特許第6801405号(P6801405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6801405スピン軌道トルク型磁化反転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801405
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】スピン軌道トルク型磁化反転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20201207BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20201207BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20201207BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   H01L27/105 447
   H01L29/82 Z
   H01L43/08 Z
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-232240(P2016-232240)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-88507(P2018-88507A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】塩川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智生
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/021468(WO,A1)
【文献】 特開2014−183319(JP,A)
【文献】 特開2008−010590(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0222135(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0264671(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/159017(WO,A1)
【文献】 米国特許第09218864(US,B1)
【文献】 特開2014−045196(JP,A)
【文献】 特開2008−109118(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057504(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/110119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 27/105
H01L 29/82
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、
スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、第1強磁性金属層の飽和磁界が0.1T以上となるスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項2】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記スピン軌道トルク配線を介したRKKY結合により、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行となるスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項3】
前記スピン軌道トルク配線の膜厚は、3nm以下である、請求項1又は2に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項4】
前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nmであるRuを用いた請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項5】
前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nm、あるいは1.4nm〜1.6nmであるRhを用いた請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項6】
前記スピン軌道トルク配線は、d電子またはf電子を有する原子番号39番以上の非磁性金属を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項7】
前記第2強磁性金属層は、垂直磁気異方性エネルギーが1×10erg/cc以上のL1規則層合金を含む強磁性金属層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項8】
前記第2強磁性金属層の体積が、前記第1強磁性金属層の体積より大きい請求項1〜7のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項9】
前記第2強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積が、前記第1強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積より大きい請求項1〜8のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項10】
前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合する酸化物層をさらに備える請求項1〜9のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項11】
前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合するTi、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Au、からなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含む合金からなる金属下地層を備える請求項1〜9のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項12】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記第1強磁性金属層の容易軸が積層面に対して垂直であり、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、
前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nmのRuである、スピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項13】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記第1強磁性金属層の容易軸が積層面に対して垂直であり、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、
前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nm、あるいは1.4nm〜1.6nmのRhである、スピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項14】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記第1強磁性金属層の容易軸が積層面に対して垂直であり、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、
前記第2強磁性金属層の体積が、前記第1強磁性金属層の体積より大きい、スピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項15】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記第1強磁性金属層の容易軸が積層面に対して垂直であり、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、
前記第2強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積が、前記第1強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積より大きい、スピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項16】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記第1強磁性金属層の容易軸が積層面に対して垂直であり、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、
前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合する酸化物層をさらに備える、スピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項17】
磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層され、
前記第1強磁性金属層の容易軸が積層面に対して垂直であり、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行であり、
前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合するTi、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Au、からなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含む合金からなる金属下地層を備える、スピン軌道トルク型磁化反転素子。
【請求項18】
前記第1強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合する非磁性層と、前記非磁性層の、前記第1強磁性金属層と接合する反対側の面に接合する、磁化方向が固定された第3強磁性金属層とを有した請求項1〜1のいずれか一項に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子を用いた磁気抵抗効果素子。
【請求項19】
請求項11又は17に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子と、
前記第1強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合する非磁性層と、前記非磁性層の、前記第1強磁性金属層と接合する反対側の面に接合する、磁化方向が固定された第3強磁性金属層と、を有する磁気抵抗効果素子を備え、
前記金属下地層と、前記第3強磁性金属層と、の間の抵抗値から記録情報を読み取る磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン軌道トルク型磁化反転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性層と非磁性層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)素子、及び、非磁性層に絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子が知られている。一般に、TMR素子は、GMR素子と比較して素子抵抗が高いものの、TMR素子の磁気抵抗(MR)比は、GMR素子のMR比より大きい。そのため、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)用の素子として、TMR素子に注目が集まっている。
【0003】
MRAMは、絶縁層を挟む二つの強磁性層の互いの磁化の向きが変化するとTMR素子の素子抵抗が変化するという特性を利用してデータを読み書きする。MRAMの書き込み方式としては、電流が作る磁場を利用して書き込み(磁化反転)を行う方式や磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流して生ずるスピントランスファートルク(STT)を利用して書き込み(磁化反転)を行う方式が知られている。
【0004】
STTを用いたTMR素子の磁化反転はエネルギーの効率の視点から考えると効率的ではあるが、磁化反転をさせるための反転電流密度が高い。TMR素子の長寿命の観点から、この反転電流密度は低いことが望ましい。この点は、GMR素子についても同様である。
【0005】
STTによる反転電流密度は強磁性体の体積に比例して大きくなるため、強磁性体の体積を小さくすることで反転電流密度を低減させる試みが行われている。しかし一方で、磁気記録保持時間は、強磁性体の磁気エネルギーが磁気異方性エネルギーと強磁性体の体積に依存するため、強磁性体の体積を小さくしてしまうと磁気記録保持時間は短くなってしまう。これは、強磁性体の持つ磁気エネルギーが小さくなることで強磁性体が外部からの熱により熱擾乱をし、その磁化方向が変化してしまうことに起因する。すなわち、長期間情報を保持するためには、熱擾乱に対して強い、熱安定性の高い磁気抵抗効果素子が求められている。
【0006】
そこで近年、STTとは異なったメカニズムで、反転電流を低減する手段としてスピン軌道相互作用により生成された純スピン流を利用した磁化反転に注目が集まっている(例えば、非特許文献1)。スピン軌道相互作用によって生じた純スピン流は、スピン軌道トルク(SOT)を誘起し、SOTにより磁化反転を起こす。あるいは、異種材料の界面におけるラシュバ効果によって生じた純スピン流でも同様のSOTにより磁化反転を起こす。これらのメカニズムについてはこれまでに明らかになっていない。
【0007】
純スピン流は上向きスピンの電子と下向きスピン電子が同数で互いに逆向きに流れることで生み出されるものであり、電荷の流れは相殺されている。そのため磁気抵抗効果素子に流れる電流はゼロであり、反転電流密度の小さな磁気抵抗効果素子の実現が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2015/0213868号
【特許文献2】国際公開第2016/021468号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.Fukami,T.Anekawa,C.Zhang and H.Ohno,Nature Nano Tech (2016).DOI:10.1038/NNANO.2016.29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
SOTの問題点は、構造的制限、材料的制限があげられる。SOTは強磁性金属層とスピン軌道トルク配線の界面で発生するトルクを利用するため、強磁性金属層を厚くすることができない。そのため、強磁性金属層は熱安定性が悪くなってしまうことである。また、スピン軌道トルク配線からのスピン流は、スピン軌道トルク配線の各面に平行なスピンを生成するため、電流に対して垂直な4つの方向の内1つの方向のスピン流のみしか使えず、エネルギー的な無駄が生じてしまう。
【0011】
特許文献1では逆側のスピン流を利用することが提案されているが、上下の磁気抵抗素子で必ず反対向きのスピンが注入されるため、上下両方の磁化方向が同時に書き換わってしまうことが考えられる。また、それぞれの磁気抵抗素子で異なった書き込みができない。
【0012】
また、特許文献2ではスピン軌道トルク配線の下に強磁性金属設置することによって、上下2層の強磁性金属層を静磁界結合によって結合させることで実効的に強磁性金属層の体積を増大させているが、静磁結合という比較的弱い結合を用いているため、それぞれの強磁性金属層が外部からの力(外部磁界やSTTなど)で動いてしまい、十分な熱安定性を確保できていない。
この静磁界結合はスピン軌道トルク配線が厚い場合に、それぞれの強磁性金属層から漏れる磁界によって作られる結合である。静磁界結合を大きくするには漏れる磁界を大きくする、すなわち強磁性金属層の体積を大きくすればよい。しかし、漏れ入る強磁性金属層は、その漏れ入る磁界で束縛されるため体積を小さくする必要がある。静磁界結合は、二つの強磁性金属層が互いに束縛し、束縛されるため、体積の増加による結合力の増加は不可能である。そのため、静磁界結合は小さな結合力となってしまい、熱安定性を向上させる効果は小さくなる。
また、この漏れ磁場を利用する限り、隣接する磁気抵抗効果素子からの漏れ磁場の影響も受けることとなり、外部磁場による擾乱を増長する可能性もある。これは高集積化が困難であることも意味している。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、エネルギーの無駄がなく、強磁性金属層の熱安定性の高いスピン軌道トルク型磁化反転素子、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0015】
(1)本発明の一態様に係るスピン軌道トルク型磁化反転素子は、磁化方向が変化する第1強磁性金属層と、スピン軌道トルク配線と、第2強磁性金属層と、が記載された順に積層されている。
【0016】
(2)上記(1)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記スピン軌道トルク配線を介して、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行である。
【0017】
(3)上記(1)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、第1強磁性金属層の飽和磁界が0.1T以上である。
【0018】
(4)上記(1)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記スピン軌道トルク配線を介したRKKY結合により、前記第1強磁性金属層の磁化方向と前記第2強磁性金属層の磁化方向が反平行である。
【0019】
(5)上記(1)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記第1強磁性金属層の磁化容易軸が積層面に対して垂直である。
【0020】
(6)上記(1)〜(5)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nmであるRuを用いてもよい。
【0021】
(7)上記(1)〜(5)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記スピン軌道トルク配線は、膜厚が0.7nm〜0.9nm、あるいは1.4nm〜1.6nmであるRhを用いてもよい。
【0022】
(8)上記(1)〜(5)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記スピン軌道トルク配線は、d電子またはf電子を有する原子番号39番以上の非磁性金属を含んでもよい。
【0023】
(9)上記(1)〜(8)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記第2強磁性金属層は、垂直磁気異方性エネルギーが1×10erg/cc以上のL1規則層合金を含む強磁性金属層でもよい。
【0024】
(10)上記(1)〜(9)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記第2強磁性金属層の体積が、前記第1強磁性金属層の体積より大きくてもよい。
【0025】
(11)上記(1)〜(10)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記第2強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積が、前記第1強磁性金属層の垂直磁気異方性エネルギーと体積の積より大きくてもよい。
【0026】
(12)上記(1)〜(11)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する面と反対側の面に接合する酸化物層をさらに備えてもよい。
【0027】
(13)上記(1)〜(11)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前記第2強磁性金属層の、前記スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合するTi、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Au、からなる群から選択される金属、及びこれらの金属を1種以上含む合金からなる金属下地層を備えてもよい。
【0028】
(14)上記(1)〜(11)、及び(13)に記載のスピン軌道トルク型磁化反転素子において、前期第1強磁性金属層の、前期スピン軌道トルク配線と接合する反対側の面に接合する非磁性層と、前期非磁性層の、前期第1強磁性金属層と接合する反対側の面に接合する、磁化方向が固定された第3強磁性金属層と、を有した磁気抵抗効果素子であり、前記金属下地層と、前記第3強磁性金属層間の抵抗値から記録情報を読み取ってもよい。
【0029】
(15)本発明の一態様に係る磁気メモリは、上記(14)に記載の磁気抵抗効果素子を複数備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明のスピン軌道トルク型磁化反転素子によれば、エネルギーの無駄がなく、強磁性金属層の熱安定性の高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】スピン軌道トルク型磁化反転素子における一実施形態を説明するための模式図である。
図2】スピンホール効果について説明するための模式図である。
図3】スピン軌道トルク型磁化反転素子の実施形態の変形例1を説明するための模式図である。
図4】スピン軌道トルク型磁化反転素子の実施形態の変形例2を説明するための模式図である。
図5】スピン軌道トルク型磁化反転素子の実施形態の変形例3を説明するための模式図である。
図6】スピン軌道トルク型磁化反転素子の実施形態の変形例4を説明するための模式図である。
図7】スピン軌道トルク型磁化反転素子の実施形態の変形例5を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。本発明の素子において、本発明の効果を奏する範囲で他の層を備えてもよい。
【0033】
図1に、本発明の一実施形態に係るスピン軌道トルク型磁化反転素子とスピン軌道トルク型磁化反転素子を用いた磁気抵抗効果素子の一例の模式図を示す。
スピン軌道トルク型磁化反転素子1Aは、磁気抵抗効果素子1Bとスピン軌道トルク配線14と、第2強磁性金属層15とで構成されたものである。磁気抵抗効果素子部1Bは、第3強磁性金属層11と、非磁性層12と、第1強磁性金属層13で構成されたものである。
図1を含めて以下では、スピン軌道トルク配線が磁気抵抗効果素子部の積層方向に対して交差する方向に延在する構成の例として、直交する方向に延在する構成の場合について説明する。
【0034】
<磁気抵抗効果素子部>
磁気抵抗効果素子部1Bは、磁化方向が固定された第3強磁性金属層11と、磁化方向が変化する第1強磁性金属層13と、第3強磁性金属層11及び第1強磁性金属層13に挟持された非磁性層12とを有する。
第3強磁性金属層11の磁化が一方向に固定され、第1強磁性金属層13の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子として機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第3強磁性金属層11の保持力は第1強磁性金属層13の保磁力よりも大きいものであり、また、交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第3強磁性金属層11では反強磁性層との交換結合によって磁化方向が固定される。
また、磁気抵抗効果素子部1Bは、非磁性層12が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子であり、非磁性層12が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子である。
【0035】
本発明が備える磁気抵抗効果素子部としては、公知の磁気抵抗効果素子の構成を用いることができる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第3強磁性金属層11の磁化方向を固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。
第3強磁性金属層11は固定層や参照層、第1強磁性金属層13は自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0036】
第3強磁性金属層11の材料には、公知のものを用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0037】
また、より高い出力を得るためにはCoFeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、XYZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、CoFeSi、CoMnSiやCoMn1−aFeAlSi1−bなどが挙げられる。
【0038】
また、第3強磁性金属層11の第1強磁性金属層13に対する保磁力をより大きくするために、第3強磁性金属層11と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、第3強磁性金属層11の漏れ磁場を第1強磁性金属層13に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
【0039】
さらに第3強磁性金属層11の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、第3強磁性金属層11は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
【0040】
第1強磁性金属層13の材料として、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feが挙げられる。
【0041】
第1強磁性金属層13の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、第1強磁性金属層の厚みを2.5nm以下とすることが好ましい。第1強磁性金属層13と非磁性層層12の界面で、第1強磁性金属層13に垂直磁気異方性を付加することができる。また、垂直磁気異方性は第1強磁性金属層13の膜厚を厚くすることによって効果が減衰するため、第1強磁性金属層13の膜厚は薄い方が好ましい。
【0042】
第1強磁性金属層13は各アプリケーションにおいて重要な働きをする。第1強磁性金属層13はMRAMにおいては情報を記録する層であり、その磁化の方向で情報の“0”と“1”を記憶する。また、第1強磁性金属層13はセンサにおいてはセンシング層であり、その磁化の方向でセンシングする外部磁場の大きさを評価する。すなわち、第1強磁性金属層13の磁化の向きは外乱に対して強くある必要がある。
【0043】
第1強磁性金属層13の磁化の向きを乱す外乱の一つに熱がある。強磁性体の磁化が熱によって揺らぐ熱擾乱が知られている。強磁性体は上向きスピンでも下向きスピンでも両状態のエネルギーは変わらず、二つのエネルギー的に安定な状態を有する。この二つのエネルギーの間にはエネルギーバリアが存在する。熱擾乱が大きくなりこのエネルギーバリアを超えてしまうと磁化反転してしまう。エネルギーバリアの高さは強磁性体の磁気異方性エネルギーKと強磁性体の体積Vを掛けた値(K・V)であることが知られている。磁気抵抗効果素子の熱安定性を向上させるには、磁気異方性エネルギーKを向上させるか、強磁性体の体積Vを増大させるか、またその両方を増大させる必要がある。
【0044】
しかし、上述したように第1強磁性金属層は薄い方が望ましく、またMRAMにおいては高集積化から素子面積を小さくする必要があるため体積Vの増大による熱安定性の確保は難しい。
【0045】
一方で、STTにおける磁化の反転電流密度も強磁性体の磁気異方性エネルギーKと強磁性体の体積Vを掛けた値(K・V)に比例する。これは電流によってエネルギーバリアを乗り越えるためであり、熱擾乱で磁化の方向が変わってしまうことと原理は同じである。すなわち、熱安定性の確保のための磁気異方性エネルギーKの増大、または体積の増大と、反転電流密度の低減はトレードオフの関係にある。
【0046】
そこで、本実施形態では、単純に体積を増大させることでは解決できない熱安定性の増大を、後述するように、第2強磁性金属層15を、スピン軌道トルク配線14の第1強磁性金属層13と接合する面の反対側の面に接合し、その磁化の向きが互いに反平行になるように磁気結合させることで、第1強磁性金属層の実効的な体積を増加させることで解決する。
【0047】
非磁性層12には、公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層12が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al、SiO、MgO、及び、MgAl等を用いることができる。またこれらの他にも、Al,Si,Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAlはコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。
また、非磁性層12が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。また、第3強磁性金属層11、及び第1強磁性金属層13と非磁性層12の間に挿入層を設けてもよい。
【0048】
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線14は、磁気抵抗効果素子部1Bの積層方向に対して交差する方向に延在する。スピン軌道トルク配線14は、該スピン軌道トルク配線14に磁気抵抗効果素子部1Bの積層方向に対して直交する方向に電流を流す電源に電気的に接続され、その電源と共に、磁気抵抗効果素子に純スピン流を注入するスピン注入手段として機能する。
スピン軌道トルク配線14は、第1強磁性金属層13に直接接続されていてもよいし、他の層を介して接続されていてもよい。
【0049】
スピン軌道トルク配線14は、電流が流れるとスピンホール効果によって純スピン流が生成される材料からなる。かかる材料としては、スピン軌道トルク配線14中に純スピン流が生成される構成のものであれば足りる。従って、単体の元素からなる材料に限らないし、純スピン流が生成される材料で構成される部分と純スピン流が生成されない材料で構成される部分とからなるもの等であってもよい。
スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。
【0050】
図2は、スピンホール効果について説明するための模式図である。図2に基づいてスピンホール効果により純スピン流が生み出されるメカニズムを説明する。
【0051】
図2に示すように、スピン軌道トルク配線14aの延在方向に電流Iを流すと、上向きスピンSと下向きスピンSはそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
スピン軌道トルク配線中では、上向きスピンSの電子数と下向きスピンSの電子数とが等しいので、図中で上方向に向かう上向きスピンSの電子数と下方向に向かう下向きスピンSの電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0052】
ここで、上向きスピンSのスピンの流れをJ、下向きスピンSのスピンの流れをJ、スピン流をJと表すと、J=J−Jで定義される。図2においては、純スピン流としてJが図中の上方向に流れる。ここで、Jは分極率が100%の純スピンの流れである。
図2において、スピン軌道トルク配線14aの上面に強磁性体を接触させると、純スピン流は強磁性体中に拡散して流れ込むことになる。
非特許文献1ではスピン軌道トルク配線の片面にしか強磁性金属層を備えないため、図2における下向きスピンSのスピンの流れをJを利用していなかった。
本実施形態では、利用していなかったJを利用するために、図1におけるスピン軌道トルク配線14に接合する第1強磁性金属層13の反対側の面に第2強磁性金属層15を備える。
【0053】
本実施形態では第1強磁性金属層13と第2強磁性金属層15を反平行になるように磁気結合させることで熱安定性を向上させる。十分な熱安定性の向上効果を得るために、スピン軌道トルク配線14を介した強い反平行結合が望ましい。反平行結合を生み出す結合としては強磁性金属層の静磁界による結合が知られている。特許文献2ではスピン軌道トルク層を介した静磁界結合による2層の強磁性金属層の反平行結合が提案されている。しかし、発生する静磁界は強磁性金属層の体積によるため、熱安定性と同様に体積を大きく保てない磁気抵抗効果素子ではその効果は小さい。
【0054】
本実施形態では、スピン軌道トルク配線14を介した反平行結合にRKKY結合を利用する。RKKY結合はd電子、及びf電子を有する非磁性金属層を介して発生する結合であり、非磁性層の厚さに応じて結合が平行結合と反平行結合が振動する結合である。したがって、用いる非磁性層の材料に応じて、反平行結合となる適切な膜厚を選ぶ必要がある。非磁性層の膜厚は厚くなるほど平行・反平行結合を振動しつつ減衰していくため、非磁性層の膜厚は3nm以下が望ましい。
【0055】
RKKY結合は伝導電子であるs電子と、局在スピンであるd電子またはf電子とのスピン軌道相互作用を用いた結合であるため、静磁界結合に比べてその結合力は強い。RKKY結合や静磁界結合のように2層の強磁性金属層が反平行結合する場合、それぞれの強磁性金属層が有効磁界を感じていることと同じである。この有効磁界により、2層それぞれのヒステリシスループが容易軸方向のプラス磁界、及びマイナス磁界の方向にシフトし、飽和磁界(磁化が飽和した時の磁界の大きさ)が変化する。この飽和磁界の大きさで結合力の強さを評価できる。ただし、強磁性金属層の体積(膜厚や素子サイズ)や構成元素(飽和磁化や磁気異方性エネルギー)によってシフト磁界の大きさが変わる。RKKY結合を生じる非磁性金属層材料として用いられるRuではそのシフト磁界は0.1T〜1Tであり、一方で静磁界結合によるシフト磁界は一般的に0.1T未満であることからも、RKKY結合の方が静磁界結合より強いことは明らかである。
この強い反平行結合よって、それぞれの強磁性金属層に、互いに反平行に磁化方向を保つ強い力が働くことで、第2強磁性金属層1層での熱安定性ではなく、第2強磁性金属層13及び第3強磁性金属層15の2層分の熱安定性を有することとなり、熱安定性が向上する。
さらに、上述したように、第3強磁性金属層にはこれまで利用していなかった下向きスピンSのスピンの流れをJを利用することができる。第2強磁性金属層を反転するこのJは第1強磁性金属層を反転する効果と同じ向きに働くため、磁化反転電流密度は変わらない。すなわち、第1強磁性金属層13と第2強磁性金属層15がスピン軌道トルク配線14を介したRKKY結合により反平行結合することで、反転電流密度を上げることなく熱安定性を向上することができる。
【0056】
RKKY結合を生じさせ、かつ純スピンを生成するスピン軌道トルク配線は、非磁性の重金属を含んでもよい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属の意味で用いている。スピン軌道トルク配線14は、非磁性の重金属だけからなってもよい。
この場合、非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。かかる非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きいからである。スピン軌道トルク配線14は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動くのに対して、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、純スピン流Jが発生しやすい。
【0057】
スピン軌道トルク配線14は強いRKKY結合を生じることが望ましい。強いRKKY結合を生じる材料としては、例えばRu、やRhがあげられる。スピン軌道トルク配線14にRuを用いた場合、膜厚を反平行結合する0.7nm〜0.9nmにすることが望ましい。Ruは反平行結合する膜厚が0.3nm〜0.4nmに第1ピークを、0.7nm〜0.9nmに第2ピークをとることが知られている。書き込み電流を流す配線としては膜厚が厚く配線抵抗が低い方がよいため、強い反平行結合を維持したまま低配線抵抗を実現するには、Ruの膜厚は0.7nm〜0.9nmにすることが望ましい。また、Rhは反平行結合がRuに比べると弱くなるが、反平行を生じる膜厚がRuより長い材料として、本実施形態のスピン軌道トルク配線に適した材料といえる。Rhは反平行結合する膜厚が0.7nm〜0.9nmに第1ピークを、1.4nm〜1.6nmに第2ピークをとることが知られていることから、スピン軌道トルク配線14としてのRh膜厚は0.7nm〜0.9nm、または1.4nm〜1.6nmとすることが望ましい。
【0058】
第3強磁性金属層11、第1強磁性金属層13、第2強磁性金属層15は磁化容易軸が膜面垂直に向いた面直磁化でもよい。特許文献2で用いている静磁界結合は膜面平行な面内磁化のみしか成立しないが、スピン軌道トルク配線14を介したRKKY結合は垂直磁化でも反平行結合するため、強磁性金属層は面直磁化でもよい。
ここで、面直磁化とは、強磁性金属層が有する垂直磁気異方性エネルギーが形状磁気異方性エネルギーより大きい磁化状態を指す。これは面内・面直磁化測定をした際に、面直磁化測定時の飽和磁界(磁化が飽和した時の磁界の大きさ)が面内磁化測定時の飽和磁界より小さいことと同じである。強磁性金属層の磁区が単磁区の場合、垂直磁気異方性エネルギーが形状磁気異方性エネルギーより大きい磁化状態を満たせば、磁化の角度が傾いてもよい。
【0059】
第2強磁性金属層15は熱安定性を向上するための強磁性金属層であるため、大きな垂直磁気異方性エネルギーを有する強磁性金属層であることが望ましい。熱安定性の観点からすると、第1強磁性金属層11も垂直磁気異方性エネルギーが大きい方が望ましいが、第1強磁性金属層13を含む磁気抵抗効果素子1Bは磁化状態を読み取る際に必要な高い磁気抵抗比を維持する必要があるため、第1強磁性金属層13は高い磁気抵抗比を実現する材料に制限される。しかし、第2強磁性金属層15は磁気抵抗比に関わらない層であるため、高い磁気抵抗比を満たす強磁性金属材料である必要がない。
【0060】
高い垂直磁気異方性エネルギーを有する材料として、第2強磁性金属層15はFePtやCoPt、FeNiなどのL1規則合金でもよい。L1規則合金とは、FePt、FePd、CoPt、CoPd、FeNiのいずれかの合金で、二元合金薄膜を加熱して作成するか、または各元素を一原子層ずつ積層して作成することができる。また、高い熱安定性を示すためにL1規則合金は10erg/cc以上の高い垂直磁気異方性エネルギーを有することが望ましい。
【0061】
本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。以下、変形例、応用例について説明する。
【0062】
図3は、変形例1としてスピン軌道トルク型磁化反転素子3Aの模式図を示す。第1強磁性金属層13の熱安定性向上のために、図3に示すように第2強磁性金属層35の体積を、第1強磁性金属層13の体積より大きくしてもよい。第2強磁性金属層35を大きくすることで、熱安定性を決めるパラメーター(異方性エネルギーK×体積V=K・V)の体積Vを大きくし熱安定性を向上することができる。第1強磁性金属層13は、その体積を大きくしてしまうと磁区を形成する可能性があり、読み取り感度を維持するため体積を大きくし難い。
また、上述したL1規則合金など高垂直磁気異方性エネルギーを有する材料を使用すれば、熱安定性を決めるパラメーター(異方性エネルギーK×体積V)の両パラメーターを向上することができ、更なる熱安定性向上を実現できる。
【0063】
図4は、変形例2としてスピン軌道トルク型磁化反転素子4Aの模式図を示す。第2強磁性金属層35の垂直磁気異方性エネルギーを向上させるために、第2強磁性金属層35のスピン軌道トルク配線14と接合する面と反対側の面に酸化物層46を有する。これにより、強磁性金属層は酸化物層と接合することによって界面で生じる界面垂直磁気異方性を付与することができる。かかる材料としては、Al、SiO、MgO、及び、MgAl等を用いることができる。
【0064】
図5は、変形例3としてスピン軌道トルク型磁化反転素子5Aを用いた磁気メモリ500Aの模式図を示す。スピン軌道トルク配線14に電極57a、電極58bと、スピン軌道トルク配線14に書き込み電流を印加する電源58aと、配線59aと、第3強磁性金属層11と電極57bとの間の抵抗値を読み取る、読み取り電流を印加する電源58bと、配線58bを備える。配線59bは第3強磁性金属層11に直接接続してもよいし、低抵抗電極を用意してもよい。読み取る際に、第3強磁性金属層11とスピン軌道トルク配線14間の抵抗値を読み取ることによって、磁気抵抗比に寄与しない寄生抵抗として振る舞う絶縁層46の抵抗値を測定しないため、磁気抵抗比を下げることなく読み取り感度を維持することができる。
【0065】
図6は、変形例4としてスピン軌道トルク型磁化反転素子6Aの模式図を示す。第2強磁性金属層15の垂直磁気異方性エネルギーを向上させるために、第2強磁性金属層15のスピン軌道トルク配線14と接合する面の反対側の面に金属下地層66を有している。第2強磁性金属層15は界面磁気異方性を発生する金属下地層66と接合することによって界面磁気異方性が付与され、垂直磁気異方性エネルギーを向上することができる。かかる材料は、Ti、Mo、Ru、Pd、Ta、W、Ir、Pt、Auを用いることができる。
【0066】
図7は、変形例5としてスピン軌道トルク型磁化反転素子7Aを用いた磁気メモリ700Aの模式図を示す。スピン軌道トルク配線14に電極77a、電極78bと、スピン軌道トルク配線14に書き込み電流を印加する電源78aと、配線79aと、第3強磁性金属層11と金属下地層66の間の抵抗値を読み取る、読み取り電流を印加する電源78bと、配線78bを備える。配線79bは第3強磁性金属層11及び金属下地層66に直接接続してもよいし、低抵抗電極を用意してもよい。読み取り際に低抵抗である金属下地層、または低抵抗電極を読み取り電極に用いることで電極抵抗を下げることができ、読み取り感度を向上することができる。
【0067】
<磁気メモリ>
本実施形態に係る磁気メモリ(MRAM)は、上述した磁気抵抗効果素子を複数備えている。
【0068】
<製造方法>
本発明のスピン軌道トルク型磁化反転素子は公知の方法を用いて製造することができる。例えば図5に示すスピン軌道トルク型磁化反転素子5Aはマグネトロンスパッタ装置を用いて形成することができる。酸化物層46、第2強磁性金属層35、スピン軌道トルク配線14、第1強磁性金属層13、非磁性層12、第3強磁性金属層11、酸化防止膜を記載の順に積層する。磁気抵抗効果素子1BがTMR素子の場合、例えば、トンネルバリア層は第1強磁性金属層上に最初に0.4〜2.0nm程度のアルミニウム、及び複数の非磁性元素の二価の陽イオンとなる金属薄膜をスパッタし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理によって形成される。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の薄膜作成法を用いることができる。
積層した薄膜は、リソグラフィーとイオンミリングによって形成することができる。まず第2強磁性金属層35の素子サイズの大きな形状に形成し、その後第2強磁性金属層15より小さなサイズになるようにレジストをパターニングし、イオンミリングで第1強磁性金属層13まで削る。磁気抵抗効果素子1Bのまわりに層間絶縁層膜を成膜した後、スピン軌道トルク配線14上に電極57a、57bを形成するために、電極になる抵抗率の低い金属薄膜、例えばCuやAuなどを成膜し、電極形状に形成する。
スピン軌道トルク配線14、磁気抵抗効果素子1Bの形状が複雑な場合は、レジストまたは保護膜の形成と、電極57a、57bの成膜を複数回に分けて形成してもよい。
【0069】
電源58a及び電源58bは公知のものを用いることができる。
【0070】
(磁化反転方法)
磁化反転方法は、本発明の磁気抵抗効果素子において、スピン軌道トルク配線に流れる電流密度が1×10A/cm未満とするものである。
スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きすぎると、スピン軌道トルク配線に流れる電流によって熱が生じる。熱が第1強磁性金属層に加わると、第2強磁性金属層、及び第3強磁性金属層の磁化の熱安定性が失われ、想定外の磁化反転等が生じる場合がある。このような想定外の磁化反転が生じると、記録した情報が書き換わるという問題が生じる。すなわち、想定外の磁化反転を避けるためには、スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きくなりすぎないようにすることが好ましい。スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度は1×10A/cm未満であれば、少なくとも発生する熱により磁化反転が生じることを避けることができる。
【符号の説明】
【0071】
11…第3強磁性金属層、12…非磁性層、13…第1強磁性金属層、14…スピン軌道トルク配線、15、35…第2強磁性金属層、1B…磁気抵抗効果素子部、46…酸化物層、66…金属下地層、57a、58b…電極、59a、59b、77a、77b…配線、58a、58b…電源、1A、3A、4A、5A、6A、7A…スピン軌道トルク型磁化反転素子、500A、700A…磁気メモリ、I…電流、S…上向きスピン、S…下向きスピン、I…第1電流経路、I…第2電流経路

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7