特許第6801740号(P6801740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6801740方向性電磁鋼板用熱延鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801740
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板用熱延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20201207BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20201207BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20201207BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C22C38/60
   C21D8/12 C
   H01F1/147 175
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-80929(P2019-80929)
(22)【出願日】2019年4月22日
(62)【分割の表示】特願2018-529922(P2018-529922)の分割
【原出願日】2017年7月25日
(65)【公開番号】特開2019-151935(P2019-151935A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-150166(P2016-150166)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】竹中 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 稔
(72)【発明者】
【氏名】松原 行宏
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−241503(JP,A)
【文献】 特開2015−190022(JP,A)
【文献】 特開2000−129356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.002%以上0.080%以下、
Si:2.00%以上8.00%以下、
Mn:0.02%以上0.50%以下、
酸可溶性Al:0.003%以上0.010%未満並びに
Sおよび/またはSeを合計で0.001%以上0.010%以下
を含有し、Nを0.006%未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し

最表層および最裏層から板厚の1/4深さまでの領域の再結晶率が90%以下である方向性
電磁鋼板用熱延鋼板。
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ni:0.005%以上1.5%以下、
Cu:0.005%以上1.5%以下、
Sb:0.005%以上0.5%以下、
Sn:0.005%以上0.5%以下、
Cr:0.005%以上0.1%以下、
P:0.005%以上0.5%以下、
Mo:0.005%以上0.5%以下、
Ti:0.0005%以上0.1%以下、
Nb:0.0005%以上0.1%以下、
V:0.0005%以上0.1%以下、
B:0.0002%以上0.0025%以下、
Bi:0.005%以上0.1%以下、
Te:0.0005%以上0.01%以下および
Ta:0.0005%以上0.01%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の方向性電磁鋼板用
熱延鋼板。
【請求項3】
質量%で、
C:0.002%以上0.080%以下、
Si:2.0%以上8.0%以下、
Mn:0.02%以上0.50%以下、
酸可溶性Al:0.003%以上0.010%未満並びに
Sおよび/またはSeを合計で0.001%以上0.010%以下
を含有し、Nを0.006%未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物である成分組成を
有する鋼スラブを1300℃以下で加熱し、
該鋼スラブに熱間圧延を施す熱延鋼板の製造方法であって、
前記熱間圧延の最終仕上げパスにおける摩擦係数を0.35以下とし、
前記熱延鋼板は、最表層および最裏層から板厚の1/4深さまでの領域の再結晶率が90%
以下である、方向性電磁鋼板用熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ni:0.005%以上1.5%以下、
Cu:0.005%以上1.5%以下、
Sb:0.005%以上0.5%以下、
Sn:0.005%以上0.5%以下、
Cr:0.005%以上0.1%以下、
P:0.005%以上0.5%以下、
Mo:0.005%以上0.5%以下、
Ti:0.0005%以上0.1%以下、
Nb:0.0005%以上0.1%以下、
V:0.0005%以上0.1%以下、
B:0.0002%以上0.0025%以下、
Bi:0.005%以上0.1%以下、
Te:0.0005%以上0.01%以下および
Ta:0.0005%以上0.01%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項3に記載の方向性電磁鋼板用
熱延鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造に供する方向性電磁鋼板用熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主に変圧器や発電機等の電気機器の鉄心材料として用いられる軟磁気特性材料であって、鉄の磁化容易軸である<001>方位が鋼板の圧延方向に高度に揃った結晶組織を有する。このような集合組織は、方向性電磁鋼板の製造工程のうち、二次再結晶焼鈍の際に、いわゆるゴス(Goss)方位と称される(110)[001]方位の結晶粒を優先的に巨大成長させる、二次再結晶を通じて形成される。
【0003】
従来、このような方向性電磁鋼板は、3質量%程度のSiと、MnS,MnSe,AlNなどのインヒビター成分を含有するスラブを、1300℃を超える温度で加熱し、インヒビター成分を一旦固溶させたのち、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施して、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、ついで湿(潤)水素雰囲気中で一次再結晶焼鈍を施して一次再結晶および脱炭を行ったのち、マグネシア(MgO)を主剤とする焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶およびインヒビター成分の純化のために、1200℃で5h程度の最終仕上げ焼鈍を行うことによって製造されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0004】
上述したとおり、従来の方向性電磁鋼板の製造に際しては、MnS,MnSe,AlNなどの析出物(インヒビター成分)をスラブ段階で含有させ、1300℃を超える高温でのスラブ加熱によってこれらのインヒビター成分を一旦固溶させ、後工程で微細析出させることにより二次再結晶を発現させるという手法が採用されてきた。
【0005】
すなわち、従来の方向性電磁鋼板の製造工程では、1300℃を超える高温でのスラブ加熱が必要であったため、その製造コストは極めて高いものとならざるを得ず、近年の製造コスト低減の要求に応えることができないというところに問題を残していた。
【0006】
こうした課題を解決するために、例えば、特許文献4では、酸可溶性Al(sol.Al)を0.010〜0.060%含有させ、スラブ加熱を低温に抑え、脱炭焼鈍工程で適正な窒化雰囲気下で窒化を行うことにより、二次再結晶時に(Al,Si)Nを析出させインヒビターとして用いる方法が提案されている。
【0007】
ここで、(Al,Si)Nは、鋼中に微細分散し有効なインヒビターとして機能し、上記の製造方法による窒化処理後の鋼板では、窒化珪素を主体とした析出物(Siもしくは(Si,Mn)N)が表層のみに形成される。そして、引き続いて行われる二次再結晶焼鈍において、窒化珪素を主体とした析出物はより熱力学的に安定したAl含有窒化物((Al,Si)N、あるいはAlN)に変化する。この際、非特許文献1によれば、表層近傍に存在したSi3N4は、二次再結晶焼鈍の昇温中に固溶する一方、窒素は鋼中へ拡散し、900℃を超える温度になると板厚方向にほぼ均一なAl含有窒化物として析出し、全板厚で粒成長抑制力(インヒビション効果)を得ることができるとされている。なお、この手法によれば、高温でのスラブ加熱を用いた析出物の分散制御に比べて、比較的容易に板厚方向に同じ析出物量と析出物粒径を得ることができる。
また、特許文献5では、熱延板の表層1/4領域に未再結晶組織を残存させ、熱延板焼鈍を施すことなく冷間圧延を行うことにより、一次再結晶{411}<148>方位を優先的に発達させ、良好な磁気特性を得ることが示されている。
【0008】
一方、最初からスラブにインヒビター成分を含有させずに二次再結晶を発現させる技術についても検討が進められている。例えば、特許文献6には、インヒビター成分を含有させなくとも二次再結晶が可能な技術(インヒビターレス法)が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第1965559号公報
【特許文献2】特公昭40−15644号公報
【特許文献3】特公昭51−13469号公報
【特許文献4】特許第2782086号公報
【特許文献5】特許第4593317号公報
【特許文献6】特開2000-129356号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y. Ushigami et al. "Precipitation Behaviors of Injected Nitride Inhibitors during Secondary Recrystallization Annealing in Grain Oriented Silicon Steel" Materials Science Forum Vols. 204-206 (1996) pp. 593-598
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記インヒビターレス法は、高温でのスラブ加熱が不要となるため、コスト、生産性の観点から優れた手法であるが、スラブ加熱温度が低いことに起因し、必然的に熱間圧延時の圧延温度も低くなる。このような熱間圧延温度の低下に伴い、熱延時に鋼板表層にひずみが蓄積しやすくなり、熱延板の表層が再結晶しやすい状態となる。その結果、製造された熱延板の表層は、完全に再結晶してしまう。このような熱延板の表層の再結晶粒は非常に微細であるため、次工程の熱延板焼鈍時に、表層の再結晶粒が異常粒成長することとなる。その結果、熱延焼鈍板の板厚方向における再結晶組織の整粒度が低下し、最終製品板の磁気特性のコイル内でのバラツキが大きくなるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑み、熱間圧延工程を所定の条件で適正に行うことにより、最終製品板における磁気特性のコイル内でのバラツキが低減された方向性電磁鋼板用の熱延鋼板を提供する。
また、本発明は、高温スラブ加熱を必要としない低コストかつ高生産性を有する方向性電磁鋼板を製造する方法であって、かつ、最終製品状態でのコイル内での磁気特性のバラツキを低減することが可能な方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、sol.Al、S、およびSeの成分元素について、従来認知されているインヒビターとして機能させるための含有量に満たない、微小量域において、これらの各成分の含有量を相互に規制することによって、1300℃以下の低温域のスラブ加熱であっても正常粒成長の抑制力が得られ、磁気特性の向上に寄与することを新規に知見するに至った。
さらに、鋼板表面(最表層または最裏層)から板厚の1/4深さまで(以下、板厚1/4層とする)の領域の再結晶率が90%以下である熱延鋼板を用いることで、最終製品である方向性電磁鋼板のコイル内での磁気特性のバラツキを低減できることを新規に知見するに至った。ここで、上記「再結晶率」は、鋼板の最表層から板厚の1/4深さまでの範囲と、鋼板の最裏層から板厚の1/4深さまでの範囲とを測定し、大きい側の値を採用するものとする。
【0014】
熱間圧延では、ロール磨耗とロール肌荒れの防止、さらにはスリップや噛み込み不良を抑制するために高摩擦係数下での弱潤滑圧延が一般的である。この熱間圧延時における最終仕上げパスにおいて、板厚、張力、および供給する潤滑液の量を制御することで摩擦係数を制御し、従来よりも摩擦係数を低減させること、具体的には0.35以下とすることにより、熱延鋼板の板厚1/4層の領域の再結晶率を90%以下に制御でき、これにより、最終製品板での方向性電磁鋼板のコイル内での磁気特性のバラツキを低減できることを知見するに至った。
【0015】
このような知見に至った実験を以下に示す。表1に示す種々の成分組成からなる220mm厚の鋼スラブを、1250℃に加熱したのち、2.4mm厚まで熱間圧延した。熱間圧延の最終仕上げパスにおいて供給する潤滑液の量などを制御することで摩擦係数を制御した。摩擦係数は、圧延荷重、板厚、張力、ロール径などの圧延実績と、圧延温度などから計算される変形抵抗を用い、オロワン(Orowan)の理論に基づき、摩擦係数を算出した。その値を、表1に併記する。
【0016】
【表1】
【0017】
また、熱延コイルの先端部および尾端部の幅方向中央部からサンプルを切り出し、圧延直角方向断面(TD(Transverse Direction)方向断面)の全厚についてEBSD(後方散乱電子回折法)により、再結晶率を測定した。EBSDは、1μmピッチの条件で測定を行った。データ解析にはTexSEM Laboratories Inc.製のOIM analysisを用い、方位差角が15°以上ある界面を結晶粒界と定義し、Grain Orientation Spread(同一結晶粒内において、ある測定点と残りの全ての測定点間の方位差角の平均値)が3°以内の粒を再結晶粒と見なし、熱延鋼板における板厚1/4層の領域における再結晶粒の面積率を測定し、表1に併記した。また、表1の結果に基づき、熱延鋼板における板厚1/4層の領域の再結晶率と、熱間圧延時の最終仕上げパスにおける摩擦係数との関係を図1に示す。
【0018】
上記熱延コイルについて、1050℃で60sの熱延板焼鈍後、0.27mm厚まで冷間圧延してから、820℃で120sの一次再結晶焼鈍を施した。この一次再結晶焼鈍時における500〜700℃間の昇温速度は200℃/sとした。
その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、1200℃で10時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を行い、引き続きリン酸塩系の絶縁張力コーティングの塗布、焼付けと鋼帯の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施して製品とした。かくして得られた製品板の磁気特性について調べた結果を、表1に併記する。
【0019】
表1に示されるように、sol.Al、S、およびSeを所定の含有量とすることにより、1300℃以下の低温域のスラブ加熱であっても正常粒成長の抑制力が得られ、これにより、磁気特性を向上させることができる。
また、表1および図1に示されるように、熱間圧延時の最終仕上げパスにおける摩擦係数が0.35以下である場合には、熱延鋼板における板厚1/4層の領域の再結晶率が90%以下となっていることがわかる。また、表1の結果から、板厚1/4層の領域の再結晶率が90%以下である場合には、製品板における熱間圧延時の先端側部と尾端側部間の磁気特性(鉄損)のバラツキが低減されていることがわかる。
このように、熱間圧延の最終仕上げパスにおける摩擦係数を0.35以下とすることで熱延鋼板における板厚1/4層の領域の再結晶率を90%以下とすることができ、最終製品板の磁気特性のバラツキを大幅に低減することができる。
【0020】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
1.質量%で、
C:0.002%以上0.080%以下、
Si:2.00%以上8.00%以下、
Mn:0.02%以上0.50%以下、
酸可溶性Al:0.003%以上0.010%未満並びに
Sおよび/またはSeを合計で0.001%以上0.010%以下
を含有し、Nを0.006%未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し、
最表層および最裏層から板厚の1/4深さまでの領域の再結晶率が90%以下である方向性電磁鋼板用熱延鋼板。
【0021】
2.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ni:0.005%以上1.5%以下、
Cu:0.005%以上1.5%以下、
Sb:0.005%以上0.5%以下、
Sn:0.005%以上0.5%以下、
Cr:0.005%以上0.1%以下、
P:0.005%以上0.5%以下、
Mo:0.005%以上0.5%以下、
Ti:0.0005%以上0.1%以下、
Nb:0.0005%以上0.1%以下、
V:0.0005%以上0.1%以下、
B:0.0002%以上0.0025%以下、
Bi:0.005%以上0.1%以下、
Te:0.0005%以上0.01%以下および
Ta:0.0005%以上0.01%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記1に記載の方向性電磁鋼板用熱延鋼板。
【0022】
3.質量%で、
C:0.002%以上0.080%以下、
Si:2.00%以上8.00%以下、
Mn:0.02%以上0.50%以下、
酸可溶性Al:0.003%以上0.010%未満並びに
Sおよび/またはSeを合計で0.001%以上0.010%以下
を含有し、Nを0.006%未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し、
最表層および最裏層から板厚の1/4深さまでの領域の平均再結晶粒径が板厚中心から最表層および最裏層方向に1/4板厚未満の領域の平均再結晶粒径の3倍以下である方向性電磁鋼板用熱延板焼鈍板。
【0023】
4.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ni:0.005%以上1.5%以下、
Cu:0.005%以上1.5%以下、
Sb:0.005%以上0.5%以下、
Sn:0.005%以上0.5%以下、
Cr:0.005%以上0.1%以下、
P:0.005%以上0.5%以下、
Mo:0.005%以上0.5%以下、
Ti:0.0005%以上0.1%以下、
Nb:0.0005%以上0.1%以下、
V:0.0005%以上0.1%以下、
B:0.0002%以上0.0025%以下、
Bi:0.005%以上0.1%以下、
Te:0.0005%以上0.01%以下および
Ta:0.0005%以上0.01%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記3に記載の方向性電磁鋼板用熱延板焼鈍板。
【0024】
5.質量%で、
C:0.002%以上0.080%以下、
Si:2.0%以上8.0%以下、
Mn:0.02%以上0.50%以下、
酸可溶性Al:0.003%以上0.010%未満並びに
Sおよび/またはSeを合計で0.001%以上0.010%以下
を含有し、Nを0.006%未満に抑制し、残部はFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する鋼スラブを1300℃以下で加熱し、
該鋼スラブに熱間圧延を施す熱延鋼板の製造方法であって、
前記熱間圧延の最終仕上げパスにおける摩擦係数を0.35以下とする方向性電磁鋼板用熱延鋼板の製造方法。
【0025】
6.前記成分組成は、さらに、
質量%で、
Ni:0.005%以上1.5%以下、
Cu:0.005%以上1.5%以下、
Sb:0.005%以上0.5%以下、
Sn:0.005%以上0.5%以下、
Cr:0.005%以上0.1%以下、
P:0.005%以上0.5%以下、
Mo:0.005%以上0.5%以下、
Ti:0.0005%以上0.1%以下、
Nb:0.0005%以上0.1%以下、
V:0.0005%以上0.1%以下、
B:0.0002%以上0.0025%以下、
Bi:0.005%以上0.1%以下、
Te:0.0005%以上0.01%以下および
Ta:0.0005%以上0.01%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記5に記載の方向性電磁鋼板用熱延鋼板の製造方法。
【0026】
7.上記5または6に記載の方向性電磁鋼板用熱延鋼板の製造方法により製造した熱延鋼板に熱延板焼鈍を施し、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚を有する冷延鋼板とし、
該冷延鋼板に一次再結晶焼鈍を施し、
該一次再結晶焼鈍後の前記冷延鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高温スラブ加熱を必要としない低コストかつ高生産性を有する熱延鋼板および方向性電磁鋼板を得ることができる。また、本発明によれば、最終製品におけるコイル内での磁気特性のバラツキを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】熱延鋼板における板厚1/4層の領域の再結晶率と、熱間圧延時の最終仕上げパスにおける摩擦係数との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態による熱延鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。まず、鋼の成分組成の限定理由について述べる。なお、本明細書において、各成分元素の含有量を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0030】
C:0.002%以上0.080%以下
Cは、0.002%に満たないと、Cによる粒界強化効果が失われ、スラブに割れが生じるなど、製造に支障を来たす欠陥を生ずるようになる。一方、0.080%を超えると、脱炭焼鈍で、磁気時効の起こらない0.005%以下に低減することが困難となる。よって、Cは0.002%以上0.080%以下の範囲とする。より好ましくは0.020%以上0.070%以下である。
【0031】
Si:2.00%以上8.00%以下
Siは、鋼の電気抵抗を増大させ、鉄損の一部を構成する渦電流損を低減するのに極めて有効な元素である。鋼板に、Siを添加していった場合、含有量が11%までは、電気抵抗が単調に増加するものの、含有量が8.00%を超えたところで、加工性が著しく低下する。一方、含有量が2.00%未満では、電気抵抗が小さくなり良好な鉄損特性を得ることができない。そのため、Si量は2.00%以上8.00%以下とした。より好ましくは2.50%以上4.50%以下である。
【0032】
Mn:0.02%以上0.50%以下
Mnは、SやSeと結合してMnSやMnSeを形成し、これらのMnSやMnSeが微量であっても粒界偏析元素との併用によって、二次再結晶焼鈍の昇温過程において正常粒成長を抑制するように作用する。しかしながら、Mn量が0.02%に満たないと、この作用が、正常粒成長の抑制力不足となる。一方、Mn量が0.50%を超えると、熱延前のスラブ加熱過程において、Mnを完全固溶させるためには高温でのスラブ加熱が必要となるだけでなく、MnSやMnSeが粗大析出してしまうために、正常粒成長の抑制力が低下する。そのため、Mn量は0.02%以上0.50%以下とした。より好ましくは0.05%以上0.20%以下である。
【0033】
Sおよび/またはSe:合計で0.001%以上0.010%以下
SおよびSeは、Mnと結合してインヒビターを形成するが、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種の含有量が合計で0.001%未満では、インヒビターの絶対量が不足し、正常粒成長の抑制力不足となる。一方、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種の含有量が合計で0.010%を超えると、二次再結晶焼鈍において、脱S、脱Seが不完全となるため、鉄損劣化を引き起こす。そのため、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種の含有量は、合計で0.001%以上0.010%以下の範囲とした。
【0034】
酸可溶性Al:0.003%以上0.010%未満
Alは、表面に緻密な酸化膜を形成し、窒化の際にその窒化量の制御を困難にしたり、脱炭を阻害することもあるため、Alは酸可溶性Al量で0.010%未満とする。酸素親和力の高いAlは、製鋼で微量添加することにより鋼中の溶存酸素量を低減し、特性劣化につながる酸化物系介在物の低減などを見込める。この観点から、酸可溶性Alを0.003%以上含有させることにより、磁気特性の劣化を抑制することができる。
【0035】
N:0.006%未満
Nもまた、SやSeと同様、過剰に存在すると、二次再結晶を困難にする。特にN量が0.006%以上になると、二次再結晶が生じ難くなり、磁気特性が劣化するので、Nは0.006%未満に抑制するものとした。なお、0.001%未満とするのは工業的規模の製造では難しいため、0.001%以上の含有は許容される。
【0036】
以上、本発明の基本成分について説明した。上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物であるが、本発明では、その他にも必要に応じて、以下に示す元素を適宜含有させることができる。
【0037】
Ni:0.005%以上1.5%以下、Cu:0.005%以上1.5%以下、Sb:0.005%以上0.5%以下、Sn:0.005%以上0.5%以下、Cr:0.005%以上0.1%以下、P:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下、Ti:0.0005%以上0.1%以下、Nb:0.0005%以上0.1%以下、V:0.0005%以上0.1%以下、B:0.0002%以上0.0025%以下、Bi:0.005%以上0.1%以下、Te:0.0005%以上0.01%以下、Ta:0.0005%以上0.01%以下
Ni、Cu、Sb、Sn、Cr、P、Mo、Ti、Nb、V、B、Bi、TeおよびTaはいずれも、磁気特性向上に有用な元素であるが、それぞれの含有量が上記範囲の下限値に満たないと、磁気特性の改善効果が乏しく、一方それぞれの含有量が上記範囲の上限値を超えると、二次再結晶が不安定になり磁気特性の劣化を招く。従って、Niは0.005%以上1.5%以下、Cuは0.005%以上1.5%以下、Sbは0.005%以上0.5%以下、Snは0.005%以上0.5%以下、Crは0.005%以上0.1%以下、Pは0.005%以上0.5%以下、Moは0.005%以上0.5%以下、Tiは0.0005%以上0.1%以下、Nbは0.0005%以上0.1%以下、Vは0.0005%以上0.1%以下、Bは0.0002%以上0.0025%以下、Biは0.005%以上0.1%以下、Teは0.0005%以上0.01%以下、Taは0.0005%以上0.01%以下の範囲でそれぞれ含有させることができる。
【0038】
次に、本発明の製造方法について説明する。
[スラブ加熱]
上記の成分組成を有する鋼スラブを加熱する。スラブ加熱温度は1300℃以下とする。1300℃超で加熱する場合、通常のガス加熱ではなく、誘導加熱等の特別な加熱炉を使用する必要があるため、コスト、生産性および歩留まり等の観点から不利となる。スラブ加熱温度は、低すぎると溶質元素の均質化が不十分となるため、好ましくは1200℃以上である。
【0039】
[熱間圧延]
スラブ加熱後、熱間圧延を行う。熱間圧延は、例えば、圧下率は95%以上とし、熱間圧延後の板厚は、1.5〜3.5mmとする。圧延終了温度は800℃以上が望ましい。熱間圧延後の巻取り温度は、500〜700℃程度が望ましい。
【0040】
本発明の特徴は、熱延鋼板の板厚1/4層の領域の再結晶率を90%以下とするところにある。熱延鋼板の板厚1/4層の領域の再結晶率を90%以下とする方法としては、例えば、熱間圧延の最終仕上げパスにおける摩擦係数を下げる、具体的には0.35以下にすることが挙げられる。摩擦係数を下げる方法としては、例えば、潤滑液の量を増加させる方法、ロール粗度を下げる方法、デスケ強化や圧延時間短縮等により表層スケール厚を薄くする方法などが考えられる。
【0041】
[熱延板焼鈍]
熱間圧延後、熱延板焼鈍することで熱延板組織の改善を行う。この時の熱延板焼鈍は、均熱温度:800℃以上1200℃以下、均熱時間:2s以上300s以下の条件で行うことが好ましい。
【0042】
熱延板焼鈍の均熱温度が800℃未満では、熱延板組織の改善が完全ではなく、未再結晶部が残存するため、所望の組織を得ることができないおそれがある。一方、均熱温度が1200℃超では、AlN、MnSeおよびMnSの溶解が進行し、二次再結晶過程でインヒビターの抑制力が不足して、二次再結晶しなくなる結果、磁気特性の劣化を引き起こすこととなる。従って、熱延板焼鈍の均熱温度は800℃以上1200℃以下とすることが好ましい。
【0043】
また、均熱時間が2sに満たないと、高温保持時間が短いために、未再結晶部が残存し、所望の組織を得ることができなくなるおそれがある。一方、均熱時間が300sを超えると、AlN、MnSeおよびMnSの溶解が進行し、微量に添加したN、酸可溶性AlおよびS+Seの上記した効果が弱まり、冷延組織の不均質化が進行する結果、二次再結晶焼鈍板の磁気特性が劣化する。従って、熱延板焼鈍の均熱時間は2s以上300s以下とすることが好ましい。
【0044】
本発明のさらなる特徴は、熱延焼鈍板の最表層および最裏層から板厚の1/4深さまでの領域の平均再結晶粒径を、板厚中心から最表層および最裏層方向に1/4板厚未満の領域の平均再結晶粒径の3倍以下とするところにある。ここで、上記「最表層および最裏層から板厚1/4深さまでの領域の平均再結晶粒径」は、鋼板の最表層から板厚の1/4深さまでの範囲と、鋼板の最裏層から板厚の1/4深さまでの範囲とにおける平均再結晶粒径を測定し、大きい側の値を採用するものとする。熱延板焼鈍板の平均再結晶粒径の測定方法は、熱延板と同様、コイルの先端部および尾端部の幅方向中央部からサンプルを切り出し、圧延直角方向断面(TD方向断面)の全厚についてEBSDにより測定した。Grain Orientation Spread(同一結晶粒内において、ある測定点と残りの全ての測定点間の方位差角の平均値)が3°以内となる領域を再結晶粒と見なした。
【0045】
[冷間圧延]
上記の熱延板焼鈍後に、鋼板を、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚まで圧延する。この場合、中間焼鈍は、熱延板焼鈍と同じ思想で、均熱温度:800℃以上1200℃以下、均熱時間:2s以上300s以下とすることが好ましい。
【0046】
冷間圧延については、最終冷間圧延における圧下率を80%以上95%以下とすることで、より良好な一次再結晶焼鈍板集合組織を得ることができる。また、圧延温度を100〜250℃に上昇させて圧延を行うことや、冷間圧延の途中で100〜250℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことは、ゴス組織を発達させる上で有効である。
【0047】
[一次再結晶焼鈍]
上記の冷間圧延後、好ましくは均熱温度:700℃以上1000℃以下で一次再結晶焼鈍を施す。また、この一次再結晶焼鈍は、例えば湿水素雰囲気中で行えば、鋼板の脱炭も兼ねさせることができる。ここで、一次再結晶焼鈍における均熱温度が700℃未満では、未再結晶部が残存し、所望の組織を得ることができないおそれがある。一方、均熱温度が1000℃超では、ゴス方位粒の二次再結晶が起こってしまう可能性がある。従って、一次再結晶焼鈍における均熱温度は700℃以上1000℃以下とすることが好ましい。また、一次再結晶焼鈍に際しては、500〜700℃の温度域の平均昇温速度を50℃/s以上とすることが好ましい。
【0048】
[焼鈍分離剤の塗布]
上記一次再結晶焼鈍後の鋼板に、必要に応じて焼鈍分離剤を塗布する。ここで、鉄損を重視してフォルステライト被膜を形成させる場合には、MgOを主体とする焼鈍分離剤を適用することで、その後、純化焼鈍を兼ねて二次再結晶焼鈍を施すことにより二次再結晶組織を発達させると共にフォルステライト被膜を形成することができる。打ち抜き加工性を重視してフォルステライト被膜を必要としない場合には、焼鈍分離剤を適用しないか、適用する場合でもフォルステライト被膜を形成するMgOは使用せずに、シリカやアルミナ等を用いる。これらの焼鈍分離剤を塗布する際は、水分を持ち込まない静電塗布等を行うことが有効である。耐熱無機材料シート(シリカ、アルミナ、マイカ)を用いてもよい。
【0049】
[二次再結晶焼鈍]
その後、二次再結晶焼鈍を行う。二次再結晶焼鈍は、例えば、800℃以上の温度で20時間以上保持することが好ましい。なお、二次再結晶焼鈍の焼鈍条件は、特に制限はなく、従来公知の焼鈍条件で行うことができる。なお、この時の焼鈍雰囲気を水素雰囲気とすると、純化焼鈍も兼ねることができる。
【0050】
その後、必要に応じて、絶縁被膜塗布工程および平坦化焼鈍工程を経て、所望の方向性電磁鋼板を得る。この時の絶縁被膜塗布工程および平坦化焼鈍工程の製造条件についても、特段の規定はなく、常法に従えば良い。
例えば、絶縁被膜塗布工程で塗布される被膜は、ガラス質を主体とするものであり、珪リン酸塩などをコータにより塗布することが一般的である。
また、平坦化焼鈍工程では、前工程で焼鈍分離剤を塗布した場合には、水洗やブラッシング、酸洗を行い、付着した焼鈍分離剤を除去する。その後、平坦化焼鈍を行い形状を矯正することが鉄損低減のために有効である。平坦化焼鈍の均熱温度は、700〜900℃程度が形状矯正の観点から好適である。
【0051】
上記の条件を満たして製造された方向性電磁鋼板は、二次再結晶後に極めて高い磁束密度を有し、併せて低い鉄損特性を有する。ここに、高い磁束密度を有するということは二次再結晶過程においてゴス方位およびその近傍方位のみが優先成長したことを示している。ゴス方位およびその近傍になるほど、二次再結晶粒の成長速度は増大することから、高磁束密度化するということは潜在的に二次再結晶粒径が粗大化することを示しており、ヒステリシス損低減の観点からは有利であるが、渦電流損低減の観点からは不利となる。
【0052】
従って、このような鉄損低減という最終目標に対しての相反する事象を解決するために、磁区細分化処理を施すことが好ましい。適切な磁区細分化処理を施すことで、二次再結晶粒径粗大化により不利となっていた渦電流損が低減し、ヒステリシス損の低減と併せて、極めて低い鉄損特性を得ることができる。
【0053】
磁区細分化処理としては、公知の全ての耐熱型または非耐熱型の磁区細分化処理が適用できるが、二次再結晶焼鈍後の鋼板表面に電子ビームまたはレーザーを照射する方法を用いれば、鋼板の板厚方向内部まで磁区細分化効果を浸透させることができるので、エッチング法などの他の磁区細分化処理よりも極めて低い鉄損特性を得ることができる。
その他の製造条件は、方向性電磁鋼板の一般的な製造方法に従えばよい。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
表2に示す種々の成分組成からなる220mm厚の鋼スラブを、1240℃に加熱したのち、2.4mm厚まで熱間圧延した。熱間圧延における最終仕上げパスにおける摩擦係数および熱延コイルの先端および尾端から採取した熱延鋼板における板厚1/4層の領域の再結晶粒の面積率を測定した結果を、表2に併記する。
【0055】
ついで、上記熱延板に1000℃で60sの熱延板焼鈍を施した。熱延板焼鈍コイルの先端および尾端から採取した熱延板焼鈍板における板厚1/4層および板厚中心層(板厚中心から最表層および最裏層方向に1/4板厚未満の領域)の領域の平均再結晶粒径を測定した結果を、表2に併記する。熱延板焼鈍の後、1回目の冷間圧延により1.8mmの中間厚まで圧延した。ついで、1040℃で60sの中間焼鈍後、2回目の冷間圧延により0.23mm厚まで冷間圧延してから、850℃で120sの一次再結晶焼鈍を施した。この一次再結晶焼鈍時における500〜700℃間の昇温速度は100℃/sとした。
【0056】
その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、1200℃で10時間の純化焼鈍を兼ねた二次再結晶焼鈍を行い、引き続きリン酸塩系の絶縁張力コーティングの塗布、焼付けと鋼帯の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施して製品とした。
かくして得られた製品の磁気特性について調べた結果を、表2に併記する。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、熱間圧延の最終仕上げパスにおける摩擦係数を0.35以下とすることで、熱延鋼板における板厚1/4層の領域の再結晶率を90%以下とすることができ、また、熱延板焼鈍板における板厚1/4層の領域の平均再結晶粒径が板厚中心層の領域の平均再結晶粒径の3倍以下とすることができ、最終製品板の磁気特性のバラツキを大幅に低減することができる。
図1