(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マグロ等の生産工程において、身質や鮮度を維持するためには、急速に冷却することが望ましい。しかしながら、マグロのような体格の大きな魚を中心部まで冷却することは容易ではない。ドブ漬けされたマグロの冷却過程では、マグロ内部の熱伝導が冷却速度を左右するため、内部までより急速に冷却するためにはコンテナ内の冷海水を低温化することになる。コンテナ内の冷海水を低温化した場合、魚自体が凍結する可能性があり、凍結により鮮度が悪化することが懸念される。
【0005】
そこで、本発明は、魚を急速冷却し鮮度を維持する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、魚を保持するコンテナ内でシャーベット状の氷を流動させ、魚の内臓が除去された部分にシャーベット状の氷を注入することにした。
【0007】
詳細には、本発明は、魚の急冷加工装置であって、シャーベット状の氷が充填され、魚を保持するコンテナと、コンテナ内で魚の内臓が除去された部分にシャーベット状の氷を注入する注入手段と、備える。
【0008】
上記の魚の急冷加工装置であれば、魚の内臓が除去された部分にシャーベット状の氷(以下、シャーベットアイスともいう)を注入することで、魚は外表面及び内表面の双方から冷却され、伝熱面積(冷却面積)が拡大する。魚の脊椎近傍で計測される芯温は、魚の外表面の温度よりも高く、外表面及び内表面の双方から冷却することで、魚の芯温を示す部分から伝熱面までの距離は減少する。このため、芯温の低温化の効果が増大し、魚は急速に冷却される。
【0009】
シャーベットアイスは微細な氷であり、好ましくは、粒径が1mm以下である。シャー
ベットアイスは、例えば、ゆっくりと冷却することで凝固点以下の温度においても液体状態が保持される過冷却水に衝撃を与え、過冷却状態を解除することにより生成することができる。シャーベットアイスは、砕氷と比較した場合、良好な流動性及び低温保持能力を有し、魚の外表面及び内表面との接触面が大きいことから、魚をより急速に冷却することができる。
【0010】
なお、魚の急冷加工装置は、コンテナ内でシャーベット状の氷を流動させる流動手段をさらに備えるものであってもよい。このような魚の急冷加工装置であれば、魚の外表面においてシャーベットアイスを流動させることにより、魚を砕氷による氷水に浸漬する場合と比較して熱伝達率が向上し、魚は急速に冷却される。
【0011】
なお、流動手段は、コンテナ内の壁面に設置され、シャーベット状の氷を魚に対して噴出させるための1以上の孔が設けられた配管と、配管にシャーベット状の氷を送り込むポンプと、を備えるものであってもよい。このような流動手段であれば、配管に設けられた孔からシャーベットアイスを噴出させ、コンテナ内でシャーベットアイスの循環流を形成することが可能である。配管は、コンテナ内をシャーベットアイスが流動する位置に配置されればよく、コンテナ内の魚に対し、前面、後面、側面のいずれの壁面に配置されてもよい。ポンプは、コンテナ内に設置して、コンテナ内のシャーベットアイスを循環させてもよく、コンテナ外に設置して、外部からシャーベットアイスが供給されるようにしてもよい。ポンプをコンテナ外に設置した場合、シャーベットアイスの供給元とコンテナとの間に循環経路を設け、ポンプによってコンテナ内の配管にシャーベットアイスが送り込まれるようにしてもよい。
【0012】
また、注入手段は、内臓が除去された部分に挿入され、注入されたシャーベット状の氷を内臓が除去された部分に流出させる1以上の孔が設けられたチューブを備えるものであってもよい。このような注入手段であれば、内臓が除去された部分の開口付近に限らず、チューブの孔が設けられた位置からもシャーベットアイスが注入される。したがって、魚の内臓が除去された部分は、チューブに設けられた孔からのシャーベットアイスの噴流によっても冷却され、より均一に魚を冷却することが可能となる。
【0013】
また、注入手段は、チューブに接続され、内臓が除去された部分にシャーベット状の氷を注入するポンプをさらに備えるものであってもよい。このような注入手段であれば、チューブの孔から噴出するシャーベットアイスの流速が速くなり、魚の内表面における熱伝達率が向上することで、魚をより急速に冷却することができる。
【0014】
なお、本発明は、方法の側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、魚の急冷加工方法であって、シャーベット状の氷が充填され魚を保持するコンテナ内で魚の内臓が除去された部分にシャーベット状の氷を注入する注入工程を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、魚を急速冷却し鮮度を維持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本願発明の一態様を例示したものであり、本願発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0018】
<構成>
図1は、魚の急冷加工装置の構成を例示する図である。急冷加工装置1は、魚を急速に冷却する装置であり、コンテナ2、ポンプ3A、ポンプ3B、チューブ4、及び配管5を備える。実施形態において、冷却する魚はマグロであるものとして説明するが、急冷加工装置1は、マグロに限られず、ブリ、ヒラマサ、カツオ、サーモン等の体格の大きな魚の冷却にも利用することができる。
【0019】
コンテナ2は、冷却するマグロを保持する容器である。コンテナ2は、図示しない蓋によって密閉され、外気によるコンテナ2内の温度上昇は抑制される。コンテナ2には、1本に限られず複数のマグロが投入されてもよい。
【0020】
ポンプ3Aは、内臓が除去されたマグロの体内に、シャーベットアイスを送り込むためのポンプである。ポンプ3Aには1以上の孔が設けられたチューブ4が接続され、チューブ4は、マグロの口から体内に挿入される。ポンプ3Aは、例えば、マグロに脱着する作業を簡便化するため、小型の軸流ポンプとしてもよい。ポンプ3Aによってチューブ4に送り込まれるシャーベットアイスは、チューブ4の孔を介して噴流を形成し、マグロの体内に送り込まれる。マグロのえら、肛門は固く閉じられており、体内に送り込まれたシャーベットアイスは、内臓が除去されたマグロの内表面に沿って流動し、口から体外に放出される。即ち、マグロの体内のシャーベットアイスは、ポンプ3Aによって入れ替えられ、マグロの内表面を効率よく冷却することができる。
【0021】
チューブ4は、マグロの内臓が除去された空洞の大きさに合わせて、例えば、直径20mm程度とすることができる。塩水による劣化を防ぐため、チューブ4は、樹脂又はゴム製としてもよく、マグロの体内に挿入する際に前記空洞の形状に合わせて湾曲できるように、柔らかい材質であることが好ましい。チューブ4は、シャーベットアイスがマグロの体内に均一に供給されるように、先端が閉じたチューブ状とし、複数の孔を設けてもよい。孔の大きさ及び孔を設ける間隔は、マグロの内表面の熱伝達率を変動させるシャーベットアイスの流量及び流速に基づいて決定される。例えば、マグロの体内におけるシャーベットアイスの流量を均一化するために、チューブ4の先端(マグロ体内の奥)で、孔の大きさをより大きくし、又は、孔を設ける間隔を狭くするようにしてもよい。
【0022】
ポンプ3Bは、シャーベットアイスを配管5に送り込み、コンテナ2内で噴流及び循環流を形成するためのポンプである。配管5は、コンテナ2の容量に影響を与えない大きさとし、例えば、直径20〜25mm程度のパイプである。また、配管5には、魚に面する側面に複数の孔が設けられ、ポンプ3Bによって配管5に送り込まれるシャーベットアイスは、配管5の孔を介して噴流を形成し、コンテナ2内に放出される。塩水による劣化を防ぐため、配管5は、硬質塩化ビニール等の樹脂製としてもよい。
【0023】
図2は、魚を保持するコンテナを例示する図である。コンテナ2は、蓋2A及び容器2Bを備える。蓋2A及び容器2Bの外壁は、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂であり、断熱材として硬質ウレタンフォームが使用される。蓋2Aと容器2Bとは、例えばパチン錠によって留められることでコンテナ2は密閉される。コンテナ2のサイズは、大型の魚を保持するため、外寸1700×1240×775mm(内寸1520×1040×545mm)程度の大きさとすることが好ましい。
【0024】
<冷却効果の評価>
図3から
図10は、急冷加工装置1による冷却効果の評価結果を説明するための図である。急冷加工装置1による冷却効果を定量的に評価するために、胴径400mm(半径Rout=200mm)のマグロを対象に、一次元円筒座標系のモデル化をして非定常伝熱計算を行った。
【0025】
図3は、マグロの断面を一次元円筒座標系によりモデル化した例を示す図である。
図3(A)は、マグロの断面を模式化した図である。マグロ断面の右側には、ワカレ身、骨ぎし、赤身、中とろ、大とろ等の部位を区別する境界が示されている。マグロ断面の中心部よりやや上にはマグロの脊椎P1が通っており、脊椎近傍の温度が芯温として計測される。芯温は、血合いP2(動脈)から挿入された温度計により計測することができる。マグロの体内の空洞P3は、内蔵が除去され、トリミング及び洗浄された部分である。
【0026】
図3(B)は、
図3(A)に示すマグロの断面を一次元円筒座標系によりモデル化した例を示す。マグロの外表面は円PM1で示され、マグロの胴径を400mmと想定すると、半径R
outは200mmである。マグロの体内の空洞P3は、円PM2で示され、直径
は140mm、半径R
inは70mmとする。以下、マグロ断面のモデルにおける半径は、単にRと記載する。
【0027】
図3(B)に示すマグロ断面のモデルにおいて、半径Rについて、70mm≦R≦200mmの領域には、以下の表1に示すマグロの熱物性値を用いる。また、R<70mmの領域(内臓が除去されトリミング及び洗浄されたマグロ内部)には表1に示す水の熱物性値を用いて評価する。
【0029】
非定常伝熱計算に用いた基礎式は、以下の式(1)で示される。境界条件としては、半
径R=0mmで軸対象であること、及び熱伝達の境界が半径R=200mm(マグロ内部のシャーベットアイスの部分についてはR=70mm)であることを指定した。
【0030】
【数1】
C
p:比熱,ρ:比重,T:温度,λ:熱伝導度,t:時間,r:半径
【0031】
また、差分式としては、以下の式(2)が用いられた。なお、添え字について、“W”はマグロの内表面(西側)、“E”はマグロの外表面(東側)、“P”はマグロの中心(対象軸)における値であることを示し、“0”は所定の時間間隔Δtで計算された場合の前回の計算における計算値であることを示す。
【0032】
【数2】
C
p:比熱,ρ:比重,T:温度,λ:熱伝導度,t:時間,r:半径,Δt:時間差分,Δr:半径方向の差分,h:熱伝達率
【0033】
図4は、参考例における1時間毎のマグロ内部の温度分布を例示するグラフである。
図4の参考例では、マグロは、砕氷を充填したコンテナ2に投入されるものとする。また、R<70mmの領域での熱移動は熱伝導のみを対象とし、冷海水の自然対流は考慮しないものとする。
図4のグラフにおいて、横軸はマグロ中心から半径R方向の座標であり、縦軸はマグロ及び冷海水の温度である。冷海水とマグロ外表面との熱伝達率は20W/m
2
Kであると想定される。冷却開始からの経過時間が0.0時間である場合の初期条件として、R<70mmの領域の冷海水の温度は3.0℃一様、70mm≦R≦200mmの領域のマグロの温度は28℃一様、マグロの外側の冷海水の温度は3.0℃とする。
【0034】
時間の経過とともにR<70mmの領域の冷海水の温度は上昇する。冷却開始から約4.0時間後までは、半径Rが120mm前後より小さい範囲の領域で、半径Rに応じて高温化する温度分布が形成された。また、70mm≦R≦200mmのマグロ部分の領域では凸型の温度分布が形成された。冷却開始から約5.0時間後には、R<70mmの領域の冷海水は約17℃に均一化され、70mm≦R≦200mmの範囲では半径Rに応じて低温化する温度分布となった。冷却開始から約5.0時間後以降は時間の経過とともに、全体的に低温化した。
【0035】
図5は、実施形態における1時間毎のマグロ内部の温度分布を例示するグラフである。
図5の例では、マグロは、本実施形態における急冷加工装置1を使用して冷却されるものとする。
図5のグラフにおいて、横軸はマグロ中心から半径R方向の座標であり、縦軸はマグロとシャーベットアイスの温度である。シャーベットアイスとマグロ外表面(R=200mm)との熱伝達率は、シャーベットアイスの噴流速度に応じて変動するが、
図5では200W/m
2Kと想定される。シャーベットアイスとマグロ内表面(R=70mm)
との熱伝達率についても、200W/m
2Kと想定した。冷却開始からの経過時間が0.
0時間である場合の初期条件として、R<70mmの領域のシャーベットアイスの温度は
−1.5℃一様、70mm≦R≦200mmの領域のマグロの温度は28℃一様、マグロの外側のシャーベットアイスの温度は−1.5℃とする。時間の経過とともに、70mm≦R≦200mmのマグロ部分の領域では凸型の温度分布が形成され、時間の経過に伴って、70mm≦R≦200mmの範囲で徐々に低温化していった。
図4及び
図5に示されるグラフから、急冷加工装置1によれば、砕氷を含む冷海水による冷却と比較して、マグロの内表面まで均一に冷却できることが確認された。
【0036】
図6は、参考例におけるマグロの芯温の経時変化を例示するグラフである。
図6の参考例では、
図4の参考例と同様に、マグロは、砕氷を充填したコンテナ2に投入されるものとする。また、R<70mmの領域での熱移動は熱伝導のみを対象とし、冷海水の自然対流は考慮しないものとする。
図6のグラフにおいて、横軸は冷却開始からの経過時間であり、縦軸はマグロの芯温である。冷海水とマグロ外表面との熱伝達率は20W/m
2Kと
想定される。70mm≦R≦200mmの領域のマグロの温度は28℃一様と想定される。
図6には、R<70mmの領域及びマグロの外側の冷海水の温度が、−3.0℃、−1.5℃、3.0℃、5.0℃の場合についての芯温の経時変化が示される。冷却開始から約5時間後までは、R<70mmの領域の冷海水はマグロの内表面よりも低温であり、外側からも内側からも冷却されるため、マグロは急速に冷却される。しかし、約5時間後以降では冷却速度が低下し、冷却開始から約10時間後のマグロの芯温は、冷却開始時の冷海水の温度に応じて11℃〜15℃程度となった。
【0037】
図7は、実施形態におけるマグロの芯温の経時変化を例示するグラフである。
図7の例では、
図5の例と同様に、マグロは、本実施形態における急冷加工装置1を使用して冷却されるものとする。
図7のグラフにおいて、横軸は冷却開始からの経過時間であり、縦軸はマグロの芯温である。70mm≦R≦200mmの領域のマグロの温度は28℃一様、R<70mmの領域及びマグロの外側の冷海水の温度は−1.5℃と想定される。
図7には、シャーベットアイスとマグロ外表面(R=200mm)との熱伝達率が、20W/m
2K、200W/m
2K、2000W/m
2Kの場合について、マグロの芯温の経時変化が
示される。なお、シャーベットアイスとマグロ内表面(R=70mm)との熱伝達率は、シャーベットアイスとマグロ外表面との熱伝達率と同じ値が指定される。マグロの芯温は、時間経過とともに低温化した。シャーベットアイスとマグロ外表面又は内表面との熱伝達率が大きい(噴流速度が大きい)ほど、マグロは急速に冷却され、冷却開始から約10時間後のマグロの芯温は3.0℃〜−1.1℃程度になった。
図6及び
図7に示されるグラフから、急冷加工装置1によれば、砕氷を含む冷海水による冷却と比較して、冷却開始から約10時間後のマグロの芯温は約8〜16℃の低温化が可能であることが確認された。また、急冷加工装置1による冷却効果を、シャーベットアイス及び冷海水の温度が−1.5℃、熱伝達率が20W/m
2Kという同一条件で
図6の参考例と比較した場合、約1
0時間後のマグロの芯温は約8.4℃の低温化していることが確認される。
【0038】
図8は、マグロの内側における冷海水の流動による冷却効果を示すグラフである。
図8の例では、マグロは、砕氷を充填したコンテナ2に投入されるものとする。
図8には、マグロの内側の冷海水が流動していない場合(内側止水)及びマグロの内側の冷海水が流動している場合(内側流水)において、熱伝達率が20W/m
2K、200W/m
2K、2000W/m
2Kの場合についての芯温の経時変化が示される。冷海水の温度は3.0℃と
想定される。マグロの内側の冷海水を流水にすることで、冷却開始から約10時間後のマグロの芯温は、各熱伝達率においてそれぞれ7℃程度低温化することができた。
【0039】
図9および
図10は、マグロを効率よく冷却することができる内表面熱伝達率を見積もるためのシミュレーション結果を示す。内表面熱伝達率は、マグロの内表面に沿って流動するシャーベットアイスの流速に応じて変動する。このため、所望の内表面熱伝達率が求まれば、チューブ4に設けられた孔からシャーベットアイスを噴出する際の流速を見積も
ることが可能となる。
【0040】
図9は、腹内流量に応じたマグロの芯温の経時変化を例示するグラフである。
図9のグラフにおいて、横軸は冷却開始からの経過時間であり、縦軸はマグロの芯温である。初期条件として、70mm≦R≦200mmの領域のマグロの温度は28℃一様と想定される。また、熱伝達率等の他の条件として、以下のR1からR7に示す条件を指定して、式(1)及び式(2)による計算を行った。
R1:砕氷、氷水温度=2℃、外表面熱伝達率=20W/m
2K
R2:シャーベットアイス(止水)、氷水温度=−1℃、
外表面熱伝達率=200W/m
2K
R3:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃、
外表面熱伝達率=200W/m
2K、内表面熱伝達率=200W/m
2K
R4:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃
外表面熱伝達率=20W/m
2K、内表面熱伝達率=20W/m
2K
R5:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃、腹内流量1L/min
外表面熱伝達率=200W/m
2K、内表面熱伝達率=200W/m
2K
R6:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃、腹内流量5L/min
外表面熱伝達率=200W/m
2K、内表面熱伝達率=200W/m
2K
R7:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃、腹内流量10L/min
外表面熱伝達率=200W/m
2K、内表面熱伝達率=200W/m
2K
【0041】
条件R1から条件R3は、氷水として砕氷を使用するかシャーベットアイスを使用するか、また、シャーベットアイスをマグロの体内で流動させるか否かの条件が異なる。条件R3に対応するグラフは、シャーベットアイスをマグロの腹内で−1℃均一で流動させた場合の冷却の様子を示しており、条件R3と同程度の冷却効果が得るための腹内流量について検討する。なお、条件R4は、条件R3と比較してシャーベットアイスの流速が遅く、内表面熱伝達率が10分の1である場合の冷却の様子を示す。条件R5から条件R7では、内表面熱伝達率を条件R3と同じく200W/m
2Kとし、マグロの腹内流量の条件
を変えた場合の冷却の様子を示す。
【0042】
条件R5から条件R7に対応するグラフから、腹内流量が少ない場合、腹内の温度が上昇して冷却効果が低下することがわかる。また、条件R3と同程度の冷却効果を得るためには、腹内流量は5L/min(条件R6)以上であることが望ましい。
【0043】
図10は、
図9においてマグロ内表面の熱伝達率が10分の1まで低下した場合のマグロの芯温の経時変化を例示するグラフである。
図10のグラフにおいて、横軸は冷却開始からの経過時間であり、縦軸はマグロの芯温である。初期条件として、70mm≦R≦200mmの領域のマグロの温度は28℃一様と想定される。条件R1から条件R4のグラフは、
図9と同一である。
図10では、
図9の条件R5から条件R7において、内表面伝達率を10分の1とした以下の条件R51から条件R71による計算結果に基づくグラフが示される。
R51:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃、腹内流量1L/min
外表面熱伝達率=200W/m
2K、内表面熱伝達率=20W/m
2K
R61:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃、腹内流量5L/min
外表面熱伝達率=200W/m
2K、内表面熱伝達率=20W/m
2K
R71:シャーベットアイス(流水)、氷水温度=−1℃、腹内流量10L/min
外表面熱伝達率=200W/m
2K、内表面熱伝達率=20W/m
2K
【0044】
腹内流量が5L/min以上となる条件R61及び条件R71で計算した場合、マグロの芯温は、冷却開始から600分後、条件R3のグラフと比較して約1℃強高いことがわ
かる。また、冷却開始から900分後には、マグロの芯温は、
図9の場合と同程度まで低温化する。
【0045】
条件R3の場合と同等の冷却効果を得るためには、
図9の条件R6及び条件R7のグラフから分かるように、内表面熱伝達率は、200W/m
2K以上とすることが望ましい。
ここで、平板に沿う流れの熱伝達率をh、マグロの全長L=1m、水の熱伝導度λ=0.55w/mKとすると、流体とそれに接する物体との間の対流による伝熱の大きさを表わすヌッセルト数Nuは、Nu=h・L/λによって表される。また、水の温度拡散率α=1.31×10−7[m
2/s]、水の動粘性係数ν=1.79×10−6[m
2/s]とすると、水のプラントル数Pr=ν/αと表される。さらに、粘性をもつ流体のふるまいを特徴づけるレイノルズ数Re
Lは、シャーベットアイスの流速をu=0.13m/sと
した場合、Re
L=u・L/ν=72626[−]となる。この場合、ヌッセルト数Nu=h・L/λ=0.644・Pr
1/3・Re
L1/2=415[−]から、熱伝達率はh=41
5・λ/L=228[W/m
2K]となる。したがって、200W/m
2K以上の内表面熱伝達率を得るためには、シャーベットアイスの流速は0.13m/s以上とすることが望ましい。
【0046】
<実施形態の作用効果>
本実施形態の急冷加工装置1は、マグロの外表面においてシャーベットアイスを流動させることで熱伝達率を向上させ、マグロを急速に冷却することができる。また、マグロの内臓が除去された部分にも、シャーベットアイスを注入することで、マグロは外表面と内表面の双方から冷却され、伝熱面積が拡大するとともに、マグロの芯温を示す部分から伝熱面までの距離は減少する。したがって、芯温の低温化の効果は増大し、マグロは急速に冷却される。また、シャーベットアイスは、砕氷よりも良好な流動性及び低温保持能力を有し、マグロの内外表面との接触面が大きいことから、マグロをより急速に冷却することができる。
【0047】
また、急冷加工装置1は、ポンプ3Bによってシャーベットアイスを配管5に送り込み、配管5に設けられた孔からシャーベットアイスを噴出させることで、コンテナ2内でシャーベットアイスの循環流を形成することができる。
【0048】
マグロの内臓が除去された部分に、シャーベットアイスを流出させるための孔を設けたチューブ4を挿入し、チューブ4の孔を介してマグロの体内にシャーベットアイスを注入することで、マグロの内表面はより均一に冷却される。また、ポンプ3Aによってチューブ4にシャーベットアイスを送り込むことで、チューブ4の孔から噴出するシャーベットアイスの流速は速くなり、マグロの内表面における熱伝達率は向上する。したがって、内表面からも効率よく冷却され、マグロをより急速に冷却することが可能となる。
【0049】
<変形例>
上記実施形態では、シャーベットアイスをマグロの体内に流入するためのポンプ3A及びチューブ4をマグロに脱着する作業を簡便化するため、小型の軸流ポンプを採用した。シャーベットアイスをマグロの体内に流入する手段は、上記実施形態の例に限られない。
図11及び
図12は、それぞれ魚の急冷加工装置1の変形例1及び変形例2を示す。
【0050】
図11は、変形例1における、魚の急冷加工装置の構成を例示する図である。変形例1における魚の急冷加工装置1Aは、ポンプ3Aに代えて、ポンプ3C及びチューブ用配管4Aを備える。ポンプ3Cは、チューブ用配管4Aを介して、マグロの体内に挿入されたチューブ4にシャーベットアイスを送り込むためのポンプである。チューブ用配管4Aは、ポンプ3Cとチューブ4とを接続する。なお、チューブ用配管4Aは、配管5に接続され、ポンプ3Bによってチューブ4にシャーベットアイスを送り込むようにしてもよい。
【0051】
図12は、変形例2における、魚の急冷加工装置の構成を例示する図である。変形例2における魚の急冷加工装置1Bは、ポンプ3Aに代えて、チューブ4に接続されるラッパ状の挿入口4Bを備える。挿入口4Bは、例えば、チューブ4との接続部分からコンテナ2内に向けてラッパ状に広がる形状を有する。配管5から噴出されるシャーベットアイスは、噴流の動圧によって、挿入口4Bの開口部からチューブ4に流入する。挿入口4Bは、マグロの口から外れないようにするための固定部材を備えるようにしてもよい。
【0052】
上記変形例においても、シャーベットアイスがマグロの体内を流動し、マグロを外表面及び内表面の双方から冷却することで冷却効果が向上し、マグロの急速冷却が可能となる。なお、上記実施形態及び変形例では、シャーベットアイスをマグロの体内で流動させる例が示されるが、砕氷をマグロの体内で流動させることによっても、マグロを急速冷却し鮮度を維持することが可能である。