特許第6801438号(P6801438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6801438粉砕プラント酸素濃度制御装置、粉砕プラント酸素濃度制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801438
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】粉砕プラント酸素濃度制御装置、粉砕プラント酸素濃度制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   F23K 1/00 20060101AFI20201207BHJP
   B02C 23/34 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   F23K1/00 B
   B02C23/34
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-249049(P2016-249049)
(22)【出願日】2016年12月22日
(65)【公開番号】特開2018-105512(P2018-105512A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大
(72)【発明者】
【氏名】柴本 浩児
【審査官】 堀川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−074570(JP,A)
【文献】 特開2014−114994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23K 1/00
F23K 3/02
B02C 23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱風を排ガスとして発生する熱風発生装置と、
原料を粉砕し、粉砕後の原料を、前記排ガスの流れに乗せて外部に放出する粉砕機であって、内部の圧力が負圧に保たれている粉砕機と、
前記粉砕機から前記排ガスの流れに乗って放出された粉砕後の原料を捕集する捕集機であって、内部の圧力が負圧に保たれている捕集機と、
前記熱風発生装置、前記粉砕機、および前記捕集機を経由して前記排ガスが循環する経路と、
前記経路の内部の所定の位置における酸素濃度を測定する測定手段と、
酸素を含むガスである希釈ガスの前記経路への注入量を調整する調整手段と、を有し、
前記粉砕機の内部に原料を投入して原料を粉砕する負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントにおける、前記経路の内部の酸素濃度を制御する粉砕プラント酸素濃度制御装置であって、
前記所定の位置における酸素濃度の測定値を、前記所定の位置における酸素濃度の目標値に近づけるフィードバック制御を行って、当該フィードバック制御の出力である前記希釈ガスの流量をフィードバック制御量として導出する第1の制御手段と、
前記原料の前記粉砕機への供給量と、前記原料の水分量と、外部から前記粉砕機の内部に入る空気の流量と、前記所定の位置における酸素濃度の目標値と、前記粉砕機の出口側の所定の位置における前記経路の内部の温度の目標値と、を変数として有する複数の計算式であって、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに与える熱量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで消費される熱量とのバランスをとる熱収支の計算と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに注入されるガスの流量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで発生するガスの流量との和と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントから排出されるガスの流量とのバランスをとる物質収支の計算とを行うための複数の計算式の計算を行って、前記所定の位置における酸素濃度の目標値を維持するために必要な前記希釈ガスの流量をフィードフォワード制御量として導出する第2の制御手段と、
前記第1の制御手段により導出された前記希釈ガスの流量に、前記第2の制御手段により導出された前記希釈ガスの流量を加算する加算手段と、
前記加算手段により得られた前記希釈ガスの流量の加算値に基づいて、前記調整手段を動作させることを指示する指示手段と、
を有することを特徴とする粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項2】
前記第2の制御手段は、前記フィードフォワード制御量と前記原料の前記粉砕機への供給量との関係と、前記原料の前記粉砕機への供給量の変動量とに基づいて、前記フィードフォワード制御量の前回導出した値に対する変動量を導出し、当該導出した変動量を、前記フィードフォワード制御量の前回導出した値に加算することを特徴とする請求項1に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項3】
前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントは、前記希釈ガスの流量を測定する手段と、前記熱風を発生させるための燃料ガスの流量を測定する手段と、前記熱風を発生させるための燃焼空気の流量を測定する手段と、前記経路から大気中に放出される放散ガスの流量を測定する手段と、をさらに有し、
前記第2の制御手段は、前記所定の位置における酸素濃度の測定値と、前記放散ガスの流量の測定値と、前記希釈ガスの流量の測定値と、前記燃料ガスの流量の測定値と、前記燃焼空気の流量の測定値とを用いて、前記物質収支の計算を行い、当該計算の結果から得られる前記経路の内部における水蒸気の流量と、前記原料の前記粉砕機への供給量と、粉砕後の前記原料の水分量とに基づいて、前記原料の水分量を導出し、当該原料の水分量を用いて、前記複数の計算式の計算を行って、前記所定の位置における酸素濃度の目標値を維持するために必要な前記希釈ガスの流量をフィードフォワード制御量として導出することを特徴とする請求項1または2に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項4】
前記第2の制御手段は、前記原料の水分量を導出する際に、前記測定値の少なくとも一部については、所定の時間における代表値を用いることを特徴とする請求項3に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項5】
前記第2の制御手段は、前記原料の前記粉砕機への供給が開始されてから所定の時間が経過するまでの期間と、前記原料の前記粉砕機への供給量が変更されている期間においては、前記原料の水分量として、前回導出した値を用いることを特徴とする請求項3または4に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項6】
前記希釈ガスは、空気であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項7】
前記所定の位置は、前記捕集機の出側の位置であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項8】
前記第1の制御手段は、前記フィードバック制御として、少なくとも比例動作を行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項9】
前記捕集機は、バグフィルターであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置。
【請求項10】
熱風を排ガスとして発生する熱風発生装置と、
原料を粉砕し、粉砕後の原料を、前記排ガスの流れに乗せて外部に放出する粉砕機であって、内部の圧力が負圧に保たれている粉砕機と、
前記粉砕機から前記排ガスの流れに乗って放出された粉砕後の原料を捕集する捕集機であって、内部の圧力が負圧に保たれている捕集機と、
前記熱風発生装置、前記粉砕機、および前記捕集機を経由して前記排ガスが循環する経路と、
前記経路の内部の所定の位置における酸素濃度を測定する測定手段と、
酸素を含むガスである希釈ガスの前記経路への注入量を調整する調整手段と、を有し、
前記粉砕機の内部に原料を投入して原料を粉砕する負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントにおける、前記経路の内部の酸素濃度を制御する粉砕プラント酸素濃度制御方法であって、
前記所定の位置における酸素濃度の測定値を、前記所定の位置における酸素濃度の目標値に近づけるフィードバック制御を行って、当該フィードバック制御の出力である前記希釈ガスの流量をフィードバック制御量として導出する第1の制御工程と、
前記原料の前記粉砕機への供給量と、前記原料の水分量と、外部から前記粉砕機の内部に入る空気の流量と、前記所定の位置における酸素濃度の目標値と、前記粉砕機の出口側の所定の位置における前記経路の内部の温度の目標値と、を変数として有する複数の計算式であって、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに与える熱量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで消費される熱量とのバランスをとる熱収支の計算と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに注入されるガスの流量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで発生するガスの流量との和と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントから排出されるガスの流量とのバランスをとる物質収支の計算とを行うための複数の計算式の計算を行って、前記所定の位置における酸素濃度の目標値を維持するために必要な前記希釈ガスの流量をフィードフォワード制御量として導出する第2の制御工程と、
前記第1の制御工程により導出された前記希釈ガスの流量に、前記第2の制御工程により導出された前記希釈ガスの流量を加算する加算工程と、
前記加算工程により得られた前記希釈ガスの流量の加算値に基づいて、前記調整手段を動作させる調整工程と、
を有することを特徴とする粉砕プラント酸素濃度制御方法。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか1項に記載の粉砕プラント酸素濃度制御装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉砕プラント酸素濃度制御装置、粉砕プラント酸素濃度制御方法、およびプログラムに関し、特に、粉砕プラントにおける酸素濃度を制御するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、微粉炭やセメント等を製造するための粉砕プラントとして、以下のようなプラントがある(特許文献1を参照)。
まず、燃料ガス(燃焼ガス)と燃焼エアとを熱ガス発生装置に供給し、熱ガス発生装置において、熱風を排ガスとして発生させる。排ガスは、原料の粉砕を行う粉砕機の内部に供給される。粉砕機で粉砕された原料(粉体)は、排ガスと共にバグフィルター(濾布(繊布や不織布))に供給され、バグフィルターで捕集される。その後、排ガスは、循環ファンで昇圧されて循環ガスとして再び熱ガス発生装置に供給される。このように熱ガス発生装置で発生した熱風(排ガス)は、熱ガス発生装置から、粉砕機、バグフィルターを経由して熱ガス発生装置に循環される。ここで、粉砕機の入側の位置における圧力を負圧(大気圧を下回る圧力)にして、粉砕機の内部とバグフィルターの内部の圧力が負圧に保たれるようにする。以下の説明では、このような「粉砕プラント」を、必要に応じて「負圧式・排ガス循環系の粉砕プラント」と称する。また、「排ガスが循環する経路」を必要に応じて「ライン」と称する。
【0003】
このような負圧式・排ガス循環系の粉砕プラント等の粉砕プラントでは、ライン内部の酸素濃度が高くなると、粉塵爆発が起こる虞があるため、ライン内部の酸素濃度を高くすることができない。一方、ライン内部の酸素濃度が低くなると、ライン内部において水蒸気が液相化し、バグフィルターの機能を損ねる虞がある。このため、ライン内部の酸素濃度を可及的に一定に維持する必要がある。
【0004】
ここで、ライン内部の酸素濃度を変動させる主な外乱として、以下の4つのものがある。
第1に、熱ガス発生装置からの排ガスおよび乾燥によって原料(石炭)から発生する水蒸気がある。第2に、熱ガス発生装置から発生する排ガスがある。第3に、粉砕機の内部とバグフィルターの圧力が負圧に保たれていることによりバンカー等から粉砕機に進入する空気(進入エア)がある。第4に、粉砕機の内部(粉砕テーブルの軸受部)の隙間から外部に放出されようとする微粉炭を、熱ガス発生装置101から供給された排ガスの流れに押し戻すために粉砕テーブルの下部から吹きこまれる空気(シールエア)がある。
【0005】
ライン内部の酸素濃度を制御する手法として、ライン内部に空気(希釈エア)を注入することで、ライン内部の酸素濃度が目標値(一定)になるように、ライン内部の酸素濃度を制御する手法がある。
しかしながら、例えば、水蒸気の流量や排ガスの流量は、原料の水分により大きく変化する。また、進入エアやシールエアは、熱ガス発生装置の負荷(バーナー負荷)に影響を与え、熱ガス発生装置の負荷は、排ガスの流量に影響を与える。このため、ライン内部の酸素濃度を事前に予測することは容易ではない。
【0006】
このように、ライン内部の酸素濃度を事前に予測することが容易でないことから、従来は、ライン内部の酸素濃度を測定し、その測定値が目標値になるようにフィードバック制御を行って、ライン内部に注入する希釈エアの流量を導出する。ライン内部の酸素濃度のフィードバック制御により、ライン内部に注入する希釈エアの流量を調節する技術として、特許文献2に記載の技術がある。特許文献2では、ヒートアップ時には、排ガスの酸素濃度の測定値の目標値に対する偏差が0(ゼロ)に近づくようにライン内部に注入する窒素ガスの流量を調整し、ヒートアップが終了すると、排ガスの酸素濃度の測定値が当該目標値を下回る所定値未満になってから、排ガスの酸素濃度の測定値の目標値に対する偏差が0(ゼロ)に近づくようにライン内部に注入する希釈エアの流量を調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−79352号公報
【特許文献2】特開2014−74570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、一般に、原料の乾留・燃焼の防止等のため、粉砕機に供給する原料の量(原料の供給量)は、粉砕機の入口温度が上限値を上回らないようにオペレータの操作により調整される。粉砕機の入口温度は、原料の水分量が多い場合や、原料の供給量が大きい場合、すなわち、熱ガス発生装置からの排ガスの流量が大きい場合に高くなる傾向がある。したがって、粉砕機の入口温度が、その上限値を上回らない範囲で可及的に高くなるように給炭量を大きくすることにより、負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントの生産能力が低下しないようにすることが望まれる。
【0009】
しかしながら、例えば、原料の供給量を急激に減少させた場合、特に、粉砕機の入口温度が高い場合においては、ライン内部の酸素濃度が急上昇する。このような場合、前述したようなフィードバック制御だけでは、希釈エアの流量が、原料の供給量の変動に十分追従せずに、ライン内部の酸素濃度の上昇を抑制することができない虞がある。このような場合、原料の水分や粉砕機の出口温度等の運転条件によっては、ライン内部の酸素濃度が、粉塵爆発の発生を防止するために管理している酸素濃度を上回り、操業を緊急停止させなければならない虞がある。このような事態を回避するため、原料の供給量を急激に減少させないようにする(言い換えると、原料の供給量を多くして操業しないようにする)と、負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントの生産能力が低下することになる。
【0010】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、粉砕機への原料の供給量の変動があった場合でも、負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントのライン内部の酸素濃度が変動することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の粉砕プラント酸素濃度制御装置は、熱風を排ガスとして発生する熱風発生装置と、原料を粉砕し、粉砕後の原料を、前記排ガスの流れに乗せて外部に放出する粉砕機であって、内部の圧力が負圧に保たれている粉砕機と、前記粉砕機から前記排ガスの流れに乗って放出された粉砕後の原料を捕集する捕集機であって、内部の圧力が負圧に保たれている捕集機と、前記熱風発生装置、前記粉砕機、および前記捕集機を経由して前記排ガスが循環する経路と、前記経路の内部の所定の位置における酸素濃度を測定する測定手段と、酸素を含むガスである希釈ガスの前記経路への注入量を調整する調整手段と、を有し、前記粉砕機の内部に原料を投入して原料を粉砕する負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントにおける、前記経路の内部の酸素濃度を制御する粉砕プラント酸素濃度制御装置であって、前記所定の位置における酸素濃度の測定値を、前記所定の位置における酸素濃度の目標値に近づけるフィードバック制御を行って、当該フィードバック制御の出力である前記希釈ガスの流量をフィードバック制御量として導出する第1の制御手段と、前記原料の前記粉砕機への供給量と、前記原料の水分量と、外部から前記粉砕機の内部に入る空気の流量と、前記所定の位置における酸素濃度の目標値と、前記粉砕機の出口側の所定の位置における前記経路の内部の温度の目標値と、を変数として有する複数の計算式であって、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに与える熱量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで消費される熱量とのバランスをとる熱収支の計算と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに注入されるガスの流量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで発生するガスの流量との和と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントから排出されるガスの流量とのバランスをとる物質収支の計算とを行うための複数の計算式の計算を行って、前記所定の位置における酸素濃度の目標値を維持するために必要な前記希釈ガスの流量をフィードフォワード制御量として導出する第2の制御手段と、前記第1の制御手段により導出された前記希釈ガスの流量に、前記第2の制御手段により導出された前記希釈ガスの流量を加算する加算手段と、前記加算手段により得られた前記希釈ガスの流量の加算値に基づいて、前記調整手段を動作させることを指示する指示手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の粉砕プラント酸素濃度制御方法は、熱風を排ガスとして発生する熱風発生装置と、原料を粉砕し、粉砕後の原料を、前記排ガスの流れに乗せて外部に放出する粉砕機であって、内部の圧力が負圧に保たれている粉砕機と、前記粉砕機から前記排ガスの流れに乗って放出された粉砕後の原料を捕集する捕集機であって、内部の圧力が負圧に保たれている捕集機と、前記熱風発生装置、前記粉砕機、および前記捕集機を経由して前記排ガスが循環する経路と、前記経路の内部の所定の位置における酸素濃度を測定する測定手段と、酸素を含むガスである希釈ガスの前記経路への注入量を調整する調整手段と、を有し、前記粉砕機の内部に原料を投入して原料を粉砕する負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントにおける、前記経路の内部の酸素濃度を制御する粉砕プラント酸素濃度制御方法であって、前記所定の位置における酸素濃度の測定値を、前記所定の位置における酸素濃度の目標値に近づけるフィードバック制御を行って、当該フィードバック制御の出力である前記希釈ガスの流量をフィードバック制御量として導出する第1の制御工程と、前記原料の前記粉砕機への供給量と、前記原料の水分量と、外部から前記粉砕機の内部に入る空気の流量と、前記所定の位置における酸素濃度の目標値と、前記粉砕機の出口側の所定の位置における前記経路の内部の温度の目標値と、を変数として有する複数の計算式であって、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに与える熱量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで消費される熱量とのバランスをとる熱収支の計算と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントに注入されるガスの流量と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントで発生するガスの流量との和と、前記負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントから排出されるガスの流量とのバランスをとる物質収支の計算とを行うための複数の計算式の計算を行って、前記所定の位置における酸素濃度の目標値を維持するために必要な前記希釈ガスの流量をフィードフォワード制御量として導出する第2の制御工程と、前記第1の制御工程により導出された前記希釈ガスの流量に、前記第2の制御工程により導出された前記希釈ガスの流量を加算する加算工程と、前記加算工程により得られた前記希釈ガスの流量の加算値に基づいて、前記調整手段を動作させる調整工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明のプログラムは、前記粉砕プラント酸素濃度制御装置の各手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、排ガスが循環する経路の内部の所定の位置における酸素濃度の測定値を目標値に近づけるフィードバック制御を行って、当該フィードバック制御の出力である希釈ガスの流量をフィードバック制御量として導出する。また、負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントにおける熱収支の計算と物質収支の計算とを行って、排ガスが循環する経路の内部の所定の位置における酸素濃度の目標値を維持するために必要な希釈ガスの流量をフィードフォワード制御量として導出する。そして、これらの希釈ガスの流量の加算値に基づいて、希釈ガスの前記経路への注入量を調整する。したがって、フィードバック制御のみの場合と異なり、フィードフォワード制御により、希釈エアの流量を、粉砕機への原料の供給量の変動に迅速に追従させることができる。よって、粉砕機への原料の供給量の変動があった場合でもライン内部の酸素濃度が変動することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの構成の一例を示す図である。
図2】粉砕プラント酸素濃度制御装置の機能的な構成の一例を示す図である。
図3】希釈エアの流量と給炭量との関係の一例を概念的に示す図である。
図4】変換部の構成の一例を示す図である。
図5】ライン内部の酸素濃度を制御する際の粉砕プラント酸素濃度制御装置の動作の一例を説明するフローチャートである。
図6】実施例における給炭量と時間との関係を示す図である。
図7】比較例の結果を示す図である。
図8】発明例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。本実施形態では、負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントが、高炉への微粉炭の吹込み(PCI;Pulverized Coal Injection)を行うために石炭を粉砕する、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントである場合を例に挙げて説明する。
【0017】
[第1の実施形態]
まず、第1の実施形態を説明する。
(負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの構成)
図1は、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの構成の一例を示す図である。図1において、各構成要素を繋ぐ実線は配管を示し、破線は信号の伝達経路を示す。また、矢印線は、配管内のガスや石炭の進行方向を示す。尚、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの構成は、例えば、特許文献1に記載の技術等の公知の技術で実現できるので、ここでは、各構成について簡単に説明し、詳細な説明を省略する。
【0018】
図1において、熱ガス発生装置(HGG)101は、バーナーを有し、燃料ガスおよび燃焼エア(空気)をバーナーへの入力として、バーナーの空燃比を制御し、排ガス(熱風)を発生させる。排ガスの酸素濃度は略0(ゼロ)%である。本実施形態では、燃料ガスとしてBFG(Blast Furnace Gas)を利用する。尚、燃焼エアは、燃焼エアファン102により熱ガス発生装置101に送り込まれる。
【0019】
バンカー103は、原料である石炭を貯蔵する。
給炭機104は、チェーンコンベアを有し、バンカー103内に貯蔵されている石炭をチェーンコンベアにより切り出してミル105に投入する。
ミル105は、給炭機104から投入された石炭を粉砕する粉砕機である。ミル105の入側の位置における圧力が負圧に保たれるようにすることにより、ミル105の内部の圧力は負圧に保たれる。ミル105は、例えば、ロールミル105aと粉砕テーブル105bとを有する。ミル105の上部から投入された石炭をロールミル105aと粉砕テーブル105bとの間に供給する。回転している粉砕テーブル105bに対してロールミル105aを押し付けながら回転させることにより、石炭は押し潰されて粉砕される。粉砕された石炭は、熱ガス発生装置101から供給された排ガスの流れにのって、ミル105の上部に供給され、分級機で分級された後、外部に放出される。
【0020】
この際、シールエアファン106からミル105の内部(粉砕テーブル105bの軸受部)の隙間にシールエアを供給することにより、その隙間から外部に放出されようとする微粉炭を、熱ガス発生装置101から供給された排ガスの流れに押し戻す。ミル105の内部の圧力がシールエアの圧力未満になるように、シールエアの流速が定められる。このように、シールエアは、粉砕テーブル105bの軸受部に微粉炭が進入し、その結果として、粉砕テーブル105bの軸受部の潤滑不良が起こることと、粉砕テーブル105bの軸受部から外部に放出されることとを防止するためのものである。
以下の説明では、「ミル105から外部に放出された粉砕後の石炭」を必要に応じて「微粉炭」と称する。
【0021】
バグフィルター107は、ミル105から放出された微粉炭を、濾布を用いて捕集する濾過式の捕集機である。ミル105と同様に、バグフィルター107の内部の圧力も負圧に保たれている。微粉炭以外の異物がバグフィルター107で捕集されることがある。異物除去装置108は、この異物を除去するためのものである。このように異物除去装置108で異物が除去された後、リザーバタンク109に微粉炭が貯蔵される。リザーバタンク109に貯蔵された微粉炭は、高炉の羽口から高炉の内部に吹き込まれる(微粉炭吹き込みが行われる)。
【0022】
バグ出口O2濃度計110は、バグフィルター107の出側の位置における配管内の排ガスの酸素濃度を測定する。本実施形態では、この配管内の排ガスの酸素濃度の測定値がライン内部の酸素濃度の測定値になる。
ベンチュリ管111は、バグフィルター107を通過した排ガスの流量を測定する。
ダンパー112は、バグフィルター107を通過した排ガスの流量を調整する。
循環ファン113は、ダンパー112を通過した排ガスを熱ガス発生装置101に循環させることができるように、排ガスを昇圧する。
循環ファン113により昇圧された排ガスの一部は、煙突114を介して大気中に放出される。放散系圧力調整弁115は、このようにして大気中に放出される排ガスの圧力を調整するためのものである。尚、以下の説明では、煙突114を介して大気中に放出される排ガスを必要に応じて「放散ガス」と称する。
【0023】
循環系圧力調整弁116は、循環ファン113により昇圧された排ガスのうち、煙突114を介して大気中に放出されずに熱ガス発生装置101に循環させる排ガスの圧力を調整するためのものである。このようにして、熱ガス発生装置101で発生した排ガスは、循環ガスとして再び熱ガス発生装置101に供給され、熱ガス発生装置101、ミル105、バグフィルター107、ベンチュリ管111、ダンパー112、循環ファン113、循環系圧力調整弁116、熱ガス発生装置101の経路を循環する。
【0024】
本実施形態では、以上の負圧式・排ガス循環系のPCIプラントにおける循環ガスの酸素濃度を調整する。まず、循環ガスの酸素濃度を調整するためのハードウェアの構成の一例について説明する。
本実施形態では、大気中の空気(エア)を、希釈エアとして、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに供給する。オリフィス流量計117は、この希釈エアの流量を測定する。エア流量調整弁118は、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに供給される希釈エアの流量を調整するためのものである。希釈エアファン119は、エア流量調整弁118で流量が調整された希釈エアを昇圧し、希釈エアを熱ガス発生装置101の入側の配管に押し込む。これにより、循環ガスの酸素濃度を調整することができる。
粉砕プラント酸素濃度制御装置200は、バグ出口O2濃度計110で測定された排ガスの酸素濃度を入力し、当該酸素濃度の測定値の目標値に対する偏差が0(ゼロ)に近づくようなエア流量調整弁118の弁開度を設定し、循環ガスの酸素濃度を調整する。
【0025】
(粉砕プラント酸素濃度制御装置200の機能構成)
図2は、粉砕プラント酸素濃度制御装置200の機能的な構成の一例を示す図である。前述したように、図2に示す各部は、例えば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、または、CPU、ROM、RAM、HDDおよび各種のインターフェースを備えるコンピュータ装置を用いることにより実現することができる。
【0026】
<O2濃度目標値記憶部201>
2濃度目標値記憶部201は、バグ出口O2濃度計110で排ガスの酸素濃度が測定される位置での排ガスの酸素濃度の目標値を記憶する。この排ガスの酸素濃度の目標値は、オペレータにより設定されるものである。本実施形態の負圧式・排ガス循環系のPCIプラントでは、粉塵爆発を防止する観点から、バグ出口O2濃度計110で測定される排ガスの酸素濃度を12[%]未満にする必要がある。このため、本実施形態では、バグ出口O2濃度計110で排ガスの酸素濃度が測定される位置での排ガスの酸素濃度の目標値を10[%]としている。このように、本実施形態では、排ガスの酸素濃度の単位は[%]であるとする。
【0027】
<O2濃度偏差導出部202>
2濃度偏差導出部202は、O2濃度目標値記憶部201に記憶されている排ガスの酸素濃度の目標値から、バグ出口O2濃度計110で測定された排ガスの酸素濃度の測定値を減算して、排ガスの酸素濃度の測定値の目標値に対する偏差eを導出する。
【0028】
<PID制御部203>
PID制御部203は、O2濃度偏差導出部202により導出された「排ガスの酸素濃度の測定値の目標値に対する偏差e」を入力として、比例動作、積分動作、および微分動作を行い、操作量として排ガスの酸素濃度を導出することを繰り返して、排ガスの酸素濃度を目標値に近づける制御(PID制御)を行う制御器である。そして、PID制御部203は、操作量として導出した排ガスの酸素濃度になるような希釈エアの流量をフィードバック制御量(フィードバック制御の出力)として導出する。
【0029】
<ミル出口温度目標値記憶部204>
ミル105の出口側の所定の位置における配管内の(微粉炭の)温度であるミル出口温度の目標値を記憶する。このミル出口温度の目標値は、オペレータにより設定されるものである。
【0030】
<FF制御部205>
FF制御部205は、PID制御部203により導出された希釈エアの流量に加算されるフィードフォワード制御量(フィードフォワード制御の出力)としての希釈エアの流量を導出する制御器である。
本実施形態では、FF制御部205は、原料である石炭の水分量、原料を粉砕および乾燥することにより得られる製品(微粉炭)の水分量、シールエアの流量、進入エアの流量、ミル出口温度の目標値、排ガスの酸素濃度の目標値、および給炭量等を入力として、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントにおける物質収支・熱収支に基づく計算式である物質・熱収支モデルの計算を行うことによって、配管内の酸素濃度を目標値に維持するのに必要な希釈エアの流量を導出する。
【0031】
ここで、物質・熱収支モデルについて説明する。
[物質・熱収支モデル]
物質・熱収支モデルは、配管内の酸素濃度を目標値に維持するのに必要な希釈エアの流量を、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントにおける熱の収支のバランスとガスの収支のバランスとをとる計算を行うことにより導出するものである。
【0032】
[[物質・熱収支モデルを構築する際の仮定]]
本実施形態では、以下の条件の下で、物質・熱収支モデルを構築した。
(a) 熱の収支のバランスとガスの収支のバランスとの双方について、非定常的なバランスを無視し、定常的なバランスのみを表現する。
(b) 原料である石炭に含まれる水分の相変化に必要な熱量を、石炭から発生する水蒸気量を生成するのに必要な潜熱により計算する。
(c) 燃料ガス(BFG)の燃焼により発生する排ガスの流量を、簡単のため、燃料ガス(BFG)の流量と燃焼エアの流量との和とする。
(d) 循環ファン113による昇温効果は、循環ガスにのみ寄与すると単純化し、放散ガスの温度は、ミル出口温度と同じであると仮定する。
(e) 負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの系内の温度は、ミル出口温度と同じになると仮定する。
(f) 燃料ガス(BFG)は完全燃焼するものとし、過剰な燃焼エアはそのまま残るものとする。
(g) バグ出口酸素濃度(バグフィルター107の出口側の位置における配管内の酸素ガスの濃度)は、希釈エアの流量の制御により、一定値に維持されるものとする。
(h) バグ出口排ガス流量(バグフィルター107の出口側の位置における配管内の排ガスの流量)は、流量制御により、一定量に維持されるものとする。
【0033】
[[物質・熱収支モデルに入力するモデルパラメータ]]
本実施形態の物質・熱収支モデルでは、モデルパラメータとして、以下の操業条件(の目標値)を入力値として与える。
・給炭量
・製品である微粉炭の温度(ミル出口温度)の目標値
・バグ出口排ガス流量(ミル105の出口側の所定の位置における配管内の排ガスの流量)
・配管内の酸素濃度の目標値
これらのモデルパラメータ(操業条件)は、操業に応じて任意の値に変更される。
【0034】
また、モデルパラメータとして、以下の環境条件を入力値として与える。
・石炭に含まれる水分量(石炭の水分量)
・微粉炭に含まれる水分量(製品の水分量)
・温度(希釈エア・石炭・注入ガス)
・比熱(水・ガス・石炭)
・水の潜熱
・燃料のガスカロリー
・バーナーの理論空気量
・バーナーの過剰空気量
・進入エアの流量
・シールエアの流量
・循環ファン113における断熱圧縮に起因する循環ガスの温度上昇分
【0035】
本実施形態では、これらのモデルパラメータ(環境条件)は、半固定値であり、必要に応じて変更される。環境条件としては、物質・熱収支モデルが適用される負圧式・排ガス循環系のPCIプラントにおける平均的な値を採用するのが好ましい。尚、水分量や温度については、例えば、サンプリングを行って予め求めておくことができる。また、バーナーの理論空気量は、燃料ガスの組成により変化するので、燃料ガスの組成に基づき設定される。バーナーの過剰空気量の値を大きくすると、燃焼不良を防止することができるので、バーナーの過剰空気量は、この観点から適宜設定される。
【0036】
[[熱収支モデル]]
本実施形態では、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに与えられる熱量と消費される熱量とが等しくなることを定式化したものを熱収支モデルとして表現する。負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに与えられる熱量と消費される熱量について説明する。
(1)石炭の加熱に必要な熱量の式
石炭を製品の温度まで加熱するのに必要な熱量ΔQCOAL[kcal]を、以下の(1)式で表す。
ΔQCOAL=原料の比熱×給炭量×1000×(製品の温度−原料の温度) ・・・(1)
前述したように、給炭量[ton/hr]と製品の温度は、操業条件として与えられるものであり、原料の比熱[kcal/kg・℃]と原料の温度[℃]は、環境条件として与えられるものである。
【0037】
(2)水の加熱に必要な熱量の式
石炭に含まれる水を製品の温度まで加熱するのに必要な熱量ΔQ(顕熱)[kcal]を、以下の(2)式で表す。
ΔQ(顕熱)=水の比熱×WM×(製品の温度−原料の温度) ・・・(2)
前述したように、水の比熱[kcal/kg・℃]は、環境条件として与えられるものである。
また、(2)式において、WMは、石炭に含まれる水の単位時間当たりの重量[kg/hr]であり、以下の(2a)式で表される。
WM=給炭量×1000×石炭の水分量/(100−石炭の水分量) ・・・(2a)
前述したように、給炭量[ton/hr]は、操業条件として与えられるものであり、石炭の水分量[質量%]は、環境条件として与えられるものである。
【0038】
(3)水の蒸発に必要な熱量の式
石炭に含まれる水が蒸発するために必要な熱量ΔQ(潜熱)[kcal]を、以下の(3)式で表す。
ΔQ(潜熱)=水の潜熱×WV ・・・(3)
前述したように、水の潜熱[kcal/kg]は、環境条件である。
また、(3)式において、WVは、水蒸気として存在する水の単位時間当たりの重量[kg/hr]であり、以下の(3a)式で表される。
WV=給炭量×1000×{石炭の水分量/(100−石炭の水分量)−製品の水分量/(100−製品の水分量)} ・・・(3a)
前述したように、給炭量[ton/hr]は、操業条件として与えられるものであり、石炭の水分量[質量%]と製品の水分量[質量%]は、環境条件として与えられるものである。
【0039】
(4)バーナー燃焼により得られる熱量の式
燃料ガスによる燃焼により発生する熱量ΔQHGG[kcal]を、以下の(4)式で表す。
ΔQHGG=燃料のガスカロリー×燃料ガスの流量 ・・・(4)
前述したように、燃料のガスカロリー[kcal/Nm3]は、環境条件として与えられるものである。燃料ガスの流量[Nm3/hr]は、決定変数である。
【0040】
(5)バーナー燃焼により消費される燃焼エアの流量の式
燃焼により消費される燃焼エアの流量[Nm3/hr]を、以下の(5)式で表す。
燃焼エアの流量=燃料ガスの流量×理論空気量×過剰空気量 ・・・(5)
前述したように、理論空気量[−]と過剰空気量[−]は環境条件として与えられるものである。燃焼エアの流量[Nm3/hr]と燃料ガスの流量[Nm3/hr]は、決定変数である。
【0041】
(6)バーナー燃焼により発生する排ガスの流量の式
燃料ガスの燃焼により発生する排ガスの流量(バーナー燃焼排ガス流量)[Nm3/hr]を、以下の(6)式で表す。
バーナー燃焼排ガス流量=燃料ガスの流量+燃焼エアの流量 ・・・(6)
実際には、バーナー燃焼排ガス流量は、燃料ガスの流量と燃焼エアの流量との和よりも小さいが、これらの和としてバーナー燃焼排ガス流量を表現しても、大きな誤差は生じない。そこで、本実施形態では、バーナー燃焼排ガス流量を、燃料ガスの流量と燃焼エアの流量との和で近似する。尚、燃焼エアの流量[Nm3/hr]と燃料ガスの流量[Nm3/hr]は、決定変数として与えられるものである。
【0042】
(7)循環ファンにおける断熱圧縮による温度上昇の式
循環ファン113における断熱圧縮に起因して発生する熱量ΔQFAN[kcal]を、以下の(7)式で表す。
ΔQFAN=循環ガスの流量×ΔT×ガスの比熱 ・・・(7)
前述したように、ガスの比熱[kcal/kg・℃]は、環境条件として与えられるものである。ΔTは、循環ファン113における断熱圧縮に起因する循環ガスの温度上昇分[℃]であり、前述したように、環境条件として与えられるものである。循環ガスの流量[Nm3/hr]は、以下の(7a)式で表される。
【0043】
循環ガスの流量=バグ出口排ガス流量−放散ガスの流量 ・・・(7a)
前述したように、バス出口排ガス流量[Nm3/hr]は、操業条件として与えられるものである。放散ガスの流量[Nm3/hr]は、以下の(7b)式で表される。
放散ガスの流量=Σガス流量(i)+WV×22.4/18 ・・・(7b)
(7b)式において、Σガスの流量(i)は、以下の(7c)式で表される。
Σガス流量(i)=燃料ガスの流量+燃焼エアの流量+希釈エアの流量+進入エアの流量+シールエアの流量 ・・・(7c)
前述したように、燃料ガスの流量[Nm3/hr]と燃焼エアの流量[Nm3/hr]は、決定変数として与えられるものである。進入エアの流量[Nm3/hr]とシールエアの流量[Nm3/hr]は、環境条件として与えられるものである。WVは、水蒸気として存在する水の単位時間当たりの重量[kg/hr]であり、(3a)式で表される。希釈エアの流量[Nm3/hr]は、決定変数である。尚、(7b)式の「22.4」は、標準体積(モル体積)[リットル/mol]であり、「18」は、水の分子量[グラム/mol]である。したがって、(7b)式の「22.4/18」は、重量を体積に変換する係数となる。
【0044】
負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに与えられる熱量と消費される熱量とが等しくなると、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントにおける熱収支のバランスがとれるので、以上の(1)式〜(7)式により、以下の(8)式が、熱収支モデルとして得られる。
ΣΔQGAS(i)+ΔQCOAL+ΔQ(顕熱)+ΔQ(潜熱)=ΔQHGG+ΔQFAN ・・・(8)
(8)式において、左辺は、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントで消費する熱量の合計であり、右辺は、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに与えられる熱量の合計である。
【0045】
また、ΣΔQGAS(i)は、以下の(8a)式で表される。
ΣΔQGAS(i)=Σ[ガス(i)の比熱×ガス(i)の流量×(製品の温度−ガス(i)の注入温度)] ・・・(8a)
ガス(i)は、燃料ガス、燃焼エア、希釈エア、進入エア、およびシールエアであり、これらのガスについての(8a)式の[]内の値の積算値を(8a)式で導出する。
【0046】
尚、前述したように、製品の温度は、操業条件として与えられるものであり、ガスの比熱と注入温度は、環境条件として与えられるものである。また、燃料ガスの流量[Nm3/hr]、燃焼エアの流量[Nm3/hr]、および希釈エアの流量[Nm3/hr]は、決定変数である。燃料ガスの流量[Nm3/hr]と燃焼エアの流量[Nm3/hr]は、(5)式、(6)式により表現される。さらに、進入エアの流量[Nm3/hr]とシールエアの流量[Nm3/hr]は、環境条件として与えられるものである。
【0047】
[[物質収支モデル]]
負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに注入されたガスと、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントで発生したガスは十分に混合し、これらのガスの注入量と発生量の和と同じ量のガスが煙突114を介して大気中に放出されることを定式化したものを物質収支モデルとして表現する。具体的には、以下の(9)式により物質収支モデルを表現する。
配管内の酸素濃度=[(シールエアの流量+進入エアの流量+希釈エアの流量+燃焼エアの流量×0.1)/放散ガスの流量]×21 ・・・(9)
前述したように、希釈エアの流量[Nm3/hr]と燃焼エアの流量[Nm3/hr]は、決定変数である。また、配管内の酸素濃度[体積%]は、操業条件として与えられるものであり、進入エアの流量[Nm3/hr]とシールエアの流量[Nm3/hr]は、環境条件として与えられるものである。さらに、放散ガスの流量[Nm3/hr]は、(7b)式および(7c)式により表される。尚、(9)式の右辺において、「燃焼エアの流量×0.1」は、燃焼反応で余ったエアの流量である。
【0048】
FF制御部205は、以上の(1)式〜(9)式の全てを満足する計算を行って、決定変数(燃料ガスの流量、燃焼エアの流量、および希釈エアの流量)を導出する。具体的に、これらの決定変数の導出は、例えば、(8)式および(9)式の反復計算を所定の収束条件を満足するまで行うことにより実現できる。すなわち、(1)式〜(8)式で導出された燃料ガスの流量・燃焼エアの流量を(9)式に与えて希釈エアの流量を導出し、導出した希釈エアの流量を(7c)式に与えて(1)式〜(8)式により燃料ガスの流量・燃焼エアの流量を導出することを、各決定変数の解が収束するまで行う。FF制御部205は、このようにして決定変数の1つである希釈エアの流量を導出する。希釈エアの流量を、このようにした導出した値で一定に維持すれば、理想的には、配管内の酸素濃度は目標値に収束することになる。
【0049】
ここで、(9)式を変形すると、希釈エアの流量は、以下の(10)式のように表される。
希釈エアの流量=[配管内の酸素濃度の目標値×(シールエアの流量+進入エアの流量+燃料ガスの流量+燃焼エアの流量+水蒸気の流量)−21×(シールエアの流量+進入エアの流量+0.1×燃焼エアの流量)]/(21−配管内の酸素濃度の目標値) ・・・(10)
尚、水蒸気の流量は、WV×22.4/18で表される。(10)式により、希釈エアの流量が導出される。
【0050】
本実施形態では、FF制御量の初期値(すなわち給炭開始時のFF制御量の値)を0(ゼロ)とする。
また、本実施形態では、フィードフォワード制御を、速度型で表現するものとして、給炭量の変化に応じてのみ作用させる。
そこで、フィードフォワード制御量(FF制御量)を以下の(11)式で表し、ΔFF制御量を以下の(12)式のように表す。
【0051】
FF制御量=f(給炭量,配管内の酸素濃度の目標値,ミル出口温度の目標値,石炭の水分量) ・・・(11)
ΔFF制御量=FF制御量−FF制御量_前回値 ・・・(12)
(11)式において、fは、給炭量、配管内の酸素濃度の目標値、ミル出口温度の目標値、および石炭の水分量を変数とする関数を表す。また、(11)式および(12)式において、FF制御量は、前述したようにして導出される希釈エアの流量であり、FF制御量_前回値は、FF制御量の前回の値である。
【0052】
ここで、ΔFF制御量を以下の(13)式で定義すれば、FF制御量は、以下の(14)式のように速度型で記述される。
ΔFF制御量=(∂FF制御量/∂給炭量)×Δ給炭量 ・・・(13)
FF制御量=FF制御量_前回値+ΔFF制御量 ・・・(14)
(13)式において、(∂FF制御量/∂給炭量)は、配管内の酸素濃度の目標値、ミル出口温度の目標値、および石炭の水分量を固定した場合の、給炭量の変化量に対するFF制御量の変化量である。このように本実施形態では、給炭量に変化がなければ、ΔFF制御量は0(ゼロ)となり、フィードバック制御量(FF制御量)は、前回の値のままになる。
【0053】
図3は、希釈エアの流量と給炭量との関係の一例を概念的に示す図である。図3に示す例では、ハッチングで示している箇所でフィードフォワード制御が行われることを示す。すなわち、図3に示す例では、粉砕開始時の最小給炭量である30[ton/hr]のときには、フィードフォワード制御量(FF制御量)は0(ゼロ)であり、その後、給炭量が増えるに従い、ΔFF制御量が増加し、その結果、フィードフォワード制御量(FF制御量)が増加することを示す。尚、図3では、希釈エアの流量と給炭量との関係が正比例の関係である場合を例に挙げて示すが、希釈エアの流量と給炭量との関係は正比例に限定されない。
【0054】
FF制御部205は、前述したようにして導出される希釈エアの流量と、給炭量との関係を導出することにより、(∂FF制御量/∂給炭量)を導出する。また、Δ給炭量は、制御周期毎の給炭量の変化量である。FF制御部205は、このようにしてΔFF制御量を導出し、導出したΔFF制御量をFF制御量の前回の値(FF制御量_前回値)に加算することにより、フィードフォワード制御量を導出する。
【0055】
<加算部206>
加算部206は、PID制御部203によりフィードバック制御量として導出された希釈エアの流量に、FF制御部205によりフィードフォワード制御量として導出された希釈エアの流量を加算する。
【0056】
<変換部207>
変換部207は、加算部206により得られた希釈エアの流量の加算値を、エア流量調整弁118の開度に変換する。
図4は、変換部207の構成の一例を示す図である。図4(a)は、変換部207の構成の第1の例を示す図であり、図4(b)は、変換部207の構成の第2の例を示す図である。本実施形態では、図4(a)および図4(b)の何れの変換部207を採用してもよい。
【0057】
図4(a)に示す例では、変換部207は、流量−開度関係記憶部207aと、流量−開度変換部207bと、指示部207cとを有する。
流量−開度関係記憶部207aは、希釈エアの流量と、エア流量調整弁118の開度との関係を示す情報を記憶する。希釈エアの流量とエア流量調整弁118の開度との関係を示す情報は、これらの関係式を示す情報であっても、これらを相互に関連付けて記憶するテーブルであってもよい。希釈エアの流量とエア流量調整弁118の開度との関係は、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの操業結果等を予め調査することにより得られる。
【0058】
流量−開度変換部207bは、加算部206で導出された希釈エアの流量に対応するエア流量調整弁118の開度を、流量−開度関係記憶部207aに記憶されている、希釈エアの流量と、エア流量調整弁118の開度との関係から導出する。
指示部207cは、エア流量調整弁118の開度が、流量−開度変換部207bにより導出された値になるようにエア流量調整弁118を動作させることを、エア流量調整弁118またはエア流量調整弁118の駆動装置に指示する。
【0059】
一方、図4(b)に示す例では、変換部207は、希釈エア流量偏差導出部207dと、PID制御部207eと、指示部207fを有する。
希釈エア流量偏差導出部207dは、加算部206で導出された希釈エアの流量から、オリフィス流量計117で測定された希釈エアの流量を減算して、希釈エアの流量の測定値の予測値(加算部206で得られた希釈エアの流量の加算値)に対する偏差eを導出する。
【0060】
PID制御部207eは、希釈エア流量偏差導出部207dにより導出された「希釈エアの流量の測定値の予測値に対する偏差e」を入力として、比例動作、積分動作、および微分動作を行い、操作量として希釈エアの流量を導出することを繰り返して、希釈エアの流量を予測値に近づける制御(PID制御)を行う。そして、PID制御部207eは、操作量として導出した希釈エアの流量になるようなエア流量調整弁118の開度を導出する。
【0061】
指示部207fは、エア流量調整弁118の開度が、PID制御部207eにより導出された値になるようにエア流量調整弁118を動作させることを、エア流量調整弁118またはエア流量調整弁118の駆動装置に指示する。
尚、図4(b)の構成を採用した場合には、カスケード制御となる。
【0062】
(フローチャート)
次に、図5のフローチャートを参照しながら、ライン内部の酸素濃度を制御する際の粉砕プラント酸素濃度制御装置200の動作の一例を説明する。
まず、ステップS501において、O2濃度偏差導出部202は、排ガスの酸素濃度の測定値の目標値に対する偏差eを導出する。
次に、ステップS502において、PID制御部203は、排ガスの酸素濃度の測定値の目標値に対する偏差eを入力として、PID制御を行い、操作量として排ガスの酸素濃度を導出し、導出した排ガスの酸素濃度になるような希釈エアの流量をフィードバック制御量として導出する。
【0063】
次に、ステップS503において、FF制御部205は、物質・熱収支モデルの計算を行うことによって、希釈エアの流量をフィードフォワード制御量として導出する。尚、前述したように本実施形態では、速度型制御を行うことによりフィードフォワード制御量を導出する。
次に、ステップS504において、加算部206は、ステップS502でフィードバック制御量として導出された希釈エアの流量に、ステップS503でフィードフォワード制御量として導出された希釈エアの流量を加算する。
【0064】
次に、ステップS505において、変換部207は、ステップS504で導出された希釈エアの流量をエア流量調整弁118の開度に変換する。
次に、ステップS506において、変換部207は、エア流量調整弁118の開度が、ステップS505で導出した値になるようにエア流量調整弁118を動作させることを、エア流量調整弁118またはエア流量調整弁118の駆動装置に指示する。
次に、ステップS507において、粉砕プラント酸素濃度制御装置200は、粉砕を終了するか否かを判定する。この判定は、例えば、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの操業を管理する上位のコンピュータから送信される情報に基づいて行うことができる。
【0065】
この判定の結果、粉砕を終了する場合には、図5のフローチャートによる処理を終了する。一方、粉砕を終了しない場合には、ステップS501に戻り、粉砕を終了すると判定するまで、ステップS501〜S507を繰り返し行う。
【0066】
(まとめ)
以上のように本実施形態では、排ガスの酸素濃度の測定値を目標値に近づけるフィードバック制御を行い、そのフィードバック制御の出力である希釈エアの流量をフィードバック制御量として導出する。また、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに与える熱量と、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントで消費される熱量とのバランスをとる熱収支の計算と、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに注入されるガスの流量と、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントで発生するガスの流量との和と、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントから排出されるガスの流量とのバランスをとる物質収支の計算と、を行って(物質・熱収支モデルの計算を行って)、排ガスの酸素濃度の目標値を維持するために必要な希釈エアの流量をフィードフォワード制御量として導出する。
【0067】
そして、フィードバック制御量として導出された希釈エアの流量に、フィードフォワード制御量として導出された希釈エアの流量を加算し、加算した値をエア流量調整弁118の開度に変換する。このようにして得られた開度になるようにエア流量調整弁118を動作させる。
したがって、フィードバック制御のみを行う場合に比べ、給炭量の変動があった場合でも、希釈エアの流量を給炭量の変動に追従させることができる。よって、ミル105への原料(石炭)の供給量の変動があった場合でもライン内部の酸素濃度が変動することを抑制することができる。これにより、例えば、給炭量の急激な減少により、ライン内部の酸素濃度が粉塵爆発を防止する観点から定められる管理値を上回ることを抑制することができる。その結果、ライン内部の酸素濃度が管理値を上回らないように給炭量を必要以上に小さくする必要がなくなる。よって、ミル105の入口側の所定の位置における配管内の温度が、その上限値に近い温度になるまで、給炭量を大きくすることができ、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントの生産能力を向上させることができる。
【0068】
(変形例)
本実施形態では、負圧式・排ガス循環系のPCIプラントに粉砕プラント酸素濃度制御装置200を適用する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、負圧式・排ガス循環系のPCIプラント以外の負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントにも粉砕プラント酸素濃度制御装置200を適用することができる。例えば、セメントを製造するための負圧式・排ガス循環系の粉砕プラントにも粉砕プラント酸素濃度制御装置200を適用することができる。
【0069】
また、本実施形態では、排ガスの酸素濃度の測定値を目標値に近づけるフィードバック制御としてPID制御を行う場合を例に挙げて説明した。しかしながら、排ガスの酸素濃度の測定値を目標値に近づけるフィードバック制御であれば、どのような制御を行ってもよい。例えば、比例動作、積分動作、および微分動作のうち、比例動作を含む少なくとも1つの動作を行う制御を行うようにしてもよい(例えば、PID制御に代えて、P制御またはPI制御を行うようにしてもよい)。
【0070】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態を説明する。
第1の実施形態では、原料である石炭の水分量が、環境条件として半固定値である場合を例に挙げて説明した。前述したように、石炭の水分量により、ライン内部の酸素濃度は大きく変動する。そこで、本実施形態では、石炭の水分量を推定することにより、フィードフォワード制御量として導出される希釈エアの流量の精度をより一層向上させる。このように第1の実施形態と本実施形態とは、石炭の水分量を得る方法が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1図5に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0071】
(9)式において、シールエアの流量および進入エアの流量以外は全て測定できるものである。そこで、本実施形態では、シールエアの流量と進入エアの流量との和を不可観測エアの流量とし、シールエアの流量と進入エアの流量を一括りの流量として取り扱う。
そうすると、(9)式は、以下の(15)式のようになる。
配管内の酸素濃度=[(不可観測エアの流量+希釈エアの流量+燃焼エアの流量×0.1)/放散ガスの流量]×21 ・・・(15)
(15)式により、不可観測エアの流量が導出される。
【0072】
次に、(7b)式および(7c)式を、不可観測エアの流量を用いて書き換えると、放散ガスの流量は、以下の(16)式のように表される。
放散ガスの流量=燃料ガスの流量+燃焼エアの流量+希釈エアの流量+不可観測エアの流量+WV×22.4/18 ・・・(16)
尚、前述したように、(16)式におけるWV×22.4/18は、水蒸気の流量である。(16)式により、この水蒸気の流量(WV:水蒸気として存在する水の単位時間当たりの重量)が導出される。
【0073】
ここで、製品の水分量は経験的に求められる(例えば1.5[%])。したがって、このようにして水蒸気の流量(WV×22.4/18)が導出されると、(3a)式より、石炭の水分量が導出される。
【0074】
したがって、本実施形態では、例えば、配管内の酸素濃度をバグ出口O2濃度計110で測定し、希釈エアの流量をオリフィス流量計117で測定し、熱ガス発生装置101に送り込まれる燃料ガスの流量を不図示のオリフィス流量計で測定し、熱ガス発生装置101に送り込まれる燃焼エアの流量を不図示のオリフィス流量計で測定し、放散ガスの流量を煙突114から大気中に向かう放散ガスの流量を不図示のオリフィス流量計で測定する。そして、FF制御部205は、これらの測定値を入力して、(15)式、(16式)、および(3a)式の計算を行うことにより、石炭の水分量を導出し、導出した石炭の水分量を、第1の実施形態では半固定値として扱っていた石炭の水分量に代わりに用いて、第1の実施形態で説明したように、フィードフォワード制御量としての希釈エアの流量を導出する。
【0075】
以上のようにして石炭の水分量を導出するに際し、測定値の時間的なばらつきによる影響を低減するため、本実施形態では、以下のようにする。
まず、希釈エアの流量、燃料ガスの流量、燃焼エアの流量、および放散ガスの流量については、所定の時間(例えば30分)の代表値を用いる。代表値としては、例えば、平均値または移動平均値を用いることができる。また、これらに加えて、配管内の酸素濃度についても、所定の時間(例えば30分)の代表値を用いてもよい。したがって、FF制御部205は、これらの代表値を計算し、計算した代表値を用いて、(15)式、(16)式、および(3a)式の計算を行うことにより、石炭の水分量を導出する。
【0076】
また、前述したように、物質・熱収支モデルでは、熱の収支のバランスとガスの収支のバランスとの双方について、非定常的なバランスを無視し、定常的なバランスのみを表現している。したがって、FF制御部205は、給炭が開始されてから所定の時間が経過するまでの期間と、給炭量が変更されている期間においては、石炭の水分量の導出をせずに、前回導出した石炭の水分量の値を採用する。また、前述した代表値の導出に際し、給炭開始時から所定の時間が経過するまでの期間と、給炭量が変更されている期間における前述した測定値を使用しないようにしてもよい。
【0077】
以上のように本実施形態では、測定値を用いて物質収支モデルの計算を行うことにより、石炭の水分量を導出(推定)する。したがって、物質・熱収支モデルの計算精度を向上させることができる。よって、天候や石炭の銘柄により変化する石炭の水分量に応じた希釈エアの流量としてより正確な流量をフィードフォワード制御量として導出することができる。これにより、ロバストなフィードフォワード制御を実現することができる。
本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0078】
(実施例)
次に、実施例を説明する。
本実施例では、図1に示す負圧式・排ガス循環系のPCIプラントにおいて、以下の操業条件で石炭を粉砕する際の希釈エアの流量を導出する。そして、導出した希釈エアの流量となるようにエア流量調整弁118を動作させながら、バグ出口O2濃度計110でライン内部の酸素濃度を測定することを、コンピュータシミュレーションにより模擬した。
【0079】
ここでは、第1の実施形態で説明した粉砕プラント酸素濃度制御装置200を用いて希釈エアの流量を導出した場合を発明例とした。また、第1の実施形態で説明した粉砕プラント酸素濃度制御装置200から、FF制御部205および加算部206を除いた粉砕プラント酸素濃度制御装置を用いて希釈エアの流量を導出した場合を比較例とした。このように比較例では、フィードフォワード制御は行われずにフィードバック制御のみが行われる。
【0080】
操業条件は、以下の通りである。
石炭の水分量:8.0[%]
製品の水分量:1.5[%]
ミル出口温度の目標値:90[℃]
外気温:5[℃]
ライン内部の酸素濃度の目標値:10[%]
燃料ガス:BFG
給炭量の最小値:30[ton/hr]
給炭量の最大値:60[ton/hr]
図6は、給炭量と時間との関係を示す図である。図6に示すように、給炭量を30[ton/hr]→60[ton/hr]→30[ton/hr]に変更したときのライン内部の酸素濃度および希釈エアの流量の時間変化を評価した。
【0081】
図7は、比較例の結果を示す図である。具体的に図7(a)は、ライン内部の酸素濃度と時間との関係を示す図であり、図7(b)は、希釈エアの流量と時間との関係を示す図である。図8は、発明例の結果を示す図である。具体的に図8(a)は、ライン内部の酸素濃度と時間との関係を示す図であり、図8(b)は、希釈エアの流量と時間との関係を示す図である。
【0082】
ライン内部の酸素濃度は、給炭量の変化により変動する。これは、ミル出口温度を90[℃]に維持するために熱ガス発生装置101の負荷(バーナー負荷)が増減して、結果として熱ガス発生装置101(バーナー)から発生する排ガスの流量と、石炭から発生する水蒸気の流量とが増減することに対応する。
【0083】
図7(b)に示すように、フィードバック制御のみで希釈エアの流量を導出する場合、給炭量の変動に希釈エアの流量が追従しない。このため、図7(a)に示すように、過渡的には、ライン内部の酸素濃度が減少(給炭量が増大に対応)、あるいは、ライン内部の酸素濃度が増大(給炭量が減少に対応)する。
石炭の水分量が8.0[%]よりも大きい場合は、必要となる希釈エアの流量がより大きくなることから、ライン内部の酸素濃度の変動幅は、図7(a)に示すものよりも更に大きくなる。ライン内部の酸素濃度が上限値(例えば12[%])を上回ると、粉塵爆発の発生を防止する観点から、粉砕設備を非常停止させる。このことは、石炭の水分量が大きいほど給炭量を大きく変更する場合に、粉砕設備が非常停止となるリスクを抱えることを表すものである。
【0084】
一方、図8(b)に示すように、第1の実施形態で説明したフィードフォワード制御を組み込むことにより、フィードバック制御のみの場合と異なり、フィードフォワード制御が、希釈エアの流量を給炭量の変化に迅速に追従させる。このため、ライン内部の過渡的な酸素濃度の減少(給炭量が増大に対応)、あるいは、ライン内部の過渡的な酸素濃度の増大(給炭量が減少に対応)が効果的に抑制される。図8(a)に示す結果では、ライン内部の酸素濃度の変動幅を、図7(a)に示す結果に比べ、10分の1程度にまで抑制できている。このことは、フィードフォワード制御の適用によって給炭量を大きく変更する場合であっても、粉砕設備が非常停止となるリスクを排除できることを意味する。
【0085】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体および前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態および実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0086】
(請求項との対応)
<請求項1>
熱風発生装置は、例えば、熱ガス発生装置101により実現される。
粉砕機は、例えば、ミル105により実現される。
捕集機は、例えば、バグフィルター107により実現される。
経路は、例えば、図1において、熱ガス発生装置101とミル105、ミル105とバグフィルター107、バグフィルター107とダンパー112、ダンパー112と循環ファン113、循環ファン113と循環系圧力調整弁116、循環系圧力調整弁116と熱ガス発生装置101をそれぞれ繋ぐ配管により実現される。
測定手段は、例えば、バグ出口O2濃度計110により実現される。
調整手段は、例えば、エア流量調整弁118により実現される。
第1の制御手段は、例えば、PID制御部203を用いることにより実現される。
第2の制御手段は、例えば、FF制御部205を用いることにより実現される。
複数の計算式は、例えば、(1)式〜(9)式、(13)式、(14)式を用いることにより実現される。
<請求項2>
フィードフォワード制御量と、原料の粉砕機への供給量との関係は、例えば、(13)式に示す(∂FF制御量/∂給炭量)により実現される。
原料の粉砕機への供給量の変動量は、例えば、(13)式に示すΔ給炭量により実現される。
フィードフォワード制御量の前回導出した値は、例えば、(14)式等に示すFF制御量_前回値により実現される。フィードフォワード制御量の前回導出した値に対する変動量は、例えば、(14)式等に示すΔFF制御量により実現される。
<請求項3>
希釈ガスの流量を測定する手段は、例えば、オリフィス流量計117により実現される。
熱風を発生させるための燃料ガスの流量を測定する手段は、例えば、熱ガス発生装置101に送り込まれる燃料ガスの流量を測定する不図示のオリフィス流量計により実現される。
熱風を発生させるための燃焼空気の流量を測定する手段は、例えば、熱ガス発生装置101に送り込まれる燃焼エアの流量を測定する不図示のオリフィス流量計により実現される。
経路から大気中に放出される放散ガスの流量を測定する手段は、例えば、放散ガスの流量を煙突114から大気中に向かう放散ガスの流量を測定する不図示のオリフィス流量計により実現される。
物質収支の計算は、例えば、(15)式、(16)式を用いた計算により実現される。
経路の内部における水蒸気の流量は、例えば、(3a)式に示すWVに係数(22.4/18)を掛けた値により実現される。
原料の粉砕機への供給量は、例えば、(3a)式に示す給炭量により実現される。
粉砕後の原料の水分量は、例えば、(3a)式に示す製品の水分量により実現される。
【符号の説明】
【0087】
101:熱ガス発生装置、103:バンカー、104:給炭機、105:ミル、107:バグフィルター、110:バグ出口O2濃度計、118:エア流量調整弁、200:粉砕プラント酸素濃度制御装置、201:O2濃度目標値記憶部、202:O2濃度偏差導出部、203:PID制御部、204:ミル出口温度目標値記憶部、205:FF制御部、206:加算部、207:変換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8