(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンは、主要構成要素として圧縮機、燃焼器及びタービンを含んでいる。
【0003】
このうち、燃焼器で生成された燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換する要素であるタービンは、1以上の段から成り、各段のタービンロータは、通常、主要構成要素として、複数の動翼と、これを支持する1つのディスクと、を含んでいる。
【0004】
ディスクは円盤状の部材であり、その外周面には、動翼と同数のスロット(溝)が周方向に等間隔に設けられている。
【0005】
動翼は、通常、径方向外側から順に、1つまたは複数のエアフォイル、プラットフォーム、シャンク及びダブテールから成っている。エアフォイルは、主流流路(燃焼ガスの流路)を横断して径方向に延びる部位であり、翼型の断面形状を有している。エアフォイルは、上流に配置された静翼から流出する燃焼ガスを転向させることにより、燃焼ガスから周方向の反力を受け、この反力によるトルクがタービンロータを回転させる。プラットフォームは、エアフォイルの根元(径方向内端)に結合された板状の部位であり、主流流路の径方向内端を画定している。ダブテールは、動翼の径方向内端の部位であり、シャンクによってプラットフォームと接続されている。
【0006】
動翼のダブテール(dovetail)は、周方向においてシャンクよりも大きな幅を有しており、通常、鳩(dove)の尾(tail)状、または、樅の木(またはクリスマスツリー)状の断面形状を有している。一方、ディスクの外周面に設けられたスロットも、動翼のダブテールと同様の断面形状を有しており、両断面形状は、互いに相補的なものとされている。そこで、以下においては、ディスクのスロットをダブテールスロットと称することにする。
【0007】
動翼は、ディスクのダブテールスロットにダブテールが嵌め込まれることにより、ディスクに保持される。より具体的には、この状態において、動翼の径方向及び周方向の移動が規制される。一方、この状態においては、動翼の前後方向の移動は規制されていない。したがって、何らかの手段を講じない限り、ガスタービンエンジンの運転中、燃焼ガスから受ける前後方向の荷重によって、動翼が前方または後方へ移動し、ディスクから脱落する虞がある。
【0008】
そのため、タービンロータには、ディスクへの動翼保持構造、すなわちディスクに対する動翼の前後方向移動を抑止するための構造が設けられている。このような動翼保持構造は、例えば特許文献1(
図1〜3)に開示されている。
【0009】
特許文献1に開示された動翼保持構造は、動翼リテーナを用いるものである。当該動翼保持構造において、ディスク(「ブレード取付用ディスク(10)」)のダブテールポスト(隣り合う2つのダブテールスロットの間の柱状の部位;「突起部(10a)」)の前面には、径方向内方に開口する凹所を形成するフック(「逆L字部分(12)」)が設けられており、この凹所に、円弧状に形成された動翼リテーナ(「ブレード保持具(20)」)が嵌め込まれる。
【0010】
ガスタービンエンジンの運転中、動翼リテーナは、遠心力によって外方へ、前後方向に延びるフックの腕部の径方向内面に押し付けられ、凹所から脱落することはない。このとき、動翼リテーナは、隣り合う2つのダブテールポストの間の領域において、ダブテールスロット(「凹部(10b)」)を横断するように周方向に延びている。したがって、動翼(「ブレード(1)」)の前方への移動は、動翼のダブテール(「取付部(1a)」)が動翼リテーナと接触することにより抑止される。
【0011】
なお、動翼の後方への移動は、例えば、ダブテールポスト後部の外面に径方向外方へ突出するストッパを設け、これに、動翼のスカート部(プラットフォームの前・後端のそれぞれからシャンクの前・後側に沿って径方向内方へ延びる板状の部位)を前方から接触させることにより、抑止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、ガスタービンエンジンにおいては、通常、圧縮機の適宜の段から抽出された空気がタービンロータの周囲に供給され、その冷却に供される。このようなタービンロータ冷却空気供給系の一例を、
図6に示す。
【0014】
図6は、2軸のターボファンエンジンのタービン部の断面図上で、冷却空気の流れを矢印により示したものである。
【0015】
図において、LRは低圧タービンロータである。また、Fは高圧タービン(図示省略)と低圧タービンの間に配置されたフレームであり、主流流路(燃焼ガスの流路)MPを径方向に横断する部位(ストラット)は、遮熱のためフェアリングにより囲まれている。また、低圧タービンロータLRは6段から成り、各段のタービンロータは、上述したように、複数の動翼B1〜B6と、これを支持するディスクD1〜D6とを含んでいる。
【0016】
圧縮機の所定の段から抽出された空気は、矢印A0で示すように、フレームFの内部(ストラットとフェアリングの間に形成された空間)を通じて低圧タービンロータLRの周囲のキャビティCVに供給される。この空気は、その後、矢印AF及びA1〜A5で示すように、低圧タービンロータLRの各部位の冷却に供される。
【0017】
このうち、矢印AFは、低圧タービンの1段静翼N1と1段動翼B1の間の間隙を経て燃焼ガスが主流流路MPからキャビティCVへ侵入することを抑止するための空気(パージエア)である。また、矢印A1〜A5は、1〜5段タービンロータのダブテール領域(動翼のダブテールの底部及びディスクのダブテールポストの基端部周辺)の冷却空気である。
【0018】
2段タービンロータのダブテール領域を冷却する空気A2は、2段ディスクD2から前方へ延びるフロントアームD2fと、1段ディスクD1から後方へ延びるリアアームD1rと、両ディスク間の段間シールIS12とを締結するフランジ部に設けられた径方向に延びるスロットを通じて、フロントアームD2fと段間シールIS12の間に形成されたキャビティに流入する。この空気は、その後、2段動翼B2のダブテールと2段ディスクD2のダブテールスロットの底部との間の間隙に流入し、2段タービンロータのダブテール領域を冷却しながら後方へ流れ、2段ディスクD2の後方のキャビティへ流出する。3〜5段タービンロータのダブテール領域を冷却する空気A3〜A5についても、同様である。
【0019】
これらの冷却空気は、上述したように、キャビティCVからスロットを経てダブテール領域へ供給されるため、その流量は、スロットの流路断面積によって調整することができる。すなわち、スロットの流路断面積を適切に設定することにより、所要流量の冷却空気を過不足なく供給することが可能である。
【0020】
一方、1段タービンロータのダブテール領域を冷却する空気A1は、上述した2〜5段タービンロータのダブテール領域を冷却する空気A2〜A5とは状況が異なっている。この点について、以下に説明する。
【0021】
図7は、1段タービンロータの拡大断面図である。このタービンロータは、特許文献1に開示されたものと同様の動翼保持構造を備えている。
【0022】
すなわち、ディスク120のダブテールポスト122の前面には、その外縁部から前方へ突出するフック124が設けられており、このフック124とダブテールポスト122の前面とにより画定される凹所124Rに、部分円弧状の動翼リテーナ130が嵌め込まれている。なお、114Pは、タービンロータが静止している状態において、その上部に位置している動翼リテーナ130が凹所124Rから脱落して下方へ落下することを防止するために、動翼110のダブテールの前面の内端近傍に設けられた突起である。
【0023】
この状態において、動翼110のダブテールとディスク120のダブテールスロットの底部との間の間隙Gは、ディスク120の前面において動翼リテーナ130によって覆われておらず、キャビティCVに直接的に開口している。したがって、タービンロータのダブテール領域を冷却する空気は、キャビティCVから直接的に間隙Gに流入する。すなわち、当該空気の流量を積極的に調整し得る手段が存在しない。そのため、このようなタービンロータのダブテール領域には、必要以上に冷却空気が供給されてしまう。
【0024】
このように、1段タービンロータのダブテール領域に過剰な流量の冷却空気A1が供給されると、他の冷却空気AF及びA2〜A5の流量が不足する虞があり、好ましくない。
【0025】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであって、ディスクに対する動翼の前後方向移動を確実に抑止しつつ、ダブテール領域に所要流量の冷却空気を過不足なく供給することができる動翼保持構造を備えたタービンロータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様のタービンロ
ータは、それぞれがダブテールを備える複数の動翼と、前記ダブテールが嵌め込まれるダブテールスロットと、ダブテールポストとが、外周面に交互に形成されたディスクと、前記ディスクに対する前記動翼の前方への移動を規制する部分円弧状の複数の動翼リテーナと、前記ダブテールの底部と前記ダブテールスロットの底部との間の
ダブテール間隙を流れる空気の流量を調整する流量調整プレートとを備え、前記ダブテールポストは、その前面から前方へ突出すると共に径方向内方及び周方向に開口する凹所を画定するフックを有し、前記流量調整プレートは、周方向に分割されていない環状の本体部と、前記本体部の後面に周方向に等間隔で形成され、前記本体部の内縁から前記
ダブテール間隙よりも径方向外方まで延びる前記動翼と同数のスロットとを有し、
前記スロットの流路断面積は、前記ダブテール間隙に所要流量の冷却空気が供給されるように設定されており、前記凹所内において、前記動翼リテーナは前記フックと前記流量調整プレートの間に、前記流量調整プレートは前記スロットが周方向で前記ダブテールスロットに対応し位置するようにして前記動翼リテーナと前記ダブテールポストの間に、それぞれ嵌め込まれている。
【0027】
本発明の第2の態様のタービンロ−タにおいて、前記流量調整プレートは、隣り合う前記スロットの間に前記本体部の外周に位置して周方向に等間隔で配置された、前記動翼と同数のタブを備え、前記タブの周方向の幅は、全ての径方向位置において、隣り合う前記フックの周方向の間隔よりも小さく、前記タブの外縁は部分円筒面として形成されており、該部分円筒面は、前記フックの腕部の内径より小さく、かつ、前記フックの先端部の内径より大きい半径を有する。
【0028】
本発明の第3の態様のタービンロ−タにおいて、前記動翼リテーナは、部分円弧状の本体部と、前記本体部の周方向中央部の前面及び後面にそれぞれ設けられた前側凸部及び後側凸部と、を備え、前記前側凸部は、隣り合う2つの前記フックの間に位置付けられ、前記後側凸部は、前記流量調整プレートの前面に形成された凹部に嵌合されている。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、従来の動翼保持構造に対して環状の流量調整プレートを追加するだけの簡単な構成で、ダブテール間隙に所要流量の冷却空気を過不足なく供給することができる。これにより、ディスクに対する動翼の前後方向移動を確実に抑止しつつ、ダブテール領域を適切に冷却できるという、優れた効果を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施形態の1段タービンロータ(以下、タービンロータ)1の要部拡大断面図、
図2は、要部拡大斜視図である。なお、両図においては、左が前側(上流側)、右が後側(下流側)である。また、
図2は、タービンロータ1のダブテール領域の構造を理解しやすくするために、ディスク20に1つの動翼10のみが組み付けられ、後述する動翼リテーナ30及び流量調整プレート40が組み付けられていない状態を図示している。
【0033】
図1及び
図2において、10は動翼、20はディスクである。
【0034】
動翼10は、径方向外側から順に、エアフォイル11、プラットフォーム12、シャンク13及びダブテール14から成っている。また、プラットフォーム12の前端、後端からは、それぞれフロントスカート15F、リアスカート15Rが、径方向内方へ延びている。さらに、フロントスカート15F、リアスカート15Rからは、エンジェルウィング16F、16Rが、それぞれ前方、後方へ突出している。なお、エンジェルウィング16F、16Rは、前後方向に対向する静翼の内径部と協働して、動翼10の前後のキャビティと主流流路との間に形成される流路を屈曲させることによりその抵抗を増大させ、主流流路から動翼10の前後のキャビティへの燃焼ガスの侵入を抑制する作用を有している。
【0035】
一方、ディスク20は、径方向外側から順に、リム部20R、ウェブ部20W及びボア部20Bから成っている。このうち、リム部20Rには、
図2に示すように、外周面に動翼10と同数のダブテールスロット21が周方向に等間隔に設けられており、隣り合う2つのダブテールスロット21の間には、それぞれ、柱状のダブテールポスト22が形成されている。換言すれば、ディスク20の外周面には、ダブテールスロット21とダブテールポスト22が交互に形成されている。
【0036】
なお、動翼10のダブテール14、及び、ディスク20のダブテールスロット21は、背景技術欄で説明した従来のタービンロータにおけるものと同様に構成されているので、その詳細な説明は省略する。
【0037】
動翼10は、ダブテール14がダブテールスロット21に前方(
図1及び
図2における左方)から嵌め込まれることにより、径方向及び周方向の移動が規制された状態で、ディスク20に保持される。このとき、動翼10のリアスカート15Rの内端部が、ディスク20のダブテールポスト22の後部外面に設けられた、径方向外方へ突出するストッパ23に前方から接触することにより、動翼10の後方への移動が抑止される。動翼10の前方への移動は、以下で詳述する動翼保持構造によって抑止される。
【0038】
なお、
図1及び
図2は、タービンロータ1が回転している状態を図示しており、動翼10は遠心力の作用によって径方向外方へ押し付けられ、その結果、ダブテール14の底部とディスク20のダブテールスロット21の底部との間には、ダブテール間隙G(間隙)が形成されている。このダブテール間隙Gを通って、冷却空気がタービンロータ1の前側(高圧側)から後側(低圧側)へ流れることにより、ダブテール領域(動翼10のダブテール14の底部及びディスク20のダブテールポスト22の基端部周辺)が冷却される。
【0039】
ダブテールポスト22の前面には、径方向内方及び周方向に開口する凹所24Rを形成するL字状のフック24が、前方へ突出して設けられている。
図2に示された実施形態において、フック24は、前方から見て略台形状に形成されているが、この形状は、前方から見てダブテールポスト22の輪郭内に収容されるようなものとなっている(
図5A参照)。換言すれば、フック24は、前方から見て、ダブテールポスト22の輪郭より外側、すなわちダブテールスロット21の領域にはみ出していない。これにより、ダブテールスロット21の領域は、前後方向においてフック24により遮られることがなく、したがって、動翼10のダブテール14は、フック24と干渉することなくダブテールスロット21に嵌め込まれ得る。
【0040】
そして、本発明の実施形態のタービンロータ1においては、
図1に示すように、特許文献1に開示された動翼保持構造で用いられていたものと同様の動翼リテーナ30に加えて、流量調整プレート40が、凹所24Rに嵌め込まれている。そのため、L字状のフック24のうち、前方へ突出する腕部24Aの長さは、特許文献1に開示された動翼保持構造よりも、流量調整プレート40の厚さに相当する分だけ長くなっている。
【0041】
流量調整プレート40は、周方向に分割されていない環状の板状部材であり、ディスク20のリム部20R(及び動翼10のダブテール14)の前面に接触した状態で凹所24Rに嵌め込まれている。
【0042】
図3は、流量調整プレート40の形状を示す図であり、(A)は前面図、(B)は(A)におけるI−I断面図、(C)は後面図である。
【0043】
流量調整プレート40は、環状の本体部41と、本体部41の外周に等間隔で配置された、動翼10と同数のタブ42と、から成っている。
【0044】
本体部41は、後述するように、ダブテール間隙Gに流入する冷却空気の流量を調整するスロット41Sを備える部位であるが、冷却空気が当該スロット41S以外の経路から流入しないよう、ダブテール間隙Gを覆う機能をも有している。そのため、本体部41の内径は、ディスク20のダブテールスロット21の底部とタービンロータ1の中心軸との距離よりも小さく、外径は、動翼10のダブテール14の底部とタービンロータ1の中心軸との距離よりも大きく、それぞれ形成されている。これにより、ダブテール間隙Gは、前方から見て、本体部41により完全に覆われることになる(
図5C参照)。したがって、冷却空気が、前方からダブテール間隙Gに流入することはない。
【0045】
本体部41の後面、すなわちディスク20のリム部20R(及び動翼10のダブテール14)の前面と接触する面には、
図3(C)に示すように、動翼10と同数のスロット(溝)41Sが周方向に等間隔に設けられている。
【0046】
当該スロット41Sは、本体部41の内周縁から、動翼10のダブテール14の底部よりも、すなわちダブテール間隙Gよりも径方向において外方まで延びている(
図5C参照)。また、各スロット41Sは、ディスク20のダブテールスロット21と同一の周方向位置に配置されている(
図5C参照)。これにより、径方向内側からスロット41Sに流入した冷却空気が、ダブテール間隙Gに流入することができる。そして、このスロット41Sの流路断面積は、ダブテール間隙Gに所要流量の冷却空気が供給されるように設定される。スロット41Sの形状は、図示した実施形態においては、径方向視及び軸方向視のいずれにおいても断面形状が矩形となっているが、これらの断面形状は任意に設定することができる。
【0047】
一方、本体部41の前面には、
図3(A)に示すように、前方及び径方向外方に開口する凹部41Rが設けられている。同図においては、1個の凹部41Rのみを示しているが、本体部41の前面には、後述する動翼リテーナ30と同数の凹部41Rが、周方向に等間隔に設けられている。凹部41Rは、後述する動翼リテーナ30に設けられた後側凸部32Rと協働して、流量調整プレート40の周方向の移動を規制する廻り止めの機能を有しているが、これについては後述する。
【0048】
タブ42は、
図3に示すように、例えば台形状に形成することができる。
【0049】
タブ42の周方向の幅は、全ての径方向位置において、ディスク20のダブテールポスト22に設けられたフック24の周方向間隔よりも小さくなっている。これにより、流量調整プレート40を前方からディスク20のリム部20Rの前面に接近させる際、タブ42は、2つの隣り合うフック24の間を通過し、当該フック24とは干渉しない(
図5B参照)。この構成は、後述する流量調整プレート40の組み立てを可能とするために、必須のものである。
【0050】
また、タブ42の外縁(台形の上底に相当する部分)は、部分円筒面として形成されており、当該部分円筒面は、ディスク20のダブテールポスト22に設けられたフック24の腕部24Aの内径より小さく、かつ、当該フック24の先端部24Tの内縁の半径より大きい半径を有するものとされている。これにより、タブ42は、フック24の先端部24Tの後方に位置付けることができる(
図5C参照)。この構成は、後述する手順により組み付けられた流量調整プレート40が前方へ移動しないようにするために、必須のものである。
【0051】
図4は、動翼リテーナ30の形状を示す図であり、(A)は前面図、(B)は(A)におけるII−II断面図、(C)は後面図である。
【0052】
動翼リテーナ30は、全体として環状を成すN個(Nは2以上の整数)の部材から成っており、個々の動翼リテーナ30は、本体部31と、本体部31の周方向中央部の前面及び後面にそれぞれ設けられた前側凸部32F及び後側凸部32Rと、から成っている。
【0053】
本体部31は、中心角が実質的に(360/N)度の部分円弧を成す板状の部位であり、フック24により形成される凹所24R内において、フック24の先端部24Tと流量調整プレート40の間に嵌め込まれる。
【0054】
前側凸部32Fは、周方向において、隣り合う2つのフック24の間に位置付けられる(
図5D参照)。前側凸部32Fは、製造を容易とするため、前方からみて例えば矩形状に形成することができる。その際、当該矩形の幅(周方向寸法)は、隣り合う2つのフック24が最も接近する位置における周方向間隔より僅かに小さく設定されている。また、前側凸部32Fの径方向における延在範囲は、フック24の先端部24Tの延在範囲とオーバーラップしており、これにより、前側凸部32Fの周方向の移動は、オーバーラップした範囲における前側凸部32Fの側面とフック24の先端部24Tの側面との干渉により、規制される。なお、
図4に示された実施形態においては、矩形の下縁(面取りされた径方向内側の縁)は本体部31の内縁と一致しており、また、矩形の上縁(径方向外側の縁)とタービンロータ1の中心軸との距離は、隣り合う2つのフック24が最も接近する位置の径より僅かに大きく設定されている。
【0055】
一方、後側凸部32Rは、前側凸部32Fと同一の周方向位置に設けられている(
図4(C)参照)。後側凸部32Rも、製造を容易とするため、前方からみて例えば矩形状に形成することができる。その際、当該矩形の幅(周方向寸法)は、流量調整プレート40の前面に設けられた凹部41Rの幅よりも僅かに小さく設定されている。また、矩形の下縁(径方向内側の縁)は凹部41Rの内縁より僅かに径方向外方に位置付けられている。さらに、後側凸部32Rの前後方向の厚さ(径方向外側の面取りされた部位を除く部位の厚さ)は、凹部41Rの前後方向の深さよりも僅かに小さく設定されている。換言すると、後側凸部32Rは、流量調整プレート40の前面に設けられた凹部41Rに僅かな間隙を有する状態で嵌合され得るよう、その形状及び寸法が設定されている。この構成は、後側凸部32Rが、流量調整プレート40の前面に設けられた凹部41Rと協働して、流量調整プレート40が周方向に移動しないようにするために、必須のものである。
【0056】
以上で説明した各部材、すなわち動翼10、ディスク20、動翼リテーナ30及び流量調整プレート40から成る本発明の実施形態のタービンロータ1の組立手順について、
図5A〜
図5Dを参照しつつ以下で説明する。
【0057】
図5A〜
図5Dは、組み立ての各工程におけるタービンロータ1の要部を、前方から見た図である。なお、同図において、動翼10は、径方向外方へ押し付けられた状態(タービンロータ1が回転し、遠心力が作用している状態と同様の状態)で示されている。
【0058】
図5Aは、ディスク20のリム部20Rに設けられたダブテールスロット21のそれぞれに、ダブテール14を前方(図における紙面の手前側)から嵌め込むことにより、動翼10をディスク20に組み付けた状態を示している。
【0059】
続いて、流量調整プレート40が、
図5B及び
図5Cに示される手順により組み付けられる。
【0060】
図5Bは、流量調整プレート40を、前方からディスク20に接近させ、そのリム部20R(及び動翼10のダブテール14)の前面に接触させた状態を示している。このとき、流量調整プレート40のタブ42は、ディスク20のダブテールポスト22に設けられたフック24と干渉することなく、それらの間を通過し、動翼10のダブテール14の前面に接触する。
【0061】
次に、流量調整プレート40を、タブ42の周方向ピッチの1/2だけ、時計方向に回転させた状態が、
図5Cである。このとき、流量調整プレート40のタブ42は、ディスク20のダブテールポスト22に設けられたフック24の先端部24Tの後方に位置付けられている。この状態において、流量調整プレート40を前方(図における紙面の手前側)へ移動させようとしても、タブ42がフック24の先端部24Tと干渉するため、移動させることはできない。すなわち、タブ42がフック24の先端部24Tと協働して、流量調整プレート40の前方への移動を抑止している。
【0062】
また、この状態において、流量調整プレート40の後面に設けられたスロット41Sは、ディスク20のダブテールスロット21と同一の周方向位相に位置付けられている。これにより、冷却空気は、径方向内側からスロット41Sを経てダブテール間隙Gに流入することができる。
【0063】
なお、
図5B及び
図5Cは、前者の状態から後者の状態へ遷移する際、流量調整プレート40が時計方向に回転させられる場合を示しているが、この回転方向が反時計方向であってもよいことは言うまでもない。
【0064】
その後、動翼リテーナ30が、
図5Dに示すように、ディスク20のダブテールポスト22に設けられたフック24の先端部24Tと、流量調整プレート40と、の間に嵌め込まれる。
【0065】
このとき、動翼リテーナ30の前側凸部32Fは、隣り合う2つのフック24の間に位置付けられている。したがって、ディスク20に対する動翼リテーナ30の周方向の移動は、前側凸部32Fの側面がフック24の側面と干渉することにより、規制される。
【0066】
また、この状態において、動翼リテーナ30の後側凸部32Rは、流量調整プレート40の前面に設けられた凹部41Rに僅かな間隙を有する状態で嵌合されている。これにより、動翼リテーナ30に対する流量調整プレート40の周方向の移動、ひいてはディスク20に対する流量調整プレート40の周方向の移動が規制される。
【0067】
以上の手順により組み立てられた本発明の実施形態のタービンロータ1によれば、従来の動翼保持構造に対して環状の流量調整プレート40を追加するだけの簡単な構成で、ダブテール間隙Gに所要流量の冷却空気を過不足なく供給することができる。これにより、ディスク20に対する動翼10の前後方向移動を確実に抑止しつつ、ダブテール領域を適切に冷却できるという、優れた効果を得ることが可能である。
【0068】
なお、動翼リテーナ30の本体部31を構成する部分円弧の内径を、ディスク20のダブテールスロット21の底部とタービンロータ1の中心軸との距離よりも小さくすると共に、本体部31の後面にスロット41Sと同様のスロットを設けることにより、流量調整プレート40の機能を持たせることも不可能ではない。
【0069】
しかしながら、この場合には、隣り合う2つの動翼リテーナ30の端部の間に周方向の間隙が生じるため、この間隙を経て過剰な冷却空気がダブテール領域に流入する虞がある。
【0070】
これに対して、本発明の実施形態のタービンロータ1では、流量調整プレート40が周方向に分割されていない環状の部材であるため、過剰な冷却空気の侵入経路となり得る周方向間隙を完全に排除することができる。