特許第6802674号(P6802674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツバの特許一覧

<>
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000002
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000003
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000004
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000005
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000006
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000007
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000008
  • 特許6802674-ブラシレスモータおよび制御方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802674
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】ブラシレスモータおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/08 20160101AFI20201207BHJP
   H02P 6/15 20160101ALI20201207BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20201207BHJP
【FI】
   H02P6/08
   H02P6/15
   H02P6/16
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-170801(P2016-170801)
(22)【出願日】2016年9月1日
(65)【公開番号】特開2018-38203(P2018-38203A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年3月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 健
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−233183(JP,A)
【文献】 特開2015−168273(JP,A)
【文献】 特開2009−100526(JP,A)
【文献】 特開2003−111469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/00−6/34,
21/00−25/03,25/04,
25/10−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相巻線を有するステータと、
永久磁石を有し、前記ステータに対向した状態で回転するロータと、
複数のスイッチング素子を有し、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフすることで前記三相巻線に交流電流を通電するインバータと、
前記ロータの回転に応じた前記三相巻線の各相の通電状態の変化を表す通電パターンを低速通電制御用の低速通電パターンまたは高速通電制御用の高速通電パターンに切り替えて前記複数のスイッチング素子のオンまたはオフの状態を制御する制御部
を備え、
前記制御部は、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフ状態に制御する際に、前記ロータの回転速度が所定の目標値となるように、パルス幅変調を用いてデューティ比を所定の制限値以下で制御するものであって、
記ロータの回転速度が所定のしきい値未満の場合に前記通電パターンを前記低速通電パターンに切り替え、
記ロータの回転速度が前記しきい値以上の場合に前記目標値とするための前記デューティ比が前記制限値未満である状態が所定時間継続したときに前記通電パターンを前記高速通電パターンに切り替え
ラシレスモータ。
【請求項2】
前記ロータの回転位置を検出する位置検出部を備え、
前記低速通電パターンは、前記位置検出部の出力信号が変化したタイミングで前記各相の通電状態を直ちに変化させるものであり、
前記高速通電パターンは、前記位置検出部の出力信号が変化したタイミングから前記回転速度に応じて変化する所定時間分ずらして前記各相の通電状態を変化させるものであって、
前記高速通電パターンにおける通電角が前記低速通電パターンにおける通電角より大きい
請求項1記載のブラシレスモータ。
【請求項3】
三相巻線を有するステータと、
永久磁石を有し、前記ステータに対向した状態で回転するロータと、
複数のスイッチング素子を有し、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフすることで前記三相巻線に交流電流を通電するインバータと、
前記ロータの回転に応じた前記三相巻線の各相の通電状態の変化を表す通電パターンを低速通電制御用の低速通電パターンまたは高速通電制御用の高速通電パターンに切り替えて前記複数のスイッチング素子のオンまたはオフの状態を制御する制御部と
を備えるブラシレスモータを用いて、
前記制御部によって、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフ状態に制御する際に、前記ロータの回転速度が所定の目標値となるように、パルス幅変調を用いてデューティ比を所定の制限値以下で制御し、前記ロータの回転速度が所定のしきい値未満の場合に前記通電パターンを前記低速通電パターンに切り替え、前記ロータの回転速度が前記しきい値以上の場合に前記目標値とするための前記デューティ比が前記制限値未満である状態が所定時間継続したときに前記通電パターンを前記高速通電パターンに切り替える
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータでは、ホールセンサ等の位置検出部によってロータの位置および回転速度が検出され、ステータに対する通電波形の進角や通電角が制御される。ここで、進角は、位置検出部が検出した位置と通電状態を変化させる位置との電気角で表した差分に対応する。また、通電角は、同一の通電状態を継続する電気角で表した期間である。通電状態を変化させるタイミングは、位置検出部の出力に基づき検出された位置と回転速度に応じて算出される。すなわち、進角や通電角の制御では、過去の検出結果に応じて推定されたタイミングに基づいて進角や通電角が制御される。
【0003】
しかしながら、負荷変動が大きい場合には、タイミングの推定精度が低下し、十分な駆動トルクが得られないときがある(例えば特許文献1)。これについて、特許文献1に記載されているモータ制御装置では、低速回転時に負荷変動が大きい場合に対して、次の構成によって推定精度の低下による駆動トルクの減少という課題を解決している。すなわち、特許文献1に記載されているモータ制御装置では、回転速度に応じて、位置検出部が検出した位置と通電状態を変化させる位置との差分の大きさを抑制する制御と、通常の進角制御とを切り替えることで、低速回転時の負荷変動による駆動トルクの低下という課題を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−142496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているモータ制御装置では、ロータの回転速度に応じて、上述した差分の大きさを抑制する制御と、通常の進角制御が切り替えられる。すなわち、所定の回転速度未満の場合は差分の大きさを抑制する制御が選択され、所定の回転速度以上の場合は通常の進角制御が選択される。しかしながら、負荷変動が発生する回転速度の範囲が外部条件によって大きく変化するような場合、判定条件のしきい値となる所定の回転速度を適切に設定することが困難となる。すなわち、判定条件のしきい値を高めに設定したとすると、通常の進角制御が有効になる範囲が限定され、十分な動作特性が得られないことが考えられる。一方、判定条件のしきい値を低めに設定したとすると、負荷が大きい場合等に、十分な推定精度を得られず、例えば、モータ停止と再起動とを繰り返してしまうようなことが考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、適切に低速用の制御と高速用の制御を切り替えることができるブラシレスモータおよび制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、三相巻線を有するステータと、永久磁石を有し、前記ステータに対向した状態で回転するロータと、複数のスイッチング素子を有し、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフすることで前記三相巻線に交流電流を通電するインバータと、前記ロータの回転に応じた前記三相巻線の各相の通電状態の変化を表す通電パターンを低速通電制御用の低速通電パターンまたは高速通電制御用の高速通電パターンに切り替えて前記複数のスイッチング素子のオンまたはオフの状態を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフ状態に制御する際に、前記ロータの回転速度が所定の目標値となるように、パルス幅変調を用いてデューティ比を所定の制限値以下で制御するものであって、前記ロータの回転速度が所定のしきい値未満の場合に前記通電パターンを前記低速通電パターンに切り替え、前記ロータの回転速度が前記しきい値以上の場合に前記目標値とするための前記デューティ比が前記制限値未満である状態が所定時間継続したときに前記通電パターンを前記高速通電パターンに切り替えブラシレスモータである。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記ブラシレスモータであって、前記ロータの回転位置を検出する位置検出部を備え、前記低速通電パターンは、前記位置検出部の出力信号が変化したタイミングで前記各相の通電状態を直ちに変化させるものであり、前記高速通電パターンは、前記位置検出部の出力信号が変化したタイミングから前記回転速度に応じて変化する所定時間分ずらして前記各相の通電状態を変化させるものであって、前記高速通電パターンにおける通電角が前記低速通電パターンにおける通電角より大きい。
【0010】
また、本発明の一態様は、三相巻線を有するステータと、永久磁石を有し、前記ステータに対向した状態で回転するロータと、複数のスイッチング素子を有し、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフすることで前記三相巻線に交流電流を通電するインバータと、前記ロータの回転に応じた前記三相巻線の各相の通電状態の変化を表す通電パターンを低速通電制御用の低速通電パターンまたは高速通電制御用の高速通電パターンに切り替えて前記複数のスイッチング素子のオンまたはオフの状態を制御する制御部とを備えるブラシレスモータを用いて、前記制御部によって、前記複数のスイッチング素子をオンまたはオフ状態に制御する際に、前記ロータの回転速度が所定の目標値となるように、パルス幅変調を用いてデューティ比を所定の制限値以下で制御し、前記ロータの回転速度が所定のしきい値未満の場合に前記通電パターンを前記低速通電パターンに切り替え、前記ロータの回転速度が前記しきい値以上の場合に前記目標値とするための前記デューティ比が前記制限値未満である状態が所定時間継続したときに前記通電パターンを前記高速通電パターンに切り替える制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適切に低速用の制御と高速用の制御を切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るワイパ装置を示す模式図である。
図2図1に示すブラシレスモータ1aの構成例を示す構成図である。
図3図2に示すブラシレスモータ1aの動作例を説明するための模式図である。
図4図2に示すブラシレスモータ1aの動作例を説明するための模式図である。
図5図2に示す制御部12の動作例を示すフローチャートである。
図6】比較例の動作を示すフローチャートである。
図7図1に示すブラシレスモータ1aの動作例を示す波形図である。
図8】比較例の動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るワイパ装置10の全体構成を示す模式図である。図1に示すワイパ装置10は、車体に揺動自在に設けられた運転席側のワイパアーム3aと助手席側のワイパアーム3bとを有している。各ワイパアーム3aおよび3bには、運転席側のワイパブレード4aと助手席側のワイパブレード4bが取り付けられている。ワイパブレード4aおよび4bはワイパアーム3aおよび3b内に内装された図示していないばね部材等によってフロントガラス300に押さえつけられる形で接触している。車体には2つのワイパ軸9aおよび9bが設けられており、ワイパアーム3aおよび3bはその基端部でワイパ軸9aおよび9bにそれぞれ取り付けられている。
【0014】
ワイパアーム3aおよび3bを揺動運動させるため、ワイパ装置10には2つモータ装置100aおよび100bが設けられている。ワイパ装置10は、2つのモータ装置100aおよび100bを同期させて正逆転制御することでワイパブレード4aおよび4bが一点鎖線で示す払拭範囲5aおよび5bにおいて揺動運動する。モータ装置100aは、ブラシレスモータ(以下、単にモータという場合がある)1aと減速機構2aとによって構成されている。モータ装置100bは、ブラシレスモータ1bと減速機構2bとによって構成されている。ブラシレスモータ1aは、車両側のコントローラであるECU200と車載LAN(ローカルエリアネットワーク)400を介して接続されている。ECU200からブラシレスモータ1aに対しては、ワイパスイッチのON/OFFや、LoおよびHiおよびINT(間欠作動)などのスイッチ情報やエンジン起動情報、車速情報等が車載LAN400を介して入力される。ブラシレスモータ1aおよび1b間は通信線500で接続されている。図1に示すワイパ装置10では、通信線500を介して所定の情報を送受信することでブラシレスモータ1aとブラシレスモータ1bが協働してワイパブレード4aおよび4bの動作を制御する。ブラシレスモータ1aとブラシレスモータ1bは一部のプログラムの内容等が異なるが、基本的な構成は同一とすることができる。
【0015】
次に、図2を参照して図1に示すブラシレスモータ1aの構成例について説明する。ブラシレスモータ1aは、インバータ11と、制御部12と、ロータ13と、ステータ14と、ホールセンサ15u、15vおよび15wとを備える。
【0016】
ステータ14は、図示していないステータコアと、そのステータコアが有する複数のスロットに巻回された巻線14u、14vおよび14wとを有する。巻線14u、14vおよび14wは、デルタ結線された三相巻線である。ただし、デルタ結線に限らず、スター結線であってもよい。
【0017】
ロータ13は、永久磁石を有し、ステータ14に対向した状態で回転する。ロータ13は、ステータ14の内側に配置されたインナロータ形の構造であってもよいし、ステータ14の外側に配置されたアウターロータ形の構造であってもよい。ロータ13およびステータ14の構造に限定はないが、例えば、N極およびS極からなる永久磁石の極数を4極、ステータ14のスロット数を6とする4極6スロット構造とすることができる。
【0018】
ホールセンサ(位置検出部)15u、15vおよび15wは、ホール素子を用いてロータ13の回転位置を検出し、検出した結果を出力する。ホールセンサ15u、15vおよび15wは、それぞれ電気角で120°毎ずれた位置を検出する。ホールセンサ15u、15vおよび15wは、例えば、ホール素子を用いて発生した磁界に比例した大きさのアナログ信号をコンパレータによってハイレベル(Hレベル)またはローレベル(Lレベル)の信号に変換したデジタル信号を制御部12に対して出力する。本実施形態では、ホールセンサ15uがU相に対応するデジタル信号を出力し、ホールセンサ15vがV相に対応するデジタル信号を出力し、ホールセンサ15wがW相に対応するデジタル信号を出力する。本実施形態のホールセンサ15u、15vおよび15wは、ホールセンサ15u、15vまたは15wの出力信号のレベルが変化する各位置すなわち出力信号にエッジが発生する各位置で直ちにインバータ11の出力を変化させた場合に電気角で30°の進角となるようにロータ13に対して設置されている。
【0019】
インバータ11は、複数のスイッチング素子11u1、11u2、11v1、11v2、11w1および11w2を有し、外部電源600を直流電源として複数のスイッチング素子11u1、11u2、11v1、11v2、11w1および11w2を所定の組み合わせでオンまたはオフすることで三相巻線である巻線14u、14vおよび14wに交流電流を通電する。外部電源600は、例えば車両に搭載されたバッテリ、キャパシタ等を含む。図2に示す例では、6個のスイッチング素子11u1、11u2、11v1、11v2、11w1および11w2は、nチャネルMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)で構成されている。スイッチング素子11u1、11v1および11w1は、各ドレインが共通に外部電源600の正極に接続されている。スイッチング素子11u1のソースは、巻線14uと巻線14wとの接続端子(U相端子とする)とスイッチング素子11u2のドレインに接続されている。スイッチング素子11v1のソースは、巻線14vと巻線14uとの接続端子(V相端子とする)とスイッチング素子11v2のドレインに接続されている。スイッチング素子11w1のソースは、巻線14wと巻線14vとの接続端子(W相端子とする)とスイッチング素子11w2のドレインに接続されている。スイッチング素子11u2、11v2および11w2は、各ソースが共通に外部電源600の負極(例えば接地端子)に接続されている。なお、スイッチング素子11u1、11u2、11v1、11v2、11w1および11w2のオンまたはオフ動作は制御部12によって制御される。
【0020】
制御部12は、例えば、CPU(中央処理装置)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)等を備えたマイクロコンピュータとその周辺回路とを含み、スイッチング素子11u1、11u2、11v1、11v2、11w1および11w2を制御する。また、制御部12は、ECU200およびブラシレスモータ1bとの間で所定の情報を送受信する。また、制御部12は、ロータ13の回転に応じた三相巻線の各相の巻線14u、14vおよび14wの通電状態の変化を表す通電パターンを低速通電制御用の低速通電パターンまたは高速通電制御用の高速通電パターンに切り替えて複数のスイッチング素子11u1、11u2、11v1、11v2、11w1および11w2のオンまたはオフの状態を制御する。また、制御部12は、複数のスイッチング素子11u1、11u2、11v1、11v2、11w1および11w2をオンまたはオフ状態に制御する際に、ロータ13の回転速度(モータ速度ともいう)が所定の目標値となるように、PWM(パルス幅変調)を用いて一定周期毎のデューティ比(Duty出力値ともいう)を所定の制限値(DutyLimit値ともいう)以下で制御する。ここで所定の制限値以下での制御とは、巻線14u、14vおよび14wに流れる電流値に上限を設けるための制御であり、制限値はロータ13の回転速度や外部電源600の電圧値、周囲温度等によって変化する。この制限値を設定することで、モータ装置100aを含むワイパ装置10を保護している。なお、デューティ比とは、PWMの1周期におけるオン時間をオン時間とオフ時間の合計値で除した値である。
【0021】
ここで、図3および図4を参照して、低速通電制御用の低速通電パターンの一例および高速通電制御用の高速通電パターンの一例について説明する。図3は低速通電制御用の低速通電パターンを示し、図4は高速通電制御用の高速通電パターンを示す。図3および図4は、横軸に電気角をとり、上から順にホールセンサ15uの出力信号(ホールセンサU相)、ホールセンサ15vの出力信号(ホールセンサV相)、ホールセンサ15wの出力信号(ホールセンサW相)、スイッチング素子11u1の通電状態(モータ出力U相(FET上段))、スイッチング素子11u2の通電状態(モータ出力U相(FET下段))、スイッチング素子11v1の通電状態(モータ出力V相(FET上段))、スイッチング素子11v2の通電状態(モータ出力V相(FET下段))、スイッチング素子11w1の通電状態(モータ出力W相(FET上段))、およびスイッチング素子11w2の通電状態(モータ出力W相(FET下段))を示す。また、通電状態は、ON、OFFまたはPWMによるデューティ比の制御状態のいずれかである。
【0022】
図3に示す低速通電制御用の低速通電パターンでは、例えば、左端の電気角で60°の区間は、ホールセンサ15uの出力信号(ホールセンサU相)が“H”、ホールセンサ15vの出力信号(ホールセンサV相)が“L”およびホールセンサ15wの出力信号(ホールセンサW相)が“H”であり、この場合、スイッチング素子11v2(モータ出力V相(FET下段))がオン、スイッチング素子11w1(モータ出力W相(FET上段))がPWM制御で、他のスイッチング素子がオフである。また、例えば、次の電気角で60°の区間は、ホールセンサ15uの出力信号(ホールセンサU相)が“H”、ホールセンサ15vの出力信号(ホールセンサV相)が“L”およびホールセンサ15wの出力信号(ホールセンサW相)が“L”であり、この場合、スイッチング素子11u2(モータ出力U相(FET下段))がオン、スイッチング素子11w1(モータ出力W相(FET上段))がPWM制御で、他のスイッチング素子がオフである。このように、図3に示す低速通電制御用の低速通電パターンでは、ホールセンサ15uの出力信号(ホールセンサU相)、ホールセンサ15vの出力信号(ホールセンサV相)またはホールセンサ15wの出力信号(ホールセンサW相)のいずれかが変化した場合、制御部12によって、各相の通電状態は直ちに変化させられる。この場合、ホールセンサ15u、15vまたは15wのいずれかにエッジ(立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジ)が発生する毎にモータ出力(すなわちインバータ11から巻線14u、14vおよび14wへの出力)が切り替えられることになる。なお、図3に示す低速通電制御用の低速通電パターンでは、進角が30°であり、通電角が120°である。
【0023】
一方、図4に示す高速通電制御用の高速通電パターンでは、ホールセンサ15u、15vまたは15wのいずれかにエッジが発生する毎にモータ出力を切り替えるのではなく、エッジから、現在のロータ13の回転速度と、ホールセンサ15u、15vおよび15wの補正角度、指示進角および指示通電角に応じたタイミング(時間)で制御部12がモータ出力を切り替える。ここで、ロータ13の回転速度はホールセンサ15u、15vおよび15wの出力変化の周期から算出することができる。また、ホールセンサ15u、15vおよび15wの補正角度は、個体差を補正するための学習情報であり、例えば、3個のホールセンサ15u、15vおよび15wの出力変化の偏差を計測することで算出することができる。高速通電パターンでは、例えば指示進角を20°、指示通電角を130°等とすることができる。進角を20°とした場合、進角を30°とする場合と比べて進角を小さくすることで回転速度を増大させることができる。また、通電角を130°とした場合、通電角を120°とする場合と比べて通電角を大きくすることで駆動トルクを増大させることができる。制御部12は、高速通電パターンでは、ホールセンサ15u、15vまたは15wの出力信号が変化したタイミングからロータ13の回転速度に応じて変化する所定時間分ずらして各相の通電状態を変化させる。また、制御部12は、高速通電パターンにおける通電角を低速通電パターンにおける通電角より大きくすることができる。
【0024】
次に、図5を参照して制御部12による低速通電制御と高速通電制御の切り替え動作について説明する。図5は、制御部12による通電制御切り替え動作の一例を示すフローチャートである。制御部12は、動作開始後は例えば一定周期で図5に示す処理を繰り返し実行する。なお、制御部12は、動作開始時は常に低速通電制御を選択する。
【0025】
制御部12は、まず、Duty出力値がDutyLimit値以上であるか否かを判定する(ステップS11)。上述したように、Duty出力値は目標回転速度と最新のモータ速度(ロータ13の回転速度)に基づいて算出されたデューティ比の指令値であり、DutyLimit値はモータ装置100aを含むワイパ装置10を保護するために設けた制限値である。Duty出力値がDutyLimit値を超えた場合にはDuty出力値がDutyLimit値に制限される。Duty出力値が大きいということは実際の回転速度と目標回転速度との偏差が大きいことを意味する。Duty出力値が継続的にDutyLimit値に設定されているということは、負荷トルクが大きい状態であることを意味する。したがって、ステップS11の判定処理によって、制御部12は、ロータ13の負荷トルクが比較的低い所定範囲内の状態であるか否かを判定していることになる。
【0026】
なお、DutyLimit値は、例えば次のようにして設定することができる。すなわち、制御部12は、まず外部電源600の供給電圧に基づいて巻線14u、14vおよび14wに流れる電流を許容値未満に抑えるための基準とするDutyLimit値を算出する。次に、制御部12は、制御部12を構成する基板温度等の周囲温度を計測し、温度の計測結果に基づいて基準とするDutyLimit値を補正する。次に、制御部12は、補正したDutyLimit値をモータ加速度に基づいてさらに補正し、最終的なDutyLimit値を決定する。
【0027】
Duty出力値がDutyLimit値以上の場合(ステップS11でYesの場合)、制御部12は、高速通電制御切り替えタイマ値を所定値に設定する(ステップS12)。高速通電制御切り替えタイマ値は、Duty出力値がDutyLimit値未満である状態の継続時間を計測するために用いるカウント値である。Duty出力値がDutyLimit値未満の場合には後述するステップS14の処理で高速通電制御切り替えタイマ値の値を1ずつ減じることでDuty出力値がDutyLimit値未満である状態の継続時間を計測することができる。高速通電制御切り替えタイマ値に設定する所定値は、低速通電制御から高速通電制御に切り替えた後に負荷の大小によらずに安定的にモータ速度を維持できるようにするための時間的なゆとりに相当する値を設定する。この所定値は、例えば実験やシミュレーションによって決定することができる。例えば、ワイパを高速で動作させる場合の往復の周期が1秒程度であるとき、所定値は、片側の移動時間である約0.5秒の半分未満の値に設定することで、動作の安定化と2種類の通電制御を切り替えることによる性能向上効果とを両立させることができる。
【0028】
一方、Duty出力値がDutyLimit値以上でない場合(ステップS11でNoの場合)、制御部12は、高速通電制御切り替えタイマ値が0と等しいか否かを判定する(ステップS13)。高速通電制御切り替えタイマ値が0と等しくない場合(ステップS13でYesの場合)、制御部12は、高速通電制御切り替えタイマ値を1だけ減分する(ステップS14)。
【0029】
ステップS12の処理が終了した場合、ステップS14の処理が終了した場合、または、高速通電制御切り替えタイマ値が0に等しい場合(ステップS13でNoの場合)、制御部12は、高速通電制御中であるか否かを判定する(ステップS15)。高速通電制御中である場合(ステップS15でYesの場合)、制御部12は、モータ速度が所定のしきい値未満であるか否かを判定する(ステップS16)。モータ速度が所定のしきい値未満である場合(ステップS16でYesの場合)、制御部12は、高速通電制御から低速通電制御への切り替えを行う(ステップS17)。すなわち、ステップS17において制御部12は、通電パターンを図3を参照して説明した低速通電制御用の低速通電パターンに切り替えた後、図5に示す処理を終了する。他方、モータ速度が所定のしきい値未満でない場合(ステップS16でNoの場合)、制御部12は、高速通電制御から低速通電制御への切り替えを行わずに図5に示す処理を終了する。
【0030】
一方、高速通電制御中でない場合(ステップS15でNoの場合)、制御部12は、モータ速度が所定のしきい値より大(あるいはしきい値以上)で、かつ、高速通電制御切り替えタイマ値が0と等しいか否かを判定する(ステップS18)。モータ速度が所定のしきい値より大で、かつ、高速通電制御切り替えタイマ値が0と等しい場合(ステップS18でYesの場合)、制御部12は、低速通電制御から高速通電制御への切り替えを行う(ステップS19)。すなわち、ステップS19において制御部12は、通電パターンを図4を参照して説明した高速通電制御用の高速通電パターンに切り替えた後、図5に示す処理を終了する。他方、モータ速度が所定のしきい値より大でないか、または、高速通電制御切り替えタイマ値が0と等しくない場合(ステップS18でNoの場合)、制御部12は、低速通電制御から高速通電制御への切り替えを行わずに図5に示す処理を終了する。
【0031】
図5に示す動作例において制御部12は低速通電制御と高速通電制御の切り替え処理を次のように実行する。すなわち、制御部12は、高速通電制御中であり、かつ、モータ速度が所定のしきい値未満である場合に、高速通電制御から低速通電制御への切り替えを実行する。一方、制御部12は、低速通電制御中であり、かつ、モータ速度が所定のしきい値より大であり、かつ、Duty出力値がDutyLimit値より小さい状態が所定時間継続した場合に、低速通電制御から高速通電制御への切り替えを実行する。この場合、制御部12は、ロータ13の回転速度が所定のしきい値未満の場合に通電パターンを低速通電パターンに切り替え、ロータ13の回転速度がそのしきい値より大きい場合(あるいはしきい値以上の場合)にロータ13の負荷が所定範囲内である状態が所定時間継続したときに通電パターンを高速通電パターンに切り替えることになる。この構成によれば、例えばモータ印加負荷が大きくモータ速度が遅い場合に、低速通電制御から高速通電制御への切り替えを行わず、低速通電制御を継続させることができる。よって、本実施形態のブラシレスモータ1aおよび1bによれば、適切に低速用の制御と高速用の制御を切り替えることができる。
【0032】
次に、図7を参照して、図5を参照して説明した通電制御の切り替え動作の実機での検証結果について説明する。なお、比較のため、図6に示すフローで通電制御の切り替え処理を実行した場合(以下、比較例と称する)の実験結果(図8)についても説明する。
【0033】
図6は、図5に示す動作を一部変更した比較例の動作を示すフローチャートである。比較例において、制御部12は、動作開始後は図5の場合と同様、一定周期で図6に示す処理を繰り返し実行する。また、比較例においても、制御部12は、動作開始時は常に低速通電制御を選択する。
【0034】
図6に示す動作例において、制御部12は、まず、高速通電制御中か否かを判定する(ステップS101)。高速通電制御中である場合(ステップS101でYesの場合)、制御部12は、モータ速度が所定のしきい値未満か否かを判定する(ステップS102)。このステップS102およびステップS104で用いるしきい値は、図5のステップS16およびステップS18で用いるしきい値と同じである。モータ速度が所定のしきい値未満である場合(ステップS102でYesの場合)、制御部12は、図5のステップS17と同様に低速通電制御への切り替えを実行する(ステップS103)。一方、高速通電制御中でない場合(ステップS101でNoの場合)、制御部12は、モータ速度が所定のしきい値より大きいか否かを判定する(ステップS104)。モータ速度が所定のしきい値より大きい場合(ステップS104でYesの場合)、制御部12は、図5のステップS19と同様に高速通電制御への切り替えを実行する(ステップS105)。
【0035】
次に、図7および図8を参照して、実機での検証結果について説明する。図7および図8の検証時には、ブラシレスモータ1aに対して一定の高負荷を印加している。ただし、負荷は、モータが起動できないほどの高負荷ではない。図7は本実施形態の場合(図5に示すフローの場合)であり、図8は比較例の場合(図6に示すフローの場合)である。図7および図8は、制御部12が有するRAM内の次のデータの値の時間変化を表す波形図である。図7および図8は、横軸を時間軸として、上段にモータ角度(ロータ13の角度)と目標速度とモータ速度を表示し、下段にDuty出力値とDutyLimit値を表示している。
【0036】
図8に示すように比較例では鎖線で囲んだ領域でモータの停止と再作動が繰り返されている。これは、次の動作が繰り返されることが原因である。すなわち、(1)モータ印加負荷大によりモータ速度が急激に低下する。(2)モータ出力を切替えたい角度と、実際にモータ出力を切替えするタイミングがずれてしまい、モータ特性が低下してさらにモータ速度が遅くなってしまう(モータ速度からモータ出力切替えタイミングを算出しているため)。(3)モータ速度低下で高速通電制御から低速通電制御に切り替えて、ホールエッジ基準でモータ出力する。(4)ホールエッジ基準でモータ出力することで、モータ特性が戻るので、モータが動き出す。(5)モータが動き出すと、モータ速度有で再び高速通電制御に切替えられる。上記(1)〜(5)の動作を繰り返すことで、不具合動作となる。
【0037】
これに対し、図7に示すように、本実施形態の低速通電制御と高速通電制御との切り替え動作の場合には、モータ印加負荷が高い状態でもモータを連続で動作させることができている。
【0038】
以上のように、本発明の実施形態によれば、モータ印加負荷大でモータ低速動作中は、一定時間、高速通電制御に切替えないようにすることで、低速通電制御と高速通電制御とが繰り返されるような不安定な動作を防止することができる。また、モータ印加負荷大の判定を、Duty出力値が制限されている状態であるか否か、すなわちDuty出力値がDutyLimit値以上であるか否かで判定するので、負荷大の判定に要する構成を容易に簡易化することができる。
【0039】
なお、本発明の実施形態は上記のものに限定されない。例えば、上記実施形態では、ロータ13およびステータ14と、インバータ11および制御部12を一体的に構成しているが、例えば、制御部12をその他の構成から分離して構成したり、制御部12とインバータ11をその他の構成から分離して構成したりしてもよい。また、上記実施形態は、ワイパ装置10には2つのモータ装置100aおよび100bが設けられている構成としたが、この構成に限定されず、例えば、1つのモータ装置でリンク機構を介しワイパアーム3aおよび3bを揺動運動させる構成としてもよい。また、上記実施形態は、ブラシレスモータ1aおよび1bを、ワイパ装置10の構成要素としているが、適用分野はワイパ装置に限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1a、1b ブラシレスモータ
10 ワイパ装置
100a、100b モータ装置
11 インバータ
11u1、11u2、11v1、11v2、11w1、11w2 スイッチング素子
12 制御部
13 ロータ
14 ステータ
14u、14v、14w 巻線
15u、15v、15w ホールセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8