【実施例】
【0022】
上記した製造方法により銅合金を作製するとともに、急冷凝固後の平均二次デンドライトアーム間隔を測定し、時効熱処理後の硬さ及び導電率を測定したのでその結果について
図1乃至
図5を用いて説明する。
【0023】
図1に示すように、ここでは、質量%で、Niを6.8%、Siを1.83%、Crを0.55%含有するとともに、さらに不可避的不純物としてMnを0.04%、Mgを0.005%含有する銅合金の溶湯を準備した。
【0024】
図2に示すように、急冷凝固(S1)においては、上記したように平均二次デンドライトアーム間隔を20μm以下とする冷却速度を得られるように、溶湯を急冷凝固させる。ここで平均二次デンドライトアームは、断面組織についてデンドライト晶の一次枝に垂直な二次枝の先端部をプロットし、その5点の単純算術平均を得たものである。
【0025】
すなわち、
図3(a)に示すように、上部の開口した略円筒形の断熱材2の周囲をCu−Cr合金製の金型1で保持した鋳型に溶湯3を鋳込み、断熱材の開口部にCu−Cr合金製の冷却金型4を載せるとともにプレス5で押さえて溶湯3から熱を急速に奪って冷却させる(急冷)。なお、鋳型の寸法は、内径φ38mm、高さ11mm又は17mmである。
【0026】
また、
図3(b)に示すように、より速い冷却方法として、平板状のCu−Cr合金製の金型1’の上に溶湯3を滴下し、これをプレス5で押さえて溶湯3から熱をさらに急速に奪って冷却させる(最急冷)。
【0027】
これに対して、
図3(c)に示すように、溶湯を徐冷して凝固させる比較例としての冷却方法では、上部の開口した略円筒形の断熱材2の周囲をCu−Cr合金製の金型1で保持した鋳型に溶湯3を鋳込み、そのまま空冷した(徐冷)。なお、鋳型の寸法は上記した「急冷」と同様である。
【0028】
図4に示すように、このようにして得た鋳放しの試料について、それぞれ断面組織観察を行い、平均二次デンドライトアーム間隔(DAS II、以降DASと称する)を測定し、記録した。なお、実施例1が「急冷」において鋳型の高さを11mmとしたもの、実施例2が「急冷」において鋳型の高さを17mmとしたもの、実施例3が「最急冷」によるものである。また、参考例として、溶湯3を水槽中に滴下して凝固させた試料についてもDASを測定した。さらに、比較例1が「徐冷」において鋳型の高さを11mmとしたもの、比較例2が「徐冷」において鋳型の高さを17mmとしたものである。ここで、最表層のチル層よりも中心寄りの測定結果を「上部」として、中心部近傍の測定結果を「中心部」としてそれぞれ示した。
【0029】
図4に示すように、実施例1〜3及び水中に溶湯を滴下した参考例は、いずれも同等程度のDASとなり、冷却速度も同等程度と考えられる。詳細には、DASは「上部」で4.2〜9.5μmであり、「中心部」で9.3〜13.0μmであり、いずれも20μm以下であった。実施例1よりも実施例2においてDASが大きいが、試料の厚さの差によって冷却速度が遅くなったためと考えられる。これに対し、比較例1及び2では、DASが20μmより大きく、「上部」で54.5〜68.1μm、「中心部」で43.3〜61.6μmであった。
【0030】
なお、DASは冷却速度に依存する。そこで、同一の成分組成の銅合金において冷却速度:x(℃/sec)とDAS:y(μm)を複数回測定して両者の関係を導出したところ、次の式1が得られた。
ln(y)=−0.32×ln(x)+3.9 (式1)
つまり、測定したDASから式1により各試料の冷却速度も推定できる。
【0031】
上記した実施例1〜3、比較例1及び2について、さらに、時効熱処理(S3)して、その断面においてビッカース硬さを測定した。時効熱処理においては、470℃で3時間保持し、炉冷した。また、硬さは、最表層のチル層を避けて、上端近傍、中心部近傍、下端近傍のそれぞれ3か所において5回ずつ測定した平均値を得て、3か所の平均値をさらに平均した値を示した。
【0032】
図4に示すように、実施例1〜3において硬さは307〜316Hvであり、いずれも300Hvを超えていた。これに対し、比較例1及び2ではいずれも硬さは173Hvであり、200Hvを下回った。つまり、鋳込み時にDASを20μm以下とするように急冷することで、徐冷する場合と比べて時効熱処理後の硬さが大きく向上するのである。
【0033】
なお、参考として、時効熱処理前に920℃で3時間保持して水冷する溶体化熱処理を行った場合の硬さについても
図4に示した(溶体化あり)。つまり、鋳込み時に徐冷した比較例1及び2の「溶体化あり」については従来通りの製造方法を再現している。実施例1〜3の「溶体化あり」の場合、ビッカース硬さは295〜302Hv、比較例1及び2の「溶体化あり」の場合、ビッカース硬さは286〜291とほぼ同等となり、溶体化熱処理を行わなかった実施例1〜3に比べて若干硬さが低かった。つまり、溶体化熱処理をしてしまうと時効熱処理後の硬さは高いが、徐冷したものと同等となってしまう。なお、実施例3の「溶体化あり」においては、上記した時効熱処理の後にさらに470℃で6時間保持する2回目の時効熱処理をしたものである。
【0034】
また、時効熱処理後の導電率について測定した結果、従来と同じ製造方法を再現した比較例1及び2の「溶体化あり」について両者とも29.2%IACSであったが、これに対して実施例1及び2については27.8〜28.3%IACSとなり、ほぼ同等であった。また、実施例3については17.6%IACSとやや低い。つまり、溶湯を急冷凝固させた後に時効熱処理により製造する方法においては、溶湯を徐冷後に溶体化熱処理及び時効熱処理する従来の方法に比べて、導電率を若干低下させる傾向にある。
【0035】
図5には、実施例1〜3と同じ成分組成の合金溶湯を急冷し、(a)475℃で6時間保持する時効熱処理した試料、及び(b)475℃で48時間保持する時効熱処理した試料、のそれぞれの底面から0.7mm付近の断面(それぞれビッカース硬さ322Hv及び310Hv)において、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った顕微鏡写真を示した。なお、<001>方向に電子線を入射させるよう絞りを入れている。これからわかるように、Cu母相の<110>方向に伸長した析出物が分散して観察された。なお、
図5(a)の6時間保持した時効熱処理においては析出物の長径が数nm程度であったが、
図5(b)の48時間保持した時効熱処理においては析出物の長径が数十nm程度に粗大化していた。
【0036】
つまり、溶湯を急冷凝固することで、Siが十分固溶した状態を維持できて、溶体化熱処理を経ずとも時効熱処理において伸長方向を揃えてNi
2Siを分散析出させて硬さを得ること、すなわち、耐摩耗性を高めることができたものと考えられる。
【0037】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。例えば、合金の成分組成については、本発明の本質的な特徴を失わない限りにおいて追加の合金成分を与え、追加の効果を得られるようにし得る。