(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持部材が複数段にわたって設置されるものであり、前記ストッパー部材は複数の前記接触部を有し、前記ストッパー部材を所定の位置に取り付けた状態においては、それぞれの接触部が、各段の前記設置領域の端部近傍に位置することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の熱処理装置。
前記被加熱物を前記加熱室に挿入する際の進行方向を前記被加熱物の縦方向と定義し、前記進行方向に対して直交する方向を前記被加熱物の幅方向と定義するとき、前記ストッパー部材は、前記設置領域の前記幅方向端部近傍にあり、前記被加熱物の前記幅方向の移動を規制するものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の熱処理装置。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等を熱処理する熱処理装置が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された熱処理装置は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)やプラズマディスプレイ(PDP:Plasma Display Panel)、有機ELディスプレイ等のようなフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel display)の製作に使用される。
熱処理装置の一形式として、加熱室内に所定温度の熱風を導入するものがある。
また熱処理装置の一例として、加熱室内に載置棚が配された構造のものがある。
例えば予めガラス板等に対して特定の溶液を塗布したガラス基板を、ロボットハンドを用いて前記した載置棚の段部の間に入れる。そして加熱室内に熱風を導入し、ガラス板を熱風に晒して乾燥したり熱処理(焼成)した後、ロボットハンドを用いて処理済みのガラス板を取り出す。
【0003】
載置棚には、基板を支持する支持部材が上下方向に複数段にわたって設けられた構造のものがある。
支持部材は、例えば、棒、梁、板によって構成されている場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した様に、ガラス基板は、例えばロボットハンドを用いて加熱室に挿入され、載置棚の所定の段に設置される場合がある。そして加熱室に熱風を循環させてガラス基板を乾燥並びに焼成する。
ここで被加熱物たるガラス基板のサイズはまちまちであり、大面積のものや、厚さの薄いものがある。特に近年では、面積が1.0平方メートル程度以上と大型であり、且つ厚さが0.5mmという様な極めて薄いガラス基板を熱処理する場合がある。
【0006】
面積が大きく、且つ薄いガラス基板を熱風にさらすと、風によってガラス基板が幅方向(横方向)にずれ動き、移動してしまう場合がある。なお本明細書では、加熱室に対してガラス基板を挿入する方向を「ガラス基板の縦方向」と称し、これに直交する方向を「ガラス基板の幅方向」と称する。
熱処理されたガラス基板は、ロボットハンド等によって加熱室から取り出され、次工程に送られる。ここで正規の位置から幅方向に移動してしまったガラス基板をロボットハンド等によって次工程の装置に載置すると、次工程の装置に対するガラス基板の装着位置が正規の位置から外れてしまう場合がある。
【0007】
そこで本発明者らは、試験室内にガラス基板の移動を規制するストッパー部材を設けた。試作したストッパー部材は、板状であり、垂直姿勢に設置されている。ストッパー部材の板面は、ガラス基板側に面している。
試作した熱処理装置では、ストッパー部材は、ガラス基板が設置される設置領域の両端に配置されており、ガラス基板が幅方向にずれ動いた場合にストッパー部材に当たって止まる。そのためガラス基板が動いたとしても、ガラス基板の設置位置は許容範囲内に収まり、ガラス基板を次工程の装置に移動した際に、ガラス基板は次工程の装置の正規の位置に設置される。そのため支障無く次工程の装置で所定の加工を施すことができた。
【0008】
ところが試作した熱処理装置では、想定していなかった問題が生じた。
即ち試作した熱処理装置を使用してガラス基板を熱処理すると、ガラス基板が欠けたり、割れることが、従来よりも多く発生した。
この原因を調査したところ、ガラス基板の辺部に微小なクラックが生じ、以後の工程でこのクラックがガラス基板の割れにつながることがわかった。
さらにこの原因を追求したところ、前記したクラックは、ロボットハンドを用いてガラス基板を加熱室から取り出す際に発生することが判明した。
【0009】
即ちガラス基板は、加熱室内において支持部材上に平置きされている。ガラス基板を取り出す際には、例えば
図8に示すように、ロボットハンドのフォーク状の保持部材110を取り出そうとするガラス基板の下面側に差し入れ、保持部材110を上昇させてガラス基板をすくい上げ、保持部材110を後退させてガラス基板を加熱室から取り出す。
この際にガラス基板の端辺が幅方向に移動してストッパー部材に当たり、さらに端辺が上方向に移動する際にストッパー部材と擦れて傷つく場合があった。
以下、説明する。
【0010】
試作した熱処理装置では、支持部材100は、
図8の様な2本の支持片101によって構成されている。2本の支持片101は棒状の部材であり、ガラス基板105の挿入方向(縦方向)に対して順方向に設置されている。また2本の支持片101は、一定の距離を開けて平行に設置されている。
ストッパー部材102は、各支持片101の幅方向外側に設けられている。ストッパー部材102は、いずれも
図8の様に垂直姿勢(鉛直姿勢)に設置されている。
図8(a)の様に、ストッパー部材102同士の間隔Wは、ガラス基板105の自然状態の幅Waよりも広い。
【0011】
支持片101にガラス基板105を載置すると、ガラス基板105は自重によって僅かに撓み、
図8(b)の様に下に凸の形状に変形する。
そのためガラス基板105の見かけ上の幅Wbは、本来の幅Waよりも短くなる。前記した様にストッパー部材102同士の間隔Wは、ガラス基板105の自然状態の幅Waよりも広く、且つ支持部材100に設置された状態におけるガラス基板105の見かけ上の幅Wbは、本来の幅Waよりも短いので、ガラス基板105の端部はストッパー部材102には当たらない。
【0012】
ガラス基板105は、加熱室内で熱風にさらされて乾燥並びに焼成される。またガラス基板105は、熱風にさらされて幅方向にずれる場合があり、例えば
図8(c)の様に端部が一方のストッパー部材102に近づく。
【0013】
ガラス基板105に対する乾燥や焼成が終了すると、
図8(d)の様にロボットハンドのフォーク状の保持部材110の爪部111をガラス基板105の下に挿入する。爪部111の間隔は、支持片101の間隔よりも狭い。
続いて保持部材110を上昇させてガラス基板105をすくい上げる。
ここでガラス基板105は、2個の支持片101によって支持され、
図8(b)の様に下に凸の形状であったものが、保持部材110の爪部111で中央部を支持されることによって
図8(f)の様に上に凸の形状に変形する。そしてその中途段階でガラス基板105は
図8(e)の様に直線状態となり、見かけ上の幅が本来の幅Waに戻り、ガラス基板105の端部が一方のストッパー部材102に近づき、一方のストッパー部材102と接触する。
そしてこの状態で
図8(f)の様にガラス基板105が上昇し、ガラス基板105の端部が一方のストッパー部材102と擦れて傷つく。
【0014】
本発明は、上記した知見に基づいて開発されたものであり、ガラス基板の様な被加熱物を傷つけにくい構造の熱処理装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決するため
の発明は、被加熱物を加熱する加熱室を有し、当該加熱室内で薄板状の被加熱物を熱処理する熱処理装置であって、当該加熱室内に前記被加熱物を平置き状に支持する支持部材が設置されており、前記支持部材に前記被加熱物を設置することが可能な熱処理装置において、前記被加熱物が設置される設置領域の端部近傍に、前記被加熱物の移動を規制するストッパー部材があり、当該ストッパー部材には、前記被加熱物の端部が接触し得る接触部があり、当該接触部は、上方が広がる方向に傾斜していることを特徴とする熱処理装置である。
請求項1に記載の発明は、被加熱物を熱風で加熱する加熱室を有し、当該加熱室内で薄板状の被加熱物を熱処理する熱処理装置であって、前記被加熱物は、中央部を支持されてすくい上げられると撓むものであり、前記加熱室内に前記被加熱物を平置き状に支持する支持部材が設置されており、前記支持部材に前記被加熱物を設置することが可能な熱処理装置において、前記支持部材は、前記被加熱物の端部より内側で前記被加熱物を支持するものであり、前記支持部材よりも外側であって、前記被加熱物が設置される設置領域の端部近傍の前記支持部材から離れた位置に、前記被加熱物の移動を規制するストッパー部材があり、当該ストッパー部材には、前記被加熱物の端部が接触し得る接触部があり、当該接触部は、上方が広がる方向に傾斜していることを特徴とする熱処理装置である。
請求項2に記載の発明は、被加熱物を加熱する加熱室を有し、当該加熱室内で薄板状の被加熱物を熱処理する熱処理装置であって、当該加熱室内に前記被加熱物を平置き状に支持する支持部材が設置されており、前記支持部材に前記被加熱物を設置することが可能な熱処理装置において、前記被加熱物が設置される設置領域の端部近傍に、前記被加熱物の移動を規制するストッパー部材があり、当該ストッパー部材には、前記被加熱物の端部が接触し得る接触部があり、当該接触部は、上方が広がる方向に傾斜し 、前記接触部は、前記被加熱物側に面し、且つ上方が広がる方向に傾斜する傾斜面を有し、前記傾斜面の縦辺が前記被加熱物に対して反対側に向かって折り返されていることを特徴とする熱処理装置である。
請求項3に記載の発明は、被加熱物を加熱する加熱室を有し、当該加熱室内で薄板状の被加熱物を熱処理する熱処理装置であって、当該加熱室内に前記被加熱物を平置き状に支持する支持部材が設置されており、前記支持部材に前記被加熱物を設置することが可能な熱処理装置において、前記被加熱物が設置される設置領域の端部近傍に、前記被加熱物の移動を規制するストッパー部材があり、当該ストッパー部材には、前記被加熱物の端部が接触し得る接触部があり、当該接触部は、上方が広がる方向に傾斜し 、前記接触部は、棒状の部材で構成されていることを特徴とする熱処理装置である。
【0016】
本発明の熱処理装置は、被加熱物の幅方向の移動を規制するストッパー部材を有し、ストッパー部材には、被加熱物の幅方向端部が接触し得る接触部がある。そのため薄板状の被加熱物が熱処理中にずれ動いても、被加熱物の位置は所定の範囲から外れ難い。
また本発明で採用するストッパー部材の接触部は、上方が広がる方向に傾斜している。そのため被加熱物を上方に移動させる場合、接触部と被加熱物との間はしだいに広がる傾向となり、被加熱物はストッパー部材に当たりにくい。また被加熱物はストッパー部材に擦れ難い。
【0017】
前記した請求項2に記載の発明は、前記接触部は、前記被加熱物側に面し、且つ上方が広がる方向に傾斜する傾斜面を有し、前記傾斜面の縦辺が前記被加熱物に対して反対側に向かって折り返されていることを特徴と
している。
【0018】
本発明の熱処理装置によると、傾斜面の縦辺が丸みを帯びた形状となり、被加熱物を傷つけにくい。
【0019】
請求項
4に記載の発明は、前記接触部は、平滑化処理がなされた平滑面であることを特徴とする請求項1
乃至3のいずれかに記載の熱処理装置である。
【0020】
本発明の熱処理装置によると、ストッパー部材の接触部が平滑面であるから被加熱物を傷つけにくい。
【0021】
請求項
5に記載の発明は、前記接触部は、表面処理による硬化層を有していることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれかに記載の熱処理装置である。
【0022】
本発明の熱処理装置によると、ストッパー部材の接触部は、硬度が高く、被加熱物との接触によって傷が付きにくい。そのためストッパー部材は、長期使用しても平滑性を保ち、被加熱物を傷つけにくい。
【0023】
請求項
6に記載の発明は、前記支持部材が複数段にわたって設置されるものであり、前記ストッパー部材は複数の前記接触部を有し、前記ストッパー部材を所定の位置に取り付けた状態においては、それぞれの接触部が、各段の前記設置領域の端部近傍に位置することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれかに記載の熱処理装置である。
【0024】
本発明によると、ストッパー部材の取り付けや位置決めが容易である。
【0025】
請求項
7に記載の発明は、前記被加熱物を前記加熱室に挿入する際の進行方向を前記被加熱物の縦方向と定義し、前記進行方向に対して直交する方向を前記被加熱物の幅方向と定義するとき、前記ストッパー部材は、前記設置領域の前記幅方向端部近傍にあり、前記被加熱物の前記幅方向の移動を規制するものであることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれかに記載の熱処理装置である。
【0026】
本発明によると、被加熱物の幅方向の辺を傷つけにくい。
【0027】
前記被加熱物が前記支持部材と接して保持された状態において、前記被加熱物の端部の撓み角度が5度未満であることが望ましい(請求項
8)。
【0028】
前記接触部は、鉛直方向に対して5度以上20度以下の範囲で傾斜した部位を有することが望ましい(請求項
9)。
【発明の効果】
【0029】
本発明の熱処理装置によると、薄板状の被加熱物が熱処理中にずれ動いても、被加熱物の位置は所定の範囲から外れることは少ない。
また本発明の熱処理装置によると、被加熱物が傷つきにくい。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の熱処理装置1は、
図1に示すように被加熱物を加熱する加熱室2を有し、加熱室2内に棚部材3が設置されたものである。棚部材3は、被加熱物たるガラス基板105を略水平姿勢で保持し、これを上下に一定の間隔をおいて複数枚収容する載置棚として機能するものである。
本実施形態では、棚部材3は熱処理装置1の本体部分とは別体のものである。
熱処理装置1の本体部分は、2点鎖線で示す外郭部材5内の中央に、加熱室2を有する。加熱室2の正面側には開口6があり、二点鎖線で示す扉7によって加熱室2の正面の開口6が開閉される。
加熱室2の奥面側、即ち開口6と対向する面は、全面が送風口8となっており、フィルター10が装着されている。
【0032】
本実施形態では、加熱室2の側面に側面通風路11がある。また加熱室2の上部にはヒータ室12があり、電気ヒータ13が設置されている。側面通風路11とヒータ室12との間には通風口20があり、側面通風路11とヒータ室12は通風口20を介して連通している。加熱室2の裏面側には奥側通風路21がある。奥側通風路21は前記したヒータ室12と加熱室2の送風口8を繋ぐものであり、送風機23が設置されている。
【0033】
熱処理装置1は、奥側通風路21に設けられた送風機23によって、加熱室2内の空気が側面通風路11等を経由して循環し、その間にヒータ室12を通過して循環する空気が所定の温度に調整される。
即ち加熱室2の空気は、送風機23の負圧によって吸引され、正面開口6の近傍から側面通風路11に流れる。側面通風路11を通過した空気は、通風口20からヒータ室12内に入り、電気ヒータ13と接して所定の温度に調整される。なお加熱室2には図示しない温度センサーがあり、当該温度センサーの検知温度が所定の温度となる様に電気ヒータ13が制御されている。
【0034】
ヒータ室12内で所定の温度に調整された空気は、送風機23に吸引されて加圧され、奥側通風路21及び送風口8を経由して加熱室2内に供給される。
本実施形態の熱処理装置1は、被加熱物を加熱処理するものであるから、加熱室2に導入される空気は高温である。また加熱室2内はある程度の風速をもって空気が流れている。本実施形態では、加熱室2内は、熱風が循環する状態となる。
【0035】
次に棚部材3について説明する。
棚部材3は、
図1の様に熱処理装置1の本体部分とは別体のものである。棚部材3は、筐体25内に支持部材15(
図3、
図4)及びストッパー部材27(
図2、
図4)が設置されたものである。
棚部材3の筐体25は、
図1、
図2、
図3の様に底面45、天面46及び左右の側面47,48が板で覆われ、正面と裏面が開口している。
【0036】
支持部材15は、加熱室2内においてガラス基板105を平置き状に支持するものであり、本実施形態では、
図3の様に各段それぞれ二本の支持片26a,26bによって構成されている。また本実施形態では、多数のガラス基板105を収容するべく支持部材15は、高さ方向に所定の間隔をあけて複数段にわたって設置されている。
支持部材15を構成する支持片26a,26bは、
図3、
図4に示す様に棒状である。支持片26a,26bは、
図3、
図4の様に筐体25の側面47,48から片持ち状に張り出された多数のブラケット43に支持されている。
支持片26a,26bは、水平姿勢であって、筐体25の側面47,48に対して平行であり、被加熱物の挿入方向に設置されている。
支持片26a,26bの長手方向の両端には、ガラス基板105の縦方向の位置ずれを防ぐための前後方向位置決め部材42が設けられている(
図2、
図4)。
【0037】
ストッパー部材27は、ステンレススチール等の金属板を曲げ加工して作られたものであり、
図2、
図4、
図5の様に、複数の接触部30が連接部31で繋がった構造となっている。
接触部30は、
図2、
図4の様に取り付け姿勢を基準として傾斜した平面を構成する部分である。
連接部31は、
図2、
図4の様に棚部材3の筐体25に取り付けられる取り付け部としての機能と、複数の接触部30を繋ぐ機能を果たす部分である。
連接部31は、
図5に示す様にその形状は帯状である。そして連接部31の一方の辺から一定間隔で突出片部35が突出している。突出片部35は、前記した連接部31と同一平面を構成するものである。
【0038】
突出片部35の自由端側は、
図5の様に垂直方向に折り曲げられ、前記した接触部30が形成されている。ただし、折り曲げライン36は、連接部31の軸線37に対して傾斜している。そのため接触部30は、
図5の様に、連接部31に対して交差し、且つ傾斜した平面となっている。即ち接触部30を構成する平面を仮想的に延長すると連接部31と交差する。また接触部30は、取り付けられた姿勢を基準とすると垂直姿勢(鉛直姿勢)に対して傾斜した姿勢となる。
【0039】
接触部30の自由端側は、さらに折り返されている。本実施形態は、折り返し部38が接触部30と略平行となる程度まで折り返されている。そのため折り返しライン40は、相当に丸みを帯びている。なお本実施形態の折り返し部38の曲げ形態は、ヘミング曲げと称される形態である。
接触部30の自由端側、即ち折り返しライン40は、ストッパー部材27が取り付けられた状態においては傾斜面の縦辺に相当し、被加熱物に対して反対側に向かって折り返された状態となる。
【0040】
また本実施形態では、接触部30は平滑化処理と硬化処理がなされている。
具体的には接触部30は、電解研磨処理が施され、平滑化処理と硬化処理が同時に行われている。ここで電解研磨とは、ワーク側を陽極にして電解液中に浸漬し、対極を陰極として通電するものである。
本実施形態では、ストッパー部材27は、ステンレススチールで作られている。ステンレススチールを電解研磨すると、表面の微小凹凸の凸部分により多くの電流が流れ、凸部が溶解して平滑化する。また溶解した金属成分の内、クロムが酸素と結合してワークの表面に酸化皮膜を形成する。その結果、ワークの表面が硬化する。
本実施形態では、ストッパー部材27を成形後、後加工として接触部30に電解研磨が施されている。そのため接触部30は平滑性が高く、且つ硬度も高い。
【0041】
ストッパー部材27は、
図2、
図4の様に、棚部材3に取り付けられている。具体的には、ネジ41によって、ストッパー部材27の連接部31が筐体25の開口端面に固定されて棚部材3に取り付けられている。
ストッパー部材27が取り付けられた状態においては、各接触部30は、支持片26a,26bと同等な高さの位置となる。即ちストッパー部材27が取り付けられた状態においては、各接触部30は、支持部材15と同等の高さとなり、ガラス基板105が熱風に煽られて幅方向に移動したときにガラス基板105の端部が接触し得る。
また各接触部30は、支持片26a,26bよりも外側に位置する。本実施形態では、支持片26a,26bにガラス基板105が設置されて棚部材3に収容されるので、各接触部30は、ガラス基板105が設置される設置領域の端部近傍に位置することとなる。
【0042】
また各接触部30は、いずれもガラス基板105に向き、且つ上方が広がる方向に傾斜する。各接触部30の傾斜角Aは、5度以上、20度以下である。
接触部30の傾斜角
が5度未満である場合は、ガラス基板105を上昇させる際にガラス基板105の端部が抜けにくく、接触部30に引っ掛かる場合がある。また傾斜角が20度を越えると、ガラス基板105が風圧で幅方向に移動した際に、端部が接触部30に乗り上げてしまう懸念がある。
接触部30のより望ましい傾斜角Aは5度以上15度以下である。接触部30の傾斜角Aが15度前後であれば、ガラス基板105が風圧で幅方向に移動しても端部が乗り上げにくく、ストッパー部材としての機能を損なわない。またガラス基板105を上昇させる際には、十分な抜け勾配を確保することができる。
【0043】
次に、本実施形態の熱処理装置1の機能について説明する。
本実施形態の熱処理装置1についても、ガラス基板105を被加熱物とし、ガラス基板105を熱処理するものである。
本実施形態においても、ガラス基板105は、加熱室2内において支持片26a,26b上に平置きされる。即ち各ガラス基板105は、撓みを無視すれば略水平姿勢に設置される。
ガラス基板105を取り出す際には、例えば
図6に示すように、フォーク状の保持部材110を加熱室2内の取り出そうとするガラス基板105の下面側に差し入れ、保持部材110を上昇させてガラス基板105をすくい上げ、保持部材110を後退させてガラス基板105を加熱室2から取り出す。
【0044】
本実施形態においても、ストッパー部材27の接触部30は、各支持片26a,26bの幅方向外側に設けられている。
【0045】
支持片26a,26bにガラス基板105を載置すると、ガラス基板105は自重によって僅かに撓み、
図6(a)の様に下に凸の形状に変形する。
ガラス基板105は、加熱室2内で熱風にさらされて乾燥並びに焼成される。またガラス基板105は、熱風にさらされて幅方向にずれ、
図6(b)の様に端部がストッパー部材27の接触部30に近づく場合がある。
【0046】
ガラス基板105に対する乾燥や焼成が終了すると、
図6(c)の様にロボットハンドのフォーク状の保持部材110の爪部111をガラス基板105の下に挿入する。爪部111の間隔は、支持片26a,26bの間隔よりも狭い。
続いて保持部材110を上昇
させてガラス基板105をすくい上げる。
ここでガラス基板105は、2個の支持片26a,26bによって支持され、
図6(c)の様に下に凸の形状であったものが、保持部材110の爪部111で中央部を支持されることによって
図6(e)の様に上に凸の形状に変形する。そしてその中途段階でガラス基板105は
図6(d)の様に直線状態となり、見かけ上の幅が本来の幅Waに戻る。そして場合によってはガラス基板105の端部が一方のストッパー部材27に近づき、一方のストッパー部材27と接触する。
【0047】
この状態で
図6(e)の様にガラス基板105が上昇する。ここで本実施形態で採用するストッパー部材27は、接触部30が、上方に広がる方向に傾斜している。そのためガラス基板105が上昇するのにつれて、接触部30の実際の接触位置は、ガラス基板105の端部から離れる方向となる。
またガラス基板105が支持片26a,26bから持ち上げられると、ガラス基板105は上に凸の形状に撓み、見かけ状の幅は短くなる。そのためガラス基板105が上昇すると、ストッパー部材27の接触部30は、ガラス基板105の端部から次第に離れ、ガラス基板105の端部と擦れ合う機会が少ない。
【0048】
また本実施形態で採用するストッパー部材27は、接触部30が平滑化処理されており、大きな凹凸はもちろん微細な凹凸も少なく、仮にガラス基板105と擦れあったとしてもガラス基板105を傷つけにくい。
さらに本実施形態で採用するストッパー部材27の接触部30は、端部が曲面であり、端部の返りや毛羽立ち等がない。
例えば、接触部30の端部が切り落とされた切断面であるならば、微小な返りや毛羽立ちがあり、ガラス基板105と擦れた場合にガラス基板105を傷つける懸念がある。
これに対して本実施形態の接触部30は、接触部30の縦辺に相当する部分がいずれも折り曲げられた部位であるから、微小な返りや毛羽立ちはない。
即ち接触部30の縦辺は、連接部31側の折り曲げライン36と、自由端側の折り返しライン40であるが、これらはいずれも折り曲げられたアール面であるから、返りや毛羽立ちがなく、ガラス基板105と接触してもガラス基板105を傷つけにくい。
そのため本実施形態の熱処理装置1では、ガラス基板105を取り出す際にガラス基板105を傷つけにくい。
【0049】
本実施形態では、2列に配された棒状の支持片26a,26bによってガラス基板105を支持している。
支持片26a,26bにガラス基板105を設置した際、ガラス基板105は水平姿勢であることが望ましいが、実際には幾分かは撓むことが避けられない。
ガラス基板105の自由端の撓み角B(
図6(a))は、5度未満であることが推奨される。熱処理装置1を設計する際には、撓み計算や実験によって自由端の撓み角Bを求め、この撓み角Bが5度未満となる様に支持片26a,26bの数や間隔を設定することが望ましい。
【0050】
以上説明した実施形態では、接触部30の表面を電解研磨処理を行うことによって接触部30の平滑化と硬化を行ったが、平滑化処理としてバフ研磨等の機械的手法を採用したり、電解研磨処理等の化学的処理とバフ研磨等の機械的手法を併用してもよい。
また硬化処理としては、他に窒化による方法が考えられる。
窒化処理の一つにイソナイト(登録商標)処理やパルソナイト(登録商標)処理がある。前者のイソナイト(登録商標)処理は、塩浴軟窒化処理であり、主に摂氏570度または580度でワークの表面に窒化物を生成させる方法である。
後者のパルソナイト(登録商標)処理は、低温での塩浴軟窒化処理であり、主に摂氏480度または520度でワークの表面に窒化物を生成させる方法である。
【0051】
以上説明した実施形態では、ストッパー部材27の接触部30は、傾斜平面を構成するものであったが、
図7(a)に示すストッパー部材50の様に、棒状のものを加工して、上方が広がる方向に傾斜する接触部51を形成してもよい。
また
図7(b)に示すストッパー部材52の様に、接触部30の奥行き方向をより長くしてもよい。
以上説明した実施形態では、接触部30の自由端側を180度程度折り返したが、折り返し角度はより小さくてもよい。例えば90度程度の折り曲げであってもよい。
【0052】
以上説明した実施形態では、ストッパー部材27は複数の接触部30を持ち、一つのストッパー部材27を取り付けることによって複数段の支持部材15に対応することができる。しかしながら本発明はこの構成に限定されるものではなく、ただ一つの接触部30のみを備えたストッパー部材27を、各段に取り付けるものであってもよい。
【0053】
以上説明した実施形態では、支持部材15は、高さ方向に複数段にわたって設置されているが、支持部材15の段数は任意であり、単数段(一段)だけであってもよい。
ストッパー部材27についても同様であり、一段だけであってもよい。
【0054】
以上説明した実施形態では、棚部材3は、熱処理装置1の本体部分とは別体であり、熱処理装置1の本体部分から取り外すことが可能な構造であるが、棚部材3は熱処理装置1と一体であって、抜き出すことができないものであってもよい。