(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、車両用内燃機関の制御システム100を示すブロック図であり、制御システム100は、メイン制御ユニットであるECM200(Engine Control Module)とサブ制御ユニットであるVTCコントローラ300とを含んで構成される。
なお、VTCコントローラ300は、本発明に係る車両用電子制御装置の一態様であり、また、本発明に係るポート設定方法を適用する車両用電子制御装置の一態様である。
【0010】
ECM200は、図示を省略した車両用内燃機関に備えられた燃料噴射弁、電制スロットル弁などのアクチュエータを制御する電子制御装置である。
ECM200は、CPU(Central Processing Unit)211,ROM(Read Only Memory)212,RAM(Random Access Memory)213などを含むマイクロコンピュータ210、VTCコントローラ300とCAN(Controller Area Network)400を介して通信するためのCAN通信回路220などを備える。
【0011】
また、VTCコントローラ300は、車両用内燃機関に備えられたアクチュエータであるバルブタイミング制御システム(Valve Timing Control system)500の動力源であるモータ510を制御する電子制御装置である。
バルブタイミング制御システム500は、車両用内燃機関のクランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相をモータ510によって連続的に変化させることで、エンジンバルブ(吸排気バルブ)のバルブタイミングを連続的に変化させる、電動式のバルブタイミング制御システムである。
【0012】
VTCコントローラ300は、CPU311,ROM312,RAM313などを含むマイクロコンピュータ310、マイクロコンピュータ310の外部に設けられる書き換え可能な不揮発性メモリであるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)320、ECM200とCAN400を介して通信するためのCAN通信回路330、モータ510の駆動回路340、バルブタイミング制御システム500で調整される回転位相を検出するためのセンサ信号S1、センサ信号S2を入力するための入力回路350a,350bなどを備える。
【0013】
なお、マイクロコンピュータ310は、書き換え可能な不揮発性メモリであるEEPROMを内蔵することができる。
また、上記のセンサ信号S1,S2は、例えば、センサ信号S1がクランクシャフトの所定回転角毎のパルス信号であり、センサ信号S2がカムシャフトの所定回転角毎のパルス信号である。
【0014】
そして、ECM200は、各種のセンサ信号を入力して演算処理を行い、燃料噴射弁、電制スロットル弁などの各種アクチュエータに操作信号を出力する機能をソフトウェアとして備える。
また、ECM200は、各種のセンサ信号に基づきバルブタイミング制御システム500で調整される回転位相RPの目標値を演算し、演算した目標値のデータをVTCコントローラ300にCAN400を介して送信する。
【0015】
VTCコントローラ300は、センサ信号S1,S2に基づきバルブタイミング制御システム500で調整される回転位相RPを検出し、回転位相RPの検出値が目標値に近づくようにモータ510の操作信号を決定して出力する機能をソフトウェアとして備える。
更に、VTCコントローラ300のマイクロコンピュータ310は、電源投入時の初期化処理において、入出力ポートの入出力状態の切り替え(ポートの入出力状態の初期設定)を行う機能をソフトウェアとして備える。
【0016】
図1に示した例では、マイクロコンピュータ310は、11個の入出力ポート314a−314kを有する。
そして、
図1に例示する車種の仕様では、各ポート314a−314kの入出力状態は以下のように設定される。
ポート314aはCAN通信用の出力ポート、ポート314bはCAN通信用の入力ポート、ポート314cはセンサ信号S1用の入力ポート、ポート314dはセンサ信号S2用の入力ポート、ポート314e−314gは駆動回路340用の出力ポート、ポート314h−ポート314jはEEPROM320用の出力ポート、ポート314kはEEPROM320用の入力ポートである。
なお、本発明に係るポート設定方法を適用するポートには、装置の外部に接続する機器との情報の入出力に使用するインタフェースのポート(I/Oポート)の他、タイマ入出力・通信等のマイクロコンピュータの入出力ポートを含めることができる。
【0017】
ところで、車両の設計/開発段階で、制御対象であるバルブタイミング制御システム500の機器構成(ハードウェア)が車種毎に変更され、新旧の機器構成でマイクロコンピュータ310のポートの入出力状態が異なる仕様に設定される場合がある。
そこで、車種に応じた機器構成に固有の識別データをプログラム内にROM定数として設定しておき、マイクロコンピュータ310が、前記識別データに応じてポートの入出力状態の初期設定を切り替える構成としてある。
なお、車種に応じた機器構成に固有の識別データを、プログラム内にROM定数として設定する構成の他、EEPROM320(外部EEPROM)やマイクロコンピュータ310内部のEEPROMに設定(格納)することができ、更に、プログラム内にROM定数として設定するとともに、内部又は外部のEEPROMに設定することができる。つまり、VTCコントローラ300は、車種に応じた機器構成に固有の識別データを記憶する不揮発性メモリを備えればよい。
【0018】
係る構成であれば、識別データの設定によって新旧の機器構成それぞれに適合する仕様に入出力ポートを切り替えて開発実験などを実行できる。つまり、識別データは、複数仕様のポート入出力状態の中から1つを指定するデータである。
そして、製品となる際は最終仕様に対応する識別データを設定することになるが、何等かの理由で識別データが正しくない値になっていると、マイクロコンピュータ310のポートが本来とは異なる入出力状態に初期設定されることで、過電流などによって制御装置の損傷を招く可能性がある。
【0019】
識別データが正しくない値になっている場合の対策として、マイクロコンピュータ310が識別データの正常・異常を判断し、異常時にはポートをデフォルトに設定する構成とすれば、ポートが誤った入出力状態に設定されることに因って、VTCコントローラ300が損傷することを抑制できる。
但し、マイクロコンピュータ310のポートがデフォルトに初期設定されると、マイクロコンピュータ310は、ポートを介した入出力が行えない状態、つまり、バルブタイミング制御システム500によってバルブタイミングを適切に制御することができない状態になり、内燃機関の性能を低下させる場合がある。
【0020】
そこで、VTCコントローラ300のマイクロコンピュータ310は、後で詳細に説明するように、識別データが正常であるか異常であるかを検出する異常検出部、識別データが正常であるときに、マイクロコンピュータ310のポート314a−314kの入出力状態を、複数仕様の中の識別データに対応する入出力状態に設定する第1設定部、識別データが異常であるときに、マイクロコンピュータ310のポート314a−314kの入出力状態を、前記複数仕様の中の1つに定めた識別データ異常時用の入出力状態に設定する第2設定部としての機能をソフトウェアとして備える。
【0021】
図2のフローチャートは、マイクロコンピュータ310が実施する、識別データに応じたポート314a−314kの入出力状態の初期設定処理の一態様を示す。
なお、
図2のフローチャートに示した設定処理の一態様では、バルブタイミング制御システム500の機器構成として、新旧3つの仕様(バージョン)が存在する場合の例を示すが、機器構成として2つ以上の仕様が存在すれば、同様な処理を適用できることは明らかである。
【0022】
VTCコントローラ300のマイクロコンピュータ310は、
図2のフローチャートに示す処理を、VTCコントローラ300に電源投入されたときの初期化処理として実施し、まず、ステップS810(異常検出部)で、識別データが正常であるか異常であるかを判断する。
【0023】
例えば、
図3に示すように、識別データと共に当該識別データの反転値が設定される場合、マイクロコンピュータ310は、ステップS810で、識別データと反転値とが整合している場合に識別データが正常であると判断し、識別データと反転値とが整合しない場合に識別データが異常であると判断することができる。
また、マイクロコンピュータ310は、識別データを含むデータ領域(
図4参照)について誤り検出符号を演算し、演算した誤り検出符号と予め設定された誤り検出符号とを比較し、誤り検出符号が一致している場合に識別データが正常であると判断し、誤り検出符号が一致しない場合に識別データが異常であると判断することができる。
【0024】
図4に示した例では、識別データ及び当該識別データが対応するバルブタイミング制御システム500の機器構成の情報や車種情報などが記憶されて、この識別データ及び機器構成の情報を含むデータ領域(メモリ領域)を、誤り検出符号の演算を行う領域に設定した例を示す。
また、マイクロコンピュータ310は、誤り検出符号として例えばチェックサム及びパリティを演算する。
【0025】
識別データを含む部分的なメモリ領域について誤り検出符号を演算する構成であれば、メモリ全体の診断を行う場合に比べて診断に要する時間が短く、ポート初期設定に要する時間を短くできる。
なお、識別データの異常検出の方法は上記の方法に限定されない。例えば、マイクロコンピュータ310は、識別データを、プログラム内にROM定数として設定するとともに、内部又は外部のEEPROMに設定し、ROM定数としての識別データとEEPROMに設定された識別データとを比較し、両識別データが一致するときに識別データは正常であると判断し、両識別データが一致しないときに識別データは異常であると判断することができる。
【0026】
マイクロコンピュータ310は、識別データが正常であると判断した場合、ステップS820に進み、識別データが3仕様の機器構成A−Cの中の機器構成Aを指定するデータであるか否かを判断する。
図5は、設計開発に伴うバルブタイミング制御システム500の機器構成及び制御ソフトウェアの変遷を例示する。
【0027】
まず、最初の機器構成として機器構成Aが制御対象とされ、当該機器構成Aでの制御ソフトウェアが第1仕様(第1バージョン)として開発された後、同じ機器構成Aで制御ソフトウェアが改良されて第2仕様(第2バージョン)として設定された。
次いで、機器構成が機器構成Aから機器構成Bに変更され、係る機器構成Bに適合する制御ソフトウェアが第3仕様(第3バージョン)として設定され、同じ機器構成Bで制御ソフトウェアが改良されて第4仕様(第4バージョン)として設定された。
更に、機器構成が機器構成Bから機器構成Cに変更され、係る変更に合わせて制御ソフトウェアが第5仕様(第5バージョン)として設定された。
【0028】
係る仕様変更がなされた一態様において、マイクロコンピュータ310は、ステップS820で、識別データが機器構成Aを指定するデータであると判断すると、ステップS830に進み、機器構成Aに対応する入出力状態(A仕様)にポート314a−314kを初期設定する(第1設定部)。
また、マイクロコンピュータ310は、ステップS820で、識別データが機器構成Aを指定するデータではないと判断すると、ステップS840に進み、識別データが機器構成Bを指定するデータであるか否かを判断する。
【0029】
そして、識別データが機器構成Bを指定するデータである場合、マイクロコンピュータ310は、ステップS850に進み、機器構成Bに対応する入出力状態(B仕様)にポート314a−314kを初期設定する(第1設定部)。
一方、識別データが機器構成Bを指定するデータでない場合、機器構成A−Cの3仕様の中の残る機器構成Cが指定されていることになるので、マイクロコンピュータ310は、ステップS860に進み、機器構成Cに対応する入出力状態(C仕様)にポート314a−314kを初期設定する(第1設定部)。
【0030】
このように、開発段階において、作業者は、プログラム内にROM定数として設定する識別データ(及び/又は、外部又は内部のEEPROMに設定する識別データ)の選択によって、旧の機器構成である機器構成A又は機器構成B(旧仕様)に対応する入出力状態にポート314a−314kを初期設定させることができ、また、最新の機器構成である機器構成C(最新仕様)に対応する入出力状態にポート314a−314kを初期設定させることもでき、識別データの設定に応じて3仕様のうちの任意の仕様にポート314a−314kを初期設定できる。
また、VTCコントローラ300の市場返却品を解析する際に、旧の機器構成(機器構成A又はB)で解析したい場合であって、プログラム内のROM定数として識別データが設定される場合、作業者は、ソフトウェアの大幅な変更を行うことなく、最新のソフトウェアのROM定数(識別データ)を旧仕様にすることのみで、旧の機器構成での解析を行える。
【0031】
上記のポート初期設定は、識別データが正常であるときの処理(第1設定部)であり、マイクロコンピュータ310は、ステップS810で識別データが異常であると判断した場合、ステップS860に進み、機器構成Cに対応する入出力状態にポート314a−314kを初期設定する(第2設定部)。
つまり、マイクロコンピュータ310は、識別データ異常時用の入出力状態として、機器構成Cに対応する入出力状態を選択し、ポート314a−314kの入出力状態を設定する。
【0032】
一般に、設計開発に伴いバルブタイミング制御システム500の機器構成を変更した場合(換言すれば、順次改良を加えていった場合)、最新仕様(最新バージョン)が量産仕様(製品仕様)になる。
したがって、識別データが異常であるときに、最新仕様である機器構成Cに対応する入出力状態にポート314a−314kを初期設定すれば、少なくとも量産仕様(量産車)で識別データが異常になった場合は、組み合わされているバルブタイミング制御システム500の機器構成に適合する入出力状態にポート314a−314kが初期設定されることになる。
【0033】
この場合、ポート314a−314kの入出力状態が適切に設定され、例えば、入力ポートに設定すべきポートを出力ポートに誤って設定してしまうことが抑止されるから、ポートの入出力状態が誤って設定されることに因り制御装置が損傷することを抑制できる。
また、識別データに異常が発生しても、ポート314a−314kをデフォルトに設定せず、最新仕様(量産仕様)である機器構成Cに対応する入出力状態にポート314a−314kを初期設定するから、識別データに異常が発生することで、バルブタイミング制御システム500の制御が不能になってしまうことを抑制でき、内燃機関の運転性能を維持できる。
【0034】
なお、VTCコントローラ300は、駆動回路340や入力回路350a,350b、EEPROM320、更には、CPU311などの内部装置について異常の有無を診断する公知の自己診断機能(自己診断部)を有し、係る自己診断機能によって識別データ以外の異常を検出していない場合に、バルブタイミング制御システム500についての制御動作を維持する。
つまり、VTCコントローラ300は、識別データに異常が生じてもポート314a−314kの初期設定を実施し、ポート314a−314kを介した入出力が可能な状態にするが、自己診断によって識別データ以外に異常が見つかると、バルブタイミング制御システム500の制御動作(モータ510への通電)を停止させたり、バルブタイミングをデフォルト位置に向けて制御したりするフェイルセール処理を実施する。
【0035】
また、VTCコントローラ300のマイクロコンピュータ310は、CAN400を介してECM200に対して識別データの異常情報を通信し、識別データの異常情報を受けたECM200は、運転者に対して、識別データの異常(或いは、バルブタイミング制御システム500の制御系の異常、内燃機関の制御系の異常)を、警告灯の点灯などによって通知する構成とすることができる。
【0036】
また、量産車において、バルブタイミング制御システム500の機器構成が異なる複数仕様が存在する場合、VTCコントローラ300の不揮発性メモリ(ROM、外部EEPROM、内部EEPROM)に、適用するバルブタイミング制御システム500の機器構成の仕様を識別する情報を書き込んでおき、リプログラミングする際には、前記情報に基づきバルブタイミング制御システム500の機器構成が互換性のあるものか否かを判断し、互換性を確認したときにリプログラミングを実行する構成とすることができる。
これにより、異なる仕様のバルブタイミング制御システム500を制御対象とするVTCコントローラ300に対して、互換性のないプログラムが誤って書き込まれることを抑止できる。
【0037】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
上記実施形態では、識別データに基づきポートの入出力状態の初期設定を行うマイクロコンピュータ310は、バルブタイミング制御システム500を制御する制御ユニットを構成するが、バルブタイミング制御システム500に代えて可変圧縮比機構を制御する制御ユニットを構成するマイクロコンピュータのポート初期設定を同様にして行わせることができ、この場合も、上記同様の作用効果を得ることができる。つまり、本発明に係る車両用電子制御装置の制御対象機器は、バルブタイミング制御システム500に限定されない。
【0038】
ここで、上述した実施形態から把握し得る技術的思想について、以下に記載する。
車両用電子制御装置は、その一態様として、マイクロコンピュータを備え、外部装置から受けた目標値に基づきアクチュエータを制御する車両用電子制御装置であり、前記アクチュエータの機器構成に固有の識別データを記憶する不揮発性メモリと、前記識別データの異常の有無を検出する異常検出部と、前記識別データが正常であるときに、前記マイクロコンピュータのポートの入出力状態を、複数仕様の中の前記識別データに対応する入出力状態に設定する第1設定部と、前記識別データが異常であるときに、前記マイクロコンピュータのポートの入出力状態を、前記複数仕様の中の最新バージョンに設定する第2設定部と、を含む。
【0039】
前記車両用電子制御装置の好ましい態様において、前記アクチュエータは、内燃機関の吸排気バルブのバルブタイミングをモータによって可変とするバルブタイミング制御システムである。
別の好ましい態様では、前記外部装置は、前記内燃機関への燃料噴射を制御する制御ユニットである。