(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主成分元素としてのチタンと、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、およびケイ素からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する複合炭窒化物粉末であって、
前記複合炭窒化物粉末は、チタンと前記添加元素とを含有する複数の複合炭窒化物粒子を含み、
複数の前記複合炭窒化物粒子は、前記複合炭窒化物粉末全体のチタンの平均濃度および前記添加元素の平均濃度に対する各前記複合炭窒化物粒子内のチタンの平均濃度および前記添加元素の平均濃度の差がそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある複数の均質組成粒子を含み、
前記均質組成粒子の断面積が前記複合炭窒化物粒子の断面積の90%以上であり、前記均質組成粒子の個数が前記複合炭窒化物粒子の個数の90%以上である、複合炭窒化物粉末。
前記均質組成粒子は、各前記均質組成粒子内のチタンの濃度分布および前記添加元素の濃度分布が前記複合炭窒化物粉末全体のチタンの平均濃度および前記添加元素の平均濃度に対してそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある請求項1に記載の複合炭窒化物粉末。
主成分元素としてのチタンと、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、およびケイ素からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する複合炭窒化物粉末の製造方法であって、
チタンを含有する酸化物粉末と、前記添加元素を含有する酸化物粉末と、炭素を含有する炭素源粉末と、を混合することにより、混合粉末を形成する混合工程と、
前記混合粉末を造粒することにより、造粒体を形成する造粒工程と、
窒素ガスを含有する窒素雰囲気ガス中1800℃以上の温度で前記造粒体を熱処理することにより、複合炭窒化物粉末を形成する熱処理工程と、
を備え、
前記熱処理工程において、傾斜した回転式反応管を1800℃以上に加熱するとともに、前記回転式反応管の内部に前記窒素雰囲気ガスを流通させながら、前記回転式反応管の上部から前記造粒体を連続的に供給するとともに、前記回転式反応管を回転させることにより前記造粒体を前記回転式反応管の内部を移動する間に熱処理することにより複合炭窒化物粉末を形成し、前記回転式反応管の下部から前記複合炭窒化物粉末を取り出す、複合炭窒化物粉末の製造方法。
チタンを含有する前記酸化物粉末および前記添加元素を含有する前記酸化物粉末の少なくとも一部は、チタンと前記添加元素とを含む複合酸化物粉末である請求項3または請求項4に記載の複合炭窒化物粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
特開平02−190438号公報(特許文献1)、特開2004−292842号公報(特許文献2)および特開2006−131975号公報(特許文献3)に開示されるサーメットは、いずれも芯部とその芯部を覆う周辺部とを有する有芯構造の硬質相を含み、かかる芯部と周辺部とでは組成が異なるため、サーメットの強度を高めることが困難であるという問題点があった。
【0012】
また、国際公開第2010/0080004号(特許文献4)には、硬質粉末に含まれる複炭窒化物固溶体は、複炭窒化物固溶体に含まれる金属元素がそれぞれの平均組成からプラスマイナス5原子%以内の範囲にある均一な組成を有することが記載されている。しかしながら、本発明者らは追試により、かかる硬質粉末は、原料の少なくとも一部として、Tiを含有する炭窒化物を用いており、かかるTiを含有する炭窒化物は、化学的に極めて安定であり、2200℃の高温で熱処理を行なってもTiを含有する炭窒化物と他の原料とを一体化させるのが困難であり、Tiを含有する炭窒化物が未反応で大量に残留するため、これが焼結時に溶解再析出の核として作用して、結局有芯構造の硬質相が形成されることを見出した。すなわち、国際公開第2010/0080004号(特許文献4)においても、開示される硬質粉末から得られる焼結硬質合金の強度を高めることが困難であるという問題点があった。
【0013】
そこで、上記の問題点を解決して、均質な組成を有する複合炭窒化物粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
[本開示の効果]
上記によれば、均質な組成を有する複合炭窒化物粉末およびその製造方法を提供できる。
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
図1に示すように、本発明のある実施形態にかかる複合炭窒化物粉末1は、主成分元素としてのチタンと、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、およびケイ素からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する。複合炭窒化物粉末1は、チタンと添加元素とを含有する複数の複合炭窒化物粒子1pを含む。複数の複合炭窒化物粒子1pは、複合炭窒化物粉末1全体のチタンの平均濃度および添加元素の平均濃度に対する各複合炭窒化物粒子1p内のチタンの平均濃度および添加元素の平均濃度の差がそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある複数の均質組成粒子1phを含む。均質組成粒子1phの断面積が複合炭窒化物粒子1pの断面積の90%以上であり、均質組成粒子1phの個数が複合炭窒化物粒子1pの個数の90%以上である。
【0016】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1は、その中に含まれる複数の複合炭窒化物粒子1pの多くが粒子内のチタンおよび添加元素の組成が一様でばらつきが小さい均質組成粒子であることから、均質な複合窒化物相を含む硬度および破壊靱性の両方が高い硬質合金を製造することができる。
【0017】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1において、均質組成粒子1phは、各均質組成粒子1ph内のチタンの濃度分布および添加元素の濃度分布を複合炭窒化物粉末1全体のチタンの平均濃度および添加元素の平均濃度に対してそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内とすることができる。かかる複合炭窒化物粉末1は、均質な複合窒化物相を含む硬度および破壊靱性の両方が高い硬質合金を製造することができる。
【0018】
図1〜
図3に示すように、本発明の別の実施形態にかかる複合炭窒化物粉末1の製造方法は、主成分元素としてのチタンと、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、およびケイ素からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する複合炭窒化物粉末1の製造方法である。複合炭窒化物粉末1の製造方法は、チタンを含有する酸化物粉末と、添加元素を含有する酸化物粉末と、炭素を含有する炭素源粉末と、を混合することにより、混合粉末を形成する混合工程S10と、混合粉末を造粒することにより、造粒体を形成する造粒工程S20と、窒素ガスを含有する窒素雰囲気ガス中1800℃以上の温度で造粒体を熱処理することにより、複合炭窒化物粉末1を形成する熱処理工程S30と、を備える。
【0019】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法によれば、出発原料として、チタンを含有する酸化物粉末、添加元素を含有する酸化物粉末、および炭素を含有する炭素源粉末とを用いることにより、熱処理工程において、出発原料の還元反応、固溶体化反応、および炭窒化反応がほぼ同時にかつ連続して進行するため、特に還元直後の活性な状態でチタンおよび添加元素が保持されることにより固溶体化反応が著しく促進されるため、粒子内の組成が均質な均質組成粒子1phを多く含む複合炭窒化物粒子1pを含む実施形態1の複合炭窒化物粉末1が得られる。
【0020】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法においては、熱処理工程S30において、傾斜した回転式反応管110を1800℃以上に加熱するとともに、回転式反応管110の内部に窒素雰囲気ガスを流通させながら、回転式反応管110の上部から造粒体を連続的に供給するとともに、回転式反応管110を回転させることにより造粒体を回転式反応管110の内部を移動する間に熱処理することにより複合炭窒化物粉末1を形成し、回転式反応管110の下部から複合炭窒化物粉末1を取り出すことができる。かかる複合炭窒化物粉末1の製造方法によれば、粒子内の組成が均質な均質組成粒子1phを多く含む複合炭窒化物粒子1pを含む実施形態1の複合炭窒化物粉末1が安定した品質で連続的に効率よく得られる。
【0021】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法においては、混合工程において、混合粉末のメジアン粒子径D50を0.5μm以下とすることができる。かかる複合炭窒化物粉末1の製造方法によれば、複合炭窒化物粉末1中の複合炭窒化物粒子1p内の組成を均質化させやすい。
【0022】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法においては、チタンを含有する酸化物粉末および添加元素を含有する酸化物粉末の少なくとも一部は、チタンと添加元素とを含む複合酸化物粉末とすることができる。かかる複合炭窒化物粉末1の製造方法によれば、複合炭窒化物粉末1中の複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50を小さく保ちながら複合炭窒化物粒子1p内の組成を均質化させることができる。
【0023】
図4に示すように、本発明の上記の実施形態にかかる複合炭窒化物粉末1を用いて製造される硬質合金10は、主成分元素としてのチタンと、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、およびケイ素からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する複数の複合炭窒化物硬質相11と、主成分元素として鉄族元素を含む金属結合相12と、を含む。複数の複合炭窒化物硬質相11は、複合炭窒化物硬質相11全体のチタンの平均濃度および添加元素の平均濃度に対する各複合炭窒化物硬質相11内のチタンの平均濃度および添加元素の平均濃度の差がそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある複数の均質組成硬質相11hを含む。均質組成硬質相11hの断面積が複合炭窒化物硬質相11の断面積の80%以上であり、均質組成硬質相11hの個数が複合炭窒化物硬質相11の個数の80%以上である。
【0024】
上記の硬質合金10は、その中に含まれる複合炭窒化物硬質相11の多くが相内のチタンおよび添加元素の組成が一様でばらつきが小さい均質組成硬質相であることから、硬度および破壊靱性の両方が高い。
【0025】
[本発明の実施形態の詳細]
<実施形態1:複合炭窒化物粉末>
図1に示すように、実施形態1にかかる複合炭窒化物粉末1は、主成分元素としてのチタン(Ti)と、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、およびケイ素(Si)からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する。複合炭窒化物粉末1は、チタン(Ti)と添加元素とを含有する複数の複合炭窒化物粒子1pを含む。複数の複合炭窒化物粒子1pは、複合炭窒化物粉末1全体のチタン(Ti)の平均濃度および添加元素の平均濃度に対する各複合炭窒化物粒子1p内のチタン(Ti)の平均濃度および添加元素の平均濃度の差がそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある複数の均質組成粒子1phを含む。均質組成粒子1phの断面積が複合炭窒化物粒子1pの断面積の90%以上であり、均質組成粒子1phの個数が複合炭窒化物粒子1pの個数の90%以上である。
【0026】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1は、その中に含まれる複数の複合炭窒化物粒子1pの多くが粒子内のTiおよび添加元素の組成が一様でばらつきが小さい均質組成粒子であることから、均質な複合窒化物相を含み硬度および破壊靱性の両方が高い硬質合金を製造することができる。
【0027】
複合炭窒化物粉末1に含有されるTiは主成分元素であり、Tiおよび添加元素の合計に対するTiの平均濃度は50原子%より大きい。また、Tiの平均濃度は、添加元素の添加量を固溶限以下とするとともに添加元素の効果を十分に引き出す観点から、60原子%以上95原子%以下が好ましく、75原子%以上90原子%以下がより好ましい。
【0028】
複合炭窒化物粉末1に含有される添加元素はZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、およびSiからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Tiおよび添加元素の合計に対する添加元素の平均濃度は50原子%未満である。また、添加元素の平均濃度は、添加元素の効果を十分に引き出すとともに添加元素の添加量を固溶限以下とする観点から、5原子%以上40原子%以下が好ましく、10原子%以上25原子%以下がより好ましい。
【0029】
ここで、複合炭窒化物粉末1および複合炭窒化物粒子1pのTiおよび添加元素の種類の同定およびそれらの平均濃度の測定は、複合炭窒化物粉末1を樹脂中に包埋して樹脂ごと任意に特定される面で切断しラッピングした切断面について、SEM(走査型電子顕微鏡)/EDX(エネルギー分散型X線分光法)および/またはEPMA(電子線マイクロアナライザ)により行なう。複合炭窒化物粉末1を包埋する樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂などが好適である。なお、複合炭窒化物粉末1の切断面のSEMの組成像において、粒子内に明瞭なコントラストがある複合炭窒化物粒子1pは、上記の分析をするまでもなく、均質組成粒子でないことがわかる。
【0030】
複合炭窒化物粉末1に含まれる複合炭窒化物粒子1pは、Tiと添加元素とを含有する。また、複合炭窒化物粒子1pは、複合炭窒化物粒子1pのTiおよび添加元素の組成が一様でばらつきを小さく(すなわち均質に)する観点から、複合炭窒化物粉末1全体のTiの平均濃度Cα
Ti0(原子%)および添加元素の平均濃度Cα
A0(原子%)に対する各複合炭窒化物粒子1p内のTiの平均濃度Cα
Ti(原子%)および添加元素の平均濃度Cα
A(原子%)の差Cα
Ti−Cα
Ti0(原子%)およびCα
A−Cα
A0(原子%)がそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある複数の均質組成粒子1phを含む。上記の観点から、上記の差Cα
Ti−Cα
Ti0およびCα
A−Cα
A0の少なくとも1つは、−3原子%以上3原子%以下が好ましい。
【0031】
複合炭窒化物粉末1において、複合炭窒化物粒子1pのTiおよび添加元素の組成が一様でばらつきを小さく(すなわち均質に)する観点から、均質組成粒子1phの断面積は複合炭窒化物粒子1pの断面積の90%以上であり、均質組成粒子1phの個数は複合炭窒化物粒子1pの個数の90%以上である。上記の観点から、均質組成粒子1phの断面積は、複合炭窒化物粒子1pの断面積の92%以上が好ましく、94%以上がより好ましい。また、均質組成粒子1phの個数は、複合炭窒化物粒子1pの個数の92%以上が好ましく、94%以上がより好ましい。
【0032】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1において、均質組成粒子1phは、各均質組成粒子1ph内のチタンの濃度分布および添加元素の濃度分布が複合炭窒化物粉末1全体のチタンの平均濃度および添加元素の平均濃度に対してそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内が好ましく、それぞれ−3原子%以上3原子%以下の範囲内がより好ましい。かかる複合炭窒化物粉末1は、均質な複合窒化物相を含む硬度および破壊靱性の両方が高い硬質合金を製造することができる。
【0033】
ここで、均質組成粒子1phについて、各均質組成粒子1ph内のチタンの濃度分布が複合炭窒化物粉末1全体のチタンの平均濃度に対して、−5原子%以上5原子%以下の範囲内または
−3原子%以上3原子%以下の範囲内とは、各均質組成粒子1ph内のチタンの最小濃度Cα
Ti-Min(原子%)および最大濃度Cα
Ti-Max(原子%)ならびに複合炭窒化物粉末1全体のチタンの平均濃度Cα
Ti0(原子%)について、Cα
Ti-Min−Cα
Ti0が−5原子%以上かつCα
Ti-Max−Cα
Ti0が5原子%以下またはCα
Ti-Min−Cα
Ti0が−3原子%以上かつCα
Ti-Max−Cα
Ti0が3原子%以下であることをいう。
【0034】
また、均質組成粒子1phについて、各均質組成粒子1ph内の添加元素の濃度分布が複合炭窒化物粉末1全体の添加元素の平均濃度に対して、−5原子%以上5原子%以下の範囲内または
−3原子%以上3原子%以下の範囲内とは、各均質組成粒子1ph内の添加元素の最小濃度Cα
A-Min(原子%)および最大濃度CαA-Max(原子%)ならびに複合炭窒化物粉末1全体の
添加元素の平均濃度Cα
A0(原子%)について、Cα
A-Min−Cα
A0が−5原子%以上かつCα
A-Max−Cα
A0が5原子%以下またはCα
A-Min−Cα
A0が−3原子%以上かつCα
A-Max−CαA0が3原子%以下であることをいう。
【0035】
複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50は、粉末の嵩を低くしてハンドリングしやすくするとともに硬質合金の原料粉末として用いる場合に過度の粉砕を不必要とする観点から、0.3μm以上5.0μm以下が好ましく、さらに、切削工具として硬度および破壊靱性の両方を良好とする観点から、0.5μm以上3.0μm以下がより好ましい。複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50は、複合炭窒化物粉末1の通常の粉砕および分級を行なうことにより、所定の大きさに調整できる。ここで、複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定機により測定される粒子の累積体積分布から算出する。
【0036】
<実施形態2:複合炭窒化物粉末の製造方法>
図1〜
図3に示すように、実施形態2にかかる複合炭窒化物粉末1の製造方法は、主成分元素としてのチタン(Ti)と、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、およびケイ素(Si)からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する実施形態1の複合炭窒化物粉末1の製造方法である。本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法は、チタン(Ti)を含有する酸化物粉末と、添加元素を含有する酸化物粉末と、炭素(C)を含有する炭素源粉末と、を混合することにより、混合粉末を形成する混合工程S10と、混合粉末を造粒することにより、造粒体を形成する造粒工程S20と、窒素ガスを含有する窒素雰囲気ガス中1800℃以上の温度で造粒体を熱処理することにより、複合炭窒化物粉末1を形成する熱処理工程S30と、を備える。
【0037】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法においては、出発原料として、Tiを含有する酸化物粉末、添加元素を含有する酸化物粉末、およびCを含有する炭素源粉末を用いることにより、熱処理工程において、上記の酸化物粉末の還元反応、還元された酸化物粉末の活性な状態のTiおよび添加元素の相互拡散による固溶体化反応、および固溶化された粉末の炭窒化反応がほぼ同時にかつ連続して進行するため、特に還元直後の活性な状態でTiおよび添加元素が保持されることにより固溶体化反応が著しく促進されるため、粒子内の組成が均質な均質組成粒子1phを含む複合炭窒化物粒子1pを含む実施形態1の複合炭窒化物粉末1が得られる。
【0038】
(混合工程)
図2に示す混合工程S10において、出発原料として、Tiを含有する酸化物粉末と、添加元素とを含有する酸化物粉末と、Cを含有する炭素源粉末と、を混合することにより混合粉末を形成する。Tiを含有する酸化物としては、特に制限なく、たとえばTiO
2などが挙げられる。TiO
2の結晶構造は、特に制限はなく、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型のいずれであってもよい。添加元素を含有する酸化物としては、特に制限はなく、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、およびSiのそれぞれの酸化物粉末である、ZrO
2、HfO
2、V
2O
5、Nb
2O
5、Ta
2O
5、Cr
2O
3、MoO
3、WO
3、Al
2O
3、およびSiO
2などが挙げられる。ここで、各元素の酸化数、不純物の含有量などは、目的に反しない限り変更が可能である。Cを含有する炭素源としては、特に制限はなく、グラファイトや、多糖類なども使用可能である。
【0039】
ここで、上記のTiを含有する酸化物および添加元素を含有する酸化物の少なくとも一部は、Tiと添加元素とを含有する複合酸化物であることが好ましい。後述のように、複合炭窒化物粉末1中の複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50を小さく保ちながら複合炭窒化物粒子1p内の組成を均質化させることができる。Tiと添加元素とを含有する複合酸化物としては、特に制限はなく、Ti
0.9Zr
0.1O
2、Ti
0.9W
0.1O
2などが挙げられる。
【0040】
上記の出発原料の混合の方法は、特に制限はないが、混合粉末(混合された粉末をいう。以下同じ。)のメジアン粒子径D50を小さくする観点から、粉砕作用の高い乾式ボールミルによる混合および湿式ボールミルによる混合などが好適に挙げられる。また、上記の出発原料の一次粒子のメジアン粒子径D50が0.5μm以下でありかつ二次粒子の凝集が弱い場合には、粉砕作用の低い回転羽式流動混合機などを用いた混合を適用できる。
【0041】
上記のようにして得られる混合粉末のメジアン粒子径D50は、複合炭窒化物粉末1中の複合炭窒化物粒子1p内の組成を均質化させやすいとともに後述の造粒して熱処理した後の粉末において過度の凝集を防ぐ観点から、0.1μm以上0.5μm以下が好ましい。ここで、混合粉末のメジアン粒子径D50は、SEM(走査型電子顕微鏡)による外観観察像から画像解析ソフトにより円相当径を算出する。
【0042】
(造粒工程)
図2に示す造粒工程S20において、混合粉末を造粒することにより、造粒体を形成する。かかる工程により、その後の熱処理工程およびその後の取り扱いを簡便にできる。造粒の方法は、特に制限はなく、スプレードライヤー、押出し造粒機などの既知の装置を用いた方法を適用できる。また、造粒に際して、たとえば、蝋材のようなバインダー成分を結合材として適宜使用してもよい。造粒体の形状や寸法は特に限定されない。たとえば、直径が0.5mm〜5.0mmで長さが5mm〜20mm程度の円柱形状とすることができる。
【0043】
(熱処理工程)
図2に示す熱処理工程S30において、窒素ガスを含有する窒素雰囲気ガス中1800℃以上の温度で造粒体を熱処理することにより、複合炭窒化物粉末1を形成する。
【0044】
熱処理工程S30において、造粒体を熱処理すると、まず、Tiを含有する酸化物粉末および添加元素を含有する酸化物粉末(それらの少なくとも一部は、Tiと添加元素とを含有する複合酸化物粉末である場合も含む)中の酸素(O)が炭素源粉末中の炭素(C)と反応して、上記の酸化物粉末中のTiおよび添加元素が還元される還元反応が起こる。上記の酸化物粉末中の還元されたTiおよび添加元素は、相互拡散による固溶化する固溶化反応が起こしやすい状態にある。上記の酸化物粉末中の還元されたTiおよび添加元素は、かかる固溶化反応が進むとほぼ同時に、窒素雰囲気ガス中の窒素(N)および炭
素源粉末中の炭素(C)と反応する炭窒化反応を起こし、Tiおよび添加元素を均質な組成で含有する均質組成粒子を含む複合炭窒化物粒子1pを含む複合炭窒化物粉末1が形成される。複合炭窒化物粉末1における複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50は、熱処理後の複合炭窒化物粉末1に通常の粉砕および分級を行なうことにより、所定の大きさに調整できる。
【0045】
ここで、上記のTiを含有する酸化物および添加元素を含有する酸化物の少なくとも一部は、Tiと添加元素とを含有する複合酸化物であることは、複合炭窒化物粉末1中の複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50を小さく保ちながら複合炭窒化物粒子1p内の組成を均質化させる観点から、好ましい。Tiのみを含有する酸化物粉末および添加元素のみを含有する酸化物粉末のみの混合酸化物粉末のみでは、上記の固溶化反応の促進のため粉末の粒子同士を密着させる必要があり、得られる複合炭窒化物粉末1中の複合炭窒化物粒子1pのメジアン粒子径D50が大きくなり、複合炭窒化物硬質相中に組成が均質化される均質組成硬質相を多く含む硬質合金を形成するのに不利となる。
【0046】
上記のように、本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法においては、出発原料として、上記の酸化物粉末(すなわち、Tiを含有する酸化物粉末および添加元素を含有する酸化物粉末(それらの少なくとも一部は、Tiと添加元素とを含有する複合酸化物粉末である場合も含む))と炭素源粉末とを用いることにより、熱処理により、出発原料の還元反応、固溶体化反応、および炭窒化反応がほぼ同時にかつ連続して進行するため、特に還元直後の活性な状態でTiおよび添加元素が保持されることにより固溶体化反応が著しく促進されるため、得られる複合炭窒化物粉末1は、粒子内の組成が均質な均質組成粒子1phを多く含む複合炭窒化物粒子1pを含む。
【0047】
しかしながら、出発原料として、金属粉末(詳細には、Tiを含有する金属粉末および添加元素を含有する金属粉末)または炭窒化物粉末(詳細には、Tiを含有する炭窒化物粉末および添加元素を含有する炭窒化物粉末)を用いると、粒子内の組成が均質な均質組成粒子を多く含む複合炭窒化物粒子を含む複合炭窒化物粉末は得られない。出発原料として、上記の金属粉末を用いる場合は、熱処理により早々に炭窒化反応が進行するため、Tiおよび添加元素の相互拡散による固溶化反応が進行しないからである。また、出発原料として、上記の炭窒化物粉末を用いる場合は、上記の炭窒化物粉末(特にTiを含有する炭窒化物粉末)が2000℃を超える高温領域においても化学的に安定であるため、Tiおよび添加元素の相互拡散による固溶化反応が進行しないからである。
【0048】
熱処理工程S30における熱処理の雰囲気は、上記の酸化物粉末から炭素源粉末とともに炭窒
化物粉末を形成する観点から、窒素ガス(N
2ガス)を含む窒素雰囲気ガスである。窒素雰囲気ガスは、純粋なN
2ガスであってもよく、N
2ガスに、水素ガス(H
2ガス)、アルゴンガス(Arガス)、ヘリウムガス(Heガス)、一酸化炭素ガス(COガス)などが混合されている混合ガスでもよい。
【0049】
熱処理工程S30における熱処理の温度は、上記の酸化物粉末の還元反応、固溶化反応、および炭窒化反応を進行および促進させる観点から、1800℃以上であり、2000℃以上が好ましい。特に、Tiを含有する酸化物粉末を十分に還元、固溶化、および炭窒化する観点から1800℃以上が必要であり、Al、Zr、および/またはHfを添加元素として含む酸化物粉末を十分に還元、固溶化、および炭窒化する観点から、2000℃以上が好ましい。また熱処理後の粉末において過度の凝集を防ぐ観点から、2400℃以下が好ましい。
【0050】
熱処理工程S30における熱処理の時間は、出発原料の上記酸化物粉末および炭素源粉末の混合粉末のメジアン粒子径D50によって変わる。たとえば、混合粉末のメジアン粒子径D50が0.3μm〜0.5μm程度のときは、15分〜60分程度が好適である。
【0051】
本実施形態の複合炭窒化物粉末1の製造方法においては、
図2および
図3を参照して、熱処理工程S30において、ロータリーキルンなど回転式の連続的な熱処理装置100を用いて、傾斜した回転式反応管110を1800℃以上に加熱するとともに、回転式反応管110の内部に窒素雰囲気ガスを流通させながら、回転式反応管110の上部から造粒体を連続的に供給するとともに、回転式反応管110を回転させることにより造粒体を回転式反応管110の内部を移動する間に熱処理することにより複合炭窒化物粉末1を形成し、回転式反応管110の下部から複合炭窒化物粉末1を取り出すことができる。かかる複合炭窒化物粉末1の製造方法によれば、粒子内の組成が均質な均質組成粒子1phを多く含む複合炭窒化物粒子1pを含む実施形態1の複合炭窒化物粉末1が安定した品質で連続的に効率よく得られる。
【0052】
図3に示す熱処理装置100は、長軸周りに自転する円筒形状の回転式反応管110と、回転式反応管110を回転させる回転機構120と、回転式反応管110を加熱する加熱機構130と、加熱機構を収納する筐体140と、を備える。回転式反応管110には、回転式反応管110内に窒素雰囲気ガスを導入するためのガス導入口110i、窒素雰囲気ガスを回転式反応管110から排出するためのガス排出口110e、回転式反応管110内に出発原料を入れるための原料入口110s、および熱処理物である複合炭窒化物粉末を回転式反応管110から取出すための熱処理物出口110tが設けられている。回転式反応管110は、長軸周りに自転する。
【0053】
図3に示す熱処理装置100においては、回転式反応管110の下部にガス導入口110iが設けるとともに回転式反応管110の上部にガス排出口110eを設けることにより、回転式反応管110の下部から上部に向けて窒素雰囲気ガスが流通するように構成しているが、反対に回転式反応管110の上部から下部に向けて窒素雰囲気ガスが流通するように構成してもよい。
【0054】
熱処理工程S30において、
図3に示す熱処理装置100は、以下のように動作する。予め、熱処理装置100の加熱機構130により回転式反応管110を1800℃以上に加熱するとともに、ガス導入口110iから回転式反応管110内に窒素雰囲気ガスを導入する。回転式反応管110を1800℃以上の所定の熱処理温度に加熱した後、回転機構120により回転式反応管110を自転させながら、原料入口110sから造粒体を回転式反応管110内に供給する。回転式反応管110内に供給された造粒体は、回転式反応管110の内壁からの伝熱および輻射熱により上記熱処理温度に加熱されながら、回転式反応管110の自転により回転式反応管110の内部を回転式反応管110の上部から下部に向けて移動する。
【0055】
1800℃以上の熱処理温度に加熱された造粒体では、造粒体中の酸化物粉末(Tiを含有する酸化物粉末および添加元素を含有する酸化物粉末(それらの少なくとも一部は、Tiと添加元素とを含有する複合酸化物粉末である場合も含む))の還元反応が起こる。酸化物粉末中の還元されたTiおよび添加元素は活性な状態にあり、相互拡散による固溶体化が促進される。また、ガス導入口より供給されている窒素、および造粒体中の炭素源粉末中のCと反応し、固溶体化とともに炭窒化反応がほぼ同時に進行する。こうして炭窒化が完了した造粒体は回転式反応管110の下部に到達し、下部に設けられた熱処理物出口110tから取出される。取出された造粒体は、当業者により適宜選択される既知の粉砕方法により解砕および/または粉砕され、複合炭窒化物粉末が得られる。
【0056】
以上の構成を有する熱処理装置100は、造粒体の熱処理条件(熱処理雰囲気、熱処理温度および熱処理時間)を略一定とすることができるので、安定な品質を有する複合炭窒化物粉末を連続的に効率よく製造できる。
【0057】
{硬質合金}
図4に示すように、実施形態1にかかる複合炭窒化物粉末を用いて製造される硬質合金10は、主成分元素としてのチタン(Ti)と、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、およびケイ素(Si)からなる群から選ばれる1種類以上の添加元素と、を含有する複数の複合炭窒化物硬質相11と、主成分元素として鉄族元素を含む金属結合相12と、を含む。複数の複合炭窒化物硬質相11は、複合炭窒化物硬質相11全体のチタン(Ti)の平均濃度および添加元素の平均濃度に対する各複合炭窒化物硬質相11内のチタン(Ti)の平均濃度および添加元素の平均濃度の差がそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある複数の均質組成硬質相11hを含む。均質組成硬質相11hの断面積が複合炭窒化物硬質相11の断面積の80%以上であり、均質組成硬質相11hの個数が複合炭窒化物硬質相11の個数の80%以上である。
【0058】
硬質合金10は、その中に含まれる複合炭窒化物硬質相11の多くが相内のTiおよび添加元素の組成が一様でばらつきが小さい均質組成硬質相であることから、硬度および破壊靱性の両方が高い。
【0059】
複合炭窒化物硬質相11に含有されるTiは主成分元素であり、Tiおよび添加元素の合計に対するTiの平均濃度は50原子%より大きい。また、Tiの平均濃度は、添加元素の添加量を固溶限以下とするとともに添加元素の効果を十分に引き出す観点から、60原子%以上95原子%以下が好ましく、75原子%以上90原子%以下がより好ましい。
【0060】
複合炭窒化物硬質相11に含有される添加元素はZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、およびSiからなる群から選ばれる1種類以上の元素であり、Tiおよび添加元素の合計に対する添加元素の平均濃度は50原子%未満である。また、添加元素の平均濃度は、添加元素の効果を十分に引き出すとともに添加元素の添加量を固溶限以下とする観点から、5原子%以上40原子%以下が好ましく、10原子%以上25原子%以下がより好ましい。
【0061】
金属結合相12に含有される主成分元素は鉄族元素であり、鉄族元素の他、
複合炭窒化物硬質相から混入する不可避元素(すなわち、少なくとも添加元素の一部)や微量の不純物元素を含む。鉄族元素の平均濃度は、金属である状態を維持して脆性的な中間化合物の形成を避ける観点から、90原子%以上が好ましく、95原子%以上がより好ましい。ここで、鉄族元素とは、第4周期の第8族、第9族、および第10族の元素、すなわち、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)をいう。また、金属結合相12に含有される鉄族元素以外の元素とは、たとえば、チタン(Ti)、タングステン(W)などが挙げられる。
【0062】
ここで、複合炭窒化物硬質相11のTiおよび添加元素ならびに金属結合相の鉄族元素およびそれ以外の金属元素の種類の同定およびそれらの平均濃度の測定は、硬質合金10を任意に特定される面で切断しラッピングした切断面について、SEM(走査型電子顕微鏡)/EDX(エネルギー分散型X線分光法)および/またはEPMA(電子線マイクロアナライザ)により行なう。なお、硬質合金10の切断面のSEMの組成像において、相内に明瞭なコントラストがある複合炭窒化物硬質相11は、上記の分析をするまでもなく、均質組成硬質相でないことがわかる。
【0063】
複数の複合炭窒化物硬質相11は、Tiと添加元素とを含有する。また、複数の複合炭窒化物硬質相11は、複合炭窒化物硬質相11のTiおよび添加元素の組成が一様でばらつきを小さく(すなわち均質に)する観点から、複数の複合炭窒化物硬質相11の全体のTiの平均濃度Cβ
Ti0(原子%)および添加元素の平均濃度Cβ
A0(原子%)に対する各複合炭窒化物硬質相11内のTiの平均濃度Cβ
Ti(原子%)および添加元素の平均濃度Cβ
A(原子%)の差Cβ
Ti−Cβ
Ti0(原子%)
0およびCβ
A−Cβ
A0(原子%)がそれぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にある複数の均質組成硬質相11hを含む。上記の観点から、上記の差Cβ
Ti−Cβ
Ti0およびCβ
A−Cβ
A0の少なくとも1つは、−3原子%以上3原子%以下が好ましい。
【0064】
複合炭窒化物硬質相11において、複合炭窒化物硬質相11のTiおよび添加元素の組成が一様でばらつきを小さく(すなわち均質に)する観点から、均質組成硬質相11hの断面積は複合炭窒化物硬質相11の断面積の80%以上であり、均質組成硬質相11hの個数は複合炭窒化物硬質相11の個数の80%以上である。上記の観点から、均質組成硬質相11hの断面積は、複合炭窒化物硬質相11の断面積の85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。また、均質組成硬質相11hの個数は、複合炭窒化物硬質相11の個数の85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0065】
複合炭窒化物硬質相11のメジアン相径D50は、切削工具として利用するために硬質合金の硬度と破壊靱性との両方を高くする観点から、0.3μm以上5.0μm以下が好ましく、0.5μm以上3.0μm以下がより好ましい。ここで、複合炭窒化物硬質相11のメジアン相径D50は、SEM(走査型電子顕微鏡)による断面観察像から画像解析ソフトにより円相当径を算出する。また、SEM/EBSD(電子線後方散乱回折像解析)を用いて硬質相の結晶粒組織を解析し、結晶方位解析ソフトから円相当径を求めることもできる。
【0066】
本実施形態の硬質合金10における複合炭窒化物硬質相11の断面積と金属結合相12の断面積との百分率は、硬質合金10の硬度および破壊靱性の両方が高い観点から、複合炭窒化物硬質相11の断面積は80%以上97%以下が好ましく84%以上92%以下がより好ましく、金属結合相12の断面積は3%以上20%以下が好ましく8%以上16%以下がより好ましい。
【0067】
なお、
図5に示すように、従来の硬質合金10は、従来の複合炭窒化物粉末1(すなわち粒子内のTiおよび添加元素の組成が均質である均質組成粒子を含まない複合炭窒化物粒子で形成される粉末)を用いて作製されるため、その中に含まれる複合炭窒化物硬質相11が、Tiおよび添加元素の組成が互いに異なる芯部相11p,11qおよび周辺部相11sとで形成される複相である場合が多く、また、単相11oが存在してもTiおよび添加元素の組成が相内で均質な均質組成硬質相である場合は極めて少ない。このため、従来の硬質合金10おいては、硬度および破壊靱性などの諸物性について並立させて高くすることが困難である。
【0068】
{硬質合金の製造方法}
本実施形態の硬質合金10の製造方法は、本実施形態の硬質合金10の製造に適したものであれば特に制限はないが、ニア・ネット・シェイプ成形が可能である観点から、粉末冶金法が好ましい。
【実施例】
【0069】
(実施例1〜11)
実施例1〜11は、実施形態1および実施形態2の複合炭窒化物粉末およびその製造方法についての実施例である。
【0070】
1.酸化物粉末および炭素源粉末の混合による混合粉末の形成
出発原料として、酸化物粉末であるTiO
2粉末および添加元素の酸化物(ZrO
2、HfO
2、V
2O
5、Nb
2O
5、Ta
2O
5、Cr
2O
3、MoO
3、WO
3、Al
2O
3、およびSiO
2)粉末および炭素源粉末であるグラファイト粉末を、表1の実施例1〜11に示す
設計組成となるような配合比で混合した。混合は、湿式ボールミル法により行なった。得られた混合粉末のメジアン粒子径D50を、SEM(走査型電子顕微鏡)による外観観察像から画像解析ソフトにより円相当径を算出する。結果を表1にまとめた。
【0071】
2.混合粉末
の造粒による造粒体の形成
上記の混合粉末を、公知の押出し造粒機(穴径:φ2.5mm)により、平均直径が2.4mmで平均長さが10mm程度の円柱形状の造粒体を得た。ここで、造粒体の平均直径および平均長さは、マイクロメータにより測定した。
【0072】
3.造粒体の熱処理による複合炭窒化物粉末の形成
上記の造粒体を、図
3に示す熱処理装置100であるロータリーキルンを用いて、窒素雰囲気ガスである窒素ガスの雰囲気中で、表1に示す熱処理温度で熱処理することにより、複合炭窒化物粉末を得た。なお、造粒体の加熱区間の通過時間は約30分であった。得られた複合炭窒化物粉末における複合炭窒化物粒子1pの断面積に対する均質組成粒子1phの断面積の百分率および複合炭窒化物粒子1pの個数に対する均質組成粒子1phの個数の百分率を、複合炭窒化物粉末1を樹脂中に包埋して樹脂ごと切断しラッピングした切断面について、SEM/EDXおよびEPMAにより測定した。結果を表1にまとめた。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例2で得られた熱処理後粒子径調整を行なう前の複合炭窒化物粉末の上記切断面の断面組織のSEM写真を
図6に示す。また、実施例2で得られた熱処理後粒子径調整を行なう前の複合炭窒化物粉末中の無作為に選択した30個の複合炭窒化物粒子について、30個全体の粒子内のTiおよび添加元素の平均濃度に対する各複合炭窒化物粒子内のTiおよび添加元素の平均濃度を、上記切断面についてSEM/EDXおよびEPMAにより測定して、各複合炭窒化物粒子が均質組成粒子に該当するか否かを判定した。結果を表2にまとめた。表2において、各元素の平均濃度の値は、小数第二位を四捨五入した小数第一位に誤差を含むため、その合計は必ずしも100原子%とならない場合がある。表2において、各複合炭窒化物粒子内のTiの平均濃度(75.5原子%〜81.8原子%)は、30個全体の複合炭窒化物粒子内のTiの平均濃度(77.6原子%)の−5原子%以上5原子%以下である72.6原子%〜82.6原子%の範囲内にあった。また、各複合炭窒化物粒子内のMoの平均濃度(18.0原子%〜24.3原子%)は、30個全体の複合炭窒化物粒子内のMoの平均濃度(22.2原子%)の−5原子%以上5原子%以下である17.2原子%〜27.2原子%の範囲内にあった。また、各複合炭窒化物粒子内のWの平均濃度(0.1原子%〜0.2原子%)は、30個全体の複合炭窒化物粒子内のWの平均濃度(0.2原子%)の−5原子%以上5原子%以下の範囲内にあった。
【0075】
【表2】
【0076】
さらに、実施例2で得られた熱処理後粒子径調整を行なう前の複合炭窒化物粉末の複合炭窒化物粒子における均質組成粒子のチタン(Ti)および添加元素であるモリブデン(Mo)の濃度分布を示すグラフを
図7に示す。
図7に示すように、複合炭窒化物粉末全体のTiの平均濃度が77原子%でMoの平均原子濃度が23原子%であることから、均質組成粒子内のTiおよびMoの平均濃度は、複合炭窒化物粉末全体のTiおよびMoの平均濃度に対して、それぞれ−5原子%以上5原子%以下の範囲内にあった。
【0077】
実施例3で得られた熱処理後粒子径調整を行なう前の複合炭窒化物粉末の上記切断面の断面組織のSEM写真を
図8に示す。また、実施例3で得られた熱処理後粒子径調整を行なう前の複合炭窒化物粉末中の無作為に選択した30個の複合炭窒化物粒子について、30個全体の複合炭窒化物粒子内のTiおよび添加元素の平均濃度に対する各複合炭窒化物粒子内のTiおよび添加元素の平均濃度を、上記の断面についてSEM/EDXおよびEPMAにより測定して、各複合炭窒化物粒子が均質組成粒子に該当するか否かを判定した。結果を表3にまとめた。表3において、各元素の平均濃度の値は、小数第二位を四捨五入した小数第一位に誤差を含むため、その合計は必ずしも100原子%とならない場合がある。表3において、各複合炭窒化物粒子内のTiの平均濃度(81.9原子%〜86.1原子%)は、30個全体の複合炭窒化物粒子内のTiの平均濃度(84.2原子%)の−5原子%以上5原子%以下である79.2原子%〜89.2原子%の範囲内にあった。また、各複合炭窒化物粒子内のNbの平均濃度(13.8原子%〜17.9原子%)は、30個全体の複合炭窒化物粒子内のNbの平均濃度(15.6原子%)の−5原子%以上5原子%以下である10.6原子%〜20.6原子%の範囲内にあった。また、各複合炭窒化物粒子内のWの平均濃度(0.1原子%〜0.5原子%)は、30個全体の複合炭窒化物粒子内のWの平均濃度(0.2原子%)の−5原子%以上5原子%以下の範囲内にあった。
【0078】
【表3】
【0079】
上記の表1〜表3、
図6および
図8から明らかなように、実施形態2の複合炭窒化物粉末の製造方法により、粒子内の組成が均質な均質組成粒子を多く含む複合炭窒化物粒子を含む実施形態1の複合炭窒化物粉末が得られた。
【0080】
(比較例1〜5)
比較例1〜5は、従来の複合炭窒化物粉末についての比較例である。
【0081】
比較例1は、出発物質として炭窒化チタン粉末(平均粒子径3μm)および金属タングステン粉末(平均粒子径20μm)を表4の比較例1に示す設計組成となるような配合比で混合したことおよび熱処理装置としてバッチ炉を用いたこと以外は上記の実施例1と同様にして複合炭窒化物粉末を得た。また、比較例2は、出発物質として炭窒化チタン粉末(平均粒子径3μm)と炭化タングステン粉末(平均粒子径5.6μm)を表4の比較例2に示す設計組成となるような配合比で混合したこと、比較例3〜5は、出発物質として炭窒化チタン粉末(平均粒子径3μm)と炭化タングステン粉末(平均粒子径5.6μm)を表4の比較例3〜5にそれぞれ示す設計組成となるような配合比で混合したことおよび熱処理装置としてホットプレスを用いたこと以外は上記の実施例1と同様にして複合炭窒化物粉末を得た。比較例1〜5において出発物質として用いた粉末の平均粒子径は、フィッシャー法により求めた。ここで、比較例3〜5においてホットプレスおよび微粒の混合粉末を用いたのは、固溶体化反応の促進を意図するものである。比較例1〜5について、混合粉末のメジアン粒子径、複合炭窒化物粉末における複合炭窒化物粒子の断面積に対する均質組成粒子の断面積の百分率および複合炭窒化物粒子の個数に対する均質組成粒子の個数の百分率を表4にまとめた。また、比較例4で得られた複合炭窒化物粉末の断面組織のSEM写真を
図9に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
表4および
図9から明らかなように、従来の複合炭窒化物粉末の製造方法によっては、粒子内の組成が均質な均質組成粒子を多く含む複合炭窒化物粒子を含む実施形態1の複合炭窒化物粉末は得られなかった。
【0084】
(実施例12〜14)
実施例12〜14は、実施形態1の複合炭窒化物粉末を用いて作製した硬質合金についての実施例である。
【0085】
実施例12〜14は、それぞれ実施例1〜3で得られた複合炭窒化物粉末と金属コバルト粉末(平均粒子径1.5μm)と金属ニッケル粉末(平均粒子径2.5μm)とを用いて、粉末冶金法により、表5に示す設計組成となるように、硬質合金を作製した。なお、金属コバルト粉末および金属ニッケル粉末の平均粒子径は、フィッシャー法により求めた。得られた硬質合金における複合炭窒化物相の断面積に対する均質組成硬質相の断面積の百分率および複合炭窒化物相の個数に対する均質組成硬質相の個数の百分率を、硬質合金を切断しラッピングした切断面について、SEM/EDXおよびEPMAにより測定した。硬質合金の硬度は、JIS Z2244:2009に準拠してビッカース硬度を測定した。硬質合金の破壊靱性は、JIS R1607:1995に準拠して測定した。結果を表5にまとめた。また、実施例13の複合炭窒化物硬質相における均質組成硬質相のチタン(Ti)および添加元素であるモリブデン(Mo)の濃度分布を
図10に示した。
【0086】
【表5】
【0087】
表5および
図10から明らかなように、粒子内の組成が均質な均質組成粒子を多く含む複合炭窒化物粒子を含む実施形態1の複合炭窒化物粉末を用いて作製される実施形態3の硬質合金は、相内の組成が均質な均質組成硬質相を多く含む複合炭窒化物硬質相を含み、硬度および破壊靱性が両方とも高かった。このように、粒子内の組成が均質な均質組成粒子を多く含む複合炭窒化物粒子を含む実施形態1の複合炭窒化物粉末を用いることにより、硬度および破壊靱性の両方が高い実施形態3の硬質合金が得られることがわかった。
【0088】
(比較例6〜8)
比較例6〜8は、従来の硬質合金についての比較例である。
【0089】
比較例6〜8は、それぞれ実施例12〜14に係る複合炭窒化物粉末と同じ組成となるよう、炭窒化チタン粉末(平均粒子径3.0μm)、炭化タングステン粉末(平均粒子径5.0μm)、炭化モリブデン粉末(平均粒子径2.0μm)、炭化ニオブ粉末(平均粒子径1.8μm)をそれぞれ配合し、これらを2200℃2時間のホットプレス焼成にて一体化した後、これを粉砕して得た複合炭窒化物粉末を使用した。なお、粉砕後の複合炭窒化物粉末のメジアン粒子径は約3.5μmである。これら複合炭窒化物粉末と金属コバルト粉末(平均粒子径1.5μm)と金属ニッケル粉末(平均粒子径2.5μm)とを混合し、粉末冶金法により、表6に示す設計組成となるように、硬質合金を作製した。比較例6〜8において出発物質として用いた粉末の平均粒子径は、フィッシャー法により求めた。得られた硬質合金における複合炭窒化物相の断面積に対する均質組成硬質相の断面積の百分率および複合炭窒化物相の個数に対する均質組成硬質相の個数の百分率、硬質合金の硬度、および硬質合金の破壊靱性を測定した。結果を表6にまとめた。また、比較例7の複合炭窒化物硬質相のチタン(Ti)および添加元素であるモリブデン(Mo)の濃度分布を
図11に示した。
【0090】
【表6】
【0091】
表6および
図11から明らかなように、粒子内の組成が均質な均質組成粒子をほとんど含まない従来の複合炭窒化物粉末を用いて作製される硬質合金は、相内の組成が均質な均質組成硬質相をほとんど含まない複合炭窒化物硬質相を含み、硬度は高くても、破壊靱性は低かった。
【0092】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。