特許第6801794号(P6801794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801794
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/72 20060101AFI20201207BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20201207BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20201207BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   G01N30/72 G
   G01N27/62 X
   H01J49/04
   H01J49/10
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-541573(P2019-541573)
(86)(22)【出願日】2017年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2017033297
(87)【国際公開番号】WO2019053850
(87)【国際公開日】20190321
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 航
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−14616(JP,A)
【文献】 特開2016−1192(JP,A)
【文献】 特開2015−38503(JP,A)
【文献】 特表2016−530680(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0179511(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
G01N 27/62
H01J 49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) カラムと、
b) 前記カラムに大気圧よりも高い圧力で移動相を送液する送液部と、
c) 前記カラムの出口に一端が接続された第1配管と、
d) 前記第1配管の他端の端面との間に接続ギャップを挟んで一端が接続され、他端が大気圧以下の圧力であるイオン化室に配置された第2配管と
を備え、前記接続ギャップに電圧を印加することにより前記カラムからの送出液に含まれる試料の成分を帯電させる液体クロマトグラフであって、
前記カラムからの送出液が前記移動相の飽和蒸気圧以上の圧力を維持したまま前記接続ギャップを通過するように前記第1配管及び前記第2配管の内径及び長さが定められており、
前記第1配管の長さが20mm以上200mm以下、内径が50μm以上100μm以下であり、
前記第2配管の長さが30mm以上100mm以下、内径が20μm以下である
ことを特徴とする液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラムからの送出液に含まれる成分をエレクトロスプレーイオン化によりイオン化して測定する液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる成分を分析する装置として、液体クロマトグラフが広く用いられている。液体クロマトグラフでは、所定の圧力(数MPa〜数十MPa)で送液される移動相の流れに乗せて液体試料をカラムに導入し、該液体試料に含まれる各種成分を時間的に分離した後、検出器で測定する。検出器として質量分析計を有する液体クロマトグラフは、液体クロマトグラフ質量分析装置と呼ばれる。液体クロマトグラフ質量分析装置では、液体クロマトグラフのカラムから順次送出される各種成分を質量分析計のイオン源に導入してイオン化し、生成されたイオンを質量電荷比ごとに測定する。
【0003】
液体クロマトグラフ質量分析装置で用いられるイオン化法の1つに、液体クロマトグラフのカラムからの送出液を帯電させて大気圧であるイオン化室の内部に噴霧することにより各種成分をイオン化するエレクトロスプレーイオン化(ESI)法がある。ESI法では、高電圧を印加したESIスプレイヤーにカラムからの送出液を導入して該送出液を帯電させ、ESIスプレイヤーの先端部において帯電した送出液にネブライザガスを吹き付けてイオン化室の内部に噴霧しイオン化する。
【0004】
液体クロマトグラフ質量分析装置において、試料に含まれる微量の成分を高感度で測定するために、最近ではナノESIやマイクロESIと呼ばれるものが広く用いられている。これらは、細径のカラムを使用するとともに移動相の流量をnL/minレベルからμL/minレベルに抑えることにより、ESIスプレイヤーに導入される液体(カラムからの送出液)の単位時間当たりの量を抑えることで、帯電効率を高めたり脱溶媒させやすくしたりしてイオン化効率を高めたものである。
【0005】
ナノESIやマイクロESIでは、外径が数百μm、内径が数十μmという細径の配管が用いられる。こうした配管には、微細加工が容易であることや物質の吸着性が低いという特性を有する素材、例えばヒューズドシリカ(溶融石英)が用いられている。
【0006】
ヒューズドシリカは絶縁物であるため、ヒューズドシリカからなる配管の外部から該配管の中を流れる液体を帯電させることはできない。そこで、従来、導電性材料からなる接続部材の内部に、二分したESIスプレイヤーの配管を、両端を離間させて挿入し、該接続部材に高電圧を印加することにより、前記離間部分でカラムからの送出液を帯電させている(例えば特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-14616号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"コネクター・アダプター・ユニオン",[online],エムエス機器株式会社,[平成29年8月9日検索],インターネット<URL:http://www.technosaurus.co.jp/categories/view/194>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者が、上記のような、導電性接続部材を介してヒューズシリカ配管内部の液体を帯電させる構成を有するナノESIやマイクロESIを用いた測定を行ったところ、液体クロマトグラフのポンプから一定流量の液体試料を質量分析装置に注入し続けるインフュージョン分析であるにも関わらず、該液体試料に含まれる成分由来のイオンの測定強度が間欠的に低下する場合があり、このような現象は数百uL/minのようなセミミクロ流量での分析では生じず、たとえば10μL/min以下といった低流量において顕著に生じることが分かった。このように、従来の液体クロマトグラフを使用した場合、ナノESIやマイクロESIを用いた分析において、液体試料に含まれる各種成分に由来するイオンの強度を正しく測定することができないという問題があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、カラムからの送出液に含まれる成分をエレクトロスプレーイオン化によりイオン化して測定する場合において、該送出液に含まれる成分由来のイオンの強度を正しく測定することができる液体クロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
まず、上記の問題が起こる原因に関する本発明者の考察を説明する。
【0012】
液体クロマトグラフでは、数MPa〜数十MPaの圧力で移動相がカラムに送液される。また、ナノESIやマイクロESIを用いる液体クロマトグラフでは、カラムの出口が細径の配管を通じて大気圧に開放された質量分析計のイオン化室に接続されている。従って、数十MPaの高圧で送液されカラムに導入された移動相の圧力は、カラムとその出口に接続された配管を通ってイオン化室に至るまでの間に大気圧(0.1MPa)まで低下する。その間の移動相の圧力低下の大きさ(勾配)は、該移動相が通過する流路の流路抵抗に依存する。
【0013】
カラム内の流路には固定相が塗布された担体や吸着剤などが密に充填されている。一方、カラムの出口からイオン化室に至る流路は中空である。従って、カラム内の流路の流路抵抗に比べてカラムの出口からイオン化室に至る流路の流路抵抗は小さい。そのため、数十MPaで送液された移動相の圧力は、カラムの内部ではあまり低下せず、カラムから送出され中空の流路に達した時点で急激に低下する。
【0014】
移動相として用いられる物質は常温常圧で液体である水やアセトニトリル等であり、これらの飽和蒸気圧はいずれも大気圧未満である。しかし、液体の圧力が急激に低下して局所的に飽和蒸気圧を下回ると、液体の内部に気泡が発生する。こうした現象は「フラッシュ蒸発」や「キャビテーション」と呼ばれる。本発明者は、カラムからの送出液についてもこの現象が起こり、カラムからの送出液の内部に気泡が発生している可能性があると考えた。そして、気泡を含んだ送出液がESIスプレイヤーに導入されて前記接続部材に到達すると、該接続部材に印加された高電圧が気泡に遮られて送出液が帯電しなくなりイオン生成効率が低下することが、イオンの測定強度が低下した原因であると考え、また、低流量の送液であるほど該気泡が前記接続部材内に存在する時間が長くなりイオンが帯電しなくなる時間が長くなるために、低流量であるほどイオン強度の間欠的な低下が顕著に現れるものと考え、本発明に想到した。
【0015】
このような考察に基づき、上記課題を解決するために成された本発明は、
a) カラムと、
b) 前記カラムに大気圧よりも高い圧力で移動相を送液する送液部と、
c) 前記カラムの出口に一端が接続された第1配管と、
d) 前記第1配管の他端の端面との間に接続ギャップを挟んで一端が接続され、他端が大気圧以下の圧力であるイオン化室に配置された第2配管と
を備え、前記接続ギャップに電圧を印加することにより前記カラムからの送出液に含まれる試料の成分を帯電させる液体クロマトグラフであって、
前記カラムからの送出液が前記移動相の飽和蒸気圧以上の圧力を維持したまま前記接続ギャップを通過するように前記第1配管及び前記第2配管の内径及び長さが定められており、
前記第1配管の長さが20mm以上200mm以下、内径が50μm以上100μm以下であり、
前記第2配管の長さが30mm以上100mm以下、内径が20μm以下である
ことを特徴とする。
【0016】
従来の液体クロマトグラフにおいてカラムからの送出液の圧力が急激に低下するのは、カラム内での流路抵抗と、カラム出口に接続される第1配管及び第2配管の流路抵抗の差が大きいためである。そこで、本発明に係る液体クロマトグラフでは、カラムからの送出液が移動相の飽和蒸気圧以上の圧力を維持したまま接続ギャップを通過するように第1配管及び前記第2配管の内径及び長さを定める。より具体的には、従来の液体クロマトグラフよりも第1配管及び/又は第2配管の内径を小さくする又は/及び長さを長くして、カラム内の流路抵抗とそれよりも下流側の流路抵抗の差を小さくする。そして、カラムからの送出液の圧力の急激な低下を抑制して、カラムからの送出液を、飽和蒸気圧以上の圧力を維持したままで(即ち気泡を生じさせることなく)接続ギャップに導入する。これにより、該送出液の内部に気泡が発生するのを防ぎ、該接続ギャップ内での帯電効率を安定化させてイオンを一定の効率で生成し、正しい強度でイオンを測定することができる。
【0017】
液体クロマトグラフにおいて、カラムから送出される液体の圧力低下の程度は測定条件(具体的には送液部による送液圧力、カラムの種類、及び液体の種類など)によって異なる。そのため、第1配管及び第2配管の具体的な内径及び長さは、それらの測定条件を踏まえて決めれば良い。
【0018】
液体クロマトグラフの配管内での移動相の流れは、送出液の密度ρと粘性μ、流速U、配管の長さdをパラメータとする以下の式(1)で求められるレイノルズ数Reの値から円管内層流に分類される。そして、円管内層流における配管抵抗の大きさΔPは、流量Q、配管の内径R、及び配管の長さLから求めることができる。式(2)から、配管の内径Rを小さくし、配管長さLを長くすると配管抵抗を大きくすることができる。従って、これらの値を調整することにより、フラッシュ蒸発やキャビテーションを抑制し、カラムからの送出液の帯電効率を安定化させて、カラムからの送出液に含まれる成分由来のイオンの強度を正しく測定することができる。
【数1】

【数2】
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る液体クロマトグラフを用いることにより、カラムからの送出液に含まれる成分由来のイオンの強度を正しく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る液体クロマトグラフの一実施例である液体クロマトグラフ質量分析装置全体の要部構成図。
図2】本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置における移動相の流路を模式的に示す図。
図3】従来のマイクロESIを用いたアルプラゾラムのインフュージョン分析によりプロダクトイオンを測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る液体クロマトグラフの一実施例である液体クロマトグラフ質量分析装置について、以下、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置は、大別して、液体クロマトグラフ1、質量分析計2、及びそれらの動作を制御する制御部(図示なし)から構成されている。
【0023】
液体クロマトグラフ1は、移動相が貯留された移動相容器10と、移動相を吸引して一定流量で送給するポンプ11と、移動相中に所定量の試料液を注入するインジェクタ12と、試料液に含まれる各種化合物を時間方向に分離するカラム13とを備えている。また、液体クロマトグラフ1には、インジェクタ12に複数の液体試料を所定の順番及びタイミングで1つずつ導入するオートサンプラ14が接続されている。
【0024】
質量分析計2は、略大気圧であるイオン化室20と真空ポンプ(図示なし)により真空排気された高真空の分析室23との間に、段階的に真空度が高められた第1中間真空室21と第2中間真空室22を備えた多段差動排気系の構成を有している。イオン化室20には、試料溶液に電荷を付与しながら噴霧するエレクトロスプレイイオン化(ESI: ElectroSpray Ionization)プローブ201が設置されている。イオン化室20と第1中間真空室21との間は細径の加熱キャピラリ202を通して連通している。第1中間真空室21と第2中間真空室22との間は頂部に小孔を有するスキマー212で隔てられ、第1中間真空室21と第2中間真空室22にはそれぞれ、イオンを収束させつつ後段へ輸送するための第1イオンガイド211、第2イオンガイド221が設置されている。分析室23には、多重極イオンガイド(q2)233が内部に設置されたコリジョンセル232を挟み、その前段側にはイオンを質量電荷比に応じて分離する前段四重極マスフィルタ(Q1)231が設置されており、後段側には、同じくイオンを質量電荷比に応じて分離する後段四重極マスフィルタ(Q3)234及びイオン検出器235が設置されている。コリジョンセル232の内部には、測定条件に合わせてアルゴン、窒素ガスなどの衝突誘起解離(CID: Collision-induced dissociation)ガスが適宜に供給される。
【0025】
質量分析計2では、選択イオンモニタリング(SIM: Selected Ion Monitoring)測定、MS/MSスキャン測定(プロダクトイオンスキャン測定)、多重反応モニタリング(MRM: Multiple Reaction Monitoring)測定等を行うことができる。SIM測定では、前段四重極マスフィルタ(Q1)231ではイオンを選別せず(マスフィルタとして機能させず)、後段四重極マスフィルタ(Q3)234を通過させるイオンの質量電荷比を固定してイオンを検出する。
【0026】
一方、MS/MSスキャン測定及びMRM測定では、前段四重極マスフィルタ(Q1)231及び後段四重極マスフィルタ(Q3)234の両方をマスフィルタとして機能させる。前段四重極マスフィルタ(Q1)231ではプリカーサイオンとして設定された質量電荷比のイオンのみを通過させる。また、コリジョンセル232の内部にCIDガスを供給し、プリカーサイオンを開裂させてプロダクトイオンを生成する。MS/MSスキャン測定では後段四重極マスフィルタ(Q3)234を通過させるイオンの質量電荷比を走査しつつ、MRM測定では後段四重極マスフィルタ(Q3)234を通過させるイオンの質量電荷比を固定して、プロダクトイオンを検出する。なお、本実施例では質量分析計をトリプル四重極型としたが、他の構成(シングル四重極型、イオントラップ−飛行時間型等)の質量分析計を用いてもよい。
【0027】
本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置は、カラム13の出口からイオン化室20まで、液体試料を含んだ移動相が流通する配管の構成(設計思想)に特徴を有する。この点について、以下、説明する。インジェクタ12から注入される液体試料は移動相に比べて微量であり、液体試料が注入された後の移動相の液体の特性(飽和蒸気圧、粘性等)は移動相の特性の特性とほぼ同じであることから、以下の説明では純粋な移動相だけでなく、液体試料が注入された後の移動相についても、便宜上、「移動相」と呼ぶ。
【0028】
図2は、液体クロマトグラフ1のポンプ11からイオン化室20に至る流路と各流路を流れる移動相の圧力変化を模式的に示したものである。ポンプ11から送液された移動相はカラム13を通過し、その出口に接続されたESIプローブ201に導入される。ESIプローブ201の内部では、入口側配管201aとESIキャピラリ201bが両流路の間に接続ギャップを挟んで配管接続用治具201cにより接続されている。入口側配管201aはポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)からなる配管であり、ESIキャピラリ201bはヒューズドシリカからなる配管である。これらはいずれも絶縁物である。そのため、ステンレス鋼(SUS)等の導電性材料からなる配管接続用治具201cを用い、該配管接続用治具201cに電圧(ESI電圧)を印加することによって、入口側配管201aとESIキャピラリ201bの間に形成された接続ギャップで移動相を帯電させる。図2では、分かりやすく示すために、入口側配管201aとESIキャピラリ201bの外径を同一にしているが、ESIキャピラリ201bの外径が入口側配管201aの外径よりも小さい場合には、ESIキャピラリ201bの外周にPEEK等からなる保護管を取り付けることにより入口側配管201aと同じ外径にする。
【0029】
上述のとおり、液体クロマトグラフ1では、ポンプ11により移動相が送液され、液体クロマトグラフ1内の送液配管15を通ってカラム13に導入される。ポンプ11による移動相の送液時の圧力は、一般に数MPa〜数十MPaである。従って、送液配管15内での移動相の圧力も数MPa〜数十MPaである。
【0030】
液体クロマトグラフ1のカラム13を通過した移動相は、ESIプローブ201の入口側配管201aを通過し、接続ギャップで帯電したあと、ESIキャピラリ201bを通ってイオン化室20に到達する。ESIキャピラリ201bの出口では、ESIキャピラリ201bの外周に設けられたネブライザガス流路(図示なし)から送給される窒素ガス等のネブライザガスが、帯電した移動相に吹き付けられる。これによりカラム13から送出された移動相が微小な帯電液滴としてイオン化室20内に噴霧される。イオン化室20内に噴霧された帯電液滴は脱溶媒しつつイオン化し、加熱キャピラリ202を通って第1中間真空室21、第2中間真空室22、分析室23へと順に進入して分析に供される。
【0031】
イオン化室20内は大気圧である。従って、ポンプ11によって数MPa〜数十MPaの圧力で送液され、同圧力範囲で送液配管15を通過した移動相の圧力は、カラム13、入口側配管201a、及びESIキャピラリ201bを通ってイオン化室20に到達するまでの間に大気圧(0.1MPa)まで低下する。
【0032】
液体クロマトグラフ1のカラム13、その出口に接続されたESIプローブ201の入口側配管201a及びESIキャピラリ201bを通過する間の移動相の圧力低下の大きさ(勾配)は、該移動相が通過する各流路の流路抵抗に依存する。カラム13内の流路には固定相が塗布された担体や吸着剤などが密に充填されている。一方、カラム13の出口からイオン化室20に至る流路(入口側配管201aとESIキャピラリ201b)は中空である。従って、カラム13内の流路の流路抵抗に比べてカラム13の出口からイオン化室20に至る流路の流路抵抗は大幅に小さい。そのため、数MPa〜数十MPaで送液された移動相の圧力は、カラム13の内部ではあまり低下せず、カラム13から送出され中空の入口側配管201aに達した時点で急激に低下する。図2に各流路での圧力変化の様子を模式的に示す。なお、図2には次に説明する測定時と同じ圧力(15MPa)で移動相を送液した場合の圧力変化の例を示している。
【0033】
ここで、本発明者が従来のマイクロESIを用いて行った実験(MRM測定)の結果を説明する。試料にはアルプラゾラム(C17H13ClN4)を用いた。この測定では、水(20℃での飽和蒸気圧:2.3kPa)とアセトニトリル(20℃での飽和蒸気圧:9.8kPa)を1:1で混合した移動相の溶液にアルプラゾラムを混合し、ポンプ11により約15MPaの圧力で送液した。前段四重極マスフィルタ(Q1)231では質量電荷比(m/z)390.5のイオンをプリカーサイオンとして選択し、衝突エネルギーを-26.0eVに設定したコリジョンセル232に導入して開裂させることによりプロダクトイオンを生成し、後段四重極マスフィルタ(Q3)233では質量電荷比(m/z)281.10のイオンを選択して、その強度を測定した。なお、液体クロマトグラフ質量分析装置を用いる通常の分析では、ポンプ11により前記移動相の溶液のみを送液し、インジェクタ12により所定量のアルプラゾラムを注入する構成となるが、本実験では間欠的なイオン強度低下を観測するために、移動相の溶液にアルプラゾラムを混合した溶液を作成し、その溶液をポンプ11により送液するインフュージョン分析を行った。
【0034】
上記の実験では、アルプラゾラムをインフュージョン分析で移動相に注入しているため、本来はプロダクトイオンが一定の強度で測定されるはずである。しかし、実際には、図3に示すとおり、間欠的にイオンの測定強度が低下した。
【0035】
移動相として用いた水やアセトニトリルは常温常圧で液体であり、その飽和蒸気圧は大気圧(0.1MPa)よりも低い。従って、通常、移動相の圧力が数MPaに低下してもその内部に気泡が発生することはない。しかし、上述のとおり液体クロマトグラフ1のカラム13から送出された液体の圧力が急激に低下するため、局所的に飽和蒸気圧を下回ってフラッシュ蒸発やキャビテーションと呼ばれる現象が起こり、移動相の内部に気泡が生じると考えられる。そして、気泡を含んだ移動相が接続ギャップに導入され、この気泡によって移動相の帯電が妨害され、イオン生成効率が低下した結果、イオンの測定強度が間欠的に低下したと考えられる。
【0036】
流体力学において、粘性をもつ流体(液体や気体)の流れを特徴づける指標の1つに、レイノルズ数と呼ばれるものがある。レイノルズ数Reは次式により求められる無次元量の値である。レイノルズ数Reの値が10以下である流体の流れは層流とされ、レイノルズ数Reの値が2000以上になると完全乱流とされる。
【数1】
【0037】
上式において、ρは流体の密度、μは流体の粘性、Uは流速、dは配管の長さである。一般的な液体クロマトグラフのパラメータを用いて上式からレイノルズ数Reを求めると約5であり、これは流体の流れを特徴付ける基準値の1つである2000よりも十分に小さい。従って、液体クロマトグラフの配管内での移動相の流れは層流に分類される。また、液体クロマトグラフの配管断面は一般に円形であるから、配管内での移動相の流れは円管内層流として扱うことができる。
【0038】
円管内層流では、配管抵抗ΔPは次式で求められる。
【数2】
【0039】
上式において、Qは流量、Rは配管の内径、Lは配管の長さである。移動相の内部に気流が発生する原因はフラッシュ蒸発やキャビテーションであり、これらを抑制するには、図2下部に一点鎖線で示すように、カラム13の内部とカラム13の出口からイオン化室20に至る流路(入口側配管201aとESIキャピラリ201b)の配管抵抗の差を小さくすればよい。上式から、従来の構成よりも、入口側配管201a及び/又はESIキャピラリ201bの内径Rを小さくするか、あるいは長さLを長くすれば配管抵抗を大きくすることができ、カラム13の内部の配管抵抗との差を小さくすることができる。
【0040】
しかし、カラム13の出口以降に接続される配管を長くするとデッドボリュームが大きくなるため、その分だけカラム13で分離された各種成分が流路内で拡散しやすくなり、分析精度が低下する可能性がある。また、上式から、配管抵抗は配管の長さに比例し、配管の内径の4乗の逆数に比例する。つまり、配管の内径を小さくする方が配管を長くするよりも効率的に配管抵抗を大きくすることができる。そこで、配管の内径を小さくすることにより配管抵抗を大きくすることが好ましい。
【0041】
配管の内径については、入口側配管201aとESIキャピラリ201bのいずれかの内径を小さくすればよい。しかし、PEEK配管の内径を小さくする加工は、ヒューズドシリカの配管の内径を小さくする加工よりも難しく、コストが増大する。そこで、本発明者は、ESIキャピラリ201bの内径を小さくすることにより、カラム13の出口以降の配管抵抗を大きくすることが好ましいと考えた。ESIキャピラリ201bの内径を小さくすると、或る時間帯にキャピラリ内部に存在する試料成分の溶液量が少なくなるために高電圧印加による帯電効率が向上し、またその先端からの送出量が抑制されるため移動相が脱溶媒しやすくなり、試料成分のイオン化効率が向上する等の相乗効果も期待できる。
【0042】
従来用いられている低流量用のESIプローブ、特に1〜50μL/minという流量を対象としたマイクロESIは、カラムの出口に接続される入口側配管(ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)配管)の内径が50〜100μm、長さが20〜200mmである。また、ESIキャピラリ(ヒューズドシリカ配管)の内径は50μm、長さは30〜100mmである。この入口側配管の内径および長さは、上記流量を対象としたマイクロESIにおいてデッドボリュームに起因する試料の拡散による分析精度の悪化が無視できる程度であり(つまり内径100μm以下、長さ200mm以下)、かつPEEK配管の加工コストが増大し過ぎない程度の内径の大きさ(つまり内径50μm以上)を有し、かつカラムと入口側配管の接続作業ができる程度の長さ(つまり長さ20mm以上)を有するものである。また、このESIキャピラリの長さは、デッドボリュームの悪影響とESIプローブの大型化を回避できる長さ(つまり長さ100mm以下)であり、かつ該マイクロESIにおいてイオン化の安定性が担保できる程度の長さとして経験的に得たものである(つまり長さ30mm以上)。さらに、このESIキャピラリの内径は、上記流量を対象としたマイクロESIにおけるデッドボリュームの悪影響を回避しつつ高いイオン化効率実現できる程度に小さく、かつキャピラリが詰まるリスクを最小限にするために可能な限り大きくしたもの(つまり内径50μm)である。このような従来のマイクロESIの場合、カラムから送出した溶液の圧力が飽和蒸気圧を下回ってしまい、図3に示したような間欠的な強度低下がみられる。
【0043】
本発明者は、内径65μm、長さ150mmであるPEEK製の入口側配管201aと、長さ150mmであるヒューズドシリカ製のESIキャピラリ201bを使用し、そのESIキャピラリ201bの内径を20μmまで小さくすることで、図3に示したような間欠的なイオン強度低下が起こらないことを確認した。また、内径を小さくすることで懸念されるESIキャピラリの詰まりについては、内径20μmの場合、6ヵ月程度の使用で詰まりは発生せず、実用上問題ない程度の頻度に抑えることができることを確認した。このESIキャピラリの内径をさらに小さくすると配管抵抗がより大きくなるため、間欠的なイオン強度の低下がより生じにくくなると考えられるが、内径を小さくしすぎると、比較的加工しやすいキャピラリといえども加工コストが増大し、またESIキャピラリが詰まる可能性が高まりESIキャピラリの交換頻度が高くなるという問題が発生する。そのため、ESIキャピラリの内径は10μm以上としておくとよい。こうした構成により、配管デッドボリュームの悪影響、ESIプローブの大型化、及びイオン化効率の低下を回避できる、従来の入口側配管内径、長さ、及びESIキャピラリの長さを確保した上で、なおかつキャピラリが詰まるリスクを実用上問題ない程度に抑えつつ、カラムから送出される試料溶液の圧力を高めてマイクロESIでのイオン強度を安定化させることができる。
【0044】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例における流路の構成、及びその内径と長さは一例であり、これらは適宜に変更することができる。そして、実際に使用する装置の流路構成に応じて該流路の内径や長さを決めればよい。また、上記実施例で使用した数式から分かるように、使用する移動相の種類(粘性)や流速、流量等によっても配管抵抗の大きさが異なる。さらに、カラムにも大別してパックドカラムとキャピラリカラムの2種類があり、同じ種類であっても内部に充填される担体や吸着剤の充填率等が異なる。上述のとおり、ESIキャピラリ(第2配管)の内径を20μm以下とすることにより、カラムの出口における急激な圧力降下に起因する上述の問題を解消することができるが、より詳細に設計する場合には、これらのパラメータを考慮して使用する配管の内径や長さを決定すればよい。
【0045】
上記実施例では液体クロマトグラフ質量分析装置を例に挙げて説明したが、質量分析計に代えてイオン移動度分析計や分級装置を検出部として備えた液体クロマトグラフにおいても上記同様の考え方を用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…液体クロマトグラフ
10…移動相容器
11…ポンプ
12…インジェクタ
13…カラム
14…オートサンプラ
15…送液配管
2…質量分析計
20…イオン化室
201…ESIプローブ
201a…入口側配管
201b…ESIキャピラリ
201c…配管接続用治具
202…加熱キャピラリ
21…第1中間真空室
211…第1イオンガイド
212…スキマー
22…第2中間真空室
221…第2イオンガイド
23…分析室
231…前段四重極マスフィルタ
232…コリジョンセル
234…後段四重極マスフィルタ
235…イオン検出器
図1
図2
図3