特許第6801941号(P6801941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6801941
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】桁構造物の補強構造及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20201207BHJP
   E01D 2/02 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   E01D22/00 B
   E01D2/02
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-111238(P2019-111238)
(22)【出願日】2019年6月14日
【審査請求日】2019年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】505413255
【氏名又は名称】阪神高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】西岡 勉
(72)【発明者】
【氏名】高田 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 康素
(72)【発明者】
【氏名】藤林 美早
(72)【発明者】
【氏名】桑原 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】森山 保彦
(72)【発明者】
【氏名】松島 太司
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直人
(72)【発明者】
【氏名】山田 早登志
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−216942(JP,A)
【文献】 特許第3528043(JP,B2)
【文献】 国際公開第2006/088184(WO,A1)
【文献】 特許第6128597(JP,B2)
【文献】 特許第5478651(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 2/02
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非通液性の縁切層の一方の面に補強繊維が含浸された補強層、他方の面に接着剤のみで形成された接着層を有する積層補強材が主桁の長手方向に沿うように設けられ、
前記積層補強材が前記接着層で前記主桁の下面に接着され
前記主桁が橋梁の鋼製主桁、前記主桁の下面が前記鋼製主桁の下フランジの連続した平滑な下面であり、
前記鋼製主桁を支持する支承の相互間における前記下フランジの下面に、前記下フランジの長手方向に沿うように前記積層補強材が一層で接着されていると共に、
前記補強繊維が前記縁切層に縫着されていることを特徴とする桁構造物の補強構造。
【請求項2】
請求項1記載の桁構造物の補強構造の施工方法であって、
前記主桁の下面に接着剤を塗布する第1工程と、
非通液性の縁切層の一方の面に補強繊維が設けられ、前記主桁の下面に対応する幅を有する帯状の補強シートを用い、前記補強シートの他方の面を前記主桁の下面に押し付けて接着し、前記縁切層の他方の面に接着層を形成すると共に、前記縁切層の前記補強繊維が設けられた一方の面に含浸剤を塗布して補強層を形成する第2工程を備えることを特徴とする桁構造物の補強構造の施工方法。
【請求項3】
前記第2工程において、ロール状に巻回された前記補強シートを繰り出しながら前記補強シートを接着することを特徴とする請求項記載の桁構造物の補強構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁などの桁構造物を補強する桁構造物の補強構造及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
桁構造物の鋼橋は、車両等の進行方向に沿って橋脚間に掛け渡される何本かの主桁によって床版が支持されており、主桁はI型鋼からなっている(図1参照)。I型鋼の主桁は元来靭性に富んだ材料で形成されているが、車両等の移動する荷重体が床版上を長年にわたって大量に通行することにより、繰り返し撓ませ続けられ、疲労が蓄積して強度が低下してしまう。主桁の端部や支承の劣化は認識し易いため、補強が行なわれているが、強度が低下した主桁自体も補強することが必要となる。
【0003】
また、主桁の補強に関する補強構造として特許文献1、2が公知である。特許文献1には、天井クレーンの繰り返し載荷を受ける鋼製の主桁に生じた疲労亀裂の内部に、エポキシ樹脂又はウレタン樹脂などの樹脂を注入し、樹脂の硬化後に、疲労亀裂の周囲に炭素繊維のストランドをシート状に加工した繊維含有強化材を貼り付け、疲労亀裂の進展を抑制することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、鋼橋の鋼製主桁の鋼桁腹板に繊維強化樹脂層を設置して鋼桁腹板の終局耐荷力を増強する補強構造が開示され、鋼桁腹板の表面にプライマーを施し、プライマー上にポリウレア樹脂などのパテ層を形成している。そして、樹脂のパテ層の硬化後に、パテ層の上にマトリクス樹脂を塗布し、その上に連続繊維シートを載置し、さらにマトリクス樹脂を塗布して含浸させて連続繊維シートを接着することにより、繊維強化樹脂層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−112659号公報
【特許文献2】特開2012−52293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1、2の補強構造は、疲労亀裂の進展の抑制や、鋼桁腹板の腐食減肉を補強して鋼桁腹板の終局耐荷力の増強を図ることが可能であるものの、上下方向に繰り返し受ける荷重に対する主桁の変形、振動を抑制して主桁の疲労を低減することは困難である。また、特許文献1、2の補強構造を施工する際には、疲労亀裂に注入した樹脂の硬化やパテ層の樹脂の硬化を施工工程の途中で待つ必要があるが、これらの樹脂の硬化には時間を要するため、施工工期が長くなってしまうという問題もある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、上下方向に繰り返し受ける荷重に対する主桁の変形、振動を抑制して主桁の疲労を低減することができる桁構造物の補強構造及びその施工方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、施工工期を短縮することができる桁構造物の補強構造及びその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の桁構造物の補強構造は、非通液性の縁切層の一方の面に補強繊維が含浸された補強層、他方の面に接着剤のみで形成された接着層を有する積層補強材が主桁の長手方向に沿うように設けられ、前記積層補強材が前記接着層で前記主桁の下面に接着され、前記主桁が橋梁の鋼製主桁、前記主桁の下面が前記鋼製主桁の下フランジの連続した平滑な下面であり、前記鋼製主桁を支持する支承の相互間における前記下フランジの下面に、前記下フランジの長手方向に沿うように前記積層補強材が一層で接着されていると共に、前記補強繊維が前記縁切層に縫着されていることを特徴とする。
これによれば、補強繊維が含浸された補強層が主桁の長手方向に沿うように設けられることにより、主桁の曲げ歪量を効果的に低減し、上下方向に繰り返し受ける荷重に対する主桁の変形、振動を抑制して主桁の疲労を低減することができる。更に、主桁の支承その他の部材との連結部分の繰り返し荷重による疲労を低減することができる。従って、桁構造物全体の剛性、耐久性を高め、桁構造物の長寿命化を図ることができる。また、非通液性の縁切層によって補強層と接着層の引張弾性率等の性状をそれぞれ適切な性状に異ならせることが可能になり、主桁の撓み変形を接着層の弾性変形、追従性で分散吸収し、接着層或いは積層補強材の主桁からの剥離を防止して、積層補強材の設置状態の安定性を高めることができると共に、主桁が受ける曲げ荷重を補強層に負担させ、主桁と補強層で協働して繰り返し受ける曲げ荷重を高い強度で支持することができる。即ち、接着層の接着性と補強層の補強強度の双方において優れた特性をそれぞれに最大限発揮することができる。また、雨が降っても濡れない主桁の下面に積層補強材を設けることにより、施工実施の確実性、安定性を高めることができる。また、一層の積層補強材は、例えば疲労亀裂に注入した樹脂やパテ層として塗布した樹脂のような樹脂硬化を待たずに、主桁に接着し、接着剤の硬化を待たずに含浸による補強層を形成して施工工程を完了することが可能であるから、桁構造物の補強構造の施工期間を短縮することができる。また、主桁の連続した平滑な下面に、主桁の長手方向に沿って連続的に積層補強材を設けて補強することができることから、高効率で施工することができる。また、主桁を支持する支承の相互間に積層補強材を設けることから、支承等の他の部材に変更を加えることなく施工でき、かかる点からも高効率で施工することができる。また、工場で必要量の補強繊維を一層に配した積層補強材を現場で接着することにより、施工ムラの懸念なく安定的に補強効果を得ることが出来、桁構造物の橋梁の全体の剛性、耐久性を高め、長寿命化を図ることができる。また、補強繊維の目付量を自在に調整することができ、所要の補強繊維を安定的に配した繊維強化プラスチックで補強層を形成することができる。また、補強繊維を含浸する前の補強シートの状態では、補強繊維を縁切層に縫着した補強シートであることから、積層補強材を構成する前の補強シートの柔軟性を高め、取り扱いを容易にすることができる。
【0009】
本発明の桁構造物の補強構造の施工方法は、本発明の桁構造物の補強構造を施工する方法であって、前記主桁の下面に接着剤を塗布する第1工程と、非通液性の縁切層の一方の面に補強繊維が設けられ、前記主桁の下面に対応する幅を有する帯状の補強シートを用い、前記補強シートの他方の面を前記主桁の下面に押し付けて接着し、前記縁切層の他方の面に接着層を形成すると共に、前記縁切層の前記補強繊維が設けられた一方の面に含浸剤を塗布して補強層を形成する第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、桁構造物の主桁以外の構成部材に影響を及ぼさずに、主桁の下面の配置状態を活用して補強シートを敷設し、非通液性の縁切層と補強層と接着層を有する積層補強材を省力な作業工程で施工することができる。また、本発明は主桁の下面に補強シートを貼るだけで効果的な補強ができる為、鋼桁腹板の両面、或いは腹板から上フランジの下面、下フランジの上面や垂直補剛材に掛かるように連続繊維シートを接着しなければならない従来方法に比較して作業工程が少なくてすむ。従って、非常に短時間での施工を行うことができると共に、施工管理が容易となる。
【0010】
本発明の桁構造物の補強構造の施工方法は、前記第2工程において、ロール状に巻回された前記補強シートを繰り出しながら前記補強シートを接着することを特徴とする。
これによれば、ロール状に巻回された補強シートを用いることにより、補強シートの運搬の容易性、取り扱いの容易性を高めることができる。また、ロール状に巻回された補強シートを繰り出しながら補強シートを接着することにより、補強シートの接着、積層補強材の形成の作業工程を一層容易化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の桁構造物の補強構造或いはその施工方法によれば、上下方向に繰り返し受ける荷重に対する主桁の変形、振動を抑制して主桁の疲労を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による実施形態の桁構造物の補強構造が設置される橋梁の一部を示す上方斜視図。
図2】(a)は本発明による実施形態の桁構造物の補強構造が設置された橋梁の一部を示す側面図、(b)は同図(a)の一部を示す拡大図。
図3】(a)は実施形態の桁構造物の補強構造を有する主桁の斜視断面説明図、(b)は同図(a)の一部を示す拡大図。
図4】実施形態の桁構造物の補強構造を有する主桁の一部と積層補強材を示す縦断説明図。
図5】(a)は実施形態の桁構造物の補強構造で用いられる補強シートの斜視図、(b)は同図(a)の補強シートの縦断説明図。
図6】実施形態の桁構造物の補強構造の施工工程を説明する工程説明図。
図7】実施形態の桁構造物の補強構造の施工工程を示すフローチャート。
図8】(a)、(b)は縁切層の有無による補強層の追従性の相違を説明する説明図。
図9】(a)、(b)は曲げ試験の装置構成の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態の桁構造物の補強構造及びその施工方法〕
本発明による実施形態の桁構造物の補強構造は、桁構造物に相当する図1及び図2に示す橋梁10に設置される。橋梁10には、橋脚11の上に支承12が設けられ、支承12・12の上に鋼製の主桁13が設けられており、主桁13が支承12・12で支持されている。橋脚11・11間には複数本の主桁13が幅方向に並列配置されていると共に、長手方向に揃えて配置される主桁13・13相互は連結部14で連結されている。幅方向と長手方向に並置される主桁13は、上側に設けられる床版15を支持している。橋梁10の床版15上には、車両16等が通行する。図中のPは、主桁13が繰り返し受ける荷重方向である。
【0014】
主桁13は、長尺のI形鋼であり、ウェブ131の上側に上フランジ132、下側に下フランジ133が設けられている(図1図4参照)。下フランジ133の下面1331は主桁13の下面に相当し、下面1331は連続した平滑面で形成されている。下面1331は、主桁13の長手方向に沿って延設されている。
【0015】
主桁13の下面に相当する下面1331には、図2図4に示すように、桁構造物の補強構造を構成する積層補強材1が接着され、主桁13の長手方向に沿うように設けられている。積層補強材1は、主桁13を支持する支承12・12の相互間における下フランジ133の下面1331に、下フランジ133の長手方向に沿うように一層で接着されている。尚、積層補強材1は、厚さ方向に複数個積層して設置することも可能である。また、積層補強材1の設置領域は、例えば下フランジ133の下面幅若しくは下面幅より僅かに小さい幅×橋脚11・11間の数m〜十数mの距離×橋脚11・11間の下フランジ133の箇所数とすると好適である。
【0016】
積層補強材1は、非通液性の縁切層2の一方の面に補強繊維が含浸された補強層3が設けられ、他方の面に接着層4が設けられて構成され、接着層4で主桁13の下面1331に接着されている(図3図4参照)。非通液性の縁切層2は、補強層3と接着層4を浸透不能に分離するようになっており、非通液性フィルム21の一方の面に高目付の不織布22、他方の面に高目付の不織布23がそれぞれ積層、固着されて構成されている。
【0017】
非通液性フィルム21は、補強層3と接着層4を浸透不能に分離可能な適宜の素材で形成することが可能であり、例えばポリエステルフィルム等で形成される。不織布22、23は、接着層4に含浸して接着強度を高められる適宜の素材、目付で構成することが可能であり、例えばポリエステル繊維等の不織布22、23とすることができる。
【0018】
補強層3は、略平面状に配置される補強繊維31と、補強繊維31を含浸するように含浸剤を塗布して形成された含浸材32とから構成される。補強繊維31は、含浸性に優れる含浸剤の含浸を確保可能に、且つ所要の強度を有する適宜の繊維で形成されており、例えば1方向繊維又は2方向繊維等で構成される。補強繊維31の素材例としては、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、PBO繊維、或いは超高強度ポリエチレン繊維等とすることが可能である。図4の例の補強繊維31は、炭素繊維を素材とする一方向繊維になっている。補強繊維31の密度、繊維径、フィラメント数、目付は、含浸性に優れる含浸剤の含浸を確保可能で、且つ所要強度を確保可能な範囲で適宜であり、例えば補強繊維31を炭素繊維とする場合には、引張弾性率:200〜1000Gpa、フィラメント数:1000〜24000本、炭素繊維目付け:600〜3000g/mとすると好適である。
【0019】
補強繊維31は、縁切層2の非通液性フィルム21を貫通して接着層4側の不織布23に通される縫製糸311で縫い付けられ、縁切層2に縫着されている。図4の例では、一方向に並ぶ補強繊維31と直交する方向に縫製糸311で縫われており、補強繊維31が厚さ方向と幅方向で縫製糸311によって固定されている。
【0020】
含浸材32を構成する含浸剤には、例えば2液無溶剤型エポキシ樹脂などエポキシ樹脂系の含浸剤、アクリル樹脂系の含浸剤等、高い含浸強度が得られるように、所要の含浸性に優れる硬化速度、粘度等の性状を有するものが用いられる。含浸剤には、主桁13の下面1331に上向きで施工し、高い目付の補強繊維31に含浸させるために、低粘度で且つ上向き施工後のダレを抑制するためのチクソ性を備えるものを用いると好適である。不織布22に含浸するようにして合成樹脂で形成された含浸材32と、含浸材32で含浸された補強繊維31は、一体化して繊維強化プラスチックの補強層3を構成する。
【0021】
接着層4は、主桁13の下面1331に接着剤を塗布して形成される。接着層4を構成する接着剤には、例えば2液無溶剤型エポキシ樹脂などエポキシ樹脂系の含浸剤、アクリル樹脂系の含浸剤等、高い接着強度が得られるように、接着性に優れる硬化速度、粘度等の性状を有するものが用いられる。尚、接着剤と含浸剤に同一材料を用いる場合には粘性等の特性、性状を変えて用いる。接着剤には、主桁13の下面1331に上向きで施工するため、低粘度で且つ上向き施工後のダレを抑制するためのチクソ性を備えるものを用いると好適である。接着層4は、不織布23に含浸するように形成され、縁切層2との接着強度が高められている。また、本実施形態の接着層4は、プライマー5を介して主桁13の下面1331に接着されている。
【0022】
次に、本実施形態の桁構造物の補強構造を施工する方法について説明する。図7に示すように、先ず主桁13を支持する支承12・12の相互間において主桁13の下面1331に下地処理を施す(S1、図6参照)。下地処理は、主桁13の下面1331をケレン処理するが、ケレン処理に代えてブラスト処理を行うことも可能である。下地処理を施した主桁13の下面1331には接着性を高めるためプライマー5を塗布する(S2)。更に、プライマー5を塗布した主桁13の下面1331に接着剤を塗布する(S3)。
【0023】
その後、非通液性の縁切層2の一方の面に補強繊維31が設けられ、主桁13の下面1331に対応する幅を有する帯状の補強シート6を用い(図5参照)、接着層4、含浸による補強層3を形成する工程を行う(S4、S5)。補強シート6は、非通液性の縁切層2の一方の面に補強繊維31が縫製糸311で縫着されたものであり、ロール状に巻回されて準備される。そして、図5及び図6に示すように、ロール状に巻回された補強シート6を繰り出しながら、主桁13を支持する支承12・12の相互間において主桁13の下面1331において、補強シート6の他方の面を接着剤が塗布された主桁13の下面1331に押し付けて接着し、縁切層2の他方の面に接着層4を形成すると共に、縁切層2の補強繊維31が設けられた一方の面に押えコテ17を用いて含浸剤を塗布し、補強繊維31に含浸させて補強層3を形成する(S4、S5)。このS4、S5の工程により、積層補強材1が主桁13の長手方向に沿うように主桁13の下面1331に固着される。
【0024】
その後、主桁13の長手方向に沿うように設けられた積層補強材1にトップコート、塗装等の仕上処理を行い(S6)、本実施形態の桁構造物の補強構造が得られる。補強シート6の接着(S4)、含浸による補強層3の形成(S5)、仕上処理(S6)の工程は連続する工程で行われ、接着剤などの硬化を待つ必要のない連続工程で施工される。
【0025】
本実施形態によれば、補強繊維31が含浸された補強層3が主桁13の長手方向に沿うように設けられることにより、主桁13の曲げ歪量を効果的に低減し、上下方向に繰り返し受ける荷重に対する主桁13の変形、振動を抑制して主桁13の疲労を低減することができる。更に、主桁13の支承12その他の部材との連結部分の繰り返し荷重による疲労を低減することができる。従って、桁構造物である橋梁10の全体の剛性、耐久性を高め、桁構造物の長寿命化を図ることができる。
【0026】
また、非通液性の縁切層2によって補強層3と接着層4の引張弾性率等の性状をそれぞれ適切な性状に異ならせることが可能になり、主桁13或いはその下フランジ133の撓み変形を接着層4の弾性変形、追従性で分散吸収し、接着層4或いは積層補強材1の主桁13からの剥離を防止して、積層補強材1の設置状態の安定性を高めることができると共に、主桁13が受ける曲げ荷重を補強層3に負担させ、主桁13と補強層3で協働して繰り返し受ける曲げ荷重を高い強度で支持することができる(図8(a)参照)。即ち、接着層4の接着性と補強層3の補強強度の双方において優れた特性をそれぞれに最大限発揮することができる。これに対して、縁切層2がない場合には、補強層3eと接着層4eの性状は近いものとなり、補強層3eと接着層4eで構成される積層補強材は主桁13或いはその下フランジ133から剥離する可能性が高くなり、補強効果が失われてしまう(図8(b)参照)。
【0027】
また、雨が降っても濡れない主桁13の下面1331に積層補強材1を設けることにより、施工実施の確実性、安定性を高めることができる。
【0028】
また、主桁13の下面1331に一層の積層補強材1を接着する構成では、工場で必要量の補強繊維31を一層に配した積層補強材1を現場で接着することにより、施工ムラの懸念なく安定的に補強効果を得ることが出来る。さらに本発明では、例えば疲労亀裂に注入した樹脂やパテ層として塗布した樹脂のような樹脂硬化を待たずに、主桁13に接着し、接着剤の硬化を待たずに含浸による補強層3を形成して施工工程を完了することが可能であるから、桁構造物の補強構造の施工期間を短縮することができる。また、主桁13の連続した平滑な下面1331に、主桁13の長手方向に沿って連続的に積層補強材1を設けて補強することができることから、高効率で施工することができる。また、主桁13を支持する支承12・12の相互間に積層補強材1を設けることから、支承12等の他の部材に変更を加えることなく施工でき、かかる点からも高効率で施工することができる。
【0029】
また、補強繊維31を縁切層2に縫着することにより、補強繊維31の目付量を自在に調整することができ、所要の補強繊維31を安定的に配した繊維強化プラスチックで補強層3を形成することができる。また、補強繊維31を含浸する前の補強シート6の状態では、補強繊維31を縁切層2に縫着した補強シート6であることから、積層補強材1を構成する前の補強シート6の柔軟性を高め、取り扱いを容易にすることができる。
【0030】
また、本実施形態の桁構造物の補強構造の施工方法によれば、桁構造物の主桁13以外の構成部材に影響を及ぼさずに、主桁13の下面1331の配置状態を活用して補強シート6を敷設し、非通液性の縁切層2と補強層3と接着層4を有する積層補強材1を省力な作業工程で施工することができる。また、作業工程数が少ないことから、非常に短時間での施工を行うことができると共に、施工管理が容易となる。
【0031】
また、ロール状に巻回された補強シート6を用いて施工することにより、補強シート6の運搬の容易性、取り扱いの容易性を高めることができる。また、ロール状に巻回された補強シート6を繰り出しながら補強シート6を接着することにより、補強シート6の接着、積層補強材1の形成の作業工程を一層容易化することができる。
【0032】
〔桁構造物の補強構造の試験例〕
本発明の桁構造物の補強構造による、主桁13aの長手方向に沿うように下面に1層の積層補強材1aが接着された主桁13aの実施例(図9参照)と、積層補強材1aが接着されていない同一の主桁の比較例について、主桁の曲げひずみ量の低減効果を検証する為、室内曲げ試験を行った。実施例の試験体の仕様は下記表1の1層補強No.1、No.2、No.3、比較例の試験体の仕様は下記表1の補強無No.0の通りである。また、実施例の試験体の積層補強材1aは、上記実施形態の構成を有するCFRP(炭素繊維シート)による積層補強材1aである。炭素繊維を補強繊維とする積層補強材1aの物性は、炭素繊維目付量:2400g/m、引張強度:3430Mpa、引張弾性率:620Gpaとした。
【0033】
【表1】
【0034】
この曲げ試験は静的載荷試験で行い、図9に示すように、実施例の主桁13aと比較例の主桁の長手方向の中央部の下側に変位計71とひずみゲージ72を配置し、対応する中央部に図示のように荷重Paを負荷して段階的に載荷を行った。この試験結果を下記表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2において、1層補強の平均ひずみは、実施例の試験体No.1、No.2、No.3の主桁長さ方向中央部下面の2箇所に貼られたひずみゲージ72のひずみの値、即ち計6点のひずみの値を、各載荷荷重ごとに平均した平均値である。また、補強無の平均ひずみは、比較例の試験体No.0の主桁長さ方向中央部下面の2箇所に貼られたひずみゲージ72のひずみの値を各載荷荷重ごとに平均した平均値である。この試験結果から、補強のない主桁に対して、実施例の主桁13a及び積層補強材1aで構成される補強構造は的確にひずみ低減効果を発揮し、主桁の変形、疲労を低減できることが分かる。
【0037】
また、別の試験として、200万回の連続載荷による動的載荷試験を行った。この試験における試験体には、積層補強材を長さ方向の下面に接着したH型鋼の試験体(鋼種SS400、高さ300mm×幅300mm×長さ3.5m)、即ち表1の1層補強No.1、No.2、No.3の試験体と長さだけが異なるものを用いた。尚、積層補強材の構成、物性は表1の1層補強No.1、No.2、No.3と同じである。この試験結果を下記表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
上記表3から明らかなように、200万回の連続載荷の前後において、相対たわみの変化がないことが分かる。即ち、連続載荷による積層補強材の剥離が生じないことと、補強効果の長期耐久性を確認された。
【0040】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる
【0041】
例えば上記実施形態では、補強繊維31が縁切層2に縫着された補強シート6を用いて積層補強材1を形成したが、補強繊維31の縁切層2側の一部が縁切層2に部分接着されている補強シートを用いて本発明の補強構造における積層補強材を形成してもよい。また、本発明の桁構造物の補強構造が対象とする桁構造物は、上記実施形態の橋梁10に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で適宜である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば橋梁などの桁構造物を補強する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…積層補強材 2…縁切層 21…非通液性フィルム 22、23…不織布 3…補強層 31…補強繊維 311…縫製糸 32…含浸材 4…接着層 5…プライマー 6…補強シート 10…橋梁 11…橋脚 12…支承 13…主桁 131…ウェブ 132…上フランジ 133…下フランジ 1331…下面 14…連結部 15…床版 16…車両 17…押えコテ P…荷重方向 3e…補強層 4e…接着層
【要約】
【課題】上下方向に繰り返し受ける荷重に対する主桁の変形、振動を抑制して主桁の疲労を低減することができる桁構造物の補強構造を提供する。
【解決手段】非通液性の縁切層2の一方の面に補強繊維31が含浸された補強層3を有し、他方の面に接着層4を有する積層補強材1が、橋梁10などの桁構造物の主桁13の長手方向に沿うように設けられ、積層補強材1が接着層4で主桁13の下面1331に接着されている桁構造物の補強構造。
【選択図】図4
図1
図2
図3
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図9