(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各切欠き形成部に配置された前記補強部材の強度が、前記中空部材の部材長手方向における一端から他端にかけて大きくなっている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用構造部材。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<1.車両用構造部材の適用対象>
車両用構造部材の一例である車両用フレームの構成について説明する前に、当該車両用構造部材の適用対象について説明する。一般的な自動車等の車両に設けられる車体は、フロント構造(FRONT)、リア構造(REAR)、およびキャビン構造(CABIN)に分別することができる。
【0013】
フロント構造およびリア構造は、車両衝突時において当該構造が自ら圧潰することにより、車両に対する衝撃を吸収して緩和する機能(衝撃吸収機能)を担っている。すなわち、車両衝突時に、キャビンに搭乗する乗員の安全を確保するために、フロント構造およびリア構造は、衝突により生じるエネルギー(衝突エネルギー)を可能な限り吸収する構造であることが要求される。したがって、フロント構造およびリア構造を構成するフレームは、衝突時に曲げや潰れが生じた際においても衝突エネルギーを多く吸収することが求められる。当該フロント構造およびリア構造に用いられるフレームは、例えばフロントサイドメンバやリアサイドメンバ等である。フロントサイドメンバは、後端部を構成するフロントサイドメンバリア、および当該後端部よりも前側の部分を構成するフロントサイドメンバフロントを含む。リアサイドメンバは、後端部を構成するリアサイドメンバリア、および当該後端部よりも前側の部分を構成するリアサイドメンバフロントを含む。
【0014】
ところで、車両の衝突安全性の維持と軽量化とを両立させるために、車体構造を形成する鋼板の高強度化および薄肉化が進められている。上記のフロント構造、リア構造およびキャビン構造を構成するフレームについても、薄肉化された高強度鋼板に置き換えることが進められている。具体的には、衝突エネルギー吸収量および耐荷重性能の少なくともいずれかが、従来の鋼板により形成されるフレームと同等になるように、高強度鋼板により形成されるフレームの板厚が従来の鋼板により形成されるフレームよりも薄く設定される。これにより、高強度フレームの衝突性能を従来フレームと同等に維持しつつ、フレームの重量を低減させることができる。
【0015】
<2.車両用フレームの構成>
(フレームの構成要素)
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用フレーム1と他部材とが接合された状態を示す斜視図である。
図2は、その状態の平面図であり、
図3は、その状態の側面図である。
図1〜
図3に示す例における車両用フレーム1はフロントサイドメンバであり、フロントサイドメンバの前端はクラッシュボックス30を介して、バンパービーム50に接合されている。通常、フロントサイドメンバは、キャビン部の前方に左右対称に2本配置されており、
図1〜
図3は、その片側のみ表示している。なお、車両用フレーム1は車両用構造部材の一例であり、以下単にフレーム1と記載する。フレーム1はフロント構造およびリア構造に係る部材に適用されることが好ましいが、車両用フレーム1をキャビン構造に係る部材に適用することも可能である。また、当該車両用構造部材は、自動車のみならず、他の車両および自走可能な機械にも適用可能である。他の車両および自走可能な機械には、例えば、二輪車両、バスまたは牽引車等の大型車両、トレーラー、鉄道車両、建設機械、鉱山機械、農業機械、一般機械、および船舶等が含まれる。
【0016】
図4〜
図6に示すように本実施形態のフレーム1は、金属製の中空部材10と、中空部材10の内面に接合された補強部材20を備えている。なお、本実施形態においては補強部材20が中空部材10の内面に接合されているが、補強部材20は中空部材10の外面に接合されていてもよい。
【0017】
本実施形態の中空部材10は、長尺の構造部材の一例であり、部材長手方向(本実施形態ではX方向)に垂直な断面の形状が矩形状となった部材である。本実施形態の中空部材10は一体物として形成された角管状のものであるが、中空部材10は、例えば平板状のクロージングプレートと、断面がハット形状の部材とが接合されることで構成されていてもよい。すなわち、中空部材10は、部材長手方向Xに垂直な断面が閉断面となるように構成されていれば、その構成は特に限定されない。例えば本実施形態では中空部材10の形状が多角形状の一例である矩形状であったが、中空部材10は矩形以外の多角形状であってもよい。
【0018】
本実施形態の中空部材10は4つの平面部11a〜11dを有しており、以降の説明では、それらの4つの平面部11a〜11dのうち、
図5において上側に位置する平面部を天面部11a、右側に位置する平面部を側面部11b、下側に位置する平面部を底面部11c、左側に位置する平面部を側面部11dと称す。また、天面部11aと側面部11bとの境界となる部分である両平面部11a、11bの接続部を稜線部11e、側面部11bと底面部11cとの境界となる部分である両平面部11b、11cの接続部を稜線部11f、底面部11cと側面部11dとの境界となる部分である両平面部11c、11dの接続部を稜線部11g、側面部11dと天面部11aとの境界となる部分である両平面部11d、11aの接続部を稜線部11hと称す。
【0019】
中空部材10は、金属板により形成される。金属板の種類は特に限定されないが、例えば鋼板等の金属板により形成されることが好ましい。また、衝突性能の観点から中空部材10の板厚は、バス等の大型の車両で多く用いられるフレーム構造では6.0mm以下が好ましく、通常のサイズの車両で多く用いられるモノコック構造車両では3.2mm以下であることが好ましい。また、中空部材10の引張強度は特に限定されない。ただし、軽量化により低減し得るフレーム1の全体的な強度を補うために、中空部材10の引張強度は590MPa以上であることが好ましい。また、中空部材10の引張強度は980MPa以上であることがさらに好ましい。
【0020】
中空部材10には、部材長手方向Xに沿って複数の切欠き13が設けられている。本明細書においては、中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面内に切欠き13が設けられている場合、
図2〜
図4に示すように中空部材10の部材長手方向Xにおける当該断面が位置する部分を“切欠き形成部12”と称す。中空部材10の切欠き形成部12は部材長手方向Xに沿って複数配置されている。なお、本明細書における“切欠き”とは、中空部材10を貫通する孔である。本実施形態の切欠き13は、長手方向が、中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面における部材周方向Cとなる形状を有している。切欠き13は、中空部材10の成形後に機械加工等によって形成される。切欠き13の配置については後述する。
【0021】
図4に示すように補強部材20は複数設けられており、各補強部材20は、各切欠き形成部12の切欠き13を覆うようにして、切欠き13が形成された中空部材10の内面に接合されている。中空部材10の部材周方向Cにおける補強部材20の長さおよび部材長手方向Xにおける補強部材20の長さは、部材周方向Cにおける切欠き13の長さおよび部材長手方向Xにおける切欠き13の長さよりも十分に長くなっている。本実施形態のフレーム1では、中空部材10の切欠き13の位置に補強部材20が配置されており、1つの補強部材で1つの切欠き13が覆われている。このため、中空部材10の外方から切欠き13を見ると、中空部材10の内面に接合された補強部材20が見えるような状態にある。補強部材20の配置については後述する。
【0022】
(補強部材の例)
補強部材として用いられるFRP部材は、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に含有され、複合化された強化繊維材料からなる、繊維強化樹脂部材を意味する。
【0023】
強化繊維材料としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維を用いることができる。他にも、強化繊維材料として、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、アラミド繊維等を用いることができる。FRP部材に用いられるFRPにおいて、強化繊維材料の基材となる強化繊維基材としては、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)等を使用することができる。これらの強化繊維基材は、強化繊維材料の配向性の必要に応じて、適宜選択され得る。
【0024】
CFRP部材は、強化繊維材料として炭素繊維を用いたFRP部材である。炭素繊維としては、例えば、PAN系またはピッチ系のものが使用できる。炭素繊維を用いることにより、重量に対する強度等を効率よく向上させることができる。
【0025】
GFRP部材は、強化繊維材料としてガラス繊維を用いたFRP部材である。炭素繊維よりも機械的特性に劣るが、金属部材の電蝕を抑制することができる。
【0026】
FRP部材に用いられるマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれも使用することができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、並びにビニルエステル樹脂等があげられる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)およびその酸変性物、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、塩化ビニル、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、並びにフェノキシ樹脂等があげられる。なお、マトリックス樹脂は、複数種類の樹脂材料により形成されていてもよい。
【0027】
金属部材への適用を考慮すると、加工性、生産性の観点から、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。さらに、マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を用いることで、強化繊維材料の密度を高くすることができる。また、フェノキシ樹脂は熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂と分子構造が酷似しているためエポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有する。また、硬化成分をさらに添加することにより、高温環境への適用も可能となる。硬化成分を添加する場合、その添加量は、強化繊維材料への含浸性、FRP部材の脆性、タクトタイムおよび加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。
【0028】
(接着樹脂層)
補強部材がFRP部材等により形成される場合、FRP部材と金属部材(上記実施形態では中空部材10)との間に接着樹脂層が設けられ、該接着樹脂層によりFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。
【0029】
接着樹脂層を形成する接着樹脂組成物の種類は特に限定されない。例えば、接着樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかであってもよい。熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンおよびその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタラートやポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、並びにポリエーテルケトンケトン等から選ばれる1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0030】
接着樹脂組成物は、FRP部材を構成するマトリックス樹脂の特性、補強部材の特性または金属部材の特性に応じて適宜選択され得る。例えば、接着樹脂層として極性のある官能基を有する樹脂や酸変性などを施された樹脂を用いることで、接着性が向上する。
【0031】
このように、上述した接着樹脂層を用いてFRP部材を金属部材に接着させることにより、FRP部材と金属部材との密着性を向上させることができる。そうすると、金属部材に対し荷重が入力された際の、FRP部材の変形追従性を向上させることができる。この場合、金属部材の変形体に対するFRP部材の効果をより確実に発揮させることが可能となる。
【0032】
なお、接着樹脂層を形成するために用いられる接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニス等の液体、フィルム等の固体とすることができる。
【0033】
また、接着樹脂組成物に架橋硬化性樹脂および架橋剤を配合して、架橋性接着樹脂組成物を形成してもよい。これにより接着樹脂組成物の耐熱性が向上するため、高温環境下での適用が可能となる。架橋硬化性樹脂として、例えば2官能性以上のエポキシ樹脂や結晶性エポキシ樹脂を用いることができる。また、架橋剤として、アミンや酸無水物等を用いることができる。また、接着樹脂組成物には、その接着性や物性を損なわない範囲において、各種ゴム、無機フィラー、溶剤等その他添加物が配合されてもよい。
【0034】
FRP部材の金属部材への複合化は、種々の方法により実現される。例えば、FRP部材となるFRPまたはその前駆体であるFRP成形用プリプレグと、金属部材とを、上述した接着樹脂組成物で接着し、該接着樹脂組成物を固化(または硬化)させることで得られる。この場合、例えば、加熱圧着を行うことにより、FRP部材と金属部材とを複合化させることができる。
【0035】
上述したFRPまたはFRP成形用プリプレグの金属部材への接着は、部品の成形前、成形中または成形後に行われ得る。例えば、被加工材である金属材料を金属部材に成形した後に、FRPまたはFRP成形用プリプレグを該金属部材に接着しても良い。また、被加工材にFRPまたはFRP成形用プリプレグを加熱圧着により接着した後に、FRP部材が接着された該被加工材を成形して複合化された金属部材を得てもよい。FRP部材のマトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であれば、FRP部材が接着された部分について曲げ加工等の成形を行うことも可能である。また、FRP部材のマトリクス樹脂が熱可塑樹脂である場合、加熱圧着工程と成形工程とが一体となった複合一括成形が行われてもよい。
【0036】
なお、FRP部材と金属部材との接合方法は、上述した接着樹脂層による接着に限られない。例えば、FRP部材と金属部材とは、機械的に接合されてもよい。より具体的には、FRP部材と金属部材のそれぞれ対応する位置に締結用の孔が形成され、これらがボルトやリベット等の締結手段により当該孔を介して締結されることにより、FRP部材と金属部材とが接合されていてもよい。他にも公知の接合手段によってFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。また、複数の接合手段により複合的にFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。例えば、接着樹脂層による接着と、締結手段による締結とが複合的に用いられてもよい。
【0037】
(金属部材およびその表面処理)
本発明に係る金属部材は、めっきされていてもよい。これにより、耐食性が向上する。特に、金属部材が鋼材である場合は、より好適である。めっきの種類は特に限定されず、公知のめっきを用いることができる。例えば、めっき鋼板(鋼材)として、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、Zn−Al−Mg系合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni系合金めっき鋼板等が用いられ得る。
【0038】
また、金属部材は、表面に化成処理とよばれる皮膜が被覆されていてもよい。これにより、耐食性がより向上する。化成処理として、一般に公知の化成処理を用いることができる。例えば、化成処理として、りん酸亜鉛処理、クロメート処理、クロメートフリー処理等を用いることができる。また、上記皮膜は、公知の樹脂皮膜であってもよい。
【0039】
また、金属部材は、一般に公知の塗装が施されているものであってもよい。これにより、耐食性がより向上する。塗装として、公知の樹脂を用いることができる。例えば、塗装として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはふっ素系樹脂等を主樹脂としたものを用いることができる。また、塗装には、必要に応じて、一般に公知の顔料が添加されていてもよい。また、塗装は、顔料が添加されていないクリヤー塗装であってもよい。かかる塗装は、FRP部材を複合化する前に予め金属部材に施されていてもよいし、FRP部材を複合化した後に金属部材に施されてもよい。また、予め金属部材に塗装が施されたのちにFRP部材が複合化され、さらにその後塗装が施されてもよい。塗装に用いられる塗料は、溶剤系塗料、水系塗料または紛体塗料等であってもよい。塗装の施工方法として、一般に公知の方法が適用され得る。例えば、塗装の施工方法として、電着塗装、スプレー塗装、静電塗装または浸漬塗装等が用いられ得る。電着塗装は、金属部材の端面や隙間部を被覆するのに適しているため、塗装後の耐食性に優れる。また、塗装前に金属部材の表面にりん酸亜鉛処理やジルコニア処理等の一般に公知の化成処理を施すことにより、塗膜密着性が向上する。
【0040】
<3.切欠きおよび補強部材の配置例>
(第1の配置例)
図4に示すように、第1の配置例においては、中空部材10の切欠き形成部12が部材長手方向Xに沿って4箇所設けられている。ここで、
図5、6は中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面であり、
図5、6中の軸A
1は、当該断面の重心Oを原点とした座標軸において断面2次モーメントが最少となる主軸である。軸A
2は、当該断面における軸A1に対して垂直な軸であって、断面2次モーメントが最大となる主軸である。以降の説明では上記軸A
1を“第1軸”、上記軸A
2を“第2軸”と称す。また、第1軸A
1を境界として中空部材10を2つの領域に分割した際の一方の領域を“第1の領域R
1”と称し、他方の領域を“第2の領域R
2”と称す。本実施形態では、説明の便宜上、
図5、6において、第1軸A
1よりも右方の領域を第1の領域R
1と称し、第1軸A
1よりも左方の領域を第2の領域R
2と称すこととするが、第1軸A
1よりも右方の領域を第2の領域R
2と称し、第1軸A
1よりも左方の領域を第1の領域R
1と称したとしても差異はない。
【0041】
本配置例においては、4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aに最も近い切欠き形成部12では、
図5に示すように、第1の領域R
1の稜線部11e、11fに切欠き13が形成されている。一方で、
図5に示す切欠き形成部12においては、中空部材10の第2の領域R
2には切欠き13が設けられていない。本配置例においては、このように第1の領域R
1に切欠き13を有する切欠き形成部12のことを“第1の切欠き形成部12a”と称す。
図4に示す第1の配置例においては、4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が第1の切欠き形成部12aである。第1の切欠き形成部12aにおいては、中空部材10の内面側から稜線部11e、11fの切欠き13が覆われるように補強部材20が設けられている。すなわち、第1の切欠き形成部12aにおいては、第1の領域R
1にのみ切欠き13と補強部材20が配置されている。
【0042】
図6は、上記第1の切欠き形成部12aとは異なる箇所の切欠き形成部12の断面図である。当該切欠き形成部12においては、第1の切欠き形成部12aとは異なり、中空部材10の第2の領域R
2の稜線部11g、11hに切欠き13が設けられ、第1の領域R
1には切欠き13が設けられていない。第1の配置例においては、このように第2の領域R
2に切欠き13を有する切欠き形成部12のことを“第2の切欠き形成部12b”と称す。
図4に示す配置例においては、4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が第2の切欠き形成部12bである。第2の切欠き形成部12bにおいては、中空部材10の内面側から稜線部11g、11hの切欠き13が覆われるように補強部材20が設けられている。すなわち、第2の切欠き形成部12bにおいては、第2の領域R
2にのみ切欠き13と補強部材20が配置されている。
【0043】
第1の配置例においては、第1の切欠き形成部12aと第2の切欠き形成部12bとが、中空部材10の部材長手方向Xに沿って交互に配置されている。なお、本実施形態においては、中空部材10の荷重入力側の端部に相当する中空部材10の前端10aに最も近い切欠き形成部12が第1の切欠き形成部12aであるが、前端10aに最も近い切欠き形成部12を第2の切欠き形成部12bとして、第2の切欠き形成部12bと第1の切欠き形成部12aとが交互に配置されていてもよい。
【0044】
後述の実施例で示すように、上記の切欠き13および補強部材20が設けられていない場合は、中空部材の端部に高荷重が入力されると、中空部材の前端近傍で軸圧潰変形が生じた後、中空部材の前端と後端の間の1点で曲げ変形が生じる。その折れ点の前後には曲げの節となる折れ点が1箇所ずつ生じるため、中空部材全体としては3点の折れ点が生じる。中空部材に折れが生じた場合、折れ点以外の部分は、あまり塑性変形せず、ひずみが小さいため、折れ点以外の部分はエネルギー吸収にほとんど寄与しない部分となる。
【0045】
一方、切欠き13および補強部材20が設けられた本実施形態のフレーム1においては、中空部材10の切欠き形成部12において折れを誘発させることができ、折れ点を増やすことが可能となる。これにより、荷重入力時の中空部材10のエネルギー吸収性能に寄与する部分を多くすることができ、フレーム1全体としてのエネルギー吸収性能を高めることが可能となる。
【0046】
ただし、中空部材10に切欠き13が形成されていても、切欠き13を覆う補強部材20が設けられていない場合には、荷重入力時の変形モードが安定せず、切欠き形成部12で折れが生じないことがある。例えば
図4のような切欠き13が形成された中空部材10の場合、補強部材20が設けられていないと、中空部材10の前端10aに荷重が入力された際に、前端10aに最も近い第1の切欠き形成部12aではなく、後方の第2の切欠き形成部12bで先に折れが生じることがある。このような場合、第1の切欠き形成部12aはエネルギー吸収性能に寄与しない部分となる。また、第2の切欠き形成部12bで先に折れが生じた場合、当該第2の切欠き形成部12bよりも前方に位置する第1の切欠き形成部12aにおいては、折れが生じにくくなる。したがって、エネルギー吸収性能の観点では、各切欠き形成部12における中空部材10の折れが、荷重入力側の端部(本実施形態では前端10a)から他端部(本実施形態では後端10b)にかけて順に発生することが好ましい。
【0047】
本実施形態のフレーム1においては、補強部材20として用いられるFRPの延性が小さいことから、荷重入力時の中空部材10の変形により補強部材20が破断することになるが、破断前においては補強部材20が切欠き13の位置で中空部材10に接合されていることで、中空部材10は切欠き13が形成されていない部材のように機能する。その一方で、中空部材10の前端10aに高荷重が入力されると、中空部材10の前端10aに最も近い第1の切欠き形成部12aにおいては、より後方に位置する第2の切欠き形成部12bに先駆けて荷重入力に伴う変形が生じる。このため、前端10aに最も近い第1の切欠き形成部12aに配置された補強部材20は、他の切欠き形成部12に配置された補強部材20よりも先に破断することになる。その結果、前端10aに近い第1の切欠き形成部12aにおいては、補強部材20による補強効果が失われる一方、その他の切欠き形成部12では依然として補強部材20による補強効果が維持される。これにより、前端10aに最も近い当該第1の切欠き形成部12aは、中空部材10全体として強度的に最も弱い部分となり、当該第1の切欠き形成部12aにおいて最初に折れが生じることになる。
【0048】
その後、さらに中空部材10の変形が進行すると、折れが生じた第1の切欠き形成部12aの後方に位置する第2の切欠き形成部12bの変形が開始する。これに伴い、当該第2の切欠き形成部12bに配置された補強部材20も変形する。これにより、当該第2の切欠き形成部12bに位置する補強部材20が破断し、既に折れが生じている第1の切欠き形成部12aに続いて、当該第2の切欠き形成部12bにおいて折れが生じる。このような折れを伴う中空部材10の変形モードが後続の第1の切欠き形成部12a、および第2の切欠き形成部12bでも順に発生することになるため、中空部材10に配置された各切欠き形成部12が、部材長手方向Xに沿って順に折れていくことになる。
【0049】
以上のように、中空部材10に切欠き13が設けられているだけでなく、切欠き13を覆う補強部材20が設けられていることで、各切欠き形成部12における折れを安定的に誘発させることが可能となる。
【0050】
より安定的に各切欠き形成部12において折れを誘発させるためには、第1の配置例のように、第1の切欠き形成部12aと第2の切欠き形成部12bとが、中空部材10の部材長手方向Xに沿って交互に配置されていることが好ましい。
【0051】
例えば、第1の配置例では、中空部材10の前端10aに高荷重が入力されると、中空部材10の前端10aに最も近い第1の切欠き形成部12a(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1にのみ切欠き13が配置されているため、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。一方、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2にのみ切欠き13が配置されているため、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。同様に、中空部材10の前端10aを起点とした3番目の切欠き形成部12(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。また、中空部材10の前端10aを起点とした3番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。これにより、中空部材10に配置された各切欠き形成部12が、部材長手方向Xに沿ってジグザグ(左右にジグザグ)に折れ曲がることになる。その結果、フレーム1全体としてのエネルギー吸収性能を安定して高めることが可能となる。
【0052】
また、第1の配置例における切欠き13および補強部材20の配置は、
図4〜
図6に示した例に限定されず、例えば
図7(a)(b)〜
図9(a)(b)のように配置されていてもよい。
【0053】
図7(a)に示す配置例においては、中空部材10の切欠き形成部12が部材長手方向Xに沿って設けられた4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が第1の切欠き形成部12aである。そして、第1の切欠き形成部12aでは、中空部材10の第1の領域R
1にのみ側面部11bに切欠き13が形成され、当該切欠き13を覆うように側面部11bに補強部材20が接合されている。また、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が第2の切欠き形成部12bである。そして、第2の切欠き形成部12bでは、中空部材10の第2の領域R
1にのみ側面部11dに切欠き13が形成され、当該切欠き13を覆うように側面部11dに補強部材20が接合されている。
【0054】
この
図7(a)(b)に示す配置例では、中空部材10の前端10aに高荷重が入力されると、中空部材10の前端10aに最も近い第1の切欠き形成部12a(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1にのみ切欠き13が配置されているため、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。一方、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2にのみ切欠き13が配置されているため、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。同様に、中空部材10の前端10aを起点とした3番目の切欠き形成部12(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。また、中空部材10の前端10aを起点とした4番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。これにより、
図4〜
図6に示した例と同様に、中空部材10に配置された各切欠き形成部12が、部材長手方向Xに沿ってジグザグ(左右にジグザグ)に折れ曲がることになる。その結果、フレーム1全体としてのエネルギー吸収性能を安定して高めることが可能となる。
【0055】
図8(a)(b)に示す配置例においては、第2軸A
2を境界として中空部材10を2つの領域に分割した際の一方の領域(
図8(a)(b)の例においては第2軸A
2よりも上方の領域)が第1の領域R
1であり、他方の領域((
図8(a)(b)の例においては第2軸A
2よりも下方の領域)が第2の領域R
2である。なお、第2軸A
2よりも上方の領域を第2の領域R
2と称し、第2軸A
2よりも下方の領域を第1の領域R
1と称したとしても差異はない。
【0056】
この
図8(a)(b)に示す配置例においては、中空部材10の切欠き形成部12が部材長手方向Xに沿って設けられた4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が第1の切欠き形成部12aである。そして、第1の切欠き形成部12aでは、中空部材10の第1の領域R
1にある稜線部11e、11hに切欠き13が形成され、当該切欠き13を覆うように補強部材20が接合されている。また、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が第2の切欠き形成部12bである。そして、第2の切欠き形成部12bでは、中空部材10の第2の領域R
1にある稜線部11f、11gに切欠き13が形成され、当該切欠き13を覆うように補強部材20が接合されている。
【0057】
この
図8(a)(b)に示す配置例では、中空部材10の前端10aに高荷重が入力されると、中空部材10の前端10aに最も近い第1の切欠き形成部12a(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1にのみ切欠き13が配置されているため、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。一方、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2にのみ切欠き13が配置されているため、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。同様に、中空部材10の前端10aを起点とした3番目の切欠き形成部12(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。また、中空部材10の前端10aを起点とした4番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。これにより、
図4〜
図6に示した例と同様に、中空部材10に配置された各切欠き形成部12が、部材長手方向Xに沿ってジグザグ(上下にジグザグ)に折れ曲がることになる。その結果、フレーム1全体としてのエネルギー吸収性能を安定して高めることが可能となる。
【0058】
図9(a)(b)に示す配置例においては、第2軸A
2を境界として中空部材10を2つの領域に分割した際の一方の領域(
図9(a)(b)の例においては第2軸A
2よりも上方の領域)が第1の領域R
1であり、他方の領域((
図9(a)(b)の例においては第2軸A
2よりも下方の領域)が第2の領域R
2である。なお、第2軸A
2よりも上方の領域を第2の領域R
2と称し、第2軸A
2よりも下方の領域を第1の領域R
1と称したとしても差異はない。
【0059】
この
図9(a)(b)に示す配置例においては、中空部材10の切欠き形成部12が部材長手方向Xに沿って設けられた4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が第1の切欠き形成部12aである。そして、第1の切欠き形成部12aでは、中空部材10の第1の領域R
1にある天面部11aに切欠き13が形成され、当該切欠き13を覆うように天面部11aに補強部材20が接合されている。また、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が第2の切欠き形成部12bである。そして、第2の切欠き形成部12bでは、中空部材10の第2の領域R
1にある底面部11cに切欠き13が形成され、当該切欠き13を覆うように側面部11cに補強部材20が接合されている。
【0060】
この
図9(a)(b)に示す配置例では、中空部材10の前端10aに高荷重が入力されると、中空部材10の前端10aに最も近い第1の切欠き形成部12a(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1にのみ切欠き13が配置されているため、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。一方、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2にのみ切欠き13が配置されているため、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。同様に、中空部材10の前端10aを起点とした3番目の切欠き形成部12(第1の切欠き形成部12a)では、第1の領域R
1が圧縮となり、第2の領域R
2が引張となる変形モードとなる。また、中空部材10の前端10aを起点とした4番目の切欠き形成部12(第2の切欠き形成部12b)では、第2の領域R
2が圧縮となり、第1の領域R
1が引張となる変形モードとなる。これにより、
図4〜
図6に示した例と同様に、中空部材10に配置された各切欠き形成部12が、部材長手方向Xに沿ってジグザグ(上下にジグザグ)に折れ曲がることになる。その結果、フレーム1全体としてのエネルギー吸収性能を安定して高めることが可能となる。
【0061】
なお、第1の切欠き形成部12aにおける切欠き13および補強部材20の配置と、第2の切欠き形成部12bにおける切欠き13および補強部材20の配置は、第1軸A
1または第2軸A
2を対称軸とした線対称であることが好ましい。
【0062】
(第2の配置例)
上述した切欠きおよび補強部材の第1の配置例においては、第1の切欠き形成部12aにおいては、第1の領域R
1に切欠き13と補強部材20が配置されているが、第2の領域R
2には切欠き13と補強部材20が配置されてなく、また逆に、第2の切欠き形成部12bにおいては、第2の領域R
2に切欠き13と補強部材20が配置されているが、第1の領域R
1には切欠き13と補強部材20が配置されていない。しかしながら、本発明は、第1の切欠き形成部12aにおいては、第1の領域R
1に切欠き13と補強部材20が配置されていれば足り、第2の領域R
2には切欠き13と補強部材20が配置されていないことは必須ではない。また、第2の切欠き形成部12bにおいては、第2の領域R
2に切欠き13と補強部材20が配置されていれば足り、第1の領域R
1に切欠き13と補強部材20が配置されていないことは必須ではない。すなわち、第1の切欠き形成部12aにおいて、第2の領域R
2にも切欠き13と補強部材20が配置されていても良い。また同様に、第2の切欠き形成部12bにおいて、第1の領域R
1にも切欠き13と補強部材20が配置されていても良い。
【0063】
そこで、補強部材20の第2の配置例について説明する。
図10に示すように本配置例においても、第1の切欠き形成部12aと第2の切欠き形成部12bとが、中空部材10の部材長手方向Xに沿って交互に配置されている。すなわち、4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が第1の切欠き形成部12aである。また、2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が第2の切欠き形成部12bである。
【0064】
この第2の配置例では、第1の切欠き形成部12aにおける切欠き13および補強部材20の配置と、第2の切欠き形成部12bにおける切欠き13および補強部材20の配置とが、実質的に同一となっている。すなわち、
図11に示すように、第1の切欠き形成部12aおよび第2の切欠き形成部12bのいずれにおいても、第1の領域R
1の稜線部11e、11fと第2の領域R
2の稜線部11g、11hの両方に切欠き13が設けられ、各切欠き13が覆われるように補強部材20がそれぞれ設けられている。換言すれば、第1の切欠き形成部12aにおいては、第1の領域R
1に切欠き13と補強部材20が配置され、さらに、第2の領域R
2にも切欠き13と補強部材20が配置されている。また、第2の切欠き形成部12bにおいては、第2の領域R
2に切欠き13と補強部材20が配置され、さらに、第1の領域R
1にも切欠き13と補強部材20が配置されている。このような第2の配置例の場合も、中空部材10の部材長手方向Xから荷重が入力された際には、各切欠き形成部12(第1の切欠き形成部12aおよび第2の切欠き形成部12b)において、安定的に折れを誘発させることができる。
【0065】
また、第2の配置例では、第1の切欠き形成部12aおよび第2の切欠き形成部12bにおいて、例えば
図12、
図13のように切欠き13および補強部材20が配置されていてもよい。
図12に示す配置例においては、第1の切欠き形成部12aおよび第2の切欠き形成部12bのいずれにおいても、中空部材10の一対の側面部11b、11dに切欠き13および補強部材20が配置されている。また、
図13に示す配置例においては、中空部材10の天面部11aおよび底面部11cに切欠き13および補強部材20が配置されている。これら
図12、
図13のいずれの配置例においても、第1軸A
1を境界として分割された2つの領域のうちの両方の領域R
1、R
2および第2軸A
2を境界として分割された2つの領域のうちの両方の領域R
3、R
4に切欠き13および補強部材20が存在している。切欠き13および補強部材20がこのように配置されている場合も、各切欠き形成部12における中空部材10の折れをより安定して誘発させることができる。
【0066】
以上、中空部材10の切欠き13および補強部材20の配置例について説明した。なお、中空部材10の切欠き形成部12においては、切欠き13が設けられていることで中空部材10の剛性が低下することになるが、本実施形態のように切欠き13の位置に補強部材20が配置されていることで、中空部材10に切欠き13が設けられていない場合と同等の剛性を確保することができる。
【0067】
より安定して各切欠き形成部12で折れを生じさせるためには、各切欠き形成部12に配置された補強部材20の強度が、中空部材10の一端から他端にかけて大きくなっていることが好ましい。例えばフレーム1がフロントサイドメンバの場合、中空部材10の前端10aから後端10bにかけて補強部材20の強度が大きくなっていることが好ましく、フレーム1がリアサイドメンバの場合、中空部材10の後端10bから前端10aにかけて補強部材20の強度が大きくなっていることが好ましい。これにより、荷重入力側の端部に近い補強部材20ほど破断しやすくなり、中空部材10の部材長手方向Xに沿って配置された各切欠き形成部12において、順番に中空部材10の折れが生じやすくなる。なお、補強部材20の強度は、例えば板厚やヤング率が異なる部材を用いることで変更することできる。
【0068】
また、中空部材10に形成される切欠き13、補強部材20の配置、切欠き形成部12の数および配置は特に限定されず、フレーム1の形状や構成等に応じて所望の折れ方向に中空部材10を折ることができるよう適宜変更されるものである。エネルギー吸収性能を効果的に向上させるためには、切欠き形成部12が4箇所以上であることが好ましい。また、切欠きの形状は、四角形に限られず、円形、楕円形などでも良い。
【0069】
また、補強部材20のFRPの繊維方向は、部材長手方向Xと平行に配向されていることが好ましい。これにより高荷重入力時の初期反力を向上させることができる。なお、工業的には、繊維方向を一方向にそろえた場合、実際の繊維の繊維方向の分布は、その一方向に対し、−5°〜5°の範囲内に分布する。工業的にそのように分布した状態であっても、理想的に全ての繊維方向をその一方向にそろえた場合と比べて、機械的性質は実質的に同じと判断して構わない。また、補強部材内での繊維方向の分布は、マイクロフォーカスX線CT(X-ray computed
tomography)システムで観察し、得られた3次元画像をコンピュータ解析することで同定できる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0071】
本発明に係るフレームのエネルギー吸収性能を評価するため、衝突シミュレーションを実施した。解析モデルは
図1〜
図3に示すようなバンパービームとフレームで構成されており、中空部材の断面は矩形状となっている。また、解析モデルは下記表1に示す条件で複数作成されている。なお、表1中の軽量化率は、各構造の重量を構造1の重量で規格化したものである。また、表1中の剛性比は、各構造の剛性値を構造2の剛性値で規格化したものである。
【0072】
【表1】
【0073】
上記表1の構造1および構造2は、中空部材10の切欠きおよび補強部材20が設けられていない構造であり、構造2は構造1に対して薄板化、およびハイテン化を図ったものである。構造3は、
図4に示す切欠きが設けられた中空部材10を有する構造であるが、補強部材20は設けられていない。構造4は
図4に示す構造である。構造4では、4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が、
図5で説明した第1の切欠き形成部12aであり、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が
図6で説明した第2の切欠き形成部12bである。構造5は、
図10に示す切欠きが設けられた中空部材10を有する構造であるが、補強部材20は設けられていない。構造6は
図10に示す構造である。構造6では、4箇所の切欠き形成部12の全部において、
図11で説明したように、第1の領域R
1および第2の領域R
2の両方に切欠き13と補強部材20が配置されている。
構造7は、
図4に示す構造である。構造7では、4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が、
図5で説明した第1の切欠き形成部12aであり、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が
図6で説明した第2の切欠き形成部12bである。また構造7では、各切欠き形成部12に配置された補強部材20の引張強度が、中空部材10の前端10aから後端10bにかけて大きくなっている。構造7では、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12に配置された補強部材の20板厚が2.0mm、2番目の切欠き形成部12に配置された補強部材の20板厚が2.4mm、3番目の切欠き形成部12に配置された補強部材の20板厚が2.8mm、4番目の切欠き形成部12に配置された補強部材の20板厚が3.2mmである。
構造8は、
図4に示す構造である。構造7では、4箇所の切欠き形成部12のうち、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、および3番目の切欠き形成部12が、
図5で説明した第1の切欠き形成部12aであり、中空部材10の前端10aを起点とした2番目の切欠き形成部12、および4番目の切欠き形成部12が
図6で説明した第2の切欠き形成部12bである。ただし、構造8では、各切欠き形成部12に配置された補強部材20がGFRPである。
構造9では、4箇所の切欠き形成部12の全部が、
図5で説明した第1の切欠き形成部12aである。すなわち、構造9では、中空部材10の前端10aを起点とした最初の切欠き形成部12、2番目の切欠き形成部12、3番目の切欠き形成部12、および、4番目の切欠き形成部12のいずれにおいても、第1の領域R
1にのみ切欠き13と補強部材20が配置され、第2の領域R
2には切欠き13と補強部材20が設けられていない。
【0074】
構造4および構造6において補強部材20として用いられるCFRPの機械特性は以下の通りである。
Vf(繊維含有体積率):50%
ヤング率:102GPa
破断強度:1500MPa
破断伸び:1.5%
【0075】
構造86において補強部材20として用いられるGFRPの機械特性は以下の通りである。
Vf(繊維含有体積率):50%
ヤング率:13GPa
破断強度:200MPa
破断伸び:3%
【0076】
構造3〜9において、各切欠きのサイズは、5mm幅×長さ40mmである。また、構造4、6〜9において、各補強部材のサイズは、25mm幅×長さ70mmである。各構造の剛性値は、フロントサイドメンバ先端に横方向1mmの変位を与えた時の反力から求めた。
【0077】
本シミュレーションは、自動車の正面衝突試験を模擬したものであり、質量200kgの剛体壁を
図1〜
図3に示すバンパービーム50に12m/sで衝突させることで実施された。なお、各解析モデルにおける中空部材10の後端10bは拘束されている。
【0078】
図14は衝突シミュレーションにおける構造1の解析モデルの変形状態を示す平面図であり、
図15はその側面図である。
図14に示すように、構造1においては、変形時の中空部材の折れ点が3箇所であった。このような中空部材の折れは、構造2においても生じていた。
【0079】
図16は衝突シミュレーションにおける構造3の解析モデルの変形状態を示す平面図であり、
図17はその側面図である。
図16に示すように、構造3においては中空部材に切欠きが設けられているが、中空部材の前端に最も近い位置にある切欠きにおいては折れが生じておらず、後方の切欠きで先に折れが生じていた。折れ点も3箇所のままであった。
【0080】
一方、
図18は衝突シミュレーションにおける構造4の解析モデルの変形状態を示す平面図であり、
図19はその側面図である。
図18に示すように、構造4においては、折れ点が4箇所となっており、構造1に対して折れ点を増やすことができた。特に、切欠きの位置に補強部材20が設けられた構造4においては、切欠きの位置が折れ点となっており、切欠きのみが設けられている構造3とは異なる結果となった。また、部材長手方向に沿ってジグザグに折れ曲がることにより、フレーム全体としてのエネルギー吸収性能を安定して高めることができた。
【0081】
図20は衝突シミュレーションにおける構造5の解析モデルの変形状態を示す平面図であり、
図21はその側面図である。
図20に示すように、構造5においては中空部材に切欠きが設けられているが、中空部材の前端に最も近い位置にある切欠きにおいては折れが生じておらず、後方の切欠きで先に折れが生じており、折れ点も2箇所であった。
【0082】
一方、
図22は衝突シミュレーションにおける構造6の解析モデルの変形状態を示す平面図であり、
図23はその側面図である。
図22に示すように、切欠きの位置に補強部材20が設けられた構造6においては、切欠き位置で圧潰しており、圧潰点は4点であった。圧潰点は折れ点と同等もしくはそれ以上に塑性変形領域が広く、エネルギー吸収に寄与するため、折れ点と同等とみなすことができる。そのため、構造5に対して、折れ点を増やすことができた。構造6においては、折れ点での圧潰変形が連続的に生じていることから、部材全体としては、いわゆる軸圧潰変形と同様の変形が生じていた。
【0083】
次に、剛体壁を衝突させた際の荷重‐ストローク線図から、剛体壁の800mmストローク時におけるエネルギー吸収量を算出し、各解析モデルのエネルギー吸収性能を比較した。その結果を
図24に示す。なお、
図24のグラフの縦軸は、各構造におけるエネルギー吸収量と構造1のエネルギー吸収量との比である。
【0084】
図24に示すように、構造4および構造6〜8においては、構造1に対してエネルギー吸収性能が維持または向上している。上記表1に示すように構造4および構造6〜8は構造1に対する軽量化率も大きいことから、本発明に係る車両用構造部材においては、軽量化を図りつつ、エネルギー吸収性能の維持または向上を図ることができる。また、上記表1に示すように構造4および構造6〜8においては、補強部材が設けられていない構造3および構造5よりも剛性比が向上しており、切欠きが設けられていない構造2と同等の剛性が確保されている。
4箇所の切欠き形成部12の全部において、第1の領域R
1にのみ切欠き13と補強部材20が配置され、第2の領域R
2には切欠き13と補強部材20が設けられていない構造9は、エネルギー吸収性能が劣る。