に示すようになり、U相とW相の電流は、互いに120度位相がずれている。
【0055】
図6、
図7、
図8及び
図9に示した波形が電流計測部4にて計測、取得された場合、上述した手法1の説明で示したように、変換部5において、計測された電流波形を、計測ビット数入力部6で設定したビット数8で離散化し、積算部7において、28×28のサイズの行列の各行列要素に8bit、つまり1から257で離散化された電流値の出現密度を行列Aと行列Bにそれぞれ格納した。なお、行列Aは、
図6及び
図7に示した波形によるものであり、正常状態の行列に対応し、行列Bは、
図8及び
図9に示した波形によるものであり、劣化状態の行列に対応する。
【0056】
診断部9においては、行列Aおよび行列Bを、予め学習により正常状態として設定された行列Cと比較し、行列Aおよび行列Bが行列Cに対してどれだけ近いかを計算することで正常状態からのずれ、つまり異常の度合いを調べることができる。劣化進行に伴い、電流値のばらつきが大きくなり、それに伴い出現密度が高い領域の出現密度が下がり、出現密度が低い領域に分配されるようになる。これにより、行列における各行列要素の値が変化し、値が0となる行列要素が減り、正常状態として定義した行列から変化する。
【0057】
診断部9は、上記診断を行った後、診断結果を出力する。診断結果をユーザーに伝える手段としては適宜選択可能であり、ユーザーへの伝達方法としては、ディスプレイによる表示の他、ランプの点灯、電子メールでの通知等が挙げられる。その内容も、(1)診断対象の行列を画面に表示してユーザーに対応有無を判断させる方法、(2)診断対象の行列の差異を何らかの方法で数値化しユーザーに伝える方法、(3)予め定めた閾値を超えた場合にユーザー通知する方法、等が考えられる。
【0058】
ここで、上記(2)の診断対象の行列の差異を数値化する方法としては、機械学習の適用が考えられる。機械学習のアルゴリズムとしては、診断対象の行列の差異が明確になるものを選べば良く、例えば、正常状態として定義した行列Cに対する診断対象の行列AのBhattacharyya係数(Bhattacharyya距離)Zは、行列Aの行列要素をA
i,jとし、行列Cの行列要素をC
i,jとした場合、以下の式で定義される。
【0059】
【数1】
上記式において、Bhattacharyya係数Zが大きければ、正常状態と離れている、つまり劣化が進行していると診断でき、係数Zが小さければ、正常状態と診断することができる。Bhattacharyya係数Zは異常度を表していると言える。このように、蓄積部8に行列のデータが保持され、診断部9において、蓄積部に保持された行列と、正常状態を示すものとして予め定められた基準行列とを比較することにより診断対象の状態の正常性を診断することで、正常状態とどの程度異なる状態となっているかを容易に知得し、正常性を診断することができる。
【0060】
ここで、出現回数を各行列要素に格納した行列を用いる場合は、正常状態と診断対象の行列の計測点数を一致させる必要がある。その場合の診断手法としては、局所部分空間法が挙げられる。局所部分空間法は、診断対象の行列の各行列要素に対して、正常状態として定義した行列の行と列で定義される2次元空間のうち最も近い点を2点選び、その2点を結んだ直線と診断対象の点との間の距離で劣化具合を定義する方法である。また、正常値の出現密度を重み付けすることが有効な場合もあり、特に、異常状態と認識できるデータである場合には、正常状態と異常状態の行列が判別しやすいように判別式を調整することが望ましい。
【0061】
また、局所部分空間法を使用する場合には、診断対象の全ての行列要素について距離を計算して行列の変化を数値化する方法の他、診断対象の全ての点の距離の平均値、特定位相の点のみの距離で数値化する等、電流波形のばらつき誤差に応じて任意の評価手法を選択することができる。また、計算速度を優先したい場合には、ベクトル量子化クラスタリングや、K-meansクラスタリング等のクラスタリング手法を用いることができる。また、大量のデータに基づいて自動的に特徴量を見つける方法である、ディープニューラルネットワークと呼ばれる手法を適用することができる。
【0062】
図10は、
図6、
図7、
図8および
図9に示した電流波形による行列Aおよび行列Bの、正常状態として定義した行列Cに対する異常度を解析した結果を示す図である。
【0063】
図6および
図7に示した電流波形による行列A、並びに、
図8および
図9に示した電流波形による行列Bは、上述した式によるBhattacharyya距離Zからその異常度を解析することができる。行列AのBhattacharyya距離Zは、
図10に示すように、予め設定された閾値を超えていないため、診断部9において正常であると判断されることになる。一方、行列BのBhattacharyya距離Zは、
図10に示すように、予め設定された閾値を超えているため、診断部9において異常であると判断されることになる。
【0064】
このように、Bhattacharyya距離Zが、予め設定された閾値を超えているかどうかによって、回転機3が故障する前に異常度の増加を検知することが可能となる。
【0065】
上述したように、各相の電流データの瞬時値の組み合わせの出現密度を積算して蓄積するため、保存するデータ量を抑制することができる。また、各相の電流データの瞬時値の組み合わせの出現密度を積算した積算データに基づいて診断対象となる回転機3の状態を診断するので、高いサンプリング速度で電流データを測定する必要がない。
【0066】
なお、本実施例では、特定の周波数にスペクトルが発生した場合について説明したが、特定の周波数にスペクトルが発生しない種類の劣化であっても、劣化により回転機3の負荷やインピーダンス変化により電流に何らかの変化が現れるため、
図2に示した診断装置および上述した診断方法により異常を検出することができる。特定周波数のスペクトルの変化として現れない劣化としては、具体的には、MCSAで検知可能な特定周波数のピークとして変化が現れる劣化以外の劣化、つまりグリス劣化や絶縁材の熱劣化および吸湿のようなものが想定される。
【0067】
また、本実施例の診断装置によれば、回転機3の他、ケーブルや電力変換装置、負荷など、回転機3と電気的または機械的に接続された機器を含むモータシステムの診断も可能である。回転機3と接続された周辺機器を含むモータシステムでは、回転機3以外の周辺機器の故障や劣化であっても、それらの機器のインピーダンスや負荷が変化することで、回転機3に流れる電流が変化するため、本手法により劣化を検知することができる。
【実施例2】
【0068】
次に、回転機3に対する制御パターンが変化する場合について説明する。回転機3に対する制御パターンが変化した場合は、回転機3の基本波周波数やキャリア周波数等が変化するため、
図1に示した診断装置ではこれを異常と診断する場合があった。また、制御パターンが変化した状態も含めて正常状態として学習させると、劣化による変化を見逃し失報する場合があった。従って、制御パターン毎に正常性を診断することが望ましい。
【0069】
図11は、実施例2による診断装置のブロック図である。
【0070】
本実施例における診断装置は
図11に示すように、
図2に示したものに対して、司令部13を有する点が異なるものである。
【0071】
司令部13は、制御パターンの情報を示す制御指令を積算部7に与えるものである。制御指令としては、電圧指令値や電流指令値、励磁電流指令値、トルク電流指令値、速度指令値、周波数指令値等など、電源1が出力可能な指令値や、それに準ずる値の中から任意に選ぶことができる。
【0072】
積算部7においては、回転機3に対する制御指令毎に、組み合わせ毎の該組み合わせの出現密度を求め、蓄積部8において、制御指令毎に出現密度データを蓄積することになる。
【0073】
以下に、制御指令として、電圧指令値と周波数指令値が互いに異なる制御指令Aと制御指令Bの2つの条件で回転機3の状態を診断した場合について説明する。なお、制御指令Aは、電流の基本波周波数が50Hz、制御指令Bは、電流の基本波周波数が100Hzに対応する。
【0074】
積算部7は、変換部5にて求められた出現密度を、司令部13に入力された基本周波数に基づいて制御指令Aと制御指令Bに振り分けられた電流値ごとに積算する。そして、任意に定めた期間または点数のデータが蓄積された後、そのデータを出現密度データとして蓄積部8に蓄積する。
【0075】
その後、診断部9において、蓄積部8に蓄積された出現密度データを、制御指令情報が同じ状態で取得した正常と定義したデータと比較して対象データの異常度を求め、回転機3の正常性を診断する。
【0076】
図12は、制御指令Aで取得した正常状態の回転機3の電流波形から得られた行列Aの異常度を示す図である。なお、行列α,βはそれぞれ、制御指令A,Bで計測した正常状態の回転機3の電流波形で定義された行列である。
【0077】
図12に示すように、正常状態の回転機3を、正常状態の回転機3の電流データによる行列Aを行列αを用いて診断した場合は、行列AのBhattacharyya距離Zは、
図12に示すように、予め設定された閾値を超えていないため、診断部9において正常であると判断されることになる。
【0078】
一方、正常状態の回転機3を、正常状態の回転機3の電流データによる行列Aを行列βを用いて診断した場合は、行列AのBhattacharyya距離Zが、
図12に示すように、予め設定された閾値を超えているため、回転機3が正常状態であるにも関わらず診断部9において異常として判断されてしまう。
【0079】
このように本実施例では、制御指令が同じ状態として分類されたU相およびW相の電流で構成された行列に基づいて回転機3の状態を診断するため、司令部13に入力された制御指令に基づいて電流波形を分類し、分類したデータごとに出現密度を積算することで、制御パターンと電流情報とを組み合わせて診断精度の向上を図った。それにより、制御状態毎に好適な診断を行うことができる。
【0080】
なお、積算部7では、電源1が出力可能な指令値全てを必ずしも使用する必要は無く、検知対象の劣化に対する感度が高い指令値のみを用いることができる。感度が高い指令値とは、劣化状態における行列と、正常状態における行列の類似度合いを比較し、劣化状態と正常状態の差が見えやすくなるように選べばよい。また、条件を多くすると、同じ計測時間の電流データであっても、条件で分類した分だけデータ量が増えるため、診断精度とデータ量のトレードオフで、使用する指令値の数を制限することができる。