特許第6801728号(P6801728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801728
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】分析用デバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20201207BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20201207BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   G01N37/00 101
   C09D133/04
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-42818(P2019-42818)
(22)【出願日】2019年3月8日
(65)【公開番号】特開2020-141640(P2020-141640A)
(43)【公開日】2020年9月10日
【審査請求日】2020年6月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】水野 愛子
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−026825(JP,A)
【文献】 特開2018−009137(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/037595(WO,A1)
【文献】 特開2016−067322(JP,A)
【文献】 特開2004−245727(JP,A)
【文献】 特開2003−066033(JP,A)
【文献】 特開2009−017809(JP,A)
【文献】 特開2013−247926(JP,A)
【文献】 特開2018−134007(JP,A)
【文献】 特開2008−306977(JP,A)
【文献】 MICHAEL, I.J., et al.,"Surface-engineering paper hanging drop chip for 3D spheroid culture and analysis.",ACS APPL. MATER. INTERFACES,2018年 9月 7日,Vol.10,pp.33839-33846,doi: 10.1021/acsami.8b08778
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
C12N 1/00− 7/08
C12Q 1/00− 3/00
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するための培養空間と、前記培養空間に連通する接続流路と、を有し、化合物と前記細胞との相互作用を評価するための分析用デバイスであって、
前記培養空間の下方を覆い前記細胞を支持する培養空間底面部と、前記培養空間の側方を覆う培養空間側壁部と、前記接続流路の下方を覆う接続流路底面部と、前記接続流路の側方を覆う接続流路側壁部と、を備えるとともに、親水性構成単位を含む重合体を主体とするコーティング層を備え、
前記親水性構成単位は、下記の式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を含み、
前記培養空間側壁部の内面、前記接続流路側壁部の内面、及び前記接続流路底面部の内面に、前記コーティング層が形成されており、当該コーティング層の表面の純水に対する接触角が3°以上90°以下であり、
前記培養空間底面部の表面に、前記コーティング層は形成されずに、前記細胞が結合する細胞結合因子を有するポリマーを主体とする接着層が形成されている、分析用デバイス。
【化2】
[ここで、*は結合を表し、
式(5)において、R11は、水素原子又はメチル基であり、R12は、NH又は酸素原子であり、mは、0〜4の整数であり、R13は、水素原子、水酸基、又はメトキシ基であり、
式(6)において、R21は、水素原子又はメチル基であり、
式(7)において、R31は、水素原子又はメチル基であり、R32は、水素原子又はメチル基であり、nは、2〜100の整数である。]
【請求項2】
前記重合体における前記親水性構成単位の合計が40mol%以上である、請求項に記載の分析用デバイス。
【請求項3】
前記培養空間の上方を覆う培養空間上面部と、前記接続流路の上方を覆う接続流路上面部と、をさらに備え、
前記培養空間上面部の内面及び前記接続流路上面部の内面にも前記コーティング層が形成されている、請求項1又は2に記載の分析用デバイス。
【請求項4】
前記培養空間に対応する凹部及び前記接続流路に対応する溝部が形成された基材と、
前記基材を覆うように当該基材と一体化される被覆材と、を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の分析用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を培養するための培養空間を有する細胞培養デバイスが利用されている。かかる細胞培養デバイスは、例えば培養空間において細胞を培養し、化合物の細胞への作用を評価する等の目的で利用される場合がある。このような目的で利用されるシステムの一例が、例えば下記の非特許文献1に開示されている。
【0003】
細胞を培養するにあたっては、培養空間の下方を覆う底面部に支持される状態で培養することが考えられる。この場合、化合物が培養空間の側方を覆う側壁部に吸着してしまうと、その吸着によるロスによって相互作用評価の精度が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】The Pharmaceutical Society of Japan, YAKUGAKU ZASSHI 138, 815・822 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培養空間の側方を覆う側壁部に化合物が吸着しにくい細胞培養デバイスの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る細胞培養デバイスは、
細胞を培養するための培養空間を有する細胞培養デバイスであって、
前記培養空間の下方を覆い前記細胞を支持する底面部と、前記培養空間の側方を覆う側壁部と、を備え、
前記側壁部の内面の純水に対する接触角が3°以上90°以下である。
【0007】
この構成によれば、培養空間の側方を覆う側壁部の内面の純水に対する接触角が3°以上90°以下であることで、側壁部の内面の親水度が高められている。このため、その側壁部の内面には、親水性度があまり高くない(言い換えれば、疎水性度が比較的高い)化合物が吸着しにくい。従って、親水性または疎水性を調節することによって、側壁部に化合物が吸着しにくい細胞培養デバイスを実現することができる。
【0008】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0009】
一態様として、
前記側壁部の内面が、下記の式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基を含むことが好ましい。
【化1】
[ここで、
式(1)において、R12は、NH又は酸素原子であり、mは、0〜4の整数であり、R13は、水素原子、水酸基、又はメトキシ基であり、
式(3)において、R32は、水素原子又はメチル基であり、nは、2〜100の整数である。]
【0010】
この構成によれば、式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基を側壁部の内面に含ませることで、側壁部の内面の純水に対する接触角を、適切に3°以上90°以下とすることができる。よって、側壁部に化合物を吸着しにくくすることができる。
【0011】
一態様として、
前記側壁部の内面に、親水性構成単位を含む重合体を主体とするコーティング層が形成
されており、
前記親水性構成単位は、下記の式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)で表され
る構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を含むことが好ましい。
【化2】
[ここで、*は結合を表し、
式(5)において、R11は、水素原子又はメチル基であり、R12は、NH又は酸素
原子であり、mは、0〜4の整数であり、R13は、水素原子、水酸基、又はメトキシ基
であり、
式(6)において、R21は、水素原子又はメチル基であり、
式(7)において、R31は、水素原子又はメチル基であり、R32は、水素原子又は
メチル基であり、nは、2〜100の整数である。]
【0012】
この構成によれば、式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を含む親水性構成単位を含む重合体を主体とするコーティング層を側壁部の内面に形成することで、側壁部の内面の純水に対する接触角を、適切に3°以上90°以下とすることができる。よって、側壁部に化合物を吸着しにくくすることができる。
【0013】
一態様として、
前記重合体における前記親水性構成単位の合計が40mol%以上であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、側壁部の内面の親水性度をさらに高めることができる。よって、側壁部に化合物をより吸着しにくくすることができる。
【0015】
一態様として、
前記底面部の表面に、前記細胞が結合する細胞結合因子を有するポリマーを主体とする接着層が形成されていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、底面部の表面に接着層を接着させ、その接着層を構成するポリマーの細胞結合因子に細胞を結合させることで、底面部の表面に強固に細胞を固定することができる。
【0017】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】細胞培養デバイスの平面図
図2図1におけるII−II断面図
図3図1におけるIII−III断面図
図4図1におけるIV−IV断面図
図5図2の部分拡大図
図6図4の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0019】
細胞培養デバイスの実施形態について、図面を参照して説明する。図1図4に示すように、本実施形態の細胞培養デバイス1は、細胞Cを培養するための培養空間41,42を備えている。また、細胞培養デバイス1は、第一凹部21、第二凹部22、及び接続溝部23が形成された基材2と、この基材2を覆うように一体化される被覆材3とを備えている。
【0020】
基材2は、例えば基材形成用樹脂組成物を用いて作製することができる。基材形成用樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ビニル−アセテート共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、及びポリイミドからなる群から選択される1種以上の樹脂を例示することができる。なお、基材2は、樹脂製に限定されることなく、例えばガラス製又はシリコン製等であっても良い。
【0021】
被覆材3は、例えばフィルム材形成用樹脂組成物を用いて作製することができる。フィルム材形成用樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ビニル−アセテート共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、及びポリイミドからなる群から選択される1種以上の樹脂を例示することができる。なお、被覆材3は、上述したフィルム材形成用樹脂組成物を用いて作製する以外に、市販の樹脂製フィルム材をそのまま又は加工して用いても良い。
【0022】
第一凹部21と被覆材3とで区画された空間として、第一培養空間41が形成されている。第二凹部22と被覆材3とで区画された空間として、第二培養空間42が形成されている。接続溝部23と被覆材3とで区画された空間として、接続流路43が形成されている。接続流路43は、第一培養空間41と第二培養空間42とを連通している。なお、この接続流路43は、例えば、第一培養空間41及び第二培養空間42のいずれか一方で培養した細胞の上澄を他方の空間に移動させて、相互作用を見るとき等に用いることができる。
【0023】
細胞培養デバイス1は、例えば第一培養空間41及び第二培養空間42で細胞Cを培養した状態で化合物を導入し、その評価を行うために利用することができる。なお、本実施形態において、「化合物」とは、生体由来の物質(例えばタンパク質、脂質、及び糖質等)及び人工合成化合物を言う。
【0024】
図2及び図5に示すように、細胞培養デバイス1は、第一培養空間41の下方を覆い細胞Cを支持する底面部41Aと、第一培養空間41の側方を覆う側壁部41Bと、第一培養空間41の上方を覆う上面部41Cとを備えている。また、図3に示すように、細胞培養デバイス1は、第二培養空間42の下方を覆い細胞Cを支持する底面部42Aと、第二培養空間42の側方を覆う側壁部42Bと、第二培養空間42の上方を覆う上面部42Cとを備えている。また、図6に示すように、細胞培養デバイス1は、接続流路43の下方を覆う底面部43Aと、接続流路43の側方を覆う側壁部43Bと、接続流路43の上方を覆う上面部43Cとを備えている。
【0025】
本実施形態の細胞培養デバイス1において、第一培養空間41の側壁部41Bの内面の、純水に対する接触角は、3°以上90°以下とされている。同様に、第二培養空間42の側壁部42Bの内面の、純水に対する接触角は、3°以上90°以下とされている。これらの接触角を3°未満とするにはそのための処理が大がかりになる等してコスト面から好ましくない場合がある。一方、これらの接触角が90°を超えて過大となると親水性度が低下して化合物の吸着量が増加するおそれがある。接触角を3°以上90°以下とすることで、比較的低コストに、培養空間41,42の側壁部41B,42Bへの化合物の吸着量を少なく抑えることができる。
【0026】
側壁部41Bの内面の純水に対する接触角は、好ましくは5°以上であり、8°以上であることがさらに好ましい。また、側壁部41Bの内面の純水に対する接触角は、好ましくは80°以下であり、70°以下であることがさらに好ましい。
【0027】
これらのことは、第二培養空間42の側方を覆う側壁部42Bの内面の純水に対する接触角に関しても同様である。
【0028】
側壁部41B,42Bの内面の純水に対する接触角を上記の範囲内の値とするため、側壁部41B,42Bの内面は、下記の式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基を含むことができる。
【0029】
【化3】
【0030】
ここで、式(1)において、R12は、NH又は酸素原子である。mは、0〜4の整数である。R13は、水素原子、水酸基、又はメトキシ基である。また、式(3)において、R32は、水素原子又はメチル基である。nは、2〜100の整数である。
【0031】
これらの基を側壁部41B,42Bの内面に含ませることで、側壁部41B,42Bの内面の低吸着性を高めることができる。また、細胞傷害性を低減させることができる。また、優れた生体適合性と低吸着性とを有するため、培養空間41,42において、細胞凝集塊を良好に作製することができる。
【0032】
側壁部41B,42Bの内面に、上記の式(1)、式(2)、式(3)、及び式(4)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基を含ませるため、親水性構成単位を含む重合体を主体とするコーティング層Lc(図5を参照)を形成することができる。このコーティング層Lcの主体となる重合体における親水性構成単位は、下記の式(5)、式(6)、式(7)、及び式(8)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を含むことができる。
【0033】
【化4】
【0034】
ここで、*は結合を表す。式(5)において、R11は、水素原子又はメチル基である。R12は、NH又は酸素原子である。mは、0〜4の整数である。R13は、水素原子、水酸基、又はメトキシ基である。式(6)において、R21は、水素原子又はメチル基である。式(7)において、R31は、水素原子又はメチル基である。R32は、水素原子又はメチル基である。nは、2〜100の整数である。
【0035】
一例として、式(5)で表される構成単位に関しては、R11が水素原子である場合の親水性構成単位の原料となるモノマーとして、例えばN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)が挙げられる。また、R11がメチル基である場合の親水性構成単位の原料となるモノマーとして、例えばメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)が挙げられる。
【0036】
コーティング層Lcの主体となる重合体は、疎水性構成単位をさらに含んでも良い。この場合の疎水性構成単位は、下記の式(9)及び式(10)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1つの構成単位を含むことができる。
【0037】
【化5】
【0038】
ここで、*は結合を表す。式(9)において、R41は、水素原子又はメチル基である。R42は、炭素数1〜10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基、炭素数3〜8の脂環式アルキル基、若しくはこれらの組み合わせである。式(10)において、R51は、水素原子又はメチル基である。
【0039】
一例として、炭素数1〜10の直鎖又は分枝鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルエチル基、ブチル基、1,2−ジメチルエチル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、およびヘキシル基等が挙げられる。炭素数3〜8の脂環式アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0040】
コーティング層Lcの主体となる重合体がこれらの疎水性構成単位をさらに含むことで、例えばポリプロピレン等の樹脂材料で構成される基材2へのコート性が改善される。よって、低吸着性と基材2へのコート性とを両立させることができる。
【0041】
コーティング層Lcの主体となる重合体における親水性構成単位の合計含有量は、40mol%以上であることが好ましい。親水性構成単位の合計含有量は、40mol%以上80mol%以下であることが好ましく、50mol%以上70mol%以下であることがさらに好ましい。また、当該重合体における疎水性構成単位の合計含有量は、60mol%以下であることが好ましい。疎水性構成単位の合計含有量は、10mol%以上50mol%以下であることが好ましく、20mol%以上35mol%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
コーティング層Lcの主体となる重合体は、上述した親水性構成単位や疎水性構成単位に加え、架橋性構成単位をさらに含んでも良い。架橋性構成単位の含有量は、例えば1mol%以上10mol%以下であって良く、2mol%以上7mol%以下であることが好ましい。
【0043】
図5に示すように、本実施形態の細胞培養デバイス1において、第一培養空間41の底面部41Aや第二培養空間42の底面部42Aの表面には、上述した構成単位を含む重合体を主体とするコーティング層Lcは形成されていない。それに代えて、底面部41A,42Aの表面には、細胞Cが結合する細胞結合因子を有するポリマーを主体とする接着層Laが形成されている。
【0044】
接着層Laの主体となるポリマーは、分子内に疎水性を有する直鎖状骨格と、その直鎖状骨格に結合した細胞結合因子とを有する、疎水結合性吸着ポリマーであって良い。この疎水結合性吸着ポリマーは、分子内に疎水性を有する直鎖状骨格と細胞結合因子が結合し得る官能基とを有するポリマーと、その官能基に結合して固定化された細胞結合因子とを有する。分子内に疎水性を有する直鎖状骨格と細胞結合因子が結合し得る官能基とを有するポリマーは、例えば下記の式(11)で表される。
【0045】
【化6】
【0046】
ここで、*は結合を表す。式(11)において、Xは、CH又はNHCHCOを表す。Yは、CH又はNHCR62COを表す。R61は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又はアラアルキル基、若しくは炭素数6〜10のアリールオキシ基又はアラアルキルオキシ基を表す。R62は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。Zは、官能基(反応基)を表し、Xと互いに結合していても良い。SPは、スペーサーであり、(−CH−)s又は(−NHCHR63CO−)tを表す。R63は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。pは、1以上の整数を表し、s及びtは、独立して0〜8の整数を表し、rは、1以上の整数を表す。
【0047】
式(11)においてZで表される官能基(反応基)は、タンパク質又はペプチドが有する反応性基と反応して結合し得るものであれば特に限定されない。一例としては、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、水酸基、及びこれらの反応性誘導体等を例示することができる。また、カルボキシル基の反応性誘導体としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、酸イミド、及び活性エステル等を例示することができ、アミノ基の反応性誘導体としては、イソシアナート基等を例示することができる。また、酸無水物や酸イミド等は、Xと結合して環を形成していても良い。
【0048】
分子内に疎水性を有する直鎖状骨格と細胞結合因子が結合し得る官能基とを有するポリマーは、共重合体であっても良い。例えば、無水マレイン酸とビニル系化合物との共重合体が代表例として例示される。具体的には、例えば無水マレイン酸とメチルビニルエーテルとの共重合体であるMMAC(methyl vinyl ether/maleic anhydride copolymer)、無水マレイン酸とブチルビニルエーテルとの共重合体であるMBAC(butyl vinyl ether/maleic anhydride copolymer)、無水マレイン酸とヘキシルビニルエーテルとの共重合体であるMHAC(hexyl vinyl ether/maleic anhydride copolymer)、及び無水マレイン酸とスチレンとの共重合体であるMAST(styrene/maleic anhydride copolymer)を例示することができる。
【0049】
細胞結合因子は、Zで表される官能基(反応基)に結合するとともに、細胞Cが結合するものであり、例えば細胞接着タンパク質又は細胞接着ペプチドがこれに該当する。細胞結合因子は、Zで表される官能基(反応基)と、例えばアミド結合、チオアミド結合、エステル結合、及びチオエステル結合等によって結合(共有結合)する。細胞接着タンパク質としては、例えばフィブロネクチン(FN)、コラーゲン(Col)、ラミニン(LN)、及びビトロネクチン(VN)等が例示される。細胞接着ペプチドとしては、上記の細胞接着タンパク質のアミノ酸配列の中で、細胞接着に関わる領域のいずれかのペプチドを用いることができる。
【0050】
このような接着層Laを底面部41A,42Aの表面に形成することで、底面部41A,42Aの表面に強固に細胞Cを固定することができる。
【0051】
このように、本実施形態の細胞培養デバイス1では、培養空間41,42において、底面部41A,42Aの表面に接着層Laが形成され、側壁部41B,42Bの内面にコーティング層Lcが形成されている。なお、上面部41C,42Cの内面にもコーティング層Lcが形成されている。このため、底面部41A,42Aの表面に強固に細胞Cを固定しつつ、側壁部41B,42Bや上面部41C,42Cの内面への化合物の吸着量を少なく抑えることができる。
【0052】
また、本実施形態の細胞培養デバイス1では、図6に示すように、接続流路43において、底面部43A及び側壁部43Bの両方の内面にコーティング層Lcが形成されている。なお、上面部43Cの内面にもコーティング層Lcが形成されている。このため、接続流路43における化合物の吸着量を少なく抑えることができる。よって、細胞Cと化合物との相互作用を精度良く解析することができる。
【0053】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、培養空間41,42の底面部41A,42Aが基材2の表面により構成されている例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば培養空間41,42の底面部41A,42Aが膜によって構成されても良い。この場合、膜で構成される底面部41A,42Aの表面に接着層Laが形成され、その接着層Laを介して細胞Cが固定されると良い。また、接続流路43は、第一培養空間41の底面部41Aを通過した後の化合物含有溶液を第二培養空間42に供給するように設けられても良い。
【0054】
(2)上記の実施形態では、培養空間41,42の底面部41A,42Aに接着層Laが形成されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、細胞Cが十分な強度で底面部41A,42Aに固定されるのであれば、接着層Laが形成されなくても良い。
【0055】
(3)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 細胞培養デバイス
41 第一培養空間(培養空間)
41A 底面部
41B 側壁部
42 第二培養空間(培養空間)
42A 底面部
42B 側壁部
Lc コーティング層
La 接着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6