特許第6802096号(P6802096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802096
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】目封止ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20201207BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20201207BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20201207BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20201207BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20201207BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301K
   B01J29/76 AZAB
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   C04B38/00 303Z
   B01D53/94 241
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-48701(P2017-48701)
(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2018-149510(P2018-149510A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】九鬼 達行
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0093982(US,A1)
【文献】 特表2007−525612(JP,A)
【文献】 特開2004−162544(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/103669(WO,A1)
【文献】 特開2011−098337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/73,86−90,94−96
B01D39/00−41/04
B01D46/00−46/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部と、
それぞれの前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側の開口部に配設された目封止部と、を備え、
前記隔壁の材料が、炭化珪素を骨材とし、珪素を結合材として形成された珪素−炭化珪素複合材料、又は、炭化珪素を骨材とし、コージェライトを結合材として形成されたコージェライト−炭化珪素複合材料であり、
水銀圧入法によって測定された前記隔壁の累積細孔容積において、
前記累積細孔容積が10%となる細孔径を、細孔径D10とし、
前記累積細孔容積が30%となる細孔径を、細孔径D30とし、
前記累積細孔容積が50%となる細孔径を、細孔径D50とし、
前記累積細孔容積が70%となる細孔径を、細孔径D70とし、
前記累積細孔容積が90%となる細孔径を、細孔径D90とし、
前記細孔径D10が、6μm以上であり、
前記細孔径D90が、58μm以下であり、且つ、
下記式(1)の関係を満たす、目封止ハニカム構造体。
式(1):0.35≦(D70−D30)/D50≦1.5
(但し、式(1)において、D30は、細孔径D30の値を示し、D50は、細孔径D50の値を示し、D70は、細孔径D70の値を示す。)
【請求項2】
下記式(2)の関係を満たす、請求項1に記載の目封止ハニカム構造体。
式(2):0.40≦(D70−D30)/D50≦1.3
(但し、式(2)において、D30は、細孔径D30の値を示し、D50は、細孔径D50の値を示し、D70は、細孔径D70の値を示す。)
【請求項3】
前記細孔径D10が、7μm以上である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の目封止ハニカム構造体。
【請求項4】
前記細孔径D90が、52μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の目封止ハニカム構造体。
【請求項5】
前記隔壁の厚さが、0.15〜0.46mmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の目封止ハニカム構造体。
【請求項6】
前記隔壁の気孔率が、50〜70%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の目封止ハニカム構造体。
【請求項7】
前記隔壁に、排気ガス浄化用の触媒が担持され、
前記触媒の担持量が、50〜300g/Lである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の目封止ハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目封止ハニカム構造体に関する。更に詳しくは、捕集性能に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒の担持後における、圧力損失のばらつきの発生を抑制することが可能な目封止ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等の内燃機関より排出される排気ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタや、CO,HC,NOxなどの有毒なガス成分を浄化する装置として、ハニカム構造体を用いた目封止ハニカム構造体が知られている(特許文献1参照)。ハニカム構造体は、コージェライトや炭化珪素などの多孔質セラミックスによって構成された隔壁を有し、この隔壁によって複数のセルが区画形成されたものである。目封止ハニカム構造体は、上述したハニカム構造体に対して、複数のセルの流入端面側の開口部と流出端面側の開口部とを交互に目封止するように目封止部を配設したものである。即ち、目封止ハニカム構造体は、流入端面側が開口し且つ流出端面側が目封止された流入セルと、流入端面側が目封止され且つ流出端面側が開口した流出セルとが、隔壁を挟んで交互に配置された構造となっている。そして、目封止ハニカム構造体においては、多孔質の隔壁が、排気ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタの役目を果たしている。以下、排気ガスに含まれる粒子状物質を、「PM」ということがある。「PM」は、「Particulate Matter」の略である。
【0003】
目封止ハニカム構造体による排気ガスの浄化は、以下のようにして行われる。まず、目封止ハニカム構造体は、その流入端面側が、排気ガスが排出される排気系の上流側に位置するように配置される。排気ガスは、目封止ハニカム構造体の流入端面側から、流入セルに流入する。そして、流入セルに流入した排気ガスは、多孔質の隔壁を通過し、流出セルへと流れ、目封止ハニカム構造体の流出端面から排出される。多孔質の隔壁を通過する際に、排気ガス中のPM等が捕集され除去される。また、目封止ハニカム構造体による排気ガスの浄化においては、有毒なガス成分を浄化するために、隔壁に形成された細孔内に、排気ガス浄化用の触媒を担持することが行われている。このように構成することによって、排気ガスが隔壁を通過する際に、細孔内に担持された触媒により、有毒なガス成分を浄化することができる。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された多孔質ハニカムフィルタは、細孔径分布を制御したコーディライトを主結晶相とする材料によって構成されたものである。特許文献1においては、細孔径10μm未満の細孔容積が全細孔容積の15%以下、細孔径10〜50μmの細孔容積が全細孔容積の75%以上、細孔径50μmを超える細孔容積が全細孔容積の10%以下となるように細孔径分布を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−219319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
目封止ハニカム構造体による排気ガスの浄化において、隔壁に形成された細孔内を排気ガスが通過する際に、この細孔内に排気ガス中のPMが捕集される。従来は、このような目封止ハニカム構造体において、圧力損失の増加を有効に抑制し、捕集効率の向上を図るためには、多孔質の隔壁に形成された細孔の細孔径分布は、そのピーク形状がシャープ(sharp)なものが好ましいとされていた。細孔径分布のピーク形状がシャープな隔壁を有する目封止ハニカム構造体は、確かに、目封止ハニカム構造体自体については、低い圧力損失を示す。
【0007】
しかしながら、このような目封止ハニカム構造体は、複数個製造された目封止ハニカム構造体のそれぞれに対して、排気ガス浄化用の触媒を担持した場合に、個々の目封止ハニカム構造体の圧力損失のばらつきが大きくなるという問題があった。
【0008】
即ち、細孔径分布のピーク形状がシャープな隔壁を有する目封止ハニカム構造体は、特定の粒子径の触媒を担持した場合に、触媒担持後の目封止ハニカム構造体においても、低い圧力損失を示し易い。ただし、例えば、触媒のロット(Lot)が変更され、使用する触媒の粒子径が僅かに変わってしまった場合などに、以前の触媒を担持した目封止ハニカム構造体と、その圧力損失の値が大きく異なってしまうことがある。このような現象は、細孔径分布のピーク形状がシャープであることに起因するものと推測される。また、例えば、同一ロットの触媒であっても、触媒の担持条件の僅かな相違により、個々の目封止ハニカム構造体の圧力損失に、大きなばらつきが生じることもある。
【0009】
近年、自動車のエンジン制御では、目封止ハニカム構造体に捕集された煤の量を検知し、適宜、最適なタイミングで、目封止ハニカム構造体の内部に溜まった煤を燃焼除去する再生処理などが行われる。このようなエンジン制御においては、目封止ハニカム構造体の圧力損失を計測して、計測した圧力損失に基づいて、上述した再生処理などを開始するタイミングが決定されることがある。このため、同一の製品として製造された目封止ハニカム構造体の圧力損失に大きなばらつきが生じていると、上述したエンジン制御に重大な問題を引き起こすことがある。このため、現在、排気ガス浄化用フィルタとして使用する目封止ハニカム構造体について、排気ガス浄化用の触媒の担持後における、圧力損失のばらつきの発生が少ない目封止ハニカム構造体の開発が要望されている。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明によれば、捕集性能に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒の担持後における、圧力損失のばらつきの発生を抑制することが可能な目封止ハニカム構造体が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示す、目封止ハニカム構造体が提供される。
【0012】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部と、
それぞれの前記セルの前記流入端面側又は前記流出端面側の開口部に配設された目封止部と、を備え、
前記隔壁の材料が、炭化珪素を骨材とし、珪素を結合材として形成された珪素−炭化珪素複合材料、又は、炭化珪素を骨材とし、コージェライトを結合材として形成されたコージェライト−炭化珪素複合材料であり、
水銀圧入法によって測定された前記隔壁の累積細孔容積において、
前記累積細孔容積が10%となる細孔径を、細孔径D10とし、
前記累積細孔容積が30%となる細孔径を、細孔径D30とし、
前記累積細孔容積が50%となる細孔径を、細孔径D50とし、
前記累積細孔容積が70%となる細孔径を、細孔径D70とし、
前記累積細孔容積が90%となる細孔径を、細孔径D90とし、
前記細孔径D10が、6μm以上であり、
前記細孔径D90が、58μm以下であり、且つ、
下記式(1)の関係を満たす、目封止ハニカム構造体。
式(1):0.35≦(D70−D30)/D50≦1.5
(但し、式(1)において、D30は、細孔径D30の値を示し、D50は、細孔径D50の値を示し、D70は、細孔径D70の値を示す。)
【0013】
[2] 下記式(2)の関係を満たす、前記[1]に記載の目封止ハニカム構造体。
式(2):0.40≦(D70−D30)/D50≦1.
【0014】
[3] 前記細孔径D10が、7μm以上である、前記[1]〜[2]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【0015】
[4] 前記細孔径D90が、52μm以下である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【0016】
[5] 前記隔壁の厚さが、0.15〜0.46mmである、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【0017】
[6] 前記隔壁の気孔率が、50〜70%である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【0018】
[7] 前記隔壁に、排気ガス浄化用の触媒が担持され、
前記触媒の担持量が、50〜300g/Lである、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の目封止ハニカム構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明の目封止ハニカム構造体は、捕集性能に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒の担持後における、圧力損失のばらつきの発生を抑制することができる。具体的には、本発明の目封止ハニカム構造体は、横軸を細孔径とし、縦軸をlog微分細孔容積とした隔壁の細孔径分布において、特定の細孔径の範囲の分布形状が、矩形に近い形状、別言すれば、細孔径分布のピーク値を含む周辺が幅広形状となる。これにより、特定の細孔径の範囲に含まれる細孔が、一定の比率で存在することとなり、触媒の粒子径僅かな変化や、触媒の担持条件の僅かな相違があったとしても、触媒の担持後における圧力損失のばらつきが極めて小さくなる。
【0021】
また、このような本発明の目封止ハニカム構造体は、より安定した排気システムを構築することが可能となり、例えば、自動車のエンジン制御に対しても、悪影響を極めて少なくすることができる。このため、本発明の目封止ハニカム構造体を使用することにより、自動車のエンジン制御において、圧力損失に基づいた正確な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の目封止ハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す、流入端面側からみた斜視図である。
図2図1に示す目封止ハニカム構造体の流入端面側からみた平面図である。
図3図2のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の目封止ハニカム構造体の他の実施形態を模式的に示す、流入端面側からみた平面図である。
図5】実施例1、及び比較例1の目封止ハニカム構造体の細孔径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0024】
(1)目封止ハニカム構造体:
図1図3に示すように、本発明の目封止ハニカム構造体の第一実施形態は、ハニカム構造部4と、目封止部5と、を備えた、目封止ハニカム構造体100である。ハニカム構造部4は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を取り囲むように配置された多孔質の隔壁1を有する柱状のものである。本実施形態の目封止ハニカム構造体100において、ハニカム構造部4は、円柱形状を呈し、その外周側面に、外周壁3を更に有している。即ち、外周壁3は、格子状に配設された隔壁1を囲繞するように配設されている。目封止部5は、それぞれのセル2の流入端面11側又は流出端面12側の開口部に配設されたものである。
【0025】
ここで、図1は、本発明の目封止ハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す、流入端面側からみた斜視図である。図2は、図1に示す目封止ハニカム構造体の流入端面側からみた平面図である。図3は、図2のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【0026】
本実施形態の目封止ハニカム構造体100は、水銀圧入法によって測定された隔壁1の累積細孔容積が、以下のように構成されていることを、特に主要な特徴とする。なお、以下、累積細孔容積が10%となる細孔径を、細孔径D10とする。累積細孔容積が30%となる細孔径を、細孔径D30とする。累積細孔容積が50%となる細孔径を、細孔径D50とする。累積細孔容積が70%となる細孔径を、細孔径D70とする。累積細孔容積が90%となる細孔径を、細孔径D90とする。
【0027】
本実施形態の目封止ハニカム構造体100は、細孔径D10が、6μm以上であり、細孔径D90が、58μm以下であることを、特に主要な特徴とする。また、本実施形態の目封止ハニカム構造体100は、下記式(1)の関係を満たすことを、特に主要な特徴とする。
【0028】
式(1):0.35≦(D70−D30)/D50≦1.5
(但し、上記式(1)において、D30は、細孔径D30の値を示し、D50は、細孔径D50の値を示し、D70は、細孔径D70の値を示す。)
【0029】
本実施形態の目封止ハニカム構造体100は、捕集性能に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒の担持後における、圧力損失のばらつきの発生を抑制することができる。具体的には、目封止ハニカム構造体100は、横軸を細孔径とし、縦軸をlog微分細孔容積とした隔壁1の細孔径分布において、特定の細孔径の範囲の分布形状が、矩形に近い形状、別言すれば、細孔径分布のピーク値を含む周辺が幅広形状となる。これにより、特定の細孔径の範囲に含まれる細孔が、一定の比率で存在することとなり、触媒の粒子径僅かな変化や、触媒の担持条件の僅かな相違があったとしても、触媒の担持後における圧力損失のばらつきが極めて小さくなる。
【0030】
また、本実施形態の目封止ハニカム構造体100は、より安定した排気システムを構築することが可能となり、例えば、自動車のエンジン制御に対しても、悪影響を極めて少なくすることができる。このため、本実施形態の目封止ハニカム構造体100を使用することにより、自動車のエンジン制御において、圧力損失に基づいた正確な制御が可能となる。
【0031】
ここで、隔壁1の累積細孔容積は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の累積細孔容積の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。隔壁1の累積細孔容積の測定は、以下のような方法によって行うことができる。まず、目封止ハニカム構造体100から隔壁1の一部を切り出して、累積細孔容積を測定するための試験片を作製する。試験片の大きさについては特に制限はないが、例えば、縦、横、高さのそれぞれの長さが、約10mm、約10mm、約20mmの直方体であることが好ましい。試験片を切り出す隔壁1の部位については特に制限はないが、試験片は、ハニカム構造部4の軸方向の中心付近から切り出して作製することが好ましい。得られた試験片を、測定装置の測定用セル内に収納し、この測定用セル内を減圧する。次に、測定用セル内に水銀を導入する。次に、測定用セル内に導入した水銀を加圧し、加圧時において、試験片内に存在する細孔中に押し込まれた水銀の体積を測定する。この際、水銀に加える圧力を増やすにしたがって、細孔径の大きな細孔から、順次、細孔径の小さな細孔に水銀が押し込まれることとなる。したがって、「水銀に加える圧力」と「細孔中に押し込まれた水銀の体積」との関係から、「試験片に形成された細孔の細孔径」と「累積細孔容積」の関係を求めることができる。「累積細孔容積」とは、最小の細孔径から特定の細孔径までの細孔容積を累積した値のことである。例えば、「累積細孔容積が10%となる細孔径」とは、総細孔容積のうち、細孔径の小さい方から計算して、細孔容積を累積した値が10%となる際の、細孔径のことである。
【0032】
細孔径D10が、6μm未満であると、目封止ハニカム構造体100に触媒を担持した際に、圧力損失のばらつきが大きくなってしまう。細孔径D90が、58μmを超えると、目封止ハニカム構造体100のフィルタとしての捕集性能が低下してしまう。
【0033】
細孔径D10の上限値については、特に制限はない。例えば、細孔径D10の上限値として、25μmを挙げることができる。また、細孔径D10は、7μm以上であることが好ましい。細孔径D10が、7μm以上であると、圧力損失のばらつきがより小さくなる。また、細孔径D10は、6〜25μmであることが好ましく、7〜20μmであることが更に好ましく、8〜20μmであることが特に好ましい。このように構成することによって、捕集性能の向上と、圧力損失のばらつき抑制の両立をより図ることができる。
【0034】
細孔径D90の下限値については、特に制限はない。例えば、細孔径D90の下限値として、25μmを挙げることができる。また、細孔径D90は、52μm以下であることが好ましい。細孔径D90が、52μm以下であると、良好な捕集性能を維持することができる。また、細孔径D90は、25〜58μmであることが好ましく、30〜52μmであることが更に好ましく、30〜50μmであることが特に好ましい。このように構成することによって、捕集性能の向上と、圧力損失のばらつき抑制の両立をより図ることができる。
【0035】
本実施形態の目封止ハニカム構造体100において、上記式(1)を満たすことにより、横軸を細孔径とし、縦軸をlog微分細孔容積とした隔壁1の細孔径分布において、特定の細孔径の範囲の分布形状が、矩形に近い形状となる。これにより、触媒の担持後における圧力損失のばらつきが極めて小さくなる。
【0036】
「横軸を細孔径とし、縦軸をlog微分細孔容積とした隔壁1の細孔径分布」は、例えば、横軸を、細孔径(単位:μm)とし、縦軸を、log微分細孔容積(単位:cm/g)としたグラフによって示すことができる。例えば、このようなグラフとしては、図5に示すようなグラフを挙げることができる。図5は、後述する実施例において作製した目封止ハニカム構造体における隔壁の細孔容積を示すグラフである。より具体的には、図5は、実施例1、及び比較例1の目封止ハニカム構造体の細孔径分布を示すグラフである。
【0037】
例えば、図5において、実線にて示される実施例1の目封止ハニカム構造体の細孔径分布は、細孔径が10μm超から20μm超までの範囲において、細孔径分布のピーク値を含む周辺が幅広形状となっている。このため、実施例1の目封止ハニカム構造体は、触媒の粒子径僅かな変化や、触媒の担持条件の僅かな相違があったとしても、触媒の担持後における圧力損失のばらつきが極めて小さくなる。
【0038】
ここで、図5に示すようなlog微分細孔容積についてのグラフに関して説明する。図5に示すグラフは、「Log微分細孔容積」と「細孔径」との関係を示すグラフである。細孔径は、細孔直径と称することもある。水銀圧入法により、真空状態に密閉した容器内にある試料の細孔に水銀を浸入させるために徐々に圧力を加えていくと、水銀は大きな細孔から小さな細孔へと順に浸入していく。その時の圧力と圧入された水銀量から、試料に形成された細孔の細孔径(別言すれば、細孔直径)と、その細孔容積を算出することができる。以下、細孔径をD1、D2、D3・・・とした場合、D1>D2>D3・・・の関係を満たすものとする。ここで、各測定ポイント間(例えば、D1からD2)の平均細孔径Dは、「平均細孔径D=(D1+D2)/2)」として横軸に示すことができる。また、縦軸のLog微分細孔容積は、各測定ポイント間の細孔容積の増加分dVを細孔径の対数扱いの差分値(即ち、「log(D1)−log(D2)」)で割った値とすることができる。このようなこのLog微分細孔直径と細孔径の関係を示すグラフにおいて、Log微分細孔容積が極大となる点を「ピーク」とする。
【0039】
式(1)における「(D70−D30)/D50」の値は、その下限値が0.35である。「(D70−D30)/D50」の値が、0.35未満であると、細孔径分布を示すグラフがシャープになり、触媒の担持後における圧力損失のばらつきが大きくなる。「(D70−D30)/D50」の値の下限値は、0.40であることが好ましい。
【0040】
式(1)における「(D70−D30)/D50」の値は、その上限値が1.5である。「(D70−D30)/D50」の値が、1.5を超えると、細孔径分布を示すグラフが幅広になり過ぎて、ガス透過に有効な細孔の量が減少するため、触媒の担持後における圧力損失のばらつきが大きくなる。「(D70−D30)/D50」の値の上限値は、1.3であることが好ましい。以上のことから、本実施形態の目封止ハニカム構造体は、下記式(2)の関係を満たすことがより好ましい。
【0041】
式(2):0.40≦(D70−D30)/D50≦1.3
(但し、式(2)において、D30は、細孔径D30の値を示し、D50は、細孔径D50の値を示し、D70は、細孔径D70の値を示す。
【0042】
細孔径D50は、10〜30μmであることが好ましく、12〜28μmであることが更に好ましく、15〜25μmであることが特に好ましい。このように構成することによって、捕集性能の向上と、圧力損失のばらつき抑制の両立をより図ることができる。
【0043】
図1図3に示すような目封止ハニカム構造体100は、隔壁1の厚さが、0.12〜0.50mmであることが好ましく、0.15〜0.46mmであることが更に好ましく、0.25〜0.40mmであることが特に好ましい。隔壁1の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡又はマイクロスコープ(microscope)を用いて測定することができる。隔壁1の厚さが0.12mm未満であると、十分な強度が得られない場合がある。一方、隔壁1の厚さが0.50mmを超えると、隔壁1に触媒を担持した際に、その触媒の担持によって増大する圧力損失の増加率が大きくなることもある。例えば、隔壁1に触媒を担持する際には、触媒を含むスラリーを吸引し、隔壁1の細孔内部まで触媒を導入する操作が行われるが、隔壁1の厚さが厚くなると、その吸引力が得られ難くなる。したがって、隔壁1の表面付近に触媒が密集し、圧力損失の増加率が大きくなることがある。
【0044】
目封止ハニカム構造体100は、隔壁1の気孔率が、30〜75%であることが好ましく、50〜70%であることが更に好ましく、55〜65%であることが特に好ましい。隔壁1の気孔率は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の気孔率の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。気孔率の測定は、目封止ハニカム構造体100から隔壁1の一部を切り出して試験片とし、このようにして得られた試験片を用いて行うことができる。隔壁1の気孔率が、30%未満であると、目封止ハニカム構造体100自体の圧力損失が増大することや、触媒の担持後における圧力損失のばらつきが大きくなることがある。隔壁1の気孔率が、75%を超えると、目封止ハニカム構造体100のフィルタとしての強度が低下してしまうことがある。
【0045】
隔壁1の材料が、炭化珪素、コージェライト、珪素−炭化珪素複合材料、コージェライト−炭化珪素複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ及びチタン酸アルミニウムから構成される群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。隔壁1を構成する材料は、上記群に列挙された材料を、30質量%以上含む材料であることが好ましく、40質量%以上含む材料であることが更に好ましく、50質量%以上含む材料であることが特に好ましい。なお、珪素−炭化珪素複合材料とは、炭化珪素を骨材とし、珪素を結合材として形成された複合材料である。また、コージェライト−炭化珪素複合材料とは、炭化珪素を骨材とし、コージェライトを結合材として形成された複合材料である。本実施形態の目封止ハニカム構造体100においては、隔壁1の材料、特に、珪素−炭化珪素複合材料、コージェライト−炭化珪素複合材料である
【0046】
ハニカム構造部4に形成されているセル2の形状については特に制限はない。例えば、セル2の延びる方向に直交する断面における、セル2の形状としては、多角形、円形、楕円形等を挙げることができる。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等を挙げることができる。なお、セル2の形状は、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形であることが好ましい。また、セル2の形状については、全てのセル2の形状が同一形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。例えば、図示は省略するが、四角形のセルと、八角形のセルと混在したものであってもよい。また、セル2の大きさについては、全てのセル2の大きさが同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、図示は省略するが、複数のセルのうち、一部のセルの大きさを大きくし、他のセルの大きさを相対的に小さくしてもよい。なお、本発明において、セルとは、隔壁によって取り囲まれた空間のことを意味する。
【0047】
隔壁1によって区画形成されるセル2のセル密度が、15〜70個/cmであることが好ましく、30〜65個/cmであることが更に好ましい。このように構成することによって、本実施形態の目封止ハニカム構造体100を、自動車のエンジンから排出される排気ガスを浄化するためのフィルタとして好適に利用することができる。
【0048】
ハニカム構造部4の外周壁3は、隔壁1と一体的に構成されたものであってもよいし、隔壁1を囲繞するように外周コート材を塗工することによって形成した外周コート層であってもよい。図示は省略するが、外周コート層は、製造時において、隔壁と外周壁とを一体的に形成した後、形成された外周壁を、研削加工等の公知の方法によって除去した後、隔壁の外周側に設けることができる。
【0049】
ハニカム構造部4の形状については特に制限はない。ハニカム構造部4の形状としては、流入端面11及び流出端面12の形状が、円形、楕円形、多角形等の柱状を挙げることができる。
【0050】
ハニカム構造部4の大きさ、例えば、流入端面11から流出端面12までの長さや、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する断面の大きさについては、特に制限はない。本実施形態の目封止ハニカム構造体100を、排気ガス浄化用のフィルタとして用いた際に、最適な浄化性能を得るように、各大きさを適宜選択すればよい。例えば、ハニカム構造部4の流入端面11から流出端面12までの長さは、80〜500mmであることが好ましく、90〜400mmであることが更に好ましく、100〜300mmであることが特に好ましい。また、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する断面の面積は、780〜73000mmであることが好ましく、10000〜60000mmであることが更に好ましく、12000〜50000mmであることが特に好ましい。
【0051】
本実施形態の目封止ハニカム構造体100においては、所定のセル2の流入端面11側の開口部、及び残余のセル2の流出端面12側の開口部に、目封止部5が配設されている。ここで、流出端面12側の開口部に目封止部5が配設され、流入端面11側が開口したセル2を、流入セルとする。また、流入端面11側の開口部に目封止部5が配設され、流出端面12側が開口したセル2を、流出セルとする。流入セルと流出セルとは、隔壁1を隔てて交互に配設されていることが好ましい。そして、それによって、目封止ハニカム構造体100の両端面に、目封止部5と「セル2の開口部」とにより、市松模様が形成されていることが好ましい。
【0052】
目封止部5の材質は、隔壁1の材質として好ましいとされた材質であることが好ましい。目封止部5の材質と隔壁1の材質とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0053】
本実施形態の目封止ハニカム構造体100においては、複数のセル2を区画形成する隔壁1に触媒が担持されていてもよい。隔壁1に触媒を担持するとは、隔壁1の表面及び隔壁1に形成された細孔の内壁に、触媒がコーティングされることをいう。このように構成することによって、排気ガス中のCOやNOxやHCなどを触媒反応によって無害な物質にすることができる。また、捕集した煤等のPMの酸化を促進させることができる。
【0054】
本実施形態の目封止ハニカム構造体100において使用する触媒については特に制限はない。触媒としては、SCR触媒、NOx吸蔵触媒、及び酸化触媒から構成される群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。SCR触媒は、被浄化成分を選択還元する触媒である。特に、SCR触媒が、排気ガス中のNOxを選択還元するNOx選択還元用SCR触媒であることが好ましい。また、SCR触媒としては、金属置換されたゼオライトを挙げることができる。ゼオライトを金属置換する金属としては、鉄(Fe)、銅(Cu)を挙げることができる。ゼオライトとしては、ベータゼオライトを好適例として挙げることができる。また、SCR触媒が、バナジウム、及びチタニアから構成される群より選択される少なくとも1種を主たる成分として含有する触媒であってもよい。NOx吸蔵触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属等を挙げることができる。アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、カルシウムなどを挙げることができる。酸化触媒としては、貴金属を含有するものを挙げることができる。酸化触媒として、具体的には、白金、パラジウム及びロジウムから構成される群より選択される少なくとも一種を含有するものが好ましい。
【0055】
ハニカム構造部4の隔壁1に担持される触媒の単位体積当たりの担持量については、使用する触媒の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、触媒として、SCR触媒を用いた場合には、触媒の担持量が50〜300g/Lであることが好ましく、50g〜250g/Lであることが更に好ましい。なお、触媒の担持量は、ハニカム構造部4の容積1L当たりに担持される触媒の質量[g]である。触媒の担持方法としては、例えば、ハニカム構造部4に対して、触媒成分を含む触媒液をウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等を挙げることができる。
【0056】
また、本発明の目封止ハニカム構造体は、図4に示すような、所謂、セグメント構造の目封止ハニカム構造体であってもよい。図4は、本発明の目封止ハニカム構造体の他の実施形態を模式的に示す、流入端面側からみた平面図である。
【0057】
図4に示すように、目封止ハニカム構造体200は、柱状のハニカム構造部24と、セグメント外周壁27と、目封止部25とを備えたものである。そして、目封止ハニカム構造体200においては、ハニカム構造部24が、複数個のハニカムセグメント26と、接合層28と、から構成されたセグメント構造を有している。
【0058】
ハニカムセグメント26は、図4に示すように、流体の流路となる複数のセル22を取り囲むように配置された多孔質の隔壁21を有する柱状のものである。目封止部25は、ハニカムセグメント26に形成された複数のセル22のいずれか一方の開口部に配設され、各セル22のいずれか一方の開口部を目封止している。目封止ハニカム構造体200は、各ハニカムセグメント26を構成する隔壁21の累積細孔容積において、細孔径D10が、6μm以上であり、細孔径D90が、58μm以下である。また、目封止ハニカム構造体200は、各ハニカムセグメント26が、上記式(1)の関係を満たす。
【0059】
(2)目封止ハニカム構造体の製造方法:
図1図3に示す本実施形態の目封止ハニカム構造体の製造方法については、特に制限はなく、例えば、以下のような方法により製造することができる。まず、ハニカム構造部を作製するための可塑性の坏土を調製する。ハニカム構造部を作製するための坏土は、原料粉末として、前述のハニカム構造部の好適な材料の中から選ばれた材料に、適宜、バインダ等の添加剤、造孔材、及び水を添加することによって調製することができる。原料粉末としては、例えば、炭化珪素粉末と金属珪素粉末と混合した粉末を用いることができる。バインダとしては、例えば、メチルセルロース(Methylcellulose)や、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Hydroxypropyl methylcellulose)等を挙げることができる。また、添加剤としては、界面活性剤等を挙げることができる。造孔材の添加量を調することにより、隔壁の気孔率及び細孔径分布を調整することができる。
【0060】
次に、このようにして得られた坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及びこの隔壁を囲繞するように配設された外壁を有する、ハニカム成形体を作製する。
【0061】
得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥し、ハニカム成形体の作製に用いた材料と同様の材料で、セルの開口部を目封止することで目封止部を作製する。目封止部を作製した後に、ハニカム成形体を更に乾燥してもよい。
【0062】
次に、目封止部を作製したハニカム成形体を焼成することにより、目封止ハニカム構造体を製造する。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
坏土を調製するための原料粉末として、炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを、80:20の質量割合で混合した混合原料を準備した。
【0065】
この混合原料100質量部に、バインダを7質量部、造孔材を25質量部、及び水を42質量部、加えて、坏土調製用の成形原料を作製した。バインダとしては、メチルセルロースを用いた。造孔材としては、焼成後に平均細孔径が21μmとなるような粒子径の造孔材Aに、焼成後の平均細孔径が17μmとなるような粒子径の造孔材Bを1:1で配合したものを用いた。
【0066】
次に、得られた成形原料を、ニーダー(kneader)を用いて混練し、坏土を得た。次に、得られた坏土を、押出成形機を用いて成形し、四角柱状のハニカム成形体を16個作製した。次に、得られたハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて更に乾燥した。
【0067】
次に、乾燥後のハニカム成形体に、目封止部を形成した。まず、ハニカム成形体の流入端面にマスクを施した。次に、マスクの施された端部(流入端面側の端部)を目封止スラリーに浸漬し、マスクが施されていないセル(流出セル)の開口部に目封止スラリーを充填した。このようにして、ハニカム成形体の流入端面側に、目封止部を形成した。そして、乾燥後のハニカム成形体の流出端面についても同様にして、流入セルにも目封止部を形成した。
【0068】
そして、目封止部の形成されたハニカム成形体を脱脂し、焼成し、四角柱状のハニカム焼成体を16個作製した。脱脂の条件は、550℃で3時間とし、焼成の条件は、アルゴン雰囲気下で、1450℃で2時間とした。このようにして得られた16個のハニカム焼成体を、目封止ハニカム構造体を作製するためのハニカムセグメントとした。
【0069】
それぞれのハニカムセグメントは、端面が一辺42mmの四角形の四角柱状であった。ハニカムセグメントのセルの延びる方向の長さは、140mmであった。ハニカムセグメントの隔壁の厚さは、0.305mmであった。隔壁によって区画されたセルの形状は、四角形であった。ハニカムセグメントのセル密度は、46.5個/cmであった。
【0070】
次に、得られた16個のハニカムセグメントを、互いの側面同士が対向するように隣接して配置された状態で接合材によって接合し、ハニカム接合体を作製した。ハニカム接合体は、その端面において、縦方向に4個、横方向に4個の合計16個のハニカムセグメントが配列するように接合して作製した。
【0071】
次に、ハニカム接合体の外周部を研削によって加工して、ハニカム接合体のセルの延びる方向に垂直な断面の形状を円形にした。その後、研削加工したハニカム接合体の最外周に、セラミック原料を含む外周コート材を塗工した。
【0072】
外周コート材を塗工したハニカム接合体を、600℃で熱処理して、実施例1の目封止ハニカム構造体を作製した。実施例1の目封止ハニカム構造体は、ハニカム接合体によって構成されたハニカム構造部と、外周コート材によって形成されたセグメント外周壁と、セルのいずれか一方を目封止する目封止部と、を備えたものであった。
【0073】
実施例1の目封止ハニカム構造体は、端面の直径が165mmであり、セルの延びる方向の長さが140mmであった。ハニカムセグメントを接合する接合層の厚さが1mmであった。セグメント外周壁の厚さが1mmであった。
【0074】
実施例1の目封止ハニカム構造体について、以下の方法で、隔壁の気孔率、及び累積細孔容積の測定を行った。また、累積細孔容積の測定結果を元に、細孔径D10、細孔径D30、細孔径D50、細孔径D70、及び細孔径D90を求めた。結果を、表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
(気孔率)
隔壁の気孔率の測定は、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて測定した。気孔率の測定においては、目封止ハニカム構造体から隔壁の一部を切り出して試験片とし、得られた試験片を用いて気孔率の測定を行った。試験片は、縦、横、高さのそれぞれの長さが、約10mm、約10mm、約20mmの直方体のものとした。試験片の採取は、ハニカム構造部の軸方向の中央寄りに配置されたハニカムセグメントから行った。
【0077】
(累積細孔容積)
隔壁の累積細孔容積の測定は、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて測定した。累積細孔容積の測定においても、気孔率の測定に用いた試験片を用いて測定を行った。
【0078】
また、累積細孔容積の測定結果を元に、細孔径D10、細孔径D30、細孔径D50、細孔径D70、及び細孔径D90を求めた。表1の「累積細孔容積から求まる細孔径」の欄の「D10」、「D30」、「D50」、「D70」及び「D90」に、それぞれの結果を示す。更に、この結果から、「(D70−D30)/D50」の値を求めた。結果を、表1に示す。
【0079】
実施例1の目封止ハニカム構造体は、隔壁の気孔率は、63%であった。
累積細孔容積が10%となる細孔径D10は、10.1μmであった。
累積細孔容積が30%となる細孔径D30は、14.7μmであった。
累積細孔容積が50%となる細孔径D50は、18.5μmであった。
累積細孔容積が70%となる細孔径D70は、22.6μmであった。
累積細孔容積が90%となる細孔径D90は、45.2μmであった。
【0080】
また、累積細孔容積の測定結果を元に、図5に示すような、目封止ハニカム構造体の細孔径分布を示すグラフを作成した。作成したグラフは、横軸を細孔径とし、縦軸をlog微分細孔容積とするグラフである。
【0081】
実施例1の目封止ハニカム構造体の隔壁に、以下の方法で触媒を担持した。まず、Cuゼオライトを含む触媒スラリーを調した。この触媒スラリーを、目封止ハニカム構造体に対して、乾燥後の単位体積当たりの担持量が120g/Lとなるように担持した。触媒の担持においては、目封止ハニカム構造体をディッピング(Dipping)して、余分な触媒スラリーを空気にて吹き飛ばして、含浸させた。そして120℃の温度で乾燥させ、さらに500℃、3時間の熱処理を行うことにより、触媒を担持した目封止ハニカム構造体を得た。実施例1の目封止ハニカム構造体に担持した触媒の担持量は、120g/Lである。表2に、目封止ハニカム構造体に担持した触媒の担持量を示す。
【0082】
上記のようにして触媒を担持した実施例1の目封止ハニカム構造体について、以下の方法で、「圧力損失ばらつき比率(%)」、及び「PM排出個数(×1011個/km)」の測定を行った。結果を、表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
[圧力損失ばらつき比率(%)]
まず、各実施例において、同一の製造方法によって、20個の目封止ハニカム構造体を作製し、同一の方法で触媒を担持した。次に、それぞれの目封止ハニカム構造体に、室温の空気を、10m/minの流量で流入させて、それぞれの目封止ハニカム構造体の流入端面側と流出端面側との圧力を測定した。そして、流入端面側の圧力と、流出端面側の圧力との差圧を算出し、それぞれの目封止ハニカム構造体の圧力損失(kPa)を求めた。そして、最も圧力損失が大きい目封止ハニカム構造体の圧力損失値P、最も圧力損失が小さい目封止ハニカム構造体の圧力損失値P、20個の目封止ハニカム構造体の圧力損失の平均値Pから、下記式(3)に基づいて「圧力損失ばらつき比率(%)」を求めた。「圧力損失ばらつき比率(%)」の測定においては、圧力損失ばらつき比率が、20%以下である場合を合格とし、20%超である場合を不合格とした。
【0085】
式(3):圧力損失ばらつき比率=(P−P)/(2×P)×100
(但し、式(3)において、Pは、最も圧力損失が大きい目封止ハニカム構造体の圧力損失値Pを示す。式(3)において、Pは、最も圧力損失が小さい目封止ハニカム構造体の圧力損失値Pを示す。式(3)において、Pは、20個の目封止ハニカム構造体の圧力損失の平均値Pを示す。)
【0086】
[PM排出個数(×1011個/km)]
まず、目封止ハニカム構造体をフィルタとした排気ガス浄化装置を作製した。排気ガス浄化装置の目封止ハニカム構造体の上流側には、ディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)を担持した浄化部材Aを配置した。また、排気ガス浄化装置の目封止ハニカム構造体の下流側には、選択的還元触媒(SCR:Selective Catalytic Reduction)を担持した浄化部材Bを配置した。このような排気ガス浄化装置を、3.0Lのディーゼルエンジン搭載車両のCC位置に取付け、欧州のEURO6における排出粒子数規制(PN規制)の手順に従って、粒子状物質(PM)の排出個数を測定した。なお、PNとは、「Particulate Number」の略である。PMとは、「Particulate Matter」の略である。「PM排出個数(×1011個/km)」の測定においては、6×1011個/km以下である場合を合格とし、6×1011個/km超である場合を不合格とする。
【0087】
(実施例2〜7)
表1に示すように、気孔率、及び累積細孔容積から求まる各細孔径を変更した目封止ハニカム構造体を作製した。気孔率、細孔径の調整(別言すれば、累積細孔容積の調整)は、成形原料に加える造孔材の粒子径及び添加量を調節することによって行った。
【0088】
実施例2においては、焼成後に平均細孔径が23μmとなるような粒子径の造孔材Cに、焼成後の平均細孔径が21μmとなるような粒子径の造孔材Aを1:1で配合した造孔材を用いた。
実施例3においては、焼成後に平均細孔径が27μmとなるような粒子径の造孔材Dに、焼成後の平均細孔径が16μmとなるような粒子径の造孔材Eを1:1で配合した造孔材を用いた。
実施例4においては、焼成後に平均細孔径が28μmとなるような粒子径の造孔材Fに、焼成後の平均細孔径が21μmとなるような粒子径の造孔材Aと、焼成後の平均細孔径が14μmとなるような粒子径の造孔材Gと、を1:1:1で配合した造孔材を用いた。
実施例5においては、焼成後に平均細孔径が17μmとなるような粒子径の造孔材Bに、焼成後の平均細孔径が14μmとなるような粒子径の造孔材Gを1:1で配合した造孔材を用いた。
実施例6においては、焼成後に平均細孔径が23μmとなるような粒子径の造孔材Cに、焼成後の平均細孔径が20μmとなるような粒子径の造孔材Hを1:1で配合した造孔材を用いた。
実施例7においては、焼成後に平均細孔径が20μmとなるような粒子径の造孔材Hに、焼成後の平均細孔径が17μmとなるような粒子径の造孔材Bを1:1で配合したものを用いた。
【0089】
(実施例8〜13)
表3に示すように、隔壁の厚さを変更した以外は、実施例1と同様の方法で目封止ハニカム構造体を作製した。
【0090】
(実施例14〜16)
表5に示すように、気孔率、及び累積細孔容積から求まる各細孔径を変更した目封止ハニカム構造体を作製した。気孔率、細孔径の調整(別言すれば、累積細孔容積の調整)は、成形原料に加える造孔材の粒子径及び添加量を調節することによって行った。
【0091】
実施例14においては、焼成後に平均細孔径が21μmとなるような粒子径の造孔材Aに、焼成後の平均細孔径が17μmとなるような粒子径の造孔材Bを1:1で配合した造孔材を用いた。
実施例15においては、焼成後に平均細孔径が21μmとなるような粒子径の造孔材Aに、焼成後の平均細孔径が16μmとなるような粒子径の造孔材Eを1:1で配合した造孔材を用いた。
実施例16においては、焼成後に平均細孔径が24μmとなるような粒子径の造孔材Iに、焼成後の平均細孔径が19μmとなるような粒子径の造孔材Jを1:1で配合した造孔材を用いた。
【0092】
(比較例1〜7)
表1に示すように、気孔率、及び累積細孔容積から求まる各細孔径を変更した目封止ハニカム構造体を作製した。気孔率、細孔径の調整(別言すれば、累積細孔容積の調整)は、成形原料に加える造孔材の粒子径及び添加量を調節することによって行った。
【0093】
実施例2〜7及び比較例1〜7の目封止ハニカム構造体に、表2の「触媒の担持量」の欄に示すような量の触媒を担持し、実施例1と同様の方法で、「圧力損失ばらつき比率(%)」、「PM排出個数(×1011個/km)」の測定を行った。結果を、表2に示す。
【0094】
実施例1,6,8〜16の目封止ハニカム構造体について、以下の方法で、「圧力損失」、及び「圧縮強度」の測定を行った。そして、測定した「圧力損失」及び「圧縮強度」の測定値について、実施例1の目封止ハニカム構造体の測定値をそれぞれ100%とした場合の比率を算出した。結果を、表4、及び表6に示す。
【0095】
[圧力損失]
まず、各実施例の目封止ハニカム構造体に、室温の空気を、10m/minの流量で流入させて、それぞれの目封止ハニカム構造体の流入端面側と流出端面側との圧力を測定した。そして、流入端面側の圧力と、流出端面側の圧力との差圧を算出し、それぞれの目封止ハニカム構造体の圧力損失(kPa)を求めた。なお、圧力損失の測定は、目封止ハニカム構造体に触媒を担持しない状態で行った。
【0096】
[圧縮強度]
ハニカム構造体の流路方向に対して平行な方向に、直径25.4mm、長さ25.4mmの試験片をくりぬき、圧縮強度測定用の試験片を作製した。作製した試験片の流路方向に、圧縮試験機を用いて、1mm/分にて荷重を加え、試験片が破壊したときの荷重Fを測定した。圧縮試験機は、INSTRON4206(商品名)を用いた。そして、測定した荷重Fを、試験片の断面積P(=506mm)で除算することで、ハニカム構造体の圧縮強度を求めた。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
(結果)
実施例1〜7の目封止ハニカム構造体は、圧力損失ばらつき比率の値が全て20%以下に収まっていた。すなわち、実施例1〜7の目封止ハニカム構造体のそれぞれは、複数個の目封止ハニカム構造体を作製し、それぞれに触媒を担持した場合に、圧力損失のばらつきが小さくなることが確認された。また、実施例1〜7の目封止ハニカム構造体は、PM排出個数が、6×1011個/km以下であり、排気ガス浄化用のフィルタとして良好に用いることができるものであった。
【0102】
一方、比較例1〜3,5〜7の目封止ハニカム構造体は、圧力損失ばらつき比率の値が非常に大きくなるという結果となった。また、比較例4の目封止ハニカム構造体は、PM排出個数が非常に多くなるという結果となった。
【0103】
表4に示すように、実施例1,8〜13の目封止ハニカム構造体は、隔壁の厚さが厚くなるにしたがって、圧力損失が増大することが確認された。また、実施例1,8〜13の目封止ハニカム構造体は、隔壁の厚さが薄くなるにしたがって、圧縮強度が低下することが確認された。隔壁の厚さが0.470mmの実施例8の目封止ハニカム構造体は、基準となる実施例1の目封止ハニカム構造体の圧力損失に対して、その圧力損失が200%を超えることが分かった。また、隔壁の厚さが0.130mmの実施例13の目封止ハニカム構造体は、基準となる実施例1の目封止ハニカム構造体の圧縮強度に対して、その圧縮強度が50%を下回ることが分かった。
【0104】
表6に示すように、実施例1,6,14〜16の目封止ハニカム構造体は、隔壁の気孔率が上昇するにしたがって、圧縮強度が低下することが確認された。また、実施例1,6,14〜16の目封止ハニカム構造体は、隔壁の気孔率が低下するにしたがって、圧力損失が増大することが確認された。隔壁の気孔率が72%の実施例14の目封止ハニカム構造体は、基準となる実施例1の目封止ハニカム構造体の圧縮強度に対して、その圧縮強度が50%を下回ることが分かった。また、隔壁の気孔率が45%の実施例16の目封止ハニカム構造体は、基準となる実施例1の目封止ハニカム構造体の圧力損失に対して、その圧力損失が200%を超えることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の目封止ハニカム構造体は、排気ガスに含まれる微粒子等を除去するための捕集フィルタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1,21:隔壁、2,22:セル、3:外周壁、4,24:ハニカム構造部、5,25:目封止部、11,31:流入端面、12:流出端面、26:ハニカムセグメント、27:セグメント外周壁、28:接合層、100,200:目封止ハニカム構造体。
図1
図2
図3
図4
図5