(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802685
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法
(51)【国際特許分類】
F17D 5/00 20060101AFI20201207BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20201207BHJP
F16L 55/045 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
F17D5/00
G01M99/00 Z
!F16L55/045
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-204968(P2016-204968)
(22)【出願日】2016年10月19日
(65)【公開番号】特開2018-66431(P2018-66431A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】見田 哲也
【審査官】
柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−012373(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1630395(KR,B1)
【文献】
特開2010−266369(JP,A)
【文献】
特開平6−273077(JP,A)
【文献】
特開2018−021565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17D 5/00
F17D 5/06
G01M 99/00
F16L 55/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を上流から下流に向けて流体が移動する配管、
配管に設けられており、流体の移動を遮断又は開放する開閉弁であって、開放したとき、上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差によって、流体を上流から下流に向けて排出する開閉弁、
開閉弁近傍の上流側の配管に設けられており、配管内の上流側圧力を検出し、当該上流側圧力を示す上流側圧力信号を出力する上流側検出部、
開閉弁近傍の下流側の配管に設けられており、配管内の下流側圧力を検出し、当該下流側圧力を示す下流側圧力信号を出力する下流側検出部、
上流側圧力信号及び下流側圧力信号を取り込み、上流側圧力に対する下流側圧力の圧力差を算出する算出部、
算出部が算出した圧力差に基づいて、配管内における水撃の発生を予知する予知部、
を備えたことを特徴とする配管内の水撃予知システム。
【請求項2】
請求項1に係る配管内の水撃予知システムにおいて、
前記予知部は、圧力差が予め設定された予知基準よりも小さいとき、開閉弁に対する上流側の配管内における所定の箇所で水撃が発生すると予知する、
ことを特徴とする配管内の水撃予知システム。
【請求項3】
請求項1に係る配管内の水撃予知システムにおいて、
前記予知部は、圧力差が「0」よりも小さいとき、開閉弁に対する上流側の配管内における所定の箇所、及び開閉弁に対する下流側の配管内における所定の箇所で水撃が発生すると予知する、
ことを特徴とする配管内の水撃予知システム。
【請求項4】
請求項3に係る配管内の水撃予知システムにおいて、
開閉弁の下流側の配管における異なる箇所に各々設けられている複数の温度検出部であって、それぞれ配管内の温度を検出し、当該温度を示す温度信号を出力する温度検出部、
を備えており、
前記予知部は、各温度信号を取り込み、当該温度信号に基づいて水撃が発生する箇所を予知する、
ことを特徴とする配管内の水撃予知システム。
【請求項5】
内部を上流から下流に向けて流体が移動する配管、
配管に設けられており、流体の移動を遮断又は開放する開閉弁であって、開放したとき、上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差によって、流体を上流から下流に向けて排出する開閉弁、
を備えた水撃予知システムに関し、
開閉弁近傍の上流側の配管内の上流側圧力、及び開閉弁近傍の下流側の配管内の下流側圧力を検出し、
上流側圧力に対する下流側圧力の圧力差を算出し、
圧力差に基づいて、配管内における水撃の発生を予知する、
ことを特徴とする配管内の水撃予知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法は、蒸気配管等の配管内における水撃(ウォーターハンマー)の発生や発生箇所を予知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラントには、ボイラーで生成された蒸気等を供給先に向けて高温・高圧で移送する配管系統が設置されていることがある。この配管内で蒸気が液化するとドレン(蒸気の凝縮水)が滞留し、蒸気移送のための空間が縮小される結果、蒸気の移送効率が低下してしまう。
【0003】
このような事態を回避するために、配管系統には随所に多数のスチームトラップが設けられている。スチームトラップは液化によって生じた内部のドレン水量が一定レベルに達した場合、内蔵されているフロートが浮上してスチームトラップの排出口を開放する。通常、スチームトラップの入口側の配管内の圧力は出口側の配管内の圧力に比べて高いため、スチームトラップの排出口が開放された場合、この圧力差によってドレンは排出口から自動的に排出される。排出されたドレンはドレン回収管を通じて回収され、一般に再びボイラーへ給水する等、再利用される。
【0004】
ところで、ドレン回収管の内部にある程度の量のドレンが存在する場合、ドレン回収管内でウォーターハンマーが発生することがある。ウォーターハンマーとは、配管の内部でドレンの塊どうしが衝突して起こる現象であり、このウォーターハンマーが発生すると配管内で瞬時的に10MPa以上もの急激な圧力変化が起こることがある。このため、ウォーターハンマーが繰り返し発生すると、その衝撃の影響の蓄積によって特定個所の配管の接合部やバルブ等が一気に破壊され、大量の蒸気や高温のドレンが噴出して大事故に結び付く危険がある。
【0005】
また、ストール現象によってスチームトラップからドレンが適正に排出されない結果、熱交換器にドレンが滞留し、熱交換器内でウォーターハンマーが発生することがあり、このような場合、熱交換器の破損等、深刻な被害を生じさせる。
【0006】
配管内のウォーターハンマーによって発生するこのような危険性を回避するため、後記特許文献に開示されているような検知技術が提案されている。この検知技術においては、配管の特定箇所の周方向に複数の糸状のセンサを取り付ける。このセンサは配管に対して緩みなくテンションを加えて取り付けられ、一定の引張力を超える力が加わった場合、破断する構造を備えている。配管内でウォーターハンマーが発生した場合、その衝撃によって配管が振動するため、糸状のセンサに一定の引張力を超える力が加わり破断する。このため、センサの破断を視認することによって、センサの取り付け箇所近傍でウォーターハンマーが発生したことを検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−68175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献に開示された技術においては、実際に配管にウォーターハンマーが発生しないと検知することができず、事前にウォーターハンマーの発生や発生箇所を予知することができない。前述のように、ウォーターハンマーの発生は配管系統を破壊し、大事故に結び付く危険性があるため、可能な限りウォーターハンマーの発生前に発生の可能性を予知する技術が求められる。
【0009】
そこで本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法は、これらの問題を解決することを課題とし、ウォーターハンマーの発生や発生箇所を容易かつ確実に予知することができる配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に係る配管内の水撃予知システムは、
内部を上流から下流に向けて流体が移動する配管、
配管に設けられており、流体の移動を遮断又は開放する開閉弁であって、開放したとき、上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差によって、流体を上流から下流に向けて排出する開閉弁、
開閉弁近傍の上流側の配管に設けられており、配管内の上流側圧力を検出し、当該上流側圧力を示す上流側圧力信号を出力する上流側検出部、
開閉弁近傍の下流側の配管に設けられており、配管内の下流側圧力を検出し、当該下流側圧力を示す下流側圧力信号を出力する下流側検出部、
上流側圧力信号及び下流側圧力信号を取り込み、上流側圧力に対する下流側圧力の圧力差を算出する算出部、
算出部が算出した圧力差に基づいて、配管内における水撃の発生を予知する予知部、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本願に係る配管内の水撃予知方法は、
内部を上流から下流に向けて流体が移動する配管、
配管に設けられており、流体の移動を遮断又は開放する開閉弁であって、開放したとき、上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差によって、流体を上流から下流に向けて排出する開閉弁、
を備えた水撃予知システムに関し、
開閉弁近傍の上流側の配管内の上流側圧力、及び開閉弁近傍の下流側の配管内の下流側圧力を検出し、
上流側圧力に対する下流側圧力の圧力差を算出し、
圧力差に基づいて、配管内における水撃の発生を予知する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法においては、上流側圧力に対する下流側圧力の圧力差に基づいて、配管内における水撃の発生を予知する。
【0013】
すなわち、開閉弁は、開放したとき、上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差によって、流体を上流から下流に向けて排出するものであるため、十分な圧力差がない場合、流体が排出されず上流側に滞留すると予測することができる。したがって、流体の滞留に起因する水撃の発生や発生箇所を容易かつ確実に予知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法の第1の実施形態を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示す制御部6が算出する圧力差の経時的変化を示す図である。
【
図3】本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法の第2の実施形態を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図3に示す制御部6が算出する圧力差の経時的変化を示す図である。
【
図5】ウォーターハンマーの発生原因を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態における用語説明]
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法の下記の構成要素に対応している。
蒸気、ドレン2…流体
ドレン回収管10、ドレン接続管12、蒸気配管20…配管
スチームトラップ40…開閉弁
温度圧力センサ31…上流側検出部
温度圧力センサ32…下流側検出部
制御部6…算出部、予知部
基準値a…予知基準
温度圧力センサ33、34…温度検出部
【0016】
[第1の実施形態]
本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法の第1の実施形態を以下に説明する。産業プラントには、ボイラーで生成された蒸気等を供給先に向けて高温・高圧で移送する配管系統が設置されていることがある。本実施形態ではこのような配管系統内で生じるウォーターハンマーを例に掲げ、その予知に関する技術を例示する。
【0017】
(ウォーターハンマーの発生原因の説明)
まず、前提としてウォーターハンマーの発生原因を説明する。ウォーターハンマーの発生原因は一様ではないが、最も多いと考えられているのが、蒸気が急激に凝縮することによってドレン同士が衝突して発生するウォーターハンマーである。
【0018】
図5はドレン回収管10とドレン接続管11との接続箇所を示す図である。ドレン回収管10内には配管の各所で生じた高温高圧のドレン2が多数のドレン接続管を通して収集され移送される。ところで、各所において高温高圧のドレンが低圧の雰囲気にさらされた際、ドレンの一部が蒸気化したフラッシュ蒸気(再蒸発蒸気)4が発生し、このフラッシュ蒸気4もドレンと共に移送される。その結果、
図5Aに示すように、ドレン回収管10には、ドレン接続管11を通じて移送されたフラッシュ蒸気4も送り込まれることになる。
【0019】
ドレン回収管10内を流れるドレン2は時間の経過と共に温度が低下しているため、この冷たいドレン2に高温のフラッシュ蒸気4が接触すると、放熱によってフラッシュ蒸気4は急激に凝縮し一気にドレン化し、その結果フラッシュ蒸気が存在していた部分は一時的に真空に近い状態になることがある。そしてこの場合、
図5Bに示すように、この空間に周囲のドレンが引き込まれ衝突することによって、ウォーターハンマーが発生する。
【0020】
また、ウォーターハンマーは、ストール現象によって引き起こされることがある。ストール現象とは、スチームトラップの入口側の配管の圧力に対する、出口側の配管の圧力の圧力差が小さくなり、スチームトラップからドレンが排出されず熱交換器等の内部にドレンが滞留してしまう現象である。
【0021】
スチームトラップは、入口側の圧力が出口側の圧力よりも高いことによって生じる圧力差を利用し、その勢いによって出口側の排出口からドレンを排出する構造である。このため、例えばフロート式スチームトラップにおいて圧力差が小さくなった場合、内部のフロートが上昇してもドレンを適正に排出することができず、その結果スチームトラップの入口側の配管にドレンが徐々に滞留し、このドレンが入口側に接続されている蒸気使用機器(例えば熱交換器)内の配管にまで達してしまう。この状態で例えば熱交換器に高温高圧の蒸気が供給された場合、滞留しているドレンに蒸気が接触してウォーターハンマーが発生し、その衝撃で熱交換器や周囲の配管部材等が破損する危険がある。
【0022】
(本実施形態におけるシステムのブロック図の説明)
図1に示すブロック図に基づいて本実施形態におけるシステムの構成を説明する。蒸気配管20は、ボイラー(図示せず)で生成された高温高圧の蒸気を、プラント内の各機器に移送する。
図1には蒸気の移送を受ける機器として、熱交換器の一種である熱風ヒーター62が例示されている。蒸気配管20にはバルブ45が設けられており、バルブ45の開閉度に応じた量の蒸気が熱風ヒーター62に与えられる。
【0023】
熱風ヒーター62内の蒸気配管にはヒーター用の風が供給されており(図示せず)、蒸気配管の間を通過することによって熱風が生成される。この熱風が設定温度に達するとバルブ45は閉じられて開度が小さくなり、蒸気配管を通過する蒸気の量が抑えられる。これによって熱風温度の上昇は停止する。そして、熱風温度が設定温度を下回ると、再びバルブ45の開度が大きくなって蒸気配管における蒸気の量が増加し、熱風温度を上昇させる。このように、バルブ45が開閉を繰り返すことによって、熱風温度は設定温度に保たれるようになっている。
【0024】
ところで、蒸気の使用によって、蒸気の持つ熱エネルギーの中の潜熱が被加熱物に移動する結果、蒸気が液化して蒸気配管内でドレン(蒸気の凝縮水)が発生する。このドレンが過度に蒸気配管内に滞留すると蒸気の供給効率が低下してしまうため、速やかに外部に排出する必要がある。
【0025】
そこで、配管系統の随所にはスチームトラップが設けられている。
図1に示す熱風ヒーター62の下流側の配管には例えばフロート式のスチームトラップ40が設置されている。通常、スチームトラップ40の上流側(熱風ヒーター62側)の蒸気配管20内の圧力は、下流側のドレン接続管12内の圧力よりも高いため、スチームトラップ40内のフロートが浮上したとき、その圧力差による勢いによってドレンが上流側から下流側に排出される。これによって、ドレンはドレン接続管12を介してドレン回収管10に送り出される。ドレン回収管10に回収されたドレン2は、ドレンタンク(図示せず)に回収されて再利用される。
【0026】
ここで、スチームトラップ40の上流側の直近には、蒸気配管内の温度及び圧力を検出する温度圧力センサ31が設置されており、スチームトラップ40の下流側の直近には温度圧力センサ32が設置されている。温度圧力センサは、蒸気配管内の温度及び圧力をそれぞれ直接的に検出する。
【0027】
そして、各温度圧力センサ31、32は無線通信機能を有しており、検出した温度データ、圧力データをそれぞれ無線で発信する。そして、これらのデータは受信部5が受信し、さらに受信部5は制御部6に向けてデータを送信する。制御部6はメモリ7を備えており、またモニタ8の表示を制御している。
【0028】
(本実施形態におけるシステムの動作の説明)
次に、本実施形態におけるシステムの動作を説明する。本実施形態に係るシステムは、スチームトラップ40の上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差が、所定の基準値よりも小さくなったことを検出し、熱風ヒーター62内にドレンが滞留するストール現象が発生することを予測して、熱風ヒーター62内におけるウォーターハンマーの発生を予知するものである。
【0029】
制御部6は、受信部5を介して温度圧力センサ31及び温度圧力センサ32からそれぞれ圧力データを受信する。これによって、制御部6はスチームトラップ40に関する上流側と下流側におけるそれぞれの配管内の圧力を把握する。そして、制御部6は上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差を算出する。
【0030】
図2は圧力差の経時的変化を示している。前述のように、熱風ヒーター62に蒸気を供給するためのバルブ45は、熱風の温度を調整するために、開閉の動作を繰り返している。バルブ45が開いて蒸気量が増加した場合、スチームトラップ40の上流側の圧力は高くなり、その結果下流側の圧力との圧力差は大きくなる。逆に、バルブ45が閉じて蒸気量が減少した場合、スチームトラップ40の上流側の圧力は低くなり、その結果下流側の圧力との圧力差は小さくなる。
【0031】
図1に示す制御部6内のメモリ7には、予め設定された基準値aが記憶されている。この基準値aはスチームトラップ40が上流側のドレンを下流側に向けて排出口から排出するために必要な圧力差の最低値を示している。この値はスチームトラップのドレンの排出実験値や経験値等に基づいて決定される。
【0032】
制御部6は、スチームトラップ40の上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差を算出した後、その圧力差の値と基準値aとを比較する。そして、圧力差の値が基準値aより小さくなった時点P1以降は、熱風ヒーター62内にドレンが滞留するストール現象が発生することが予測されるため、熱風ヒーター62内でウォーターハンマーが発生することを予知する。
【0033】
そして、制御部6はモニタ8上に表されている配管系統の平面図に、熱風ヒーター62内におけるウォーターハンマーの発生の危険マークを表示する等、所定の報知処理を開始する。そして、圧力差の値が基準値aよりも大きくなった時点P2において、この報知処理を終了する。すなわち、区間t1の間、熱風ヒーター62内でウォーターハンマーが発生することを予知し、ウォーターハンマーの発生の危険マークを表示し続ける。この危険マークによる報知によってオペレータはウォーターハンマーに対する必要な措置を適正に行うことができる。
【0034】
[第2の実施形態]
次に、本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法の第2の実施形態を
図3及び
図4に基づいて説明する。本実施形態に係るシステムの基本的な構成は、前述の第1の実施形態と同様である。すなわち、第1の実施形態と同様、スチームトラップ40の上流側、下流側にはそれぞれ温度圧力センサ31、32が設置されており、制御部6は各圧力データを受信して、上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差を算出した上、圧力差の値が基準値aより小さい区間t1、t2においては、熱風ヒーター62内でウォーターハンマーが発生することを予知し、所定の報知処理を行う。
【0035】
本実施形態においては、このような構成に加え、
図3に示すようにさらにドレン回収管10に温度圧力センサ33、34が設けられている。これら温度圧力センサ33、34は、ドレン接続管12との接続箇所を挟んで両側に各々設置されている。
【0036】
ここで、スチームトラップ40の上流側の圧力に対する下流側の圧力の圧力差が変化する過程で、
図4に示す区間t3のように、圧力差が「0」よりも小さくなる、すなわちスチームトラップ40の上流側の圧力よりも下流側の圧力の方が大きくなる逆転現象が生じることがある。このような逆転現象は、スチームトラップ40内のフロートの変形等によって、蒸気が上流側から下流側に漏れているような場合にも発生する。
【0037】
逆転現象が生じた場合、スチームトラップ40内のフロートが浮上した際、ドレンには下流側から上流側に向かう逆方向への流れが生じ、この影響を受けてドレン回収管10内のドレン2の適正な流れが阻害され、ドレン回収管10内にドレン2が滞留してしまう。このような状態で、たとえば他の経路から蒸気がドレン回収管10に流入した場合等は、ドレン回収管10内でウォーターハンマーが発生する危険がある。
【0038】
蒸気の急激な凝縮に起因するウォーターハンマーは、温度が低いドレンの箇所で発生する可能性が高い。このため、制御部6は逆転減少が生じた時点P11において、温度圧力センサ33、34からの温度信号に基づいて各温度値を把握し、これらを比較してより温度が低い温度圧力センサの設置箇所でウォーターハンマーが発生することを予知し、モニタ8上に表されている配管系統の平面図にウォーターハンマーの発生危険箇所を示す危険マークを表示する等、所定の報知処理を開始する。
【0039】
そして、圧力差の値が「0」よりも大きくなった時点P12において、この報知処理を終了する。すなわち、区間t3の間、より温度が低い温度圧力センサの設置箇所でウォーターハンマーが発生することを予知し、危険マーク等の報知処理を継続する。この報知によってオペレータはドレン回収管10におけるウォーターハンマーに対する必要な措置を適正に行うことができる。
【0040】
なお本実施形態においては、逆転現象が生じる区間t3は、ストール現象の発生が予測される区間t1の範囲内で生じるため、区間t3の間、制御部6は熱風ヒーター62内におけるウォーターハンマーの発生を報知するとともに、ドレン回収管10におけるウォーターハンマーの発生箇所の報知を行うことになる。
【0041】
本実施形態においては、スチームトラップ40の下流側の2箇所に温度圧力センサ33、34を設けたが、3箇所以上に温度圧力センサを設け、3箇所以上における温度を比較することによってウォーターハンマーの発生箇所を予知することもできる。
【0042】
[その他の実施形態]
本願に係る配管内の水撃予知システム及び水撃予知方法は前述の実施形態において示したシステムに限られず、内部を流体が移動する配管において発生する水撃の予知に関するものである限り他の配管系統にも適用することができる。
【0043】
また、前述の実施形態においては、温度及び圧力を直接実測する温度圧力センサ31、32、33、34を示したたが、これらに代えて各スチームトラップの排出不良や密閉不良といった作動不良を検査するための検査用センサを活用することもできる。この検査用センサは、設置箇所における配管内の温度及び振動を検出して温度データ及び振動データを出力する。
【0044】
すなわち、スチームトラップに排出不良が生じている場合、直近の配管内にドレンが過度に滞留して温度が低下するため、検出温度が一定温度以下になれば排出不良が生じていると判断することができる。また、スチームトラップのフロートの変形等により密閉不良が生じている場合、蒸気漏れによって漏洩音が発生するため、特定周波数の検出振動を検知すれば密閉不良が生じていると判断することができる。このようなスチームトラップの作動不良を検査するための検査用センサが検出したデータを取り込み、これに基づいて圧力を算出し、又は温度を把握してもよい。
【0045】
また、前述の各実施形態においては、ウォーターハンマー発生の危険マークをモニタ8上に表されている配管系統の平面図に表示して報知したが、たとえばモニタ8に配管系統の立体図を表示し、ウォーターハンマーの発生を予知する箇所に危険マークを表示させることも可能である。また、危険マークを点滅させて表示してもよく、危険マークの表示と同時にブザー等の警報音を発信することもできる。
【0046】
さらに、危険の報知としては、モニタ8の画面上のみならず、プラント内における対応する現場で警報音やランプの点灯等を発生させることもできる。このような、ウォーターハンマーの発生及び発生箇所の予知に基づく危険報知の処理によって、当該場所における作業員による作業の中断や避難等、状況に応じた適切な対処を行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
2:ドレン
6:制御部
10:ドレン回収管
12:ドレン接続管
20:蒸気配管
31、32、33、34:温度圧力センサ
40:スチームトラップ
a:基準値