【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例及び比較例により制限されない。
【0065】
[実施例1]
本実施例では、まず、金属を固定する化合物と、第1の熱可塑性樹脂とを含む樹脂ペレットを製造し、次に製造した樹脂ペレットと、第2の熱可塑性樹脂とを混合して射出成形して樹脂基材を得た。そして、得られた樹脂基材の表面の一部分にメッキ膜を形成して、本実施例のメッキ部品を製造した。
【0066】
本実施例では、金属を固定する化合物として還元性化合物(無機フィラー)である次亜リン酸カルシウム(和光純薬製、粉状)を用い、第1の熱可塑性樹脂としてポリアミド6T(PA6T)(ソルベイ アドバンスト ポリマーズ製、アモデルAS−1566HS、黒色グレード)を用いた。第2の熱可塑性樹脂としても、第1の熱可塑性樹脂と同様のポリアミド6T(PA6T)を用いた。
【0067】
(1)樹脂ペレットの製造
樹脂ペレット中の次亜リン酸カルシウムの含有量が10重量%となるように、ポリアミド6T(PA6T)(第1の熱可塑性樹脂)のペレットと、次亜リン酸カルシウムとを均一に混合して、押出成形機(井元製作所製、IMC‐1A6C型)を用いて押出成形し、続いて、押出成形物をペレタイザーに通して、樹脂ペレットを製造した。スクリュ温度は340℃とした。
【0068】
(2)樹脂基材の射出成形
樹脂基材中の次亜リン酸カルシウムの含有量が1重量%となるように、ポリアミド6T(第2の熱可塑性樹脂)のペレットと、先に製造した樹脂ペレットとを混合(ドライブレンド)し、射出成形機(日本製鋼所製、J180AD−300H)を用いて、4cm×6cm×0.2cmの板状体(樹脂基材)に射出成形した。
【0069】
(3)レーザー描画
樹脂基材に、レーザー描画装置(キーエンス製、MD−V9929WA、YVO
4レーザー、波長1064nm)を用いて、所定のパターンに沿ってレーザー光を照射した。レーザー描画は、描画速度600mm/sec、周波数50kHz、パワー80%で行った。本実施例でレーザー描画したパターンは、以下の2種類のパターンである。
パターン(I):2cm×3cmの長方形のパターン。0.1μm間隔ピッチの直線で塗り潰すようにレーザー描画した。
パターン(II):ピッチ500μm、線幅200μm、長さ4cmの複数の直線からなるパターン(即ち、パターンのライン・アンド・スペース(L/S)は、200μm/300μm)
【0070】
(4)無電解メッキ触媒の付与
塩化パラジウムを50ppm含有し、塩酸の濃度が2.0Nである無電解メッキ触媒液を調製した。無電解メッキ触媒液の温度を30℃に調整し、樹脂基材を無電解メッキ触媒液に1分間浸漬した。浸漬後、樹脂基材を無電解メッキ触媒液から取り出して純水で洗浄した。
【0071】
(5)無電解メッキ
析出レートの高い無電解銅メッキ液(奥野製薬製、OPCカッパーNCA)の温度を60℃に調整し、無電解メッキ触媒を付与した樹脂基材を20分間浸漬して、樹脂基材表面に無電解銅メッキ膜を2μm成長させた。その後、樹脂基材を無電解メッキ液から取り出して、十分に水洗した。以上説明した製造方法により、本実施例のメッキ部品を得た。
【0072】
[実施例2]
本実施例では、レーザー描画の前に樹脂基材上に触媒失活剤としてヨウ素を付与した。それ以外は実施例1と同様の方法により、メッキ部品を製造した。
【0073】
(1)樹脂ペレットの製造及び樹脂基材の成形
実施例1と同様の方法により、樹脂ペレットの製造及び樹脂基材の射出成形を行い、樹脂基材を得た。
【0074】
(2)触媒失活剤の付与
以下の手順で、ヨウ素濃度1.5重量%、ヨウ化カリウム濃度6重量%、水とエタノール混合溶液を溶媒とするヨウ素溶液を調製した。まず、水194.5gにヨウ化カリウム(和光純薬製試薬)18.0gを溶解し、ヨウ化カリウム水溶液を調製した。次に、調製したヨウ化カリウム水溶液に、ヨウ素(和光純薬製試薬)4.5gを加え、攪拌して完全に溶解させた。更にエタノール(和光純薬製試薬)83.0gを加え、ヨウ素溶液を得た。
【0075】
調製したヨウ素溶液を300ccのトールビーカーに入れ、樹脂基材をヨウ素溶液に浸漬し、室温で10分間放置した。その後、樹脂基材をヨウ素溶液から取り出し、十分に水洗した後、エアーブローで基材についた水滴を除去した。
【0076】
(3)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、触媒失活剤を付与した樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(II)のレーザー描画を行った。
【0077】
(4)無電解メッキ触媒の付与及び無電解メッキ
実施例1と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒の付与及び無電解銅メッキを行い、本実施例のメッキ部品を得た。
【0078】
[実施例3]
本実施例では、レーザー描画の前に樹脂基材上に触媒失活剤としてヨウ素を付与し、無電解メッキとして無電解ニッケルリンメッキを行った。それ以外は実施例1と同様の方法により、メッキ部品を製造した。
【0079】
(1)樹脂ペレットの製造及び樹脂基材の成形
実施例1と同様の方法により、樹脂ペレットの製造及び樹脂基材の射出成形を行い、樹脂基材を得た。
【0080】
(2)触媒失活剤の付与
実施例2と同様の方法により、樹脂基材に触媒失活剤(ヨウ素)の付与を行った。
【0081】
(3)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、触媒失活剤を付与した樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(I)のレーザー描画を行った。
【0082】
(4)無電解メッキ触媒の付与
実施例1と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒の付与を行った。
【0083】
(5)無電解メッキ
ニッケルリンメッキ液(奥野製薬工業社製、トップニコロンRCH)の温度を90℃に調整し、無電解メッキ触媒を付与した樹脂基材を20分間浸漬して、樹脂基材表面にニッケルリンメッキ膜を2μm成長させた。その後、樹脂基材を無電解メッキ液から取り出して、十分に水洗した。以上説明した製造方法により、本実施例のメッキ部品を得た。
【0084】
[比較例1]
本比較例では、金属を固定する化合物を含まない樹脂基材を製造したこと以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂基材に対して各処理を行った。
【0085】
(1)樹脂基材の射出成形
次亜リン酸カルシウムを含有する樹脂ペレットを用いずに、ポリアミド6Tのペレットのみを用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂基材の射出成形を行い、樹脂基材を得た。
【0086】
(2)レーザー描画、無電解メッキ触媒の付与及び無電解メッキ
実施例1と同様の方法により、樹脂基材に対して、レーザー描画、無電解メッキ触媒の付与及び無電解銅メッキを行った。
【0087】
[比較例2]
本比較例では、金属を固定する化合物を含まない樹脂基材を製造し、レーザー描画の前に樹脂基材上に触媒失活剤としてヨウ素を付与し、無電解メッキとして無電解ニッケルリンメッキを行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂基材に対して各処理を行った。即ち、本比較例は、金属を固定する化合物を含まない樹脂基材を製造したこと以外は、実施例3と同様の方法により、樹脂基材に対して各処理を行った。
【0088】
(1)樹脂基材の射出成形
次亜リン酸カルシウムを含有する樹脂ペレットを用いずに、ポリアミド6Tのペレットのみを用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂基材の射出成形を行い、樹脂基材を得た。
【0089】
(2)触媒失活剤の付与
実施例2と同様の方法により、樹脂基材に触媒失活剤(ヨウ素)の付与を行った。
【0090】
(3)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、触媒失活剤を付与した樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(I)のレーザー描画を行った。
【0091】
(4)無電解メッキ触媒の付与
実施例1と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒の付与を行った。
【0092】
(5)無電解メッキ
実施例3と同様の方法により、樹脂基材に無電解ニッケルリンメッキを行った。
【0093】
[実施例4]
本実施例では、第1及び第2の熱可塑性樹脂として、ガラス繊維強化ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。また、樹脂基材の無電解メッキ触媒液への浸漬時間を実施例1と比較して長くし、無電解メッキとして無電解ニッケルリンメッキを行った。それ以外は実施例1と同様の方法により、メッキ部品を製造した。
【0094】
(1)樹脂ペレットの製造
ポリアミド6T(PA6T)に代えて、ガラス繊維強化ポリフェニレンサルファイド(PPS)(帝人株式会社製、1040G、黒色)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂ペレットを製造した。但し、押出成形におけるスクリュ温度は350℃とした。
【0095】
(2)樹脂基材の射出成形
第2の熱可塑性樹脂として、ポリアミド6T(PA6T)に代えて、ガラス繊維強化ポリフェニレンサルファイド(PPS)(帝人株式会社製、1040G、黒色)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂基材を得た。
【0096】
(3)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(I)のレーザー描画を行った。但し、描画速度は500mm/sec、周波数は100kHzとした。
【0097】
(4)無電解メッキ触媒の付与
樹脂基材の無電解メッキ触媒液への浸漬時間を15分とした以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒を付与した。
【0098】
(5)無電解メッキ
実施例3と同様の方法により、樹脂基材に無電解ニッケルリンメッキを行い、本実施例のメッキ部品を得た。
【0099】
[実施例5]
本実施例では、レーザー描画の前に樹脂基材上に触媒失活剤としてポリマーを付与したこと以外は、実施例4と同様の方法により、メッキ部品を製造した。
【0100】
(1)樹脂ペレットの製造及び樹脂基材の射出成形
実施例4と同様の方法により、樹脂ペレットを製造して基材成形を行い、実施例4と同等の樹脂基材を得た。
【0101】
(2)触媒失活剤の付与
本実施例では、触媒失活剤であるポリマーを含む触媒活性妨害層を樹脂基材の表面に形成した。ポリマーとしては、下記式(1)で表される、側鎖にアミド基及びジチオカルバメート基を有するハイパーブランチ型ポリマーAを用いた。
【0102】
【化1】
【0103】
(a)ポリマーAの合成
下記式(2)で表される、市販のハイパーブランチポリマー(ポリマーB)にアミド基を導入して、式(1)で表されるポリマーAを合成した。
【0104】
【化2】
【0105】
まず、式(2)で表されるハイパーブランチポリマー(日産化学工業製、ハイパーテック HPS−200)(1.3g、ジチオカルバメート基:4.9mmol)、N‐イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)(1.10g、9.8mmol)、α,α’‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(81mg、0.49mmol)、脱水テトラヒドロフラン(THF)(10mL)をシュレンク管へ加え、凍結脱気を3回行った。その後、オイルバスを用いて70℃で一晩(18時間)撹拌して反応させ、反応終了後、氷水によって冷却し、THFで適度に希釈した。次に、ヘキサン中で再沈殿させ、得られた固体の生成物を60℃で一晩真空乾燥させた。生成物のNMR(核磁気共鳴)測定及びIR(赤外吸収スペクトル)測定を行った。この結果、式(2)で表される市販のハイパーブランチポリマーにアミド基が導入されて、式(1)で表されるポリマーAの生成が確認できた。次に、生成物の分子量をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定した。用いた化合物の分子量は、数平均分子量(Mn)=9,946、重量平均分子量(Mw)=24,792であり、ハイパーブランチ構造独特の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)とが大きく異なった値であった。ポリマーAの収率は、92%であった。
【0106】
(b)触媒活性妨害層の形成
合成した式(1)で表されるポリマーAをメチルエチルケトンに溶解して、ポリマー濃度0.5重量%のポリマー溶液を調製した。成形した樹脂基材を調製したポリマー溶液に室温で10秒間浸漬し、その後、85℃乾燥機中で5分間乾燥した。これにより、樹脂基材表面に触媒活性妨害層が形成された。
【0107】
触媒活性妨害層の膜厚を以下に説明する方法により測定した。まず、本実施例と同一の条件で樹脂層を形成した膜厚測定用試料を作製した。膜厚測定用試料の樹脂層の一部を金属製スパチュラで傷をつけて基材を露出させ、レーザー顕微鏡(キーエンス製、VK−9710)で樹脂層表面と露出した基材表面との段差を測定し、この測定値を触媒活性妨害層の膜厚とした。触媒活性妨害層の膜厚は、約70nmであった。
【0108】
(3)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、触媒失活剤を付与した樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(II)のレーザー描画を行った。但し、描画速度は500mm/sec、周波数は100kHzとした。
【0109】
(4)無電解メッキ触媒の付与
実施例4と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒を付与した。
【0110】
(5)無電解メッキ
実施例3と同様の方法により、樹脂基材に無電解ニッケルリンメッキを行い、本実施例のメッキ部品を得た。
【0111】
[実施例6]
本実施例では、レーザー描画の前に樹脂基材の洗浄を行い、樹脂基材の最も表面に存在する金属を固定する化合物を除去した。それ以外は、実施例4と同様の方法により、メッキ部品を製造した。
【0112】
(1)樹脂ペレットの製造及び樹脂基材の射出成形
実施例4と同様の方法により、樹脂ペレットを製造して基材成形を行い、実施例4と同等の樹脂基材を得た。
【0113】
(2)基材の洗浄
30℃に調整した1Nの塩酸に、成形した樹脂基材を20分間浸漬した。その後、樹脂基材を塩酸から取り出し、純水で3回洗浄し、純水洗浄後、乾燥させた。これにより、樹脂基材の最表面に存在する次亜リン酸カルシウムを除去した。
【0114】
(3)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、洗浄した樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(II)のレーザー描画を行った。但し、描画速度は500mm/sec、周波数は100kHzとした。
【0115】
(4)無電解メッキ触媒の付与
実施例4と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒を付与した。
【0116】
(5)無電解メッキ
実施例3と同様の方法により、樹脂基材に無電解ニッケルリンメッキを行い、本実施例のメッキ部品を得た。
【0117】
[実施例7]
本実施例では、まず、
図5に示す製造装置1000を用いて、以下に説明する方法により、金属を固定する化合物と、第1の熱可塑性樹脂とを含む樹脂ペレットを製造し、次に製造した樹脂ペレットと、第2の熱可塑性樹脂とを混合して射出成形して樹脂基材を得た。そして、得られた樹脂基材の表面の一部分にメッキ膜を形成して、本実施例のメッキ部品を製造した。
【0118】
本実施例では、金属を固定する化合物として還元性化合物(無機フィラー)である次亜リン酸カルシウム(和光純薬製、粉状)を用い、第1の熱可塑性樹脂としてガラス繊維強化ポリフェニレンサルファイド(PPS)(帝人株式会社製、1040G、黒色)を用いた。第2の熱可塑性樹脂としても、第1の樹脂可塑性樹脂と同様のガラス繊維強化PPSを用いた。
【0119】
(1)樹脂ペレットの製造装置
まず、本実施例で樹脂ペレットの製造に用いた製造装置1000について説明する。
図5に示すように、製造装置1000は、可塑化シリンダ210を有する押出成形機300と、次亜リン酸カルシウムの溶解溶液(溶液A)を可塑化シリンダ210に供給する溶解溶液(溶液A)供給機構150と、制御装置(不図示)を備える。制御装置は、押出成形機300と、溶液A供給機構150との動作を制御する。
【0120】
(a)押出成形機
図5に示す押出成形機300は、可塑化シリンダ210と、可塑化シリンダ210の先端に設けられるダイ29と、可塑化シリンダ210内に回転自在に配設されたスクリュ20と、可塑化シリンダ210内に配置される上流側シール機構S1及び下流側シール機構S2と、可塑化シリンダ210に接続する真空ポンプPを備える。可塑化シリンダ210の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給するための樹脂供給口201、溶液Aを可塑化シリンダ210内に導入するための導入口202、及び必要に応じて可塑化シリンダ210内からガス化した溶液Aの溶媒を排気するためのベント203が形成されている。これらの樹脂供給口201、及び導入口202にはそれぞれ、樹脂供給用ホッパ211、及び導入バルブ212が配設されており、ベント203には、真空ポンプPが接続されている。また導入バルブ212は、押出成形機300の外に設けられる溶液A供給機構150と接続される。可塑化シリンダ210の外壁面には、バンドヒータ(不図示)が配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱されて、熱可塑性樹脂が可塑化される。
【0121】
このような構造の押出成形機300では、樹脂供給口201から可塑化シリンダ210内に熱可塑性樹脂が供給され、熱可塑性樹脂がバンドヒータ(不図示)によって可塑化されて溶融樹脂となり、スクリュ20が回転することにより下流に送られる。そして、導入口202近傍まで送られた溶融樹脂は、導入された溶液Aを高圧下、接触混練される。次いで、溶液Aと接触混練された溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、ガス化した溶液Aの溶媒が溶融樹脂から分離し、ベント203から排気される。そして、さらに前方に送られた溶融樹脂は、ダイ29から押し出される。これにより、可塑化シリンダ210内では、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化して溶融樹脂とする可塑化ゾーン21、溶融樹脂と導入口202から導入される溶液Aを高圧下、接触混練する高圧混練ゾーン22、及び溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、溶融樹脂から分離された溶液Aの溶媒をベント203から排気する減圧ゾーン23が形成される。
【0122】
(b)溶液A供給機構
次に、図に示す溶液A供給機構150について説明する。溶液A供給機構150は、背圧弁250を介して押出成形機300の導入バルブ212に接続しており、溶液Aを成形機300に供給する。溶液A供給機構150は、溶液Aの収容容器13と、収容容器13から溶液Aを吸引後、所定の圧力に昇圧し、更に流量一定で液送可能な2つのシリンジポンプ14、15とから構成される。
【0123】
溶液A供給機構150は、流量制御及び圧力制御が可能なシリンジポンプ14、15を有するので、流量及び圧力を所定量に制御した溶液A及を押出成形機300へ液送できる。押出成形機300の可塑化シリンダ210へ導入される溶液Aの圧力は、背圧弁250の設定圧力により調整される。溶液A供給機構150において、一方のポンプ(例えば、シリンジポンプ14)が液送している際に、他方のポンプ(シリンジポンプ15)が溶液を吸引加圧して待機する。液送している一方のポンプ(シリンジポンプ14)内の加圧した溶液が空になったタイミングで、ポンプを切り替え、今度は、他方のポンプ(シリンジポンプ15)により液送を開始する。これにより連続で圧力と流量を一定にして、溶液A供給機構150から押出成形機300へ溶液Aを液送する(供給する)ことが可能となり、押出成形機300は次亜リン酸カルシウムを微分散した押出成形品を連続成形できる。
【0124】
(2)樹脂ペレットの製造
以上説明した
図5に示す製造装置1000を用いて、金属を固定する化合物(次亜リン酸カルシウム)と、第1の熱可塑性樹脂(PPS)とを含有する樹脂ペレットを製造した。まず、次亜リン酸カルシウムを水に溶解して、次亜リン酸カルシウムが6重量%の水溶液(溶液A)を調製し、収容容器13に収容した。そして、溶液A供給機構150において、溶液Aをシリンジポンプ14により吸引後、昇圧した。溶液Aを昇圧後、シリンジポンプ14を圧力制御から流量制御に切り替え、溶液Aを所定の流量比となるように流動させた。これにより、溶液Aで導入バルブ212までの系を加圧した。
【0125】
一方、押出成形機300において、バンドヒータ(不図示)により、可塑化ゾーン21を340℃、高圧混練ゾーン22を320℃、減圧ゾーン23を300℃に調整した。そして、押出成形機300において、図示しないフィーダースクリュにより投入量を制御しながら、樹脂供給用ホッパ211から第1の熱可塑性樹脂を供給し、スクリュ20を回転させた。これにより、該熱可塑性樹脂を加熱、混練し、溶融樹脂とした。スクリュ20を回転することにより、溶融樹脂を可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22に流動させた。シール機構S1、S2の間に配置される高圧混練ゾーン22において、溶液Aが導入される前の溶融樹脂の圧力を14±1MPaに調整した。
【0126】
次に、導入バルブ212を開放して、シリンジポンプ14より、溶液Aを高圧混練ゾーン22に一定流量で導入した。導入圧力は、背圧弁250により、15MPaに調整した。溶液Aの流量は、15mL/分とした。スクリュ20を回転することにより、高圧混練ゾーン22において、溶融樹脂に溶液A混合した。本導入バルブ212直下に設けた圧力センサ(不図示)のモニターした可塑化シリンダ210の内部の圧力は、流体の導入後は、9.0±1.5MPaと安定であった。更に、スクリュ20を回転することにより、高圧混練ゾーン22を9.0±1.5MPaに保持した状態で、溶融樹脂を減圧ゾーン23へ流動させた。減圧ゾーン23は大気圧に設定し、減圧ゾーン23へ流動した溶液A中の水をガス化させて分離した。ガス化した溶媒は、真空ポンプPにより吸引されてベント203から可塑化シリンダ210の外部へ排出され、真空ポンプPに接続する回収容器に回収された。スクリュ20を回転することにより、溶融樹脂を更に下流へ流動させ、その後、可塑化シリンダ210の先端に設けられたダイ29から紐状に押し出し、紐状の成形体を得た。
【0127】
得られた紐状の押出成形物を図示しない水槽を通過させ、その後、図示しないストランドカット装置にて連続的に切断し樹脂ペレットを製造した。本実施例においては、可塑化スクリュ20の回転数は、100rpmとし、ダイ29からの溶融樹脂の吐出量は、3kg/hrとした。溶液A(次亜リン酸カルシウムの6重量%水溶液、比重1.1g/cm
3)を15mL/分で溶融樹脂に供給したことから、樹脂ペレット中の次亜リン酸カルシウムの含有量の設定値は、約2重量%である。
【0128】
本実施例で製造した樹脂ペレットの断面をSEMにて観察した。樹脂ペレット内の次亜リン酸カルシウムの粒子径は、1μm以下と微細であり、原料粉末の1/10〜1/100以下の大きさ(粒子径)に微細化されていることがわかった。この原因は、高圧混練ゾーン22の圧力を溶液Aが液体状体を維持できる高圧力に保ち、次亜リン酸カルシウムの溶解状態を維持した溶液Aと、溶融樹脂とを混合して樹脂ペレットを製造したためだと推測される。
【0129】
(3)樹脂基材の射出成形
樹脂基材中の次亜リン酸カルシウムの含有量が0.3重量%となるように、PPSのペレットと、先に製造した樹脂ペレットとを混合(ドライブレンド)し、射出成形機(日本製鋼所製、J180AD−300H)を用いて、4cm×6cm×0.2cmの板状体(樹脂基材)に射出成形した。
【0130】
(4)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(I)のレーザー描画を行った。但し、描画速度は500mm/sec、周波数は100kHzとした。
【0131】
(5)無電解メッキ触媒の付与
実施例4と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒を付与した。
【0132】
(6)無電解メッキ
実施例1と同様の方法により、樹脂基材に無電解銅メッキを行い、本実施例のメッキ部品を得た。
[比較例3]
本比較例では、金属を固定する化合物を含まない樹脂基材を製造したこと以外は、実施例4と同様の方法により、樹脂基材に対して各処理を行った。
【0133】
(1)樹脂基材の射出成形
次亜リン酸カルシウムを含有する樹脂ペレットを用いずに、ポリフェニレンサルファイド(PPS)のペレットのみを用いたこと以外は実施例4と同様の方法により、樹脂基材の射出成形を行い、樹脂基材を得た。
【0134】
(2)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(I)のレーザー描画を行った。但し、描画速度は500mm/sec、周波数は100kHzとした。
【0135】
(3)無電解メッキ触媒の付与
実施例4と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒を付与した。
【0136】
(4)無電解メッキ
実施例3と同様の方法により、樹脂基材に無電解ニッケルリンメッキを行った。
【0137】
[実施例8]
本実施例では、まず、高圧容器を用いたバッチ処理により、金属を固定する化合物と、第1の熱可塑性樹脂とを含む樹脂ペレットを製造した。次に、製造した樹脂ペレットと、第2の熱可塑性樹脂とを混合して射出成形して樹脂基材を得た。そして、得られた樹脂基材の表面の一部分にメッキ膜を形成して、本実施例のメッキ部品を製造した。
【0138】
本実施例では、金属を固定する化合物としてε‐カプロラクタムを用い、第1の熱可塑性樹脂としてポリアミド6T(PA6T)(ソルベイ アドバンスト ポリマーズ製、アモデルAS−1566HS、黒色グレード)を用い、第2の熱可塑性樹脂として、ポリアミド6T/ポリフェニレンサルファイドアロイ樹脂(PA6T/PPSアロイ樹脂)(DIC製、FZ−2640 BLACK)を用いた。
【0139】
(1)樹脂ペレットの製造
本実施例では、高圧容器を用いたバッチ処理により樹脂ペレットを製造した。まず、高圧容器の内部に、ポリアミド6Tのペレット(原料ペレット、第1の熱可塑性樹脂)と、ε‐カプロラクタムを収容した。ポリアミド6T(原料ペレット)に対する、ε‐カプロラクタムの割合は、30重量%とした。
【0140】
高圧容器を100℃に昇温した後、シリンジポンプを用いて、高圧容器内へ15MPaの加圧二酸化炭素を導入した。導入後、高圧容器内部を2時間、加圧状態に保持した。その後、高圧容器内部の加圧二酸化炭素を容器外に排気して減圧し、樹脂ペレットを高圧容器から取り出した。
【0141】
樹脂ペレット中のε‐カプロラクタムの含有量は分析困難であった。しかし、バッチ処理した樹脂ペレットを無電解メッキ触媒液である塩化パラジウム溶液に浸漬し、次に無電解メッキ液と接触させると、樹脂ペレットに直接、無電解メッキ膜が生成した。この結果から、原料ペレットに、金属を固定する化合物であるε‐カプロラクタムが浸透したと判断した。樹脂ペレットにε‐カプロラクタムが浸透したことで、樹脂ペレットへの無電解メッキ触媒(パラジウムイオン)の吸着率が向上し、無電解メッキが可能になったと推測される。
【0142】
(2)樹脂基材の射出成形
PA6T/PPSアロイ樹脂70重量%と、先に製造した樹脂ペレット30重量%とを混合(ドライブレンド)し、射出成形機(日本製鋼所製、J180AD−300H)を用いて、4cm×6cm×0.2cmの板状体(樹脂基材)に射出成形した。
【0143】
(3)レーザー描画
実施例1と同様の方法により、樹脂基材にYVO
4レーザーを用いて、パターン(I)のレーザー描画を行った。但し、描画速度は500mm/sec、周波数は100kHzとした。
【0144】
(4)無電解メッキ触媒の付与
樹脂基材の無電解メッキ触媒液への浸漬時間を15分とした以外は、実施例1と同様の方法により、樹脂基材に無電解メッキ触媒を付与した。
【0145】
(5)無電解メッキ
実施例3と同様の方法により、樹脂基材に無電解ニッケルリンメッキを行い、本実施例のメッキ部品を得た。
【0146】
[評価]
実施例1〜8及び比較例1〜3で製造したメッキ部品について、以下の評価を行った。
【0147】
(1)メッキ析出性及びメッキ選択性
実施例1〜8及び比較例1〜3で製造したメッキ部品において、レーザー描画したパターン(I)を目視で、パターン(II)を光学顕微鏡で観察して、以下の評価基準に従ってメッキ析出性とメッキ選択性を評価した。結果を表1に示す。
【0148】
<メッキ析出性の評価基準>
○:レーザー描画部分にメッキ膜が成長している。
△:レーザー描画部分の一部にメッキ膜が成長していない部分がある。
×:レーザー描画部分にメッキ膜が成長していない。
【0149】
<メッキ選択性の評価基準>
○:レーザー描画部分のみにメッキ膜が成長している。
△:レーザー描画部分以外にも一部メッキ膜が成長している。
×:メッキ膜が基材全体に成長している、又はメッキ膜が基材表面に成長していない。
【0150】
(2)厚膜メッキを形成した場合のメッキ選択性
本評価は、実施例1、2、5及び6で製造したメッキ部品に対して行った。実施例1、2、5及び6で製造したメッキ部品において、それぞれの無電解メッキ膜の厚みを更に厚くするために、それぞれの実施例の無電解メッキ工程で用いたものと同様の無電解メッキ液に、メッキ部品を1時間浸漬した。浸漬後、メッキ部品を無電解メッキ液から取り出し、十分に水洗した。水洗後、レーザー描画したパターン(II)を光学顕微鏡にて観察して、上述のメッキ選択性の評価基準に従ってメッキ選択性を評価した。結果を表1に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
表1に示すように、実施例1〜8で製造したメッキ部品は、レーザー描画パターン(I)及び/又は(II)において、メッキ析出性及びメッキ選択性が共に良好であり、無電解メッキ膜が形成される部分(レーザー描画部分)と形成されない部分(非レーザー描画部分)とのコントラストが明確であった。
【0153】
また、厚膜メッキを形成した場合のメッキ選択性の評価において、実施例1で製造したメッキ部品を無電解メッキ液に1時間浸漬したところ、レーザー描画パターン(II)の描画線と描画線の間の領域、即ち、レーザー描画部分以外にも一部メッキ膜が成長した(厚膜メッキを形成した場合のメッキ選択性:△)。実施例1のメッキ部品における非レーザー描画部分は、金属を固定する化合物(次亜リン酸カルシウム)の量が少なく、無電解メッキ可能な量のパラジウムイオンは吸着し難いが、物理吸着によりわずかなパラジウムイオンが吸着したと推測される。そして、周辺部で無電解メッキ反応が活発に進行している場合、低濃度の触媒量でもメッキ反応が進行することが一般に知られている。このため、実施例1のレーザー描画パターン(II)の非レーザー描画部分では、無電解メッキ液との長時間(1時間)の接触により、無電解メッキ膜が生成したものと推測される。
【0154】
一方、実施例2、5及び6で製造したメッキ部品は、無電解メッキ液に1時間浸漬しても、レーザー描画部分以外にはメッキ膜が成長しなかった(厚膜メッキを形成した場合のメッキ選択性:○)。即ち、実施例2、5及び6では、微細なパターン(II)において、無電解メッキ膜が形成される部分(レーザー描画部分)と形成されない部分(非レーザー描画部分)とのコントラストが明確なまま、無電解メッキ膜を厚膜化することができた。この理由は、以下のように推測される。実施例2、5及び6のメッキ部品における非レーザー描画部分にも、実施例1の場合と同様に、物理吸着によりわずかにパラジウムイオンが吸着したと推測される。しかし、実施例2及び5の非レーザー描画部分では、触媒失活剤(ヨウ素、ポリマーA)により、無電解メッキ触媒が触媒能を発揮することが妨げられ、無電解メッキ液に1時間浸漬しても、メッキ反応が進行しなかったと推測される。また、実施例6では、レーザー描画前に樹脂基材を洗浄することにより、樹脂基材の最表面に存在する金属を固定する化合物(次亜リン酸カルシウム)を除去した。これにより、実施例6の非レーザー描画部分に無電解メッキ触媒が吸着できず、樹脂基材を無電解メッキ液に1時間浸漬しても、非レーザー描画部分では、メッキ反応が進行しなかったと推測される。尚、実施例6のレーザー描画部分には、レーザー描画前は基材の内部に存在していた金属を固定する化合物が基材表面に露出しているため、無電解メッキ膜が成長したと推測される。
【0155】
また、実施例7では、同じ熱可塑性樹脂(PPS)及び金属を固定する化合物(次亜リン酸カルシウム)を用いた実施例4と比較して、より少ない、樹脂基材中の次亜リン酸カルシウムの含有量で、無電解メッキ膜を形成することができた。この理由は、以下のように推測される。実施例7では、高圧混練ゾーン22の圧力を溶液Aが液体状体を維持できる高圧力に保ち、次亜リン酸カルシウムの溶解状態を維持した溶液Aと、溶融樹脂とを混合して樹脂ペレットを製造した。これにより、樹脂ペレット内の次亜リン酸カルシウムの粒子径は、1μm以下と微細であった。この樹脂ペレットを用いて製造した、実施例7の樹脂基材では、次亜リン酸カルシウムは凝集せずに均一に基材内に分布したと推測される。これにより、実施例7の樹脂基材は、次亜リン酸カルシウムの含有量が少なくとも、十分な量の無電解メッキ触媒を吸着することができ、無電解メッキの反応性が向上したと推測される。
【0156】
実施例1〜8に対して、金属を固定する化合物を含まない比較例1〜3では、基材表面に全くメッキ膜が形成されず、メッキ析出性及びメッキ選択性が共に不良であった。これは、樹脂基材が金属を固定する化合物を含まないため、レーザー描画部分であっても、無電解メッキ可能な量のパラジウムイオンが吸着しなかったためだと推測される。