特許第6801417号(P6801417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801417
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】産業車両
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/005 20060101AFI20201207BHJP
   B66F 9/24 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   B60G17/005
   B66F9/24 Z
   B66F9/24 W
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-238824(P2016-238824)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2018-94963(P2018-94963A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久保谷 岳央
(72)【発明者】
【氏名】加藤 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】福岡 仁
【審査官】 小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−338011(JP,A)
【文献】 特開2005−343633(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02444304(EP,A1)
【文献】 独国特許出願公開第10154805(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/005
B66F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に車軸が揺動可能に支持されるとともに前記車軸の揺動を規制可能な産業車両であって、
旋回時に前記車体に加わる横加速度を検出する横加速度検出手段と、
旋回中に前記車軸の揺動を一時的に規制するための車軸揺動規制用アクチュエータと、
旋回時に車両の走行速度に制限を加えるための車速制限手段と、
前記横加速度検出手段により検出した前記横加速度に基づいて前記車軸揺動規制用アクチュエータを駆動して旋回中における前記車軸の揺動を一時的に規制するとともに前記横加速度に基づいて前記車速制限手段により旋回時に車両の走行速度に制限を加える制御部と、を備え、
前記制御部における車両の走行速度に制限を加えるか否かを判定するための横加速度の閾値が、前記車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値よりも大きくされており、
前記両閾値の差は前記車軸揺動規制用アクチュエータの応答時間に基づいて設定され、前記旋回中の車両において、前記車軸揺動規制用アクチュエータが作動して車軸の揺動が規制された所定時間後に車速が制限されることを特徴とする産業車両。
【請求項2】
前記制御部における車両の走行速度の制限を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値が、前記車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値よりも大きくされていることを特徴とする請求項1に記載の産業車両。
【請求項3】
前記車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値は、前記車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の産業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォークリフト等の産業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の産業車両においては、車体に車軸が揺動可能に支持されるとともに車軸の揺動を規制可能とし、旋回時のヨーレート変化率に対して設定されたヨーレート変化率判定値に基づき旋回中に車軸の揺動を一時的に規制する。これにより、車体の傾きを抑え車両の安定性を確保することができる。特許文献2に開示の産業車両においては、車両の旋回状態と、車両の重心高さとに基づいて、車両の走行速度に制限を加える制限モードと、車両の走行速度に制限を加えない非制限モードとのいずれかを選択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3129259号公報
【特許文献2】特開2005−96894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の旋回中に車軸の揺動を一時的に規制するスイングロック機能と、特許文献2に開示の車速制限する車速制限機能とを組み合わせることが考えられる。このように2つの機能を併せ持った産業車両とする場合には、旋回中に車軸の揺動を一時的に規制するための閾値(スイングロック閾値)と車速を制限するための閾値とを、横方向の安定性を確保すべく同じ横加速度閾値とすると、スイングロック制御と車速制限制御とが干渉する虞がある。制御の干渉例として、例えば、旋回中に車軸の揺動を一時的に規制するためのアクチュエータとして電磁ソレノイドを用いた場合、図9(a)〜(d)に示すようにアクチュエータの動作遅れτに起因して運転者には違和感がある。つまり、指令信号を出力した後に、車軸の揺動の規制が実際に動作されるとともに車速制限が実際に動作されるまでの時間的な遅れτにより運転者には違和感がある。
【0005】
本発明の目的は、旋回の際に運転者に違和感がなく円滑なる安定した旋回を行うことができる産業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、車体に車軸が揺動可能に支持されるとともに前記車軸の揺動を規制可能な産業車両であって、旋回時に前記車体に加わる横加速度を検出する横加速度検出手段と、旋回中に前記車軸の揺動を一時的に規制するための車軸揺動規制用アクチュエータと、旋回時に車両の走行速度に制限を加えるための車速制限手段と、前記横加速度検出手段により検出した前記横加速度に基づいて前記車軸揺動規制用アクチュエータを駆動して旋回中における前記車軸の揺動を一時的に規制するとともに前記横加速度に基づいて前記車速制限手段により旋回時に車両の走行速度に制限を加える制御部と、を備え、前記制御部における車両の走行速度に制限を加えるか否かを判定するための横加速度の閾値が、前記車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値よりも大きくされていることを要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、制御部は、横加速度検出手段により検出した横加速度に基づいて車軸揺動規制用アクチュエータを駆動して旋回中における車軸の揺動を一時的に規制するとともに(車軸の車体に対するロールを規制するとともに)横加速度に基づいて車速制限手段により旋回時に車両の走行速度に制限を加える。このとき、制御部における車両の走行速度に制限を加えるか否かを判定するための横加速度の閾値が、車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値よりも大きくされているので、旋回時には、車軸の揺動が規制された後に、車両の走行速度に制限が加えられる。よって、旋回の際に運転者に違和感がなく円滑なる安定した旋回を行うことができる。
【0008】
請求項2に記載のように、請求項1に記載の産業車両において、前記制御部における車両の走行速度の制限を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値が、前記車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値よりも大きくされているとよい。
【0009】
請求項3に記載のように、請求項2に記載の産業車両において、前記車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値は、前記車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値よりも小さいとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、旋回の際に運転者に違和感がなく円滑なる安定した旋回を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】フォークリフトの側面図。
図2】フォークリフトの模式構成図。
図3】車体及び後輪アクスルの概略背面図。
図4】(a)〜(e)は作用を説明するための車速の挙動、横加速度の挙動、スイングロックのオン・オフ指令、車速制限のオン・オフ指令、車速復帰フラグについてのタイムチャート。
図5】作用を説明するためのフローチャート。
図6】ヨーレート変化率と減速度との関係を示す特性図。
図7】(a)〜(e)は作用を説明するための車速の挙動、横加速度の挙動、スイングロックのオン・オフ指令、車速制限のオン・オフ指令、車速復帰フラグについてのタイムチャート。
図8】(a)〜(e)は別例を説明するための車速の挙動、横加速度の挙動、スイングロックのオン・オフ指令、車速制限のオン・オフ指令、車速復帰フラグについてのタイムチャート。
図9】(a)〜(d)は課題を説明するための車速の挙動、横加速度の挙動、車速制限のオン・オフ指令、スイングロックのオン・オフ指令についてのタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をフォークリフトに具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、産業車両としてのフォークリフト10は、前輪駆動及び後輪操舵の四輪車である。フォークリフト10の車体11の前部にはアウタマスト12が前後方向に傾動可能にその下端が支持され、アウタマスト12にはインナマスト13が昇降可能に支持されている。インナマスト13にはフォーク14を支持したリフトブラケット15が昇降可能に支持され、リフトブラケット15はインナマスト13の上部に設けられたスプロケットホイール16に掛装される図示しないチェーンにてアウタマスト12に連結されている。
【0013】
アウタマスト12の後側にはリフトシリンダ17が設けられ、その図示しないピストンロッドがインナマスト13の上部に連結されている。車体11の前部にはティルトシリンダ18が設けられ、そのピストンロッド18aがアウタマスト12に連結されている。
【0014】
図2に示すように、前輪アクスル19に設けられた差動装置において、デフケース20にリングギア21が固定されている。図3に示すように、車体11の下部には車軸としての後輪アクスル22を支持するための車軸支持部23が設けられている。両側に後輪24が操舵可能に支持された後輪アクスル22には揺動軸25が設けられている。車軸支持部23に揺動軸25が回動可能に支持されることにより、車体11に車軸が揺動可能(ロール可能)に支持されている。即ち、後輪24が上下にスイングできるようになっている。
【0015】
車体11と後輪アクスル22との間には、旋回中に後輪アクスル22の揺動を一時的に規制するための複動型の油圧シリンダ26が設けられている。スイングロックシリンダである油圧シリンダ26は、そのシリンダチューブ26aが車体11に回動可能にその端部が連結され、ピストンロッド26bが後輪アクスル22にその端部が連結されている。
【0016】
油圧シリンダ26のピストンヘッド側の第1油室27とピストンロッド26b側の第2油室28とは、同油圧シリンダ26に一体で設けられ、第1油室27と第2油室28とを連通又は遮断可能な電磁方向制御弁29を介して接続されている。
【0017】
電磁方向制御弁29は4ポート2位置切換弁であって、a,b,c,dの各ポートを備えている。電磁方向制御弁29は、電磁ソレノイド30にて図示しないスプールが連通位置に切り換えられるとaポートがcポートに連通されるとともにbポートがdポートに連通され、スプールが遮断位置に切り換えられると各ポート間の連通が遮断される。この電磁方向制御弁29はノーマルクローズ型であって、電磁ソレノイド30が励磁されていないときにはバネにてスプールが遮断位置に切り換え配置される。前記第1油室27は流路31にてaポートに連通され、前記第2油室28は流路32にてbポートに連通されている。cポート及びdポートには、油圧シリンダ26に一体で設けられた蓄圧器33が流路34にて接続されている。そして、電磁ソレノイド30を励磁することにより電磁方向制御弁29を介して油圧シリンダ26が固定状態にされる。これにより後輪アクスル22が上下しないようにロックされて後輪24の上下スイングが固定される。その結果、旋回中に車軸の揺動が一時的に規制される。
【0018】
このようにして、産業車両としてのフォークリフト10は、車体11に車軸が揺動可能に支持されるとともに車軸の揺動(ロール)を規制可能となっている。
図2に示すように、車体11にはコントローラ35が搭載されている。コントローラ35はマイクロコンピュータを中心に構成されている。コントローラ35により、旋回中に車軸の揺動を一時的に規制する制御が行われるとともに、車両の走行速度に制限を加える走行制限が行われる。
【0019】
コントローラ35には、信号入力系としてヨーレートセンサ36、第1揚高位置センサ37、第2揚高位置センサ38、車速センサ39、荷重センサ40が接続されている。コントローラ35は、ヨーレートセンサ36からヨーレート検出信号、車速センサ39から車速検出信号、荷重センサ40から荷重検出信号を入力してヨーレート、車速、荷重を検知する。また、コントローラ35は、第1揚高位置センサ37から第1揚高位置検出信号、第2揚高位置センサ38から第2揚高位置検出信号を入力してフォーク14(リフトブラケット13)の位置が高揚高か低揚高かを検知する。
【0020】
コントローラ35は、ヨーレートセンサ36からの信号により旋回時に車体11に加わる横加速度(横G)を検出する。本実施形態では、ヨーレートセンサ36とコントローラ35により、旋回時に車体11に加わる横加速度を検出する横加速度検出手段が構成されている。
【0021】
コントローラ35には駆動回路41及び駆動回路42が接続されている。コントローラ35は、駆動回路41を介して車軸揺動規制用アクチュエータとしての電磁ソレノイド30を駆動して旋回中に車軸の揺動を一時的に規制することができるようになっている。旋回中に車軸の揺動を一時的に規制することにより、車体の傾きを抑え車両の安定性を確保することができる。また、コントローラ35は、駆動回路42を介して走行モータ43を制御して旋回時に車両の走行速度に制限を加えることができるようになっている。即ち、コントローラ35は、旋回時に車両の走行速度に制限を加えるための車速制限手段を構成している。
【0022】
次に、作用について説明する。
図4に示すタイムチャートは、上から、車速、横加速度(横G)、旋回中の車軸の揺動の一時的な規制の有無(スイングロック指令のオン・オフ)、車速制限指令のオン・オフ、車速復帰フラグの推移を示す。
【0023】
コントローラ35は、検出した横加速度(横G)に基づいて電磁ソレノイド30を駆動して旋回中における車軸の揺動を一時的に規制するとともに横加速度に基づいて走行モータ43を制御して旋回時に車両の走行速度に制限を加える。
【0024】
以下、詳しく説明する。
旋回が開始されると、図4(b)に示すように、横加速度が大きくなり、最大値を超えた後は横加速度が小さくなる。この旋回時において、図4(c)に示すように旋回中の車軸の揺動の一時的な規制(スイングロック指令)が行われるとともに、図4(d)に示すように車速制限指令が行われる。また、この旋回時において、図4(a)に示すように車速が低下させられるとともに元の車速に戻される。
【0025】
図4(b)において、車両の走行速度に制限を加えるか否かを判定するための横加速度の閾値th1は、車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値th2よりも大きくなっている。また、車両の走行速度の制限を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値th1は、車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値th3よりも大きくなっている。さらに、車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値th3は、車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値th2よりも小さくなっている。
【0026】
図5に示すフローチャートにおいて、コントローラ35は、ステップS1において車速復帰フラグ=0であると、ステップS2に移行して横加速度(横G)がスイングロックオン用閾値th2以上か否か判定する。コントローラ35は、ステップS2において横加速度(横G)がスイングロックオン用閾値th2以上でないと、横加速度(横G)がスイングロックオン用閾値th2以上になるのを待つ。これが、図4におけるt1以前の処理となる。
【0027】
コントローラ35は、ステップS2において横加速度(横G)がスイングロックオン用閾値th2以上になると(図4におけるt1のタイミング)、ステップS3に移行して車軸の揺動を規制するために電磁ソレノイド30を励磁させて旋回中における車軸の揺動を一時的に規制させる。
【0028】
コントローラ35は、ステップS3の処理を実行した後にステップS4に移行して横加速度がスイングロックオフ用閾値th3以下か否か判定する。コントローラ35は、ステップS4において横加速度(横G)がスイングロックオフ用閾値th3以下でないとステップS6に移行して横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以上か否か判定する。コントローラ35は、ステップS6において横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以上でないと、横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以上になるか否かの判断を繰り返す。これが、図4におけるt1〜t2の間の処理となる。
【0029】
コントローラ35は、ステップS6において横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以上になると(図4におけるt2のタイミング)、ステップS7に移行して車速を制限するために走行モータ43を制御して旋回中における車速を制限させる。この車速制限処理が実行されることにより、図4(a)に示すように、車速が減速され、それまでの車速V1から、所定時間ΔT1経過後に旋回速度制限値V2にまで低下され、旋回速度制限値V2に制限される。旋回速度制限値V2は横加速度(横G)に応じたものにされる。
【0030】
車速制限処理において、コントローラ35は、図6に示すようにヨーレート変化率及び揚高位置(低揚高か高揚高)により減速度の大きさαを決定する。ここで、図6において車両の走行速度に制限を加える際の減速度の大きさαは、ヨーレート変化率が大きいほど、また、低揚高に比べ高揚高の方が大きな値となる。このように、急操舵での安定を高めるためにヨーレート変化率に応じて急操舵時に減速度の大きさを大きくして(強くして)早く車速を落として早くより安定な車速になるようにしている。
【0031】
コントローラ35は、ステップS7の処理を実行した後に、ステップS8に移行して、それまで「0」であった車速復帰フラグを、「1」にする。つまり、図4(e)において車速復帰フラグ=1にする。
【0032】
コントローラ35は、ステップS1において車速復帰フラグ=1であると、ステップS9に移行して横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以下か否か判定する。コントローラ35は、ステップS9において横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以下でないと、横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以下になるか否かの判断を繰り返す。これが、図5におけるt2〜t3の間の処理となる。
【0033】
コントローラ35は、ステップS9において横加速度(横G)が車速制限用閾値th1以下になると(図4におけるt3のタイミング)、ステップS10に移行して車速制限を解除するために走行モータ43を制御して旋回中における車速制限を解除させる。この車速制限の解除処理が実行されることにより、図4(a)に示すように、車速が増速され、旋回速度制限値V2から元の車速V1に戻される。
【0034】
コントローラ35は、ステップS10の処理を実行した後にステップS11に移行して横加速度がスイングロックオフ用閾値th3以下か否か判定する。コントローラ35は、ステップS11において横加速度(横G)がスイングロックオフ用閾値th3以下でないと、横加速度(横G)がスイングロックオフ用閾値th3以下になるのを待つ。これが、図4におけるt3〜t4の間の処理となる。
【0035】
コントローラ35は、ステップS11において横加速度(横G)がスイングロックオフ用閾値th3以下になると(図4におけるt4のタイミング)、ステップS12に移行して車軸の揺動の規制を解除すべく電磁ソレノイド30を消磁させて旋回中における車軸の揺動の規制を解除させる。図4においてt4のタイミングでは車速の増速は終了している。
【0036】
コントローラ35は、ステップS12の処理を実行した後に、ステップS13に移行して、それまで「1」であった車速復帰フラグを、「0」にする。つまり、図4(e)において車速復帰フラグ=0にする。
【0037】
このように、車速制限機能の横加速度の閾値th1をスイングロック機能の横加速度の閾値th2より大きくする。このとき、閾値th1と閾値th2によるオン指令の時間的な差T1は、スイングロック機能のスイングロックのオン指令に対して、スイングロック用電磁ソレノイド30の応答時間(動作遅れτ)が最長の場合となっている。よって、車速制限機能の車速制限タイミングt2はスイングロック機能のスイングロックオンのタイミングt1より後であり、かつ、実際に電磁ソレノイド30が作動して車軸の揺動の規制が完了した後になる。スイングロック機能としては、オンタイミングt1でスイングロック機能単体となるため、単体機能として成立しているスイングロック機能がオンしても問題は生じず、その後に車速制限機能の車速制限が実施されても、横方向の安定性はスイングロック機能で既に確保しているため、問題は生じない。
【0038】
このようにして、スイングロック機能と車速制限機能の実行タイミングをT1だけずらすことで制御の干渉を防ぐことにより運転者に違和感がないようにすることができる。また、スイングロック機能に慣れた運転者に対して、スイングロック機能に関しては変更なく、付加機能として車速制限機能を追加することができる。
【0039】
また、図7(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、コントローラ35は、ステップS4において横加速度がスイングロックオフ用閾値th3以下であると(図7のt5のタイミング)、ステップS5に移行して車軸の揺動の規制を解除すべく電磁ソレノイド30を消磁させて旋回中における車軸の揺動の規制を解除させる。このように、スイングロックオン用閾値th2を越えて、その後、車速制限用閾値th1を越えることなく横加速度が減少しスイングロックオフ用閾値th3以下となった場合は、車速制限することなくスイングロックが解除される。
【0040】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)フォークリフト10の構成として、ヨーレートセンサ36及びコントローラ35と、旋回中に車軸の揺動を一時的に規制するための電磁ソレノイド30を備える。横加速度検出手段としてのヨーレートセンサ36及びコントローラ35により、旋回時に車体11に加わる横加速度を検出する。車速制限手段としてのコントローラ35により旋回時に車両の走行速度に制限を加えることができる。制御部としてのコントローラ35は、検出した横加速度に基づいて電磁ソレノイド30を駆動して旋回中における車軸の揺動を一時的に規制するとともに(車軸の車体に対するロールを規制するとともに)横加速度に基づいて旋回時に車両の走行速度に制限を加える。
【0041】
ここで、制御部としてのコントローラ35における車両の走行速度に制限を加えるか否かを判定するための横加速度の閾値th1が、車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値th2よりも大きくされている。
【0042】
これにより、旋回時には、車軸の揺動が規制された後に、車両の走行速度に制限が加えられる。よって、旋回の際に運転者に違和感がなく円滑なる安定した旋回を行うことができる。
【0043】
つまり、スイングロック機能と車速制限機能の出力系が異なることに起因して、スイングロック機能と車速制限機能は横加速度閾値を同じにしても、制御出力系が異なるため、制御の実行されるタイミングは同じにはならない。例えば、旋回による車速制限機能の車速制限が先にかかり、機台の傾きがある状態で、後からスイングロック機能によりスイングロックした場合、機台の傾きがある状態を保持することになり、運転者が不快に感じることがあるが、これを回避することができる。
【0044】
(2)制御部としてのコントローラ35における車両の走行速度の制限を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値th1が、車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値th3よりも大きくされている。よって、実用的である。
【0045】
(3)車軸の揺動の規制を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値th3は、車軸の揺動を一時的に規制するか否かを判定するための横加速度の閾値th2よりも小さい。よって、実用的である。
【0046】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 横加速度はヨーレートセンサによるヨーレートに基づいて算出したが、これに代わり、タイヤ角センサによるタイヤ角と車速センサによる車速から算出してもよい。詳しくはタイヤ角による旋回半径と車速から算出する。他にも、ヨーレートセンサ、タイヤ角センサ及び車速センサを搭載したフォークリフトであってもよい。
【0047】
○ 乗員により車速制限機能を選択できるようにしてもよく、そのために、車載の操作パネル(ディスプレイ)から機能オン/オフ可能にしてもよい。例えば、スイングロック機能に車速制限機能を加えることで横方向の安定性が向上するので、旋回車速制限を積極的に使用したい運転者はオンする。また、スイングロック機能単体に慣れた運転者は、車速制限機能による車速制限自体を、性能制限する煩わしい機能と感じる可能性があり、この場合はオフする。
【0048】
図4に代わり図8(a)〜(e)に示すように、t3のタイミング以降の車速の増速時に、増速度の大きさに上限値α1を設けてもよく、増速度の大きさに上限値を設けない場合のα2よりも小さな上限値α1とすることにより緩やかに増速させるようにしてもよい。
【0049】
図4(b)においては同じ閾値th1を、車両の走行速度に制限を加えるか否かを判定するための横加速度の閾値、及び、車両の走行速度の制限を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値とした。これに代わり、車両の走行速度に制限を加えるか否かを判定するための横加速度の閾値と、車両の走行速度の制限を解除するか否かを判定するための横加速度の閾値とを異なる値にしてもよい。
【0050】
○ 乗員により閾値を変更できるようにしてもよく、そのために、操作パネル(ディスプレイ)から設定できるようにしてもよい。例えば、スイングロック機能単体で横方向の安定性は確保できている場合において、車速制限機能の横加速度閾値をさらに大きい値とした旋回車速制限値を設定できるようにして、スイングロック機能単体に慣れた運転者が、車速制限機能をより高い車速域で車速制限して安定性を得たい場合に用いる。この際、運転者の好みによって望ましい車速制限値は異なるため、チューニング、例えば複数の車速制限レベルを設定できるようにしておくとよい。
【0051】
○ フォークリフト10は、積載物を運搬するフォーク14を備えた物に限らず、その他例えば、ヒンジドフォーク、クランプ、ラム等の各種アタッチメントを備えたフォークリフトであってもよい。
【0052】
○ フォークリフト10に限らず、車体に車軸が揺動可能に支持されるその他の産業車両、例えば、ショベルローダ等に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…フォークリフト、11…車体、22…後輪アクスル、30…電磁ソレノイド、35…コントローラ、36…ヨーレートセンサ、43…走行モータ、th1…閾値、th2…閾値、th3…閾値。
図1
図2
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図9