特許第6801234号(P6801234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6801234触媒の取り出し方法、フッ素基を有する化合物の製造方法、及び、触媒の保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801234
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】触媒の取り出し方法、フッ素基を有する化合物の製造方法、及び、触媒の保存方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/26 20060101AFI20201207BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20201207BHJP
   B01J 27/132 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 17/20 20060101ALI20201207BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   B01J37/26
   B01J37/08
   B01J27/132 Z
   C07C21/18
   C07C17/20
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-109489(P2016-109489)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-213524(P2017-213524A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2019年3月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西海 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】加留部 大輔
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5915808(JP,B1)
【文献】 特開平05−146680(JP,A)
【文献】 特表2015−525201(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00514932(EP,A2)
【文献】 特開平05−092141(JP,A)
【文献】 特開平10−052642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C07B31/00−61/00,63/00−63/04
C07C1/00−409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内でフッ化水素と触媒とを100〜460℃の範囲で接触して該触媒のフッ素化処理をした後に、該フッ素化された触媒を取り出す方法において、
前記フッ素化処理の後に前記反応器内の雰囲気温度が≧T(ただし、T(℃)は、前記フッ素化処理の温度、T(℃)は、前記雰囲気温度を示す)となるように加熱処理する加熱工程と、
前記フッ素化処理の後に不活性ガスを前記反応器内に流入してフッ化水素を反応器外へ追い出すパージ工程と、
を含む工程を経て前記フッ素化触媒を取り出す、触媒の取り出し方法で取り出した触媒の存在下、フッ化水素と、出発原料とを反応して、フッ素基を有する化合物を得る工程を具備する、フッ素基を有する化合物の製造方法。
【請求項2】
前記反応は気相フッ素化反応であって、
前記出発原料がハロゲンを有する化合物であり、
前記フッ素基を有する化合物がフッ素基含有ハロゲン化炭化水素である、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の取り出し方法、フッ素基を有する化合物の製造方法、及び、触媒の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応において使用される触媒は、主として反応速度を高める作用があり、所望の化合物を製造する上で工業上、欠かすことのできない材料である。このような触媒は、化学品、医薬品、中間原料などの合成プロセスにおいて、各反応の種類に応じて選定される。
【0003】
例えば、熱媒体、冷媒、発泡剤等に使用される含フッ素ハロゲン化炭化水素は、フッ化水素を用いる気相フッ素化反応や脱ハロゲン化水素反応によって合成されることが知られているが、この反応においても触媒の存在下で行われるのが一般的である(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
この反応で使用される触媒としては、より長い寿命を有しているという点でフッ素化触媒がしばしば使用され得る。このようなフッ素化触媒は、例えば、反応器内に収容した酸化クロム等の触媒と、フッ化水素とを加熱しながら接触させることで調製できることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。このように調製したフッ素化触媒を回収する方法としては、例えば、あらかじめ不活性ガスで系内を置換してフッ化水素等の有害ガスをパージし、その後、反応装置を解体するなどして触媒を取り出すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−277133号公報
【特許文献2】特開平5−146680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように反応系内に存在していたフッ化水素を不活性ガスで置換したとしても、フッ化水素が残存していることもあるため、反応装置の解体作業時において作業者がそのフッ化水素に曝露されるおそれがあり、危険性の高いものであった。また、フッ化水素はフッ素化触媒に吸着しやすい性質を有する。このため、不活性ガスで反応器内に滞留しているフッ化水素をパージできたとしても、取り出した上記触媒に吸着していたフッ化水素がその後に脱離して作業者に曝露されるおそれもあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、触媒のフッ素化処理において、当該フッ素化処理で使用した触媒を反応器から簡便、かつ、安全に取り出す方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記のように取り出したフッ素化触媒を使用したフッ素基を有する化合物の製造方法、並びに、上記のように取り出したフッ素化触媒を保存する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、反応器内において触媒をフッ化水素と接触させて触媒のフッ素化処理が終了した後に、反応系内を所定の雰囲気温度で加熱する工程と、不活性ガスでパージする工程とを備える方法を採用することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.反応器内でフッ化水素と触媒とを100〜460℃の範囲で接触して該触媒のフッ素化処理をした後に、該フッ素化された触媒を取り出す方法において、
前記フッ素化処理の後に前記反応器内の雰囲気温度が≧T(ただし、T(℃)は、前記フッ素化処理の温度、T(℃)は、前記雰囲気温度を示す)となるように加熱処理する加熱工程と、
前記フッ素化処理の後に不活性ガスを前記反応器内に流入してフッ化水素を反応器外へ追い出すパージ工程と、
を含む工程を経て前記フッ素化触媒を取り出す、触媒の取り出し方法で取り出した触媒の存在下、フッ化水素と、出発原料とを反応して、フッ素基を有する化合物を得る工程を具備する、フッ素基を有する化合物の製造方法。
項2.前記反応は気相フッ素化反応であって、
前記出発原料がハロゲンを有する化合物であり、
前記フッ素基を有する化合物がフッ素基含有ハロゲン化炭化水素である、上記項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る触媒の取り出し方法によれば、反応器内に残留するフッ化水素濃度を従来よりも低減することができ、特に触媒に付着したフッ化水素を除去することができる。その結果、反応器から触媒を取り出すにあたって作業者がフッ化水素に曝露されるおそれが小さくなるので、反応に使用した装置の解体作業、及び反応に使用した触媒の取り出し作業や交換作業を安全に行うことが可能となる。
【0011】
本発明に係る含フッ素ハロゲン化炭化水素の製造方法によれば、上記方法で取り出した触媒を使用するため、触媒に付着したフッ化水素が少なく、安全に反応を行うことができる。
【0012】
本発明に係る触媒の保存方法によれば、上記方法で取り出した触媒を保存するため、触媒に付着したフッ化水素が少ない。よって、保存中に触媒からフッ化水素が発生するおそれが低いものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の触媒の取り出し方法では、反応器内でフッ化水素と触媒とを接触して該触媒のフッ素化処理をした後に、フッ素化された触媒を取り出す方法において、前記フッ素化処理の後に前記反応器内の雰囲気温度が40℃以上になるように加熱処理する加熱工程と、前記フッ素化処理の後に不活性ガスを前記反応器内に流入してフッ化水素を反応器外へ追い出すパージ工程、とを含む工程を経て前記フッ素化触媒を取り出す。
【0015】
上記触媒の取り出し方法によれば、反応器内に残留するフッ化水素濃度を従来よりも低減することができ、特に触媒に付着したフッ化水素を除去することができる。その結果、反応器から触媒を取り出すにあたって作業者がフッ化水素に曝露されるおそれが小さくなるので、反応に使用した装置の解体作業、及び反応に使用した触媒の取り出し作業や交換作業を安全に行うことが可能となる。
【0016】
反応器内でフッ化水素と触媒を接触して触媒のフッ素化処理をする方法は特に限定的ではなく、例えば、公知の方法を採用することができる。具体的には、反応器内に触媒を収容し、この反応器へフッ化水素を添加し、触媒とフッ化水素とを接触させることで、触媒のフッ素化処理を行うことができる。反応器の種類も特に制限されない。
【0017】
触媒とフッ化水素とを反応器内で接触させる温度、すなわち、フッ素化処理の温度も特に制限はなく、従来から行われているフッ素化処理と同様の温度にすることができる。フッ素化処理の温度は、例えば100〜460℃の範囲とすることができる。
【0018】
触媒とフッ化水素とを反応器内で接触させる際の反応器内の圧力も特に制限はなく、従来から行われているフッ素化処理と同様の圧力にすることができる。フッ素化処理の圧力は、例えば−0.1〜5.0MPa(ゲージ圧)の範囲とすることができる。
【0019】
触媒とフッ化水素とを反応器内で接触させる時間、すなわち、フッ素化処理時間も特に制限はなく、従来から行われているフッ素化処理と同様の温度にすることができる。フッ素化処理時間は、例えば0.5〜100時間の範囲とすることができる。
【0020】
フッ素化処理するにあたっては、フッ化水素を二段階以上に分けて反応器へ供給してもよい。また、フッ素化処理の温度は、段階的に変化させてもよく、例えば、段階的に温度を上昇させてもよい。また、フッ素化処理するにあたっては、窒素等の不活性ガスを反応器へ供給してもよい。
【0021】
上記のように触媒とフッ化水素とを接触させることで、触媒がフッ素化処理されてフッ素化触媒が得られる。フッ素化触媒におけるフッ素含量は特に限定的ではなく、触媒の使用目的等に応じて適宜設定することができるが、例えば、フッ素含有量を0.5重量%以上とすることができる。フッ素含有量がこの範囲となれば、フッ素化処理を終了して、次の工程に移ることができる。フッ素含有量は、より好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上とすることができる。フッ素含有量の上限は特に限定されないが、例えば、50重量%程度とすることができる。上記フッ素含量は、例えば、仕込みの触媒及びフッ化水素の量、フッ素化処理の温度、フッ素化処理の時間、フッ素化処理の圧力の調節により制御することが可能である。
【0022】
フッ素化処理に使用する触媒の種類は特に制限はされない。例えば、フッ素化触媒を後述の気相フッ素化反応に使用するのであれば、当該反応で一般的に使用されている触媒を使用できる。
【0023】
上記触媒としては、金属を含有する化合物、金属と活性炭とを含む混合物及び金属を含有する化合物と活性炭とを含む混合物からなる群より選択される少なくとも1種が例示される。
【0024】
上記金属としては、クロム、チタン、アルミニウム、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、モリブデン、ジルコニウム、ゲルマニウム、ニオブ、タンタル、イリジウム、ハフニウム、バナジウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、セシウム、ルビジウム及びアンチモンからなる群より選択される少なくとも1種が例示される。
【0025】
上記の金属を含有する化合物としては、金属塩化物、金属酸化物、金属フッ化物、金属フッ化塩化物、金属オキシフッ化物、金属オキシ塩化物または金属オキシフッ化塩化物が例示される。また、触媒が金属を含有する化合物である場合、該金属を含有する化合物は、異種あるいは同種の金属を含有する化合物に担持された、いわゆる担持触媒であってもよい。金属を含有する化合物のより好ましい例示としては、酸化クロム、アルミナ、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、塩化アンチモン、アルミナ担持酸化クロム、亜鉛含有酸化クロム、コバルト含有酸化クロム、フッ化アルミニウム担持ニッケル含有クロム等が挙げられる。
【0026】
上記の金属と活性炭とを含む混合物は、金属が活性炭に担持された、いわゆる金属担持触媒が例示される。
【0027】
また、上記の金属を含有する化合物と活性炭とを含む混合物は、金属を含有する化合物が活性炭に担持された、いわゆる金属化合物担持触媒が例示される。より好ましくは、Cr/C、FeCl/C、SbCl/C、MgF含有Cr/C等が挙げられる。
【0028】
フッ素化処理に使用するフッ化水素の種類も特に制限されない。フッ化水素は、無水フッ化水素であってもよいし、あるいは、水分を含んでいてもよい。
【0029】
上記の触媒は、結晶化及び非晶質のいずれも適用可能である。非晶質の触媒に結晶化した触媒が混合されていてもよいし、もしくは、非晶質の触媒中、一部が結晶化していても良い。
【0030】
フッ素化処理は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよいが、生産効率等の観点からは連続式で行うことが好ましい。フッ素化処理を行うための反応装置は、例えば、従来からフッ素化処理を行う際に使用されている装置を使用することができる。このような反応装置は、一般的には、原料等の貯蔵槽、フッ素化処理が行われる反応器、蒸留塔、生成物の貯蔵槽、送流配管などのユニットを備えて構成されている。反応装置は、解体することが可能である。従って、フッ素化処理後に反応器内のフッ素化触媒を回収するにあたっては、反応装置を解体することで、反応器からフッ素化触媒を取り出すことができる。
【0031】
そして、一般的には反応装置を解体する前に反応器内を不活性ガスで置換してから、有害ガスであるフッ化水素を追い出し、その後にフッ素化触媒を取り出すことが行われている。しかし、上述のフッ素化処理では、フッ化水素は反応器の気相のみに存在するだけではなく、フッ素化触媒に吸着した状態でも存在している。よって、フッ素化触媒を回収するにあたって、従来のように反応系内を不活性ガス置換するだけでは、フッ素化触媒に付着したフッ化水素の脱離によって安全に回収することが困難になることがある。そこで、本実施形態に係る触媒の取り出し方法では、上述の加熱工程及びパージ工程を含む工程を経ることで、フッ素化触媒の取り出しを行う。
【0032】
加熱工程では、上記フッ素化処理の後に前記反応器内の雰囲気温度が40℃以上になるように加熱処理を行う。
【0033】
上記加熱の手段は特に限定されず、例えば、反応装置に接続したヒーター等によって、所望の雰囲気温度になるように加熱することが可能である。
【0034】
上記加熱処理では、反応系内の雰囲気温度が40℃以上になるように加熱する。雰囲気温度を40℃以上に加熱することで、フッ素化触媒に付着したフッ化水素が触媒から脱離しやすくなる。
【0035】
雰囲気温度を40℃以上に加熱するにあたっては、フッ素化処理の後に一旦、反応器内の雰囲気温度を40℃以下に冷却してから加熱してもよいし、あるいは、フッ素化処理の後、冷却をせずに直接、雰囲気温度を40℃以上の所望の温度に加熱してもよい。
【0036】
ここで、フッ素化処理の温度をT、反応系内の加熱処理後の上記雰囲気温度Tとした場合、加熱工程において、T≧T−100℃となるように加熱処理をすることが好ましい。要するに、反応系内の雰囲気温度Tを、フッ素化処理の温度Tよりも100℃だけ低い温度以上に加熱することが好ましい。この場合、フッ素化触媒に付着したフッ化水素が触媒からより脱離しやすくなる。さらに好ましくは、加熱工程における加熱処理により、T≧Tとなるように加熱すること(すなわち、雰囲気温度がフッ素化処理の温度以上になるように加熱すること)である。
【0037】
反応系内の雰囲気温度の上限値は特に制限はないが、雰囲気温度が500℃以下になるように加熱処理を行うことが好ましい。この場合、フッ素化触媒の取り出しにかかる時間の遅延が起こりにくい。
【0038】
パージ工程は、フッ素化処理の後に不活性ガスを反応器内に流入させてフッ化水素を反応器外へ追い出す工程である。つまり、パージ工程は、不活性ガスによってフッ化水素をパージする工程である。
【0039】
不活性ガスの種類は特に制限はないが、例えば、窒素ガスである。
【0040】
不活性ガスに含まれる水分量は、1000ppm未満にすることができる。水分量が1000ppm未満であることによって、反応器に対する腐食が抑制され得る。不活性ガスに含まれる水分量は、好ましくは0ppm以上10ppm未満であり、より好ましくは0ppm以上5ppm未満であり、特に好ましくは0ppm以上3ppm未満である。
【0041】
フッ素化処理が連続式である場合は、不活性ガスを反応器の入口から流入させると共に、反応器の出口から流出させるようにして、不活性ガスを反応器内に連続的に吹き込むことができる。
【0042】
不活性ガスの流量に特に制限はないが、例えば、反応器内に仕込んである触媒1gあたり10mL/分以上にすれば、効率良くフッ化水素を反応器外へ追い出すことができる。
【0043】
不活性ガスを反応器内へ流入させ続ける時間も特に制限はないが、例えば、1時間以上流入させれば反応器内のフッ化水素の濃度を十分に低減させることができ、好ましくは5時間以上、より好ましくは24時間以上、さらに好ましくは48時間以上流入を続けることもできる。
【0044】
パージ工程の操作は、加熱工程の操作と同時に行ってもよい。また、パージ工程と加熱工程は、いずれの操作を先に開始してもよく、その順序に特に限定はない。
【0045】
詳述すると、加熱工程では、反応器内の雰囲気温度が所定の温度になるまで加熱処理をするが、加熱処理を行っている最中に、パージ工程の操作、つまり、不活性ガスによるパージを行ってもよい。この場合、不活性ガスによるパージは、雰囲気温度が所定の温度になってから開始してもよいし、雰囲気温度の上昇中に開始してもよい。また、不活性ガスによるパージを開始してから加熱処理を行うこともできる。このように、加熱処理と不活性ガスによるフッ化水素のパージとを同時に行ってもよい。
【0046】
上記の加熱工程と、パージ工程の操作を経た後、反応器からフッ素化触媒を取り出し、回収する。上述のように、反応装置を解体することで、反応器からフッ素化触媒を取り出すことができる。なお、反応器からフッ素化触媒を取り出すにあたっては、上記の加熱工程及びパージ工程以外の工程、例えば、反応器の洗浄工程や冷却工程等を経てもよい。
【0047】
本実施形態の触媒の取り出し方法では、上記の加熱工程及びパージ工程を含む工程を経てフッ素化触媒の取り出しを行う。加熱処理により、フッ素化触媒に付着しているフッ化水素が脱離する。脱離したフッ化水素は、不活性ガスによって反応器の外部へ追い出されるので、反応器内に残存するフッ化水素が非常に低濃度まで低減される。そのため、反応器からフッ素化触媒を取り出す際に、触媒回収の作業者が、有害なフッ化水素ガスに晒される危険性が小さくなり、従来よりも安全に触媒回収の作業が行えるようになる。
【0048】
また、上記方法で取り出した触媒は、フッ化水素の付着量が少ないため、吸湿性がより低いので、反応性を向上させることも期待できるものである。
【0049】
本実施形態の触媒の取り出し方法で取り出したフッ素化触媒は保存することができる。特に、上記のように取り出したフッ素化触媒は、有害なフッ化水素の付着量が少ないので、従来の方法で取り出したフッ素化触媒に比べて、より安全に保存することができる。
【0050】
取り出したフッ素化触媒の保存の方法は特に限定されず、例えば、従来と同様の方法とすることができる。例えば、取り出した触媒をそのまま保管場所に保存してもよい。取り出した触媒は、例えば、無水フッ化水素の沸点を考慮して、冷暗所に保管することができる。
【0051】
上記触媒の取り出し方法によって取り出されたフッ素化触媒は、各種化合物の合成反応に使用することができる。
【0052】
例えば、上記方法で取り出したフッ素化触媒を使用して、フッ素基を有する化合物を製造することができる。
【0053】
具体的に上記フッ素基を有する化合物(フッ素基含有化合物)は、上記方法で取り出した触媒の存在下、フッ化水素と、出発原料とを反応して、フッ素基を有する化合物を得る工程を具備する製造方法によって得ることができる。
【0054】
上記反応は、フッ化水素と、上記フッ素化触媒を少なくとも含む反応器内にて行われる。その他、反応器内には、出発原料となる材料や必要に応じて添加される添加剤等も含まれる。
【0055】
フッ化水素は、反応器入口から反応器内に導入され得る。あるいは、上記フッ化水素は、出発原料や中間体の脱フッ素反応によって反応器内に生成することでも導入され得る。
【0056】
上記反応は気相で行う反応であってもよいし、あるいは、液相で行う反応であってもよく、その反応形態は特に限定はない。
【0057】
上記反応の生成物であるフッ素基含有化合物は、その反応に使用する出発原料の種類によって異なるが、例えば、少なくともフッ素基を置換基として有するハロゲン化炭化水素(フッ素基含有ハロゲン化炭化水素)が挙げられる。このようなフッ素基含有ハロゲン化炭化水素は、例えば、フッ素及びその他のハロゲンを置換基として有するアルカンやフッ素及びその他のハロゲンを置換基として有するアルケンなどであり、その種類は特に限定されない。また、上記ハロゲン化炭化水素の炭素数にも特に制限はないが、例えば1〜6、好ましくは1〜4とすることができる。以下、上記フッ素基含有ハロゲン化炭化水素の具体例や好ましい例について説明する。
【0058】
上記のフッ素基含有ハロゲン化炭化水素は、フッ素及びその他のハロゲンを置換基として有するアルカンもしくはアルケン、すなわち、少なくともフッ素基を有するアルカン(以下「フルオロアルカン」という)もしくはオレフィン(以下「フルオロオレフィン」という)であることが好ましい。フルオロオレフィンは、炭素−炭素二重結合を有する化合物であって、少なくともフッ素を置換基として有する化合物である。フルオロアルカンもしくはフルオロオレフィンは、フッ素基以外の置換基として塩素、臭素、ヨウ素からなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン基を少なくとも1つ以上有していてもよい。
【0059】
より好ましいフルオロオレフィンは、少なくともフッ素基を有するプロペン(いわゆる、フルオロプロペン)である。フルオロプロペンは、フッ素基以外の置換基として塩素、臭素、ヨウ素からなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン基を少なくとも1つ以上有していてもよい。
【0060】
フッ素基含有ハロゲン化炭化水素のより具体的な例としては、1,1,1,3−テトラフルオロ−2−ブテン(HFO−1354mzf)、2,4,4,4−テトラフルオロ−2−ブテン(HFO−1354mfy)、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO−1336mzz)、3−トリフルオロメチル−4,4,4−トリフルオロ−1−ブテン(HFO−1336mm)、1,1,2,3,3,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブテン(HFO−1327pc)、1,1,1,2,4,4,4−ヘプタフルオロ−2−ブテン(HFO−1327myz)等のフルオロブテン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO−1234ye)、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン(HFO−1243zf)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233zd)、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(CFO−1214ya)、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HCFO−1224yd)、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリクロロ−1−プロペン(HCFO−1223xd)、3,3,3−トリフルオロプロピン等のフルオロプロペンもしくはフルオロプロピンである。その他、フッ素基含有ハロゲン化炭化水素として、フルオロホルム(HFC−23)、メチレンジフルオリド(HFC−32)、フルオロメタン(HFC−41)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,2−トリフルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン、2−クロロ−1,1,1,トリフルオロエタン(HCFC−133a)、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC−244bb)等も例示される。
【0061】
上記出発原料は、特に制限されず、例えば、ハロゲンを有する化合物とすることができる。例えば、上記反応の生成物であるフッ素基含有ハロゲン化炭化水素がHFO−1234yfである場合、出発原料としては、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)、2,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロプロパン(HCFC−243db)、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロプロパン(HCFC−244bb)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240db)、1,1,2,2,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240aa)、1−クロロ−1,1,2,2−テトラフルオロプロパン(HCFC−244cc)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233zd)、1,1,3−トリクロロプロペン(HCFO−1231ya)、1,1,2,3−テトラクロロプロペン(HCO−1230xa)等が使用され得る。
【0062】
上記の反応における温度は特に制限はなく、例えば、生成物がフッ素基含有ハロゲン化炭化水素である場合、反応温度は40〜500℃の範囲とすることができる。その他の反応条件等は、例えば、公知の方法と同様の条件とすることができる。
【0063】
上記反応は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよいが、生産効率等の観点からは連続式で行うことが好ましい。反応装置は、例えば、従来からフッ素基含有ハロゲン化炭化水素の合成を行う際に使用されているものを使用することができる。このような反応装置は、一般的には、原料等の貯蔵槽、反応が行われる反応器、蒸留塔、生成物の貯蔵槽、送流配管などのユニットを備えて構成されている。反応装置は、解体することが可能である。従って、反応終了後に反応器内の触媒を回収するにあたっては、反応装置を解体することで、反応器から触媒を取り出すことができる。
【0064】
上記反応終了後、使用した触媒を取り出すにあたっては、上述した触媒の取り出し方法と同様の方法を採用することができる。
【0065】
つまり、上記の反応の終了後に反応器内の雰囲気温度が40℃以上になるように加熱処理する加熱工程と、上記の反応の終了後に不活性ガスを前記反応器内に流入してフッ化水素を反応器外へ追い出すパージ工程とを含む工程を経て、触媒を取り出すことができる。なお、上記反応後において触媒を取り出すにあっての加熱工程を「反応後加熱工程」、パージ工程を「反応後パージ工程」とする。
【0066】
反応後加熱工程では、上記反応の終了後に前記反応器内の雰囲気温度が40℃以上になるように加熱処理することができる。
【0067】
ここで、反応の温度をT、反応後加熱処理後の上記雰囲気温度Tとした場合、反応後加熱工程において、T≧T−100℃となるように加熱処理をすることが好ましい。この場合、フッ素化触媒に付着したフッ化水素が触媒からより脱離しやすくなる。さらに好ましくは、反応後加熱処理により、T≧Tとなるように加熱することである。
【0068】
尚、その他の反応後加熱処理の条件は、上述した加熱工程と同様とすることができる。
【0069】
反応後パージ工程は、反応の終了後に不活性ガスを前記反応器内に流入させてフッ化水素を反応器外へ追い出す工程である。この反応後パージ工程の条件は、上述したパージ工程と同様とすることができる。
【0070】
上記のように反応後の触媒を取り出すことで、触媒をフッ素化処理した後にフッ素化触媒を取り出す場合と同様、反応器から触媒を取り出す際に、触媒回収の作業者が、有害なフッ化水素ガスに晒される危険性が小さく、安全に触媒回収の作業が行える。一般的に、触媒を使用し続けると、触媒自体の劣化により本来の性能が低下し、反応速度や反応収率等に影響を与えてしまうおそれがあるため、反応に使用した触媒を定期的に交換することが行われる。このような触媒の交換作業において、上記のように触媒を取り出す方法が非常に有効である。回収した触媒は、例えば、再生して再度の反応に使用してもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
酸化クロム触媒20.0gを管状反応器に充填し、反応器の温度を200℃にして、窒素を450mL/分、無水フッ化水素を50mL/分の流速で供給して1時間維持した。その後、反応器の温度を上げながら無水フッ化水素の流速を上げていき、最終的には反応器の温度を330℃にして、無水フッ化水素を500mL/分の流速で供給して1時間維持した。このときの温度(330℃)をフッ素化処理の最終の温度として、酸化クロム触媒のフッ素化処理を行った。フッ素化処理後の触媒のフッ素含有率は25重量%であった。
【0073】
このフッ素化処理が終了した後、反応器内の雰囲気温度を350℃にし(加熱工程)、水分量2.5ppmである窒素ガスを200mL/分の流速で導入して(パージ工程)、12時間後の反応器内のフッ化水素濃度を測定した。その結果、反応器内のフッ化水素の濃度は2.5ppm未満であった。
【0074】
その後、反応装置を解体してフッ素化触媒を取り出し、このフッ素化触媒13.7gを別の管状反応器に充填し、反応器を大気圧(0.1MPa)及び350℃に維持した。続いて、この反応器へ、無水フッ化水素及びCFCCl=CH(HCFO−1233xf)のガスを供給し、CFCF=CH(HFO−1234yf)を合成した。45時間後の反応器の流出物を、ガスクロマトグラフを用いて分析した。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同様の条件下で酸化クロム触媒のフッ素化処理を行った。このフッ素化処理が終了した後、反応器内の雰囲気温度を25℃にし、水分量2.5ppmである窒素ガスを200mL/分の流速で導入して(パージ工程)、12時間後の反応器内のフッ化水素濃度を測定した。その結果、反応器内のフッ化水素の濃度は100ppm以上であり、安全でない濃度であった。
【0076】
【表1】