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特許6801845キラル分割のための方法及びそのためのデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801845
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】キラル分割のための方法及びそのためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   C07B 57/00 20060101AFI20201207BHJP
   C07C 51/42 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 59/255 20060101ALI20201207BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C07B57/00 310
   C07C51/42
   C07C59/255
   C07C211/63
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-506373(P2017-506373)
(86)(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公表番号】特表2017-529323(P2017-529323A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】EP2015068273
(87)【国際公開番号】WO2016020532
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2018年7月31日
(31)【優先権主張番号】14306261.0
(32)【優先日】2014年8月8日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500262120
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
(73)【特許権者】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ヘルマンス トーマス マリヌス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明宏
(72)【発明者】
【氏名】マリシェ ヴィンセント
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−145887(JP,A)
【文献】 特表2005−526607(JP,A)
【文献】 特開平02−055769(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0126273(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 57/00
C07C 51/42
C07C 59/255
C07C 211/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁と前記内壁の少なくとも一部にわたって前記内壁を囲む外壁とによって形成されるセルの中に配置された液体中に含有されるキラル種のキラル分割のための方法であって、前記外壁及び内壁の各々が長手方向軸を中心とした回転体であり、前記外壁及び内壁が互いに同軸上にあり、前記方法が、
− 前記外壁を前記内壁に対してある回転方向で回転させて、前記液体内にテイラー・クエット流れを発生させることと、
− 前記キラル種のうちの少なくとも1つを回収することと、を含む、方法。
【請求項2】
その他のキラル種のうちの少なくとも1つを回収することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記外壁と同じまたは逆方向に、前記内壁を回転することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体が、5×10−5Pa・s〜10Pa・sの粘度を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
間隙内に生み出されたせん断速度が、平均1s−1〜1012−1である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記液体内に電場を適用することをさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記液体内に電磁場を適用することをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記セル内の温度を制御することをさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラル種のキラル分割の技術分野、例えば、2つの種の互いからの分離、またはアキラル液体または混合物中に溶解または分散された1つ以上のキラル種の抽出に関する。より具体的には、本発明は、キラル種のキラル分割のための方法及びキラル種のキラル分割のためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
互いのエナンチオマーであるキラル分子における異なる薬理活性の発見には、時折目覚ましいものがあるが、互いに異なるエナンチオマーを単離された化合物(ユートマー)として投与することができるように、それらの不斉合成またはキラル分割の必要性が生じている。したがって、不斉合成及びキラル分割は、医薬品産業において最も重要なプロセスのうちの2つであり、これは、食品、石油、農薬、及び生化学などの他の産業部門においても同様である。
【0003】
不斉合成及びキラル分割は一般に、第3のキラル化合物の使用に依存する。
【0004】
キラル合成またはエナンチオ選択的合成とも称される不斉合成は、キラリティーの1つ以上の新しい要素を基質分子中に形成し、不均等な量で立体異性の(本発明では、エナンチオマー性の)生成物を生成する化学反応または反応の連続、またはより簡潔に述べれば、特定の立体異性体の形成をその他の立体異性体よりも支持する方法にる化合物の合成からなる。
【0005】
いくつかの化合物の不斉合成は、進展させることが困難であり得、面倒な調査を必要とする場合がある。さらに、所望の立体異性体の形成が支持されるものの、他の立体異性体も依然として生成物混合物中に存在でき、所望のものから分離しなければならないため、不斉合成はやはりキラル分割を何度も必要とする。
【0006】
キラル分割は一般に、キラルカラムクロマトグラフィーによって実施される。エナンチオマーの場合では、そのような方法は通常、分離されるべきエナンチオマーを含む混合物を作製し、キラル固定相(複数可)として使用される1つ以上の第3のキラル化合物を含む基質で満たされたカラムを通して流し、エナンチオマーがカラムに導入された後に溶剤でキラル固定相(複数可)を洗浄する。第3のキラル化合物(複数可)は、1つ以上のエナンチオマーを選択的に保持でき、したがって、各々が異なった濃度の異なるエナンチオマーを有する、溶出物の異なる部分の形成を引き起こす。したがって、より高い濃度の1つのエナンチオマーと、実質的にゼロ濃度のその他のものとを有する部分が得られる。いくつかの部分は、キラル分割を完了するために、別のカラムにおいてさらに溶出する必要がある場合もある。
【0007】
キラルカラムクロマトグラフィーの1つの欠点は、溶剤の消費量が多いことである。別の欠点は、キラル固定相に使用される第3の化合物のコストである。
【0008】
90年代後半に、いくつかの報告が、100年前からの、しかし同様に刺激的なアイデアに言及しており、そのアイデアとは、キラルカラムクロマトグラフィーの代替として、流体力学的流れを使用してキラル体を識別する可能性である。流体流れがキラル分割を誘導し得るというアイデアは、最初にHowardらによって提唱された(“The hydrodynamic resolution of optical isomers”,AIChE Journal,22,794−798(1976))。それ以来、このアイデアは、かなり詳細に理論的に調査されてきた。エナンチオマーのキラル分割を、任意のキラル固定相(キラルカラムクロマトグラフィーにおいて最もコストのかかる構成成分)を使用することなく達成することは、医薬品産業に革命をもたらすであろう。しかし、流体流れによってキラル体に及ぼされる規模、または力の方向でさえ、依然として共通認識はない。いくつかの実験研究は、分子的尺度(回転式蒸発中のポルフィリン凝集体)から微視的尺度(螺旋状の細菌)にわたって、キラリティー特異的流れ効果について報告しているが、これらの研究は、大部分が現象学的なままである。いくつかの場合では、流体流れは、回転式蒸発器または磁気撹拌機などの厳密ではないシステムを使用することによって実行されるが、これらのシステムに関する、異なる長さ尺度での流れ構造は、大部分が未知である。
【0009】
最も研究されてきた流れの種類は、ハーゲン・ポアズイユ流れ及びクエット流れである。
【0010】
クエット流れを使用するそのような研究の1つは、Makino及びDoiによって行われ、Physics of fluids,17,103605(2005)の「Migration of twisted ribbon−like particles in simple shear flow」という表題の論文において報告された。彼らのシミュレーションでは、Makino及びDoiは、同軸上にある内筒が回転されるとき、その同軸にある内筒と外筒との間で発生する単純なせん断流れを受ける液体中において、キラル分子の代わりに、ねじりリボンのモデルを使用した。彼らは、効率的なキラル分割を得るために、大きいペクレ数が必要とされることを予想した。また、彼らは、エナンチオマーの移動速度が、小さいペクレ数の場合は、極端に小さいと結論付けた。
【0011】
Physical Review Letters,102,158103(2009)の「Separation of microscale chiral objects by shear flow」という表題の論文において、Marcosらなどの他の著者は、キラル分割にハーゲン・ポアズイユ流れを試みた。彼らの実験では、彼らは、4つの壁によって形成されたマイクロメートルサイズのチャネル中にせん断流れを適用して、その中に非運動性で、右巻きの、螺旋状に形づくられた細菌レプトスピラ・ビフレキサflaB変異株を配置した。これらの細菌は、平均長さ16μmであり、厚さ150nmであり、200nmの平均径を有する。
【0012】
しかし、Marcosらの方法は、かなりの量の溶剤を必要とする。特に、チャネル幅が1mmであり、注入点が100μmであるという理由で、混合物は、溶剤によって10回希釈される。さらに、この方法は、高せん断速度を達成するために、高圧ポンプを必要とし、この方法を産業用サイズへ拡大することは困難であろうと考えられている。加えて、この方法は、単にキラル体の(約80%の)濃縮を達成するのみであり、完全なキラル分割を達成しない。最終的には、異なるエナンチオマーは、チャネル断面の4つの象限において回収する必要があるであろう(すなわち、1つのエナンチオマーは、チャネルの左上及び右下へ移動することになり、その他のエナンチオマーは、チャネルの右上及び左下へ移動することになる)。これは、すでに小さいチャネルが、エナンチオマーを回収するために4つのより小さいチャネルに分割されなければならず、これもまた大きい圧力低下及び不十分な拡張性をもたらすことを意味する。
【0013】
したがって、キラル分割のための効率的な方法が、依然として必要とされる。
【発明の概要】
【0014】
本発明の1つの目的は、上記本明細書で明らかにされた、先行技術の少なくとも1つの欠点を克服することである。
【0015】
この目的に対して、本発明は、内筒と外筒とによって形成されるセルの中に配置された液体中に含有されるキラル種のキラル分割のための方法を提供し、外筒及び内筒が互いに同軸上にあり、本方法が、
− 外筒を内筒に対してある回転方向で回転させて、液体内にテイラー・クエット流れを発生させることと、
− キラル種のうちの少なくとも1つを回収することと、を含む。
【0016】
先行技術の予想に反して、本発明者らは、驚くべきことに、本発明に従って発生させたテイラー・クエット流れを使用することが、大きいペクレ数を有するシステムのキラル分割だけでなく、小さいペクレ数を有するものも可能にするということを発見した。実際に、本発明者らは、小さいペクレ数において、キラル種の移動速度が、Makino及びDoiが予想したものよりも、少なくとも1桁高いということを発見した。
【0017】
さらに、内筒の代わりに外筒を回転することは、高回転速度において起こり得るいずれのテイラー不安定性も防止する。
【0018】
他の任意の非限定的特徴は、以下のとおりである。
【0019】
本方法は、更に、その他のキラル種のうちの少なくとも1つを回収することを含み得る。
【0020】
本方法は、更にまたは代わりに、外壁と同じまたは逆方向に、内壁を回転することを含み得る。
【0021】
液体は、更にまたは代わりに、5×10−5Pa・s〜10Pa・sの粘度を有し得る。
【0022】
間隙内に生み出されたせん断速度は、更にまたは代わりに、平均1s−1〜1012−1であり得る。
【0023】
本方法は、更にまたは代わりに、液体内に電場を適用することを含み得る。
【0024】
本方法は、更にまたは代わりに、液体内に電磁場を適用することを含み得る。
【0025】
この方法は、更にまたは代わりに、セル内の温度を制御することを含み得る。
【0026】
別の態様に従って、本発明はまた、同じ液体中に含有されるキラル種のキラル分割のためのデバイスを提供し、本デバイスは、内筒と、内筒と同軸上にあり、かつ内筒と共に液体を受容するための間隙を形成する外筒とを有するセルと、
− 動作中、テイラー・クエット流れが液体内に発生するように、外筒をある回転方向に回転させるためのアクチュエータと、
− キラル種のうちの少なくとも1つを回収するための回収器と、を備える。
【0027】
デバイスの任意の非限定的特徴は、以下のとおりである。
【0028】
デバイスは、更に、キラル種のその他のものを回収するための別の回収器を備え得る。
【0029】
デバイスは、更にまたは代わりに、外壁と同じまたは逆方向に、内壁を回転するための別のアクチュエータを備え得る。
【0030】
外壁は、更にまたは代わりに、第1の端面を備えることができ、外壁の第1の端面に近い内壁の端は、外壁の第1の端面まで延在しない。
【0031】
デバイスは、更にまたは代わりに、間隙内に電場を発生させるための電場発生装置を備え得る。電場は、振動し得る、または一定であり得る。電場勾配もまた、電場へ適用され得る。
【0032】
デバイスは、更にまたは代わりに、間隙内に磁場を発生させるための磁場発生装置を備え得る。磁場は、振動し得るまたは一定であり得る。磁場勾配もまた、電場へ適用され得る。
【0033】
デバイスは、更にまたは代わりに、セル内の温度を制御するための温度制御器を備え得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
他の目的、特徴、及び、利点については、以下の例証的及び非限定的図を参照しながら、以下に記載する。
図1】本発明のキラル分割のための方法のステップを例証する流れ図である。
図2】筒状内壁及び外壁を有するセル、及びキラル種が受ける変化を示す図解である。
図3】円錐台形の内壁及び外壁を有するセルの別の実施形態を示す図解である。
図4】円錐台形の内壁及び筒状外壁を有するセルのさらに別の実施形態を示す図解である。
図5】外面が、より狭い端によって互いに連結された2つの円錐台形の表面によって形成される、内壁を有するセルの別の実施形態を示す図解である。
図6図1においてそのステップが実証された方法を実行するように適合されている、本発明のキラル分割のためのデバイスの略図である。
図7】自己集合キラル種を例証する。
図8】テイラー・クエット流れに対応する異なる流れの種類を示す図表である。
図9】テイラー・クエット流れに対応する4つの例証される流れの種類の写真である。
図10】テイラー・クエット流れに対応する4つの例証される流れの種類の写真である。
図11】テイラー・クエット流れに対応する4つの例証される流れの種類の写真である。
図12】テイラー・クエット流れに対応する4つの例証される流れの種類の写真である。
図13】スピルリナ属の藍藻類(シアノバクテリア)から得られる螺線形のマイクロメートルサイズのスパイラルを模式的に例証する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1を参照しながら、本発明に従ったキラル種のキラル分割のための方法を、より詳細にここに記載する。
【0036】
「種」によって、マイクロメートルサイズのねじりリボンもしくは螺旋体、またはナノメートルサイズの粒子及び分子などのナノメートル〜マイクロメートルサイズの任意の物体を意味する。種はまた、超分子集合体、すなわち、互いに集合して超分子集合体を形成することができる構成要素の集合体でもあり得る。構成要素は、キラルであり得る。動詞「自己集合する」を、本明細書において、キラル構成要素が、互いに集合する能力を自然に有すること、またはこの能力を誘導することを意味するために使用する。超分子集合体は、内因性であるか、誘導されるか、または増強され得るキラリティーを示す。「内因性キラル超分子集合体」は、構成要素が、キラル超分子集合体を形成することを意味する。「増強キラル超分子集合体」は、キラル分割方法の1つ以上の条件の影響に際して、例えばそれらが供される流れによって、そのキラリティーがより強化され得る、内因性キラル超分子集合体を意味する(流れ増強キラル超分子集合体)。「誘導キラル超分子集合体」は、構成要素が、アキラル超分子集合体を形成するが、このアキラル超分子集合体は、キラル分割方法の1つ以上の条件の影響に際して、例えばそれらが供される流れによって、キラルになることを意味する(流れ誘導キラル超分子集合体)。したがって、構成要素を組集合させないときよりも、構成要素を本発明でより効率的に分離し得る(図7参照)。そのような構成要素の例は、双性界面活性剤に任意に結合される分子、例えば、キラル分子である。
【0037】
「キラル種」は、それ自体の鏡像へ重ねることができない種である。互いの鏡像である2つのキラル種は、互いに「エナンチオモルフィック」であると言われ、互いに合わせると、それらは用語「1対のエナンチオモルフィック種」と呼ばれる。「エナンチオモルフィック」の意味は、それ自体の鏡像へ重ね合わせることができないキラル分子であるエナンチオマーなどの「エナンチオマー性」のものを包含する。
【0038】
キラル分割のためのそのような方法は、セルの中に配置された同じ液体中に含有されるエナンチオモルフィック種の同じ組の2つのキラル種を分離することを可能にする。この方法をまた、エナンチオモルフィック種の複数の組のキラル種を互いから分離するために使用し得る。この方法はさらに、アキラル媒体または混合物から、1つ以上のキラル種を分離するためにも使用することができる。
【0039】
セルを、互いに同軸上にある内壁及び外壁によって形成する。外壁は、内壁の少なくとも一部にわたってその長さに沿って内壁を囲む。換言すれば、内壁及び外壁は、ある一定の長さにわたってこれらの壁の共通の長手方向軸に沿って長手方向に重複する。キラル分割は、実質的に筒の重複内で得られるであろう。
【0040】
本方法は、
− 外壁を内壁に対してある回転方向で回転させて、液体内にテイラー・クエット流れを発生させることと、
− キラル種のうちの少なくとも1つを回収することと、を含む。
【0041】
従来より、小さい粒子の場合、効率的なキラル分割を行うためには高いペクレ数が必要であると考えられてきた。ペクレ数Peは、以下のとおり定義される無次元数であり、
【数1】
式中、
【数2】
は、適用されるせん断速度を表し、Dは、種の回転拡散定数を表す。回転拡散は、温度Tと線形に比例し(kはボルツマン定数である)、種の摩擦係数fに依存する。摩擦係数fは、種が配置される液体、エナンチオモルフの形、サイズ、及びキラリティーに依存する。
【0042】
したがって、ペクレ数が小さい場合、拡散は、液体流れによって誘導される種の運動を吸収し、分離でき、分離方向に沿った各種の分布は、広範であろう。したがって、従来より、キラル分子などの小さい粒子においては、過剰に高いせん断速度が必要とされることが予想された。
【0043】
テイラー・クエット流れは、物理学者によって、互いに対して同軸上にある2つの筒を回転することによって得られる流れとして定義される。円形クエット流れ、螺旋状流れ(特に、以下に記載されるとおり、キラル種を含む液体が、筒によって形成されたセルの一方の端から、内壁と外壁との間隙中に連続的に導入され、他方の端から回収されるとき)、安定または不安定低レイノルズ数流れ、安定または不安定高レイノルズ数流れなどの流体流れの多数の種類を、そのようなテイラー・クエット流れによって発生させることができる。図8は、テイラー・クエット流れで得られる流れの例を示し、図9〜12は、そのような流れの4つの例の写真を示し、それぞれにスパイラル乱れ、相互貫入スパイラル、平凡な乱れ、及び変調波動渦を示す。流れの種類は、典型的には、外壁及び内壁に対して算出されたレイノルズ数Reに依存し、
Re=ωGν−1及びRe=ωGν−1であり、
ωは外筒の回転速度であり、Rは外筒の内面の半径であり、ωは内筒の回転速度であり、Rは内筒の外面の半径であり、Gは2つの筒(すなわち、R〜R)の間の間隙であり、νは動粘度である。
【0044】
しかし、すでに言及したとおり、本発明者らは、本発明に従って発生させたテイラー・クエット流れを使用することが、過剰に高いせん断速度を適用することを必要とすることなく、大きいペクレ数を有するシステムのキラル分割だけでなく、小さいペクレ数を有するものも可能にするということを発見した。
【0045】
テイラー・クエット流れを加えると、接線方向の運動uに加えて、キラル種は、回転ベクトルに対して共線の力を受け、それに対して、筒の長手方向軸に対して共線の第1の方向uに沿って変化する1組のエナンチオモルフィック種の1つのキラル種、及び第1の方向と逆の第2の方向に沿って変化するその組のエナンチオモルフィック種のその他のキラル種(図2参照)と異なって反応するであろう。共線の力に加えて、本発明者らは、キラル種がまた、回転ベクトルに対して垂直である力を受け、キラル種がまた、径方向変化uを受けることを発見した。テイラー・クエット流れの確立後の瞬間、キラル種は、それぞれ異なる「軌道」、すなわち、半径に沿った異なる位置で安定する。各キラル種における平均半径は、種のキラリティーに依存するが、それらの最初の位置には依存しない(図2参照)。この径方向変化uを、以下にさらに詳述するとおり、強い変化を受けるキラル種を分離するために有利に使用することができる。
【0046】
外壁の回転を、キラル種の間の十分な分離に至るまで維持する。
【0047】
キラル種を含む液体を、1つまたは両方の筒を回転する前に、単一のバッチとして、内壁と外壁との間の間隙中に導入し得る。液体を、また次のバッチを導入する前に、停止しているまたは維持されている筒(複数可)の回転で、複数のバッチ中に導入し得る。液体を、最終的に、絶えず導入し得る。
【0048】
代わりに、キラル種を、内壁と外壁との間の間隙中に導入でき、液体を後で導入する。キラル種は、次いで、原位置で溶解または分散されるであろう。
【0049】
例えば、キラル種のうちの1つのみが、特に関心対象であるとき、キラル種のうちの1つのみを回収することは可能であり、その他のものを処分する。これはまた、1組のエナンチオモルフィック種の1つのキラル種のみが、特に関心対象であるときの場合でもあり得る。1つを超えるキラル種、特に、1組のエナンチオモルフィック種の両方のキラル種を回収することも可能である。この後者の場合では、両方のエナンチオモルフィック種を、同時に回収することができる。
【0050】
加えて、同じキラル種または異なるキラル種を同時に分離する必要がある場合、その同じキラル種または異なるキラル種の画分を回収するように、キラル種の回収を、内壁または外壁の長さに沿って多数の異なる点で行い得る。
【0051】
回収を外部から負圧をセルの1つ以上の出口に適用することによって実行でき、したがって、セルから除去されるべき液体を引き起こす。セルが1つを超える出口を備える場合、異なる負圧を異なる出口へ適用し得る。代わりに、陽圧をセルの1つ以上の入口で適用でき、したがって、等しい流出を全ての出口で同時に引き起こす(各出口における圧力低下が等しいと規定する)。全体のセルの内容物をまた、単一の出口を通して抽出でき、そこで、異なるキラル種または類似するまたは異なるサイズのキラル種を含有する画分へ分裂し得る。
【0052】
内壁は、好ましくは、運動不能であり、外壁のみが回転する。しかし、内壁をまた、外壁と同じまたは逆方向に回転でき、内壁の外面上及び外壁の内面上のキラル種の吸着を減少し得るという理由で、壁を逆方向に回転することは有益である。
【0053】
回転する外壁及び任意に内壁によって生み出されたせん断速度は、有利に1s−1〜1012−1、好ましくは、10−1〜1010−1、より好ましくは、10−1〜10である。せん断速度は、外壁及び内壁の回転速度に関連付けられており、その重複する部分の両方の壁の間の間隙幅においても同様であり、
【数3】
、ωは外筒の回転速度であり、Rは外筒の内面の半径であり、ωは内筒の回転速度であり、Rは内筒の外面の半径であり、rは内筒と外筒との間の位置である。
【0054】
外壁の回転速度は、有利にナノメートルサイズのキラル種において1000rpm〜500000rpm(回転毎分)、マイクロメートルサイズのキラル種において1rpm〜5000rpm、サブミリメートルサイズのキラル種において1rpm〜100rpmである。
【0055】
内壁の回転速度は、有利に0rpm〜20000rpmである。しかし、内壁の回転は、約1700の決定的なテイラー数、例えば、約1708を超えず、テイラー渦流れ、波動渦流れ、スパイラル渦流れ、または乱流流れなどの流れにおける不安定性の形成を防止するようなものであるべきである。
【0056】
種を含有する液体は、5×10−5Pa・s〜10Pa・sの粘度を有利に有する。好ましくは、高いペクレ数において、粘度は、10−1Pa・s〜10Pa・sであり、小さいペクレ数において、粘度は5×10−5Pa・s〜10−1Pa・sである。より高い粘度は、回転拡散を減少させ、こうして拡散によってキラル移動を分散よりも支持する。加えて、せん断応力は、粘度と線形に比例し、より高いせん断応力は、より高いキラル揚力を引き起こし、したがって、より速い分離を引き起こす。
【0057】
液体は、例えば、超臨界CO、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、トルエン、クロロホルム、メタノール、p−キシレン、ベンゼン、クロロベンゼン、シクロヘキサン、水、エタノール、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、血液、グリセリン、蜂蜜、または溶融されたガラス(例えば、1000℃または600℃で)としての溶剤であり得る。これらの溶剤の粘度は、David E.Lideによる「CRC Handbook of Chemistry and Physics」,93rdedition(CRC Press,2012)で見つけることができる。
【0058】
液体の粘度がより高ければ高いほど、特にナノメートルサイズの種において、キラル種を互いから分離することはますます簡単になる。
【0059】
本方法はまた、その所望の液体の粘度値を、外筒、任意に内筒を回転する前に得るように、液体の粘度を調整することを含み得る。
【0060】
小さいペクレ数、すなわち、約5よりも低いペクレ数を有する種において、キラル分割を、外壁から内壁に方向付けられた液体内に整列する電場を適用することによって遂行し得る。双極子モーメントを有するキラル種(例えば、双極子モーメントを有する分子)は、電場と共にそれらの双極子モーメントを整列させる。電圧は、有利に0V〜300kV、好ましくは、100V〜10kV、さらに好ましくは、500V〜5kVである。電場の方向は、径方向に優先的である。電場が、内壁及び外壁の長さに沿って一定であり得るか、または勾配場が、内壁及び外壁の長さに沿って適用され得るかのいずれかである。電場もまた、振動電場であり得る。勾配場を適用することは、せん断速度が外壁でより高いため、キラル種の径方向位置を制御して、それらの少なくとも一部を外壁により近づけることを可能にする。
【0061】
整列をまた、内壁及び外壁2、3との間の間隙4内に一定の磁場を適用することによって得ることができる。磁気双極子モーメントを有するキラル種(例えば、常磁性分子)は、一定の磁場と共にそれらの磁気双極子モーメントを整列させる。磁場の値は、有利に1mT〜50T、好ましくは、100mT〜5T、さらに好ましくは、500mT〜2Tである。一定の磁場の方向は、径方向に優先的である。磁場が、内壁及び外壁の長さに沿って一定であり得るか、または第2の勾配場が、内壁及び外壁の長さに沿って径方向磁場と同時に適用され得るかのいずれかである。磁場もまた、振動磁場であり得る。勾配場を適用することは、せん断速度が外壁でより高いため、キラル種の径方向位置を制御して、それらの少なくとも一部を外壁により近づけることを可能にする。磁場を使用するとき、液体は、好ましくは、常磁性エナンチオモルフの分離のための反磁性媒体であるか、または液体は、反磁性エナンチオモルフの分離のために常磁性である。
【0062】
電場及び磁場の両方を同時に適用でき、したがって、セルの長手方向軸に沿って方向付けられるローレンツ力を発生させる。1つの所望のキラル種のみがあるとき、または同じ方向に方向付けられたキラル揚力を受ける多数の所望のキラル種があるとき、ローレンツ力を、キラル揚力と同じまたは逆方向に方向付けるように、電場及び磁場の両方を調整し得る。
【0063】
電場及び/または磁場は、径方向変化uを、より良好なキラル分割を達成するために活用することを可能にする。
【0064】
本方法はまた、セル内の温度を制御することを含み得る。例えば、混合物の温度を低下させることによって、キラル種のブラウン運動を減少させる。また、水などにおけるいくつかの場合では、キラル種が溶解または分散される液体の粘度を増加させ得る。両方の効果は、ペクレ数を増加させることを促進し、キラル分割をより効率的にする。内壁及び外壁のうちの1つまたは両方を、加熱または冷却し得る。
【0065】
異なるステップが、特定の順序で記載され、連続的なステップとして図1において表されるものの、これは、必ずしもそれらが特定の順序で実行されることを意味するものではない。実際に、当業者は、どのステップを同時に実施することができるか明らかに理解するであろう。例えば、以下のステップの各々を同時にすることができ、そのステップとは、外壁を回転すること、内壁を回転すること、電場を適用することである。1つ以上のキラル種を回収することを、外壁、また任意に内壁の回転の開始後に、開始することができるが、回収すること及び回転することを両方実施するとき、ある時間帯があり得る。
【0066】
図3〜6を参照しながら、本発明に従ったキラル種のキラル分割のためのデバイス1を、以下に記載する。
【0067】
このデバイス1は、同じ液体中に含有されるキラル種の分離を可能にする。デバイス1をまた、エナンチオモルフィック種の多数の組のキラル種を互いから分離するために使用し得る。この方法を、キラル種が溶解または分散されるアキラル媒体または混合物から、1つ以上のキラル種を分離するために依然として使用することができる。
【0068】
デバイス1はセルを備え、そのセルは、
− 内壁2と、
− 内壁2と同軸上にあり、かつ内壁2と共に液体を受容するための間隙4を形成する外壁3と、を有する。
【0069】
内壁2及び外壁3の各々は、回転体である。「回転体」によって、内壁2、外壁3それぞれが、平面曲線(すなわち、平面中に含有され得る曲線)を、内壁2、外壁3それぞれの長手方向軸Aである軸の周囲で回転することによって得られた外面21、内面31それぞれを備えるということが、本発明の範囲で特に理解される。
【0070】
動作中、内壁2の外面21及び外壁3の内面31のみが、関心対象である(また、図において例証される)。結果的に、内壁及び外壁2、3が同軸上であること及びそれらがある程度重複することを述べることによって、内壁2の外面21及び外壁3の内面31が同軸上であること及びそれらがある程度重複することを本明細書において意味する。内面の形、もしあれば、内壁2の内面の形、及び外壁3の外面の形は重要ではない。
【0071】
外壁3は、内壁2の少なくとも一部にわたって、その長さに沿って内壁2を囲む。換言すれば、内壁及び外壁2、3は、ある一定の長さにわたってそれらの共通の長手方向軸Aに沿って長手方向に重複する。
【0072】
内壁及び外壁2、3の長手方向軸へ長手方向に到達する重複の長さLは、有利に3倍より大きい間隙幅Gの平均サイズである。実際に、重複の長さLは、キラル種の移動速度に依存する。キラル種がより速く移動すればするほど、重複の長さLはますます長くなる。したがって、遅く移動するキラル種において、長さLは、3倍より大きい間隙幅Gの平均サイズであるはずであり、速く移動するキラル種において、長さは、100倍までの間隙幅Gの平均サイズであり得る。間隙幅Gを、壁の長手方向軸に対して垂直に測定する。
【0073】
セルは、少なくとも1つの入口1in及び少なくとも1つの出口1outを備える。入口1in及び/または出口1outを、内及び/または外壁2、3上に提供し得る。好ましくは、1つの入口及び多数の出口がある。多数の出口を提供することは、特に、それらを長手方向に分布するとき、後に記載されるとおり、より良好な分割効率を得るためにキラル分割を促進する。内壁2中の多数の出口は、径方向よりも軸方向に移動する最良のキラル種に適し、一方、外壁3中の多数の出口は、軸方向よりも径方向に移動する最良のキラル種に適する。
【0074】
入口(複数可)1in及び/または出口(複数可)1outは独立的に、貫通穴、ノズル、網目、または内壁及び外壁の材料によって形成された多孔性膜であり得る。例えば、強い径方向のキラル移動を有するキラル種において、それらを、多数の出口を外壁上に配置することまたは多孔性外壁を有することのいずれかによって、外壁を通して回収し得る。
【0075】
内壁2の外面21及び外壁3の内面31の両方は、筒状であり得る(図2及び6参照)。「筒状」によって、外筒が回転するとき、内筒の外表面と外筒の内表面との間で一定の間隙を維持するように、正しい円形筒、すなわち、筒の断面が円であることは理解される。
【0076】
そのような場合では、内筒2は、外筒3の内径よりも小さい外径を備え、両方は、ある一定の長さにわたってそれらの共通の長手方向軸Aに沿って互いに長手方向に重複する。
【0077】
1つの変異形では、内壁2の外面21及び外壁3の内面31の両方は、同じ頂角を有する円錐台形であり得、したがって、一定の間隙を同様に残す(図3参照)。内壁2のより広範囲の端は、外壁3のより広範囲の端と適合する。換言すれば、内壁2のより狭い端は、外壁3のより狭い端と適合する。そのような配置では、せん断速度は、内壁及び外壁2、3のより狭い端からより広範囲の端へ増加し、したがって、せん断勾配を生み出す(図3における矢印参照)。
【0078】
別の変異形では、内壁2の外面21は、円錐台形であり得、外壁3の内面31は、筒状であり得る(図4参照)。したがって、内壁2と外壁3との間の間隙4は、一定ではない。せん断速度は、内壁2のより狭い端からより広範囲の端へ次第に増加する(図4における矢印参照)。
【0079】
これらの2つの後者の配置を、例えば、同じキラリティーで(例えば、全て右巻きの螺旋体であるか、または全て左巻きの螺旋体である)、しかし異なるサイズで異なるキラル種を分離するために有利に使用することができる。したがって、内壁及び外壁2、3の長手方向軸に沿った最小から最大またはその逆方向のサイズに従った分離は可能である。これらの配置では、入口1inを、好ましくは、内壁2の1つの端に配置し、多数の出口1outを、入口から離れた内壁2に沿って提供する。例えば、入口を、内壁2のより狭い端及びそのより広範囲の端へ向かって内壁2に長手方向に沿った出口に配置する。
【0080】
依然として別の変異形では、外壁3は筒状であり、内壁2は、固体のより狭い端によって互いに連結された2つの、好ましくは、同一の、円錐台形の固体の形を有する(図5参照)。したがって、間隙幅は、セルの両方の端で狭く、その中間で実質的により広範囲である。好ましくは、中心入口1inを、2つの円錐台形の固体が共に連結して、内壁2を形成し、2つの連続の出口1outが提供され、入口の両方の側面上により広範囲の端まで分布される場所に対応する位置の内壁2中に提供する。
【0081】
この配置は、例えば、2つの逆の種類のキラリティー(例えば、左巻きの螺旋体及び右巻きの螺旋体)に分類され得る異なるキラル種を分離するために特に有利である。これらのキラル種の混合物を、中心入口1inを通して導入するとき、外壁3(また任意に内壁2)の回転は、1種類のキラル種(例えば、右巻きのもの)に上向きに移動させ、その他の種類のキラル種(例えば、左巻きのもの)に下向きに移動させる。したがって、第1の分離は、1種類のキラル種をその他の種類のものから(例えば、右巻きのものを左巻きのものから)分類しながら生じる。そこで、上記変異形に関して、第2の分離は、キラル種のサイズに従って、キラリティー種類の各々において生じるであろう。
【0082】
これらの3つの後者の配置の全てにおいて、各特異的キラル種(限定的なキラリティー及びサイズを有する)に関して、テイラー・クエット流れが原因である移動変化が、拡散によってバランスを保たれるであろう外壁3の回転速度によって、また任意に内壁2の回転速度によって、より容易に制御される、ある一定のせん断速度がある。そのような場合では、この特異的キラル種に対応する多数の垂直帯は、セル内に形成するであろう。
【0083】
例えば、円錐台形の外壁及び筒状内壁などの内壁及び外壁における他の幾何学は可能である。
【0084】
好ましくは、間隙幅Gが、内壁2の外面21と外壁3の内面31との間で一定であるとき、間隙幅Gを、100nm〜10mmであるように設定する。より好ましくは、間隙幅Gを、マイクロメートルサイズの種において250μm〜5mm、ナノメートルサイズの種において100nm〜250μmであるように設定する。
【0085】
外壁3を、一般に、外壁3の長手方向軸へ垂直に延在する第1の端壁32によって、その長手方向の端のうちの1つで閉鎖する。内壁及び外壁2、3を直立(すなわち、垂直であるそれらの長手方向軸A)に配置するとき、第1の端壁32は、外壁3の底部閉鎖部を形成し、したがって、底部端壁になる。外壁3のその他の長手方向の端は、上端壁33によって非閉鎖または閉鎖されたままであり得る。
【0086】
外壁3及び内壁2の長手方向軸が水平方向であるように、外壁3及び内壁2を配置するとき、第1の端壁32、任意に上端壁33は、側壁になる。
【0087】
外壁3の長さは、好ましくは、5cm〜2mであり、その長手方向軸に沿ったその内面の径は、好ましくは、2mm〜2mである。
【0088】
貫通穴が内壁2を通して延在するように、内壁2のいずれの端にも底壁を提供しないことは可能である。外壁3のためのものと同じ様式で、少なくとも1つの端壁22、23を提供することも可能である。内壁2の長さは、好ましくは、5cm〜2mであり、その外面の径は、好ましくは、1mm〜2mである。
【0089】
好ましくは、外壁3の第1の端壁32に近い内壁2の端は、第1の端壁32まで延在しない。換言すれば、空間Sは、第1の端壁32と第1の端壁32に近い内壁2の端との間にあるままである。空間幅Sを、好ましくは、100nm〜10mmになるように設定する。
【0090】
外壁3を外壁3の両方の端で閉鎖するとき、好ましくは、1つまたは内壁の端のその他のもののいずれも、外壁3を閉鎖する端壁へ延在しない。
【0091】
これは、第1の端壁32及びもしあればその他の端壁33が、壁の重複の領域において駆動役割を実質的に果たさないという利点を有する。実際に、第1の端壁32及びもしあればその他の端壁33は、外壁3と同じ回転速度で移動し、したがって、その近傍で液体流れに影響する。内壁2の対応する端が、第1の端壁32へ下方向に延在する場合、壁の底部の一部の液体中に任意のテイラー・クエット流れはないだろう。液体に対する第1の端壁32の影響は、長手方向軸に対して共線であり、第1の端壁32から離れた方向に沿って減少する。外壁3を、その両方の端で閉鎖するとき、同じ影響は、その他の端壁33と共に存在する。
【0092】
内壁及び外壁2、3は、直立である、すなわち、それらの長手方向軸が垂直であるか、または横たわる、すなわち、それらの長手方向軸が水平方向であるかのいずれかであり得る。重力が、キラル種の移動において役割を果たさないという理由で、通常、1μmよりも小さい、小さいサイズのキラル種及び、一般に、溶液を形成する液体中で溶解性がある、または液体中で分散性があり、ゾルを形成するキラル種において選択は自由である。しかし、沈降するより大きいキラル種において、内壁及び外壁は、好ましくは、直立である。そのような場合では、上向きに移動するキラル種を、重力によって減速し、一方、下向きに移動するものを、加速するであろう。
【0093】
デバイス1は、
− 動作中、テイラー・クエット流れが液体内に発生するように、外筒3をある回転方向に回転させるためのアクチュエータ5と、
− キラル種のうちの少なくとも1つを回収するための回収器6と、をさらに備える。
【0094】
回収器6を、セルの出口(複数可)1outに接続する。任意に、各出口1outのための1つの回収器6があり得、または1つの回収器上で多数の出口1outに接続され得る。例えば、デバイス1は、別の1つのキラル種を回収するための2つの回収器6、7を備える。それらを、壁の逆端にまたは内及び/または外壁2、3の他の有利な位置に配置し得る。そのような配置は、長手方向軸に沿って逆方向に移行する2つのキラル種、例えば、1組のエナンチオモルフィック種を回収することが望まれるとき、特に、好ましい。
【0095】
一般的に言って、デバイス1は、回収されるべきキラル種があるのと同数の多数の回収器を備えることができ、または回収器は、1つを超えるキラル種を回収するために提供され得る。
【0096】
デバイス1は、外壁3の回転速度を設定するために、外壁3のアクチュエータ5に接続された指令器8をさらに備え得る。指令器8はまた、外壁3のアクチュエータ5に指令し、外壁3の回転方向を変化するために提供され得る。
【0097】
デバイス1は、外壁3と同じまたは逆方向に、内壁2を回転するための別のアクチュエータ9をさらに備え得る。そのような場合では、デバイス1は、内壁2の回転速度を設定するために、内壁2のアクチュエータ9に接続された指令器10をさらに備え得る。指令器10はまた、内壁2のアクチュエータ9に指令し、内壁2の回転方向を変化するために提供され得る。
【0098】
デバイス4はまた、液体と共にセルを、または液体及びキラル種の混合物を間隙4へ供給するための供給装置13を備え得る。供給装置13を、入口(複数可)1inに接続する。
【0099】
デバイス1は、液体を受容するための間隙4内に電場を発生させるための電場発生装置11をさらに備え得る。電場発生装置は、陽性に荷電された外壁3から負に荷電された内壁2へ向かって方向付けられる電場を発生させる。したがって、キラル種の電気双極子は、トルクを受け、電場に対応するキラル種の整列を引き起こす。適用中の勾配電場の場合、内壁2または外壁3のいずれかへ向かって移動するキラル種の径方向位置を制御することは可能であろう。
【0100】
代わりにまたは更に、デバイス1は、液体を受容するための間隙4内に磁場を発生させるための磁場発生装置12を備え得る。磁場発生装置は、陽性に荷電された外壁3から負に荷電された内壁2へ向かって方向付けられる磁場を発生させる。したがって、キラル種の磁気双極子は、トルクを受け、磁場に対応するキラル種の整列を引き起こす。適用中の勾配磁場の場合、内壁2または外壁3のいずれかへ向かって移動するキラル種の径方向位置を制御することは可能であろう。
【0101】
デバイス1はまた、セルの温度を制御するための温度制御器14を備え得る。温度制御器14は、ペルチェ式、熱伝達流体、及び抵抗式のうちの1つであり得る。温度制御器14を、内壁2、外壁3または両方のいずれかに提供し得る。
【実施例】
【0102】
ナノメートルサイズの種
ナノメートルサイズの種として、長さ200nm及び幅20nmのシリカナノメートルサイズのエナンチオモルフィックねじりリボンを使用した。左巻きのねじりリボンを、以後、Sリボンと記載し、右巻きのねじりリボンをRリボンと記載する。リボンを蛍光顕微鏡で画像化できるように、リボンをスルホローダミン−Bで蛍光性に標識する。ナノメートルサイズの種を、水中に分散した。
【0103】
ナノメートルサイズのエナンチオモルフィック種でのテイラー・クエット流れの実験を、両方が直立に配置され、かつ互いに同軸上にある1.45mmの半径の回転する外筒を有するテイラー・クエットセル及び1.2mmの半径を有する固定内筒で実行した。両方の筒の長さは、36.8mmであった。セルの温度を、30℃に設定した。ナノメートルサイズの種が分散された液体は水であり、その力学的粘度は、30℃で0.798×10−3Pa・sである。全てのニュートン流体のように、水の粘度は、使用されたせん断速度には依存せず、温度のみに依存する。
【0104】
試料は、安定した状態に達する前に、時計回り及び反時計回りに数分間回転する外筒と共に、いくつかのサイクルを受けた。そこで、30秒の第1の時間帯中ある方向(安定した状態)で、また安定水準に達するまで、第2の時間帯中逆方向で外筒を回転する間、エナンチオモルフィック種の変化を記録した。これを、物体の巻き方及び回転方向に依存して増加または減少する蛍光シグナルで標識するスルホローダミン−Bにより、監視することができる。全ての測定を、外筒を5000rpmで回転する間に実施し、結果として約2730s−1のせん断速度となった。
【0105】
Rリボンが、外筒が時計回りに回転されるとき、下向きに移動し、外筒が反時計回りに回転されるとき、逆方向、すなわち、上向きに移動することは観察され得る。Sリボンに関して、運動方向は逆であり、すなわち、Sリボンが、外筒が時計回りに回転されるとき、上向きに移動し、外筒が反時計回りに回転されるとき、下向きに移動する。
【0106】
したがって、R及びSリボンを本発明の方法を使用して分離するためのキラル分割は可能である。
【0107】
ペクレ数が2.265のみであったものの、驚くべきことに、R及びSリボンの両方の長手方向速度は、外筒を回転したとき、約50μm/秒であった。
【0108】
超分子キラル集合体
N1,N2−ジヘキサデシル−N1,N1,N2,N2−テトラメチルエタン−1,2−ジアミニウム(双性界面活性剤)に非共有結合的に結合されたD−酒石酸またはL−酒石酸のいずれかを、超分子キラル集合体のキラル構成要素として使用した。D−酒石酸及び双性界面活性剤は、ナノメートル〜マイクロメートルの長さ及び20nmの径の左巻きのねじりリボン、そして、Sリボンに自己集合し、一方で、L−酒石酸及び双性界面活性剤は、ナノメートル〜マイクロメートルの長さ及び20nmの径の右巻きのねじりリボン、そして、Dリボンに自己集合する。
【0109】
両方が直立に配置され、かつ互いに同軸上にある1.45mmの半径の回転する外筒を有するテイラー・クエットセル及び1.2mmの半径を有する固定内筒を使用した。筒はそれぞれ長さ36.8mmであった。以前に示された全ての結果は、溶剤として水を使用して得られ、水の力学的粘度は、0.798×10−3Pa・s(30℃で)と等しい。全てのニュートン流体のように、水の粘度は、使用されたせん断速度には依存せず、温度のみに依存する。セルは、30℃の温度に自動調節された。
【0110】
試料は、安定した状態に達する前に、時計回り及び反時計回りに数分間回転する外筒と共に、いくつかのサイクルを受けた。そこで、30秒の第1の時間帯中ある方向(安定した状態)で、また安定水準に達するまで、第2の時間帯中逆方向で外筒を回転する間、エナンチオモルフィック種の変化を記録した。全ての測定を、外筒を5000rpmで回転する間に実施し、結果として約2730s−1のせん断速度となった。
【0111】
Rリボンが、外筒が時計回りに回転されるとき、下向きに移動し、外筒が反時計回りに回転されるとき、逆方向、すなわち、上向きに移動することは観察され得る。Sリボンに関して、運動方向は逆であり、すなわち、Sリボンが、外筒が時計回りに回転されるとき、上向きに移動し、外筒が反時計回りに回転されるとき、下向きに移動する。
【0112】
したがって、R及びSリボンを本発明の方法を使用して分離するためのキラル分割は可能である。
【0113】
ペクレ数は2.265であり、R及びSリボンの両方の長手方向速度は、50μm/秒までであった。
【0114】
マイクロメートルサイズの種
螺線形のマイクロメートルサイズのスパイラルを、光照射下で通常の液体培養で培養されたスピルリナ属の藍藻類(すなわち、シアノバクテリア)から得た。スパイラル(右巻き及び左巻き両方の)は、長さ150μm、幅30μm、厚さ10.5μmであり、20μmのピッチを有した(図13参照)。
【0115】
これらのマイクロメートルサイズのエナンチオモルフィック種でのテイラー・クエット流れの実験を、両方が直立に配置され、かつ互いに同軸上にある1.45mmの内半径の回転する外筒を有するテイラー・クエットセル及び1.2mmの外半径を有する固定内筒で実行した。両方の筒の長さは、36.8mmであった。セルの温度を、30℃に設定した。マイクロメートルサイズのスパイラルが分散された液体は水であり、その力学的粘度は、30℃で0.798×10−3Pa・sである。
【0116】
右巻きのスパイラルまたは左巻きのスパイラルのみのいずれかを使用する実験は、以下を示した。右巻きのスパイラルは、筒が反時計回りに回転されるとき、上向きに移動し、時計回りに回転されるとき、下向きに移動した。逆に、左巻きのスパイラルは、外筒が時計回りに回転されるとき、上向きに移動し、外筒が反時計回りに回転されるとき、下向きに移動した。スパイラルの自己蛍光は、スパイラルが蛍光顕微鏡を使用して追跡されることを可能にした。5000rpmの外筒回転における平均軸方向移動速度は、0.3mm/sec−1であった。
【0117】
実験を、1:1の右巻き:左巻き比率でこれらのマイクロメートルサイズのスパイラルのラセミ混合物を使用して実施した。第1に、スパイラルを、スパイラルの行動が、ただ1つの単一のエナンチオモルフを用いた実験と同一であった(上記参照)クエットセルの上部及び底部で、外壁を5000rpmで5分間回転することによって濃縮した。2つの濃縮されたプラグを、セルの2つの軸方向先端部で形成した。次に、流れを、突然に逆転させ、濃縮されたプラグは、逆方向に移動し、セルの底部にあったエナンチオモルフが、上部へ移動し、一方で、最初に上部に位置したエナンチオモルフが、底部へ移動したことを意味する。両方の濃縮されたプラグは、逆方向に移動し、互いを通過し、セルの先端部に達したとき、移動するのを停止した。1分の流れ逆転後に、2つのエナンチオモルフを、1センチメートルの距離にわたって完全に空間的に分解し、キラル分割をテイラー・クエットセルを使用して達成できることを意味している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13