【実施例】
【0024】
図面を参照して実施例の振動ジャイロを説明する。
図3は、振動ジャイロ2の平面図である。以下では、説明を簡単にするため、振動ジャイロ2を単にジャイロ2と称する。ジャイロ2の主要部品は、ケース15の内部に収容されている。
図3は、ケース15をカットしてその内部構造を表した図である。ジャイロ2は、シリコン基板にMEMS技術を使って作り込まれた小型ジャイロである。ケース15もシリコンで作られている。ケース15は密閉型であり、ケース15の内部は真空に保持されている。
図3には、ジャイロ2のケース15に収容された主要部品のほか、コントローラ10も描いてある。ジャイロ2は、図中の座標系でZ軸回りの角速度Wzを計測することができる。
【0025】
ジャイロ2の主要部を説明する。ジャイロ2は、質量部3、2個の励振基部5、4本の第1梁6、4本の第2梁4、2個の加振器7、容量検出器9を備えている。以下では、説明を理解し易くするため、「第1梁6」を「励振梁6」と称し、「第2梁4」を「検出梁4」と称する。
【0026】
4本の励振梁6は、一端がケース15に固定されており、図中の座標系のX方向に延びている。励振梁6は、一端が固定され、他端は図中の座標系のY方向に変位可能な片持ち梁である。励振梁6の他端には励振基部5が連結されている。図中の上側の2本の励振梁6が上側の励振基部5をその両側から支持している。図中の下側の2本の励振梁6が下側の励振基部5をその両側から支持している。片持ちの励振梁6に支持された励振基部5は、Y方向に変位可能である。
【0027】
4本の検出梁4は、一端が励振基部5に連結されており、Y方向に延びている。検出梁4の他端はX方向に変位可能である。検出梁4の他端には質量部3に連結されている。図中の上側の2本の検出梁4が上側の励振基部5から図中の下へ向けて延びており、図中の下側の2本の検出梁4が下側の励振基部5から図中の上へ向けて延びている。質量部3は、図中の上端と下端の夫々が2本の検出梁4で支持されている。質量部3は、励振梁6と励振基部5と検出梁4を介してケース15に支持されている。励振基部5に連結している励振梁6の他端がY方向に変位可能であり、質量部3に連結されている検出梁4の他端がX方向に変位可能であるので、質量部3はX方向とY方向の双方に変位(振動)可能である。
【0028】
質量部3には、X方向で両側に突出する導電板8が設けられている。また、夫々の導電板8に対向するように、容量検出器9がケース15に固定されている。容量検出器9の導電板8に対向する面には別の導電板が配置されており、容量検出器9は、導電板8との間に生じる静電容量を検出する。静電容量は導電板8と容量検出器9の別の導電板との間の距離に比例して変化する。即ち、容量検出器9は、導電板8との間の静電容量によって質量部3のX方向の変位を検出することになる。図中の右側の容量検出器9は、図中右側の導電板8との間の静電容量を電気信号Signal_aとして出力する。図中の左側の容量検出器9は、図中左側の導電板8との間の静電容量を電気信号Signal_bとして出力する。Signal_a、Signal_bは、コントローラ10に送られる。
【0029】
容量検出器9が検出する静電容量は、質量部3のX方向の変位に比例するので、容量検出器9は質量部3のX方向の変位量を検出する変位検出器として機能する。
【0030】
励振基部5には、複数の可動導電板5aが櫛歯状に延びている。励振基部5の可動導電板5aと対向するように加振器7がケース15に固定されている。なお、加振器7は、絶縁層17を介してケース15に固定されている。ケース15は装置のグランドに電気的に接続されるが、加振器7は、ケース15からは絶縁されており、後述する所定の電圧が印加される。
【0031】
加振器7から、櫛歯状に配置された複数の固定導電板7aが延びている。夫々の固定導電板7aは、隣接する可動導電板5aの間に延びるように位置している。コントローラ10は、ゼロボルトと所定電圧の間を所定周波数で変化する電圧を固定導電板7aに印加する。固定導電板7aに電圧が印加されると、可動導電板5aを固定導電板7aの間に引き込むように静電力が発生する。静電力は電圧変化に応じて周期的に変化する。なお、図中の上側の加振器7と下側の加振器7には、直流電圧に重畳した交流電圧として180度位相がシフトした交流電圧が印加される。それゆえ、2個の励振基部5には、Y方向に作用する周期的な静電力が加わる。その結果、励振基部5は、検出梁4、質量部3とともに、所定周波数でY方向に振動する。コントローラ10が加える電圧の周波数は、励振梁6、励振基部5、検出梁4、質量部3の全体がY方向に振動するときの共振周波数に調整されている。即ち、加振器7によって質量部3はY方向の共振周波数で振動する。Y方向の共振周波数を、説明の便宜のため、以下では、加振共振周波数と称する。検出梁4に支持されている質量部3はX方向にも振動可能である。検出梁4と質量部3の振動系のX方向の共振周波数を説明の便宜上、以下では検出共振周波数と称する。
【0032】
容量検出器9の出力Signal_a、Signal_bは、コントローラ10に入力される。コントローラ10は、差分器11と演算器12を備えている。差分器11は、容量検出器9の出力Signal_a、Signal_bの差を出力する。質量部3がY方向に振動しているときにジャイロ2がZ軸回りに回転すると、質量部3には回転角速度とY方向の速度に応じてX方向にコリオリ力が作用する。質量部3はコリオリ力によってX方向に変位する。ジャイロ2が受けるZ軸回りの角速度Wzと質量部3のX方向の変位は、質量部3のY方向の速度を変数とする所定の関数で規定される。質量部3のY方向の速度は、加振器7に供給する指令値(周期的に変化する電圧の指令値)から求められる。演算器12は、Y方向の速度と上記した所定の関数を用いて、2個の容量検出器9の出力差から、ジャイロ2のZ軸回りの角速度Wzを算出して出力する。
【0033】
上記したように、ジャイロ2は、図中のZ軸回りの角速度Wzを検出することができる。なお、質量部3はY方向に加振共振周波数で振動する。Z軸回りの角速度Wzでジャイロ2が回転すると、角速度Wzと質量部3のY方向の速度に応じたX方向のコリオリ力が質量部3に作用する。Y方向の速度は加振共振周波数で変化するので、コリオリ力を受けた質量部3はX方向にも加振共振周波数で振動する。ジャイロ2では、質量部3のX方向(検出方向)の振動の共振周波数(検出共振周波数)が、Y方向(加振方向)の振動の共振周波数(加振共振周波数)と一致するように調整されている。ジャイロ2は、加振共振周波数と検出共振周波数が同じであるいわゆる共振型である。以下では、説明の便宜上、Y方向を加振方向と称し、X方向を検出方向と称する場合がある。
【0034】
共振型の振動ジャイロは、検出方向の振動(実施例の場合はX方向の振動)の振幅が大きくなるので、角速度の検出精度が高い、という利点がある。反面、加振共振周波数と検出共振周波数がわずかでも相違すると、検出方向の振動の振幅が大きく下がってしまい、構造上の寸法公差や温度変化によって角速度計測感度が大きくばらつく、という短所がある。実施例のジャイロ2は、検出方向の振動のQ値(検出Q値)が加振方向の振動のQ値(励振Q値)よりも低くなっており、共振周波数のずれに対する角速度計測感度の変化が小さい。Q値の定義や、共振周波数のずれに対する角速度計測感度の変化が小さい理由は前述した通りである。
【0035】
実施例のジャイロ2において、振動のQ値を調整する構造をいくつか説明する。検出Q値を励振Q値に対して相対的に小さくするには、検出Q値を小さくすればよい、あるいは、励振Q値を大きくすればよい。まず、梁の様々な特性(パラメータ)と振動のQ値の関係について説明する。
【0036】
梁の振動のQ値は、次の無次元指標τ、κの関数として表すことができる。
【数1】
【0037】
上記(数1)において、各記号の意味は、次の(表1)の通りである。
【表1】
【0038】
振動のQ値は、上記した無次元指標τ、κの関数として表すことができる。即ち、Q値=f(τ,κ)となる。関数f(τ,κ)は、複雑なのでここではその具体的な式は省略するが、振動の技術分野では知られた式である。
【0039】
以下、(数1)に含まれる梁の様々な特性(パラメータ)とQ値の関係を説明する。梁が振動すると局所的に熱エネルギが発生する。発生した熱は梁全体に拡散する。即ち、局所的に発生した熱エネルギは移動する。ここでは、まず最初に、梁における熱エネルギの移動を考慮せずに機械的振動のみによる共振状態を仮定する。共振状態とは、梁の先に付加された質量部の運動エネルギと梁の復元力によるポテンシャル(潜在)エネルギが互いに交換するのにちょうど周期が合致した状態をいう。この周期fは、質量mと梁の剛性kから次の(数2)で表される。
【0040】
【数2】
【0041】
しかし、一般にはあまり考慮されない熱弾性効果と呼ばれる現象がある。梁の根本には、梁の曲げによって、一方の側(曲げの湾曲の外側)には引っ張り応力が生じており、他方の側(曲げの湾曲の内側)には圧縮応力が生じている。そして引っ張り応力の大きさに応じた温度低下と、圧縮応力の大きさに応じた温度増加が生じる。これらの応力の最大値は、梁の中心ではなく最表面で生じる。これらの温度変化のため、梁の材料は温度が上がれば圧縮応力(延び)を生じ、温度が下がれば引っ張り応力(縮み)を生じる。この温度変化による圧縮応力、引っ張り応力は、機械的振動による共振状態とは別の現象である。梁の根本が温度により延びや縮みを生じることで、梁の共振状態に影響を与える外力となる。
【0042】
熱弾性効果により梁を振動させる外力の周期が、機械的振動による共振状態と完全に同一であれば、振動に影響を与えず振動のQ値は高い値が維持される。しかしたとえば位相ずれが180度であった場合は、熱弾性効果による外力は機械的振動に対抗する力となるため振幅が小さくなり、Q値は小さくなる。つまり、機械的振動に対する熱弾性効果発生のタイミングを制御することで、振動系のQ値を制御できる。この熱弾性効果を考慮した場合の全体の振動のQ値は、先に(数1)で表した無次元指標τおよびκの式から求められる。
【0043】
熱弾性効果を考慮したQ値は、周波数f、熱伝導率λ、比熱cv、ビーム幅wb、ヤング率E、線膨張係数α、初期温度T
0により決まる。一般に、周波数f、ビーム幅wb、ヤング率E(共振周波数を決める)は、センサの機械的制約から調整の余地がない。Q値を調整する変数として利用できるものは、熱伝導率λ、比熱cv、線膨張係数αである。そこでこれらの変数を調整することで、検出梁のQ値を小さくする、あるいは、励振梁のQ値を増加させることができる。
【0044】
図4−
図6は、縦軸に無次元指標κをとり、横軸に無次元指標τをとったQ値の等高線図である。周波数fは熱伝導率λなどの初期値は、(表1)に記した値を用いている。ドットハッチングが濃いほど、Q値が小さいことを示している。
図4は、梁の比熱cvを、cv1(=1.68E+07)、cv2(=1.68E+06)、cv3(=1.68E+05)と変化させたときのQ値の推移を示している。比熱cvを小さくするほど、Q値が小さくなる傾向があることがわかる。即ち、梁の比熱cvとQ値との間には正の相関がある。
【0045】
図5は、梁の線膨張係数αを、α1(=2.60E−06)、α2(=2.60E−05)、α3(=2.60E−04)と変化させたときのQ値の推移を示している。線膨張係数αを大きくするほど、Q値が小さくなる傾向があることがわかる。即ち、線膨張係数αとQ値には、負の相関がある。
【0046】
図6は、梁の熱伝導率λを、λ1(=14.9)、λ2(=149)、λ3(=1490)と変化させたときのQ値の推移を示している。熱伝導率λを変化させることで、Q値を調整できることがわかる。
【0047】
例えば
図3に示した構造の振動ジャイロ2において、検出梁4の比熱cvを小さくすることで、検出Q値を励振Q値に対して相対的に小さくすることができる。あるいは、励振梁6の比熱cvを小さくすることで、検出Q値を励振Q値に対して相対的に小さくすることができる。
【0048】
検出梁4の振動エネルギを散逸し易い構造とすることが、検出Q値を小さくすることに貢献する。検出梁4の比熱cvを小さくする構造の一例を、
図7に示す。
図7は、
図3の検出梁4を拡大した平面図である。
【0049】
先に述べたように、ジャイロ2は、MEMS技術によってシリコン基板に作られている。検出梁4もシリコンで作られている。検出梁4は、シリコンの単結晶で作られていてもよいし、シリコンの多結晶で作られていてもよい。検出梁4の両端部には、溝が設けられており、その溝に、比熱がシリコンよりも小さい部材(低比熱部材14)が埋め込まれている。
図7では、理解を助けるため、低比熱部材14を薄いグレーで示してある。低比熱部材14は、検出方向(図中のX方向)で検出梁4の中央部分に埋め込まれている。
【0050】
低比熱部材14を埋め込むことで、Q値が下がる理由は次の通りである。検出梁4は検出方向(X方向)に振動するので、検出方向の一方の側(例えば図中の符号4aが示す側)に圧縮応力が加わるとともに他方の側(例えば図中の符号4bが示す側)に引張応力が加わる。圧縮応力が加わる側では温度が上がり、引張応力が加わる側では温度が下がる。熱エネルギは、図中の太線が示すように、温度が高い圧縮側の縁4aから温度が低い引張側の縁4bへと流れる。検出方向の中央部分に比熱の小さい物質を埋め込むことで、検出梁4の検出方向の両側の間での熱の移動が早くなり、Q値が下がる。
【0051】
図7の構造とは逆に、シリコンで作られている励振梁6の一部に、比熱がシリコンよりも大きい部材を埋め込んでもよい。そうすることで、励振梁6のQ値が大きくなり、検出梁4のQ値が、励振梁6のQ値に対して相対的に小さくなる。シリコンの比熱は461[J/Kg℃]である。シリコンより比熱の大きい部材の例は、ベリリウム(比熱は2180[J/Kg℃])やアルミニウム(比熱は900[J/Kg℃])などである。
【0052】
検出梁4のQ値を下げる第1変形例を、
図8を参照して説明する。
図8は、第1変形例の検出梁104の拡大平面図である。検出梁104もシリコンで作られている。検出梁104の端部に、シリコンよりも熱伝導率λの高い物質(高熱伝導率部材114)が埋め込まれている。
図8では、理解を助けるため、高熱伝導率部材114を濃いグレーで示してある。検出梁104の端の熱伝導率λを高くすると振動で発生した熱が拡散し易くなり、検出方向の振動のQ値を下げることができる。シリコンの熱伝導率λは168[W/(m・K)]である。シリコンよりも熱伝導率λの高い物質(高熱伝導率部材114)の例としては、ダイヤモンド(熱伝導率λは1500[W/(m・K)])、カーボンナノチューブ(熱伝導率λは5000[W/(m・K)])、アルミニウム(熱伝導率λは236[W/(m・K)])、ベリリウム(熱伝導率λは216[W/(m・K)])などがある。
【0053】
検出梁104の端部にシリコンよりも熱伝導率λの高い物質をドープによって埋め込んでもよい。ドープする物質の例としては、ボロンイオンやリンイオンなどがある。ドーズ量の例としては、19[atm/cm
3]である。ボロンイオンやリンイオンをドープすると、非ドープのシリコンよりも熱伝導率λを10倍以上高めることができる。
【0054】
あるいは、
図9に示すように、シリコンで作られた検出梁204の端部の表面をシリコンよりも熱伝導率λの高い物質(高熱伝導率膜214)で覆うことでも、検出方向のQ値を下げることができる。
図9は、第2変形例の検出梁204の拡大平面図である。
図9では、理解を助けるために、高熱伝導率膜214にハッチングを施してある。
【0055】
検出梁(第2梁)のQ値を下げるさらに別の例を、
図10を参照して説明する。
図10は、第3変形例の検出梁304の拡大平面図である。検出梁304もシリコンで作られている。検出梁304の検出方向(X方向)の振動における中立面から外れた位置に、シリコンよりも線膨張係数αの大きい物質(大線膨張部材314)が埋め込まれている。
図10では、理解を助けるために、大線膨張部材314にハッチングを施してある。
図10の破線NLが中立面を示している。中立面NLは、検出梁304が検出方向(X方向)に振動したときに引張応力も圧縮応力も生じない仮想的な面である。Q値を決める無次元指標κは、梁のヤング率E、線膨張係数αの二乗、及び、初期温度T
0に比例し、比熱cvに反比例する。それゆえ、線膨張係数αの大きい物質(大線膨張部材314)を検出梁304に埋め込むことで検出方向の振動のQ値を下げることができる。Q値は、梁の内部応力の大きさに依存するので、応力が生じない箇所(中立面NL)でなく、応力が生じる箇所(中立面NLから離れた箇所)に大線膨張部材314を埋め込むことで、Q値を効果的に小さくすることができる。
【0056】
図11は、第4変形例の検出梁404の拡大平面図である。検出梁404もシリコンで作られている。検出梁404の内部にシリコンよりも変形時の内部摩擦の大きい物質(高内部摩擦部材414a、414b)が埋め込まれている。検出梁404の内部に高内部摩擦部材414a、414bを埋め込むことによっても、検出方向の振動のQ値を下げることができる。内部摩擦によってエネルギが散逸するのでQ値が下がる。内部摩擦の高い部材は、高内部摩擦部材414aのように、中立面NLと重なるように埋め込まれていてもよい。中立面NLに重なるように埋め込まれていても、高内部摩擦部材414aは検出方向に相応の厚みがあるため、振動時にその内部にせん断力が作用し、エネルギ散逸が生じる。
【0057】
あるいは、内部摩擦の高い部材は、高内部摩擦部材414bのように、シリコン製の検出梁404を覆うように設けられてもよい。シリコンよりも内部摩擦の大きい材料の例としては、マグネシウムやポリイミド樹脂がある。逆に、励振梁に内部摩擦の小さい部材を埋め込むことで、検出梁のQ値を励振梁のQ値よりも相対的に小さくすることができる。
【0058】
次に、励振梁6の変形例を説明する。先に述べたように、励振梁6の振動のQ値(励振Q値)を大きくするによっても、検出Q値を相対的に小さくすることができる。
図12に、励振梁の第1変形例(励振梁106)の拡大平面図を示す。励振梁106は、本体梁106aと、複数の副梁106bを含んでいる。複数の副梁106bは、その梁幅が本体梁106aの梁幅よりも細い。いくつかの副梁106bは、本体梁106aの一端と励振基部5を連結している。残りの副梁106bは、本体梁106aの他端とケース15を連結している。副梁106bは、梁幅が細いがゆえに、励振梁106のQ値を大きくする。有限要素法(FEM)解析により、そのような結果が得られている。
【0059】
他方、一般に、梁幅を細くすると、梁の共振周波数が低くなり、目的の共振周波数を実現することができなくなるおそれがある。第1変形例の励振梁106は、複数の副梁106bを用いることで、目的の梁剛性を得ながら、励振Q値を高くすることができる。
【0060】
なお、梁の中央を通る中立線の左または右にある副梁106bは、引っ張り応力または圧縮応力しか働かない。それゆえ、梁の両端の熱が混ざることで熱エネルギが平均化され、エネルギ損失となることで励振Q値が下がることを回避することができる。
【0061】
次に、
図13に、励振梁の第2変形例(励振梁206)の拡大平面図を示す。励振梁206は、その両端に、スリット206aを有している。
図14に、励振梁の第3変形例(励振梁306)の拡大平面図を示す。励振梁306は、その両端に、V字状のスリット306aを有している。直線状のスリット206aは、梁の熱伝導率を下げたときと同等の効果がある。V字状のスリット306aは、梁の幅を広げ、温度が低い部位と高い部位の距離を拡げることと同等の効果がある。いずれのスリット形状でも、熱の伝わり易さを調整することができる。熱の伝わり易さを調整することによって、振動のQ値を調整することができる。
【0062】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。先に述べたように、質量部3、励振基部5、励振梁6、検出梁4は、ケース15に収容されている。ケース15の内部は真空に保たれている。ケース15の内部が真空に保たれていることで、質量部3、励振基部5、励振梁6、検出梁4の振動は、空気の粘性と温度の影響を受けない。空気の粘性と温度の影響を受けない分、ジャイロ2は計測精度が高い。その分、ジャイロ2において、加振側と検出側の共振周波数のずれによる計測感度の変化の影響が大きくなる。実施例のジャイロ2は、検出Q値が励振Q値よりも小さいことよる計測感度の変化を低減する効果がより顕著に表れる。なお、ケース15の内部が真空状態でなくとも、相応の効果を得ることができる。
【0063】
実施例では、検出梁4はシリコンで作られていた。励振梁6と質量部3もシリコンで作られていることが望ましい。ただし、本明細書が開示する技術は、梁や質量部の材料がシリコンに限られるものではない。
【0064】
図中のX方向が第1方向(検出方向)に対応し、Y方向が第2方向(加振方向)に対応する。実施例の容量検出器9が、質量部3の第2方向の変位量を検出する検出器の一例に相当する。ケース15が固定部の一例に相当する。実施例の加振器7は、静電力を発生させて質量部3(励振基部5)を振動させるタイプである。加振器7は、圧電素子で質量部を励振するタイプや、他のタイプであってもよい。
【0065】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。