(54)【発明の名称】交換バイアス利用型磁化反転素子、交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子、交換バイアス利用型磁気メモリ、不揮発性ロジック回路および磁気ニューロン素子
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反強磁性駆動層に接合する前記第1電極層及び前記第2電極層の少なくとも一方が第一強磁性層と中間層と第二強磁性層とが積層された合成反強磁性構造からなる請求項7に記載の交換バイアス利用型磁化反転素子。
請求項1〜9のいずれか一項に記載の交換バイアス利用型磁化反転素子と、前記磁気結合層に接合する非磁性層と、前記非磁性層に結合する磁化固定層とを備える交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子。
前記磁気結合層が、前記非磁性層側から順に磁気抵抗効果層と軟磁性層とを含む積層構造を有し、前記磁気抵抗効果層がCoFeBを含む材料からなる請求項10又は11のいずれかに記載の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子。
読み出し時に、前記磁化固定層と、前記第3領域の、前記磁気結合層が設置された面の反対側の面に、平面視して前記磁気結合層と重なる位置に設置された下部電極層との間の抵抗変化を読み出す機構を備えた請求項14に記載の交換バイアス利用型磁気メモリ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について、図面を用いてその構成を説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。本発明の素子において、本発明の効果を奏する範囲で他の層を備えてもよい。
【0032】
(交換バイアス利用型磁化反転素子)
図1は、本発明の一実施形態に係る交換バイアス利用型磁化反転素子の一例の断面模式図である。
図1に示す交換バイアス利用型磁化反転素子10は、第1領域1aおよび第2領域1bとそれらの領域の間に位置する第3領域1cとからなる反強磁性駆動層1と、第3領域1cに反強磁性駆動層1に磁気的に結合して、磁化方向が可変な磁気結合層2と、第1領域1aに接合した第1電極層5と、第2領域1bに接合した第2電極層6と、を備える。
ここで、本発明において「反強磁性駆動層」とは、磁気結合層に磁気的に結合する反磁性体層を含んだ層である。また、「反強磁性駆動層」とは、反磁性体層だけからなる場合に限らず、後述するにその反磁性体層とこの反磁性体層に純スピン流を拡散させられる非磁性金属層とからなる積層構造である場合(
図3参照)も含む。
【0033】
反強磁性駆動層1は、閃亜鉛構造(Zincblende構造)を有する反強磁性材料を含む構成(以下、「構成A」という場合がある)とすることができる。閃亜鉛構造を有する反強磁性材料は結晶構造の空間反転対称性が破れているため、磁気対称性の上では空間反転対称性と時間反転対称性が共に破れている材料である。このような材料を用いた場合、反強磁性駆動層に電流を流すことによって、反強磁性駆動層中の副格子磁化の向きが異なる2種類のドメインの割合(比、比率)を変えることができる。その結果、その上に形成された磁気結合層の磁化の向きを制御できる。
【0034】
反強磁性駆動層1は、CuMnAs、Mn
2Auのいずれかの反強磁性材料を含む構成(以下、「構成B」という場合がある)とすることができる。CuMnAsおよびMn
2Auは空間の反転対称性はあるが、磁気対称性を考えた場合、時間と空間の反転対称性が破れているため、反強磁性駆動層に電流を流すことによって、反強磁性駆動層中の副格子磁化の向きが異なる2種類のドメインの割合を変えることができる。その結果、その上に形成された磁気結合層の磁化の向きを制御できる。また、磁気転移温度が室温よりも高いので、室温で駆動するデバイスとして利用することが可能である。
【0035】
反強磁性駆動層1は、
図2に示すように、磁気結合層2に接合する側から反強磁性層1Aと、反強磁性層1Aに接合し、電流が流れることにより純スピン流が発生する非磁性金属層1Bと、を有する構成(以下、「構成C」という場合がある)とすることができる。非磁性金属層1Bは、電流が流れることにより純スピン流が発生する構成である。従って、非磁性金属層1B中に電流を流してスピン流を発生させ、このスピン流が反強磁性層1Aに注入されることで、反強磁性層1Aの2種類のドメインの割合が変わり、その上に形成された磁気結合層の磁化の向きを制御できる。
反強磁性層1Aは、磁気結合層2に接合する面においてスピンの向きが揃ったドメインができるようにスピンが配置する構成であることを要する。この点を
図2を用いて説明する。
図2の反強磁性層1Aの側面ではスピンの向きが交互に逆向きになっているが、仮にこの側面が磁気結合層2に接合する面となると、2種類のドメインの比が変化できない。そのため、
図2に示すように、反強磁性層1Aは、磁気結合層2に接合する面にスピンの向きが揃ったドメインができるようにスピンが配置する構成とする(結晶面を出す)必要がある。
【0036】
反強磁性層1Aの材料としては、構成Aや構成Bの材料の他、IrMn、PtMn、FeMn、NiMn、RhMn、PdPtMn、PtCrMn、PdMnなどの合金、またはPd
2MnGa、Mn
2VAl、Ni
2MnAl、MnNなどの反強磁性ホイスラー合金、あるいは低抵抗になるようにドープしたNiO、Fe
2O
3などの酸化物を用いることができる。
【0037】
反強磁性駆動層1の長軸の長さは60nm以上であり、第1電極層5の、磁気結合層2から最も近い位置と、第2電極層6の、磁気結合層2から最も近いとの間の距離が60nm以上であることが好ましい。
ドメインの壁の厚みは数十nm程度であり、反強磁性駆動層内に2つ以上のドメインを含むことができるからである。
【0038】
この非磁性金属層1Bとしては、電流が流れるとスピンホール効果によって純スピン流が発生する(生成される)材料を含む。かかる材料としては、非磁性金属層1B中に純スピン流が生成される構成のものであれば足りる。従って、単体の元素からなる材料に限らないし、純スピン流が生成される材料で構成される部分と純スピン流が生成されない材料で構成される部分とからなるもの等であってもよい。
スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。
【0039】
図3は、スピンホール効果について説明するための模式図である。
図3に基づいてスピンホール効果により純スピン流が生み出されるメカニズムを説明する。
【0040】
図3に示すように、非磁性金属層1Bの延在方向に電流Iを流すと、上向きスピンS
+と下向きスピンS
−はそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通する。一方、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
非磁性体(強磁性体ではない材料)では上向きスピンS
+の電子数と下向きスピンS
−の電子数とが等しいので、図中で上方向に向かう上向きスピンS
+の電子数と下方向に向かう下向きスピンS
−の電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
これに対して、強磁性体中に電流を流した場合にも上向きスピン電子と下向きスピン電子が互いに反対方向に曲げられる点は同じである。一方、強磁性体中では上向きスピン電子と下向きスピン電子のいずれかが多い状態であるため、結果として電荷の正味の流れが生じてしまう(電圧が発生してしまう)点で異なる。従って、非磁性金属層1Bの材料としては、強磁性体だけからなる材料は含まれない。
【0041】
ここで、上向きスピンS
+の流れをJ
↑、下向きスピンS
−の流れをJ
↓、スピン流をJ
Sと表すと、J
S=J
↑−J
↓で定義される。
図3においては、純スピン流としてJ
Sが図中の上方向に流れる。
図3において、非磁性金属層1Bの上面に反強磁性層1Aを接触させると、純スピン流は反強磁性層1A中に拡散して流れ込むことになる。
非磁性金属層1Bに電流を流して純スピン流を生成し、その純スピン流が非磁性金属層1Bに接する反強磁性層1Aに拡散する構成とすることで、その純スピン流によるスピン軌道トルク(SOT)効果で2種類のドメインの比の制御に寄与するものである。
【0042】
非磁性金属層1Bは、非磁性の重金属を含んでもよい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属の意味で用いている。非磁性金属層1Bは、非磁性の重金属だけからなってもよい。
この場合、非磁性の重金属は内殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。かかる非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きいからである。非磁性金属層1Bは、内殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動く。これに対して、内殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、純スピン流J
Sが発生しやすい。
【0043】
また、非磁性金属層1Bは、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピン軌道相互作用が増強され、非磁性金属層1Bに流す電流に対するスピン流生成効率を高くできるからである。
スピン軌道相互作用は非磁性金属層1B材料の物質の固有の内場によって生じるため、非磁性材料でも純スピン流が生じる。非磁性金属層1B材料に微量の磁性金属を添加すると、磁性金属自体が流れる電子スピンを散乱するためにスピン流生成効率が向上する。ただし、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生した純スピン流が添加された磁性金属によって散乱されるため、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる。したがって、添加される磁性金属のモル比は非磁性金属層1Bにおける純スピン生成部の主成分のモル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
【0044】
また、非磁性金属層1Bは、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。非磁性金属層1Bは、トポロジカル絶縁体だけからなってもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。物質にはスピン軌道相互作用という内部磁場のようなものがある。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率で生成することができる。
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi
1.5Sb
0.5Te
1.7Se
1.3,TlBiSe
2,Bi
2Te
3,(Bi
1−xSb
x)
2Te
3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率でスピン流を生成することが可能である。
【0045】
第1電極層5及び第2電極層6は強磁性体材料とすることができる。例えば、上述の構成A、構成B及び構成Cにおいて、第1電極層5及び第2電極層6の材料を、互いに逆向きの磁化を有する強磁性体とすることにより、初期状態において単一のドメインの場合であっても2種類のドメインを形成することができる。
【0046】
一方、第1電極層5及び第2電極層6は一般的な電極材料を用いることができる。例えば、上述の構成Cにおいて、書き込みの際、第1電極層5あるいは第2電極層6を通って反強磁性駆動層1の非磁性金属層に流れた電流は純スピン流を発生し、その純スピン流が反強磁性層1Aに拡散して磁壁DWを移動させて書き込みが可能となる(非特許文献2参照)。
【0047】
本発明の交換バイアス利用型磁化反転素子において、磁気結合層の磁化を反転させて2種類のドメインの割合を変える方法については、交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子の説明において詳述する(
図7及び
図9参照)。
磁気結合層の磁化を反転させて2種類のドメインの割合はデジタル的に変えることもできるし、アナログ的に変えることもできる。従って、本発明の交換バイアス利用型磁化反転素子は、デジタル的に動作する素子としても、アナログ的に動作する素子としても用いることができる。
【0048】
以下では、本発明の交換バイアス利用型磁化反転素子の適用例として、主に磁気抵抗効果素子に適用した場合を例に挙げて説明する。用途としては磁気抵抗効果素子に限られず、他の用途にも適用できる。他の用途としては、例えば、交換バイアス利用型磁化反転素子を各画素に配設して、磁気光学効果を利用して入射光を空間的に変調する空間光変調器においても用いることができる。また、磁気センサにおいて磁石の保磁力によるヒステリシスの効果を避けるために磁石の磁化容易軸に印可する磁場を交換バイアス利用型磁化反転素子に置き換えてもよい。
【0049】
(交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子)
図4は、本発明の一実施形態に係る交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子の一例の断面模式図である。
図4に示す交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子100は、第1領域1aおよび第2領域1bとそれらの領域の間に位置する第3領域1cとからなる反強磁性駆動層1と、第3領域1cにおいて、反強磁性駆動層1に磁気的に結合した磁気結合層2と、磁気結合層2に接合した非磁性層3と、非磁性層3に接合した磁化固定層4と、第1領域1aに接合した第1電極層5と、第2領域1bに接合した第2電極層6と、を備える。
交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子100は、本発明の交換バイアス利用型磁化反転素子と、磁気結合層2に接合した非磁性層3と、非磁性層3に接合した磁化固定層4と、を備えるということもできる。
図4において、各層の積層方向すなわち、各層の主面に直交する方向(面直方向)をZ方向として定義している。各層はZ方向に直交するXY面に平行に形成されている。
なお、磁化固定層とは、書き込み電流を用いた書き込み前後において磁化方向が変化しない(磁化が固定されている)層の意味であり、それを満たす層であれば、特に限定なく用いることができる。
【0050】
反強磁性駆動層1の長軸の長さは60nm以上であり、第1電極層5の、磁気結合層2から最も近い位置と、第2電極層6の、磁気結合層2から最も近いとの間の距離が60nm以上であることが好ましい。
ドメインの壁の厚みは数10nm程度であり、反強磁性駆動層内に2つ以上のドメインを含むことができるからである。
【0051】
本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子におけるデータの書き込み、及び、読み出しの原理を説明する。
従来の磁壁駆動型MRAMの各素子では、記録データの保持を強磁性材料からなる磁壁駆動層が担っており、外部磁場による記録データが書き換えられる可能性がある。これに対して、本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子は、記録データの保持を反強磁性材料からなる反強磁性駆動層が担っているが、反強磁性材料中では互いに打ち消し合うスピンが同数存在して全体として磁化を有さないため、強磁性材料に比べて磁場による外部擾乱に対して強い、すなわち、外部磁場で記録データが書き換えられにくいという利点を有する。
まず、従来の磁壁駆動型MRAMについて説明する。
【0052】
MRAMは、GMR(Giant Magneto Resistance)効果やTMR(Tunnel Magneto Resistance)効果などの磁気抵抗効果を利用する磁気抵抗効果素子をメモリセルとして備える。磁気抵抗効果素子は例えば、非磁性層を介して2層の強磁性層が積層された積層構造を有するものである。2層の強磁性層は、磁化の向きが固定された磁化固定層(ピン層)と、磁化の向きが反転可能な磁化自由層(フリー層)である。磁気抵抗効果素子の電気抵抗の値は、磁化固定層と磁化自由層の磁化の向きが反平行であるときの方が、それらが平行であるときよりも大きい。MRAMのメモリセルである磁気抵抗効果素子では、この抵抗値の大きさの差を利用して磁化が平行の状態をデータ“0”に、反平行の状態をデータ“1”に対応づけることにより、データを不揮発的に記憶される。データの読み出しは、磁気抵抗効果素子を貫通するように(積層構造を貫くように)読み出し電流を流し、磁気抵抗効果素子の抵抗値を測定することにより行なわれる。一方、データの書き込みは、スピン偏極電流を流して磁化自由層の磁化の向きを反転させることによって行われる。
【0053】
現在主流のデータの書き込み方式として、スピントランスファートルク(Spin Transfer Torque)を利用した「STT方式」が知られている。STT方式では、磁化自由層にスピン偏極電流が注入され、その電流を担う伝導電子のスピンと磁化自由層の磁気モーメントとの間の相互作用によって、磁化自由層にトルクが発生し、トルクが十分大きい場合に磁化が反転する。この磁化反転は電流密度が大きいほど起こりやすくなるため、メモリセルサイズが縮小されるにつれ、書き込み電流を低減させることが可能となる。
【0054】
また、STT方式として、磁気抵抗効果素子を貫通するように書き込み電流を流す方式(例えば、特許文献1)と、磁気抵抗効果素子を貫通させず、磁化自由層の面内方向に書き込み電流を流す方式(例えば、特許文献4)とが知られている。
前者の方式では、磁化固定層と同じスピン状態を有するスピン偏極電子が磁化固定層から磁化自由層へ供給される、あるいは、磁化自由層から磁化固定層に引き抜かれる。その結果、スピントランスファー効果により、磁化自由層の磁化が反転する。このように、磁気抵抗効果素子を貫通する書き込み電流の方向により、磁化自由層の磁化方向を規定することができる。
【0055】
一方、後者の方式について
図5を参照して説明する。
図5は、従来の磁壁駆動型の磁気抵抗効果素子の一例を示す断面模式図である。
図5に示す磁壁駆動型の磁気抵抗効果素子は、磁壁DWを有し、第1領域11aおよび第2領域11bとそれらの領域の間に位置する第3領域11cとからなる磁壁駆動層(磁化自由層)11と、第3領域において、非磁性層16を介して設置された磁化固定層15と、第1領域11aに接し、第1の磁化の向きを有する第1磁壁供給層12と、第2領域11bに接し、第1の磁化の向きと逆向きの第2の磁化の向きを有する第2磁壁供給層13と、を備えている。
図5において、矢印M1、矢印M2および矢印M3は各層の磁化の向きを示しており、矢印M4および矢印M5はそれぞれ、磁壁駆動層11のうち、磁壁DWを境界として第1磁壁供給層12側の部分の磁化の向き、磁壁DWを境界として第2磁壁供給層13側の部分の磁化の向きを示すものである。
【0056】
図5に示す従来の磁壁駆動型の磁気抵抗効果素子において、データの書き込みは磁化自由層11内に形成される磁壁DWを移動させることによって行われる。磁壁駆動層11は磁化が互いに略反平行に固定された第1領域11aと第2領域11bと、第1領域11aと第2領域11bとの間に位置する第3領域11cを有し、第3領域11cの磁化は第1領域11aか第2領域11bのいずれかと略平行方向となる。このような磁化状態の制約によって、磁壁駆動層11内には磁壁が導入される。磁壁は、磁壁駆動層11内に電流を流すことによってその位置を移動させることができる。
例えば、
図6Aの点線で示す向きに、第2磁壁供給層13から磁壁駆動層11へさらに第1磁壁供給層12へと電流を流すと、伝導電子は電流の向きとは逆に実線で示す向きに流れる。第1磁壁供給層12から電子が磁壁駆動層11へ入ると、電子は第1磁壁供給層12及び磁壁駆動層11の第1磁壁供給層12と磁気結合したドメインの磁化の向きに対応したスピン偏極電子となる。このスピン偏極電子が磁壁に到達すると、磁壁においてスピン偏極電子が持つスピンが磁壁に対してスピントランスファーを起こし、磁壁は伝導電子の流れる向きと同じ向きに移動する。同様に、
図6Bの点線で示す向きに、第1磁壁供給層12から磁壁駆動層11へさらに第2磁壁供給層13へと電流を流すと、伝導電子は電流の向きとは逆に実線で示す向きに流れる。第2磁壁供給層13から、電子が磁壁駆動層11へ入ると、電子は第2磁壁供給層13及び磁壁駆動層11の第2磁壁供給層13と磁気結合したドメインの磁化の向きに対応したスピン偏極電流となる。このスピン偏極電子が磁壁に到達すると、磁壁においてスピン偏極電子が持つスピンが磁壁に対してスピントランスファーを起こし、磁壁は伝導電子の流れる向きと同じ向きに移動する。
このような磁壁の移動により、磁壁駆動層11のうち、磁化固定層15の直下の部分の磁化を磁化固定層15の磁化の向きと平行の状態にしたり、あるいは、反平行の状態にすることができる。このようにして“0”状態と“1”状態との間での情報の書き換えが可能である。
データの読み出しは、非磁性層16を介した磁化固定層15と磁壁駆動層11との間で電流を流し、磁化固定層15の磁化と磁壁駆動層11の磁化との相対角に応じた抵抗の変化を検出することで行う。磁壁駆動層11のうち、磁化固定層15の直下の部分の磁化を磁化固定層15の磁化の向きと平行の状態のときは低抵抗であり、一方、反平行の状態のときは高抵抗であり、この抵抗の変化を検知することにより、データが判別される。
【0057】
これに対して、本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子は、参照層である磁化固定層4を基準として、磁気結合層2との磁化の向きの相対角を利用してアナログ的な信号出力を実現する素子である。磁気結合層2の磁化の向きは、これに接合する反強磁性駆動層1のドメインの割合によって決定される。
【0058】
反強磁性体は、ミクロには磁性を担うスピンが反平行に結合して物質全体でみると自発磁化はゼロで磁性を持たないが、強磁性体と接合させるとその接合界面で強い磁気結合を示すことが知られている。この接合界面に発生する磁場は交換バイアス磁場あるいは交換結合磁場と呼ばれる。
反強磁性体中にも強磁性体と同様に、磁区(ドメイン)および磁壁が存在する。反強磁性体中の場合、スピンは互い打ち消しあって自発磁化を持たないため、強磁性体のように磁区の方向を自発磁化の方向で区別することはできない。しかしながら、個々のスピンは、強磁性体と同様に2つの方向をとることができる。これを副格子磁化という。反強磁性体では、副格子磁化を足し合わせるとゼロになる。したがって反強磁性体は副格子磁化の方向が異なる2つの状態をとることができ、これが磁区(ドメイン)構造として現れる。
強磁性体と接合させた界面で発生する交換バイアス磁場(交換結合磁場)は、反強磁性体側の界面スピンの方向によって決定されることが知られている。反強磁性体側の2種類の磁区の割合によって、交換バイアス磁場が変化するということもできる。通常、反強磁性体の2つのドメイン状態は、外部から磁場を印加してもエネルギー的に等価な状態を保つため、その割合を変化させることは困難である。しかしながら、本発明で開示する材料のような磁気対称性の上で時間反転対称と空間反転対称性が同時に破れている材料を用いると(構成A,構成B)、反強磁性体に電流を流すことで2種類のドメイン(2種類のドメインのうち、一方を「第1ドメイン」、他方を「第2ドメイン」ということがある。)の割合を変えることができる。これらの材料を反強磁性駆動層に用いることにより、反強磁性行動層の長軸の一方から電流を流したときと、その逆方向から電流を流したときとで反強磁性体の2つのドメインのエネルギーの安定性に差が発生し、それによってエネルギーが安定するように2種類のドメインの割合が変化する。また、磁気結合層に接合する側から反強磁性層と、反強磁性層に接合し、電流が流れることにより純スピン流が発生する非磁性金属層と、を有する積層構成(構成C)とすることによっても2つのドメインの割合を変化させることができる。
図7は、反強磁性層(反強磁性駆動層)、強磁性層(磁気結合層)を含む複合体について、(a)符号H11で示す交換バイアス磁場を発生させるドメインの割合が100%の場合、(b)符号H11で示す交換バイアス磁場の向きのドメインと符号H12で示す交換バイアス磁場の向きのドメインとの割合が50%づつの場合、(c)符号H12で示す向きのドメインの割合が100%の場合、のそれぞれの状態での磁気結合層の磁区の状態を示すものである。
反強磁性層(反強磁性駆動層)は、そのドメインの方向によって、(a)あるいは(c)の矢印H11、H12で示すように交換バイアス磁場あるいは交換結合磁場を生成することになる。これにより、外部磁場がなくても、隣接する強磁性体の磁化の向きを、M11、M12の方向に固定することができる。(b)の場合は、反強磁性層のドメインの割合を反映して、強磁性層(磁気結合層)の磁区も、M11とM12が等しく存在している状態である。
【0059】
ドメイン割合の変化モードは大きく分けて、反転ドメインがランダムに発生し、各ドメイン(ドメイン核)が成長して完全反転に至るタイプ(以下、「核生成タイプ」ということがある。)と、互いに逆向きの磁化を有する2つのドメインを分けるドメイン壁(磁壁)が移動することでドメインの割合が変化するタイプ(以下、「ドメイン壁移動タイプ」ということがある。)の2つのタイプの変化モードがある。核生成タイプとしては、例えば、第1電極層、第2電極層が、CuやAl等の非磁性金属からなる素子のように、反強磁性駆動層にあらかじめ磁壁DWが存在しない場合を例示することができる。また、ドメイン壁移動タイプとしては、例えば、反強磁性層駆動層の両端のドメイン方向が固定されており、2つのドメインの間に常に磁壁DWが存在している場合を例示することができる。
図7及び
図8は核生成タイプを示す図であり、
図1、
図2、
図4、
図10〜
図14はドメイン壁移動タイプについて示す図であり、
図9は、2つのタイプの変化モードのいずれにも対応する図である。
【0060】
2種類のドメインの割合は、反強磁性駆動層を例えば、閃亜鉛構造を有する反強磁性材料を含む構成とし、あるいは、CuMnAs、Mn
2Auのいずれかの反強磁性材料を含む構成とし、反強磁性駆動層に電流を流すことによって変えることができる。符号H11で示す交換バイアス磁場の向きのドメインの割合を多くする場合と、符号H12で示す向きのドメインの割合を多くする場合とは、電流を流す向きを逆にすることにより選択できる。閃亜鉛構造を有する反強磁性材料は空間反転対称性が破れているため(その結果、スピンを含めると、時間と空間の反転対称性が破れてるため)、電流を流すことによって2種類のドメインの割合を変えることができる。また、CuMnAsおよびMn
2Auは空間反転対称性は破れていないが、スピンを含めると、時間と空間の反転対称性が破れているために、電流を流すことによって2種類のドメインの割合を変えることができる。
【0061】
図8は、反強磁性駆動層の2種類のドメインを説明するための断面模式図である。
図8において、DAおよびDBは副格子磁化の向きの異なる2種類のドメインを示している。DAおよびDBの、磁気結合層と接合する面においてそれぞれ、互いに逆向きのスピンが配置している。このように、反強磁性駆動層は、磁気結合層と接合する面において、2種類のドメインがそれぞれで同じスピンを有するドメインを形成する構成である。そのため、磁気結合層と接合する面において、2種類のドメインの割合が変わることで、
図9に示すように、磁気結合層の磁化の向きに与える影響が変わる。すなわち、2種類のドメインの割合が変わることで、磁気結合層の磁区の割合が変わり、その割合に応じて磁気抵抗Rの大きさが変化する。
【0062】
図9(a)は、反強磁性駆動層、磁気結合層、非磁性層、磁化固定層の積層部分を模式的に示す斜視図であり、M21は磁化固定層の磁化の向きであり、M11、M12は磁気結合層の磁化の向きである。
図9(b)は、2種類のドメインの割合(0〜1の比で表したもの)と、素子を垂直に流れる電流の抵抗値(R)との関係の概略を示すグラフである。
本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子において、データの書き込みはこの2種類のドメインの割合を変えることによって、結果として磁気結合層の磁区の割合を変えることによって行われる。具体的には、データの書き込みは、
図4を参照して、第1電極層5(第2電極層6)から反強磁性駆動層1を経由して第2電極層6(第1電極層5)に、反強磁性駆動層に電流を流すことによって行われる。第1電極層5と第2電極層6との間の電流を止めると、反強磁性駆動層1のドメインが変化しなくなるので、磁気結合層2の磁区の割合もそこで固定される。さらに、同じ方向に電流を流せば、さらに磁区の割合の増減は同じ方向に変化し、逆方向に電流を流すと、もとの状態へと戻る。磁化固定層を基準とした反平行方向の磁気結合層の磁区と並行方向の磁気結合層の磁区の割合が変わると、素子を垂直に流れる電流の抵抗が変わるので、データは磁気抵抗の大きさとして記録される。
構成Cを用いた交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子におけるデータの書き込みについて補足する。
図2及び
図4を参照する。第1電極層5(第2電極層6)から反強磁性駆動層1を経由して第2電極層6(第1電極層5)に、反強磁性層1A及び非磁性金属層1Bからなる反強磁性駆動層に電流を流す。これによって、非磁性金属層1Bに純スピン流が発生し、その純スピン流が反強磁性層1Aに拡散して、反強磁性層1Aのドメインの割合が変化し、その結果、磁気結合層2の磁区の割合が変化する。
磁気結合層と接合する面におけるドメインは数10nm程度のサイズなので、交換バイアス磁場の大きさは実質的にアナログ的に変化し得る。
書き込み時の反強磁性駆動層に通電する電流密度は1×10
7A/cm
2以上とする。
電流密度は1×10
7A/cm
2以上とすることにより、反強磁性駆動層にドメインが形成される(非特許文献1参照)。
【0063】
図10A、
図10Bはそれぞれ、第1ドメイン及び第2ドメインの2種類のドメインの比率を変化させる一定の負荷量(例えば、電流)を与えた際、その負荷量と抵抗値との関係について、反強磁性駆動層が核生成タイプの場合、反強磁性駆動層がドメイン壁移動タイプの場合の特徴を模式的に示したグラフである。
図10A及び
図10Bにおいて、点線で示したグラフは、負荷量と抵抗値がほぼ比例する理想的な抵抗変化を示す場合のものである。
【0064】
反強磁性駆動層が核生成タイプの場合、
図10Aに示すように、臨界ドメインサイズ以下ではドメインが存在できないため、理想的な抵抗変化と比較すると、ドメイン割合が0と1の両端付近では抵抗値変化が不連続になる。
一方、反強磁性駆動層がドメイン壁移動タイプの場合、
図10Bに示すように、図理想的な抵抗変化と比較すると、ドメイン割合が0と1の両端付近ではドメイン壁部分の影響で抵抗値変化が連続的ではあるが、よりゆるやかになる。
【0065】
図10A及び
図10Bに示した負荷量と抵抗値との関係のグラフは、負荷量とドメイン比率との関係(負荷量に対するドメイン比率の変化率)を反映するものである。従って、
図10A及び
図10Bのそれぞれにおいて、縦軸をドメイン比率に置き換えることで、負荷量とドメイン比率との関係の特徴を示すものとなる。
【0066】
反強磁性駆動層が核生成タイプの場合、反強磁性駆動層がドメイン壁移動タイプの場合に比べて、構造が単純なため、作製が容易であるというメリットがある。
一方、反強磁性駆動層がドメイン壁移動タイプの場合、反強磁性駆動層が核生成タイプの場合に比べて、連続性の高い効果的なアナログ動作が実現できるというメリットがある。
【0067】
本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子は、磁気結合層の磁化を反転させて2種類のドメインの割合はデジタル的に変えることや、アナログ的に変えることによって、磁気抵抗をデジタル的にもアナログ的に変えることができる。従って、本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子は、デジタル的に動作する素子としても、アナログ的に動作する素子としても用いることができる。
【0068】
本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子における、データの読み出しは、
図4を参照すると、第1電極層5あるいは第2電極層6と参照層である磁化固定層4との間に電流を流し、磁気結合層2と磁化固定層4との磁化の相対角に応じた磁気抵抗による抵抗値を測定することによって行われる。このとき、読み出し電流は、記録された情報が書き変わらないよう書き込み時の電流密度よりも十分低くする。構成Cを用いた交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子おけるデータの読み出しについても同様である。
【0069】
図11は、
図4に示した交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子において、第3領域1cの、磁気結合層2が設置された面の反対側の面に、平面視して磁気結合層2と重なる位置に設置された下部電極層8を備えた構成である。この構成によって、読み出し電流は、
図7において2点鎖線で示すように、反強磁性駆動層1を面直方向に流れる。このため、反強磁性駆動層1のドメインへの影響を低減した状態で、磁気結合層2と磁化固定層4との間の磁気抵抗効果による出力を得ることができる。また、読み込み電流を大きくすることができるので、読み込みの高速化が可能となる。また、読み出し電流が流れる反強磁性駆動層1の距離が短いため、磁気ノイズを低減できる。
【0070】
従来の磁壁駆動型の磁気抵抗効果素子を用いたMRAMにおいては、データの書き込み電流は磁気抵抗効果素子(
図5における、非磁性層16を介した磁化固定層15及び磁壁駆動層11からなる積層構造)を貫通せず、磁化自由層の面内方向(積層方向に平行な方向)に流す(
図6参照)。一方、データの読み出し電流は、
図6Aの1点鎖線で示すように、磁気抵抗効果素子(非磁性層16を介した磁化固定層15及び磁壁駆動層11からなる積層構造)を積層方向に貫通し、その後、書き込み電流が流れる経路の一部を流れる(例えば、特許文献5参照)。すなわち、読み出し電流の経路は、書き込み電流の経路と一部が重なる。
このように、従来の磁壁駆動型MRAMの構成においては、読み出し時に、磁壁駆動層の磁壁駆動の方向(面内方向)に電流を流す必要があった。そのため、得られる出力信号は最終的には0か1のデジタルの信号になる。また、平面視して、磁壁駆動層(磁化自由層)と磁気抵抗効果素子部とが重なる部分よりも外側に磁壁移動が完了していないと、読み込み時に磁壁が移動して誤書き込みや読み出し初期時の信号が変化するなどの問題があった。
これに対して、本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子において、平面視して磁気結合層2と重なる位置に設置された下部電極層8を備えた構成をとることによってかかる問題は生じない。
【0071】
下部電極層8の形状は、読み込み電流(スピン偏極電流)の水平成分が出ないように、平面視して、磁化固定層4と同じサイズであることが好ましいが、同じサイズでなくても効果を発揮する。例えば、平面視して、下部電極層8と磁化固定層4との重なり程度が50%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0072】
下部電極層8の材料としては、電極材料として用いられる公知の材料を用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、銅、金等を用いることができる。
【0073】
図11に示す交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子200では、さらに、反強磁性駆動層1と下部電極層8の間に高抵抗層7を備えている。高抵抗層7は反強磁性駆動層1よりも電気抵抗率が高い層である。なお、高抵抗層7は、書き込みの際に電流が下部電極層8に流れてしまうことで書き込み動作(ドメイン割合の変更)が阻害されることを防止するための層である。かかる機能を奏する材料であれば、高抵抗層7の材料に特に制限はない。非磁性の材料でもよい。高抵抗層7は、トンネルバリア層であってもよい。従って、高抵抗層7は、トンネル電流を流すことができる絶縁材料であってもよい。
【0074】
高抵抗層7が絶縁材料の場合、高抵抗層7の厚さは、書き込み電流が下部電極層8に流れ込まないように0.8nm以上にすることが好ましい。一方、読み込み動作における影響を無視できる程度にする観点では、2nm以下にすることが好ましい。
【0075】
高抵抗層7の材料としては、書き込み電流が下部電極層8に流れてしまうことを抑制する(実質的に防止する)ことができる層であれば、特に制限はない。高抵抗層7はトンネルバリア層であってもよく、トンネルバリア層に用いることができる公知の絶縁材料を用いることができる。例えば、Al
2O
3、SiO
2、MgO、及び、MgAl
2O
4等を用いることができる。またこれらの他にも、Al,Si,Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。高抵抗層7の材料は、反強磁性駆動層1よりも少なくとも抵抗率が高ければ機能する。例えば、Si、SiGeやGeなどの半導体でも良い。
【0076】
磁化固定層4は磁化が固定された強磁性体材料からなる層(強磁性層)である。
磁化固定層4の材料には、磁化固定層に用いることができる公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0077】
また、より高い出力を得るためにはCo
2FeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、X
2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2MnSiやCo
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−bなどが挙げられる。
【0078】
さらに、磁化固定層4は反強磁性層、強磁性層、非磁性層から成るシンセティック構造であってもよい。シンセティック構造において磁化方向は反強磁性層によって磁化方向が強く保持されているため、外部からの影響を受けにくい磁化固定層として機能させることができる。
【0079】
さらに磁化固定層4の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、磁化固定層4は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]
6/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]
4/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
【0080】
磁化固定層4の磁化が一方向に固定され、磁気結合層2の平行方向と反平行方向の磁区の割合が相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子部10として機能する。磁気抵抗効果素子部10は、非磁性層3が絶縁体からなる場合はトンネル磁気抵抗(TMR)素子的であり、非磁性層3が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR)素子的である。
【0081】
非磁性層3の材料としては、非磁性層に用いることができる公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層3が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、MgO、MgAl
2O
4、ZnAl
2O
4、MgGa
2O
4、ZnGa
2O
4、MgIn
2O
4、ZnIn
2O
4、及び、これらの材料の多層膜や混合組成膜等を用いることができる。またこれらの他にも、Al,Si,Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl
2O
4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。
また、非磁性層3が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
【0082】
磁気結合層の材料としては、一般的には磁気抵抗効果素子の磁化自由層に用いることができる公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0083】
また、より高い出力を得るためにはCo
2FeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、X
2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2MnSiやCo
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−bなどが挙げられる。
【0084】
磁気結合層2は、非磁性層3側から順に磁気抵抗効果層と軟磁性層とを含む積層構造を有し、磁気抵抗効果層がCoFeBを含む材料からなるものとすることができる。
かかる構成とすることにより、ヒステリシスによって交換バイアス磁場による反強磁性駆動層のドメインの転写が阻害されることを防ぐことができ、結果として抵抗値の偏差を小さく抑えることができるからである。
【0085】
反強磁性駆動層1、磁気結合層2及び磁化固定層4の磁化容易軸は、積層方向に対して平行でも垂直でもよい。垂直にした場合には、書き込み時の電流を反強磁性駆動層に通電することで、効果的に磁気結合層と磁化固定層4の相対関係を変化させることができる。
【0086】
図12に示す交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300は、
図4に示した交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子100における第1電極層及び第2電極層を、互いに逆向きの磁化を有する強磁性体材料からなる構成とされている点が異なる。符号25、26はそれぞれ、強磁性体材料からなる第1電極層及び第2電極層を指す。
この構成では、反強磁性駆動層に電流を通電させることがなく、予め第1領域1cの両側に逆向きの反強磁性ドメインを形成することができる。また、この構成では、素子サイズを小さくすることができる。
【0087】
この交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300においては、反強磁性駆動層1中で第1電極層25および第2電極層26に接する部分の反強磁性層のドメインは、それぞれの電極層の接合界面の磁化の向きを反映するように、2つのドメインが形成される。このため、
図12に示すように、2つのドメイン間に磁壁DWが形成される。
この場合、データの書き込みによってドメインの割合が変化することは、磁壁DWが移動することに対応するため、データの書き込み及び読み出しの基本的な考え方は磁壁駆動型MRAMに類似する。
【0088】
本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子において、強磁性体材料からなる第1電極層及び第2電極層のいずれか一方を、第一強磁性層と中間層と第二強磁性層とが積層された合成反強磁性(SAF)構造としてもよい。
図13に示す交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子400は、
図12に示した交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300における第1電極層25及び第2電極層26のうち、第2電極層26を、第一強磁性層26aと中間層26bと第二強磁性層26cとが積層された合成反強磁性(SAF)構造の電極26’とされている点が異なる。第一強磁性層26aは第二強磁性層26cに比べて薄い。合成反強磁性構造は公知の構造とすることができる。
かかる構成としたことにより、同一方向に磁場を印可しつつ、反強磁性体の磁気転移温度以上に加熱し、その後冷却処理を行なうことによって、簡単に第1電極層と第2電極層に接する反強磁性駆動層1の内部に、逆向きの反強磁性ドメインを形成することができる。
【0089】
(交換バイアス利用型磁気メモリ)
本発明の交換バイアス利用型磁気メモリは、本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0090】
上述の通り、本発明の交換バイアス利用型磁気メモリが備える交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子は、磁気結合層の磁化を反転させて2種類のドメインの割合はデジタル的に変えることやアナログ的に変えることによって、磁気抵抗をデジタル的にもアナログ的に変えることができる。従って、本発明の交換バイアス利用型磁気メモリは、デジタル的に動作するメモリとしても、アナログ的に動作するメモリとしても用いることができる。
【0091】
図14に、交換バイアス利用型磁気メモリ中のセルの要部の断面模式図を示す。
図4等で示した交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子100は、第1電極層25及び第2電極層26のそれぞれには第1配線31、第2配線32が接続されており、また、磁化固定層4には第3配線33に接続され、さらに、下部電極層8には第4配線34が接続されている。符号45は、絶縁層である。
【0092】
図15に、本発明の一実施形態に係る交換バイアス利用型磁気メモリ1000の回路構造の一例を模式的に示した図である。
第1制御素子35は、複数の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300のそれぞれの第2配線32を介して反強磁性駆動層1に接続されている。第1制御素子35は、図示略の外部電源に接続され、反強磁性駆動層1に流す電流を制御する。
第1セル選択素子36は、複数の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300のそれぞれの第1配線31を介して反強磁性駆動層1に接続されている。第1セル選択素子36は、一つの交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300に対して一つ設けられている。
第1セル選択素子36は、いずれかの交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300に書き込み電流を流すかを制御する。第1セル選択素子36は、接地されている。
第2制御素子37は、第3配線33に接続されている。第2制御素子37は、図示略の外部電源に接続され、第3配線33に流す電流を制御する。
第2セル選択素子38は、複数の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300のそれぞれの第4配線34を介して下部電極層8に接続されている。第2セル選択素子38は、一つの交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300に対して一つ設けられている。第2セル選択素子38は、いずれの交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子300に読み出し電流を流すかを制御する。第2セル選択素子38は、接地されている。
【0093】
第1制御素子35、第2制御素子37、第1セル選択素子36及び第2セル選択素子38は、公知のスイッチング素子を用いることができる。例えば、電界効果トランジスタ等に代表されるトランジスタ素子等を用いることができる。
【0094】
第1配線31、第2配線32、第3配線33および第4配線34は、通常の配線の材料として用いられる材料を用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、銅、金等を用いることができる。
【0095】
以下、
図15を用いて、交換バイアス利用型磁気メモリ1000による書込み動作及び読出し動作について説明する。
【0096】
書き込み動作は、第1制御素子35と第1セル選択素子36とによって書き込みを制御する。
【0097】
まず、第1制御素子35を開放(接続)し、開放する第1セル選択素子36を選択する。第1制御素子35は外部電源に接続され、第1セル選択素子36は接地されている。そのため、第1制御素子35、第2配線32、第2電極層26、反強磁性駆動層1、第1配線31、選択された第1セル選択素子36の順に書き込み電流が流れる。電流を逆に流す場合の説明は省略する。
【0098】
読み込み動作は、第2制御素子37と第2セル選択素子38とによって読み込みを制御する。
【0099】
まず、第2制御素子37を開放(接続)し、開放する第2セル選択素子38を選択する。第2制御素子37は外部電源に接続され、第2セル選択素子38は接地されている。そのため、第2制御素子37、第3配線33、磁化固定層、非磁性層3、反強磁性駆動層1、下部電極層8、選択された第2セル選択素子38の順に読み込み電流が流れる。電流を逆に流す場合の説明は省略する。
第2制御素子37及び第2セル選択素子38は読み出し機構として機能する。
【0100】
本発明の交換バイアス利用型磁気メモリは、第1電極層25又は第2電極層26のいずれか一方にバイポーラ素子が接続された構成としてもよい。かかる構成により、電流の向きを変えることで任意の方向に磁壁を移動することができる。
【0101】
(不揮発性ロジック回路)
本発明の不揮発性ロジック回路は、本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子がアレイ状に配置された交換バイアス利用型磁気メモリと、アレイ内あるいはアレイ外のいずれかにSTT−MRAMとを備え、記憶機能と論理機能を有し、記憶機能として前記交換バイアス利用型磁気メモリ及び前記STT−MRAMを備えてなる。
交換バイアス利用型磁気メモリとSTT−MRAMは同一の工程で作製することが可能であるため、コストの削減が可能である。また、デジタル的であるSTT−MRAMがアレイ上に配置された交換バイアス利用型磁気メモリと同一回路に設置されることで、入出力をデジタル化し、内部ではアナログで処理することが可能なロジックを形成することができる。
【0102】
(磁気ニューロン素子)
図16は、本発明の一実施形態に係る磁気ニューロン素子の一例の断面模式図である。
本発明の磁気ニューロン素子は、本発明の交換バイアス利用型磁気抵抗効果素子を備え、前記反強磁性駆動層1の第3領域1cが長手方向に並ぶ、第1記憶部21bと、該第1記憶部21bを挟む第2記憶部21aおよび第3記憶部21cとからなり、第1記憶部21b、前記第2記憶部21aおよび前記第3記憶部21cのすべての記憶部に少なくとも一回は留まるように順に磁壁を移動させ得る書き込み電流を流すように制御する制御回路を有する電流源(図示略)を備えている。
第1記憶部21bは、反強磁性駆動層1の第3領域1cのうち、平面視して磁化固定層4と重なる部分である。また、第2記憶部21aは、平面視して磁化固定層4と第1電極層25との間の部分(磁化固定層4及び第1電極層25に重ならない部分)である。また、第3記憶部21cは、平面視して磁化固定層4と第2電極層26との間の部分(磁化固定層4及び第2電極層26に重ならない部分)である。
【0103】
本発明の交換バイアス利用型磁気メモリはシナプスの動作を模擬する素子である磁気ニューロン素子として利用することができる。シナプスでは外部からの刺激に対して線形な出力を持つことが好ましい。また、逆向きの負荷が与えられた際にはヒステリシスがなく、可逆することが好ましい。2種類のドメインの割合によって磁化固定層4と磁気結合層2のそれぞれの磁化方向の磁区の割合が連続的に変化する。磁化固定層4と磁気結合層2のそれぞれの磁化方向が平行的なドメイン(低抵抗となる配置)の面積と反平行なドメイン(高抵抗となる配置)の面積とによる並列回路となる。
図9(b)の横軸は2種類のドメインの割合であり、比較的線形な抵抗変化を示すことができる。また、2種類のドメインの割合は電流の大きさと印可される電流パルスの時間に依存して駆動することができるため、電流の大きさと向き、さらに、印可される電流パルスの時間を外部からの負荷として見なすことができる。
【0104】
(記憶の初期段階)
例えば、反強磁性駆動層1の磁壁が−X方向に最大に移動した場合、磁壁は第1電極層25の磁化固定層4側の端部21aAで安定化する。電流を第2電極層26から第1電極層25に流すと、図面中、磁壁DWの左側のドメイン(以下、「第1ドメイン」という)の方が磁壁DWの右側のドメイン(以下、「第2ドメイン」という)よりもエネルギー的に安定となるため、第2ドメインから第1ドメインへの反転が進行する。この時、DW近傍の第2ドメインは、DWから離れた位置にある第2ドメインよりもより小さなエネルギーで反転するため、結果として反強磁性駆動層1の磁壁が+X方向に移動する。磁壁が磁化固定層4の第1電極層25側の端部21aBに達するまでは磁壁が移動しても、読出しの抵抗が変化しない。この状態を記憶の初期段階と呼ぶことができる。すなわち、第2記憶部21a内に磁壁が配置する場合を記憶の初期段階と呼ぶことができる。記憶の初期段階ではデータとしての記録がされていないが、データを記録するための準備が整えられている状態である。
【0105】
(主記憶段階)
磁壁が磁化固定層4の下部(平面視して重なる部分)を通過している間は
図9(b)のように読出し時の抵抗が変化する。電流を第2電極層26から第1電極層25に流すことで外部からの負荷とし、負荷にある程度比例した読出し時の抵抗変化となる。これが主記憶段階である。すなわち、第1記憶部21b内に磁壁が配置する場合を記憶の主記憶段階と呼ぶことができる。磁壁が磁化固定層4の端部より外側にいる状態を記憶、あるいは、無記憶と定義し、磁壁が逆側の磁化固定層4の端部より外側にいる状態を無記憶、あるいは、記憶と定義することができる。当然、第2電極層26と第1電極層25の間に流れる電流を逆向きにすると、逆の作用となる。
【0106】
(記憶の深層化段階)
磁壁が磁化固定層4の第2電極層26側の端部21cBに達して、磁化固定層4から離れる方向に移動しても読み込み時の出力は変化しない。しかし、磁壁は磁化固定層4から離れてしまった後は、逆向きの負荷が印可されても、磁壁が磁化固定層4の端部21cBに達するまでは読み込み時の出力は変化しない。すなわち、外部からの負荷が与えられても記憶を失わないことを意味し、これを記憶の深層化段階と呼ぶことができる。すなわち、第3記憶部21c内に磁壁が配置する場合を記憶の深層化段階と呼ぶことができる。
第2電極層26と第1電極層25の間に流れる電流を逆向きにすると、記憶の初期段階、主記憶段階および記憶の深層化段階と各記憶部との対応は逆となる。
【0107】
本発明の交換バイアス利用型磁気メモリはシナプスの動作を模擬する素子として用いて本発明の磁気ニューロン素子とするためには、磁壁の移動を記憶の初期段階、主記憶段階および記憶の深層化段階を順に経るように書き込み電流を流すことができる電流源を備えることを要する。すなわち、少なくとも第1記憶部、第2記憶部および第3記憶部のすべての記憶部に少なくとも一回は留まるように順に磁壁を移動させ得る書き込み電流を流すように制御する制御回路を有する電流源(図示略)を備えることを要する。
書き込み電流の条件によって、第1記憶部、第2記憶部および第3記憶部のそれぞれを何回の移動で磁壁が通過し切るかを決めることができる。
【0108】
(記憶の忘却段階)
無記憶状態に反強磁性駆動層1の磁壁を移動させることによって、記憶を忘却することができる。また、熱、及び物理的な歪みを与えることによっても、磁壁の駆動や消失を生じさせることができる。本発明の交換バイアス利用型磁気メモリでは出力が一定の低抵抗と高抵抗の値を示すため、記憶と無記憶は定義によって決定されなければならない。
また、反強磁性駆動層1に電流を流す以外の方法で磁壁を移動や消失させる場合にはランダムとなるため、複数の交換バイアス利用型磁気メモリ間での情報の相関が失われる。これらを記憶の忘却段階と呼ぶことができる。
【0109】
(磁気ニューロン素子を用いた人工的な脳)
本発明の磁気ニューロン素子はシナプスの動きを模擬し、記憶の初期段階、主記憶段階、そして、記憶の深層化段階を経ることができるメモリである。本発明の交換バイアス利用型磁気メモリを複数回路上に設置し、脳の模擬をすることが可能である。一般的なメモリのように縦横に均等にアレイさせた配置では集積度が高い脳を形成することが可能である。また、
図17に示したように特定の回路を持った複数の磁気ニューロン素子を一つの塊として、アレイさせた配置では、外部負荷からの認識度が異なる脳を形成することが可能である。例えば、色について感度の良い脳や言語の理解度が高い脳などの個性を生むことができる。つまり、外部のセンサから入手された情報を、視覚、味覚、触覚、嗅覚及び聴覚認識に最適化された五感領域で認識の処理を行い、さらに、論理的思考領域で判断することによって、次の行動を決定するというプロセスを形成させることが可能である。さらに、反強磁性駆動層1の材料を変化させると、負荷に対する磁壁の駆動速度や磁壁の形成方法が変化するため、その変化を個性とした人工的な脳を形成することが可能となる。