特許第6802445号(P6802445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6802445心筋興奮判別装置および心筋興奮判別装置の作動方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802445
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】心筋興奮判別装置および心筋興奮判別装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0452 20060101AFI20201207BHJP
   A61B 5/0408 20060101ALI20201207BHJP
   A61B 5/0478 20060101ALI20201207BHJP
   A61B 5/0492 20060101ALI20201207BHJP
   A61B 5/0402 20060101ALI20201207BHJP
   A61B 5/044 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   A61B5/04 312A
   A61B5/04 300J
   A61B5/04 310M
   A61B5/04 314K
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-50782(P2016-50782)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-164164(P2017-164164A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515087064
【氏名又は名称】土谷 健
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦原 貴司
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 晃司
(72)【発明者】
【氏名】西原 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信宏
(72)【発明者】
【氏名】岩永 有歩
(72)【発明者】
【氏名】太田 明男
(72)【発明者】
【氏名】土谷 健
(72)【発明者】
【氏名】中沢 一雄
(72)【発明者】
【氏名】稲田 慎
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−504117(JP,A)
【文献】 特表2013−523344(JP,A)
【文献】 特表2015−530160(JP,A)
【文献】 特開2011−143060(JP,A)
【文献】 特開2013−188439(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/066678(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0276152(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0254893(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0402−5/0492
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の心内心電図を取得する取得部と、
前記心内心電図に基づいて、心筋の興奮状態を表す可視化データを生成するための演算を行う演算部と、
前記可視化データに基づいて心筋の興奮動態の種別を判別する判別部と、
を備え、
前記可視化データは、所定の時間単位毎のフレームで構成され、前記フレームの各々は、複数のグリッドで構成され、
前記判別部は、前記フレームを構成する前記複数のグリッドのうち、心筋の興奮状態を示す興奮グリッドの総数を算出する算出部を有するとともに、前記フレーム毎の前記興奮グリッドの総数に基づいて、心筋の興奮動態の種別を判別するように構成され
さらに、
前記演算部は、前記可視化データに基づいて、前記フレーム毎に、心筋の興奮状態の旋回の中心を表す位相特異点を検出する検出部を有し、
前記判別部は、前記フレーム毎に、前記興奮グリッドの総数と前記位相特異点の総数とに基づいて、心筋の興奮動態の種別を判別する、
心筋興奮判別装置。
【請求項2】
さらに、
前記判別部により判別された前記興奮動態の種別を表示する表示部を備える、
請求項1に記載の心筋興奮判別装置。
【請求項3】
演算部が、心内心電図に基づいて、心筋の興奮状態を表す可視化データを生成するための演算を行う演算工程と、
判別部が、前記可視化データに基づいて心筋の興奮動態の種別を判別する判別工程と、
を含み、
前記可視化データは、所定の時間単位毎のフレームで構成され、前記フレームの各々は、複数のグリッドで構成されており、
前記判別工程は、前記フレームを構成する前記複数のグリッドのうち、心筋の興奮状態を示す興奮グリッドの総数を算出する算出工程を有し、前記判別部が、前記フレーム毎の前記興奮グリッドの総数に基づいて、心筋の興奮動態の種別を判別するように構成され、
さらに、
前記演算工程は、前記可視化データに基づいて、前記フレーム毎に、心筋の興奮状態の旋回の中心を表す位相特異点を検出する工程を有し、
前記判別工程は、前記フレーム毎に、前記興奮グリッドの総数と前記位相特異点の総数とに基づいて、心筋の興奮動態の種別を判別する、
心筋興奮判別装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋の興奮の種別を判別する心筋興奮判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、心房細動とは、心臓の心房が痙攣して心臓本来の正しい動きができなくなる不整脈のことをいう。心房細動が発生すると、心房内に血液が滞り血栓が発生しやすくなるため、脳梗塞などのリスクが高まってしまう。
【0003】
そこで、従来、心房細動等の不整脈が発生した場合、心臓カテーテルを用いてその原因となる異常部位を選択的に焼灼(アブレーション)して治療することが知られている。この治療を行うには、アブレーションする位置を正確に同定することが重要となる。例えば、下記の特許文献1〜2には、心臓カテーテルの電極から測定された心内心電図に対して演算処理を行うことで、心筋の興奮状態を示す可視化データを作成し、その可視化データからアブレーションする位置を同定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013−523344号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0088395号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
心房細動中の心筋興奮の状態は、その状態の変化のパターンによって、例えば幾つかの代表的な興奮動態と称される種別に大別される。
従来技術では、医療従事者は、可視化データに基づいて可視化された心筋の状態を目視で観察することによって、心筋の興奮動態の種別を判別しなければならなかった。しかしながら、心房細動中の心筋の状態は刻々と不規則に変化する性質のものであり、また、その変化が目視では捉えきれない速さの場合もあり、目視による判別が難しい場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、心房細動中の心筋の興奮動態の判別を支援することが可能な、心筋興奮判別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の心筋興奮判別装置は、
複数の電極を有する記録ユニットにより記録された被検者の心内心電図を取得する取得部と、
前記心内心電図に基づいて、心筋の興奮状態を表す可視化データを生成するための演算を行う演算部と、
前記可視化データに基づいて心筋の興奮動態の種別を判別する判別部と、
を備える。
【0008】
この構成によれば、可視化データに基づいて心房細動中の心筋の興奮動態の種別が自動的に判別される。このため、医療従事者は、自動判別の結果を参考にして、心筋の興奮動態の種別を判断することができる。このように、上記構成によれば、心房細動中の心筋の興奮動態の判別を支援することが可能な、心筋興奮判別装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の心筋興奮判別装置によれば、心房細動中の心筋の興奮動態の判別を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1に係る心筋興奮判別装置の概要図である。
図2】(a)〜(c)は、代表的な種別の心筋の興奮動態を示す図である。
図3】心房内に留置したカテーテルを示す概要図である。
図4】(a)は各電極で取得した心内心電図波形の一例を示す模式図であり、(b)は取得した心内心電図をグリッド上に配置した模式図である。
図5】(a)は擬似的な活動電位波形の生成工程を説明する図、(b)は拍の検出工程を説明する図である。
図6】(a)は先行拡張期時間と活動電位持続時間を示す図、(b)は先行拡張期時間と活動電位持続時間の関係を示すグラフ、(c)は拍の検出条件を示す図である。
図7】(a)は最初の拍の検出工程を説明する図、(b)は二番目以降の拍の検出工程を説明する図である。
図8】擬似的な活動電位波形をグリッド上に配置した模式図である。
図9】(a),(b)は仮想電極を計算するための図、(c)は周囲の電極から仮想電極の活動電位波形を補完してグリッド上に配置した模式図である。
図10】(a)は拍の高さを補正する工程を説明する図、(b)は活動電位波形をグリッド上に配置した模式図である。
図11】(a)は活動電位波形に対して位相をシフトさせたシフト波形を示す図、(b)は活動電位波形とシフト波形をグリッド上に配置した模式図である。
図12】(a)はその他のグリッドの補完波形を空間補間技術を使用して計算するための説明図、(b)は補完した活動電位波形とシフト波形とをグリッド上に配置した模式図である。
図13】各グリッドに描かれた相図を示す模式図である。
図14】グリッドに描画する色を説明する図であり、(a)は描画に用いる色を示す図、(b)は活動電位波形の各部分をサンプル毎に色で定義した図、(c)は各サンプルの角度情報を示した図である。
図15】(a)は各グリッドで1サンプル毎に色を描画した模式図、(b)は1つのグリッドにおける1サンプル目〜Xサンプル目の色を描画した図、(c)は1サンプル目〜Xサンプル目までの可視化データを表した図である。
図16】位相特異点の検出方法を説明するための図である。
図17】可視化データを構成するフレームに含まれる興奮グリッド数を示す図である。
図18】心筋の興奮動態の種別を判別するための図である。
図19】モニター画面に表示された可視化データと興奮動態の種別との一例を示す図である。
図20】本発明の実施形態2に係る心筋興奮判別装置の概要図である。
図21】活動電位波形を生成するための活動電位単位波形を示す図である。
図22】心内心電図波形から心筋興奮の波形を検出する手順を示す図である。
図23】活動電位単位波形の先行拡張期時間と活動電位持続時間との関係を示すグラフである。
図24】心内心電図波形に活動電位単位波形を当てはめて表示した図である。
図25】心内心電図波形に対する活動電位単位波形の表示位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の一例について、図面を参照して説明する。
(実施形態1)
図1に示すように、実施形態1に係る心筋興奮判別装置1は、取得部2と、演算部3と、判別部4と、表示部5とを備えている。心筋興奮判別装置1は、例えばカテーテル検査装置における一機能を実行するための装置として用いられる。
【0012】
取得部2は、複数の電極を有する記録ユニット(例えば心臓カテーテル)Aで記録された被検者の心内心電図を取得する。
【0013】
演算部3は、取得部2で取得された心内心電図に対して、被検者の心筋の興奮状態を可視化するための演算を行う。演算部3は、第一生成部11と、第一補完部12と、補正部13と、第二生成部14と、第二補完部15と、第三生成部16と、検出部17とを備えている。
【0014】
第一生成部11は、取得部2で取得された複数の心内心電図に対して擬似的な活動電位波形をそれぞれ生成する。
第一補完部12は、心房内の心筋において、挿入した心臓カテーテルAの電極が配置されていない位置、すなわち複数の電極がそれぞれ配置されている中で周囲の電極との距離が大きく空いている位置に仮想の電極(仮想電極)を定義する。第一補完部12は、仮想電極の周囲の電極に対して生成されている擬似的な活動電位波形に基づいて、仮想電極に対する擬似的な活動電位波形を補完する。
【0015】
補正部13は、第一生成部11及び第一補完部12から出力された擬似的な活動電位波形に含まれるノイズ成分を除去し、各拍の振幅を揃える補正を行う。以下、実施形態1では、補正後の活動電位波形のことを単に活動電位波形と称する。
第二生成部14は、補正部13から出力された活動電位波形について、活動電位波形に対して時相が所定時間だけシフトされたシフト波形を生成する。
第二補完部15は、心臓カテーテルAの電極及び仮想電極が配置されていない位置、すなわち各電極と周囲の電極との距離が空いている位置に対して、周囲の電極について生成されている活動電位波形及びシフト波形に基づいて、活動電位波形及びシフト波形を補完する。
【0016】
第三生成部16は、補正部13から出力された活動電位波形と第二生成部14から出力されたシフト波形、及び第二補完部15から出力された活動電位波形とシフト波形に基づいて、相図(Phase Portrait)を作成する。また、第三生成部16は、相図に基づいて位相を算出し、心筋の興奮状態を表す可視化データ(Phase Map)を生成する。可視化データとは、心筋の興奮電位を可視化したフレームのことをいう。心筋細胞の膜電位には電気的な興奮が起こり、これが心臓を収縮させる働きをする。この興奮収縮現象は活動電位によって引き起こされている。活動電位とは細胞内へのNa+の流入で起こる脱分極と、Ca2+やK+の流入や流出で起こる再分極とによる心筋細胞の興奮反応のことをいう。
検出部17は、第三生成部16で生成された可視化データにおける位相特異点(Phase Singularity)、すなわち心房壁上の細動の原因部位(Rotor)を検出する。
【0017】
判別部4は、可視化データに基づいて、心筋の興奮動態の種別を判別する。判別部4は、可視化データに含まれる所定のデータ数を算出するための算出部18を有する。心筋の興奮動態の種別を判別するための可視化データは、所定の時間単位毎のフレームで構成されている。算出部18は、所定の時間単位毎のフレームに含まれている所定のグリッドの総数を可視化データに含まれる所定のデータ数として算出する。判別部4は、算出部18によって算出された所定のグリッド数と、検出部17によって検出された位相特異点の数とに基づいて、心筋の興奮動態の種別を判別する。
【0018】
表示部5は、演算部3の第三生成部16から出力された可視化データに基づいて、被検者の心筋の興奮状態及び判別された興奮動態の種別を表示する。表示部5は、例えばタッチパネル式の液晶モニター画面で構成されている。
【0019】
心筋の興奮動態の種別とは、心房細動が発生している心筋状態の変化のパターンを意味する。心筋の興奮動態の種別は、例えば図2(a)に示すようなMR(Meandering Rotor)と、図2(b)に示すようなPA(Passive Activation)と、図2(c)に示すようなMW(Multiple Wavelets)とに大別される。MRは、位相特異点の周りを興奮波が回転している状態のことをいう。PAは、興奮波が波及している状態のことをいう。MWは、複数の位相特異点が同時に存在する状態のことをいう。
【0020】
次に、図3図19を参照して、心筋興奮判別装置1の動作について説明する。
図3に示すように、先ず、複数の電極Bを有する心臓カテーテルAが、被検者の心房内に挿入されて留置される。
【0021】
図4(a)に示すように、心臓カテーテルAの電極Bにより複数(本例では10個)の心内心電図波形21a〜21j(以下、総称する場合は心内心電図波形21と称する)が記録される。記録された心内心電図波形21は、取得部2に取得される。
【0022】
図4(b)に示すように、第一生成部11は、心臓カテーテルAが留置された心房内の所定領域を例えば四角形のフレーム22で表し、フレーム22を複数のグリッド23に区分する。なお、図4(b)の模式図では、説明の便宜上、7×7=49個のグリッドとするが、実際には、数万以上のグリッドに区分されている。心房内に配置された心臓カテーテルAの位置に合わせて各電極Bの位置がフレームにおける対応するグリッド上に配置され、各々の心内心電図波形21a〜21jが各グリッド23上にそれぞれ配置される。
【0023】
図5(a)に示すように、第一生成部11は、各々の心内心電図波形21を全波整流して全波整流波形24を作成する。また、第一生成部11は、全波整流波形24に移動平均処理を施して擬似的な活動電位波形25を作成する。
【0024】
また、図5(b)に示すように、第一生成部11は、擬似的な活動電位波形25と心内心電図波形21とに基づいて、擬似的な活動電位波形25における心筋の拡張期を示す拍の候補(拍候補)28を検出する。具体的には、先ず、第一生成部11は、擬似的な活動電位波形25において、各凸部分26の前後37msec(図6(a),(b)で後述)の期間内に、より大きな部分が存在しない凸部分26を検出する。続いて、第一生成部11は、心内心電図波形21において、凸部分26と同位相であり、かつ所定の条件(図6(c)で後述)を満たす拍27を検出する。第一生成部11は、凸部分26が所定の条件を満たす拍27を含む場合、その凸部分26を心筋の拡張期を示す拍候補28として検出する。図5(b)では4つの拍候補28が検出されている。
【0025】
図6(a)は、心筋の活動電位波形に含まれる単位波形の理想モデルを示す。図5(a)において、活動電位持続時間(APD:Action Potential Duration)は、心筋の活動電位の脱分極相の開始から再分極相の終了までの時間を示し、心筋の不応期に相当する。また、先行拡張期時間(DI:Diastolic Interval)は、APDが終了してから次のAPDが開始するまでの時間を示し、心筋の興奮可能な静止期に相当する。APDとDIとを足し合わせた期間をサイクルレングス(CL:Cycle Length)という。単位波形の理想モデルにおけるDIとAPDとの関係は、コンピュータシミュレーションによって、例えば図6(b)のグラフのように予め求められている。上述の期間37msecは、グラフに示されるように最短のAPD(最短APD)を基準に決められている。また、上述の拍27の所定の条件は、図6(c)に示すように、拍27の横幅wが設定値以下で、縦幅hが設定値以上であることと設定されている。
【0026】
続いて、図7(a)に示すように、第一生成部11は、最初の拍候補28aから最短のCLに存在する全ての拍候補(本例では拍候補28a,28b)の頂点の高さを比較する。第一生成部11は、頂点が最も高い拍候補28aを一番目の拍29Aとして検出する。なお、最短のCLは、図6(b)のグラフから最短のAPDである37msecと最短のDIである80msecとを足し合わせて、117msecとなる。
【0027】
続いて、図7(b)に示すように、第一生成部11は、図7(a)で比較した拍候補28a,28bの次の拍候補28cから最短のCLに存在する全ての拍候補(本例では拍候補28c、28d)の頂点の高さを比較する。第一生成部11は、頂点が最も高い拍候補28dを二番目の拍29Bとして検出する。同様にして、第一生成部11は、心内心電図波形21a〜21jに基づき作成した擬似的な活動電位波形25a〜25jからそれぞれ拍を検出する。
【0028】
拍29A,29B等が検出された擬似的な活動電位波形25a〜25jが各グリッド23上に配置される(図8参照)。
【0029】
続いて、第一補完部12は、フレーム22上に配置された図8に示す擬似的な活動電位波形25a〜25jの位置に基づいて、擬似的な活動電位波形25が配置されていない位置に仮想電極を定義する。仮想電極は、図9(a),(b)に示すように、周囲の複数(本例では4点)の電極に基づいて定義される。図9(a)では、電極8a〜8dの位置データに基づいて、仮想電極8eの位置が設定されている。さらに図9(b)では、仮想電極8eと電極8a,8b,8fとに基づいて、別の仮想電極8gの位置が設定されている。第一補完部12は、同様の手法で仮想電極8i,8k,8mの位置を設定する。
【0030】
第一補完部12は、定義された仮想電極8e,8g,8i,8k,8m等に対する擬似的な活動電位波形25を、周囲の電極に対して生成されている擬似的な活動電位波形に基づいて補完する。補完された例えば擬似的な活動電位波形25kは、仮想電極が設けられている位置のグリッド23上に配置される(図9(c)参照)。
【0031】
続いて、図10(a)に示すように、補正部13は、擬似的な活動電位波形25から活動電位波形30を作成する。具体的には、補正部13は、先ず、擬似的な活動電位波形25の一番目の拍29Aに最短APD(37msec)を当てはめる。続いて、一番目の拍29Aの頂点から二番目の拍29Bの頂点までのCLを求める。CLから最短APDを減算してDIの値を求める(DI=CL−最短APD)。続いて、求めたDIの値に対するAPDの値を図6(b)のグラフから求める。求められたAPDの値が二番目の拍29BのAPD2の値となる。同様にして、三番目以降における拍29のAPDの値を求める。
【0032】
続いて、補正部13は、各拍29A,29B等に補正係数を乗算することにより、拍の高さ(振幅)を補正して一定に揃える。補正係数は、定数を各拍29A,29B等の高さで除算して求める(補正係数=定数/拍29の頂点の高さ)。補正部13は、擬似的な活動電位波形25における拍29A,29B等以外の例えば拍候補28b、28c等を補正により除去する。これにより、高さHの等しい拍31A,31B等を有する活動電位波形30が各擬似的な活動電位波形25に対してそれぞれ作成される。補正されたそれぞれの活動電位波形30a〜30kは、電極及び仮想電極が設けられている位置のグリッド23上に配置される(図10(b)参照)。
【0033】
続いて、第二生成部14は、活動電位波形30における拍31A,31B等の平均APDを算出し、図11(a)に示すように、活動電位波形30に対して時相を平均APDの1/4だけシフトさせたシフト波形40を生成する。活動電位波形30a〜30kとシフト波形40a〜40kはそれぞれ、電極及び仮想電極が設けられている位置のグリッド23上に配置される(図11(b)参照)。なお、上記の時相のシフトは、N+(1/4)(Nは0及び正の整数)とすることができる。
【0034】
続いて、第二補完部15は、フレーム22上において活動電位波形30とシフト波形40が配置されていないグリッド23(図11(b)参照)に、仮想の活動電位波形35と仮想のシフト波形45を補間する。第二補完部15は、図12(a)に示す空間補間技術を用いて、活動電位波形35とシフト波形45のデータを、周囲の活動電位波形30とシフト波形40のデータから算出する。図12(a)において、V1〜V3は、電極及び仮想電極のグリッド23における活動電位波形30とシフト波形40のデータを示し、V4〜V7は、活動電位波形35とシフト波形45のデータを示す。また、矢印は、V1〜V7が配置され、または配置される予定のグリッドにおける、近いグリッド間の距離を示す。一例として、それぞれのグリッド間の距離が1として示されている。
【0035】
活動電位波形35とシフト波形45のデータは、それらが配置されるグリッドに近い、活動電位波形30とシフト波形40が配置されている二つのグリッドの活動電位波形30とシフト波形40のデータから、空間補間技術により、上記二つのグリッドのデータ及び二つのグリッドとの距離を用いて所定の演算式により算出される。例えば、V4の活動電位波形35とシフト波形45は、V1及びV2のそれぞれのデータと、V1−V4間及びV2−V4間の距離m、1−mにより算出される。なお、V7は、上記のようにして算出されたV6と、活動電位波形30及びシフト波形40が配置されているグリッドのデータV1とから算出されている。このようにして求められたそれぞれの活動電位波形35とシフト波形45は、補完される各グリッド23上に配置する(図12(b)参照)。
【0036】
続いて、第三生成部16は、活動電位波形30,35とシフト波形40,45が配置された各グリッド23において活動電位の状態を得るために、各々の活動電位波形30,35とシフト波形40,45に基づいて、図13に示すように、相図(Phase Portrait)50をそれぞれ作成する。相図は、活動電位波形の電位とシフト波形の電位とを二次元に置き換えることで作成することができる。
【0037】
第三生成部16は、活動電位の状態を色で表現するために、各グリッド23に色を描画する。各グリッド23の色は、それぞれ作成された相図のサンプル毎に決定される。第三生成部16は、図14(a)に示される複数の色(本例では16色)を用いて各グリッド23を描画する。第三生成部16は、活動電位波形30,35の単位波形において、例えば活動電位部分が暖色系、静止膜部分が寒色系となるように定義する(図14(b)参照)。また、第三生成部16は、活動電位の時間的変化が速い領域Cでは隣り合うサンプル51間で色の変化が小さくなり、遅い領域Dでは色の変化が大きくなるように定義する。第三生成部16は、図14(c)に示すように、二次元に置き換えて表示した相図の中心部から各サンプル51の角度情報を求めることにより、活動電位の状態を16段階の色で表現する。
【0038】
第三生成部16は、図15(a)、(b)に示すような、各グリッド23で1サンプル毎に決定されたそれぞれの色を各グリッド23において連続的に描画する。各グリッド23において1サンプル目からXサンプル目までの色を連続的に描画すると、例えば図15(c)に示すような連続する可視化データ52が生成される。
【0039】
続いて、検出部17は、図16に示すように、フレーム22上から所定数(本例では3×3)のグリッド23で構成される第一グリッド集合60を抽出する。また、検出部17は、第一グリッド集合60を中心とし、第一グリッド集合60より多い数(本例では9×9)のグリッド23で構成される第二グリッド集合61を抽出する。検出部17は、第一グリッド集合60において隣接する各グリッド(AグリッドからHグリッド)の色差の合計が所定値以上であるか算出する。具体的には(AとBの色差)+(BとCの色差)+・・・+(HとAの色差)を算出する。さらに、検出部17は、第二グリッド集合61内に16色の全てが含まれているか算出する。両方の要件を満たす場合、検出部17は、第一グリッド集合60の中心を心筋の興奮状態の旋回の中心である位相特異点62として検出する。
【0040】
続いて、判別部4は、第三生成部16で生成された可視化データにおいて、各フレームに含まれる興奮グリッド数を算出部18により順次算出する。興奮グリッドとは、心筋の興奮状態を示すグリッドを意味し、R=255を示す暖色系の色に描画されたグリッドのことをいう(図14(a)の範囲80参照)。算出部18で算出された各フレームの興奮グリッド数は、例えば図17におけるグラフ81のように示される。さらに、判別部4は、算出部18により、所定時間内のフレーム(例えば、15個のフレーム)に含まれる興奮グリッド数の移動平均を順次算出する。移動平均された興奮グリッド数は、例えば図17及び図18のグラフ82のように示される。
【0041】
判別部4は、興奮グリッド数の平均値を算出し、算出した平均の興奮グリッド数を基準としてプラス、マイナスの閾値を設定する。平均の興奮グリッド数は図18において例えば平均値83のように示され、プラス、マイナスの閾値は図18において例えば閾値84a,84bのように示される。判別部4は、移動平均された興奮グリッド数が閾値84a,84bを超えているか否かを判定し、閾値を超えている場合には心筋の興奮動態がPAであると判別する。図18に示すグラフ82では、移動平均された興奮グリッド数が例えば範囲85において閾値84a,84bを超えており、この時間帯における心筋の興奮動態がPAと判別される。なお、移動平均された興奮グリッド数が閾値を超えている場合、さらに、各フレームにおける興奮グリッドの位置を特定することにより、興奮波が、心臓カテーテルAの領域内で発生したか、領域外で発生したかが判別されるようにしても良い。このようにすることにより、心筋の興奮状態PAが、さらに2つに分割される。
【0042】
判別部4は、移動平均された興奮グリッド数が閾値84a,84bを超えていない場合(例えば、図18における範囲86,87のような場合)、検出部17で検出されたフレームの位相特異点62の数に基づいて心筋の興奮動態の種別を判別する。判別部4は、フレームの位相特異点の総数が複数存在する場合には、心筋の興奮動態がMWであると判別し、複数存在しない場合には、心筋の興奮動態がMRであると判別する。
【0043】
表示部5には、可視化データを時系列で連続的に表示して動画とすることで、図19に示すように、被検者の心筋の興奮状態が変化していく様子がリアルタイムで表示される。また、表示部5には、心筋の興奮状態の変化に対応して、心筋の興奮動態の判別結果が、例えば各種別を表す色や文字を用いた表示態様で種別表示領域90に逐次表示される。図19における種別表示領域90は、判定結果がMRであったことを示している。なお、例えば、Meandering Rotor=100%、Passive Activation=0%、Multiple Wavelets=0%のように、興奮動態の種別毎にそれぞれの割合が表示されるようにしても良い。
【0044】
なお、解析に十分な拍情報を有する波形が心臓カテーテルAの電極Bから得られない場合、可視化データの精度を維持するため、その電極Bに関連するグリッド23を可視化データの描画から除外するようにしても良い。その場合、十分な拍情報であるか否かをサイクルレングス(Cycle Length)値を用いて判断しても良い。
【0045】
ところで、従来、医療従事者が心筋の興奮動態の種別を判別する場合、心筋の興奮状態を示す可視化データを作成し、その可視化データに基づいて興奮動態の種別を目視で判別している。しかしながら、心房細動中の心筋は、例えば1分間に300回程度の振動を発生させる場合もあり、そのように高速で変化する心筋のデータから興奮動態を目視で正確に判別することは困難である。そこで、従来、心筋の興奮状態を観察する際には、実測された可視化データの変化の速度を例えば1/10倍の速度に遅くしている場合がある。また、一つの心臓カテーテルで取得できる可視化データは、心房内の一部分のデータに限定されるため、一度の測定では、目視で判別するための十分なデータを得ることはできない。そこで、判別精度を高めるために心房内の複数の部位からデータを取得することが必要である。このように、従来の方法では、心筋の興奮動態の種別を判別するには多くの時間が必要であった。
【0046】
これに対し、本実施形態の心筋興奮判別装置1によれば、可視化データに含まれる興奮グリッドの総数に基づいて、心房細動中の心筋の興奮動態の種別が自動的に判別される。また、さらに、位相特異点の総数に基づいて、心房細動中の心筋の興奮動態の種別が自動的に判別される。このため、医療従事者は、自動判別の結果を参考にすることにより、心筋の興奮動態の種別の判別を、従来のような目視による判別の場合と比較して、より正確かつ短時間で実施することができる。また、複数のパラメータ(興奮グリッドの総数と位相特異点の総数)に基づいて判別することにより、代表的な興奮動態の種別であるMeandering Rotorと、Passive Activationと、Multiple Waveletsとを自動的に判別することができる。
【0047】
また、心筋の興奮状態の変化を表す動画と共に、自動判別の結果(種別)が興奮状態の変化と対応するように所定時間毎に表示部5に表示される。このため、医療従事者は、心筋の興奮動態の種別自体や種別の変化の様子を把握しやすくなる。また、興奮動態の種別毎の割合が表示されるようにした場合、動画を最後まで確認する必要がない場合もある。
【0048】
このように、上記構成によれば、心房細動中の心筋の興奮動態の判別を支援することが可能な、心筋興奮判別装置を提供することができる。
【0049】
(実施形態2)
次に実施形態2について説明する。以下、実施形態1と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図20に示すように、実施形態2に係る心筋興奮判別装置100は、取得部2と、演算部3Aと、記憶部110と、判別部4と、表示部5とを備えている。演算部3は、第一生成部111と、第一補完部12と、第二生成部14と、第二補完部15と、第三生成部16と、検出部17とを備えている。
【0050】
記憶部110は、例えば図21に示すような、予め生成された複数の活動電位単位波形120を記憶している。活動電位単位波形120は、コンピュータシミュレーションによって導き出された構造的リモデリング下のヒト心房筋の活動電位波形に時間的な移動平均処理を施したものである。なお、構造的リモデリングとは、心房筋の病的状態において現れる解剖組織学的変化のことである。活動電位単位波形120は、心筋の活動電位波形に含まれる単位波形の理想モデルと比較して、始点121から頂点122にかけての立ち上がりが緩やかである(立ち上がり角度θが小さい)。記憶部110は、第一生成部111に接続されている。
【0051】
第一生成部111は、取得部2で取得された複数の心内心電図の各々に対して、活動電位単位波形120を用いて擬似的な活動電位波形を生成する。以下、実施形態2では、擬似的な活動電位波形25のことを単に活動電位波形25とも称する。
【0052】
第二生成部14は、第一生成部111及び第一補完部12から出力される活動電位波形について、活動電位波形に対して時相が所定時間だけシフトされたシフト波形を生成する。
【0053】
第三生成部16は、第一生成部111及び第一補完部12から出力された活動電位波形と、第二生成部14から出力されたシフト波形と、第二補完部15から出力された活動電位波形及びシフト波形とに基づいて、相図(Phase Portrait)を作成する。また、第三生成部16は、相図に基づいて位相を算出し、心筋の興奮状態を表す可視化データ(Phase Map)を生成する。
【0054】
なお、取得部2、第一補完部12、第二補完部15、検出部17、判別部4、表示部5は、上記実施形態1における各部と同様の構成を有する。
【0055】
次に、心筋興奮判別装置100の動作について説明する。
心臓カテーテルAによって記録された心内心電図波形21a〜21jが、各グリッド23上にそれぞれ配置されるまでの動作は、上記実施形態1における図4(b)までの動作の説明と同様である。
【0056】
続いて、第一生成部11は、記録された各心内心電図波形21a〜21jに対して、活動電位単位波形120を用いることにより活動電位波形25を生成する。
【0057】
活動電位波形25を生成するために、第一生成部11は、先ず、記録された心内心電図波形21の中から、例えば図22に示すように、所定の条件に適合する拍を心筋興奮の候補波形として検出する。具体的には、例えば、拍の横幅wが10msec以下で、縦幅hが0.1mV以上の条件に適合する拍を検出する(横幅wと縦幅hについては、図6(c)参照)。図22に示される心内心電図波形21の場合、この条件を満たす拍として、破線四角形131から137に含まれている7個の拍が心筋興奮の候補波形として検出される。
【0058】
第一生成部11は、続いて、検出された心筋興奮の候補波形の中から、さらに所定の条件に適合する拍を心筋興奮の波形として検出する。具体的には、第一生成部11は、心筋興奮の候補波形を基準として、他の心筋興奮の候補波形を検索する検索期間と、他の心筋興奮の候補波形を検索しない検索除外期間とを設定する。この場合、検索期間(例えば、49msec)は、検索除外期間(例えば、50msec)よりも短い時間に設定される。
【0059】
第一生成部11は、図22に示すように、心内心電図波形21において、最初に破線四角形131に含まれる拍を心筋興奮の候補波形として検出する。第一生成部11は、検出した心筋興奮の候補波形の頂点(○印131a)から検索期間(49msec)経過後の□印131bまでの間に他の心筋興奮の候補波形(破線四角形に含まれる波形)が存在するか検索する。本例の場合、この検索期間に他の心筋興奮の候補波形は存在しない。このため、本例では、破線四角形131に含まれる拍が最初の心筋興奮の波形として検出される。第一生成部11は、検出した心筋興奮の波形の頂点(○印131a)から50msec経過後の△印131cまでの間を、他の心筋興奮の候補波形を検出しない検出除外期間とする。
【0060】
第一生成部11は、検出除外期間の後(△印131c以後)において、破線四角形132に含まれる拍を次の心筋興奮の候補波形として検出する。第一生成部11は、上記と同様に、検出した心筋興奮の候補波形の頂点(○印132a)から検索期間経過後の□印132bまでの間に他の心筋興奮の候補波形が存在するか検索する。本例の場合、破線四角形133に含まれる拍が他の心筋興奮の候補波形として検出される。第一生成部11は、検出された2つの心筋興奮の候補波形(破線四角形132と133に含まれる拍)の振幅(P−P値)を比較して、大きい振幅を有する候補波形を心筋興奮の波形として検出する。本例では、破線四角形133に含まれる拍が心筋興奮の波形として検出される。第一生成部11は、検出した心筋興奮の波形の頂点(○印133a)から50msec経過後の△印133cまでの間を、上記と同様に検出除外期間とする。なお、心筋興奮の波形として検出されなかった破線四角形132の拍は、活動電位波形25を生成するための波形から除外される。
【0061】
以上のような検出処理が繰り返し行われることにより、図22に示す心内心電図波形21の場合、破線四角形131,133,134,136,137に含まれる拍が心筋興奮の波形として検出される。
【0062】
第一生成部11は、続いて、検出された心筋興奮の各波形間(各単位波形間)の時間間隔を検出する。具体的には、破線四角形131に含まれる拍の頂点(○印131a)と破線四角形133に含まれる拍の頂点(○印133a)との間の時間間隔T1を検出する。同様に、○印133aと○印134a間の時間間隔T2、○印134aと○印136a間の時間間隔T3、及び○印136aと○印137a間の時間間隔T4をそれぞれ検出する。
【0063】
活動電位単位波形120を用いて活動電位波形25を生成するに際し、検出された心筋興奮の波形間の時間間隔T1〜T4が、生成される活動電位波形25に含まれる各単位波形(以下、単位活動電位波形と称する。)のCL1〜CL4にそれぞれ対応するとして計算される。
【0064】
第一生成部11は、最初の心筋興奮の波形(破線四角形131に含まれる拍)に対して生成される単位活動電位波形のAPD値として、図23のグラフに示される最短APD(41msec)を当てはめる。第一生成部11は、CL1(T1)から最短APDを減算してDI1の値を求め(DI1=CL1−最短APD)、求められたDI1の値に対するAPDの値を図23のグラフから求める。求められたこのAPDの値が、二番目の心筋興奮の波形(破線四角形133に含まれる拍)に対して生成される単位活動電位波形のAPD2の値となる。
【0065】
同様にして、三番目以降の心筋興奮の波形に対して生成される単位活動電位波形の各APD(APD3,APD4等)の値が求められる。
【0066】
第一生成部11は、続いて、求められた各APDの値に基づいて、活動電位波形25を生成する際に使用する活動電位単位波形を図21の活動電位単位波形120の中から選択する。具体的には、図21の各活動電位単位波形120において−53mvを示す2点間(例えば、t−t間)の時間間隔を各活動電位単位波形120のAPDの値として、上記のように求められた各APD(APD1,APD2,・・・)の値に近似するAPDの値を有する活動電位単位波形120を順次選択する。
【0067】
選択された各活動電位単位波形120は、活動電位波形25を生成する各波形として、心内心電図波形21に対応して図24のように表示される。なお、心内心電図波形21に対する各活動電位単位波形120の表示位置は、図25に示すような位置となる。例えば、心内心電図波形21を全波整流して全波整流波形24を作成し、全波整流波形24に移動平均処理を施して活動電位波形25を作成したとき、活動電位波形25の頂点25Pの時相が、活動電位単位波形120の始点121の位置となる。
【0068】
第一生成部11は、同様にして、心内心電図波形21a〜21jに対する活動電位波形25a〜25jをそれぞれ生成する。
【0069】
続いて、第一補完部12は、上記実施形態1と同様に、仮想電極の位置を設定するとともに、設定した仮想電極に対する活動電位波形25k等を補完する。
なお、実施形態2では、活動電位単位波形を用いているため、上記実施形態1のような補正部による活動電位波形の振幅を揃える補正は行っていない。
【0070】
続いて、第二生成部14は、各単位活動電位波形のAPD(APD3,APD4等)の値における平均APDを算出し、上記実施形態1と同様に、シフト波形40a〜40kを生成する。活動電位波形25a〜25kとシフト波形40a〜40kはそれぞれ、電極及び仮想電極が設けられている位置のグリッド23上に配置される(図11(b)参照)。
【0071】
なお、これ以降における、第二補完部15、第三生成部16、検出部17、判別部4(算出部18を含む)、及び表示部5の処理動作は、上記実施形態1と同様である。
【0072】
上記のような構成の心筋興奮判別装置100においても実施形態1と同様の効果を奏する。
【0073】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0074】
例えば、上記の実施形態では、活動電位波形とシフト波形とを用いて相図及び可視化データを作成し、その可視化データに基づいて心筋の興奮動態の種別を判別している。しかし、この構成に限定されず、例えば心内心電図に対してヒルベルト変換を行って相図及び可視化データを作成し、その可視化データに基づいて心筋の興奮動態の種別を判別するようにしても良い。
【符号の説明】
【0075】
1,100:心筋興奮判別装置、2:取得部、3,3A:演算部、4:判別部、5:表示部、11,111:第一生成部、12:第一補完部、13:補正部、14:第二生成部、15:第二補完部、16:第三生成部、17:検出部、18:算出部、21:心内心電図波形、22:フレーム、23:グリッド、25:擬似的な活動電位波形、30,35:活動電位波形、40,45:シフト波形、50:相図、52:可視化データ、60:第一グリッド集合、61:第二グリッド集合、62:位相特異点、110:記憶部、120:活動電位単位波形、121:始点、122:頂点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25