【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]式(II)の化合物の合成および分析
窒素雰囲気下、CTPEG(4.530g、1等量)をDMF溶媒55mLに入れて、50℃で加熱し均一溶解した。N,N−ジイソプロピルエチルアミン(以下、「DIC」という。)(0.296g、20等量)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(以下、「HOBT」という。)(0.258g、6等量)、および、ベネトクラクス(0.474g、4.8等量)を順次添加した。60℃で6時間攪拌を続けてから40℃に冷却した後、攪拌しながら30℃に加温したメチルテトラ−ブチルエーテル(以下「MTBE」という。)を20分間掛けて滴下し、その後60分掛けて冷却し、30分間攪拌してから、生成した結晶をろ過して集め、20mLのMTBEで洗浄し、得られた結晶を40℃に加温した20mLの無水エタノールに溶かし、70mLのMTBEを20分掛けて滴下し、60分掛けて0℃に冷却し、30分間攪拌し、生成した沈殿物をろ過して集めた。同じ方法で再結晶精製操作を数回繰り返し、35℃の真空乾燥器の中で5時間以上乾燥し、HPLC分析で、式(II)の化合物の純度が97%以上、各々の不純物1%以下のものが得られたので、窒素ガスを充填したプラスチックのバッグの中に入れて、−20℃で保存した。得られた式(II)の化合物の化学構造、ならびに式(I)の化合物の化学構造を、H−NMRの分析(
図1参照)により同定した。また、HPLCの分析によって、式(II)の化合物の高い純度を確認した(
図2参照)。
【0046】
[実施例2]式(I)の化合物と式(II)の化合物の殺細胞効果
式(I)の化合物と式(II)の化合物の殺細胞効果の濃度依存性を以下の通り調べた。
ヒト急性骨髄性白血病細胞株のMV4−11を用いて、式(I)の化合物及び式(II)の化合物の各IC
50(50%阻害率)調べた(
図3(1)参照)。その結果、式(I)の化合物のIC
50(50%阻害率)は0.16pM、式(II)の化合物のIC
50は0.85pMであり、何れの化合物も高い阻害率が確認された。但し、式(I)の化合物は、タンパク質結合率が高い(≧99.9%)ため、血清の含有量が少ない培地(Opti−MEM)を用いた。
【0047】
ヒトの膵臓がんの細胞株のPANC−1を用いて、式(I)の化合物及び式(II)の化合物の各IC
50(50%阻害率)を調べた(
図3(2)参照)。その結果、式(I)の化合物のIC
50は0.99μM、式(II)の化合物のIC
50は18.9μMであった。
【0048】
ヒト肺がん細胞株のA549を用いて、式(I)の化合物及び式(II)の化合物の各IC
50(50%阻害率)を調べた(
図3(3)参照)。その結果、式(I)の化合物のIC
50は0.99μM、式(II)の化合物のIC
50は15.5μMであった。
【0049】
[実施例3]式(II)の化合物の殺細胞効果とがん細胞のプロテアーゼ活性
U937(ヒト組織球性リンパ腫細胞株)、MV4−11(ヒト急性骨髄性白血病細胞株)、PANC−1(ヒト膵臓がん細胞株)及びA549(ヒト肺がん細胞株)に対する式(II)の化合物の50%阻害濃度とがん細胞株のプロテアーゼ活性との間で良い相関が認められた(
図4参照)。この結果、プロテアーゼが高いがん細胞の周辺で、式(II)の化合物のアミド結合が酵素で代謝されることにより、式(I)の化合物が選択的に放出されていることが示唆された。
【0050】
[実施例4]ヒト急性骨髄性白血病(OCI−AML−2)モデルマウスにおける効果
ヒト急性骨髄性白血病細胞株OCI−AML−2をマウスの皮下に移植したモデルを用いて、コントロール群、式(II)の化合物を100mg/kg、200mg/kg、および300mg/kgの各投与量、毎週1回、静脈内投与を2週間行なった群、ならびに、式(I)の化合物を100mg/kgの投与量を、2週間、毎日経口投与した群の間での腫瘍の増殖抑制効果を比較した(
図5(1)参照)。
【0051】
その結果、式(II)の化合物は100mg/kg、200mg/kg、300mg/kgの各々の投与量に於いて用量依存的に腫瘍の増殖を抑制することが認められた。また、式(II)の化合物では、何れの投与量でも体重抑制は殆どなく、コントロール群の体重変化とほぼ同じであった。式(I)の化合物では体重抑制が認められた(
図5(2)参照)。
【0052】
式(I)の化合物の総投与量は、1,400mg/kg(100mg/日の2週間連日投与)であるが、式(II)の物質の総投与量は、16mg/kg、32mg/kg、48mg/kg(式(I)の投与量で換算)であり、式(II)の化合物は、式(I)の化合物の35分の1の投与量に於いて、式(I)の化合物に匹敵する腫瘍増殖抑制効果が認められた。体重抑制から調べた安全性も高いことが分かった。
【0053】
[実施例5]ヒト急性骨髄性白血病(MV4−11)モデルマウスにおける効果
ヒト急性骨髄性白血病細胞株のMV4−11をマウスの皮下に移植した動物モデルを用いて、コントロール群、式(II)の化合物を300mg/kgの投与量(式(I)物質の投与量で換算すると、24mg/kg)で、週1回の頻度で静脈内への投与を3週間行なった群、式(I)の化合物を50mg/kgの投与量で、3週間連日経口投した群の3群の間で腫瘍の増殖抑制効果を比較した。
【0054】
その結果、式(II)の化合物の3週間の総投与量(72mg/kg)が式(I)の化合物の3週間の総投与量(1,050mg/kg)と較べて遥かに少ない量(15分の1の量)であるにも拘らず、式(II)の化合物の腫瘍増殖抑制効果は、式(I)の化合物の腫瘍増殖抑制効果に匹敵した(
図6(1)参照)。また、式(II)の化合物は、式(I)の化合物より安全性が高いことが分かった(
図6(2)参照)。
【0055】
[実施例6]ヒト組織球性リンパ腫モデルマウスにおける効果
ヒトの組織球性リンパ腫細胞株のU937を、マウスの皮下に移植して作製したモデルを用い、コントロール群、式(II)の化合物を200mg/kg、および300mg/kgの投与量で、毎週1回の頻度で、2週間静脈内投与した群、式(I)の化合物を100mg/kgの投与量で、2週間、毎日経口投与した群の3群の間で腫瘍の増殖抑制効果を比較した。
【0056】
その結果、何れの群も顕著な腫瘍増殖抑制効果を示さなかった(
図7(1)参照)。また、体重抑制作用も各群で差がなかった(
図7(2)参照)。実施例3で示した通り、U937(ヒト組織球性リンパ腫細胞株)が最も強いプロテアーゼ活性を示したが、式(I)の化合物にはU937(ヒト組織球性リンパ腫細胞株)の増殖抑制効果がなく、プロテアーゼにより式(II)の化合物のアミド結合が開裂し、腫瘍細胞近傍で式(I)の化合物を高率に放出しても腫瘍増殖抑制効果を示すに至らないことが示唆された。
【0057】
[実施例7]アポトーシス誘導タンパク質BAX/BAKの発現変動
ベネクレクスタ(登録商標)錠10mg、ベネクレクスタ(登録商標)錠50mg、ベネクレクスタ(登録商標)錠100mgの医薬品インタビューフォーム(日本病院薬剤師会、2019年11月作成(第2版))には、『ベネトクラクスはアポトーシス抑制タンパク質であるBCL−2を選択的に阻害する経口投与可能な低分子の物質である。BCL−2がアポトーシス促進性タンパク質(BAX/BAK,BIMなど)と相互作用することにより、してアポトーシス抑制性に機能している。ベネトクラクスは、BCL−2を直接結合することによりアポトーシス促進性タンパク質を遊離させ、腫瘍細胞を速やかなアポトーシスに誘導し、抗腫瘍作用を示すと考えられる』と記載されている。BAXは細胞質に発現するタンパク質であるが、BCL−2の阻害によってアポトーシスが誘導されると、ミトコンドリアの外膜に蓄積すると報告されている。
【0058】
ヒト急性骨髄性白血病細胞のMV4−11を培地に播種し、一晩培養してから、式(I)の化合物を0.1μM及び1μMの濃度で、式(II)の化合物を0.01μM、0.1μM、及び1μMの濃度で添加し、5時間インキュベーションしてから細胞質画分とミトコンドリア画分を抽出し、BAXの発現状況を調べた。
【0059】
その結果、細胞質画分では、式(I)の化合物、式(II)の化合物についてともに濃度依存的なBAXの減少が認められた(
図8参照)。
【0060】
[実施例8]チトクロムC放出量の変動
上記医薬品インタビューフォームには、「アポトーシス促進性タンパク質」としてミトコンドリアより細胞質に流出した「チトクロムC」が示されている。そこで、ヒト急性骨髄性白血病細胞のMV4−11を培地に播種して、一晩培養してから、式(I)の化合物を0.1μM及び1μMの濃度で、又、式(II)の化合物を0.01μM、0.1μM、及び1μMの濃度で各々添加し、5時間のインキュベーションをした後に、細胞質画分及びミトコンドリア画分を抽出し、チトクロムCの放出を調べた。
【0061】
その結果、ミトコンドリアからチトクロムCを放出する量は、式(I)の化合物の添加濃度に依存して、また、式(II)の化合物の添加濃度に依存して、それぞれ増大した(
図9参照)。
【0062】
[実施例9]カスパーゼ活性の変動
上記医薬品インタビューフォームには、ミトコンドリアより細胞質に流出したチトクロムCはカスパーゼを活性化してアポトーシスを誘導することが示されている。そこで、ヒト急性骨髄性白血病細胞のMV4−11を培地に播種して、一晩培養してから、式(I)の化合物を1pM、0.01nM、0.1nM、1nM、0.01μM、0.1μM及び1μMの濃度で、又、式(II)の化合物を1pM、0.01nM、0.1nM、1nM、0.01μM、及び0.1μMの濃度で各々添加し、24時間のインキュベーションをした後に、培地を回収し、カスパーゼ活性を従来公知の手法により調べた。
【0063】
その結果、カスパーゼ活性は、式(I)の化合物の添加濃度に依存して、また、式(II)の化合物の添加濃度に依存して、それぞれ増大した(
図10(1)参照)。ベネトクラクスでの換算濃度が0.1μMの場合は、式(I)の化合物及び式(II)の化合物のいずれも全く同じカスパーゼ活性を示した(
図10(2))。式(II)の化合物が、式(I)の化合物と同様にBCL−2を阻害することにより、腫瘍細胞をアポトーシス誘導し、抗腫瘍作用を示すことが裏付けられた。
【0064】
[実施例10]化合物の水溶解性
式(I)の化合物を、0.5%濃度のCMC(カルボキシメチルセルロース)を含んだ生理食塩水の中に加えて、超音波照射等の操作を加えたところ、10mg/mLの濃度で、均一の懸濁溶液が得られた(
図11(1)参照)。
【0065】
一方、式(II)の化合物を、40℃〜50℃の生理食塩水の中に加えて、超音波照射等の操作を施したところ、10mg/mL及び20mg/mLの濃度の均一水溶液が得られ、室温に戻しても沈殿は何等生じなかった。式(II)の化合物の高分子水溶液の特性が確認された(
図11(2)参照)。