【0015】
本発明の電解液中には、高耐電圧化を図るための耐電圧向上剤としてコロイダルシリカが配合されており、高分子量のカルボン酸として、分子量300以上の高級カルボン酸が配合されている。そして、この電解液には、高分子量のカルボン酸とコロイダルシリカのゲル化・凝集を抑制するために、特定量のジエチレングリコールが配合されている。
本発明の電解液におけるジエチレングリコールの配合割合は5〜50重量%であり、5〜25重量%の範囲では、低温特性が一層向上するので好ましい。
また、本発明では、電解液を構成する溶媒は、ジエチレングリコールとエチレングリコールとの混合溶媒であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の電解液における高級カルボン酸の配合割合(溶質濃度)は1〜12.5重量%で、3〜10重量%が好ましく、溶質濃度が上記範囲より小さくなるにつれて、電解液の低温領域での比抵抗が上昇して大きくなる傾向があり、上記範囲より大きくなるにつれて製品の耐電圧特性が低下する傾向がある。
また、本発明の電解液におけるコロイダルシリカの配合割合(濃度)は0.5〜10重量%で、1〜5重量%が好ましく、コロイダルシリカ濃度が上記範囲より小さくなると製品の耐電圧特性が低くなる傾向があり、当該濃度が上記範囲より大きくなると、耐電圧特性の向上効果が小さく、低温領域での比抵抗が大きくなる傾向がある。
本発明では、コロイダルシリカとして、市販されている粒径10〜20nm程度のものを用いることができる。
【実施例】
【0020】
[電解液の調製]
溶質として、7−ビニル−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸(VHXD、分子量:338)、1,18−オクタデカンジカルボン酸(分子量:342)、セバシン酸(分子量:202.3)を、耐電圧向上剤として市販のコロイダルシリカ(粒径10〜20nm)を準備し、下記の表1に示す組成を有した電解液(実施例1〜5および従来例1〜3)をそれぞれ調合した後、−40℃における比抵抗を測定した。
また、調製後の各電解液について、コロイダルシリカのゲル化・凝集の有無を目視により評価した。下記の表1において、○:ゲル化・凝集は認められない、×:ゲル化・凝集が認められる、を示す。
さらに、粘度測定装置として、市販の回転式粘度計(アントンパール社製、型番:MCR−301)を用い、30℃における各電解液の粘度を測定した。
【0021】
[電解コンデンサの作製]
表1に示す各電解液を用いた電解コンデンサの評価をするにあたり、下記に示すような手順で電解コンデンサを製造した。
エッチング処理および酸化皮膜形成処理をした陽極箔とエッチング処理をした陰極箔にそれぞれ化成皮膜を形成した陽極引き出しリードと陰極引き出しリードとを接続した後、セパレータを介して巻回してコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に、表1の組成を有した各電解コンデンサ用電解液を含浸した後、アルミニウムよりなる有底筒状の外装ケースに収納した。その後、陽極引き出しリードと陰極引き出しリードとをフェノール樹脂板に取り付けられた外部端子を有する封口端子板に接続し、外装ケースの開口部には、上記封口端子板を装着し、絞り加工により密閉して、カテゴリ上限温度:105℃、定格電圧600V(化成電圧975V)、静電容量は100μF、サイズφ35×50L(mm)の電解コンデンサを作製した。
【0022】
[耐電圧の評価]
従来例1、3、および実施例1〜13の各電解液についての耐電圧の評価は、電解コンデンサに9.3mAの定電流を105℃にて印加したときに時間−電圧の上昇カーブを測定し、初めにスパークまたはシンチレーションが観測された電圧を測定し、これを耐電圧とした。上記の測定結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
上記表1における従来例1(溶質に分子量202.3のセバシン酸を使用した電解液)と実施例1〜5(本発明に係る電解液)の比較から、実施例1〜5の電解液は、従来例1の電解液に対して、30℃における粘度を大きく変化させることなく耐電圧特性が向上していることがわかる。
また、従来例2(溶質に分子量338のVHXDを使用し、ジエチレングリコールを含まない電解液)と実施例1〜5の比較から、従来例2の電解液の場合にはコロイダルシリカの凝集・ゲル化の発生が認められたが、実施例1〜5の電解液の場合には、コロイダルシリカの凝集・ゲル化は認められなかった。
さらに、従来例3(ジエチレングリコールの代わりにポリエーテルポリオールが配合された電解液)と実施例1〜5の比較から、実施例1〜5の電解液の30℃における粘度は、従来例3の電解液の粘度よりも小さく、素子への含浸性が改善されていることがわかった。そして、ポリエーテルポリオールが配合された従来例3の電解液は−40℃で凍結したのに対し、ジエチレングリコールが配合された実施例1〜5の電解液は−40℃でも凍結せず、低温特性が良好であることが確認された。
【0025】
上記表1の結果から、エチレングリコールと併含されるジエチレングリコールの配合割合が5〜50重量%(実施例1〜5)の場合には、分子量300以上の溶質を用いてもゲル化・凝集が発生せず、30℃での電解液の粘度が低く、素子に電解液を含浸する際の含浸性も改善されており、特にジエチレングリコールの配合割合が5〜25重量%の場合には低温特性(−40℃における比抵抗)が良好であることが確認された。
【0026】
[高級カルボン酸(VHXD)の溶質濃度の範囲について]
次に、VHXDの溶質濃度の最適範囲を調べるために、当該濃度を変動させ、下記の表2に示す組成を有した電解液(実施例3、6〜9)をそれぞれ調合した後、ゲル化・凝集の有無を目視にて評価し、−40℃および30℃における比抵抗を測定し、先に記載した手順で電解コンデンサを製造して耐電圧を測定した。
【0027】
【表2】
【0028】
上記の実験結果から、溶質濃度が小さくなると電解液の比抵抗が大きくなる傾向が見られた。また、溶質濃度が大きくなると耐電圧特性が低下する傾向があることが確認された。
上記表2の実験結果から、高級カルボン酸の特に好ましい溶質濃度は3〜10重量%であることがわかった。
【0029】
[コロイダルシリカの配合割合の範囲について]
さらに、コロイダルシリカの最適な配合割合の範囲を調べるために、当該割合を変動させ、下記の表3に示す組成を有した電解液(実施例3、10〜13)をそれぞれ調合した後、ゲル化・凝集の有無を目視にて評価し、−40℃および30℃における比抵抗を測定し、先に記載した手順で電解コンデンサを製造して耐電圧を測定した。
【0030】
【表3】
【0031】
上記の測定結果から、コロイダルシリカの配合割合が低いほど耐電圧特性が低下する傾向があり、他方、コロイダルシリカの配合割合が10重量%以上では、耐電圧特性の向上効果があまり大きくならず、比抵抗上昇によるデメリットの方が大きくなることがわかる。
上記表3の実験結果から、コロイダルシリカの配合割合が1〜5重量%の範囲において、特に良好な比抵抗特性と耐電圧特性の向上効果が得られることがわかった。
【0032】
上記の実験結果から、エチレングリコールとジエチレングリコールを含む混合溶媒中に、高級カルボン酸(分子量300以上)の溶質と、耐電圧向上剤としてのコロイダルシリカが配合された本発明の電解液を用いることによって、ゲル化・凝集の発生を抑制でき、製品耐電圧を顕著に向上させることができ、低温領域(−40℃)で凍結せず、比抵抗の上昇も小さくすることができ、特性が良好となることが確認された。
【0033】
なお、上記の実施例においては、分子量300以上の高級カルボン酸として、分子量が338の、7−ビニル−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸と、分子量が342の、1,18−オクタデカンジカルボン酸を使用したが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、先に記載した他の高級カルボン酸を配合した電解液を用いても、実施例と同等にその効果が確認できた。