特許第6802686号(P6802686)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802686
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】潤滑防錆剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/02 20060101AFI20201207BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20201207BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20201207BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20201207BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20201207BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20201207BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   C10M171/02
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:12
   C10N40:00 G
   C10N50:02
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-205037(P2016-205037)
(22)【出願日】2016年10月19日
(65)【公開番号】特開2018-65918(P2018-65918A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】西田 英夫
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−053227(JP,A)
【文献】 特開2000−319680(JP,A)
【文献】 特開2007−217464(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/121212(WO,A1)
【文献】 特開2003−049187(JP,A)
【文献】 特開2016−175962(JP,A)
【文献】 特表2007−505191(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/058171(WO,A1)
【文献】 特開2009−209179(JP,A)
【文献】 特開2013−133902(JP,A)
【文献】 特開2006−241219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 171/00
C10N 20/00
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 30/12
C10N 40/00
C10N 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のエステル系合成油を含み、各合成油のSP値が8.5〜10.0であり、かつ、最小のSP値と最大のSP値との差の絶対値が0.5以上1.5以下であり、各合成油の40℃における動粘度のうち、最小の動粘度と最大の動粘度との差の絶対値が114mm/s以上であり、前記2種以上の合成油を5〜50質量%含むことを特徴とする潤滑防錆剤。
【請求項2】
前記合成油のうち、最小のSP値が8.5〜9であり、最大のSP値が9〜10.0である請求項1記載の潤滑防錆剤。
【請求項3】
更に、固体潤滑剤を含む請求項1又は2記載の潤滑防錆剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑防錆剤、特に、金属部材の潤滑、防錆に用いられて好適な潤滑防錆剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱物油および有機溶剤を含み、缶スプレーにより金属部材に噴霧して当該金属部材の潤滑や防錆や、固着したネジ等の金属部材を緩めるために用いられる液状の潤滑防錆剤がある。
このような潤滑防錆剤に関し、30〜97質量%の炭化水素溶剤と、1〜30質量%の揮発性シリコーンと、1〜30質量%の炭化水素油及びこれらの混合物からなる群より選ばれる炭化水素基剤に可溶性の潤滑油を含む軽質潤滑剤がある(特許文献1)。また、冷凍機油組成物に関し、基油のSP値と油溶性重合体のSP値を特定した二酸化炭素冷媒用の冷凍機油組成物がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−302375号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2007−204568号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
潤滑防錆剤の特性の一つに、浸透性がある。浸透性が向上すれば、固着したネジ等の金属部材のミクロ的な隙間に潤滑防錆剤が浸透して、固着したネジ等の金属部材を従来よりも容易に、また、より短時間に緩めることができる。この点、引用文献1のような従来の潤滑防錆剤は、上記浸透性についてなお改良の余地があった。また、冷凍機油組成物は、潤滑防錆剤とは、用途も組成も特性も異なっていた。
そこで、本発明の目的は、浸透性を向上させた潤滑防錆剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、潤滑防錆剤について鋭意研究を重ね、複数種の合成油を含み、個々の合成油のSP値の差が特定値以上であることにより、浸透性を向上させることができることを見出し、本発明に至った。
【0006】
上記知見に基づく本発明の潤滑防錆剤は、2種以上のエステル系合成油を含み、各合成油のSP値が8.5〜10.0であり、かつ、最小のSP値と最大のSP値との差の絶対値が0.5以上1.5以下であり、各合成油の40℃における動粘度のうち、最小の動粘度と最大の動粘度との差の絶対値が114mm/s以上であり、前記2種以上の合成油を5〜50質量%含むことを特徴とする。
【0007】

本発明の潤滑防錆剤においては、上記合成油のうち、最小のSP値が8.5〜9であり、最大のSP値が9〜10.0であることが好ましい。
更に、本発明の潤滑防錆剤は、固体潤滑剤を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、潤滑防錆剤の浸透性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の潤滑防錆剤をより具体的に説明する。本発明の潤滑防錆剤は、2種以上の合成油を含み、各合成油のSP値のうち、最小のSP値と最大のSP値との差の絶対値が0.5以上である。
【0010】
本発明の潤滑防錆剤は、2種以上の合成油を含有する。合成油は鉱物油に比べて潤滑防錆剤を純度高く製造することができ、よって、不純物による油切れを抑制して高い潤滑性を得ることができる。また、合成油は、精製により良好な流動性が得られ、これにより、隙間における高い浸透性を得ることができる。
【0011】
合成油は、ポリα−オレフィン、ポリブテン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、更にはヒンダードエステルなどのオレフィン系、エステル系、その他の合成油を挙げることができる。より好ましくは、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル、脂肪酸エステル、ヒンダードエステル等のエステル系合成油である。
【0012】
本発明の潤滑防錆剤は、2種以上の合成油の各合成油のSP値(溶解パラメータ)のうち、最小のSP値と最大のSP値との差の絶対値が0.5以上である。このことは、潤滑防錆剤に含まれる2種以上の合成油のうち最大のSPを有する合成油と、最小のSP値を有する合成油との、SP値の差(絶対値)が0.5以上であることを意味する。
なお、個々の合成油のSP値は、計算法又は実験法により算出することができる。
【0013】
本発明の潤滑防錆剤は、最小のSP値と最大のSP値との差の絶対値が0.5以上であることにより良好な潤滑性を維持しつつ、浸透性を向上させることができる。その理由は、必ずしも明らかではないが、潤滑防錆剤が金属部材の表面に付着したときに、当該潤滑防錆剤に含まれる2種以上の合成油のうち、最大のSPを有する合成油が、潤滑防錆剤被膜の厚さ方向で金属部材の表面に近い側に位置し、最小のSPを有する合成油が、金属部材の表面に遠い側に位置し、被膜内で分層のような態様を示し、これにより、主に最大のSPを有する合成油による浸透性の向上と、主に最小のSPを有する合成油による潤滑性の維持とを、高いレベルで両立することができると考えられる。
【0014】
2種以上の合成油の各合成油のSP値(溶解パラメータ)のうち、最小のSP値と最大のSP値との差の絶対値は、0.5以上で本発明で所期した効果が十分に得られ、好ましくは0.8以上であり、より好ましくは1.2以上である。
【0015】
本発明の潤滑防錆剤に含まれる2種以上の合成油のうち、最小のSP値を示すものは、そのSP値が7〜9程度であることが好ましい。また、本発明の潤滑防錆剤に含まれる2種以上の合成油のうち、最大のSP値を示すものは、そのSP値が9〜11程度であることが好ましい。複数の合成油のうち、最小のSP値を有するものと、最大の有するものとが、上記の好適なSP値を有し、かつ、上述した最小のSP値と最大のSP値との差の絶対値が0.8以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の潤滑防錆剤は、各合成油の40℃における動粘度のうち、最小の動粘度と最大の動粘度との差の絶対値が50mm/s以上であることが好ましい。このことは、潤滑防錆剤に含まれる2種以上の合成油のうち最大の動粘度を有する合成油と、最小の動粘度を有する合成油との、動粘度の差(絶対値)が50mm/s以上であることを意味する。
【0017】
上述した最小の動粘度と最大の動粘度との差の絶対値が50mm/s以上であることにより、より浸透性が向上する。より好ましくは、最小の動粘度と最大の動粘度との差の絶対値が80mm/s以上である。
なお、個々の合成油の40℃における動粘度は、浸透性を考慮すると、潤滑防錆剤中の合成油が希釈剤により希釈されるとしても、あまりに大きな動粘度は好ましくなく、それぞれ1〜200mm/s程度であることが好ましい。
【0018】
本発明の潤滑防錆剤は、2種以上の合成油を合計で5〜50質量%含むことが好ましい。5質量%以上を含むことにより、浸透性の向上と、潤滑性と、防錆性とが十分に得られる。50質量%以下であることにより、他の成分との兼ね合いで十分な浸透性の向上と、潤滑性と、防錆性とが得られる。より好ましくは10〜40質量%程度である。
なお、個々の合成油の配合量については、上述した合計量の範囲内で適宜に調整すればよい。
【0019】
本発明の潤滑防錆剤は、合成油以外の成分を含むことができる。合成油以外の成分としては、例えば水置換剤や表面張力低下剤や希釈剤や固体潤滑剤等が挙げられる。
【0020】
水置換剤は、潤滑防錆剤を塗布する対象物としての金属部材の表面から水分を除去して防錆効果を向上させる。水置換剤は、例えば各種の界面活性剤を用いることができる。表面張力低下剤は、浸透性を高め、また分散性を向上させる。希釈剤は、炭酸ガスやLPGガス等を用いたスプレー缶で潤滑防錆剤を噴霧できるように潤滑防錆剤の成分を希釈して浸透性を高める。固体潤滑剤は、潤滑性を向上させる。
【0021】
固体潤滑剤は、炭素系ナノ粒子からなることが好ましい。フラーレン等の炭素系ナノ粒子は、一次粒子の粒径が小さく、金属部材のわずかな隙間にも固体潤滑剤が浸入することができ、金属部材の摩擦を低下して、潤滑性を向上させることができる。フラーレンは、C60や高次フラーレンを用いることができる。炭素系ナノ粒子は、分散剤を含む潤滑防錆剤中に一次粒子として分散していることが好ましい。一次粒子径は、好ましくは1μm未満である。
【実施例】
【0022】
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0023】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
表1に示す成分組成を含む潤滑防錆剤を調製した。なお表中の配合量の単位は質量%である。
【0024】
【表1】
【0025】
表1中に示された合成油1〜3は、以下のものを用いた。
合成油1:
脂肪酸エステル系合成油(SP値:9.1、動粘度:20mm/s)
合成油2:
ヒンダード型ジエステル系合成油(SP値:10.0、動粘度:134mm/s)
合成油3:
モノエステル系合成油(SP値:8.5、動粘度:2.7mm/s)
【0026】
上記実施例及び比較例の潤滑防錆剤について、以下の浸透性試験及び潤滑性試験を行って性能を評価した。
<浸透性試験>
長さ3cmのM6サイズの六角ナットのネジ孔に、長さ2.5cmの雄ネジをネジ結合させた試験片を用意した。別途、ろ紙を用意した。水平台上にろ紙を置き、このろ紙上に試験片を、六角ナットのネジ穴の貫通方向が垂直方向になるように立てて置いた。試験片がろ紙上に立てられた状態で、六角ナットのネジ穴の上端には、雄ネジの上端の高さの差により深さ0.5cmの窪みが形成されていた。この窪みに各実施例及び比較例の潤滑防錆剤を各々100マイクロリットル、すなわち0.1cm滴下し、潤滑防錆剤が六角ナットと雄ネジとの間の螺合部分の隙間を浸透し、六角ナットの下端から染み出て、ろ紙に達したことを目視で確認した。潤滑防錆剤の滴下から、ろ紙へ到達までの時間を浸透時間として計測した。この浸透時間を表1に併記する。
【0027】
表1から、複数の合成油を用い、それらの合成油のSP値の差が0.5以上の実施例1〜3は、合成油を1種のみで用いた比較例1〜3よりも浸透時間が短かった。
【0028】
<潤滑性試験>
曽田式振子試験機により潤滑油の油性を評価する方法として、油の摩擦係数を測定した。より具体的に、振子の減衰振動を利用して、各種の潤滑油の境界油膜状態における油性を評価するための比較基準となる摩擦係数を求めた。摩擦係数の計算式は次のとおりであった。
f=C×(A0−An)/n
ここに、fは摩擦係数、nは振動回数、A0は初期振幅、Anは各振動回数目の振れ角、Cは比例定数であった。求めた摩擦係数の値が小さければ油の油性効果があるといえる。
【0029】
上述した曽田式振子試験機により実施例1〜3、比較例1〜3の摩擦係数を測定したところ、実施例1〜3の潤滑防錆剤は、比較例1〜3の潤滑防錆剤の摩擦係数と同程度であり、各実施例の潤滑性は従来例と同程度を維持できていることが分かった。
【0030】
(実施例4)
以下に示す成分組成を含む潤滑防錆剤を調製した。実施例4は、上述した実施例3の組成に加えて、フラーレンを含む例である。
合成油1:
脂肪酸エステル系合成油(SP値:9.1、動粘度:20mm/s):2質量%、
合成油2:
ヒンダード型ジエステル系合成油(SP値:10.0、動粘度:134mm/s):3質量%、
合成油3:
モノエステル系合成油(SP値:8.5、動粘度:2.7mm/s):18質量%、
水置換剤:
ソルビタンセスキオレエート:4質量%、
表面張力低下剤:
デカメチルシクロペンタシロキサン:20質量%、
希釈剤:
アルキルシクロパラフィン:53質量%、
固体潤滑剤:
フラーレン:上記合成油1、合成油2、合成油3、水置換剤、表面張力低下剤及び希釈剤の合計100質量部に対して0.001質量部。
【0031】
(比較例4)
上記実施例4の潤滑防錆剤の合成油1を23質量%、合成油2を0質量%、合成油3を0質量%に変更した以外は同じ成分及び含有量として比較例の潤滑防錆剤を調製した。
【0032】
実施例4及び比較例4の潤滑防錆剤について、上述した浸透試験及び潤滑性試験を行った。その結果、実施例4の潤滑防錆剤は23秒でネジ穴の下端まで達したのに対して、比較例4の潤滑防錆剤は33秒を要した。また、実施例4の潤滑防錆剤の潤滑性は比較例4と同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明を利用することで、金属部材の潤滑、さび止め、固着した金属部材を容易に緩めることができる。