【文献】
上野浩,加工能率を支援する工作機械の知能化技術,2013年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,日本,公益社団法人精密工学会,2014年 2月28日,A20,pp.27−28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1加工情報画面作成部は、前記加工関連情報としての、切削能率に係る情報、使用する工具の寿命に係る情報、使用する工具が寿命に至るまでに切削可能な全切削量に係る情報、及び主軸モータに作用する負荷に係る情報から選択される一以上の情報を取得し、取得した各選択情報に関する線図を表示するための、該各選択情報に対応した一以上の表示画面データを作成するように構成されるとともに、
前記表示制御部は、前記安定限界線図及び前記各選択情報に関する線図を相互に重ね合わせた状態で前記表示装置の表示用画面に表示させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の加工状態表示装置。
前記安定限界画面作成部によって取得された前記第1相関データ、及び前記第1加工情報画面作成部によって取得された加工関連情報を基に、又は、前記安定限界画面作成部によって作成された安定限界線図の表示画面データ、及び前記第1加工情報画面作成部によって作成された加工関連情報の表示画面データを基に、前記限界切り込み深さで加工したときの前記主軸回転速度と前記加工関連情報との相関に係る第2相関データを取得し、取得した第2相関データを基に、前記主軸回転速度と前記加工関連情報との相関に係る線図を表示するための表示画面データを作成する第2加工情報画面作成部を更に備え、
前記表示制御部は、更に、前記第2加工情報画面作成部によって作成された表示画面データを基に、前記主軸回転速度と加工関連情報との相関線図を前記表示装置の表示用画面に表示させるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の加工状態表示装置。
使用する工具の諸元に応じて、主軸回転速度と再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さとの相関に係る第1相関データを取得し、取得した第1相関データを基に、前記主軸回転速度と限界切り込み深さとの相関線図である安定限界線図を表示するための表示画面データを作成する安定限界画面作成部と、
設定された加工条件に応じた、前記再生びびり以外の加工関連情報を取得し、取得した加工関連情報に関する線図を表示するための表示画面データを作成する第1加工情報画面作成部と、
前記安定限界画面作成部及び前記第1加工情報画面作成部によってそれぞれ作成された表示画面データを基に、前記安定限界線図及び前記加工関連情報に関する線図を相互に重ね合わせた状態で表示装置の表示用画面に表示させる表示制御部として、
コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
前記第1加工情報画面作成部は、前記加工関連情報としての、切削能率に係る情報、使用する工具の寿命に係る情報、使用する工具が寿命に至るまでに切削可能な全切削量に係る情報、及び主軸モータに作用する負荷に係る情報から選択される一以上の情報を取得し、取得した各選択情報に関する線図を表示するための、該各選択情報に対応した一以上の表示画面データを作成するように機能するとともに、
前記表示制御部は、前記安定限界線図及び前記各選択情報に関する線図を相互に重ね合わせた状態で前記表示装置の表示用画面に表示させるように機能することを特徴とする請求項4記載のコンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、適切な加工条件を設定するためには、上述したように、加工効率、加工コスト及び加工精度に関係する各要素について、これらを総合的に判断する必要がある。
【0009】
ところが、上記従来の表示装置では、主軸回転速度と、再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さとの相関を表す安定限界線図しか表示されないため、加工効率,加工コスト及び加工精度に関係する要素であって、再生びびり以外の他の要素の評価については、オペレータの経験的な知見に頼らざるを得ず、このため、上述した総合的な判断の見地からすると、安定限界線図のみからでは、必ずしも適切な加工条件を設定することができないという問題があった。他方、このような状況下においても適切な加工条件を設定する必要があるが、そのためには、前記加工効率、加工コスト及び加工精度に関する他の要素についても十分に検討する時間が必要であるため、当該加工条件を迅速には設定することができない。
【0010】
したがって、前記安定限界線図に加えて、これ以外の、前記加工効率、加工コスト及び加工精度に関係する他の要素の情報(加工関連情報)について、これを画面表示することができれば、オペレータは表示された情報から適切な加工条件を迅速に把握することができ、極めて便利である。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、前記安定限界線図に加えて、これ以外の加工関連情報を表示することが可能な加工状態表示装置等の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、
表示用の画面を有する表示装置と、
使用する工具の諸元に応じて、主軸回転速度と再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さとの相関に係る第1相関データを取得し、取得した第1相関データを基に、前記主軸回転速度と限界切り込み深さとの相関線図である安定限界線図を表示するための表示画面データを作成する安定限界画面作成部と、
設定された加工条件に応じた、前記再生びびり以外の加工関連情報を取得し、取得した加工関連情報
に関する線図を表示するための表示画面データを作成する第1加工情報画面作成部と、
前記安定限界画面作成部及び前記第1加工情報画面作成部によってそれぞれ作成された表示画面データを基に、前記安定限界線図及び前記加工関連情報
に関する線図を相互に
重ね合わせた状態、即ち、重畳した状態で前記表示装置の表示用画面に表示させる表示制御部とを設けて構成した加工状態表示装置に係る。
【0013】
この加工状態表示装置によれば、まず、安定限界画面作成部において、使用する工具の諸元に応じて、主軸回転速度と再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さとの相関に係る第1相関データが取得され、取得された第1相関データを基に、前記主軸回転速度と限界切り込み深さとの相関線図である安定限界線図を表示するための表示画面データが作成され、また、第1加工情報画面作成部において、設定された加工条件に応じて、前記再生びびり以外の加工関連情報
に関する線図を表示するための表示画面データが作成される。
【0014】
そして、前記表示制御部により、前記安定限界画面作成部及び第1加工情報画面作成部によってそれぞれ作成された表示画面データを基に、前記安定限界線図及び加工関連情報
に関する線図が相互に重畳した状態で前記表示装置の表示用画面に表示される。
【0015】
ここで、前記加工関連情報は、前記加工効率、加工コスト及び加工精度に関係する情報であって、再生びびり以外の情報である。
【0016】
斯くして、この加工状態表示装置によれば、安定限界線図及び加工関連情報
に関する線図が相互に重畳された状態で表示されるので、オペレータはこれらの情報を見ることで、安定限界線図及びこれ以外の加工関連情報を総合的に判断した良好な加工条件を迅速に認識することができる。
【0017】
尚、この加工状態表示装置において、前記第1加工情報画面作成部は、前記加工関連情報としての、切削能率に係る情報、使用する工具の寿命に係る情報、使用する工具が寿命に至るまでに切削可能な全切削量に係る情報、及び主軸モータに作用する負荷に係る情報から選択される一以上の情報を取得し、取得した各選択情報
に関する線図を表示するための、各選択情報に対応した一以上の表示画面データを作成するように構成されるとともに、前記表示制御部は、前記安定限界線図及び前記各選択情報
に関する線図を相互に重畳した状態で前記表示装置の表示用画面に表示させるように構成されていても良い。
【0018】
このように構成すれば、切削能率に係る情報、使用する工具の寿命に係る情報、使用する工具が寿命に至るまでに切削可能な全切削量に係る情報、及び主軸モータに作用する負荷に係る情報から選択される一以上の情報
に関する線図と、前記安定限界線図が相互に重畳した状態で前記表示装置の表示用画面に表示されるので、オペレータはこれらの情報を見ることで、前記安定限界線図及び前記選択された加工情報を総合的に判断した良好な加工条件を迅速に認識することができる。
【0019】
また、本発明に係る加工状態表示装置は、
前記安定限界画面作成部によって取得された前記第1相関データ、及び前記第1加工情報画面作成部によって取得された加工関連情報を基に、又は、前記安定限界画面作成部によって作成された安定限界線図の表示画面データ、及び前記第1加工情報画面作成部によって作成された加工関連情報の表示画面データを基に、前記限界切り込み深さで加工したときの前記主軸回転速度と前記加工関連情報との相関に係る第2相関データを取得し、取得した第2相関データを基に、前記主軸回転速度と前記加工関連情報との相関に係る線図を表示するための表示画面データを作成する第2加工情報画面作成部を更に備え、
前記表示制御部は、更に、前記第2加工情報画面作成部によって作成された表示画面データを基に、前記主軸回転速度と加工関連情報との相関線図を前記表示装置の表示用画面に表示させるように構成されていても良い。
【0020】
このように構成すれば、第2加工情報画面作成部により、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度と加工関連情報との相関線図を表示するための表示画面データが作成されるとともに、表示制御部によって、前記表示装置の表示用画面に、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度と加工関連情報との相関線図が表示される。この相関線図は、例えば、主軸回転速度と切削能率との相関線図、主軸回転速度と工具が寿命に至るまでに切削可能な全切削量との相関線図、主軸回転速度と主軸モータに作用する負荷との相関線図等であり、オペレータはこれらの相関線図を見ることで、再生びびりが生じない範囲で、どの主軸回転速度のときに、最も好ましい加工状態を得ることができるかを、瞬時に視覚的に、言い換えれば、直観的に認識することができる。
【0021】
例えば、主軸回転速度と切削能率との相関線図を見れば、再生びびりが生じない範囲で、どの主軸回転速度のときに、最も切削能率の高い加工を実現できるかを直感的に認識することができる。また、主軸回転速度と全切削量との相関線図を見れば、再生びびりが生じない範囲で、どの主軸回転速度のときに、加工効率と工具コストとのバランスがとれた加工を実現できるかを直感的に認識することができる。
【0022】
また、上述した本発明に係る加工状態表示装置は、ディスプレイを備えたコンピュータによってこれを実現することができ、この場合、前記安定限界画面作成部、加工情報画面作成部及び表示制御部は、それぞれ前記コンピュータ上で動作するコンピュータプログラムによって実現される。そして、このようなコンピュータプログラムは、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に適宜記憶させることができ、かかる記録媒体から前記コンピュータプログラムを適宜コンピュータに読み取らせて、当該コンピュータ上で動作させることにより、当該コンピュータが前記加工状態表示装置として機能する。
【0023】
或いは、前記コンピュータプログラムは、これを供給する適宜サーバから、インターネット等の適宜ネットワークを介して、適宜コンピュータにダウンロードすることができ、当該コンピュータプログラムをダウンロードしたコンピュータにおいて、当該コンピュータプログラムを動作させることで、当該コンピュータが前記加工状態表示装置として機能する。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明に係る加工状態表示装置等によれば、安定限界線図及び加工関連情報
に関する線図が相互に
重ね合わされた状態(重畳
された状態
)で表示されるので、オペレータはこれらの情報を見ることで、安定限界線図及びこれ以外の加工関連情報を総合的に判断した良好な加工条件を迅速に認識することができる。
【0025】
また、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度と加工関連情報との相関線図が表示されるので、オペレータはこの相関線図を見ることで、再生びびりが生じない範囲で、どの主軸回転速度のときに、最も好ましい加工状態を得ることができるかを直観的に認識することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る加工状態表示装置を示したブロック図である。
【0028】
図1に示すように、本例の加工状態表示装置1は、安定限界画面作成部3,第1加工情報画面作成部4,工具情報記憶部5,ワーク情報記憶部6,寿命係数記憶部7,モータ負荷情報記憶部8,第2加工情報画面作成部9,表示制御部10及び入力制御部11を有する演算装置2の他、表示装置12及び入力装置13を備えて構成される。
【0029】
尚、前記演算装置2は工作機械の制御装置に組み込むことができ、また、前記表示装置12は工作機械の操作盤に設けられるディスプレイ、前記入力装置13は同じく工作機械の操作盤に設けられるキーボードや適宜入出力インターフェースから構成することができる。或いは、前記表示装置12及び入力装置13は、同じく工作機械の操作盤に設けられるタッチパネルから構成することができる。
【0030】
また、前記演算装置2は、外部装置としてディスプレイを備えたコンピュータから構成することもできる。この場合、前記入力装置13は、コンピュータに設けられるキーボードや適宜入出力インターフェース等から構成され、前記表示装置12は外部装置としてのディスプレイから構成される。
【0031】
このように、演算装置2は、工作機械の制御装置やコンピュータ等により具現化することができるが、前記工具情報記憶部5,ワーク情報記憶部6,寿命係数記憶部7及びモータ負荷情報記憶部8は、前記制御装置やコンピュータに設けられるRAMやハードディスクなどの読み書き可能な記録媒体から構成され、前記安定限界画面作成部3,第1加工情報画面作成部4,第2加工情報画面作成部9,表示制御部10及び入力制御部11は、前記制御装置やコンピュータ上で動作するコンピュータプログラムから構成される。
【0032】
そして、このコンピュータプログラムは、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に適宜記憶させることができ、かかる記録媒体から前記コンピュータプログラムを前記制御装置やコンピュータに読み取らせて、当該制御装置やコンピュータ上で動作させることにより、当該制御装置やコンピュータが演算装置2として機能する。
【0033】
或いは、前記コンピュータプログラムは、これを供給する適宜サーバから、インターネット等の適宜ネットワークを介して、前記制御装置やコンピュータにダウンロードすることができ、当該コンピュータプログラムをダウンロードした制御装置やコンピュータにおいて、当該コンピュータプログラムを動作させることで、当該制御装置やコンピュータが演算装置2として機能する。
【0034】
また、前記工具情報記憶部5,ワーク情報記憶部6,寿命係数記憶部7及びモータ負荷情報記憶部8には、それぞれ前記入力装置13を介して必要な情報(データ)が入力され、記憶される。
【0036】
前記工具情報記憶部5は、工作機械で使用される工具に関する情報を記憶する機能部であり、具体的には、エンドミルやフライスといった工具の種類、CBNや窒化チタンコーティングといった工具の材質、工具の刃数、工具径D[mm]、工具の固有振動数ω(ω
x,ω
y)[rad/sec]、工具の減衰比ζ(ζ
x,ζ
y)[%]、工具の等価質量m(m
x,m
y)[kg]に係る情報が前記入力装置13から入力され、例えば、
図2に示すようなデータテーブルとして当該工具情報記憶部5に格納される。尚、工具の材質iは符号化して記憶されており、例えば、
図2において、「1」は窒化チタンコーティングを意味し、「2」は炭化チタンコーティングを意味し、「3」はCBNを意味する。また、工具の固有振動数,減衰比及び等価質量については、当該工具について予め試加工等により測定されたデータが格納される。
【0037】
前記ワーク情報記憶部6は、工作機械で加工されるワークに関する情報を記憶する機能部であり、具体的には、ワークの材質jに応じた、主分力の比切削抵抗K
tj[N/m
2]、及び主分力と背分力の比K
rj[%]が予め試加工等によって測定され、得られたデータが前記入力装置13を介し、
図3に示すようなデータテーブルとして当該ワーク情報記憶部6に格納される。尚、工具の材質jは符号化して記憶されており、例えば、
図3において、「1」はFC150を意味し、「2」はFC250を意味し、「3」はS45Cを意味し、「4」はS60Cを意味する。
【0038】
前記寿命係数記憶部7は、工具材質i、ワーク材質j及び摩耗限界hに応じた寿命係数n
i,j,h及び寿命係数C
i,j,hを記憶する機能部であり、前記入力装置13から入力され、例えば、
図4及び
図5に示すようなデータテーブルとして当該寿命係数記憶部7に格納される。
【0039】
尚、摩耗限界hは刃先の後退量を表すもので、
図4及び
図5では、これらが符号化されており、例えば、「1」は0.3mmを意味し、「2」は0.4mmを意味し、「3」は0.5mmを意味している。
【0040】
また、寿命係数n
i,j,h及びC
i,j,hは工具寿命t[min]を算出するための係数であり、工具寿命tは以下の一般式(数式1)によって算出される。但し、Vは切削速度[m/min]である。
(数式1)
t
n=C/V
ここで、n=n
i,j,h、C=C
i,j,hである。
【0041】
前記モータ負荷情報記憶部8は、主軸モータに作用する負荷の限界と、主軸回転速度n[min
-1]及び切り込み深さa
p[mm]との相関に係る情報(モータ負荷情報)を記憶する機能部であり、このモータ負荷情報が前記入力装置13から入力され、当該モータ負荷情報記憶部8に記憶される。尚、負荷限界として、本例では、連続定格、15分定格及び25%EDを設定している。連続定格は所定時間連続運転可能なモータ出力を意味し、15分定格は15分連続運転可能なモータ出力を意味し、25%EDはモータの稼働時間のち25%が運転時間で、75%が停止時間であることを意味する。
【0042】
前記安定限界画面作成部3は、使用する工具の諸元に応じて、主軸回転速度と再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さとの相関に係る第1相関データを取得(算出)し、算出した第1相関データを基に、前記主軸回転速度と限界切り込み深さとの相関線図である安定限界線図を表示するための表示画面データを作成する機能部である。尚、本例の安定限界線図は、所謂、安定ポケット理論に従った線図である。
【0043】
まず、主軸回転速度と再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さとの相関に係る第1相関データの算出、即ち、安定限界線図を作成するための基本的な原理について説明する。
図16に示したモデルは、工具TとワークWとをx軸及びy軸の2つの送り軸方向に相対移動させるように構成された2自由度系の物理モデルである。このモデルから、再生びびり振動の発生する条件を、Y・Altintasの考案した解析方法を用いて求める。
【0044】
このモデルにおいて、工具Tの運動方程式は、それぞれ以下の数式2及び数式3で表わされる。
【0045】
(数式2)
x"+2ζ
xω
xx'+ω
x2x=F
x/m
x
(数式3)
y"+2ζ
yω
yy'+ω
y2y=F
y/m
y
ここで、ω
xは工具Tのx軸方向の固有振動数[rad/sec]、ω
yは工具Tのy軸方向の固有振動数[rad/sec]であり、ζ
xはx軸方向(送り方向)の減衰比[%]、ζ
yはy軸方向(切り込み方向)の減衰比[%]である。また、m
xはx軸方向の等価質量[kg]、m
yはy軸方向の等価質量[kg]であり、F
xは工具Tに作用するx軸方向の切削動力[N]であり、F
yは工具Tに作用するy軸方向の切削動力[N]である。また、x"及びy"はそれぞれ時間の2階微分を示し、x'及びy'はそれぞれ時間の1階微分を示す。
【0046】
切削動力F
x,F
yは、切れ刃がワークWを切り取る厚さをh(φ)[m
2]、切り込み深さをa
p[mm]、主分力の比切削抵抗をK
t[N/m
2]、主分力と背分力の比をK
r[%]とすると、次式数式4及び数式5によって算出することができる。
(数式4)
F
x=−K
ta
ph(φ)cos(φ)−K
rK
ta
ph(φ)sin(φ)
(数式5)
F
y=+K
ta
ph(φ)sin(φ)−K
rK
ta
ph(φ)cos(φ)
【0047】
切削動力F
x,F
yは、工具Tの回転角φ[rad]によって変化するので、切削を開始する角度φ
stと切削を終了する角度φ
exとの間で切削動力F
x,F
yを積分し、その平均を求めることによって得られる。また、角度φ
st及び角度φ
exは、工具Tの直径D[mm]、切り込み幅Ae[mm]、送り方向、アッパーカットかダウンカットかによって幾何学的に求めることができる。
【0048】
上記数式2及び数式3に係る固有値Λは、びびり振動の振動数をω
cとすると、次式数式6によって表される。
(数式6)
Λ=−(a
1±(a
12−4a
0)
1/2)/2a
0
但し、
a
0=Φ
xx(iω
c)Φ
yy(iω
c)(α
xxα
yy−α
xyα
yx)
a
1=α
xxΦ
xx(iω
c)+α
yyΦ
yy(iω
c)
Φ
xx(iω
c)=1/(m
x(−ω
c2+2iζ
xω
cω
x+ω
x2))
Φ
yy(iω
c)=1/(m
y(−ω
c2+2iζ
yω
cω
y+ω
y2))
α
xx=[(cos2φ
ex−2K
rφ
ex+K
rsin2φ
ex)−(cos2φ
st−2K
rφ
st+K
rsin2φ
st)]/2
α
xy=[(−sin2φ
ex−2φ
ex+K
rcos2φ
ex)−(−sin2φ
st−2φ
st+K
rcos2φ
st)]/2
α
yx=[(−sin2φ
ex+2φ
ex+K
rcos2φ
ex)−(−sin2φ
st+2φ
st+K
rcos2φ
st)]/2
α
yy=[(−cos2φ
ex−2K
rφ
ex−K
rsin2φ
ex)−(cos2φ
st−2K
rφ
st−K
rsin2φ
st)]/2
【0049】
そして、前記固有値Λの実部をΛ
R、虚部をΛ
Iとすると、安定限界における切り込み深さa
plim、及び主軸の回転速度n
limは、それぞれ次の数式7及び数式8によって表される。
(数式7)
a
plim=2πΛ
R(1+(Λ
I/Λ
R)
2)/(NK
t)
(数式8)
n
lim=60ω
c/(N(2kπ+π−2tan
-1(Λ
I/Λ
R)))
但し、Nは工具Tの刃数、kは整数である。
【0050】
そして、上記数式7及び数式8を用い、そのω
c及びkの値を任意に変化させながらそのときの限界切り込み深さa
plim、及び主軸の回転速度n
limを算出することで、安定限界曲線を作成することができる。
【0051】
斯くして、前記固有振動数ω
x,ω
y、主分力の比切削抵抗K
t、主分力と背分力の比K
r、減衰比ζ
x,ζ
y及び等価質量m
x,m
yを基に、上記数式6に従って、固有値Λの実部Λ
R、及び虚部をΛ
Iを算出し、ついで、数式7及び数式8を用いて、そのω
c及びkの値を任意に変化させながらそのときの限界切り込み深さa
plim、及び主軸の回転速度n
limを算出することで、安定限界曲線を作成することができる。
【0052】
具体的には、前記安定限界画面作成部3は、前記入力装置13から入力される処理開始信号を受信して処理を開始する。そして、オペレータが入力する工具情報(例えば、上記工具番号)及びワーク情報(例えば、上述したワーク材質に係る)を基に、前記工具情報記憶部5に格納された情報から該当する工具番号の刃数、工具径D、固有振動数ω
x,ω
y、減衰比ζ
x,ζ
y及び等価質量m
x,m
yに係るデータを読み出すとともに、前記ワーク情報記憶部に格納された情報から該当するワーク材質に応じた主分力の比切削抵抗K
t及び主分力と背分力の比K
rに係るデータを読み出す。
【0053】
そして、安定限界画面作成部3は、読み出した刃数、工具径D、固有振動数ω
x,ω
y、主分力の比切削抵抗K
t、主分力と背分力の比K
r、減衰比ζ
x,ζ
y及び等価質量m
x,m
yを基に、上記数式6に従って、固有値Λの実部Λ
R、及び虚部をΛ
Iを算出し、ついで、数式7及び数式8を用いて、そのω
c及びkの値を任意に変化させながらそのときの限界切り込み深さa
plim、及び主軸の回転速度n
limを算出、即ち、限界切り込み深さa
plimと主軸回転速度n
limとの相関に係る第1相関データを算出して、主軸回転速度n
limと再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さa
plimとの相関線図である安定限界線図を表示するための表示画面データを作成する。
【0054】
尚、前記工具情報記憶部5に格納される減衰比ζ
x及びζ
yは、工具Tのx軸方向の固有振動数をω
x、y軸方向の固有振動数をω
yとすると、例えば、次の数式9及び数式10によって算出することができる。
(数式9)
ζ
x=(ω
1x−ω
2x)/2ω
x
(数式10)
ζ
y=(ω
1y−ω
2y)/2ω
y
但し、ω
1x,ω
1y及びω
2x,ω
2yは、
図17に示すように、x軸方向及びy軸方向の各コンプライアンス(変位(=出力)/切削動力(=入力))の最大値がG
x及びG
yであるときに、G
x/2
1/2,G
y/2
1/2に相当する振動数であり、コンプライアンスが最大値G
x,G
yをとるときの振動数が、当該工具Tの固有振動数ω
x,ω
yである。
【0055】
また、等価質量はm
x、m
yは次の数式11及び数式12によって算出することができる。
(数式11)
m
x=1/(2G
xζ
xω
x2)
(数式12)
m
y=1/(2G
yζ
yω
y2)
【0056】
前記第1加工情報画面作成部4は、切削能率に係る情報、使用する工具の寿命に係る情報、使用する工具が寿命に至るまでに切削可能な全切削量に係る情報、及び主軸モータに作用する負荷情報を表示するための表示画面データを作成する機能部であり、前記入力装置13から入力される処理開始信号を受信して処理を開始し、前記入力装置13から入力される選択信号に応じて、前記各情報の中から選択された情報について、これを表示するための表示画面データを作成する。
【0057】
具体的には、例えば、前記切削能率については、前記入力装置13を介して入力される、工具の一刃当たりの送り量f[mm]及び工具の切り込み幅Ae[mm]を基に、次式数式13に従って、主軸回転速度n[min
-1]及び切り込み深さa
p[mm]に応じた切削能率E[cc/min]を算出(取得)すると共に、その線図を表示するための表示画面データを作成する。尚、この切削能率は前記安定限界画面作成部3で作成された安定限界線図に係る工具と同じ工具に関するものであり、下記の工具の刃数については、前記工具情報記憶部5から読み出される。
(数式13)
E=f×Ae×(工具の刃数)×n×a
p
【0058】
また、工具寿命についても、前記安定限界画面作成部3で作成された安定限界線図に係る工具と同じ工具に関するものであり、第1加工情報画面作成部4は、その際に、前記入力装置13を介して入力された工具番号を基に、前記工具情報記憶部5に格納された情報から該当する工具番号の材質iに関する情報を取得するとともに、取得した工具材質i及び前記入力装置13から入力されたワーク材質jに係る情報、更に、これらに追加して前記入力装置13から入力される摩耗限界hに係る情報を基に、前記寿命係数記憶部7に格納された情報から該当する寿命係数n
i,j,h,C
i,j,hを読み出し、上述した数式1に従って、所定の主軸回転速度で加工した場合の当該工具の寿命t[min]を算出(取得)するとともに、得られた寿命tと主軸回転速度nとの関係を表示するための表示画面データを作成する。
【0059】
尚、数式1中の切削速度V[m/min]は、該当する工具(番号)の工具径D[mm]及び主軸回転速度n[min
-1]によって算出される。因みに、計算式は以下となる。
(数式14)
V=π×D×n/1000
【0060】
また、工具が寿命に至るまでに切削可能な全切削量C
v[cc]については、前記第1加工情報画面作成部4は、前記数式13に従って切削能率E[cc/min]を算出(取得)するとともに、前記数式1に従って寿命t[min]を算出(取得)し、得られた切削能率E及び寿命tを基に、下式数式15に従って、主軸回転速度n[min
-1]及び切り込み深さa
p[mm]と全切削量C
v[cc]との相関を示す線図を作成すると共に、これを表示するための表示画面データを作成する。
(数式15)
C
v=E×t
【0061】
尚、切削能率E[cc/min]を算出するための、工具の一刃当たりの送り量f[mm]、及び工具の切り込み幅Ae[mm]については、上記と同様に、前記入力装置13を介して入力される。また、工具刃数については、前記安定限界画面作成部3で安定限界線図を作成する際に入力された工具番号を基に、前記工具情報記憶部5から読み出される。また、工具寿命tを算出するための寿命係数n
i,j,h,C
i,j,hは、当該工具番号を基に前記工具情報記憶部5から取得される当該工具の材質iに関する情報、及び前記入力装置13から入力されたワーク材質jに係る情報、並びに同じく前記入力装置13から入力される摩耗限界hに係る情報を基に、前記寿命係数記憶部7に格納された情報から読み出される。また、切削速度V[m/min]は、当該工具(番号)の工具径D[mm]及び主軸回転速度n[min
-1]を基に上記数式14に従って算出される。
【0062】
また、主軸モータの負荷に係る情報について、前記第1加工情報画面作成部4は、前記モータ負荷情報記憶部8に格納された情報を参照(取得)して、主軸モータに作用する負荷限界と、主軸回転速度n[min
-1]及び切り込み深さa
p[mm]との相関を示す線図を作成すると共に、これを表示するための表示画面データを作成する。尚、本例では、負荷限界として、連続定格、15分定格及び25%EDを設定している。
【0063】
前記第2加工情報画面作成部9は、前記安定限界画面作成部3によって取得された前記第1相関データ、及び前記第1加工情報画面作成部4によって取得された加工関連情報を基に、前記限界切り込み深さで加工したときの前記主軸回転速度と前記加工関連情報との相関に係る第2相関データを取得(算出)し、取得した第2相関データを基に、前記主軸回転速度と前記加工関連情報との相関に係る線図を表示するための表示画面データを作成する機能部である。
【0064】
前記表示制御部10は、前記安定限界画面作成部3及び前記第1加工情報画面作成部4によってそれぞれ作成された表示画面データを基に、前記安定限界画面作成部3によって作成された前記安定限界線図に係る表示画面と、前記第1加工情報画面作成部4によって作成された前記加工関連情報
の線図に係る表示画面を相互に
重ね合わせた状態、即ち、重畳した状態で前記表示装置12の表示用画面に表示させる処理、並びに、前記第2加工情報画面作成部によって作成された表示画面データを基に、前記主軸回転速度と加工関連情報との相関線図を前記表示装置12の表示用画面に表示させる処理を行う。
【0065】
また、前記入力制御部11は前記入力装置13からの入力を制御し、入力装置13から入力されたデータを前記安定限界画面作成部3,第1加工情報画面作成部4,工具情報記憶部5,ワーク情報記憶部6,寿命情報記憶部7及びモータ負荷情報記憶部8にそれぞれ送信する処理を行う。
【0066】
以上の構成を備えた本例の加工状態表示装置1によれば、前記入力装置13から処理開始信号が入力されたとき、前記安定限界画面作成部3及び第1加工情報画面作成部4によってそれぞれ表示画面データを作成する処理が開始される。
【0067】
そして、前記安定限界画面作成部3は、前記入力装置13から更に入力される工具番号及びワーク材質に関する情報を基に、前記工具情報記憶部5に格納された情報から該当する工具番号の刃数、工具径D、固有振動数ω
x,ω
y、減衰比ζ
x,ζ
y及び等価質量m
x,m
yに係るデータを読み出すとともに、前記ワーク情報記憶部に格納された情報から該当するワーク材質に応じた主分力の比切削抵抗K
t及び主分力と背分力の比K
rに係るデータを読み出し、読み出した刃数、工具径D、固有振動数ω
x,ω
y、主分力の比切削抵抗K
t、主分力と背分力の比K
r、減衰比ζ
x,ζ
y及び等価質量m
x,m
yを基に、上記数式6に従って、固有値Λの実部Λ
R、及び虚部をΛ
Iを算出し、ついで、数式7及び数式8を用いて、そのω
c及びkの値を任意に変化させながらそのときの限界切り込み深さa
plim、及び主軸の回転速度n
limを算出、即ち、限界切り込み深さa
plimと主軸回転速度n
limとの相関に係る第1相関データを算出して、主軸回転速度n
limと再生びびりを生じる工具の限界切り込み深さa
plimとの相関線図である安定限界線図を表示するための表示画面データを作成する。
【0068】
一方、前記第1加工情報画面作成部4は、前記入力装置13を介して選択される一以上の情報について、それを表示するための表示画面データを作成する。作成可能な表示画面データは、切削能率Eに係る表示画面データ、工具寿命tに係る表示画面データ、全切削量C
vに係る表示画面データ、及び主軸モータの負荷に係る表示画面データであり、第1加工情報画面作成部4は、前記入力装置13を介してオペレータが選択する一以上の情報について、その表示画面データを作成する。
【0069】
その際、切削能率Eに係る表示画面データを作成する場合には、前記入力装置13から工具の一刃当たりの送り量f及び工具の切り込み幅Aeが入力され、また、工具寿命tに係る表示画面データを作成する場合には、前記入力装置13から摩耗限界hが入力され、更に、全切削量C
vに係る表示画面を作成する際にも、必要に応じて、工具の一刃当たりの送り量f、工具の切り込み幅Ae及び摩耗限界hが前記入力装置13から入力される。
【0070】
そして、前記安定限界画面作成部3及び第1加工情報画面作成部4によってそれぞれ表示画面データが作成されると、この表示画面データが前記表示制御部10に送信され、この表示制御部10によって、各表示画面が相互に重畳された状態で、前記表示装置12の表示用画面に表示される。
【0071】
このようにして、前記表示装置12の表示用画面に表示される画面の例を
図6〜
図15に示す。尚、
図6〜
図15の表示画面は、オペレータが適宜選択することによって、それぞれ表示装置12に表示される。
【0072】
図6は、安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)と切削能率に係る線図とを相互に重畳して表示したものである。尚、切削能率は、50[cc/min]の切削能率が得られる主軸回転速度と切り込み深さとの関係を細い実線で示し、同様に、切削能率が100[cc/min]の場合を細い破線で示し、150[cc/min]の場合を細い一点鎖線で示し、200[cc/min]の場合を細い二点鎖線で示し、250[cc/min]の場合を細い点線で示している。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりが生じない範囲内(太い実線で示す波形の線図より下側の領域内)において、最も切削能率が高くなる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0073】
図7は、
図6に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)及び切削能率に係る線図に加えて、工具寿命に係る線図を重畳して表示したものである。尚、工具寿命に係る線図は、工具寿命が30[min]、20[min]、10[min]となる各主軸回転速度に対応した位置に縦線をそれぞれ配置するとともに、対応する縦線の近傍にそれぞれ工具寿命に係る数値を配置した構成を有する。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりと切削能率と工具寿命との相関を認識することができ、例えば、再生びびりが生じない範囲内において、適度な工具寿命が得られ、しかも良好な切削能率が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0074】
図8は、
図7と同様に、
図6に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)及び切削能率に係る線図
を重畳して表示するとともに、これに加えて、工具寿命と主軸回転速度との関係を示す表を
横並びで表示したものである。この表示画面によっても、オペレータは再生びびりと切削能率と工具寿命との相関を認識することができ、例えば、再生びびりが生じない範囲内において、適度な工具寿命が得られ、しかも良好な切削能率が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを認識することができる。
【0075】
図9は、
図6に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)及び切削能率に係る線図に加えて、主軸モータに作用する負荷限界と主軸回転速度及び切り込み深さとの相関を示す線図を重畳して表示したものである。尚、主軸モータに作用する負荷を連続定格とした場合の主軸回転速度と切り込み深さとの関係を太い実線で示し、同様に、15分定格とした場合を太い破線で示し、25%EDとした場合を太い一点鎖線で示している。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりと切削能率と主軸モータの負荷との相関を認識することができ、例えば、再生びびりが生じない範囲、且つ主軸モータの負荷状態が所定の状態(例えば連続定格以下となる状態)となる範囲内で、良好な切削能率が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0076】
図10は、
図7に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)、切削能率に係る線図、及び工具寿命に係る線図に加えて、主軸モータに作用する負荷限界と主軸回転速度及び切り込み深さとの相関を示す線図を重畳して表示したものである。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりと切削能率と工具寿命と主軸モータの負荷との相関を認識することができ、再生びびりが生じない範囲、且つ主軸モータの負荷状態が所定の状態(例えば連続定格以下となる状態)となる範囲内において、適度な工具寿命が得られ、しかもより良好な切削能率が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0077】
例えば、切り込み深さを10[mm]に設定して加工を行うとした場合に、オペレータは表示された安定限界線図を見ることで、切り込み深さを10[mm]に設定した状態で安定して加工を行うことができる主軸回転速度が、1500[min
-1]、1720[min
-1]、又は2000[min
-1]付近のいずれかであることを認識することができる。しかしながら、オペレータは、これらの主軸回転速度のうち、どの主軸回転速度が最も適したものであるかを、この安定限界線図だけからでは認識することができない。
【0078】
そこで、オペレータは、同
図10に重畳表示された、切削能率と主軸回転速度及び切り込み深さとの相関を示す線図、工具寿命と主軸回転速度との相関を示す線図、並びに主軸モータに作用する負荷限界と主軸回転速度及び切り込み深さとの相関を示す線図を基に、最適な主軸回転速度を認識する。
【0079】
即ち、例えば、オペレータは、まず、モータ負荷が連続定格(太い実線)を越えないような主軸回転速度に絞り込む。具体的には、上記のようにして選定された主軸回転速度のうち、2000[min
-1]は連続定格を越えているので、これを排除して1500[min
-1]及び1720[min
-1]の主軸回転速度を選出する。
【0080】
次に、オペレータは、切削能率及び工具寿命に係る線図を基に、その適否を比較考量し、切削能率及び工具寿命の面から最も適していると判断される主軸回転速度を決定する。例えば、切削能率の面から見ると、主軸回転速度が1500[min
-1]の場合の切削能率は145[cc/min]であり、主軸回転速度が1720[min
-1]の場合の切削能率は170[cc/min]である。一方、工具寿命の面から見ると、主軸回転速度が1500[min
-1]の場合の工具寿命は35[min]であり、主軸回転速度が1720[min
-1]の場合の工具寿命は20[min]である。この結果から、オペレータは、切削能率を重視するのでれば、最適な主軸回転速度として1720[min
-1]を選定し、一方、工具寿命を重視するのであれば、最適な主軸回転速度として1500[min
-1]を選定する。
【0081】
以上のようにして、オペレータは、
図10に示した線図から、自身が想定した加工条件において、最適な主軸回転速度を認識することができる。
【0082】
また、
図11は、安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)と全切削量に係る線図とを相互に重畳して表示したものである。尚、全切削量は、1000[cc]の全切削量が得られる主軸回転速度と切り込み深さとの関係を細い実線で示し、同様に、全切削量が2000[cc]の場合を細い破線で示し、3000[cc]の場合を細い一点鎖線で示し、4000[cc]の場合を細い二点鎖線で示し、5000[cc]の場合を細い点線で示している。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりが生じない範囲内で、良好な全切削量が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0083】
図12は、
図11に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)及び全切削量に係る線図に加えて、工具寿命に係る線図を重畳して表示したものである。工具寿命に係る線図は、
図7に示したものと同様に、工具寿命が30[min]、20[min]、10[min]となる各主軸回転速度に対応した位置に縦線をそれぞれ配置するとともに、対応する縦線の近傍にそれぞれ工具寿命に係る数値を配置した構成を有する。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりと全切削量と工具寿命との相関を認識することができ、例えば、再生びびりが生じない範囲内において、適度な工具寿命が得られ、しかも良好な全切削量が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0084】
図13は、
図12と同様に、
図11に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)及び全切削量に係る線図
を重畳して表示するとともに、これに加えて、工具寿命と主軸回転速度との関係を示す表を
横並びで表示したものである。この表示画面によっても、オペレータは再生びびりと全切削量と工具寿命との相関を認識することができ、例えば、再生びびりが生じない範囲内において、適度な工具寿命が得られ、しかも良好な全切削量が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを認識することができる。
【0085】
図14は、
図11に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)及び全切削量に係る線図に加えて、主軸モータに作用する負荷限界と主軸回転速度及び切り込み深さとの相関を示す線図を重畳して表示したものである。尚、主軸モータに作用する負荷を連続定格とした場合の主軸回転速度と切り込み深さとの関係を太い実線で示し、同様に、15分定格とした場合を太い破線で示し、25%EDとした場合を太い一点鎖線で示している。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりと全切削量と主軸モータの負荷との相関を認識することができ、例えば、再生びびりが生じない範囲、且つ主軸モータの負荷状態が所定の状態(例えば連続定格以下となる状態)となる範囲内で、良好な全切削量が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0086】
図15は、
図11に示した安定限界線図(太い実線で示す波形の線図)、全切削量に係る線図、及び工具寿命に係る線図に加えて、主軸モータに作用する負荷限界と主軸回転速度及び切り込み深さとの相関を示す線図を重畳して表示したものである。オペレータはこの表示画面を見ることで、再生びびりと全切削量と工具寿命と主軸モータの負荷との相関を認識することができ、再生びびりが生じない範囲、且つ主軸モータの負荷状態が所定の状態(例えば連続定格以下となる状態)となる範囲内において、適度な工具寿命が得られ、しかもより良好な切削能率が得られる主軸回転速度と切り込み深さとを迅速に認識することができる。
【0087】
以上のように、本例の加工状態表示装置1によれば、安定限界線図、並びに、これ以外の切削能率、全切削量、工具寿命及び主軸モータの負荷に係る加工関連情報が重畳された状態で表示されるので、オペレータはこれらの情報を視認することで、安定限界線図及び表示された加工関連情報を総合的に判断した良好な加工条件を迅速に認識することができる。また、オペレータは、表示画面から把握される加工状態に、自身が持つ知見を加えてより総合的な判断行うことで、加工効率、加工コスト及び加工精度をより総合的に判断したより良好な加工条件の設定が可能となる。
【0088】
また、前記第2加工情報画面作成部9により、前記安定限界画面作成部3によって取得された前記第1相関データ、及び前記第1加工情報画面作成部4によって取得された加工関連情報を基に、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度と加工関連情報との相関に係る第2相関データが算出され、算出された第2相関データを基に、主軸回転速度と加工関連情報との相関に係る線図を表示するための表示画面データが作成される。そして、第2加工情報画面作成部9によって表示画面データが作成されると、この表示画面データが前記表示制御部10に送信され、主軸回転速度と加工関連情報との相関に係る線図が、表示制御部10による制御の下で前記表示装置12の表示用画面に表示される。
【0089】
このようにして、前記表示装置12に表示される、主軸回転速度と加工関連情報との相関線図の例を
図18及び
図19に示す。尚、
図18及び
図19の表示画面も、オペレータが適宜選択することによって、それぞれ表示装置12に表示される。
【0090】
図18は、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度[min
-1]と切削能率[cc/min]との相関を示す線図であり、上述した
図6において、各主軸回転速度における限界切り込み深さ時の切削能率を算出することで、当該相関に係る第2相関データを算出することができる。例えば、
図6において、主軸回転速度が1500[min
-1]であるときの限界切り込み深さ時の切削能率は150[cc]であり、また、主軸回転速度が1600[min
-1]であるときの限界切り込み深さ時の切削能率は100[cc]である。第2加工情報画面作成部9は、このようにして、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度と切削能率との相関に係る第2相関データを算出し、算出した第2相関データを基に、
図18に示すような、相関線図に係る表示画面データを作成する。
【0091】
また、
図19は、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度[min
-1]と全切削量[cc]との相関を示す線図であり、上述した
図11において、各主軸回転速度における限界切り込み深さ時の全切削量を算出することで、当該相関に係る第2相関データを算出することができる。例えば、
図11において、主軸回転速度が1600[min
-1]であるときの限界切り込み深さ時の全切削量は2800[cc]であり、また、主軸回転速度が1700[min
-1]であるときの限界切り込み深さ時の全切削量は3800[cc]である。第2加工情報画面作成部9は、このようにして、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度と全切削量との相関に係る第2相関データを算出し、算出した第2相関データを基に、
図19に示すような、相関線図に係る表示画面データを作成する。
【0092】
斯くして、表示装置12の表示用画面に表示される、限界切り込み深さで加工したときの主軸回転速度と加工関連情報との相関線図を見ることで、オペレータは、再生びびりが生じない範囲で、どの主軸回転速度のときに、最も好ましい加工状態を得ることができるかを、直観的に認識することができる。
【0093】
例えば、
図18に示すような、主軸回転速度と切削能率との相関線図を見れば、オペレータは、再生びびりが生じない範囲で、どの主軸回転速度のときに、最も切削能率の高い加工を実現できるかを直感的に認識することができる。また、
図19に示すような、主軸回転速度と全切削量との相関線図を見れば、オペレータは、再生びびりが生じない範囲で、どの主軸回転速度のときに、加工効率と工具コストとのバランスがとれた加工を実現できるかを直感的に認識することができる。
【0094】
以上、本発明の具体的な実施の形態について説明したが、本発明が採り得る態様は何らこれに限定されるものではない。
【0095】
例えば、上例では、
図6−
図15に示した表示画面を例示したが、表示画面の態様は何らこれに限定されるものではなく、他の表示態様であっても良い。表示される情報も更に他の情報を表示するようにしても良く、また、
図6−
図10において、更に全切削量に係る情報を表示するようにしても良く、或いは、
図11−
図15において、更に切削能率に係る情報を表示するようにしても良い。
【0096】
また、本例では、安定限界画面作成部3が作成する安定限界線図を、所謂、安定ポケット理論に従った線図としたが、これに限られるものではなく、
図20に示すように、安定ポケット理論に従った線図に、プロセスダンピングを考慮した線図を加えた安定限界線図としても良い。安定ポケット理論に従った安定限界線図は、主軸回転速度が比較的高速の領域に適合しており、一方、主軸回転速度が比較的低速の領域では、プロセスダンピングと言われる振動抑制作用が発現されるため、この低速領域では、プロセスダンピングを考慮した安定限界線図が適合するからである。このようなプロセスダンピングを考慮した安定限界線図によれば、主軸回転速度の低速領域から高速領域に至る全領域において、適正な安定限界を示すことができる。
【0097】
このプロセスダンピングを考慮した線図部分は、例えば、以下の算出式によって算出することができる。但し、a
plim'はプロセスダンピングを考慮した限界切り込み深さ[mm]、a
plimは安定理論に従った限界切り込み深さ[mm]、n
limは主軸の回転速度[min
-1]、n
asは臨界主軸回転速度[min
-1]である。臨界主軸回転速度は、主軸回転速度がそれ以下であれば、いかなる切込深さでもびびりが生じない、臨界となる主軸回転速度を意味する。
(数式16)
a
plim'=a
plim/(1−(n
as/n
lim))
【0098】
尚、
図20は、
図6に対応するもので、
図6に示した安定限界線図に代えて、プロセスダンピングを考慮した安定限界線図を適用している。同様に、
図7〜
図15において、安定ポケット理論に従った安定限界線図に代えて、プロセスダンピングを考慮した安定限界線図を適用することができる。
【0099】
また、前記第2加工情報画面作成部9は、前記安定限界画面作成部3によって作成された安定限界線図の表示画面データ、及び前記第1加工情報画面作成部4によって作成された加工関連情報の表示画面データを基に、前記第2相関データを算出するようにしても良い。前記第2相関データは、これらの表示画面データからも算出することができる。