(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、C,In,Si,Ag,Snから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有し、前記添加元素の合計含有量が25原子%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
Geの含有量が10原子%以上30原子%以下、Sbの含有量が15原子%以上35原子%以下、残部がTe及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
Geの含有量が10原子%以上30原子%以下、Sbの含有量が15原子%以上35原子%以下、前記添加元素の合計含有量が3原子%以上25原子%以下、残部がTe及び不可避不純物であることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
前記スパッタリングターゲットの断面を電子線マイクロアナライザ―で観察した場合に、前記断面における前記低酸素領域の面積率が60%以上80%以下であり、残部が前記高酸素領域であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【背景技術】
【0002】
一般に、DVD−RAMなどの相変化記録媒体や半導体不揮発メモリ(Phase Change RAM(PCRAM))などにおいては、相変化材料からなる記録膜が用いられている。この相変化材料からなる記録膜においては、レーザー光照射による加熱またはジュール熱によって、結晶/非晶質間の可逆的な相変化を生じさせて、結晶/非晶質間の反射率または電気抵抗の違いを1と0に対応させることにより、不揮発の記憶を実現している。
ここで、相変化材料からなる記録膜として、Ge−Sb−Te合金膜が広く使用されている。
【0003】
上述のGe−Sb−Te合金膜は、例えば特許文献1−5に示すように、スパッタリングターゲットを用いて成膜される。
特許文献1−5に記載されたスパッタリングターゲットにおいては、所望の組成のGe−Sb−Te合金のインゴットを作製し、このインゴットを粉砕してGe−Sb−Te合金粉とし、得られたGe−Sb−Te合金粉を加圧焼結する、いわゆる粉末焼結法によって製造されている。
【0004】
ここで、特許文献1においては、スパッタリングターゲット中に、平均直径1μm以上のポアが存在せず、平均直径0.1〜1μmのポアの個数が4000μm
2あたり100個以下と、焼結体に存在するポアの個数を制限することにより、異常放電の発生を抑制する技術が提案されている。
特許文献2においては、ガス成分である炭素、窒素、酸素、および硫黄のスパッタリングターゲット中の総量を700ppm以下に制限することが開示されている。
【0005】
また、特許文献3,4においては、スパッタリングターゲット中の酸素濃度を5000wtppm以上とすることにより、高出力でスパッタした際におけるスパッタリングターゲットの割れの発生を抑制する技術が提案されている。
さらに、特許文献5においては、スパッタリングターゲット中の酸素含有量を1500〜2500wtppmに規定するとともに酸化物の平均粒径を規定することにより、異常放電の発生を抑制し、かつ、スパッタリングターゲットの割れを抑制する技術が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載されたように、ポアの個数を制限した場合には、機械加工時に生じる応力やバッキング材へのボンディング時に生じる熱応力を緩和することができず、機械加工時やボンディング時に割れが生じるおそれがあった。
特許文献2に記載されたように、酸素含有量を低く制限した場合にも、結果的にポアの個数が減少し、機械加工時やバッキング材へのボンディング時に割れが生じるおそれがあった。
【0008】
一方、特許文献3,4のように、酸素濃度を5000wtppm以上と高く設定した場合には、スパッタ時に異常放電が発生しやすくなり、安定してスパッタ成膜をできないおそれがあった。また、ボンディング時において、熱膨張による割れの発生を抑制できないおそれがあった。
特許文献5においては、酸素含有量を規定するとともに酸化物の粒径を規定しているものの、異常放電の発生を十分に抑制できず、かつ、機械加工時やバッキング材へのボンディング時における割れの発生を十分に抑制することができないおそれがあった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、異常放電の発生を抑制することができ、かつ、機械加工時やバッキング材へのボンディング時における割れの発生を抑制することができ、安定してGe−Sb−Te合金膜を成膜可能なスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、酸素濃度が高い高酸素領域の中に、この高酸素領域よりも酸素濃度が低い低酸素領域が島状に存在することにより、機械加工時の応力やボンディング時の熱応力が高酸素領域によって緩和され、機械加工時やボンディング時における割れの発生を抑制可能であり、さらに、低酸素領域が島状に存在することによって異常放電の発生を十分に抑制可能であるとの知見を得た。特許文献1−5のスパッタリングターゲットでは、高酸素領域の中に、低酸素領域が島状に存在する構造は知られていない。
【0011】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明のスパッタリングターゲットは、GeとSbとTeを含有するスパッタリングターゲットであって、酸素濃度が高い高酸素領域と、この高酸素領域よりも酸素濃度が低い低酸素領域と、を有し、前記高酸素領域のマトリックス内に、前記低酸素領域が島状に分散した組織とされていることを特徴としている。
【0012】
本発明のスパッタリングターゲットによれば、酸素濃度が高い高酸素領域と、この高酸素領域よりも酸素濃度が低い低酸素領域と、を有し、前記高酸素領域のマトリックス内に、前記低酸素領域が島状に分散した組織とされているので、機械加工時の応力やボンディング時の熱応力が高酸素領域によって緩和され、機械加工時やボンディング時における割れの発生を抑制することができる。
一方、酸素濃度が低い低酸素領域が島状に存在することによって、スパッタ時における異常放電の発生を十分に抑制することができる。
【0013】
本発明のスパッタリングターゲットにおいては、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙が、平均密度として、0.12mm
2の範囲内に2個以上10個以下の範囲内で存在することが好ましい。
この場合、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙が、平均密度として、0.12mm
2の範囲内に2個以上存在しているので、この空隙によって、機械加工時の応力やボンディング時の熱応力が緩和され、機械加工時やボンディング時における割れの発生をさらに抑制できる。一方、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙が、平均密度として、0.12mm
2の範囲内に10個以下に制限されているので、スパッタ時における異常放電の発生をさらに抑制できる。
【0014】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、さらに、C,In,Si,Ag,Snから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有し、前記添加元素の合計含有量が25原子%以下であることが好ましい。
この場合、上述の添加元素を適宜添加することで、スパッタリングターゲット及び成膜されたGe−Sb−Te合金膜の各種特性を向上することができるため、要求特性に応じて適宜添加してもよい。そして、上述の添加元素を添加する場合には、添加元素の合計含有量を25原子%以下に制限することにより、スパッタリングターゲット及び成膜されたGe−Sb−Te合金膜の基本的特性を十分に確保することができる。
【0015】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、Geの含有量が10原子%以上30原子%以下、Sbの含有量が15原子%以上35原子%以下、残部がTe及び不可避不純物であってもよい。
あるいは、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、Geの含有量が10原子%以上30原子%以下、Sbの含有量が15原子%以上35原子%以下、前記添加元素の合計含有量が3原子%以上25原子%以下、残部がTe及び不可避不純物であってもよい。
【0016】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、前記高酸素領域の酸素濃度は10000massppm以上15000massppm以下であり、
前記低酸素領域の酸素濃度は2000massppm以上5000massppm以下であってもよい。
さらに、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、前記スパッタリングターゲットの断面を電子線マイクロアナライザ―で観察した場合に、前記断面における前記低酸素領域の面積率が60%以上80%以下であり、残部が前記高酸素領域であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、異常放電の発生を抑制することができ、かつ、機械加工時やバッキング材へのボンディング時における割れの発生を抑制することができ、安定してGe−Sb−Te合金膜を成膜可能なスパッタリングターゲットを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態であるスパッタリングターゲットについて図面を参照して説明する。
本実施形態であるスパッタリングターゲットは、例えば、相変化記録媒体や半導体不揮発メモリの相変化記録膜として用いられるGe−Sb−Te合金膜を成膜する際に用いられるものである。ただし、本発明により得られるGe−Sb−Te合金膜は、相変化記録媒体や半導体不揮発メモリの相変化記録膜として用いられるものに限定はされず、必要な場合には、他の用途に用いることも可能である。
【0020】
本実施形態であるスパッタリングターゲットは、GeとSbとTeを主成分として含有するものであり、具体的には、Geを10原子%以上30原子%以下、Sbを15原子%以上35原子%以下、残部がTe及び不可避不純物である組成を有する。
Ge含有量はより好ましくは15原子%以上かつ25原子%以下であり、さらに好ましくは20原子%以上かつ23原子%以下である。
Sb含有量はより好ましくは15原子%以上かつ25原子%以下であり、さらに好ましくは20原子%以上かつ23原子%以下である。
Te含有量はより好ましくは40原子%以上かつ65原子%以下であり、さらに好ましくは53原子%以上かつ57原子%以下である。
【0021】
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、
図1に示すように、酸素濃度が高い高酸素領域11と、この高酸素領域11よりも酸素濃度が低い低酸素領域12とを有し、高酸素領域11のマトリックス内に、低酸素領域12が島状に分散した組織とされている。低酸素領域12は高酸素領域11で分断されて、互いに独立していることが好ましい。
高酸素領域11は、例えば、酸素濃度が10000massppm以上15000massppm以下の範囲内とされている。低酸素領域12は、酸素濃度が2000massppm以上5000massppm以下の範囲内とされている。なお、5000massppm超え10000massppm未満の範囲の酸素濃度を有する領域は殆ど存在しないことが好ましい。
【0022】
高酸素領域11は、より好ましくは酸素濃度が11000massppm以上かつ14000massppm以下であり、さらに好ましくは酸素濃度が12000massppm以上かつ13000massppm以下である。
低酸素領域12は、より好ましくは酸素濃度が2500massppm以上かつ4000massppm以下であり、さらに好ましくは酸素濃度が3000massppm以上かつ3500massppm以下である。
【0023】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、その全体の酸素濃度が、2000massppm以上5000massppm以下の範囲内とされている。スパッタリングターゲット全体の酸素濃度の下限は、2500massppm以上であることがより好ましく、3000massppm以上であることがさらに好ましい。一方、スパッタリングターゲット全体の酸素濃度の上限は、4500massppm以下であることがより好ましく、4000massppm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
ここで、本実施形態においては、低酸素領域12の面積率が、高酸素領域11の面積率よりも大きくなっている。
具体的には、低酸素領域12の面積率が60%以上80%以下の範囲内とされ、残部が高酸素領域11とされている。
なお、低酸素領域12の面積率の下限は、63%以上であることが好ましく、65%以上であることがさらに好ましい。一方、低酸素領域12の面積率の上限は、75%以下であることが好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
また、低酸素領域12の面積率は、EPMAでの観察画像を、解析ソフトを用いて画像解析することで算出することができる。
【0025】
限定はされないが、EPMAでの観察画像における低酸素領域12の平均的な大きさは、同一面積の円に換算した場合に、直径が1〜20μmに相当することが好ましい。より好ましくは直径が3〜15μmであり、さらに好ましくは直径が5〜10μmである。
【0026】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙が、平均密度として、0.12mm
2の範囲内に2個以上10個以下の範囲内で存在することが好ましい。平均密度は、例えば、以下の方法で求めることができる。EPMAで観察試料の観察を行い、観察資料の中央部における任意の3箇所を300倍の倍率で観察し、0.12mm
2当たりの空隙の個数の平均値を測定する。この場合、観察した二次電子像の画像を用意し、画像処理ソフトの二値化処理によって空隙部分を抽出し、各空隙の面積Sから同面積の円の直径dを円相当径として算出し(S=πd
2より算出)、算出した円相当径の中で直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙の個数を調べてもよい。
0.12mm
2範囲内で観察される直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙の個数の下限は、平均密度として、3個以上とすることがより好ましく、4個以上とすることがさらに好ましい。
一方、0.12mm
2範囲内で観察される直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙の個数の上限は、平均密度として、9個以下とすることがより好ましく、8個以下とすることがさらに好ましい。
上述の空隙の直径は、観察された空隙の断面積を測定し、この断面積から算出された円相当径とした。
さらに好ましくは、直径1.0μm以上5.0μm以下の空隙が、平均密度として、0.12mm
2範囲内に1個以上9個以下の範囲内で存在することがより好ましい。空隙の個数の下限は、2個以上とすることがより好ましく、3個以上とすることがさらに好ましい。一方、空隙の個数の上限は、8個以下とすることがより好ましく、7個以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、GeとSbとTeの他に、必要に応じて、C,In,Si,Ag,Snから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有してもよい。上述の添加元素を添加する場合には、添加元素の合計含有量を25原子%以下とする。
なお、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて添加元素を添加する場合には、その合計含有量を20原子%以下とすることが好ましく、15原子%以下とすることがさらに好ましい。また、添加元素の下限値に特に制限はないが、各種特性を確実に向上させるためには、3原子%以上とすることが好ましく、5原子%以上とすることがさらに好ましい。
【0028】
次に、本実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法について、
図2のフロー図を参照して説明する。
【0029】
(Ge−Sb−Te合金粉形成工程S01)
まず、Ge原料とSb原料とTe原料を、所定の配合比となるように秤量する。Ge原料、Sb原料、およびTe原料は、それぞれ純度99.9mass%以上のものを用いることが好ましい。
Ge原料とSb原料とTe原料の配合比は、成膜するGe−Sb−Te合金膜における最終目標組成に応じて、適宜、設定する。
【0030】
上述のように秤量したGe原料とSb原料とTe原料を、溶解炉に装入して溶解する。Ge原料とSb原料とTe原料の溶解は、真空中あるいは不活性ガス雰囲気(例えばArガス)にて行う。真空中で行う場合には、真空度を10Pa以下とすることが好ましい。不活性ガス雰囲気で行う場合には、10Pa以下までの真空置換を行い、その後、不活性ガス(例えばArガス)を大気圧以下の圧力まで導入することが好ましい。
【0031】
得られた溶湯を鋳型に注湯して、Ge−Sb−Te合金インゴットを得る。鋳造法には、特に制限はない。
このGe−Sb−Te合金インゴットを、不活性ガス(例えばArガス)の雰囲気中で粉砕し、平均粒径が0.1μm以上120μm以下のGe−Sb−Te合金粉(原料粉)を得る。Ge−Sb−Te合金インゴットの粉砕方法に特に制限はないが、本実施形態では、振動ミル装置を用いることができる。
【0032】
(酸素濃度調整工程S02)
次に、得られたGe−Sb−Te合金粉を、室温の大気雰囲気で20時間以上30時間以下の範囲内で保持する。これにより、Ge−Sb−Te合金粉の表層を酸化させて、酸化層を形成し、Ge−Sb−Te合金粉の酸素濃度を調整する。前記酸化温度はより好ましくは15℃以上かつ30℃以下であり、さらに好ましくは20℃以上かつ25℃以下とされる。
大気雰囲気で保持した後のGe−Sb−Te合金粉における酸素濃度は、合金粉の全質量に対して2800massppm以上4500massppm以下の範囲内となることが好ましい。大気雰囲気で保持した後のGe−Sb−Te合金粉における酸素濃度の下限は、2900massppm以上であることがより好ましく、3000massppm以上であることがさらに好ましい。一方、大気雰囲気で保持した後のGe−Sb−Te合金粉における酸素濃度の上限は、4200massppm以下であることがより好ましく、4000massppm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
(粉末混合工程S03)
次に、上述の添加元素を添加する場合には、酸素濃度を調整したGe−Sb−Te合金粉に、前記添加元素を有する粉末(一部または全部の添加元素の合金粉末および/または各添加元素の粉末)を混合する。混合方法に特に制限はないが、本実施形態では、ボールミル装置を用いることができる。
【0034】
(焼結工程S04)
次に、上述のようにして得られた原料粉を、成形型に充填し、加圧しながら加熱して焼結し、焼結体を得る。なお、焼結方法としては、ホットプレス、あるいは、HIP等を適用することができる。
この焼結工程S04においては、280℃以上350℃以下の低温領域で1時間以上6時間以下保持し、原料粉表面の水分を除去し、その後560℃以上590℃以下の焼結温度まで昇温して6時間以上15時間以下保持し、焼結を進行させる。
【0035】
ここで、焼結工程S04における低温領域での保持時間が1時間未満では、水分の除去が不十分なため、得られた焼結体における酸素濃度が高くなるおそれがある。一方、低温領域での保持時間が6時間を超えると、Ge−Sb−Te合金粉の表層に形成された酸化層が変質してしまい、高酸素領域を形成することができなくなるおそれがある。
そこで、本実施形態では、低温領域での保持時間を1時間以上6時間以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S04における低温領域での保持時間の下限は1.5時間以上とすることが好ましく、2時間以上とすることがさらに好ましい。一方、焼結工程S04における低温領域での保持時間の上限は5.5時間以下とすることが好ましく、5時間以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
また、焼結工程S04における焼結温度での保持時間が6時間未満では、焼結が不十分となり、機械強度が不足し、取り扱い時やスパッタ時に割れが生じるおそれがある。一方、焼結工程S04における焼結温度での保持時間が15時間を超えると、焼結が必要以上に進行してしまうおそれがあった。
そこで、本実施形態では、焼結工程S04における焼結温度での保持時間を、6時間以上15時間以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S04における焼結温度での保持時間の下限は7時間以上とすることが好ましく、8時間以上とすることがさらに好ましい。一方、焼結工程S04における焼結温度での保持時間の上限は14時間未満とすることが好ましく、12時間未満とすることがさらに好ましい。
【0037】
(機械加工工程S05)
次に、得られた焼結体に対して、所定サイズとなるように、機械加工を行う。
【0038】
以上の工程により、本実施形態であるスパッタリングターゲットが製造される。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態であるスパッタリングターゲットによれば、
図1に示すように、酸素濃度が高い高酸素領域11と、この高酸素領域11よりも酸素濃度が低い低酸素領域12とを有し、高酸素領域11のマトリックス内に、低酸素領域12が島状に分散した組織とされているので、機械加工時の応力やボンディング時の熱応力が高酸素領域11によって緩和され、機械加工時やボンディング時における割れの発生を抑制できる。一方、酸素濃度が低い低酸素領域12が存在することによって、スパッタ時における異常放電の発生を十分に抑制できる。
【0040】
さらに、本実施形態において、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙が、平均密度として、0.12mm
2の範囲内に2個以上10個以下の範囲内で存在する場合には、空隙によって、機械加工時の応力やボンディング時の熱応力が一層緩和され、機械加工時やボンディング時における割れの発生をさらに抑制できるとともに、空隙に起因したスパッタ時における異常放電の発生を抑制できる。
【0041】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、さらに、C,In,Si,Ag,Snから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有し、前記添加元素の合計含有量が25原子%以下とされている場合には、スパッタリングターゲット及び成膜されたGe−Sb−Te合金膜の各種特性を向上することができるとともに、スパッタリングターゲット及び成膜されたGe−Sb−Te合金膜の基本的特性を十分に確保することができる。
例えば、本実施形態のGe−Sb−Te合金膜は記録膜として使用されるものであることから、記録膜として適切な化学的、光学的、電気的応答が得られるように、上述の添加元素を適宜添加してもよい。
【0042】
さらに、本実施形態においては、低酸素領域12の面積率が、高酸素領域11の面積率よりも大きくなっているので、スパッタ時における異常放電の発生をさらに抑制することができる。
また、低酸素領域12の面積率を60%以上とすることで、スパッタ時における異常放電の発生をさらに抑制することができる。一方、低酸素領域12の面積率を80%以下とすることで、高酸素領域11の面積率が確保され、機械加工時の応力やボンディング時の熱応力を高酸素領域11によって確実に緩和することができ、機械加工時やボンディング時における割れの発生をさらに確実に抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、酸素濃度調整工程S02において、得られたGe−Sb−Te合金粉を、室温の大気雰囲気で20時間以上30時間以下の範囲内で保持し、Ge−Sb−Te合金粉の表層を酸化させて、酸化層を形成し、Ge−Sb−Te合金粉の酸素濃度を調整しているので、高酸素領域11のマトリックス内に低酸素領域12が島状に分散した組織の焼結体を安定して製造することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0046】
(スパッタリングターゲット)
溶解原料として、それぞれ純度99.9mass%以上のGe原料,Sb原料,およびTe原料を準備した。これらGe原料,Sb原料,Te原料を、表1に示す配合比で秤量した。秤量したGe原料とSb原料とTe原料を、溶解炉に装入し、常圧のArガス雰囲気中で溶解し、得られた溶湯を鉄製の鋳型に注湯して、常温まで自然冷却させてGe−Sb−Te合金インゴットを得た。インゴットのサイズは90mm×50mm×40mmとした。
【0047】
得られたGe−Sb−Te合金インゴットを、常圧のArガス雰囲気中で振動ミルを用いて粉砕し、90μmの篩にかけて通過したGe−Sb−Te合金粉(原料粉)を得た。得られたGe−Sb−Te合金粉に対して、表2に示す条件で、酸素量を調整した。表1に示す添加元素を添加する場合には、大気雰囲気で保持した後のGe−Sb−Te合金粉に所定量の添加元素の粉を混合した。
【0048】
得られた原料粉を、カーボン製のホットプレス用成形型に充填し、5Paの真空雰囲気で、表2に示す温度、保持時間、加圧圧力で保持した後、表2に示す焼結温度、焼結温度での保持時間、および加圧圧力で、加圧焼結(ホットプレス)を実施し、焼結体を得た。得られた焼結体を機械加工し、評価用のスパッタリングターゲット(126mm×178mm×6mm)を製造した。そして、以下の項目について評価した。
【0049】
(組織)
得られたスパッタリングターゲットから観察試料を採取し、断面をEPMA(電子線マイクロアナライザー)により観察し、
図1に示すように、高酸素領域のマトリックス内に低酸素領域が島状に分散しているか否かを確認した。前記観察試料としては、評価用のスパッタリングターゲットの特定位置:各辺の中央部で外周部分から10mmの位置から4個の10mm×10mm×6mmの試料片をそれぞれ切り出して使用した。使用したEPMAの機種名はJXF−8500Fであり、半定量分析の分析能力は3nm角である。
観察は1000倍の倍率とし、分光器をスキャンさせてX線スペクトルの収集を行った。EPMAの半定量分析により、酸素濃度が2000massppm以上5000massppm以下の範囲内の領域を「低酸素領域」とし、酸素濃度が10000massppm以上15000massppm以下の範囲内の領域を「高酸素領域」として同定した。分析方法は、280μm×380μmの範囲での面分析である。
【0050】
そして、表3においては、高酸素領域のマトリックス内に低酸素領域が島状に分布している組織の場合には「〇」、上述の組織を有していない場合(例えば、低酸素領域あるいは高酸素領域のみが存在する場合、低酸素領域と高酸素領域がそれぞれ局所的に存在する場合、低酸素領域のマトリックス内に高酸素領域が島状に分散している場合)には「×」と記載した。
【0051】
(空隙)
EPMAで前記観察試料の観察を行い、観察資料の中央部における任意の3箇所を300倍の倍率で観察し、0.12mm
2当たりの空隙の個数の平均値を測定した。まず観察した二次電子像の画像を用意し、画像処理ソフトの二値化処理によって空隙部分を抽出し、各空隙の面積Sから同面積の円の直径dを円相当径として算出した(S=πd
2より算出)。そして算出した円相当径の中で直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙の個数を調べた。評価結果を表3に示す。
【0052】
(スパッタリングターゲットの密度)
作製したスパッタリングターゲットから採取した試験片について、ノギスを用いて寸法を測定するとともに電子天秤で重量を測定し、実測密度を算出した。
スパッタリングターゲットの理論密度は、スパッタリングターゲットの配合比の組成から、次のようにして算出した。Ge:Sb:Te:(添加元素)のモル比がa:b:c:dとした場合において、Geがaモルあるときの重量Waを算出し、重量Waと金属Geの密度から、Geがaモルあるときの体積Vaを算出する。同様に、Sbがbモルあるときの重量Wb及び体積Vb、Teがcモルあるときの重量Wc及び体積Vc、(添加元素)がdモルあるときの重量Wd及び体積Vd、を算出する。そして、(各元素の重量の総和=Wa+Wb+Wc+Wd)を(各元素の体積の総和=Va+Vb+Vc+Vd)で割ることにより、理論密度を算出した。
得られた理論密度と実測密度から、以下の式によって、相対密度を算出した。評価結果を表3に示す。
(相対密度)=(実測密度)/(理論密度)×100(%)
【0053】
(酸素濃度)
スパッタリングターゲットの加工時の破材を粉末状に粉砕し、この粉末から測定試料を採取し、ガス分析を実施した。測定結果を表3に示す。
ガス分析は、試料を入れた黒鉛るつぼを高周波加熱し、不活性ガス中で融解させ、赤外線吸収法にて検出して分析を行った。
【0054】
(機械加工時の割れ)
上述の焼結体を、旋盤を用いて回転数250rpm、送り0.1mmの条件で加工し、加工時におけるチッピングやクラックの発生状況を確認した。
チッピングやクラックが確認されなかったものを「〇」、チッピングやクラックが確認されたがスパッタ可能な場合を「△」、チッピングやクラックによってスパッタが不可能である場合を「×」と評価した。
【0055】
(ボンディング時の割れ)
上述のスパッタリングターゲットを、Cu製のバッキングプレートにInはんだを用いてボンディングした。なお、ボンディングは、加熱温度を200℃、印加圧力を3kg、冷却を自然冷却とした条件で行った。そして、ボンディングにおいて割れが確認されなかったものを「〇」、ボンディングにおいて割れが確認されたものを「×」と評価した。
【0056】
(異常放電)
上述のスパッタリングターゲットを、Cu製のバッキングプレートにInはんだを用いてボンディングした。これを、マグネトロンスパッタ装置に取り付け、1×10
−4Paまで排気した後、Arガス圧0.3Pa、投入電力DC500W、ターゲット−基板間距離70mmの条件で、スパッタを実施した。
スパッタ時の異常放電回数を、MKSインスツルメンツ社製DC電源(型番:RPDG−50A)のアークカウント機能により、放電開始から1時間の異常放電回数として計測した。評価結果を表3に示す。
【0057】
(抗折強度)
上述のスパッタリングターゲットから測定試料を採取し、JIS R 1601規格に基づいて三点曲げ強度を測定した。評価結果を表3に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
Ge−Sb−Te合金粉を、大気雰囲気中にて350℃で6時間保持した比較例1においては、Ge−Sb−Te合金粉における酸素濃度が6100massppmとなった。焼結後の組織は、低酸素領域のマトリックス内に高酸素領域が分散した組織となった。なお、高酸素領域の酸素量は58000massppmと非常に高くなっており、低酸素領域の一部においてはGeO
2が確認された。
そして、この比較例1においては、ボンディング時に割れが確認された。このため、異常放電の発生回数については評価しなかった。
【0062】
Ge−Sb−Te合金粉に対して酸素濃度の調整処理を行わなかった比較例2においては、Ge−Sb−Te合金粉における酸素濃度が1000massppmとなった。焼結後の組織は、低酸素領域のみが存在する組織となった。また、焼結時の加圧圧力を高く設定することにより、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙の個数が0個とされた。
そして、この比較例2においては、機械加工時、及び、ボンディング時に割れが確認された。このため、異常放電の発生回数については評価しなかった。
【0063】
Ge−Sb−Te合金粉を、大気雰囲気中にて350℃で1時間保持した比較例3においては、Ge−Sb−Te合金粉における酸素濃度が2900massppmとなった。焼結後の組織は、低酸素領域のマトリックス内に高酸素領域が分散した組織となった。なお、高酸素領域の酸素量は45000massppmと非常に高くなっており、低酸素領域の一部においてはGeO
2が確認された。
そして、この比較例3においては、ボンディング時に割れが確認された。このため、異常放電の発生回数については評価しなかった。
【0064】
これに対して、Ge−Sb−Te合金粉を、大気雰囲気中にて室温で24時間保持した本発明例1−9においては、Ge−Sb−Te合金粉における酸素濃度が3100〜3500massppmとなった。焼結後の組織は、高酸素領域のマトリックス内に低酸素領域が分散した組織となった。
そして、これら本発明例1−9においては、ボンディング時に割れが確認されなかった。また、異常放電の発生回数も少なく抑えられていた。
【0065】
なお、焼結時の加圧圧力を30MPaとした本発明例3においては、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙の個数が0個となり、機械加工時に微小な割れが確認された。このため、スパッタ時には、微小な割れに起因して異常放電の発生回数が比較的多くなった。
したがって、機械加工時の割れの発生を十分に抑制するためには、直径0.5μm以上5.0μm以下の空隙の個数が2個以上となるように、焼結時の加圧圧力を設定することが好ましい。
本発明例6は、空隙(ポア)の個数が12個であったが、異常放電の回数は12回であり、他の本発明例と比べて多かったが許容できる範囲ではあった。
【0066】
以上のように、本発明例によれば、異常放電の発生を十分に抑制することができ、かつ、機械加工時やバッキング材へのボンディング時における割れの発生を十分に抑制することができ、安定してGe−Sb−Te合金膜を成膜可能なスパッタリングターゲットを提供可能であることが確認された。