(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成物中に存在する前記熱可塑性物質のうちの少なくとも1種が、前記ポリマーバインダー材料と反応することができる官能基を有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
前記組成物が、少なくとも1種の硬化性ポリマーバインダー材料、少なくとも1種の熱可塑性物質、及び、硬化剤と触媒と開始剤とこれらの混合物とから成る群のうちの少なくとも1つの要素、を含み、前記要素が前記ポリマーバインダー材料を硬化することができることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の使用。
前記硬化性ポリマーバインダー材料が、少なくとも2つのエポキシ官能基を有する化合物、少なくとも2つのカルボン酸官能基を有する化合物、少なくとも2つのヒドロキシル官能基を有する化合物、アクリル酸又はメタクリル酸から誘導された化合物及び/又はこれらの混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
前記組成物中に存在する前記熱可塑性物質のうちの少なくとも1種の溶融粘度が、2.16Kg荷重を用いて160℃でISO 1133に従って試験して10〜500Pasであることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の使用。
【背景技術】
【0002】
ほとんど全ての機械工学分野において、試作品の高速製作が必要とされている。従来技術において既に知られているようなレーザー焼結は、コンベンショナルなポリマー粉末を含む、種々の粉末状材料から高い分解能及び寸法精度を有する三次元物品を直接に製造するのを可能にする、広く行き渡ったラピッドプロトタイピング技術である。試作品又は生産部品はこの方法によって効率的且つ経済的に製造することができる。この方法はしばしば選択的レーザー焼結(Selective Laser Sintering) (SLS(登録商標)、テキサス州Austin在 DTM Corporation)としばしば呼ばれる(本明細書ではSLSと呼ぶ)。
【0003】
SLSはテキサス大学機械工学科のCarl Deckard及びJoseph Beamanによって1980年代半ばに開発された。SLSは、ポリマー粉末を焼結して3Dモデルを生成するために、高出力レーザー、例えばCO
2又はNd:YAGを使用する粉末系3Dモデル製作法である。SLS法では、第1粉末層をステージ上にローラによって均一に堆積し、次いで粉末の融点直下の温度まで加熱する。次いで粉末上をレーザービームによって選択的に走査することにより、局所的温度を粉末の融点まで上昇させ、これにより単独の粉末粒子を融合させる。第1層がこれにより完成した後、第2粉末層を加え、平準化し、そして再び所望のエリア内で焼結する。これらの工程を繰り返して3Dモデルを作成する。選択的レーザー焼結中に酸化を防止するために不活性ガスを日常的に使用する。
【0004】
SLS技術の詳細な説明は、米国特許第4,863,538号明細書、米国特許第5,017,753号明細書、及び米国特許第4,944,817号明細書に見いだすことができる。さらに、米国特許第5,296,062号明細書には、複数の焼結層を含む部品を製造するために粉末層を選択的に焼結する方法及び装置が記載されている。
【0005】
そうした中で、この技術に使用するための種々の粉末が開発された。これに関しては、例えば独国特許出願公開第101 22 492号明細書、欧州特許出願公開第0 968 080号明細書、国際公開第03/106146号パンフレット、又は独国特許出願公開197 47 309号明細書が参照される。
【0006】
米国特許6,136,948号明細書及び国際公開第96/06881号パンフレットには、粉末状ポリマーから成形品を製造するレーザー焼結法が詳述されている。種々様々な熱可塑性ポリマー及びコポリマー、例えばポリアセテート、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリアミドがこれらの文献に開示されている。
【0007】
ポリアミド−12(PA12)粉末は、成形品を製造するため、具体的にはエンジニアリング構成部分を製造するために、SLS業界において特に奏功することが判っている。PA12粉末から製造された部品は、機械的負荷に関して課せられる高度な要件を満たす。欧州特許出願公開第0 911 142号明細書には、SLSによって成形品を製造するためにP12粉末を使用することが記載されている。米国特許第8,124,686号明細書には、SLSに適したPA12を調製する方法が記載されている。
【0008】
米国特許出願公開第2007/0126159号明細書は、成形過程における熱可塑性ポリエステル粉末の使用、及びこのポリエステル粉末から製造された成形品に関する。
【0009】
米国特許第8,247,492号明細書及び米国特許第8,592,519号明細書は、レーザー焼結において有用な繊維で強化された熱可塑性ポリエステル粉末組成物を提供する。この文献はまた、このような粉末組成物から物品を製造する方法に関する。
【0010】
米国特許出願公開2010/0160547号明細書は、焼結用途、例えば3Dプリンティング過程において有用なポリマー粉末組成物を開示している。
【0011】
熱溶解積層法(Fused Deposition Modeling (FDM))は、モールディング、プロトタイピング、及び生産用途のために一般に用いられる別の3Dプリンティング法である。この方法は、材料を層状にレイダウンすることによる「付加(additive)」原理に基づいて作業する。このために、プラスチックフィラメント又は金属ワイヤがコイルから繰り出され、材料を押し出しノズルへ供給する。押し出しノズルは流れをオン・オフすることができる。フィラメントをノズル内へ制御された速度で押し出すウォーム駆動装置が存在するのが典型的である。モデル又は部品は、層を形成するためにノズルを通して溶融材料を押し出すことにより製造される。それというのも材料が押し出し後直ちに硬化するからである。FDMの実施中、高熱溶融ポリマーは空気に晒されるので、不活性ガス雰囲気中、例えば窒素又はアルゴン中でプリンティング過程を行うと、層の付着力を著しく増大させることができ、3Dプリントオブジェクトの機械特性の改善をもたらす。
【0012】
さらに別の3Dプリンティング法では、顆粒床内で材料を選択的に熱溶解させる。この技術は層の部分を熱溶解させ、そして作業エリア内で上方へ向かって移動させ、別の顆粒層を付加し、そしてピースがビルドアップされるまでこのプロセスを繰り返す。この方法は、製造しようとする部品のオーバーハング及び薄壁を支持するために、熱溶解されていない媒体を使用する。このことはピースのための一時的な補助支持体の必要性を減らす。
【0013】
選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting(SLM))は、粉末顆粒の熱溶解のために焼結を用いるのではなく、高エネルギーレーザービームを用いることにより粉末を完全に溶融し、これにより、従来の製造された材料と同様の機械特性を有する充分に緻密な材料を積層法で作成する。
【0014】
選択的熱焼結法(Selective Heat Sintering(SHS))は、3Dオブジェクトを製造するためにレーザービームの代わりにサーマルプリントヘッドを使用する。この方法は熱可塑性粉末を使用するように構成されている。プリンタ内で、ローラが加熱された造形プラットフォームを横切るようにプラスチック粉末層に当てられる。サーマルプリントヘッドは、粉末の上方でオブジェクトの断面をトレースし、最上粉末層を焼結するのに丁度充分な熱を加える。層が完成したら、完成した3Dオブジェクトが形成されるまで、プロセスは次の層で繰り返される。オブジェクトを取り囲む余剰の粉末は、複雑な形状及びオーバーハングのための支持を可能にするのを助ける。未使用の粉末はまた次の3Dプリントのために再使用することもできる。サーマルプリントヘッドはさほど高価ではないので、選択的熱焼結法のコスト全体はSLSよりも手頃である。
【0015】
ここで上述の3Dプリンティング法に使用される材料について考えると、半結晶性熱可塑性樹脂、例えばPA12を使用することの具体的な欠点は、これが収縮の問題を招くこと、ひいては、正確な部品を製造するのが厄介であることである。別の観点では、半結晶性熱可塑性樹脂の使用はまた緻密な部品をもたらす。このことは軽量部品のために高有孔性を有するが、しかしこれとともに部品強度が残されることが好ましいいくつかの用途にとっては有利でない場合がある。このような用途では、非晶質熱可塑性樹脂が、PA12のような半結晶性熱可塑性樹脂よりも好ましい。しかしながら、非晶質熱可塑性樹脂は高い粘度という欠点を有する。高い粘度は、使用される熱可塑性物質の融点を上回る又はガラス転移温度を上回る温度でのみ合体を可能にする。
【0016】
熱可塑性粉末を使用する別の欠点は、これから製造された部品が、高温作業条件では低い寸法安定性しか持たないことである。
【0017】
他方において、化学的に架橋(硬化)されるポリマー、いわゆる熱硬化系(thermosets)は、優れた熱的及び化学的特性を有し、航空機及び自動車産業によって必要とされる構造部品におけるような要求の高い用途においてはこれに代わるものがない。
【0018】
熱硬化性材料(thernoset material)はこれまでのところ、液状形態でのみ、そしてまたレーザーステレオリソグラフィ、つまり液体フォトポリマー浴内で3Dオブジェクトを製作する方法でのみ利用されている。しかしながら、この方法は、液浴内のプリンティング過程のそれぞれのパスの後に製造された暫定的材料を保持するために複雑な支持構造を必要とする。この技術のためには熱硬化性材料は液状形態であることが必要であることにより、材料の種類の選択肢は限られている。
【0019】
米国特許出願公開第2007/0241482号明細書は、電磁輻射線を使用することにより三次元オブジェクトを製造することに関する。この文献に開示された、3Dプリンティングのために使用される材料システムは、熱硬化性材料及び熱可塑性材料から成る群から選択された第1粒子接着剤を含む顆粒材料と、顆粒材料を結合するのに充分なほどに電磁エネルギーに晒されたときに加熱することができる吸収剤(流体)と、を含む。この文献に記載された吸収剤プロセスは、3Dプリンタ内でプリンティング済層に熱を送達する方法を提供する。このようなプロセスにおいて、乾燥粒子造形材料が、造形されるべき物品の断面内で液体堆積物によって処理される。液体は、使用される吸収剤によって粒子造形材料中に固化をもたらす。
【0020】
ハーバード大学ケンブリッジ(Harvard University Cambridge)の研究グループは 「3D-Printing of Lightweight Cellular Composites」(Adv. Mater. 2014, V 26, Issue 34, 5930-5935)について報告した。この文献に記載された繊維強化複合体3D部品は、エポキシ系インクから形成され、3D押し出しプリンティング技術によって製造された。
【0021】
米国特許出願公開第2014/0121327号明細書には、ディールス−アドラー反応を用いて、架橋型粉末を製造する方法が記載されている。このディールス−アドラー系の欠点は、ディールス−アドラー反応のための材料が特異な化学要件を有することに基づき材料の種類が限定されることである。別の欠点は、ディールス−アドラー反応が熱可逆性であり、高い熱安定性を必要とする用途を可能にしない場合があることである。
【0022】
SLS法において、3Dモデルを生成するために高出力レーザー、例えばCO
2及びNd:YAGを使用してポリマー粉末を焼結する。熱硬化性粉末を完全に硬化するためにCO
2レーザーが既に成功裡に使用されている(Lala Abhinandan 26/SPIE Vo. 2374 & J. Laser Appl. 11, 248, 1999; Giuseppina Simane, Progress in Organic Coatings 68, 340-346, 2010)。これらの文献における試験及び結果は2D用途に言及され、3Dプリンティング用途には言及されていない。
【0023】
国際公開第2008/057844 A1 D1号は、強化用粒子とともに、好ましくはレーザー焼結可能な少なくとも1種のポリマー粉末を含む粉末組成物に関する。この文献によれば、レーザービームは、設計の定義された境界内で粉末層を選択的に刺激する。その結果、レーザービームが向かう粉末を溶融させる。制御機構はレーザーを操作して、連続的な粉末層を選択的に焼結し、最終的には、互いに焼結された複数の層を含む完全な物品を製造する。この文献に使用された「レーザー焼結可能なポリマー粉末」という用語は、LS(レーザー焼結:Laser Sintering)機械のレーザービームによって溶融させることができる粉末を意味するように定義されている。
【0024】
XP−002754724(特開20080107369号公報)に記載された複合材料粉末は、選択的レーザー焼結によって成形品を製造するために使用することができる。複合粉末は球状の凝集体と樹脂粉末とを含み、前記球状凝集体は、球状の熱硬化性樹脂硬化用材料と、球状の炭素とを含む。一例として、フェノール樹脂材料及びポリアミド12の使用が開示されている。
【0025】
米国特許出願公開第2004/0081573号明細書に開示されたポリマーバインダー材料は、グリーン(green)物品を形成するために、熱可塑性物質と熱硬化性ポリマーとを、金属粒子及び金属水素化物と一緒に含む。未熱溶解材料をグリーン物品から除去した後、この物品をオーブン又は炉内に入れることによりバインダーを分解して駆除し、そして金属基体粒子を焼結する。プリンティング中、物品の断面に相当する粉末部分に向けられたレーザーエネルギーを印加することによって、粉末を熱溶解又は焼結する。各層内の粉末の熱溶解を軽減した(defuse)後、追加の粉末層を次いでディスペンシングし、そしてこのプロセスを繰り返す。この場合、物品が完成するまで、後の層の熱溶解済部分が前の層の熱溶解済部分に融合する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明との関連において、定義されたT
gもM
pも有しない特定の熱可塑性物質の事例でT
g及び/又はM
pという用語が使用されるときには、この用語は、加熱中に熱可塑性粒子の寸法の最初の変化を観察できたときの温度を意味する。SLSにおける用途以外に、本発明による粉末組成物は、他の技術、例えば熱溶解積層法(FDM)又は選択的熱焼結(SHS)、又は概ね任意の3Dプリンティング法、つまり層内部の熱硬化性材料を少なくとも部分的に硬化し、熱硬化性材料を前の層と少なくとも部分的に架橋し、そして熱可塑性物質の溶融が可能になるのに充分なエネルギーがプリンティング工程の各パスの実施中に提供される3Dプリンティング法を利用することにより、3D部品を製造するために用いることができる。
【0031】
また、硬化性ポリマーバインダー材料と熱可塑性物質との和が総組成物の100wt%にならない場合には、残余は架橋(硬化)剤、触媒、促進剤、流動剤(flow agent)、吸収剤、添加剤、充填剤、可塑剤、顔料、染料、及びこれらの混合物から選択されることは言うまでもない。それというのもこれらは従来技術において既に知られているからである。
【0032】
驚くべきことに、本発明に基づいて製造されたいくつかの3D熱硬化性プラスチックオブジェクトが、高温でより高い可撓性にはなるがしかしなおもプリンティングされた形状のままであるという限りにおいて予期せぬ効果を示すことが判った。この事実はいくつかの熱硬化性粉末塗布用製剤、例えばエポキシ系システム、過酸化物不飽和型ポリエステル系システム、及び特にハイブリッドシステム、つまり少なくとも1種のエポキシ樹脂と少なくとも1種のカルボキシル化ポリエステル樹脂とを含むハイブリッドシステムに関して観察された。
【0033】
本発明に基づいて製造されたいくつかの3D熱硬化性プラスチックオブジェクトを塗布用材料で成功裡に塗布し得ることも判った。具体的には粉末塗布用材料で、さらに具合的には屋外用途の粉末塗布用材料(具体的には屋内用途の粉末材料から成る3D熱硬化性プラスチックを屋外用途のために保護することを目的とする)で、そして特にエフェクト(effect)粒子、例えば金属エフェクト粒子、干渉エフェクト粒子、及びフリップフロップエフェクト粒子を含むエフェクト塗膜で成功裡に塗布し得ることも判った。一方では、3D熱硬化性プラスチックオブジェクトに塗布を施す結果、例えば金属顔料又は他の添加剤を添加することにより本発明の粉末組成物から調製し得るより高価な粉末、例えばエフェクト粉末から完全に形成された3D熱硬化性プラスチックオブジェクトと比較して価格的に有利になり、そして他方では、エフェクト塗膜の反射顔料はプリンティング過程中にSLSレーザーを妨害するおそれがあるので潜在的に技術的に有利になる。
【0034】
本発明に基づいて使用される粉末組成物は硬化性ポリマーバインダー粉末、架橋(硬化剤)、触媒、促進剤、流動剤(flow agent)、吸収剤、添加剤、充填剤、可塑剤、及び顔料を含む、従来技術において既に知られている熱硬化性粉末塗布用製剤を基剤とすることができ、そして3Dプリンティング過程において使用するためのあらゆる材料要件を満たすように改変することができる。このような熱硬化性粉末組成物で製造されたオブジェクトは、(特に繊維強化複合体構成部分に関する)自動車産業及び航空機産業を含む多くの分野において使用することができる。このような分野では、政府によって義務づけられた積極的な燃料経済基準に達するための鍵を軽量材料が握っている。軽量且つ高有孔性のプリンティングされた3Dオブジェクト及び部品のさらなる用途は例えば、スキー板、又は軽量且つ高有孔性であることを必要とする概ねあらゆる3Dスポーツ用具の表面、基底部、膜、及び/又はライニングであってもよい。3Dプリンティング過程において本発明による熱硬化性ポリマー粉末組成物を使用することにより、熱安定性、可撓性、及び弾性が改善された3D物品が提供される。それというのも、これらの物品は、少なくとも1種の熱可塑性物質と一緒に、硬化され架橋された熱硬化性プラスチックを含み、ひいては、熱可塑性物質だけから形成された3D物品のようには溶融可能でないからである。
【0035】
3Dプリンティング過程の溶融/焼結工程中、レーザー、又は一般にはプリンティングヘッド及び/又は任意の他のエネルギーデバイスによって提供されるエネルギー部分は、最上層を貫通し、前にプリンティングされた層の表面上に残された遊離官能基と最上層内の遊離官能基とを架橋反応させ、最終的には、前にプリンティングされた層内部の相互架橋を完成させ、これによりプリンティング済部分の架橋度及び物理特性を改善する。エネルギー密度はポリマー分解を回避するために過度に高くするべきではないが、しかしプリンティング済層間を架橋し、前にプリンティングされた層の架橋度を改善し、そして熱可塑性物質を溶融するのを可能にするのにはなおも十分でなければならない。1つの層からの粉末走査区分は部分的に溶融された(部分的に架橋された)ままであってよく、これに対して次の粉末層は既存の層全体にわたって広がっている。プリントヘッドがこの次の層を走査し、熱作用ゾーンがこの層の全厚に達すると、溶融された粉末は溶融された粉末と化学反応する(
図1)。
【0036】
例えば各層内に非化学量論的にすぎない量の硬化剤を提供することによって、又は触媒が採用される場合の触媒の量又は活性によって、粒径分布によって(溶融のための熱吸収は粒径に依存する。これは、粒子が大きくなるのに伴って、レーザー、或いは一般にはプリンティングヘッド及び/又は任意の他のエネルギーデバイスの同じパス内の硬化のために少量の熱しか残されないことを意味する)、そしてまた各プリンティング済層の個々の厚さによって、本発明によるポリマー粉末の組成物を介して各プリンティング済層内に遊離官能基を提供することもできる。
【0037】
各プリンティング済層の粉末組成物は、プリンティング過程の各パスのエネルギー入力中にまだ完全には硬化されないことがある。
【0038】
本発明の好ましい実施態様によれば、組成物中に存在する熱可塑性物質のうちの少なくとも1種が、硬化性高分子バインダー材料と反応することができる官能基を有する。
【0039】
好ましくは、少なくとも1種の熱可塑性物質は総組成物の5〜20wt%、より好ましくは5〜15wt%の量で存在する。本発明の粉末組成物中に熱可塑性物質を添加する結果、硬化された熱硬化性粉末の可撓性が改善されることが驚くべきことに見いだされた。
【0040】
本発明の好ましい実施態様によれば、使用される組成物は、少なくとも1種の硬化性ポリマーバインダー材料及び少なくとも1種の熱可塑性物質に加えて、硬化剤と触媒と開始剤とこれらの混合物とから成る群のうちの少なくとも1つの要素をも含み、この要素は前記ポリマーバインダー材料を硬化することができる。本発明による方法において化学架橋を利用すると、高密度成形品の製造も可能になる。これらの成形品は、例えば選択的レーザー焼結において従来技術に基づく非晶質熱可塑性システムを使用するときに制限される。用途の要件に応じて、本発明に基づき使用される硬化性ポリマーバインダー材料の製剤は、高密度成形品を得るために適切な硬化剤及び充填剤とともにテーラーメイドすることができる。
【0041】
本発明に基づき使用される粉末組成物は、従って硬化性ポリマーバインダー材料(a)と、少なくとも1種の硬化剤(b)とを含んでよく、(a)と(b)とは互いに反応することにより、硬化網を形成する。触媒及び/又は(UVシステムのための)開始剤を硬化剤の代わりに又は硬化剤と一緒に添加することにより、硬化反応を開始し、又は反応の具体的な化学特性に応じて、開始時に反応を加速することができる。
【0042】
ポリマーバインダー材料は、重付加、及び/又は重縮合、及び/又はラジカル重合によって硬化可能であることも好ましい。このような硬化メカニズムはより具合的な重合を含むこともできる。
【0043】
さらに、本発明の別の好ましい実施態様は、硬化性ポリマーバインダー材料が、炭素二重結合を含む少なくとも2つの官能基を有する化合物、少なくとも2つのエポキシ官能基を有する化合物、少なくとも2つのカルボン酸官能基を有する化合物、少なくとも2つのヒドロキシル官能基を有する化合物、アクリル酸又はメタクリル酸及び/又はこれらの混合物から誘導された化合物、を含む群から選択されることを可能にする。硬化性ポリマーバインダー材料及び硬化剤はこうして、例えば、アミン、アミド、アミノ、ポリフェノール、酸無水物、多官能酸を有するエポキシ、フェノール樹脂を有するエポキシ、カルボキシル化ポリエステルを有するエポキシ(つまりハイブリッドシステム)、ヒドロキシアルキルアミド(HAA)、トリグリシジルイソシアヌラート(TGIC)、グリシジルエステル−エポキシ樹脂(ハイブリッド)を有するカルボキシルポリエステル、ポリイソシアネート(ブロック型イソシアネート又はウレトジオン(uretdione))を有するヒドロキシル末端ポリエステル、GMA−アクリレートシステム(ジカルボン酸で硬化されるエポキシ官能性アクリル樹脂)、カルボキシル−アクリレート(エポキシで硬化されるカルボキシル化アクリル樹脂)、ヒドロキシル−アクリレート(ブロック型イソシアネートで硬化されるヒドロキシル官能性アクリル樹脂)、不飽和型ポリエステル、ポリウレタン/尿素、イソシアネート/アルコール、反応性官能性ポリアミド、エポキシを有するカルボキシル化ポリアミド、熱及び/又はUVラジカル開始剤、IR又はUV硬化性ポリマー、及び/又は前記化合物及び/又はシステムのうちの2種又は3種以上の混合物、から成る群から選択することができる。
【0044】
一般に、本発明に基づいて利用される熱硬化性ポリマー粉末組成物は、硬化メカニズム又はこれらの組み合わせを有する周知の粉末塗膜化学特性に基づくこともできる。いくつかの模範的実施態様を以下に説明する。しかしながら、さらなる組成物を構成することは当業者には明らかである。
【0045】
− エポキシシステム(
図2)、例えばアミンで硬化されるエポキシ、酸無水物で硬化されたエポキシ、ポリイソシアネートで硬化されるエポキシ、フェノール樹脂で硬化されるエポキシ。これらの全てのシステムにおいて、硬化過程は付加反応によって行われる。添付の
図3には、ビスフェノールAエポキシ樹脂の化学構造が示されている。ビスフェノールAエポキシ樹脂は、粉末塗布用製剤中にしばしば使用され、そして選択的レーザー焼結法のための粉末組成物中の硬化性ポリマーバインダー材料として、本発明に基づいて使用することもできる。
図3a及び3bは、典型的な硬化剤、例えばアミン及び酸無水物によるエポキシの硬化反応を示している。
【0046】
カルボキシル化ポリエステルシステム(
図4)、例えばトリグリシジルイソシアヌラート(TGIC)(
図4a)、ヒドロキシアルキルアミド(HAA)(
図4b)、グリシジルエステル(
図4c)で硬化されるカルボキシル化ポリエステル、カルボキシル化ポリエステル硬化型エポキシ樹脂、つまりハイブリッドシステム(
図4d)、ポリウレタン網を形成するための、ポリイソシアネート(ブロック型イソシアネート又はウレトジオン(uretdione))で硬化されるヒドロキシル末端ポリエステル(
図4e及び
図4f)。
【0047】
− アクリルシステム、例えばポリカルボン酸(例えばドデカン二酸(dedecanedioic acid)又はアセライン酸(acelainic acid))で硬化されるグリシジルメタクリレート(GMA−アクリル、
図5)。
【0048】
− 過酸化物触媒又は他の熱開始剤を使用したフリーラジカル重合を介して架橋が発生する不飽和型ポリエステルシステム。さらに、UV又は電子ビームのような電磁輻射線を単独で用いた、又は熱開始剤と組み合わせた硬化も可能である。
【0049】
他の架橋性材料、例えばビニルエーテル、ビスマレイミド、ポリウレタン/尿素、イソシアネート/アルコール、反応性官能性ポリアミド、エポキシを有するカルボキシル化ポリアミド、IR架橋性ポリマーなど。
【0050】
三次元の硬化されたポリマー網を形成するために、本発明に基づいて使用される硬化性ポリマーバインダー材料の平均官能価は2を上回らなければならない。官能化が2未満の場合には、硬化は発生することができない。
【0051】
本発明に基づいて利用される熱硬化性粉末組成物はさらに、機能特性、例えば自己回復特性、形状記憶効果、すぐれた導電性(例えばグラフェンを組み込むことによる)、耐腐食性、及び良好な機械特性を達成し得るように構成することもできる。自己回復特性は、可逆的な結合、例えばジスルフィド結合(−S−S−)、ディールス−アルダー反応抽出物及び/又は生成物をポリマー鎖及び/又は粉末組成物内に利用することによって実現することができる。しかしながら、当業者には明らかなように、熱又は輻射線で処理しながら可逆的な結合の形成/分割を行うことができるさらなる成分を使用して、自己回復効果を導入することもできる。これらの反応性化合物はポリマーバインダー又は架橋剤のポリマー鎖内に存在することができる。さらに、自己回復動作を助けるために、形状記憶材料、例えばポリカプロラクトンを添加することができ、或いは用途が形状記憶効果を必要とする場合にこのような材料を使用することもできる。
【0052】
本発明の好ましい実施態様によれば、硬化性ポリマーバインダー材料は、熱硬化性ポリマー粉末組成物中に、総組成物の10〜70wt%、特に好ましくは20〜60wt%で含有されている。
【0053】
本発明に基づき使用される熱硬化性ポリマー粉末組成物は、マイケル付加反応性成分を利用することができる。反応性成分は多官能性マイケル供与体(アミン、チオール、又はアセトアセテート)と、マイケル受容体(アクリロニトリル、アクリルアミド、マレイミド、アクリレートエステル、アクリレート、マレイン又はフマル官能性成分)とを含んでよい。例えば、アクリレートエステルはマイケル付加反応を介してアミンと反応することができる。その結果として生じた二次アミン−アクリレートアダクトは次いで別のアクリレートエステルと、又は好ましくはエポキシ樹脂と反応して、高度に架橋されたポリマーを形成することができる。マイケル付加化学特性は、さらに光誘起ラジカル重合のための粉末組成物中に用いることもできる。マイケル付加のための触媒はルイス塩基(例えば水酸化物、アミン、アルコール)であってよい。
【0054】
マイケル付加反応のための他の触媒はホスフィン化合物、例えばトリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、及びトリシクロヘキサンホスフィンであってよい。マイケル付加反応のためのさらなる触媒はルイス酸、具体的にはルイス酸金属塩又は有機金属錯体であってよい。
【0055】
さらなる実施態様によれば、硬化性ポリエステルのグリコール化合物の総重量を基準として1〜100wt%の脂環式グリコール化合物を含有する硬化性ポリエステルを、熱硬化性粉末組成物の成分として使用することができる。脂環式グリコール成分は、具体的には2,2,4,4−テトラアルキルシクロブタン−1,3−ジオール(TACD)を含むことができる。各アルキル置換基の炭素原子数は最大10であってよく、アルキル置換基は線状、分枝状、又はこれらの混合物であってよく、ジオールはシス−又はトランス−ジオールであってよい。硬化性ポリエステルはTACDの異性体の任意の可能な混合物を含むことができる。
【0056】
1実施態様によれば、脂環式化合物は2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCD)から成るか、又はこれを含む。
【0057】
別の実施態様によれば、硬化性ポリエステルの脂環式グリコール化合物の総重量を基準として1〜99wt%のTMCD異性体及び99〜1wt%の脂環式1,4−シクロヘキサンジメタノール異性体(CHDM)を含有する混合物が使用される。
【0058】
別の実施態様によれば、少なくとも1つのヒドロキシル基を含有する、脂環式グリコール化合物以外のポリオール化合物も、硬化性ポリエステル中に組み込まれ、硬化性ポリエステルの全てのポリオール化合物の総重量を基準として少なくとも1wt%を示す。これらの熱硬化性ポリエステル樹脂は、屋外用途にとって特に有用であり、硬化完了後に次の特性、すなわち、良好な耐薬品性、良好な加水分解安定性、良好な耐候性、高い耐熱性、高い耐引掻き性、高い衝撃強度、靱性、高い延性、良好な光酸化安定性、透明度、及び可撓性、のうちの少なくとも1つを達成する。
【0059】
[熱可塑性物質]本発明に基づき使用されるべき熱可塑性材料は、例えば熱可塑性樹脂粒子、コア−シェルポリマー粒子、又はゴムエラストマー粒子であってよい。これらの中で、熱可塑性樹脂粒子又はコア−シェルポリマー粒子が好ましい。このようなコア−シェル(多層)ポリマー粒子は、1種又は2種以上の(コ)ポリマー及び1つ又は2つ以上のタイプのコア−シェル粒子、又はガラス転移温度が低いゴムから少なくとも部分的に構成された1種又は2種以上のコポリマーを含む。コア−シェルポリマー粒子は典型的には平均粒径が0.01〜15μm、好ましくは0.01〜10μmであり、そして凝集サイズが5〜50μmであるとともに、コアT
gが約−40℃以下、シェルT
gが約100℃〜120℃である。コア/シェルポリマー粒子の例は、STAPHYLOID(登録商標)製品を含む。STAPHYLOID(登録商標)製品は、コア/シェルタイプの凝集粉末であり、ブタジエン、アクリレート、及びスチレンモノマーのエマルジョン重合によって製造された微粒子、例えばSTAPHYLOID AC3832、STAPHYLOID AC4030、又はSTAPHYLOID AC3364である。本発明に基づいて使用することができるコア−シェルポリマー粒子の他の例は、KUREHA製品、PARALOIDTM衝撃改質剤、及びAlbidur(登録商標)である。また、コア及び/又はシェルの粒径及びT
g値は、好ましくは3Dプリンティングのための基材として乾燥粉末を用いる3Dプリンティング法における使用に適した粉末における使用をT
gが可能にする限り、広範囲内で変化することができる。
【0060】
大まかに言えば、本発明に基づいて使用されるべき熱可塑性材料は、プリンティング工程の各パスで提供される温度に応じて、50℃〜200℃、好ましくは100〜150℃の融点を有し、そして好ましくは、2.16kg荷重を用いて160℃でISO 1133に従って試験して10〜500Pas、より好ましくは50〜250Pas、そして最も好ましくは90〜150Pasの溶融粘度を有する。純粋非晶質熱可塑性材料の場合、非晶質材料のT
gは好ましくは90℃未満であり、より好ましくは70℃未満である。本発明に基づき使用される熱可塑性材料の重量平均分子量MWは10000〜120000、より好ましくは20000〜50000である。使用される熱可塑性材料はポリウレタン、コポリエステル、又はコポリアミドであってよい。例えばスイス国在EMS-Griltexの商品名Griltexのもとで好適なポリマー及びコポリマーを商業的に入手することができ、例えばGriltex 11A, Griltex D1365E, Griltex 1513E, Griltex D2315E, Griltex 1582Eを本発明に基づいて使用することができる。
【0061】
本発明に基づいて使用される粉末組成物は、繊維、例えば直径0.5μm〜10μm及び長さ1〜150μm、好ましくは10〜50μmのウィスカー繊維SiC、炭素繊維、ガラス繊維で強化することができる。繊維は好ましくはセラミック材料、例えば炭化ケイ素(Si−C)マイクロ繊維から形成され、そして異なる官能基を有し、異なる直径及び10〜50μmの長さを有するSi-TUFF (SC-050, SC-110, SC-210, SC-300, SC-310及びS-320)の商品名のもとに入手可能な繊維を使用して、硬化済3D熱硬化性プラスチックの機械特性を強化することができる。
【0062】
[触媒]本発明に基づいて触媒を使用することもできる。大まかに言えば、触媒は、反応において消費されることなしに化学反応速度を高める化合物である。好適な触媒の添加はゲル化時間を短くし、本発明に基づいて使用される粉末組成物の容認し得る硬化を達成するのに必要とされる焼成温度を低くすることができる。触媒は化学反応に対して極めて特異的である。いくつかの模範例が次に挙げられる。ルイス塩基(例えばイミダゾール)、アンモニウム塩、環状アミジン、ルイス酸(例えばルイス酸金属錯体及び塩)、アミノ−フェノール化合物、酸化亜鉛、アミン型化合物、オニウム化合物、ジメチルステアリルアミン、錫オクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫酸化物、スルホン酸/アミン、過酸化物。触媒は典型的には、触媒がどの程度効果的かに応じて比較的低い濃度0.1〜2wt%で組み込まれる。しかしながら必要な場合には、より高い濃度も可能である。
【0063】
[開始剤]本発明に基づき開始剤を使用することもできる。触媒とは対称的に、開始剤は反応において消費される。好適な開始剤は、本発明に基づいて使用される粉末組成物に応じて、そして当業者の知識の範囲内で選択される。
【0064】
いくつかの事例では、やはり本発明に基づき使用される粉末組成物に応じて、硬化剤、触媒、及び/又は開始剤の混合物を使用することができる。
【0065】
[吸収剤]存在するレーザー波長(例えばCO
2レーザーでは10.6μm)のエネルギーを吸収するのに充分な硬化性ポリマーバインダー材料の能力が、SLS法における使用のために必要である。このことはほとんどのポリマーにとって明白である。それというのもこれらのポリマーは脂肪族化合物(C−H)から成るからである。これらのポリマーは大部分の事例において、10.6μm輻射線の関連部分を吸収するのに充分な「フィンガープリント(fingerprint)」赤外領域内にいくつかの基振動(group vibrations)を有する。吸収能力が乏しい場合には、レーザーエネルギー出力を増大させることにより効果を補償することができる。しかし、高いレーザー出力はポリマー分解を引き起こすおそれもあり、従ってこの効果を補償するために、本発明に基づいて使用される粉末組成物に吸収剤を添加することができる。
【0066】
粉末組成物は、レーザー硬化のために最適な波長で所望の吸収を生じさせる吸収剤を含むこともできる。吸収剤は例えば、CO
2レーザーにとって特異的な10.6μmの波長で吸収するように構成されていてよい。吸収剤は、本発明に基づき使用される高分子粉末組成物と一緒にブレンドすることができる。吸収剤の一例は、具体的にはIR範囲の電磁輻射線を使用するSLS法のためにはカーボンブラックである。カーボンブラックが好ましいIR吸収剤ではあるものの、他の顔料、例えば酸化鉄又はキノイドリレンジカルボキシイミドを使用することもできる。熱硬化性粉末組成物が所期範囲内でそうすることができないならば、吸収剤は光エネルギーをポリマー熱硬化性粉末組成物の熱に変換するべきである。
【0067】
[充填剤]本発明による粉末組成物は充填剤材料を含んでもよい。粒子充填剤は総組成物の最大50wt%であり、好ましくは20〜30wt%である。充填剤材料は不活性充填剤又は活性充填剤を含むか又はこれから成っていてよく、そして例えば炭酸塩系鉱物充填剤、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、カオリン、タルク、マイクロマイカ、アルミナ水和物、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、パーライト、ナノ充填剤、顔料、例えば二酸化チタン(例えばアナターゼ及び/又はルチル型)、遷移金属酸化物、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、ホスフェート、ボレート、シリケート、及び有機充填剤、例えばコポリマー、エラストマー及び熱可塑性物質のようなポリマ粉末から成る群から選択することができ、これらを単独で、又はこれらの材料のうちの2種又は3種以上の混合物として使用することができる。また本発明による粉末塗膜生産(硬化済又は未硬化)及び3D乾式プリンティング過程の廃粉末は、製品の要件に応じて充填剤として使用することもできる。
【0068】
[流動剤]3Dオブジェクトの製造中に溶融及び粉末の流れを改善するために、本発明に基づいて使用される熱硬化性ポリマー粉末組成物に流動剤を添加することができる。好ましくはこの流動剤はほぼ球形を有している。流動剤は例えば、水和シリカ、非晶質アルミナ、ガラス状シリカ、ガラス状ホスフェート、ガラス状ボレート、ガラス状酸化物、チタニア、タルク、マイカ、ヒュームドシリカ、カオリン、アタパルジャイト、ケイ酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸マグネシウム、及び/又はこれらの混合物から成る群から選択された、粒径が20ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満である無機粉末物質であってよい。流動剤は、3D乾式プリンティング法において採用される積層法によって積層中に樹脂粉末を流動させ平準化させるのに充分な量だけで存在する。本発明に基づき使用される熱硬化性ポリマー粉末組成物が総組成物の5wt%未満、より好ましくは0.05〜2wt%、特に好ましくは0.05〜1wt%を占めることが好ましい。有機流動添加剤を本発明の組成物のために使用することもできる。
【0069】
本発明に基づいて使用される熱硬化性高分子粉末組成物は、少なくとも1種の非晶質ポリマーバインダー、及び場合によっては好ましくは総バインダー含有量の0〜49wt%の1種又は2種以上の(半)結晶性ポリマー粉末バインダーを1つの選択肢として、好ましくはシステムの溶融粘度を調節するための他の添加剤とともに含むことが好ましい。非晶質ポリマーバインダーは、粉末の粒径に応じて、極めて良好な寸法安定性と、フィーチャ分解能と、表現仕上げとを有する部品を製造することができる。
【0070】
[粒子の粒径]粒子の粒径はそれぞれの3Dプリンティング済オブジェクトの精度及び密度に大きく影響する。高精度の3Dオブジェクトをプリンティングするには、粒径がより小さいことが好ましい。他方において、高分子粉末組成物の粒径があまりにも小さいと、粉末を広げることが難しくなる。なぜならば、これは粉末を自己再結合させるからである。ミリング(milling)のコスト、3Dオブジェクトの精度及び密度、そして粉末を広げる難しさを考えると、熱硬化性ポリマー粉末組成物の平均粒径は1〜250μm、好ましくは20〜100μm、より好ましくは40〜80μmが選択される。これと相俟って、硬化性高分子バインダー材料が粒径分布内に少なくとも2つの最大値を有していることも好ましい。これらの最大値は少なくとも1.5倍だけ、好ましくは2倍だけ差がある。潜在的に有用な粒径は、D10=12〜15μm、D50=30〜40μm、及びD90=60〜80μmの粒径を含む。
【0071】
[粒子の形状]粉末粒子の真球度は、粉末の流動特性に大きな影響を与える。一般に、粉末粒子の真球度が高ければ高いほど、良好な粉末流動特性をもたらす。このことは平滑な粉末床を得るのに重要であり、そしてさらに、前の層のプリンティング/焼結過程が完了した後の、薄い粉末層の正確な被着を単純化する。さらに、粉末粒子の真球度が3D熱硬化性プラスチックオブジェクトの分解能及び密度、そしてさらに、採用された粉末の再使用可能性に影響を与えることもある。一般に、粒子の真球度(S)は、粒子(Ap)の表面積に対する、その粒子と同じ容積を有する球体の表面積(As)の比として定義される。従ってS=As/Apである。しかしながら、粒子の表面積は具体的には複数の粒子に関して測定が難しいことがあるので、例えばドイツ国在Malvern Instruments GmbH, www.malvern.com.から入手可能なSysmex FPIA-3000のような商業的に入手可能な装置において実施される先進的な方法が開発されている。
【0072】
1実施態様によれば、平均真球度は、粒子の真円度を平均することにより定義される。粒子の真円度は、粒子の周囲によって包囲された最大面積に等しい面積を有する円の周囲を前記周囲によって割り算した値によって割り出される。
【0073】
1実施態様によれば、平均真球度は、平均真球度を計算するために粒子の一部だけを含むように、具体的には塗布用材料の最大粒子を塗布用材料全体の80%の量まで含む、粒子の一部だけを含むように定義される。
【0074】
1実施態様によれば、粒子の真球度は少なくとも0.7、具体的には少なくとも0.8、そしてさらに、具体的には少なくとも0.9である。
【0075】
さらなる実施態様によれば、平均真球度は0.90〜0.97、好ましくは0.93〜0.97である。
【0076】
本発明に基づいて使用される熱硬化性ポリマー粉末組成物の製造法、主にミリング法は、かなり高い軟化温度を有する樹脂(ポリマーバインダー材料)成分を必要とする。本発明に基づいて使用されるポリマーバインダー材料のガラス転移温度及び/又は融点(融点があるならば)温度は、40℃を上回ることが好ましい。さもなければ、材料はミリング過程中に熱溶解してしまうか、又は極低温ミリングを必要とすることになる。当該粉末組成物のためのポリマーバインダー材料は、ガラス転移温度及び/又は融点に関するこのような要件に基づいて選択されることが好ましい。この特性は一般に、比較的硬質(脆弱)な、部分的に硬化されたプリンティング済3Dオブジェクトをもたらすので、製造される3Dオブジェクトの可撓性のバランスをとり、この可撓性を最適なレベルにするためには、ポリマーバインダー材料を効果的に充分に硬化することが必要である。
【0077】
本発明に基づいて使用される熱硬化性ポリマー粉末組成物の粒子の凝集は回避されなければならない。粒子が小さければ小さいほど、表面エネルギー効果がより高くなる。粒子が極めて小さい場合、凝集体はより形成されやすくなり、凝集体はもはや流動化されなくなり、その結果、製造された膜内に染み及び平準化欠陥が形成される。
【0078】
本発明に基づいて使用されるポリマーバインダー材料の数平均分子量(M
n)は好ましくは1,000〜15,000 Dalton、より好ましくは1,500〜7,500 Daltonである。硬化性ポリマーバインダー材料の機械特性、例えば可撓性及び衝撃強度は大部分は数平均分子量(M
n)に依存するのに対して、粘度は重量平均分子量(M
w)の関数である。物理特性を最大化し、低い溶融粘度を保持するために、多分散性(M
w/M
n)は統一に近づくべきである。本発明に基づいて使用される硬化性ポリマーバインダー材料の分子量は、バインダー材料のT
g及び/又はM
p(融点が存在する場合)に影響を与える。既に述べたように、本発明に基づいて使用されるポリマーバインダー材料のT
g及び/又はM
pは少なくとも40℃、好ましくはこれよりも高くあるべきである。T
g及び/又はM
pは、粉末の、場合によっては冷却された貯蔵及び配送中の焼結及び凝集に抵抗するのに充分なほど高くなければならないが、しかし最大限の流動及び平準化を促進するのに充分なほどに低くなければならない。
【0079】
本発明はまた3Dプリンティング法、好ましくはSLS法であって本明細書中に記載された熱硬化性ポリマー粉末組成物が使用される3Dプリンティング法を含む。
【0080】
好ましくは、本発明に基づいて使用される熱硬化性ポリマー粉末組成物の流動化を支援するために、すなわち粉末床の調製時、そして溶融/軟化中の両方における粉末の流動化を支援するために、添加剤が添加され、且つ/又は、例えば粉末組成物の粒子表面がナノ粒子で覆われる。3D乾式プリンティング法のために使用される組成物は低い溶融粘度を有するべきであり、ひいては本発明に基づいて使用される粉末組成物のポリマー成分は好ましくは、40℃を上回る比較的高いガラス転移温度及び/又は融点を有するためだけではなく、低い平均分子量を有するためにも選択される。溶融粘度を最適化するために結晶性ポリマーを組成物に添加することができる。結晶性ポリマーを組成物に添加することにより溶融粘度を最適化することができる。なぜならば、結晶性ポリマーは比較的シャープな融点と、低い溶融粘度とを有しているからである。
【0081】
本発明に基づき使用される粉末組成物の、架橋開始前に合体して流動するための溶融後の時間は短いものにすぎない。従って、ポリマーバインダー材料の溶融粘度、官能性、及び反応速度を注意深く制御しなければならない。
【0082】
例えばSLS法では、粉末床を先ず加熱システムによって部品床温度(part bed temperature)(T
b)と呼ばれる温度まで前加熱する。T
bを可能な限り高い温度で、しかし使用される粉末組成物中に含有されるポリマーの軟化温度点(T
s)を上回ることのない温度で操作することにより、部品歪み及びレーザー出力を低減することができる。さもなければポリマー粉末は互いにくっつき、自由に流動することができなくなる。
【0083】
本発明において、「溶融」又は「溶融する」という用語、又はこれらの任意の変化形は、非晶質材料の場合には(T
g以上での)軟化のために、且つ/又は(半)結晶性材料の場合には(M
pでの、又はシャープなM
pが存在しない場合には融点範囲内での)物理的溶融のために使用される。非晶質ポリマーは、硬化性ポリマーバインダー材料として本発明において好ましく使用されるので、それを下回ると固体になるガラス転移温度(T
g)を示すが、しかしシャープな融点(M
p)を示しはしない。これらの粒径及び分子量に応じて、非晶質ポリマーはT
g近くの温度まで予熱され、次いで軟化され/かつ(半)結晶性材料の場合には、3Dプリンティング過程中に温度がさらにT
g又はM
pを上回ると溶融される。T
gを上回ると、非晶質ポリマーは先ず革状又はゴム状になり、そしてさらに温度が上昇するとこれらは液体に転じる。対照的に、(半)結晶性ポリマーはかなりシャープな融点を示し、(半)結晶性ポリマーのT
gは、DSC測定で割り出すことができるように一般にはM
pよりも低い。1実施態様によれば、粉末床温度T
bはT
gに近いままであるべきであるが、しかしT
gを超えるべきではない。さもなければ、非晶質ポリマー粉末の粒子はくっつき合い、粉末の分配は難しくなる。別の実施態様によれば、粉末床温度T
bはT
gよりも僅かに高くてもよい。
【0084】
SLS法において、レーザー輻射線、具体的には波長約10.6μmのCO
2レーザー光を使用して、熱硬化性ポリマー粉末組成物を選択的に焼結/溶融し、これにより層を液体に変換する。レーザー吸収によって生成された熱のもとでは、硬化(架橋)反応も選択領域内部で発生し、ひいては、この層の少なくとも部分的な硬化/架橋をもたらす。加えて、前にプリンティングされた層との/層に対する、まさにこの層の硬化/架橋が発生し、この場合、次にプリンティングされる層との硬化/架橋を可能にするために、まさにこの層内にある程度の量の官能基を未反応のままなおも残す。局所的には最上粉末層内の粒子の完全な合体が必要であり、しかも前にプリンティングされた層との(硬化/加工反応を介した)付着も必要である。このような局在化された硬化は、処理条件、試料の熱伝導性、及び反応物質の混合物を注意深く選択することによって最適化することができる。好ましくは、レーザーパラメータの好ましくは自動的な制御を伴う走査システムが使用される。レーザーパラメータは、レーザー出力、パルス繰り返し率、走査周波数、走査速度、及びレーザービームのサイズを含む。本発明に基づき使用される熱硬化性粉末材料に関して、それぞれの層の形成時の硬化(架橋)度は、例えば、材料中に存在する硬化剤の量、樹脂と硬化剤との比、もし存在するならば触媒の量、粒径分布PSD、並びに、それぞれのプリンティングされる層の厚さによって制御することができる。1つの層をプリンティングするときに部分的な硬化(架橋)だけをもたらすと、遊離官能基が残され、ひいては、この層と直前にプリンティングされた層との硬化/架橋、並びに次にプリンティングされる層との硬化/架橋が可能になる。
【0085】
3Dプリンティング過程のそれぞれの工程中、粉末化された熱硬化性ポリマー粉末組成物の混合物は、厚さが好ましくは100〜200μm、より好ましくは100μmでターゲットエリアに被着される。用いられる3Dプリンティング法に応じて粉末層が平滑面を形成するように平準化されたら、この粉末層を短いエネルギー爆発に晒し、例えばSLS法の場合には、好ましくは10.6μmの波長で典型的には5ワット(最大200ワット)のCO
2レーザーからの輻射線に晒す。集束ビームの直径は、試料の加熱を合理的に小さな領域に限定するために400〜700μmであることが好ましい。レーザーのエネルギーは例えば50ワットで一定に保たれていると、走査速度を変化させることによって、暴露強度を制御することができる。走査速度は1mm/sから12,000mm/sまでの範囲で調節することができ、そして好ましくは100〜800J/cm
3のレーザー強度において2,000〜6,000mm/sで設定される。
【0086】
レーザー、又は一般にはプリンティングヘッド、及び/又は任意の他のエネルギーデバイスが試料全体にわたってあまりにも高速で走査されると、硬化がまったく達成されないことがある。なぜならば、1つのスポットも硬化を開始するのに充分なエネルギーを吸収しないからである。他方の極限において、走査速度があまりにも低いと、スポットが過熱され、堆積されたエネルギーが輻射エリアから外方へ向かって広がり、ひいては所期のものよりも大きい面積を硬化することになる。各層の形成中における好適な硬化度を可能にするように、そして前の層及び/又は次の層との硬化/架橋のために層内部に遊離官能基を残すように、上記パラメータから選択することは、当業者の知識の範囲に含まれる。
【0087】
レーザービームの使用を含む3Dプリンティング法の場合、そしてレーザーエネルギーを強力には吸収しない粉末材料で作業する場合、吸収深さはレーザービームの焦点深度を超える場合がある。このような場合には、焦点深度は、試料の表面に対して垂直の方向にレーザーエネルギーを閉じ込めることを一番に確定するファクタとなると考えられる。焦点深度を超えると、レーザーエネルギーは充分に減少して、硬化がもはや誘発されなくなる。
【0088】
レーザー間隔(ハッチ間隔)は通常、レーザービーム直径よりも小さい。成形品の断面は、レーザー間隔があまりにも大きいと焼結されない場合があり、目下、レーザー間隔は通常200〜300μmであり、好ましくは200μmである。それぞれのレーザーパスは、熱硬化性ポリマー粉末組成物を熱溶解させ、その硬化を開始させる。それぞれの連続するレーザービームパスによって、このとき形成された膜も先ず熱溶解され、同時に膜内部で硬化が開始され、これに加えて膜はまた、前のパス中に形成された膜と架橋される。このプロセスは、所望の3Dオブジェクトが完成するまで層毎に繰り返される。
【0089】
さらに、本発明に基づき製造された3D熱硬化性プラスチックオブジェクトは、粉末塗布用材料及び液体塗布用材料の両方で容易に塗布することができる。粉末塗布用材料は、スプレー法によってプリンティング済の3D熱硬化性プラスチックオブジェクトの表面上に被着することができ、次いで炉内で例えば10〜20分間にわたって約170〜180℃で硬化することができる。塗膜は機能塗膜、例えば耐候性、屋外用途、又は高い耐薬品性であるように構成された塗膜であってよい。さらに、特定の表面デザインを提供するのに有用な塗布用材料、例えばカラー塗膜、艶消し塗膜、光沢塗膜、又は金属硬化塗膜を被着することができる。さらに、3D熱硬化性プラスチックオブジェクトに塗膜を施すことにより、表面仕上げの粗さ及び有孔性が低減される。
【0090】
もちろん、インクジェット法又はトナー、具体的には熱硬化性材料を有するトナー、より具体的には3D熱硬化性プラスチックオブジェクトの表面上の基と反応し得る熱硬化性材料、そしてさらに具体的には輸送可能な転写エレメント(例えば転写フォイル)を介したトナー材料転写(=間接印刷)を用いることによって、本発明に基づいて製造された3D熱硬化性プラスチックオブジェクトの表面上にプリントを施すことも可能である。こうすることによって、望ましい視覚的感触的効果、具体的には触覚効果をプリンティング済3D熱硬化性プラスチックオブジェクトの表面において達成することができる。
【0091】
プリンティング済部品の最終用途が高い性能を必要とする一方で、オブジェクトがプリンティング済部品の複雑なきめ細かい構造とともに高い分解能と寸法精度とを有することも必要とされる場合、完成した3Dオブジェクトの付加的な熱処理工程である後硬化(post curing)が必要なこともある。本発明による方法によって、周知の3Dプリンティング技術を用いた場合に、完成した3Dオブジェクトの、90%を上回る硬化度を得ることが可能であり、このようなオブジェクトは高い機械強度を示すものの、低い分解能、並びに低い寸法精度及び/又は幾何学的精度しか示さないことが判った。完成した3Dオブジェクトの付加的な熱処理工程である後硬化を用いると、高い強度、良好な性能、並びになおも高い分解能及び良好な寸法精度を有するプリンティング済部品を得ることができる。
【0092】
後硬化は例えばプログラミング可能なThermoconcept KM 20/13チャンバ炉内で実施することができる。5〜10℃/hで50から140℃までの温度勾配を用いて、処理を140℃で最小2時間にわたって続けると、部品変形なしに最良の結果が得られる(下記例7〜9参照)。他の後硬化条件及び/又は装置を用いることもできる。
【0093】
驚くべきことに、固有に感熱性の熱硬化性ポリマー粉末組成物は、主に新鮮な粉末との混合を伴って、そしてまた新鮮な粉末との混合なしで再使用することができる。供給物からの余剰の粉末、オーバーフロー容器、及びプリンティング過程の完了後の粉末床からの余剰の粉末を再使用することができる。熱可塑性粉末の再使用は日常的に行われているが、しかし熱硬化性粉末の再使用は困難である。それというのも、熱硬化性粉末は高温及び処理に関して著しく感受性が高いからである。熱硬化性ポリマー粉末組成物を再使用する可能性を確認するために、30時間の造形ジョブ(=プリンティング過程)後の供給物及びオーバーフロー容器内に残った粉末を、さらなる改変を伴わずに、また濾過なしで再使用した。調査を完成させるために、種々異なるパラメータで製造された引張バーを試験した。加えて、ベンチマーク部品を製造することにより、再使用された粉末を有する部品の分解能をチェックした。造形エリアの左右にある両供給物容器から、そしてSLS DTM Sinterstation 2500機械の最も左側の角隅及び最も右側の角隅に位置するオーバーフロー容器から粉末を捕集した。層堆積後に残された粉末でオーバーフロー容器を充填した。この粉末は供給物容器を起源としており、これは造形ジョブ中に異なる形に改変されていないので、同様の熱履歴を有する。プリンティング過程後の粉末の組成は、ほぼ50%の供給物と、50%のオーバーフロー粉末とから成った。
【0094】
部品(ベンチマーク部品及び引張りバー)を商業的レーザー焼結機械であるDTM Sinterstation 2500上で造形し、次いで加熱速度10℃/hrで室温から140℃までこれらの部品をThermoconcept KM 20/13チャンバ炉内で後硬化した。次いで140℃でさらに5時間にわたって部品を炉内に残し、その後、10℃/minの冷却速度で室温まで部品を冷却した。
【0095】
別のプリンティング過程のために以前に使用されてより長い期間にわたって貯蔵された本発明に基づいて使用された熱硬化性ポリマー粉末組成物を再使用して、優れた表面品質及び良好な分解能及び安定した処理特性で部品をプリンティング(造形)することが可能であった。粉末の流動性は新鮮な粉末と同様であり、そして粉末床のエッジにいくつかの小さな欠陥があるにもかかわらず、造形ジョブ全体を通して流動性は滑らかであった。再使用される粉末内に凝集体が残されていないことを確実にするために、次の造形ジョブにおける処理前に一度、使用済粉末を篩過することが推奨される。後硬化を施された部品の引張弾性率(tensile modulus)及び引張強度は、新鮮な粉末から成る部品と比較して25%だけ低減される。これは、粉末が時間とともに、そして温度とともに老化することを示している。所定のパーセンテージの使用済粉末(供給物容器、オーバーフロー容器内の粉末、及び粉末床チャンバ内の未焼結粉末)を篩過し、新鮮な粉末と混合し(20〜80wt%)、そしてポリアミド12にとっては一般的であるように、次の造形ジョブのために機械上で使用し得ることは明らかである。
【0096】
試験法:
ロードセル5kNを備えたZwick/Roell Z100万能試験機械上でDIN EN ISO 527に従って、引張特性(引張強度、引張弾性率、及び破断点伸び)を測定した。クロスヘッド速度は、弾性率(E Modulus)の割り出しに関して1mm/minであり、弾性率は、歪み範囲0.1〜0.25%の線形回帰によって得られた。0.25%の歪みに達した後、クロスヘッド速度を、試験の残りに対して50mm/minまで高めた。
【0097】
部品の示差走査熱量測定(DSC)を、試料重量7〜10mgでMettler-Toledo DSC 30を用いて実施した。試料を、硬化度評価のために25〜300℃までの窒素雰囲気下で20℃/minで加熱した。2つの最も一般的な手段、すなわち1)受容された状態の材料(われわれの事例ではSLS機械から直接に受容されたプリンティング済部品)中の残留硬化を定量化すること、及び2)ガラス転移温度のシフトを測定すること、を介して硬化度を評価することができる。100%未反応の材料の反応熱を知ることによって、試料の硬化度を計算することができる。DSCの発熱形成によって、又は所定の温度における時間に伴うガラス転移T
gの変化(5%未満のシフト)によって、完全硬化を測定することができる。
【0098】
融点(M
p)の測定法:
本発明によれば、ポリマーの融点(M
p)を、ISO 11357−3に基づくDSC測定によって割り出した。20K/minの加熱速度を用いて測定を行った。融点に関して本発明において述べられた値は、規格において述べられたピーク溶融温度(Peak Melting Temperature)を意味する。
【0099】
ガラス転移温度(T
g)の測定方法:
本発明によれば、ポリマーのガラス転移温度(T
g)を、加熱・冷却速度20K/minでDSC測定によって割り出した。測定は、いくつかの僅かな変更を伴うISO 11357−2に基づいた。ポリマーを先ず25℃から80℃まで加熱し、この温度を1分間にわたって保持し、−20℃まで冷却し、この温度を再び1分間にわたって保持した。第2工程では、ポリマーを130℃まで加熱し、これをT
gの割り出しのために使用した。吸熱工程の変曲点を評価することによってT
gを割り出した。
【0100】
数平均分子量の測定法
・ 半結晶性ポリエステル
半結晶性ポリマーバインダー材料の数平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィによって割り出す。溶離剤として、1ml/minの流量でクロロホルムを使用した。狭い分布のポリスチレン基準によって分離カラム(それぞれ8mm × 300mmの3つのカラム、PSS SDV,5μm,100,1000及び100000Å)の較正を行い、そして屈折率検出器を介して検出を行った。
【0101】
・ 非晶質ポリエステル
非晶質ポリマーバインダー材料の数平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィによって割り出す。溶離剤として、1ml/minの流量でテトラヒドロフランを使用した。狭い分布のポリスチレン基準によって分離カラム(それぞれ8mm × 300mmの2つのカラム、PSS SDV,5μm,100,1000及び100000Å)の較正を行い、そして屈折率検出器を介して検出を行った。
注:結晶法だけが承認されている。他方はPSS(我々がGPCを購入する企業)によって試験された。しかしこれは現時点での我々の最良の推量である。
【0102】
Mastersizer 2000 (Scirroco 2000)を使用したレーザー回折技術によって粉末の粒径分布を測定した。
【実施例】
【0103】
例
比較例1:
T
g69℃の600部のUralac(登録商標)P3490 (DSM)、飽和型カルボキシル化ポリエステル樹脂と、融点(DSC, ISO 11357-1)90〜102℃の45部のAraldite(登録商標)PT-910 (Huntsman)と、320部の二酸化チタン(Kronos(登録商標) 2160, Kronos Titan GmbH)と、15部のResiflow PV 5 (Worle'e-Chemie GmbH)と、軟化点10〜110℃の8部の促進剤DT-3126 (Huntsman)と、M
p134℃の7部のBenzoinとから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、後ゾーン温度80℃及び前ゾーン温度90℃を用いてスクリュー速度400rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。押し出し機の別の設定において、温度勾配40〜100℃、及び供給エリアのための冷却装置を用いた。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が80μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0104】
比較例2:
T
g69℃の600部のUralac(登録商標)P3490と、融点(DSC, ISO 11357-1)90〜102℃の45部のAraldite(登録商標)PT-910 (Huntsman)と、15部のResiflow PV 5 (Worle'e-Chemie GmbH)と、8部の促進剤DT-3126 (Huntsman)と、7部のBenzoinと、10部の短炭素繊維とから、混合物を構成した。使用される炭素繊維の平均長さは60μmであり、Tenax(登録商標)-A HAT M100 (Toho Tenax Europe GmbH)の製品名で得ることができる。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、後ゾーン温度90℃及び前ゾーン温度100℃を用いてスクリュー速度400rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。押し出し機の別の設定において、温度勾配40〜100℃、及び供給エリアのための冷却装置を用いた。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が100μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0105】
比較例3:
T
gが約51℃の500部のUralac(登録商標)P1580 (DSM)、飽和型OHポリエステル樹脂と、T
gが約48℃のVestagon(登録商標)B 1530 (Evonik)と、15部のResiflow PV 5 (Worle'e-Chemie GmbH)と、7部のBenzoinとから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、後ゾーン温度90℃及び前ゾーン温度100℃を用いてスクリュー速度400rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。押し出し機の別の設定において、温度勾配40〜100℃、及び供給エリアのための冷却装置を用いた。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が100μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0106】
比較例4:
T
g55℃の790部のUralac(登録商標)P6401 (DSM)、飽和型カルボキシル化ポリエステル樹脂と、融点88〜98℃の60部のTGIC PT 810(Huntsman)と、15部のResiflow PV 5 (Worle'e-Chemie GmbH)と、5部のBenzoinと、350部の二酸化チタン(Kronos(登録商標)2160, Kronos Titan GmbH)とから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、後ゾーン温度90℃及び前ゾーン温度100℃を用いてスクリュー速度400rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。押し出し機の別の設定において、温度勾配40〜100℃、及び供給エリアのための冷却装置を用いた。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が100μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0107】
比較例5:
350部のUralac(登録商標)P3450 (DSM)、飽和型カルボキシル化ポリエステル樹脂と、軟化点95〜101℃の150部のAraldite(登録商標)GT 7004(Huntsman)と、7部のResiflow PV 5 (Worle'e-Chemie GmbH)と、4部のBenzoinと、230部の二酸化チタン(Kronos(登録商標) 2160, Kronos Titan GmbH)とから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、後ゾーン温度90℃及び前ゾーン温度100℃を用いてスクリュー速度400rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。押し出し機の別の設定において、温度勾配40〜100℃、及び供給エリアのための冷却装置を用いた。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が100μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0108】
比較例6:
T
g57℃の350部のUVECOAT 2100 (Allnex)、不飽和型ポリエステル樹脂と、13部の光開始剤と、6部のMODAFLOW(登録商標) Powder 6000と、2部のベンゾインとから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、後ゾーン温度90℃及び前ゾーン温度100℃を用いてスクリュー速度400rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。押し出し機の別の設定において、ゾーン温度40/60/80/100/90℃、及び供給エリアのための冷却装置を用いた。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が80μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0109】
比較例7:
T
g62℃の440部のCrylcoat 1506-6 (Allnex)、飽和型ポリエステル樹脂と、軟化点95℃の290部のAraldite(登録商標)GT7220 (Huntsman)と、T
g68℃の25部のReafree C4705-10 (Arkema)と、10部のEutomer B31 (Eutec Chemical)と、15部のPowderadd 9083 (Lubrizol)と、2部のTinuvin 144 (BASF)と、230部のTitan Tiona RCL 696 (Cristal)とから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、ゾーン温度40/60/80/100/90℃及び供給エリアのための冷却装置を用いてスクリュー速度600rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が100μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0110】
例8:組成物が熱可塑性物質を含む
T
g62℃の440部のCrylcoat 1506-6 (Allnex)、飽和型ポリエステル樹脂と、軟化点95℃の290部のAraldite(登録商標)GT7220 (Huntsman)と、T
g68℃の25部のReafree C4705-10 (Arkema)と、10部のEutomer B31 (Eutec Chemical)と、15部のPowderadd 9083 (Lubrizol)と、2部のTinuvin 144 (BASF)と、118部のTitan Tiona RCL 696 (Cristal)と、100部の熱可塑性物質(Staphyloid 3832)であって、コアのT
gが約−40℃であり、シェルのT
gが約100℃であるコア−シェル多層有機微粒子である熱可塑性物質とから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、ゾーン温度40/60/80/100/90℃及び供給エリアのための冷却装置を用いてスクリュー速度600rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が100μm未満の粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0111】
比較例9:組成物がウィスカー繊維を含む
T
g62℃の440部のCrylcoat 1506-6 (Allnex)、飽和型ポリエステル樹脂と、軟化点95℃の290部のAraldite(登録商標)GT7220 (Huntsman)と、T
g68℃の25部のReafree C4705-10 (Arkema)と、10部のEutomer B31 (Eutec Chemical)と、15部のPowderadd 9083 (Lubrizol)と、2部のTinuvin 144 (BASF)と、165部のTitan Tiona RCL 696 (Cristal)と、50部のSi−Cミクロン繊維(Si-TUFF, SC 210)とから、混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、ゾーン温度40/60/80/100/90℃及び供給エリアのための冷却装置を用いてスクリュー速度600rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、D50が100μm未満の(ウィスカー繊維Si−Cで強化された)粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0112】
例10:SLS法を用いた熱硬化性3D部品の製造
例1〜7の粉末を使用して、次のようにSLS法によって3D物品(
図6)を製造した。例1〜7の粉末のそれぞれをDTM Sinterstation 2000 (米国テキサス州Austin 在DTM Corporation)の造形表面ステージ(build surface stage)に被着した。SLS法の各工程中、例1〜7の粉末を100μmの厚さ範囲内でターゲットエリアに塗布した。粉末層が平準化されて平滑な表面を形成したら、これを、約2,500〜5,000mm/sの走査速度、2〜4の走査カウント数で、そして0.2mm〜0.3mmの走査間隔で、10.6μmの波長を有する10〜30WのCO
2レーザーからの輻射線に晒した。粉末は充分に良好な流動性を有し、その結果、平滑で平準化された粉末床をもたらした。部分床温度は50℃〜80℃の範囲内にあり、この範囲ではカールは発生しなかった。
【0113】
部品の製造に必要となるエネルギー入力は10〜40Wであった。最高エネルギー入力で焼結された部品は、SLS処理後に申し分のない特性を示す。既に述べたように、エネルギー入力を変化させることにより、硬化度を変化させることができる。
【0114】
図7は、本発明による粉末組成物を使用して3つの同一の3D部品をプリンティングした結果を示している。部品は5.76mmの総造形高さを有し、そして上述のSLS DTM Sinterstation 2000によって下記の3つの異なるプロセスパラメータを用いて製造した。
(a) エネルギー密度25.2kJ/m
2(252J/cm
3)、レーザー出力16W、走査カウント数2、走査速度5,000mm/sで部品を製造し、
(b) エネルギー密度31.5kJ/m
2(315J/cm
3)、レーザー出力10W、走査カウント数2、走査速度2,500mm/sで部品を製造し、そして
(c) エネルギー密度がやはり31.5kJ/m
2(315J/cm
3)、レーザー出力が10Wであるが、しかし走査カウント数4、走査速度5,000mm/sで部品を製造した。
【0115】
こうして造形された部品は、サンドブラストされるのに充分に強固であり、しかも余剰の粉末を除去しやすかった。ほとんどの繊細なフィーチャがこの処理を乗り切った。部品(b)及び(c)は、スリット及び孔が開いた状態でより良い結果を示す。このことは良好な部品分解能の極めて重要な指標である。Z方向における側方の成長の増大が観察された。走査カウント数2 × 10W、低い走査速度2,500mm/sで焼結された部品(b)の表面は、走査カウント数4 × 10W、高い走査速度5,000mm/sで焼結された部品(c)よりも平滑であり、また誤差が少なかった。部品のエッジはシャープではなくかなり丸みを帯びていた。(b)及び(c)のプロセス条件から得られるより高いエネルギー密度によって、SLS過程後に製造された部品の硬化度は約47%に達したのに対して、(a)はDSC試験から計算して約21%の硬化度にしか達しなかった。
【0116】
各層の形成中に硬化(架橋)度を制御することによって、1つの層をプリンティングするときに部分的な硬化(架橋)しかもたらすことができないことが明らかである。部分的な硬化(架橋)は遊離官能基を残す。遊離官能基は次いでこの層の、すぐ前のプリンティング済層との硬化/架橋を可能にし、そして次の層がプリンティングされたら、この次のプリンティング済層との硬化/架橋を可能にする。
【0117】
例11:例8、比較例9、及び比較例7において記載された粉末から形成された熱硬化性3D部品のSLS製造、及びこれらの機械特性
例7,8及び9のSLS造形設定及びパラメータが表1に示されている。商業的なレーザー焼結機械であるDTM Sinterstation 2000上で部品を造形した。この造形物(build)は、プリンティング済部品の分解能、きめ細かい構造、寸法精度、及び平滑さを評価するための1つの多機能部品と、機械特性のためのISO 527−1の引張バーとを含んだ。両方とも2つの異なる設定、つまり表1に挙げられた設定1及び設定2を用いたプロセスパラメータによって焼結した。上記後硬化過程後にISO 527−1に従って、引張特性を測定した。
【0118】
カールを伴う粉末床焼成のバランスをとるために、部品の最初のいくつかの層を焼結するときには部品床温度が70℃になるように、温度プロフィールを選択した。次いで温度を67℃まで徐々に下げた。
【0119】
【表1】
【0120】
設定1及び2のパラメータを用いて例7,8及び9の組成物を使用してプリンティングされた部品を
図8に示す。このような部品は安定しており、低い圧力でサンドブラストを施すことができ、表面は平滑である。部品の輪郭はシャープであり、分解能は良好である。
【0121】
興味深いことに、パラメータ設定1及び2を用いて例8の組成物を使用して焼結された部品の表面間には明らかな相違があることが判った。サンドブラスティング処理中、パラメータ設定2(シングル走査)で造形された部品の最上層のいくつかの薄い部分が剥ぎ取られた(
図9)。またいくつかの鉛直方向の壁が立ったままであった。これらの両観察は、このような部品の層間付着状態が、パラメータセット1(ダブル走査)で造形された部品と比較して著しく悪いことを示している。
【0122】
(例8及び9の組成物を使用して形成された)パラメータ設定2による部品がいくつかの僅かな表面欠陥を有してはいるものの、全ての部品はシャープな輪郭と良好な分解能とを示した。測定された寸法偏差は5%未満であった。パラメータ設定1はそれでもなお、例8及び9の両事例に関して、部品精度と初期の前硬化機械特性とが最適に混ざり合った状態をもたらすように見える。
【0123】
設定1及び2を用いた試験から最良に機能する部品を得るためには、ほぼ1800MPaの弾性率(E-Modulus)、並びにほとんど39MPaの引張強度が測定される。DuraForm(登録商標) PAプラスチックのTDSにおいて公表されたPA12の典型的な値はそれぞれ1586MPa及び43MPaであり、破断点伸びは14%である。米国特許第9 233 505号明細書で公表された値はそれぞれ1550MPa及び46MPaであり、破断点伸びは12%である。しかしながら、例7の組成物からプリンティングされた部品の破断点伸びは、数パーセントの歪みしか伴わずに比較的低い。これは本発明による硬化済熱硬化性システムの典型的な特徴である。
【0124】
従って、可撓性を改善するために、それぞれ例8及び例9の組成物を使用して部品をプリンティングするときに熱可塑性改質剤及びSi−C繊維を利用した。例8及び比較例9及び比較例7の組成物からプリンティングされた部品の引張特性の平均値及びこれらに関連する標準偏差が表2に示されている。
【0125】
【表2】
【0126】
熱可塑性改質剤の添加は、材料の剛性及び強度に対して明らかな効果を有する。例7の組成物からプリンティングされた部品、及び熱可塑性改質を施された例8の組成物からプリンティングされた部品との間には極めて明らかな差異が観察された。弾性率及び最大引張強度の両方が、改質された材料に関して低下するのに対して、破断点伸びはニート材料(例7)の3.3%から13.2%まで印象的に高められた。これは改質材料(例8)に関して4倍の改善である。これは、本発明による熱可塑性ポリマー粉末を添加することの活性効果の強力な指標である。
【0127】
選択されたプロセスパラメータの効果としての、結果として生じる機械特性の差異は、特に破断点歪みに関する場合には、比較例7の組成物を使用する部品よりも、例8の組成物からプリンティングされた部品の方がいくらか大きい。
【0128】
SiC繊維の添加は、比較例7の組成物からプリンティングされる部品と比較して材料の剛性及び強度及び可撓性に対して全体的にポジティブな効果を有する。破断点伸びは、最も急激な増大を示す。弾性率及び最終引張強度の両方は、強化材料に関しておおよそ15%だけ高められるが、破断点伸びは、ニート材料の3.3%からSiC改質材料の8.4%へ印象的に増大した。
【0129】
要約すれば、比較例7の組成物をプリンティングするために選択された走査及び温度のパラメータはまた、例8及び例9の組成物をプリンティングするのにも好適であることが判った。最良のパラメータ設定は、最高エネルギー密度(267J/cm
3)、また例7〜9の組成物の事例において好ましいことが判っているダブル走査を有する設定であることが見いだされた。これらの部品に対して、最良の表面・機械特性が得られた。
【0130】
熱可塑性化合物(Staphyloid 3832)を添加することにより改質された、例8に基づく粉末を使用した12時間のプリンティング過程を、DTM Sinterstation 2500上で完了させた。全部で11個のデモ用部品をプリンティング過程の同じ粉末床チャンバ内で一度に製造することができた。プロセス安定性は優れていた。部品の外観及び感触は際立っていた。焼成は発生しなかった。
【0131】
例12:(半)結晶性ポリマーと熱可塑性物質とを含む組成物
278部の「ポリエステル1」と、295部のD.E.R 642Uと、100部のSirales PE 5900(M
p110℃、溶融範囲105〜120℃)と、12部のEutomer B31(Eutec Chemical)と、41部のAradur 83と、10部のModaflow P6000と、8部のLanco TF 1778と、130部のTi-selectと、50部の熱可塑性樹脂(Staphyloid 3832)であって(コアのT
gが約−40℃であり、シェルのT
gが約100℃である)コア−シェル多層有機微粒子である熱可塑性樹脂と、50部のウォラストナイト(Tremin VP 939-600 EST)と、31.4部のOmyacarb 1-SVとから混合物を構成した。全ての成分を1分間にわたって高速ミキサー内で前混合し、次いで、ゾーン温度40/60/80/100/90℃及び供給エリアのための冷却装置を用いてスクリュー速度600rpmで二軸ZSK-18押し出し機内で押し出した。得られたコンパウンドを次いで冷却し、顆粒化し、そして微粉砕することにより、粒径D10=12〜15μm、D50=30〜40μm、及びD90=80μmの粉末を得た。粉末を3Dプリンタ、例えばSLSレーザー焼結3Dプリンティング機械内で使用することができる。
【0132】
「ポリエステル1」は、酸価が68〜76mg KOH/gであり、粘度が2.0〜3.5Pa
*sである(Cone & Plate測定法に従って200℃でBrookfield CAP 2000+で測定)カルボキシルポリエステルである。カルボキシルポリエステルは、必須成分ではテレフタル酸、アジピン酸、ネオペンチルグリコール、モノエチレングリコール、及び無水トリメリット酸から成り、240℃までの温度で溶融重合によって形成される。
【0133】
例12の本発明の組成物から成るバーを、表6の設定1のパラメータを用いたSLSプリンティング法によって製造した。プリンティング後、20℃から140℃まで10℃/hrで加熱することによってバーを後硬化し、次いで140℃で5時間にわたって保持した。その後、試料を10℃/minで室温まで冷却した。試料は極めて硬質(硬度約70ショアA)であり、室温では剛性であり、そして曲げることができなかった。
【0134】
上記と同じ条件で後硬化した後、例12において与えられた粉末組成物からプリンティングされた4つのバーを、それぞれ50℃、80℃、170℃、及び200℃の種々異なる温度で2時間にわたって保持された4つの炉内に入れた。次いでそれぞれのバーを炉から取り出し、試料がまだ熱いときに手で曲げることによってその可撓性に関して直ちに試験した(
図10)。
【0135】
50℃及び80℃で、力を加えた状態で試料を曲げることができることが観察された。これはまた、1.8MPaでの熱変形温度(HDT)試験によって、50〜52℃で得られた結果で確認された。試料は温度の関数として異なる撓み度を有した。170℃〜200℃のようなより高い温度で、バーはゴムのように極めて高い可撓性を示した。約200℃の高い温度でこれをPA12試料(PA12のT
mは約181〜185℃)と比較すると、興味深いことが観察された。PA12は溶融し始め、元のプリンティングされた形状を失うのに対して、組成物例12からプリンティングされた試料は、SLS過程から生じたその形状をまだ維持したままであり、200℃で極めて高い可撓性を有するようになった。これは写真に示されているように力を加えた状態で曲げることができ、そして室温まで冷却すると、試料は元の形状に戻ることができるか、又は加えられた力を受けて新しい形状になる。架橋過程は、熱が加えられたときに製品が再溶融するリスクを排除し、高熱用途、例えば電子製品及び電化製品にとって理想的な熱硬化系を形成する。
【0136】
理論に縛られることはないが、記載された効果は、硬化/架橋された熱硬化性システム内の架橋密度が低いという事実によって説明することもできる。低い架橋度が可撓性材料をもたらす。例12の組成物の場合、硬化済3D熱硬化性プラスチックオブジェクトは、おそらくは組成物中に使用された(半)結晶性ポリマー及びコア−シェル熱可塑性物質の存在に起因して、高い温度で極めて高い可撓性を有するようになった。
【0137】
・ 硬度:
レーザー密度267J/cm
3(レーザー出力20W、走査速度5000mm/s、走査カウント数2、層厚0.1mm)で、DTM Sinterstation 2500内で例12に記載された粉末組成物から、試料をプリンティングし、次いで5時間にわたって140℃でさらに後硬化した。ISO 868に従って測定された試料の硬度は69.2ショアDであった。
【0138】
・ 吸水率:
プリンティング済試料の吸収率を後硬化後、ASTM D570(24時間)に従って測定し、これは0.25wt%であった。
【0139】
・ 熱膨張(ISO−11359):
例12に基づく組成物でプリンティングされた試料の熱膨張を、後硬化後にISO−11359に従って測定した。25〜100℃の温度範囲内で窒素下において20℃/minの加熱速度を用いると、得られた値は第1加熱に関しては1.22E−4平均値変化(長さ/℃)であり、第2加熱に関しては1.64E−4平均値変化(長さ/℃)である。
【0140】
・ 機械特性:
後硬化後の引張及び曲げ特性
【0141】
【表3】
本開示には以下に例示する実施形態も開示される。
[実施形態1]
3D熱硬化性プラスチックを製造するための3Dプリンティング過程における熱硬化性ポリマー粉末組成物の使用であって、前記組成物が、総組成物の最大95wt%、好ましくは最大98wt%の量の少なくとも1種の硬化性ポリマーバインダー材料と、総組成物の1〜30wt%の量の、プリンティング過程の1パスで提供される温度を下回るTg及び/又はMpを有する少なくとも1種の熱可塑性物質とを含み、前記プリンティング過程のそれぞれのパスの間に、前記ポリマーバインダー材料が、形成された層内部で少なくとも部分的に硬化され、そしてまた、前の層と少なくとも部分的に架橋される、熱硬化性ポリマー粉末組成物の使用。
[実施形態2]
前記組成物中に存在する前記熱可塑性物質のうちの少なくとも1種が、前記ポリマーバインダー材料と反応することができる官能基を有していることを特徴とする、実施形態1に記載の使用。
[実施形態3]
前記少なくとも1種の熱可塑性物質が、総組成物の5〜20wt%、より好ましくは5〜15wt%の量で存在していることを特徴とする、実施形態1又は2に記載の使用。
[実施形態4]
前記組成物が、少なくとも1種の硬化性ポリマーバインダー材料、少なくとも1種の熱可塑性物質、及び、硬化剤と触媒と開始剤とこれらの混合物とから成る群のうちの少なくとも1つの要素、を含み、前記要素が前記ポリマーバインダー材料を硬化することができることを特徴とする、実施形態1から3までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態5]
前記ポリマーバインダー材料を、重付加、及び/又は重縮合、及び/又はラジカル重合によって硬化することができることを特徴とする、実施形態1から4までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態6]
前記硬化性ポリマーバインダー材料が、少なくとも2つのエポキシ官能基を有する化合物、少なくとも2つのカルボン酸官能基を有する化合物、少なくとも2つのヒドロキシル官能基を有する化合物、アクリル酸又はメタクリル酸から誘導された化合物及び/又はこれらの混合物を含む群から選択されることを特徴とする、実施形態1から5までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態7]
前記硬化性ポリマーバインダー材料が前記熱硬化性ポリマー粉末組成物中に、総組成物の10〜70wt%、特に好ましくは20〜60wt%で存在することを特徴とする、実施形態1から6までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態8]
前記組成物中に存在する前記熱可塑性物質のうちの少なくとも1種の融点が50℃〜200℃、好ましくは100〜150℃であることを特徴とする、実施形態1から7までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態9]
前記組成物中に存在する前記熱可塑性物質のうちの少なくとも1種の溶融粘度が、2.16Kg荷重を用いて160℃でISO 1133に従って試験して10〜500Pas、より好ましくは50〜250Pas、そして最も好ましくは90〜150Pasであることを特徴とする、実施形態1から8までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態10]
前記組成物中に存在する前記少なくとも1種の熱可塑性物質が、好ましくは90℃未満、より好ましくは70℃未満のTgを有する純粋非晶質熱可塑性材料であることを特徴とする、実施形態1から9までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態11]
前記硬化性ポリマーバインダー材料が少なくとも1種の非晶質ポリマーバインダーを含むことを特徴とする、実施形態1から10までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態12]
前記熱硬化性ポリマー粉末組成物の粒径が1〜250μm、好ましくは20〜100μm、そして特に好ましくは40〜80μmであることを特徴とする、実施形態1から11までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態13]
前記ポリマーバインダー材料のガラス転移温度が少なくとも40℃、好ましくは40℃よりも高いことを特徴とする、実施形態1から12までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態14]
前記熱可塑性物質を含まない前記ポリマーバインダー材料の数平均分子量が1,000〜15,000D、より好ましくは1,500〜7,500Daltonであることを特徴とする、実施形態1から13までのいずれか1項に記載の使用。
[実施形態15]
実施形態1から14までのいずれか1項に記載の熱硬化性ポリマー粉末組成物が使用されることを特徴とする、3Dプリンティング法。