(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802291
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】マルチフィラメント糸の製造方法及びマルチフィラメント糸
(51)【国際特許分類】
D01F 6/38 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
D01F6/38
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-559393(P2018-559393)
(86)(22)【出願日】2016年5月11日
(65)【公表番号】特表2019-523833(P2019-523833A)
(43)【公表日】2019年8月29日
(86)【国際出願番号】EP2016060577
(87)【国際公開番号】WO2017194103
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2019年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】レーマン アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】タルハノフ エフゲニー
【審査官】
斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/050478(WO,A1)
【文献】
特公昭50−017106(JP,B1)
【文献】
特開平02−160911(JP,A)
【文献】
特表2017−529464(JP,A)
【文献】
特公昭57−047283(JP,B2)
【文献】
英国特許出願公開第01270504(GB,A)
【文献】
特開2007−321267(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/050171(WO,A1)
【文献】
特開昭62−078209(JP,A)
【文献】
特開昭62−062909(JP,A)
【文献】
特開平01−111010(JP,A)
【文献】
特公昭46−034939(JP,B1)
【文献】
特公昭59−029681(JP,B2)
【文献】
特公昭59−045762(JP,B2)
【文献】
特開平02−160912(JP,A)
【文献】
特開平03−045708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 − 13/02
D01F 6/18
D01F 6/38
D01F 6/40
D01F 6/52
D01F 9/08 − 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
95〜60モル%のアクリロニトリルと、以下の(a)〜(c)から選択される少なくとも1種のコモノマーとの共重合によって製造される、ポリアクリロニトリル(PAN)の共重合体の溶融物を溶融紡糸法で紡糸するマルチフィラメント糸の製造方法であって、
複数の紡糸孔を有する紡糸口金を介して前記共重合体の溶融物を押し出してマルチフィラメント糸を形成し、
前記マルチフィラメント糸
は、第一引き延ばし工程で、少なくとも10倍引き伸ばされるマルチフィラメント糸の製造方法。
a)5〜20モル%の、一般式1に示される少なくとも1種のアルコキシアルキルアクリレートであって、
【化1】
R=C
nH
2n+1及びn=1〜8及びm=1〜8、特に好ましくは、n=1〜4及びm=1〜4である。
b)0〜10モル%の、一般式2に示される少なくとも1種のアルキルアクリレートであって、
【化2】
R’=C
nH
2n+1及びn=1〜18である。
c)0〜10モル%の、一般式3に示される少なくとも1種のビニルエステルであって、
【化3】
R=C
nH
2n+1及びn=1〜18である。
【請求項2】
前記マルチフィラメント糸は前記第一引き伸ばし工程で、少なくとも20倍に引き伸ばされ、好ましくは25〜1000倍に引き伸ばされ、特に好ましくは150〜400倍に引き伸ばされる、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記マルチフィラメント糸は、前記第一引き伸ばし工程で引き伸ばされる前および/又は間中、冷却され、当該冷却は、空気等のガスの供給によって行われることが好ましく、特に好ましくは−50℃から+50℃で行われる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
形成された前記マルチフィラメント糸は、前記第一引き伸ばし工程で引き伸ばされた後に、更に延伸工程で好ましくは1.1〜10倍に、さらに好ましくは1.1〜6倍に延伸されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第一引き伸ばし工程及び/又は前記延伸工程は、加熱されたガレットを用いて行われ、当該ガレットは、少なくとも50℃、好ましくは50〜150℃、特に好ましくは55〜90℃、に設定されることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記マルチフィラメント糸は、<3000、好ましくは<1500〜10、さらに好ましくは<500〜30、のジェット延伸レートで前記紡糸口金から延伸されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記マルチフィラメント糸の前記第一引き伸ばし工程は、前記マルチフィラメントを形成する個々のフィラメント中の結晶領域の配向度が≧0.7、好ましくは0.75〜0.95、さらに好ましくは0.8〜0.9、となるように行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記紡糸口金は、前記共重合体の溶融温度よりも少なくとも10K高い温度であり、前記共重合体の溶融温度よりも好ましくは10〜80K、特に好ましくは15〜45K、高い温度に設定されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記共重合体の溶融は、120〜300℃、好ましくは150〜230℃及び/又は、ゼロせん断粘度(測定形状の直径が20mmであり、ギャップ開口が0.052mmである、プレートコーン(1°)配列を有するレオメーターHAAKE RS 150を用いて測定される)が、<5000Pa・s、好ましくは500〜3000Pa・s、さらに好ましくは1000〜1500Pa・s、に設定されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記個々のフィラメント及び/又は前記個々のフィラメントから形成される前記マルチフィラメント糸は、冷媒、好ましくはガス冷媒、特に空気、窒素、又はアルゴンによって冷却され、前記冷媒は、好ましくは前記共重合体の溶融温度よりも少なくとも10℃低く、好ましくは10〜200、さらに好ましくは15〜80、の範囲の温度であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記マルチフィラメント糸の前記延伸工程は、少なくとも300m/min、好ましくは500〜5000m/min、特に750〜2000m/minの最終延伸速度で延伸されることを特徴とする請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項12】
前記マルチフィラメント糸は、50〜5000の個々のフィラメント、好ましくは500〜4000の個々のフィラメント、特に1000〜3000の個々のフィラメント、を備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記マルチフィラメント糸の基礎を形成する前記個々のフィラメントは、10dtexより小さい、好ましくは0.01〜10dtex、さらに好ましくは0.1〜5dtex、の繊度であることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記紡糸孔は、円形、楕円形、Y字、星型、又はn角形の形状を有し、8≧n≧3であり、及び/又は、直径に対する長さの比が1〜20、好ましくは2〜8、であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記紡糸口金の直径は、10〜1000μm、好ましくは50〜750μm、さらに好ましくは100〜500μm、の範囲であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
可塑剤が全く添加されないことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記共重合体は、重量平均モル質量(Mw)が10000〜150000g/mol、好ましくは15000〜80000g/mol、の範囲であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記共重合体は、
90〜78モル%のアクリロニトリル、
8〜12モル%の前記コモノマーa)、
1〜5モル%の前記コモノマーb)及び/又は
1〜5モル%の前記コモノマーc)
を有することを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアクリロニトリルの共重合体の溶融物からマルチフィラメント糸を製造する方法に関する。本方法は、マルチフィラメント糸が、紡糸口金を介して共重合体の溶融物を押出すことによって製造され、続いて少なくとも10倍に引き伸ばされること、によって特徴付けられる。本発明は、さらに、対応して製造されたマルチフィラメント糸に関する。
【0002】
炭素繊維の工業生産及び販売は、1963年に始まった。ユニオンカーバイド(Union Carbide)のC.E. Ford及びC.V. Mitchellは、セルロース前駆体から炭素繊維を連続的に製造する方法を開発し、特許出願した(Ford CE、Mitchell CV、米国特許第3,107,152号、1963年)。1964年には既に、商品名「Thornel 25」を冠し、強度が1.25GPaであり、かつ、係数(moduli)が172GPaである炭素繊維が、市場に売り出された。後に、ブランド名「Thornel 25」、「Thornel 75」、及び「Thornel 100」が、追って売り出された。最後に述べた炭素繊維は、強度が4.0GPaであり、かつ、係数が690GPaであることに特徴付けられた。
【0003】
優れた特性プロファイルは、特別なプロセス制御によってのみ達成可能である。セルロース繊維は、2500〜3000℃に当てられると、変形した(黒鉛化引き伸ばし(stretch graphitisation))。このような高温でのみグラファイトは塑性変形することが可能であり、かつ、繊維軸に沿って配向されて優位性のある(competitive)繊維特性を達成することができる。
【0004】
しかしながら、製造プロセスは、コストがかかり(炭素繊維1kgあたり1000$)、さらに経済的でなかった(炭素収率がわずか10〜20重量%)ため、セルロース前駆体からの炭素繊維の生産は、1978年にほぼ完全に停止され、現在ではニッチな応用(niche applications)のためにのみ存在している。セルロース系炭素繊維の欠点は、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維の開発に密接に関連しており、PAN系炭素繊維は、同じ特性プロファイルで著しく高い炭素収率を可能にする。
【0005】
現在、ポリアクリロニトリル(PAN)又はポリアクリロニトリルの共重合体は、フィラメント糸前駆体(>95%)及びそれから製造される炭素繊維の製造における出発物質として、支配的なポリマーである。ex−PAN炭素繊維(ex−PAN carbon fibres)の広い帯域幅は、超高弾性率のピッチ系炭素繊維によって完成される。このような炭素繊維の、生産能力、化学的及び物理的構造、並びに機械的特性及び用途の概要は、J.P. Donnet et al., Carbon fibers, third edition, Marcel Dekker, Inc. New York, Basle, Hong Kongに示されている。
【0006】
独国特許第102014219707号において説明されているように、アクリル前駆体繊維は、今日までもっぱら湿式又は乾式紡糸方法のみによって製造されてきた。この目的のために、濃度が≦20%であるポリマーの溶液を凝固浴槽又は熱水蒸気雰囲気中で紡ぎ、溶媒を繊維から放散させる。このようにして、質的に高価値な前駆体が製造されるが、この方法のコストは比較的高い。これは、一方では必要な溶媒及びその取扱、他方では溶媒紡糸法における比較的低いスループットから生じる。
【0007】
独国特許第102014219707号において示されているように、ポリアクリロニトリル(PAN)の溶融紡糸可能な共重合体をアクリロニトリルとアルコキシアルキルアクリレートとの共重合によって合成し、同様に、モノフィラメントを形成するためにその溶融物からこれらを連続的に形成することが可能となった。この文献は、溶融物から当該ポリマーの基本的加工性を実証している。それによって製造されたモノフィラメントの製造価(produced titres)は、>1texである。このフィラメントタイター(filament titre)は、その前駆体の熱処理中に、フィラメントから発生するガス状の開裂産物の拡散経路が、後者を安定化させて炭化させるために長すぎるため、前駆体の転化には高すぎる。この結果、フィラメントの内圧が上昇し、連続的な転化を行うことができなくなること、又は、結果的に得られる炭素繊維の繊維物理(textile−physical)特性が著しく低下すること、が起こることを避けられなくなる。そのため、フィラメントタイターを低下させることは不可欠である。これを可能にするために、独国特許第102014219707号に記載のポリアクリロニトリルの共重合体のマルチフィラメント紡糸プロセスが開発された。
【0008】
したがって、本発明の目的は、マルチフィラメント糸のフィラメントタイターがカットされた、すなわち減少された、マルチフィラメント糸の製造方法を示すことである。さらに、対応するマルチフィラメント糸は、高い安定性を有することが意図されている。さらに、本発明の目的は、対応するマルチフィラメント糸について述べることである。
【0009】
この目的は、請求項1の特徴によって、マルチフィラメント糸の製造方法に関して達成され、請求項18の特徴によって、マルチフィラメント糸に関して達成される。そのため、それぞれ従属する請求項は、有利な進展(development)を示す。
【0010】
したがって、本発明は、マルチフィラメント糸を製造する方法に関し、95〜60モル%のアクリロニトリルと、以下の(a)〜(c)から選択される少なくとも1種のコモノマーとの共重合によって製造される、ポリアクリロニトリル(PAN)の共重合体の溶融物を溶融紡糸法で紡糸するマルチフィラメント糸の製造方法であって、
複数の紡糸孔を有する紡糸口金を介して前記共重合体の溶融物を押し出してマルチフィラメント糸を形成し、
前記マルチフィラメント糸は少なくとも10倍引き伸ばされる。
a)5〜20モル%の、一般式1に示される少なくとも1種のアルコキシアルキルアクリレートであって、
【化1】
R=C
nH
2n+1及びn=1〜8及びm=1〜8、特に好ましくは、n=1〜4及びm=1〜4である。
b)0〜10モル%の、一般式2に示される少なくとも1種のアルキルアクリレートであって、
【化2】
R’=C
nH
2n+1及びn=1〜18である。
c)0〜10モル%の、一般式3に示される少なくとも1種のビニルエステルであって、
【化3】
R=C
nH
2n+1及びn=1〜18である。
【0011】
本発明に係る方法の場合、前述の共重合体の溶融物は、紡糸口金を介してプレスされる。したがって、紡糸口金が多数の紡糸孔を有しているため、紡糸口金を介した共重合体の溶融物を押し出す際に紡糸孔の数に対応する多数の個々のフィラメントが製造される。対応する個々のフィラメントは、束ねられてマルチフィラメント糸を形成する。続いて、マルチフィラメント糸は、引き伸ばされる。
【0012】
好ましい実施形態によれば、前記マルチフィラメント糸は、少なくとも20倍に引き伸ばされ、好ましくは25〜1000倍に引き伸ばされ、特に好ましくは150〜400倍に引き伸ばされる。
【0013】
この方法のさらに好ましい実施形態では、マルチフィラメント糸は、引き伸ばされる前又は間中、冷却される。そのため、冷却は、形成されたマルチフィラメント糸にガス、特に空気が供給されるように行われる。そのため、ガスは、好ましくは−50℃から+50℃、さらに好ましくは0℃〜25℃で温度管理される。
【0014】
そして、マルチフィラメント糸を形成した後に行われる最初の伸ばし(lengthening)を、引き伸ばし(stretching)とする。
【0015】
引き伸ばし後、マルチフィラメント糸の更なる伸ばしが行われ、これを延伸(drawing)と称する。延伸は、延伸工程を行う前の、少なくとも1.1〜10倍に、好ましくは1.1〜6倍となるように行われる。
【0016】
引き伸ばし又は延伸の両方は、ガレットを用いて行われ、好ましくは加熱されたガレットを用いて行われ、当該ガレットの温度は、少なくとも50℃、好ましくは50〜150℃、特に好ましくは55〜90℃、に設定される。
【0017】
さらに好ましい実施形態では、マルチフィラメント糸は、<3000、好ましくは<1500〜10、さらに好ましくは<500〜30、の
ジェット延伸レート(jet draw rate)で前記紡糸口金から延伸される。
【0018】
この実施形態は、マルチフィラメントを形成する個々のフィラメントに関する。そして、延伸は、ノズルから吐出された直後の個々のフィラメントに基づいている。
【0019】
本発明において、マルチフィラメントの引き伸ばしがマルチフィラメントを形成する個々のフィラメント中の結晶領域の配向度が
≧0.7、好ましくは0.75〜0.95、さらに好ましくは0.8〜0.9、となるように行われることは、特に好都合である。
【0020】
この手段によって、マルチフィラメント糸の機械的強度をさらに高めることができる。
【0021】
さらに、紡糸口金は、共重合体の溶融温度よりも少なくとも10K高い温度であり、共重合体の溶融温度よりも好ましくは10〜80K、特に好ましくは15〜45K、高い温度に設定可能である。
【0022】
共重合体の溶融は、120〜300℃、好ましくは150〜230℃及び/又は、ゼロせん断粘度(測定形状の直径が20mmであり、ギャップ開口が0.052mmである、プレートコーン(1°)配列を有するレオメーターHAAKE RS 150を用いて測定される)が、<5000Pa・s、好ましくは500〜3000Pa・s、さらに好ましくは1000〜1500Pa・s、に設定可能である。
【0023】
さらに、個々のフィラメント及び/又は個々のフィラメントから形成されるマルチフィラメント糸は、冷媒、好ましくはガス冷媒、特に空気、窒素、又はアルゴンによって冷却され、冷媒は、好ましくは共重合体の溶融温度よりも少なくとも10℃低く、好ましくは10〜200、さらに好ましくは15〜80、の範囲の温度であることが好都合である。
【0024】
マルチフィラメント糸は、少なくとも300m/min、好ましくは500〜5000m/min、特に750〜2000m/minの最終延伸速度(a final drawing speed)で延伸可能である。そして、最終延伸速度は、マルチフィラメント糸が最終的にロールに巻き取られる速度を示す。
【0025】
マルチフィラメント糸は、50〜5000の個々のフィラメント、好ましくは500〜4000の個々のフィラメント、特に1000〜3000の個々のフィラメント、を備えることができる。
【0026】
好ましくは、マルチフィラメント糸の基礎を形成する前記個々のフィラメントは、<10dtex、好ましくは0.01〜10dtex、さらに好ましくは0.1〜5dtex、の繊度(fineness)である。
【0027】
紡糸孔は、円形、楕円形、Y字、星型、又はn角形の形状を有し、8≧n≧3であり、及び/又は、直径に対する長さの比が1〜20、好ましくは2〜8、である。
【0028】
紡糸口金の直径は、10〜1000μm、好ましくは50〜750μm、さらに好ましくは100〜500μm、の範囲であることが好ましい。
【0029】
特に、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及び/又は水は、可塑剤として共重合体の溶融物に添加されず、特に好ましくは可塑剤が全く添加されないことが、好都合である。
【0030】
さらに好ましくは、共重合体は、重量平均モル質量(Mw)が10000〜150000g/mol、好ましくは15000〜80000g/mol、の範囲である。
【0031】
特に好ましい実施形態では、共重合体は、
90〜78モル%のアクリロニトリル、
8〜12モル%のコモノマーa)、
1〜5モル%のコモノマーb)及び/又は
1〜5モル%のコモノマーc)
を有する。
【0032】
さらに、本発明は、マルチフィラメント糸であって、95〜80モル%のアクリロニトリルと、以下の(a)〜(c)から選択される少なくとも1種のコモノマーとの共重合によって製造される、ポリアクリロニトリル(PAN)の共重合体から作られた複数の個々のフィラメントから成り、
個々のフィラメント中における結晶領域の配向度が、≧0.7、好ましくは0.75〜0.95、さらに好ましくは0.8〜0.9、であることを特徴とするマルチフィラメント糸に関する。
a)5〜20モル%の、一般式1に示される少なくとも1種のアルコキシアルキルアクリレートであって、
【化1】
R=C
nH
2n+1及びn=1〜8及びm=1〜8、特には、n=1〜4及びm=1〜4である。
b)0〜10モル%の、一般式2に示される少なくとも1種のアルキルアクリレートであって、
【化2】
R’=C
nH
2n+1及びn=1〜18である。
c)0〜10モル%の、一般式3に示される少なくとも1種のビニルエステルであって、
【化3】
R=C
nH
2n+1及びn=1〜18である。
【0033】
マルチフィラメント糸は、好ましい実施形態によれば、50〜5000の個々のフィラメント、好ましくは500〜4000の個々のフィラメント、特に好ましくは1000〜3000の個々のフィラメント、を備える。
【0034】
本発明によるマルチフィラメント糸のさらに好ましい実施形態は、マルチフィラメント糸の基礎を形成する個々のフィラメントが、<10dtex、好ましくは0.01〜10dtex、さらに好ましくは0.1〜5dtex、の繊度であることである。
【0035】
例えば、本発明による方法は、乾燥した粒子を1軸スクリュー押出機(L/D 25)によって連続的に溶融し、ギアポンプに供給し、紡糸口金を介して一定量の溶融物を流し(conveyed)、ガスを用いて出てきたフィラメントを冷却し、温度調節可能なガレットを用いて次なる延伸フレームにおいて、個々のフィラメントタイターが<3dtexとなるように、倍数で引き伸ばされる。これによって、加えられた水又は溶媒が完全に除去される。
【0036】
本発明によるマルチフィラメント糸は、特に、上述したような本発明による方法にしたがって製造可能である。
【0037】
本発明は、以下の実施形態を参照して、より詳細に説明されるが、以下の実施形態は本発明を限定するものではない。
【0038】
[実施例1]
成分が6.5モル%のメトキシエチルアクリレート及び93.5モル%のアクリロニトリルであり、平均モル質量Mwが43000g/molであり、PDIが1.3である、PANの乾燥(60℃/24hで真空引き)共重合体を、1軸スクリュー押出機(L/D 25)に計量供給した。凝集を回避するために、供給材料(the feed)を冷却し、続いて、押出機のゾーン内における温度を150℃から235℃まで上昇させた。製造したPAN共重合体の溶融物を、丸孔形状であり、L/Dが6、かつ、孔の直径が300μmである、32孔の紡糸口金を介して、ギアポンプを用いて常に流した。出てきたフィラメントを、ブローイング管を用いて冷却し、98の
ジェット延伸レートは、テークダウンガレット(take−down galette)を用いて達成される。引き続いて連結された延伸ガレットでは、製造されたマルチフィラメント糸をボビンヘッドを用いてボビンに連続的に巻き付ける前に、延伸度(drawing degree)1.6を達成することができた。
【0039】
個々のフィラメントタイターは、2.9dtexであり、フィラメントは20.3cN/texの強度、653cN/texの弾性係数、及び19.7%の破断伸びを有していた。結晶相の配向度は、WAXSで測定した結果、0.82であった。
【0040】
[実施例2]
成分が9.5モル%のメトキシエチルアクリレート及び90.5モル%のアクリロニトリルであり、平均モル質量Mwが55000g/molであり、PDIが1.2である、PANの乾燥(60℃/24hで真空引き)共重合体を、1軸スクリュー押出機(L/D 25)で計量した。プロセスは実施例1と同様であり、実施例1とは対照的に、最終紡糸温度を220℃とした。L/Dが4、かつ、丸孔形状(d=200μm)である、70孔の紡糸口金を介して流された。出てきたフィラメントを、ブローイング管を用いて冷却し、82の
ジェット延伸レートは、テークダウンガレットを用いて達成される。引き続いて連結された延伸ガレットでは、製造されたマルチフィラメント糸をボビンヘッドを用いて1500m/minの速度でボビンに連続的に巻き付ける前に、ガレット温度85℃で最大延伸度2.1を達成することができた。
【0041】
フィラメントは円形の断面を有し、個々のフィラメントタイターは、2.1dtexであり、フィラメントは37.3cN/texの強度、853cN/texの弾性係数、そして13.7%の破断伸びを有しており、結晶相の配向度は、WAXSで測定した結果、0.85であった。
【0042】
[実施例3]
成分が9.3モル%のメトキシエチルアクリレート及び90.7モル%のアクリロニトリルであり、平均モル質量Mwが85000g/molであり、PDIが1.2である、PANの乾燥(60℃/24hで真空引き)共重合体を、1軸スクリュー押出機(L/D 25)で計量した。プロセスは実施例1と同様であり、実施例1とは対照的に、最終紡糸温度を220℃とした。L/Dが4、かつ、丸孔形状(d=350μm)である、70孔の紡糸口金を介して流された。出てきたフィラメントを、ブローイング管を用いて冷却し、527の
ジェット延伸レートは、テークダウンガレットを用いて達成される。引き続いて連結された延伸ガレットでは、製造されたマルチフィラメント糸をボビンヘッドを用いて1800m/minの速度でボビンに連続的に巻き付ける前に、95℃で延伸度1.5を達成することができた。
【0043】
フィラメントは円形の断面を有し、個々のフィラメントタイターは、1.6dtexであり、フィラメントは45.4cN/texの強度、920cN/texの弾性係数、そして11.8%の破断伸びを有していた。結晶相の配向度は、WAXSで測定した結果、0.88であった。
【0044】
[実施例4]
実施例3において製造してボビンに巻き取ったPAN共重合体から形成されたマルチフィラメントを、照射量が300kGyの電子線に当てた。電子線で処理されて居ないマルチフィラメント糸に比較して、電子線で処理された前駆糸(precursor yarn)は、400℃まで溶融しなくなる。
【0045】
本発明は、添付された図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、本発明に係る方法を実施する装置の一例を示す。この装置を用いて、本発明に係るマルチフィラメント糸を同様に製造することができる。
【0047】
共重合体の溶融物は、多数のノズル孔を有する紡糸口金1を介して押出される。こうして出てきた個々のフィラメントは、束ねられてマルチフィラメント糸を形成する。得られたマルチフィラメント糸は、引き出し速度v
wで冷却チャンネル2を通り、降ろしガレット4を介して引き出される。3において、マルチフィラメント糸の更なる調整が行われてもよい。冷却チャンネル2では、マルチフィラメント糸に、冷却空気(矢印で示す)が送られる。降ろしガレット4を介して、マルチフィラメント色の引き伸ばしを調整することができる。
【0048】
続いて、ガレット5及び6を延伸させると、ガレット4及び5、又は、5及び6の間におけるそれぞれの延伸係数(drawing factor)x
1又はx
2が達成され得る。そしてマルチフィラメント糸は、さらにガレット4及び5、及び、5及び6、の間において延伸される。マルチフィラメント糸にかかる張力は、張力センサー7において監視可能である。最後に、得られたマルチフィラメント糸は、ボビン8に巻き取られる。