(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鉱石の運搬等の用途に用いられる高軸重鉄道では、貨車の車軸にかかる荷重は客車に比べて遥かに高く、レールの使用環境も過酷なものとなっている。このような環境下で使用されるレールの材料としては、従来、耐摩耗性重視の観点から主としてパーライト組織を有する鋼が使用されている。
【0003】
しかし、近年、鉄道による輸送の効率化のために貨車への積載重量のさらなる増加が進められており、一層の耐摩耗性および耐疲労損傷性の向上が求められている。そこで、近年、さらなる耐摩耗性向上を目指して様々な研究が行なわれている。なお、高軸重鉄道とは、列車や貨車1台あたりの積載重量が大きい(例えば、積載重量が150トン程度以上の)鉄道である。
【0004】
例えば、特許文献1、2では、レール材におけるC量を0.85質量%超1.20質量%以下に増加することが提案されている。また、特許文献3、4では、C量を0.85質量%超1.20質量%以下とするとともに、レール頭部に熱処理を施すことが提案されている。このように、C量を増加してセメンタイト分率を上昇させることによって耐摩耗性の向上を図る工夫が行われている。
【0005】
一方、高軸重鉄道の曲線区間のレールには、車輪による転がり応力と遠心力による滑り力が加わるためレールの摩耗がより厳しくなるとともに、滑りに起因した疲労損傷が発生する。上記特許文献1〜4で提案されている技術のように単にC量を増加させると、熱処理条件によっては初析セメンタイトが生成し、また、脆いパーライト層状組織におけるセメンタイトの量が増加する。そのため、上記技術では耐疲労損傷性の向上が見込めない。
【0006】
そこで、特許文献5では、Al、Siの添加により初析セメンタイト生成を抑制し、耐疲労損傷性を向上させる技術が提案されている。
【0007】
また、非特許文献1に記載の通り、分岐器の構成部品であるクロッシングとしては、耐摩耗性向上の観点から、主体組織がオーステナイトである高Mn鋼製のクロッシングが使用されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な一実施態様を示すものであり、本発明は、以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0021】
[成分組成]
本発明の一実施形態におけるオーステナイト系レールは、上述した成分組成を有する。言い換えると、本発明のオーステナイト系レールは、上記成分組成を有する鋼からなる。以下、鋼の成分組成を上記の範囲に限定する理由について説明する。なお、特に断らない限り、各成分の含有量を表す「%」は、「質量%」を意味する。
【0022】
C:0.10〜2.50%
Cは、オーステナイトを安定化する元素であり、常温においてオーステナイト組織を得るために重要な元素である。C含有量が0.10%未満であると、オーステナイトの安定度が不足し、十分なオーステナイト組織が得られない。そのため、C含有量を0.10%以上、好ましくは0.12%以上とする。一方、C含有量が2.50%を超えると、炭化物の過剰生成により耐疲労損傷性が低下する。そのため、C含有量は2.50%以下、好ましくは2.00%以下とする。
【0023】
Mn:8.0〜45.0%
Mnは、オーステナイトを安定化する元素であり、常温においてオーステナイト組織を得るために重要な元素である。Mn含有量が8.0%未満であると、オーステナイトの安定度が不足し、十分なオーステナイト組織が得られない。そのため、Mn含有量は8.0%以上、好ましくは10.0%以上とする。一方、Mn含有量が45.0%を超えると、オーステナイト安定化の効果は飽和し、コスト的に不利となる。そのため、Mn含有量は45.0%以下、好ましくは40.0%以下とする。
【0024】
P:0.300%以下
Pは、粒界脆化元素であり、Pが結晶粒界に偏析することによって、鋼の靭性が低下する。そのため、P含有量は0.300%以下とする。なお、P含有量は0.250%以下とすることが好ましい。一方、Pは少ないほど好ましいため、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。なお、過度の低P化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0025】
S:0.1000%以下
Sは、レール材の耐疲労損傷性および靭性を低下させるため、S含有量を0.1000%以下とする。なお、S含有量は0.080%以下とすることが好ましい。一方、Sは少ないほど好ましいため、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、工業的には0%超であってよい。なお、過度の低S化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、S含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0026】
Al:0.001〜5.000%
Alは、脱酸剤としての作用を有する元素である。前記効果を得るため、Al含有量を0.001%以上、好ましくは0.003%以上とする。一方、Al含有量が5.000%を超えると、鋼の清浄度が低下し、耐疲労損傷性が低下する。そのため、Al含有量は5.000%以下、好ましくは4.500%以下とする。
【0027】
N:0.5000%以下
Nは、炭窒化物の生成を通じ、レール材の耐疲労損傷性および靱性を劣化させる元素である。そのため、N含有量は0.5000%以下とする。一方、Nは少ないほど好ましいため、N含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Nは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。なお、過度の低N化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、N含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
【0028】
O:0.1000%以下
Oは、レール材の耐疲労損傷性および靱性を劣化させる元素である。そのため、O含有量は0.1000%以下とする。一方、Oは少ないほど好ましいため、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。なお、過度の低O化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、O含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態におけるオーステナイト系レールは、上記の元素と、残部のFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するものとすることができる。
【0030】
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、以下に挙げる元素より選択される1または2以上をさらに任意に含有することができる。
【0031】
Ti:0.10〜5.00%
Tiは、硬質な炭化物を形成し、オーステナイト組織の耐摩耗性を向上させる効果を有する元素である。Tiを添加する場合、前記効果を得るために、Ti含有量を0.10%以上、好ましくは0.12%以上とする。一方、Ti含有量が5.00%を超えると耐疲労損傷性が低下する。そのため、Ti含有量は5.00%以下、好ましくは4.50%以下とする。
【0032】
Si:0.01〜5.00%
Siは、脱酸に有効な元素である。また、Siは、固溶強化による鋼の高硬度化に寄与する元素である。Si含有量が0.01%未満であると十分な効果を得ることができない。そのため、Siを添加する場合、Si含有量を0.01%以上、好ましくは0.05%以上とする。一方、Si含有量が5.00%を超えると、介在物量が増加することで耐疲労損傷性が低下する。そのため、Si含有量は5.00%以下、好ましくは4.50%以下とする。
【0033】
Cu:0.1〜10.0%
Cuは、鋼の強度を向上させることができる元素である。前記効果を得るためにはCu含有量を0.1%以上とする必要がある。そのため、Cuを添加する場合、Cu含有量を0.1%以上、好ましくは0.5%以上とする。一方、Cu含有量が10.0%を超えると、その効果は飽和し、コスト的に不利となる。そのため、Cu含有量は10.0%以下、好ましくは8.0%以下とする。
【0034】
Ni:0.1〜25.0%
Niは、靭性を向上させる効果を有する元素である。前記効果を得るためには、Ni含有量を0.1%以上とする必要がある。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量は0.1%以上、好ましくは0.5%以上とする。一方、Ni含有量が25.0%を超えると、その効果は飽和し、コスト的に不利となる。そのため、Ni含有量は25.0%以下、好ましくは20.0%以下とする。
【0035】
Cr:0.1〜30.0%
Crは、鋼の強度を向上させることができる元素である。前記効果を得るためにはCr含有量を0.1%以上とする必要がある。そのため、Crを添加する場合、Cr含有量は0.1%以上、好ましくは0.5%以上とする。一方、Cr含有量が30.0%を超えると、その効果は飽和し、コスト的に不利となる。そのため、Cr含有量は30.0%以下、好ましくは28.0%以下とする。
【0036】
Mo:0.1〜10.0%
Moは、鋼の強度を向上させることができる元素である。前記効果を得るためにはMo含有量を0.1%以上とする必要がある。そのため、Moを添加する場合、Mo含有量は0.1%以上、好ましくは0.5%以上とする。一方、Mo含有量が10.0%を超えると、その効果は飽和しコスト的に不利となる。そのため、Mo含有量は10.0%以下、好ましくは8.0%以下とする。
【0037】
Nb:0.005〜2.000%
Nbは、炭窒化物として析出することでオーステナイト組織の耐摩耗性を向上させる効果を有する元素である。前記効果を得るためにはNb含有量を0.005%以上とする必要がある。そのため、Nbを添加する場合、Nb含有量は0.005%以上、好ましくは0.007%以上とする。一方、Nb含有量が2.000%を超えると、耐疲労損傷性が劣化する。そのため、Nb含有量は2.000%以下、好ましくは1.700%以下とする。
【0038】
V:0.01〜2.00%
Vは、炭窒化物として析出することでオーステナイト組織の耐摩耗性を向上させる効果を有する元素である。前記効果を得るためにはV含有量を0.01%以上とする必要がある。そのため、Vを添加する場合、V含有量は0.01%以上、好ましくは0.02%以上とする。一方、V含有量が2.00%を超えると耐疲労損傷性が劣化する。そのため、V含有量は2.00%以下、好ましくは1.80%以下とする。
【0039】
W:0.01〜2.00%
Wは、鋼の強度を向上させることができる元素である。前記効果を得るためにはW含有量を0.01%以上とする必要がある。そのため、Wを添加する場合、W含有量は0.01%以上、好ましくは0.02%以上とする。一方、W含有量が2.00%を超えると靱性が劣化する。そのため、W含有量は2.00%以下、好ましくは1.80%以下とする。
【0040】
B:0.0003〜0.1000%
Bは、粒界に偏析に粒界強度を向上させる効果を有する元素である。前記効果を得るためには、B含有量を0.0003%以上とする必要がある。そのため、Bを添加する場合、B含有量は0.0003%以上、好ましくは0.0005%以上とする。一方、B含有量が0.1000%を超えると、炭窒化物の粒界析出により耐疲労損傷性が低下する。そのため、B含有量は0.1000%以下、好ましくは0.0800%以下とする。
【0041】
Ca:0.0003〜0.1000%
Caは、高温における安定性が高い酸硫化物を形成することで溶接部の結晶粒径をピンニング効果により細かくし、継手の強度、靱性を向上させる元素である。前記効果を得るためには、Ca含有量を0.0003%以上とする必要がある。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量は0.0003%以上、好ましくは0.0005%以上とする。一方、Ca含有量が0.1000%を超えると、清浄度が低下して鋼の靭性が損なわれる。そのため、Ca含有量は0.1000%以下、好ましくは0.0800%以下とする。
【0042】
Mg:0.0001〜0.1000%
Mgは、高温における安定性が高い酸硫化物を形成することで溶接部の結晶粒径をピンニング効果により細かくし、継手の強度、靱性を向上させる元素である。前記効果を得るためには、Mg含有量を0.0005%以上とする必要がある。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量は0.0001%以上、好ましくは0.0005%以上とする。一方、Mg含有量が0.1000%を超えると、清浄度が低下して鋼の靭性が損なわれる。そのため、Mg含有量は0.1000%以下、好ましくは0.0800%以下とする。
【0043】
REM:0.0005〜0.1000%
REM(希土類金属)は、高温における安定性が高い酸硫化物を形成することで溶接部の結晶粒径をピンニング効果により細かくし、継手の強度、靱性を向上させる元素である。前記効果を得るためには、REM含有量を0.0005%以上とする必要がある。そのため、REMを添加する場合、REM含有量は0.0005%以上、好ましくは0.0010%以上とする。一方、REM含有量が0.1000%を超えると、清浄度が低下して鋼の靭性が損なわれる。そのため、REM含有量は0.1000%以下、好ましくは0.0800%以下とする。
【0044】
[ミクロ組織]
オーステナイト:90%以上
本発明のオーステナイト系レールは、レール交換の目安となる表層から25mm深さまでの領域におけるオーステナイトの面積率が90%以上であるミクロ組織を有する。該領域におけるオーステナイトの面積率が90%未満であると、耐摩耗性および耐疲労損傷性が低下することに加え、延性、靱性、および加工性も低下する。そのため、オーステナイトの面積率を90%以上とする。前記オーステナイトの面積率は、95%以上とすることが好ましく、97%以上とすることがより好ましい。一方、前記面積率の上限は特に限定されない。すなわち、オーステナイトの面積率は100%以下であってよい。
【0045】
なお、ここで「オーステナイトの面積率」とは、鋼の基地組織(マトリックス)中におけるオーステナイトの面積率を指すものとする。「基地組織」とは、介在物および析出物を除いた鋼の組織を指す。また、前記オーステナイトの面積率は、レール頭部の表面から深さ5mm位置における測定値を指すものとする。前記オーステナイトの面積率は、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0046】
なお、本発明のオーステナイト系レールのミクロ組織における、オーステナイト以外の組織は特に限定されない。合計面積率で10%以下であれば、オーステナイト以外の組織が存在することが許容される。前記オーステナイト以外の組織としては、例えば、フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトからなる群より選択される1または2以上が挙げられる。
【0047】
[空隙率]
本発明のオーステナイト系レールは、空隙率が1%未満である。空隙率が1%以上であると、耐疲労損傷性が劣化する。前記空隙率は、低ければ低いほど好ましいため、下限は特に限定されない。すなわち、空隙率は0%以上であってよい。鋳造によって製造される製品は、製造上の理由から引け巣などの欠陥(鋳造欠陥)を有しているため、上記空隙率の条件を満たさない。
【0048】
[製造方法]
次に、本発明の一実施形態におけるオーステナイト系レールの製造方法について説明する。本発明のオーステナイト系レールは、上述した組成を有する鋼(「鋼素材」ともいう)に対して、下記(1)〜(3)の処理を順次施すことにより製造することができる。
(1)加熱
(2)熱間圧延
(3)冷却
【0049】
素材として用いる前記鋼(鋼素材)は任意の方法で製造できるが、一般的には、鋳造、特に連続鋳造により前記鋼を製造することが好ましい。前記鋼は、鋼片であってよい。
【0050】
(1)加熱
加熱温度:950〜1350℃
まず、上述した成分組成を有する鋼を、該鋼の中心温度が950〜1350℃の範囲になるよう加熱する。前記加熱温度が950℃より低いと、製造時(鋳造時)に析出した炭化物が固溶しないため固溶C量が不足する。そしてその結果、オーステナイト安定化度が不足し、冷却後にオーステナイト面積率を90%以上とすることができない。そのため、前記加熱温度を950℃以上とする。一方、前記加熱温度が1350℃を超えると、加熱のためのコストが高くなる。そのため、加熱温度を1350℃以下とする。
【0051】
(2)熱間圧延
次いで、加熱された前記鋼を熱間圧延してレール形状とする。前記熱間圧延においては、レールの空隙率を1%未満とするために、断面減少率が次の2つの条件を満たす必要がある。
・トータル断面減少率:0.90以上
・1000℃以上での断面減少率:0.60以上
なお、前記トータル断面減少率は、次の式により定義される。
トータル断面減少率=(Ai−Af)/Ai
また、前記1000℃以上での断面減少率は、次の式により定義される。
1000℃以上での断面減少率=(Ai−A
1000℃)/Ai
ここで、Aiは熱間圧延前の鋼の断面積(cm
2)、Afは熱間圧延後のレールの断面積(cm
2)、A
1000℃は温度が1000℃になった時点における被圧延材の断面積(cm
2)を、それぞれ示す。Ai、Af、A
1000℃は、それぞれ熱間圧延時の延伸方向と直交する断面における断面積を指すものとする。
【0052】
上記2つの条件の一方または両方を満たさない場合、レール断面内の空隙率が1%以上となり、耐疲労損傷性が劣化してしまう。そのため、トータル断面減少率を0.90以上かつ、そのうち1000℃以上の温度域における断面減少率を0.60以上とする。トータル断面減少率は0.92以上とすることが好ましく、0.93以上とすることがより好ましい。また、1000℃以上での断面減少率は0.62以上とすることが好ましく、0.64以上とすることがより好ましい。
【0053】
(3)冷却
900〜500℃間の平均冷却速度:1℃/sec以上
次に、前記熱間圧延後の鋼を冷却する。前記冷却工程においては、900から500℃の間の温度域における平均冷却速度を1℃/sec以上とする。ここで、平均冷却速度は、
レール頭部側面の表面温度を放射温度計で測定し、冷却開始から冷却停止までの間の温度変化を測定することで算出した。前記条件で冷却を行うことにより、最終的に得られるレールにおけるオーステナイトの面積率を90%以上とすることができる。前記平均冷却速度が1℃/sec未満であると、炭化物が析出し、固溶C量が不足する。そしてその結果、オーステナイト安定化度が不足し、オーステナイトの面積率を90%以上とすることができない。前記平均冷却速度は、2℃/sec以上とすることが好ましく、5℃/sec以上とすることがより好ましい。一方、前記平均冷却速度の上限は特に限定されないが、平均冷却速度100℃/sec以上を実現するには設備コストが非常に高くなる。そのため、前記平均冷却速度を100℃/sec以下とすることが好ましく、50℃/sec以下とすることがより好ましく、30℃/sec以下とすることがさらに好ましい。
【実施例】
【0054】
次に、実施例に基づいて、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0055】
以下の手順でレールを製造し、その特性を評価した。
【0056】
まず、表1に示す成分組成の鋼素材(鋼片)を、表2に示す加熱温度まで加熱した。次いで、加熱された前記鋼素材を表2に示した条件で熱間圧延してレール形状とした。その後、冷却を行ってレールを得た。前記冷却はレール頭部に対してのみ行った。冷却の間、レール頭部側面の表面温度を放射温度計で測定し、冷却開始から冷却停止までの間の温度変化を測定した。測定結果から、前記冷却における平均冷却速度(℃/sec)を算出した。
【0057】
なお、後述する耐摩耗性および耐疲労損傷性の評価における基準とするために、パーライト組織を有するレールを作成した(No.1)。以下、このパーライトレールを「基準材」という。
【0058】
さらに、比較のために、熱間圧延ではなく鋳造によりレール材を作製した(No.33)。前記鋳造レール材の製造は、次の手順で行った。まず、真空溶解で150kgの鋼塊を溶製した。次いで、得られた鋼塊から鋳造によってレール頭部の形状を有するレール材を得た。前記レール材に、1000℃、1時間の熱処理を施し、次いで水冷処理を施した。
【0059】
得られたレールのそれぞれについて、ミクロ組織、空隙率、耐摩耗性、および耐疲労損傷性を評価した。以下、評価方法を説明する。
【0060】
(ミクロ組織)
得られたレールから、ミクロ組織観察用のサンプルを採取した。前記サンプルは、レール頭部の表層近傍(深さ1mm)、深さ5mm、10mm、15mm、20mmおよび25mmの位置より、サンプルの観察面が圧延方向に平行となるように採取した。
【0061】
採取されたサンプルの表面を鏡面研磨した後、後方散乱電子回折(Electron backscatter diffraction、EBSD)により解析し、Inverse Pole Figureマップ(逆極点図マップ)を得た。前記EBSDによる解析は、観察範囲:1mm×1mm、加速電圧20kV、ステップサイズ1μmの条件で行った。得られたInverse Pole Figureマップより、介在物や析出物を除いた鋼の基地組織(フェライト、パーライト、オーステナイト、ベイナイト、マルテンサイト)の面積に対するオーステナイトの面積の割合(面積率)を表層近傍(深さ1mm)、深さ5mm、10mm、15mm、20mmおよび25mm位置で算出し、その平均値を採用した。
【0062】
(空隙率)
レール頭部を切断後、全面を鏡面研磨し、ノーエッチングの状態で光学顕微鏡による50倍の断面観察を行った。得られたレール頭部全断面の光学顕微鏡組織より、画像解析により空隙率を求めた。なお、ここでいう空隙とは、50倍の光学顕微鏡組織にて認識できる欠陥のことであり、ザク、ポロシティおよび引け巣が主な対象となる。
【0063】
採取されたサンプルの表面を鏡面研磨した後、後方散乱電子回折(Electron backscatter diffraction、EBSD)により解析し、Inverse Pole Figureマップ(逆極点図マップ)を得た。前記EBSDによる解析は、観察範囲:1mm×1mm、加速電圧20kV、ステップサイズ1μmの条件で行った。得られたInverse Pole Figureマップより、介在物や析出物を除いた鋼の基地組織(フェライト、パーライト、オーステナイト、ベイナイト、マルテンサイト)の面積に対するオーステナイトの面積の割合(面積率)を算出した。
【0064】
(耐摩耗性)
耐摩耗性の評価は、レールを実際に敷設して行うことが望ましいが、それでは試験に長時間を要する。そこで、本実施例では、短時間で耐摩耗性を評価することができる西原式摩耗試験機を用いて、実際の内部高硬度型レールと車輪の接触条件をシミュレートした試験により耐摩耗性を評価した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
図1は、西原式摩耗試験機による試験方法を示す模式図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。この試験は、外径30mmのレール試験片1(西原式摩耗試験片)を、
図1に示すようにタイヤ試験片2と接触させた状態で回転させることにより実施される。
【0068】
レール試験片1は、レール頭部の
図2に示す位置から採取した。一方、タイヤ試験片2は次の手順で作製した。まず、JIS E1101に規定される普通レールの頭部から直径32mmの丸棒を採取した。次に、前記丸棒に対して、ビッカース硬さ(荷重98N)がHv390、組織が焼戻しマルテンサイト組織となるように熱処理を施した。前記熱処理後の丸棒を、
図1に示す形状に加工してタイヤ試験片2とした。
【0069】
試験では、レール試験片1とタイヤ試験片2を、それぞれ
図1に矢印で示した方向に回転させ、10万回転後のレール試験片1の摩耗量(重量減少)を測定した。試験は乾燥状態で実施し、試験条件は、接触圧力:1.6GPa、滑り率:−10%、レール試験片1の回転速度:675回/min(タイヤ試験片の回転速度は750回/min)とした。測定された摩耗量(g)を表2に示した。
【0070】
また、上述した「基準材」としてのパーライトレール(No.1)の摩耗量を基準とした、耐摩耗性の向上量(%)を、表2に併記した。レール試験片の前記耐摩耗性の向上量は、{(基準材の摩耗量(g)−当該レール試験片の摩耗量(g))/(基準材の摩耗量(g))}×100で算出した。前記向上量は、10%以上であることが望ましい。
【0071】
(耐疲労損傷性)
耐疲労損傷性の評価についても、耐摩耗性の評価と同様に西原式摩耗試験機を用いて実施した。ただし、レール試験片1としては、
図3に示すように、タイヤ試験片2との接触面が曲率半径15mmの曲面である、直径30mmの試験片を使用した。前記試験片は、耐摩耗性の評価に用いたレール試験片と同様に、レール頭部から採取した。
【0072】
試験では、レール試験片1とタイヤ試験片2を、それぞれ
図3に矢印で示した方向に回転させた。試験環境は油潤滑条件とし、接触圧力:2.4GPa、滑り率:−20%、レール試験片の回転速度:600rpm(タイヤ試験片の回転速度はは750rpm)の条件で試験を行った。
【0073】
2万5千回毎にレール試験片1の表面を観察し、0.5mm以上の亀裂が発生しているかどうかを確認した。0.5mm以上の亀裂が発生した時点の回転数を、疲労損傷発生までの回転数として表2に示した。前記回転数は、耐疲労損傷性の指標(疲労損傷寿命)と見なすことができる。
【0074】
また、上述した「基準材」としてのパーライトレール(No.1)における疲労損傷発生までの回転数を基準とした、耐疲労損傷性の向上量(%)を、表2に併記した。レール試験片の前記耐疲労損傷性の向上量は、{(当該レール試験片の疲労損傷発生までの回転数−基準材の疲労損傷発生までの回転数)/(基準材の疲労損傷発生までの回転数)}×100で算出した。前記向上量は、10%以上であることが望ましい。なお、前記向上量が負の値である場合、耐疲労損傷性が基準材より劣っていることを意味する。
【0075】
表2に示した評価結果から分かるように、本発明の条件を満たすオーステナイト系レールは、基準材としてのパーライトレールに比べ、耐摩耗性と耐疲労損傷性の両者が10%以上向上していた。一方、本発明の条件を満たさない比較例のレールは、少なくとも耐摩耗性および耐疲労損傷性のいずれかが本発明に比べて劣っていた。また、本発明の条件を満たすオーステナイト系レールは、いずれも空隙率が0%であったのに対し、熱間圧延時の断面減少率が本発明の条件を満たさなかったレール(No.31、32)や鋳造で作製されたレール(No.33)では、欠陥の存在により空隙率が1〜3%と高く、その結果、耐疲労損傷性が発明例に対し大きく劣っていた。