(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カーボンナノチューブウェブを前記回転体の周面に巻き付ける工程において、前記カーボンナノチューブウェブを、前記溝に嵌めることにより、互いに隣接する前記複数のカーボンナノチューブ単糸を前記複数のカーボンナノチューブ単糸の並列方向において集束させることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ糸の製造方法。
前記回転体の周面に巻き付けられる前記カーボンナノチューブウェブを前記回転体の径方向の外側から加圧する工程を、さらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ糸の製造方法。
前記回転体の周面に巻き付けられる前記カーボンナノチューブウェブに揮発性の液体および/または樹脂材料を供給する工程を、さらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ糸の製造方法。
前記カーボンナノチューブウェブを前記回転体に巻き付ける工程において、前記カーボンナノチューブウェブとともに、長尺状の部材を前記回転体の周面に巻き付けることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ糸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のカーボンナノチューブ糸の製造方法は、カーボンナノチューブウェブを回転体の溝に嵌るように回転体に巻き付けた後、回転体から引き出して、高密度のカーボンナノチューブ糸を円滑に製造するものである。
【0037】
(第1実施形態)
図1〜
図3を参照して、本発明のカーボンナノチューブ糸の製造方法の第1実施形態について説明する。カーボンナノチューブ撚糸(カーボンナノチューブ糸の一形態)の製造方法の第1実施形態は、例えば、
図2〜
図3Bに示すように、基板1上に配置される垂直配向カーボンナノチューブ2(Vertically Aligned carbon nanotubes;以下、VACNTs2とする。)を準備する工程と、回転体の一例としてのローラ4を準備する工程と、VACNTs2からカーボンナノチューブウェブ3(以下、CNTウェブ3とする。)を調製する工程と、CNTウェブ3をローラ4の周面4Aに巻き付ける工程と、CNTウェブ3をローラ4から引き出し、さらに撚りをかける工程とを含んでいる。
【0038】
このような製造方法では、例えば、
図1A〜
図1Dに示すように、化学気相成長法(CVD法)により、基板1上にVACNTs2を成長させて、基板1上に配置されるVACNTs2を準備する(VACNTs準備工程)。
【0039】
詳しくは、
図1Aに示すように、まず、基板1を準備する。基板1は、特に限定されず、例えば、CVD法に用いられる公知の基板が挙げられ、市販品を用いることができる。
【0040】
基板1として、例えば、シリコン基板や、二酸化ケイ素膜6が積層されるステンレス基板5などが挙げられ、好ましくは、二酸化ケイ素膜6が積層されるステンレス基板5が挙げられる。なお、
図1A〜
図1Dおよび
図2では、基板1が、二酸化ケイ素膜6が積層されるステンレス基板5である場合を示す。
【0041】
そして、
図1Aに示すように、基板1上、好ましくは、二酸化ケイ素膜6上に触媒層7を形成する。基板1上に触媒層7を形成するには、金属触媒を、公知の成膜方法により、基板1(好ましくは、二酸化ケイ素膜6)上に成膜する。
【0042】
金属触媒として、例えば、鉄、コバルト、ニッケルなどが挙げられ、好ましくは、鉄が挙げられる。このような金属触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。成膜方法として、例えば、真空蒸着およびスパッタリングが挙げられ、好ましくは、真空蒸着が挙げられる。これによって、基板1上に触媒層7が配置される。
【0043】
次いで、触媒層7が配置される基板1を、
図1Bに示すように、例えば、700℃以上900℃以下に加熱する。これにより、触媒層7が、凝集して、複数の粒状体7Aとなる。
【0044】
そして、加熱された基板1に、
図1Cに示すように、原料ガスを供給する。原料ガスは、炭素数1〜4の炭化水素ガス(低級炭化水素ガス)を含んでいる。炭素数1〜4の炭化水素ガスとして、例えば、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス、エチレンガス、アセチレンガスなどが挙げられ、好ましくは、アセチレンガスが挙げられる。
【0045】
また、原料ガスは、必要により、水素ガスや、不活性ガス(例えば、ヘリウム、アルゴンなど)、水蒸気などを含むこともできる。
【0046】
原料ガスの供給時間としては、例えば、1分以上、好ましくは、5分以上、例えば、60分以下、好ましくは、30分以下である。
【0047】
これによって、複数の粒状体7Aのそれぞれを起点として、複数のカーボンナノチューブ10(以下、CNT10とする。)が成長する。なお、
図1Cでは、便宜上、1つの粒状体7Aから、1つのCNT10が成長するように記載されているが、これに限定されず、1つの粒状体7Aから、複数のCNT10が成長してもよい。
【0048】
複数のCNT10のそれぞれは、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブのいずれであってもよく、好ましくは、多層カーボンナノチューブである。複数のCNT10は、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブのいずれか1種のみを含んでいてもよく、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブの両方を含んでいてもよい。
【0049】
CNT10の平均外径は、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上、例えば、100nm以下、好ましくは、50nm以下、さらに好ましくは、20nm以下である。
【0050】
CNT10の平均長さ(平均軸線方向寸法)は、例えば、1μm以上、好ましくは、100μm以上、さらに好ましくは、200μm以上、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下、さらに好ましくは、400μm以下である。なお、CNT10の層数、平均外径および平均長さは、例えば、ラマン分光分析や、電子顕微鏡観察などの公知の方法により測定される。
【0051】
このような複数のCNT10のそれぞれは、基板1上において、互いに略平行となるように、基板1の厚み方向に延びている。これによって、複数のCNT10からなるVACNTs2が、基板1上に成長する。
【0052】
つまり、複数のCNT10は、基板1に対して直交するように配向(垂直に配向)されており、VACNTs2は、基板1に対して垂直に配向されている。
【0053】
以上によって、基板1上に配置されるVACNTs2が準備される。
【0054】
VACNTs2は、
図2に示すように、基板1の厚み方向(上下方向)と直交する面方向(縦方向および横方向)に延びる平面視略矩形形状を有している。VACNTs2は、複数のCNT10が縦方向に直線的に並ぶ列2Aを、横方向に複数備えている。VACNTs2において、複数のCNT10は、面方向(縦方向および横方向)に互いに密集している。
【0055】
このようなVACNTs2の嵩密度は、例えば、10mg/cm
3以上、好ましくは、20mg/cm
3以上、例えば、60mg/cm
3以下、好ましくは、50mg/cm
3以下である。なお、VACNTs2の嵩密度は、例えば、単位面積当たり質量(目付量:単位 mg/cm
2)と、カーボンナノチューブの長さ(SEM(日本電子社製)または非接触膜厚計(キーエンス社製)により測定)とから算出される。
【0056】
また、VACNTs2とは別途、ローラ4を準備する(ローラ準備工程)。
【0057】
ローラ4は、円柱形状を有しており、その軸線を回転中心として回転可能である。また、ローラ4は、その周面4Aにおいて、溝20を有している。
【0058】
溝20は、本実施形態において、ローラ4の周面4Aから、ローラ4の径方向(以下、単に径方向とする。)の内側に向かって凹んでおり、ローラ4の周面4Aを複数周回するように、螺旋状に延びている。具体的には、溝20は、ローラ4の周面4Aを、軸線方向の一方側から見て、時計回り方向に周回しながら、周面4Aの軸線方向一端部から他端部に向かって延びている。
【0059】
溝20の周回数(巻き数)は、例えば、1周以上、好ましくは、3周以上である。なお、
図2および
図3Bでは、便宜上、溝20の周回数が7周である場合について示している。
【0060】
また、溝20は、
図3Bに示すように、ローラ4の周面4Aから略台形状に凹んでおり、1対の傾斜面20Aと、1対の直交面20Bと、底面20Cとを有している。
【0061】
1対の傾斜面20Aは、ローラ4の軸線および軸線に直交する面と交差する傾斜面であって、ローラ4の周面4Aから径方向の内側に向かうにつれて、軸線方向の内側に互いに近づくように傾斜している。また、1対の傾斜面20Aの径方向の内側端縁は、軸線方向に互いに間隔を空けて位置している。1対の直交面20Bは、1対の傾斜面20Aの径方向の内側端縁から連続して、ローラ4の径方向に沿って延びている。底面20Cは、1対の直交面20Bの径方向内側端縁を、軸線方向に沿って連結している。
【0062】
このような溝20の径方向外側端部の軸線方向寸法L1(より具体的には、1対の傾斜面20Aの径方向外側端縁間の間隔L1)は、溝20の軸線方向最大寸法であり、溝20の径方向内側端部の軸線方向寸法L2(より具体的には、底面20Cの軸線方向寸法L2)は、溝20の軸線方向最小寸法である。
【0063】
溝20の径方向内側端部の軸線方向寸法L2は、後述するCNTウェブ3の横方向寸法L3以下である。
【0064】
そして、本実施形態では、ローラ4は、
図2に示すように、軸線方向がVACNTs2の横方向と平行となるように、VACNTs2に対して縦方向の一方側に間隔を空けて配置されている。つまり、ローラ4の軸線方向と、VACNTs2の横方向とは同一方向である。
【0065】
次いで、
図1Dに示すように、CNTウェブ3をVACNTs2から調製する(調製工程)。
【0066】
CNTウェブ3をVACNTs2から調製するには、
図2に示すように、VACNTs2のうち、各列2Aの縦方向一方側端部に位置するCNT10を、図示しない引出具により一括して保持し、基板1の厚み方向と交差する(交わる)方向、好ましくは、縦方向に沿って引っ張る。
【0067】
すると、引っ張られたCNT10は、
図1Dに示すように、対応する粒状体7Aから引き抜かれる。このとき、引き抜かれるCNT10との摩擦力およびファンデルワ―ルス力などにより、引き抜かれるCNT10に縦方向に隣接するCNT10の一端(下端)が、引き抜かれるCNT10の一端(下端)に付着され、対応する粒状体7Aから引き抜かれる。
【0068】
このとき、一端(下端)にCNT10が付着されたCNT10は、その一端(下端)が引出方向の下流に引っ張られることにより、CNT10の他端(上端)が引出方向の上流に向かうように傾倒し、隣接するCNT10の他端(上端)に付着する。
【0069】
次いで、他端(上端)にCNT10が付着されたCNT10は、その他端(上端)が引出方向の下流に引っ張られることにより、その一端(下端)が対応する粒状体7Aから引き抜かれ、隣接するCNT10の一端(下端)に付着する。
【0070】
これによって、複数のCNT10が、順次連続して、VACNTs2から引き出され、複数のCNT10が直線状に連続的に繋がるカーボンナノチューブ単糸8(以下、CNT単糸8とする。)が調製される。
【0071】
より詳しくは、CNT単糸8において、連続するCNT10は、それらCNT10の一端(下端)同士または他端(上端)同士が付着されており、CNT単糸8の延びる方向に沿うように配向されている。なお、
図1Dでは、便宜上、CNT10が1本ずつ連続的に繋がり、CNT単糸8を形成するように記載されているが、実際には、複数のCNT10からなる束(バンドル)が連続的に繋がり、CNT単糸8を形成している。
【0072】
このようなCNT単糸8は、撚り合わされていない無撚糸であって、撚り角度は、略0°である。CNT単糸8の外径は、例えば、5nm以上、好ましくは、8nm以上、例えば、100nm以下、好ましくは、80nm以下、さらに好ましくは、50nm以下である。
【0073】
このようなCNT単糸8は、
図2の拡大図に示すように、各列2AのCNT10が、同時かつ平行に一括して引き出されるため、CNT単糸8の延びる方向と交差する(交わる)方向に複数並列配置されている。
【0074】
本実施形態では、複数のCNT単糸8は、縦方向に沿って延びており、横方向に並列配置されている。つまり、複数のCNT単糸8の並列方向は、VACNTs2の横方向と同一方向である。
【0075】
これによって、並列配置される複数のCNT単糸8は、略シート形状を有しており、CNTウェブ3として調製される。つまり、VACNTs2から複数のCNT10を線状に連続するように引き出して、CNT単糸8を調製するとともに、CNT単糸8を複数並列配置して、CNTウェブ3を調製する。
【0076】
CNTウェブ3の横方向寸法L3は、例えば、0.1cm以上、好ましくは、0.5cm以上、例えば、5cm以下、好ましくは、3cm以下である。
【0077】
次いで、
図2に示すように、CNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付ける(巻付工程)。
【0078】
具体的には、CNTウェブ3を、螺旋状の溝20に嵌るように、ローラ4の周面4Aに螺旋状に巻き付ける。なお、本実施形態では、CNTウェブ3を、溝20に嵌めることにより、互いに隣接するCNT単糸8を並列方向において集束させる態様について詳述する。つまり、溝20の径方向内側端部の軸線方向寸法L2は、CNTウェブ3の横方向寸法L3未満である。
【0079】
より具体的には、
図3Bに示すように、CNTウェブ3において、互いに隣接する複数のCNT単糸8は、溝20の1対の傾斜面20Aの傾斜により、並列方向の内側に向かって集束した後、溝20の底面20C上に到達する。
【0080】
その後、
図2に示すように、ローラ4を回転させるとともに、複数のCNT単糸8が集束されたCNTウェブ3(以下、集束CNTウェブ3Aとする。)が螺旋状の溝20を通過するように、集束CNTウェブ3Aの遊端部をローラ4から引き出す。
【0081】
これによって、集束CNTウェブ3Aが移動方向の下流に向かって引っ張られ、それに伴なって、VACNTs2から調製されるCNTウェブ3が、ローラ4に向かって引っ張られ、VACNTs2から複数のCNT10が連続的に引き出される。
【0082】
このとき、CNTウェブ3の移動速度は、例えば、0.01m/min以上、好ましくは、0.1m/min以上、例えば、200m/min以下、好ましくは、100m/min以下である。
【0083】
そして、CNTウェブ3が、ローラ4に順次到達して溝20に進入すると、上記と同様に、互いに隣接する複数のCNT単糸8が、1対の傾斜面20Aの傾斜により集束される。その後、集束CNTウェブ3Aは、螺旋状の溝20を順次連続して通過するように進行して、ローラ4の周面4Aに巻き付けられる。
【0084】
このような集束CNTウェブ3Aは、
図3Bに示すように、CNT撚糸25(後述)の性能向上および生産効率向上の観点から、好ましくは、ローラ4の周面4A上において、高密度化処理される。
【0085】
高密度化処理としては、例えば、集束CNTウェブ3Aを加圧する方法や、集束CNTウェブ3Aに揮発性の液体を供給する方法が挙げられる。このような高密度化処理は、1回のみ実施してもよいが、好ましくは、複数回実施される。
【0086】
本実施形態では、集束CNTウェブ3Aが、ローラ4に巻き付けられた状態で、一次加圧された後、揮発性の液体が供給され、続いて、二次加圧される態様について詳述する。つまり、本実施形態のカーボンナノチューブ撚糸の製造方法は、集束CNTウェブ3Aを加圧する工程(加圧工程)と、集束CNTウェブ3Aに揮発性の液体を供給する工程(液体供給工程)とを含んでいる。
【0087】
本実施形態の高密度化処理では、まず、ローラ4の周面に巻き付けられた集束CNTウェブ3Aを、押圧部の一例としての押圧軸38により一次加圧する。
【0088】
押圧軸38は、ローラ4の溝20に対応しており、ローラ4の溝20と径方向に向かい合うように配置される。押圧軸38は、ローラ4の径方向に沿って延びる角柱形状を有している。また、押圧軸38は、ローラ4の径方向に沿って進退可能である。
【0089】
なお、本実施形態では、後述するが、二次加圧においても押圧軸38が使用される。そのため、一次加圧に使用される押圧軸38を第1押圧軸38Aとし、二次加圧に使用される押圧軸38を第2押圧軸38Bとして区別する。
【0090】
そして、ローラ4を回転させながら、第1押圧軸38Aをローラ4側に進出させて、押圧軸38のローラ4側の端部を対応する溝20内に挿入する。
【0091】
これによって、集束CNTウェブ3Aは、第1押圧軸38Aのローラ4側の端部と、溝20の底面20Cとの間に挟み込まれ、ローラ4の径方向の外側から加圧される。そのため、集束CNTウェブ3Aの密度が向上する。
【0092】
一次加圧における集束CNTウェブ3Aに対する圧力は、例えば、10kg/cm
2以上、好ましくは、50kg/cm
2以上、例えば、1000kg/cm
2以下、好ましくは、500kg/cm
2以下である。
【0093】
次いで、一次加圧された集束CNTウェブ3Aに、供給部39により揮発性の液体を供給する。
【0094】
供給部39は、溝20のうち、第1押圧軸38Aが対応する部分よりも、集束CNTウェブ3Aの移動方向下流側部分に対応しており、第1押圧軸38Aに対して、ローラ4の軸線方向の他方側に間隔を空けて配置されている。また、供給部39は、揮発性の液体を集束CNTウェブ3Aに供給(噴霧または滴下)可能である。さらには、供給部39は、樹脂材料を集束CNTウェブ3Aに供給(噴霧または滴下)可能である。
【0095】
揮発性の液体として、例えば、水、有機溶媒などが挙げられ、好ましくは、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒として、例えば、低級(C1〜3)アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)、ケトン類(例えば、アセトンなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、アルキルエステル類(例えば、酢酸エチルなど)、ハロゲン化脂肪族炭化水素類(例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなど)、極性非プロトン類(例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)などが挙げられる。
【0096】
このような揮発性の液体のなかでは、好ましくは、低級アルコール類、さらに好ましくは、エタノールが挙げられる。このような揮発性の液体は、単独使用または2種類以上併用することができる。また、揮発性の液体には、微粒子を分散でき、また、金属塩および/または樹脂材料を溶解することもできる。
【0097】
樹脂材料として、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。熱硬化性樹脂のなかでは、好ましくは、ポリイミド樹脂が挙げられる。
【0098】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレートなど)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、芳香族ポリエーテルケトン(例えば、ポリエーテルエーテルケトンなど)、ポリオキサジアゾール、フッ素系ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなど)などが挙げられる。
【0099】
樹脂材料は、上記のように揮発性の液体に溶解して、揮発性の液体とともに集束CNTウェブ3Aに供給することができる。また、樹脂材料が熱可塑性樹脂である場合、溶融状態の熱可塑性樹脂のみを集束CNTウェブ3Aに供給でき、樹脂材料が熱硬化性樹脂である場合、液状(Aステージ)状態の熱硬化性樹脂を集束CNTウェブ3Aに供給できる。
【0100】
そして、供給部39は、一次加圧された集束CNTウェブ3Aに揮発性の液体を供給する。これによって、ローラ4の周面4Aに巻き付けられる集束CNTウェブ3Aに揮発性の液体が均一に付着する。なお、揮発性の液体に樹脂材料が溶解されている場合、揮発性の液体および樹脂材料が集束CNTウェブ3Aに供給される。
【0101】
次いで、揮発性の液体が供給された集束CNTウェブ3Aを、第2押圧軸38B(押圧軸38)により二次加圧する。
【0102】
第2押圧軸38Bは、溝20のうち、供給部39が対応する部分よりも、集束CNTウェブ3Aの移動方向下流側部分に対応しており、供給部39に対して、ローラ4の軸線方向の他方側に間隔を空けて配置されている。そして、上記の一次加圧と同様に、第2押圧軸38Bをローラ4側に進出させて、集束CNTウェブ3Aを、第2押圧軸38Bのローラ4側の端部と、溝20の底面20Cとの間に挟み込み、ローラ4の径方向の外側から加圧する。これによって、集束CNTウェブ3Aの密度が確実に向上する。
【0103】
二次加圧における集束CNTウェブ3Aに対する圧力は、上記の一次加圧の圧力と同一であってもよく、互いに異なっていてもよいが、好ましくは、一次加圧の圧力よりも大きい。
【0104】
二次加圧における集束CNTウェブ3Aに対する圧力は、例えば、10kg/cm
2以上、好ましくは、50kg/cm
2以上、例えば、1000kg/cm
2以下、好ましくは、500kg/cm
2以下である。
【0105】
その後、必要により、二次加圧された集束CNTウェブ3Aを、乾燥部40により乾燥させる。
【0106】
乾燥部40は、公知の乾燥装置であって、溝20のうち、第2押圧軸38Bが対応する部分よりも、集束CNTウェブ3Aの移動方向下流側部分に対応しており、第2押圧軸38Bに対して、ローラ4の軸線方向の他方側に間隔を空けて配置されている。そして、乾燥部40は、二次加圧された集束CNTウェブ3Aを加熱する。
【0107】
このとき、揮発性の液体が気化して、複数のCNT単糸8が互いに密集するとともに、各CNT単糸8において、複数のCNT10が互いに密集する。そのため、集束CNTウェブ3Aの密度がより一層確実に向上する。また、集束CNTウェブ3Aに熱硬化性樹脂が供給されている場合、乾燥部40の加熱により熱硬化性樹脂が硬化する。
【0108】
以上によって、ローラ4に巻き付けられた集束CNTウェブ3Aは、一次加圧された後、揮発性の液体が供給され、続いて、二次加圧され、必要により乾燥されて、高密度化される。
【0109】
次いで、
図2に示すように、ローラ4の溝20を通過した集束CNTウェブ3Aを、ローラ4から引き出して、撚りをかけて、カーボンナノチューブ撚糸25(以下、CNT撚糸25とする。)を製造する(撚掛工程)。
【0110】
集束CNTウェブ3Aに撚りをかけるには、引き出された集束CNTウェブ3Aの移動方向下流側端部を、集束CNTウェブ3Aの延びる方向に沿う仮想線を回転中心として回転させる。
【0111】
これによって、集束CNTウェブ3Aが撚りかけられ、複数のCNT単糸8が互いに撚り合わされて、CNT撚糸25が製造される。
【0112】
CNT撚糸25の撚り数は、例えば、500T/m以上、好ましくは、1000T/m以上、例えば、10000T/m以下、好ましくは、5000T/m以下である。
【0113】
CNT撚糸25の嵩密度は、例えば、0.5g/cm
3以上、好ましくは、0.7g/cm
3以上、さらに好ましくは、1g/cm
3以上である。
【0114】
以上によって、VACNTs2からのCNTウェブ3の調製(調製工程)、CNTウェブ3のローラ4への巻き付け(巻付工程)、集束CNTウェブ3Aの高密度化(加圧工程および液体供給工程)、および、集束CNTウェブ3Aの撚りかけ(撚掛工程)が順次連続して実施され、CNT撚糸25が連続的に製造される。
【0115】
このようなCNT撚糸25は、例えば、炭素繊維が用いられる織物(シート)、電気機器(例えば、モータ、トランス、センサーなど)の導電線材など各種産業製品に利用される。
【0116】
このCNT撚糸25の製造方法は、例えば、カーボンナノチューブ撚糸の製造装置の一例としての撚糸製造装置30により連続的に実施される。撚糸製造装置30は、ウェブ調製部31と、集束部32と、撚掛部33とを備えている。なお、撚糸製造装置30の説明において、上記した部材と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0117】
ウェブ調製部31は、CNTウェブ3を調製し、集束部32に供給するように構成されている。ウェブ調製部31は、基板1上に配置されるVACNTs2と、図示しない引出具とを備えている。
【0118】
集束部32は、ウェブ調製部31に対して、VACNTs2の縦方向の一方側に間隔を空けて配置されている。集束部32は、ガイド部35と、ローラ4と、押圧軸38(第1押圧軸38Aおよび第2押圧軸38B)と、供給部39と、乾燥部40とを備えている。
【0119】
ガイド部35は、1対のガイド軸36と、支持板37とを備えている。1対のガイド軸36のそれぞれは、上下方向に延びる円柱形状を有している。1対のガイド軸36は、横方向に互いに間隔を空けて配置されている。1対のガイド軸36の間の間隔は、CNTウェブ3の横方向寸法L3よりも小さく、
図3Bに示すように、溝20の径方向外側端部の軸線方向寸法L1よりも大きい。
【0120】
支持板37は、
図2に示すように、1対のガイド軸36の下側に配置されており、1対のガイド軸36を回転可能に支持している。
【0121】
ローラ4は、ローラ4の軸線方向(横方向)の一方側端部がガイド部35と向かい合うように、ガイド部35に対して縦方向の一方側に間隔を空けて配置されている。
【0122】
第1押圧軸38Aおよび第2押圧軸38Bは、
図3Bに示すように、ローラ4と径方向に向かい合うように配置されており、ローラ4の軸線方向(横方向)に互いに間隔を空けて配置されている。供給部39は、第1押圧軸38Aと第2押圧軸38Bとの間において、ローラ4と径方向に向かい合うように配置されている。乾燥部40は、第2押圧軸38Bに対して、ローラ4の軸線方向の他方側に間隔を空けて配置され、ローラ4と径方向に向かい合っている。
【0123】
撚掛部33は、
図2に示すように、ローラ4の軸線方向(横方向)の他方側端部に対して、縦方向の一方側に間隔を空けて配置され、ローラ4と径方向に向かい合っている。
【0124】
撚掛部33は、回転部46と、巻取軸45と、回転軸47とを備えている。
【0125】
回転部46は、ローラ4に向かって開放される略コ字状を有している。巻取軸45は、円柱形状を有し、回転部46の両側壁に回転可能に支持されている。回転軸47は、回転部46に対して、縦方向の一方側に配置されている。回転軸47は、縦方向に延びる略円柱形状を有しており、回転部46の横方向中央に固定されている。これによって、回転部46は、回転軸47を回転中心として回転可能である。
【0126】
このような撚糸製造装置30では、図示しない引出具が、VACNTs2の各列2AのCNT10を同時かつ平行に、縦方向一方側に向かって引き出す。これにより、複数のCNT単糸8が横方向に並列配置される略シート形状のCNTウェブ3が、VACNTs2から調製される。
【0127】
次いで、CNTウェブ3を、1対のガイド軸36の間を通過させた後、螺旋状の溝20に嵌るように、ローラ4の周面4Aに螺旋状に巻き付ける。
【0128】
そして、CNTウェブ3の遊端部を、ローラ4から引き出し、巻取軸45の周面に固定する。次いで、ローラ4、巻取軸45および回転軸47に駆動力を入力して、ローラ4および巻取軸45を、軸線方向(横方向)の一方側から見て時計回り方向に回転させるとともに、回転部46を、縦方向の一方側から見て時計回り方向に回転させる。
【0129】
これによって、CNTウェブ3が、ローラ4および巻取軸45の回転により引っ張られて、VACNTs2から連続して調製されるとともに、上記の移動速度でローラ4に向かって移動し、ローラ4の溝20に進入する。つまり、複数のCNT単糸8が並列配置されてなるCNTウェブ3が、CNTウェブ3の溝20に嵌る。
【0130】
このとき、互いに隣接する複数のCNT単糸8が、1対の傾斜面20Aの傾斜により、並列方向の内側に向かって集束されて、集束CNTウェブ3Aが形成される。
【0131】
次いで、
図3Bに示すように、集束CNTウェブ3Aは、ローラ4および巻取軸45の回転により、螺旋状の溝20を通過するように進行し、ローラ4に巻き付けられる。
【0132】
このとき、第1押圧軸38Aが、ローラ4に巻き付けられる集束CNTウェブ3Aを、溝20の底面20Cとの間に挟むように、上記の圧力で一次加圧した後、供給部39が、その集束CNTウェブ3Aに上記の揮発性の液体を供給する。次いで、第2押圧軸38Bが、揮発性の液体が供給された集束CNTウェブ3Aを、溝20の底面20Cとの間に挟むように、上記の圧力で二次加圧した後、乾燥部40が集束CNTウェブ3Aを乾燥させる。
【0133】
次いで、集束CNTウェブ3Aは、螺旋状の溝20を通過し、巻取軸45の回転により、ローラ4から引き出される。そして、引き出された集束CNTウェブ3Aは、
図2に示すように、回転部46の回転により、複数のCNT単糸8が互いに撚り合わされるように、撚りかけられると同時に、巻取軸45の回転により、巻取軸45に巻き取られる。つまり、引き出された集束CNTウェブ3Aは、撚掛部33により撚りかけられる。
【0134】
以上によって、CNT撚糸25が、撚糸製造装置30により製造される。
【0135】
(作用効果)
本実施形態では、
図2に示すように、複数のCNT単糸8が並列配置されるCNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付けて、互いに隣接する複数のCNT単糸8を並列方向に集束させた後、そのCNTウェブ3を、ローラ4から引き出し撚りをかけて、CNT撚糸25を製造する。
【0136】
そのため、CNTウェブ3をローラ4の周面4Aに巻き付けるという簡易な方法により、複数のCNT単糸8を集束させることができ、その後、複数のCNT単糸8が集束したCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)を、ローラ4から引き出して撚りをかけるので、CNT撚糸25の密度の向上を図ることができ、高密度のCNT撚糸25を円滑に製造することができる。
【0137】
また、
図3Bに示すように、ローラ4の周面4Aに巻き付けられるCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)を、ローラ4の径方向の外側から加圧する。
【0138】
そのため、簡易な方法でありながら、集束CNTウェブ3Aの密度の向上を図ることができ、ひいては、CNT撚糸25の密度の向上を確実に図ることができる。
【0139】
また、
図3Bに示すように、ローラ4の周面4Aに巻き付けられるCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)に、揮発性の液体を供給する。そのため、その揮発性の液体が気化することにより、集束CNTウェブ3Aにおいて複数のCNT単糸8が互いに密集するとともに、各CNT単糸8において複数のCNT10が互いに密集する。
【0140】
その結果、簡易な方法でありながら、集束CNTウェブ3Aの密度の向上を確実に図ることができ、ひいては、CNT撚糸25の密度の向上をより一層確実に図ることができる。
【0141】
また、
図2に示すように、撚糸製造装置30は、ローラ4と、撚掛部33とを備えている。そして、複数のCNT単糸8が並列配置されてなるCNTウェブ3が、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付けられるので、互いに隣接する複数のCNT単糸8が並列方向において集束させることができる。その後、撚掛部33が、ローラ4から引き出されたCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)に撚りをかけることができるので、高密度のCNT撚糸25を円滑に製造することができる。
【0142】
また、
図3Bに示すように、撚糸製造装置30は、ローラ4に巻き付けられるCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)を押圧する押圧軸38を備えている。そのため、集束CNTウェブ3Aの密度の向上を図ることができ、ひいては、CNT撚糸25の密度の向上を確実に図ることができる。
【0143】
また、
図3Bに示すように、撚糸製造装置30は、ローラ4に巻き付けられるCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)に揮発性の液体を供給する供給部39を備えている。そのため、集束CNTウェブ3Aの密度の向上を確実に図ることができ、ひいては、CNT撚糸25の密度の向上をより一層確実に図ることができる。
【0144】
(第2実施形態)
次に、
図4Aを参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態では、上記した第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0145】
第1実施形態では、
図3Bに示すように、集束CNTウェブ3Aが、高密度化処理として、ローラ4に巻き付けられた状態で、一次加圧された後、揮発性の液体が供給され、続いて、二次加圧されるが、これに限定されない。
【0146】
第2実施形態では、
図4Aに示すように、集束CNTウェブ3Aが、ローラ4に巻き付けられた状態で、揮発性の液体が供給されることなく、第1実施形態と同様に、一次加圧および二次加圧される。
【0147】
このような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0148】
また、高密度化処理として、一次加圧および二次加圧のいずれか一方のみが実施されてもよい。
【0149】
また、集束CNTウェブ3Aは、ローラ4に巻き付けられた状態で、加圧されることなく、揮発性の液体が供給されてもよい。
【0150】
つまり、高密度化処理の種類および回数は特に制限されず、高密度化処理の順序、高密度化処理に係る部材(押圧軸38、供給部39および乾燥部40)の配置も特に制限されない。
【0151】
(第3実施形態)
次に、
図4Bを参照して、本発明の第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態では、上記した第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0152】
第1実施形態では、
図3Bに示すように、押圧軸38が押圧部の一例として対応し、押圧軸38が、ローラ4の周面に巻き付けられた集束CNTウェブ3Aを加圧するが、押圧部は、これに限定されない。
【0153】
第3実施形態では、
図4Bに示すように、ローラ4の周面に巻き付けられた集束CNTウェブ3Aを、押圧部の一例としての回転冶具50により加圧する。
【0154】
回転冶具50は、円板形状を有しており、その軸線がローラ4の軸線と平行となるように配置されている。また、回転冶具50は、ローラ4の周面に巻き付けられた集束CNTウェブ3Aを、回転冶具50の周面と溝20の底面20Cとの間に挟むように配置されている。回転冶具50は、軸線方向の一方側から見て、反時計回り方向に回転可能である。
【0155】
そして、ローラ4および回転冶具50を回転させると、集束CNTウェブ3Aが、溝20内を進行して、回転冶具50の周面と溝20の底面20Cとの間に順次挟み込まれ、ローラ4の径方向の外側から加圧される。
【0156】
このような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0157】
(第4実施形態および第5実施形態)
次に、
図5Aを参照して、本発明の第4実施形態および第5実施形態について説明する。なお、第4実施形態および第5実施形態では、上記した第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0158】
(1)第4実施形態
第1実施形態では、
図2に示すように、1つのVACNTs2から1つのCNTウェブ3が調製されて、そのCNTウェブ3をローラ4に巻き付けるが、これに限定されない。
【0159】
第4実施形態では、
図5Aに示すように、VACNTs2を複数準備して、複数のVACNTs2から複数のCNTウェブ3を調製し、複数のCNTウェブ3を、溝20に嵌るとともにローラ4の径方向に積層されるように、ローラ4の周面4Aに巻き付ける。
【0160】
なお、準備するVACNTs2の個数は、特に制限されないが、例えば、2つ以上である。
図5Aでは、2つのVACNTs2が準備される態様について示す。
【0161】
より具体的には、複数(2つ)の基板1を準備して、2つの基板1のそれぞれに、第1実施形態と同様にして、VACNTs2を成長させる。これによって、基板1上に配置されるVACNTs2が、2つ準備される。
【0162】
そして、2つのVACNTs2のそれぞれから、第1実施形態と同様にして、1つずつCNTウェブ3を調製する。
【0163】
次いで、2つのCNTウェブ3のうち、一方のCNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付けた後、他方のCNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付ける。これによって、2つのCNTウェブ3が、溝20に嵌るとともに、ローラ4の径方向に積層されて、ローラ4の周面4Aに巻き付けられる。
【0164】
また、ローラ4に巻き付けられたCNTウェブ3は、溝20により、複数のCNT単糸8が集束されており、集束CNTウェブ3Aとして調製される。
【0165】
そして、集束CNTウェブ3Aは、第1実施形態と同様に、必要により高密度処理されながら、溝20を通過して、ローラ4から連続的に引き出され、撚りがかけられる。これにより、CNT撚糸25が製造される。
【0166】
このような第4実施形態によれば、複数のVACNTs2から、複数のCNTウェブ3を調製し、それらCNTウェブ3を、溝20に嵌るとともにローラ4の径方向に積層されるように、ローラ4の周面4Aに巻き付ける。
【0167】
その後、積層されたCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)を、ローラ4から引き出して撚りをかけ、CNT撚糸25を製造するので、CNT撚糸25の密度の向上を図ることができながら、CNT撚糸25の大径化を図ることができる。その結果、CNT撚糸25の機械強度のさらなる向上を図ることができる。
【0168】
また、第4実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0169】
(2)第5実施形態
第5実施形態では、
図5Aに示すように、CNTウェブ3とともに、長尺状の部材(以下、長尺部材51とする。)を溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付ける。
【0170】
長尺部材51は、所定方向に延びる線状または平帯状を有しており、可撓性を有している。長尺部材51の材料は、CNT撚糸25の用途により適宜選択されるが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、化学繊維、天然繊維、金属(例えば、アルミニウム、チタン、銅、銀、金、および、それらを含む合金など)、高分子材料(例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など)などが挙げられる。
【0171】
CNTウェブ3とともに長尺部材51をローラ4の周面4Aに巻き付けるには、例えば、VACNTs2から調製したCNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付けた後、長尺部材51を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付ける。これによって、溝20内に配置されるCNTウェブ3(集束CNTウェブ3A)上に、長尺部材51が配置される。
【0172】
なお、第5実施形態では、長尺部材51が2つのCNTウェブ3の間に挟まれるように配置されている。この場合、長尺部材51を、集束CNTウェブ3A上に配置されるように、ローラ4の周面4Aに巻き付けた後、別途準備したCNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付ける。これによって、長尺部材51が2つのCNTウェブ3の間に挟まれて、複合化される。
【0173】
そして、長尺部材51と複合化された集束CNTウェブ3Aは、第1実施形態と同様に、必要により高密度処理されながら、溝20を通過して、ローラ4から引き出され、撚りがかけられる。これにより、CNT撚糸25が製造される。
【0174】
このような第5実施形態によれば、簡易な方法でありながら、CNTウェブ3と長尺部材51とを複合化させることができる。そして、長尺部材51と複合化されたCNTウェブ3から、CNT撚糸25が製造されるので、CNT撚糸25に、長尺部材51の特性を付与することができる。
【0175】
また、第5実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0176】
上記では、1つの長尺部材51が複数(2つ)のCNTウェブ3と複合化されているが、これに限定されず、複数の長尺部材51を複数のCNTウェブ3と複合化することもでき、1つの長尺部材51を1つのCNTウェブ3と複合化することもできる。
【0177】
また、上記では、長尺部材51が2つのCNTウェブ3の間に挟まれているが、長尺部材51の配置は特に限定されない。しかし、長尺部材51を2つのCNTウェブ3の間に配置することが、CNT撚糸25における長尺部材51のバランスのよい配置の観点から好ましい。
【0178】
(第6実施形態)
次に、
図5Bを参照して、本発明の第6実施形態について説明する。なお、第6実施形態では、上記した第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0179】
第1実施形態では、
図2に示すように、1つのVACNTs2から1つのCNTウェブ3が調製されて、そのCNTウェブ3をローラ4に巻き付けるが、これに限定されない。
【0180】
第6実施形態では、
図5Bに示すように、1つのVACNTs2から、複数(3つ)のCNTウェブ3を調製し、それらCNTウェブ3を、ローラ4の径方向に積層されるように、ローラ4の周面4Aに巻き付ける。
【0181】
より具体的には、第1実施形態と同様にして、基板1上に配置されるVACNTs2を準備する。そして、そのVACNTs2から、複数(3つ)のCNTウェブ3を、横方向に間隔を空けて配置されるように調製する。
【0182】
そして、複数(3つ)のCNTウェブ3を1つずつ、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに順次巻き付ける。これによって、複数(3つ)のCNTウェブ3が、溝20に嵌るとともに、ローラ4の径方向に積層されて、ローラ4の周面4Aに巻き付けられる。
【0183】
また、ローラ4に巻き付けられたCNTウェブ3は、溝20により、複数のCNT単糸8が集束されており、集束CNTウェブ3Aとして調製される。
【0184】
そして、集束CNTウェブ3Aは、第1実施形態と同様に、必要により高密度処理されながら、溝20を通過して、ローラ4から連続的に引き出され、撚りがかけられる。これにより、CNT撚糸25が製造される。
【0185】
このような第6実施形態によれば、1つのVACNTs2から、複数のCNTウェブ3を調製し、それらCNTウェブ3を、溝20に嵌るとともにローラ4の径方向に積層されるように、ローラ4の周面に巻き付ける。
【0186】
そのため、1つのVACNTs2から、1つのCNTウェブ3を調製し、そのCNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面に巻き付けて、複数のCNT単糸8を一括して並列方向に集束させる場合と比較して、複数のCNT単糸8を確実に集束させることができる。その結果、CNTウェブ3の密度の向上をより一層確実に図ることができる。
【0187】
また、第6実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0188】
(第7実施形態)
次に、
図5Cを参照して、本発明の第7実施形態について説明する。なお、第7実施形態では、上記した第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0189】
第1実施形態〜第6実施形態では、
図5Bに示すように、溝20の径方向内側端部の軸線方向寸法L2は、CNTウェブ3の横方向寸法L3未満であるが、これに限定されない。
【0190】
第7実施形態では、
図5Cに示すように、溝20の径方向内側端部の軸線方向寸法L2が、CNTウェブ3の横方向寸法L3と同一である。
【0191】
このような第7実施形態によっても、第6実施形態と同様に、複数のCNTウェブ3が溝20に嵌るとともにローラ4の径方向に積層されるように、ローラ4の周面に巻き付けられる。そのため、溝20に嵌ったCNTウェブ3に、種々の工程を円滑かつ容易に実施することができる。
【0192】
その後、CNTウェブ3を、ローラ4から引き出し撚りをかけて、CNT撚糸25を製造するので、CNT撚糸25の密度の向上を図ることができ、高密度のCNT撚糸25を円滑に製造することができる。
【0193】
(第8実施形態)
次に、
図6を参照して、本発明の第8実施形態について説明する。なお、第8実施形態では、上記した第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0194】
第1実施形態では、
図2に示すように、溝20が、ローラ4の周面4Aを複数周回するように螺旋状に延びているが、これに限定されず、第8実施形態では、溝20は、ローラ4の周面4Aを、ローラ4の周方向に沿って1周するように延びている。
【0195】
このような第8実施形態によっても、VACNTs2から調製されるCNTウェブ3を、溝20に嵌るようにローラ4の周面4Aに巻き付けることにより、互いに隣接する複数のCNT単糸8を並列方向に集束させることができる。そのため、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0196】
(変形例)
上記の第1〜第8実施形態では、溝20は、
図3Bに示すように、ローラ4の周面4Aから略台形状に凹んでいるが、溝20の形状は、特に制限されない。
【0197】
例えば、溝20は、
図7Aに示すように、ローラ4の周面4Aから略V字状に凹み、1対の傾斜面20Dを有していてもよい。1対の傾斜面20Dは、ローラ4の周面4Aから径方向の内側に向かうにつれて、軸線方向の内側に互いに近づくように傾斜している。そして、1対の傾斜面20Dの径方向内側端部は、互いに接続されている。
【0198】
また、溝20は、
図7Bに示すように、ローラ4の周面4Aから略V字状に凹み、直交面20Eと、傾斜面20Fとを有していてもよい。直交面20Eは、ローラ4の周面4Aから、ローラ4の径方向に沿って延び、傾斜面20Fは、ローラ4の周面4Aから径方向の内側に向かうにつれて、直交面20Eに近づくように傾斜している。そして、直交面20Eおよび傾斜面20Fの径方向内側端部は、互いに接続されている。
【0199】
また、溝20は、
図7Cに示すように、ローラ4の周面4Aから略U字状に凹み、1対の直交面20Gと、1対の傾斜面20Hとを有していてもよい。1対の直交面20Gは、ローラ4の軸線方向に互いに間隔を空けて配置され、互いに略平行となるように、ローラ4の周面4Aから、ローラ4の径方向に沿って延びている。1対の傾斜面20Hは、1対の直交面20Gの径方向内側端部から連続して、径方向の内側に向かうにつれて、軸線方向の内側に互いに近づくように傾斜している。そして、1対の直交面20Gの径方向内側端部は、互いに接続されている。
【0200】
また、溝20は、
図7Dに示すように、ローラ4の周面4Aから略凹状に凹み、1対の直交面20Iと、底面20Jとを有していてもよい。1対の直交面20Iは、ローラ4の軸線方向に互いに間隔を空けて配置され、互いに略平行となるように、ローラ4の周面4Aから、ローラ4の径方向に沿って延びている。底面20Jは、1対の直交面20Gの径方向内側端部を、軸線方向に沿って連結している。
【0201】
なお、上記の実施形態では、ローラ4の溝20を通過した集束CNTウェブを、ローラ4から引き出して、撚りをかけて、カーボンナノチューブ撚糸25の状態で巻取軸45に回収したが、ローラ4の溝20を通過した集束CNTウェブを、ローラ4から引き出して、撚りをかけずに、カーボンナノチューブ無撚糸(カーボンナノチューブ糸の一形態)の状態で巻取軸45に回収してもよい。
【0202】
これら変形例によっても、上記の第1実施形態〜第8実施形態と同様の作用効果を奏することができる。これら上記の第1実施形態〜第8実施形態および変形例は、適宜組み合わせることができる。
【実施例】
【0203】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0204】
(実施例1)
ステンレス製の基板(ステンレス基板)の表面に二酸化ケイ素膜を積層した後、二酸化ケイ素膜上に、触媒層として鉄を蒸着した。
【0205】
次いで、基板を所定の温度に加熱して、触媒層に原料ガス(アセチレンガス)を供給した。これにより、基板上において、平面視略矩形形状のVACNTsを形成した。
【0206】
VACNTsにおいて、複数のCNTは、互いに略平行となるように延び、基板に対して直交するように配向(垂直配向)されていた。CNTは、多層カーボンナノチューブであり、CNTの平均外径は、10nm、CNTの平均長さは、約300μm、VACNTsの嵩密度は、40〜50mg/cm
3であった。
【0207】
また、周面に螺旋状の溝を有するローラを準備した。ローラの外径は、10cmであった。螺旋状の溝の周回数は、3回であり、溝は、ローラの周面から略台形状に凹んでいた。また、溝の径方向外側端部の軸線方向寸法は、1cmであり、溝の径方向内側端部の軸線方向寸法は、0.1cmであり、溝の径方向寸法は、1.5cmであった。
【0208】
そして、ローラを、軸線方向がVACNTsの横方向と平行となるように、VACNTsに対して縦方向の一方側に間隔を空けて配置した。
【0209】
次いで、VACNTsから、引出具により、複数のCNTを線状に連続するように引き出して、CNT単糸を調製するとともに、CNT単糸を複数並列配置して、CNTウェブを調製した。CNTウェブの横方向(幅方向)寸法は、2cmであった。
【0210】
次いで、CNTウェブを、螺旋状の溝に嵌るように、ローラの周面に螺旋状に巻き付けた。その後、ローラを回転させるとともに、CNTウェブを、螺旋状の溝を通過するように、ローラから引き出した。なお、ローラの回転速度は、20rpmであった。
【0211】
これによって、CNTウェブが、1つのVACNTsから連続的に調製され、ローラに巻き付けられるとともに、ローラから、溝を通過したCNTウェブが連続して引き出された。
【0212】
そして、引き出されたCNTウェブを4000T/mとなるように撚糸化した。これにより、CNT撚糸を得た。CNT撚糸の直径は、29〜32μmであり、CNT撚糸の嵩密度は、0.7〜0.8g/cm
3であった。
【0213】
なお、実施例1〜5および比較例1における、CNT撚糸の直径および嵩密度と、高密度化処理の有無について、表1に示す。
【0214】
(実施例2)
ローラに巻き付けられたCNTウェブに、エタノール(揮発性の液体)を供給したこと以外は、実施例1と同様にして、CNT撚糸を得た。
【0215】
(実施例3)
ローラに巻き付けられたCNTウェブを、押圧軸により、ローラの径方向外側から押圧したこと以外は、実施例1と同様にして、CNT撚糸を得た。なお、CNTウェブに対する圧力は、100kg/cm
2であった。
【0216】
(実施例4)
ローラに巻き付けられたCNTウェブを、押圧軸(第1押圧軸)により、ローラの径方向外側から押圧した後(一次加圧)、CNTウェブの移動方向の下流側で、再度、押圧軸(第2押圧軸)により、ローラの径方向外側から押圧したこと以外は(二次次加圧)、実施例1と同様にして、CNT撚糸を得た。なお、一次加圧におけるCNTウェブに対する圧力は、100kg/cm
2であり、二次加圧におけるCNTウェブに対する圧力は、200kg/cm
2であった。
【0217】
(実施例5)
一次加圧と二次加圧との間において、ローラに巻き付けられたCNTウェブに、エタノールを供給したこと以外は、実施例1と同様にして、CNT撚糸を得た。
【0218】
(比較例1)
実施例1と同様にして、平面視略矩形形状のVACNTsを形成し、VACNTsからCNTウェブを調製した。次いで、CNTウェブを、VACNTsから連続的に調製するとともに、5000T/mとなるように撚糸化した。これにより、CNT撚糸を得た。
【0219】
評価:
(1)引張強度
各実施例および比較例で得られたCNT撚糸の破断強度を、下記のように測定した。その結果を表1に示す。
【0220】
CNT撚糸の一端を固定し、CNT撚糸の他端をフォースゲージへ固定して、0.2mm/secで引き上げて断裂した負荷を破断強度とした。
【0221】
なお、破断強度をCNT撚糸の断面積で除して、引張強度を算出した。
【0222】
【表1】
【0223】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。