(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本開示の実施例を説明する。なお、本開示の実施例は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。また、後述する各実施例の説明に使用する各図の対応部分には同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0016】
<実施例>
図1は、本実施例の製造ロスの原因を推定する推定システムの構成を示す図である。
図1に示すように、推定システムは、生産計画システム101、製造実行システム102、製造・検査設備103、設備異常検知システム104、演算装置110および表示装置120を備える。
【0017】
生産計画システム101は、製造する製品の種類およびその個数、作業者および設備の作業予定、製品を製造するのに必要な原材料および部品、を策定するシステムであり、多くの製造業で導入されている周知のシステムである。
【0018】
製造実行システム102は、設備および作業者に対する作業指示ならびに製造実績の情報の収集を行うシステムである。設備異常検知システム104は、センサなどを介して、設備の状態を監視し、設備故障につながる異常を検知するシステムである。
【0019】
演算装置110は、製品個体の製造に関するデータを取得するデータ取得部111、データ取得部111が取得したデータから製造イベントを生成し、製造実績と製造イベントの関連付けを行う製造イベント処理部112、取得したデータを統計処理し、製造ロスの原因推定を行う統計処理部113、データ取得部111が取得した製造データを格納する製造情報DB114、統計処理部113の処理結果を格納する演算結果DB115を備える。
【0020】
演算装置110は、図示しない記録部を備え、記録部には、後述する対数正規分布のパラメータμ、σおよび分散vを決定するための数式が記録されている。また、記録部には各種プログラムが記録され、演算装置110は上記プログラムを実行することによってデータ取得部111、製造イベント処理部112および統計処理部113として機能することができる。また、演算装置110は、表示装置120と接続されている。
【0021】
データ取得部111は、生産計画システム101、製造実行システム102、製造および検査設備103ならびに設備異常検知システム104から製品個体の製造に関するデータ(生産実績情報および製造イベントに関する情報)を取得する。表示装置120には、演算結果DB115に格納された原因推定処理の結果が出力される。
【0022】
図2は、製造情報DB114の構成を示す図である。製造情報DB114は、製造実績テーブル201、設備エラー情報テーブル202、設備稼働情報テーブル203、製造イベントリストテーブル204、製造イベント時刻テーブル205および製造イベント期間テーブル206を含む。以下に、各テーブルが保持するデータについて説明する。
【0023】
図3は、製造実績テーブル201の例を示す図である。製造実績テーブル201は、製品個体またはロットを識別するための製品番号、製造工程を一意に識別するための工程ID、工程IDで識別される工程における各製品個体の着手時刻および完了時刻、着手時刻と完了時刻との差である処理時間を格納する。
【0024】
ここで、“処理時間”の項目には、例えば、演算装置110が着手時刻と完了時刻とに基づいて算出した、生産工程における複数の製品個体のそれぞれについての処理時間が格納される。また、
図3には、工程IDとしてprocess1のみが記されているが、他のプロセスIDに関するデータも記録されている。
【0025】
図4は、設備エラー情報テーブル202の例を示す図である。設備エラー情報テーブル202は、エラーが発生した設備を一意に識別する設備ID、エラーの発生時刻、エラーの内容を表すエラー情報を格納する。
図4の例では、第1行目に2017年3月2日10:10において、設備IDがmac_aの設備に工具損傷のエラーが発生したことが記録されている。
【0026】
図5は、設備稼働情報テーブル203の例を示す図である。設備稼働情報テーブル203は、設備を一意に識別する設備IDと、稼働または停止といった設備状態と、メンテナンスおよび生産といった停止または稼働の原因となるイベントと、設備状態の継続期間(設備状態の開始日時および終了日時)と、を格納する。例えば、設備稼働情報テーブル203の第1行目には、2017年3月2日の9:00〜12:00まで設備IDがmac_aの設備が稼働して製品を生産していたことが記録されている。
【0027】
図6は、製造イベントリストテーブル204の例を示す図である。製造イベントリストテーブル204は製造イベントを登録するテーブルであり、イベントを一意に表すイベントIDと、イベント名から構成される。
図6において、ID名の文字列に“t”を含むイベントIDは時間的な幅を持って生じるイベントであり、その他のイベントIDは一時点において生じるイベントである。
【0028】
図7は、製造イベント時刻テーブル205の例を示す図である。製造イベント時刻テーブル205は、製造イベントリストテーブル204に登録されている製造イベントのうち、時間的な幅を持たない製造イベント(イベントIDが“t”を含まない製造イベント)の発生日時を格納するテーブルである。製造イベント時刻テーブル205には、発生日時順に製造イベントが並んでいる。
【0029】
図8は、製造イベント期間テーブル206の例を示す図である。製造イベント期間テーブル206は、製造イベントリストテーブル204に登録されている製造イベントのうち、一定期間継続する製造イベント(イベントIDが“t”を含む製造イベント)の開始日時と終了日時を格納するテーブルである。
【0030】
図9は、演算結果DB115の構成を示す図である。演算結果DB115は、イベント付製造実績テーブル901、対数正規分布情報テーブル902およびイベント相関テーブル903を含む。以下に、各テーブルが保持するデータについて説明する。
【0031】
図10は、イベント付製造実績テーブル901の例を示す図である。イベント付製造実績テーブル901は、製造実績テーブル201に対し、製造イベントの発生有無の情報を付加したものであり、発生した製造イベントのカラムにはtrue、発生していない製造イベントのカラムにはfalseが格納される。製造イベントの発生有無の判定方法について以下に説明する。
【0032】
まず、演算装置110が、製造イベントの発生日時と終了日時との少なくとも一方に基づいて、製造イベントが影響を及ぼしたと考えられる期間を決定する。上記期間は、例えば、工程ごとに経験に基づいて決定される所定の期間であり、製造イベントが製品個体の処理時間に影響を及ぼすと考えられる期間である。演算装置110は、決定した当該期間と製造期間とが重複する製品個体と製造イベントとを紐づけ、上記製造イベントのカラムをtrueにする。
【0033】
例えば、工程1における上記期間が製造イベントの発生日時の前後600秒間である場合、製品番号0001の製品個体の着手時刻とeve_1の発生日時が共に9:00であり、製造イベントが影響を及ぼしたと考えられる期間と製品個体の製造期間とが重複するため、eve_1のカラムがtrueになる。
【0034】
また、演算装置110は、発生した製造イベントと当該製造イベントと紐づけられた製品個体の製造時刻との時間的遠近を示す時刻差異を製品個体ごとに決定しイベント付製造実績テーブル901に格納する。時刻差異は、製造イベントの発生日時と終了日時との少なくとも一方と、当該製造イベントと紐づけられた製品個体の着手時刻と完了時刻との少なくとも一方と、に基づいて決定される。
【0035】
例えば、時間的幅を持たないイベントの場合、その発生日時と製品個体の着手時刻との差を時刻差異とする。例えば、製品番号0033の製品個体の場合、製造の着手時刻が13:05であり、製造イベントの発生時刻が13:00であるため、-300秒の時刻差異が記録されている。ここで、製造イベントよりも製造の着手時刻が過去の場合プラスの時刻差異とし、製造イベントよりも製造の着手時刻が未来の場合マイナスの時刻差異とした。
【0036】
また、時間的幅を有するイベント、即ち、発生してから終了するまでに時間間隔があるイベントの場合、例えば、当該時間間隔の何れかの時点と製品個体の着手時刻との差の最小値を時刻差異とする。例えば、製品個体の着手時刻または完了時刻が当該イベントの発生期間中である場合、時刻差異は0である。
【0037】
図11は、対数正規分布情報テーブル902の例を示す図である。対数正規分布情報テーブル902には、各工程の処理時間の分布を対数正規分布で近似し、当該対数正規分布に対応する確率密度関数のパラメータ、分散、対数尤度を算出した結果が格納されている。
図11に示された例では、下記の確率密度関数におけるμとσを格納している。μとσは確率密度関数を特徴づけるパラメータであり、eはネイピア数を表す。
【数1】
ユーザは、例えば、工程が含む製造ロスの多寡を評価するために分散を利用することができる。製造ロスを含む工程は処理時間のばらつき、つまり分散が大きくなる。
【0038】
図12は、イベント相関テーブル903の例を示す図である。イベント相関テーブル903には、工程ID、イベントID、イベント時対数尤度、対数尤度差異および時刻差異(秒)が格納されている。イベント時対数尤度は、製造イベントと紐づけられた製品個体の処理時間を要素とする母集団の分布が、決定済みの対数正規分布に従うと仮定した場合の対数尤度のことを示す。上記母集団は、一つの工程の処理時間全体の第1母集団から特定の製造イベントと紐づけられた製品個体の処理時間のみを抽出し、第1母集団の要素数と同数になるように処理時間の要素をランダムに複製して得られる第2母集団のことである。
【0039】
換言すると、processX(X=1, 2 …)の処理時間全体の第1母集団からイベントY(eve_1、eve_2 …)と紐づけられた製品個体の処理時間を抽出し、サンプル数を上述のように複製することで得られる集合を第2母集団とし、第2母集団の分布が、第1母集団の分布に対してフィッティングして得られた対数正規分布に従うとした場合の対数尤度がイベント時対数尤度である。
【0040】
また、対数尤度差異は、対数正規分布情報テーブル902に格納された対数尤度とイベント相関テーブル903に格納されたイベント時対数尤度との差である。即ち、第1母集団がフィッティングして得られた対数正規分布に従うと仮定した場合の対数尤度と第2母集団が同じ対数正規分布に従うと仮定した場合の対数尤度との差が対数尤度差異である。
【0041】
図13は、製造情報の取得処理のシーケンスを示す図である。以下にシーケンスの各ステップについて説明する。
【0042】
(ステップ1301)
まずデータ取得部111が、製造実行システム102または製造・検査設備103から製品個体の製造実績に関する情報を取得し、製造実績テーブル201に格納する。データ取得部111は、製造・検査設備103または設備異常検知システム104から設備エラー情報を取得し、設備エラー情報テーブル202に格納する。また、データ取得部111は、生産計画システム101、製造実行システム102または製造・検査設備103から設備の稼働情報を取得し、設備稼働情報テーブル203に格納する。
【0043】
(ステップ1302)
データ取得部111は、ステップ1301で取得した複数の製品個体の生産工程の着手時刻と完了時刻と(製造実績情報)に基づいて、複数の製品個体のそれぞれについての生産工程における処理時間を算出し、製造実績テーブル201に格納する。
図3に記載された例の場合、製品番号0001のprocess1の処理時間は、着手時刻09:00:00と完了時刻09:10:00との差分である600秒となる。
【0044】
(ステップ1303)
製造イベント処理部112は、ステップ1301で取得した、設備エラー情報および設備稼働情報が含む製造イベントに関する情報を製造イベントリストテーブル204に登録されたイベントIDに変換する。製造イベント処理部112は、時間的幅を持たない製造イベントの発生日時と、当該製造イベントのイベントIDと、を製造イベント時刻テーブル205に格納する。また、製造イベント処理部112は、時間的幅を持つ製造イベントについては、イベントID、発生日時および終了日時を製造イベント期間テーブル206に格納する。
【0045】
例えば、
図4に示された例の場合、2017/03/02 10:10:00において設備IDがmac_aの設備のエラーが発生している。そして、
図6に示された例では、mac_aの設備エラーのイベントIDはeve_6であるため、イベントID:eve_6、発生時刻:2017/03/02 10:10:00のレコードが製造イベント時刻テーブル205に格納される。
【0046】
また、
図5に示された例の場合、mac_bの設備は、2017/03/02 10:10:00から2017/03/02 10:20:00までメンテナンスで停止している。そして、
図6に示された例では、mac_bがメンテナンス中であることを表すイベントIDは、eve_t_6であるため、イベントID:eve_t_6、開始日時:2017/03/02 10:10:00、終了日時:2017/03/02 10:20:00のレコードが製造イベント期間テーブル206に格納される。
【0047】
図14は、対数正規分布近似処理のシーケンスを示す図である。以下にシーケンスの各ステップについて説明する。
【0048】
(ステップ1401)
統計処理部113は、ステップ1302で算出した複数の製品個体の処理時間のうち、一つの工程の処理時間の集合を母集団とし、当該母集団のヒストグラムを対数正規分布でフィッティングする処理を全ての工程に亘って実行する。そして、統計処理部113は、工程ごとに対数正規分布を特徴づけるパラメータμおよびσを求める。さらに、統計処理部113は上記母集団のヒストグラムがフィッティングした対数正規分布に従うと仮定した場合の対数尤度を算出する。なお、対数正規分布によるフィッティングは、例えば、最小二乗法または最尤推定法を用いて実施する。
【0049】
図15は、近似された対数正規分布の例を示す図である。
図15には、一つの工程に関する処理時間のヒストグラムと近似した対数正規分布とが併せて描画されている。
図15において、縦軸は割合であり、全処理時間のサンプル数に対する特定の区間に含まれる処理時間のサンプル数を示す。したがって、ヒストグラムの全ての区間に亘る値の合計は1となる。
【0050】
(ステップ1402)
統計処理部113は、ステップ1401で算出したパラメータμおよびσから以下の式により、分散vを求め、パラメータμ、σ、分散v、対数尤度を対数正規分布情報テーブル902に格納する。
【数2】
【0051】
図16は、製造実績に対し、イベント情報を付与する処理のシーケンスを示す図である。以下にシーケンスの各ステップについて説明する。
【0052】
(ステップ1601)
製造イベント処理部112は、以降のステップ1602およびステップ1603の処理を、製造イベント時刻テーブル205および製造イベント期間テーブル206に記載されたイベント全てに対し、繰り返す。
【0053】
(ステップ1602)
まず、製造イベント処理部112が、製造イベント時刻テーブル205および製造イベント期間テーブル206に記載された製造イベントと同時期に製造された製品個体を検索する。製造イベント処理部112は、製造イベントの発生日時および終了日時の少なくとも一方と、製品個体の着手時刻および完了時刻の少なくとも一方と、に基づいて、製造イベントと同時期に製造された製品個体を検索する。
【0054】
具体的には、製造イベント処理部112は、製造イベントが影響を及ぼしたと考えられる所定の期間と製造期間が重複する製品個体を検索する。上記所定の期間は、製造イベントの発生日時と終了日時の少なくとも一方の時点を中心とする生産工程ごとに定められた所定の時間幅である。製造する製品や生産工程ごとに製造イベントが処理時間に及ぼす影響が異なるため、上記所定の時間幅は、例えば、工程マネジャーの経験によって定められる。また、「所定の期間と製造期間が重複する」とは、例えば、所定の期間内に製品個体の着手時刻と完了時刻との少なくとも一方が含まれることを意味する。
【0055】
例えば、
図7に記載されたイベント:eve_1は、2017/03/02 09:00:00に発生しており、
図3に記載された製品番号0001の工程:process1における着手時刻は09:00:00である。つまり、イベント:eve_1の発生時刻と製品番号0001の工程:process1における着手時刻が同一である。したがって、製造イベントが影響を及ぼした機関と製造期間とが重複するため、製造イベント処理部112による検索にヒットする。
【0056】
また、
図8に記載されたイベント:eve_t_6については、2017/03/02 10:10:00に発生してから2017/03/02 10:20:00に終了しており、
図3に記載された製品番号0011の工程:process1の終了時刻がイベント発生期間に含まれる。したがって、製造イベントが影響を及ぼした機関と製造期間とが重複するため、製造イベント処理部112による検索にヒットする。
【0057】
(ステップ1603)
続いて、製造イベント処理部112が、ステップ1601で検索にヒットした製品個体の製造実績に関する情報に、検索に用いた製造イベント情報を付与して、合併された情報をイベント付製造実績テーブル901に格納する。即ち、製造イベント処理部112が、生産実績情報と製造イベントに関する情報とに基づいて、製造イベントと製品個体とを紐づける。
【0058】
例えば、ステップ1602で例示したeve_1の検索の場合は、eve_1の発生日時と製品番号0001の工程:process1の着手時刻が重複するため、
図10に示されているように製品番号0001のレコードのeve_1にtrueが格納される。また、ステップ1601で例示したeve_t_6の検索の場合は、製品0011の工程:process1の着手時刻が重複するため、同様に製品番号0011のレコードのeve_t_6にtrueが格納される。
【0059】
図17は、製造ロスと製造イベントの相関を求める処理のシーケンスを示す図である。以下にシーケンスの各ステップについて説明する。
【0060】
(ステップ1701)
以降のステップ1702からステップ1705までの処理は、製造イベントリストテーブル204に記載された全てのイベントに対して繰り返し実行される。以降、製造イベントをevent i (0 < i < 総イベント数 + 1)と記載する。
【0061】
(ステップ1702)
以降のステップ1703からステップ1705までの処理は、全ての工程IDに対して繰り返し実行される。以降、j番目の工程IDをprocess j (0 < j < 総工程数 + 1)と記載する。
【0062】
(ステップ1703)
統計処理部113は、process jについて、event iのフラグがtrueの製品個体の製造実績(イベント時製造実績)を取得する。具体的には、統計処理部113は、process jについて、event iのフラグがtrueの製品個体の処理時間を取得する。
【0063】
続いて、統計処理部113は、上記製造イベントと紐づけられた製品個体の処理時間の集合のヒストグラムが、対数正規分布情報テーブル902に格納されたprocess jの対数正規分布パラメータで表される対数正規分布に従うと仮定した場合の対数尤度(イベント時対数尤度)を算出する。この際、ステップ1704で対数尤度比較を実行するため、event iと紐づけられた製品個体のprocess jに関する処理時間の数がprocess jに関する全ての製品個体の処理時間の数と同じになるように、処理時間をランダムに複製する。
【0064】
(ステップ1704)
統計処理部113は、ステップ1703で算出したイベント時対数尤度と対数正規分布情報テーブル902に格納されたprocess jの対数尤度の差異を求め、イベント相関テーブル903に格納する。
【0065】
統計処理部113は、process jのevent iのフラグがtrueの製品個体とevent iとの平均時刻差異(各製品個体の時刻差異の平均値)を算出して、イベント相関テーブル903に格納する。なお、統計処理部113は、時刻差異の平均値ではなく時刻差異の中間値、最大値または最小値をイベント相関テーブル903に格納してもよい。
【0066】
以下に、本実施例の原因推定方法によって得られた製造ロス原因推定結果の出力例を説明する。
図18は、演算装置110が表示装置120に出力するGUIの例である。当該GUIには、製造ロスが生じた非効率工程が順序づけられて表示されている。演算装置110は、例えば、対数正規分布情報テーブル902に格納されている分散を参照し、上記非効率工程を処理時間の分散が大きい順に表示装置120に表示する。それぞれの工程には、原因分析ボタンが付属し、ボタンを押下すると、原因推定結果を表示する画面に遷移する。
【0067】
図19は、製造ロスの原因推定結果を示すGUIの例である。演算装置110は、例えば、
図18の画面で押下された原因分析ボタンが属する工程について、イベント相関テーブル903から対数尤度差異が一定値以上の製造イベントを抽出する。そして、演算装置110は、抽出した製造イベントに対応づけられた対数尤度差異と平均時刻差異とを取得し、製造イベント名を平均時刻差異の大きさの順に並べて表示装置120に表示する。
図19に示された例では、平均時刻差異の小さい製造イベントが左から順番に表示されている。
【0068】
GUIに表示される製造イベント名と工程名との間には、製造イベント名から工程名へ向かう矢印と対数尤度差異が表示される。各矢印は、対数尤度差異の大きさに基づいて太さが変更して表示される。具体的には、対数尤度差異が大きい製造イベントほど太い矢印が表示されている。即ち、太い矢印が表示された製造イベントほど、処理時間の分布が大きくずれた製造イベントであり、大きな製造ロスを招いた製造イベントである。また、各製造イベント名が対数尤度差異の大きい順に上から下へ表示されている。
【0069】
上記のとおり、製造ロスの原因推定結果を示すGUIは、対数尤度差異および平均時刻差異の大きさに応じて、製造イベント名および工程名の二次元的な配置を決めている。また、工程名と各製造イベント名とを矢印で接続し、矢印の太さを変化させている。このように表示することによって、ユーザは、製造イベントが工程の処理時間に与えた影響の大きさと、製造イベントと製造ロスとの相関の強さと、を視覚的に理解することができる。
【0070】
図19の例では、process1の処理時間のばらつきに、製品種別切替、検査設備:ins2で検知された不良、製造設備:mac2で生じたエラーの三つの製造イベントが大きく関連していることが分かる。さらに、製品種別切替、ins2_不良、mac2_エラーの順に長い時間に亘って製品個体の製造に影響を及ぼしたことが分かる。以上のことから、例えば、製品種別切替直後に品質が安定せず、不良が発生し、不良の手直しのために、process1の工程に遅れが出ている可能性が示唆される。
【0071】
図19に示したGUIにおいて、何れかの矢印がユーザに押下されると、工程における処理時間のばらつきと製造イベントとの相関を詳細に表示する画面に遷移する。以下に上記画面について説明する。
【0072】
図20は、製造ロスと製造イベントの相関を示す詳細画面の例である。上記詳細画面では、製造イベント発生時に限定しない複数の製品個体の処理時間のヒストグラム(通常時ヒストグラム)と、製造イベントと紐づけられた製品個体の処理時間のヒストグラムと、が重畳されて表示されている。そのため、ユーザはどの製造イベントが生じるとどの程度通常の処理時間が延長されるのかを視覚的に認識することができる。
【0073】
<変形例1>
実施例では、処理時間のヒストグラムにフィッティングさせる分布曲線の例として、対数正規分布を挙げた。しかしながら、処理時間のヒストグラムには対数正規分布以外の分布曲線(確率分布関数)を用いてフィッティングさせてもよい。例えば、正規分布、ポアソン分布やガンマ分布など、一般の確率分布を用いたフィッティングが可能である。また、本明細書では、製造ロスと製造イベントの関連性の評価方法の例として対数尤度を用いたが、尤度を用いて評価してもよい。
【0074】
<変形例2>
また、実施例では、一つの工程の全ての製品個体(製造イベントが紐づけられた製品個体と製造イベントが紐づけられていない製品個体との双方)の処理時間のヒストグラムに対して対数正規分布曲線をフィッティングした。分布曲線のフィッティングは、外れ値となる処理時間のサンプルを除去した母集団のヒストグラムに対して実施してもよい。外れ値の検出には、処理時間の平均値から所定の差のある値を外れ値とする方法、Tukey-Kramer検定、Sumirnov-Grubbs検定など、一般の外れ値の検出方法を用いることができる。
【0075】
[まとめ]
上記のとおり、本開示の推定システムは、ある工程で製造された製品個体全体の処理時間のヒストグラムと、上記工程で製造された製品個体全体のうち製造イベントと紐づけられた製品個体の処理時間のヒストグラムと、を重畳して表示装置120に表示する。したがって、ユーザは、製造イベントが製品個体の処理時間に与える影響を視覚的に理解することができる。
【0076】
また、本開示の推定システムは、例えば、ある工程で製造された製品個体全体の処理時間のヒストグラムにフィッティングした確率分布関数の尤度(または対数尤度)と、上記工程で製造された製品個体全体のうち製造イベントと紐づけられた製品個体の処理時間のヒストグラムが上記確率分布関数に従うと仮定した場合のイベント時尤度(またはイベント時対数尤度)とを算出し、それらの差(尤度差または対数尤度差)を計算する。ユーザは、上記尤度差(または対数尤度差)を確認することによって、ある製造イベントが製品個体の処理時間に及ぼした影響の度合いを理解することができる。
【0077】
また、本開示の推定システムは、例えば、製造イベントと、製造イベントと紐づけられた製品個体と、の時間的遠近を示す時刻差異を製品個体ごとに決定してその平均を算出する。ユーザは、平均時刻差異を確認することによって、製造イベントがどれぐらいの期間に亘って製品個体の製造の処理時間に影響を及ぼすかを理解することができる。
【0078】
また、本開示の推定システムは、例えば、一つ以上の製造イベントを、尤度とイベント時尤度との差を示す情報と共に時刻差異の平均の大きさの順に並べて表示装置120に表示する。ユーザは、製造イベントが製品個体の製造の処理時間に与える時間的な影響および度合いを一瞥して理解することができる。さらに、ユーザは、複数の製造イベントどうしの関連性を認識する補助的な知識を得ることができる。
【0079】
また、本開示の推定システムは、例えば、製造イベントが製品個体の製造に影響を及ぼしたと考えられる所定の期間と製造期間とが重複する製品個体と、製造イベントと、を紐づける。つまり、本開示の推定システムは、処理時間全体の集合から製造イベントによって製造ロスが発生したと考えられる処理時間を効果的に抽出し、何の製造イベントが生産工程における処理時間に影響を与えたかをユーザに効果的に示すことができる。
【0080】
上記所定の期間は、例えば、製造イベントの発生日時と終了日時の少なくとも一方の時点を中心とする生産工程ごとに定められた所定の時間幅である。製造イベントが製品個体の処理時間は生産工程の種類によって異なるため、上記のように所定の期間を設定すると製造イベントが影響を及ぼした処理時間のサンプルを適切に抽出することができる。
【0081】
また、本開示の推定システムは、例えば、複数の製品個体の処理時間の分布に所定の確率分布関数をフィッティングする際に、当該複数の製品個体の処理時間の分布から、所定の外れ値検出方法によって外れ値を除去した分布に上記所定の確率分布関数をフィッティングさせる。このように、外れ値を除去することによって、製造ロス原因の推定精度を向上させることができる。
【0082】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。