特許第6802025号(P6802025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メタウォーター株式会社の特許一覧

特許6802025バルブ動作のモニタリング方法、及びバルブ動作異常予兆検知方法
<>
  • 特許6802025-バルブ動作のモニタリング方法、及びバルブ動作異常予兆検知方法 図000002
  • 特許6802025-バルブ動作のモニタリング方法、及びバルブ動作異常予兆検知方法 図000003
  • 特許6802025-バルブ動作のモニタリング方法、及びバルブ動作異常予兆検知方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802025
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】バルブ動作のモニタリング方法、及びバルブ動作異常予兆検知方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
   G05B23/02 301U
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-194577(P2016-194577)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-55636(P2018-55636A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】宗平 博史
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−180989(JP,A)
【文献】 特開2010−039714(JP,A)
【文献】 特開2014−013198(JP,A)
【文献】 特開平07−191740(JP,A)
【文献】 特開2013−061695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00−23/02
G05D 7/00− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブを含むプラント設備におけるバルブ動作のモニタリング方法であって、
磁気センサにより、前記バルブが閉状態である場合と開状態である場合とで異なる値を出力するセンシング工程と、
前記磁気センサの出力値に基づいて、前記バルブが閉状態から開状態になるまでの時間データ、及び/又は、開状態から閉状態になるまでの時間データをそれぞれ取得して蓄積する、データ蓄積工程と、
前記データ蓄積工程にて蓄積された時間データを、縦軸を時間データ、横軸をデータ番号とした二次元座標空間上でプロットするプロット工程と、
前記プロット工程で得たプロット上にて、複数のデータ点を1本又は複数本の直線で直線近似する直線近似工程と、を含み、さらに、
前記プロット工程にて、さらに、新たに取得された一つ又は複数のデータ点もプロットし、
前記直線近似工程にて、最小二乗法により、前記二次元座標空間上の全データ点を対象として1本又は複数本の直線による直線近似を行うとともに、該直線近似により得られた各直線について決定係数値を算出し、
前記直線近似工程で得られた1つ又は複数の前記決定係数値のうちの最小値が、所定の閾値以下となった場合に異常予兆として通知する、異常予兆通知工程と、を含む、
バルブ動作のモニタリング方法。
【請求項2】
前記直線近似工程にて得られた1本又は複数本の直線のうち、縦軸切片の値の絶対値が最大又は最小である少なくとも1本の直線について、バッファ領域を設定するバッファ設定工程と、
前記バッファ設定工程で設定したバッファ領域と、新たに取得された1又は複数のデータ点との位置関係に基づいて、異常予兆を検出し、そして通知する異常予兆通知工程と、を含む、請求項に記載のバルブ動作異常予兆検知方法。
【請求項3】
前記バッファ設定工程において、縦軸切片の値の絶対値が最大である直線について、最大バッファ領域を設定し、
前記異常予兆通知工程において、前記最大バッファ領域よりも縦軸座標値の絶対値が大きいデータ点が存在する場合に、異常予兆として検出及び通知する、
ことを含む、請求項に記載のバルブ動作異常予兆検知方法。
【請求項4】
前記バッファ設定工程において、縦軸切片の値の絶対値が最小である直線について、最小バッファ領域を設定し、
前記異常予兆通知工程において、前記最小バッファ領域よりも縦軸座標値の絶対値が小さいデータ点が存在する場合に、異常予兆として検出及び通知する、
ことを含む、請求項2又は3に記載のバルブ動作異常予兆検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ動作のモニタリング方法、及びバルブ動作異常予兆検知方法に関するものである。特に、本発明によるバルブ動作異常予兆検知方法は、本発明のバルブ動作のモニタリング方法を利用したバルブの異常予兆検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浄水場等に備えられる水処理プラント設備は、多数の装置が相互に連関して動作することで水処理機能を実現している。当然、これらの相互に連動する多数の装置のうちの一つに異常が生じた場合であっても、プラント設備全体が正常に機能しなくなる虞がある。そこで、実際にプラント設備の機能に異常が発生したか否かという点を診断することに加えて、異常発生つながりうる異常予兆の発生の有無を判定する技術が開発されている。
【0003】
例えば、従来、プラント設備に備えられた装置の異常予兆を診断する際のデータとして、バルブが開放動作を開始してから、バルブが完全に開いた状態になるまでの時間を用いることが記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−131729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、現在稼働している一般的な浄水場のプラント設備に含まれるバルブについては、かかるプラント設備を稼働させるための既存の制御システム上では、開閉動作がモニタリングされていない。モニタリングのための具体的な方途としては、実際に作業員が現場で一つ一つのバルブの開閉動作をウォッチングすることが想定される。しかし、このようなモニタリング方法を実現するには、当然、膨大な時間と労力がかかる。
また、特許文献1には、バルブ開放動作をモニタリングするための具体的な方途については明らかにされていない。
【0006】
そこで、本願発明は、プラント設備に含まれるバルブの動作を容易かつ高精度でモニタリング可能なモニタリング方法を提供することを目的とする。
また、本願発明は、プラント設備に備えられたバルブの動作の異常予兆を容易かつ高精度で検知することができる、バルブ動作異常予兆検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、磁気センサを含むモニタリング装置をプラント設備に含まれるバルブに対して取り付けて、各バルブの動作に関するデータを取得することで、プラント設備の運転を止めることなく、プラント設備内のバルブの動作を高精度でモニタリングすることが可能となることを見出し、本願発明を完成させた。
【0008】
すなわち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のバルブ動作のモニタリング方法は、バルブを含むプラント設備におけるバルブ動作のモニタリング方法であって、磁気センサにより、前記バルブが閉状態である場合と開状態である場合とで異なる値を出力するセンシング工程と、前記磁気センサの出力値に基づいて、前記バルブが閉状態から開状態になるまでの時間データ、及び/又は、開状態から閉状態になるまでの時間データをそれぞれ取得して蓄積する、データ蓄積工程とを含む、ことを特徴とする。このような本発明によるバルブ動作のモニタリング方法は、プラントに含まれるバルブの開閉状態をセンシングする磁気センサの出力値に基づいて、バルブの動作に関する時間データを取得して蓄積する。従って、本発明のバルブ動作のモニタリング方法によれば、プラント設備に含まれるバルブの動作を容易かつ高精度にモニタリングすることができる。
【0009】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法は、上記モニタリング方法の前記データ蓄積工程にて蓄積された時間データを、縦軸を時間データ、横軸をデータ番号とした二次元座標空間上でプロットするプロット工程を含むことを特徴とする。このように、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法にて、所定の二次元座標空間上にバルブ動作に関する時間データをプロットすることで、バルブ動作の異常予兆を容易かつ高精度で検知することができる。
【0010】
また、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法は、前記プロット工程で得たプロット上にて、複数のデータ点を1本又は複数本の直線で直線近似する直線近似工程を含むことが好ましい。かかる直線近似工程によって得られた1本又は複数本の直線を利用すれば、バルブ動作の変動パターンを容易に検出することができるので、バルブ動作の異常予兆を一層容易に検知することができる。
【0011】
さらに、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法において、前記直線近似工程にて得られた1本又は複数本の直線のうち、縦軸切片の値の絶対値が最大又は最小である少なくとも1本の直線について、バッファ領域を設定するバッファ設定工程と、前記バッファ設定工程で設定したバッファ領域と、新たに取得された1又は複数のデータ点との位置関係に基づいて、異常予兆を検出し、そして通知する異常予兆通知工程と、を含むことが好ましい。このようなバルブ動作異常予兆検知方法により、バルブ動作の異常予兆を一層容易に検知することができる。
【0012】
さらに、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法において、前記バッファ設定工程において、縦軸切片の値の絶対値が最大である直線について、最大バッファ領域を設定し、前記異常予兆通知工程において、前記最大バッファ領域よりも縦軸座標値の絶対値が大きいデータ点が存在する場合に、異常予兆として検出及び通知する、ことが好ましい。このようなバルブ動作異常予兆検知方法により、バルブの開閉時間が長くなる故障の予兆を容易に検知することができる。
【0013】
さらに、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法において、前記バッファ設定工程において、縦軸切片の値の絶対値が最小である直線について、最小バッファ領域を設定し、前記異常予兆通知工程において、前記最小バッファ領域よりも縦軸座標値の絶対値が小さいデータ点が存在する場合に、異常予兆として検出及び通知する、ことが好ましい。このようなバルブ動作異常予兆検知方法により、バルブの開閉時間が短くなる故障の予兆を容易に検知することができる。
【0014】
さらに、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法において、前記プロット工程にて、さらに、新たに取得された一つ又は複数のデータ点もプロットし、前記直線近似工程にて、最小二乗法により、前記二次元座標空間上の全データ点を対象として1本又は複数本の直線による直線近似を行うとともに、該直線近似により得られた各直線について決定係数値を算出し、前記直線近似工程で得られた1つ又は複数の前記決定係数値のうちの最小値が、所定の閾値以下となった場合に異常予兆として通知する、異常予兆通知工程と、を含むことが好ましい。このようなバルブ動作異常予兆検知方法により、バルブ動作の異常予兆検知精度を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のバルブ動作のモニタリング方法によれば、プラント設備に含まれるバルブの動作を容易かつ高精度にモニタリングすることができる。
本発明のバルブ動作異常予兆検知方法によれば、プラント設備に備えられたバルブのバルブ動作の異常予兆を、容易かつ高精度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従うバルブ動作のモニタリング方法を実施するためのモニタリング装置の概略構成を示す平面図である。
図2A】本発明に従うバルブ動作のモニタリング方法により取得しうるバルブ動作の時間データの一例(閉状態〜開状態)を示すプロットである。
図2B】本発明に従うバルブ動作のモニタリング方法により取得しうるバルブ動作の時間データの一例(開状態〜閉状態)を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。本発明のバルブ動作のモニタリング方法及びバルブ動作異常予兆検知方法は、特に限定されることなく、例えば、浄水場、化学工場、及び下水処理場等に設置された各種プラント設備に対して、適用することができる。特に、本発明のバルブ動作のモニタリング方法及びバルブ動作異常予兆検知方法は、浄水場等に設置される水処理プラント設備に含まれる複数のバルブを、好適なモニタリング対象及び動作異常予兆検知対象とすることができる。
【0018】
ここで、稼働中の各種プラント設備に備えられた制御装置は、プラント設備の目的とする処理に関する各種データは蓄積するが、かかる処理に際して、プラント設備の各構成部に対して送ったコマンド等に関するデータを含むプラント設備自体の保守に関するデータを蓄積する機能は有していないことが一般的である。従って、例えば、プラント設備に含まれるバルブのそれぞれが、何回開閉したか、各開閉にどの位のデータを要したか、ということ等については、現在稼働している一般的なプラント設備については蓄積されていないというのが現状である。しかし、稼働中のプラント設備を停止させて、プラント設備に含まれる制御装置のソフトウエアを入れ替えるためには、かかるプラントが行っていた処理を別の手段により代替させる必要があり、非常に手間がかかる。そこで、本発明者らは、稼働中のプラント設備の運転を停止することなく、さらには、稼働中のプラント設備に既に含まれる制御装置には手を入れることなく、プラント設備に含まれるバルブの開閉に関する時間データを取得することを目的として、本発明を完成させた。
【0019】
(バルブ動作のモニタリング装置)
図1は、本発明に従うバルブ動作のモニタリング方法を実施するためのモニタリング装置の一例の概略構成を示す平面図である。モニタリング装置10は、磁気センサ1、開位置磁石2A及び閉位置磁石2B、並びに制御装置3により構成されうる。さらに、モニタリング装置1は、任意で記録計4を有する。そして、モニタリング装置10は、磁気センサ1により、バルブ5に備えられた開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bにより生じる磁場を検出し、開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bのそれぞれに起因する磁場を検出した際に、異なる値を出力するセンシング工程を実施する。このようにして、モニタリング装置10は、バルブ5が開状態から閉状態へとシフトするまでに要する時間、及びバルブ5が閉状態から開状態へとシフトするまでに要する時間を計測することができる。
【0020】
磁気センサ1は、バルブ5が取り付けられた配管6に対して、アダプタ等の任意の取り付け部材を介して、或いは接着部材等を介して取り付けられうる。磁気センサ1は、バルブ5が閉状態である場合とバルブ5が開状態である場合とで異なる値を出力する。磁気センサ1は、例えば、ホールセンサにより実装されうる。そして、磁気センサ1は、バルブ5が完全に開状態となった場合にバルブ5に備えられた開位置磁石2Aから発せられる磁場の強さが所定値以上となる位置であって、バルブ5が閉状態となった場合にバルブ5に備えられた閉位置磁石2Bから発せられる磁場の強さが所定値以上となる位置に配置されうる。
【0021】
バルブ5は、特に限定されることなく、流体の流路を開閉することができる可動部を有する限りにおいて既存のあらゆるバルブでありうる。図1上、バルブ5として、可動部としてのハンドルホイールを図示する。かかるハンドルホイールは、ステム7を軸として回転運動する。そして、バルブ5は、開状態と閉状態とでハンドルホイールの向きが変化する限りにおいて特に限定されることなく、ボール弁、ゲート弁、バタフライ弁、及びダイヤフラム弁等の既存のあらゆるバルブでありうる。また、バルブの開閉のための駆動機構は、特に限定されることなく、空気圧式の駆動機構でありうる。そして、駆動機構が空気圧式である場合には、駆動機構に備えられたピストンに用いられるパッキンの劣化に起因して、バルブの開閉に異常が生じることがある。このような場合、例えば、劣化したパッキンの交換、或いは、パッキンに対してグリースを塗ることにより、バルブ開閉を正常化することが可能である。
【0022】
開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bは、それぞれ磁場を生成する。図1に示すように、開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bは、ステム7を中心として90°離間して配置されうる。好ましくは、開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bは異なる磁場を生成する。より好ましくは、開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bは、磁場の向きが異なる。例えば、開位置磁石2A及び閉位置磁石2BをS極及びN極を備える磁石によりそれぞれ形成して、ステム7を中心として、一方の磁石はS極が外側に、他方の磁石はN極が外側になるように配向させて、バルブ5に対して取り付けることができる。かかる配置によれば、開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bにより発せられる各磁場の方向が異なることとなる。よって、バルブ5が開状態にあるか閉状態にあるかに応じて、磁気センサ1により異なる向きの磁場が検出される。よって、磁気センサ1は、バルブ5が開状態にあるか、或いは閉状態にあるかということを検知することができる。なお、開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bは、特に限定されることなく、例えば、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石、及びアルニコ磁石等の既存の様々な磁石で構成することができる。磁力が強く低コストであることから、ネオジム磁石を好適に用いることができる。
【0023】
制御装置3は、有線或いは無線で、磁気センサ1と接続されうる。なお、制御装置3と磁気センサ1とが無線接続されている場合には、磁気センサ1及び制御装置3は通信部を有しうる。そして、制御装置3は、例えば、記憶部、演算部、及び周辺回路を有しうるマイコンにより実装されうる。具体的には、記憶部はメモリにより構成されうる。また、演算部は、CPU(Central Processing Unit)により構成されうる。制御装置3は、演算部により、記憶部に格納されたプログラムを読みだして、プログラム内容に沿う演算を実行しうる。かかるプログラムは、例えば、磁気センサ1が開位置磁石2Aから発せられた磁場を検出した時点から閉位置磁石2Bにより生成された磁場を検出した時点までの時間を計算するためのプログラムでありうる。
【0024】
記録計4は、有線或いは無線で、磁気センサ1と接続されうる。なお、記録計4と磁気センサ1とが無線接続されている場合には、磁気センサ1及び制御装置3は通信部を有しうる。そして、記録計4は、例えば、磁気センサ1により計測された時間データを記録するデータロガーでありうる。かかるデータロガーは、特に限定されることなく、揮発性メモリ又は不揮発性メモリにより構成されうる。好ましくは、記録計4は、不揮発性メモリにより構成されうる。不揮発性メモリであれば、通電を停止した後であっても取得したデータを保持可能であるため、再度通電してモニタリングを再開する場合に蓄積したデータを用いたモニタリングが可能となる。なお、図1では、記録計4を制御装置3とは別個の装置として図示した。しかし、必要に応じて、制御装置3が、データロギング機能を実現しうる回路を含んで構成されていても良い。
【0025】
ここで、水処理プラント等のプラント設備は、その特性上、モニタリング用の機器を取り付けるための改造のため等の目的であっても、運転を停止することが難しい。このため、稼働中のプラント設備について、運転を停止することなく、簡単にバルブ動作をモニタリングすることが重要である。この点、上述したような各構成部を備えるモニタリング装置は、既存のプラント設備への適用が容易である。例えば、磁気センサ1及び制御装置3は、共に、安価且つ小型の装置により実装可能であるとともに、プラント設備に対して外付けして設置することができる。また、開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bは、それ自体安価且つ軽量であり、さらに、対象とするプラント設備の配管が金属製である場合には、何らの取り付け部材や接着部材を介することなく、磁力により配管6に対して直接取り付けることができる。よって、モニタリング装置10を構成するこれらの構成部は、全て、既存の稼働中のプラント設備に対して、容易に外付け可能である。
【0026】
なお、ここまで、図1を参照して本発明のバルブ動作のモニタリング方法を実施可能なモニタリング装置10の概略構造の一例について説明してきた。しかし、本発明のバルブ動作のモニタリング方法を実施可能なモニタリング装置の構成は、図1にて具体的に示した構成に限定されない。例えば、図1では、モニタリング装置10は一つの磁気センサ1と、ステム7を中心として90°離間して各1つの開位置磁石2A及び閉位置磁石2Bを有し、バルブの「開閉」に関する時間データを記録する装置として図示した。しかし、本発明のバルブ動作のモニタリング方法を実施可能なモニタリング装置が、2つ以上の磁気センサ及び3つ以上の磁石を備え、これらの磁石及びセンサにより、バルブによる流体流路の分岐の切り替えを検出可能に構成することももちろん可能である。このとき、各磁石は、相互に、ステム7を中心として90°未満の角度で相互に離間して配置されうる。このとき、磁気センサも任意の間隔で配置することができる。
【0027】
また、モニタリング装置が、多数(M個)の磁石を有していても良い。この場合、多数の磁石は、ステム7を中心として、外側に配置される面がS極のものと、N極のものとがランダムに配置されるように、バルブに対して取り付けられうる。そして、モニタリング装置が、かかる多数の磁石により生成される各磁場を検出するための多数(N個)の磁気センサを有していても良い。このとき、Mは3以上、Nは2以上の自然数であり、またM>Nでありうる。かかる多数の磁石及び磁気センサを備えるモニタリング装置によれば、バルブの「開閉」のみならず、「開度」や「分岐」等も検出することができる。例えば、バルブの全周にわたり10°おきに配置された多数の磁石と、9個の磁気センサとを備えるモニタリング装置について、具体例を挙げて説明する。磁石が、バルブが設けられた配管内を流れる流体の流れ方向を上に見て12時の位置を0°として、時計回りに、S(0°)S(10°)N(20°)N(30°)N(40°)S(50°)N(60°)S(70°)S(80°)N(90°)N(100°)N(110°)N(120°)S(130°)N(140°)S(150°)S(160°、以下略)SNNNNN・・・という配置であり、9個の磁気センサが、上記12時の位置を中心の5つ目のセンサとして、左右に4個ずつ配置されているとする。この場合に、9個の磁気センサにより「SSNNNNSNS」という磁石の配列が検出されれば、110°の位置に配置された磁石が上記12時の位置に来ていることが分かる。
【0028】
さらに図1では、1つの磁気センサ及び2つの磁石に対して1つの制御装置が備えられた装置として図示した。しかし、1つの演算性能の高い制御装置が、複数の磁気センサと有線又は無線で接続されていても良い。この場合、かかる1つの高性能な制御装置が複数の磁気センサにより取得されたデータを処理することができる。
【0029】
(バルブ動作のモニタリング方法)
本発明のバルブ動作のモニタリング方法は、複数のバルブを含むプラント設備におけるバルブ動作のモニタリング方法である。本発明のバルブ動作のモニタリング方法は、上述したようなモニタリング装置を用いて実施することできる。そして、本発明のバルブ動作のモニタリング方法は、磁気センサにより、バルブが閉状態である場合と開状態である場合とで異なる値を出力するセンシング工程と、磁気センサの出力値に基づいて、バルブが閉状態から開状態になるまでの時間データ、及び/又は、開状態から閉状態になるまでの時間データをそれぞれ取得して蓄積する、データ蓄積工程とを含む。以下、図1に示すモニタリング装置を用いて、水処理プラントに本発明のモニタリング方法を適用したものとして、具体的に説明する。
【0030】
<取り付け工程>
本発明のバルブ動作のモニタリング方法は、センシング工程及びデータ蓄積工程に加えて、任意で、磁気センサ1を含むモニタリング装置10をプラント設備に含まれるバルブ5に対して取り付ける取り付け工程を含みうる。もちろん、かかる取り付け工程は、既存のプラント設備を改造する際、或いは、モニタリング装置を交換する際に行えばよい。そして、一度取り付け工程を行えば、その後の任意の期間にわたって、上述したセンシング工程及びデータ蓄積工程、並びに後述する各種工程等を繰り返し実施することができる。
【0031】
そして、モニタリング装置10のような簡易な構成のモニタリング装置は、プラント設備への設置が容易であり、設置に際して、プラント設備の運転を停止することを要さない。さらに、本発明のバルブ動作のモニタリング方法は、過度に複雑なデータ処理を伴わない。このため、本発明のモニタリング方法は、演算装置として入手容易な一般的な演算装置を使用することが可能である。よって、本発明のバルブ動作のモニタリング方法は、既存のプラント設備に対する適用性に優れる。
【0032】
<センシング工程>
センシング工程では、磁気センサ1により、バルブ5が閉状態である場合と開状態である場合とで異なる値を出力する。
【0033】
<データ蓄積工程>
ここで、データ蓄積工程は、図1を参照して説明した上述したような制御部3或いは記録計4により実現されうる。より具体的には、制御部3或いは記録計4は、有線又は無線接続を介して磁気センサ1から出力値を受信して、不揮発性メモリに記憶する。
【0034】
データ蓄積工程において、各バルブに備えられた磁気センサ1の出力値に基づいて、各バルブの開閉に要する時間のデータを取得することで、バルブの動作を高精度でモニタリングすることができる。より具体的には、開位置磁石2AがS極、閉位置磁石2BがN極である場合には、制御部3又は記録計4は、磁気センサ1がS極から発せられる磁場の強度が所定の閾値以上であることを検出してから、N極から発せられる磁場の強度が所定の閾値以上であることを検出するまでにかかる時間をバルブが開放する際に要した時間として蓄積する。磁気センサ1による磁場の変化がこの逆であった場合には、制御部3又は記録計4は、バルブが閉じる際に要した時間を蓄積する。
【0035】
例えば、モニタリング装置10によるデータの取得は、所定のデータ取得期間にわたって連続的に実施することができる。例えば、一つのデータ取得期間を30秒間とした場合には、モニタリング装置10は、その30秒間以内にバルブの開動作及び/又は閉動作が何回生じたか、及び生じた各開動作及び/又は各閉動作の時間を記録計4に記録する。なお、記録計4は、揮発性メモリ及び不揮発性メモリを有し、揮発性メモリに各開動作及び各閉動作を記録し、30秒間のデータ取得期間が終了した時点でその期間内に記録した全て開動作のうちの最大時間、及びその期間内に記録した全て閉動作のうちの最大時間を不揮発性メモリに記憶するように構成されていても良い。そして、このようなモニタリング方法を用いた簡易的な異常予兆検知方法では、かかる最大時間が更新された場合に、異常予兆として検出し、通知することができる。
【0036】
このようなデータ蓄積工程は、上述したような取り付け工程の後の一定期間にわたって実施することができる。データ蓄積工程を実施する時間は、本発明によるモニタリング方法を適用するプラントの運転態様に従って任意に決定することができる。そして、かかるデータ蓄積工程を実施して、バルブの開閉に関する時間データを所定量以上蓄積してから、後述するバルブ動作異常予兆検知方法に活用することで、異常予兆精度を顕著に向上させることができる。
【0037】
(バルブ動作異常予兆検知方法)
本発明のバルブ動作異常予兆検知方法は、上述したデータ蓄積工程にて蓄積された時間データを、縦軸を時間データ、横軸をデータ番号とした二次元座標空間上でプロットするプロット工程を含む。さらに、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法は、プロットした時間データを解析するための各種解析工程として、直線近似工程やバッファ設定工程を含みうる。そして、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法は、これらの各種解析工程の結果を受けて異常予兆を通知する異常予兆通知工程を含みうる。以下、各工程について説明する。
【0038】
<プロット工程>
プロット工程では、データ蓄積工程にて蓄積されたバルブ開閉に関する時間データをプロットして、図2A及び図2Bに示すようなプロットを得る。より具体的には、バルブ開閉に要した時間を縦軸に、取得されたデータ点のデータ番号を横軸に設定して、プロットする。ここで、「データ点のデータ番号」とは、モニタリング装置10により取得されたバルブ開閉に関する時間データを、取得した時系列に沿って並べた際のデータ番号である。ここで、図2Aに示すプロットでは、縦軸をマイナス値として示し、図2Bに示すプロットでは、縦軸をプラス値として示す。これは、本例にて、開動作に要する時間と、閉動作に要する時間とを明確に区別可能とするためにこのような表記としたにすぎず、実際に要した時間は、図2Aについては縦軸の絶対値に相当する時間である。
【0039】
ここで、図2Aを参照すると、バルブの開動作、即ち、バルブが閉状態から開状態になるまでに要する時間は、大まかに3つのグループに層別しうることがわかる。また、図2Bを参照すると、バルブの閉動作、即ち、バルブが開状態から閉状態になるまでに要する時間は、大まかに2つのグループに層別しうることが分かる。バルブの開閉動作に要する時間がこれらのような傾向をとることの原因は明らかでないが、可能性のある原因としては、バルブが設置された配管内での水圧パターンの変動が挙げられる。従って、バルブの設置環境に応じて、得られたデータが層別されうるグループの数は変動しうる。
【0040】
バルブに異常が生じる可能性が高くなった時には、そのようなバルブの設置環境に応じた水圧パターンの変動の範疇からは外れたデータが取得されると考えられる。かかる状況を上記図2Aに例示したパターンにあてはめて説明すると、以下の通りになる。例えば、図2Aに例示した3つのグループのうちでもっとも縦軸の絶対値が大きいデータグループよりも、更に絶対値が大きいデータ点が新たに取得された場合には、バルブの開動作又は閉動作に要する時間が長くなったことを意味する。反対に、図2Aに例示した3つのグループのうちでもっとも縦軸の絶対値が小さいデータグループよりも絶対値が更に小さいデータ点が新たに取得された場合には、バルブの開閉動作に要する時間が短くなったことを意味する。そして、バルブの開閉動作に要する時間が変化したことの原因が、バルブが設置された配管内の水圧の変化ではなく、バルブ自体にある場合には、バルブの可動機構に異常が生じる虞があることを意味する。よって、本発明者らは、これらのデータ傾向から、以下に詳述するような、各種解析工程が、異常予兆の検出に有益でありうることを見出した。以下、2パターンの解析工程の流れについて具体的に説明する。
【0041】
<解析パターン1>
[直線近似工程]
直線近似工程では、プロット工程で得たプロット上にて、複数のデータ点を1本又は複数本の直線で直線近似する。直線近似の具体的な方法としては特に限定されることなく、最小二乗法や主成分分析法を用いることができる。本発明に係るバルブ動作異常予兆検知方法にて、上記特定の二次元座標空間上にプロットした時間データに対して、直線近似工程を行うことで、異常予兆検知の対象とするバルブの動作パターンを正確に把握することができるので、バルブ動作の異常予兆を一層容易に検出することができる。
【0042】
[バッファ設定工程]
バッファ設定工程では、直線近似工程にて得られた1本又は複数本の直線のうち、縦軸切片の値の絶対値が最大又は最小である少なくとも1本の直線について、バッファ領域を設定する。バッファ領域の幅は、直線近似工程で得られた複数本の直線の相互間の距離や、時間データのばらつきに応じて、任意に決定することができる。バッファ設定工程では、例えば、縦軸切片の値の絶対値が最大である直線について、最大バッファ領域を設定することができる。或いは、バッファ設定工程では、例えば、縦軸切片の値の絶対値が最小である直線について、最小バッファ領域を設定することができる。このようなバッファ設定工程を実施することで、新たに得られたデータ点が異常予兆に相当するか否かを容易に判定することができるようになり、結果的に、異常予兆の検知が容易となる。
【0043】
なお、バッファ設定工程では、上述したような最大バッファ領域及び最小バッファ領域だけではなく、例えば、プロット工程にて図2Aに示すようなプロットが得られている場合には、縦軸切片の値の絶対値が最大値と最小値の間に入る値である直線についても、第3バッファ領域を設定することができる。そして、例えば、最大バッファ領域、最小バッファ領域に加えて、第3バッファ領域も設定した場合には、後述の異常予兆検知工程にて、新たに取得された1又は複数のデータ点が、何れのバッファ領域にも属さない場合に、バルブ動作異常予兆が生じたと判定し、異常予兆として検出及び通知することができる。
【0044】
[異常予兆通知工程]
そして、異常予兆通知工程では、バッファ設定工程で設定したバッファ領域と、新たに取得された1又は複数のデータ点との位置関係に基づいて、異常予兆を検出し、そして通知する。より具体的には、最大バッファ領域よりも縦軸座標値の絶対値が大きいデータ点が存在する場合には、異常予兆として検出及び通知しうる。これにより、バルブの可動機構の動きが悪くなり、バルブ開閉に係る動きが鈍くなるような態様の故障の予兆の検出精度を向上させることができる。或いは、最小バッファ領域よりも縦軸座標値の絶対値が小さいデータ点が存在する場合に、異常予兆として検出及び通知しうる。これにより、バルブの可動機構が緩み、過剰に高速にバルブが切り替わるような態様の故障の予兆の検出精度を向上させることができる。
【0045】
さらに、バッファ領域と新たに取得されたデータ点との位置関係に基づいて異常予兆を検出するにあたり、例えば、バッファ領域の輪郭とデータ点との間の最短距離を計測することで、異常の程度を判定することができる。このように、異常予兆の有無に加えて、生じた異常予兆の程度の情報を取得することで、生じうる異常の大きさを予測し、必要とされる措置がどのようなものであるかの判断に生かすことができる。
【0046】
そして、異常予兆の通知方法としては特に限定されることなく、バルブ付近に設置したランプを点灯させる、或いはバルブとは別途の場所に設けられた電光掲示板等に異常予兆が検知されたバルブのIDを表示する等の明示的な通知方法が挙げられる。
【0047】
なお、通知された異常予兆の情報を参照した作業員らは、かかる異常予兆情報に基づいて、任意で措置をすることができる。例えば、作業員らは、バルブの可動機構を駆動するための駆動機構に備えられたパッキン等の部品をメンテナンスし、或いは交換することで、異常発生を阻止又は遅延させることができる。
【0048】
<解析パターン2>
解析パターン2では、まず、プロット工程にて、データ蓄積工程にて蓄積された時間データに加えて、さらに、新たに取得された一つ又は複数のデータ点も同じ座標空間上にプロットする。そして、直線近似工程にて、特に、直線近似方法として最小二乗法を採用する。かかる最小二乗法による直線近似により、二次元座標空間上の全データ点を対象として1本又は複数本の直線による直線近似を行うとともに、該直線近似により得られた各直線について決定係数値を算出する。そして、異常予兆通知工程にて、直線近似工程で得られた1つ又は複数の決定係数値のうちの最小値が、所定の閾値以下となった場合に異常予兆として通知する。かかる異常予兆検知方法によれば、既に取得済みの複数のデータ点により得られているバルブ開閉パターンから外れたデータ点が取得された場合に、異常予兆として検出することができるため、一層高精度にバルブ動作の異常予兆を検出することができる。
【0049】
さらに、このような、解析パターン2に係る解析は、必要に応じて、解析パターン1と並行して実行することが可能である。解析パターン1及び2を並行実施する場合には、異常予兆通知工程では、解析パターン1又は2で異常予兆が検知された場合に異常予兆として通知する。この場合、異常予兆通知頻度は高くなるが、その分、当然、異常予兆を看過するリスクは低減することはできる。
【0050】
なお、ここまで、上述した各工程は、プラント設備に含まれる複数のバルブの一つ一つに備えられた制御装置により実施されてもよいし、各バルブに備えられた磁気センサにより取得されたデータを一括して処理可能な演算機能を有する、演算装置により実施されても良い。かかる演算装置は、特に限定されることなく、例えば、サーバを通じて各種データを取得可能なPC(Personal Computer)等でありうる。
【0051】
また、本発明のバルブ動作異常予兆検知方法においては、特に限定されることなく、異常予兆通知工程にて異常予兆が検出された回数のデータを蓄積し、異常予兆を通知する際に、直近で生じた異常予兆が、そのバルブについて何度目の異常予兆であるかという情報を併せて通知しても良い。これにより、例えば、異常予兆が検出されたバルブの劣化の程度等を把握することが可能となる。さらには、異常予兆通知工程において、前回異常予兆を検出してからの経過時間を併せて通知しても良い。このような情報を、例えば、異常予兆が検知されたバルブについて必要な措置の緊急性や程度等の判断に活かすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のバルブ動作のモニタリング方法によれば、プラント設備に含まれるバルブの動作を容易かつ高精度にモニタリングすることができる。
本発明のバルブ動作異常予兆検知方法によれば、プラント設備に備えられたバルブの動作の異常予兆を、容易かつ高精度に検知することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 磁気センサ
2A 開位置磁石
2B 閉位置磁石
3 制御装置
4 記録計
5 バルブ
6 配管
7 ステム
10 モニタリング装置
図1
図2A
図2B