特許第6802652号(P6802652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802652
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂多層発泡シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/18 20060101AFI20201207BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20201207BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20201207BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   B32B5/18 101
   B32B27/30 B
   B32B27/00 D
   B32B27/32 C
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-133123(P2016-133123)
(22)【出願日】2016年7月5日
(65)【公開番号】特開2018-1642(P2018-1642A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】森田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】飯野 貴充
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−103016(JP,A)
【文献】 特開2001−031775(JP,A)
【文献】 特開2002−316393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面に接着層を介してポリエチレン系樹脂層が積層されている多層発泡シートにおいて、
該ポリエチレン系樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂Xの結晶化度が30%以上であり、
該接着層が、スチレン二量体及びスチレン三量体の合計含有量が1500ppm以下のポリスチレン系樹脂Aと、結晶化度30%以上のポリエチレン系樹脂Yとの混合樹脂から構成されており、
該混合樹脂の混合状態を表す相構造指数PIの値が1.4〜3.0であり、
該混合樹脂において、ポリスチレン系樹脂A中にポリエチレン系樹脂Yが分散した相構造(海−島構造)が形成されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂多層発泡シート。

但し、相構造指数PIは次式で定められる。
PI=(η×φ)/(η×φ
η:190℃、剪断速度100sec−1でのポリスチレン系樹脂Aの溶融粘度
φ:該混合樹脂中のポリスチレン系樹脂Aの体積分率
η:190℃、剪断速度100sec−1でのポリエチレン系樹脂Yの溶融粘度
φ:該混合樹脂中のポリエチレン系樹脂Yの体積分率
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂Aがポリスチレンであり、前記ポリエチレン系樹脂Yが、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項3】
前記ポリスチレン系樹脂Aの溶融粘度ηと前記ポリエチレン系樹脂Yの溶融粘度ηとの比(η/η)が0.7〜1.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂Aと前記ポリエチレン系樹脂Yとの重量比(W:W)が95:5〜30:70であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項5】
前記ポリエチレン系樹脂Xの結晶化度が55%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項6】
前記ポリエチレン系樹脂層の坪量が5〜50g/mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項7】
前記多層発泡シートから前記ポリエチレン系樹脂層を剥離させた際の剥離強度が80cN/25mm以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項8】
前記ポリスチレン系樹脂発泡層を構成するポリスチレン系樹脂Bのビカット軟化温度が110℃以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡層にポリオレフィン系樹脂層が積層接着された多層発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
発泡ポリスチレンシートを熱成形して得られた成形体がトレイ、弁当箱、丼、カップ等の各種容器として広く使用されている。しかし、発泡ポリスチレンシートは耐油性、耐溶剤性に劣るので、該成形体は油性の食材を包装した状態で、電子レンジで加熱した場合、食用油等による侵食が生じやすいものである。
【0003】
発泡ポリスチレンシートの耐油性を改良することを目的として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂製のフィルムを発泡ポリスチレンシートの片面や両面に貼り合わせた多層発泡シートが開発された。しかし、多層発泡シートを丼やカップ等の深物容器に熱成形しようとする場合、発泡ポリスチレンシートとポリオレフィン系樹脂層との接着強度が低いと、熱成形時にポリオレフィン系樹脂層が一部剥離(以下、デラミネーションともいう)するという問題が発生する。熱成形時にデラミネーションが発生しなくても、得られた容器に食材を入れて電子レンジで加熱する際にデラミネーションが発生するという問題もある。従って、熱成形時や、電子レンジによる加熱の際のデラミネーションを防止するために、発泡ポリスチレンシートとポリオレフィン系樹脂フィルムとの接着強度を如何にして向上させるかが問題となる。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1においては、ポリスチレン系樹脂発泡層とポリオレフィン系樹脂層との間に、ポリスチレン系樹脂30〜95重量%とポリオレフィン系樹脂5〜70重量%との混合樹脂を用いて接着層を形成することにより、ポリスチレン系樹脂発泡層とポリオレフィン系樹脂層との接着強度を向上させた多層発泡シートが提案されている。
【0005】
特許文献1の多層発泡シートは接着強度が向上していることにより、深物容器の熱成形を安定して行うことができ、さらに表面にポリオレフィン系樹脂層が形成されていることから、油性の食材を包装した状態での電子レンジによる加熱が安定して行えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−103016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記多層シートを熱成形し、その成形体に対して溶媒としてヘプタンを用いて抽出試験を行なうと、成形体からスチレン二量体及びスチレン三量体が多く抽出されてしまうことがわかった(以下、スチレン二量体とスチレン三量体とをあわせてスチレンオリゴマーともいう。)。このようなスチレンオリゴマーの抽出量は、できる限り低くすることが望まれている。
【0008】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決し、ヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出量が少なく、さらに前記デラミネーションの発生を防止するのに十分に、ポリスチレン系樹脂発泡層とフィルム状のポリエチレン系樹脂層とが接着しているポリスチレン系樹脂多層発泡シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂多層発泡シートが提供される。
[1]ポリスチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面に接着層を介してポリエチレン系樹脂層が積層されている多層発泡シートにおいて、
該ポリエチレン系樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂Xの結晶化度が30%以上であり、
該接着層が、スチレン二量体及びスチレン三量体の合計含有量が1500ppm以下のポリスチレン系樹脂Aと、結晶化度30%以上のポリエチレン系樹脂Yとの混合樹脂から構成されており、
該混合樹脂の混合状態を表す相構造指数PIの値が1.4〜3.0であり、
該混合樹脂において、ポリスチレン系樹脂A中にポリエチレン系樹脂Yが分散した相構造(海−島構造)が形成されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
但し、相構造指数PIは次式で定められる。
PI=(η×φ)/(η×φ
η:190℃、剪断速度100sec−1でのポリスチレン系樹脂Aの溶融粘度
φ:該混合樹脂中のポリスチレン系樹脂Aの体積分率
η:190℃、剪断速度100sec−1でのポリエチレン系樹脂Yの溶融粘度
φ:該混合樹脂中のポリエチレン系樹脂Yの体積分率
[2]前記ポリスチレン系樹脂Aがポリスチレンであり、前記ポリエチレン系樹脂Yが、高密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[3]前記ポリスチレン系樹脂Aの溶融粘度ηと前記ポリエチレン系樹脂Yの溶融粘度ηとの比(η/η)が0.7〜1.5であることを特徴とする前記1又は2に記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[4]前記ポリスチレン系樹脂Aと前記ポリエチレン系樹脂Yとの重量比(W/W)が95:5〜30:70であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[5]前記ポリエチレン系樹脂Xの結晶化度が55%以上であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[6]前記ポリエチレン系樹脂層の坪量が5〜50g/mであることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[7]前記多層発泡シートから前記ポリエチレン系樹脂層を剥離させた際の剥離強度が80cN/25mm以上であることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
[8]前記ポリスチレン系樹脂発泡層を構成するポリスチレン系樹脂Bのビカット軟化温度が110℃以上であることを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂多層発泡シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリスチレン系樹脂多層発泡シートは、ポリスチレン系樹脂発泡層に、ポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂との混合樹脂で構成される接着層を介して、ポリエチレン系樹脂層が積層されている多層発泡シートである。該多層発泡シートにおいては、ポリエチレン系樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂の結晶化度が30%以上であることにより、多層発泡シートが熱成形された成形体からのヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出量が小さく抑えられている。更に、接着層がスチレンオリゴマーの合計含有量が1500ppm以下のポリスチレン系樹脂と、結晶化度30%以上のポリエチレン系樹脂Yとの混合樹脂から構成されていることにより、ヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出量がより小さく抑えられている。更にまた、該混合樹脂のPI値が0.7〜3.5であることにより発泡層と樹脂層とが十分な接着強度を有すると同時に、該接着強度とスチレンオリゴマーの抽出量とのバランスに優れているので、該多層発泡シートを熱成形する際のデラミネーションが防止されると共に、該多層発泡シートを熱成形して得られた成形体は、スチレンオリゴマーの抽出量が小さく抑えられ、さらに、電子レンジによる加熱時のデラミネーションが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1で得られた多層発泡シートを構成する接着層(PI値1.87)の断面写真である(倍率10,000倍)。
図2図2は、実施例3で得られた多層発泡シートを構成する接着層(PI値2.82)の断面写真である(倍率10,000倍)。
図3図3は、実施例6で得られた多層発泡シートを構成する接着層(PI値0.85)の断面写真である(倍率10,000倍)。
図4図4は、比較例4で得られた多層発泡シートを構成する接着層(PI値0.47)の断面写真である(倍率10,000倍)。
図5図5は、比較例5で得られた多層発泡シートを構成する接着層(PI値4.06)の断面写真である(倍率10,000倍)。
図6図6は、接着層のポリエチレン系樹脂相数の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂多層発泡シートについて詳細に説明する。
本発明のポリスチレン系樹脂多層発泡シート(以下、単に多層発泡シートともいう。)は、ポリスチレン系樹脂発泡層の片面または両面に接着層を介してポリエチレン系樹脂層が積層されたものである。本発明においては、該樹脂層が特定のポリエチレン系樹脂から構成され、該接着層が特定のポリスチレン系樹脂と特定のポリオレフィン系樹脂とが特定の条件を満たすように混合された混合樹脂で構成されていることにより、該多層発泡シートを熱成形する際のデラミネーションが防止されると共に、該多層発泡シートを熱成形して得られた成形体は、ヘプタン抽出試験におけるスチレンオリゴマーの抽出量が低く抑えられ、さらに、電子レンジによる加熱の際のデラミネーションが防止されるという特徴を有するものである。
【0013】
本発明の多層発泡シートは、熱成形により得られた成形体に対してヘプタン抽出試験を行った場合に、スチレンオリゴマー抽出量が少ないという特徴を有している。これに対し、接着層がポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との混合樹脂を用いて形成された、従来の多層発泡シートの場合、成形体に対してヘプタン抽出試験を行うと、スチレンオリゴマーが多量に抽出された。本発明においては、スチレンオリゴマーがヘプタンにより成形体から多量に抽出されるメカニズムについての考察を深めることにより、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との混合樹脂を用いて接着層を構成した場合であっても、スチレンオリゴマー抽出量を低減することができるようになった。次に、スチレンオリゴマーが抽出されるメカニズムについて考察する。
【0014】
スチレンオリゴマーがヘプタンにより成形体から多量に抽出されるメカニズムは次のように考えられる。
発泡ポリスチレンシート単体が熱成形された成形体に対してヘプタン抽出を行なうと、ヘプタンはポリスチレンには浸透しにくいので、成形体の極表面付近のみからスチレンオリゴマーが抽出される。従って、ポリスチレンが多量のスチレンオリゴマーを含む場合であっても、スチレンオリゴマー抽出量は、それほど多くはならない。それに対して、ヘプタンはポリオレフィン系樹脂には浸透しやすいため、ポリオレフィン系樹脂層が接着層を介して積層された多層発泡シートから得られた成形体に対してヘプタン抽出を行なうと、ヘプタンはポリオレフィン系樹脂層中に容易に浸透し、拡散し、接着層に達する。そして、接着層がポリオレフィン系樹脂とポリスチレン系樹脂との混合樹脂から形成されていると、ヘプタンは、混合樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂中にも浸透し、拡散する。混合樹脂中では、ポリオレフィン系樹脂とポリスチレン系樹脂とが微細に混合しており、両者の界面の面積が大きくなっている。さらに、ポリオレフィン系樹脂とポリスチレン系樹脂とが共連続構造を形成しているので、ポリオレフィン系樹脂中に浸透したヘプタンは、極めて広い面積でポリスチレン系樹脂と接触し、ポリスチレン系樹脂中のスチレンオリゴマーを抽出する。その結果、多層発泡シートにおいては、スチレンオリゴマーを同量含むポリスチレン発泡シート単体を熱成形した成形体よりも多くのスチレンオリゴマーが抽出されると考えられる。
【0015】
以下、本発明について、ポリエチレン系樹脂層(以下、単に樹脂層ともいう。)、接着層、ポリスチレン系樹脂発泡層(以下、単に発泡層ともいう。)の順で説明する。
【0016】
まず、本発明の多層発泡シートを構成する樹脂層について説明する。
本発明の多層発泡シートは、その表面にポリエチレン系樹脂層を有している。従って、該多層発泡シートは、耐油性、耐溶剤性に優れるので、得られた成形体に油性の食材を包装した状態で電子レンジにより加熱しても食用油等による侵食が防止される。
【0017】
さらに、本発明においては、ポリエチレン系樹脂層が、結晶化度が30%以上のポリエチレン系樹脂Xにより構成されている。この範囲の結晶化度を有するポリエチレン系樹脂Xを用いると、ヘプタン抽出試験をおこなった場合、スチレンオリゴマーの抽出を抑制可能な樹脂層が形成される。これに対し、該結晶化度が低すぎると、スチレンオリゴマーの抽出量が増大するおそれがある。結晶化度の高いポリエチレン系樹脂により樹脂層が形成されていることにより、ヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出量が低下する理由としては、ポリエチレン系樹脂へのヘプタンの浸透、拡散が密な結晶構造により妨げられ、ヘプタンが樹脂層中に浸透、拡散し難くなり、接着層まで到達しにくくなるためであると考えられる。かかる観点から、ポリエチレン系樹脂Xの結晶化度は40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、55%以上であることが特に好ましい。なお、該結晶化度の上限は、概ね90%である。
【0018】
本発明において、ポリエチレン系樹脂の結晶化度[%]は、JIS K7122−1987に基づき測定されるポリエチレン系樹脂の融解熱をもとに、ポリエチレンの完全結晶の理論融解熱(293J/g)に対する比として求められる値である。なお、融解試験片の状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解熱を測定する場合(加熱速度:10℃/分、冷却温度:10℃/分)」を採用する。
【0019】
前記ポリエチレン系樹脂Xとしては、高密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどが例示される。これらの中でも、ヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出をより抑制できることから、高密度ポリエチレンがより好ましい。
【0020】
前記ポリエチレン系樹脂Xの密度は0.930g/cm以上であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂Xの密度が前記範囲内である場合には、抽出溶媒ヘプタンが樹脂層を通って接着層中へ浸透、拡散しにくくなり、接着層中のスチレンオリゴマーがより抽出されにくくなる。かかる観点からは、該密度は0.940g/cm以上がより好ましく、0.945g/cm以上が更に好ましく、0.950g/cm以上が特に好ましい。なお、その上限は、概ね0.970g/cmである。
【0021】
ポリエチレン系樹脂層の坪量は、5g/m以上であることが好ましい。該坪量が前記範囲であると、抽出溶媒ヘプタンが樹脂層を通って接着層中へ浸透、拡散しにくくなり、接着層中のスチレンオリゴマーがより抽出されにくくなる。かかる観点から、樹脂層の坪量は、7g/m以上であることが好ましく、10g/m以上であることがさらに好ましい。また、一方、多層シートの軽量性や熱成形性の観点から、ポリエチレン系樹脂層の坪量は50g/m以下であることが好ましく、45g/m以下であることがより好ましく、40g/m以下であることがさらに好ましい。
【0022】
次に、本発明の多層発泡シートを構成する接着層について説明する。
該接着層は、ポリスチレン系樹脂Aと、ポリエチレン系樹脂Yとの混合樹脂から構成されている。従って、後述するように、混合樹脂の混合状態を表す相構造指数PIの値(以下、単にPI値ともいう)を調節することにより、発泡層と樹脂層との剥離強度と、スチレンオリゴマー抽出量とのバランスをとることができる。すなわち、発泡層と樹脂層とを適度に接着させて、熱成形時や電子レンジ加熱時の樹脂層の一部剥離(デラミネーション)を防ぐと同時に、スチレンオリゴマー抽出量を低く抑えることができる。
【0023】
本発明で用いられるポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレンのほかに、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン共重合体、スチレン−pメチルスチレン共重合体、ポリスチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体などのスチレン系共重合体、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物などの相溶系の混合物が例示される。これらは、1種又は2種以上の混合物として用いることができる。ポリスチレン系樹脂は、その構造単位として、ジビニルベンゼンや多官能性マクロモノマーなどの分岐化成分を含んでもよい。
【0024】
本発明においては、ポリスチレン系樹脂A中のスチレン二量体とスチレン三量体の合計含有量(スチレンオリゴマーの合計含有量)が1500ppm以下であることを要する。ポリスチレン系樹脂A中の含有スチレンオリゴマー量が多すぎる場合には、成形体から抽出されるスチレンオリゴマー量が極端に増加するおそれがある。かかる観点から、含有スチレンオリゴマー成分は1400ppm以下である事が好ましく、1300ppm以下である事がより好ましく、1200ppm以下である事が更に好ましく、1100ppm以下である事が特に好ましい。
【0025】
スチレンオリゴマーの合計含有量が1500ppm以下のポリスチレン系樹脂Aとして、例えばPSジャパン社製のポリスチレン「G0002」、「G0302」、「G0501」や東洋スチレン社製の「HRM52M」などが挙げられる。また、懸濁重合法を採用し、重合温度を低温側と高温側との2段階にわけ、高温側の重合時間を長くすることでスチレンの重合率を高めることにより、スチレンオリゴマーの合計含有量が1500ppm以下のポリスチレン系樹脂Aを製造することもできる。
本発明において、原料または接着層中のスチレン二量体及びスチレン三量体の含有量は、以下のようにして求めることができる。
【0026】
スチレン系樹脂0.1gをテトラヒドロフラン10mlに溶解させ、23℃のヘプタン約250ml中に滴下して樹脂を析出させ。樹脂を濾別した濾液に内部標準としてトリフェニルメタンを加えた後、約20mlまで濃縮し、ガスクロマトグラフ質量分析計で測定する。なおガスクロマトグラフ質量分析の測定条件は次の通りである。
使用機器:島津製作所製ガスクロマトグラフ質量分析計 GC/MS QP5050A、カラム:J&W Scientific性DB−5MS 0.25mm×30m(固定相…5%ジフェニル−95%ジメチル−ポリシロキサン)、キャリアガス:ヘリウム カラム流量1.6ml/min、試料注入量:1μL。
【0027】
接着層を構成するポリエチレン系樹脂Yとしては、結晶化度30%以上のポリエチレン系樹脂が用いられる。この範囲の結晶化度のポリエチレン系樹脂Yを用いると、ヘプタン抽出試験を行った場合、接着層を構成するポリエチレン系樹脂Y中にヘプタンが浸透、拡散しにくくなるので、結果としてスチレンオリゴマー抽出量を小さくすることができる。かかる観点から、ポリエチレン系樹脂Yの結晶化度は55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましい。なお、該結晶化度の上限は、概ね90%である。
【0028】
ポリエチレン系樹脂Yの密度は0.930g/cm以上であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂Yの密度が前記範囲である場合には、前記ポリエチレン系樹脂層を透過したヘプタンが、ポリエチレン系樹脂Y中へ浸透、拡散しにくくなり、接着層を構成するポリスチレン系樹脂A中のスチレンオリゴマーをより抽出しにくくなる。かかる観点から、該密度は0.940g/cm以上がより好ましく、0.945g/cm以上がさらに好ましく、0.950g/cm以上が特に好ましい。なお、その上限は、概ね970g/cmである。
【0029】
前記ポリエチレン系樹脂Yとしては、高密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどが例示される。これらの中でも、ヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出をより抑制できることから、高密度ポリエチレンがより好ましい。
【0030】
本発明における接着層は、前記したように、ポリスチレン系樹脂Aと、ポリエチレン系樹脂Yとの混合樹脂から構成されている。
該混合樹脂のPI値は0.7〜3.5であることを要する。PI値がこの範囲内であれば、スチレンオリゴマー抽出量を低く抑えることができると同時に、熱成形時、更に電子レンジによる加熱時における樹脂層の発泡層からのデラミネーションを防ぐことが可能な接着強度を有する接着層を得ることができる。
【0031】
スチレンオリゴマー抽出量をより小さく抑える観点から、PI値の下限は好ましくは1.4、より好ましくは1.6、更に好ましくは1.8である。
一方、接着強度を維持する観点から、PIの値の上限は好ましくは3.0、より好ましくは2.9である、更に好ましくは2.8である。
【0032】
相構造指数PIは、接着層を構成するポリエチレン系樹脂Yとポリスチレン系樹脂Aとの混合状態を示すもので、下記式(1)で定義される。また、接着層に相溶化剤を含む場合には、相溶化剤を考慮せずにPI値を計算する。また、混合樹脂中のそれぞれの樹脂成分の体積分率は、各樹脂の配合比(重量比)を各樹脂の樹脂密度で割算することにより求めることができる。
【0033】
PI=(η×φ)/(η×φ) ・・・(1)
η:190℃、剪断速度100sec−1でのポリスチレン系樹脂Aの溶融粘度
φ:該混合樹脂中のポリスチレン系樹脂Aの体積分率
η:190℃、剪断速度100sec−1でのポリエチレン系樹脂Yの溶融粘度
φ:該混合樹脂中のポリエチレン系樹脂Yの体積分率
【0034】
次に、PI値と接着層の分散構造の関係、更にこれらがスチレンオリゴマー抽出量及び接着性に与える影響、更にPI値を特定範囲に収めることにより、スチレンオリゴマー抽出量の低減と接着性の確保を共に満たす多層発泡シートを得ることができることについて詳しく説明する。
【0035】
PI値が0.7〜1.3の範囲では、ポリエチレン系樹脂Yの連続相とポリスチレン系樹脂Aの連続相とが並存する共連続構造(海−海構造)が形成されやすい。その結果、接着層は、樹脂層と発泡層との両方に十分な接着強度で接着可能となるが、スチレンオリゴマー抽出量が大きくなる傾向がある。すなわち、混合樹脂が海−海構造であると、樹脂層との界面側、発泡層との界面側に、ポリエチレン系樹脂Yポリスチレン系樹脂Aの両方が存在しやすくなることから、接着層と樹脂層とが十分に接着することができ、かつ接着層と発泡層とが十分に接着することができる。しかし、接着層の樹脂層界面側にポリエチレン系樹脂Yが多く存在していることにより、ヘプタン抽出試験を行うと、ポリエチレン系樹脂層を透過したヘプタンが、接着層中のポリエチレン系樹脂Y中に容易に浸透し、拡散し、ポリスチレン系樹脂Aと接触し、ポリスチレン系樹脂A中のスチレンオリゴマーを抽出する。さらに、混合樹脂においては、ポリエチレン系樹脂Yとポリスチレン系樹脂Aとの界面の面積が大きくなっていることから、スチレンオリゴマーの抽出量が増大すると考えられる。この場合、接着層を構成するポリスチレン系樹脂Aとして、スチレンオリゴマー含有量の少ないものを使用することにより、スチレンオリゴマー抽出量を低く抑えることができ、接着層を構成するポリエチレン系樹脂Yとして結晶化度の高いものを用い、さらに樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂Xとして結晶化度の高いものを用いることにより、スチレンオリゴマー抽出量を少なく抑えることができる。
なお、PI値が小さすぎると、ポリエチレン系樹脂Yによりポリスチレン系樹脂Aが覆われやすくなり(海−島構造)、樹脂層と接着層とは強固に接着するものの、接着層と発泡層との間の接着強度が不十分となる。
【0036】
PI値が大きいと、具体的にはPI値が1.4以上となると、ポリスチレン系樹脂A中にポリエチレン系樹脂Yが分散した相構造(海−島構造)が形成されやすくなる。その結果、スチレンオリゴマー抽出量はより少なくなるのに対し、接着層の樹脂層に対する接着強度が低下する傾向にある。すなわち、ポリエチレン系樹脂Yがポリスチレン系樹脂Aに覆われやすくなり、ポリスチレン系樹脂A中に島状に非連続して分散することにより、ヘプタンが混合樹脂中に浸透、拡散しにくくなるので、スチレンオリゴマーが抽出され難くなる。また、ポリエチレン系樹脂Yがポリスチレン系樹脂Aに覆われているので、接着層の樹脂層に対する接着強度が低下する傾向にある。
【0037】
一方、PI値が3.5以下であれば、熱成形時における樹脂層のデラミネーション、電子レンジ加熱の際のデラミネーションを防ぐことができる程度の接着強度が得られる。接着強度の観点から、PI値は3.0以下であることが好ましく、2.9以下であることがより好ましく、2.8以下であることが更に好ましい。
【0038】
ポリスチレン系樹脂Aの溶融粘度ηとポリエチレン系樹脂Yの溶融粘度ηとの比(η/η)は0.7〜1.5であることが好ましい。該粘度比が前記範囲であると、発泡層と接着層との接着強度及び樹脂層と接着層との接着強度をよりバランスよく高めることができる。この観点から、該溶融粘度比はより好ましくは1.0を超え1.4未満である。
【0039】
本発明において、溶融粘度は、ノズル内径(D)が1.0mm、ノズル長(L)が10(mm)のノズルを用い、剪断速度100sec−1、樹脂温度190℃の条件にて測定される。
【0040】
ポリスチレン系樹脂Aとポリエチレン系樹脂Yとの重量比(W:W)は95:5〜30:70であることが好ましい。該重量比が前記範囲であると、スチレンオリゴマーの抽出量を少なくしつつ、接着層と樹脂層との接着性をより向上させることができる。この観点から、重量比(W:W)は85:15〜40:60であることがより好ましく、更に好ましくは75:25〜50:50である。
【0041】
接着層においては、樹脂層が積層された面側から、最初のポリスチレン系樹脂A相を起点として、該起点から厚み方向に5μmの範囲に存在するポリエチレン系樹脂Y相の相数が10〜28個であるモルフォロジーが形成されることが好ましい。該相数が上記範囲内であれば、ポリスチレン系樹脂Aとポリエチレン系樹脂Yとの界面の面積が小さくなり、スチレンオリゴマー抽出量がより低く抑えられる。該相数が少なすぎると、樹脂層と接着層との間で十分な接着力を得ることができなくなるおそれがある。かかる観点から、該相数は11〜25個であるであることがより好ましく、更に好ましくは12〜20個である。
【0042】
ポリエチレン系樹脂Y相の相数は次のように測定される。
積層発泡シートの接着層における樹脂層との界面付近の断面写真(TEM写真)を透過型電子顕微鏡で撮影する(例えば、倍率10,000倍)。
得られたTEM写真において、無作為に6箇所を選定し、図6に示すように、それぞれの箇所について、樹脂層側に最も近いポリスチレン系樹脂相を起点として、該起点からシートの厚み方向に5μmの範囲に存在するポリエチレン系樹脂相の相数を測定する。この操作を異なる観察用サンプル5点に対して行い、得られた値の算術平均値をポリエチレン系樹脂相の相数とする。
【0043】
本発明の多層発泡シートは、発泡層の少なくとも片面に接着層を介して樹脂層が積層されているものである。前記したように、多層発泡シートの樹脂層を構成するポリエチレン系樹脂Xの結晶化度が30%以上であることにより、多層発泡シートが熱成形された成形体からのヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出量が小さく抑えられている。更に、接着層がスチレンオリゴマーの合計含有量が1500ppm以下のポリスチレン系樹脂と、結晶化度30%以上のポリエチレン系樹脂Yとの混合樹脂から構成されていることにより、ヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出量がより小さく抑えられている。更にまた、本発明においては、接着層の垂直断面における特定範囲のポリエチレン系樹脂Y相の相数が10〜28個であり、多層発泡シートから樹脂層を剥離させた際の剥離強度が80cN/25mm以上であることにより、該接着強度とスチレンオリゴマーの抽出量とのバランスに優れた多層発泡シートとなり、スチレンオリゴマーの抽出量が小さく抑えられると共に、発泡層と樹脂層とが十分な接着強度を有することにより、熱成形時の電子レンジによる加熱時のデラミネーションが防止される。
【0044】
本発明においては、接着層を構成する混合樹脂には、相溶化剤を添加することができる。この場合の相溶化剤としては、ポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とを相溶化し得るものであればよく、従来公知の各種のものを用いることができる。このようなものとしては、特にスチレン系熱可塑性エラストマーの使用が好ましい。このスチレン系熱可塑性エラストマーには、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)又はスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)やその完全水添物又は部分水添物が包含される。
【0045】
相溶化剤は、接着層中のポリスチレン系樹脂Aとポリエチレン系樹脂Yとの合計100重量部当り、0.1〜25重量部、好ましくは0.5〜10重量部の割合で添加することが好ましい。この相溶化剤の添加により、発泡層と樹脂層との接着性、多層発泡シートの衝撃強度が改善される。
【0046】
次に、本発明の多層発泡シートを構成する発泡層について説明する。
本発明においては、発泡層を構成するポリスチレン系樹脂Bとして、ビカット軟化温度が110℃以上のポリスチレン系樹脂が好ましい。ビカット軟化温度が110℃以上のポリスチレン系樹脂を使用することにより、多層発泡シートの耐熱性を向上させることができる。この観点から、ビカット軟化温度は112℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましい。なお、該軟化温度の上限値は特に限定されないが160℃程度である。ビカット軟化温度110℃以上のポリスチレン系樹脂としては、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレンなどの耐熱ポリスチレンと称されるものが例示される。また、ポリスチレンとこれらの耐熱ポリスチレンとの混合物や、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物、耐熱ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物、ポリスチレンと耐熱ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物も例示される。
【0047】
尚、本明細書において、樹脂のビカット軟化温度はJIS K7206:1999(試験荷重はA法、伝熱媒体の昇温速度は50±5℃/時の条件)にて求められる値である。
【0048】
本発明で用いるポリスチレン系樹脂Bにおいて、押出発泡性の観点から、その溶融粘度は、190℃、剪断速度100sec−1の条件下での溶融粘度で、20Pa・s以上で10000Pa・s未満であることが好ましく、100Pa・s〜5000Pa・sであることがより好ましい。
【0049】
次に、本発明の多層発泡シート、及び各層の物性について説明する。
多層発泡シートからの樹脂層の剥離強度は80cN/25mm以上であることが好ましい。該剥離強度がこの範囲内であれば、発泡層と樹脂層との間における接着力が十分であり、加熱成形時や電子レンジ加熱時に樹脂層のデラミネーションの発生が防止される。この観点から、該剥離強度は100cN/25mm以上であることがより好ましい。なお、該剥離強度の上限は、概ね700cN/25mmである。
【0050】
剥離強度の測定は次のように行われる。多層発泡シートから押出方向に沿って幅25mmの試験片を切り出し、JIS Z0237:2009に準拠し、剥離速度条件300mm/minの90°剥離試験にて多層発泡シートから樹脂層を剥離させ、その際の剥離強度を測定する。
なお、剥離試験を行なった際に剥離が生じる界面としては、発泡層と接着層との間、接着層と樹脂層との間の2つの界面が想定され、層間の接着力によっては、発泡層の材料破壊や、接着層の凝集破壊が生じることがある。本発明における剥離強度は、それらのうちの最も弱い強度を意味する。例えば、剥離試験において、一方の治具で発泡層を掴み、他方の治具で接着層及び樹脂層を掴んで剥離試験を行うと、接着力が弱い方の界面で剥離が起きるので、一の試験で求めた剥離強度が、発泡層と接着層間、接着層と樹脂層間のどちらか弱い方の接着強度となる。樹脂層が薄すぎて治具で掴めない場合または樹脂層が試験中に破断してしまう場合には、補強フィルムで樹脂層を裏打ちすることにより測定することができる。
本発明においては、スチレンオリゴマーの抽出量をより低く抑えることができるという観点から、剥離試験を行なった際に、接着層と樹脂層との間で剥離することが好ましい。このような場合、接着層において、スチレンオリゴマーの抽出量をより低く抑えることができる良好なモルフォロジーが形成されていると考えられる。
【0051】
ポリエチレン系樹脂層の坪量は、前記のとおり、5〜50g/mであることが好ましい。
【0052】
接着層の坪量は、接着性の関点から、5g/m以上であることが好ましく、より好ましくは7g/m以上である。一方、軽量性や良好な気泡構造を有する発泡が得られやすいという観点から、接着層の坪量は、50g/m以下であることが好ましく、より好ましくは40g/m以下である。
発泡層の坪量は、包装容器としての機械的強度と軽量性とのバランスという観点から、80〜400g/mであることが好ましく、より好ましくは100〜250g/mである。
同様に、多層発泡シート全体の坪量は、100〜500g/mであることが好ましく、より好ましくは120〜300g/mである。
【0053】
多層発泡シートの厚みは、包装容器としての機械的強度と取扱い性とのバランスという観点から、0.5〜4mmが好ましく、より好ましくは0.7〜3mmである。
同様に、多層発泡シートの見掛け密度は、0.035〜0.7g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5g/cmである。
【0054】
多層発泡シートの見掛け密度はJIS K7222:1999に基づき測定される全体見掛け密度を意味する。
【0055】
次に、多層発泡シートの製造方法について説明する。
本発明の多層発泡シートは、従来公知の方法で製造することができる。その代表的な方法としては、予め発泡層を製造し、その後その製造ライン上または別ラインで接着層と樹脂層とを別々に積層接着させる方法、樹脂層と接着層とを共押出して積層し、得られた積層体を発泡層に積層接着させる方法、予め発泡層と接着層との積層体を共押出により製造し、その製造ライン上または別ラインで樹脂層を積層接着させる方法、発泡層と接着層と樹脂層とを共押出により積層する方法等がある。なかでも全ての層を共押出法によって積層する方法は、他の方法に比べて工程がシンプルで低コスト化が可能であり、また発泡層と接着層との接着強度、接着層と樹脂層との接着強度が高くなるので好ましい。
【0056】
発泡層の製造に用いる発泡剤としては、例えば、プロパン、n−ブタン(ノルマルブタン)、i−ブタン(イソブタン)、n−ブタンとi−ブタンとの混合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1−ジフルオロ−1−クロロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素、二酸化炭素、窒素、水等の無機発泡剤が挙げられる。更に、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、炭酸水素ナトリウム等の分解型発泡剤を使用することもできる。これらの発泡剤は適宜併用することができる。このなかでも、発泡性の観点から、脂肪族炭化水素を主成分とする発泡剤が好ましく、脂肪族炭化水素の中でもi−ブタン、又はi−ブタンとn−ブタンとの混合物がより好ましい。発泡剤の使用量は、特に限定されないが、おおむね樹脂100gあたり0.01〜0.1モルの範囲で目標のシート密度に対し自由に選択することができる。
【0057】
本発明の多層発泡シートの各層を形成するための樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤、耐候剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、無機充填剤等の添加剤を添加することができる。
【実施例1】
【0058】
次に本発明を実施例、比較例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例、比較例において、次の原料を用いた。
【0060】
[接着層形成用のポリスチレン系樹脂A]
(1)PSジャパン(株)製ポリスチレン「G0002」(略称:PS1、スチレンオリゴマー含有量1056重量ppm、溶融粘度1580Pa・s)
(2)東洋スチレン(株)製ポリスチレン「HRM52M」(略称:PS2、スチレンオリゴマー含有量1019重量ppm、溶融粘度1544Pa・s)
(3)PSジャパン(株)製ポリスチレン「HH102」(略称:PS3、スチレンオリゴマー含有量4555重量ppm、溶融粘度1999Pa・s)
【0061】
[発泡層形成用のポリスチレン系樹脂B]
PSジャパン(株)製スチレン−メタクリル酸共重合体「G9001」(溶融粘度2646Pa・s、MFR1.6g/10min、スチレンオリゴマー含有量3338重量ppm、ビカット軟化温度118℃)
【0062】
[接着層形成用のポリエチレン系樹脂Y]
(1)日本ポリエチレン(株)製高密度ポリエチレン「HY540」(略称:HDPE1、密度0.958g/cm、結晶化度67.0%、溶融粘度1390Pa・s)
(2)東ソー(株)製高密度ポリエチレン「6200」(略称:HDPE2、密度0.958g/cm、結晶化度68.9%、溶融粘度2090Pa・s)
(3)(株)プライムポリマー製高密度ポリエチレン「3300F」(略称:HDPE3、密度0.950g/cm、結晶化度59.7%)
(4)東ソー(株)製高密度ポリエチレン「2500」(略称:HDPE4、密度0.958g/cm、結晶化度73.4%、溶融粘度720Pa・s)
(5)東ソー(株)製高密度ポリエチレン「NH6100A」(略称:HDPE5.密度0.955g/cm、結晶化度63.3%、溶融粘度1737Pa・s)
(6)日本ポリエチレン(株)製高密度ポリエチレン「HJ490」(略称:HDPE6、密度0.958g/cm、結晶化度71.9%、溶融粘度355Pa・s)
(7)東ソー(株)製高密度ポリエチレン「8D01A」(略称:HDPE7、密度0.958g/cm、結晶化度66.6%、溶融粘度3015Pa・s)
(8)東ソー(株)製高密度ポリエチレン「4000」(略称:HDPE8、密度0.964g/cm、結晶化度77.2%、溶融粘度868Pa・s)
(9)日本ポリエチレン(株)製直鎖状低密度ポリエチレン「UF240」(略称:LLDPE1、密度0.920g/cm、結晶化度27.1%、溶融粘度1487Pa・s)
【0063】
[樹脂層形成用のポリエチレン系樹脂X]
(1)東ソー(株)製高密度ポリエチレン「4000」(略称:HDPE8、密度0.964gg/cm、結晶化度77.2%、溶融粘度868Pa・s)
(2)東ソー(株)製高密度ポリエチレン「TZ260」(略称:HDPE9、密度0.935g/cm、結晶化度48.4%、溶融粘度1521Pa・s)
(3)日本ポリエチレン(株)製直鎖状低密度ポリエチレン「UJ460」(略称:LLDPE2、密度0.924g/cm、結晶化度29.3%、溶融粘度710Pa・s)
【0064】
物理発泡剤及び揮発性可塑剤として、ノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%とからなる混合ブタンを用いた。
【0065】
気泡調整剤として、タルク(松村産業株式会社製商品名「ハイフィラー#12」)を用いた。
【0066】
発泡層形成用の押出機として、バレル内径90mmの第一押出機とバレル内径120mmの第二押出機からなるタンデム押出機を用い、接着層形成用の押出機としてバレル内径65mm第三押出機を用い、樹脂層形成用の押出機としてバレル内径40mm第四押出機を用いた。更に、共押出用環状ダイに、第二押出機と第三押出機と第四押出機の夫々の出口を連結し、夫々の溶融樹脂を共押出用環状ダイ内で積層可能にした。
【0067】
実施例1〜6、参考例1、比較例1〜5
PSジャパン(株)製スチレン−メタクリル酸共重合体「G9001」100重量部に対して、スチレン系熱可塑性エラストマー(JSR(株)製スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体「TR2000」スチレン成分含有量40重量%)6重量部、タルク1.7重量部を配合した原料を、第一押出機に供給し、加熱混練し、これに0.61mol/kgとなる割合で混合ブタンを圧入して発泡層形成用樹脂溶融物とし、次いで、第二押出機に移送して樹脂温度を174℃に調整し、表1に示す坪量構成となるように共押出用環状ダイに導入した。
【0068】
同時に、表1に示す種類、重量比のポリスチレン系樹脂A及びポリエチレン系樹脂Yと、両者の合計100重量部に対してスチレン系熱可塑性エラストマー(JSR(株)製スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体「DYNARON9901P」スチレン成分含有量53重量%」)5重量部とを第三押出機に供給し、加熱混練し、これに表2に示す割合で揮発性可塑剤としての混合ブタンを注入し、更に混練して接着層形成用樹脂溶融物とし、次いで、樹脂温度を180℃に調整し、表1に示す坪量構成となるように共押出用環状ダイに導入した。
【0069】
同時に、表1に示すポリエチレン系樹脂Xを第四押出機に供給し、加熱混練して樹脂層形成用樹脂溶融物とし、樹脂温度を180℃に調整し、表1に示す坪量構成となるように共押出用環状ダイに導入した。
【0070】
共押出用環状ダイ内で、筒状に流動する発泡層形成用樹脂溶融物の外周面に接着層形成用樹脂溶融物を積層し、更にその外周面に樹脂層形成用樹脂溶融物を積層し、直径67mmの環状のダイリップから大気中に押出して、発泡層/接着層/樹脂層からなる3層構造の筒状積層発泡体を形成した。押出された筒状積層発泡体を拡径ブローアップ比4.0で引き取りながら押出方向に沿って切開いて、幅850mmの多層発泡シートを得た。
【0071】
得られた多層発泡シートの諸物性を測定した結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表中、各物性、評価は次のように行った。
【0075】
(スチレンオリゴマー含有量)
ポリスチレン系樹脂の原料ペレットを測定試料として用い、前記の方法で行った(n=3)。
【0076】
(溶融粘度)
測定装置として(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用い、前記の方法で行った(n=3)。
【0077】
(坪量構成)
多層発泡シートから全幅に亘って幅100mmの試験片(試験片サイズ:100mm×1040mm)を切り出し、試験片の重量をその面積(10400mm)で割算し、g/mに単位換算することにより、多層発泡シートの坪量を求めた(n=3)。
坪量構成は、多層発泡シートの総坪量をもとに各層の吐出量比から求めた。
【0078】
(多層発泡シートの厚み)
多層シートの幅方向に亘って10mm間隔で厚みを測定し、算術平均することにより平均厚みを求めた。
【0079】
(多層発泡シートの見掛け密度)
多層発泡シートの坪量をその平均厚みで割算し、g/cmに単位換算することにより、多層発泡シートの見掛け密度を求めた。
【0080】
(連続気泡率)
ASTM D2856−70に記載されている手順Cに基づき多層発泡シートの連続気泡率を求めた。多層発泡シートから無作為に25mm×25mm×厚み:多層発泡シートの厚みの試験片を複数枚切り出し、厚みの合計が25mmに近づくように試験片を重ね合わせて測定に用いた。測定装置として株式会社島津製作所製の乾式自動密度計アキュピックII1340型を使用した。
【0081】
(接着強度)
多層発泡シートの無作為に選択した箇所から試験片を切り出して、前記方法で剥離強度を測定した(n=5)。なお、剥離試験時、比較例4では、発泡層と接着層との間で剥離し、それ以外の実施例、比較例では、樹脂層と接着層との間で剥離した。
【0082】
(スチレンオリゴマー抽出量)
まず、多層発泡シートを熱成形して、開口部220mm×底部145mm×高さ35mmの皿形状の成形体(容器)を得た。以下の方法によりノルマルヘプタンによるスチレンオリゴマーの抽出試験を行った。
容器にヘプタンを500ml入れ、25℃の水浴中で60分放置し、容器に含まれるスチレンダイマー及びスチレントリマーをヘプタン中に溶出させた。ヘプタン中のスチレンダイマー及びスチレントリマー量をガスクロマトグラフ質量分析計で測定した。なおガスクロマトグラフ質量分析の測定条件は次のとおりである。
【0083】
使用機器:島津製作所製ガスクロマトグラフ質量分析計 GC/MS QP5050A、カラム:J&W Scientific性DB−5MS 0.25mm×30m(固定相…5%ジフェニル−95%ジメチル−ポリシロキサン)、キャリアガス:ヘリウム カラム流量1.6ml/min、試料注入量:1μL
【0084】
(接着層のモルフォロジー観察)
積層発泡シートの中央部から、観察用のサンプルを5点切り出した。観察用サンプルをエポキシ樹脂に包埋し、四酸化オスミウム染色、四酸化ルテニウム染色を行った後、ウルトラミクロトームにより凍結切断して超薄切片を作製した。この超薄切片をグリッドに載せ、積層発泡シートの接着層における樹脂層との界面付近の断面写真(TEM写真)を透過型電子顕微鏡(日本電子社製のJEM1010、加速電圧100kV)で撮影した(倍率10,000倍)。観察用サンプル5点のTEM写真をもとに、前記方法による測定を行い、得られた値の算術平均値をポリエチレン系樹脂Y相の相数とした。


図1
図2
図3
図4
図5
図6