(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
なお、以下の
図1A〜
図6に示す各方向軸のうち、方向Cは缶体1の缶軸方向を意味し、方向Rは缶体1の径方向を示す。以下、本明細書では、缶軸方向Cおよび径方向Rと記載する。また、本明細書では、
図1A〜
図6に示す缶軸方向Cの矢印の示す方向(すなわち缶体1の口頸部23側)を上方と、当該矢印と反対の方向(すなわち缶底側)を下方と記載する。なお、缶底側とは、缶体1における缶底側を指す。また、本明細書では、
図1A〜
図6に示す径方向Rの矢印の示す方向を外周方向と、当該矢印と反対の方向を内周方向と記載する。また、
図4A〜
図6に示す各方向軸について、缶軸方向Cとダイ50の円筒軸方向とは略一致しており、径方向Rとダイ50の径方向とは略一致している。そのため、
図4A〜
図6においては、特に区別する必要がない限り、ダイ50の円筒軸方向と缶軸方向Cとをまとめて缶軸方向Cと記載し、ダイ50の径方向と径方向Rとをまとめて径方向Rと記載する。
【0027】
(缶体の構成)
図1Aおよび
図1Bは、本発明の一実施形態に係る缶体1の構成の一例を示す図である。
図1Aは缶体1を正面から見た正面図であり、
図1Bは缶体1を斜め下から見た斜視図である。また、
図1Aに示す正面図の一部を切り欠き図として表現している。
【0028】
図1Aおよび
図1Bに示すように、缶体1は、ボトル様形状の缶胴2、缶蓋3および巻締部4からなる。本実施形態に係る缶体1は、いわゆる瓶の形状を模したボトル缶の形態を有する。かかる缶体1を形成する素材は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金またはスチール等の薄板金属である。缶胴2および缶蓋3を形成する薄板金属の素材および板厚は、要求される缶体1の強度、剛性もしくは強度、缶体1に充填される飲料の種類、または缶体1の製造コスト等に応じて適宜選択され得る。
【0029】
図1Aおよび
図1Bに示すように、缶胴2は、胴体部21、肩部22、口頸部23および湾曲部24を有しており、缶胴2において当該胴体部21、肩部22、口頸部23および湾曲部24は、一体的に形成されている。かかる缶胴2の成形方法の例については後述する。
【0030】
胴体部21は、缶軸方向Cに伸びる円筒状の部分であり、缶体1の側壁部分に相当する。胴体部21の形状は、
図1Aおよび
図1Bに示すような単純な円筒状に限らない。例えば、缶体1の把持を容易にするため、および/または外観の美観を優れたものとするために、胴体部21の缶径が缶軸方向Cに沿って増減し、または、胴体部21の一部に窪み形状、凹凸形状または溝形状等が設けられてもよい。また、エンボスまたはテクスチャ等の加工が胴体部21の表面になされてもよい。
【0031】
肩部22は、胴体部21から上側に連なって形成されている。肩部22は、中空であって、缶軸方向Cに沿って胴体部21から上方に向かうにつれて缶径が減少する構造を有する。肩部22は、例えば、
図1Aに示すように、缶胴2の外側および内側に湾曲する湾曲部分と、缶軸方向Cに沿って上方に向かうにつれて缶軸に接近するテーパ部分とにより構成されてもよい。もちろん、肩部22は、テーパ形状のみにより構成されてもよいし、湾曲形状のみにより構成されてもよい。また、肩部22の一部は、缶軸方向Cに平行な円筒状により構成されてもよい。
【0032】
口頸部23は、肩部22の上側に連なって形成されている。口頸部23は、缶体1の飲み口に相当する部分であり、上端に開口を有する環状構成を有する。当該上端には、
図1Aに示すように、カール部が設けられ得る。当該カール部は、口頸部23の上端にフランジを設け、当該フランジを外周方向に折り曲げることにより成形され得る。当該カール部には、上端の開口を封鎖するキャップが係合され得る。
【0033】
また、口頸部23の上端の下方における外周面には、雄ねじ部(図示せず。)が設けられてもよい。かかる雄ねじ部にはスクリューキャップが係合され得る。これにより、缶体1のリシールが可能となる。
【0034】
湾曲部24は、胴体部21の下端から連なって形成され、缶胴2の内周方向に曲げられて、缶軸方向Cにおける下方に突出して湾曲した溝形状を有する。すなわち、湾曲部24は、缶胴2の下端の外周縁に沿った環状の溝形状を有する。湾曲部24の詳細な構成については、後述する。
【0035】
缶蓋3は、缶体1の缶底を形成する部材である。本実施形態に係る缶蓋3は、中央部分を占める円板状の蓋本体30および蓋本体30の周縁部からなる。
図1Aに示すように、缶蓋3は、蓋本体30により缶底を形成し、巻締部4により缶胴2と接合され、缶胴2の下端の開口部を密閉する。缶蓋3の外径は、後述するように巻締部4が湾曲部24よりも内周側に位置するように、適宜設定され得る。缶蓋3の厚みは、缶体1に要求される強度、剛性または製造コスト等に応じて適宜設定され得る。
【0036】
巻締部4は、缶蓋3と、缶胴2の湾曲部24の胴体部21とは反対側の端部とを巻締めることにより形成される。
図2は、本実施形態に係る缶蓋3、巻締部4および湾曲部24の構造を説明するための缶体1の局部断面図である。
図2に示すように、巻締部4は、缶蓋3の蓋本体30の外周側に設けられる周縁部31と湾曲部24の端部25とが折り重なって巻締められることにより形成されている。かかる巻締部4は、缶胴2および缶蓋3との接合部であり、缶胴2および缶蓋3の周方向に沿って、缶軸を中心とする円環状に形成される。また、巻締部4は、湾曲部24よりも内周側に、かつ、缶軸方向Cにおいて巻締部4の下端4Aが湾曲部24の下端24Aよりも上方に位置するように設けられている。
【0037】
なお、巻締部4を構成する周縁部31および湾曲部24の端部25との隙間には、シール材が適宜接着され得る。かかるシール材は、例えば、樹脂または複合材等の公知のシール材であってもよい。このようなシール材が周縁部31および端部25の界面に塗布または成膜され、周縁部31および端部25が巻締めされることにより、巻締部4における周縁部31と端部25とが固着して、両者の隙間が密閉され、缶体1の気密性がより確実に保持される。
【0038】
かかる構成を有する缶体1を平坦面上に載置した場合、湾曲部24の下端24Aが当該平坦面に接触する。すなわち、湾曲部24の下端24Aが缶体1の最底部となる。このとき、巻締部4は、湾曲部24よりも内周側に設けられ、かつ、湾曲部24の下端24Aよりも缶軸方向Cにおける上方に設けられている。よって、缶体1が平坦面上に載置されている場合、外周側の湾曲部24が内周側の巻締部4を遮蔽するので、外部から巻締部4を視認することはできない。そうすると、缶体1が平坦面上に載置されている場合の缶体1の外観には巻締部4の構成が含まれないこととなる。したがって、巻締部4の存在に囚われず、缶体1の外観の意匠をより自由に設計することが可能となる。よって、缶体1の外観の美観をより優れたものとすることが可能である。
【0039】
また、巻締部4を外部から視認できなくすることにより、巻締部4の外側面を構成する缶蓋3の周縁部31の構成を、缶体1の外観に囚われることなく容易に変更することが可能となる。例えば、缶蓋3の板厚を自在に変更することが可能となる。これにより、缶蓋3による缶体1の外観に与える影響を考慮せずに、缶体1に要求される強度、剛性または製造コスト等に応じて缶蓋3の板厚を変更することができる。
【0040】
また、巻締部4が缶底側において露出している従来の缶体1が落下した場合、巻締部4に落下の衝撃が直接的に与えられ、巻締部4の接合部分が剥離して、飲料等の内容物のシール性が損なわれることがあった。本実施形態によれば、缶体1が落下した場合、巻締部4が缶軸方向Cにおいて胴体部21側に入り込んでいることから、巻締部4に対して落下の衝撃が直接的に伝わりにくくなる。したがって、缶体1が落下しても、巻締部4に与えられる衝撃力が低減するので、巻締部4の接合部分の剥離が抑制されシール性が損なわれにくくなり得る。
【0041】
なお、湾曲部24の缶軸方向Cの深さ(缶蓋3の蓋本体30から下端24Aまでの長さ)、および湾曲部24の径方向Rの幅(胴体部21と巻締部4との間の距離)は特に限定されない。また、本実施形態に係る湾曲部24は、
図2に示すように、缶軸方向Cにおける下方に突出して湾曲した形状となっているが、かかる湾曲部24の形状は、内周方向に曲げられることにより全体として下方に突出した形状を有していれば、特に限定されない。例えば、かかる湾曲部24の成形加工上の都合等により、缶軸方向Cにおける上方に突出した形状が部分的に生じることがあっても、胴体部21の下端から湾曲部24の端部25にかけて全体的に缶軸方向Cにおける下方に突出した形状であれば、かかる湾曲部24の構成は、本発明の範疇に含まれる。
【0042】
さらに、本発明者が検討した結果、
図2に示す巻締部4の下端4Aと湾曲部24の下端24Aとの距離Hは、0.5mm以上であることが好ましい。距離Hが0.5mm以上であれば、湾曲部24の形状に関わらず、巻締部4を確実に遮蔽し、缶体1の外観に巻締部4の構成を含まないようにすることが、より確実に可能となる。
【0043】
以上、本実施形態に係る缶体1の構成について説明した。
【0044】
(缶体の製造方法)
次に、本実施形態に係る缶体1の製造方法の一例について説明する。上述したように、本実施形態に係る缶体1は、缶胴2の缶底側の開口端に缶蓋3を巻締めることにより形成される、いわゆる2ピース缶である。
【0045】
本実施形態に係る缶体1の製造方法について、詳細に説明する。まず、缶体1の製造方法のうち、缶胴2と缶蓋3とを巻締める工程までを説明する。
【0046】
本実施形態では、薄板金属を打ち抜いたブランクに対して、DI成形を施すことにより、天板を有し、缶底側が開口した円筒状の缶胴を成形する。そして、缶胴の天板側をプレス成形することにより、肩部および口頸部を形成する。このとき、口頸部は、かかるプレス成形により缶胴の胴体部(肩部よりも下側の部分)よりも小径となる。天板側をプレス成形することで、薄板金属の素材(例えば、成形性がアルミニウムよりも比較的劣るスチール)に関わらず、低工数で、かつ材料のロスを抑制して、肩部および口頸部を形成することができる。そして、この天板の天面をトリミングすることにより、口頸部の上端に開口が形成される。また、形成された口頸部の上端の開口の周縁部分をカール加工することで、カール部が形成される。
【0047】
また、本実施形態では、胴体部の下端部分に、缶胴の内周方向に向かって縮径する傾斜部が形成される。さらに、当該傾斜部の下端部分に、フランジ部が形成される。傾斜部およびフランジ部は、公知のネック加工およびフランジ加工により形成される。この傾斜部およびフランジ部は、巻締め加工後において、上述した湾曲部24およびその端部25に対応する。なお、傾斜部と胴体部およびフランジ部との接続部分は、適宜アールが設けられ得る。アールの大きさは特に限定されず、傾斜部における縮径率(缶軸方向Cに対する缶径の縮小の割合)等に応じて適宜調整される。
【0048】
傾斜部およびフランジ部の形成後、缶蓋の周縁部と缶胴のフランジ部とを巻締め加工により巻締める。巻締め加工は、二重巻締めなど、公知の巻締め加工が用いられる。これにより、缶蓋が缶胴の開口端に巻締められ、缶体1の缶底が缶蓋の蓋本体により形成される。
【0049】
次に、巻締め加工後における、巻締部の押込み成形に係る工程について、
図3〜
図4Cを参照しながら説明する。
図3は、巻締め加工直後の被加工材100の構成の一例、および押込み成形の方法の一例を説明するための図である。
図3に示すように、被加工材100は缶胴200および蓋本体300からなり、巻締部400によって缶胴200および蓋本体300が接合されている。缶胴200は、円筒状の胴体部201、略テーパ状の肩部202、略環状の口頸部203、略逆テーパ状の傾斜部204および略環状のフランジ部205からなる。被加工材100の材質および板厚等は、上述した缶体1の材質および板厚等に準じる。
【0050】
この時点では、巻締部400は、傾斜部204の縮径により傾斜部204よりも内周側に位置しているが、被加工材100の最底部に位置している。そこで、缶胴200を固定しながら巻締部400(または蓋本体300)を、
図3の矢印方向へ押込む押込み成形をすることが考えられる。これにより、巻締部400が、缶胴200の胴体部201側へと押込まれるので、
図1Aに示すように、湾曲部24が缶体1における最底部となり、缶体1を平坦面上に載置した際に、巻締部400が外部から視認され得なくなると考えられる。
【0051】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、単純に巻締部400または蓋本体300を押し込むだけでは、巻締部400におけるシール性および成形性が悪化してしまうことが判明した。具体的には、単純に巻締部400または蓋本体300を押し込む場合、蓋本体300と缶胴200との接合部分が、互いに離隔する方向に引っ張られ得る。そうすると、周縁部301およびフランジ部205における巻締部400の接合箇所が引き剥がされてしまう。これにより、巻締部400のシール性が悪化し得る。
【0052】
また、上記特許文献6を参照すれば、缶胴200を固定しながら傾斜部204を内周方向に折り曲げることにより、缶軸方向Cにおける下方に突出する湾曲部24を成形しつつ巻締部400を湾曲部24の下端よりも缶軸方向Cにおける上方に位置するように配設することも考えられる。しかしながら、本発明者らの検討の結果、巻締部400の径方向Rにおける動きが拘束されないことから、傾斜部204の内周方向への曲げ加工の際に、蓋本体300と缶胴200との接合部分が互いに離隔する方向に引っ張られることが判明した。したがって、巻締部400のシール性が悪化し得る。また、傾斜部204の内周方向への曲げが生じる箇所が曲げ加工の際にずれてしまう。傾斜部204の形状を所望する形状に成形することが困難であり、また、巻締部400が缶軸方向Cの上方へ移動しにくく、その結果、巻締部400を湾曲部24の下端よりも上方に配設することが困難となっていた。
【0053】
このように、被加工材100の缶底側の部材を単純に押し込むだけでは、成形不良を起こさずに、巻締部4を外観から視認し得ない構造となる缶体1を成形することは困難であった。
【0054】
そこで、本発明者らは鋭意研究し、本発明に想到するに至った。本発明では、被加工材100を固定した状態で、巻締部400の径方向Rにおける移動を拘束しながら、巻締部400を缶軸方向Cの上方に押込むことにより、当該押込みに伴って傾斜部204が曲げられ、胴体部201よりも内周側において缶軸方向Cにおける下方に突出する湾曲部を成形する。その際、蓋本体300および巻締部400は、巻締部400の下端が傾斜部204を曲げて成形される湾曲部の下端よりも缶軸方向Cにおける上方となる位置まで押し込まれる。
【0055】
かかる技術によれば、巻締部400の径方向Rへの移動が拘束されるので、蓋本体300および巻締部400を缶軸方向Cに押し込む際において、巻締部400における蓋本体300と缶胴200との接合部分が径方向Rに引っ張られにくくなる。これにより、周縁部301およびフランジ部205における巻締部400の接合箇所が剥がれずに済み、巻締部400のシール性を維持することができる。
【0056】
また、巻締部400の径方向Rへの移動を拘束すると、傾斜部204を曲げる際に、巻締部400が傾斜部204の曲げによっては径方向Rに引っ張られにくくなる。また、巻締部400が拘束されることにより、傾斜部204の内周方向への曲げが生じる箇所のずれを抑えることができる。そのため、傾斜部204を所望の形状を有する湾曲部に成形しやすくなり、また、より確実に、巻締部400の下端を湾曲部の下端よりも上方に位置させることができる。
【0057】
以下、本発明の一実施形態に係る缶体の製造方法を実現する製造装置の一例および当該製造方法の一例について説明する。
【0058】
図4A〜
図4Cは、本実施形態に係る缶体の製造装置10の構成の一例を示す断面図である。
図4Aは製造装置10による押込み成形工程の初期段階を示し、
図4Bは当該押込み成形工程の中間段階を示し、
図4Cは当該押込み成形工程の最終段階を示す。なお、押込み成形工程の初期段階とは、押込み成形のためのパンチ60をダイ50の円筒軸方向(すなわち缶軸方向C)の上方に押し込む前の段階であり、中間段階とはパンチ60を押込んでいる最中の段階であり、最終段階とはパンチ60が所定距離移動して押込みが完了した状態の段階を意味する。
【0059】
図4Aを参照すると、本実施形態に係る製造装置10は、ダイ50およびパンチ60を備える。
【0060】
ダイ50は、例えば、被加工材100の外周を保持する筒状の金型である。ダイ50は、その内部空間に設置された被加工材100の胴体部201、及び肩部202の外周面を拘束することにより、被加工材100を固定する。例えば、被加工材100をダイ50に設置したときに、被加工材100の胴体部201の外周面がダイ50の内周面50Aに当接することにより、被加工材100はダイ50に保持される。これにより、胴体部201の缶軸方向Cおよび径方向Rへの移動が拘束される。ダイ50の形状、構造および機構は特に限定されず、胴体部201の外周面を当接して拘束するものであれば、あらゆる構成が適用され得る。
【0061】
パンチ60は、ダイ50により固定された被加工材100の缶底側を押込み成形するための金型である。パンチ60は、ダイ50の内部空間において、ダイ50の円筒軸方向(すなわち缶軸方向C)の一側に配置され、当該円周軸方向に沿って上下方向に移動可能に設けられる。パンチ60は、ダイ50に設置された被加工材100の蓋本体300および巻締部400を缶軸方向Cの上方に押込みながら、傾斜部204を内周方向に直接的または間接的に曲げて、湾曲部を成形する。具体的には、
図4Aに示すように、本実施形態に係るパンチ60は缶蓋拘束部61、巻締拘束部62および湾曲成形部63を有し、これらが一体となってパンチ60を形成する。
【0062】
缶蓋拘束部61は、蓋本体300の下面に当接可能に設けられる。押込み成形の際、缶蓋拘束部61が蓋本体300と当接することにより、蓋本体300の径方向Rにおけるずれ、および蓋本体300の面外変形を抑制し得る。
【0063】
缶蓋拘束部61は、パンチ60の上部に被加工材100が設置された場合において蓋本体300に対して当接する部分に設けられる。
図4Aに示した例では、缶蓋拘束部61は蓋本体300の全面に対して当接可能となるように設けられているが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、中空円筒状の缶蓋拘束部61を用いて、蓋本体300の一部(例えば外側部分)のみに対して缶蓋拘束部61が当接可能に設けられてもよい。また、缶蓋拘束部61の外縁部分は、蓋本体300と巻締部400との境界部分における形状に応じた形状である。例えば、
図4Aに示す例では、缶蓋拘束部61の外縁部分は、当該境界部分の曲面形状に沿ったアール形状を形成している。
【0064】
巻締拘束部62は、缶蓋拘束部61の外周側に設けられ、巻締部400を収容可能な環状の凹部を形成している。
図4Aに示すように、押込み成形の際、巻締部400が巻締拘束部62の凹部に収容されることにより、巻締部400の径方向Rへの移動が拘束される。パンチ60において巻締拘束部62の凹部が設けられる位置は、巻締部400に対向する位置であり、被加工材100における巻締部400の径方向Rにおける加工位置に応じて適宜調整され得る。巻締部400の直径の好ましい範囲については、後述する。
【0065】
巻締拘束部62の凹部の幅は、巻締め加工により形成される巻締部400の径方向Rにおける幅と略同一となるように適宜調整され得る。これにより、巻締部400の径方向Rの移動の拘束をより確実にすることができる。また、巻締拘束部62の凹部の深さは特に限定されないが、巻締部400を確実に凹部に収容するためには、当該凹部の深さは、蓋本体300から巻締部400の下端までの長さ以上であることが好ましい。これにより、巻締部400近傍における蓋本体300の成形不良をより確実に起こさないようにすることが可能となる。また、巻締拘束部62の凹部の底は設けられなくてもよい。
【0066】
湾曲成形部63は、巻締拘束部62の外周側であって、ダイ50の内周面50Aの内周側に設けられる部分である。湾曲成形部63は、曲げられた傾斜部204に当接して缶軸方向Cの下方に突出する湾曲部24を成形するための成形面63Aを有する。すなわち、成形面63Aは、湾曲部24に応じた湾曲形状を有する環状溝であり、成形面63Aの断面形状は、下方に突出するように湾曲する形状を有する。
【0067】
パンチ60が被加工材100に当接した状態で缶軸方向Cの上方に押し込まれるとき、傾斜部204の一部において上方に座屈する曲げ変形が生じる。当該曲げが生じる箇所は、湾曲成形部63の巻締拘束部62との境界近傍の部分に対して当接する箇所となる場合もあり得る。傾斜部204の曲げが生じる箇所の外周側の部分は、パンチ60の上方への押込みにつれて、当該曲げが生じる箇所よりも下方に相対的に突出する。その後、下方に突出した傾斜部204の外周側の部分は、成形面63Aに対して当接し、成形面63Aに沿って変形して湾曲した形状となる。これにより、缶体1の湾曲部24が形成される。
【0068】
なお、
図4Aに示すように、湾曲成形部63の成形面63Aにおける湾曲部分の深さH
A(缶蓋成形部61の上面から成形面63Aの下端までの缶軸方向Cにおける長さ)は、被加工材100の巻締部400の缶軸方向Cの長さH
Bよりも大きい。これにより、成形後の缶体1において、巻締部4の下端が湾曲部24の下端24Aよりも缶軸方向Cにおける上方に位置することとなる。
【0069】
また、成形面63Aの形状および大きさは、傾斜部204の高さ(胴体部201の下端から蓋本体300までの缶軸方向Cにおける長さ、すなわち縮径部分の長さ)、または巻締部400の位置および大きさ等に応じて適宜設計され得る。
【0070】
次に、
図4A〜
図4Cを参照しながら、製造装置10を用いた押込み成形工程について説明する。
【0071】
まず、
図4Aに示す押込み成形工程の初期段階では、ダイ50により胴体部201を拘束して被加工材100を固定し、パンチ60に蓋本体300を載置する。このとき、蓋本体300は缶蓋拘束部61に対して当接し、巻締部400は巻締拘束部62に収容された状態となる。なお、湾曲成形部63は、押込み成形工程の初期段階においては傾斜部204と当接していなくてもよい。
【0072】
次に、
図4Bに示す押込み成形工程の中間段階では、パンチ60がダイ50の内周面50Aに沿って缶軸方向Cの上方へ移動し、蓋本体300および巻締部400を上方に押し込みつつ、傾斜部204の曲げ加工を行う。このとき、
図4Bに示すように、例えば、傾斜部204における湾曲成形部63との当接箇所が、湾曲成形部63による押込みにより、上方に屈曲して曲げられ得る。
【0073】
この押込み成形工程の中間段階においては、蓋本体300および巻締部400の径方向Rの移動がそれぞれ缶蓋拘束部61および巻締拘束部62により拘束されている。そうすると、巻締部400を拘束しつつ巻締部400が上方に変位することにより、傾斜部204に面内方向の圧縮力が生じる。これにより、当該傾斜部204が屈曲した箇所において座屈が生じ得る。すなわち、傾斜部204の曲げ変形は、パンチ60による傾斜部204に対する直接的な曲げではなく、巻締部400の拘束による傾斜部204に対する面内方向への圧縮力による座屈により生じ得る。そうすると、巻締部400には、傾斜部204からの反力がかかるため、径方向Rの引張力がかかりにくくなる。よって、巻締部400の接合部分の剥離を抑制し、巻締部400のシール性を維持することができる。なお、傾斜部204における座屈(すなわち曲げ変形)は、
図4Bに示すような湾曲成形部63との当接箇所ではなく、他の箇所においても生じることもある。
【0074】
そして、
図4Cに示す押込み成形工程の最終段階では、パンチ60の湾曲成形部63の成形面63Aに沿って、傾斜部204が下方に突出して湾曲した形状に変形する。かかる湾曲形状は、傾斜部204の曲げ変形が生じた箇所よりも外周側の部分において形成される。かかる変形後の傾斜部204が、缶体1における湾曲部24となる。この最終段階においては、巻締部400の下端が、傾斜部204から成形される湾曲部24の下端よりも缶軸方向Cにおける上方となる位置まで、パンチ60が缶底側から上方に押し込まれる。これにより、押込み成形工程後に得られる缶体1において、缶体1を平坦面上に載置した場合に湾曲部24により巻締部4が外部から視認されない状態となり得る。
【0075】
なお、押込み成形工程の最終段階におけるパンチ60の最終位置は、押し込まれた巻締部4の下端と成形された湾曲部24の下端との間の缶軸方向Cにおける距離が0.5mm以上となる位置であることが好ましい。上述したように、距離Hが0.5mm以上であれば、湾曲部24の形状に関わらず、巻締部4を確実に遮蔽し、缶体1の外観に巻締部4の構成を含まないようにすることがより確実に可能となる。
【0076】
以上の押込み成形工程を経て、巻締部4が湾曲部24の内周側に、かつ巻締部4の下端が湾曲部24の下端よりも缶軸方向Cにおける上方に位置する構成を有する缶体1を製造することができる。
【0077】
なお、パンチ60を形成する缶蓋拘束部61、巻締拘束部62および湾曲成形部63の構成は、
図4A〜
図4Cに記載した構成に限定されない。これらの構成は、成形加工の対象である被加工材100の蓋本体300、巻締部400および傾斜部204の位置、大きさおよび形状等に基づいて適宜設計され得る。
【0078】
また、本発明者らがさらなる検討をした結果、巻締部400の直径(
図4Aに示すような、缶軸から巻締部400の根元における缶胴200と蓋本体300とが接触する位置までの長さの2倍)が所定の大きさである場合、押込み成形による成形不良をより確実に抑制することができることを見出した。具体的には、胴体部201の缶径(胴体部201の外周面の直径)をD
1とし、巻締部400の直径をD
2とした場合に、下記式(1)を満たすことが好ましい。D
2≧0.75×D
1であれば、傾斜部204の縮径加工による加工硬化の影響に伴うしわの発生も抑制できる。また、縮径加工の工程数を少なくすることができ、コストの観点からも有利である。さらに、D
2≦0.88×D
1であれば、傾斜部204の曲げ変形の際に巻締部400と傾斜部204とが物理的に干渉することを抑制することができ、巻締部400と傾斜部204とが擦れて疵を生じさせることがなく、かつ、湾曲部24の成形精度を向上させることができる。
【0079】
0.75×D
1≦D
2≦0.88×D
1・・・式(1)
【0080】
以上、本実施形態に係る缶体1の製造方法および製造装置10について説明した。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の実施例について説明する。本発明の効果を確認するために、本実施例では、上記実施形態に係る製造方法および製造装置10により製造される缶体1の性能について検証した。なお、以下の実施例は本発明の効果を検証するために行ったものに過ぎず、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
本実施例では、上記実施形態に係る製造方法および製造装置10を用いて被加工材100の巻締部400が缶底側から上方に押し込まれた後に得られる、缶体1の巻締部4の外部視認性、接合部分の剥離、および湾曲部24の成形性を評価し、本製造方法および製造装置10の有効性を示す。かかる評価において、巻締部4の外部視認性は、成形後の缶体1を平坦面上に載置した際における、缶体1の外部からの巻締部4の視認の可否により判定された。巻締部4の接合部分の剥離の有無は、巻締部4の缶蓋3と缶胴2との接合部分の剥離が観察されたか否かにより判定された。また、湾曲部24の成形性は、湾曲部24に生じた疵またはしわ等の有無により判定された。
【0083】
試験条件および評価結果を以下の表1に示す。試験条件として、用いたパンチの構成、被加工材100の胴体部201の缶径D
1(mm)および巻締部400の直径D
2(mm)、および缶径D
1に対する巻締部400の直径D
2の比率D
2/D
1、並びに傾斜部204の高さH
S(mm)が用いられた。ここで、傾斜部204の高さH
Sは、上述したように、胴体部201の下端から蓋本体300までの缶軸方向Cにおける長さ、すなわち缶軸方向Cにおける縮径部分の長さである。かかる試験条件を満たすパンチおよび被加工材から成形される缶体についての、巻締部の外部視認性および剥離の有無、並びに湾曲部の成形性の評価を行った。なお、各実施例および比較例で用いられた被加工材100を構成する缶胴200および蓋本体300の板厚は、それぞれ0.35mmとした。また、被加工材100の材質は軟鋼板であるJIS G3303のT2とした。
【0084】
【表1】
【0085】
なお、実施例1〜5においては、
図4Aに示すパンチ60を用いて被加工材100に対して押込み成形を行った。缶蓋拘束部61、巻締拘束部62および湾曲成形部63は、胴体部201の缶径D
1、巻締部400の直径D
2および傾斜部204の高さH
S等に応じて、蓋本体300が缶蓋拘束部61に対して当接可能となるように、巻締部400が巻締拘束部62に収容可能となるように、また、傾斜部204が湾曲成形部63の成形面63Aに沿って変形可能となるように、適宜設計された。
【0086】
また、比較例1〜3においては、
図5に示すパンチ600を用いて被加工材100に対して押込み成形を行った。
図5に示すパンチ600は、成形面601Aを有する湾曲成形部601のみからなる。すなわち、かかるパンチ600を用いた場合は、傾斜部204に対して湾曲成形部601により直接的に曲げ加工がなされ得る。また、比較例4においては、
図6に示すパンチ610を用いて被加工材100に対して押込み成形を行った。
図6に示すパンチ610は、缶蓋拘束部611のみからなる。すなわち、かかるパンチ610を用いた場合は、蓋本体300が缶底側から上方に押込まれることにより、傾斜部204において曲げ変形が生じ得る。
【0087】
表1を参照しながら、評価結果について説明する。実施例1〜5に係る成形後の缶体1については、缶体1を平坦面上に載置した時に、巻締部4は外部から視認されず、さらに、巻締部4の接合部分の剥離が確認されずシール性が維持されていることが確認された。実施例1においては、缶体1の湾曲部24に多少しわが観察されたものの、缶底側に形成されたものであるので、缶体1を平坦面上に載置した時には、しわは視認されなかった。実施例2〜5においては、缶体1の湾曲部24にはしわおよび疵が観察されず、また、湾曲部24が成形面63Aに対応する形状を形成していたことが確認された。
【0088】
なお、実施例3〜5の評価結果によれば、傾斜部204の高さH
Sに関わらず、成形性に優れた缶体1が得られることが確認された。
【0089】
一方、比較例1〜3に係る成形後の缶体1については、いずれも、缶体1を平坦面上に載置した時において、巻締部4が外部から視認され、巻締部4の接合部分の剥離が確認され、また、湾曲部24の成形が不十分であった。これは、湾曲成形部601により直接的に傾斜部204が曲げ加工されることから、巻締部4が径方向Rに引っ張られて接合部分の剥離が生じていたものと考えられる。また、傾斜部204の曲げが生じる箇所が安定せず、巻締部4が缶底側から上方に向かって十分押し込まれなかったため、湾曲部24の成形精度が低く、缶体1を平坦面に上載置した時に巻締部4が露出していたと考えられる。
【0090】
さらに、比較例4に係る缶体1においては、巻締部400の接合部分の剥離は、比較例1〜3に係る缶体1と比較して目立たなかったものの、一部に観察された。また、巻締部400と曲げられた傾斜部204が干渉しており、巻締部4が押し込まれず、缶体1の平坦面上載置時に露出していた。このことから、缶蓋拘束部611のみにより蓋本体300を押し込んだことにより、巻締部400の拘束および傾斜部204の曲げ変形の制御が不十分であったものと考えられる。
【0091】
本実施例から、巻締部4のシール性を維持しつつ、巻締部4が外部から視認されない缶体1を製造するためには、被加工材100の蓋本体300に対して当接して拘束する缶蓋拘束部61、巻締部400を収容して径方向Rの移動を拘束する巻締拘束部62、および曲げ変形した傾斜部204を下方に突出した湾曲形状に成形する成形面63Aを有する湾曲成形部63を備えるパンチ60を用いて、被加工材100の缶底側から上方に被加工材100を押込むことが有効であることが示された。また、巻締部400の外径D
2を胴体部201の外径D
1に対して所定の範囲の大きさとすることにより、湾曲部24の成形性を向上させることが可能であることが示された。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0093】
例えば、上記実施形態では、缶体1は肩部22を有するボトル形状であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、缶体は、略円筒形状の缶体であってもよい。また、上記実施形態では、缶体1はDI成形により製造される缶であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、缶体は、DR成形により製造される缶であってもよいし、いわゆる3ピース缶であってもよい。また、上記実施形態では、缶体1は飲料缶に適用されるものとして説明したが、内部に内容物を充填して保持する缶体であれば、本発明の適用対象は限定されない。すなわち、缶体の缶底が缶蓋により巻締めによって形成されるものであれば、材質、缶体の用途、サイズおよび成形方法を問わず、本発明はあらゆる缶体に適用可能である。