特許第6801979号(P6801979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801979
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】金型装置及び樹脂成型方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/43 20060101AFI20201207BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20201207BHJP
   B29C 33/68 20060101ALI20201207BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   B29C45/43
   B29C33/38
   B29C33/68
   B29C33/10
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-85128(P2016-85128)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-24394(P2017-24394A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2019年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-144600(P2015-144600)
(32)【優先日】2015年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391006083
【氏名又は名称】三光合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(72)【発明者】
【氏名】布瀬 博樹
(72)【発明者】
【氏名】古田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】満嶋 敏雄
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−348081(JP,A)
【文献】 特開2007−083650(JP,A)
【文献】 特開2007−160580(JP,A)
【文献】 特開2004−167714(JP,A)
【文献】 特開2011−206918(JP,A)
【文献】 特開2003−211504(JP,A)
【文献】 特開2006−256244(JP,A)
【文献】 特開2011−104876(JP,A)
【文献】 特開平03−236921(JP,A)
【文献】 特開2006−264163(JP,A)
【文献】 特開2002−008601(JP,A)
【文献】 米国特許第05031483(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
B22D 15/00−17/32
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域が対象製品の属性に基づく設計に応じて設けられるキャビティが形成される金型は本体部とキャビティ形成部とを組み合わせて構成され、前記本体部には前記リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域に連結されるガス流路が設けられ、このガス流路は前記キャビティ形成部においてリブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域それぞれに対する連結部分を有し、その連結部分にガス排出供給手段が配置され、前記連結部分は前記リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域のそれぞれの先端部に前記ガス流路を連結すると共に前記ガス排出供給手段が多数の矩形穴と補強桟とからなるガス排出供給構造体において、前記ガス排出供給構造体は、薄片の片側平面に矩形溝を複数設け、その複数の矩形溝を介して複数の突出部を設けてなる単位薄板を、前記矩形溝及び前記突出部の方向を揃えて複数積層し、前記矩形溝及び前記突出部を有する面とは反対側の平面と前記突出部の頂部平面とを接合一体化してなり、前記キャビティを形成する金型面に付勢する付勢手段を備えると共に樹脂成形品を吸着可能な吸着パッドを備える吸着構造体を配置したことを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記単位薄板の矩形溝及びその矩形溝を介して並列する突出部はフォトエッチング及びフライス加工及び研削加工及び型彫り放電加工及びワイヤカット放電加工のうちの一以上により形成されてなる請求項記載の金型装置。
【請求項3】
前記矩形溝及び突出部を有する面と反対側の平面と前記突出部の頂部平面とを拡散接合によって接合してなる請求項1又は請求項2記載の金型装置。
【請求項4】
前記ガス排出供給手段が多孔質構造体である請求項1記載の金型装置。
【請求項5】
前記キャビティ形成部が多孔質構造体である請求項1〜請求項4のいずれか一に記載の金型装置。
【請求項6】
前記リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域の壁面に表面粗さを所定に管理する表面処理が行われる請求項1〜請求項5のいずれか一に記載の金型装置。
【請求項7】
リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域を対象製品の属性に基づく設計に応じて設けたキャビティを形成し、リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域それぞれにガス流路を連結し、このガス流路から前記キャビティのリブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域で成形された樹脂成形品のリブ及び/又はボス及び/又は突起先端面のみに圧縮空気を送り込む樹脂成型方法において、樹脂充填工程終了または保圧工程終了前から圧縮空気を送り込み、金型面を押す機構を備えた樹脂成形品の吸着構造体を配置し、前記吸着構造体によって樹脂成形品を吸着した後、樹脂成形品を成形するキャビティを形成した金型面に付勢することによって樹脂成形品を離型することを特徴とする樹脂成型方法。
【請求項8】
樹脂成形品の表面にフィルムを一体成形し、そのフィルム表面を前記吸着構造体によって吸着して樹脂成形品を離型する請求項7に記載の樹脂成型方法。
【請求項9】
キャビティへの成形樹脂充填過程ではリブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域先端部からキャビティ内のガスを排出する請求項7または請求項8に記載の樹脂成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形のための金型装置及び樹脂成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リブやボスを有する樹脂成形品を金型から離型する方法としては従来から、金型に加工されたリブ溝付近の樹脂成形品面に丸ピンを設置する、またリブ溝の底面に板ピンを設置する、更にリブ溝の底とリブ溝の側壁及びリブ溝につながる樹脂成形品面にかかるように角ピンを設置するなどがある。
一般的な従来の金型装置について図25(a)〜(c)を用いて説明する。
金型装置1は可動側金型2と固定側金型3とを有する。可動側金型2と固定側金型3が型開きされた後に可動側金型2と固定側金型3との間に挿入される吸着パッド4を備える吸着構造体5が取りつけられる取り出し機6(取出しロボット)が金型1の周囲近傍に配置される。
また、可動側金型2を貫通する態様で突出しピン類7が配置される。突出しピン類7は、リブ、ボス形成用に可動側金型2に形成された穴8に対向して押出し板9に設置される。
この従来の金型装置1によって樹脂成形した後に樹脂成形品10を取り出す際には、可動側金型2と固定側金型3を型開きし、その上で、突出しピン類7を保持する押出し板9と共に樹脂成形品10を前進させることにより、樹脂成形品10を金型から離型させる。その後、取り出し機6に装着された吸着パッド4を用い離型された樹脂成形品10を吸着した後、取り出し機6の動作により、突出しピン類7と樹脂成形品10とを分離する。
【0003】
また特許文献1には突起を有する微細樹脂成形品を金型から離型する方法として、突起成形用の凹みとその周辺樹脂成形品全体を微粒子空隙構造体で形成し、その構造体を貫通させた圧縮空気を利用し、樹脂成形品の全面を押して離型させる方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−283513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の図25(a)〜(c)に示される一般的な従来の手法では、リブや突起およびボス等の離型用突出しピン類7を避け、リブや突起およびボスから―層離れて冷却孔を設けることから、リブやボスの冷却が弱くなるため、冷却サイクルが長くなっていた。また、リブや突起およびボスの付け根周辺では熱容量が大きいことやボス内径周辺では熱伝導が低いことから、その他の樹脂成形品より冷却が遅くなるため、ソリやヒケなどの不良を発生していた。
【0006】
また、突出しピン類や突出しピンを保持する押出板が必要となり、金型コストを高くする要因にもなっていた。
更には、リブやボスを有する樹脂成形品を突出しピン類を用いず、吸着構造体と取出し機による離型に関しては、取出し機の引出力の支点が吸着構造体から離れていることから、樹脂成形品の離型抵抗力を上回る力を吸着構造体の位置で発生することができないため、樹脂成形品を離型させることができない欠点があった。
【0007】
特許文献1の圧縮空気を利用し、樹脂成形品の全面を押して離型させる方法では、微粒子空隙構造体を通過するガスは、樹脂成形品の離型抵抗の大きな突起部分より小さな平面部分に多く供給されることとなり、突起部分の真空状態を解除することはできるが、突起形状を押す力が弱くなるという問題があった。
【0008】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑み、リブやボスを有する樹脂成形品の成形において、成形サイクル短縮や成形不良防止に有効な金型温調用流路の配置を阻害する突出しピン類やそのピン類を保持する押出板を用いず樹脂成形品を金型から離型させることができる金型装置及び樹脂成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の金型装置は、リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域が対象製品の属性に基づく設計に応じて設けられるキャビティが形成される金型は本体部とキャビティ形成部とを組み合わせて構成され、前記本体部には前記リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域に連結されるガス流路が設けられ、このガス流路は前記キャビティ形成部においてリブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域それぞれに対する連結部分を有し、その連結部分にガス排出供給手段が配置されることを特徴とする。
【0010】
前記連結部分は前記リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域のそれぞれの先端部に前記ガス流路を連結するようにするのがよい。
【0011】
前記ガス排出供給手段を多数の矩形穴と補強桟とからなるガス排出供給構造体とすることができまた多孔質構造体としてもよい。
【0012】
さらに前記キャビティ形成部を多孔質構造体としてもよく、前記リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域の壁面に表面粗さを所定に管理する表面処理を行っても良い。
【0013】
前記キャビティ形成部において成形された樹脂成形品を離型するために吸着する吸着パッドと、前記キャビティ形成部を有し前記樹脂成形品を離型させる対象となる金型面相互を、離隔させる方向に付勢する付勢手段を設けるのがよい。前記付勢手段がシリンダ・ロッド機構とし、また前記付勢手段は前記吸着パッド系の機能部材及び樹脂成形品を離型させる対象となる金型のいずれかに装着してもよい。
【0014】
また本発明の樹脂成型方法はリブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域を対象製品の属性に基づく設計に応じて設けたキャビティを形成し、リブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域それぞれにガス流路を連結し、このガス流路から前記キャビティのリブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域で成形された樹脂成形品のリブ及び/又はボス及び/又は突起先端面のみに圧縮空気を送り込むことを特徴とする。
【0015】
樹脂充填工程終了または保圧工程終了前から圧縮空気を送り込むことができ、金型面を押す機構を備えた樹脂成形品の吸着構造体を配置し、前記吸着構造体によって樹脂成形品を吸着した後、樹脂成形品を成形するキャビティを形成した金型面に付勢することによって樹脂成形品を離型することができる。
樹脂充填工程終了前から圧縮空気を送り込む場合とは、樹脂充填後、充填した樹脂の収縮に伴い樹脂を補う保圧工程を行う必要が無い場合で有る。
また保圧工程終了前から圧縮空気を送り込む場合とは、樹脂充填後、充填した樹脂の収縮率に見合う程度の収縮に伴い樹脂を補う保圧工程を行う必要が有る場合である。
以上のように樹脂充填工程終了または保圧工程終了前から圧縮空気を送り込むことによって不良の少ないかつ型ばなれの良好な成形品を得ることができる。
【0016】
また樹脂成形品の表面にフィルムを一体成形し、そのフィルム表面を前記吸着構造体によって吸着して樹脂成形品を離型することができ、またキャビティへの成形樹脂充填過程ではリブ形成領域及び/又はボス形成領域及び/又は突起形成領域先端部からキャビティ内のガスを排出することができる。
【0017】
本発明に係る樹脂成型方法に用いるガス排出供給構造体は、圧力損失式から導かれる1つの流路断面と、ガス排出率を満たす流路総面積と強度計算式から導かれる補強桟などを勘案し、流路平面が升目模様で奥行きを有するガス排出供給構造体とし、また、ガス流路断面の変化をなくし、ガス残滓堆積を防止すると共に組み立て用ボルトと位置決めピンを使用せず、流路の減少を防止することを勘案して構成することができる。
【0018】
すなわち本発明に係る樹脂成型方法に用いるガス排出供給構造体は薄片の片側平面に、一定幅と一定深さを有し貫通する矩形溝を複数設けてその複数の矩形溝を介して平面部から突出する一定高さの複数の突出部を設けてなる単位薄板を、矩形溝及び突出部を有する面の突出部の頂部平面と矩形溝及び突出部を有する面と反対側の平面とを矩形溝及び突出部の方向を揃えて複数積層して接合一体化してなり、多数の矩形穴と補強桟とからなるようにすることができる。
【0019】
前記単位薄板の一定幅と一定深さを有し貫通する矩形溝及びその複数の矩形溝を介して平面部から突出する一定高さの複数の突出部はフォトエッチング及びフライス加工及び研削加工及び型彫り放電加工及びワイヤカット放電加工のうちの一以上により形成されてなるようにすることができる。これによって精密にガス流路断面の変化をなくし、ガス残滓堆積を防止することができる。特に矩形溝を加工圧力のないエッチング加工によって形成したことにより、必要に応じてより薄い板の使用が可能となり単位厚みあたりの積層枚数を増やすことができる。また、矩形溝深さの対薄板厚みの比率を高くすることが可能となり積層時に高い開口率を実現することができる。
【0020】
前記矩形溝及び突出部を有する面と反対側の平面と前記突出部の頂部平面とを拡散接合によって接合してなるようにすることができる。このように矩形溝を除く全面を拡散接合としたことにより、組み立てボルトや位置決めピンの使用が不要な一体化されたガス排出供給構造体とすることが可能となる。また同時に流路の減少を防止することができる。さらに補強桟を細く設定することが可能となり、高い開口率を実現できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の金型装置及び樹脂成型方法によれば、リブやボスを有する樹脂成形品の成形において、成形サイクル短縮や成形不良防止に有効な金型温調用流路の配置を阻害する突出しピン類やそのピン類を保持する押出板を用いず樹脂成形品を金型から効率的に離型させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態の金型装置の模式図で有り、(a)離型前、(b)離型後を示す。
図2図1に示す一実施の形態の金型装置の部分模式図である。
図3図1に示す一実施の形態の金型装置の部分斜視図である。
図4図1に示す一実施の形態の金型装置の部品の正面図である。
図5図1に示す一実施の形態の金型装置の部品の部分正面図である。
図6図5に示す部分の平面図である。
図7図4に示す部品の側面図である。
図8図4に示す部品の部分拡大図である。
図9図4に示す部品の製造プロセスを示す説明図である。
図10】本発明の樹脂成型方法による樹脂成形プロセスを示す説明図で有り(a)キャビティに加圧ガスを供給する工程、(b)樹脂成形品を可動側金型から離型する工程、(c)ロッドを後退させる工程、(d)樹脂成形品の型外移送を行う工程を示す。
図11】本発明の金型装置及び樹脂成型方法の他の実施の形態の説明図である。
図12】本発明の金型装置及び樹脂成型方法のさらに他の実施の形態の説明図である。
図13】本発明の金型装置及び樹脂成型方法のまた別の実施の形態の説明図である。
図14】本発明の金型装置及び樹脂成型方法のさらに別の実施の形態の説明図である。
図15】本発明の金型装置及び樹脂成型方法のさらにまた別の実施の形態の説明図である。
図16】本発明に係る樹脂成形金型の実施例で作成した製品の写真である。
図17】本発明の一実施の形態の金型装置の部品製造プロセスの他の態様を示す説明図である。
図18】本発明の一実施の形態の金型装置の部品製造プロセスの別の態様を示す説明図である。
図19】本発明の一実施の形態の金型装置の部品製造プロセスのさらに他の態様を示す説明図である。
図20】本発明の一実施の形態の金型装置の部品製造プロセスのさらに別の態様を示す説明図であり、(a)はその平面図、(b)はその正面図である。
図21】本発明の一実施の形態の金型装置の部品であるガス排出供給構造体の他の態様の斜視図である。
図22図21に示すガス排出供給構造体の右側面図である。
図23】本発明の一実施の形態の金型装置の部品であるガス排出供給構造体の斜視図である。
図24図23に示すガス排出供給構造体の部分拡大斜視図である。
図25】一般的な従来の金型装置の説明模式図で有り、(a)型開き前、(b)型開き後、(c)離型後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の金型装置の実施の形態について説明する。
図1図3は本発明の一実施の形態の金型装置1を示す。なお従来の金型装置と対応する部分には同一の符号を付して説明する。
金型装置1は可動側金型2と固定側金型3とよりなる。
金型装置1の周囲近傍に配置され、可動側金型2と固定側金型3が型開きされた後に可動側金型2と固定側金型3との間に挿入される吸着パッド4を備える吸着構造体5(フレーム)が取りつけられる取り出し機6には、エアシリンダ・ロッド機構11が設けられる。
エアシリンダ・ロッド機構11のエアシリンダ11aは複数の吸着パッド4が取りつけられる吸着構造体5に固定され、一方、エアシリンダ・ロッド機構11のロッド11bの一端は可動側金型2の金型外側面に当接可能とされる。
【0024】
固定側金型3と可動側金型2間にはキャビティ12が形成される。キャビティ12はリブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12c等が対象製品の属性に基づく設計に応じて設けられる。
一方、可動側金型2は本体部13とキャビティ形成部14とを組み合わせて構成され、このキャビティ形成部14に冷却孔15が配置される。また本体部13にはリブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cに連結されるガス流路16が設けられる。
このガス流路16はキャビティ形成部14においてリブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cそれぞれに対する連結部分を有し、その連結部分にそれぞれガス排出供給構造体17が配置される。
なおリブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cにおける可動側金型2の壁面に表面粗さRa≦0.5μmとする表面処理が行われている。
【0025】
図4図8に示す様に本実施の形態の金型装置1に用いることができるガス排出供給構造体17は、単位薄板18を、複数積層して接合一体化してなる。単位薄板18の片側平面19には、一定幅と一定深さを有し貫通する矩形溝20が複数設けられる。その複数の矩形溝20を介して片側平面19から突出する一定高さの複数の突出部21が設けられる。
この単位薄板18の片側平面19の反対側の平面22に突出部21の頂部平面23を当接させる態様で矩形溝20及び突出部21の方向を一致させ、揃えて複数積層する。
その状態で平面22と突出部21の頂部平面23とを接合一体化することによって多数の矩形穴24と補強桟25とからなる本実施の形態のガス排出供給構造体17が得られる。
このガス排出供給構造体17は単位薄板厚み1mm以下とし、矩形溝20の深さを0.03mm以下として、その幅と深さの比である幅/深さ比を50以上とし,また矩形溝20間長さを1mm以下、両端の末加工部分を0.5mm以上とし、積層枚数を5以上として形成することができる。
【0026】
前記単位薄板18の一定幅と一定深さを有し貫通する矩形溝20及びその複数の矩形溝20を介して平面部から突出する一定高さの複数の突出部21はフォトエッチング工程により形成することができる。
このフォトエッチングは図9に示されるように材料薄片の表裏面の汚れを除去して清浄化し、感光性樹脂(レジスト)を塗付後、予め作成された溝パターンフィルムを感光性樹脂(レジスト)に貼付して一般的にはUV照射で焼付けることによって溝パターンを形成する。これをエッチングして材料に溝を形成した後、剥離・洗浄・乾燥することによって感光性樹脂を除去する。この様にエッチング加工によって形成することにより、必要に応じてより薄い単位薄板18の使用が可能となり単位厚みあたりの積層枚数を増やすことができる。また、矩形溝20の深さの対単位薄板18厚みの比率を高くすることが可能となり積層時に矩形穴24の高い開口率を実現することができる。
【0027】
平面22と突出部21の頂部平面23との接合一体化は拡散接合によって行うことができる。
拡散接合は,平面22と突出部21の頂部平面23とを密着させ,真空や不活性ガス中などの制御された雰囲気中で,加圧・加熱して行う。これによって接合面に生じる原子の拡散を利用して接合することができる。このように拡散接合とする場合には、組み立てボルトや位置決めピンの使用が不要な一体化されたガス排出供給構造体17が得られる。また同時に流路の減少を防止することができる。さらに補強桟25を細く設定することが可能となり、矩形穴24の高い開口率を実現することができる。
【0028】
このガス排出供給構造体17には、樹脂圧に耐える強度と、量産全期間にわたって、樹脂の1方向流れの末端付近や対向流の合流位置付近において、キャビティー内のガスを容易に排出することを可能とする高い開口率を有し、また組立や位置決めなどの作業を不要とするため締結ボルトや位置決めピンを有しない一体構造であること、更にガス残滓堆積を防止するためガス流路は直線状で段差がないことなどを同時に満たすことが可能となる。
【0029】
金型装置1を用いて射出成形を行なう樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレレン−エチレンテレフタレート(PBT−PET共重合樹脂)、ポリエーテル・エーテルケトン(PEEK樹脂)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、6ナイロン(PA6)、6−6ナイロン(PA66)、6Tナイロン(PA6T)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアセタール(POM)、液晶ポリマー(LCP)、ポリサルホン(PSU)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、等の熱可塑性樹脂である。これらを単独又は混合して用いることができる。また、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)、シリコーン樹脂(SI)、ポリイミド樹脂(PI)、メラミン樹脂(MF)、ユリア樹脂(UF)等の熱硬化性樹脂である。これらの熱可塑性樹脂ならびに熱硬化性樹脂に、耐熱性や寸法安定性を向上させる目的で、ガラス繊維、ガラスビーズ、タルク等の無機充填材を適宜配合してもよい。またセルロースナノファイバー等の有機充填剤を適宜配合しても良い。
【0030】
次に金型装置1を用いて行う本発明の樹脂成型方法について図10を参照して説明する。
キャビティ12に樹脂を充填して成型した後、樹脂成形品10の収縮直前からガス排出供給構造体17からキャビティ12に加圧ガスを供給する。これによって、リブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cによって形成された樹脂成形品10のリブと突起およびボスと、それらを形成する金型との間に発生する隙間のみにガスが充填されリブ、突起、ボスなどの先端を押出す。これによってリブや突起およびボスの底面を押すとともに、それらの両側面の離型抵抗が小さくなるようにする。
【0031】
次に吸着パッド4によって樹脂成形品10を真空吸着し、樹脂成形品10を保持する。
その状態でエアシリンダ・ロッド機構11のロッド11bを前進させ樹脂成形品10を可動側金型2から離型し引出す。
次にエアシリンダ・ロッド機構11のロッド11bを後退させて、樹脂成形品10の系外への取り出しにあたっての干渉・衝突を防止する。
その状態で吸着パッド4によって真空吸着した樹脂成形品10を上昇移動し、型外移送する。
【0032】
以上の本発明の樹脂成型方法における樹脂成形品10の離型プロセスにおいては本発明の金型装置1は図25(a)〜(c)に示した従来の金型装置1のように突出しピン類7や突出しピン類7を保持する押出し板9を有しない金型構成であり、リブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cなどの近傍に冷却孔15を設けることができ、樹脂成形品10と冷却孔15を均等に近づけて、冷却効率を高めることができる。
【0033】
また以上の樹脂成型方法における樹脂成形品10の離型プロセスにおいてはエアシリンダ・ロッド機構11のエアシリンダ11aを複数の吸着パッド4が取りつけられる吸着構造体5に固定され、そのエアシリンダ・ロッド機構11のロッド11bの一端は可動側金型2の金型面に当接可能とされ、樹脂成形品10を吸着後、可動側金型2を押すことにより発生する反力を利用して、樹脂成形品10の離型抵抗を上回る強い力で樹脂成形品10を引き出せる。またその際、リブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cにおける可動側金型2の壁面に表面粗さRa≦0.5μmとする表面処理が行われているので樹脂成形品10の離型抵抗が小さくされており、それによっても樹脂成形品10の引き出しが効率よく行われる。
【0034】
図11(a)(b)は他の実施の形態を示す。
先の実施の形態ではエアシリンダ・ロッド機構11のエアシリンダ11aは吸着構造体5に固定されたのに対し、本実施の形態ではエアシリンダ・ロッド機構11のエアシリンダ11aは可動側金型2に固定されエアシリンダ・ロッド機構11のロッド11bの一端が吸着構造体5に当接可能にされる。本実施の形態ではエアシリンダ・ロッド機構11のロッド11bの一端が吸着構造体5を押すことにより発生する力によって、樹脂成形品10の離型抵抗を上回る強い力で樹脂成形品10を引き出せる。
【0035】
図12はさらに他の実施の形態を示し、先の各実施の形態では型開き時に樹脂成形品10が可動側金型2に残される態様であったが、本実施の形態では樹脂成形品10が固定側金型3に残される態様として、先の各実施の形態の可動側金型2と同一の構成を固定側金型3に採用し、他は先の各実施の形態と同様の構成と方法で離型する方法とする。
【0036】
図13はさらに他の実施の形態を示し、樹脂成形品10の表面にフィルム26を一体成形し、そのフィルム26表面を吸着パッド4によって吸着して同様の構成と方法で離型する方法とする。
【0037】
図14はさらに他の実施の形態を示す。本実施の形態では可動側金型2のキャビティ形成部14が多孔質材料を用いてなる多孔質構造体とされる。しかもその多孔質材料を用いてなる多孔質構造体であるキャビティ形成部14においてリブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cそれぞれに対するガス流路16の連結部分27が選択的に粗な多孔質構造体とされて、その他のキャビティ形成部14を密な多孔質構造体として、リブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cの底面のみならず必要に応じて側面にも、高圧ガスが供給されるようにして、離型する方法とする。したがって本実施の形態では先の各実施の形態で用いたガス排出供給構造体17は配置されない。
【0038】
図15はさらに他の実施の形態を示す。本実施の形態では可動側金型2のキャビティ形成部14においてリブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cそれぞれに対するガス流路16の連結部分にガス排出供給構造体17が配置され、その他のキャビティ形成部14が多孔質材料を用いてなる多孔質構造体とされる。本実施の形態ではリブ形成領域12a、ボス形成領域12b、突起形成領域12cの底面のみならず必要に応じて側面にも、高圧ガスが供給されるようにして、離型する方法とする。
【実施例】
【0039】
以下のようにして図4図8に示すに示すガス排出供給構造体17を作成し、これを用いた本発明の金型装置1によって本発明の樹脂成型方法によって樹脂成形を行った。
L21.6mm×W10.1mm×t0.2mmのSUS板のL21.6mm、W10.1mmの一面に、L21.6mmの両端から各1.0mm離し、溝間を等間隔にL0.4mmとして、L3.6mm×D0.025mmの矩形溝20をエッチング加工により5カ所繰り返して設けた。同様に溝加工した単位薄板18を矩形溝20の方向と外形を揃えて45枚重ね、更にその長手両側面に、L21.6mm×W10.1mm×t0.5mmの補強用SUS板を重ね、47枚の薄板からなる積層品である薄板積層品を構成した。その後、47枚の薄板積層品を拡散接合を利用してL21.6mm×W10.1mm×H10mmの一体構成品とした。この一体構成品であるガス排出供給構造体17をL21.6mm×H10mmの方向から見ると、L3.6mm×D0.025mmの矩形溝20が、H10mm方向ピッチ0.2mm、L21.6mm方向ピッチ4.0mmの等間隔に、L21.6mm×H10mmの裏面に貫通して、225個形成された。結果、約9.4%の高い開口率と、奥行き方向に段差のないガス抜き矩形穴24と、耐成形圧力用の補強桟25などを有し、ボルト締結や位置決めピンを不要とする一体構造を形成するガス排出供給構造体17を実現できた。
【0040】
吸着構造体5の仕様は、アルミ材からなるフレームの4隅にロッド11bを接続したエアシリンダ11aと、5ヵ所に吸着パッド4を同方向に設けている。エアシリンダ11aと吸着パッド4は其々別回路のエア配管によって個別に動かすことができるようにした。
【0041】
離型方法は、PP樹脂を40゜Cに設定した金型キャビティ12に成形内圧400Kg/cm2で充填完了後、ガス排出供給構造体17に6Kg/cm2の圧縮空気を供給開始し、冷却・型開き工程後に、吸着構造体5の吸着パッド4を用い樹脂成形品10を真空吸着した。その後、吸着構造体5のエアシリンダーに6Kg/cm2の圧縮空気を流し、ロッド11bで製品部以外の金型表面を押した。この結果、吸着構造体5は樹脂成形品10を吸着した状態で可動側金型2から離型した。ガス排出供給構造体17に供給していた圧縮空気は、樹脂成形品10の離型完了から、次サイクルの樹脂充填完了までの間、供給を止めた。
【0042】
以上によって得られた樹脂成形品を図16に示す。この成形品の具体的な仕様は、縦500×横500×高さ30mm、製品肉厚2.8mm、高さ10mmのリブが横方向に8本、縦方向に6本、一方から他方の側壁につながっている。
【0043】
以下に本発明の金型装置1に用いることができるガス排出供給構造体17の製造プロセスの各種態様につき図面を参照して説明する。単位薄板18の一定幅と一定深さを有し貫通する矩形溝20及びその複数の矩形溝20を介して平面部から突出する一定高さの複数の突出部21はフォトエッチング及びフライス加工及び研削加工及び型彫り放電加工及びワイヤカット放電加工のうちの一以上の工程により形成することができる。
【0044】
フライス加工を適用する場合には図17に示す様に高速で回転するフライス加工用ドリル28を用いて単位薄板18の片側平面19の切削を行う。単位薄板18は図示しないテーブルの上に固定されており、フライス加工用ドリル28はZ方向(上下)に移動し、テーブルをX−Y方向(前後左右)に移動させて加工する。
【0045】
研削加工を適用する場合には図18に示す様に高速で回転している研削加工用砥石29を用いて、その砥石29を構成するきわめて硬く微細な砥粒によって単位薄板18を削り取ってゆき所定の形状に成形する。
【0046】
型彫り放電加工を適用する場合には図19に示す様に、加工液30中で、電極31と単位薄板18との間で、一秒間に1000〜10万回の火花を断続的に飛ばして、その熱で金属を溶かして電極31の形状を単位薄板18に彫るように加工する。
【0047】
ワイヤ放電加工を適用する場合には図20に示す様に加工液30中で、ワイヤー電極32と単位薄板18との間の電気火花放電の熱で金属を溶かして単位薄板18にワイヤー電極32の移動軌跡33に応じた形状に彫るように加工する。
【0048】
以下に本発明の金型装置の部品であるガス排出供給構造体の他の態様につき図面を参照して説明する。
図21図22に示すガス排出供給構造体17は上面にツバ17a付きのものとされる。このツバ17aを有することによって金型装置1に組込んだ後の抜け防止を図ることができる。ツバ17aは例えば図8に示すガス排出供給構造体17の上面部分をワイヤカット放電加工、フライス加工、研削加工などで除去する加工を行うことで形成する。
図23図24に示すガス排出供給構造体17は両側部にツバ17bを有するものとされる。ツバ17bも金型装置1に組込んだ後の抜け防止を図ることができワイヤカット放電加工、フライス加工、研削加工などで所要の部分を除去する加工を行うことで形成する。


【符号の説明】
【0049】
1・・・金型装置、2・・・可動側金型、3・・・固定側金型、4・・・吸着パッド、5・・・吸着構造体、6・・・取り出し機、7…ピン類、8…穴、9…押出し板、10…樹脂成型品、11・・・エアシリンダ・ロッド機構、11a・・・エアシリンダ、11b・・・ロッド、12・・・キャビティ、12a・・・リブ形成領域、12b・・・ボス形成領域、12c・・・突起形成領域、13…本体部、14・・・キャビティ形成部、15…冷却孔、16・・・ガス流路、17・・・ガス排出供給構造体、18・・・単位薄板、19…(薄板の)片側平面、20・・・矩形溝、21・・・突出部、24・・・矩形穴、22・・・平面、23・・・頂部平面、25…補強桟、26・・・フィルム、27…(ガス流路の)連結部分。
図1
図2
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