特許第6802126号(P6802126)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802126
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】インバータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20201207BHJP
【FI】
   H02M7/48 F
   H02M7/48 M
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-161895(P2017-161895)
(22)【出願日】2017年8月25日
(65)【公開番号】特開2019-41490(P2019-41490A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】倉岡 智弘
(72)【発明者】
【氏名】小芦 英史
(72)【発明者】
【氏名】竹本 敬介
【審査官】 遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−182606(JP,A)
【文献】 特開2008−312398(JP,A)
【文献】 特開2015−136223(JP,A)
【文献】 特開2016−197933(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0346989(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105594113(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/2−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と交流の回転電機との間に設けられて直流と交流との間で電力を変換するインバータを制御するインバータ制御装置であって、
前記直流電源と並列に平滑コンデンサが接続され、前記インバータは、キャリア周波数に基づくパルス幅変調により直流から交流への電力の変換を行うものであり、
前記インバータが有するスイッチング素子の発熱量が予め定められた規定値以下となるように設定された領域であって、前記直流電源の電圧が高くなるに従って前記キャリア周波数が低くなる上限ライン以下の領域である第一領域と、前記スイッチング素子のスイッチングにより生じるリップル電圧が予め定められた規定値以下となるように設定された領域であって、前記直流電源の電圧が高くなるに従って前記キャリア周波数が低くなる下限ライン以上の領域である第二領域と、が重なる重複領域において、前記直流電源の電圧に応じて前記キャリア周波数を可変に設定するインバータ制御装置。
【請求項2】
前記平滑コンデンサの容量が、前記下限ラインが前記上限ラインよりも下方に位置することになるように設定されている請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記直流電源は、第一電圧以上第二電圧以下の範囲内のいずれかの大きさの電圧を出力するものであり、
前記第二電圧に応じて前記上限ラインにより定まる前記キャリア周波数が、前記第一電圧に応じて前記下限ラインにより定まる前記キャリア周波数よりも低い請求項1又は2に記載のインバータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電源と交流の回転電機との間に設けられて直流と交流との間で電力を変換するために、インバータが利用されている。このようなインバータとして、直流電源と並列に平滑コンデンサが接続されるとともに、キャリア周波数に基づくパルス幅変調により直流から交流への電力の変換を行うものが利用されている。そして、かかる構成のインバータを制御するインバータ制御装置の一例が、例えば特開2016−197933号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
特許文献1のインバータ制御装置は、パルス幅変調のキャリア周波数を可変に設定することができるように構成されている。具体的には、当該制御装置は、モータ損失を低減させる目的で、変調率が高いほどパルス幅変調のキャリア周波数を高く設定するように構成されている。
【0004】
しかし、直流電源、平滑コンデンサ、インバータ、回転電機、及びインバータ制御装置を含む回転電機駆動システムを構築するにあたっては、モータ損失を低減させること以外にも、種々の要求事項が存在する。例えば、システム全体の小型化を図ることは、一般的な要求事項の1つとして挙げられる。システムを小型化するためにはできるだけ低容量の平滑コンデンサを用いることが好ましいが、平滑コンデンサを低容量化すればリップル電圧が大きくなる。パルス幅変調のキャリア周波数を高くすれば、リップル電圧を抑えつつ平滑コンデンサを低容量化することも可能ではあるが、この場合、スイッチング損失が増大してスイッチング素子の耐熱性が問題となり得る。このように、システムを小型化しながらのリップル電圧の抑制と、素子耐熱の確保という、相反する要求事項が存在するところ、そのような観点に基づく制御装置構成に関しては、特許文献1には一切記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−197933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
システム全体の小型化を図りつつ、スイッチング素子の発熱やスイッチングに伴うリップル電圧を小さく抑えることを可能とするインバータ制御装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るインバータ制御装置は、
直流電源と交流の回転電機との間に設けられて直流と交流との間で電力を変換するインバータを制御するインバータ制御装置であって、
前記直流電源と並列に平滑コンデンサが接続され、前記インバータは、キャリア周波数に基づくパルス幅変調により直流から交流への電力の変換を行うものであり、
前記インバータが有するスイッチング素子の発熱量が予め定められた規定値以下となるように設定された領域であって、前記直流電源の電圧が高くなるに従って前記キャリア周波数が低くなる上限ライン以下の領域である第一領域と、前記スイッチング素子のスイッチングにより生じるリップル電圧が予め定められた規定値以下となるように設定された領域であって、前記直流電源の電圧が高くなるに従って前記キャリア周波数が低くなる下限ライン以上の領域である第二領域と、が重なる重複領域において、前記直流電源の電圧に応じて前記キャリア周波数を可変に設定する。
【0008】
一般にスイッチング素子の発熱量は直流電源の電圧及びスイッチングの頻度に応じて大きくなる。直流電源の電圧が高くなっても、それに応じてパルス幅変調のキャリア周波数を低くすることで、スイッチング損失を低減してスイッチング素子の発熱を抑えることができる。よって、素子耐熱に応じた上限ラインを設定し、その上限ライン以下の領域(第一領域)で直流電源の電圧に応じてキャリア周波数を可変に設定することで、スイッチング素子の素子耐熱を確保することができる。
一方、リップル電圧は、直流電源の電圧及びパルス幅変調のキャリア周波数の両方に反比例する。直流電源の電圧が低くなっても、それに応じてパルス幅変調のキャリア周波数を高くすることで、リップル電圧を小さく抑えることができる。よって、許容できるリップル電圧に応じた下限ラインを設定し、その下限ライン以上の領域(第二領域)で直流電源の電圧に応じてキャリア周波数を可変に設定することで、リップル電圧を小さく抑えることができる。キャリア周波数の設定によってリップル電圧を小さく抑えられるので、低容量の平滑コンデンサを用いることができ、平滑コンデンサの低容量化によってシステム全体の小型化を図ることができる。
そして、第一領域と第二領域とが重なる重複領域で直流電源の電圧に応じてキャリア周波数を可変に設定することで、システム全体の小型化を図りつつ、スイッチング素子の発熱やスイッチングに伴うリップル電圧を小さく抑えることが可能となる。
【0009】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転電機駆動システムの全体構成を模式的に示すブロック図
図2】パルス幅変調の原理を示す説明図
図3】第一領域を示す模式図
図4】第二領域を示す模式図
図5】重複領域を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
インバータ制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、車両の駆動力源となる回転電機30を駆動制御する回転電機駆動システム100に備えられるインバータ制御装置1(CTRL)を例として説明する。図1に示すように、インバータ制御装置1は、直流電源10と交流の回転電機30との間に設けられて直流と交流との間で電力を変換するインバータ20を制御する。
【0012】
直流電源10は、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の充電可能な二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタ等により構成されている。直流電源10は、第一電圧V1以上第二電圧V2以下の範囲内のいずれかの大きさの電圧を出力する。本実施形態のように回転電機30が車両の駆動力源である場合、直流電源10は、大電圧大容量の直流電源であり、定格の電源電圧は、例えば200〜400[V]である。このような場合には、200[V]が第一電圧V1の一例であり、400[V]が第二電圧V2の一例である。
【0013】
直流電源10には、当該直流電源10と並列に、平滑コンデンサ15が接続されている。平滑コンデンサ15は、インバータ20の直流側に接続されており、直流電源10の正極と負極との間の電圧(以下、「直流リンク電圧Vdc」と言う。)を平滑化する。
【0014】
インバータ20は、直流電源10と交流の回転電機30との間に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。インバータ20は、複数(本例では3つ)のアーム22を備えたブリッジ回路により構成されている。回転電機30が3相交流式である場合には、U相,V相,W相に対応するステータコイル32のそれぞれにアーム22が対応したブリッジ回路が構成される。各アーム22は直列に接続された2つのスイッチング素子24(正極側に位置する上段側スイッチング素子,負極側に位置する下段側スイッチング素子)を備えている。各アーム22は、それら2つのスイッチング素子24どうしの接続点で、回転電機30の3相のステータコイル32にそれぞれ接続されている。
【0015】
スイッチング素子24としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、SiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)、SiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN−MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)等の、高周波での動作が可能なパワー半導体素子を用いることができる。本実施形態では、スイッチング素子24としてIGBTが用いられている。各スイッチング素子24には、負極から正極へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、フリーホイールダイオード26が並列に接続されている。
【0016】
インバータ20は、インバータ制御装置1により制御される。インバータ制御装置1は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、インバータ制御装置1は、車両内の上位の制御装置の1つである車両ECU(Electronic Control Unit)90(VHL-ECU)等の他の制御装置等から要求信号として提供される回転電機30の目標トルクに基づいて、ベクトル制御法を用いた公知の電流フィードバック制御を行って、インバータ20を介して回転電機30を制御する。
【0017】
回転電機30の各相のステータコイル32を流れる実電流は電流センサ42により検出され、インバータ制御装置1はその検出結果を取得する。また、回転電機30のロータの各時点での磁極位置やロータの回転速度は、例えばレゾルバ等の回転センサ44により検出され、インバータ制御装置1はその検出結果を取得する。インバータ制御装置1は、電流センサ42及び回転センサ44の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。
【0018】
各スイッチング素子24の制御端子(例えばIGBTのゲート端子)は、ドライブ回路5(DRV)を介してインバータ制御装置1に接続されている。インバータ制御装置1はスイッチング制御信号を生成し、各スイッチング素子24をそれぞれ個別にスイッチング制御する。なお、車両ECU90やインバータ制御装置1の動作電圧は例えば5[V]や3.3[V]であり、車両に搭載された低圧バッテリ(例えば12〜24[V];図示せず)からの電力供給を受けて動作する。
【0019】
このように、インバータ20とインバータ制御装置1とでは動作電圧が大きく異なるため、回転電機駆動システム100にはドライブ回路5が備えられている。インバータ制御装置1により生成されたスイッチング制御信号(IGBTの場合、ゲート駆動信号)は、ドライブ回路5を介してインバータ20に供給される。ドライブ回路5は、各スイッチング素子24に対するスイッチング制御信号の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流等、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する。
【0020】
インバータ20は、キャリア周波数fcに基づくパルス幅変調により直流から交流への電力の変換を行う。インバータ制御装置1は、キャリア周波数fcに基づくパルス幅変調によりインバータ20をスイッチング制御する。図2は、1相の電圧指令vがパルス幅変調される原理を示している。図2に示すように、電圧指令vと、パルス幅変調のためのキャリアCWとの比較により、電圧指令vがパルス信号PW(変調パルス)に変換される。キャリアCWの周期TPの逆数がキャリア周波数fcである。図2から明らかなように、キャリア周波数fcが高くなると(キャリアCWの周期TPが短くなると)、電圧指令vの1周期においてより多くのパルス信号PWが生成されることになる。
【0021】
回転電機駆動システム100の小型化を図ることは、一般的な要求事項の1つとして挙げられる。システムを小型化するためにはできるだけ低容量の平滑コンデンサ15を用いることが好ましいが、平滑コンデンサ15を低容量化すればリップル電圧が大きくなる。このため、リップル電圧を抑えつつ平滑コンデンサ15を低容量化することが求められる。
【0022】
ここで、平滑コンデンサ15の容量C、リップル電圧Vrp、インバータ20の直流側を流れる直流電流i、及びキャリア周波数fcの間には、以下の関係が成立する。
C=i/(Vrp・2fc) ・・・(式1)
また、直流電流iと直流リンク電圧Vdcとを乗算したものが直流電力Pwであるから、式1は、以下のように書き換えることができる。
C=Pw/(Vrp・Vdc・2fc) ・・・(式2)
この式2から、直流電力Pw及びリップル電圧Vrpが一定であれば、直流リンク電圧Vdcを高くすること、又は、キャリア周波数fcを高くすることによって、平滑コンデンサ15を低容量化できることが分かる。
【0023】
その一方で、スイッチング素子24の発熱量は、直流リンク電圧Vdcが高くなるに従って大きくなり、キャリア周波数fcが高くなるに従って大きくなる。上記のように直流リンク電圧Vdcやキャリア周波数fcの設定によって平滑コンデンサ15を低容量化しつつより大きなリップル電圧を抑えようとすれば、スイッチング素子24の耐熱性が問題となり得る。つまり、回転電機駆動システム100を小型化しながらのリップル電圧の抑制と、素子耐熱の確保とは、互いに背反する事項となり得、これらの相反する要求事項を共に満足させることが求められる。
【0024】
この点を考慮し、本実施形態のインバータ制御装置1は、リップル電圧の抑制と素子耐熱の確保とを共に遵守可能な範囲内で、直流電源10の電圧(直流リンク電圧Vdc)に応じてキャリア周波数fcを可変に設定する。より具体的には、直流リンク電圧Vdcとキャリア周波数fcとの関係を規定した2次元マップにおいて、素子耐熱を確保可能な第一領域R1(図3を参照)と、リップル電圧を抑制可能な第二領域R2(図4を参照)とが設定される。そして、インバータ制御装置1は、第一領域R1と第二領域R2とが重なる重複領域Ro(図5を参照)において、直流リンク電圧Vdcに応じてキャリア周波数fcを可変に設定する。
【0025】
第一領域R1は、インバータ20が有するスイッチング素子24の発熱量が予め定められた規定値以下となるように設定された領域である。スイッチング素子24の発熱量に関する前記規定値は、例えば許容可能なスイッチング素子24の最高温度や、冷却装置が設けられる場合における冷却液温度等に基づいて設定される。上述したように、スイッチング素子24の発熱量は、直流リンク電圧Vdcが高くなるに従って大きくなり、キャリア周波数fcが高くなるに従って大きくなる。このため、図3に示すように、前記規定値に応じた上限ラインLuが、直流リンク電圧Vdcが高くなるに従ってキャリア周波数fcが低くなるように定まり、当該上限ラインLu以下の領域が第一領域R1となる。第一領域R1では、直流リンク電圧Vdcが比較的低い場合だけでなく、直流リンク電圧Vdcが高くなってもそれに応じてパルス幅変調のキャリア周波数fcを低くすることで、スイッチング損失を低減することができる。よって、スイッチング素子24の発熱を抑えることができ、素子耐熱を確保することができる。
【0026】
第二領域R2は、スイッチング素子24のスイッチングにより生じるリップル電圧が予め定められた規定値以下となるように設定された領域である。リップル電圧に関する前記規定値は、例えば要求される制御精度等に基づいて設定される。上述した式2は以下のように書き換えることができ、
Vrp=Pw/(C・Vdc・2fc) ・・・(式3)
リップル電圧Vrpは、直流リンク電圧Vdcが低くなるに従って大きくなり、キャリア周波数fcが低くなるに従って大きくなる。このため、図4に示すように、前記規定値に応じた下限ラインLlが、直流リンク電圧Vdcが低くなるに従ってキャリア周波数fcが高くなる(言い換えれば、直流リンク電圧Vdcが高くなるに従ってキャリア周波数fcが低くなる)ように定まり、当該下限ラインLl以上の領域が第二領域R2となる。第二領域R2では、直流リンク電圧Vdcが比較的高い場合だけでなく、直流リンク電圧Vdcが低くなってもそれに応じてパルス幅変調のキャリア周波数fcを高くすることで、リップル電圧を許容範囲内に抑えることができる。
【0027】
なお、式3から理解できるように、リップル電圧Vrpは、平滑コンデンサ15の容量Cにも依存して変化する。すなわち、リップル電圧Vrpは、直流リンク電圧Vdcやキャリア周波数fcが同一であれば、平滑コンデンサ15の容量Cが大きいほど小さく、平滑コンデンサ15の容量Cが小さくなるに従って大きくなる。図4のマップとの関係では、平滑コンデンサ15の容量Cが大きいほど下限ラインLlが下方に位置し、平滑コンデンサ15の容量Cが小さくなるに従って下限ラインLlが上方に位置するようになる。なお、図4の例では、中程度の容量Cの平滑コンデンサ15に対応する第二領域R2を、ハッチング付きで表示している。
【0028】
平滑コンデンサ15の容量Cは、リップル電圧を考慮した下限ラインLlが、素子耐熱を考慮した上限ラインLuよりも下方に位置することになるように設定されている。平滑コンデンサ15の容量Cは、下限ラインLlが上限ラインLuよりも下方に位置することになるとの制約の下、ある程度の余裕代も加味しつつ、極力小さくなるように設定されている。一例として、平滑コンデンサ15の容量Cは、下限ラインLlが、上限ラインLuよりも例えば200〜1000[Hz]相当分だけ下方(低周波数側)に位置することになるように設定されている。
【0029】
平滑コンデンサ15の容量Cを上記のように設定することで、図5に示すように、第一領域R1と第二領域R2とが重なる重複領域Roが存在することになる。重複領域Roは、リップル電圧を考慮した下限ラインLlよりも上方であって、素子耐熱を考慮した上限ラインLuよりも下方に位置する領域である。上述したように、直流電源10は、第一電圧V1以上第二電圧V2以下の範囲内のいずれかの大きさの電圧を出力する。本実施形態では、通常想定される直流電源10の最小電圧である第一電圧V1に応じて下限ラインLlにより定まる第一周波数f1よりも、通常想定される直流電源10の最大電圧である第二電圧V2に応じて上限ラインLuにより定まる第二周波数f2が低くなっている。このため、重複領域Roは、全体としても、直流リンク電圧Vdcが高くなるに従ってキャリア周波数fcが低くなる帯状領域となっている。但し、そのような構成に限定されることなく、第一周波数f1よりも第二周波数f2が高い構成が排除される訳ではない。
【0030】
インバータ制御装置1は、直流リンク電圧Vdcが高くなるに従ってキャリア周波数fcが低くなる帯状の重複領域Roにおいて、直流リンク電圧Vdcに応じてキャリア周波数fcを可変に設定する。概略的には、インバータ制御装置1は、直流リンク電圧Vdcに応じて、直流リンク電圧Vdcが大きくなるに従ってキャリア周波数fcを小さくする。インバータ制御装置1は、直流リンク電圧Vdcに応じてキャリア周波数fcを段階的に変更しても良いし、直線的に変更しても良い。
【0031】
本実施形態では、少なくとも重複領域Roが生じる程度に低容量で小型の平滑コンデンサ15を用いるとともに、重複領域Roにおいて直流リンク電圧Vdcに応じてキャリア周波数fcを可変に設定する。これにより、回転電機駆動システム100の全体の小型化を図りつつ、スイッチング素子24の発熱やスイッチングに伴うリップル電圧を小さく抑えることができる。
【0032】
なお、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0033】
〔実施形態の概要〕
以上をまとめると、本開示に係るインバータ制御装置は、好適には、以下の各構成を備える。
【0034】
直流電源(10)と交流の回転電機(30)との間に設けられて直流と交流との間で電力を変換するインバータ(20)を制御するインバータ制御装置(1)であって、
前記直流電源(10)と並列に平滑コンデンサ(15)が接続され、前記インバータ(20)は、キャリア周波数(fc)に基づくパルス幅変調により直流から交流への電力の変換を行うものであり、
前記インバータ(20)が有するスイッチング素子(24)の発熱量が予め定められた規定値以下となるように設定された領域であって、前記直流電源(10)の電圧(Vdc)が高くなるに従って前記キャリア周波数(fc)が低くなる上限ライン(Lu)以下の領域である第一領域(R1)と、前記スイッチング素子(24)のスイッチングにより生じるリップル電圧が予め定められた規定値以下となるように設定された領域であって、前記直流電源(10)の電圧(Vdc)が高くなるに従って前記キャリア周波数(fc)が低くなる下限ライン(Ll)以上の領域である第二領域(R2)と、が重なる重複領域(Ro)において、前記直流電源(10)の電圧(Vdc)に応じて前記キャリア周波数(fc)を可変に設定する。
【0035】
一般にスイッチング素子(24)の発熱量は直流電源(10)の電圧(Vdc)及びスイッチングの頻度に応じて大きくなる。直流電源(10)の電圧(Vdc)が高くなっても、それに応じてパルス幅変調のキャリア周波数(fc)を低くすることで、スイッチング損失を低減してスイッチング素子(24)の発熱を抑えることができる。よって、素子耐熱に応じた上限ライン(Lu)を設定し、その上限ライン(Lu)以下の領域(第一領域(R1))で直流電源(10)の電圧(Vdc)に応じてキャリア周波数(fc)を可変に設定することで、スイッチング素子(24)の素子耐熱を確保することができる。
一方、リップル電圧は、直流電源(10)の電圧(Vdc)及びパルス幅変調のキャリア周波数(fc)の両方に反比例する。直流電源(10)の電圧(Vdc)が低くなっても、それに応じてパルス幅変調のキャリア周波数(fc)を高くすることで、リップル電圧を小さく抑えることができる。よって、許容できるリップル電圧に応じた下限ライン(Ll)を設定し、その下限ライン(Ll)以上の領域(第二領域(R2))で直流電源(10)の電圧(Vdc)に応じてキャリア周波数(fc)を可変に設定することで、リップル電圧を小さく抑えることができる。キャリア周波数(fc)の設定によってリップル電圧を小さく抑えられるので、低容量の平滑コンデンサ(15)を用いることができ、平滑コンデンサ(15)の低容量化によってシステム全体の小型化を図ることができる。
そして、第一領域(R1)と第二領域(R2)とが重なる重複領域(Ro)で直流電源(10)の電圧(Vdc)に応じてキャリア周波数(fc)を可変に設定することで、システム全体の小型化を図りつつ、スイッチング素子(24)の発熱やスイッチングに伴うリップル電圧を小さく抑えることが可能となる。
【0036】
一態様として、
前記平滑コンデンサ(15)の容量(C)が、前記下限ライン(Ll)が前記上限ライン(Lu)よりも下方に位置することになるように設定されていることが好ましい。
【0037】
この構成によれば、確実に重複領域(Ro)を生じさせることができ、直流電源(10)の電圧(Vdc)に応じたキャリア周波数(fc)の可変設定により、システム全体の小型化を図りつつ、スイッチング素子(24)の発熱やスイッチングに伴うリップル電圧を小さく抑えることができる。
【0038】
一態様として、
前記直流電源(10)は、第一電圧(V1)以上第二電圧(V2)以下の範囲内のいずれかの大きさの電圧(Vdc)を出力するものであり、
前記第二電圧(V2)に応じて前記上限ライン(Lu)により定まる前記キャリア周波数(f2)が、前記第一電圧(V1)に応じて前記下限ライン(Ll)により定まる前記キャリア周波数(f1)よりも低いことが好ましい。
【0039】
この構成によれば、第二電圧(V2)に応じて上限ライン(Lu)により定まるキャリア周波数(f2)が第一電圧(V1)に応じて下限ライン(Ll)により定まるキャリア周波数(f1)よりも高いような構成に比べて、下限ライン(Ll)を上限ライン(Lu)に近づけることができる。よって、より低容量で小型の平滑コンデンサ(15)を用いることができ、システム全体をさらに小型化することができる。
【0040】
本開示に係るインバータ制御装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができれば良い。
【符号の説明】
【0041】
1 インバータ制御装置
10 直流電源
15 平滑コンデンサ
20 インバータ
24 スイッチング素子
30 回転電機
Vdc 直流リンク電圧(直流電源の電圧)
V1 第一電圧
V2 第二電圧
C 容量
fc キャリア周波数
f1 第一周波数(第一電圧に応じて下限ラインにより定まるキャリア周波数)
f2 第二周波数(第二電圧に応じて上限ラインにより定まるキャリア周波数)
Lu 上限ライン
Ll 下限ライン
R1 第一領域
R2 第二領域
Ro 重複領域
図1
図2
図3
図4
図5