特許第6801517号(P6801517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801517
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20201207BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20201207BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20201207BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C04B35/488
   C23C14/08 K
   H01G4/30 544
   H01B3/12 338
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-39709(P2017-39709)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-145035(P2018-145035A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】政岡 雷太郎
(72)【発明者】
【氏名】城川 眞生子
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−195342(JP,A)
【文献】 特開平05−274913(JP,A)
【文献】 特開2009−007209(JP,A)
【文献】 特開2004−207629(JP,A)
【文献】 特開2007−031503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C23C 14/00−14/58
H01G 4/30
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(aCaO+bSrO)−ZrOで表される複合酸化物を主成分として含み、
前記aおよび前記bが、a≧0、b≧0、1.55≦a+b≦4.00である関係を満足し、周波数2GHzにおける比誘電率が13.0以上であることを特徴とする誘電体堆積膜
【請求項2】
前記aおよび前記bが、1.55≦a+b≦2.20である関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の誘電体堆積膜
【請求項3】
前記aおよび前記bが、3.00≦a+b≦4.00である関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の誘電体堆積膜
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の誘電体堆積膜を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、および、当該誘電体組成物を含む誘電体膜を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンに代表される移動体通信機器の高性能化に対する要求は高く、たとえば、高速で大容量の通信を可能とするために、使用する周波数領域の数も増加している。使用する周波数領域はGHz帯のような高周波領域である。このような高周波領域において作動するフィルタ、あるいは、フィルタを組み合わせたデュプレクサ、ダイプレクサ等の高周波部品のなかには、誘電体材料が有する誘電特性を利用しているものがある。このような誘電体材料には、高周波領域において、誘電損失が小さく、周波数の選択性が良好であることが求められる。
【0003】
また、移動体通信機器の高性能化に伴い、1つの移動体通信機器に搭載される電子部品の数も増加する傾向にあり、移動体通信機器のサイズを維持するには、電子部品の小型化も同時に求められる。誘電体材料を用いる高周波部品を小型化するには、電極面積を小さくする必要があるため、これによる静電容量の低下を補うべく誘電体材料の比誘電率が高いことが求められる。
【0004】
したがって、高周波領域において使用される高周波部品に適用される誘電体材料には、高周波領域において、誘電損失が小さく、かつ比誘電率が高いことが要求される。誘電損失の逆数はQ値として表されるので、換言すれば、高周波領域において比誘電率およびQ値が高い誘電体材料が望まれている。
【0005】
従来、GHz帯で誘電損失が低い誘電体材料としては、たとえば、アモルファスSiN膜が例示される。しかし、アモルファスSiN膜の比誘電率(εr)は6.5程度と低く、高周波部品の小型化の要求に応えるには、限界があった。
【0006】
ところで、非特許文献1には、CaZrO薄膜を所定の温度でアニール処理して、CaZrOのアモルファス薄膜を得ることが開示されている。非特許文献1によれば、このCaZrOのアモルファス薄膜は、測定周波数が100kHzにおける比誘電率が12.8〜16.0であり、測定周波数が100kHzにおける誘電損失が0.0018〜0.0027であることが開示されている。
【0007】
また、非特許文献2には、SrZrO薄膜が開示され、このSrZrO薄膜は、測定周波数が2.6〜11.2MHzの範囲において比誘電率が24〜27であり、測定周波数が2.6〜11.2MHzの範囲において誘電損失が0.01〜0.02の範囲内であることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T. Yu, et al, "Preparation and characterization of sol-gel derived CaZrO3 dielectric thin films for high-k applications", Physica B, 348 (2004) 440-445
【非特許文献2】X. B. Lu, et al, "Dielectric properties of SrZrO3 thin films prepared by pulsed laser deposition", Applied Physics A, 77, 481-484(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1に記載のCaZrOのアモルファス薄膜が示す誘電損失をQ値に換算すると、測定周波数が100kHzにおいて、370〜555である。また、非特許文献1の図7によれば、測定周波数が1MHzである場合には、誘電損失が0.005以上、すなわち、Q値が200以下となってしまう。したがって、測定周波数がGHz帯である場合には、Q値がさらに低下することが予想される。
【0010】
また、非特許文献2に記載のSrZrO薄膜が示す誘電損失をQ値に換算すると、測定周波数が2.6〜11.2MHzの範囲において、100以下である。したがって、測定周波数がGHz帯である場合には、非特許文献1と同様に、Q値がさらに低下することが予想される。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、高周波領域であっても高い比誘電率および高いQ値を有する誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体膜を備える電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の誘電体組成物は、
[1]一般式(aCaO+bSrO)−ZrOで表される複合酸化物を主成分として含み、
aおよびbが、a≧0、b≧0、1.50<a+b≦4.00である関係を満足することを特徴とする誘電体組成物である。
【0013】
[2]aおよびbが、1.50<a+b≦2.20である関係を満足することを特徴とする[1]に記載の誘電体組成物である。
【0014】
[3]aおよびbが、3.00≦a+b≦4.00である関係を満足することを特徴とする[1]に記載の誘電体組成物である。
【0015】
[4][1]から[3]のいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体膜を備える電子部品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高周波領域であっても高い比誘電率および高いQ値を有する誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体膜を備える電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品としての薄膜コンデンサの断面図である。
図2図2(a)は、本発明の実施例および比較例において、「a+b」と、2GHzにおけるQ値と、の関係を示すグラフである。図2(b)は、本発明の実施例および比較例において、「a+b」と、2GHzにおける比誘電率と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.薄膜コンデンサ
1.1 薄膜コンデンサの全体構成
1.2 誘電体膜
1.2.1 誘電体組成物
1.3 基板
1.4 下部電極
1.5 上部電極
2.薄膜コンデンサの製造方法
3.本実施形態における効果
4.変形例
【0019】
(1.薄膜コンデンサ)
まず、本実施形態に係る電子部品として、誘電体層が薄膜状の誘電体膜から構成される薄膜コンデンサについて説明する。
【0020】
(1.1 薄膜コンデンサの全体構成)
図1に示すように、本実施形態に係る電子部品の一例としての薄膜コンデンサ10は、基板1と、下部電極3と、誘電体膜5と、上部電極4とがこの順序で積層された構成を有している。下部電極3と誘電体膜5と上部電極4とはコンデンサ部を形成しており、下部電極3および上部電極4が外部回路に接続されて電圧が印加されると、誘電体膜5が所定の静電容量を示し、コンデンサとしての機能を発揮することができる。各構成要素についての詳細な説明は後述する。
【0021】
また、本実施形態では、基板1と下部電極3との間に、基板1と下部電極3との密着性を向上させるために下地層2が形成されている。下地層2を構成する材料は、基板1と下部電極3との密着性が十分に確保できる材料であれば特に制限されない。たとえば、下部電極3がCuで構成される場合には、下地層2はCrで構成され、下部電極3がPtで構成される場合には、下地層2はTiで構成することができる。
【0022】
また、図1に示す薄膜コンデンサ10において、誘電体膜5を外部雰囲気から遮断するための保護膜が形成されていてもよい。
【0023】
なお、薄膜コンデンサの形状に特に制限はないが、通常、直方体形状とされる。またその寸法にも特に制限はなく、厚みや長さは用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0024】
(1.2 誘電体膜)
誘電体膜5は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。また、本実施形態では、誘電体膜5は、誘電体組成物の原料粉末を成形した成形体を焼成して得られる焼結体から構成されるのではなく、薄膜状であり公知の成膜法により形成された誘電体堆積膜であることが好ましい。なお、誘電体膜5は、結晶質であってもよいし、アモルファスであってもよいが、本実施形態では、誘電体膜5は結晶質であることが好ましい。
【0025】
このような誘電体膜5を有する薄膜コンデンサは、高周波領域(たとえば、2GHz)であっても、高いQ値(たとえば、500以上)を示しつつ、かつ、高い比誘電率(たとえば、13.0以上)を示すことができる。
【0026】
誘電体膜5の厚みは、好ましくは10nm〜2000nm、より好ましくは50nm〜1000nmである。誘電体膜5の厚みが薄すぎると、誘電体膜5の絶縁破壊が生じやすい傾向にある。絶縁破壊が生じると、コンデンサとしての機能を発揮できない。一方、誘電体膜5の厚みが厚すぎると、コンデンサの静電容量を大きくするために電極面積を広くする必要があり、電子部品の設計によっては小型化が困難となる場合がある。
【0027】
通常、Q値は、誘電体の厚みが薄くなると低下する傾向にあるので、高いQ値を得るには、ある程度の厚みを有する誘電体で構成する必要がある。しかしながら、本実施形態に係る誘電体組成物から構成される誘電体膜は、上記のように、厚みが非常に薄い場合であっても、高いQ値を得ることができる。
【0028】
なお、誘電体膜5の厚みは、誘電体膜5を含む薄膜コンデンサを、FIB(集束イオンビーム)加工装置で掘削し、得られた断面をSIM(走査型イオン顕微鏡)等で観察して測定することができる。
【0029】
(1.2.1 誘電体組成物)
本実施形態に係る誘電体組成物は、一般式(aCaO+bSrO)-ZrOで表される酸化物を主成分として含有している。すなわち、Caおよび/またはSrと、Zrとを含む複合酸化物である。上記の一般式において、「a」はZrOの含有量に対するCaOの含有量のモル比を示し、「b」は、ZrOの含有量に対するSrOの含有量のモル比を示している。本実施形態では、「a」および「b」は、a≧0、b≧0、1.50<a+b≦4.00である関係を満足し、1.55≦a+b≦4.00である関係を満足することが好ましい。
【0030】
また、上記の複合酸化物は、上記の一般式による表記からも明らかなように、2価元素の酸化物とZrOとの複合酸化物であるということができる。本実施形態では、2価元素の酸化物として、アルカリ土類金属酸化物のうち、CaOおよびSrOを採用し、これらの含有量の合計を、ZrO量に対して、モル比で1.50倍超4.00倍以下としている。「a」および「b」を上記の範囲内とすることにより、優れた誘電特性(高周波領域における高いQ値および高い比誘電率の両立)を発現することができる。
【0031】
「a+b」が小さすぎる場合、たとえば、a+b=1.00である場合、高周波領域において高いQ値が得られない傾向にある。「a+b」が大きすぎる場合、高周波領域において高い比誘電率が得られない傾向にある。
【0032】
なお、a+b=1.00である場合には、複合酸化物は(Ca,Sr)ZrOと表される。特に、a=1.00の場合には、CaZrOで表され、b=1.00の場合には、SrZrOで表される。したがって、上記の複合酸化物は、(Ca,Sr)ZrOを基準にすると、ZrOの含有量に対して2価元素の酸化物の含有量が過剰に含まれる組成(2価元素酸化物リッチ組成)を有している。
【0033】
従来、上記のようなCaOおよび/またはSrOがリッチな組成は、過剰なCaOおよび/またはSrOが水分と反応しやすいという理由からほとんど検討されていなかった。
【0034】
また、1.50<a+b≦4.00である関係を満足する限りにおいて、「a」および「b」は0であってもよい。したがって、上記の複合酸化物は、aCaO−ZrOであってもよいし、bSrO−ZrOであってもよい。誘電特性の観点からは、aCaO−ZrOよりも、bSrO−ZrOの方が好ましいが、水分に対する安定性の観点からは、bSrO−ZrOよりも、aCaO−ZrOの方が好ましい。
【0035】
本実施形態では、「a+b」は、1.50<a+b≦2.20である関係を満足することが好ましく、1.55≦a+b≦2.20である関係を満足することがより好ましい。「a+b」を上記の範囲内とすることにより、高周波領域(たとえば、2GHz)において、高いQ値(たとえば、500以上)を示しつつ、より高い比誘電率(たとえば、18.0以上)を示すことができる。
【0036】
また、「a+b」は、3.00≦a+b≦4.00である関係を満足することが好ましい。「a+b」を上記の範囲内とすることにより、高周波領域(たとえば、2GHz)において、高い比誘電率(たとえば、13.0以上)を示しつつ、より高いQ値(たとえば、570以上)を示すことができる。
【0037】
また、「a+b」は、2.20<a+b<3.00である関係を満足することが好ましい。「a+b」を上記の範囲内とすることにより、高周波領域(たとえば、2GHz)において、高い比誘電率(たとえば、15.0以上)と、高いQ値(たとえば、550以上)とを両立することができる。
【0038】
また、本実施形態に係る誘電体組成物は、本発明の効果を奏する範囲内において、微量な不純物、副成分等を含んでいてもよい。本実施形態では、誘電体組成物全体に対して、主成分が70mol%以上100mol%以下である。
【0039】
(1.3 基板)
図1に示す基板1は、その上に形成される下地層2、下部電極3、誘電体膜5および上部電極4を支持できる程度の機械的強度を有する材料で構成されていれば特に限定されない。たとえば、Si単結晶、SiGe単結晶、GaAs単結晶、InP単結晶、SrTiO単結晶、MgO単結晶、LaAlO単結晶、ZrO単結晶、MgAl単結晶、NdGaO単結晶等から構成される単結晶基板、Al多結晶、ZnO多結晶、SiO多結晶等から構成されるセラミック多結晶基板、Ni、Cu、Ti、W、Mo、Al、Pt等の金属、それらの合金等から構成される金属基板等が例示される。本実施形態では、低コスト、加工性等の観点から、Si単結晶を基板として用いる。
【0040】
基板1の厚みは、たとえば、10μm〜5000μmに設定される。厚みが小さすぎると、機械的強度が確保できない場合が生じることがあり、厚みが大きすぎると、電子部品の小型化に寄与できないといった問題が生じる場合がある。
【0041】
上記の基板1は、基板の材質によってその抵抗率が異なる。抵抗率が低い材料で基板を構成する場合、薄膜コンデンサの作動時に基板側への電流のリークが生じ、薄膜コンデンサの電気特性に影響を及ぼすことがある。そのため、基板1の抵抗率が低い場合には、その表面に絶縁処理を施し、コンデンサ作動時時の電流が基板1へ流れないようにすることが好ましい。
【0042】
たとえば、Si単結晶を基板1として使用する場合においては、基板1の表面に絶縁層が形成されていることが好ましい。基板1とコンデンサ部との絶縁が十分に確保されていれば、絶縁層を構成する材料およびその厚みは特に限定されない。本実施形態では、絶縁層を構成する材料として、SiO、Al、Si等が例示される。また、絶縁層の厚みは、0.01μm以上であることが好ましい。
【0043】
(1.4 下部電極)
図1に示すように、基板1の上には、下地層2を介して、下部電極3が薄膜状に形成されている。下部電極3は、後述する上部電極4とともに誘電体膜5を挟み、コンデンサとして機能させるための電極である。下部電極3を構成する材料は、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu、Ni等の金属、それらの合金、又は、導電性酸化物等が例示される。
【0044】
下部電極3の厚みは、電極として機能する程度の厚みであれば特に制限されない。本実施形態では、厚みは0.01μm以上であることが好ましい。
【0045】
(1.5 上部電極)
図1に示すように、誘電体膜5の表面には、上部電極4が薄膜状に形成されている。上部電極4は、上述した下部電極3とともに、誘電体膜5を挟み、コンデンサとして機能させるための電極である。したがって、上部電極4は、下部電極3とは異なる極性を有している。
【0046】
上部電極4を構成する材料は、下部電極3と同様に、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu、Ni等の金属、それらの合金、又は、導電性酸化物等が例示される。
【0047】
(2.薄膜コンデンサの製造方法)
次に、図1に示す薄膜コンデンサ10の製造方法の一例について以下に説明する。
【0048】
まず、基板1を準備する。基板1として、たとえば、Si単結晶基板を用いる場合、当該基板の一方の主面に絶縁層を形成する。絶縁層を形成する方法としては、熱酸化法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の公知の成膜法を用いればよい。
【0049】
続いて、形成された絶縁層上に、公知の成膜法を用いて下地層を構成する材料の薄膜を形成して下地層2を形成する。
【0050】
下地層2を形成した後、当該下地層2上に、公知の成膜法を用いて下部電極を構成する材料の薄膜を形成して下部電極3を形成する。
【0051】
下部電極3の形成後に、下地層2と下部電極3との密着性向上、および、下部電極3の安定性向上を図る目的で、熱処理を行ってもよい。熱処理条件としては、たとえば、昇温速度は好ましくは10℃/分〜2000℃/分、より好ましくは100℃/分〜1000℃/分である。熱処理時の保持温度は、好ましくは400℃〜800℃、その保持時間は、好ましくは0.1時間〜4.0時間である。熱処理条件が上記の範囲外である場合には、下地層2と下部電極3との密着不良、下部電極3の表面に凹凸が発生しやすくなる。その結果、誘電体膜5の誘電特性の低下が生じやすくなる。
【0052】
続いて、下部電極3上に誘電体膜5を形成する。本実施形態では、公知の成膜法により、誘電体膜5を構成する材料を下部電極3上に薄膜状に堆積させた堆積膜としての誘電体膜5を形成する。
【0053】
公知の成膜法としては、たとえば、真空蒸着法、スパッタリング法、PLD(パルスレーザー蒸着法)、MO−CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法)、ゾル・ゲル法、CSD(化学溶液堆積法)等が例示される。なお、成膜時に使用する原料(蒸着材料、各種ターゲット材料、有機金属材料等)には微量の不純物、副成分等が含まれている場合があるが、所望の誘電特性が得られれば、特に問題はない。
【0054】
次に、形成した誘電体膜5上に、公知の成膜法を用いて上部電極を構成する材料の薄膜を形成して上部電極4を形成する。
【0055】
以上の工程を経て、図1に示すように、基板1上に、コンデンサ部(下部電極3、誘電体膜5および上部電極4)が形成された薄膜コンデンサ10が得られる。なお、誘電体膜5を保護する保護膜は、少なくとも誘電体膜5が外部に露出している部分を覆うように公知の成膜法により形成すればよい。
【0056】
(3.本実施形態における効果)
本実施形態では、高周波領域において良好な誘電特性を有する誘電体組成物として、ZrOと2価の元素の酸化物との複合酸化物に着目している。そして、2価の元素として、CaおよびSrのみを選択し、かつZrOに対するこれらの元素の酸化物のモル量の合計を1よりも大きい特定の範囲に制御している、すなわち、ZrOに対して、CaOおよび/またはSrOを過剰に含有させている。
【0057】
このようにすることにより、本実施形態に係る誘電体組成物は、薄膜状の堆積膜として形成された場合に、高周波領域(たとえば、2GHz)においても、高い比誘電率(たとえば、13.0以上)および高いQ値(たとえば、500以上)を発現させることができる。すなわち、Q値を誘電損失に換算すると、0.002以下となり、周波数領域がGHz帯であっても、極めて低い誘電損失が得られる。
【0058】
また、「a+b」の範囲を変化させることにより、高い比誘電率が得られることを重視した誘電体組成物、高いQ値が得られることを重視した誘電体組成物、比誘電率とQ値とのバランスを重視した誘電体組成物を、用途に応じて得ることができる。
【0059】
本実施形態に係る誘電体組成物は、高周波領域において高い比誘電率と高いQ値とを両立できるので、本実施形態に係る誘電体組成物が適用される電子部品は、従来の電子部品よりも小型化が可能であり、しかも高周波領域において従来の電子部品よりも周波数の選択性を良好にすることができる。
【0060】
(4.変形例)
上述した実施形態では、誘電体膜は通常、本発明の誘電体組成物のみで構成される場合を説明したが、別の誘電体組成物の膜と組み合わせた積層構造であっても構わない。例えば、既存のSi、SiO、Al、ZrO、Ta等のアモルファス誘電体膜や結晶膜との積層構造とすることで、誘電体膜5のインピーダンスや比誘電率の温度変化を調整することが可能となる。
【0061】
上述した実施形態では、基板と下部電極との密着性を向上させるために、下地層を形成しているが、基板と下部電極との密着性が十分確保できる場合には、下地層は省略することができる。また、基板を構成する材料として、電極として使用可能なCu、Ni、Pt等の金属、それらの合金、酸化物導電性材料等を用いる場合には、下地層および下部電極は省略することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1および比較例1)
まず、誘電体膜の形成に必要なターゲットを以下のようにして作製した。
【0065】
ターゲット作製用の原料粉末として、CaCO、SrCO、ZrOの粉末を準備した。これらの粉末を、表1に示す試料No.1〜試料No.24の組成となるように秤量した。秤量した原料粉末と無水エタノールとφ2mmのZrOビーズとを、容積が1Lの広口ポリポットに入れて湿式混合を20時間行った。その後、混合粉末スラリーを100℃で20時間乾燥させ、得られた混合粉末をAl坩堝に入れ、大気中1250℃で5時間保持する焼成条件で仮焼を行い、仮焼粉末を得た。
【0066】
得られた仮焼粉末を、一軸加圧プレス機を使用して成形体を得た。成形条件は、圧力を2.0×10Pa、温度を室温とした。
【0067】
その後、得られた成形体について、昇温速度を200℃/時間、保持温度を1600℃〜1700℃、温度保持時間を12時間とし、常圧の大気中で焼成を行い、焼結体を得た。
【0068】
得られた焼結体の厚さが4mmとなるように、円筒研磨機で両面を研磨し、誘電体膜を形成するためのターゲットを得た。
【0069】
続いて、350μm厚のSi単結晶基板の表面に6μm厚の絶縁層としてのSiOを備えた10mm×10mm角の基板を準備した。この基板の表面に、下地層としてのTi薄膜を20nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0070】
次いで、上記で形成したTi薄膜上に下部電極としてのPt薄膜を100nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0071】
形成したTi/Pt薄膜(下地層および下部電極)に対し、昇温温度を400℃/分、保持温度を700℃、温度保持時間を0.5時間、雰囲気を酸素雰囲気とし常温下で熱処理を行った。
【0072】
熱処理後のTi/Pt薄膜上に誘電体膜を形成した。本実施例では、上記で作製したターゲットを用いて、下部電極上に400nmの厚さとなるようにPLD法で誘電体膜を形成した。PLD法による成膜条件は、酸素圧を1.0×10−1Paとし、基板を200℃に加熱した。また、下部電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が成膜されない領域を形成した。
【0073】
次いで、得られた誘電体膜上に、蒸着装置を使用して上部電極であるAg薄膜を形成した。上部電極の形状を、メタルマスクを使用して直径100μm、厚さ100nmとなるように形成することで、図1に示す構成を有する薄膜コンデンサの試料No.1〜試料No.24を得た。
【0074】
なお、誘電体膜の組成は、すべての試料についてXRF(蛍光X線元素分析)を使用して分析を行い、表1に記載の組成と一致していることを確認した。また、誘電体膜の厚みは、薄膜コンデンサをFIBで掘削し、得られた断面をSIMで観察して測長した値とした。
【0075】
得られたすべての薄膜コンデンサ試料について、比誘電率およびQ値の測定を、下記に示す方法によって行った。
【0076】
<比誘電率およびQ値>
比誘電率およびQ値は、薄膜コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(Agilent社製4991A)にて、周波数2GHz、入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量と、上記で得られた誘電体膜の厚みと、から算出した(単位なし)。本実施例では、比誘電率は、アモルファスSiN膜の比誘電率の約2倍に相当する13.0以上を良好とした。また、アモルファスSiN膜のQ値は約500であったため、Q値は500以上を良好とした。結果を表1および図2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1および図2より、誘電体膜を構成する複合酸化物において、「a+b」が上述した範囲内である場合には、2GHzにおける比誘電率が13.0以上であり、かつQ値が500以上であることが確認できた。
【0079】
(実施例2)
誘電体膜をスパッタリング法により成膜した以外は、実施例1の試料No.1と同じ方法により薄膜コンデンサを作製し、実施例1と同じ評価を行った。スパッタリング法による成膜条件は以下の条件とした。ターゲットとしては、実施例1のPLD用ターゲットと同じターゲットを用いた。結果を表2に示す。
【0080】
(実施例3)
誘電体膜の厚みを変更した以外は、実施例1の試料No.1と同じ方法により薄膜コンデンサを作製し、実施例1と同じ評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2より、公知の成膜法として、スパッタリング法を用いた場合(試料No.25)であっても、実施例1と同等の特性が得られることが確認できた。すなわち、本発明の誘電体組成物の特性は成膜法に依存しないことが確認できた。
【0083】
また、誘電体膜の厚みを変化させた場合であっても、実施例1と同等の特性が得られることが確認できた。すなわち、上述した厚みの範囲内であれば、本発明の誘電体組成物の特性は厚みに依存しないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る誘電体組成物を含む誘電体膜を備える電子部品は、高周波領域(たとえば、2GHz)において、高い比誘電率(たとえば、13.0以上)と、高いQ値(たとえば、500以上)と、を両立できる。したがって、このような電子部品は高周波部品として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
10… 薄膜コンデンサ
1… 基板
2… 下地層
3… 下部電極
4… 上部電極
5… 誘電体膜
図1
図2