特許第6801467号(P6801467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6801467サイド堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801467
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】サイド堰、双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
   B22D11/06 330B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-7473(P2017-7473)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-114538(P2018-114538A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−025038(JP,U)
【文献】 特開平04−224050(JP,A)
【文献】 特開昭57−130743(JP,A)
【文献】 特開平09−122837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ロール間に溶融金属を連続的に供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、厚さ5mm以下の薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記一対の冷却ロールの両端面に配設され、前記一対の冷却ロールとともに溶融金属プール部を形成するサイド堰であって、
前記溶融金属プール部内の溶融金属と接する面に、多孔質層が形成されており、前記多孔質層の外縁最下点からロールキス点までの距離が30mm以上100mm以下であることを特徴とするサイド堰。
【請求項2】
前記多孔質層は、セラミックスファイバーからなる多孔質シートで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のサイド堰。
【請求項3】
前記多孔質層は、アルミナ又はジルコニアで構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサイド堰。
【請求項4】
前記多孔質層は、気孔率が50%以上98%以下の範囲内、厚さが0.5mm以上10mm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のサイド堰。
【請求項5】
回転する一対の冷却ロール間に溶融金属を連続的に供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、厚さ5mm以下の薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のサイド堰が、前記一対の冷却ロールの両端面に配設され、前記一対の冷却ロールとともに溶融金属プール部を形成することを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。
【請求項6】
回転する一対の冷却ロール間に溶融金属を連続的に供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、厚さ5mm以下の薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のサイド堰を用いて、前記一対の冷却ロールとともに溶融金属プール部を形成することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する一対の冷却ロール間に溶融金属を連続的に供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記一対の冷却ロールの両端面に配設されるサイド堰、このサイド堰を備えた双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、内部に水冷構造を有し互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。このような双ロール式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ロール式連続鋳造装置においては、冷却ロールの上方に配置された溶融金属容器から浸漬ノズルを介して溶融金属プール部に溶融金属を連続的に供給する。溶融金属は、溶融金属プール部の中央部に配置された浸漬ノズルから冷却ロールの周面に向けて吐出され、冷却ロールの周面に沿って一対のサイド堰側へとそれぞれ流れていく。回転する冷却ロールの周面上では溶融金属が凝固成長して凝固シェルを形成し、各冷却ロールの周面の凝固シェルがロールキス点で圧着される。
【0004】
溶融金属プ−ル部の側壁となるサイド堰は、薄肉鋳片の鋳造時に、回転する冷却ロールの側面と摺接して溶融金属をシールして保持する働きをする。ここで、サイド堰は、鋳造前に予熱されるとともに鋳造時も外部から加熱されるが、冷却ロールと常に摺接しているために冷却ロールから抜熱されて冷却される。この冷却が過多になると、溶融金属が、低温になったサイド堰に接することによってサイド堰表面上で凝固し、生じた凝固層がサイド堰表面に付着し成長する。これを地金と称する。
【0005】
このようにしてサイド堰表面上で生成した地金は、厚肉に成長した後、冷却ロールの周面にて鋳造される薄肉鋳片とともに一対の冷却ロール間に噛み込んで引き込まれるおそれがある。
地金が薄肉鋳片とともに一対の冷却ロール間に引き込まれると、薄肉鋳片とともに地金が冷却ロール間で圧着されるため、局所的に厚みが大きくなる。また、地金が一対の冷却ロールに噛み込まれる際には、一時的に一対の冷却ロール間の距離が大きくなり、薄肉鋳片の幅全体で厚くなる現象(地金のない部分では、凝固が遅れ高温となる、いわゆるホットバンド)の発生や、それにともなう薄肉鋳片の板厚変動、表面疵等の品質欠陥や板破断、湯漏れ等の操業上のトラブルの原因となる。
【0006】
したがって、この双ロール式連続鋳造装置において、冷却ロールの周面上の凝固を均一に進行させて健全な薄板を製造するためには、サイド堰表面に形成する地金の発生と成長を防止することがプロセス上最も重要な課題の一つである。
そこで、たとえば特許文献1−4には、サイド堰表面における地金の発生を抑制する技術が提案されている。
【0007】
特許文献1には、サイド堰近傍の溶融金属の湯面を、プラズマ炎等の外部加熱手段によって加熱する方法が提案されている。
特許文献2には、サイド堰を導電性耐火物で構成し、サイド堰近傍の溶融金属を通電加熱する方法が提案されている。
特許文献3には、サイド堰に近接配置された電磁誘導コイルにより、サイド堰と溶融金属とを軟接触状態とするとともに、サイド堰近傍の溶融金属を誘導加熱する方法が提案されている。
特許文献4には、導電性耐火物で構成されたフィンを浸漬させ、溶融金属の流動方向を変化させるとともに、このフィンを用いて通電加熱する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−009751号公報
【特許文献2】特開平09−122837号公報
【特許文献3】特開2000−158100号公報
【特許文献4】特開2000−271706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、プラズマ炎等の外部加熱手段によって溶融金属を加熱していることから、溶融金属中に異物や不純物が混入し、溶融金属が汚染されるおそれがあった。
また、特許文献2及び特許文献3に記載された方法では、鋳造中にサイド堰を加熱するための加熱装置を配置する必要があり、設備コストが高くなるといった問題があった。
さらに、特許文献4に記載された方法では、フィンによって溶融金属の流れを変えているが、サイド堰近傍において湯面での溶融金属の停滞を十分に抑制することができなかった。
以上のように、従来の方法では、サイド堰表面における地金の生成及び成長を十分に抑制することはできなかった。
【0010】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、比較的簡単な構成で、サイド堰表面における地金の生成及び成長を抑制し、安定して鋳造を行うことが可能なサイド堰、このサイド堰を備えた双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るサイド堰は、回転する一対の冷却ロール間に溶融金属を連続的に供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、厚さ5mm以下の薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において、前記一対の冷却ロールの両端面に配設され、前記一対の冷却ロールとともに溶融金属プール部を形成するサイド堰であって、前記溶融金属プール部内の溶融金属と接する面に、多孔質層が形成されており、前記多孔質層の外縁最下点からロールキス点までの距離が30mm以上100mm以下であることを特徴としている。
【0012】
この構成のサイド堰によれば、サイド堰のうち前記溶融金属プール部内の溶融金属と接する面に多孔質層が形成されており、この多孔質層は気孔部にガスを有しており断熱性に優れていることから、溶融金属からサイド堰側への抜熱が抑えられ、サイド堰表面における地金の生成及び成長を抑制することができる。
特に、サイド堰の温度が低く地金が生成しやすい鋳造初期においても、断熱性に優れた多孔質層により、サイド堰側への放熱が抑制され、地金の生成及び成長を抑制することが可能となる。
また、サイド堰表面に形成した多孔質層が保温効果を有するため、発熱体等によってサイド堰近傍を加熱した際にも、サイド堰近傍の溶融金属の温度を高く維持することが可能となる。よって、鋳造を安定して実施することができる。
さらに、この多孔質層は、サイド堰のうち前記溶融金属プール部内の溶融金属と接する面に形成されており、冷却ロールとは接していないことから、冷却ロールとの摺接によって多孔質層が損耗することを抑制できる。
【0013】
ここで、本発明のサイド堰においては、前記多孔質層は、セラミックスファイバーからなる多孔質シートで構成されていることが好ましい。
この場合、従来のサイド堰の表面にセラミックスファイバーからなる多孔質シートを配設することで多孔質層を形成することができ、構造が非常に簡単となる。また、鋳造条件に応じて、熱伝導性、耐熱性等を考慮してセラミックスファイバーからなる多孔質シートを選択することで、的確にサイド堰表面における地金の生成及び成長を抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明のサイド堰においては、前記多孔質層は、アルミナ又はジルコニアで構成されていることが好ましい。
アルミナ及びジルコニアは、溶融金属との濡れ性が悪いことから、溶融金属と接した際に多孔質層の気孔部に溶融金属が入り込むことが抑制され、断熱性が維持されることになる。
【0015】
さらに、本発明のサイド堰においては、前記多孔質層は、気孔率が50%以上98%以下の範囲内、厚さが0.5mm以上10mm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、多孔質層の気孔率が50%以上とされているので、気孔部が十分に確保されており、断熱性に優れている。一方、多孔質層の気孔率が98%以下とされているので、多孔質層の強度が確保される。
また、多孔質層の厚さが0.5mm以上とされているので、強度及び断熱性を確保することができる。さらに、多孔質層の厚さが10mm以下とされているので、この多孔質層自体の破損やサイド堰からの脱落を抑制することができる。
【0016】
本発明の双ロール式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ロール間に溶融金属を連続的に供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、厚さ5mm以下の薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、前述のサイド堰が、前記一対の冷却ロールの両端面に配設され、前記一対の冷却ロールとともに溶融金属プール部を形成することを特徴としている。
【0017】
また、本発明の薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ロール間に溶融金属を連続的に供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて、厚さ5mm以下の薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前述のサイド堰を用いて、前記一対の冷却ロールとともに溶融金属プール部を形成することを特徴としている。
【0018】
この構成の双ロール式連続鋳造装置及び薄肉鋳片の製造方法によれば、多孔質層を有するサイド堰によって溶融金属プール部が形成されているので、溶融金属からサイド堰側への抜熱が抑えられ、サイド堰表面における地金の生成及び成長を抑制することができる。よって、薄肉鋳片の鋳造を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
上述のように、本発明によれば、比較的簡単な構成で、サイド堰表面における地金の生成及び成長を抑制でき、安定して鋳造を行うことが可能なサイド堰、このサイド堰を備えた双ロール式連続鋳造装置、及び、薄肉鋳片の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ロール式連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2図1に示す双ロール式連続鋳造装置の一部拡大説明図である。
図3図1に示す双ロール式連続鋳造装置の溶鋼プール部の断面説明図である。
図4】サイド堰表面に形成された多孔質層の断面説明図である。
図5図4の一部拡大説明図である。
図6】サイド堰表面に形成された多孔質層の正面説明図である。
図7図6の一部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。以下の実施形態においては、鋳造する対象金属を鋼として説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。なお、鋼種としては、例えば0.001〜0.01%C極低炭鋼、0.02〜0.05%C低炭鋼、0.06〜0.4%C中炭鋼、0.5〜1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、3.0〜3.5%Si方向性電磁鋼、0.1〜6.5%Si無方向性電磁鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0022】
本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ロール式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ロール式連続鋳造装置10は、一対の冷却ロール11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12、12、および、13、13と、一対の冷却ロール11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰20と、これら一対の冷却ロール11、11とサイド堰20とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル19と、を備えている。
【0023】
この双ロール式連続鋳造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ロール11,11に接触して冷却されることにより、冷却ロール11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ロール11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0024】
ここで、図2に示すように、冷却ロール11の端面にサイド堰20が配設されることによって、溶鋼プール部16が画成されている。
なお、溶鋼プール部16の湯面は、一対の冷却ロール11,11の周面と一対のサイド堰20,20によって四方を囲まれた矩形状をなしており、この矩形状をなす湯面の中央部に浸漬ノズル19が配設されている。
また、図3に示すように、溶鋼プール部16におけるサイド堰20の溶鋼3との接触部は、略逆三角形状をなしている。サイド堰20の温度が低下した場合には、この接触部において地金が発生することになる。
【0025】
このサイド堰20は、上述のように、冷却ロール11の端面と摺接して冷却ロール11の端部からの溶鋼3の漏れを防止するシール作用を有する。したがって、溶鋼3を安定して保持するとともに、冷却ロール11の周面での凝固シェル5の形成に悪影響を与えないことが重要である。このため、サイド堰20を構成する材質としては、冷却ロール11との摺動する際の耐摩耗性を有し、かつ、溶鋼3との反応性が乏しい耐熱材料を用いることになる。なお、冷却ロール11の端面と直接接触する摺動部を、サイド堰20の本体部と分割して構成してもよい。摺動部を構成する材料は、耐摩耗性、潤滑性に優れたものを用いることが好ましい。
ここで、サイド堰20を構成する材料としては、例えば、黒鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ等又はこれらの材料の二種以上を用いた複合材料が用いられる。
【0026】
そして、本実施形態であるサイド堰20においては、図4から図7に示すように、溶鋼プール部16内の溶鋼3と接触する面に多孔質層21が形成されている。
ここで、本実施形態においては、多孔質層21は、セラミックスファイバーからなる多孔質シートがサイド堰20の表面に貼り付けられることで構成されている。なお、多孔質シートを貼り付ける際には、骨材としてアルミナ又はジルコニアを含有し、無機バインダーとしてリン酸塩、ホウ酸塩やケイ酸塩等を含有する耐熱性接着剤を用いることが好ましい。
【0027】
また、この多孔質層21(多孔質シート)は、溶鋼に対してアルミナ又はジルコニアで構成されている。すなわち、アルミナ又はジルコニアの繊維の集合体とされている。具体的には、アルミナ又はジルコニアの繊維からなるフェルトやクロスを適用することができる。
ここで、多孔質層21(多孔質シート)を構成する繊維の外径は、例えば1μm以上20μm以下の範囲内とされている。
また、多孔質層21(多孔質シート)の密度は、0.08g/cm以上3.0g/cm以下の範囲内とされている。
【0028】
そして、本実施形態においては、多孔質層21(多孔質シート)は、気孔率Pが50%以上98%以下の範囲内とされている。
ここで、上述の気孔率P(%)は、多孔質層21(多孔質シート)の見掛け密度をM、多孔質層21(多孔質シート)と同組成物質の密度Mとした際に、以下の式で算出される。
P=100×(1−M/M
なお、上述のアルミナ又はジルコニアの繊維の集合体からなる多孔質層21(多孔質シート)においては、1/3程度の厚さまで圧縮しても元の厚さに復元するため、見掛け密度は圧縮する前の状態で測定したものを用いた。
【0029】
ここで、上述の気孔率Pが50%未満では、気孔部の占める割合が少なく断熱効果が不十分となるおそれがある。一方、上述の気孔率Pが98%を超えると、多孔質層21(多孔質シート)の強度が不足するおそれがある。
このため、本実施形態では、多孔質層21(多孔質シート)の気孔率Pを50%以上98%以下の範囲内に設定している。
なお、断熱効果を確実に奏功せしめるためには、多孔質層21(多孔質シート)の気孔率Pの下限を80%以上とすることが好ましく、88%以上とすることがさらに好ましい。また、多孔質層21(多孔質シート)の強度を十分に確保するためには、多孔質層21(多孔質シート)の気孔率Pの上限を97%以下とすることが好ましく、96%以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
また、本実施形態においては、多孔質層21(多孔質シート)は、その厚さtが0.5mm以上10mm以下の範囲内とされている。
厚さtが0.5mm未満では、十分な断熱効果を得ることができず、かつ、強度が不足するおそれがある。一方、厚さtが10mmを超えると、断熱効果が飽和するとともに、多孔質層21(多孔質シート)自体が破損したり、サイド堰20からの脱落してしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、多孔質層21(多孔質シート)の厚さtを0.5mm以上10mm以下の範囲内に設定している。
なお、強度を確保するとともに断熱効果を確実に奏功せしめるためには、多孔質層21(多孔質シート)の厚さtの下限を1.0mm以上とすることが好ましく、2.0mm以上とすることがさらに好ましい。また、多孔質層21(多孔質シート)自体の破損やサイド堰20からの脱落を的確に抑制するためには、多孔質層21(多孔質シート)の厚さtの上限を8mm以下とすることが好ましく、6mm以下とすることがさらに好ましい。
【0031】
また、本実施形態においては、多孔質層21(多孔質シート)の配置位置は、図5及び図7に示すように、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lが0.5mm以上10mm以下の範囲内とされており、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hが30mm以上100mm以下の範囲内とされている。
【0032】
ここで、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lが0.5mm未満の場合には、冷却ロール11または冷却ロール面に形成された凝固シェル5と摺接して多孔質層21(多孔質シート)が摩耗してしまうおそれがある。一方、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lが10mmを超える場合には、地金の生成を十分に抑制することができなくなるおそれがある。
このため、本実施形態では、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lを0.5mm以上10mm以下の範囲内に設定している。
なお、冷却ロール11または冷却ロール面に形成された凝固シェル5と多孔質層21(多孔質シート)との摺接を的確に抑制するためには、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lの下限を1mm以上とすることが好ましい。また、地金の生成を十分に抑制するためには、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lの上限を3mm以下とすることが好ましい。
【0033】
また、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hが30mm未満の場合には、冷却ロール11周面に形成された凝固シェル5と摺接して多孔質層21(多孔質シート)が摩耗してしまうおそれがある。一方、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hが100mmを超える場合には、地金の生成を十分に抑制することができなくなるおそれがある。
このため、本実施形態では、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hを30mm以上100mm以下の範囲内に設定している。
なお、冷却ロール11周面に形成された凝固シェル5と多孔質層21(多孔質シート)との摺接を的確に抑制するためには、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hの下限を50mm以上とすることが好ましい。また、地金の生成を十分に抑制するためには、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hの上限を80mm以下とすることが好ましい。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、サイド堰20のうち溶鋼プール部16内の溶鋼3と接する面に、断熱性に優れた多孔質層21(多孔質シート)が配設されていることから、溶鋼プール部16内の溶鋼3からサイド堰20側への抜熱が抑えられ、サイド堰20の表面における地金の生成及び成長を抑制することができる。よって、薄肉鋳片1の鋳造を安定して行うことが可能となる。
【0035】
また、鋳造初期において、サイド堰20の温度が低く地金が生成しやすい時期であっても、断熱性に優れた多孔質層21により、サイド堰20側への放熱が抑制され、地金の生成及び成長を抑制することが可能となる。
さらに、サイド堰20の表面に形成した多孔質層21が保温効果を有するため、発熱体等によってサイド堰20の近傍を加熱した際に、サイド堰20近傍の溶鋼3の温度を高く維持することが可能となる。これにより、鋳造中においても、サイド堰20の表面における地金の生成及び成長を抑制することができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、多孔質層21がセラミックスファイバーからなる多孔質シートで構成されていることから、従来のサイド堰20の表面に多孔質シートを貼り付けることで多孔質層21を形成することができ、構造が非常に簡単となる。また、鋳造条件に応じて、熱伝導性、耐熱性等を考慮してセラミックスファイバーからなる多孔質シートを選択することで、的確にサイド堰20の表面における地金の生成及び成長を抑制することが可能となる。
【0037】
さらに、本実施形態においては、多孔質層21がアルミナ又はジルコニアで構成されているので、溶鋼3との濡れ性が悪く、多孔質層21の気孔部に溶鋼3が入り込むことが抑制され、断熱性を維持することができる。よって、長時間にわたって地金の発生及び成長を抑制することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態においては、多孔質層21(多孔質シート)の気孔率Pが50%以上とされているので、気孔部が十分に確保されており、断熱性に優れている。また、多孔質層21(多孔質シート)の気孔率Pが98%以下とされているので、多孔質層21の強度を確保することができる。
【0039】
さらに、本実施形態においては、多孔質層21(多孔質シート)の厚さtが0.5mm以上とされているので、強度及び断熱性を確保することができる。さらに、多孔質層21(多孔質シート)の厚さtが10mm以下とされているので、この多孔質層21自体の破損やサイド堰20からの脱落を抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態においては、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lが0.5mm以上とされているので、冷却ロール11と摺接して多孔質層21(多孔質シート)が摩耗することを抑制できる。一方、冷却ロール11の周面から多孔質層21(多孔質シート)の外縁までの距離Lが10mm以下とされているので、サイド堰20表面における地金の生成及び成長を十分に抑制することができる。
【0041】
さらに、本実施形態においては、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hが30mm以上とされているので、冷却ロール11周面に形成された凝固シェル5と摺接して多孔質層21(多孔質シート)が摩耗することを抑制できる。一方、ロールキス点Kから多孔質層21(多孔質シート)の外縁最下点までの距離Hが100mm以下とされているので、サイド堰20表面における地金の生成及び成長を十分に抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態では、アルミナ及びジルコニアを有する耐熱性接着剤を用いて、サイド堰20の表面に多孔質シートが貼り付けられることで多孔質層21が形成されているので、鋳造時に、多孔質層21(多孔質シート)が容易に剥離することを防止できる。よって、鋳造中においても、サイド堰20の表面における地金の生成及び成長を抑制することができ、鋳造を安定して実施することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態であるサイド堰、双ロール式連続鋳造装置及び薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示すように、ピンチロールを配設した双ロール式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0045】
冷却ロールの直径600mm、冷却ロールの幅800mm、溶鋼プール部における溶鋼深さ212mm、冷却ロールの周速度50m/minにて、厚さ2mmの薄肉鋳片を鋳造した。この薄肉鋳片の組成は、質量%で0.05%C、0.6%Si、1.5%Mn、0.03%Al、残部Fe及び不純物である。この組成の鋼の液相線温度は1517℃であり、過熱度30〜50℃となるように溶鋼プール部に注入する溶鋼温度は1547〜1567℃とした。
【0046】
(本発明例1)
窒化ホウ素からなるサイド堰の表面に、ジルコニア製のファイバーからなる多孔質シートをジルコニア系接着剤によって貼り付けることにより、多孔質層を形成した。
ここで、多孔質層(多孔質シート)の気孔率Pを96%、厚さtを2.5mmとした。また、冷却ロールの周面から多孔質層の外縁までの距離Lを2mmとした。さらに、ロールキス点Kから多孔質層の外縁最下点までの距離Hを45mmとした。
このサイド堰を、予熱温度1250℃、鋳造中の押付力を3kNとし冷却ロールの端面に押し付け、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
【0047】
(本発明例2)
酸化アルミニウムと炭素の複合材料からなるサイド堰のうち、冷却ロールとの摺接部を窒化ホウ素と窒化珪素と酸化アルミニウムの複合材料で構成するとともに、溶鋼と接する面に、アルミナ製のファイバーからなる多孔質シートをアルミナ系接着剤によって貼り付けることにより、多孔質層を形成した。
ここで、多孔質層(多孔質シート)の気孔率Pを88%、厚さtを3mmとした。また、冷却ロールの周面から多孔質層の外縁までの距離Lを3mmとした。さらに、ロールキス点Kから多孔質層の外縁最下点までの距離Hを80mmとした。
このサイド堰を、予熱温度1250℃、鋳造中の押付力を3kNとし冷却ロールの端面に押し付け、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
【0048】
(従来例)
酸化アルミニウムと炭素の複合材料からなるサイド堰のうち、冷却ロールとの摺接部を窒化ホウ素と窒化珪素と酸化アルミニウムの複合材料で構成し、多孔質層を形成しなかった。
このサイド堰を、予熱温度1250℃、鋳造中の押付力を3kNとし冷却ロールの端面に押し付け、薄肉鋳片の鋳造を実施した。
【0049】
本発明例1,2においては、鋳造初期および鋳造末期の15min経過後においても地金の発生が確認されずに、薄肉鋳片を安定して鋳造することができた。
他方、従来例においては、鋳造開始直後の8秒後に地金の噛み込みが発生し、薄肉鋳片にも地金の巻き込みが確認された。また、鋳造開始6min経過後において、地金の噛み込みが発生した。このとき、通常2mmの鋳片厚さは局所的に増大し、最大3.6mmに達し、均一形状を損ねた。地金はサイド堰表面に形成した凝固層が薄肉鋳片とともに冷却ロール間で圧下され生じたものと推定された。
【0050】
以上の結果から、本発明によれば、サイド堰表面における地金の発生及び成長を抑制することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼
5 凝固シェル
11 冷却ロール
16 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
20 サイド堰
21 多孔質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7