【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構エネルギー・環境新技術先導プログラム/超高性能バルク熱電材料(ZT20以上)の創製、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願の熱電変換材料積層体は、非晶質相を含む組織構造を有する第1の熱電変換材料からなり、第1主面を有する第1薄帯と、第1薄帯の第1主面上に積層して配置され、非晶質相を含む組織構造を有する第2の熱電変換材料からなる第2薄帯と、を備える。
【0012】
本願の熱電変換材料積層体を構成する第1薄帯および第2薄帯は、非晶質相を含む組織構造を有する。これにより、第1薄帯および第2薄帯においては、フォノン散乱が抑制されて熱伝導率が小さくなることにより、熱電変換特性が向上する。そして、本願の熱電変換材料積層体は、熱電変換特性に優れる第1薄帯と第2薄帯とが積層された構造を有する。このように、熱電変換材料からなる複数の薄帯が積層されることにより、所望の厚みを有する熱電変換材料積層体を得ることができる。厚みを調整可能であることにより、熱電変換材料積層体を広く種々の熱電変換素子に適用することができる。このように、本願の熱電変換材料積層体によれば、広く種々の熱電変換素子に適用することが可能な熱電変換特性に優れた熱電変換材料積層体を提供することができる。
【0013】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料と第2の熱電変換材料とは同一材料であってもよい。このようにすることにより、上記熱電変換材料積層体を、同一材料からなる薄帯の積層体とすることができる。
【0014】
上記熱電変換材料積層体において、第1薄帯および第2薄帯の厚みは、それぞれ3μm以上30μm以下であってもよい。薄帯の厚みを3μm以上とすることにより、一定の厚みの薄帯を安定して作製することが容易となる。薄帯の厚みを10μm以下とすることにより、薄帯作製時の冷却速度を十分なものとすることが容易となる。
【0015】
上記熱電変換材料積層体において、第1薄帯と第2薄帯とは直接接合されていてもよい。このようにすることにより、熱電変換材料積層体を、厚みの大きい熱電変換材料として取り扱うことが可能となる。
【0016】
上記熱電変換材料積層体において、第1薄帯と第2薄帯とは、樹脂層を介して接合されていてもよい。このようにすることにより、熱電変換材料積層体を容易に作製することができる。また、樹脂層を構成する樹脂として絶縁性樹脂を採用することにより、積層方向において隣り合う薄帯間が絶縁された状態、すなわち複数の薄帯が電気的に並列に配置された状態を容易に実現することができる。
【0017】
上記熱電変換材料積層体において、第1薄帯と第2薄帯とは、導電性接着剤により接合されていてもよい。このようにすることにより、熱電変換材料積層体を容易に作製することができる。また、積層方向において隣り合う薄帯間が電気的に接続された状態、すなわち複数の薄帯が厚み方向に電気的に直列に配置された状態を容易に実現することができる。
【0018】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料は、Mn(マンガン)と、Si(珪素)と、を含み、Mn
XSi
Yの組成式で表されるものであってもよい。この組成式において、0.90≦X≦1.10以下および0.75≦Y≦5.70が満たされてもよい。
【0019】
本発明者らの検討によれば、Mn−Si系材料において、組織構造を、非晶質相を含むものとすることにより、熱伝導率を大幅に低減できる。また、上記XおよびYの範囲の成分組成を採用することにより、非晶質相の形成が比較的容易となる。その結果、熱伝導率をさらに抑制し、熱電変換特性を向上させることができる。
【0020】
上記組成式において、Xは0.95以上であってもよい。また、上記組成式において、Xは1.05以下であってもよい。さらに、上記組成式において、Yは1.50以上であってもよい。また、上記組成式において、Yは2.33以下であってもよい。
【0021】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料は、Al(アルミニウム)、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Ge(ゲルマニウム)およびSn(スズ)からなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(Mn
αFe
βCr
γ)
X(Si
δGe
εSn
ζ)
YAl
Zの組成式で表されるものであってもよい。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされてもよい。さらに、この組成式において、0.00≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70およびY≧0.43Zが満たされてもよい。
【0022】
上記熱電変換材料において、Al、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が添加されても、同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このとき、FeおよびCrについては、これらの元素でMnを置換するように添加される。具体的には上記α、βおよびγの範囲および関係が満たされるようにFeおよびCrの少なくとも一方が添加されてもよい。また、GeおよびSnについては、これらの元素でSiを置換するように添加される。具体的には、上記δ、εおよびζの範囲および関係が満たされるようにGeおよびSnの少なくとも一方が添加されてもよい。Alについては、上記Zの範囲において添加されてもよい。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0023】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料は、少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(Mn
αFe
βCr
γ)
X(Si
δGe
εSn
ζ)
YAl
Zの組成式で表されるものであってもよい。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされてもよい。さらに、この組成式において、0.25≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70および1.00Z≦Y≦5.00Zが満たされてもよい。
【0024】
上記熱電変換材料において、少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が添加されても、同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このとき、FeおよびCrについては、これらの元素でMnを置換するように添加される。具体的には上記α、βおよびγの範囲および関係が満たされるようにFeおよびCrの少なくとも一方が添加されてもよい。また、GeおよびSnについては、これらの元素でSiを置換するように添加される。具体的には、上記δ、εおよびζの範囲および関係が満たされるようにGeおよびSnの少なくとも一方が添加されてもよい。Alについては、上記Zの範囲において添加されてもよい。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0025】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料の組織構造は、粒径が25nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいてもよい。このようにすることにより、熱伝導率の上昇をわずかな範囲に留めつつ、ゼーベック係数を増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。ゼーベック係数をより有効に増大させる観点から、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料の組織構造は、粒径が5nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいてもよい。
【0026】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料は、Cu(銅)、P(リン)およびAu(金)からなる群から選択される一種以上の元素を30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。このようにすることにより、ナノ結晶相を構成する結晶の粒径を抑制することが容易となる。上記熱電変換材料は、上記追加的添加元素を0.01at%以上の割合で含んでいてもよい。上記熱電変換材料は、上記追加的添加元素を10at%以下の割合で含んでいてもよく、1at%以下の割合で含んでいてもよい。
【0027】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料は、O(酸素)を0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。適量のOが導入されることにより、組織構造中に高いポテンシャルバリアとして機能する酸化物相が適量形成される。これにより、キャリアの閉じ込め効果が得られる。その結果、量子効果によりゼーベック係数が上昇し、無次元性能指数を増大させることができる。上記熱電変換材料は、Oを10at%以下の割合で含んでいてもよく、1at%以下の割合で含んでいてもよい。
【0028】
上記熱電変換材料積層体において、第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料の融点は570℃以上950℃以下であってもよい。融点をこのような範囲とすることにより、非晶質相を形成することが容易となる。
【0029】
本願の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。熱電変換材料部は、導電型がp型またはn型となるように第1の熱電変換材料および第2の熱電変換材料の成分組成が調整された上記熱電変換材料積層体からなる。
【0030】
本願の熱電変換素子は、熱電変換材料部が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記広く種々の熱電変換素子に適用可能な熱電変換特性に優れた熱電変換材料積層体からなる。そのため、本願の熱電変換素子によれば、変換効率に優れた熱電交換素子を容易に提供することができる。
【0031】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明にかかる熱電変換材料積層体および熱電変換素子の一実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0032】
(実施の形態1)
図1を参照して、実施の形態1における熱電変換材料積層体90は、10枚の薄帯が積層された構造を有する。具体的には、熱電変換材料積層体90は、第1薄帯51と、第2薄帯52と、第3薄帯53と、第4薄帯54と、第5薄帯55と、第6薄帯56と、第7薄帯57と、第8薄帯58と、第9薄帯59と、第10薄帯60とを備える。
【0033】
第1薄帯51は、一方の主面51Aと他方の主面51Bとを有する。第2薄帯52は、一方の主面52Aと他方の主面52Bとを有する。第3薄帯53は、一方の主面53Aと他方の主面53Bとを有する。第4薄帯54は、一方の主面54Aと他方の主面54Bとを有する。第5薄帯55は、一方の主面55Aと他方の主面55Bとを有する。第6薄帯56は、一方の主面56Aと他方の主面56Bとを有する。第7薄帯57は、一方の主面57Aと他方の主面57Bとを有する。第8薄帯58は、一方の主面58Aと他方の主面58Bとを有する。第9薄帯59は、一方の主面59Aと他方の主面59Bとを有する。第10薄帯60は、一方の主面60Aと他方の主面60Bとを有する。
【0034】
第2薄帯52の他方の主面52Bと第1薄帯51の一方の主面51Aとが接触するように、第2薄帯52は第1薄帯51の一方の主面51A上に積層して配置される。第3薄帯53の他方の主面53Bと第2薄帯52の一方の主面52Aとが接触するように、第3薄帯53は第2薄帯52の一方の主面52A上に積層して配置される。第4薄帯54の他方の主面54Bと第3薄帯53の一方の主面53Aとが接触するように、第4薄帯54は第3薄帯53の一方の主面53A上に積層して配置される。第5薄帯55の他方の主面55Bと第4薄帯54の一方の主面54Aとが接触するように、第5薄帯55は第4薄帯54の一方の主面54A上に積層して配置される。第6薄帯56の他方の主面56Bと第5薄帯55の一方の主面55Aとが接触するように、第6薄帯56は第5薄帯55の一方の主面55A上に積層して配置される。第7薄帯57の他方の主面57Bと第6薄帯56の一方の主面56Aとが接触するように、第7薄帯57は第6薄帯56の一方の主面56A上に積層して配置される。第8薄帯58の他方の主面58Bと第7薄帯57の一方の主面57Aとが接触するように、第8薄帯58は第7薄帯57の一方の主面57A上に積層して配置される。第9薄帯59の他方の主面59Bと第8薄帯58の一方の主面58Aとが接触するように、第9薄帯59は第8薄帯58の一方の主面58A上に積層して配置される。第10薄帯60の他方の主面60Bと第9薄帯59の一方の主面59Aとが接触するように、第10薄帯60は第9薄帯59の一方の主面59A上に積層して配置される。
【0035】
第1薄帯51と第2薄帯52とは直接接合されている。第2薄帯52と第3薄帯53とは直接接合されている。第3薄帯53と第4薄帯54とは直接接合されている。第4薄帯54と第5薄帯55とは直接接合されている。第5薄帯55と第6薄帯56とは直接接合されている。第6薄帯56と第7薄帯57とは直接接合されている。第7薄帯57と第8薄帯58とは直接接合されている。第8薄帯58と第9薄帯59とは直接接合されている。第9薄帯59と第10薄帯60とは直接接合されている。
【0036】
第1薄帯51は、第1の熱電変換材料からなる。第2薄帯52は、第2の熱電変換材料からなる。第3薄帯53は、第3の熱電変換材料からなる。第4薄帯54は、第4の熱電変換材料からなる。第5薄帯55は、第5の熱電変換材料からなる。第6薄帯56は、第6の熱電変換材料からなる。第7薄帯57は、第7の熱電変換材料からなる。第8薄帯58は、第8の熱電変換材料からなる。第9薄帯59は、第9の熱電変換材料からなる。第10薄帯60は、第10の熱電変換材料からなる。第1の熱電変換材料、第2の熱電変換材料、第3の熱電変換材料、第4の熱電変換材料、第5の熱電変換材料、第6の熱電変換材料、第7の熱電変換材料、第8の熱電変換材料、第9の熱電変換材料および第10の熱電変換材料は、いずれも非晶質相を含む組織構造を有する。
【0037】
本実施の形態において、第1の熱電変換材料、第2の熱電変換材料、第3の熱電変換材料、第4の熱電変換材料、第5の熱電変換材料、第6の熱電変換材料、第7の熱電変換材料、第8の熱電変換材料、第9の熱電変換材料および第10の熱電変換材料は、同一材料である。また、第1薄帯51、第2薄帯52、第3薄帯53、第4薄帯54、第5薄帯55、第6薄帯56、第7薄帯57、第8薄帯58、第9薄帯59および第10薄帯60の厚みは、それぞれ3μm以上30μm以下である。
【0038】
本実施の形態の熱電変換材料積層体90を構成する薄帯51〜60は、非晶質相を含む組織構造を有する。これにより、薄帯51〜60においては、フォノン散乱が抑制されて熱伝導率が小さくなることにより、熱電変換特性が向上する。そして、本実施の形態の熱電変換材料積層体90は、熱電変換特性に優れる薄帯51〜60が積層された構造を有する。このように、熱電変換材料からなる薄帯51〜60が積層されることにより、所望の厚みを有する熱電変換材料積層体90を得ることが可能となっている。また、厚みを調整可能であることにより、熱電変換材料積層体90は、広く種々の熱電変換素子に適用することが可能となっている。このように、本実施の形態の熱電変換材料積層体90は、熱電変換特性に優れ、かつ広く種々の熱電変換素子に適用することが可能となっている。
【0039】
また、熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料は同一材料である。これにより、熱電変換材料積層体90は、同一材料からなる熱電変換材料薄帯の積層体となっている。
【0040】
さらに、熱電変換材料積層体90において、薄帯51〜60の厚みは、それぞれ3μm以上30μm以下となっている。これにより、一定の厚みの薄帯51〜60を安定して作製することを容易としつつ、薄帯51〜60の作製時の冷却速度を十分なものとすることが容易となっている。
【0041】
また、熱電変換材料積層体90において、隣り合う各薄帯51〜60同士は直接接合されている。これにより、熱電変換材料積層体90は、厚みの大きい熱電変換材料として取り扱うことが可能となっている。
【0042】
実施の形態1の熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料は、Mnと、Siと、を含み、Mn
XSi
Yの組成式で表される。この組成式において0.90≦X≦1.10以下および0.75≦Y≦5.70が満たされる。Mn−Si系材料において、組織構造を、非晶質相を含むものとすることにより、熱伝導率を大幅に低減できる。また、上記XおよびYの範囲の成分組成を採用することにより、非晶質相の形成が比較的容易となる。その結果、熱伝導率をさらに抑制し、熱電変換特性を向上させることが可能となっている。
【0043】
上記組成式において、0.95≦X≦1.05が満たされることが好ましい。また、上記組成式において、1.50≦Y≦2.33が満たされることが好ましい。
【0044】
実施の形態1の熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料は、Al、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(Mn
αFe
βCr
γ)
X(Si
δGe
εSn
ζ)
YAl
Zの組成式で表されるものであってもよい。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされてもよい。さらに、この組成式において、0.00≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70およびY≧0.43Zが満たされてもよい。
【0045】
第1〜第10の熱電変換材料において、Al、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が添加されても、同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0046】
実施の形態1の熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料は、少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素をさらに含み、(Mn
αFe
βCr
γ)
X(Si
δGe
εSn
ζ)
YAl
Zの組成式で表されるものであってもよい。この組成式において、0.40≦α≦1.00、0.00≦β≦0.30、0.00≦γ≦0.30、0.50≦δ≦1.00、0.00≦ε≦0.50、0.00≦ζ≦0.10、α+β+γ=1およびδ+ε+ζ=1が満たされてもよい。さらに、この組成式において、0.25≦Z≦3.67、1.50≦Y+Z≦5.70および1.00Z≦Y≦5.00Zが満たされてもよい。
【0047】
第1〜第10の熱電変換材料において、少なくともAlを含むAl、Fe、Cr、GeおよびSnからなる群から選択される一種以上の元素が添加されても、同様の効果を奏する熱電変換材料が得られる。このような追加的元素が添加されることにより、非晶質相の形成が一層容易となる。
【0048】
実施の形態1の熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料の組織構造は、粒径が25nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいることが好ましい。これにより、熱伝導率の上昇をわずかな範囲に留めつつ、ゼーベック係数を増大させることができる。その結果、無次元性能指数が上昇し、熱電変換材料の熱電変換特性を一層向上させることができる。ゼーベック係数をより有効に増大させる観点から、第1〜第10の熱電変換材料の組織構造は、粒径が5nm以下の結晶からなるナノ結晶相をさらに含んでいることがより好ましい。
【0049】
実施の形態1の熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料は、Cu、PおよびAuからなる群から選択される一種以上の元素を30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。これにより、ナノ結晶相を構成する結晶の粒径を抑制することが容易となる。第1〜第10の熱電変換材料は、上記追加的添加元素を0.01at%以上の割合で含んでいてもよい。第1〜第10の熱電変換材料は、上記追加的添加元素を10at%以下の割合で含んでいてもよく、1at%以下の割合で含んでいてもよい。
【0050】
実施の形態1の熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料は、Oを0.01at%以上30at%以下の割合でさらに含んでいてもよい。適量のOが導入されることにより、組織構造中に高いポテンシャルバリアとして機能する酸化物相が適量形成される。これにより、キャリアの閉じ込め効果が得られる。その結果、量子効果によりゼーベック係数が上昇し、無次元性能指数を増大させることができる。第1〜第10の熱電変換材料は、Oを10at%以下の割合で含んでいてもよく、1at%以下の割合で含んでいてもよい。
【0051】
実施の形態1の熱電変換材料積層体90において、第1〜第10の熱電変換材料の融点は570℃以上950℃以下であることが好ましい。融点をこのような範囲とすることにより、非晶質相を形成することが容易となる。
【0052】
次に、実施の形態1における熱電変換材料積層体90の製造方法について説明する。実施の形態1における熱電変換材料積層体90の製造方法においては、
図2を参照して、まず工程(S11)として薄帯準備工程が実施される。この工程(S11)では、10枚の薄帯(第1〜第10薄帯51〜60)が準備される。工程(S11)は、たとえば以下のように実施することができる。
【0053】
まず所望の熱電変換材料の組成に対応する量のMnおよびSiを含む原料が準備される。原料の準備は、所望の第1〜第10の熱電変換材料の組成に対応する量の原料が(たとえばAl、MnおよびSiの組成比が、それぞれ32at%、25at%および43at%、となるように)秤量され、坩堝内に充填される。坩堝を構成する材料としては、たとえばBN(窒化硼素)を採用することができる。
【0054】
次に、坩堝内に充填された原料が、たとえば高周波誘導加熱炉を用いて加熱され、溶融状態とされる。その後、自然冷却が実施されることにより溶融状態の原料が凝固する。これにより、母合金が得られる。
【0055】
次に、
図3を参照して、作製された母合金が先端に開口部32を有するノズル31内に装填される。ノズル31は、たとえば石英からなる。そして、ノズル31内の母合金を加熱することにより得られる原料融液33が、たとえばアルゴンガスの圧力により開口部32から冷却ローラ34の外周面へと噴射される。冷却ローラ34は、周方向(矢印αに沿う方向)に、たとえば毎分4500回転の回転速度にて回転する。冷却ローラ34は、たとえば銅からなる。また、冷却ローラ34は、たとえば水冷されている。その結果、原料融液33は急冷されて凝固し、リボン状の形状を有する薄帯35が得られる。薄帯35の厚みは、たとえば10〜20μm程度である。また、薄帯35の幅は、たとえば1〜10mm程度である。
【0056】
図4は、このようにして得られる薄帯35のXRD(X−Ray Diffraction)分析結果の一例を示す図である。
図4において、横軸は回折角度(2θ)を表しており、縦軸は回折強度を表している。
図4を参照して、このXRD分析結果においては、回折角度(2θ)が40°〜50°の領域にブロードなパターンが確認される。また、
図4において、特定の物質の結晶面に対応するピークは見られない。このことから、上記手順により、非晶質相からなる薄帯35が得られることが確認される。
【0057】
さらに、得られた薄帯35に熱処理が実施される。具体的には、たとえばRTA(Rapid Thermal Anneal)炉を用いて薄帯35が加熱される熱処理が実施される。熱処理は、たとえば窒素雰囲気中において400℃に加熱し、7分間保持する条件で実施することができる。これにより、非晶質相の一部が結晶化して粒径25nm以下の結晶が生成する。これにより、ナノ結晶相を含む第1〜第10薄帯51〜60が得られる。
【0058】
次に、
図2を参照して、工程(S12)として研磨工程が実施される。この工程(S12)では、
図1を参照して、第1〜第10薄帯51〜60の両側の主面(主面51A〜60Aおよび主面51B〜60B)が研磨される。その結果、第1〜第10薄帯51〜60の両側の主面(主面51A〜60Aおよび主面51B〜60B)が鏡面状態となる。
【0059】
次に、工程(S13)としてエッチング工程が実施される。この工程(S13)では、たとえば高真空チャンバ内(たとえば10
−6Pa程度の圧力下)において、アルゴンプラズマによるスパッタエッチングが実施されることにより、第1〜第10薄帯51〜60の表層部が除去される。これにより、第1〜第10薄帯51〜60の両側の主面(主面51A〜60Aおよび主面51B〜60B)が活性化する。
【0060】
次に、工程(S14)として積層工程が実施される。この工程(S14)では、工程(S13)において両側の主面が活性化した第1〜第10薄帯51〜60が積み重ねられる。具体的には、
図1を参照して、工程(S13)に引き続いて高真空チャンバ内において、隣り合う第1〜第10薄帯51〜60の主面同士が密着するように、第1〜第10薄帯51〜60が積み重ねられる。これにより、第1〜第10薄帯51〜60間において原子間力が作用し、隣り合う第1〜第10薄帯51〜60同士が接合される。以上の手順により、実施の形態1の熱電変換材料積層体90が得られる。なお、工程(S11)において実施されるナノ結晶相の形成は、たとえば工程(S14)の後に実施されてもよい。
【0061】
(実施の形態2)
次に、本願の熱電変換材料積層体の他の実施形態である実施の形態2について説明する。
図5を参照して、実施の形態2の熱電変換材料積層体90は、基本的には実施の形態1の熱電変換材料積層体90と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の熱電変換材料積層体90においては、隣り合う第1〜第10薄帯51〜60同士が樹脂層61〜69を介して接合されている点において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0062】
樹脂層61〜69は、たとえば耐熱性絶縁樹脂からなっている。樹脂層61〜69を構成する耐熱性絶縁樹脂としては、たとえばポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂などを採用することができる。
【0063】
このように、隣り合う第1〜第10薄帯51〜60同士が樹脂層61〜69を介して接合される構造を採用することにより、熱電変換材料積層体90を容易に作製することができる。また、樹脂層61〜69を構成する樹脂として絶縁性樹脂を採用することにより、積層方向において隣り合う第1〜第10薄帯51〜60間が絶縁された状態、すなわち第1〜第10薄帯51〜60が電気的に並列に配置された状態を容易に実現することができる。
【0064】
次に、実施の形態2における熱電変換材料積層体90の製造方法について説明する。実施の形態2における熱電変換材料積層体90の製造方法においては、
図6を参照して、まず工程(S21)として薄帯準備工程が実施される。この工程(S21)は、上記実施の形態1の工程(S11)と同様に実施することができる。
【0065】
次に、工程(S22)として樹脂層形成工程が実施される。この工程(S22)では、まず、たとえば可溶性ポリイミド樹脂を溶剤に溶かして液状とし、適切な粘度に調整する。そして、液状の可溶性ポリイミド樹脂をロールコータ法により第1〜第10薄帯51〜60の主面51A〜59Aおよび主面52B〜60Bに塗布する。その後、加熱によって溶剤を揮発させる。これにより、主面51A〜59Aおよび主面52B〜60B上に樹脂層61〜69が形成された第1〜第10薄帯51〜60が得られる。
【0066】
次に、工程(S23)として積層工程が実施される。この工程(S23)では、
図5を参照して、工程(S22)において主面51A〜59Aおよび主面52B〜60B上に樹脂層61〜69が形成された第1〜第10薄帯51〜60が積層される。これにより、第1〜第10薄帯51〜60が、隣り合う薄帯間に樹脂層61〜69を挟んで積層された状態となる。
【0067】
次に、工程(S24)として加熱プレス工程が実施される。この工程(S24)では、工程(S23)において積層された第1〜第10薄帯51〜60が一対の加圧板の間に配置され、熱プレス機により積層方向に圧縮しつつ、加熱される。圧縮の圧力は、たとえば0.01MPa〜30MPa程度とすることができる。加熱温度は、たとえば100℃〜400℃程度とすることができる。これにより、圧着が達成され、第1〜第10薄帯51〜60が樹脂層61〜69を介して接合された実施の形態2の熱電変換材料積層体90が得られる。
【0068】
(実施の形態3)
次に、本願の熱電変換材料積層体の他の実施形態である実施の形態3について説明する。
図7を参照して、実施の形態3の熱電変換材料積層体90は、基本的には実施の形態1の熱電変換材料積層体90と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3の熱電変換材料積層体90においては、隣り合う第1〜第10薄帯51〜60同士が導電性接着剤71〜79により接合されている点において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0069】
導電性接着剤71〜79としては、たとえばAg(銀)ペースト、AuSn(金スズ)はんだなどを採用することができる。
【0070】
このように、隣り合う第1〜第10薄帯51〜60同士が導電性接着剤71〜79を介して接合される構造を採用することにより、熱電変換材料積層体90を容易に作製することができる。また、積層方向において隣り合う第1〜第10薄帯51〜60間が電気的に接続された状態、すなわち第1〜第10薄帯51〜60が厚み方向に電気的に直列に配置された状態を容易に実現することができる。
【0071】
次に、実施の形態3における熱電変換材料積層体90の製造方法について説明する。実施の形態3における熱電変換材料積層体90の製造方法においては、
図8を参照して、まず工程(S31)として薄帯準備工程が実施される。この工程(S31)は、上記実施の形態1の工程(S11)と同様に実施することができる。
【0072】
次に、工程(S32)として導電性接着剤塗布工程が実施される。この工程(S32)では、まず、たとえばAgペーストからなる導電性接着剤71〜79を第1〜第10薄帯51〜60の主面51A〜59Aに塗布する。Agペーストからなる導電性接着剤71〜79の塗布に代えて、AuSnはんだからなる導電性接着剤71〜79を蒸着してもよい。
【0073】
次に、工程(S33)として積層工程が実施される。この工程(S33)では、
図7を参照して、工程(S32)において主面51A〜59A上に導電性接着剤71〜79が塗布された第1〜第10薄帯51〜60が積層される。これにより、第1〜第10薄帯51〜60が、隣り合う薄帯間に導電性接着剤71〜79を挟んで積層された状態となる。
【0074】
次に、工程(S34)として加熱プレス工程が実施される。この工程(S34)では、工程(S33)において積層された第1〜第10薄帯51〜60が一対の加圧板の間に配置され、熱プレス機により積層方向に圧縮しつつ、加熱される。圧縮の圧力は、たとえば0.01MPa〜30MPa程度とすることができる。加熱温度は、たとえば100℃〜400℃程度とすることができる。工程(S33)においてAgペーストからなる導電性接着剤71〜79の塗布に代えて、AuSnはんだからなる導電性接着剤71〜79を蒸着した場合、加熱温度は、たとえば300℃〜400℃程度とすることができる。これにより、接着が達成され、第1〜第10薄帯51〜60が導電性接着剤71〜79により接合された実施の形態3の熱電変換材料積層体90が得られる。
【0075】
(実施の形態4)
次に、本願の熱電変換素子の一実施の形態であるπ型熱電変換素子について説明する。
図9は、実施の形態4における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子1の構造を示す概略図である。
図9を参照して、π型熱電変換素子1は、第1熱電変換材料部であるp型熱電変換材料部11と、第2熱電変換材料部であるn型熱電変換材料部12と、高温側電極21と、第1低温側電極22と、第2低温側電極23と、配線24とを備えている。
【0076】
p型熱電変換材料部11は、たとえば導電型がp型となるように第1〜第10の熱電変換材料の成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料積層体90からなる。p型熱電変換材料部11を構成する第1〜第10の熱電変換材料に、たとえば多数キャリアであるp型キャリア(正孔)を生成させるp型不純物がドープされることにより、p型熱電変換材料部11の導電型はp型となっている。
【0077】
n型熱電変換材料部12は、たとえば導電型がn型となるように第1〜第10の熱電変換材料の成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料積層体90からなる。n型熱電変換材料部12を構成する第1〜第10の熱電変換材料に、たとえば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされることにより、n型熱電変換材料部12の導電型はn型となっている。
【0078】
p型熱電変換材料部11とn型熱電変換材料部12とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11の一方の端部11Aからn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aにまで延在するように配置される。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11の一方の端部11Aおよびn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aの両方に接触するように配置される。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11の一方の端部11Aとn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aとを接続するように配置される。高温側電極21は、導電材料、たとえば金属からなっている。高温側電極21は、p型熱電変換材料部11およびn型熱電変換材料部12にオーミック接触している。
【0079】
第1低温側電極22は、p型熱電変換材料部11の他方の端部11Bに接触して配置される。第1低温側電極22は、高温側電極21と離れて配置される。第1低温側電極22は、導電材料、たとえば金属からなっている。第1低温側電極22は、p型熱電変換材料部11にオーミック接触している。
【0080】
第2低温側電極23は、n型熱電変換材料部12の他方の端部12Bに接触して配置される。第2低温側電極23は、高温側電極21および第1低温側電極22と離れて配置される。第2低温側電極23は、導電材料、たとえば金属からなっている。第2低温側電極23は、n型熱電変換材料部12にオーミック接触している。
【0081】
配線24は、金属などの導電体からなる。配線24は、第1低温側電極22と第2低温側電極23とを電気的に接続する。
【0082】
π型熱電変換素子1において、たとえばp型熱電変換材料部11の一方の端部11Aおよびn型熱電変換材料部12の一方の端部12Aの側が高温、p型熱電変換材料部11の他方の端部11Bおよびn型熱電変換材料部12の他方の端部12Bの側が低温、となるように温度差が形成されると、p型熱電変換材料部11においては、一方の端部11A側から他方の端部11B側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型熱電変換材料部12においては、一方の端部12A側から他方の端部12B側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線24には、矢印βの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子1において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0083】
本実施の形態のπ型熱電変換素子1は、p型熱電変換材料部11およびn型熱電変換材料部12が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記広く種々の熱電変換素子に適用可能な熱電変換特性に優れた熱電変換材料積層体90からなる。そのため、π型熱電変換素子1は、変換効率に優れた熱電交換素子となっている。
【0084】
なお、上記実施の形態においては、第1〜第10の熱電変換材料が同一材料である場合について説明したが、第1〜第10の熱電変換材料は互いに異なる材料であってもよい。たとえば、高温電極側に高温での熱電変換特性に優れた材料を採用し、低温電極側に低温での熱電変換特性に優れた材料を採用してもよい。また、上記実施の形態においては、熱電変換材料積層体90が10枚の薄帯が積層された構造を有する場合について説明したが、薄帯の積層数は用途等に応じて任意に設定することができる。薄帯の積層数は、たとえば10以上20以下である。また、上記実施の形態においては、第1〜第10の熱電変換材料がMnとSiとを含む熱電変換材料である場合について説明したが、熱電変換材料はこれに限られず、種々の成分組成を有する熱電変換材料を採用することができる。
【0085】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。