(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の車両用駆動装置では、ブレーキ手段の一部がケースの下方に貯留したオイル貯留部に位置している。そのため、低温時等のオイルの粘性が高いときにはオイルの攪拌抵抗力が大きくなり、ブレーキ手段を解放しても電動機の回転数が所定値よりも下がらず、損失が大きい状態で電動機が回る続ける虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、断接手段の解放時における損失を低減可能な駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
車両(例えば、後述の実施形態の車両3)の駆動力を発生する電動機(例えば、後述の実施形態の第1及び第2電動機2A、2B)と、
前記電動機を制御する電動機制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置8)と、
前記電動機と前記車両の車輪(例えば、後述の実施形態の後輪Wr)との動力伝達経路上に設けられ、解放又は締結することにより電動機側と車輪側とを遮断状態又は接続状態にする湿式多板式の断接手段(例えば、後述の実施形態の油圧ブレーキ60)と、
前記断接手段の遮断状態と接続状態との切り替えを制御する断接手段制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置8)と、を備える駆動装置(例えば、後述の実施形態の後輪駆動装置1)であって、
前記電動機制御装置は、前記湿式多板式の断接手段の多板部(例えば、後述の実施形態の固定プレート35、回転プレート36)の冷却に供される液状流体(例えば、後述の実施形態のオイル)の粘性が高く、前記断接手段が解放された状態で前記電動機に連れまわりが生じるときに、
前記断接手段を解放した状態で前記電動機の前記連れまわりの状態が収束する回転状態量である収束回転状態量よりも小さな回転状態量で前記電動機を回転させる低回転制御(例えば、後述の実施形態の低回転制御)と、
前記断接手段を解放した状態で前記収束回転状態量で前記電動機を回転させる収束回転制御(例えば、後述の実施形態の収束回転制御)と、を実行可能に構成され、
前記電動機制御装置は、前記液状流体の粘性が高く、前記断接手段が解放された状態で前記電動機に連れまわりが生じるときに、前記電動機が前記収束回転状態量で回転する際の損失を算出し、前記損失に基づいて
、前記低回転制
御と前記収束回転制御
とのいずれか一方を実行する。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記電動機制御装置は、前記液状流体の粘性が高く、前記断接手段が解放された状態で前記電動機に連れまわりが生じるときに、前記電動機を前記収束回転状態量よりも小さな回転状態量とするための初期電力及び前記電動機を該回転状態量で回転させ続けるための回転維持電力から求められる推定消費電力と、前記電動機が前記収束回転状態量で回転する際の損失と
を比較して、前記低回転制御と前記収束回転制御とのいずれか一方を選択する。
【0010】
また、請求項
3に記載の発明は、請求項
1に記載の構成に加えて、
前記電動機制御装置は、車速又は車速関連値が所定値以上のとき前記低回転制御を行い、車速又は車速関連値が前記所定値未満のとき前記収束回転制御を行う。
【0011】
また、請求項
4に記載の発明は、請求項1〜
3のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記電動機制御装置は、前記車両の周辺情報から、車速が所定値よりも高い高車速走行を行う高車速走行時間を推定し、
前記高車速走行時間が所定時間よりも長いときは前記低回転制御を行い、前記所定時間よりも短いときは前記収束回転制御を行う。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、液状流体の粘性が高く、断接手段が解放された状態で電動機に連れまわりが生じるときに、前記断接手段を解放した状態で電動機の連れまわりの状態が収束する回転状態量である収束回転状態量で電動機を回転させ続けると電動機の回転に伴って損失が大きくなるが、収束回転状態量よりも小さな回転状態量で電動機を回転させることで、効率の良い動作点で電動機を回転させることができ、損失を低減することができる。
一方、電動機を収束回転状態量で回転させ続けることで、電動機を零トルクで回転させることができ、電動機を所望の回転数とするための初期電力及び電動機を所望の回転数で回転させ続けるための回転維持電力を不要とできる。
【0014】
請求項
2に記載の発明によれば、電動機を収束回転状態量よりも小さな回転状態量とするための初期電力及び電動機を該回転状態量で回転させ続けるための回転維持電力から求められる推定消費電力と、電動機が収束回転状態量で回転する際の損失とに基づいて、低回転制御と収束回転制御とのいずれか一方を選択することで、液状流体の粘性が高い場合の損失を低減できる。
【0015】
請求項
3に記載の発明によれば、車速又は車速関連値が所定値以上のとき、即ち電動機の収束回転状態量が高い場合には低回転制御を行い、車速又は車速関連値が所定値未満のとき、即ち電動機の収束回転状態量が低い場合には収束回転制御を行うことで、液状流体の粘性が高い場合の損失を低減しつつ制御を容易にできる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明に係る駆動装置の一実施形態を
図1〜
図3に基づいて説明する。
本実施形態の駆動装置は、電動機を車軸駆動用の駆動源とするものであり、例えば、
図1に示すような駆動システムの車両に用いられる。以下の説明では駆動装置を後輪駆動用として用いる場合を例に説明するが、前輪駆動用に用いてもよい。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5とが直列に接続された駆動装置6(以下、前輪駆動装置と呼ぶ。)を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この前輪駆動装置6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この前輪駆動装置6と別に車両後部に設けられた駆動装置1(以下、後輪駆動装置と呼ぶ。)の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪駆動装置6の電動機5と後輪Wr側の後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bとは、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能となっている。符号8は、車両全体の各種制御をするための制御装置である。
【0019】
図2は、後輪駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、同図において、10A、10Bは、車両3の後輪Wr側の左右の車軸であり、車幅方向に同軸上に配置されている。後輪駆動装置1のケース11は全体が略円筒状に形成され、その内部には、車軸駆動用の第1及び第2電動機2A、2Bと、この第1及び第2電動機2A、2Bの駆動回転を減速する第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bとが、車軸10A、10Bと同軸上に配置されている。この第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを駆動する左車輪駆動装置として機能し、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを駆動する右車輪駆動装置として機能し、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aと第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bとは、ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。
【0020】
後輪駆動装置1には、ケース11の内部と外部を連通するブリーザ装置40が設けられ、内部の空気が過度に高温・高圧とならないように内部の空気をブリーザ室41を介して外部に逃がすように構成される。ブリーザ室41は、ケース11の鉛直方向上部に配置され、中央ケース11Mの外壁と、中央ケース11M内に左側方ケース11A側に略水平に延設された第1円筒壁43と、右側方ケース11B側に略水平に延設された第2円筒壁44と、第1及び第2円筒壁43、44の内側端部同士をつなぐ左右分割壁45と、第1円筒壁43の左側方ケース11A側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47Aと、第2円筒壁44の右側方ケース11B側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47Bと、により形成された空間により構成される。
【0021】
ブリーザ室41の下面を形成する第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45は、第1円筒壁43が第2円筒壁44より径方向内側に位置し、左右分割壁45が、第2円筒壁44の内側端部から縮径しつつ屈曲しながら第1円筒壁43の内側端部まで延設され、さらに径方向内側に延設されて略水平に延設された第3円筒壁46に達する。第3円筒壁46は、第1円筒壁43と第2円筒壁44の両外側端部より内側に且つその略中央に位置している。
【0022】
中央ケース11Mには、バッフルプレート47A、47Bが、第1円筒壁43と中央ケース11Mの外壁との間の空間又は第2円筒壁44と中央ケース11Mの外壁との間の空間を第1遊星歯車式減速機12A又は第2遊星歯車式減速機12Bからそれぞれ区画するように固定されている。
【0023】
また、中央ケース11Mには、ブリーザ室41と外部とを連通する外部連通路49がブリーザ室41の鉛直方向上面に接続される。外部連通路49のブリーザ室側端部49aは、鉛直方向下方を指向して配置されている。従って、オイルが外部連通路49を通って外部に排出されるのが抑制される。
【0024】
第1及び第2電動機2A、2Bは、ステータ14A、14Bがそれぞれ側方ケース11A、11Bに固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する円筒軸16A、16Bが結合され、この円筒軸16A、16Bが車軸10A、10Bと同軸上に相対回転可能となるように側方ケース11A、11Bの端部壁17A、17Bと隔壁18A、18Bに軸受19A、19Bを介して支持されている。また、円筒軸16A、16Bの一端側の外周であって端部壁17A、17Bには、ロータ15A、15Bの回転位置情報を第1及び第2電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。ステータ14A、14B、及びロータ15A、15Bを含む第1及び第2電動機2A、2Bは、同一半径を有し、第1及び第2電動機2A、2Bは互いに鏡面対称に配置される。また、車軸10A及び円筒軸16Aは、第1電動機2A内を貫通して、第1電動機2Aの両端部から延出しており、車軸10B及び円筒軸16Bも、第2電動機2B内を貫通して、第2電動機2Bの両端部から延出している。
【0025】
また、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、リングギヤ24A、24Bと、これらサンギヤ21A、21Bとリングギヤ24A、24Bとに噛合する複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bから第1及び第2電動機2A、2Bの駆動力が入力され、減速された駆動回転がプラネタリキャリア23A、23Bを通して車軸10A、10Bに出力されるようになっている。
【0026】
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはニードルベアリング31A、31Bを介してプラネタリキャリア23A、23Bのピニオンシャフト32A、32Bに支持され、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向内側端部が径方向内側に伸びて車軸10A、10Bにスプライン嵌合され一体回転可能に支持されるとともに、軸受33A、33Bを介して隔壁18A、18Bに支持されている。
【0027】
リングギヤ24A、24Bは、その内周面が小径の第2ピニオン27A、27Bに噛合されるギヤ部28A、28Bと、ギヤ部28A、28Bより小径でケース11の中間位置で互いに対向配置される小径部29A、29Bと、ギヤ部28A、28Bの軸方向内側端部と小径部29A、29Bの軸方向外側端部を径方向に連結する連結部30A、30Bとを備えて構成されている。
【0028】
ギヤ部28A、28Bは、中央ケース11Mの左右分割壁45の内径側端部に形成された第3円筒壁46を挟んで軸方向に対向している。小径部29A、29Bは、その外周面がそれぞれ後述する一方向クラッチ50のインナーレース51とスプライン嵌合し、リングギヤ24A、24Bは一方向クラッチ50のインナーレース51と一体回転するように互いに連結されて構成されている。
【0029】
第2遊星歯車式減速機12B側であって、ケース11を構成する中央ケース11Mの第2円筒壁44とリングギヤ24Bのギヤ部28Bとの間には、リングギヤ24Bに対する制動手段を構成する油圧ブレーキ60が第1ピニオン26Bと径方向でオーバーラップし、第2ピニオン27Bと軸方向でオーバーラップするように配置されている。油圧ブレーキ60は、第2円筒壁44の内周面にスプライン嵌合された複数の固定プレート35と、リングギヤ24Bのギヤ部28Bの外周面にスプライン嵌合された複数の回転プレート36が軸方向に交互に配置され、これらのプレート35,36が環状のピストン37によって締結及び解放操作されるようになっている。ピストン37は、中央ケース11Mの左右分割壁45と第3円筒壁46間に形成された環状のシリンダ室に進退自在に収容されており、さらに第3円筒壁46の外周面に設けられた受け座38に支持される弾性部材39によって、常時、固定プレート35と回転プレート36とを解放する方向に付勢される。
【0030】
また、さらに詳細には、左右分割壁45とピストン37の間はオイルが直接導入される作動室Sとされ、作動室Sに導入されるオイルの圧力が弾性部材39の付勢力に勝ると、ピストン37が前進(右動)し、固定プレート35と回転プレート36とが相互に押し付けられて締結することとなる。また、弾性部材39の付勢力が作動室Sに導入されるオイルの圧力に勝ると、ピストン37が後進(左動)し、固定プレート35と回転プレート36とが離間して解放することとなる。なお、油圧ブレーキ60は電動オイルポンプ70(
図1参照)に接続されている。
【0031】
この油圧ブレーキ60の場合、固定プレート35がケース11を構成する中央ケース11Mの左右分割壁45から伸びる第2円筒壁44に支持される一方で、回転プレート36がリングギヤ24Bのギヤ部28Bに支持されているため、両プレート35、36がピストン37によって押し付けられると、両プレート35、36間の摩擦締結によってリングギヤ24Bに制動力が作用し固定される。その状態からピストン37による締結が解放されると、リングギヤ24Bの自由な回転が許容される。なお、上述したように、リングギヤ24A、24Bは互いに連結されているため、油圧ブレーキ60が締結することによりリングギヤ24Aにも制動力が作用し固定され、油圧ブレーキ60が解放することによりリングギヤ24Aも自由な回転が許容される。
【0032】
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。またアウターレース52は、第3円筒壁46により位置決めされるとともに、回り止めされている。
【0033】
一方向クラッチ50は、車両3が第1及び第2電動機2A、2Bの動力で前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に説明すると、一方向クラッチ50は、第1及び第2電動機2A、2B側の順方向(車両3を前進させる際の回転方向)の回転動力が後輪Wr側に入力されるときに係合状態となるとともに第1及び第2電動機2A、2B側の逆方向の回転動力が後輪Wr側に入力されるときに非係合状態となり、後輪Wr側の順方向の回転動力が第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに非係合状態となるとともに後輪Wr側の逆方向の回転動力が第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに係合状態となる。
【0034】
このように本実施形態の後輪駆動装置1では、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達経路上に一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60とが並列に設けられている。なお、ケース11の下方には、オイルを貯留するオイル貯留部Tが形成されており、第1及び第2電動機2A、2Bのロータ15A、15Bの下端が油没しない程度の油面高さ(
図2中、符合H)となっており、固定プレート35と回転プレート36の下部がオイル貯留部T中に位置している。
【0035】
ここで、制御装置8(
図1参照)は、車両全体の各種制御をするための制御装置であり、制御装置8には車輪速センサ値、第1及び第2電動機2A、2Bのモータ回転数センサ値、操舵角、アクセルペダル開度AP、シフトポジション、バッテリ9における充電状態(SOC)、油温などが入力される一方、制御装置8からは、内燃機関4を制御する信号、第1及び第2電動機2A、2Bを制御する信号、電動オイルポンプ70を制御する制御信号などが出力される。
【0036】
即ち、制御装置8は、第1及び第2電動機2A、2Bを制御する電動機制御装置としての機能と、断接手段としての油圧ブレーキ60の締結状態と解放状態とを制御する断接手段制御装置としての機能を、少なくとも備えている。
【0037】
図4は、各車両状態における前輪駆動装置6と後輪駆動装置1との関係を第1及び第2電動機2A、2Bの作動状態とあわせて記載したものである。図中、フロントユニットは前輪駆動装置6、リアユニットは後輪駆動装置1、リアモータは第1及び第2電動機2A、2B、OWCは一方向クラッチ50、BRKは油圧ブレーキ60を表わす。また、
図5〜
図12は後輪駆動装置1の各状態における速度共線図を表わし、LMOTは第1電動機2A、RMOTは第2電動機2B、左側のS、Cはそれぞれ第1電動機2Aに連結された第1遊星歯車式減速機12Aのサンギヤ21A、第1遊星歯車式減速機12Aのプラネタリキャリア23A、右側のS、Cはそれぞれ第2遊星歯車式減速機12Bのサンギヤ21B、第2遊星歯車式減速機12Bのプラネタリキャリア23B、Rは第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bのリングギヤ24A、24B、BRKは油圧ブレーキ60、OWCは一方向クラッチ50を表わす。以下の説明において第1及び第2電動機2A、2Bによる車両前進時のサンギヤ21A、21Bの回転方向を順方向とする。また、図中、停車中の状態から上方が順方向の回転、下方が逆方向の回転であり、矢印は、上向きが順方向のトルクを表し、下向きが逆方向のトルクを表す。
【0038】
停車中は、前輪駆動装置6も後輪駆動装置1も駆動していない。従って、
図5に示すように、後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bは停止しており、車軸10A、10Bも停止しているため、いずれの要素にもトルクは作用していない。このとき、油圧ブレーキ60は解放(OFF)している。また、一方向クラッチ50は、第1及び第2電動機2A、2Bが非駆動のため係合していない(OFF)。
【0039】
そして、キーポジションをONにした後、EV発進、EVクルーズなどモータ効率のよい前進低車速時は、後輪駆動装置1による後輪駆動となる。
図6に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bが順方向に回転するように力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには順方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が係合しリングギヤ24A、24Bがロックされる。これによりプラネタリキャリア23A、23Bは順方向に回転し車両3は前進走行する。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が逆方向に作用している。このように車両3の発進時には、キーポジションをONにして第1及び第2電動機2A、2Bのトルクをあげることで、一方向クラッチ50が機械的に係合してリングギヤ24A、24Bがロックされる。
【0040】
このとき、油圧ブレーキ60を弱締結状態に制御する。なお、弱締結とは、動力伝達可能であるが、油圧ブレーキ60の締結状態の締結力に対し弱い締結力で締結している状態をいう。第1及び第2電動機2A、2Bの順方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50が係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達可能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60も弱締結状態とし第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで、第1及び第2電動機2A、2B側からの順方向のトルクの入力が一時的に低下して一方向クラッチ50が非係合状態となった場合にも、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とで動力伝達不能になることを抑制できる。また、後述する減速回生への移行時に第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態とするための回転数制御が不要となる。一方向クラッチ50が係合状態のときの油圧ブレーキ60の締結力を一方向クラッチ50が非係合状態のときの油圧ブレーキ60の締結力よりも弱くすることにより、油圧ブレーキ60の締結のための消費エネルギーが低減される。
【0041】
前進低車速走行から車速があがりエンジン効率のよい前進中車速走行に至ると、後輪駆動装置1による後輪駆動から前輪駆動装置6による前輪駆動となる。
図7に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bの力行駆動が停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このときも、油圧ブレーキ60を弱締結状態に制御する。
【0042】
図6又は
図7の状態から第1及び第2電動機2A、2Bを回生駆動しようすると、
図8に示すように、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行を続けようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このとき、油圧ブレーキ60を締結状態(ON)に制御する。従って、リングギヤ24A、24Bがロックされるとともに第1及び第2電動機2A、2Bには逆方向の回生制動トルクが作用し、第1及び第2電動機2A、2Bで減速回生がなされる。このように、後輪Wr側の順方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60を締結させ、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能な状態に保つことができ、この状態で第1及び第2電動機2A、2Bを回生駆動状態に制御することにより、車両3のエネルギーを回生することができる。
【0043】
続いて加速時には、前輪駆動装置6と後輪駆動装置1の四輪駆動となり、後輪駆動装置1は、
図6に示す前進低車速時と同じ状態となる。
【0044】
前進高車速時には、前輪駆動装置6による前輪駆動となるが、このとき第1及び第2電動機2A、2Bを停止させ油圧ブレーキ60を解放状態に制御する。一方向クラッチ50は、後輪Wr側の順方向のトルクが第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるので非係合状態となり、油圧ブレーキ60を解放状態に制御することでリングギヤ24A、24Bは回転し始める。
【0045】
図9に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bが力行駆動を停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行しようとする順方向のトルクが作用するので、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。このとき、サンギヤ21A、21Bには、サンギヤ21A、21B及び第1及び第2電動機2A、2Bの回転損失が抵抗として入力され、リングギヤ24A、24Bにはリングギヤ24A、24Bの回転損失が発生する。
【0046】
油圧ブレーキ60を解放状態に制御することで、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容され、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とが遮断状態となって動力伝達不能な状態となる。従って、第1及び第2電動機2A、2Bの連れ回りが防止され、前輪駆動装置6による高車速時に第1及び第2電動機2A、2Bが過回転となるのが防止される。
【0047】
後進時には、
図10に示すように、第1及び第2電動機2A、2Bを逆力行駆動すると、サンギヤ21A、21Bには逆方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50が非係合状態となる。
【0048】
このとき油圧ブレーキ60を締結状態に制御する。従って、リングギヤ24A、24Bがロックされて、プラネタリキャリア23A、23Bは逆方向に回転し車両3が後進走行する。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が順方向に作用している。このように、第1及び第2電動機2A、2B側の逆方向のトルクが後輪Wr側に入力されるときには一方向クラッチ50は非係合状態となり、一方向クラッチ50のみで動力伝達不能であるが、一方向クラッチ50と並列に設けられた油圧ブレーキ60を締結させ、第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側とを接続状態としておくことで動力伝達可能に保つことができ、第1及び第2電動機2A、2Bのトルクによって車両3を後進させることができる。
【0049】
このように後輪駆動装置1は、車両の走行状態、言い換えると、第1及び第2電動機2A、2Bの回転方向が順方向か逆方向か、及び第1及び第2電動機2A、2B側と後輪Wr側のいずれから動力が入力されるかに応じて、油圧ブレーキ60の締結・解放が制御され、さらに油圧ブレーキ60の締結時であっても締結力が調整される。
【0050】
ここで、油圧ブレーキ60の特性について説明する。
油圧ブレーキ60は、いわゆる湿式多板式のブレーキであり、上記したように、複数の固定プレート35と、複数の回転プレート36とが軸方向に交互に配置され、これらのプレート35,36が環状のピストン37によって締結及び解放操作されるようになっている。湿式多板式のブレーキは、冷却油としてのオイルにより両プレート35、36を冷却するもので、オイルがダンパーの役割を果たすため、乾式クラッチに比べて締結時のショックが穏やかになる。
【0051】
リングギヤ24Bのギヤ部28Bの外周面にスプライン嵌合された回転プレート36は、その下部がケース11の下方のオイル貯留部T中に位置しており、リングギヤ24A、24Bの回転に伴ってオイル貯留部Tのオイルをかきあげることで、回転プレート36にはオイルの攪拌抵抗力が作用する。オイルによる攪拌抵抗力は、オイルの粘性により変化する。また、オイルの粘性と温度(油温)には逆相関関係があることが知られており、油温が高くなると粘性は低くなり、油温が低くなると粘性は高くなる。したがって、オイルの粘性を取得するオイルの粘性取得手段は、オイルの粘性を直接検出又は推定する粘度センサでもよく、オイルの粘性と逆相関関係にある油温を検出する温度センサでもよい。制御装置8はこれらのセンサ値からオイルの粘性を取得(検出、算出、推定)できる。
【0052】
通常、オイルの粘性が小さい場合には、第1及び第2電動機2A、2Bの回転損失がリングギヤ24A、24Bの回転損失に比べて大きいため、
図9に示すように、油圧ブレーキ60を解放すると、第1及び第2電動機2A、2Bの回転が次第に減少し、やがて停止する。しかしながら、オイルの粘性が大きいと、リングギヤ24A、24Bの回転損失も大きくなり、第1及び第2電動機2A、2Bが粘性に応じた所定の回転数で回転し続ける事態が発生し得る。
【0053】
そこで、制御装置8は、前進高車速時、且つ、油圧ブレーキ60が解放された状態で第1及び第2電動機2A、2Bに連れまわりが生じるときにブレーキ解放損失低減制御を行う。
【0054】
<ブレーキ解放損失低減制御>
ブレーキ解放損失低減制御は、油圧ブレーキ60の解放した状態で第1及び第2電動機2A、2Bの連れまわりの状態が収束する回転数である収束回転数で第1及び第2電動機2A、2Bを回転させる収束回転制御と、油圧ブレーキ60の解放した状態で第1及び第2電動機2A、2Bを収束回転数よりも低い回転数で回転させる低回転制御と、から構成される。
【0055】
(収束回転制御)
収束回転制御は、
図11に示すように、油圧ブレーキ60の解放した状態で第1及び第2電動機2A、2Bの連れまわりの状態が収束する回転数である収束回転数、即ち、零トルクで第1及び第2電動機2A、2Bが回転する回転数で第1及び第2電動機2A、2Bを回転させる制御であるため、基本的に電力消費はないものの、第1及び第2電動機2A、2B(正確には、第1及び第2電動機2A、2Bのロータ15A、15B)を連れまわすため損失が大きくなる場合がある。
【0056】
(低回転制御)
低回転制御は、
図12に示すように、油圧ブレーキ60の解放した状態における収束回転数よりも低い回転数で第1及び第2電動機2A、2Bを回転させる制御であり、第1及び第2電動機2A、2Bを収束回転数から所望の回転数に下げる初期電力及び第1及び第2電動機2A、2Bをその回転数で回し続けるための維持電力が必要であるものの、損失の低い回転数を任意に選択することができる。
【0057】
電動機制御装置としての制御装置8は、前進高車速時、且つ、オイルの粘性が大きい場合に、油圧ブレーキ60を解放するに際し、車速と粘度から収束回転数を取得する。収束回転数は、予め車速と粘度とに基づいて求められており、制御装置8の記憶部に記憶されている。制御装置8は、収束回転制御と低回転制御のいずれかを選択するに際し、例えば、車速が所定の閾値以上であれば、損失が大きいと判断し低回転制御を選択し、車速が所定の閾値未満であれば、損失がそれほど大きくないと判断し収束回転制御を選択し得る。制御装置8は、車速の代わりに電動機回転数や、他の回転体の回転数に基づいて選択してもよい。
【0058】
また、制御装置8は、道路状況、渋滞状況等の周辺情報から高車速走行時間を推定し、推定された時間が長い場合には低回転制御を選択し、推定された時間が短い場合には収束回転制御を選択し得る。さらに、制御装置8は、予め取得され、記憶部に記憶されている総合損失マップに基づいて、低回転制御における動作点を決定することができる。総合損失マップは、第1及び第2電動機2A、2Bを収束回転数よりも低い所定回転数とするための初期電力及び第1及び第2電動機2A、2Bを所定回転数で回転させ続けるための回転維持電力から求められる推定消費電力と、第1及び第2電動機2A、2Bが収束回転数で回転する際の損失とに基づいて設定される。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、制御装置8は、オイルの粘性が高く、油圧ブレーキ60が解放された状態で第1及び第2電動機2A、2Bに連れまわりが生じるときに、油圧ブレーキ60の解放した状態で第1及び第2電動機2A、2Bの連れまわりの状態が収束する回転状態量である収束回転数よりも低い回転数で第1及び第2電動機2A、2Bを回転させる低回転制御を行うことにより、効率の良い動作点で第1及び第2電動機2A、2Bを回転させることができ、損失を低減することができる。
【0060】
また、制御装置8は、オイルの粘性が高く、油圧ブレーキ60が解放された状態で第1及び第2電動機2A、2Bに連れまわりが生じるときに、第1及び第2電動機2A、2Bを収束回転数で回転させる収束回転制御を行うことにより、第1及び第2電動機2A、2Bを所望の回転数とするための初期電力及び第1及び第2電動機2A、2Bを所望の回転数で回転させ続けるための回転維持電力を不要とできる。
【0061】
また、制御装置8は、オイルの粘性が高く、油圧ブレーキ60が解放された状態で第1及び第2電動機2A、2Bに連れまわりが生じるときに、第1及び第2電動機2A、2Bを収束回転数よりも低い所定回転数とするための初期電力及び第1及び第2電動機2A、2Bを所定回転数で回転させ続けるための回転維持電力から求められる推定消費電力と、第1及び第2電動機2A、2Bが収束回転数で回転する際の損失とに基づいて、低回転制御と収束回転制御のいずれか一方を選択することで、オイルの粘性が高い場合の損失を低減できる。
【0062】
また、制御装置8は、車速又は車速関連値が所定値以上のとき、即ち第1及び第2電動機2A、2Bの収束回転数が高い場合には低回転制御を行い、車速又は車速関連値が所定車速未満のとき、即ち第1及び第2電動機2A、2Bの収束回転数が低い場合に収束回転制御を行うことで、オイルの粘性が高い場合の損失を低減しつつ制御を容易にできる。
【0063】
また、第1及び第2電動機2A、2Bの収束回転数は、粘性と車速又は車速関連値とに基づいて求められており、記憶部に記憶されているので、制御を容易にできる。
【0064】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、断接手段として湿式多板式の油圧ブレーキを例示したが、湿式多板式のクラッチであってもよい。
また、電動機と車輪とが断接手段を介して接続されている限り、変速機は必ずしも必要ではなく、電動機と車輪とが変速機を介して接続されている場合、変速機は適宜選択可能である。
また、左右の車輪がそれぞれ別の電動機で駆動される場合に限らず、左右の車輪は1つの電動機で駆動されるものでもよい。