(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(2)で調製した手袋用エマルション組成物が保湿剤を含有し、前記工程(4)のゲリング工程の条件が、50〜70℃で20秒以上、20分未満である、請求項1または2に記載の手袋の製造方法。
(2)で調製した手袋用エマルション組成物が保湿剤を含有せず、前記工程(4)のゲリング工程の条件が、15〜25℃で20秒〜20分、または、50〜70℃で20秒以上、3分未満である、請求項1または2に記載の手袋の製造方法。
手袋用エマルション組成物におけるポリカルボジイミドの含有量が、手袋用エマルション組成物全量に対して、0.2重量%以上、5重量%以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の手袋の製造方法。
アクリロニトリル又はメタクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、ポリカルボジイミドと、水、及びアンモニウム化合物及びアミン化合物から選択される1以上のpH調整剤、とを少なくとも含む手袋用エマルション組成物であって、
前記エラストマーのムーニー粘度(ML(1+4)(100℃))が80以上であり、
前記エラストマーにおいて、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル由来の構造単位が20〜40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1〜10重量%、及びブタジエン由来の構造単位が50〜75重量%であり、
前記ポリカルボジイミドは、分子構造内に親水性セグメントを含むポリカルボジイミドを少なくとも1種含むものであり、
前記ポリカルボジイミドの重合度が3以上であり、カルボジイミド当量が260〜500である、
手袋用エマルション組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。なお、本明細書において「重量」と「質量」は同じ意味で用いられるので、以下、「重量」に統一して記載する。
本明細書において、「疲労耐久性」とは、手袋が、使用者(作業者)の汗により性能が劣化して破断することに対する耐性を意味する。その具体的な評価方法については後述する。
【0014】
1.手袋用エマルション組成物
本実施形態の手袋用エマルション組成物は、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル(以下、まとめて「(メタ)アクリロニトリル」とも記す。)由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマー原料(以下、「エラストマー」ともいう)と、ポリカルボジイミドと、アンモニウム化合物及びアミン化合物から選択されるpH調整剤と、水とを少なくとも含むものである。この手袋用エマルション組成物は、手袋用のディッピング液として、特に好ましく使用することができるものである。
【0015】
<エラストマー>
エラストマーは、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位を少なくとも含む。このエラストマーを、カルボキシル化(メタ)アクリロニトリルブタジエンエラストマー又は「XNBR」とも記す。
【0016】
各構造単位の比率は、手袋を製造するためにはエラストマー中に、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、すなわち(メタ)アクリロニトリル残基が20〜40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位、すなわち不飽和カルボン酸残基が1〜10重量%、及びブタジエン由来の構造単位、すなわちブタジエン残基が50〜75重量%の範囲である。
これらの構造単位の比率は、簡便には、エラストマーを製造するための使用原料の重量比率から求めることができる。
【0017】
(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位は、主にゴム手袋に強度を与える要素であり、少なすぎると強度が不十分となり、多すぎると耐薬品性は上がるが堅くなりすぎる。エラストマー中における(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の比率は、25〜30重量%であることがより好ましい。(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位の量は、ニトリル基の量を元素分析により求められる窒素原子の量から換算して求めることができる。
【0018】
ブタジエン由来の構造単位は、ゴム手袋に柔軟性を持たせる要素であり、通常50重量%を下回ると柔軟性を失う。エラストマー中におけるブタジエン由来の構造単位の比率は、58〜62重量%であることがより好ましく、60重量%程度が特に好ましい。
【0019】
不飽和カルボン酸由来の構造単位の量は、適度な架橋構造を有し最終製品であるゴム手袋の物性を維持するために、1〜10重量%であることが好ましく、1〜9重量%、及び2〜8重量%であることが、この順により好ましい。不飽和カルボン酸由来の構造単位の量は、カルボキシル基、及びカルボキシル基由来のカルボニル基を赤外分光(IR)等により定量することによって、求めることができる。
【0020】
不飽和カルボン酸由来の構造単位を形成する不飽和カルボン酸としては、特に限定はされず、モノカルボン酸でもよいし、ポリカルボン酸でもよい。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。なかでも、アクリル酸及び/又はメタクリル酸(以下「(メタ)アクリル酸」という。)が好ましく使用され、より好ましくはメタクリル酸が使用される。
ブタジエン由来の構造単位は、1,3−ブタジエン由来の構造単位であることが好ましい。
【0021】
ポリマー主鎖は、実質的に、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位からなることが好ましいが、その他の重合性モノマー由来の構造単位を含んでいてもよい。
その他の重合性モノマー由来の構造単位は、エラストマー中に30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが一層好ましい。
【0022】
好ましく使用できる重合性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;及び酢酸ビニル等が挙げられる。これらは、いずれか1種、又は複数種を組み合わせて、任意に用いることができる。
【0023】
エラストマーは、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸、1、3−ブタジエン等のブタジエン、及び必要に応じてその他の重合性モノマーを用い、定法に従い、通常用いられる乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等を使用した乳化重合によって、調製することができる。乳化重合時の水は、固形分が30〜60重量%である量で含まれることが好ましく、固形分が35〜55重量%となる量で含まれることがより好ましい。
エラストマー合成後の乳化重合液を、そのまま、手袋用エマルション組成物のエラストマー成分として用いることができる。
【0024】
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエステル、等のカチオン性界面活性剤;及び両性界面活性剤が挙げられ、好ましくは、アニオン性界面活性剤が使用される。
【0025】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等を挙げることができる。
【0026】
分子量調整剤としては、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素が挙げられ、t−ドデシルメルカプタン;n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類が好ましい。
【0027】
エラストマーのムーニー粘度(ML
(1+4)(100℃))は、アクリロニトリル由来の構造単位とブタジエン由来の構造単位の比率と並んで、手袋の引張強度に大きく影響を及ぼす因子である。本発明の実施形態にかかるポリカルボジイミド架橋手袋においては、引張強度は事実上、凝固剤であるカルシウムイオンによるイオン架橋が担っていることを発明者は実験により見出した。そして、種々のエラストマーを実験したところ、手袋の引張強度はエラストマーのムーニー粘度に比例することがわかった。
手袋として必要な引張強度である、20MPa以上にするためには、エラストマーのムーニー粘度は80以上にする必要がある。これは、後述する表1の実験例から見出したものである。
エラストマーのムーニー粘度の上限についてはムーニー粘度そのものの測定限界が220であり、ムーニー粘度が高すぎると成形加工性の問題が生じる。また、ムーニー粘度が160を超えるとポリカルボジイミド基が担っている疲労耐久性も落ちてくるという現象もみられた。したがって、エラストマーのムーニー粘度は、160以下であることが好ましい。
ムーニー粘度と引張強度の問題は一般の硫黄架橋と亜鉛架橋からなるXNBR手袋においては亜鉛の量を増やすことによって引張強度をコントロールできることから、エラストマーのムーニー粘度は考慮する必要のない要件であるが、ポリカルボジイミド架橋手袋においては引張強度を出すうえで必要な条件となる。
ムーニー粘度(ML
(1+4)(100℃))とエラストマーの分子量は相関するものであり、ポリカルボジイミド架橋手袋においては、分子量の範囲が引張強度および疲労耐久性を得るための重要な要因になっていることがムーニー粘度を計測した表1からも考えられる。
【0028】
一方、亜鉛や硫黄に比べて分子量の大きいポリカルボジイミドが、エラストマー鎖内部に侵入しやすくするためには、エラストマー鎖の分岐が少なく、直鎖状であることが望ましい。
XNBRの分岐は、重合温度が高いと増加することが知られており、重合温度の低いコールドラバー(重合温度5〜25℃)の方がホットラバー(重合温度25〜50℃)に比べ好ましい。
このことは、表1の実験例1において、XNBRのムーニー粘度が111と高く、MEK不溶解分が10重量%以下と低く、枝分かれの少ないエラストマーが高い引張強度である38MPaを示していることからも考えられる。
【0029】
また、このエラストマーにおいて、燃焼ガスの中和滴定法により検出される硫黄元素の含有量は、エラストマー重量の1重量%以下であることが好ましい。
定量は、XNBR試料0.01gを空気中、1350℃で10〜12分間燃焼させて発生する燃焼ガスを、混合指示薬を加えた過酸化水素水に吸収させ、0.01NのNaOH水溶液で中和滴定する方法により行うことができる。
【0030】
手袋用エマルション組成物には、複数種のエラストマーを組み合わせて使用してもよい。
手袋用エマルション組成物中のエラストマーの含有率は、特に限定されないが、エラストマー含量が15〜35重量%程度であることが好ましく、18〜30重量%であることがより好ましい。
【0031】
<ポリカルボジイミド>
ポリカルボジイミドは、分子内に2個以上のカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物)である。従来の架橋剤は、架橋剤1分子で二つのカルボキシル基間を架橋する、二点架橋であったのに対し、ポリカルボジイミドは、架橋剤1分子で3以上のカルボキシル基間を架橋する、多点架橋ができることが特徴であり、これにより、エラストマー分子間の架橋が多くなって、他の二点架橋の手袋に比較して、圧倒的な疲労耐久性をもたらしていると考えられる。より良好な疲労耐久性を得るために、ポリカルボジイミドは、分子中に3個以上のカルボジイミド基を含むものであることが好ましく、1分子中に含まれるカルボジイミド基の数の上限値は、特に限定されない。ポリカルボジイミドを「ポリカルボジイミド樹脂」と呼ぶ場合もある。
分子中のカルボジイミド基の数とともに、ポリカルボジイミドの分子中に含まれるカルボジイミド基の数を「ポリカルボジイミドの重合度」で表すことができる。その重合度は、エラストマーの多点架橋を行わせ、手袋の良好な疲労耐久性を得る観点から、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、9以上であることが特に好ましい。
ポリカルボジイミドの重合度は、ポリカルボジイミドの数平均分子量をカルボジイミド当量で除した値である。
ここで、カルボジイミド当量についても、手袋の疲労耐久性を高める観点から、260〜500の範囲のものを用いる。
カルボジイミド当量は、シュウ酸を用いた逆滴定法により定量されたカルボジイミド基濃度から次式(I)で算出される値である。
カルボジイミド当量=カルボジイミド基の式数(40)×100/カルボジイミド基濃度(%) (I)
【0032】
さらに詳しくは、ポリカルボジイミドとしては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には従来のポリカルボジイミドの製造方法(米国特許第2941956号明細書、又は特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.,28,2069〜2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81,No.4,619〜621参照)に記載の方法によるものを用いることができる。具体的には、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応により、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成することにより、製造することができる。
【0033】
上記方法において、ポリカルボジイミドの合成原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又はこれらの混合物が使用できる。具体的には1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが例示される。耐候性の観点より、脂肪族または脂環族ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応により生成するポリカルボジイミドを配合することが好適である。
【0034】
上記有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応は、カルボジイミド化触媒の存在下に進行する。この触媒としては、例えば1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、又はこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシドなどを使用することができ、なかでも、反応性の面から3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドが好適である。なお、上記触媒の使用量は触媒量とすることができる。
【0035】
また、上記ポリカルボジイミドは、モノイソシアネート等の末端イソシアネートと反応する化合物を用いて、分子を適当な重合度に制御して使用しても差し支えない。ポリカルボジイミドの末端を封止してその重合度を制御するためのモノイソシアネートとしては、例えばフェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等の炭素数が1〜18の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を有するモノイソシアネート類等が挙げられる。また、この他にも末端封止剤として−OH、−NH、−COOH、−SH基を有する化合物を使用することができる。
【0036】
上記の分子量制御の為に使用する末端イソシアネートと反応する化合物は、ポリカルボジイミドのカルボジイミド化反応前、カルボジイミド化反応中、カルボジイミド化反応後のいずれのタイミングでも添加することができる。
【0037】
上記したポリカルボジイミドは、上記XNBRへの配合時に均一な分散状態に保たれることが望ましく、このために適切な乳化剤を用いて乳化加工して、乳濁液として使用することができる。
【0038】
この場合、ポリカルボジイミドを乳化して乳濁液とするための乳化剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等の乳化剤を使用できるが、アニオン性を有する上記XNBRとの配合においては、非イオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が好適である。
【0039】
また、上記ポリカルボジイミドの分子構造内に親水性のセグメントを付加して、自己乳化物の形態で、あるいは自己溶解物の形態のものを、本発明の実施形態では少なくとも1種以上を使用する。
親水性セグメントは、水中でポリカルボジイミド部を取り囲むシェルとしての機能を果たし、手袋用エマルション組成物中でカルボジイミド基を保護し、水と反応することを防ぐ。
乾燥して水がなくなると親水性セグメントが開いてカルボジイミド基が現れるので、ポリカルボジイミドは加熱乾燥工程において、エラストマーと架橋反応を起こせるようになる。全てのポリカルボジイミド化合物が親水性セグメントを持つ必要はなく、親水性セグメントのないものとの混合物でもよい。この場合、親水性セグメントを持つポリカルボジイミド化合物が、親水性セグメントを持たないポリカルボジイミドを取り囲む構造になり、水中でより安定化される。
【0040】
この自己乳化型又は自己溶解型ポリカルボジイミドは、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成した後、更にイソシアネート基との反応性を有する官能基を持つ親水性セグメントを付加することにより製造することができる。
【0041】
上記親水性セグメントとしては、下記化合物(1)〜(4)が例示される。
(1)(R
1)
2−N−R
2−OH
式中、R
1は低級アルキル基、R
2は炭素数1〜10のアルキレン、ポリアルキレン又はオキシアルキレン基である。低級アルキル基の炭素数は6以下であることが好ましく、入手性の観点から4以下であることが好ましい。上記(1)で示されるジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩を使用することができ、特に、2−ジメチルアミノエタノールの四級塩が好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、カチオンタイプとなる。
【0042】
(2)(R
1)
2−N−R
2−NH
2
式中、R
1とR
2は上記と同様である。上記式(2)で示されるジアルキルアミノアルキルアミンの四級アンモニウム塩を使用することができ、特に、3−ジメチルアミノ−n−プロピルアミンの四級塩が好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、カチオンタイプとなる。
【0043】
(3)HO−R
3−SO
3R
4
式中、R
3は炭素数1〜10のアルキレン基、R
4はアルカリ金属である。上記式(3)で示される、反応性ヒドロキシル基を少なくとも1個有するアルキルスルホン酸塩を使用することができ、特に、ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムが好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、アニオンタイプとなる。
【0044】
(4)R
5−O−(CH
2−CHR
6−O−)
m−H
式中、R
5は炭素数1〜4のアルキル基、R
6は水素原子又はメチル基であり、mは4〜30の整数である。
上記式(4)で示される、アルコキシ基で末端封鎖されたポリ(エチレンオキサイド)又はポリ(エチレンオキサイド)とポリ(プロピレンオキサイド)との混合物を使用することができ、特に、メトキシ基又はエトキシ基で末端封鎖されたポリ(エチレンオキサイド)が好適である。この場合、ポリカルボジイミドのイオン性は、ノニオンタイプとなる。
【0045】
上記した自己乳化型又は自己溶解型ポリカルボジイミドは、上記親水性セグメント(1)〜(4)のいずれかを単独で、又はこれらの複数種を併用してもよく、自己乳化性又は自己溶解性を損なわない範囲で、−OH、−NH、−COOH、−SH基を有する疎水性セグメントを併用することもできる。
【0046】
本実施形態の手袋用エマルション組成物は、水を溶媒とするO/W型であるため、上記の親水性セグメントを有する自己乳化型又は自己溶解型ポリカルボジイミドを用いることにより、カルボジイミド化合物がエマルション組成物中で安定に存在することができる。これは、反応性のカルボジイミド基又はカルボジイミド構造単位が末端の親水性基に保護された構造となっているためであり、手袋用エマルション組成物中の水を乾燥により除去することで、カルボジイミド基が現れて、エラストマーとの架橋反応が行われると考えられる。
【0047】
また、水中分散性の観点から、ポリカルボジイミドの分子量(GPC法により測定される数平均分子量)は、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、5000以下であることが好ましく、4000以下であることがより好ましい。
【0048】
数平均分子量の測定は、GPC法(ポリスチレン換算により算出)により次のように行うことができる。
RI検出器:RID−6A(島津製作所製)
カラム:KF−806、KF−804L、KF−804L(昭和電工株式会社製)
展開溶媒:THF 1ml/min.
【0049】
カルボジイミド基濃度の測定は、次の測定により定量することができる。
平沼自動滴定装置COM−1700A(平沼産業(株)製)を使用し、ポリカルボジイミド化合物[B]gに既知濃度のシュウ酸/ジオキサン溶液を規定量加え、テトラヒドロフラン中で十分に反応させたのち水酸化ナトリウム水溶液での電位差滴定により未反応のシュウ酸の量を求め、ポリカルボジイミド化合物中のカルボジイミド基と反応したシュウ酸のモル量bを算出し、この値からポリカルボジイミド化合物1g中に含まれるカルボジイミド基のモル量n=b/Bを算出、さらに、下記式(II)よりポリカルボジイミド化合物のカルボジイミド基濃度A(%)を求めた。
A=40×n×100 (II)
【0050】
手袋用エマルション組成物に使用するポリカルボジイミドは、親水性セグメントを含むポリカルボジイミドを少なくとも1種含むことが好ましく、複数種のポリカルボジイミドを組み合わせて使用してもよい。例えば、親水性セグメントを含むポリカルボジイミドに親水性セグメントを含まないポリカルボジイミドを組み合わせて使用してもよい。
【0051】
ポリカルボジイミドの含有量は、エラストマー間に充分な架橋構造を導入して疲労耐久性を確保する観点から、1分子中に含まれるカルボジイミド構造単位の数にも依るが一般的には、手袋用エマルション組成物中に0.2重量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましい。一方、含有量が過剰量となると、かえってエラストマーの特性を低下させる恐れがあることから、ポリカルボジイミドの手袋用エマルション組成物中の含有量は、5重量%以下であることが好ましく、実用上は3重量%程度であれば従来手袋に比較し圧倒的な疲労耐久性を手袋に持たせることができる。
なお、ポリカルボジイミド中のカルボジイミド基の全てがカルボキシル基との架橋反応に関与することはなく、立体障害等の影響もあり、その一部が架橋するものと考えられる。
【0052】
<pH調整剤>
手袋用エマルション組成物のpH調整剤としては、アンモニア、水酸化アンモニウム等のアンモニウム化合物、及び/又は、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリエチレンテトラミン、アミノエチルアミノエタノール等のアミン化合物を用いる。pH調整剤の使用量は、通常、手袋用エマルション組成物中の固形分100重量部に対し0.1〜2.0重量部程度である。
手袋用エマルション組成物は、pH調整剤によりpH調整されている。すなわち、手袋用エマルション組成物のpHは、後述するカルボキシル基間の凝固剤のカルシウムイオンによる架橋とポリカルボジイミドによる架橋の双方を円滑に進行させるために、9以上であり、9.5以上であることがより好ましく、10以上であることが一層好ましい。一方、手袋用エマルション組成物のpHは、調整が容易であるとの観点から11.5以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましい。
ポリカルボジイミド架橋手袋においては、後述するようにpH調整剤としてアンモニウム化合物又はアミン化合物を用いることは必須の条件である。
【0053】
<保湿剤>
手袋用エマルション組成物は、保湿剤を含んでいることが好ましい。保湿剤が手袋用エマルション組成物に含まれていると、後述するディッピング成形時に、最終の加熱工程(プリキュア工程)よりも前の乾燥工程の段階で、乾燥が進みすぎることによりポリカルボジイミドの親水性セグメントが開いてしまうということを防ぐことができる。
保湿剤としては、ポリオールを挙げることができ、その中でも2価または3価の化合物を用いることが好ましい。具体的には、2価のものとしてエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。3価のものとしてグリセリンを挙げることができる。これらの中でも、グリセリンを保湿剤として含むことが好ましい。
保湿剤の使用量は、手袋用エマルション組成物中のエラストマー(又は手袋用エマルション組成物の固形分)100重量部に対し1.0〜5.0重量部程度である態様をあげることができ、1.5〜3.0重量部であることがより好ましい。
【0054】
<その他の成分>
手袋用エマルション組成物は、上記の必須成分と水を少なくとも含むものであり、それ以外にも、通常は、その他の任意成分を含んでいる。なお、得られる手袋の架橋構造が、ポリカルボジイミド及び凝固剤に起因するカルシウムイオン形成される架橋構造のみから構成されるように手袋用エマルション組成物を調製する態様を挙げることができる。
【0055】
手袋用エマルション組成物は、さらに、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、アニオン界面活性剤が好ましく、例えば、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ポリリン酸エステル、高分子化アルキルアリールスルホネート、高分子化スルホン化ナフタレン、高分子化ナフタレン/ホルムアルデヒド縮合重合体等が挙げられ、好ましくはスルホン酸塩が使用される。
【0056】
分散剤には市販品を使用することができる。例えば、TamolNN9104などを用いることができる。その使用量は、手袋用エマルション組成物中のエラストマー(又は手袋用エマルション組成物の固形分)100重量部に対し0.5〜2.0重量部程度であることが好ましい。
【0057】
手袋用エマルション組成物は、さらにその他の各種の添加剤を含むことができる。該添加剤としては、酸化防止剤、顔料、キレート剤等が挙げられる。酸化防止剤として、ヒンダードフェノールタイプの酸化防止剤、例えば、WingstayLを用いることができる。また、顔料としては、例えば二酸化チタンが使用される。キレート化剤としては、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等を使用することができる。
【0058】
本実施形態の手袋用エマルション組成物は、XNBR、ポリカルボジイミド、pH調整剤、必要に応じて保湿剤、分散剤、酸化防止剤等の各添加剤、及び水を、慣用の混合手段、例えば、ミキサー等で混合して作ることができる。
【0059】
2.手袋の製造方法
本実施形態の手袋は、以下の製造方法により好ましく製造することができる。
以下の工程順序は、一般の硫黄加硫および亜鉛架橋のXNBR手袋と基本的には同じであるが、その内容は大きく異なる。これは、ポリカルボジイミドが水と反応しやすく、エラストマーのカルボキシル基をカルシウムイオンとカルボジイミド基で分け合う形で架橋を形成し、それぞれの特徴である引張強度と疲労耐久性に優れる長所をミックスさせる必要があったからである。そのため、手袋用エマルション組成物に含有させるXNBR、ポリカルボジイミド、pH調整剤についても特定の条件を必要とした。製造方法においても、ゲリング工程に代表されるように従来とは全く異なった条件を必要とした。
すなわち、
(1)手袋成形型を、カルシウムイオンを含む凝固剤液中に浸して、該凝固剤を手袋成形型に付着させる工程、
(2)アンモニウム化合物又はアミン化合物によりpH9以上に調整し、以下の組成を有する手袋用エマルション組成物を撹拌しながら放置する工程、
(3)前記(1)の凝固剤が付着した手袋成形型を、当該手袋用エマルション組成物に浸漬するディッピング工程、
(4)前記手袋用エマルション組成物が付着した手袋成形型を、以下の条件を満たす温度と時間で放置するゲリング工程、
条件:凝固剤中に含まれるカルシウムイオンが、手袋用エマルション組成物に含まれるエラストマー中に浸潤してゲル化を起こし、手袋用エマルション組成物に含まれるエラストマーのアンモニウム塩がカルボキシル基に戻らず、ポリカルボジイミドの親水性セグメントが開かない温度と時間
(5)手袋成形型上に形成された硬化フィルム前駆体から不純物を除去するリーチング工程、
(6)前記リーチング工程の後に、手袋の袖口部分に巻きを作るビーディング工程、
(7)ビーディング工程を経た硬化フィルム前駆体を加熱及び乾燥するプリキュア工程、
(8)硬化フィルム前駆体を、エラストマーのアンモニウム塩がカルボキシル基に戻るとともに、ポリカルボジイミドのカルボジイミド基が現れ、エラストマーのカルボキシル基とカルボジイミド基とが反応するのに十分な温度と時間で加熱して硬化フィルムを得るキュアリング工程、
を含み、上記(3)〜(8)の工程を上記の順序で行う手袋の製造方法であって、
手袋用エマルション組成物が、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーと、ポリカルボジイミドと、水と、アンモニウム化合物及びアミン化合物から選択されるpH調整剤と、を少なくとも含む手袋用エマルション組成物であって、
前記エラストマーのムーニー粘度(ML
(1+4)(100℃))が80以上であり、
前記エラストマーにおいて、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル由来の構造単位が20〜40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1〜10重量%、及びブタジエン由来の構造単位が50〜75重量%であり、
前記ポリカルボジイミドは、分子構造内に親水性セグメントを含むポリカルボジイミドを少なくとも1種含むものである、手袋の製造方法である。
【0060】
なお、本明細書において、硬化フィルム前駆体とは、エラストマーのカルボキシル基、ポリカルボジイミドの親水性セグメントが維持されており、カルボジイミド基が露出していない状態であり、エラストマーのカルボキシル基と、カルボジイミド基が架橋していないものである。また、硬化フィルム前駆体は、凝固剤に含まれていたカルシウムイオンと、エラストマーのカルボキシル基の一部とが反応している状態のものである。
【0061】
凝固剤としては、カルシウムの硝酸塩又は塩酸塩が例示される。なかでも、硝酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0062】
好ましい一実施形態では、より詳細には次のようにして手袋を製造することができる。
(a)モールド又はフォーマ(手袋成形型)を、凝固剤及びゲル化剤としてCa
2+イオンを5〜40重量%、好ましくは8〜35重量%含む凝固剤溶液中に浸す工程。ここで、モールド又はフォーマの表面に凝固剤等を付着させる時間は適宜定められ、通常、10〜20秒間程度である。凝固剤溶液としては、例えば硝酸カルシウム、塩化カルシウム等の凝固剤、又はエラストマーを析出させる効果を有する無機塩等の凝集剤を、5〜40重量%含む水溶液が使用される。また、凝固剤液は、離型剤として、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、鉱油、又はエステル系油等を0.5〜2重量%程度、例えば1重量%程度含むことが好ましい。
(b)凝固剤が付着したモールド又はフォーマを、50〜70℃で乾燥させて、表面全体又は一部を乾燥する工程。
【0063】
(c)アンモニウム化合物又はアミン化合物によりpH9以上に調整し、手袋用エマルション組成物を攪拌しながら5時間以上放置する工程。このことは熟成ともいう。この熟成を行わせることで、手袋用エマルション組成物が不均一になることを防ぐことができ、得られる手袋の均一な仕上がりに寄与する。
また、この熟成については、5時間以上行うことを挙げることができ、24時間以上行うことが好ましい。
(d)前記工程(b)で乾燥した後のモールド又はフォーマを、上記の手袋用エマルション組成物中に、例えば、1〜60秒間、25〜35℃の温度条件下に浸す工程であり、凝固剤が付着したモールド又はフォーマに、手袋用エマルション組成物を付着させるディッピング工程である。このディッピング工程では、凝固剤に含まれるカルシウムイオンにより、エマルション組成物におけるエラストマーをモールドまたはフォーマの表面に凝集させて膜を形成させる。このとき、ポリカルボジイミドのカルボジイミド基は親水性セグメントで保護されている状態である。
上述のとおり、手袋用エマルション組成物は、アンモニア、アミン化合物等のpH調整剤によりpHが9以上に調整されている。これにより、手袋用エマルション組成物に含まれるエラストマーのカルボキシル基がアンモニウム塩(−COO
−NH
4+)やアミン塩(−COO
−NR
3+)を形成する。アミン塩のRは、pH調整剤として用いるアミン化合物の有機基である。
【0064】
また、本発明の実施形態では、上記の手袋用エマルション組成物に、保湿剤を含有させてもよい。保湿剤を含有させると、最終工程であるキュアリング工程の前工程において、乾燥によりポリカルボジイミドの親水性セグメントが開き、架橋の前に失活してしまうことを防げる。また、ある程度の厳しい乾燥条件下でも、手袋用エマルション組成物が付着したモールド又はフォーマが必要以上に乾燥することを防ぐことができ、ポリカルボジイミドとエラストマーとの最終架橋前の無用な架橋反応が起こらなくなる。
保湿剤としては、上記エマルション組成物の説明の箇所に記載したものを使用することができる。
【0065】
(e)前記工程(d)で手袋用エマルション組成物が付着したモールド又はフォーマを、以下で例示する条件で放置することで、後のリーチング工程でエラストマーが溶出しないようするゲリング工程。このゲリング工程を行わせることで、モールド又はフォーマの表面に集まっているだけであった手袋用エマルション組成物に含まれるエラストマーにおいて、凝固剤に含まれるカルシウムイオンがそのエラストマー中に浸潤して架橋構造が形成されることで、後のリーチング工程でエラストマーが溶出しなくなる。
【0066】
本発明の手袋の製造方法の実施形態に含ませるゲリング工程については、従来から知られている、エラストマーとの架橋を酸化亜鉛や硫黄を介して行わせている手袋の製造方法で行われるゲリング工程とは全く異なる条件で行わせるものである。具体的には、80〜120℃という温度で加熱及び乾燥させることで、まず亜鉛とエラストマーとの架橋を行わせ、リーチングにより不純物を除去した後に、さらに加熱を行い、エラストマーに含まれる、例えばジエンと硫黄との間で反応を行わせて手袋を得るというのが従来技術である。従来の手袋の製造工程では、亜鉛とエラストマーとの間での架橋が進みすぎても、後のジエンと硫黄との間での架橋反応には影響を及ぼさないので、80〜120℃という高温で長時間ゲリングを行わせても問題は起こらなかった。
【0067】
これに対して、本発明の実施形態にかかる手袋の製造方法では、ゲリング工程により、凝固剤のカルシウムイオンとエラストマーのカルボキシル基とを反応させることで、エマルション組成物のゲル化を行わせるものであるが、その条件は以下で述べるようにいくつかの制約がある。
ゲリングの際に、例えば凝固剤として硝酸カルシウムを用いる場合、凝固剤に含まれているカルシウムイオンが、例えばアンモニアでpH調整する場合、エマルション組成物に含まれるエラストマーの(−COO
−NH
4+)と反応し、((−COO
−)
2Ca
2+)という構造(以下、(A)ともいう)と、硝酸アンモニウムが生成する。この工程では、エラストマーに含まれる一部の(−COO
−NH
4+)はそのままアンモニウム塩のまま残る(以下、(B)ともいう)。なお、アミン化合物を用いてpH調整を行う場合、凝固剤のカルシウムイオンは、エラストマーのアミン塩(−COO
−NR
3+)と反応する。pH調整剤としてアンモニア及びアミン化合物の両方を用いる場合は、凝固剤のカルシウムイオンは、エラストマーのアンモニウム塩(−COO
−NH
4+)とアミン塩(−COO
−NR
3+)の両方と反応する。
本発明の実施形態の手袋では、後述するように、エラストマーのカルボキシル基と、凝固剤に起因するカルシウムとの結合(上記(A))の他に、上記(B)とポリカルボジイミドのカルボジイミド基とが反応することで形成される架橋構造をも含む。
ゲリング工程において、エラストマーの(−COO
−NH
4+)及び/又は(−COO
−NR
3+)とカルシウムイオンとの反応が進みすぎると、エラストマーにおける(B)の割合が少なくなりすぎてしまい、ポリカルボジイミドのカルボジイミド基と反応することで形成される架橋構造が、得られる手袋において少なくなってしまうので、そうならないようにする必要がある。
一方で、エラストマーにおける((−COO
−)
2Ca
2+)という構造(A)は、後のリーチング工程において、エラストマーが溶解せず、硬化フィルム前駆体として残存するために必要な構造である。
したがって、ゲリングは、得られる手袋の膜厚等を考慮しながら適宜条件を設定しつつ、((−COO
−)
2Ca
2+)を生成させる反応を確実に起させる一方で、その反応が進みすぎないように調整することが好ましい。
ゲリング工程の条件の振り方によっては、エラストマーにおける(A)と(B)の割合が異なってくる。
エラストマーにおける、上記(A)の結合の数は、手袋の引張強度に影響を与え、エラストマーにおける(B)とカルボジイミド基との反応により形成される結合の数は、疲労耐久性に影響を与える。
したがって、ゲリング工程の条件によっては、最終目的物である手袋の引張強度と疲労耐久性に大きな影響を与えることになる。
【0068】
上記を踏まえ、本発明の実施形態にかかる手袋の製造方法におけるゲリング工程の条件としては、以下の条件を満たすことが要求される。
(1)凝固剤のカルシウムと、エラストマーのカルボキシル基のアンモニウム塩及び/又はアミン塩とが、適度に反応して結合すること。ゲリングを進めすぎると、エラストマーに残存するカルボキシル基のアンモニウム塩が少なくなりすぎてしまい、カルボジイミド基と結合するためのカルボキシル基が不足してしまうからである。
(2)エマルション組成物に含まれるエラストマーのカルボキシル基のアンモニウム塩(−COO
−NH
4+)及び/又はアミン塩(−COO
−NR
3+)が、カルボキシル基(−COOH)に変化するような高温にはしないこと。本発明の実施形態にかかる手袋用エマルション組成物は、アンモニア化合物及び/又はアミン化合物でpHが調整されており、エラストマーのカルボキシル基はアンモニウム塩(−COO
−NH
4+)及び/又はアミン塩(−COO
−NR
3+)を形成している。そして、これが後のキュアリング工程で(−COOH)に戻ることでカルボジイミド基と反応を起こす。そのため、ゲリング工程で過度に高温にすると、キュアリング工程で行わせるべき反応が、ゲリング工程で起こってしまうからである。
(3)ポリカルボジイミドが有する親水性セグメントが開いてしまうような乾燥を行わせないこと。本発明の実施形態にかかる手袋の製造方法では、エマルション組成物に含まれるポリカルボジイミドは親水性セグメントを有する。後述するキュアリング工程において乾燥が行われることで、この親水性セグメントが開いてカルボジイミド基が露出し、上記(2)で説明した(−COOH)と反応が起こって架橋を形成する。そのため、ゲリング工程において、ポリカルボジイミドの親水性セグメントが開いてしまうような、過度の乾燥は避けなければならない。
【0069】
上記を踏まえ、本発明の実施形態におけるゲリング工程の条件としては、以下の態様を挙げることができる。
手袋用エマルション組成物に保湿剤を含有させない場合、ゲリング工程の条件としては、室温(15〜25℃、より具体的には23℃)で20秒〜20分放置する態様を挙げることができ、30秒〜10分放置する態様を好ましく挙げることができる。また、50〜70℃の場合は20秒以上、3分未満放置する態様を挙げることができ、30秒〜2分放置する態様を挙げることもできる。
手袋用エマルション組成物に保湿剤を含有させる場合、ゲリング工程の条件としては、上記の保湿剤を含有させない場合と同じ条件を適用することができ、さらに、50〜70℃で20分未満放置するという態様も挙げることができる。
ここで、ゲリング工程において「放置する」とは、手袋用エマルション組成物が付着したモールド又はフォーマに対して、何らかの物質を添加したりするなどの操作を行わないという意味であり、静置している状態の他に、通常の工場において静置せずに製造ライン上をモールド又はフォーマが移動している状態も含むものである。
上記のいずれの条件についても、基本的には、手袋の製造時の周囲温度(室温)で放置する、つまり加熱は行わない条件下で行うことが好ましい。手袋の製造については、その工場の立地条件により、周囲温度(室温)が23℃前後であったり、50℃程度になったりすることがある。上記で挙げた温度の範囲は、そのような工場の立地条件を考慮したものであり、例えば50℃前後で放置するといっても、その温度にまで加熱して温度を上昇させるということは基本的には想定されない。
なお、上記のゲリング工程は、40〜60%RHの条件下で行わせる態様を挙げることができる。
【0070】
(f)上記のゲリング工程の後、エラストマーが付着したモールド又はフォーマを水洗して、薬剤を除去するリーチング工程。ここで、部分的に乾燥させたエラストマーでコーティングされたモールド又はフォーマを、熱水又は温水(30〜70℃)中で90秒〜10分間、好ましくは4〜6分程度、水洗(リーチング)する。
このリーチングを行わせることで、カルシウムイオン及び硝酸イオン等の凝固剤に起因する成分や、アンモニウムイオン等のpH調整剤に起因する成分を除去する。これにより、過剰なゲリングを抑止できる。このリーチングを行ったときに、エラストマーにおける(A)と(B)の比が決まる。
【0071】
(g)前記工程(f)で水洗(リーチング)したモールド又はフォーマを、80〜120℃で炉内乾燥する工程。リーチング工程が終了した後にビーディング(袖巻き加工)工程を実施する。その後、前記モールド又はフォーマを、60〜80℃、より好ましくは65〜75℃で、30秒〜3分間、炉内乾燥する。この(g)工程が存在することで、後の(h)工程において急激に水分が減少することにより生じうる手袋の部分的な膨張を防ぐことができる。
【0072】
(h)前記工程(g)で乾燥した後のモールド又はフォーマを、エラストマーのアンモニウム塩が高温によりカルボキシル基に戻るとともに、ポリカルボジイミドのカルボジイミド基が露出し、エラストマーのカルボキシル基とポリカルボジイミドのカルボジイミド基とが反応するのに十分な温度と時間で加熱するキュアリング工程。
より具体的には、例えば120℃〜150℃、20〜30分間加熱して、エラストマーを架橋硬化する工程である。
この工程(h)において、ポリカルボジイミドによるエラストマーの架橋が行われ、これにより分子鎖が形成されて、手袋に対し好ましい各種特性を与えることができる。すなわち、エラストマーのカルボキシル基の一部は、水中においてアンモニウム塩(−COO
−NH
4+)及び/又はアミン塩(−COO
−NR
3+)を形成しているが、乾燥により脱水が進むと、カルボキシル基(COOH)に戻って、カルボジイミド基と反応すると考えられる。
【0073】
本発明者らの検討によれば、上記のとおり、pH調整剤がアンモニウム化合物又はアミン化合物であれば、加熱によりアンモニウム成分又はアミン成分がカルボン酸塩から離脱してカルボキシル基を生じることができるのに対し、pH調整剤が一般に用いられている水酸化カリウムであると、カルボン酸塩(−COO
−K
+)のまま安定に存在してしまい、カルボキシル基に戻らないので、カルボジイミド基との反応が阻害されるとの問題がある。
【0074】
さらに、本発明者らは、カルボジイミド基はもともと、酸性〜中性下において最も反応性が高い官能基であるが、XNBRに対しては酸性〜中性下では、得られる硬化フィルムには未反応のカルボン酸が存在し、その結果、吸湿性が高くべたついた状態となり、引張強度も不十分なものとなってしまうことを見いだした。したがって、本実施形態ではアルカリ条件下で反応させることとした。
【0075】
本発明者らの検討によると、エラストマー中の全てのカルボキシル基をカルボジイミド基と反応させることはできず、ポリカルボジイミドの使用量を増加させても、一般的な手袋製造方法の場合、カルボジイミド基と反応するのはエラストマー中のカルボキシル基の半分程度に留まり、通常は、例えば20〜40%程度、多くの場合は25〜30%程度であることが判明している。そのため、本実施形態の製造方法においては、凝固剤成分であるカルシウムイオンによる架橋も、手袋の特性、特に引張強度等の強度を向上させるために非常に重要な構成となる。ただし、カルシウムイオンによる架橋のみでは十分な特性を確保することはできず、そのため、架橋構造の形成に関与するムーニー粘度が一定以上であるエラストマーを用いることも重要な要素となっている。
【0076】
例えば、全カルボキシル基の1〜4割程度、又は2〜3割程度をポリカルボジイミドによる共有結合で架橋し、残りのカルボキシル基の少なくとも一部はカルシウムイオンによるイオン結合で架橋される。これにより、フリーのカルボキシル基量を減少させて、引張強度を高めることができる。
【0077】
本発明者らの検討によると、疲労耐久性試験(試験方法は後述)を行うと、従来のXNBR手袋では約3〜4時間で破れてしまうのに対し、本実施形態の製造方法によれば、驚くべきことに、疲労耐久性試験において6時間を超えても破れない手袋を提供することができ、さらには25時間を超えても破れない手袋も提供できる。なお、本発明者らは、カルボキシル基の架橋をポリカルボジイミド以外の反応性有機化合物、例えばジヒドラジド化合物、エチレンジアミン等でも行ってみたが、本実施形態で得られるような手袋の疲労耐久性を実現することはできなかった。
【0078】
3.手袋
本実施形態の手袋は、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含み、ムーニー粘度(ML
(1+4)(100℃))が80以上のエラストマーの硬化フィルムからなる手袋であって、該硬化フィルムは、ポリカルボジイミド及びカルシウムイオンにより形成された架橋構造を含むことを特徴とする。なお、該硬化フィルムに含まれる架橋構造は、ポリカルボジイミド及びカルシウムイオンから形成される架橋構造のみである態様を挙げることができる。
この手袋は、好ましくは、上述の本実施形態の手袋用エマルション組成物を用いて製造することができる。エラストマーは、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位が20〜40重量%、不飽和カルボン酸由来の構造単位が1〜10重量%、及びブタジエン由来の構造単位が50〜75重量%であることが好ましい。
【0079】
別の実施形態において、手袋は、(メタ)アクリロニトリル由来の構造単位、不飽和カルボン酸由来の構造単位、及びブタジエン由来の構造単位をポリマー主鎖に含むエラストマーの硬化フィルムであって、その疲労耐久性が400分以上である硬化フィルムからなるものであることが好ましい。硬化フィルムの疲労耐久性は、500分以上あることが一層好ましい。
【0080】
ここで、疲労耐久性は、長さ120mmで厚み0.07mmのJIS K6251の1号ダンベル試験片を硬化フィルムから作成し、その下部を固定して長さ60mmまで人工汗液に浸漬した状態で試験片の上部を引張り、長さ方向に最大195mm、最小147mmの間で、伸長と緩和を繰り返して、試験片が破れるまでの時間で示されるものである。伸長(195mm)と緩和(147mm)は、緩和状態で11秒間保持したのち、1.5秒間で195mmに伸長させて147mmに戻す、というサイクル(1サイクル12.5秒)を繰り返すことにより行うことができる。
【0081】
より詳細には、ゴム製品の引張試験等を実施する場合と同様にダンベル形状の試験片を用いて、
図1に示すような装置を用いて疲労耐久性試験を行うことができる。
図1(a)に示すとおり、試験片の下端部をクランプで固定して、60mmまでを人工汗液に浸漬する。試験片の上端部を挟み、空気圧ピストンを用いて
図1(b)の緩和状態→
図1(c)の伸長状態→
図1(b)の緩和状態となるように上下に伸縮させ、この
図1(b)→
図1(c)→
図1(b)の伸び縮みを1サイクルとして、破れるまでのサイクル数と時間を測定することにより評価する。試験片が破れると、光電センサーが反応して装置が止まる仕組みになっている。
【0082】
人工汗液としては、1リットル中に塩化ナトリウム20g、塩化アンモニウム17.5g、乳酸17.05g、酢酸5.01gを含み、水酸化ナトリウムでpHを4.7に調整した水溶液を用いることができる。
【0083】
また、手袋は、20MPa以上の引張強度を有する硬化フィルムからなるものであることが好ましく、25MPa以上の引張強度を有する硬化フィルムからなることがより好ましい。
さらに手袋は、400%〜750%の破断時伸び、より好ましくは400%〜700%又は400%〜650%の破断時伸び、1.5MPa〜10MPaの100%モジュラス(伸び100%における引張応力)、より好ましくは2MPa〜10MPaの100%モジュラス、を有することが好ましい。ここで、100%モジュラスは、手袋の硬さ(剛性)の指標値として用いられる特性である。
【0084】
手袋は、アレルギーリスクを抑えるために、架橋剤である硫黄及び加硫促進剤である硫黄化合物を、どちらも含まないことが好ましく、燃焼ガスの中和滴定法により検出される硫黄元素の含有量が、手袋重量の1重量%以下であることが好ましい。
【0085】
本実施形態の手袋は、疲労耐久性に優れることを大きな特徴とする。この疲労耐久性が400分以上であれば、ほぼ終日の着用が可能であるために好ましく、従来品よりも格段に耐久性の高い手袋であることを示している。
【0086】
本実施形態の手袋は、薄手の手袋としても充分な機械的特性(強度と剛性)を有するものである。そこで、手袋の厚みは、特に限定はされないが、0.04〜0.35mmであることが好ましく、0.04〜0.3mmであることがさらに好ましい。
本実施形態の手袋は、薄手の手袋とする場合には、0.04〜0.15mmとすることが好ましく、厚手の手袋とする場合には0.15mm超〜0.4mmとすることが好ましい。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「重量%」であり、「部」は「重量部」である。
【0088】
<ポリカルボジイミド架橋剤の製造>
(1)ポリカルボジイミド乳濁液(架橋剤A)の製造
(ポリカルボジイミドAの合成)
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート800gとカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)4gとを、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下190℃で17時間反応させ、イソシアネート末端4,4’−ジシクロヘキシルメタンポリカルボジイミド(重合度=6)を得た。
【0089】
その後、反応容器を120℃まで放冷し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量500)435gを加え、さらに同じ温度で撹拌しながら1時間反応させ、再び150℃まで加温し、さらに撹拌しながら5時間反応させた後、赤外吸収(IR)スペクトル測定により波長2200〜2300cm
−1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認して、反応容器から取り出し、室温まで冷却し淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミドAを得た。
【0090】
(ポリカルボジイミドBの合成)
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート800gとシクロヘキシルイソシアネート153gとカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)10gとを、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下180℃で56時間反応させた。
赤外吸収(IR)スペクトル測定により波長2200〜2300cm
−1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認して、反応容器から取り出し、室温まで冷却し、淡黄色透明な液体状のポリカルボジイミドBを得た。
【0091】
(ポリカルボジイミド乳濁液の調製)
ポリカルボジイミドA40gとポリカルボジイミドB60gを、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下150℃で4時間撹拌後、約80℃まで冷却し、界面活性剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(有効成分16%)18.8gと、水を投入して、固形分43%の乳白色ポリカルボジイミド乳濁液(架橋剤A)を得た。
カルボジイミド当量(カルボジイミド基1モルあたりの化学式量;ポリカルボジイミドの分子量/1分子中に含まれるカルボジイミド基数)は301、GPC測定による数平均分子量は1800であった。カルボジイミド当量および数平均分子量より算出される重合度は、5.98であった。
【0092】
(2)ポリカルボジイミド溶液(架橋剤B)の製造
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート1572gとカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)15.7gとを、還流管および撹拌機付き5000ml反応容器に入れ、窒素気流下185℃で22時間撹拌し、イソシアネート末端4,4’−ジシクロヘキシルメタンポリカルボジイミド(重合度=6)を得た。
【0093】
その後、反応容器を120℃まで放冷し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量400)686gを加え、さらに同じ温度で撹拌しながら1時間反応させ、再び150℃まで加温し、さらに撹拌しながら5時間反応させた後、赤外吸収(IR)スペクトル測定により波長2200〜2300cm
−1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認して、約80℃まで冷却し、水を投入して固形分40%の淡黄色透明なポリカルボジイミド溶液(架橋剤B)を得た。
カルボジイミド当量は395、GPC測定による数平均分子量は3700であった。カルボジイミド当量および数平均分子量より算出される重合度は、9.37であった。
【0094】
(3)ポリカルボジイミド溶液(架橋剤C)の製造
m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート1400gとカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)28gを180℃で58時間反応させ、イソシアネート末端m−テトラメチルキシリレンポリカルボジイミド(重合度=15)を得た。
【0095】
その後、反応容器を120℃まで放冷し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量800)573gを加え、さらに同じ温度で撹拌しながら1時間反応させ、再び150℃まで加温し、さらに撹拌しながら5時間反応させた後、赤外吸収(IR)スペクトル測定により波長2200〜2300cm
−1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認して、約80℃まで冷却し、水を投入して固形分40%の黄色透明なポリカルボジイミド溶液(架橋剤C)を得た。
カルボジイミド当量は323、GPC測定による数平均分子量は2300であった。カルボジイミド当量および数平均分子量より算出される重合度は、7.12であった。
【0096】
(4)ポリカルボジイミド乳濁液(架橋剤D)の調整
ポリカルボジイミドA90gとポリカルボジイミドB10gを、還流管及び撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下150℃で4時間撹拌後、約80℃まで冷却し、水を投入して、固形分40%の乳白色ポリカルボジイミド乳濁液(架橋剤D)を得た。
カルボジイミド当量は407、GPC測定による数平均分子量は3500であった。カルボジイミド当量および数平均分子量より算出される重合度は、8.60であった。
【0097】
(5)ポリカルボジイミド乳濁液(架橋剤E)の製造
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート1572gとカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)15.7gとを、還流管および撹拌機付き5000ml反応容器に入れ、窒素気流下180℃で15時間撹拌し、イソシアネート末端4,4’−ジシクロヘキシルメタンポリカルボジイミド(重合度=4)を得た。
【0098】
その後、反応容器を120℃まで放冷し、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量500)150g、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン283gを加え、さらに同じ温度で撹拌しながら1時間反応させ、再び150℃まで加温し、さらに撹拌しながら5時間反応させた後、赤外吸収(IR)スペクトル測定により波長2200〜2300cm
−1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認して、約80℃まで冷却し、水を投入して固形分40%の乳白色ポリカルボジイミド乳濁液(架橋剤E)を得た。
カルボジイミド当量は327、GPC測定による数平均分子量は1500であった。カルボジイミド当量および数平均分子量より算出される重合度は、4.59であった。
【0099】
<エラストマーの製造>
攪拌機つきの耐圧重合反応器に、イオン交換水120部、アクリロニトリル30部、1,3−ブタジエン64.2部、メタクリル酸5.8部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、過硫酸カリウム0.3部、及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部からなる乳化液を入れ、50℃に保持して12〜24時間反応させた。得られた共重合体ラテックスから未反応単量体を除去した後、共重合体ラテックスのpHおよび濃度を調整して、XNBR−Aの溶液を得た。XNBR−Aのムーニー粘度、及びMEK不溶解分は表1に示したとおりである。
【0100】
使用する原料化合物の配合量を変更し、上記XNBR−Aと同様にして、表1に示したXNBR−B〜XNBR−Nの溶液を製造した。
【0101】
<手袋用エマルション組成物(ラテックス)の製造>
表1に示した各XNBR溶液(固形分45%)220gを1Lビーカー(アズワン社製, 胴径105mm×高さ150mm)に入れ、水200gを加えて希釈し、撹拌を開始した。アンモニア水を使用してpHを予備的に約9.9に調整した後、表1に示した架橋剤を表1に示した量となるように加えた。さらに、酸化防止剤(Farben Technique (M) 社製、商品名「CVOX−50」)0.4g及び酸化チタン(Farben Technique (M) 社製、商品名「PW−601」)1.5gを添加し、アンモニアによりpHが10.5となるように調整後、固形分濃度が22%となるようにさらに水を加え、24時間混合した。得られた手袋用エマルション組成物量は486gであった。なお、手袋用エマルション組成物は、使用するまでビーカー内で攪拌を続けた。
【0102】
表1に記載の各XNBRの特性は、次のようにして測定した。
<アクリロニトリル(AN)残基量及び不飽和カルボン酸(MMA)残基量>
各エラストマーを乾燥して、フィルムを作成した。該フィルムをFT−IRで測定し、アクリロニトリル基に由来する吸収波数2237cm
−1とカルボン酸基に由来する吸収波長1699cm
−1における吸光度(Abs)を求め、アクリロニトリル(AN)残基量及び不飽和カルボン酸(MMA)残基量を求めた。
アクリロニトリル残基量(%)は、予め作成した検量線から求めた。検量線は、各エラストマーに内部標準物質としてポリアクリル酸を加えた、アクリロニトリル基量が既知の試料から作成したものである。不飽和カルボン酸残基量は、下記式から求めた。
不飽和カルボン酸残基量(wt%)=[Abs(1699cm
−1)/Abs(2237cm
−1)]/0.2661
上式において、係数0.2661は、不飽和カルボン酸基量とアクリロニトリル基量の割合が既知の、複数の試料から検量線を作成して求めた換算値である。
【0103】
<ムーニー粘度(ML
(1+4))>
硝酸カルシウムと炭酸カルシウムとの4:1混合物の飽和水溶液200mlを室温にて攪拌した状態で、各エラストマーラテックスをピペットにより滴下し、固形ゴムを析出させた。得られた固形ゴムを取り出し、イオン交換水約1Lでの攪拌洗浄を10回繰り返した後、固形ゴムを搾って脱水し、真空乾燥(60℃、72時間)して、測定用ゴム試料を調製した。得られた測定用ゴムを、ロール温度50℃、ロール間隙約0.5mmの6インチロールに、ゴムがまとまるまで数回通したものを用い、JIS K6300−1:2001「未加硫ゴム−物理特性、第1部ムーニー粘度計による粘度およびスコ−チタイムの求め方」に準拠して、100℃にて大径回転体を用いて測定した。
【0104】
<MEK不溶解分量>
MEK(メチルエチルケトン)不溶解(ゲル)成分は、次のように測定した。0.2gのXNBRラテックス乾燥物試料を、重量を測定したメッシュ籠(80メッシュ)に入れて、籠ごと100mLビーカー内のMEK溶媒80mL中に浸漬し、パラフィルムでビーカーに蓋をして、48時間、ドラフト内で静置した。その後、メッシュ籠をビーカーから取り出し、ドラフト内にて宙吊りにして1時間乾燥させた。これを、105℃で1時間減圧乾燥したのち、重量を測定し、籠の重量を差し引いて、XNBRラテックス乾燥物の浸漬後重量とした。
MEK不溶解成分の含有率(不溶解分量)は、次の式から算出した。
不溶解成分含有率(重量%)=(浸漬後重量g/浸漬前重量g)×100
【0105】
なお、XNBRラテックス乾燥物試料は、次のようにして作製した。すなわち、500mLのボトル中で、回転速度500rpmでXNBRラテックスを30分間攪拌したのち、180×115mmのステンレスバットに14gの該ラテックスを量り取り、一晩、常温乾燥させた。これを、50℃で24時間乾燥させてキャストフィルムとし、該フィルムを5mm四方にカットして、XNBRラテックス乾燥物試料とした。
【0106】
<凝固液の調製>
ハンツマン社(Huntsman Corporation)製の湿潤剤「Teric 320」(商品名)0.67gを水36.9gに溶解した液に、分散剤としてCRESTAGE INDUSTRY社製「S−9」(商品名、固形分濃度25.46%)23.6gを、あらかじめ計量しておいた水50gの一部を用いて約2倍に希釈した後にゆっくり加えた。容器に残ったS−9を残った水で洗い流しながら全量を加え、3〜4時間撹拌した。別に、1Lビーカー(アズワン社製, 胴径105mm×高さ150mm)中に硝酸カルシウム四水和物143.9gを水114.5gに溶解させたものを用意し、撹拌しながら、先に調製したS−9分散液を硝酸カルシウム水溶液に加えた。5%アンモニア水でpHを8.5〜9.5に調整し、最終的に硝酸カルシウムが無水物として20%、S−9が1.2%の固形分濃度となるように水を加え、500gの凝固液を得た。得られた凝固液は、使用するまで1Lビーカーで撹拌を継続した。
【0107】
<硬化フィルムの製造>
上記得られた凝固液を撹拌しながら50℃に加温し、200メッシュのナイロンフィルターでろ過した後、浸漬用容器に入れ、洗浄後60℃に温めた陶製の板(200×80×3mm、以下「陶板」と記す。)を浸漬した。具体的には、陶板の先端が凝固液の液面に接触してから、陶板の先端から18cmの位置までを4秒かけて浸漬させ、浸漬したまま4秒保持し、3秒間かけて抜き取った。速やかに陶板表面に付着した凝固液を振り落し、陶板表面を乾燥させた。乾燥後の陶板は、手袋用エマルション組成物(ラテックス)浸漬に備えて、再び60℃まで温めた。
【0108】
上記手袋用エマルション組成物(ラテックス)を、室温のまま200メッシュナイロンフィルターでろ過した後、浸漬用容器に入れ、上記の凝固液を付着させた60℃の陶板を浸漬した。具体的には、陶板を6秒かけて浸漬し、4秒間保持し、3秒かけて抜き取った。ラテックスが垂れなくなるまで空中で保持し、先端に付着したラテックス滴を軽く振り落した。
ラテックス浸漬した陶板を、室温(23℃)で1分間放置した後、50℃の温水で5分間リーチングした。その後70℃で1分間乾燥させ、120℃で30分間、熱硬化させた。
得られた硬化フィルム(厚み:平均0.07mm)を陶板からきれいに剥がし、物性試験に供するまで、23℃±2℃、湿度50%±10%の環境で保管した。
【0109】
<硬化フィルムの評価>
(1)引張強度
硬化フィルムからJIS K6251の5号ダンベル試験片を切り出し、A&D社製のTENSILON万能引張試験機RTC−1310Aを用い、試験速度500mm/分、チャック間距離75mm、標線間距離25mmで、引張強度(MPa)を測定した。
【0110】
(2)疲労耐久性
硬化フィルムからJIS K6251の1号ダンベル試験片を切り出し、これを、人工汗液(1リットル中に塩化ナトリウム20g、塩化アンモニウム17.5g、乳酸17.05g、酢酸5.01gを含み、水酸化ナトリウムによりpH4.7に調整)中に浸漬して、上述の耐久性試験装置を用いて疲労耐久性を評価した。
【0111】
すなわち、
図1に示した装置を用いて、長さ120mmのダンベル試験片の2端部からそれぞれ15mmの箇所を固定チャック及び可動チャックで挟み、固定チャック側の試験片の下から60mmまでを人工汗液中に浸漬した。可動チャックを、147mm(123%)となるミニマムポジション(緩和状態)に移動させて11秒間保持したのち、試験片の長さが195mm(163%)となるマックスポジション(伸長状態)と、再びミニマムポジション(緩和状態)に1.5秒かけて移動させ、これを1サイクルとしてサイクル試験を行った。1サイクルの時間は12.5秒であり、試験片が破れるまでのサイクル数を乗じて、疲労耐久性の時間(分)を得た。
【0112】
以上、各実験例の詳細と結果を表1に示す。表において、実験例2及び3は、架橋剤がポリカルボジイミドではない、本実施形態の比較例である。実験例1、4〜16は様々なXNBRを用いたものである。
実験例1、4〜16の結果から、架橋剤として架橋剤Eを手袋用エマルション組成物に3重量%の含有量で含有させ、異なるムーニー粘度を有するXNBRを用いた場合でも、ムーニー粘度が80以上であれば、十分な引張強度が得られることを示す。
実験例12と13の結果から、ムーニー粘度160の前後において、疲労耐久性に大きな差が生じることが分かった。
実験例14〜16は、XNBRのムーニー粘度が80未満である、本実施形態の比較例である。XNBRのムーニー粘度が80未満である実験例14〜16では、引張強度に劣っていた。
また、実験例17〜23は、ポリカルボジイミドの種類又はその濃度を変更した実験例である。
実験例17〜20の結果から、架橋剤E以外の架橋剤を用い、その含有量を1重量%とした場合でも、十分な疲労耐久性と引張強度が得られていた。
実験例21〜23の結果から、架橋剤Eの含有量は10重量%まで含有させることはできるが、十分な疲労耐久性を得るには、3〜7重量%程度が望ましいことが分かった。
【0113】
【表1】
【0114】
上記実験例に示されるように、特定のムーニー粘度のXNBRをポリカルボジイミドで架橋させる本実施形態によれば、引張強度及び疲労耐久性に優れた手袋を提供することができる。さらには、20MPa以上の引張強度と、400分以上の疲労耐久性を備えた手袋を提供することもできる。
【0115】
実験例24として、ポリカルボジイミドの含有量を0.5重量%に調製したものを作製した。手袋用エマルション組成物におけるポリカルボジイミドの含有量が0.5重量%であっても、十分な疲労耐久性と引張強度が得られた。
実験例25として、手袋用エマルション組成物のpHを水酸化カリウムを用いて調整したものを作製した。水酸化カリウムでpHを調整した場合、十分な引張強度を得ることはできず、疲労耐久性の試験は行わなかった。
【0116】
上記の実験例1〜25では、手袋用エマルション組成物に保湿剤を含有させずに行ったものである。
以下の実験例26〜28では、保湿剤の有無の効果を見るために、ラテックスとしてAを用い、ポリカルボジイミドとしてDを1重量%含有し、保湿剤を含有しない手袋用エマルション組成物または保湿剤(グリセリン)を含有する手袋用エマルション組成物を用いて、リーチング前のゲリングの条件を50℃で3分間としたこと以外は上記実験例1と同様の手順で手袋を作製した。
それぞれの手袋について、原料の条件並びに疲労耐久性及び引張強度の試験の結果を以下の表2に示す。
表2の結果から、ゲリングを50℃3分という比較的乾燥が進みやすい条件下で行っても、保湿剤を含有させた実験例では、十分な引張強度と疲労耐久性が得られた。
【0117】
【表2】
【0118】
以下の実験例29〜31は、手袋用エマルション組成物に保湿剤を含有させず、ゲリング工程の条件として50℃20分を採用して得られた手袋の性能を示すものである。ゲリングを50℃で20分間行った場合には、引張強度、疲労耐久性のいずれも、ゲリング工程を23℃1分間で行った場合(実験例17、18、20)よりも劣ることが分かった。
【0119】
【表3】
【0120】
実験例32と33は、手袋の製造工程において、ゲリング工程の有無が、得られる手袋の特性にどのような影響を与えるのかということを確認するために行った。
実験例32は、上記の実験例20と同じ条件を踏襲したものである。具体的には、ラテックスAとポリカルボジイミドBを1重量%含有する手袋用エマルション組成物を、陶板にディッピングした後、ゲリング工程として室温(23℃)で1分間放置したあと、リーチングを行った。
これに対して実験例33では、同じ手袋用エマルション組成物を、陶板にディッピングした後、ゲリング工程を行わずに(室温(23℃)で5秒間放置)、リーチングを行った。5秒間放置というのは実質的にゲリング工程を行わせていないことを意味する。
リーチング後の操作は、それぞれ上記の実験例1等の条件を基本的に踏襲して行った。
得られた各手袋について、疲労耐久性の試験を行ったところ、実験例32では2430分、実験例33では330分という結果が得られた。実験例33では、十分な疲労耐久性が得られなかった。
これにより、手袋の製造工程において、ゲリング工程を含めることも重要であることが示された。