特許第6802098号(P6802098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802098
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20201207BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   G01R15/20
   H05K9/00 H
   G01R15/20 D
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-56510(P2017-56510)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-159607(P2018-159607A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大岡 信治
(72)【発明者】
【氏名】中俣 景太
(72)【発明者】
【氏名】中山 航
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−200438(JP,A)
【文献】 特開2010−276422(JP,A)
【文献】 特開2012−108147(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0231198(US,A1)
【文献】 特開2016−171114(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104871018(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 15/00−17/22、
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びている第1導体と、
前記第1導体と平行に延びており、前記第1方向と直交する第2方向で前記第1導体と並んでいる第2導体と、
前記第1方向と前記第2方向の夫々に直交する第3方向で前記第1導体に隣接しており、感磁方向が前記第2方向を向いている磁電変換素子と、
前記第3方向で前記第1導体と前記第2導体と前記磁電変換素子を挟んでいる一対のシールド板と、
を備えており、
少なくとも前記磁電変換素子に近い側の前記シールド板は、前記第1及び前記第2導体と対向する面の前記磁電変換素子と対向している範囲が前記第2導体の方に傾いている、電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、電流センサに関する。特に、平行に延びている2本の導体の少なくとも一方に磁電変換素子が隣接しているとともに、2本の導体と磁電変換素子が一対のシールド板に挟まれている電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
上記した電流センサが例えば特許文献1に開示されている。磁電変換素子は、電流計測対象の導体を流れる電流に起因してその導体の回りに発生する磁束を計測する。磁束と電流の間の所定の関係に基づき、計測された磁束の大きさからその導体に流れる電流の大きさが特定できる。
【0003】
今、説明の便宜のため、着目している磁電変換素子が電流を計測する対象の導体を対象導体と称し、対象導体でない導体を非対象導体と表記する。また、説明のための座標系として、次の座標系を導入する。座標系のX軸を導体の延設方向に定め、Y軸を複数の導体の並び方向に定め、X軸とY軸の夫々に直交する方向をZ軸に定める。また、導体に流れる電流に起因してその導体の周囲に発生する磁束を、便宜的に、「導体が発生する磁束」と表記することにする。さらに、本明細書では、非対象導体も含めて電流センサと称する。
【0004】
非対象導体が発生する磁束の影響を低減するため、磁電変換素子は、Z方向で対象導体に隣接配置される。一対のシールド板は、外部からのノイズ磁束を遮断すべく、複数の導体と磁電変換素子をZ方向で挟んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−038203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、シールド板は、外部からの磁束を遮断するために設けられている。しかし、非対象導体が発生する磁束の一部はシールド板を通る。その磁束は、非対象導体を囲むように環状に流れる。その磁束を説明する図を図12に示す。図12は、電流センサ102をX軸に直交する断面でカットした断面図である。電流センサ102は、対象導体である第1導体103と非対象導体である第2導体104と磁電変換素子105とシールド板106、107を備える。磁電変換素子105は、第1導体103(対象導体)が発生する磁束Btを計測し、不図示の処理回路が計測された磁束の大きさを電流値に変換して出力する。磁電変換素子105は、感磁方向がY方向を向く姿勢で配置される。図中の矢印Sdが磁電変換素子105の感磁方向を示している。第2導体104を電流が紙面手前から奥側に流れるとき、第2導体104が発生する磁束は、紙面右回りに第2導体104を囲むように流れる。第2導体104が発生する磁束は、上シールド板106を左から右へ流れ、上シールド板106の右端付近で上シールド板106から下シールド板107へと流れる。磁束は下シールド板107を右から左へ流れ、左端付近で下シールド板107から上シールド板106へと環状に流れる。電流が紙面奥側から手前側に流れるときには磁束は上記の向きと逆に流れる。図12の太線Bnが、第2導体104が発生する磁束を表している。シールド板106、107の対向面が平行であると、太線Bnが示すように、一対のシールド板106、107の間では、磁束は第2導体104から離れる方向に膨らむように湾曲する。第2導体104が発生する磁束Bnは、磁電変換素子105を横切るときにY方向成分、即ち感磁方向成分を持つ(磁束Bnにおいて、矢印Axが示す箇所ではY方向成分を有する)。なお、図中の符号Rが示す箇所は、磁束Bnの上シールド板106への入射角度を示している。磁電変換素子105は、第2導体104が発生する磁束(ノイズ磁束Bn)の一部を計測してしまい、第1導体(対象導体)の電流計測値の精度が低下してしまう。本明細書は、少なくとも2本の導体が一対のシールド板で挟まれている電流センサに関し、第2導体(非対象導体)が発生する磁束による電流計測精度の低下を抑える技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する電流センサは、第1導体、第2導体、磁電変換素子、一対のシールド板を備えている。第1導体と第2導体は、X方向(第1方向)に沿って平行に延びている。第1導体と第2導体は、Y方向(第2方向)で並んでいる。磁電変換素子は、Z方向(第3方向)で第1導体に隣接している。磁電変換素子は、その感磁方向がY方向(第2方向)を向く姿勢で配置されている。一対のシールド板は、Z方向(第3方向)で第1導体と第2導体と磁電変換素子を挟んでいる。そして、少なくとも磁電変換素子に近い側のシールド板は、第1及び第2導体と対向している面の磁電変換素子と対向している範囲が第2導体の方に傾いている。
【0008】
本明細書が開示する電流センサは、磁電変換素子に近い側のシールド板の面の磁電変換素子と対向する範囲を非対象導体(第1導体)の側へ傾斜させる。この傾斜により、非対象導体が発生する磁束(ノイズ磁束)の磁電変換素子における向きがZ方向寄りにシフトする。その結果、磁電変換素子の位置におけるノイズ磁束のY方向成分、即ち、感磁方向成分が減少し、ノイズ磁束の影響が低減される。本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本明細書が開示する電流センサの作用効果を説明する断面図である。
図2】実施例の電流センサが適用される電力変換器の回路図である。
図3】電力変換器の平面図である。
図4】電流センサの斜視図である。
図5図4のV−V線に沿った断面図である。
図6】第1変形例の電流センサの断面図である。
図7】第2変形例の電流センサの断面図である。
図8】第3変形例の電流センサの断面図である。
図9】第4変形例の電流センサの断面図である。
図10】第5変形例の電流センサの斜視図である。
図11図10のXI−XI線に沿った断面図である。
図12】従来の電流センサにおける磁束の流れを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照して本明細書が開示する電流センサ2の原理を説明する。電流センサ2は、本明細書が開示する技術の原理説明のための、最も簡単な構成を有する。図1は、電流センサ2の断面図である。なお、全ての図において、座標系の各軸の意味は、先に説明した通りである。図1は、X軸に直交する面でカットした電流センサ2の断面図である。電流センサ2は、電流計測対象の導体(第1導体3)、非対象導体である第2導体4、磁電変換素子5、一対のシールド板(上シールド板6と下シールド板7)を備える。なお、図示は省略しているが、一対のシールド板6、7と磁電変換素子5は樹脂本体に埋設されている。第1導体3と第2導体4は、樹脂本体を貫通している。
【0011】
第1導体3(対象導体)と第2導体4(非対象導体)はX方向に沿って平行に延びている。磁電変換素子5は、Z方向で第1導体3に隣接配置されている。磁電変換素子5は、感磁方向がY方向を向く姿勢で配置されている。図中の矢印Sdが感磁方向を示している。磁電変換素子5は、主に、第1導体3が発生する磁束Btを計測する。磁電変換素子5が計測した磁束は、不図示の処理回路に送られる。処理回路では、計測された磁束の大きさに基づいて第1導体3を流れる電流の大きさを特定する。一対のシールド板6、7は、Z方向で、第1導体3、第2導体4、磁電変換素子5を挟んでいる。従来の電流センサ102の一対のシールド板106、107の夫々の対向面は平坦であった(図12参照)。これに対して電流センサ2では、下シールド板7よりも磁電変換素子5に近い上シールド板6の下面(第1導体3及び第2導体4と対向する面)のうち、磁電変換素子5と対向する範囲(素子対向範囲6a)が非対象導体4の方に傾いている。
【0012】
図1において、太線Bnは、第2導体4が発生する磁束(ノイズ磁束Bn)を表している。一対のシールド板6、7の間では、ノイズ磁束Bnは、第2導体4から離れる方向に膨らむように湾曲する。磁電変換素子5に近い側では、上シールド板6に対するノイズ磁束Bnの入射角度Rは、比較例の図12のときの入射角度Rとほぼ同じである。しかし、上シールド板6の素子対向範囲6aが第2導体4の側に傾いているため、ノイズ磁束Bnが磁電変換素子5を横切るときのノイズ磁束Bnの向きはZ方向に近くなる(図1の符号Ayが示す箇所参照)。その結果、従来例(図12)の場合と比較して、ノイズ磁束Bnが磁電変換素子5を横切るときのノイズ磁束BnのY方向成分が小さくなる。即ち、磁電変換素子5の計測値に対するノイズ磁束Bnの影響が小さくなる。電流センサ2は、図12の従来例の電流センサ102と比較して、第2導体4(非対象導体)が発生する磁束(ノイズ磁束)による電流計測精度の低下が抑えられる。
【0013】
なお、素子対向範囲6aは、平坦でなく、湾曲していてもよい。素子対向範囲6aが湾曲している場合、「素子対向範囲6aが第2導体4の側に傾いている」とは、磁電変換素子5を通りY方向に延びる平面(図1の平面Ha)と素子対向範囲6aとのZ方向に沿った距離(図1の距離dH)が、第2導体4に近づくにつれて漸増していればよい。
【実施例】
【0014】
図2図5を参照して実施例の電流センサを説明する。まず、電流センサが適用される電力変換器を説明する。図2に、電力変換器20の回路図を示す。電力変換器20は、電気自動車において、バッテリ52の直流電力を走行用モータ(モータ23)の駆動電力に変換するデバイスである。電力変換器20は、バッテリ52の電圧を昇圧する電圧コンバータ21と、昇圧された直流電力を交流電力に変換するインバータ22を備える。電圧コンバータ21は、フィルタコンデンサ53、リアクトル54、2個のトランジスタ56a、56b、2個のダイオードを備えている。2個のトランジスタ56a、56bは、直列に接続されている。夫々のトランジスタ56a、56bに、ダイオードが逆並列に接続されている。トランジスタ56a、56bの直列接続は、電圧コンバータ21の高電圧端(インバータ側の端子)に直列に接続されている。2個のトランジスタ56a、56bの直列接続の中点に、リアクトル54の一端が接続されている。リアクトル54の他端は、電圧コンバータ21の低電圧端(バッテリ側の端子)の正極に接続されている。低電圧端の正極と負極の間にフィルタコンデンサ53が接続されている。図2の電圧コンバータ21は、バッテリ52の電圧を昇圧してインバータ22に供給する昇圧動作と、インバータ22から送られる電力(モータ23が発電した回生電力)を降圧してバッテリ52を充電する降圧動作の双方を行うことができる。電圧コンバータ21は、いわゆる双方向DC−DCコンバータである。図2の電圧コンバータ21の回路構成と機能はよく知られているので詳しい説明は省略する。
【0015】
インバータ22は、2個のトランジスタの直列接続が3組並列に接続された構成を有している。トランジスタ56c、56dが直列に接続されており、トランジスタ56e、56fが直列に接続されており、トランジスタ56g、56hが直列に接続されている。各トランジスタにダイオードが逆並列に接続されている。3組の直列接続の中点から交流が出力される。インバータ22の交流出力がモータ23に供給される。図2のインバータ22の回路構成と動作も良く知られているので詳しい説明は省略する。電圧コンバータ21とインバータ22の間に平滑コンデンサ57が並列に接続されている。平滑コンデンサ57は、電圧コンバータ21とインバータ22の間を流れる電流の脈動を抑える。
【0016】
電力変換器20は、インバータ22の三相交流出力のうち2相の電流を同時に計測する電流センサ10を備えている。電流センサ10は、インバータ22の出力端子から電力変換器20の出力端子の間を接続する3本のバスバのうちの2本のバスバの夫々の近傍に磁電変換素子11a、11bを設置したユニットである。なお、バスバとは、大電流を低損失で伝達するのに適した金属細長板(細長棒)の導体である。電流センサ10の計測データはコントローラ59に送られる。コントローラ59は、二相の電流の計測値から、残りの一相の電流を推定する。コントローラ59は、不図示の上位コントローラからモータ23の目標出力を受信し、その目標出力が実現されるように、電流センサ10の計測値をフィードバックしながらトランジスタ56a−56hを駆動する。なお、図1では、破線矢印が信号線を示している。コントローラ59からトランジスタ56a、56bへの信号線は示してあるが、トランジスタ56c−56hへの信号線は図示を省略してある。
【0017】
図3に電力変換器20のハードウエアの平面図を示す。電力変換器20の8個のトランジスタ56a−56hは、2個ずつカードタイプの半導体モジュール31a−31dに収容されている。電圧コンバータ21の2個のトランジスタ56a、56b(及びダイオード)は、半導体モジュール31aに収容されている。2個のトランジスタ56a、56bは半導体モジュール31aの内部で直列に接続されている。ダイオードは半導体モジュール31aの内部で各トランジスタ56a、56bに逆並列に接続されている。トランジスタ56c、56dの直列接続が半導体モジュール31bに収容されており、トランジスタ56e、56fの直列接続が半導体モジュール31cに収容されており、トランジスタ56g、56hの直列接続が半導体モジュール31dに収容されている。4個の半導体モジュール31a−31dは、複数の平板型の冷却器32と積層され、積層ユニット37を構成する。なお、図3では、積層ユニット37の両端の冷却器にのみ、符号32を付し、それらの間の冷却器に対しては符号を省略した。4個の半導体モジュール31a−31dと複数の冷却器32は、一つずつ交互に積層されている。半導体モジュール31a−31dのそれぞれは、その両面から冷却される。積層ユニット37は、筐体30の内壁と板バネ39の間で積層方向に加圧されつつ、筐体30に収容されている。
【0018】
各半導体モジュール31a−31dの上面から出力端子が延びている。端子33が、2個のトランジスタの直列接続の中点に導通する端子である。半導体モジュール31aの端子33は、バスバ35を介してリアクトル54の一端に接続されている。半導体モジュール31b−31dの端子33の夫々は、バスバ13a−13cを介して筐体30の外側に設けられた出力端子34に接続されている。出力端子34にモータ23から延びるパワーケーブルが接続される。バスバ13aに隣接するように磁電変換素子11aが配置されており、バスバ13bに隣接するように磁電変換素子11bが配置されている。先に述べたように、磁電変換素子11a、11bが、インバータ22の三相交流出力のうちの二相の電流の夫々に対応する磁束を同時に計測する電流センサ10を構成する。
【0019】
積層ユニット37に隣接してコンデンサユニット38が配置されている。コンデンサユニット38には、図2で説明したフィルタコンデンサ53と平滑コンデンサ57が収容されている。図2で示されているように、2個のトランジスタの直列接続は全て、その高電位側の端子と低電位側の端子が平滑コンデンサ57に並列に接続されている。図3において、半導体モジュール31a−31dのほかの端子、すなわち、2個のトランジスタの直列接続の高電位側の端子と低電位側の端子と、平滑コンデンサ57とを接続するバスバは図示を省略した。
【0020】
電流センサ10の磁電変換素子11aは、電流計測対象のバスバ13aを流れる電流に起因して発生する磁束(バスバ13aが発生する磁束)を計測する。磁電変換素子11bは、電流計測対象のバスバ13bを流れる電流に起因して発生する磁束(バスバ13bが発生する磁束)を計測する。電流センサ10は、計測された磁束の大きさからそのバスバを流れる電流の大きさを特定する。一方、上記したように電力変換器20の筐体30の内部にはバスバ13a−13c、35が配策されているとともに、コイル54aを有するリアクトル54が収容されている。それらは、半導体モジュール31a−31dに収容されているトランジスタ56a−56hのスイッチング動作に起因してノイズ磁束を発生する。ノイズ磁束は電流センサ10の電流計測精度を低下させる。そこで、電流センサ10は、磁電変換素子11a、11bを外部のノイズ磁束から保護するシールド板を備えている。次に、シールド板を含む電流センサ10の構造について説明する。
【0021】
図4に、電流センサ10の斜視図を示す。電流センサ10は、計測対象の電流を流すバスバ13a、13bと、夫々のバスバに対応した磁電変換素子11a、11bと、一対のシールド板(上シールド板14とシールド板15)と、樹脂モールド16と、不図示のデータ処理回路を備える。なお、電流センサ10には、電流計測対象のバスバ13a、13b以外のバスバ13cも含まれる。
【0022】
図4以降には座標系を示している。先に述べたように、座標系のX軸は、バスバ13a−13cの延設方向に延びており、Y軸は、複数のバスバ13a−13cの並び方向に延びており、Z軸はX軸とY軸の夫々に直交する。バスバ13a、13bの夫々には切欠12a、12bが設けられており、磁電変換素子11a、11bは、夫々、各バスバの切欠に配置されている。切欠12a、12bは、Y方向からみて同じ位置に配置されている。バスバに切欠を設けると、バスバの切欠の残り部分に電流が集中し、周囲に発する磁束の密度が高くなる。磁電変換素子11a(11b)を切欠12a(12b)に配置することによって、磁電変換素子11a(11b)が計測する磁束密度が高くなり、電流計測精度が高まる。
【0023】
バスバ13a−13cと磁電変換素子11a、11bをZ方向で挟み込むように上シールド板14と下シールド板15が配置されている。シールド板14、15の間は、樹脂モールド16で満たされている。即ち、磁電変換素子11a、11bは、樹脂モールド16に埋設されている。図4では、理解を助けるため、樹脂モールド16をグレーで示してある。上シールド板14と下シールド板15の夫々は、磁電変換素子11a、11bと対向する面が傾斜している。シールド板14、15について次に説明する。
【0024】
図4のV−V線に沿った断面図を図5に示す。図5では、図の見やすさを優先し、樹脂モールド16に対して断面を表すハッチングは省略した。磁電変換素子11aは、バスバ13aに流れる電流に起因して発生する磁束Bt(バスバ13aが発生する磁束Bt)を計測する。計測された磁束Btは、不図示のデータ処理回路により、バスバ13aを流れる電流の大きさに変換されて出力される。磁電変換素子11aにとって、バスバ13aが対象導体であり、バスバ13b、13cは、非対象導体に相当する。
【0025】
磁電変換素子11aは、バスバ13aに対してZ方向で隣接しており、磁電変換素子11aの位置では、計測対象の磁束BtはY方向を向く。磁電変換素子11aは、その感磁方向SdがY方向を向くように配置されており、バスバ13aが発生する磁束Btを正確に計測することができる。ただし、磁電変換素子11aにとってバスバ13b、13cは非対象導体であり、それらのバスバが発生する磁束はノイズ磁束となる。バスバ13b、13cが発生する磁束は、上シールド板14と下シールド板15を通過するとともに、上シールド板14と下シールド板15の間を往復する。先に図1を参照して説明したように、上シールド板14は、バスバ13a−13cと対向している面のうち、磁電変換素子11aと対向している範囲(素子対向範囲14a)が、非対象導体(バスバ13b、13c)の方に傾いている。下シールド板15も同様に、バスバ13a−13cと対向している面のうち、磁電変換素子11aと対向している範囲(素子対向範囲15a)が、非対象導体(バスバ13b、13c)の方に傾いている。図1を参照して説明したように、シールド板14、15の素子対向範囲の傾斜により、磁電変換素子11aに対するノイズ磁束の影響を抑えることができる。
【0026】
磁電変換素子11bは、バスバ13bを流れる電流に起因して発生する磁束(バスバ13bが発生する磁束)を計測する。磁電変換素子11bのバスバ13a−13cと一対のシールド板(上シールド板14と下シールド板15)に対する幾何学的関係は磁電変換素子11aの場合と同じである。磁電変換素子11bの対象導体はバスバ13bである。磁電変換素子11bは、Z方向でバスバ13bと隣接しており、その感磁方向SdはY方向を向いている。磁電変換素子11bにとってはバスバ13a、13cが非対象導体であり、それらが発生する磁束がノイズ磁束となる。上シールド板14は、バスバと対向している面のうち、磁電変換素子11bと対向している範囲(素子対向範囲14b)が、非対象導体(バスバ13a、13c)の方に傾いている。下シールド板15も同様に、バスバと対向している面のうち、磁電変換素子11bと対向している範囲(素子対向範囲15b)が、非対象導体(バスバ13a、13c)の方に傾いている。一対のシールド板(上シールド板14、下シールド板15)の素子対向範囲の傾斜により、磁電変換素子11bに対するノイズ磁束の影響を抑えることができる。
【0027】
以下、電流センサの変形例を説明する。なお、以下の図6−9、図11の断面図でも、図5と同様に、樹脂モールド16に対しては断面を示すハッチングは省略した。また、以下の変形例では、実施例の電流センサ10の部品と同じ部品には同じ符号を付し、説明は省略する。
【0028】
図6に、第1変形例の電流センサ110の断面図を示す。電流センサ110では、一対のシールド板(上シールド板14、下シールド板115)のうち、上シールド板14が、下シールド板115と比較して、磁電変換素子11a、11bの近くに位置する。上シールド板14において、バスバ13a−13cに対向する下面のうち、バスバ13aの電流を計測する磁電変換素子11aと対向している範囲(素子対向範囲14a)は、磁電変換素子11aにとって非対象導体であるバスバ13b、13cの方向に傾いている。また、バスバ13bの電流を計測する磁電変換素子11bと対向している範囲(素子対向範囲14b)は、磁電変換素子11bにとって非対象導体であるバスバ13a、13cの方向に傾いている。この点は、先の電流センサ10と同様である。電流センサ110では、磁電変換素子11a、11bから遠い方の下シールド板115は、バスバ13a−13cに対向する上面115aがZ方向に対して垂直である。このように、一対のシールド板14、115のうち、少なくとも磁電変換素子11a、11bに近い側のシールド板の素子対向範囲14a、14bが、非対象導体の方に傾いていれば、ノイズ磁束の影響低減を期待できる。
【0029】
図7に、第2変形例の電流センサ210の断面図を示す。電流センサ210では、一対のシールド板214、215の磁電変換素子11aに対向する範囲(素子対向範囲214a、215a)が、非対象導体であるバスバ13b、13cの方に傾いているが、それらの範囲が平坦でなく、凹面状に湾曲している。このように、素子対向範囲214a、215aは非対象導体の方に傾いていれば、湾曲していてもよい。素子対向範囲214a、215aは、磁電変換素子11aを通りY方向に延びる平面Haと素子対向範囲214a(215a)とのZ方向に沿った距離dH1(dH2)が、非対象導体(バスバ13b、13c)に近づくにつれて漸増していればよい。電流センサ210では、バスバ13bの電流を計測する磁電変換素子11bに対する素子対向面214b、215bも、非対象導体(バスバ13a、13c)の方に傾いているが、凹面状に湾曲している。
【0030】
図8に、第3変形例の電流センサ310の断面図を示す。電流センサ310では、一対のシールド板314、315の磁電変換素子11aに対向する範囲(素子対向範囲314a、315a)が、非対象導体であるバスバ13b、13cの方に傾いているが、それらの範囲が平坦でなく、凸面状に湾曲している。同様に、磁電変換素子11bに対向する範囲(素子対向範囲314b、315b)が、非対象導体であるバスバ13a、13cの方に傾いているが、それらの範囲が平坦でなく、凸面状に湾曲している。このように素子対向範囲は凸面状に湾曲していてもよい。素子対向範囲の湾曲面は、フライス等による加工で実現することができる。
【0031】
図9に第4変形例の電流センサ410の断面図を示す。電流センサ410では、一対のシールド板(上シールド板414、下シールド板415)は、折れ曲がっている。この電流センサ410でも、バスバ13aの電流を計測する磁電変換素子11aに対する素子対向範囲414a、415aは、非対象導体であるバスバ13b、13cの方に傾いている。また、バスバ13bの電流を計測する磁電変換素子11bに対する素子対向範囲414b、415bは、非対象導体であるバスバ13a、13cの方に傾いている。このように、シールド板414、415を折り曲げて、非対象導体の方に傾いている素子対向範囲を実現してもよい。
【0032】
図10に第5変形例の電流センサ510の斜視図を示し、図11に、図10のXI−XI線に沿った断面図を示す。図10では、樹脂モールド16の図示は省略した。電流センサ510では、上シールド板514が、3カ所にスリット514cを備えており、夫々のスリットにバスバ13a−13cの夫々が嵌合する。下シールド板515も3カ所にスリット515cを備えており、夫々のスリットにバスバ13a−13cの夫々が嵌合する。なお、図10では、下シールド板515の2箇所のスリットは隠れて見えない。図11に示すように、電流センサ510でも、バスバ13aの電流を計測する磁電変換素子11aに対する素子対向範囲514a、515aは、非対象導体であるバスバ13b、13cの方に傾いている。また、バスバ13bの電流を計測する磁電変換素子11bに対する素子対向範囲514b、515bは、非対象導体であるバスバ13a、13cの方に傾いている。一対のシールド板514、515は、少なくともバスバ13a−13cの夫々の一部を挟んでいればよく、図10、11のように、バスバ13a−13cの別の一部が一対のシールド板514、515の間から外れていてもよい。シールド板514、515にスリットを設け、バスバ13a、13cの一部を一対のシールド板514、515の間の空間から外側へ出すことにより、シールド板514、515の間の距離を短くすることができる。その結果、電流センサ510を小型化することができる。
【0033】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。磁電変換素子11aにとってはバスバ13aが電流計測の対象導体であり、バスバ13b、13cは非対象導体に相当する。磁電変換素子11aに着目すると、バスバ13aが第1導体に相当し、バスバ13b、13cが第2導体に相当する。磁電変換素子11bにとっては、バスバ13bが電流計測の対象導体であり、バスバ13a、13cは非対象導体である。磁電変換素子11bに着目すると、バスバ13bが第1導体に相当し、バスバ13a、13cは第2導体に相当する。
【0034】
実施例のX方向が請求項の第1方向に相当し、Y方向が第2方向に相当し、Z方向が第3方向に相当する。
【0035】
実施例の電流センサは、3本のバスバを有し、2個の磁電変換素子を備えている。並んでいるバスバは、2本以上であれば何本でもよい。電流センサは、少なくとも1個の磁電変換素子を備えていればよい。なお、本明細書が開示する電流センサでは、複数のバスバの並びの端に位置するバスバに対応する磁電変換素子に対して、シールド板の素子対向範囲が他のバスバの方へ傾斜していればよい。
【0036】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0037】
2、10、102、110、210、310、410、510:電流センサ
3、103:対象導体
4、104:非対象導体
5、11a、11b、105:磁電変換素子
6、14、106、114、214、314、414、514:上シールド板
6a:素子対向範囲
7、15、107、115、215、315、415、515:下シールド板
12a、12b:切欠
13a−13c:バスバ
14a、14b、15a、15b、214a、214b、215a、215b、314a、314b、315a、315b、414a、414b、415a、415b、514a、514b、515a、515b:素子対向範囲
514c、515c:スリット
16:樹脂モールド
20:電力変換器
21:電圧コンバータ
22:インバータ
23:モータ
30:筐体
31a−31d:半導体モジュール
32:冷却器
37:積層ユニット
38:コンデンサユニット
39:板バネ
52:バッテリ
53:フィルタコンデンサ
54:リアクトル
54a:コイル
56a−56h:トランジスタ
57:平滑コンデンサ
59:コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図12