特許第6801868号(P6801868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6801868-難燃性木質材料及びその製造方法 図000020
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801868
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】難燃性木質材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 97/02 20060101AFI20201207BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20201207BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20201207BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20201207BHJP
   B27K 3/38 20060101ALI20201207BHJP
   B27K 3/34 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C08L97/02
   C08K5/521
   C09K21/12
   C09K21/14
   B27K3/38
   B27K3/34 B
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-236760(P2016-236760)
(22)【出願日】2016年12月6日
(65)【公開番号】特開2018-90731(P2018-90731A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 圭将
(72)【発明者】
【氏名】池之迫 美菜
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−235474(JP,A)
【文献】 特開平09−104010(JP,A)
【文献】 特開2018−043451(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/119213(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/104263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 3/00
C08K 5/00
C08L 97/00
C09K 21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肪族ハロゲン系リン酸エステルの木質材料用難燃剤を含み、熱可塑性樹脂を含まない内装材又は家具材用難燃性木質材料であって、
前記脂肪族ハロゲン系リン酸エステルが、式(2):
【化1】
(式中、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜15のハロアルキル基であり、Aは両末端又は片方の末端にヘテロ原子を有する炭素数2〜10のアルキレン基であり、前記アルキレン基は、その炭素鎖中に少なくとも1個のヘテロ原子を含んでいてもよく、又は前記アルキレン基中の水素原子はハロゲノ基、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のハロアルキル基からなる群から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよい。nは1以上10以下の整数である。なお、nが2以上の場合、複数存在するAは、同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物である、内装材又は家具材用難燃性木質材料
【請求項2】
前記式(2)において、Aが両末端に酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子からなる群から選択されるヘテロ原子を有する炭素数2〜6のアルキレン基であって、前記アルキレン基の炭素鎖中に酸素原子及び窒素原子から選択される1個以上のヘテロ原子を含む、請求項1に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項3】
前記式(2)において、Aが両末端に酸素原子を有する炭素数4のアルキレン基であって、前記アルキレン基の炭素鎖中に酸素原子を1個含む、請求項1又は2に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項4】
前記式(2)において、Aが-O-C2H4-O-C2H4-O-である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項5】
前記脂肪族ハロゲン系リン酸エステルが、ジエチレングリコールビス(ジ−1−クロロエチル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(ジ−2−クロロエチル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(1−クロロ−2−プロピル)ホスフェート、及びジエチレングリコールビス(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項6】
前記脂肪族ハロゲン系リン酸エステルが、ジエチレングリコールビス(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェートを含む、請求項5に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項7】
前記式(2)において、Aが片方の末端に酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子からなる群から選択されるヘテロ原子を有する炭素数1〜3のアルキレン基であって、前記アルキレン基がクロロ、ブロモ、メチル及びエチルからなる群から選択される1個以上の置換基で置換される、請求項1に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項8】
前記式(2)において、Aが片方の末端に酸素原子を有する炭素数1のアルキレン基であって、前記アルキレン基が1個以上のメチルで置換されている、請求項1又は7に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項9】
前記式(2)において、Aが-O-CH(-CH3)-である、請求項1、7又は8に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項10】
前記脂肪族ハロゲン系リン酸エステルが、[1−メチル−1−{ビス(1−クロロエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(1−クロロエチル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(2−クロロエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロエチル)ホスフェート、[1−{ビス(2−クロロ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェート、及び[1−{ビス(2−クロロ−1−プロピルオキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェートからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1、7又は8に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項11】
前記脂肪族ハロゲン系リン酸エステルが、[1−{ビス(2−クロロ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェートを含む、請求項10に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項12】
前記式(2)において、nが1以上7以下の整数である、請求項1〜4及び7〜9のいずれか1項に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項13】
前記木質材料用難燃剤が木質材料に含浸されている、請求項1〜12のいずれか1項に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【請求項14】
下式(A)の含浸率が10%以上160%以下である、請求項13に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料。
【数1】
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の内装材又は家具材用難燃性木質材料を製造する方法であって、前記木質材料用難燃剤を木質材料に含浸させる工程を含み、前記含浸工程は、少なくとも加圧による含浸処理方法又は減圧による含浸処理方法を含む、製造方法。
【請求項16】
下式(A)の含浸率が10%以上160%以下になるように、前記木質材料用難燃剤を木質材料に含浸させる、請求項15に記載の製造方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性木質材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に住宅建築用の内装材又は外装材には、加工性がよく軽量で、しかも強度及び経済性に優れた木質材料が広く使用されている。その一方で、木質材料は着火し易く燃え易いために火災に対する安全性に乏しいという欠点があった。
【0003】
従来、このような木質材料を難燃化するために、リン酸系又はホウ酸系の無機系難燃剤が使用されている。該無機系難燃剤は水に溶解させて水溶液として、木質材料に塗布(コーティング)、又は含浸させる。塗布(コーティング)では木質材料の表面層にしか難燃性を付与できないため、十分な難燃性能を付与するためには、木質材料の内部に難燃剤を導入することができる含浸処理が好ましい。
【0004】
十分な難燃性能を得るために、高濃度に調整した又は溶解性を高めた無機系難燃剤を用いることが考えられるが、いずれも吸湿性が高いため、木質材料に含浸させると、湿気等の影響により木質材料用難燃剤の滲み出しが生じる。特に、木質材料用難燃剤がホウ酸系難燃剤の場合には、滲み出たホウ酸の結晶が表面で白くなり(白華)、難燃性能及び意匠性の低下を招く。また滲み出た木質材料用難燃剤が酸性の場合には、周辺の金属具等が腐食するおそれがある。
【0005】
無機系難燃剤の吸湿性の問題を改善するため、種々の有機系の木質材料用難燃剤が提案されている(特許文献1〜4)。特許文献1には白華を抑える木質材料用難燃剤としてテトラアルキルビスホスフェートが記載されており、特許文献2にはトリエチルホスフェート、ジメチルプロピルホスホネート又はトリス(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェートを木質材料用難燃剤とすることが記載されており、特許文献3にはハロゲン系リン酸エステル及びラテックスバインダーからなるコーティングタイプの木質材料用難燃剤が記載されている。また、特許文献4には第3級ホスファイト、ジアルキル亜リン酸ハロゲナイト、環状ハロゲノフォスファイト、アルデヒド及びケトンの反応によって得られる含リン含ハロゲンのオリゴマー及び/又は重合体からなる木質材料用難燃剤が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の木質材料用難燃剤を使用して木質材料を難燃化した場合、日本国のような高温高湿多雨の気候環境ではいずれも木質材料から滲み出しが生じ、経時的に難燃性能が低下すると考えられる。
【0007】
よって、吸湿による白華がなく、滲み出しを抑制され、かつ高温高湿多雨の環境下でも難燃性能を維持することができる難燃性木質材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US2012/0058358号
【特許文献2】US2014/0234632号
【特許文献3】US2015/0111052号
【特許文献4】特公平5−8081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記現状を鑑みて考えたものであり、吸湿による白華がなく、かつ滲み出しを抑制することで難燃性能の維持に優れた難燃性木質材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らが吸湿による白華がなく、かつ滲み出しを抑制することで難燃性能の維持に優れた難燃性木質材料を開発すべく鋭意検討した結果、木質材料用難燃剤として特定の構造を有する有機リン酸エステルを使用することで、吸湿による白華がなく、滲み出しを抑制され、かつ難燃性能の維持に優れた難燃性木質材料が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記項1〜9に示す難燃性木質材料及びその製造方法に係る。
項1. 芳香族リン酸エステル及び脂肪族ハロゲン系リン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の木質材料用難燃剤を含む難燃性木質材料。
項2. 前記芳香族リン酸エステルが、式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Rはそれぞれ独立して、無置換の炭素数6〜30のアリール基、又は、直鎖若しくは分枝鎖の炭素数1〜10のアルキル基で置換された炭素数6〜30のアリール基を示す。)
で表される化合物である、上記項1に記載の難燃性木質材料。
項3. 前記式(1)において、Rがそれぞれ独立して、無置換の炭素数6〜14のアリール基、又は、直鎖若しくは分枝鎖の炭素数1〜6のアルキル基で置換された炭素数6〜14のアリール基である、上記項2に記載の難燃性木質材料。
項4. 前記脂肪族ハロゲン系リン酸エステルが、式(2):
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜15のハロアルキル基であり、Aは両末端又は片方の末端にヘテロ原子を有する炭素数2〜10のアルキレン基であり、前記アルキレン基は、その炭素鎖中に少なくとも1個のヘテロ原子を含んでいてもよく、又は前記アルキレン基中の水素原子はハロゲノ基、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のハロアルキル基からなる群から選択される少なくとも1個の置換基で置換されていてもよい。nは1以上10以下の整数である。なお、nが2以上の場合、複数存在するAは、同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物である、上記項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性木質材料。
項5. 前記式(2)において、nが1以上7以下の整数である、上記項4に記載の難燃性木質材料。
項6. 前記木質材料用難燃剤が木質材料に含浸されている、上記項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性木質材料。
項7. 下式(A)の含浸率が10%以上160%以下である、上記項6に記載の難燃性木質材料。
【0016】
【数1】
【0017】
項8. 上記項1〜6のいずれか1項に記載の難燃性木質材料を製造する方法であって、前記木質材料用難燃剤を木質材料に含浸させる工程を含む、製造方法。
項9. 下式(A)の含浸率が10%以上160%以下になるように、前記木質材料用難燃剤を木質材料に含浸させる、上記項8に記載の製造方法。
【0018】
【数2】
【発明の効果】
【0019】
本発明の難燃性木質材料は、吸湿による白華がなく、かつ滲み出しが抑制されている。これにより、木質材料の難燃性能を長期間にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】難燃試験に用いる装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
1.難燃性木質材料
本発明の難燃性木質材料は、木質材料用難燃剤として芳香族リン酸エステル及び脂肪族ハロゲン系リン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の木質材料用難燃剤を含む。難燃性木質材料中に芳香族リン酸エステル及び/又は脂肪族ハロゲン系リン酸エステルを含むことにより、吸湿による白華がなく、滲み出しが抑制されているので、高温高湿多雨の環境下でも難燃性能を維持することができる。
【0023】
以下、芳香族リン酸エステル及び脂肪族ハロゲン系リン酸エステルについて詳細を説明する。
【0024】
[芳香族リン酸エステル]
本発明では、芳香族リン酸エステルを木質材料用難燃剤として使用する。
【0025】
芳香族リン酸エステルは、意外なことに、高温高湿多雨の環境下でも木質材料から滲み出しにくいため、該芳香族リン酸エステルを含む難燃性木質材料は、難燃性能維持の面で格別顕著な効果を発揮する。
【0026】
前記芳香族リン酸エステルは公知のものを使用することができる。前記芳香族リン酸エステルとして、分子内に1個のリン原子を持つ芳香族ホスフェート、分子内に2個以上のリン原子を持つ芳香族オリゴマーホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられる。
【0027】
前記芳香族リン酸エステルの具体例として、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ハイドロキノンビス(ジフェニル)ホスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)ホスフェート、ビフェノールビス(ジフェニル)ホスフェート、ビフェノールビス(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ジナフチルモノフェニルホスフェート、モノナフチルジフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、o−ビフェニリルジフェニルホスフェート、p−ビフェニリルジフェニルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、トリ(o−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(m−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(p−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(o−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(m−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(p−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、モノアントラセニルジフェニルホスフェート、ジアントラセニルモノフェニルホスフェート、トリアントラセニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリ(2,6−キシリル)ホスフェート、モノクレジルジ(2,6−キシリル)ホスフェート等が挙げられる。
【0028】
この中でも、下式(1):
【0029】
【化3】
【0030】
(式中、Rはそれぞれ独立して、無置換の炭素数6〜30のアリール基、又は、直鎖若しくは分枝鎖の炭素数1〜10のアルキル基で置換された炭素数6〜30のアリール基を示す。)で表される芳香族ホスフェートが好ましい。
【0031】
前記炭素数6〜30のアリール基として、フェニル、ナフチル、アントラセニル、o−ビフェニル、p−ビフェニル等が挙げられる。
【0032】
前記直鎖の炭素数1〜10のアルキル基として、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−ノニル、及びn−デシルが挙げられる。前記分枝鎖の炭素数1〜10のアルキル基として、イソプロピル、イソブチル、tert−ブチル、イソペンチル、2−エチルヘキシル、イソノニル、イソデシル等が挙げられる。
【0033】
上記式(1)の芳香族ホスフェートのうち、より好ましくは、前記式(1)において、Rがそれぞれ独立して、無置換の炭素数6〜14のアリール基、又は、直鎖若しくは分枝鎖の炭素数1〜6のアルキル基で置換された炭素数6〜14のアリール基である化合物であり、さらに好ましくは、Rがそれぞれ独立して、無置換の炭素数6〜10のアリール基、又は、直鎖若しくは分枝鎖の炭素数の1〜4のアルキル基で置換された炭素数6〜10のアリール基である化合物であり、特に好ましくは、Rがそれぞれ独立して、直鎖若しくは分枝鎖の炭素数の1〜4のアルキル基で置換された炭素数6〜10のアリール基である化合物である。
【0034】
より好ましい例として、ジナフチルモノフェニルホスフェート、モノナフチルジフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、o−ビフェニリルジフェニルホスフェート、p−ビフェニリルジフェニルホスフェート、トリ(o−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(m−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(p−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(o−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(m−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(p−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、モノアントラセニルジフェニルホスフェート、ジアントラセニルモノフェニルホスフェート、トリアントラセニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリ(2,6−キシリル)ホスフェート、モノクレジルジ(2,6−キシリル)ホスフェート等が挙げられる。
【0035】
さらに好ましい例として、トリ(o−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(m−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(p−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(o−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(m−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(p−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、ジナフチルモノフェニルホスフェート、モノナフチルジフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリ(2,6−キシリル)ホスフェート、モノクレジルジ(2,6−キシリル)ホスフェート等が挙げられる。
【0036】
特に好ましい例として、トリ(o−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(m−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(p−イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリ(o−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(m−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリ(p−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリ(2,6−キシリル)ホスフェート、モノクレジルジ(2,6−キシリル)ホスフェート等が挙げられる。
【0037】
前記芳香族ハロゲン系リン酸エステルを製造する方法については特に制限されず、公知の製造方法を広く使用することができる。例えば、オキシハロゲン化リンと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させることによって製造することができる。
【0038】
[脂肪族ハロゲン系リン酸エステル]
本発明では、脂肪族ハロゲン系リン酸エステルを木質材料用難燃剤として使用する。
【0039】
脂肪族ハロゲン系リン酸エステルは、意外なことに、高温高湿多雨の環境下でも木質材料から滲み出しにくいため、該脂肪族ハロゲン系リン酸エステルを含む難燃性木質材料は、難燃性能維持の面で格別顕著な効果を発揮する。
【0040】
脂肪族ハロゲン系リン酸エステルとして、公知のハロゲン化アルキルを含む縮合リン酸エステルを使用することができる。このような脂肪族ハロゲン系リン酸エステルとして好ましくは、下式(2):
【0041】
【化4】
【0042】
(式中、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜15のハロアルキル基である。Aは両末端又は片方の末端にヘテロ原子を有する炭素数2〜10のアルキレン基であり、前記アルキレン基は、その炭素鎖中に少なくとも1個のヘテロ原子を含んでいてもよく、又は前記アルキレン基中の水素原子はハロゲノ基、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のハロアルキル基からなる群から選択される少なくとも1個の置換基で置換されていてもよい。nは1以上10以下の整数である。なお、nが2以上の場合、複数存在するAは、同一でも異なっていてもよい。)で表される脂肪族ハロゲン系リン酸エステルである。
【0043】
前記炭素数1〜15のハロアルキル基は、少なくとも1個のハロゲノ基を含む炭素数1〜15のアルキル基である。ハロゲノ基としては、フルオロ、クロロ、ブロモ等が挙げられる。炭素数1〜15のアルキル基に含まれるハロゲノ基の数は、1〜3個が好ましく、1〜2個がより好ましい。前記炭素数1〜15のハロアルキル基として、例えば、クロロメチル、ブロモメチル、2−クロロエチル、2−ブロモエチル、3−クロロプロピル、1−クロロ−2−プロピル、2−クロロ−1−プロピル、3−ブロモプロピル、1−ブロモ−2−プロピル、2−ブロモ−1−プロピル、1,1−ジクロロプロピル、1,2−ジクロロプロピル、1,1−ジブロモプロピル、1,2−ジブロモプロピル等が挙げられる。
【0044】
炭素数2〜10のアルキレン基として、エチレン、n−プロピレン、n−ブチレン、n−へキシレン、n−ヘプチレン、n−オクチレン等が挙げられる。
【0045】
前記ヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。前記アルキレン基の炭素鎖が前記ヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の数は、1〜3個が好ましく、1〜2個がより好ましい。
【0046】
前記アルキレン基の置換基として挙げられるハロゲノ基として、フルオロ、クロロ、ブロモ等が挙げられる。炭素数1〜4のアルキル基として、メチル、エチル、n−プロピル、イソブチル、n−ブチル等が挙げられる。炭素数1〜4のハロアルキル基として、クロロメチル、ブロモメチル、2−クロロエチル、2−ブロモエチル、2−クロロ−1−プロピル、1−クロロ−2−プロピル、1−ブロモ−2−プロピル、2−ブロモ−1−プロピル、1,1−ジクロロプロピル、1,2−ジクロロプロピル、1,1−ジブロモプロピル、1,2−ジブロモプロピル等が挙げられる。前記アルキレン基が前記置換基で置換されている場合、置換基の数は、1〜4個が好ましく、1〜2個がより好ましい。また、前記置換基としてのアルキル基及びハロアルキル基は炭素数1〜3がより好ましく、炭素数1〜2がさらに好ましい。
【0047】
なお、前記式(2)中の「含んでいてもよく」とは、前記アルキレン基が、その炭素鎖中に少なくとも1個の前記ヘテロ原子を含む場合、又は含まない場合のいずれかの状態であることを意味する。また、「置換されていてもよい」とは、前記アルキレン基中の水素原子が、少なくとも1個の前記置換基で置換されている場合、又は置換されていない場合のいずれかの状態であることを意味する。
【0048】
上記式(2)において、Rはそれぞれ独立して、クロロ及びブロモからなる群から選択される少なくとも1個のハロゲノ基を含む炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましく、クロロ及びブロモからなる群から選択される少なくとも1個のハロゲノ基を含む炭素数1〜4のアルキル基であることがより好ましい。Rとして具体的には、クロロメチル、ブロモメチル、2−クロロエチル、2−ブロモエチル、3−クロロプロピル、1−クロロ−2−プロピル、2−クロロ−1−プロピル、3−ブロモプロピル、1−ブロモ−2−プロピル、2−ブロモ−1−プロピル、1,1−ジクロロプロピル、1,2−ジクロロプロピル、1,1−ジブロモプロピル、1,2−ジブロモプロピル等が好ましい。
【0049】
上記式(2)において、Aは両末端に酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子からなる群から選択されるヘテロ原子を有する炭素数2〜6のアルキレン基であって、前記アルキレン基の炭素鎖中に酸素原子及び窒素原子から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む場合、及び、片方の末端に酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子からなる群から選択されるヘテロ原子を有する炭素数1〜3のアルキレン基であって、前記アルキレン基がクロロ、ブロモ、メチル及びエチルからなる群から選択される少なくとも1個の置換基で置換されている場合が好ましい。Aとしてより好ましくは、両末端に酸素原子を有する炭素数4のアルキレン基であって、前記アルキレン基の炭素鎖中に酸素原子を1個含む場合(-O-C2H4-O-C2H4-O-)、及び、片方の末端に酸素原子を有する炭素数1のアルキレン基であって、前記アルキレン基がメチルで置換されている場合(-O-CH(-CH3)-)である。なお、nが2以上の場合、複数存在するAは、同一でも異なっていてもよい。
【0050】
上記式(2)の脂肪族ハロゲン系リン酸エステルの具体例として、エチレングリコールビス(ジ−1−クロロエチル)ホスフェート、エチレングリコールビス(ジ−2−クロロエチル)ホスフェート、エチレングリコールビス(ジ−1−ブロモエチル)ホスフェート、エチレングリコールビス(ジ−2−ブロモエチル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(ジ−1−クロロエチル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(ジ−2−クロロエチル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(ジ−1−ブロモエチル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(ジ−2−ブロモエチル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(ジ−1−クロロエチル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(ジ−2−クロロエチル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(ジ−1−ブロモエチル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(ジ−2−ブロモエチル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(ジ−1−クロロエチル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(ジ−2−クロロエチル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(ジ−1−ブロモエチル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(ジ−2−ブロモエチル)ホスフェート、エチレングリコールビス(1−クロロ−2−プロピル)ホスフェート、エチレングリコールビス(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェート、エチレングリコールビス(1−ブロモ−2−プロピル)ホスフェート、エチレングリコールビス(2−ブロモ−1−プロピル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(1−クロロ−2−プロピル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(1−ブロモ−2−プロピル)ホスフェート、ブチレングリコールビス(2−ブロモ−1−プロピル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(1−クロロ−2−プロピル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(1−ブロモ−2−プロピル)ホスフェート、ジエチレングリコールビス(2−ブロモ−1−プロピル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(1−クロロ−2−プロピル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(1−ブロモ−2−プロピル)ホスフェート、2,2’−ジクロロメチルプロピレングリコールビス(2−ブロモ−1−プロピル)ホスフェート、[{ビス(1−クロロエトキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(1−クロロエチル)ホスフェート、[{ビス(2−クロロエトキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(2−クロロエチル)ホスフェート、[{ビス(1−ブロモエトキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(1−ブロモエチル)ホスフェート、[{ビス(2−ブロモエトキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(2−ブロモエチル)ホスフェート、[1−{ビス(1−クロロエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(1−クロロエチル)ホスフェート、[1−{ビス(2−クロロエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロエチル)ホスフェート、[1−{ビス(1−ブロモエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(1−ブロモエチル)ホスフェート、[1−{ビス(2−ブロモエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−ブロモエチル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(1−クロロエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(1−クロロエチル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(2−クロロエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロエチル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(1−ブロモエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(1−ブロモエチル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(2−ブロモエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−ブロモエチル)ホスフェート、[{ビス(2−クロロ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェート、[{ビス(2−クロロ−1−プロピルオキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェート、[{ビス(2−ブロモ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(2−ブロモ−1−メチルエチル)ホスフェート、[{ビス(2−ブロモ−1−プロピルオキシ)ホスフィニル}メチル]ジ(2−ブロモ−1−プロピル)ホスフェート、[1−{ビス(2−クロロ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェート、[1−{ビス(2−クロロ−1−プロピルオキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェート、[1−{ビス(2−ブロモ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−ブロモ−1−メチルエチル)ホスフェート、[1−{ビス(2−ブロモ−1−プロピルオキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−ブロモ−1−プロピル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(2−クロロ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(2−クロロ−1−プロピルオキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−クロロ−1−プロピル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(2−ブロモ−1−メチルエトキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−ブロモ−1−メチルエチル)ホスフェート、[1−メチル−1−{ビス(2−ブロモ−1−プロピルオキシ)ホスフィニル}エチル]ジ(2−ブロモ−1−プロピル)ホスフェート等が挙げられる。
【0051】
上記式(2)において、nは1以上10以下の整数であり、木質材料への含浸のしやすさの観点から、より好ましくは、1以上8以下の整数であり、さらに好ましくは1以上7以下の整数である。
【0052】
また、高温高湿多雨の環境下での難燃剤の滲み出しを防ぐ観点から、木質材料に含まれる上記式(2)のn=0の化合物の割合は少ないことが好ましい。n=0である化合物の割合が、木質材料に含まれる木質材料用系難燃剤全量を100重量%としたときに、20重量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは15重量%以下である。
【0053】
前記脂肪族ハロゲン系リン酸エステルを製造する方法については特に制限されず、公知の製造方法を広く使用することができる。例えば、オキシ塩化リンとジオール化合物とを反応させて縮合型ホスホロクロリデートを得た後、該縮合型ホスホロクロリデートとアルキレンオキシドとを反応させることによって製造する方法;三塩化リンとアルキレンオキシドとを反応させてジハロゲン化アルキルホスホロクロリダイトを得た後、該ジハロゲン化アルキルホスホロクロリダイトと、ケトン化合物及びアルデヒド化合物からなる群から選択される少なくとも1つとを反応させることによって製造する方法等が挙げられる。
【0054】
[木質材料]
難燃化の対象である木質材料の形状は特に制限はなく、木材を機械的に破砕若しくは切削し、又は化学的に処理して、細片状(チップ、ストランド等)、木毛状等としたものを原料として製造される、合板、合板用単板、集成材、パーティクルボード、ファイバーボード等;天然の木材から切り出された板材、紙、パルプ等が挙げられる。木質材料の用途についても特に制限はなく、家具、住宅建築材料等が挙げられる。木材の種類についても特に制限はなく、カエデ、カシ、キリ、クリ、ケヤキ、ブナ、カバ、ヤチダモ、スギ、ヒノキ、マツ、イチョウ、イブキ、ツガ等が挙げられる。
【0055】
2.難燃性木質材料の製造方法
難燃性能の維持に優れた難燃性木質材料の製造方法を提供するという目的を達成するために、本発明の難燃性木質材料の製造方法は、前記木質材料用難燃剤を木質材料に含浸させる工程を含む。含浸処理を行う場合、木質材料用難燃剤を溶媒に溶解させた溶液又は分散させた懸濁液を用いることが好ましい。溶媒として、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、二硫化炭素等が挙げられる。
【0056】
含浸処理を行う方法は特に限定されず、加圧による含浸処理方法、減圧による含浸処理方法、常圧による含浸処理方法、及びこれらを組み合わせた含浸処理方法等が挙げられる。いずれの方法を用いてもよいが、木質材料用難燃剤を容易に注入する観点から、少なくとも加圧による含浸処理方法又は減圧による含浸処理方法を含むことが好ましく、少なくとも減圧による含浸処理方法を含むことがより好ましい。加圧は通常200〜3000kPa程度、好ましくは400〜2000kPa程度で、減圧は通常0.1〜50kPa程度、好ましくは2〜30kPa程度で実施される。含浸処理時間は特に限定されず、難燃化処理を行う木質材料の大きさに合わせて適宜変更することができる。例えば、5分間〜24時間程度である。
【0057】
本発明の難燃性木質材料は、必要とされる難燃性能に応じて木質材料用難燃剤の含浸量を適宜調節することができる。前記含浸量は木質材料単位体積あたりの注入した木質材料用難燃剤の重量(単位:kg/m又はg/cm)で表される。また、乾燥時の木質材料に対して注入した木質材料用難燃剤の重量は、下記式(A)で表される含浸率で表すことができる。よって、該含浸率を目安にして、前記木質材料用難燃剤の注入量を調節することができる。
【0058】
【数3】
【0059】
含浸率は10%以上160%以下が好ましく、30%以上140%以下がより好ましく、40%以上120%以下がさらに好ましい。含浸率が上記の範囲であれば、難燃性能が発揮されるとともに、難燃性木質材料の輸送時又は建築作業時の取り扱いが容易になる。よって、本願発明には、上式(A)の含浸率が10%以上160%以下になるように、前記木質材料用難燃剤を木質材料に含浸させる、難燃性木質材料の製造方法も包含される。
【0060】
また、前記木質材料用難燃剤が木質材料に含浸されている難燃性木質材料、及び、上式(A)の含浸率が10%以上160%以下である難燃性木質材料も本願発明に包含される。
【0061】
本発明の難燃性木質材料は、必要に応じて、前記木質材料用難燃剤以外の公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤として、染料、着色顔料、消泡剤、分散剤、乳化剤、浸透剤、塩化合物等を挙げることができる。前記添加剤は、含浸処理に使用される難燃剤溶液中に添加して含浸処理することにより、木質材料に難燃性以外の効果を付与することができる。前記添加剤の添加量は、木質材料の難燃性を阻害しない範囲で適宜調整すればよい。
【0062】
含浸処理を行うに際し、処理に供する木質材料は、予め乾燥させておくことが好ましい。乾燥方法は、天日乾燥、加熱炉を用いた強制乾燥等のいずれでもよい。乾燥の程度は、通常、木材に反り、割れ等が生じない範囲で可能な限り乾燥させるのが好ましい。
【0063】
含浸処理後の木質材料は、乾燥させることが好ましい。乾燥の温度は、含浸させた溶液の溶媒の沸点以上、通常30〜150℃程度、好ましくは50〜100℃程度で行う。乾燥の程度は、難燃剤溶液を含浸した木質材料の乾燥減量が含浸溶液量の約30〜90量%の範囲となるように行うことが好ましい。乾燥炉は溶媒の沸点以上に加熱できるものであればよく、例えば、熱風式乾燥炉、赤外線式乾燥炉等を使用することができる。
【0064】
本発明の難燃性木質材料の滲み出しは、浸漬溶脱試験及び乾湿溶脱試験を行うことで評価することができる。浸漬溶脱試験及び乾湿溶脱試験の環境条件は特に限定されない。例えば、実際の使用環境を考慮し、浸漬溶脱試験であれば水への浸漬と送風乾燥の処理とを繰り返す環境条件を適用することができる。また、乾湿溶脱試験であれば高湿処理と乾湿処理とを繰り返す環境条件を適用することができる。
【0065】
浸漬溶脱試験において、水への浸漬処理方法は特に限定されない。例えば、難燃性木質材料の試験片を完全に水中に沈めた状態で浸漬を行う方法が挙げられる。浸漬時の水温は特に限定されず、通常0℃〜100℃、好ましくは5℃〜80℃、より好ましくは10℃〜70℃である。室温の水を使用することもできる。送風乾燥処理方法は特に限定されない。例えば、ドライヤー、送風機、送風乾燥器等を用いて乾燥することができる。水への浸漬の処理時間及び送風乾燥の処理時間は特に限定されない。それぞれ2〜72時間、4〜48時間の範囲で処理を行うことができる。滲み出し及び白華を経時的に評価する観点から、水への浸漬及び送風乾燥は同じ処理時間で繰り返し行うことが好ましい。
【0066】
乾湿溶脱試験において、高湿処理方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。そのような方法として、例えば、難燃性木質材料の試験片を、湿度を80%に調整した調湿機内で処理する方法、試験片に所定量の水を噴霧する方法等が挙げられる。乾湿処理の方法についても特に限定されず、公知の方法で行うことができる。そのような方法として、例えば、難燃性木質材料の試験片を、湿度を30%に調整した調湿機内で処理する方法、送風機内で送風乾燥処理する方法、乾燥剤を入れたデシケーター内部で処理する方法等が挙げられる。高温処理時及び乾湿処理時の温度は特に限定されず、通常0〜100℃程度、好ましくは5〜80℃程度、より好ましくは10〜70℃程度である。また、室温環境下で高温処理又は乾湿処理を行うこともできる。高湿処理時間及び乾湿処理時間は特に限定されない。それぞれ2〜72時間、4〜48時間の範囲で処理を行うことができる。滲み出し及び白華を経時的に評価する観点から、高湿処理及び乾湿処理は同じ処理時間で繰り返し行うことが好ましい。
【0067】
木質材料用難燃剤の難燃性木質材料からの滲み出しの評価は、上記浸漬溶脱試験及び乾湿溶脱試験の両試験前の木質材料の重量、及び、繰り返し処理後の木質材料の重量を測定し、以下の式(B)によって滲み出し(%)を算出して行うことができる。
【0068】
【数4】
【0069】
上記浸漬溶脱試験における水への浸漬と送風乾燥との繰り返し、及び乾湿溶脱試験における高湿処理と乾湿処理との繰り返しは、滲み出しの差が明確になる程度まで繰り返して行われる。それにより、木質材料用難燃剤の滲み出しの評価を定量的に行うことができる。
【0070】
上記観点から、繰り返しの回数は、浸漬溶脱試験における水への浸漬と送風乾燥とを1回ずつ行う操作を1サイクルとすると、同順番の操作を通常3サイクル以上、好ましくは5サイクル以上、より好ましくは8サイクル以上、さらに好ましくは10サイクル以上行うことができる。上限については特に限定されないが、通常100サイクル以下、好ましくは80サイクル以下、より好ましくは60サイクル以下、さらに好ましくは40サイクル以下、より一層好ましくは20サイクル以下で行うことができる。
【0071】
乾湿溶脱試験における高湿処理と乾湿処理とを1回ずつ行う操作を1サイクルとすると、同順番の操作を通常3サイクル以上、好ましくは5サイクル以上行うことができる。上限については特に限定されないが、通常100サイクル以下、好ましくは80サイクル以下、より好ましくは60サイクル以下、さらに好ましくは40サイクル以下、より一層好ましくは20サイクル以下で行うことができる。
【0072】
木質材料用難燃剤の難燃性木質材料からの滲み出しは、少ないほど好ましい。
【0073】
本発明の難燃性木質材料は、上記浸漬溶脱試験及び乾湿溶脱試験による木質材料用難燃剤の滲み出しが抑制されている。よって、難燃性能が維持され、白華の発生が防止された難燃性木質材料として好ましく用いることができる。
【0074】
本発明の難燃性木質材料はそのまま、住宅、店舗、及びその他の建築構造物の内外装、家具材、土木基礎材等に利用することができる。また、木質材料の表面を公知の防水剤を用いて防水塗装して用いることも可能である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
合成例における分析方法は、以下のとおりである。
【0077】
[活性塩素濃度]
合成例の第一段反応で得られた縮合型ホスホロクロリデート又はジハロゲン化アルキルホスホロクロリダイトの活性塩素濃度(重量%)を、「分析化学実験法」(株式会社化学同人)の「硝酸銀標準液による塩素イオンの定量法」に準じて測定し、第一段反応の反応完結を確認した。
【0078】
[酸価]
合成例で得られた化合物の酸価(KOHmg/g)を、JIS K0070 中和滴定法に準じて測定した。
【0079】
[GPC測定]
合成例で得られた化合物を試料とし、各試料0.05gにテトラヒドロフラン(THF)10mlをホールピペットで添加して試料溶液とし、下記の機器および分析条件で分析し、RI検出器の面積%を、各合成例化合物の各成分の含有量(組成)とする。
【0080】
なお、使用する機器については相当品でもよい。
【0081】
(機器)
GPC分析装置(東ソー株式会社製、型式:HLC−8220GPC)
データ分析装置(東ソー株式会社製、型式:GPC−8020modelII)
ガードカラム(東ソー株式会社製、型式:TSKgel guardcolumn SuperHZ−L 4.6mmI.D.×3.5cm)1本
サンプル(分析)カラム(東ソー株式会社製、型式:TSKgel SuperHZ1000 4.6mmI.D.×15cm)3本
リファレンスカラム(東ソー株式会社製、型式:TSKgel SuperH−RC 6.0mmI.D.×15cm)1本
【0082】
(分析条件)
INLET温度:40℃
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
溶媒流量:0.35ml/分
検出器RI(Reflactive Index:屈折率)
試料溶液注入量:10μl(ループ管)
【0083】
(データ処理条件)
START TIME:8.00分
STOP TIME:18.00分
検出感度:3mV/分
ベース判定値:1mV/分
排除面積:10mV×秒
排除高さ:0mV
排除半値幅:0秒
【0084】
[合成例1]
第1段反応
攪拌機、温度計、滴下漏斗および水スクラバーを連結したコンデンサーを装着した4つ口フラスコに、オキシ塩化リン282.4g(1.8モル)を充填し、滴下漏斗を用いてジエチレングリコール106g(1.0モル)を16〜18℃にて1時間で滴下した。滴下が終了した後、混合物を同温で1時間熟成反応させた。次いで減圧することで塩化水素及びオキシ塩化リンを除去し、縮合型ホスホロクロリデート307.1gを得た。活性塩素濃度は37.1重量%であった。
【0085】
第2段反応
第1段反応で得られた縮合型ホスホロクロリデート307.1gに、触媒として四塩化チタン1.6g(8.4ミリモル)を添加し、そこに滴下漏斗を用いてプロピレンオキシド199.3g(3.4モル)を16〜55℃にて3時間で滴下した。滴下後、反応液を80℃に昇温し、2時間熟成反応させた。
【0086】
第2段反応後、炭酸ナトリウム水による中和、及び温水による洗浄を行った後、未反応原料及び水分を減圧留去することにより淡黄色透明の液体生成物を得た。得られた生成物は、酸価0.1KOHmg/gで、式(I)が主成分である。
式(I):
【0087】
【化5】
【0088】
[合成例2]
オキシ塩化リン214.8g(1.4モル)に変更した以外は合成例1と同様の製造方法により反応を行い、合成例1より高縮合な式(I)の化合物が得られた。
【0089】
[合成例3]
第1段反応
攪拌棒、温度計、アルキレンオキシド吹き込み管、コンデンサー付き500mlフラスコに、三塩化リン137.5g(1.0モル)、ジクロロエタン50.0g及びトリエチルアミン塩酸塩0.28g(0.20%/PCl )を仕込み、氷水の入ったバスで10℃に冷やした。次いで、滴下漏斗を用いてプロピレンオキシド145.0g(2.5モル)を滴下した。反応温度は10〜30℃、反応時間は4時間であった。得られた第1段反応の反応混合物の活性塩素濃度は5.9重量%であった。
【0090】
第2段反応
第1段反応の反応混合物に、滴下漏斗よりアセトアルデヒド25.3g(0.58モル)を30〜50℃で30分かけて添加した。その後、徐々に反応温度を上げ、80〜90℃で4時間反応させた。第2段反応の反応混合物の酸価は2.2KOHmg/gであった。得られた三価の有機リン化合物を下記の第3段反応により酸化させ、五価の有機リン化合物を得た。
【0091】
第3段反応(酸化反応)
第2段反応の反応混合物に25%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応混合物のpHを10.5にした。次いで、35%過酸化水素水溶液53.4g(0.55モル)を10〜30℃で4時間かけて添加した。一方、過酸化水素水溶液を添加している間、反応混合物のpHが8.5〜10.5になるよう、適宜25%水酸化ナトリウム水溶液を添加した。過酸化水素水溶液の添加が終了した後、30〜40℃の温度を2時間保持し、次いで分液漏斗に静置して、水層と有機層とに分離した。得られた有機層を温水で洗浄し、未反応原料及び水分を減圧留去することにより淡黄色透明の液体生成物を得た。得られた生成物は、酸価0.25KOHmg/gで、式(II)において、R=CHかつZ=Hである化合物が主成分である。
式(II):
【0092】
【化6】
【0093】
合成例1〜3の各化合物のGPC測定によるnの組成比は以下のとおりである。
【0094】
【表1】
【0095】
なお、上記GPC組成において、合成例1若しくは3のn=4および合成例2のn=5の各数値は、低保持時間側のショルダーピーク分も含めた数値である。
【0096】
実施例1
以下の方法にしたがい、難燃性木質材料試験片を作製した。
(1)木質材料用難燃剤溶液の調製
木質材料用難燃剤であるトリ(2,6−キシリル)ホスフェートと、溶媒である工業用エタノールとを、室温(25℃)下で表2に記載の重量で混合し、木質材料の難燃化に用いる木質材料用難燃剤溶液を調製した。
【0097】
(2)難燃性木質材料試験片の製造
木質材料として、30mm×30mm×5mmのスギ辺材を使用した。上記木質材料を105℃のオーブンで一晩初期乾燥し、初期乾燥後の重量Wiを秤量した。デシケーターに、上記木質材料用難燃剤溶液を入れたビーカーを置いた。溶液の表面に初期乾燥後の木質材料を置き、その上におもりを載せて、木質材料を液面まで沈めた。デシケーターの内部を9kPaに減圧して2分間含浸する工程と、常圧に戻す工程とを3回繰り返した。木質材料を木質材料用難燃剤溶液中に沈めたまま一晩放置した。その後減圧乾燥機に入れて50℃で3時間、次いで80℃で6時間乾燥して難燃性木質材料試験片を得た。難燃性木質材料試験片の重量Wtを計測し、以下の式(A)により含浸率を算出した。
【0098】
【数5】
【0099】
実施例2〜6
表2に記載の有機リン酸エステルと工業用エタノールとを表2に記載の配合量で使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、難燃性木質材料試験片を得た。
【0100】
比較例1〜3
表2に記載の有機リン酸エステルと工業用エタノールとを表2に記載の配合量で使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で難燃性木質材料試験片を得た。
【0101】
比較例4
トリ(2,6−キシリル)ホスフェート23.4gの代わりにホウ酸系難燃剤(硼砂38.9g、ホウ酸16.7g、及びリン酸アンモニウム0.5gを含む)56.1gを用い、工業用エタノール76.6gの代わりに水100.0gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で試験片を得た。
【0102】
【表2】
【0103】
上記実施例1〜6及び比較例1〜4で製造した難燃性木質材料試験片の難燃性能を確認するために、以下の難燃試験、浸漬溶脱試験及び乾燥溶脱試験を行った。
【0104】
[難燃試験]
図1に示すように、各試験片1を、試験片保持装置2により上から垂直に保持し、該試験片に、着火源(ユーティリティライター)3を着火した状態で下部から火を当て30秒間保持したのち、ユーティリティライターの炎を鎮火した。
【0105】
[難燃評価]
鎮火直後の難燃性木質材料試験片の燃焼挙動(着火及び延焼)を観察し、下記の基準で難燃性を評価した。
2:着火及び延焼することもなく、ただちに自消した。
1:着火したが、延焼することなくすぐに燃焼が治まり自消した。
0:着火したのち、燃焼が治まらずに延焼し続けた。
2を合格とし、1および0を不合格とする。
【0106】
[浸漬溶脱試験]
水による滲み出しを確認するため、各試験片を200mLビーカーに入れ針金で固定し、試験片が水に漬かる程度まで水を加え、室温(25℃)で8時間撹拌した。その後に試験片を取り出して、60℃の送風乾燥を16時間行った。この撹拌及び乾燥操作を1サイクルとして10サイクル繰り返した。10サイクル終了後に試験片の重量を計測し、上記式(A)の含浸率及び以下の式(B)の滲み出し%を算出した。数値が大きいほど、より多くの木質材料用難燃剤が滲み出していることを示す。
【0107】
【数6】
【0108】
評価基準は以下の通りである。
4:滲み出しが20%未満
3:滲み出しが20%以上40%未満
2:滲み出しが40%以上60%未満
1:滲み出しが60%以上80%未満
0:滲み出しが80%以上
1〜4を合格とし、0を不合格とする。
【0109】
[乾湿溶脱試験]
湿気による滲み出しを確認するため、各試験片を、40℃90RH%環境下で24時間放置し(高湿処理)、その後に60℃送風乾燥を24時間行った(乾湿処理)。この高湿処理及び乾湿処理を1サイクルとして5サイクル繰り返し、5サイクル終了後に上記浸漬溶脱試験の方法と同様に滲み出し%を算出することで評価を行った。
【0110】
[白華の確認]
上記の浸漬溶脱試験及び乾湿溶脱試験の後に、目視により、各試験片の表面における白華の有無を確認した。評価基準は以下のとおりである。
あり:試験片表面が白く変色した。
なし:試験片表面に変色は見られなかった。
「なし」を合格とし、「あり」を不合格とする。
【0111】
[溶脱試験後の難燃評価]
上記の浸漬溶脱試験及び乾湿溶脱試験の後に、各試験片について上記の難燃試験を行い、同様にして難燃性を評価した。
【0112】
これらの結果を表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
比較例1及び比較例3の難燃性木質材料試験片は、浸漬溶脱試験後及び乾湿溶脱試験後の滲み出しが大きい(水及び湿気による滲み出しが大きい)ことから、両溶脱試験後の難燃性能が劣る結果となった。比較例2は浸漬溶脱試験後の滲み出しが大きい(水による滲み出しが大きい)ことから、浸漬溶脱試験後の難燃性能が劣る結果となった。無機系難燃剤(ホウ酸)を用いた比較例4の難燃性木質材料試験片は、両溶脱試験後に白華が発生した。
【0115】
一方、本発明の難燃性木質材料である実施例1から実施例6の試験片は、両溶脱試験後において木質材料用難燃剤の滲み出しが抑制され、白華が発生することなく、難燃性能が維持されていることがわかった。特に、水による滲み出しがより小さいという点で、芳香族リン酸エステルを含む難燃性木質材料(実施例1から実施例3)が好ましい。よって、本発明の難燃性木質材料は、高温高湿多雨の気候地域でも難燃性能の低下しない難燃性木質材料として使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の難燃性木質材料は、吸湿による白華がなく、かつ木質材料用難燃剤の滲み出しが抑制されており、難燃性能維持にも優れるため、建築材料等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 試験片
2 試験片保持装置
3 着火源
図1