特許第6802105号(P6802105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6802105電解コンデンサの駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802105
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】電解コンデンサの駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
   H01G9/035
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-71613(P2017-71613)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-174233(P2018-174233A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛之
(72)【発明者】
【氏名】清澤 潤一
(72)【発明者】
【氏名】西澤 和人
【審査官】 多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−275039(JP,A)
【文献】 特開昭63−175411(JP,A)
【文献】 特開平04−186713(JP,A)
【文献】 特開2008−078687(JP,A)
【文献】 特開平01−196808(JP,A)
【文献】 特開2015−090934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールとジエチレングリコールを含む混合溶媒中に、分子量300以上の高級カルボン酸と、粒径10〜20nmのコロイダルシリカが配合されており、前記ジエチレングリコールの配合割合が5〜50重量%であることを特徴とする電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項2】
前記高級カルボン酸の配合割合が1〜12.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項3】
前記コロイダルシリカの配合割合が0.5〜10重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項4】
前記高級カルボン酸が、7−ビニル−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸および、3−ドデシルアジピン酸から成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解液が含浸されているコンデンサ素子を有する電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサの駆動用電解液(以下、電解液と称する)およびそれを用いた電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは一般的な電子回路の主要部品の1つであり、様々な電子機器、電気製品においては不可欠な電子部品である。そして、最近の機器の高電圧化や耐環境性に対する要求の高まりから、従来以上の高耐電圧化と長期の耐熱安定性を実現するとともに低温特性を改善した電解コンデンサの開発が喫緊の課題となっている。
【0003】
耐電圧の向上を図る手法としては、溶質に高分子量のカルボン酸を用いることや、更なる耐電圧向上を図る手法としてコロイダルシリカを添加する手法が知られており、例えば下記の特許文献1には、電解液を構成する溶媒として、エチレングリコールとジエチレングリコールとを含む混合溶媒が使用されることや、耐電圧を向上させるためにコロイダルシリカを添加することが開示されており、電解液に添加できるカルボン酸として各種のカルボン酸が例示されている。
また、下記の特許文献2には、特定の化学構造を有する二塩基酸が電解質として溶解された電解液が開示されており、使用可能な溶媒としてジエチレングリコールが、添加物としてコロイダルシリカが各々挙げられており、各種カルボン酸も例示されている。
【0004】
さらに、下記の特許文献3には、更なる耐電圧の向上を図るために、ポリエーテルポリオールと、コロイダルシリカと、電解質塩と、有機溶媒と、を少なくとも含有する電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−72465号公報
【特許文献2】特開2015−32726号公報
【特許文献3】特開2015−26764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単に高分子量のカルボン酸とコロイダルシリカについて組成比を詳細に検討することなく併含させた場合には、高分子量のカルボン酸によってコロイダルシリカ表面の電荷のバランスが変動し、コロイダルシリカがゲル化・凝集を起こすという問題があった。これに対し、前記引用文献1および2のいずれにも、特定の分子量以上のカルボン酸とコロイダルシリカを混合することにより、ゲル化・凝集化の防止が可能な電解液組成は開示されておらず、低温特性を改善するために特定量のジエチレングリコールを添加することも記載されていない。
一方、特許文献3記載の電解液中に含まれるポリエーテルポリオールによってゲル化・凝集を抑制することができるが、この特許文献3記載の電解液の場合には、低温(−40℃)で凍結する問題があり、低温特性の改善が課題であった。
【0007】
本発明の課題は、上述の従来技術における問題点を解決し、電解液中のコロイダルシリカのゲル化・凝集が抑制でき、電解液の粘度上昇が抑制されることにより素子への含浸性が改善され、低温領域で凍結せず、良好な低温特性を有した電解液を提供することである。また、本発明は、上記の特性を有した電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々検討を行った結果、溶媒としてエチレングリコールを含み、耐電圧向上剤としてのコロイダルシリカと、分子量300以上の高級カルボン酸が配合されたアルミニウム電解コンデンサの駆動用電解液に、特定量のジエチレングリコールを添加すると、コロイダルシリカのゲル化・凝集を抑制することができ、電解液の粘度上昇が抑制されて含浸性が向上し、しかも、低温領域で凍結しない電解液が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の電解液は、エチレングリコールとジエチレングリコールを含む混合溶媒中に、分子量300以上の高級カルボン酸と、粒径10〜20nmのコロイダルシリカが配合されており、前記ジエチレングリコールの配合割合が5〜50重量%であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の特徴を有する電解液において、前記高級カルボン酸の配合割合が1〜12.5重量%であることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、前記コロイダルシリカの配合割合が0.5〜10重量%であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の特徴を有する電解液において、前記高級カルボン酸が、7−ビニル−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸および、3−ドデシルアジピン酸から成るグループより選ばれたものであることを特徴とするものである。
【0013】
さらに本発明は、上記の電解液が含浸されているコンデンサ素子を有する電解コンデンサであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解液中に特定量のジエチレングリコールを配合することによって、コロイダルシリカのゲル化・凝集が抑制でき、電解液の粘度上昇が抑制されて素子への含浸性が改善され、低温領域で凍結せず、良好な低温特性を有した電解コンデンサを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電解液中には、高耐電圧化を図るための耐電圧向上剤としてコロイダルシリカが配合されており、高分子量のカルボン酸として、分子量300以上の高級カルボン酸が配合されている。そして、この電解液には、高分子量のカルボン酸とコロイダルシリカのゲル化・凝集を抑制するために、特定量のジエチレングリコールが配合されている。
本発明の電解液におけるジエチレングリコールの配合割合は5〜50重量%であり、5〜25重量%の範囲では、低温特性が一層向上するので好ましい。
また、本発明では、電解液を構成する溶媒は、ジエチレングリコールとエチレングリコールとの混合溶媒であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の電解液における高級カルボン酸の配合割合(溶質濃度)は1〜12.5重量%で、3〜10重量%が好ましく、溶質濃度が上記範囲より小さくなるにつれて、電解液の低温領域での比抵抗が上昇して大きくなる傾向があり、上記範囲より大きくなるにつれて製品の耐電圧特性が低下する傾向がある。
また、本発明の電解液におけるコロイダルシリカの配合割合(濃度)は0.5〜10重量%で、1〜5重量%が好ましく、コロイダルシリカ濃度が上記範囲より小さくなると製品の耐電圧特性が低くなる傾向があり、当該濃度が上記範囲より大きくなると、耐電圧特性の向上効果が小さく、低温領域での比抵抗が大きくなる傾向がある。
本発明では、コロイダルシリカとして、市販されている粒径10〜20nm程度のものを用いることができる。
【0017】
なお、本発明において、低温(−40℃)で凍結せず、比抵抗の上昇を抑制するのに適した高級カルボン酸としては、分子量300〜400のジカルボン酸が好ましく、例えば、7−ビニル−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸、3−ドデシルアジピン酸などが好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の電解液は、例えば巻回型のアルミニウム電解コンデンサに用いることができる。
本発明に係る電解液を用いた電解コンデンサは、通常の方法で製造することができ、例えば、エッチング処理および酸化皮膜形成処理をした陽極箔と、エッチング処理または表面に炭素やチタン化合物を含有する処理をした陰極箔とをセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し、該コンデンサ素子に本発明の電解液を含浸させた後、有底筒状の外装ケースに収納する方法により製造できる。
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0020】
[電解液の調製]
溶質として、7−ビニル−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸(VHXD、分子量:338)、1,18−オクタデカンジカルボン酸(分子量:342)、セバシン酸(分子量:202.3)を、耐電圧向上剤として市販のコロイダルシリカ(粒径10〜20nm)を準備し、下記の表1に示す組成を有した電解液(実施例1〜5および従来例1〜3)をそれぞれ調合した後、−40℃における比抵抗を測定した。
また、調製後の各電解液について、コロイダルシリカのゲル化・凝集の有無を目視により評価した。下記の表1において、○:ゲル化・凝集は認められない、×:ゲル化・凝集が認められる、を示す。
さらに、粘度測定装置として、市販の回転式粘度計(アントンパール社製、型番:MCR−301)を用い、30℃における各電解液の粘度を測定した。
【0021】
[電解コンデンサの作製]
表1に示す各電解液を用いた電解コンデンサの評価をするにあたり、下記に示すような手順で電解コンデンサを製造した。
エッチング処理および酸化皮膜形成処理をした陽極箔とエッチング処理をした陰極箔にそれぞれ化成皮膜を形成した陽極引き出しリードと陰極引き出しリードとを接続した後、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に、表1の組成を有した各電解コンデンサ用電解液を含浸した後、アルミニウムよりなる有底筒状の外装ケースに収納した。その後、陽極引き出しリードと陰極引き出しリードとをフェノール樹脂板に取り付けられた外部端子を有する封口端子板に接続し、外装ケースの開口部には、上記封口端子板を装着し、絞り加工により密閉して、カテゴリ上限温度:105℃、定格電圧600V(化成電圧975V)、静電容量は100μF、サイズφ35×50L(mm)の電解コンデンサを作製した。
【0022】
[耐電圧の評価]
従来例1、3、および実施例1〜13の各電解液についての耐電圧の評価は、電解コンデンサに9.3mAの定電流を105℃にて印加したときに時間−電圧の上昇カーブを測定し、初めにスパークまたはシンチレーションが観測された電圧を測定し、これを耐電圧とした。上記の測定結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
上記表1における従来例1(溶質に分子量202.3のセバシン酸を使用した電解液)と実施例1〜5(本発明に係る電解液)の比較から、実施例1〜5の電解液は、従来例1の電解液に対して、30℃における粘度を大きく変化させることなく耐電圧特性が向上していることがわかる。
また、従来例2(溶質に分子量338のVHXDを使用し、ジエチレングリコールを含まない電解液)と実施例1〜5の比較から、従来例2の電解液の場合にはコロイダルシリカの凝集・ゲル化の発生が認められたが、実施例1〜5の電解液の場合には、コロイダルシリカの凝集・ゲル化は認められなかった。
さらに、従来例3(ジエチレングリコールの代わりにポリエーテルポリオールが配合された電解液)と実施例1〜5の比較から、実施例1〜5の電解液の30℃における粘度は、従来例3の電解液の粘度よりも小さく、素子への含浸性が改善されていることがわかった。そして、ポリエーテルポリオールが配合された従来例3の電解液は−40℃で凍結したのに対し、ジエチレングリコールが配合された実施例1〜5の電解液は−40℃でも凍結せず、低温特性が良好であることが確認された。
【0025】
上記表1の結果から、エチレングリコールと併含されるジエチレングリコールの配合割合が5〜50重量%(実施例1〜5)の場合には、分子量300以上の溶質を用いてもゲル化・凝集が発生せず、30℃での電解液の粘度が低く、素子に電解液を含浸する際の含浸性も改善されており、特にジエチレングリコールの配合割合が5〜25重量%の場合には低温特性(−40℃における比抵抗)が良好であることが確認された。
【0026】
[高級カルボン酸(VHXD)の溶質濃度の範囲について]
次に、VHXDの溶質濃度の最適範囲を調べるために、当該濃度を変動させ、下記の表2に示す組成を有した電解液(実施例3、6〜9)をそれぞれ調合した後、ゲル化・凝集の有無を目視にて評価し、−40℃および30℃における比抵抗を測定し、先に記載した手順で電解コンデンサを製造して耐電圧を測定した。
【0027】
【表2】
【0028】
上記の実験結果から、溶質濃度が小さくなると電解液の比抵抗が大きくなる傾向が見られた。また、溶質濃度が大きくなると耐電圧特性が低下する傾向があることが確認された。
上記表2の実験結果から、高級カルボン酸の特に好ましい溶質濃度は3〜10重量%であることがわかった。
【0029】
[コロイダルシリカの配合割合の範囲について]
さらに、コロイダルシリカの最適な配合割合の範囲を調べるために、当該割合を変動させ、下記の表3に示す組成を有した電解液(実施例3、10〜13)をそれぞれ調合した後、ゲル化・凝集の有無を目視にて評価し、−40℃および30℃における比抵抗を測定し、先に記載した手順で電解コンデンサを製造して耐電圧を測定した。
【0030】
【表3】
【0031】
上記の測定結果から、コロイダルシリカの配合割合が低いほど耐電圧特性が低下する傾向があり、他方、コロイダルシリカの配合割合が10重量%以上では、耐電圧特性の向上効果があまり大きくならず、比抵抗上昇によるデメリットの方が大きくなることがわかる。
上記表3の実験結果から、コロイダルシリカの配合割合が1〜5重量%の範囲において、特に良好な比抵抗特性と耐電圧特性の向上効果が得られることがわかった。
【0032】
上記の実験結果から、エチレングリコールとジエチレングリコールを含む混合溶媒中に、高級カルボン酸(分子量300以上)の溶質と、耐電圧向上剤としてのコロイダルシリカが配合された本発明の電解液を用いることによって、ゲル化・凝集の発生を抑制でき、製品耐電圧を顕著に向上させることができ、低温領域(−40℃)で凍結せず、比抵抗の上昇も小さくすることができ、特性が良好となることが確認された。
【0033】
なお、上記の実施例においては、分子量300以上の高級カルボン酸として、分子量が338の、7−ビニル−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸と、分子量が342の、1,18−オクタデカンジカルボン酸を使用したが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、先に記載した他の高級カルボン酸を配合した電解液を用いても、実施例と同等にその効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の電解液を使用することでゲル化・凝集が抑制でき、電解液の粘度上昇が抑制されることにより素子への含浸性が改善され、低温領域で凍結せず、良好な低温特性を有した電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサを製造することができ、上記の優れた特性を有する本発明の電解コンデンサは、各種の電子機器、電気製品に利用可能である。