【文献】
角屋 正人,閉塞理論の解説とろ過結果への適用,2013 SPRING Pall News Vol.117 [online],日本ポール株式会社,2013年,10−15頁,[2018年7月18日検索],URL,https://www.pall.com/content/dam/pall/pall−corp/literature−library/non−gated/PN117.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
以下、本発明の好適な第1実施形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、プリンタ1は、キャリッジ2、インクジェットヘッド3、搬送ローラ4などを備えている。
【0014】
キャリッジ2は走査方向に延びた2本のガイドレール5に支持され、ガイドレール5に沿って走査方向に往復移動する。なお、以下では、
図1に示すように走査方向の右側及び左側を定義して説明を行う。
【0015】
インクジェットヘッド3は、キャリッジ2に搭載され、その下面に形成された複数のノズル15からインクを噴射する。インクジェットヘッド3には、4本のチューブ6を介して、4つのカートリッジ装着部7に接続されている。4つのカートリッジ装着部7には、それぞれ、インクカートリッジ8が装着されている。インクカートリッジ8は、
図2に示すように、内部にインクを貯留するための直方体形状の貯留空間8aを備えている。そして、インクカートリッジ8がカートリッジ装着部7に装着されると、インクカートリッジ8の、貯留空間8aに連通する供給流路8bが、カートリッジ装着部7のインク流路7aに接続される。なお、供給流路8bには、バルブなどが設けられているが、
図2では図示を省略している。また、インク流路7aは、供給流路8bと反対側においてチューブ6と接続されている。これにより、貯留空間8a内のインクが、インク流路7aを介してチューブ6に流れ込む。また、インクカートリッジ8には、左側のカートリッジ装着部7に装着されたものから順に、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが充填されており、これらのインクカートリッジ8に充填された4色のインクが、インクジェットヘッド3に供給される。
【0016】
搬送ローラ4は、走査方向と直交する搬送方向におけるキャリッジ2の両側に配置され、記録用紙100を搬送方向に搬送する。
【0017】
そして、プリンタ1では、搬送ローラ4により記録用紙100を搬送方向に搬送しつつ、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3からインクを噴射することによって、記録用紙100に印刷を行う。
【0018】
次にインクジェットヘッド3について説明する。インクジェットヘッド3は、
図3、
図4に示すように、ノズル15や後述の圧力室10等のインク流路が形成された流路ユニット21と、圧力室10内のインクに圧力を付与するための圧電アクチュエータ22を備えている。
【0019】
流路ユニット21は、4枚のプレート31〜34が互いに積層されることによって形成されている。4枚のプレート31〜34のうち3枚のプレート31〜33は、ステンレスなどの金属材料からなる。プレート34はポリイミド等の合成樹脂材料からなる。あるいは、プレート34も、プレート31〜33と同様の金属材料からなるものであってもよい。
【0020】
プレート34には、複数のノズル15が形成されている。ノズル15の径D1は、20μm程度となっている。また、複数のノズル15は、搬送方向に配列されることによってノズル列9を形成しており、プレート34には、4つのノズル列9が走査方向に配列されている。そして、複数のノズル15からは、左側のノズル列9を形成するものから順に、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが噴射される。
【0021】
プレート31には複数の圧力室10が形成されている。複数の圧力室10は、平面視で走査方向を長手方向とする楕円形状を有している。また、複数の圧力室10は、複数のノズル15に対して個別に設けられ、左端部において対応するノズル15と重なっている。
【0022】
プレート32には、複数の圧力室10の右端部と重なる部分に、複数の円形の貫通孔12が形成されている。また、プレート32には、複数の圧力室10の左端部と重なる部分に、複数の円形の貫通孔13が形成されている。
【0023】
プレート33には、4つのマニホールド流路11が形成されている。4つのマニホールド流路11は、4つのノズル列9に対応して設けられ、搬送方向に延びて、対応するノズル列9を構成するノズル15と重なる複数の圧力室10の右半分と重なっている。また、各マニホールド流路11には、搬送方向上流側の端部に設けられ、流路ユニット21の上面に開口したインク供給口16を介してチューブ6と接続されており、インク供給口16からインクが供給される。また、プレート33には、複数の貫通孔13と重なる部分に、複数の円形の貫通孔14が形成されている。
【0024】
そして、流路ユニット21では、マニホールド流路11が貫通孔12を介して圧力室10と連通し、圧力室10が貫通孔13、14を介してノズル15に連通している。このように、流路ユニット21には、マニホールド流路11の出口から圧力室10を経てノズル15に至る複数の個別インク流路が形成されている。
【0025】
圧電アクチュエータ22は、インク分離層41、圧電層42、共通電極43及び複数の個別電極44を備えている。インク分離層41は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなり、複数の圧力室10を覆うように、流路ユニット21の上面に配置されている。なお、インク分離層41は、次に説明する圧電層42とは異なり、合成樹脂材料など、圧電材料以外の絶縁性材料によって構成されていてもよい。
【0026】
圧電層42は、上述の圧電材料からなり、インク分離層41の上面に複数の圧力室10にまたがって連続的に延びている。共通電極43は、インク分離層41と圧電層42との間に、その全域にわたって連続的に延びている。また、共通電極43は、常にグランド電位に保持されている。
【0027】
複数の個別電極44は、圧電層42の上面に、複数の圧力室10に対して個別に設けられている。個別電極44は、圧力室10よりも一回り小さい楕円形状を有し、対応する圧力室10の中央部と重なるように配置されている。また、個別電極44の左端部は、圧力室10と重ならない部分まで延び、その先端部が接続端子44aとなっている。接続端子44aには、図示しないドライバICと接続されている。各個別電極44には、ドライバICによって個別に、グランド電位、及び、例えば20V程度の駆動電位のうち、いずれかの電位が選択的に付与される。
【0028】
また、共通電極43及び複数の個別電極44がこのように配置されているのに対応して、圧電層42の共通電極43と個別電極44とに挟まれた部分は、厚み方向に分極されている。
【0029】
ここで、圧電アクチュエータ22を駆動して、ノズル15からインクを噴射させる方法について説明する。圧電アクチュエータ22では、予め、全ての個別電極44がグランド電位に保持されている。あるノズル15からインクを噴射させるときには、当該ノズル15に対応する個別電極44の電位を駆動電位に切り換える。すると、圧電層42の当該個別電極44と共通電極43とに挟まれた部分に分極方向と平行な厚み方向の電界が発生する。この電界により、圧電層42のこの部分が分極方向と直交する水平方向に収縮する。これにより、インク分離層41及び圧電層42の圧力室10と重なる部分が全体として圧力室10側に凸となるように変形する。その結果、圧力室10の容積が小さくなって圧力室10内のインクの圧力が上昇し、圧力室10に連通するノズル15からインクが噴射される。
【0030】
また、インクジェットヘッド3では、流路ユニット21の上面の4つのインク供給口16と重なる部分に、それぞれ、フィルタ51が設けられている。フィルタ51は、いわゆる電鋳フィルタであり、
図5(a)、(b)に示すように複数の貫通孔52を有している。貫通孔52の径D2は、例えば10μmなど、20μm以下となっている。なお、
図5(a)〜(c)では、便宜上、貫通孔52を大きめに図示している。
【0031】
そして、第1実施形態では、インク供給口16からインクジェットヘッド3にインクが流れ込む際に、インク中の異物がフィルタ51によって捕捉され、インクジェットヘッド3内にインク中の異物が流れ込むのが防止される。ここで、インク中の異物とは、具体的には、インクカートリッジの製造を行う作業者の皮膚片など、大部分が40μmよりも大きいものとなっている。これに対して、本実施の形態では、フィルタ51の貫通孔52の径D2が40μmよりも小さいため、インク中の異物を確実に捕捉することができる。
【0032】
また、インク中の異物がインクジェットヘッド3内に流れ込んでしまった場合、流れ込んだ異物がノズル15の径D1よりも大きなものであると、流れ込んだ異物によってノズル15が詰まってしまう虞がある。本実施の形態では、ノズル15の径D1が20μm程度であるのに対して、フィルタ51の貫通孔52の径D2が、ノズル15の径D1よりも小さい10μm程度となっているため、ノズル15の径D1よりも大きいインク中の異物は、確実にフィルタ51によって捕捉される。これにより、インクジェットヘッド3内にノズル15の径D1よりも大きい異物が流れ込んでしまうのを確実に防止することができる。
【0033】
ここで、第1実施形態では、インク供給口16において、フィルタ51が設けられることによって流路抵抗が大きくなっている。また、プリンタ1の使用期間が長くなるほど、フィルタ51に溜まる異物の量が増加し、インク供給口16の流路抵抗が増大する。一方で、インク供給口16における流路抵抗が大きすぎると、インクジェットヘッド3に、ノズル15から噴射するのに必要な量のインクを供給することができなくなってしまう。以上のことから、インク供給口16及びフィルタ51の面積はある程度大きくする必要がある。しかしながら、インク供給口16及びフィルタ51の面積を大きくしすぎると、インクジェットヘッド3の大型化につながる。
【0034】
そこで、第1実施形態では、次のようにして、インク供給口16及びフィルタ51の面積を決定している。なお、ここでいう、フィルタ51の面積Sとは、フィルタ51のうち、実際にインク中の異物を捕捉する、インク供給口16と重なる部分の面積のことであり、インク供給口16からはみ出している部分の面積は含まない。すなわち、フィルタ51の面積Sは、インク供給口16の断面積と同じ面積である。
【0035】
第1実施形態では、上述したように、フィルタ51の貫通孔52の径D2が、インク中の大部分の異物よりも小さい。このような場合には、
図5(c)に示すように、フィルタ51において捕捉される異物の量が増加するにつれて、貫通孔52の孔径は変化せずに、フィルタ51の表面に堆積する異物Fの量が増加して、フィルタ51の厚みLと堆積した異物の高さとを合計した厚みLsが大きくなると捉えて、フィルタ51における圧力損失ΔPを推定する、いわゆるケーキ理論によってフィルタ51における圧力損失ΔPを推定することにより、フィルタ51の圧力損失ΔPを適切に推定することができる。
【0036】
ケーキ理論を適用した場合、フィルタ51全体が供給口16と重なっているとして、フィルタ51の面積をS、インクの粘度をμ[Pa・S]、複数ノズル15からインクが噴射されているときにフィルタ51を通過するインクの流量の最大値をQ[m
3/s]、フィルタ51の単位面積当たりの貫通孔52の孔数をN、貫通孔52の孔径をd[m]、フィルタ51を通過するインクのケーキ引抵抗をα
c[m
3/kg]、フィルタ51を通過するインクの粒子濃度をC[kg/m
3]、プリンタ1が使用される間にフィルタ51を通過するインクの体積の合計の最大値をV
total[m
3]、フィルタ51の厚みをL[m]とすると、フィルタ51の圧力損失ΔP[Pa]は、ハーゲンポワズイユの式から、
【数9】
となる。なお、上記μ、Q、N、d、α
c、C、V
totalについては後ほど詳細に説明する。
【0037】
そして、フィルタ51における圧力損失の上限値をΔP
M[Pa]としたときに、プリンタ1における後述の最大印刷可能枚数の画像が印刷されるまでの間、常にΔP≦ΔP
Mとなるようにフィルタ51の面積Sを決定すれば、プリンタ1における最大印刷可能枚数の画像が印刷されるまでの間に、フィルタ51における圧力損失ΔPがΔP
Mを超えてしまうことがない。なお、上記ΔP
Mについては後ほど詳細に説明する。上記(1)の式でΔP=ΔP
Mである場合のフィルタ51の面積S
minは、a、bを、
【数1】
【数2】
として、
【数3】
となる。したがって、第1実施形態では、インク供給口16及びフィルタ51の面積Sを下限値S
min以上となるように決定する。
【0038】
ここで、上述のμ、Q、N、d、α
c、C、V
total、及び、ΔP
Mについて詳細に説明する。
【0039】
インクの粘度μは、例えば、インクカートリッジ8に注入される段階でのインクの粘度である。
【0040】
複数ノズル15からインクが噴射されているときにフィルタ51を通過するインクの流量の最大値Qとは、インクジェットヘッド3において複数のノズル15からインクが噴射されるときに、フィルタ51を通過してインクジェットヘッド3に供給されるインクの流量の最大値のことである。例えば、インクジェットヘッド3が、各ノズル15から、複数種類の体積のインクを選択的に噴射可能なものである場合に、各ノズル列9を形成する全てのノズル15から、上記複数種類の体積のうち最も体積の大きいインクを噴射しているときに、このノズル列9に対応するフィルタ51を通過してインクジェットヘッド3に流れ込むインクの流量のことである。
【0041】
また、単位面積当たりの貫通孔52の孔数Nは、フィルタ51における貫通孔52の分布が不均一な場合等には、フィルタ51の各部分における単位面積当たりの貫通孔52の孔数の平均値とする。また、貫通孔52の孔径dは、フィルタ51に形成された複数の貫通孔52に径のばらつきがある場合には、例えば、これら複数の貫通孔52の孔径の平均値とする。
【0042】
また、ケーキ引抵抗α
cとは、ケーキ理論に基づいて圧力損失ΔPを推定する場合に使用される係数であり、フィルタ51を通過するインクにおける、単位質量当たりの異物の体積であり,その値はインク中の異物の大きさに依存する。また、インクの粒子濃度Cとは、フィルタ51を通過するインクにおける、単位体積当たりの異物の質量のことであり、インクに混入する異物の質量、単位体積当たりのインク中の異物の数に依存する。
【0043】
そこで、各カートリッジ装着部7に1種類のインクカートリッジ8のみが装着される場合には、このインクカートリッジ8内のインクのケーキ引抵抗を、上記(1)の式におけるケーキ引抵抗α
cの値とする。また、このインクカートリッジ8内のインクの粒子濃度を、上記(1)の式における粒子濃度Cの値とする。
【0044】
ここで、各インクカートリッジ8内のインクのケーキ引抵抗及び粒子濃度について説明する。例えば、フィルタ51に各インクカートリッジ8に貯留されたインクをある一定量通過させたときの、フィルタ51の上流側と下流側との圧力差から、このインクカートリッジ8内のインクのケーキ引抵抗と粒子濃度との積α
cCを求めることができる。ここで、積α
cCの値は、ケーキ理論が適用可能なフィルタにおいては一定であり、横軸に流量、縦軸にフィルタ上に堆積した異物の厚みであるケーキ厚を取ったときの傾きに相当する。
【0045】
(1)の式では、ケーキ引抵抗α
cと粒子濃度Cとをこれらの積α
cCの形で用いるため、上述したように積α
cCを求めれば十分であり、各インクカートリッジ8のケーキ引抵抗α
cと粒子濃度Cとを別々に求める必要はない。なお、各インクカートリッジ8内のインクのケーキ引抵抗α
cと粒子濃度Cとを別々に求めることもできる。各インクカートリッジ8内のインクの粒子濃度Cは、例えば、各インクカートリッジ8内インクを分析するなどして、単位体積当たりのインク中の異物の数と、異物の質量の平均値を検出し、検出した単位体積当たりの異物の数に、異物の質量の平均値を乗じることによって求めることができる。そして、上記積α
cCを求めた粒子濃度Cで除すことにより、各インクカートリッジ8内のインクのケーキ引抵抗α
cを求めることができる。
【0046】
一方、各カートリッジ装着部7に、貯留インク量の異なる複数種類のインクカートリッジ8のいずれかが選択的に装着される場合には、インクカートリッジ8間で、インクのケーキ引抵抗及び粒子濃度が異なることがある。
【0047】
より詳細に説明すると、上記複数種類のインクカートリッジ8の製造環境等が互いに異なっている場合には、インクカートリッジ8間でインクに混入する異物の大きさが異なる。すなわち、インクカートリッジ8間でインクのケーキ引抵抗が異なる。また、複数種類のインクカートリッジ8の製造環境等が互いに異なる場合には、インクカートリッジ8間で、インクに混入する異物の質量や、単位体積あたりの異物の数が変わる。そのため、インクカートリッジ8間で、インクの粒子濃度が異なる。
【0048】
また、上記複数種類のインクカートリッジ8の製造環境などが同じであっても、インクカートリッジ8間で、粒子濃度が異なることがある。例えば、
図2に示すようなインクカートリッジ8においては、製造時などに、インクカートリッジ8の貯留空間8aの壁面8cに作業者の皮膚片等の異物が付着し、インクカートリッジ8にインクを注入する際に、壁面8cに付着した異物が、貯留空間8aに注入されたインクに混入する。そのため、複数種類のインクカートリッジ8の製造環境等が同じであれば、壁面8cの総面積S
Cが大きいほど、インクに混入する異物の単位体積当たりの数は多くなる。一方、壁面8cの面積が同じであれば、貯留空間8aに貯留されたインクの体積V
Cが多いほど、インク中の異物の単位体積当たりの数は少なくなる。すなわち、インクカートリッジ8内のインクの粒子濃度は、貯留空間8aの壁面8cの総面積S
Cに比例し、貯留空間8aに貯留されるインクの体積V
Cに反比例する。
【0049】
ただし、通常、貯留空間8aの容積をW倍した場合には、壁面8cの総面積S
CはS
CのW倍よりも小さい値となる。具体的に説明すると、第1実施形態のように、貯留空間8aが直方体形状である場合には、貯留空間8aの容積をW倍するために、例えば、壁面8cのうち、上記直方体の2組の対向面の面積をそれぞれW倍する必要がある。しかしながら、残る1組の対向面の面積は変更する必要がない。よって、貯留空間8aの容積をW倍しても、壁面8cの総面積S
cはS
cのW倍よりも小さい値となる。そのため、製造環境等が同じであれば、貯留空間8aの容積が大きい、つまり、貯留インク量が多いインクカートリッジ8ほど、貯留されたインクの粒子濃度は小さくなる。
【0050】
なお、複数種類のインクカートリッジ8の製造環境等が同じである場合には、複数種類のインクカートリッジ8内のインクに混入する異物の種類が同じであるため、インクカートリッジ8間で、貯留されたインクのケーキ引抵抗は変わらない。
【0051】
以上のようなことを考慮して、各カートリッジ装着部7に、貯留インク量等の異なる複数種類のインクカートリッジ8のいずれかが選択的に装着される場合には、例えば、上記複数種類のインクカートリッジ8内のインクのケーキ引抵抗の平均値を(1)の式におけるケーキ引き抵抗α
cとする。また、上記複数種類のインクカートリッジ8内のインクの、粒子濃度の平均値を(1)の式における粒子濃度Cの値とする。
【0052】
あるいは、上記複数種類のインクカートリッジ8のうち、使用頻度が最も高いと想定されるインクカートリッジ8内のインクの、ケーキ引抵抗の値を(1)の式におけるケーキ引き抵抗α
cとし、上記の使用頻度が最も高いと想定されるインクカートリッジ8内のインクの、粒子濃度の値を(1)の式における粒子濃度Cの値としてもよい。
【0053】
ここで、使用頻度が最も高いと想定されるインクカートリッジについて、カートリッジ装着部7に、標準のインクカートリッジと、これよりも貯留インク量の多い大容量のインクカートリッジのいずれかが選択的に装着可能である場合を例に挙げて説明する。
【0054】
プリンタ1が家庭向けのものであり、年賀状の作成時等、特定の期間だけインクの消費量が多く、その期間には大容量のインクカートリッジが使用され、それ以外の期間には標準のインクカートリッジが使用されると想定される場合には、標準のインクカートリッジと大容量のインクカートリッジの使用個数の比率が、例えば10:1程度であると想定される。したがって、この場合には、通常のインクカートリッジが、使用頻度が最も高いと想定されるインクカートリッジ8となる。そして、通常のインクカートリッジ内のインクのケーキ引抵抗を(1)の式におけるケーキ引抵抗α
cとし、通常のインクカートリッジ内のインクの粒子濃度を(1)の式における粒子濃度Cとする。
【0055】
一方、プリンタ1が、家庭用に比べて印刷枚数の多いオフィス向けのものであり、ほとんどの期間に、大容量のインクカートリッジが使用されると想定される場合には、標準のインクカートリッジと大容量のインクカートリッジとの使用個数比率が、例えば1:10程度であると想定される。したがって、この場合には、大容量のインクカートリッジが、使用頻度が最も高いと想定されるインクカートリッジ8となる。そして、大容量のインクカートリッジ内のインクのケーキ引抵抗を(1)の式におけるケーキ引抵抗α
cとし、大容量のインクカートリッジ内のインクの粒子濃度を(1)の式における粒子濃度Cとする。
【0056】
また、プリンタ1が使用される間にフィルタ51を通過するインクの体積の合計の最大値V
totalは、例えば、プリンタ1において1枚の記録用紙100に画像を印刷したときに消費されると想定されるインク量に、プリンタ1における最大印刷可能枚数を乗じた値である。このとき、1枚の記録用紙100に画像を印刷したときに消費されると想定されるインク量は、例えば、プリンタ1で、1枚の記録用紙100にある特定の画像を印刷したときに消費されるインク量である。あるいは、プリンタ1で1枚の記録用紙100に画像を印刷したときに消費されるインクの量の平均値であってもよい。具体的には、例えば、カラーインクで8.8・10
-9[m
3]程度である。
【0057】
一方、プリンタ1における最大印刷可能枚数は、カタログやWebサイト等で、メーカーが商品を説明する際に、耐久性、製品寿命として記載している印刷枚数のことである。あるいは、プリンタ1では、現在、A4サイズで6万枚程度の印刷できることが市場から求められているため、最大印刷可能枚数を6万枚程度としてもよい。
【0058】
そして、以上のことから、(1)の式におけるV
totalは、上記のような耐久性、製品寿命として記載している印刷枚数の画像を印刷するのに必要なインク量としてもよい。あるいは、A4サイズで6万枚程度の画像を印刷するのに必要なインク量としてもよい。あるいは、例えば、プリンタ1で1枚の記録用紙100に画像を印刷したときに消費されるインク量を8.8・10
-9[m
3]程度とし、最大印刷可能枚数を6万枚程度とし、V
totalを、5.3・10
-4[m
3](=8.8・10
-9・60000[m
3])程度としてもよい。
【0059】
次に、フィルタ51を通過するインクの圧力損失の上限値ΔP
Mについて説明する。プリンタ1では、インクがインクカートリッジ8からノズル15に至るまでのインク流路を流れる間に、インクに圧力損失が生じる。この圧力損失がある上限値を超えると、インクジェットヘッド3からインクが噴射されたときに、インクジェットヘッド3に供給されるインクの量が、インクジェットヘッド3において消費されるインクの量よりも少なくなってしまう。その結果、ノズル15においてインクの噴射不良が生じ、印刷される画像の画質が悪くなってしまう虞がある。ここで、インクカートリッジ8からノズル15に至るまでのインク流路全体におけるインクの圧力損失の上限値は、例えば、1つのマニホールド流路11と連通するノズル15の数が140個であり、1つのノズル15から吐出可能な最大インク体積が35・10
-12[m
3]以上である場合には、7.5[MPa]以下とする必要がある。そして、インクジェットヘッド3とインクカートリッジ8とがチューブ6を介して接続されたプリンタ1では、インク流路全体におけるインクの圧力損失のうち、40%程度が、フィルタ51での圧力損失となっている。そこで、上記(1)の式では、インク流路全体における圧力損失の上限値40%程度の値をΔP
Mの値とする。
【0060】
また、フィルタ51は、電鋳フィルタであり、
図6(a)に示すように、表面に複数の貫通孔52に対応する複数の突起61が形成された、矩形の平面形状を有する母型60の表面の、突起61が形成されていない部分に、
図6(b)に示すように、ニッケル等の金属を析出させることによって形成される。また、
図6(c)に示すように、1つの母型60の表面には、複数のフィルタ51が形成される。なお、便宜上、
図6(c)では、母型60の突起61、及び、フィルタ51の貫通孔52の図示を省略している。
【0061】
ここで、一般に、母型60の表面に形成される複数のフィルタ51の面積の合計は、母型60の面積の90%程度となっている。そこで、母型60の面積をS
b、母型60からの、下限値S
minの面積を有するフィルタ51の最大の取り数をXとしたときに、インク供給口16及びフィルタ51の面積Sを、
【数4】
で示す上限値S
max以下となるように決定する。なお、最大の取り数Xは、母型60上へ面積S
minのフィルタ51を形成する際のフィルタ51の配置等に依存して決まる数であり、0.9S
b/S
minよりもやや小さい値である。
【0062】
ここで、インクジェットヘッド3では、通常、余裕を見てインク供給口16やフィルタ51の面積を下限値S
minよりも多少大きな面積とする。このような場合に、フィルタ51の面積Sを上限値S
max以下とすれば、フィルタ面積Sを下限値S
minよりも大きな面積としても、母型60からのフィルタ51の最大の取り数Xが少なくなることがない。
【0063】
そして、第1実施形態では、上述したように、フィルタ51の面積SをS
min≦S≦S
maxとなるようにすることにより、フィルタ51の面積Sを適切なものとすることができる。
【0064】
なお、第1実施形態では、プリンタ1が本発明に係る液体噴射装置に相当し、インクジェットヘッド3が本発明に係る液体噴射ヘッドに相当し、インクカートリッジ8が本発明に係る液体カートリッジに相当する。
【0065】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、フィルタ51の面積Sの上限値S
maxが、第1実施形態と異なるだけであるので、以下では、主に上限値S
maxについて説明する。
【0066】
上述の通り、フィルタ51の面積Sは、下限値S
minよりも多少大きな面積となることがある。インクジェットヘッド3では、4つのインク供給口16にそれぞれフィルタ51が設けられているため、フィルタ51の面積の、下限値S
minを超えた部分の面積S−S
minを合計した合計面積S
Rは、4(S−S
min)となる。ここで、合計面積S
Rが下限値S
minよりも大きいとすると、4枚のフィルタ51の面積の下限値S
minを超えた部分の面積の4(S−S
min)が、下限値S
minの面積を有する1枚のフィルタ51の面積S
minよりも大きいことになり、フィルタ51の面積Sが過剰に大きなものとなる。
【0067】
そこで、第2実施の形態では、4(S−S
min)≦S
minとなるように、インク供給口16及びフィルタ51の面積を決定する。すなわち、インク供給口16及びフィルタ51の面積Sを、
【数10】
で表される上限値S
max以下となるように決定する。これにより、インク供給口16及びフィルタ51の面積Sが過剰に大きくなりすぎることがない。なお、第2実施形態では、本発明に係る「Y」が4となっている。
【0068】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態は、フィルタ51の面積Sの上限値S
maxが、第1、第2実施形態と異なるだけであるので、以下では、主に上限値S
maxについて説明する。
【0069】
第3実施形態では、各カートリッジ装着部7に、貯留インク量の異なる複数種類のインクカートリッジ8のいずれかが選択的に装着可能となっている。この場合には、上述したように、インクカートリッジ8毎に、ケーキ引抵抗α
cや粒子濃度Cが異なることがある。
【0070】
第3実施形態では、カートリッジ装着部7に装着され得る複数種類のインクカートリッジ8のうち、ケーキ引抵抗α
cと粒子濃度Cとの積α
cCの値が最も大きいインクカートリッジ8の上記積α
cCの値を(α
cC)
maxし、b
maxを、
【数6】
で表される定数とし、インク供給口16及びフィルタ51の面積Sを、
【数7】
で表される上限値S
max以下となるように決定する。
【0071】
プリンタ1では、積α
cCの値が最も大きいインクカートリッジ8のみが使用された場合に、フィルタ51におけるインクの圧力損失ΔPの増大量が最も大きくなる。したがって、積α
cCの値が最も大きいインクカートリッジ8のみが使用された場合にΔP=ΔP
Mとなるようなフィルタ51の面積を上限値S
maxとすることにより、複数種類のインクカートリッジ8がどのような順序でどのような組み合わせで使用された場合にも、圧力損失ΔPがΔP
Mを超えることがない。また、インク供給口16及びフィルタ51の面積Sが過剰に大きくなることがない。
【0072】
[第4実施形態]
次に、本発明の好適な第4実施形態について説明する。第4実施形態では、カートリッジ装着部7(
図1参照)に、貯留インク量の異なる複数種類のインクカートリッジ8のうちのいずれかが選択的に装着可能に構成されている。そして、第4実施形態では、各インクカートリッジ8の想定使用個数をm
iとし、
【数8】
として、下限値S
minを決定する。
【0073】
ここで、カートリッジ装着部7における、複数種類のインクカートリッジ8の想定使用個数m
iとは、プリンタ1(
図1参照)において、上記最大印刷枚数の画像が印刷されるまでの間に、カートリッジ装着部7に装着されると想定される、各インクカートリッジ8の使用個数のことである。
【0074】
例えば、上述したように、プリンタ1が家庭向けのものであり、カートリッジ装着部7に通常のインクカートリッジと大容量のインクカートリッジとが、10:1の比率で装着されると想定すると、通常のインクカートリッジの使用個数をm
jとしたときに、大容量のインクカートリッジの使用個数を0.1m
jで表すことができる。そして、通常のインクカートリッジの貯留インク量をV
1、大容量のインクカートリッジの貯留インク量をV
2として、m
jV
1+0.1m
jV
2≧V
totalを満たす最小のm
jを、通常のインクカートリッジの使用個数m
1とし、0.1m
jを大容量のインクカートリッジの使用個数m
2をとする。
【0075】
あるいは、例えば、プリンタ1がオフィス向けのものであり、カートリッジ装着部7に通常のインクカートリッジと大容量のインクカートリッジとが、1:10の比率で装着されると想定すると、通常のインクカートリッジの使用個数をm
jとしたときに、大容量のインクカートリッジの使用個数を10m
jで表すことができる。そして、通常のインクカートリッジの貯留インク量をV
1、大容量のインクカートリッジの貯留インク量をV
2として、m
jV
1+10m
jV
2≧V
totalを満たす最小のm
jを、通常のインクカートリッジの使用個数m
1とし、10m
jを大容量のインクカートリッジの使用個数m
2とする。
【0076】
第4実施形態では、各インクカートリッジ8内のインクのケーキ引抵抗をα
ci、粒子濃度をC
iや、各インクカートリッジ8における貯留インク量V
iそのものの値を用いてbの値を算出するため、bの値に基づいて決定される下限値S
minが、確実にΔP=ΔP
Mとなるときのフィルタ51の面積となる。
【0077】
次に、第1〜第4実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0078】
第2、第3実施形態では、第1実施形態とは異なり、フィルタ51は、電鋳フィルタ以外のフィルタであってもよい。
【0079】
また、第1〜第4実施形態では、フィルタ51の貫通孔52の孔径D2が20μm以下であったが、これには限られない。ノズル15の径が20μm以上の場合には、貫通孔52の孔径が20μmよりも大きく且つ40μm以下であってもよい。この場合でも、貫通孔52の孔径D2がインク中の皮膚片等の異物よりも小さいため、ケーキ理論に基づいて、フィルタ51の圧力損失ΔPを適切に推定することができる。したがって、第1〜第3実施形態と同様にしてフィルタ51の面積Sの下限値S
minを決定すれば、フィルタ51の面積が小さくなりすぎることはない。
【0080】
さらには、インク中の異物の大部分が、40μmよりも大きいものである場合には、フィルタ51の貫通孔52の孔径D2は、40μmよりも大きくてもよい。
【0081】
また、第1〜第4実施形態では、プリンタ1が、インクカートリッジ8に貯留されたインクが、チューブ6を介してインクジェットヘッド3に供給されるものであったため、ΔP
Mを、インク流路全体でのインクの圧力損失の上限値7.5MPaの40%程度としたが、これには限られない。例えば、キャリッジ上にカートリッジ装着部を有するプリンタでは、チューブ6がない分、インク流路全体でのインクの圧力損失のうち、フィルタ51におけるインクの圧力損失の割合が高くなる。例えば、ΔP
Mは、インク流路全体における圧力損失の上限値の70%程度となる。
【0082】
また、第2実施形態では、インクジェットヘッド3が4色のインクを噴射するものであるであり、インクジェットヘッド3に4つのフィルタ51が設けられていたが、これには限られない。インクジェットヘッド3が1〜3色、又は、5色以上のインクを噴射するものであり、インクジェットヘッド3に1〜3枚又は5枚以上のフィルタ51が設けられていてもよい。
【0083】
この場合には、インクジェットヘッド3に設けられるインク供給口16及びフィルタ51の数をYとして、フィルタ51の面積Sを、
【数5】
で表される上限値S
max以下とすればよい。
【0084】
また、第1〜第4実施形態では、4つのインク供給口16に対して個別にフィルタ51が設けられていたが、これには限られない。フィルタは、2以上のインク供給口16にまたがるようなものであってもよい。このような場合には、フィルタのうち、各インク供給口16と重なる部分の面積を、上述したのと同様にして決定すればよい。
【0085】
また、以上では、ノズルからインクを噴射するインクジェットヘッドを備えたプリンタに本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた、プリンタ以外の液体噴射装置に本発明を適用することも可能である。