(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802284
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】高速中性子炉において放射性同位元素を生成する方法および当該方法を利用した高速中性子炉
(51)【国際特許分類】
G21G 1/02 20060101AFI20201207BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20201207BHJP
G21K 5/02 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
G21G1/02
A61N5/10 Z
G21K5/02 N
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-545960(P2018-545960)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公表番号】特表2019-522772(P2019-522772A)
(43)【公表日】2019年8月15日
(86)【国際出願番号】RU2016000358
(87)【国際公開番号】WO2017213538
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2019年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】517423567
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“サイエンス アンド イノヴェーションズ”
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】リソーヴァヌィ ウラジミール ドミートリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥブ アレクセイ ウラジーミロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】コンドラチェフ ニコライ アレクサンドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ペルシュコフ ヴィチェスラフ アレクサンドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】アスモロフ ウラジミール グリゴーリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】バカノフ ミハイル ヴァシリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】コズマノフ エヴゲーニー アレクサンドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ワシーリエフ ボリス アレクサンドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クリノフ ドミトリー アナトリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】シーリン ボリス ゲオルギエヴィチ
【審査官】
藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−029899(JP,A)
【文献】
特開2006−162612(JP,A)
【文献】
特表2002−504231(JP,A)
【文献】
特開2010−261930(JP,A)
【文献】
国際公開第97/019724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/02
G21G 1/00
G21G 4/00−4/08
G21K 5/00
G21K 5/02
G21C 1/00
G21C 1/02
A61N 5/00
A61N 5/10
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速中性子炉において放射性同位体を生成する方法であり、
中性子減速材を含む照射装置の中に、放射性核種が生成される標的を置くステップと、
高速中性子炉の側壁の中で核燃料を含まない鋼鉄製装置群の間に照射装置を置くステップと、
照射装置内の中性子減速材に高速中性子を通すステップと、
照射装置内の標的に減速した中性子を通すステップと、
を含み、
放射性核種の生成は、照射装置と周囲の鋼鉄製装置群とで同時であり、
照射装置内の標的は中性子吸収断面積が、0.1MeV未満のエネルギーの中性子に対して1バーンを超えており、
照射装置の周囲の装置群内の標的は中性子吸収断面積が、0.1MeVを超えるエネルギーの中性子に対して1バーン未満であり、
鋼鉄製装置内の鋼成分が50%を超えない
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
照射装置内の標的として粒状または塊状の59Coが使われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中性子減速材は厚さ10−20mmの壁を持つ塊として形成され、前記塊の内部には直径16−22mmの中性子減速材性の棒が置かれ、前記塊の内面と前記棒の表面との間の距離は4mm以上であり、前記塊を通過することによって減速された中性子は更に前記棒を通過し、前記塊の中性子吸収断面積は、1000eV未満のエネルギーの中性子に対して1000バーン未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
中性子減速材として、グラファイト(C)をベースとする水素化ジルコニウムZrHx(x=1.8−2.0)の合成物、または同位体11Bが97%以上濃縮された炭化ホウ素11B4Cが使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記照射装置の周囲の装置群内の標的として、89Sr、64Cu、67Cu、32P、33P、117Sn、91Y、131I、145Smが使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかの方法に利用される高速中性子炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力産業に関し、特に、放射性核種を生成する中性子で異なる物質(標的)を照射するものに関する。
【背景技術】
【0002】
熱中性子炉(実験炉、WWER、RBMK等)の中で中性子を標的に照射する周知の方法がある。標的とは、中性子が照射されるべき物質であって、特別な照射装置(RA)の中に置かれたものを意味する。この照射装置は、中性子が所定の熱スペクトルを成す炉心のセルの中に設置される。原子炉の稼働過程の中で標的は中性子の照射を受け、必要な放射能レベルまで放射性核種が蓄積される。
【0003】
原子炉からRAが取り出された後、標的は放射能から保護されたカメラまたは箱の中で取り外される。放射性核種を含む放射性の中心部が取り出される。この中心部は保護層で密閉される。最終段階では生成物が注意深く揺すぶられる。密閉具合と放射性核種による表面の汚染具合とがテストされ、幾何学的形状と放射能とが測定される。
【0004】
この方法では、0.68eV未満のエネルギーを持つ熱中性子をよく吸収する出発物質の標的から放射性核種を生成することができる。この方法の欠点は次のとおりである。中性子の流量が比較的低い(一般に5×10
14cm
-2c
-1未満である)。標的の置ける炉心中の体積が小さい。放射性核種の生成用である「余分な」中性子が比較的少量であるので、小型の線源しか作れない。これらの欠点は、重水、軽水、グラファイト、ベリリウム等、中性子減速材を大量に使用する熱中性子炉の物理的性質による。
【0005】
高速中性子炉において標的に中性子を照射する別の方法が知られている。標的への中性子照射は、高速中性子炉の炉心または側壁の内部に置かれたRAの中で行われる。高速中性子の線量が大きい(1×10
15cm
-2c
-1を超える。)ので、放射性核種の生成時間の短縮が可能である。高速中性子炉は標的の設置場所がかなり大きく、側壁の中で核燃料(プルトニウム)の生成に使用される「余分な」中性子が大量である。
【0006】
この方法の弱点は、すべての高速中性子炉において一般的な1MeVよりも低いエネルギーを持つ中性子に対する熱活性化断面積が低い標的物質では必要な放射能レベルを持つ放射性核種の生成が不可能な点にある。この欠点は、高速中性子炉の物理的性質による。
高速中性子炉において標的に中性子を照射する更に別の方法が知られている。標的は、炉心の制御棒の中に水素化ジルコニウムで構成された特別なトラップの内部に置かれる。この中では高速中性子が水素核と反応してエネルギーを失うので、密度が高いままで熱中性子となる。これにより、中性子の捕獲率を高速中性子と比べて数倍に上昇させることができるので、必要な放射能レベルの放射性核種の生成時間が短縮可能である。
【0007】
この方法の欠点は次のとおりである。制御棒の中の水素化ジルコニウムを含む減速材の内側に置くことのできる標的の量が少ない。制御棒の変位に起因する原子炉の稼働状態の変化に応じて中性子の密度とエネルギーとが変化する。これにより、放射性核種の生成量を計算するのが難しい。原子炉の中に制御棒を設置する時間を最大限にする必要がある。これは、放射性崩壊に伴う放射性核種の生成速度を大幅に低下させかねない。
【0008】
高速中性子炉において標的に中性子を照射する他の方法が知られている。標的は、高速中性子を吸収して減速する物質から成る特別な要素を含むRAの中に置かれる。この装置は、核燃料であるプルトニウムを生成するためのウラン物質を含む燃料集合体に囲まれている。ウランの燃焼速度を減じて、中性子が熱スペクトルを形成するのに伴う高い放射線から燃料要素が受けるダメージを減らす目的で、RAの周囲には中性子吸収材が配置される。これにより、熱中性子が燃料集合体と相互作用するのを抑え、または完全に除去することができる。
【0009】
この方法の利点は次のとおりである。低エネルギーの中性子線量が高い(1×10
15cm
-2c
-1を超える)。高速中性子炉の側壁ではID設置用のセルの数が多い。炉心の物理的性質にRAが実質上影響しない。原子炉内に標的が存在する間、正しい計算に必要な既知のエネルギーを持つ中性子線量が維持される。これらの利点により、高エネルギー中性子の捕獲断面積が小さい標的を使っても、放射性核種を効率良く生成可能である。
【0010】
高速中性子炉の側壁の中で放射性核種を生成するこの方法の欠点としては次が挙げられる。RAの中に中性子を吸収する要素が存在するので装置の価格が高い。RAの中に標的を置く空間が狭い。中性子線の密度が低い。RAを囲む燃料集合体が放射線から受けるダメージが高い。これらの欠点は、RAの設計と、高速中性子炉の側壁の燃料集合体の間における配置とで決まる。
【0011】
発明に最も近い技術(プロトタイプ)は、特許文献1に記載された方法である。照射対象の物質はRA内で中性子減速材の中に置かれ、このRAは高速中性子炉の側壁の中に設置される。これらの条件下ではRAは鋼鉄製の装置により、原子炉の燃料集合体から分離されている。
【0012】
高速中性子炉が稼働すると、燃料集合体からの高速中性子線が鋼鉄製の装置を透過するので中性子線のスペクトルが緩和され、この緩和された中性子線が、水素を含む物質から成るRAの中性子減速材の中に入る。この物質の中では中性子線のスペクトルが最終的には熱エネルギーまで緩和される。これにより、標的の出発物質中では減速された中性子の吸収確率が増加する。
【0013】
遅い中性子は、照射対象の物質を透過して更に、中性子減速物質の塊である減速材を再び透過する。このとき、鋼鉄製の装置内における高速中性子線は弱くはない。鋼鉄中の高速中性子に対する吸収断面積が小さく、散乱断面積よりもずっと小さいからである。この方法に必須の条件は次のとおりである。鋼鉄製の装置内の鋼成分は50%を超え、中性子に対する減速効果は中性子の自由行程の0.5倍以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】ロシア連邦特許第2076362号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示された方法の欠点は次のとおりである。
【0016】
1)鋼鉄製の装置中の鉄が大量である(50%を超える。)結果、装置が重く、扱いづらい。
【0017】
2)鋼鉄製の装置は、中性子のエネルギースペクトルを予備的に緩和するという機能しか持たない。
【0018】
3)鋼鉄製の装置は原子炉内の扱いやすい場所を大きく占めるので、鉄および必要な器具から生成される放射性核種としての放射性廃棄物が多い。
【0019】
4)中性子吸収断面積が異なる放射性核種のうち生成される種類は限られている。エネルギースペクトルについて与えられたパラメータを持つRAが1種類しか使用されないからである。
【0020】
5)生成される放射性核種は比較的少ない。RAの中でしか生成されないからである。
【0021】
本発明の目的は、高速中性子炉において高速中性子のエネルギーを低減させる仕方を拡げることにより、中性子のエネルギーの広い範囲で中性子吸収断面積が異なり、かつ種類が豊富な放射性核種(放射性同位体)の生産性を上げることにある。本発明の目的は特に処理の効率を高め、処理に使用される物質を減らし、処理の要素の取扱いを簡単化し、高速中性子炉の稼働の安全性を保ったまま放射性核種を更に生成する可能性を保証することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、高速中性子炉の側壁において放射性同位体を生成する次の方法で達成される。この方法は、中性子減速材を含む照射装置の中に、放射性核種が生成される標的を置き、照射装置の周りに鋼鉄製の装置群を配置するステップを含む。照射装置の内部には、高速中性子を必要なエネルギーまで減速する物質の塊またはブロックが置かれる。この物質により、1バーン未満の中性子吸収断面積を持つ標的によっては0.1MeV未満のエネルギーまで減速された中性子が効率良く捕獲されることが確実になる。照射装置の標的によっては捕獲されなかった高エネルギーの中性子は鋼鉄製の装置群内に到達し、そこで、0.1MeVを超えるエネルギーの中性子に対する中性子吸収断面積が1バーン未満である標的によって吸収される。
【0023】
本発明の特徴は次のとおりである。放射性同位体の生成は照射装置と鋼鉄製の装置群とで同時である。照射装置内の標的の物質は、0.1MeV未満のエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーンを超える。鋼鉄製の装置群内の標的物質は、0.1MeVを超えるエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーン未満である。照射装置内で必要な中性子のエネルギースペクトルは、水素、炭素、ホウ素11等をベースとする減速材を使って、それらの形状と大きさとで形成される。鋼鉄製の装置群の標的は、放射性核種を生成すると同時に、燃料集合体の中で中性子線を減らして燃え尽きる物質から成る。燃料集合体から照射装置を分離する装置群における鋼成分は50%未満である。これにより、鋼鉄製の装置群の質量は小さいので、第1に、これらの使用が簡単化され、第2に、放射性同位体の生成に必要な鋼鉄製の装置群における鋼の使用量が低減する。高速中性子炉の稼働中その安全性は、次の事実によって保証される。燃料集合体に破壊的な影響を与える照射物質からの熱中性子流が減るので、鋼を多くは含んでいない装置群を中間に十分に配置できる。鋼鉄製の装置内の少量の鋼とその装置内に置かれた標的とによって熱中性子が十分に減速されているからである。
【0024】
鋼鉄製の装置は管状であり、および/または高エネルギーの範囲で中性子吸収断面積が大きい標的が充填されている。後者の場合、熱中性子を排除するのに加え、放射性核種の生成効率が更に高い。以前は熱中性子の消極的な排除のみを前提とした空間が今や、熱中性子の排除機能を保ったまま、高速中性子で放射性同位体を更に多く生成するのに使用されるからである。
【0025】
中性子を照射すべき物質のうち、0.1MeV未満のエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーンを超える物質は、好ましい実施形態では、コバルト60(
59Co)である。0.1MeVを超えるエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーン未満である物質は、発明を実施可能な選択肢としては、
89Sr、
64Cu、
67Cu、
32P、
33P、
117Sn、
91Y、
131I、
145Smのいずれであってもよい。これらの間では核反応が異なる。中性子減速材としては、水素化イットリウム(YtHx、x=1.8−2.0。)、水素化ジルコニウム(ZrHx、x=1.8−2.0。)が使用される。炭素とホウ素11(
11B)との利用可能な同位体をベースとする他の中性子減速材が使用されてもよい。
【0026】
照射装置内の中性子減速材の塊は、好ましくは、壁厚が10−20mmである。好ましい実施形態ではこの塊が中に、直径16−22mmの中性子減速材から成る棒を含む。この場合、塊の内面と棒の表面との間の距離は4mm以上であり、減速された中性子が、照射対象の物質を変換した後、更に棒と、0.1MeV未満のエネルギーに対する吸収断面積が1バーンを超える物質とを透過する。
【0027】
本発明の目的はまた、下記の実施形態の変形例のいずれに従った方法と医療用または産業用の装置とで上記の放射性物質を生成することによっても達成される。
【0028】
本発明の目的はまた、下記の実施形態の変形例のいずれに従った方法が使用される高速中性子炉によっても達成される。
【発明の効果】
【0029】
本発明の技術的効果は、高速中性子炉での放射性核種(放射性同位体)の幅広い種類の生成において生産性を向上させることである。これらの放射性核種は、高速中性子のエネルギーを多様に増減することにより、中性子の広いエネルギー範囲において中性子吸収断面積が異なる。本発明の他の技術的効果は、装置の重量を軽減し、生成効率を上昇させ、処理に使用される材料を減らし、処理に使用される原子炉内の要素の取扱いを簡単化し、高速中性子炉の稼働の安全性を維持したまま、放射性核種を更なる生成可能性を保証することにある。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上記の方法は、本体が炉心1と側壁2とを含む高速中性子炉の中で実施される(
図1参照)。炉心の中には燃料集合体が置かれ、高速中性子流の生成に利用される。原子炉の側壁の中には、プルトニウムを生成し、中性子流を減らし、その炉外への流出を防ぐ燃料集合体が置かれている。
【0032】
本発明による方法の実施においては、照射装置が側壁2の中に設置されている(
図1には符号Oが付加されている)。照射装置は燃料集合体(符号Tが付加されている。)の間に配置され、中間に位置する鋼鉄製の装置群(符号Cが付加されている。)によって分離されている。こうして、発明の実施においては次の装置群が設置されている。照射装置が原子炉の側壁の中に置かれ、その周りが鋼鉄製の装置で囲まれ、更にその周りが燃料集合体によって囲まれている。
【0033】
この配置により、燃料集合体と照射装置との隙間(これらの並進方向に対して垂直方向におけるサイズ)が燃料集合体の1個分および/または照射装置の1個分以上に確保される。すでに述べたとおり、この隙間の存在により、原子炉の稼働の安全性が保証される。これは次の理由による。照射装置から出る熱中性子がこの隙間を通る間に弱まり、燃料集合体が明らかに存在しない領域へ排除され、燃料の燃焼に無視できるほどの影響しか与えず、または燃料とは不均衡に燃え尽きるからである。
【0034】
燃料集合体は側壁2の中にだけ置かれているわけではなく、炉心1の周囲と内部とにも多数配置されている(
図1では、炉心1内の燃料集合体には符号Tが付されていない)ので、本発明はまた、照射装置を炉心内に置くようにも実施可能である。ただし、本発明による好ましい実施形態では、
図1に示されているように、照射装置が側壁の中に設置される。これは、高速中性子の流量が小さいことと、側壁内では高速中性子流の形成を保証する必要がないこととによる。炉心内では照射装置と、その周りを囲む中間の装置群とが全体として大きな体積を占め得るので、これらへの高速中性子流の影響を考慮する必要があり、高速中性子流の形成が難しい。
【0035】
照射装置は、内部が中性子減速材から成る塊を含む。中性子減速材としては、水素を含む異なる物質、好ましい実施形態では、水素化ジルコニウムZrHx(x=1.8−2.0)が、中性子の減速効果が最大限確保されるように適用される。
【0036】
照射装置は通常一方向に長く、長さが垂直方向のサイズの数倍を超えている。装置に沿って中性子減速材の塊が数個、または1つの大きな塊が配置される。連動する塊群の使用により、それらの製造が簡単化される。塊は、壁付きで比較的薄い金属製の覆いの中に置かれている。
【0037】
中性子減速材の塊の内部には、熱中性子が照射されるべき物質(標的)が置かれる。これにより、照射対象の物質はほとんど、0.1MeV未満のエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーンを超える。このような物質は特に、コバルト、炭素、チタン、イリジウムであってもよい。標的は、ブロック状、円盤状、粉状、または棒状に加工されていてもよい。
【0038】
鋼鉄製の装置は、装置の総体積/総重量の50%未満が鋼成分であるもので管状に形成されている。高速中性子炉において放射性核種を生成する方法を試す過程では、照射装置からの熱中性子流の減少が実験的に計算された。この熱中性子流は燃料集合体に対して破壊的な影響を与える。熱中性子流のこの減少により、中間の装置群は鋼を大質量含まなくても十分であることがわかった。熱中性子は少量の鋼と鋼鉄製の装置の内部または傍の物体によって十分に減速されるからである。それ故、鋼鉄製の装置の重量が小さくても高速中性子炉の稼働の安全性が確保され、重量の軽減がそれらの取扱いを容易にし、鋼鉄製の装置の製造に必要な鋼の使用量を減らす。
【0039】
鋼鉄製の装置は管状であるので、放射性核種生成用の物質が詰め込み可能である。中間の装置における熱中性子流が小さく、照射装置から周囲の装置群へ向かう間に減少するので、好ましくは、十分に強度の高い高速中性子線が使用され、放射性同位体の生成効率が確保される。これにより、管状の中間装置には、0.1MeVを超えるエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーン未満である照射対象物質(標的)が置かれる。この物質は、
89Sr、
64Cu、
67Cu、
32P、
33P、
117Sn、
91Y、
131I、
145Sm等、核反応ごとに生成物の異なる物質であってもよい。これらの標的は、ブロック状、円盤状、粉状、または棒状であり、鋼鉄製の装置の中に設置可能である。
【0040】
高速中性子炉の中に置かれたこのような装置とそれらの配置との下で、本発明による以下の方法が実行される。0.1MeV未満のエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーンを超える標的が照射装置内の中性子減速材の塊の中に置かれた後、その照射装置が炉心の側壁の中に設置される。高速中性子は、一部が必要なエネルギーまで減速され、塊の中性子減速材を透過する。
【0041】
その後、減速された中性子は照射装置内の標的を透過する。この過程の間に核反応が生じる結果、放射性同位体が生成される。たとえば、照射装置内の出発物質がコバルト
59Coである場合、コバルトの放射性核種
60Coが本発明による方法の実施で生成される。
【0042】
照射装置内の照射対象物質(標的)を透過して減速された中性子は、中性子減速材を再び通る。その結果、熱中性子が更に減速されて照射装置から放出され、鋼成分が50%未満の装置群を透過する。この装置は管状であり、および/またはその中に、0.1MeVを超えるエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーン未満である照射対象物質(標的)が詰められている。熱中性子は弱まり、燃料集合体には深刻なダメージを与えられない状態となる。
【0043】
中性子減速材の塊を透過した後も減速されず、または減速が不十分な高速中性子は、実際には、照射装置内の照射対象物質とは相互作用しない。しかし、これらは、管状の中間装置に置かれた照射対象物質とは相互作用する。その物質が0.1MeVを超えるエネルギーの中性子を効率良く捕獲するからである。これにより、低エネルギー中性子から放射性核種が生成されると同時に、高速中性子からも放射性核種が生成される。照射装置の周りには鋼鉄製装置群が配置されているので、高速中性子流の方向では照射装置の前後に位置する2つ以上の中間装置で放射性核種が生成されることに注意が必要である。
【0044】
図2が示す照射装置の好ましい実施形態では、塊5が厚さ10−20mmの壁を持ち、内部に棒6を含む。この棒は直径16−22mmであり、中性子減速材から成る。塊5の内面と棒6の表面との間の距離は4mm以上である。図の下側が示す壁厚と直径とは中性子全体の流れを弱めることなく、高速中性子のエネルギーを効果的に減少させる。図の上側が示す壁厚と直径とは、中性子減速材間における放射性核種生成用の標的の設置に必要な大きさで決まる。棒の含む中性子減速材には塊のものと同じ物質、たとえば水素化ジルコニウムZrHx(x=1.8−2.0)が使われている。
【0045】
環状の中性子減速材の内面と中央の中性子減速材の外面との間の距離は4mm以上である。これは、中性子照射のダメージに伴う装置の構成物質と要素とのサイズの変化、および放射線に対して保護されたカメラで放射性核種生成用の標的を捉え、またはそのカメラから解放するという技術的な要請で決まる。
図2が示すとおり、好ましい実施形態による照射装置の断面では、塊5の軸に沿って置かれた棒6の周りに標的7が配置されている。標的は、たとえば塊状、円盤状、球状、または棒状であり、1keV未満のエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1000バーン未満である。
【0046】
本発明の好ましい実施形態の1つでは、方法は更に次のステップを含む。特に、照射対象物質の透過で減速された中性子は更に棒を透過する結果、更に減速され、その後再び、0.1MeV未満のエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーンを超える照射対象物質を透過する。棒を透過する高速中性子の一部が減速され、標的物質において核反応速度を高める結果、その物質の放射効率を高めることに注意が必要である。
【0047】
対比してみれば、特別な好ましい例における方法は次のとおりである。照射装置は、内部に含む中性子減速材の塊の中に照射対象物質(標的)が置かれ、高速中性子炉の側壁の中に配置されている。高速中性子は中性子減速材を透過した後、照射装置の照射対象物質を透過する。その後、減速された中性子は棒を透過し、再び照射装置の照射対象物質を透過する。照射対象物質から出た中性子は中性子減速材を透過する。
【0048】
上記のとおり、実施される方法の好ましいこの例の重要な利点は、次の事実にある。照射装置の塊の中に中性子減速材製の棒が無い場合と比べれば、中性子流はかなり減速される。これにより、原子炉施設の安全性が更に増す。さらに、照射装置を出た中性子は鋼鉄製の装置群を透過する。これらの装置群は鋼成分50%未満であり、管状であり、および/またはその中に、0.1MeVを超えるエネルギーの中性子に対する吸収断面積が1バーン未満である照射対象物質が詰め込まれている。
【0049】
本発明に従って実施される方法の結果、医療、その他の目的に使用される装置での利用が可能な放射性物質を得ることができる。たとえば、コバルト
59Coが照射装置内のサンプルとして置かれる場合、放射能が最大300Ci/gのコバルト
60Coが得られる。これは、類似の技術と比べて数倍を超える。この結果が得られるのは次の事実による。照射装置内の中性子減速材の質量が大きく、鋼鉄製装置群によっては、照射装置へ進入する中性子流が弱められない。その鋼成分が50%未満だからである。
【0050】
この方法の更なる変形例は次のステップを含む。標的を、中性子減速材と鋼鉄製装置群とのいずれもないように特別に構成された照射装置の中に置く。高速中性子炉の側壁の中に照射装置を設置してその周りに、標的を含む鋼鉄製装置を設置する。標的が必要な放射能を得るまで装置群に中性子を照射する。原子炉から装置群を取り出し、装置を放射線に対して保護されたカメラの所まで移動させてから装置を解体して標的を取り出し、所定の特性を持つ線源を得る。装置群を取り出して新たなものに変更するステップは、放射性核種の種類によっては同時に行われなくてもよい。
【0051】
プロトタイプに対する新たな利点は、中性子減速材を含む照射装置内と同時に、鋼成分の少ない(50%未満)の鋼鉄製装置群内で放射性同位体が生成される点、異なるエネルギー(数eVから5MeVまで)の中性子に対して吸収断面積が広い(0.01−1000バーン)を持つ標的が利用される点である。これらは、生成効率を上昇させ、かつ生成される放射性同位体の量と種類とをいずれも増加させる。これに加え、鋼鉄要素なしで放射性同位体の生成用標的が更に追加される。これらは高エネルギー中性子に対する吸収断面積が大きい。照射装置の中では標的に、低エネルギー中性子に対する吸収断面積が大きい物質が利用される。これにより、すでに述べた効果が得られる結果が新しい。
【0052】
この技術(特許)文献に記述された方法は、高速中性子炉において中性子減速材と鋼鉄製装置群とを利用した操作を含む。この装置群は、中性子を減速可能であり、必要な放射能を持つ放射性核種を生成するための標的による中性子の捕獲率を上昇させることができる。この場合、新たな技術的手段として提案されたのは、鋼鉄製装置群の構成、鋼鉄製装置群を取り出す代わりに追加の標的を設置したこと、および、放射性核種の種類の変化に応じた鋼鉄製装置群と照射装置との除去、変更を含む原子炉内におけるそれらの設置条件である。これにより、上記の効果が発明としてのレベルを持つ結果を得ることができる。